(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-19
(45)【発行日】2025-05-27
(54)【発明の名称】ネットワーク管理装置及びパス設定方法
(51)【国際特許分類】
H04L 45/64 20220101AFI20250520BHJP
H04L 45/42 20220101ALI20250520BHJP
【FI】
H04L45/64
H04L45/42
(21)【出願番号】P 2022092728
(22)【出願日】2022-06-08
(62)【分割の表示】P 2021078906の分割
【原出願日】2015-12-15
【審査請求日】2022-06-08
【審判番号】
【審判請求日】2024-07-02
(31)【優先権主張番号】P 2014259792
(32)【優先日】2014-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人情報通信研究機構「高度通信・放送研究開発委託研究/エラスティック光通信ネットワーク構成技術の研究開発」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100178216
【氏名又は名称】浜野 絢子
(74)【代理人】
【識別番号】100149618
【氏名又は名称】北嶋 啓至
(72)【発明者】
【氏名】竹下 仁士
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 慎介
(72)【発明者】
【氏名】樋野 智之
(72)【発明者】
【氏名】田島 章雄
【合議体】
【審判長】篠塚 隆
【審判官】村松 貴士
【審判官】北元 健太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/054281(WO,A1)
【文献】特開2014-175820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L45/00-69/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パケットネットワークにおいて論理パスを設定する論理パス設定手段と、
光ネットワークの経路情報および信号品質情報を含む物理ネットワーク情報を受け付ける受信手段、とを備え、
前記論理パス設定手段は、
前記光ネットワークにおける物理パスに対応する前記論理パスを、あらかじめ取得した前記物理ネットワーク情報に基づいて設定し、
前記
設定した論理パスの候補を、前記経路情報に基づいて
複数抽出し、
前記候補の
複数の中から、前記物理ネットワーク情報に基づいて、一の論理パスを決定する
ネットワーク管理装置。
【請求項2】
前記受信手段は、前記光ネットワークにおける未使用の空きスロット情報を含む帯域情報を受け付ける
請求項1に記載したネットワーク管理装置。
【請求項3】
前記受信手段は、前記光ネットワークにおける光信号雑音比およびQ値の少なくとも一方に関する信号品質情報を受け付ける
請求項1または2に記載したネットワーク管理装置。
【請求項4】
前記光ネットワークにおける前記物理パスは、リング状に接続された物理トポロジーであり、
前記パケットネットワークにおける前記論理パスは、メッシュ状に接続された論理トポロジーである
請求項1から3のいずれか一項に記載したネットワーク管理装置。
【請求項5】
パケットネットワークにおいて論理パスを設定し、
光ネットワークの経路情報および信号品質情報を含む物理ネットワーク情報を受け付け、
前記論理パスを設定することは、
前記光ネットワークにおける物理パスに対応する前記論理パスを、あらかじめ取得した前記物理ネットワーク情報に基づいて設定し、
前記
設定した論理パスの候補を、前記経路情報に基づいて
複数抽出し、
該候補の
複数の中から、前記物理ネットワーク情報に基づいて、一の論理パスを決定することを含むパス設定方法。
【請求項6】
前記光ネットワークにおける未使用の空きスロット情報を含む帯域情報を受け付ける、請求項5に記載のパス設定方法。
【請求項7】
前記光ネットワークにおける光信号雑音比またはQ値に関する信号品質情報を受け付ける、請求項5または請求項6に記載のパス設定方法。
【請求項8】
前記光ネットワークにおける物理パスは、リング状に接続された物理トポロジーであり、
前記パケットネットワークにおける論理パスは、メッシュ状に接続された論理トポロジーである、請求項5乃至7のいずれか一項に記載のパス設定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ネットワーク管理装置および物理ネットワーク管理装置に関し、特に、光ネットワークを含む複数のネットワークレイヤからなるマルチレイヤネットワークに用いられる、ネットワーク管理装置および物理ネットワーク管理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
モバイルトラフィックやビデオサービスの急速な拡大により、コアネットワークにおける通信容量の拡大が求められている。このような容量の拡大に対する要求は、今後も継続する傾向にある。限られたコストの下で通信容量を継続的に拡大していくためには、ネットワークのリソースを効率的に運用することにより、ネットワークの利用効率を向上させることが効果的である。また、予期しない障害の発生によって提供サービスが中断しないように、障害耐性を高めることも重要である。
【0003】
現状の通信ネットワークにおいては、機能毎に複数のレイヤに分離され、それぞれ管理・運用されている。このような通信ネットワークは例えば、上位レイヤのパケットネットワークと下位レイヤの光ネットワークの組み合わせであるマルチレイヤネットワークと考えることができる。
【0004】
上位レイヤのパケットネットワークでは、例えばIP(Internet Protocol)技術やMPLS(Multi-Protocol Label Switching)技術などが用いられる。パケットネットワークは、様々な通信プロトコルを利用することができ、細かいトラフィック粒度でネットワークを論理的に扱うことでネットワークを動的に制御できることが特徴である。動的な制御を行うことによって、ネットワーク利用効率を向上させることができる。
【0005】
下位レイヤの光ネットワークでは、波長分割多重(Wavelength Division Multiplexing:WDM)技術が用いられる。光ネットワークは長距離・大容量伝送など、トラフィックを大きな粒度で一括処理することに適している。また、光ネットワークは通信回線のS/N比(Signal to Noise Ratio)などの物理的な情報を直接取得できることが特徴である。一方、自然法則による制約があるため、上位レイヤネットワークに比べて動的な制御が可能な要素が少なく、ほぼ静的な運用・管理がなされている。マルチレイヤネットワークでは下位レイヤネットワークに障害が発生すると、上位レイヤネットワークに波及するため、下位レイヤネットワークには高い信頼性が必要となる。
【0006】
このようなマルチレイヤネットワークのネットワークトポロジーの設計に用いるトポロジー設計装置の一例が特許文献1に記載されている。特許文献1のトポロジー設計装置は、論理トポロジー設計手段、下位レイヤパス割当手段、信頼性評価手段、および下位レイヤパス収容変更設計手段を有する。
【0007】
論理トポロジー設計手段は、設計対象とするネットワークの物理的な接続を表したトポロジー情報と、上位レイヤでどのノードとどのノードとを論理リンクで結合するかを表したトポロジー情報と、あるノードとあるノードとに発生しているトラヒック量の情報とに基づいて、上位レイヤの論理トポロジーを設計する。下位レイヤパス割当手段は、設計された論理トポロジーに対して、下位レイヤにおけるパスを示す下位レイヤパスを割り当てる。
【0008】
また、信頼性評価手段は、下位レイヤのいずれかの物理リンクまたはノードに障害が発生した場合に、上位レイヤの各ノード間における到達性を保証する条件を示す信頼性条件を設計された論理トポロジーが満たすか否かを評価する。そして、下位レイヤパス収容変更設計手段は、設計された論理トポロジーが信頼性条件を満たさない場合に、割り当てられた下位レイヤパスの終端点を変更させずに下位レイヤパスで経由するノードを変更することで、信頼性条件を満足するように下位レイヤパスの収容変更を設計する。
【0009】
このような構成としたことにより、下位レイヤの物理リンクまたはノードに障害が発生した場合でも、上位レイヤの各ノード間の到達性が確保でき、また、収容効率の高い論理トポロジーの設計が可能となる、としている。
【0010】
また、関連技術としては、特許文献2~5に記載された技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特開2008-211551号公報
【文献】特開2013-191942号公報
【文献】特開2013-009264号公報
【文献】特開2006-042279号公報
【文献】特開2004-228740号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上述したように、これまでは下位レイヤネットワークでは静的な運用・管理しか行われていなかった。しかしながら、近年、デジタルコヒーレント技術の進展により、下位レイヤの光ネットワークにおいても動的な制御性が向上している。そのため、下位レイヤネットワークの動的な運用・管理も可能となっている。下位レイヤのネットワーク機能の特徴を活用することにより、ネットワークの利用効率を向上させることが期待されている。
【0013】
一方、マルチレイヤネットワークを構成するIPやMPLSなどによる上位レイヤにおいては、通信トラフィック要求に応じて論理パスを生成・削除・再構成し、また、論理パスの接続性を確保することなど、膨大な量のパス制御管理処理が必要である。このような主要な処理に加えて、物理的な通信経路である光ネットワークレイヤにおける光パスのルート設定情報や伝送特性情報の管理および制御も、下位レイヤからの情報収集により行っているため、その処理数が膨大となっている。このとき、上位レイヤが収集した下位レイヤの物理情報と、下位レイヤの現時点における状態に齟齬が生じると、ネットワークの利用効率や信頼性が低下する。
【0014】
このように、上位レイヤネットワークと下位レイヤネットワークを含むマルチレイヤネットワークにおいては、上位レイヤネットワークにおける制御負荷が増大し、ネットワーク全体の利用効率および信頼性が低下する、という問題があった。
【0015】
本発明の目的は、上述した課題を解決するネットワーク管理装置および物理ネットワーク管理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明のネットワーク管理装置は、パケットネットワークにおいて論理パスを設定する論理パス設定手段と、光ネットワークの経路情報および信号品質情報を含む物理ネットワーク情報を受け付ける受信手段、とを備え、論理パス設定手段は、光ネットワークにおける物理パスに対応する論理パスの候補を、経路情報に基づいて抽出し、候補の中から、物理ネットワーク情報に基づいて、論理パスを決定する。
【0017】
本発明の物理ネットワーク管理装置は、光ネットワークにおいて物理パスを設定する物理パス設定手段と、光ネットワークの経路情報および信号品質情報を含む物理ネットワーク情報を記憶するネットワーク情報記憶手段と、物理パスに対応する論理パスを物理ネットワーク情報に基づいて設定するパケットネットワーク管理装置に、物理ネットワーク情報を送信する送信手段、とを備える。
【発明の効果】
【0018】
本発明のネットワーク管理装置および物理ネットワーク管理装置によれば、上位レイヤネットワークにおける制御負荷を低減することができ、利用効率および信頼性が高いマルチレイヤネットワークを構成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係るマルチレイヤネットワークシステムの構成を模式的に示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態に係るマルチレイヤネットワークシステムの構成を示すブロック図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係るマルチレイヤネットワークシステムの動作を説明するためのフローチャートである。
【
図4】本発明の第2の実施形態に係るマルチレイヤネットワークシステムの構成を模式的に示すブロック図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態に係るマルチレイヤネットワークシステムが備える第1のネットワーク管理装置の動作を説明するための図である。
【
図6】本発明の第3の実施形態に係るマルチレイヤネットワークシステムを構成するネットワーク管理装置の動作を説明するための光周波数スロットの利用状況を示す図である。
【
図7】本発明の第3の実施形態に係るマルチレイヤネットワークシステムを構成するネットワーク管理装置の動作を説明するための光周波数スロットの利用状況を示す図である。
【
図8】本発明の第3の実施形態に係るマルチレイヤネットワークシステムを構成するネットワーク管理装置の動作を説明するための光周波数スロットの利用状況を示す図である。
【
図9】本発明の第3の実施形態に係るマルチレイヤネットワークシステムを構成するネットワーク管理装置の動作を説明するための光周波数スロットの利用状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。なお、図面中の矢印の向きは一例を示すものであり、ブロック間の信号の向きを限定するものではない。
【0021】
〔第1の実施形態〕
図1は、本発明の第1の実施形態に係るマルチレイヤネットワークシステム1000の構成を模式的に示すブロック図である。
【0022】
マルチレイヤネットワークシステム1000は、第1のネットワーク管理装置1100と第2のネットワーク管理装置1200を有する。第1のネットワーク管理装置1100は、第1のネットワークレイヤ(上位レイヤ)において論理パスを設定する。第2のネットワーク管理装置1200は、第2のネットワークレイヤ(下位レイヤ)において、この論理パスに対応する物理パスを設定する。
【0023】
ここで、第2のネットワーク管理装置1200は、
図2に示すように、第2のネットワークレイヤ(下位レイヤ)の物理経路情報および伝送特性情報を含む物理ネットワーク情報を記憶するネットワーク情報記憶部1210を備える。そして、第1のネットワーク管理装置1100は、この物理ネットワーク情報に基づいて論理パスを設定する。ここで第1のネットワーク管理装置1100は、第2のネットワーク管理装置1200から取得した物理ネットワーク情報を記憶する取得情報記憶部1110を備えた構成とすることができる。
【0024】
このように、本実施形態のマルチレイヤネットワークシステム1000においては、第1のネットワーク管理装置1100が第2のネットワークレイヤ(下位レイヤ)における物理ネットワーク情報に基づいて論理パスを設定する構成としている。そのため、第1のネットワーク管理装置1100が論理パスを検索する際における検索対象パスを削減することが可能になる。その結果、本実施形態のマルチレイヤネットワークシステム1000によれば、第1のネットワークレイヤ(上位レイヤネットワーク)における制御負荷を低減することができ、利用効率および信頼性が高いマルチレイヤネットワークを構成することができる。
【0025】
次に、本実施形態によるマルチレイヤネットワークシステム1000の動作について、
図3に示したフローチャートを参照しながら説明する。
【0026】
ここでは、
図1に示した5ノード(A~E)からなる上位レイヤと下位レイヤに階層化されたマルチレイヤネットワークを例にして説明する。上位レイヤはIP技術またMPLS技術を用いた論理レイヤであり、下位レイヤは光伝送技術を用いた物理レイヤである。
【0027】
図1において、ノードA~Eは物理的にリング状に接続されたリングネットワークを形成している。このとき、第2のネットワーク管理装置1200としての下位レイヤNMS(Network Management System)が認識する物理トポロジーはリングネットワークである。一方、ノードA~Eは論理的にはメッシュ状に接続されたメッシュネットワークを形成する。したがって、第1のネットワーク管理装置1100としての上位レイヤNMSが認識する論理トポロジーはメッシュネットワークである。
【0028】
ここで、ノードCとノードEの間にトラフィック要求が発生した場合(
図3のステップS110)について説明する。このとき、上位レイヤNMSおよび下位レイヤNMSはノード間を接続するパスとして最短なパスを検索する。
【0029】
下位レイヤはリングネットワークであるので、ノードCとノードEを結ぶパスは、「C←→D←→E」または「C←→B←→A←→E」の2通りである。したがって、物理的な最短パスは「C←→D←→E」からなる物理パス1である。
【0030】
上位レイヤはメッシュネットワークであるので、ノードCとノードEを結ぶパスは、同じノードを2回以上通過しないという条件のもとで、全部で16通り存在する。これらの中で論理的な最短パスは「C←→E」からなる論理パス1である。
【0031】
物理パス1「C←→D←→E」ではノードDが中継点となるが、論理パス1「C←→E」ではノードCとノードEが直接接続されている。実際の通信路(通信ケーブル)は物理パス1と一致する。ところが上位レイヤNMSは論理パス1しか認識できないため、ノードDによってパスが中継されていることを把握することはできない。
【0032】
しかし、本実施形態によるマルチレイヤネットワークシステム1000は上述したように、上位レイヤNMS(第1のネットワーク管理装置1100)が物理経路情報(物理トポロジー情報)に基づいて論理パスを設定する構成としている。このとき、上位レイヤNMSはパス検索を実行する前に、下位レイヤの物理トポロジー情報を下位レイヤNMSからあらかじめ取得する構成とすることができる(ステップS120)。
【0033】
具体的には、ノードCとノードEを接続する論理パスは、条件A「ノードDを含み、かつノードAおよびノードBのいずれも含まない」、または条件B「ノードAおよびノードBを含み、かつノードDを含まない」という条件を付加する。この場合、条件Aを満たす論理パスは「C←→D←→E」の1通り、条件Bを満たす論理パスは「C←→A←→B←→E」と「C←→B←→A←→E」の2通りであり、合計3通りとなる。したがって、上記条件を加えたことにより、論理的な最短パスの候補を16通りから3通りに減らすことができる。その結果、本実施形態のマルチレイヤネットワークシステム1000によれば、論理パス1を決定する時間を短縮することができる。
【0034】
このように、上位レイヤNMS(第1のネットワーク管理装置1100)は物理経路情報(条件A、B)に基づいて論理パスの候補を選定する(ステップS130)。そして、これらの論理パスの候補の中から、物理経路情報および伝送特性情報に基づいて論理パスを決定する構成とすることができる(ステップS140)。ここで、伝送特性情報には、光信号雑音比(Optical Signal-to-Noise Ratio:OSNR)、物理パス長、および信号品質のうちの少なくとも一が含まれる。
【0035】
一方、下位レイヤNMSは上位レイヤNMSが決定した論理パス1を収容するための物理パス1を決定する(ステップS150)。ここで、上位レイヤNMSと下位レイヤNMSは同じトポロジーおよび同じパス検索方式を用いているため、物理パス1は論理パス1と必ず一致する。したがって、論理パス1を検索した後に改めて物理パス1を検索する必要がなくなる。その結果、トラフィック通信を確立するために必要な、論理パスおよび物理パスを決定するための合計時間を短縮することができ、トラフィック通信を迅速に確立することができる。
【0036】
さらに、論理パス1を運用系パス(Primaryパス)としたときに、冗長系パス(Secondaryパス)を設定する場合について具体的に説明する。
【0037】
この場合、最短の論理パスを検索すると、論理冗長系パス1「C←→D←→E」と論理冗長系パス2「C←→A←→E」が候補となる。しかし、物理トポロジー上は論理パス1「C←→E」と論理冗長系パス1「C←→D←→E」は同一である。そのため、上位レイヤNMSが物理トポロジー情報を取得しない場合、パス長だけから判断すると冗長系パスとしてノードDを含む論理冗長系パス1が選択される確率が50%あることになる。
【0038】
ここで、物理パス1「C←→D←→E」に障害が発生すると、論理パス1「C←→E」も障害となる。このとき、上位レイヤNMSが、障害が発生する前に予め定めてあった論理冗長系パス1「C←→D←→E」にトラフィックを迂回させようとする場合について検討する。この場合、上位レイヤNMSは下位レイヤNMSに対して論理冗長系パス1を収容する物理パスの生成を要求する。しかし、上述したように、物理トポロジー上は論理パス1「C←→E」と論理冗長系パス1「C←→D←→E」は同一であるから、下位レイヤNMSは論理冗長系パス1を収容する物理冗長系パス1を生成することに失敗する。
【0039】
この場合には、上位レイヤNMSが論理冗長系パス1とは異なる冗長系パスを再度検索し直すことになる。論理冗長系パス1「C←→D←→E」と異なる最短の冗長系パスとしては、上述した論理冗長系パス2「C←→A←→E」がある。論理冗長系パス2は物理トポロジー上も論理パス1「C←→E」とは異なる。そのため、再度検索した後に下位レイヤNMSが物理冗長系パスの生成に失敗することはない。
【0040】
しかし、本実施形態のマルチレイヤネットワークシステム1000によれば、上位レイヤNMSが物理トポロジー情報を予め取得した上で論理パス検索を行う構成としているので、上述したような再検索動作を防止することができる。そのため、ネットワークの物理障害発生時における障害回復が失敗する確率を減少させることができ、ネットワークの高信頼化を図ることができる。
【0041】
トラフィック通信を確立するためには、論理パスおよび物理パスを決定した上で、通信機器の制御を行って通信を確立する必要がある。そこで下位レイヤNMSは物理パス1「C←→D←→E」を生成するために、物理パス1に用いる光ファイバにおける光周波数スロットの割り当て状況を調べる。このとき下位レイヤNMSは、あらかじめネットワーク情報記憶部1210(
図2参照)に蓄積されている光周波数スロット情報を参照して、下位レイヤネットワークである光ネットワークにおける光周波数スロットの空き状況を把握する。
【0042】
そして、下位レイヤNMSは光周波数スロットの空き状況に応じて光変調方式やキャリア数などの光伝送パラメータを決定する(
図3のステップS160)。このとき、下位レイヤNMSは、ネットワーク情報記憶部1210に含まれる光ノード情報記憶部に記憶されている光ノード情報を参照する。ここで光ノード情報は、光ネットワークに接続される光ノード装置1300の仕様に関する情報である。下位レイヤNMSは光ノード情報と光周波数スロット情報に基づいて、物理パスを構成するように光ノード装置1300を制御する(ステップS170)。すなわち、下位レイヤNMSは決定した光伝送パラメータに基づいて光ノード装置1300を制御する。これにより、下位レイヤNMSは決定された論理パスおよび物理パスを実現し、トラフィック通信を確立する(ステップS180)。
【0043】
具体的には、下位レイヤNMSは、あらかじめ取得した光周波数スロット情報を用いて物理パスに割り当てる光周波数スロット数とキャリア数を決定する。下位レイヤNMSは決定結果である光伝送パラメータを、物理パス1に関わるノードC、ノードD、およびノードEがそれぞれ備える光ノード装置に設定することによって、物理パス1を形成する。これにより、トラフィック通信が確立する。
【0044】
次に、本実施形態によるマルチレイヤネットワークにおけるパス設定方法について説明する。
【0045】
本実施形態のマルチレイヤネットワークにおけるパス設定方法では、まず、マルチレイヤネットワークを構成する第1のネットワークレイヤにおいて論理パスを設定する前に、第2のネットワークレイヤの物理ネットワーク情報を取得する。ここで、第2のネットワークレイヤは、マルチレイヤネットワークを構成するネットワークレイヤであって上述の論理パスに対応する物理パスが設定されるネットワークレイヤである。また、物理ネットワーク情報には物理経路情報および伝送特性情報が含まれる。そして、本実施形態のマルチレイヤネットワークにおけるパス設定方法では、この物理ネットワーク情報に基づいて論理パスを設定する。
【0046】
このとき、物理経路情報に基づいて論理パスの候補を選定し、論理パスの候補の中から、物理経路情報および伝送特性情報に基づいて論理パスを決定する構成とすることができる。
【0047】
以上説明したように、本実施形態のマルチレイヤネットワークシステム1000およびマルチレイヤネットワークにおけるパス設定方法によれば、上位レイヤネットワークにおける制御負荷を低減することができる。これにより、利用効率および信頼性が高いマルチレイヤネットワークを構成することができる。
【0048】
〔第2の実施形態〕
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。
図4に、本実施形態に係るマルチレイヤネットワークシステム2000の構成を模式的に示す。
【0049】
本実施形態のマルチレイヤネットワークシステム2000が備える第1のネットワーク管理装置1100および第2のネットワーク管理装置1200の構成は、第1の実施形態によるものと同様である(
図2参照)。
【0050】
本実施形態においては、第1のネットワーク管理装置1100が設定する論理パスおよび第2のネットワーク管理装置1200が設定する物理パスはそれぞれ、運用系パスに対する冗長系パスであるとした。そして、第1のネットワーク管理装置1100は、物理経路情報に含まれる冗長系パスの共有リンク情報から、論理パスのコストである共有リンクコストを論理パスの候補ごとに算出し、この共有リンクコストと伝送特性情報に基づいて論理パスを決定する構成とした。
【0051】
ここで、共有リンク情報とは、論理リンクだけでなく物理リンクも含めて同一のリスクを共有するリンクの集合であり、拡張された共有リスク・リンク・グループ(Shared Risk Link Group)に関する情報を言う。以下では、「共有リンク情報」を単に「SRLG」と言う。また、伝送特性情報には、光信号雑音比(Optical Signal-to-Noise Ratio:OSNR)、物理パス長、および信号品質のうちの少なくとも一が含まれる。
【0052】
次に、本実施形態によるマルチレイヤネットワークシステム2000の動作について、
図4を参照しながら詳細に説明する。
【0053】
本実施形態においては、
図4に示したように、第1の実施形態で
図1を用いて説明した5ノードからなるネットワークを、2個連結した構成のネットワークを例として説明する。すなわち、上位レイヤは、5ノードからなるメッシュネットワークを2個連結した構成の論理レイヤである。下位レイヤは、5ノードからなるリングネットワークを2個連結した構成の物理レイヤである。以下では、物理経路情報(物理トポロジー情報)としてSRLGを、伝送特性情報としてOSNRを用いる場合を例として説明する。なお、第1の実施形態によるマルチレイヤネットワークシステム1000と共通する動作についての説明は省略する。
【0054】
第1のネットワーク管理装置1100が、パスの共有リンクコスト(SRLGコスト)を算出する動作について説明する。パス毎のSRLGコストC
pathは、パスを構成するリンク毎のSRLGコストC
link(SRLG)を合計することにより求めることができる。すなわち、パス毎のSRLGコストC
pathは、下記の式(1)を用いて算出する。
【0055】
ここではまず、第1のネットワーク管理装置1100が物理トポロジー情報を取得しないでコスト計算する場合について説明する。ノードCとノードEを接続する論理パス1「C←→E」に対する論理冗長パスを選択する動作を例とし、論理冗長パスの検索は簡単のために4ホップまで行うこととする。
【0056】
論理冗長パスの候補は、3ホップの場合、論理冗長パス1「C←→A←→E」、論理冗長パス2「C←→B←→E」、および論理冗長パス3「C←→D←→E」である。4ホップの場合は、論理冗長パス4「C←→A←→D←→E」、論理冗長パス5「C←→B←→D←→E」、および論理冗長パス6「C←→B←→A←→E」であり、以下は5ホップ以上となるので、ここでは省略する。
【0057】
論理冗長パス1~3が属するSRLGをそれぞれSRLG-1~3とする。
図4を参照すると、SRLG-1に関してリンクが重複するのは、リンク「C←→A」において論理冗長パス1「C←→A←→E」と論理冗長パス4「C←→A←→D←→E」である。また、リンク「A←→E」においては、論理冗長パス1「C←→A←→E」と論理冗長パス6「C←→B←→A←→E」が重複する。
【0058】
SRLG-2に関してリンクが重複するのは、リンク「C←→B」における論理冗長パス2「C←→B←→E」と、論理冗長パス5「C←→B←→D←→E」5と、論理冗長パス6「C←→B←→A←→E」である。
【0059】
また、SRLG-3に関してリンクが重複するのは、リンク「D←→E」における論理冗長パス3「C←→D←→E」と、論理冗長パス4「C←→A←→D←→E」と、論理冗長パス5「C←→B←→D←→E」である。
【0060】
ここで、論理冗長パス1に関して、リンク「C←→A」についてリンクが1回重複するので、SRLGコストを「+1」とする。また、リンク「A←→E」についても1回重複するため、SRLGコストを「+1」とする。したがって、論理冗長パス1に関しては、パス全体のSRLGコストは「+2」となる。同様に、論理冗長パス2に関しては、リンク「C←→B」においてリンクが2回重複するため、SRLGコストは「+2」とする。他のリンク、すなわち、リンク「B←→E」においては重複がないため、パス全体のSRLGコストは「+2」となる。
【0061】
図5に、これらの結果を論理冗長パスの候補ごとにまとめて示す。例えば、最大ホップ数を「4」とした場合、論理冗長系パス1~6の中でSRLGコストが最小となるのは論理冗長パス1~3となる。
【0062】
次に、本実施形態のマルチレイヤネットワークシステム2000が備える第1のネットワーク管理装置1100が、物理トポロジー情報を取得してコストを計算する場合について説明する。この場合の物理トポロジー情報は、冗長系パスを想定しているので、第1の実施形態で説明した条件B、すなわち、「ノードAおよびノードBを含み、かつノードDを含まない」という条件になる。
【0063】
ネットワークの物理的な障害に対して有効な論理冗長パスは、取得した物理トポロジー情報から論理冗長パス6「C←→B←→A←→E」または論理冗長パスN「C←→B←→H←→G←→F←→A←→E」のいずれかとなる。したがって、SRLGコストの計算において、上述した物理トポロジー情報を取得しない場合におけるコスト計算の過程から、それ以外の無効な論理冗長パスを除外することが可能になる。これにより、SRLGコストの算出処理を大幅に簡略化することができる。この場合のSRLGコストは、論理冗長パス6と論理冗長パスNは、リンク「C←→B」およびリンク「A←→E」においてそれぞれ1回重複するので、SRLGコストはともに「+2」となる。
【0064】
上述したように、SRLGコストが等しい複数の論理冗長パスの候補が存在する場合、伝送特性情報としてのOSNR情報を用いて論理冗長パスを決定する。上位レイヤNMS(第1のネットワーク管理装置1100)はOSNR情報を取得することにより、論理冗長パス6を実現するために必要なOSNRが、論理冗長パスNを実現するために必要なOSNRよりも小さいことを知ることができる。そのため、上位レイヤNMSは論理パス1の冗長パスとして、論理冗長パス6を選択することができる。
【0065】
なお、物理的なパス長(物理パス長)が長いほど所要のOSNRは大きくなるので、OSNRに替えてパス長を用いることとしてもよい。また、OSNRは信号品質を表わすQ値と相関関係があるので、伝送特性情報としてQ値を用いることもできる。
【0066】
以上説明したように、本実施形態のマルチレイヤネットワークシステム2000によれば、上位レイヤネットワークにおける制御負荷を低減することができ、利用効率および信頼性が高いマルチレイヤネットワークを構成することができる。
【0067】
〔第3の実施形態〕
次に、本発明の第3の実施形態について説明する。本実施形態に係るマルチレイヤネットワークシステムの構成は、
図4に示した第2の実施形態によるマルチレイヤネットワークシステム2000の構成と同様である。
【0068】
本実施形態によるマルチレイヤネットワークシステムを構成する第2のネットワークレイヤ(下位レイヤ)は光ネットワークによって構成されている。そして、第2のネットワーク管理装置1200は、光ネットワークにおける光周波数スロットの利用状況である光周波数スロット情報を記憶する光周波数情報記憶部を備えている(
図2参照)。
【0069】
本実施形態による第2のネットワーク管理装置1200は、伝送特性情報によって定まる、物理パスを構成するのに必要な光周波数スロットの個数である光周波数スロット個数を算出する。このとき、第1のネットワーク管理装置1100は、この光周波数スロット情報に基づいて論理パスの候補ごとに定まる、光周波数スロット個数を確保するためのコストである光周波数スロットコストを取得する。そして、第1のネットワーク管理装置1100が光周波数スロットコストと共有リンクコスト(SRLGコスト)との合計である論理パスコストと、伝送特性情報に基づいて論理パスを決定する構成とした。
【0070】
次に、本実施形態による第1のネットワーク管理装置1100および第2のネットワーク管理装置1200の動作について詳細に説明する。
【0071】
第2のネットワーク管理装置1200としての下位レイヤNMSは、光周波数情報記憶部に光ネットワークにおける光周波数スロットの利用状況である光周波数スロット情報をあらかじめ記憶している。光周波数スロットの利用状況は、例えば、リンク「B←→A」においては
図6に示す状況であり、リンク「B←→H←→G←→F←→A」については
図9に示す状況であるとする。これらの図において、各長方形状が光周波数スロットを表わしており、白抜きの光周波数スロットは未利用の空きスロットを示している。
【0072】
第1のネットワーク管理装置1100としての上位レイヤNMSが、共有リンク情報(SRLG)およびOSNR情報を用いてSRLGコスト計算を行うのと並行して、下位レイヤNMSが光周波数スロットコストを算出することができる。これは、上位レイヤNMSと下位レイヤNMSがトポロジー情報を共有しているので、それぞれが独立に並行してコスト計算を行うことができるからである。なお、上位レイヤNMSが下位レイヤNMSから光周波数スロット情報を受け取って、上位レイヤNMSが光周波数スロットコストを算出することにより、光周波数スロットコストを取得することとしてもよい。
【0073】
物理冗長パスの候補は、
図4に示すように、物理冗長パス1「C←→B←→A←→E」と、物理冗長パス2「C←→B←→H←→G←→F←→A←→E」である。下位レイヤNMSは、物理冗長パス1を実現するためには光周波数スロットが4個必要であり、物理冗長パス2を実現するためには光周波数スロットが6個必要であることを、光ノード情報として予め記憶している。このとき必要な光周波数スロット数は、下位レイヤNMSが保有しているパス長やOSNRなどの伝送特性情報によって定まる。
【0074】
物理冗長パス1を構成するリンク「B←→A」における光周波数スロットの利用状況は、
図6に示す通りであり、連続した空きスロット数は最大で2スロットである。したがって、4個の光周波数スロットが必要な物理冗長パス1を実現するためには、例えば
図7に示すように、2個の連続する2スロット(2スロット×2)に分割する必要がある。あるいは、
図8に示すように、1個の連続する2スロットと2個の1スロット(2スロット×1+1スロット×2)に分割する必要がある。
【0075】
図7に示した場合、光周波数スロットを分割する回数は1回であるので、光周波数スロット個数を確保するためのコスト(光周波数スロットコスト)は「+1」とする。また、
図8に示した場合は、光周波数スロットを分割する回数は2回であるので、光周波数スロットコストは「+2」となる。
【0076】
一方、物理冗長パス2を構成するリンク「B←→H←→G←→F←→A」における光周波数スロットの利用状況(空き状況)は
図9に示した通りであり、連続した空きスロット個数は最大で6スロットである。したがって、必要な6個の光周波数スロットを分割することなく物理冗長パス2を実現することができる。この場合、光周波数スロット個数を確保するため必要となる分割の回数はゼロ回であるので、光周波数スロットコストは「0」である。
【0077】
上述したように、パスを構成するリンク毎の光周波数スロットコストC
link(slot)を合計することにより、パス毎の光周波数スロットコストC
pathを求めることができる。すなわち、パス毎の光周波数スロットコストC
pathは、下記の式(2)を用いて算出することができる。
【0078】
光周波数スロットを分割する回数が多くなるほど、分割された光周波数スロット間のスキューなどのタイミングずれが生じることなどによって、光伝送における品質劣化が発生する確率が高くなる。そのため、光周波数スロットを分割する回数は小さいほどよい。したがって、上述した例では、物理冗長パス1の方が物理冗長パス2よりも光周波数スロットコストが大きいので不利となる。
【0079】
ここで、光周波数スロットコストと第2の実施形態において説明したSRLGコストを併用し、下記の式(3)に示すように、それぞれのコストを合計したパス毎のコストC
pathを用いることもできる。
【0080】
第2の実施形態において説明した例では、上位レイヤNMSが算出するSRLGコストは、物理冗長パス1に対応する論理冗長パス1と、物理冗長パス2に対応する論理冗長パス2とで等しくなる。ここで光周波数スロットコストを併用することにより、論理冗長パスとして論理冗長パス2「C←→B←→H←→G←→F←→A←→E」を選択することが可能になる。なお、式(3)により算出したコストが等しくなる複数の論理パスの候補が存在する場合には、さらにOSNR等の伝送特性情報を用いることにより冗長系論理パスを選定することができる。
【0081】
なお、SRLGコストおよび光周波数スロットコストの算出は、下位レイヤNMSが行うこととしてもよいし、下位レイヤNMSから物理ネットワーク情報を取得して上位レイヤNMSが行うこととしてもよい。また、上位レイヤNMSと下位レイヤNMSが分担してこれらのコストを算出することも可能である。
【0082】
以上、上述した実施形態を模範的な例として本発明を説明した。しかしながら、本発明は、上述した実施形態には限定されない。即ち、本発明は、本発明のスコープ内において、当業者が理解し得る様々な態様を適用することができる。
【符号の説明】
【0083】
1000、2000 マルチレイヤネットワークシステム
1100 第1のネットワーク管理装置
1110 取得情報記憶部
1200 第2のネットワーク管理装置
1210 ネットワーク情報記憶部
1300 光ノード装置