(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-19
(45)【発行日】2025-05-27
(54)【発明の名称】デファレンシャル装置の潤滑装置
(51)【国際特許分類】
F16H 57/04 20100101AFI20250520BHJP
【FI】
F16H57/04 J
F16H57/04 B
(21)【出願番号】P 2021187389
(22)【出願日】2021-11-17
【審査請求日】2024-09-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 敏雄
(72)【発明者】
【氏名】中川 英樹
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 辰昭
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 元
(72)【発明者】
【氏名】甲村 典人
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-063037(JP,A)
【文献】特開2013-011302(JP,A)
【文献】特開平11-048806(JP,A)
【文献】特開昭59-140128(JP,A)
【文献】特開2011-214640(JP,A)
【文献】国際公開第2014/017301(WO,A1)
【文献】特公昭63-027595(JP,B1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0204436(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 57/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
差動機構と、前記差動機構を収容するデフケースと、前記デフケースを軸受を介して回転可能に支持するハウジングと、を含んで構成されるデファレンシャル装置に適用され、潤滑油が供給される潤滑配管を備え、前記潤滑配管に形成されている放出口から潤滑油が放出されるように構成されているデファレンシャル装置の潤滑装置であって、
前記潤滑配管の前記放出口は、前記ハウジングの壁面に向かって潤滑油を放出する位置に形成され、
前記放出口から放出された潤滑油が衝突する前記ハウジングの壁面には、前記ハウジングの壁面に衝突した潤滑油を壁面を伝わせて潤滑が必要な部位に導くためのリブが形成され、
車両搭載状態における前記放出口の下方には、落下する潤滑油を受けるとともに、先端が前記リブの形成されている前記ハウジングの壁面まで延設された樋部が形成された部材が配置されている
ことを特徴とするデファレンシャル装置の潤滑装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に備えられるデファレンシャル装置の潤滑装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両に備えられるデファレンシャル装置において、デフケース内に収容される差動機構やデフケースを回転可能に支持する軸受などに潤滑油を供給する潤滑装置が提案されている。例えば、特許文献1では、潤滑装置として、差動機構や軸受に潤滑油を供給するための潤滑配管を設ける構造が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の潤滑配管から潤滑油が供給される構成において、潤滑が必要な部位に潤滑油を確実に供給するには、潤滑が必要な部位付近まで潤滑配管を延設する必要がある。潤滑配管を潤滑が必要な部位付近まで延設する場合には、複数本の潤滑配管を接合し、潤滑配管が複数の経路に分岐する形状をとる必要があるが、潤滑配管の製造にかかるコストが高くなるという問題が発生する。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、製造コストが増加することなく、デファレンシャル装置の潤滑性能を確保することができるデファレンシャル装置の潤滑装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の要旨とするところは、(a)差動機構と、前記差動機構を収容するデフケースと、前記デフケースを軸受を介して回転可能に支持するハウジングと、を含んで構成されるデファレンシャル装置に適用され、潤滑油が供給される潤滑配管を備え、前記潤滑配管に形成されている放出口から潤滑油が放出されるように構成されているデファレンシャル装置の潤滑装置であって、(b)前記潤滑配管の前記放出口は、前記ハウジングの壁面に向かって潤滑油を放出する位置に形成され、(c)前記放出口から放出された潤滑油が衝突する前記ハウジングの壁面には、前記ハウジングの壁面に衝突した潤滑油を壁面を伝わせて潤滑が必要な部位に導くためのリブが形成され、(d)車両搭載状態における前記放出口の下方には、落下する潤滑油を受けるとともに、先端が前記リブの形成されている前記ハウジングの壁面まで延設された樋部が形成された部材が配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、潤滑配管の放出口から潤滑油がハウジングに向かって放出されると、ハウジングの壁面に衝突した潤滑油が、リブを伝って潤滑が必要な部位に導かれる。また、ハウジングの壁面から潤滑油が落下した場合であっても、落下した潤滑油が樋部で受けられることで、潤滑油が樋部を経由してハウジングの壁面に向かって流される。さらに、例えば潤滑油が低温であることに起因して放出口から放出される潤滑油がハウジングの壁面に届かない場合であっても、落下した潤滑油が樋部で受けられることで、潤滑油が樋部を経由してハウジングの壁面に向かって流される。その結果、潤滑配管を潤滑が必要な部位付近まで伸ばすことなく、潤滑油をハウジングの壁面を経由して潤滑が必要な部位に供給することができるため、製造コストが増加することなく、デファレンシャル装置の潤滑性能を確保することができる。
【0008】
また、好適には、本発明において、前記リブは、前記放出口から放出される潤滑油が衝突する前記ハウジングの壁面の両脇から前記ハウジングの壁面に対して垂直な方向に立設された一対のサイドリブを含んで形成されている。このようにすれば、ハウジングの壁面に衝突した潤滑油が一対のサイドリブによって捕捉され、ハウジングの壁面に衝突した潤滑油を効率良く潤滑が必要な部位に導くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明が好適に適用されたデファレンシャル装置の断面図である。
【
図2】ハウジングに形成されるリブの斜視図である。
【
図3】ハウジングに形成されるリブの他の斜視図である。
【
図4】バッフルプレートの形状を説明するための図である。
【
図5】
図1においてバッフルプレートが配置される部位を拡大した図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0011】
図1は、本発明が好適に適用されたデファレンシャル装置10の断面図である。なお、
図1では、回転軸線CLに対してデファレンシャル装置10の下側半分が省略されている。デファレンシャル装置10は、左右一対の車輪の回転速度差を許容しつつ、動力を伝達するよく知られた差動歯車装置である。
【0012】
デファレンシャル装置10は、回転軸線CLを中心にして配置されている。デファレンシャル装置10は、回転軸線CLを中心にして回転可能に支持されているデフケース12と、デフケース12内に収容され、両端がデフケース12に固定されているピニオンシャフト14と、ピニオンシャフト14の外周に回転可能に嵌め付けられているピニオン16と、ピニオン16と噛み合う左右一対のサイドギヤ18L、18Rと、デフケース12を軸受(後述する軸受38R)を介して回転可能に支持する非回転部材であるハウジング40と、を含んで構成されている。ピニオンシャフト14、ピニオン16、およびサイドギヤ18L、18R含んで差動機構20が構成される。
【0013】
デフケース12には、その内部に差動機構20を収容する空間22が形成されている。また、デフケース12の回転軸線CLの両側には、左右一対のドライブシャフト28L、28Rが嵌め入れられた一対のボス穴24L、24Rが形成されている。差動機構20が収容される空間22と一対のボス穴24L、24Rとは、それぞれ空間的に連続している。デフケース12の回転軸線CLに対して垂直な方向の両端には、ピニオンシャフト14が挿し通される一対の貫通穴26が形成されている。なお、
図1では、一方の貫通穴26のみ示されている。また、デフケース12の外周側には、デフリングギヤ32が図示しないボルトまたは圧入によって固定されている。
【0014】
ピニオンシャフト14は、長手方向に伸びる円柱状の部材から構成されている。ピニオンシャフト14は、長手方向の両端が一対の貫通穴26に挿し通された状態で、デフケース12から脱落不能に固定されている。ピニオンシャフト14は、デフケース12とともに回転軸線CLを中心にして回転させられる。
【0015】
ピニオン16は、環状に形成され、内部をピニオンシャフト14が貫通している。ピニオン16は、ピニオンシャフト14の回りを回転可能に支持されている。なお、
図1では省略されているが、ピニオン16は、ピニオンシャフト14の両端にそれぞれ設けられている。
【0016】
左右一対のサイドギヤ18L、18Rは、それぞれ中空の環状部材から構成されている。サイドギヤ18Lの内周部には、ドライブシャフト28Lがスプライン嵌合され、サイドギヤ18Rの内周部には、ドライブシャフト28Rがスプライン嵌合されている。一対のサイドギヤ18L、18Rは、回転軸線CLを中心にして回転可能に配置されている。また、一対のサイドギヤ18L、18Rは、ピニオンシャフト14を挟んで互いに対応するようにして設けられている。ピニオン16およびサイドギヤ18L、18Rによって、互いに回転軸線が垂直に交わる傘歯車が構成される。
【0017】
デフケース12の回転軸線CL方向の一端が、軸受38Rを介して非回転部材であるハウジング40によって回転可能に支持されている。また、図示しないが、デフケース12の回転軸線CL方向の他端についても、軸受38Lを介して非回転部材によって回転可能に支持されている。軸受38Lを保持する非回転部材は、ハウジング40であってもよく、ハウジング40とは異なる部材であっても構わない。
【0018】
次に、デファレンシャル装置10を構成する差動機構20や軸受38Rなどの潤滑が必要な部位(以下、潤滑必要部)に潤滑油を供給する潤滑装置42について説明する。潤滑装置42は、
図1に示すチューブ48、ハウジング40に形成されているリブ62、および後述するバッフルプレート60に形成されている樋部72、を含んで構成されている。これらチューブ48、リブ62、樋部72の構造および機能については後述する。
【0019】
ハウジング40を回転軸線CLを中心にして径方向に見たとき、少なくとも一部がデフケース12と重なっている。ハウジング40には、図示しない油圧制御回路から潤滑油が供給される潤滑油供給油路46が形成されている。さらに、ハウジング40には、図示しない連絡油路に接続されている潤滑油受入油路50が形成されている。潤滑油供給油路46と潤滑油受入油路50とが、チューブ48を介して互いに接続されている。すなわち、チューブ48の一端が潤滑油供給油路46に接続されるとともに、チューブ48の他端が潤滑油受入油路50に接続されている。なお、潤滑油受入油路50は、図示しない連絡油路に接続されており、潤滑油がその連絡油路を通ってデファレンシャル装置10以外の部位に供給されるように構成されている。
【0020】
チューブ48は、例えば配管用の鋼管から構成されている。チューブ48には、潤滑油供給油路46から潤滑油が供給されることで、チューブ48内を潤滑油が流れることとなる。チューブ48は、潤滑油供給油路46に接続されている一端から回転軸線CL方向に伸び、デフリングギヤ32の手前で屈曲されてデフケース12に向かって鉛直下方に伸びている。次いで、チューブ48は、バッフルプレート60の手前で屈曲されてハウジング40に向かって回転軸線CL方向に伸びている。さらに、チューブ48は、ハウジング40に形成されるリブ62の手前で屈曲されて上方に伸び、潤滑油受入油路50の近傍で潤滑油受入油路50側に向かって屈曲されることで、チューブ48の他端が潤滑油受入油路50に接続されている。上記のようにチューブ48が屈曲されることで、
図1に示すように、デフケース12の鉛直上方には、チューブ48が、略四角形を描いて一回りするように配管されている。チューブ48は、走行中に位置がずれないようにクランプ52等で固定されている。なお、チューブ48が、本発明の潤滑配管に対応している。
【0021】
チューブ48には、その経路上に、第1放出口54、第2放出口56、および第3放出口58が形成されており、第1放出口54~第3放出口58から放出された潤滑油が潤滑必要部に供給される。第1放出口54は、車両搭載状態でデフケース12の鉛直上方において、デフケース12と向かい合う位置に形成されている。詳細には、
図1に示す車両搭載状態でデファレンシャル装置10を鉛直上方から見たとき、第1放出口54は、回転軸線CLと重なる位置またはその近傍であって、且つ、回転軸線CL方向でピニオンシャフト14の配置される位置またはその近傍に形成されている。
【0022】
第2放出口56は、ハウジング40の壁面40aに向かい合う位置に形成されている。すなわち、第2放出口56は、ハウジング40の壁面40aに向かって潤滑油を放出する位置に形成されている。第3放出口58は、潤滑油受入油路50の近傍に形成されている。なお、第2放出口56が、本発明の放出口に対応している。
【0023】
図1においてチューブ48に形成されている矢印は、潤滑油供給油路46から供給される潤滑油の流れの一態様を示している。
図1に示すように、潤滑油は、潤滑油供給油路46から潤滑油受入油路50側に向かってチューブ48内を流れている。また、チューブ48内を流れる潤滑油は、第1放出口54~第3放出口58からそれぞれ放出される。
【0024】
第1放出口54から放出された潤滑油は、デフケース12に向かって鉛直下方に放出される。第1放出口54とデフケース12との間には、後述するバッフルプレート60が設けられており、第1放出口54から放出された潤滑油は、バッフルプレート60に形成されている貫通穴76を通ってデフケース12に供給される。デフケース12に到達した潤滑油は、例えばデフケース12に形成された貫通穴26とピニオンシャフト14との間の隙間などを通ってデフケース12の空間22内に流入し、差動機構20の各ギヤを潤滑する。
【0025】
第2放出口56から放出された潤滑油は、ハウジング40の壁面40aに向かって放出される。ハウジング40の壁面40aに付着した潤滑油は、矢印で示すようにハウジング40の壁面40aを伝って下方に移動し、軸受38Rをはじめとする潤滑必要部を潤滑する。また、ハウジング40の壁面40aに付着した潤滑部の一部は壁面40aから落下するものの、落下した潤滑油は、後述するバッフルプレート60の樋部72によって受けられ、樋部72を経由して潤滑必要部に供給される。チューブ48に形成された複数個の放出口(第1放出口54~第3放出口58)から潤滑油が放出されることで、1本のチューブ48で複数の潤滑必要部に潤滑油を供給することが可能になる。
【0026】
次に、ハウジング40に形成されるリブ62について説明する。上述したように、チューブ48が1本の管で構成されるため、デファレンシャル装置10の各潤滑必要部付近までチューブ48を延設することができない。これに対して、軸受38Rには、第2放出口56からハウジング40の壁面40aに向かって放出された潤滑油が、リブ62を伝って供給されるように構成されている。ここで、ハウジング40の壁面40aに向かって放出された潤滑油が、効率良く軸受38Rに到達することが望まれる。そこで、第2放出口56から放出された潤滑油が衝突するハウジング40の壁面40aに形成されるリブ62は、壁面40aに衝突した潤滑油が効率良く軸受38Rに導かれるように形成されている。
【0027】
図2は、ハウジング40に形成されるリブ62の斜視図である。なお、
図2の紙面上方には、潤滑油が流れるチューブ48の一部が記載されており、チューブ48の周りに記載されている矢印は、チューブ48の第2放出口56から放出される潤滑油の流れを示している。
図2の矢印で示すに示すように、第2放出口56の形成される位置などが製品毎にばらつくことで、第2放出口56から放出される潤滑油についても放出される方向にばらつきが生じる。
【0028】
ハウジング40に形成されるリブ62は、第2放出口56から放出される潤滑油の方向にばらつきが生じても、第2放出口56から放出された潤滑油をリブ62内に留め、さらに、潤滑油をリブ62を伝って軸受38Rなどに導くように形成されている。リブ62は、
図2において、チューブ48を挟むように形成されている一対のサイドリブ62a、62bと、Y字状に形成されたY字状リブ62cと、から形成されている。
【0029】
一対のサイドリブ62a、62bは、それぞれハウジング40の壁面40aから第2放出口56側に向かって立設されている。また、一対のサイドリブ62a、62bは、それぞれ軸受38Rが配置される側に向かって長手状に伸びている。
【0030】
一対のサイドリブ62a、62bは、第2放出口56から放出された潤滑油が衝突するハウジング40の壁面40aの両脇に形成されている。一対のサイドリブ62a、62bは、ハウジング40を回転軸線CL方向に見たとき、所定の間隔を空けて配置されている。一対のサイドリブ62a、62bの間に形成される間隔は、第2放出口56から放出される潤滑油が、一対のサイドリブ62a、62bによって形成される溝66内に留めることができる範囲、すなわち第2放出口56の製品のばらつきに拘わらず、第2放出口56から壁面40aに向かって放出された潤滑油を捕捉できる範囲とされている。また、第2放出口56から放出された潤滑油の跳ね返りが低減されるように、一対のサイドリブ62a、62bに挟まれて第2放出口56と向かい合うハウジング40の壁面40aは、その壁面40aが滑らかな曲面形状に形成されている。
【0031】
Y字状リブ62cは、一対のサイドリブ62a、62bの間に挟まれるようにして形成されている。Y字状リブ62cは、二股状に分岐する一対の分岐リブ64a、64bと、分岐リブ64a、64bに接続されるセンタリブ64cと、から形成されている。一対の分岐リブ64a、64bは、一対のサイドリブ62a、62bにそれぞれ接続されている。センタリブ64cは、一対の分岐リブ64a、64bによって案内された潤滑油が流れ込む突起形状に形成されている。
【0032】
図3は、
図2のハウジング40に形成されるリブ62を、
図2とは異なる方向から見た斜視図である。
図3に示されるように、Y字状リブ62cの分岐リブ64aおよび分岐リブ64bが互いに接続される部位に連続してセンタリブ64cが形成されている。センタリブ64cは、車両搭載状態において、鉛直下方に向かって突状に突き出している。センタリブ64cは、
図1に示すように、ハウジング40の壁面40aに沿って回転軸線CL方向に所定の寸法を有している。
【0033】
上記のようにリブ62が形成されることで、チューブ48の第2放出口56から放出された潤滑油が一対のサイドリブ62a、62bによって形成される溝66内に留められ、潤滑油が溝66から外れることが抑制される。また、溝66内に留められた潤滑油は、
図2および
図3の矢印で示すように、Y字状リブ62cの分岐リブ64a、64bによって案内されてセンタリブ64cに流れ込み、センタリブ64cの突状に突き出した部位を伝ってハウジング40の下方に移動する。このように、ハウジング40の壁面40aに向かって第2放出口56から放出された潤滑油がリブ62によって適切に捕捉される。さらに、潤滑油がリブ62を伝って下方に移動することで、リブ62の下方に配置されている軸受38Rに効率良く潤滑油が供給される。
【0034】
次に、デフケース12とハウジング40との間に設けられるバッフルプレート60およびバッフルプレート60に形成される樋部72について説明する。
図1に示す車両搭載状態において、チューブ48の鉛直下方であって、デフケース12とハウジング40との間には、樹脂等から構成されるバッフルプレート60が設けられている。
図4は、バッフルプレート60の形状を説明するための図である。
図4(a)は、バッフルプレート60の斜視図に対応し、
図4(b)は、
図1に示す車両搭載状態においてバッフルプレート60を鉛直上方から見た図に対応している。なお、バッフルプレート60が、本発明の樋部が形成された部材に対応している。
【0035】
バッフルプレート60は、筒状に形成された本体部70と、本体部70の外周面に形成されている樋部72と、本体部70の周方向で樋部72が形成された部位を避けるように形成されている鍔部74と、を含んでいる。
【0036】
本体部70は、
図1に示す車両搭載状態においてデフケース12を覆うように筒状に形成されている。本体部70は、
図1に示す車両搭載状態において回転軸線CLでハウジング40側に向かうほど外径が小さくなる方向に傾斜している。
【0037】
樋部72は、第2放出口56やハウジング40のリブ62(主にセンタリブ64c)などから落下した潤滑油を受けるように、
図1に示す車両搭載状態において、第2放出口56の下方および壁面40aに沿って回転軸線CLに伸びるセンタリブ64cの鉛直下方の位置に配置されている。樋部72は、本体部70の外周面から径方向外側に向かって立設された一対のサイドリブ72a、72bから形成されている。また、樋部72は、
図1に示す車両搭載状態において、先端が回転軸線CLでリブ62の形成されているハウジング40の壁面40a付近に位置するように、先端が本体部70よりも回転軸線CL方向に延設されている。また、一対のサイドリブ72a、72bに挟まれた本体部70の外周面であって、
図1に示す車両搭載状態において第1放出口54の鉛直下方に位置する部位には、貫通穴76が形成されている。
【0038】
次に、デファレンシャル装置10を潤滑する潤滑装置42による潤滑油の流れについて説明する。
図5は、
図1においてバッフルプレート60およびハウジング40のリブ62が形成される部位を拡大した図である。潤滑装置42は、
図5に示す、チューブ48、ハウジング40のリブ62、およびバッフルプレート60の樋部72を含んで構成されている。
図5に示す各矢印は、チューブ48の第1放出口54や第2放出口56などから放出される潤滑油の流れを示している。
【0039】
図5において、チューブ48の第1放出口54から放出された潤滑油は、実線の矢印で示すように、専らバッフルプレート60に形成された貫通穴76(
図1、
図4参照)を通ってデフケース12に到達する。デフケース12に到達した潤滑油は、デフケース12の貫通穴26とピニオンシャフト14との隙間等を通ってデフケース12内に収容される差動機構20に供給される。
【0040】
また、チューブ48の第2放出口56から放出された潤滑油は、
図5の実線で示す矢印のように、ハウジング40の壁面40aに衝突する。このとき、第2放出口56から放出される潤滑油の方向にばらつきが生じても、リブ62を構成する一対のサイドリブ62a、62bによって潤滑油が捕捉される。壁面40aに衝突した潤滑油は、Y字状リブ62cを構成する分岐リブ64a、64bを経由して突状に形成されたセンタリブ64cに集められる。さらに、潤滑油は、センタリブ64cを伝ってハウジング40の下方側に移動する。ハウジング40の下方に移動した潤滑油は、軸受38R(
図5では図示せず)等の潤滑必要部に供給される。
【0041】
また、リブ62に到達した潤滑油のうち、一部は破線で示す矢印のようにリブ62(主にセンタリブ64c)から落下する。この場合であっても、リブ62から落下した潤滑油が、バッフルプレート60に形成されている樋部72によって受けられる。その結果、潤滑油が樋部72を通ってハウジング40の壁面40a側に向かって流れることで、潤滑油が壁面40aを伝って軸受38R等に供給される。また、潤滑油が低温の場合(すなわち潤滑油が高粘度の場合)や登坂車線を走行中など車両の姿勢が傾いている場合には、
図5の一点鎖線で示す矢印のように、第2放出口56から放出された潤滑油が壁面40aまで届かなかったり、ハウジング40の上方から潤滑油が落下したりする。この場合においても、落下した潤滑油がバッフルプレート60の樋部72で受けられることで、潤滑油が樋部72を通ってハウジング40の壁面40aに向かって流れ、潤滑油が壁面40aを伝って軸受38R等に供給される。
【0042】
上述のように、本実施例によれば、チューブ48の第2放出口56から潤滑油がハウジング40に向かって放出されると、ハウジング40の壁面40aに衝突した潤滑油が、リブ62を伝って軸受38Rなどの潤滑が必要な部位に導かれる。また、ハウジング40の壁面40aから潤滑油が落下した場合であっても、落下した潤滑油が樋部72で受けられることで、潤滑油が樋部72を経由してハウジング40の壁面40aに向かって流される。さらに、例えば潤滑油が低温であることに起因して第2放出口56から放出される潤滑油がハウジング40の壁面40aに届かない場合であっても、落下した潤滑油が樋部72で受けられることで、潤滑油が樋部72を経由してハウジング40の壁面40aに向かって流される。その結果、チューブ48を潤滑が必要な部位付近まで伸ばすことなく、潤滑油をハウジング40の壁面40aを経由して潤滑が必要な部位に供給することができるため、製造コストが増加することなく、デファレンシャル装置10の潤滑性能を確保することができる。
【0043】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0044】
例えば、前述の実施例では、チューブ48の他端が潤滑油受入油路50に接続されていたが、必ずしもこの態様に限定されず、チューブ48の他端の接続先が適宜変更されても構わない。
【0045】
また、前述の実施例では、第2放出口56から放出された潤滑油は、リブ62を伝って軸受38Rを潤滑するように構成されていたが、潤滑油が供給される潤滑必要部は、軸受に限定されず、例えばギヤなど潤滑が必要な部位であれば適宜適用することができる。
【0046】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0047】
10:デファレンシャル装置
12:デフケース
20:差動機構
38R:軸受(潤滑が必要な部位)
40:ハウジング
40a:壁面(ハウジングの壁面)
42:潤滑装置
48:チューブ(潤滑配管)
56:第2放出口(放出口)
60:バッフルプレート(樋部が形成された部材)
62:リブ
72:樋部