(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-19
(45)【発行日】2025-05-27
(54)【発明の名称】含水率計測装置及び含水率計測方法
(51)【国際特許分類】
G01N 21/3554 20140101AFI20250520BHJP
【FI】
G01N21/3554
(21)【出願番号】P 2022144927
(22)【出願日】2022-09-12
【審査請求日】2024-06-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001689
【氏名又は名称】青稜弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】尼崎 新平
(72)【発明者】
【氏名】加賀 祐介
(72)【発明者】
【氏名】菓子 未映子
(72)【発明者】
【氏名】神林 琢也
(72)【発明者】
【氏名】宮川 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】北村 光太郎
(72)【発明者】
【氏名】宇田川 万規子
【審査官】小野寺 麻美子
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-285767(JP,A)
【文献】特開2008-089486(JP,A)
【文献】国際公開第2017/014098(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 1/00 - G01W 1/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚泥を受け入れて水分を排出する脱水部と、前記脱水部から水分が低減された脱水汚泥が入り、前記脱水汚泥を外部に排出する汚泥排出部とを含む汚泥脱水機に適用され、
前記汚泥排出部を流れる前記脱水汚泥に光を照射して光学情報を計測する光学センサと、
前記
脱水汚泥と前記光学センサとの間の距離の所定の基準距離からの変化量である距離変動を求めるための距離情報を計測する距離センサと、
前記距離情報及び前記光学情報に基づいて前記
脱水汚泥の含水率を計測する計算機と、
前記計算機から出力された含水率を表示する含水率表示部と、
を含む含水率計測装置であって、
前記計算機は、
前記距離情報に基づく前記距離変動に基づいて、前記光学情報を補正し、補正した前記光学情報を、光学情報から含水率を導出する検量モデルに適用することにより前記
脱水汚泥の含水率を算出
し、
前記距離変動が所定の範囲内である場合、前記脱水汚泥の含水率を前記含水率表示部に出力することにより、前記脱水汚泥の含水率を前記含水率表示部に表示し、
前記距離変動が前記所定の範囲外である場合、前記脱水汚泥の含水率を出力しないことにより、前記脱水汚泥の含水率を前記含水率表示部に表示しない、
ように構成された、
含水率計測装置。
【請求項2】
汚泥を受け入れて水分を排出する脱水部と、前記脱水部から水分が低減された脱水汚泥が入り、前記脱水汚泥を外部に排出する汚泥排出部とを含む汚泥脱水機に適用され、
前記汚泥排出部を流れる前記脱水汚泥に光を照射して光学情報を計測する光学センサと、
前記脱水汚泥と前記光学センサとの間の距離の所定の基準距離からの変化量である距離変動を求めるための距離情報を計測する距離センサと、
前記距離情報及び前記光学情報に基づいて前記脱水汚泥の含水率を計測する計算機と、
前記計算機から出力された含水率を表示する含水率表示部と、
を含む含水率計測装置であって、
前記計算機は、
前記距離情報に基づく前記距離変動に基づいて、前記光学情報を補正し、補正した前記光学情報を、光学情報から含水率を導出する検量モデルに適用することにより前記脱水汚泥の含水率を算出し、
前記距離変動が所定の範囲内である場合、前記脱水汚泥の含水率を前記含水率表示部に出力することにより、前記脱水汚泥の含水率を前記含水率表示部に表示し、
前記距離変動が前記所定の範囲外である場合、前回出力した前記脱水汚泥の含水率を出力することにより、前回出力した前記脱水汚泥の含水率を前記含水率表示部に表示する、
ように構成された、
含水率計測装置。
【請求項3】
請求項1に記載の含水率計測装置において、
前記計算機は、前記検量モデルが格納された記憶装置を備える、
含水率計測装置。
【請求項4】
請求項1に記載の含水率計測装置において、
前記計算機は、
前記距離変動に応じた補正係数を用いて前記光学情報を補正する、
ように構成された、
含水率計測装置。
【請求項5】
請求項4に記載の含水率計測装置において、
前記計算機は、
前記距離変動に応じた補正係数が格納された記憶装置を備え、
前記計算機は、
前記距離変動に基づいて、前記距離変動に応じた前記補正係数を決定し、決定した前記補正係数を用いて前記光学情報を補正する、
ように構成された、
含水率計測装置。
【請求項6】
請求項4に記載の含水率計測装置において、
前記補正係数と前記距離変動との関係を示す情報が格納された記憶装置を備え、
前記計算機は、
前記距離センサによって計測された前記距離変動を前記補正係数と前記距離変動との関係を示す情報に適用することにより、前記距離変動に応じた前記補正係数を決定し、決定した前記補正係数を用いて前記光学情報を補正する、
ように構成された、
含水率計測装置。
【請求項7】
請求項
1に記載の含水率計測装置において、
前記所定の範囲は、-3.2mmから+3.2mmまでの範囲である、
含水率計測装置。
【請求項8】
請求項
1に記載の含水率計測装置において、
前記所定の範囲は、-1.6mmから+1.6mmまでの範囲である、
含水率計測装置。
【請求項9】
請求項
1に記載の含水率計測装置において、
前記所定の範囲は、-0.8mmから+0.8mmまでの範囲である、
含水率計測装置。
【請求項10】
請求項
1に記載の含水率計測装置において、
前記距離センサは光学式の距離センサであり、
前記光学式の距離センサから照射する光の波長領域が前記光学センサで用いる光の波長領域と異なる、
含水率計測装置。
【請求項11】
請求項1に記載の含水率計測装置において、
前記距離情報は、前記
脱水汚泥と前記光学センサとの間の距離又は前記
脱水汚泥の所定の位置からの変位である、
含水率計測装置。
【請求項12】
請求項1に記載の含水率計測装置において、
前記光学情報は、赤外スペクトルである、
含水率計測装置。
【請求項13】
汚泥を受け入れて水分を排出する脱水部と、前記脱水部から水分が低減された脱水汚泥が入り、前記脱水汚泥を外部に排出する汚泥排出部とを含む汚泥脱水機に適用され、
前記汚泥排出部を流れる前記脱水汚泥に光を照射して光学情報を計測する光学センサと、
前記
脱水汚泥と前記光学センサとの間の距離の所定の基準距離からの変動である距離変動を求めるための距離情報を計測する距離センサと、
前記距離情報及び前記光学情報に基づいて前記
脱水汚泥の含水率を計測する計算機と、
前記計算機から出力された含水率を表示する含水率表示部と、
を用いた含水率計測方法であって、
前記計算機によって、
前記距離情報に基づく前記距離変動に基づいて、前記光学情報を補正し、補正した前記光学情報を、光学情報から含水率を導出する検量モデルに適用することにより前記
脱水汚泥の含水率を算出
し、
前記距離変動が所定の範囲内である場合、前記脱水汚泥の含水率を前記含水率表示部に出力することにより、前記脱水汚泥の含水率を前記含水率表示部に表示し、
前記距離変動が前記所定の範囲外である場合、前記脱水汚泥の含水率を出力しないことにより、前記脱水汚泥の含水率を前記含水率表示部に表示しない、
含水率計測方法。
【請求項14】
汚泥を受け入れて水分を排出する脱水部と、前記脱水部から水分が低減された脱水汚泥が入り、前記脱水汚泥を外部に排出する汚泥排出部とを含む汚泥脱水機に適用され、
前記汚泥排出部を流れる前記脱水汚泥に光を照射して光学情報を計測する光学センサと、
前記脱水汚泥と前記光学センサとの間の距離の所定の基準距離からの変動である距離変動を求めるための距離情報を計測する距離センサと、
前記距離情報及び前記光学情報に基づいて前記脱水汚泥の含水率を計測する計算機と、
前記計算機から出力された含水率を表示する含水率表示部と、
を用いた含水率計測方法であって、
前記計算機によって、
前記距離情報に基づく前記距離変動に基づいて、前記光学情報を補正し、補正した前記光学情報を、光学情報から含水率を導出する検量モデルに適用することにより前記脱水汚泥の含水率を算出し、
前記距離変動が所定の範囲内である場合、前記脱水汚泥の含水率を前記含水率表示部に出力することにより、前記脱水汚泥の含水率を前記含水率表示部に表示し、
前記距離変動が前記所定の範囲外である場合、前回出力した前記脱水汚泥の含水率を出力することにより、前回出力した前記脱水汚泥の含水率を前記含水率表示部に表示する、
含水率計測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含水率計測装置及び含水率計測方法に関し、詳しくは、下水又は排水処理施設から排出される汚泥の含水率を計測する含水率計測装置及び含水率計測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、汚泥を測定対象として、赤外線水分計と、測定対象との距離を検出するセンサを配置し、距離センサの出力に基づいて赤外水分計の出力を補正して水分率を求める技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
下水処理施設などで排出される汚泥は、汚泥脱水機で水分を低減する脱水処理を行っている(以下、脱水後の汚泥を「脱水汚泥」と呼ぶ。)。焼却等の後処理のために含水率を一定に保持する必要があり、赤外線水分計などの水分計測手段で含水率を計測し、その値に応じて脱水処理設備の稼働条件を調整している。
【0005】
ところが、測定対象物である脱水汚泥と赤外線水分計との距離が変化した場合、赤外線水分計に入力される光学情報(吸光度、又は反射率)が変化するなどして、赤外線水分計で計測する含水率の計測精度が低下する、という問題があった。
【0006】
例えば、特許文献1には、脱水汚泥を測定対象物として、赤外線水分計と、測定対象物との距離を検出するセンサを配置し、距離を検出するセンサの出力に基づいて赤外水分計の出力を補正して含水率を求める技術が開示されている。特許文献1に記載の方法では、各距離において光学情報と脱水汚泥の水分量との関係をモデル化し、回帰式として予め設定する必要がある。すなわち、距離に応じて複数の回帰式を構築する必要がある。したがって、距離に応じて回帰式を選び含水率を求める点で一定の効果はあるかもしれないが、距離に応じて予め複数の回帰式を構築する必要があるため、回帰式を構築する工数が増加してしまう。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされた。即ち、本発明の目的の一つは、赤外線水分計で計測する光学情報を含水率に変換するための回帰式を構築する工数の増加を抑制しつつ、測定対象物である脱水汚泥と赤外線水分計との間の距離変動にかかわらず脱水汚泥の含水率を高精度に計測できる含水率計測装置及び含水率計測方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の含水率計測装置は、計測対象物に光を照射して光学情報を計測する光学センサと、前記計測対象物と前記光学センサとの間の距離の所定の基準距離からの変化量である距離変動を求めるための距離情報を計測する距離センサと、前記距離情報及び前記光学情報に基づいて前記計測対象物の含水率を計測する計算機と、を含む含水率計測装置であって、前記計算機は、前記距離情報に基づく前記距離変動に基づいて、前記光学情報を補正し、補正した前記光学情報を、光学情報から含水率を導出する検量モデルに適用することにより前記計測対象物の含水率を算出する、ように構成されている。
【0009】
本発明の含水率計測方法は、計測対象物に光を照射して光学情報を計測する光学センサと、前記計測対象物と前記光学センサとの間の距離の所定の基準距離からの変動である距離変動を求めるための距離情報を計測する距離センサと、前記距離情報及び前記光学情報に基づいて前記計測対象物の含水率を計測する計算機と、を用いた含水率計測方法であって、前記計算機によって、前記距離情報に基づく前記距離変動に基づいて、前記光学情報を補正し、補正した前記光学情報を、光学情報から含水率を導出する検量モデルに適用することにより前記計測対象物の含水率を算出する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、赤外線水分計で計測する光学情報を含水率に変換するための回帰式を構築する工数の増加を抑制しつつ、測定対象物である脱水汚泥と赤外線水分計との間の距離変動にかかわらず脱水汚泥の含水率を高精度に計測できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は本発明の第1実施形態に係る含水率計測装置の一例を示す構成図である。
【
図2】
図2は赤外線計測部及び距離センサの構成の一例を示す図である。
【
図3A】
図3Aは演算処理部の機能の一例を示すブロック図である。
【
図4】
図4は演算処理部の構成の一例を示すブロック図である。
【
図5】
図5は入出力装置に表示される画面の一例を示す図である。
【
図6】
図6は距離補正式格納部に記憶された補正係数の一例を示すグラフである。
【
図7A】
図7Aは距離補正演算を実行する前の赤外線情報の一例を示すグラフである。
【
図7B】
図7Bは距離補正演算を実行した後の赤外線情報の一例を示すグラフである。
【
図8】
図8は回帰演算部において赤外線情報を基に出力した含水率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の各実施形態について詳細に説明する。以下の各実施形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明を以下の内容に限定する趣旨ではない。
【0013】
<<第1実施形態>>
図1は、本発明の第1実施形態に係る含水率計測装置の一例を示す構成図である。第1実施形態に係る含水率計測装置は、下水又は排水処理施設から排出される汚泥の水分を低減する汚泥脱水機5に装着されて、汚泥脱水機5から排出される脱水汚泥の含水率をリアルタイムに計測する。なお、含水率は、脱水汚泥の中に含まれる水分の重量比を百分率で示す。含水率計測装置は、システムであってもよく、システムの一部であってもよく、装置単体であってもよい。
【0014】
汚泥脱水機5は汚泥を受け入れて水分を排出する脱水部51と、水分が低減された脱水汚泥を出力する汚泥排出部52とを含む。含水率計測装置は、汚泥排出部52に脱水汚泥の表面に光を照射して含水率を計測する赤外線計測部2と、含水率計測対象である脱水汚泥と赤外線計測部2におけるプローブとの距離を計測する距離センサ3とを配置する。
【0015】
赤外線計測部2が出力する赤外線計測信号は、赤外線信号処理装置4へ入力されて赤外線反射率情報に変換されて演算処理部1へ入力される。赤外線信号処理装置4は、例えば、分光器などで構成される。赤外線計測部2又は赤外線計測部2及び赤外線信号処理装置4は、「光学センサ」とも称呼される場合がある。
【0016】
距離センサ3の距離計測信号は演算処理部1へ入力される。なお、距離センサ3は、脱水汚泥と赤外線計測部2におけるプローブとの間の距離を計測してもよく、所定の位置(例えば、基準となる脱水汚泥の表面の位置)からの変位を測定してもよい。距離センサ3で計測された距離又は所定の位置からの変位は、「距離情報」とも称呼される。計測対象物である脱水汚泥と光学センサ(赤外線計測部2におけるプローブ)との間の距離の所定の基準距離からの変化量は、「距離変動」又は「距離変動量」と称呼される。なお、距離変動は、距離情報に基づいて求めることができる。
【0017】
演算処理部1は、入力された赤外線反射率情報と距離計測信号から距離変動の影響を抑制した含水率情報を算出して含水率表示部6に出力する。含水率表示部6は、汚泥排出部52の脱水汚泥の含水率をリアルタイムで表示する。赤外線計測部2は汚泥排出部52から排出される脱水汚泥に対向して配置され、距離センサ3は赤外線計測部2の近傍に配置される。
【0018】
なお、汚泥脱水機5としては、フィルタープレス、遠心脱水機、ベルトプレス、スクリュープレス、多重円板脱水機、電気浸透式脱水機等を採用することができる。
【0019】
図2は、赤外線計測部2及び距離センサ3の一例を示す図である。赤外線計測部2は、赤外線を脱水汚泥の表面に照射する照射光プローブ21と、脱水汚泥の表面で反射された赤外線を受光する受光プローブ22とを含む。受光プローブ22は、照射光プローブ21の光軸に対して所定の角度θだけ傾斜して配置される。なお、赤外線は、波長領域によって、近赤外線、中赤外線及び遠赤外線に区分される。照射光プローブ21は、例えば、800nmから2400nmの波長領域の近赤外光を照射する。
【0020】
照射光プローブ21の端面は、基準位置(例えば、脱水汚泥の表面)から所定の距離L1に配置され、受光プローブ22の端面は、上記基準位置から所定の距離L2に配置される。
【0021】
距離センサ3は、照射光プローブ21の光軸に対して所定の角度βだけ傾斜して配置される。なお、角度βは0°、すなわち傾斜していなくてもよい。距離センサ3により、脱水汚泥の表面と照射光プローブ21及び受光プローブ22との距離L1及びL2を計測する。距離センサ3による計測方法としては、特に限定されないが、例えば、光学式、音波式、接触式、変位式、尺式などの計測方法を用いることができる。
【0022】
図3Aは、演算処理部1の機能の一例を示すブロック図である。演算処理部1は、赤外線信号処理装置4からの赤外線反射率情報を赤外線情報(具体的には、例えば、赤外スペクトル(特定の波長領域の赤外スペクトル)を示す情報)として入力し、赤外線情報に所定の前処理を実施する前処理部72を含む。赤外スペクトルの一例は、横軸:波長、縦軸:吸光度のグラフにより表される。なお、横軸、縦軸の項目は、これに限定されない。特定の波長領域の一例は、例えば、1200nmから2200nmまでの領域である(
図7A及び
図7Bを参照。)が、これに限定されるものではない。
【0023】
さらに、前処理部72が出力した前処理済の赤外線情報と距離センサ3の距離計測信号である距離情報を入力し、予め設定された距離補正式を距離補正式格納部76から取得して、所定の前処理を実施した赤外線情報(光学情報)に対し距離補正演算を実施する距離補正演算部73を含む。加えてさらに、距離補正演算がなされた赤外線情報を入力し、予め設定された回帰式を回帰式格納部75から取得して、脱水汚泥の含水率を算出して含水率情報として出力する回帰演算部74を含む。なお、距離情報(距離計測信号)は、距離L1を示す情報であってもよく、距離L2を示す情報であってもよく、距離L1及び距離L2に基づく距離を示す情報であってもよく、所定の位置(例えば、基準となる脱水汚泥の表面の位置)からの変位を示す情報であってもよい。
【0024】
前処理部72は、例えば、入力された赤外線情報のノイズを除去するための平滑化や、脱水汚泥の赤外線吸収率のピークを検出するためにベースとなるスペクトルの強度を補正するオフセット補正など、予め設定された処理を実施して前処理済の赤外線情報を出力する。前処理部72で実施する処理は予め設定された処理であれば特に制限されず、自由に選択することができる。
【0025】
距離補正式格納部76は、赤外線情報(光学情報)に対し距離情報(距離情報に基づく距離変動)に基づいた係数(補正係数)で演算する距離補正式を格納する。距離補正式は予め設定されたものであり、距離情報に基づいて距離補正演算部73に距離補正式を出力する。
【0026】
回帰式格納部75は、赤外線情報を説明変数とし、含水率を目的変数とする回帰式(又は回帰モデル)を格納する。回帰式は予め設定されたものであり、例えば、赤外線情報を説明変数とした回帰式75-1が格納される。回帰式75-1の一例は、例えば、
図3Bの計算式(A)である。回帰式75-1は、一つであることが好ましいが、距離変動以外の要素に応じて異なる回帰式が複数格納されていてもよい。回帰式(回帰モデル)は、便宜上、「検量モデル」とも称呼される場合がある。
【0027】
図4は、演算処理部1の機能の一例を示すブロック図である。演算処理部1は、プロセッサ11と、メモリ12と、記憶装置13と、入出力装置14と、インターフェース15とを含む計算機である。
【0028】
インターフェース15には、距離センサ3と、赤外線信号処理装置4と、含水率表示部6とが接続される。入出力装置14は図示しないキーボードやマウスやディスプレイやタッチパネルで構成される。記憶装置13は、不揮発性の記憶媒体で構成されて、回帰式格納部75や距離補正式格納部76等のデータを保持する。
【0029】
メモリ12には、制御部71と、前処理部72と、距離補正演算部73と、回帰演算部74がプログラムとしてロードされてプロセッサ11によって実行される。制御部71は、入出力装置14から情報の入出力を行って演算処理を制御する。例えば、制御部71が入出力装置14から距離補正の選択結果を受け付けると距離補正演算部73に使用する距離補正式76を指令する。
【0030】
前処理部72は、上述したように入力された赤外線反射率情報に対して、予め設定された前処理、例えば平滑化を実施して前処理済の赤外線情報を出力する。距離補正演算部73は入力された距離情報に基づいて、赤外線情報に距離補正演算を実施して距離補正済の赤外線情報を出力する。回帰演算部74は指定された回帰式75―1の説明変数を用いて含水率を算出する。
【0031】
プロセッサ11は、各機能部のプログラムに従って処理することによって、所定の機能を提供する機能部として稼働する。例えば、プロセッサ11は、回帰演算プログラムに従って処理することで回帰演算部74として機能する。他のプログラムについても同様である。さらに、プロセッサ11は、各プログラムが実行する複数の処理のそれぞれの機能を提供する機能部としても稼働する。
【0032】
計算機は、これらの機能部を含む装置である。これらの機能部を含むシステムが、計算機を含むシステムによって構成されていてもよい。計算機は、複数の計算機であってもよく、クラウド上の仮想的な計算機であってもよい。
【0033】
図5は、入出力装置14に表示される画面の一例を示す図である。入出力装置14を構成するディスプレイには、測定開始ボタン81と、測定停止ボタン82と、補正パラメータ83と、含水率84と、測定結果85とが表示される。
【0034】
測定開始ボタン81は、画像で構成されたボタンであり、当該ボタンが操作(例えば、クリック)されると、含水率の算出処理が開始される。また、測定停止ボタン82は、画像で構成されたボタンである。測定停止ボタン82が操作されることで含水率の算出処理が停止される。
【0035】
補正パラメータ83は、距離補正チェックボックスを含み、距離補正がチェックされた場合に距離補正演算部73にて演算処理を実行する。
【0036】
含水率84は、回帰演算部74で算出された含水率を時系列で表示する。測定結果85は、測定日時と含水率の値とを表示する。なお、入出力装置14のディスプレイを含水率表示部6としてもよい。
【0037】
以上の構成により、演算処理部1は、赤外線計測部2で計測された赤外線反射率情報(赤外線情報)を前処理部72で所定の前処理を行った後、距離センサ3で計測された距離情報に基づき距離補正演算部73で赤外線情報を補正し、赤外線情報を説明変数とする回帰式75によって脱水汚泥の含水率を算出する。
【0038】
<距離補正演算方法>
次に、第1実施形態に係る含水率計測装置おける距離補正演算方法についてより詳細に説明する。距離補正演算部73に、前処理部72から出力された赤外線情報と距離センサ3の距離計測信号である距離情報を入力する。距離補正演算部73は、入力された距離情報を基に、距離補正式格納部76に記憶された距離補正式を読み出す。
【0039】
図6は、距離補正式格納部76に記憶された補正係数(補正係数と距離変動との関係を示す情報)の一例を示す図である。補正係数は予め設定されたものである。なお、補正係数と距離変動との関係を示す情報は、予め実験等を行うことにより求めることができる。
【0040】
距離補正式格納部76は基準からの距離変動量(すなわち変位量)に基づいて、補正係数を読み出し、式1を距離補正演算部73に出力する。
「距離補正後の赤外線情報」=「補正係数」×「距離補正前の赤外線情報」…(式1)
式1における赤外線情報とはより具体的には、例えば、各波長における吸光度(特定の波長領域の赤外吸光スペクトル)を意味し、距離補正演算部73では各波長において式1の演算を実行し、距離補正した赤外線情報(各波長における吸光度)を結果として出力する。
【0041】
このように本発明では、予め距離変動に応じた補正係数を準備するだけでよく、各距離における回帰式を構築する必要がないため、回帰式を構築する工数の増加を抑制できる。
【0042】
<効果>
次に、距離補正演算部73の効果について、赤外線情報および、含水率計測精度の観点で説明する。
【0043】
図7A及び
図7Bは、距離補正演算部73において距離補正演算を実行する前後の赤外線情報(各波長における吸光度)の一例を示すグラフである。
図7Aは距離補正演算を実行する前の赤外線情報、
図7Bは距離補正演算を実行した後の赤外線情報である。
図7Aでは、距離変動がない(0mm)場合と比較し、距離変動がある場合に吸光度の値が変動した。具体的に述べると、距離変動が、基準に対して負の方向に変動するほど(距離が基準距離に比べて短くなるほど(脱水汚泥が光学センサに近くなるほど)、吸光度が大きくなる方向に誤差が生じる。距離変動が、基準に対して正の方向に変動するほど(距離が基準距離に比べて長くなるほど(脱水汚泥が光学センサに遠くなるほど))、吸光度が小さくなる方向に誤差が生じる。
【0044】
図7Bでは、距離変動がない(0mm)場合と比較しても、距離変動がある場合の吸光度の値の変動が抑制された。本結果から、距離補正演算部73において距離補正演算を実行することで、距離変動の影響を抑制できることを確認した。
【0045】
図8は、回帰演算部74において赤外線情報を基に出力した含水率を示すグラフである。
図8の黒プロットは、第1実施形態に係る含水率測定装置の距離補正演算部73において距離補正演算を実行した実施例の含水率を示すグラフである。
図8の白抜きプロットは、本実施例に対する比較例であり、距離補正演算を実行しない場合の含水率を示すグラフである。
図8の横軸は基準距離での距離変動を0mmとしたときの距離変動(変位量)を意味し、
図8の縦軸は基準距離(距離変動:0mm)において計測した含水率との差(含水率の測定誤差)を意味する。
【0046】
比較例である距離補正なしと比べ、本実施例である距離補正ありでは、含水率の測定誤差が小さいことが確認できた。すなわち、距離変動がある場合においても、含水率の計測精度を向上できる効果を確認した。
【0047】
したがって、本発明によれば、各距離における回帰式を構築する必要がないため、回帰式を構築する工数の増加を抑制しつつ、距離変動がある場合においても含水率を精度よく計測できる。
【0048】
また
図8に黒プロットで示す通り、第1実施形態では、含水率測定精度に対する距離変動の影響を抑制する効果があるが、距離変動が大きい場合は距離変動の影響を抑制する効果が低下する場合があった。このような場合でも、距離変動が大きい場合は含水率の測定結果を表示せず、距離変動が所定の範囲にある場合のみ含水率の測定結果を出力するとこで、測定精度の高い含水率のみ表示することができる。
図8によると、所定の距離変動の範囲としては、-3.2mmから+3.2mmが好ましく、-1.6mmから+1.6mmがより好ましく、-0.8mmから+0.8mmがより更に好ましく、-0.4mmから+0.4mmがより更に好ましい。
【0049】
即ち、本発明の第1実施形態に係る含水率計測装置は、距離センサ3によって計測された距離変動が予め設定した所定の範囲である場合に汚泥の含水率を出力するようにしてもよい。この場合において、測定精度の観点から、所定の距離変動の範囲としては、-3.2mmから+3.2mmまでの範囲が好ましく、-1.6mmから+1.6mmまでの範囲がより好ましく、-0.8mmから+0.8mmまでの範囲がより更に好ましく、-0.4mmから+0.4mmまでの範囲がより更に好ましい。
【0050】
距離変動が予め設定した所定の範囲外である場合、含水率の測定結果が出力されないようにしてもよい。距離変動が予め設定した所定の範囲外である場合、前回測定した含水率が出力されるようにしてもよい。
【0051】
なお、第1実施形態では赤外線計測部2が赤外線を照射して脱水汚泥の含水率を測定する例を示したが、赤外線以外の波長(例えば、中赤外線など)の光で含水率を測定してもよく、脱水汚泥に照射した光学情報に基づいて脱水汚泥の含水率を測定すればよい。
【0052】
本発明の第1実施形態に係る含水率計測装置によれば、距離センサ3で計測した距離情報を基に光学センサで計測した光学情報を補正することで、予め複数の回帰式を構築する必要がなくなる。したがって、光学センサで計測する光学情報を含水率に変換するための回帰式を構築する工数の増加を抑制しつつ、測定対象である脱水汚泥と光学センサとの距離の変化にかかわらず脱水汚泥の含水率を高精度に計測することができる。
【0053】
<<第2実施形態>>
本発明の第2実施形態に係る含水率計測装置を説明する。第2実施形態に係る含水率計測装置は、以下の点のみにおいて、第1実施形態に係る含水率計測装置と相違点を有する。
・第2実施形態に係る含水率計測装置では、距離センサ3は光学式の距離センサであり、距離センサ3から照射する光の波長領域が光学センサで用いる光の波長領域と異なる。
【0054】
以下、この相違点を中心として説明する。
【0055】
上述したように、
図2は、赤外線計測部2及び距離センサ3の一例を示す図であり、その詳細は第1実施形態で説明した。第2実施形態では、照射光プローブ21から近赤外波長の光を照射し、距離センサ3は光学式の距離センサとする例について説明する。
【0056】
光学式の距離センサは、光を測定対象である脱水汚泥に照射し、その反射光を計測することで距離(または変位)を計測することができる。光学式の距離センサで照射、受光する波長領域が、赤外線計測部2の照射光プローブ21から照射する波長領域と重複する場合、光学式の距離センサから測定対象に照射し測定対象から反射した光が、赤外線計測部2の受光プローブ22に入射し、含水率を計測する精度が低下する場合があることがわかった。一方、距離センサ3に用いる波長領域が、赤外線計測部2(光学センサ)に用いる波長領域と異なる場合には、精度を低下させることなく、含水率を計測することができた。
【0057】
第2実施形態における赤外線計測部2では、照射光プローブ21から800nmから2400nmの波長領域の近赤外光を照射し、受光プローブ22で受光した光のうち1200nmから2200nmの波長領域を含水率の測定に用いた。したがって、距離センサ3に用いる波長領域としては赤外線計測部2で用いる波長領域と異なることが好ましく、距離センサ3に用いる波長領域は800nmから2400nmの波長を含まないことがより好ましく、1200nmから2200nmの波長を含まないことがより更に好ましい。
【0058】
なお、上記第2実施形態では赤外線計測部2が近赤外線を照射して脱水汚泥の含水率を測定し、距離センサ3に光学式の距離センサを用いる例を示したが、赤外線計測部2では近赤外線以外の波長の光(例えば、中赤外線など)で含水率を測定してもよく、その場合の光学式の距離センサで用いる波長領域は、赤外線計測部2で用いる波長領域と異なればよい。
【0059】
<<変形例>>
なお、本発明は上記した各実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した各実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に記載したものであり、必ずしも説明した全ての構成を含むものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加、削除、又は置換の何れもが、単独で、又は組み合わせても適用可能である。
【0060】
例えば、上記各実施形態において、計測対象物は汚泥以外であってもよい。上記各実施形態において、赤外線情報を補正する手法は上記例に限定されず、赤外線情報を補正する式は、上記例に限定されるものではない。
【0061】
また、上記の各構成、機能、処理部、及び処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。また、上記の各構成、及び機能等は、プロセッサがそれぞれの機能を実現するプログラムを解釈し、実行することによりソフトウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又は、ICカード、SDカード、DVD等の記録媒体に置くことができる。
【0062】
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてもよい。
【符号の説明】
【0063】
1…演算処理部、2…赤外線計測部、3…距離センサ、4…赤外線信号処理装置、5…汚泥脱水機、6…含水率表示部、11…プロセッサ、12…メモリ、13…記憶装置、14…入出力装置、15…インターフェース、21…照射光プローブ、22…受光プローブ、51…脱水部、52…汚泥排出部、71…制御部、72…前処理部、73…距離補正演算部、74…回帰演算部、75…回帰式格納部、76…距離補正式格納部、81…測定開始ボタン、82…測定停止ボタン、83…補正パラメータ、84…含水率、85…測定結果