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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-19
(45)【発行日】2025-05-27
(54)【発明の名称】ウルソール酸カリウム塩の固体分散体
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/19 20060101AFI20250520BHJP
   A61K 9/14 20060101ALI20250520BHJP
   A61K 9/20 20060101ALI20250520BHJP
   A61K 47/02 20060101ALI20250520BHJP
   A61K 47/12 20060101ALI20250520BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20250520BHJP
   A61K 47/26 20060101ALI20250520BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20250520BHJP
   A61K 47/38 20060101ALI20250520BHJP
   A61K 47/44 20170101ALI20250520BHJP
   A61P 1/16 20060101ALI20250520BHJP
   A61P 3/10 20060101ALI20250520BHJP
   A61P 9/00 20060101ALI20250520BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20250520BHJP
   A61P 21/00 20060101ALI20250520BHJP
   A61P 21/04 20060101ALI20250520BHJP
   A61P 25/02 20060101ALI20250520BHJP
   A61P 25/16 20060101ALI20250520BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20250520BHJP
   A23L 33/10 20160101ALN20250520BHJP
【FI】
A61K31/19
A61K9/14
A61K9/20
A61K47/02
A61K47/12
A61K47/24
A61K47/26
A61K47/36
A61K47/38
A61K47/44
A61P1/16
A61P3/10
A61P9/00
A61P13/12
A61P21/00
A61P21/04
A61P25/02
A61P25/16
A61P25/28
A23L33/10
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022525758
(86)(22)【出願日】2020-10-30
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-05
(86)【国際出願番号】 EP2020080548
(87)【国際公開番号】W WO2021089433
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2023-10-25
(31)【優先権主張番号】102019000020492
(32)【優先日】2019-11-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】397068654
【氏名又は名称】インデナ・ソチエタ・ペル・アチオニ
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】弁理士法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】アッレグリーニ,ピエトロ
(72)【発明者】
【氏名】チチェリ,ダニエレ
(72)【発明者】
【氏名】メナ,ロレンソ
【審査官】長部 喜幸
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第102871950(CN,A)
【文献】XIAO JU ZHOU ET AL,Preparation and Body Distribution of Freeze-Dried Powderof Ursolic Acid Phospholipid Nanoparticles,DRUG DEVELOPMENT AND INDUSTRIAL PHARMACY,vol.35, no. 3,pages 305-310
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K9/00-33/44
A61K47/00-47/69
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カリウムとのウルソール酸の塩及びリン脂質を含む固体分散体であって、ウルソール酸塩:リン脂質の重量比が0.5:1~2:1の範囲である、固体分散体。
【請求項2】
以下:
-セルロース、セルロースエーテル、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、マンニトール、マルトデキストリン、イソマルト及びこれらの組合せ;
-シリカ、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム及びこれらの組合せ;
-ショ糖エステル、ポリソルベート、ポリオキシエチレン化ヒマシ油誘導体、D-α-トコフェリル-ポリエチレングリコールコハク酸塩及びこれらの組合せ
から選択される1種以上の賦形剤を更に含む、請求項1記載の固体分散体。
【請求項3】
1種以上の賦形剤とウルソール酸の塩との重量比が、0.5:1~2:1の範囲である、請求項2記載の固体分散体。
【請求項4】
以下:
カリウムとのウルソール酸の塩;
リン脂質;
セルロース又はセルロースエーテル又はこれらの組合せ;及び
シリカ
から本質的になる、請求項2又は3記載の固体分散体。
【請求項5】
カリウムとのウルソール酸の塩;リン脂質;セルロース又はセルロースエーテル又はこれらの組合せ;及びシリカからなる、請求項4記載の固体分散体。
【請求項6】
カリウムとのウルソール酸の塩、リン脂質、セルロース及びシリカを含む、請求項2~5のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項7】
リン脂質が、ダイズ、ヒマワリ、卵又は任意の他の植物源若しくは動物源から得られ、そしてホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン及びこれらの混合物を含む(ここで、アシル基は、同一であっても異なっていてもよく、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸又はリノレン酸から誘導され得る)、1種以上のレシチンから選択される物質である、請求項1~6のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項8】
リン脂質が、ダイズレシチン又はヒマワリレシチンである、請求項7記載の固体分散体。
【請求項9】
10μm~300μmの範囲の粒径を有する、請求項1~8のいずれか一項記載の固体分散体。
【請求項10】
請求項1記載の固体分散体の調製方法であって、以下の工程:
a-1)アルコールにウルソール酸塩及びリン脂質を懸濁して、懸濁液を提供すること;
b-1)工程a-1)で得られた懸濁液を、5分~5時間、好ましくは1~3時間の間、加熱還流すること;
c-1)溶媒を除去して固体分散体を提供すること
を含む、方法。
【請求項11】
請求項2~8のいずれか一項記載の固体分散体の調製方法であって、以下の工程:
a-2)アルコールに、上記比のウルソール酸塩及びリン脂質並びに賦形剤を懸濁して、懸濁液を提供すること;
b-2)工程a-2)で得られた懸濁液を、5分~5時間、好ましくは1~3時間の間、加熱還流すること;
c-2)アルコールを除去して固体を得、場合により更なる賦形剤を添加し、粉砕して、固体分散体を提供すること
を含む、方法。
【請求項12】
医薬又は栄養補助食品等級の更なる成分と混合した、請求項1~9のいずれか一項記載の固体分散体を含む、経口投与製剤。
【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
式(1):
【0002】
【化1】

を有する、ウルソール酸(3β-ヒドロキシ-ウルサ-12-エン-28-酸)は、天然に存在する五環式トリテルペン酸であり、多くの植物に広く存在し、また日常生活で使用される多くの果物及びハーブ、例えば、ほんの数例を挙げると、リンゴ、ビルベリー、クランベリー、バジル、ローズマリー、オレガノ及びタイムにも存在する。果物の皮、特にリンゴの皮も、大量のウルソール酸を含有し得る。ウルソール酸は、肝保護、抗酸化、抗炎症、抗ウイルス及び細胞毒性活性などの多くの生物学的効果に恵まれており、かつその毒性の低さに起因して、栄養補助食品市場の有望な候補である。ただし、ウルソール酸は水性媒体に難溶性であるため、経口投与ではほとんど生物学的に利用可能でなく;更に、ウルソール酸は膜透過性が低い。このような理由から、ウルソール酸は、バイオ医薬品分類システム(BCS)によりクラスIV分子として分類される。Amidon ら(Pharm Res. 1995 Mar;12(3):413-20)により開発されたBCSは、胃腸液への薬物の溶解及び胃腸膜の透過性が、薬物吸収の速度及び程度を制御する基本的なパラメーターであるという知見に基づく。BCSによると、分子は、その溶解性及び透過性の特性に応じて、次の4つのカテゴリーに分類できる:高溶解性-高透過性(クラスI);低溶解性-高透過性(クラスII);高溶解性-低透過性(クラスIII);及び低溶解性-低透過性(クラスIV)。4つの異なるクラスに属する活性成分のバイオアベイラビリティを改善するために、多くの製剤化戦略が開発されてきた。理論的には、クラスIV分子のバイオアベイラビリティを改善するための理想的なアプローチは、必要な物理化学的特性を得るためにその構造を修飾することであろう。しかし、より生物学的に利用可能なウルソール酸誘導体を発見することは、困難で、時間と費用がかかるだけでなく、そのような誘導体を栄養補助食品の分野で使用することはできないだろう。
【0003】
バイオアベイラビリティを改善するための高分子ナノ粒子システムの使用は、達成できても、医薬品だけに適し、栄養補助食品市場向けの製品には適さないだろう(Current medicinal chemistry 2017, 24, 1-10)。
【0004】
この不利な点はまた、Zhouら(Drug Development and Industrial Pharmacy 2009 35 3 305)によって報告されたウルソール酸のナノ粒子などの、公知技術に存在する他の製剤化のアプローチにも付随する;ウルソール酸、大豆リン脂質及びポロキサマー188を含有し、注射により投与可能な前記調製物は、経口投与可能な製剤が好ましい、栄養補助食品分野での使用は困難である。
【0005】
Wu W.ら(Journal of Solution Chemistry 27(6):521-531, 1998)によれば、熱力学的溶解度は結晶サイズにも依存するため、ナノ結晶の使用により、粗ウルソール酸と比較して2.56倍の溶解度の増大が可能になった(J. Pi, et al. Current drug delivery (2016), 13(8), 1358-1366)。ただし、ナノ結晶は流動性が低いため、製剤化が困難である。
【0006】
それに対して、中国特許出願第101095684号に開示されている、ウルソール酸とレシチンのリン脂質複合体は、カプセル、錠剤などの経口剤型に製剤化することができる;ただし、レシチンとの複合体形成はバイオアベイラビリティの向上につながるが、酸対リン脂質の比は1:4以上である。この比は、複合体中の活性物質の量が少ないことを意味し、高用量の医薬品又は栄養補助食品製剤を調製するか、又は反復投与する必要が生じる。
【0007】
したがって、ウルソール酸の溶解度を高めるための単純で産業的に持続可能な方法の必要性が依然として感じられる。
【0008】
[発明の説明]
本出願人は、今般、アルカリ金属、例えば、カリウムとのウルソール酸の塩がリン脂質に分散して固体分散体を形成することができること、及びそのような分散体[固体分散体SD]が遊離ウルソール酸塩、遊離ウルソール酸と比較して、またリン脂質とのウルソール酸の固体分散体(ただしアルカリ金属を欠いている)と比較して、胃液にはるかに溶解しやすいことを発見した。理論上、アルカリ金属とのウルソール酸塩のような親水性又は両親媒性分子の溶解度は、リン脂質マトリックスに分散されても恩恵が得られないため、これは非常に驚くべきことである。
【0009】
したがって、1つの態様において、本発明は、固体分散体[固体分散体SD]であって、
a)アルカリ金属、例えば、ナトリウム及びカリウム、更に好ましくはカリウムとのウルソール酸の塩、並びに
b)リン脂質
を含む固体分散体に関する。
【0010】
好ましい態様によれば、固体分散体SDは、レオロジー特性を改変するのに適した1種以上の医薬又は栄養補助食品賦形剤[賦形剤(E)]を含み、このため経口の医薬又は栄養補助食品製剤[製剤(F)]の製造が可能になる。
【0011】
賦形剤(E)の例は、以下:
-セルロース、好ましくは、微結晶性セルロース、セルロースエーテル、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、マンニトール、マルトデキストリン、イソマルト及びこれらの組合せなどの、可溶性及び不溶性希釈剤;
-シリカ、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム及びこれらの組合せなどの、滑沢剤及び/又は流動促進剤;
-ショ糖エステル、ポリソルベート、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、D-α-トコフェリル-ポリエチレングリコールコハク酸塩(ビタミンE TPGS)及びこれらの組合せなどの、界面活性剤
を包含するが、これらに限定されない。
【0012】
上記の及び更なる賦形剤は、例えば、Remington: “The Science and Practice of Pharmacy”, 22nd edition, Pharmaceutical Press, 2013に開示されている(その開示は、引用例としてその全体が本明細書に取り込まれる)。
【0013】
例示的な実施態様において、固体分散体SDは、以下から本質的になる:
a)アルカリ金属、好ましくはナトリウム及びカリウム、更に好ましくはカリウムとのウルソール酸の塩;
b)リン脂質;
c)セルロース又はセルロースエーテル又はこれらの組合せ;及び
d)シリカ。
【0014】
記載された成分から「本質的になる」本明細書の実施態様において、そのような固体分散体SDは、記載された成分、並びに請求項に係る固体分散体SDの基本的及び新規の特徴に実質的に影響を及ぼさない成分を含有する。請求項に係る固体分散体の基本的及び新規の特徴に実質的に影響を及ぼさない成分は、遊離ウルソール酸塩、遊離ウルソール酸と比較して、またリン脂質とのウルソール酸の固体分散体(ただしアルカリ金属を欠いている)と比較して、胃液への固体分散体SDの溶解度を損なわない成分である。請求項に係る固体分散体SDの基本的及び新規の特徴に実質的に影響を及ぼさず、よって記載された成分から本質的になる固体分散体SDに含まれ得る成分の例は、セルロース、好ましくは微結晶性セルロース、セルロースエーテル、リン酸カルシウム、炭酸カルシウム、マンニトール、マルトデキストリン、イソマルト及びこれらの組合せなどの、可溶性及び不溶性希釈剤;シリカ、タルク、ステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム及びこれらの組合せなどの、滑沢剤及び/又は流動促進剤;ショ糖エステル、ポリソルベート、ポリオキシエチレンヒマシ油誘導体、D-α-トコフェリル-ポリエチレングリコールコハク酸塩(ビタミンE TPGS)及びこれらの組合せなどの、界面活性剤などの種々の賦形剤を包含する。
【0015】
好ましい実施態様において、固体分散体SDは、以下からなる:
e)アルカリ金属、好ましくはナトリウム及びカリウム、更に好ましくはカリウムとのウルソール酸の塩;
f)リン脂質;
g)セルロース又はセルロースエーテル又はこれらの組合せ;
h)シリカ。
【0016】
更になお好ましくは、分散体SDは、ウルソール酸カリウム塩、リン脂質、セルロース及びシリカからなる。
【0017】
本説明において、「ウルソール酸塩」という表現は、アルカリ金属とのウルソール酸の塩を意味することが意図され、そして上に特定される好ましい塩及び更に好ましい塩を含むことが意図される。
【0018】
一般に、用語が本明細書においてその最も広い範囲で使用される場合、特に断りのない限り、各々のより狭い範囲(好ましい定義)が含まれる。
【0019】
「リン脂質」という用語は、ダイズ、ヒマワリ、卵又は任意の他の植物源若しくは動物源から得られ、そしてホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルエタノールアミン及びこれらの混合物を含む(ここで、アシル基は、同一であっても異なっていてもよく、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸又はリノレン酸から誘導することができる)、1種以上のレシチンから選択される物質を指す。好ましい実施態様によれば、リン脂質はダイズレシチンである。別の好ましい態様によれば、リン脂質はヒマワリレシチンである。
【0020】
本明細書に使用されるとき「固体分散体SD」又は「SD」又は「固体分散体」という用語は、その製剤が、溶媒法によって調製された固体状態の不活性担体(リン脂質)中に、アルカリ金属とのウルソール酸の塩を含有することを示す。SDは、微結晶性セルロース又はセルロースエーテル又はこれらの組合せの表面上に堆積される。
【0021】
本明細書に記載の固体分散体は、適切には固体状態が懸濁又は分散された任意の水相を含有せず、そして具体的にはリポソーム、水中油型エマルション及び他の水性分散液を除外する。
【0022】
固体分散体SDは、適切には重量比が0.2:1~3:1(0.3:1~3:1、0.4:1~2:1、好ましくは0.5:1~2:1、又は0.5:1~1:1、又は1:1を含む)であるウルソール酸塩及びリン脂質を含む。固体成分の相互量を示す比は、特に断りのない限り、重量比として表される。範囲が示されている場合、範囲の端が含まれる。例示的な実施態様において、固体分散体SD中のウルソール酸塩の量は、重量パーセントで16%~75% w/w(22%~75%、28%~66%、好ましくは33%~66%、又は33%~50%、又は50%を含む)である。
【0023】
固体分散体SDは、以下を含むプロセス[プロセス(P1)]により調製することができる:
a-1)アルコール、好ましくはC-C脂肪族アルコール、更に好ましくはエタノール中で、ウルソール酸塩とリン脂質とを混合して、懸濁液を提供すること;
b-1)工程a-1)で得られた懸濁液を、5分~5時間、好ましくは1~3時間の間、加熱還流すること;
c-1)溶媒を除去して固体分散体SDを提供すること。
【0024】
工程a-1)において、ウルソール酸塩及びリン脂質は、0.2:1~3:1、好ましくは0.5:1~2:1の重量比で混合される。アルコールは、ウルソール酸塩の量に対して10~20容量の量で使用される。選択されたウルソール酸塩は、場合により、選択されたアルコールにウルソール酸を懸濁し、金属水酸化物を添加することにより、その場で調製することができる。特に、ウルソール酸カリウム塩は、エタノールにウルソール酸を懸濁した後、水酸化カリウムを添加することにより調製される。
【0025】
工程b-1)において、加熱は、選択されたアルコールの還流温度で行われる。
【0026】
工程c-1)において、アルコールの大部分は通常、減圧下での蒸発によって除去されて、固体残渣が得られるが、これは残留アルコールを含むSDであり、次に残渣を真空下で30℃~70℃の温度で、好ましくは60℃で加熱することによって、アルコールの完全な除去が行われる。完全な除去とは、GC(ガスクロマトグラフィー)分析で検出されるアルコールの量がICHの限度(即ち、エタノールでは5000ppm)よりも少ないことを意味する。
【0027】
次に、得られた粉末(乾燥SD)を粉砕して、典型的には10μm~300μmの範囲の所望の粒径を得る。
【0028】
1種以上の賦形剤(E)を更に含む固体分散体SDは、選択された賦形剤を工程c-1)の終わりに得られた分散体に乾式混合し、次いで所望の粒径に粉砕することによるか、あるいはプロセス[プロセス(P2)]であって、上記の工程a-1)の間に1種以上の賦形剤(E)を添加し、そして場合により工程c-1)の終わりにも添加することを含むプロセスによるかのいずれかによって調製することができる。
【0029】
したがって、プロセス(P2)は次の工程を含む:
a-2)アルコール、好ましくはC-C脂肪族アルコール、更に好ましくはエタノール中でウルソール酸塩、リン脂質及び賦形剤(E)を混合して、懸濁液を提供すること;
b-2)工程a-2)で得られた懸濁液を、5分~5時間、好ましくは1~3時間の間、加熱還流すること;
c-2)溶媒を除去して固体を得、場合により更なる賦形剤(E)を添加し、粉砕して、固体分散体SDを提供すること。
【0030】
工程a-2)において、ウルソール酸塩及びリン脂質は、0.2:1~3:1、好ましくは0.5:1~2:1の重量比で混合される。溶媒は、ウルソール酸の量に対して10~30容量の量で使用される。プロセス(P1)と同様に、プロセス(P2)においても、選択されたウルソール酸塩は、場合により、選択されたアルコールにウルソール酸を懸濁し、金属水酸化物を添加することにより、その場で調製することができる。特に、ウルソール酸カリウム塩は、エタノールにウルソール酸を懸濁した後、水酸化カリウムを添加することにより調製される。
【0031】
工程a-2)において、賦形剤(E)は、ウルソール酸塩に対して0.1:1~1:2、好ましくは0.5:1の重量比で使用される。
【0032】
工程b-2)において、加熱は、選択されたアルコールの還流温度で行われる。
【0033】
工程c-2)において、アルコールの大部分は通常、減圧下での蒸発によって除去されて、固体残渣が得られ、これを真空下で30℃~70℃の温度での、好ましくは60℃での加熱に供することによって、残留アルコールを完全に除去する。次に得られた固体残渣を更なる賦形剤(E)と混合して、典型的には10μm~300μmの範囲にある、所望の粒径を有する固体分散体SDを提供することができる。工程c-2)の後に添加される任意の賦形剤(E)は、完全な溶媒除去後に得られる固体残渣に対して0.01:1~0.1:1の量で使用される。よって、ウルソール酸塩に対する賦形剤(E)の全体的な重量比は、0.5:1~2:1の範囲であり得る。
【0034】
ウルソール酸のアルカリ金属塩、リン脂質、微結晶性セルロース及びシリカからなる好ましい固体分散体SDを調製するためのプロセス(P2)において、微結晶性セルロースは工程a-2)で添加されるが、シリカは粉砕前の工程c-2)の最後に添加される。
【0035】
上で予想されたとおり、本出願人によって実施された実験は、本発明の固体分散体SDが、遊離ウルソール酸塩、遊離ウルソール酸に対して、またリン脂質を含むが、アルカリ金属を欠いているウルソール酸の固体分散体と比較して、人工胃液にはるかに溶解しやすいことを証明した。実際、胃腸条件のシミュレーションは、製品の生体内挙動を適切に予測するために、及び摂食状態と絶食状態の両方で適切な性能を持つ医薬品を特定するのに必要なヒトでの試験の規模と数を減らすために不可欠である(Klein, S.; AAPS Journal 2010, 12, 3, 397-406)。本出願人は、3つの異なるpH値(pH 1.6、6.5及び5.0)の3つの異なる人工胃液を使用して、胃の絶食状態、腸の絶食状態及び腸の摂食状態をシミュレーションして、以下を観察した:
-pH 1.6での固体分散体SDの溶解度は、0.5~0.3mg/mlであり、対応するリン脂質中のウルソール酸の固体分散体の溶解度よりも約6~13倍高かった;
-pH 6.5での固体分散体SDの溶解度は、1.1~1.2mg/mlであり、対応するリン脂質中のウルソール酸の固体分散体の溶解度よりも約2.5~2.8倍高かった;
-pH 5.0での固体分散体SDの溶解度は、0.8~1.1mg/mlであり、対応するリン脂質中のウルソール酸の固体分散体の溶解度よりも2~2.5倍高かった。
【0036】
人工胃腸液への高い溶解度から鑑みて、固体分散体SDは、経口投与製剤[製剤(F)]を調製するために有利に使用することができる。よって、固体分散体SD及び医薬品又は栄養補助食品等級の更なる成分を含む製剤(F)は、本発明の更なる態様である。製剤(F)の例は、チュアブル錠、カプセル剤、ゼラチン軟カプセル剤、ゼラチン硬カプセル剤、トローチ剤、チュアブルトローチ剤、ヘルスバー(health bars)、菓子、動物飼料、シリアル、シリアルコーティング、及びこれらの組合せを包含するが、これらに限定されない。製剤(F)は、当技術分野で公知の方法及び成分を用いて調製することができ、そしてそれらは、当業者が特定のニーズに応じてケースバイケースで選択することができよう。そのような成分の非限定的な例は、崩壊剤、滑沢剤、結合剤、コーティング剤、着色剤、吸収促進剤、可溶化剤、安定剤、香味甘味料、防腐剤、保存料、抗酸化剤などを包含するが、これらに限定されない。
【0037】
本発明の固体分散体SD及び製剤(F)は、アルツハイマー病、パーキンソン病、運動ニューロン疾患、急性腎障害、腎疾患、非アルコール性脂肪肝疾患、2型糖尿病、心血管疾患、筋ジストロフィー、神経筋障害、サルコペニア及び筋萎縮障害の予防及び/又は治療に使用することができる。
【0038】
本発明は、以下の実験の項において非限定的な様式で更に詳細に開示される。
【0039】
実験の項
材料
ウルソール酸はSigma Aldrichから市販されている。
微結晶性セルロース(Avicel(登録商標))はDuPontから入手できる。
シリカ(Syloid(登録商標))はGraceから入手できる。
人工胃液FaSSGF pH1.6、FaSSIF pH6.5及びFaSSIF pH5.5は、BioRelevantから市販されている。
ウルソール酸カリウムは、標準的な手順によってウルソール酸から調製された。
方法
固体分散体の分析及び人工胃腸液への溶解度の測定は、以下に報告する機器及び条件を用いたHPLCによって実施された。
カラム
固定相:Symmetry C18。
サイズ:l=250mm;I.D.=4.6mm、粒径5μm。
製造業者:Waters ; P/N: WAT054275。
移動相
溶媒A:水中のギ酸0.01%(V/V)
溶媒B:アセトニトリル中のギ酸0.01%(V/V)
溶媒C:メタノール
線形勾配
【0040】
【表1】
【0041】
分析条件
流量:1.0ml/分
検出:205nm
注入容量:10μl
カラム温度:15℃
オートサンプラー温度:20℃
ランタイム:32分
【0042】
調製実施例
【実施例1】
【0043】
(本発明例)-リン脂質中のウルソール酸カリウム塩の固体分散体(ウルソール酸カリウム塩のその場での調製)
ウルソール酸(2.5g、純度90%、4.92mmol)をエタノール(30ml)に懸濁し、得られた懸濁液に最初にエタノール中の4% w/w水酸化カリウム溶液(1.16当量)を加え、次にヒマワリレシチン(5g)を加え、15分間加熱還流した。溶媒を減圧下で蒸発乾固して固体残渣を得、これを真空下で60℃で乾燥させ、次いで粉砕した。乾燥固体7.5gが得られた。
【実施例2】
【0044】
(本発明例)-リン脂質、微結晶性セルロース及びシリカ中のウルソール酸カリウム塩の固体分散体(ウルソール酸カリウム塩のその場での調製)
ウルソール酸(2.5g、純度90%、4.92mmol)をエタノール(30ml)に懸濁し、得られた懸濁液に最初にエタノール中の4% w/w水酸化カリウム溶液(1.16当量)を加え、次にヒマワリレシチン(3.75g)及び微結晶性セルロース(1.25g)を加えた。懸濁液を15分間加熱還流し、次に溶媒を減圧下で蒸発乾固して固体残渣を得、これを真空下で60℃で乾燥させ、次いでシリカ(75mg)の存在下で粉砕した。収量:標題生成物7.5g。
【実施例3】
【0045】
(本発明例)-リン脂質、微結晶性セルロース及びシリカ中のウルソール酸カリウム塩の固体分散体
ウルソール酸カリウム塩(6.5g、含有率77%)、ヒマワリレシチン(7.5g)及び微結晶性セルロース(2.5g)をエタノールに懸濁して、15分間加熱還流した。溶媒を減圧下で蒸発乾固して固体残渣を得、これを真空下で60℃で乾燥させ、次にシリカ(0.16g)の存在下で粉砕した。標題生成物15gを得た。
【実施例4】
【0046】
(比較例)-リン脂質とのウルソール酸の固体分散体(アルカリ金属を欠いている)
ウルソール酸(0.5g、含有率94%)及びヒマワリレシチン(1.0g)をエタノールに懸濁して、60分間加熱還流した。溶媒を減圧下で蒸発乾固して固体残渣を得、これを真空下で60℃で乾燥させ、次に粉砕した。標題生成物1.5gを得た。
【0047】
溶解試験
試験1-リン脂質とのウルソール酸カリウム塩の固体分散体の溶解
実施例1のリン脂質とのウルソール酸カリウム塩の固体分散体(300mg)を、選択した人工胃腸液(20mL)に懸濁して、25℃で2時間撹拌した。撹拌を停止し、溶解していない固体からデカントした。上清を親水性0.2μm PTFAフィルターで濾過し、ウルソール酸の含量を分析した。
【0048】
試験5-微結晶性セルロース及びシリカと配合されたウルソール酸カリウム塩の固体分散体の溶解
実施例1の分散体の代わりに実施例3の微結晶性セルロース及びシリカと配合されたリン脂質とのウルソール酸カリウム塩の固体分散体300mgを用いて、試験1と同じ手順に従った。
【0049】
試験2(比較例)-ウルソール酸の溶解
実施例1の分散体の代わりにウルソール酸100mgを用いて、試験1と同じ手順に従った。
【0050】
試験3(比較例)-ウルソール酸カリウム塩の溶解
実施例1の分散体の代わりにウルソール酸カリウム塩100mgを用いて、試験1と同じ手順に従った。
【0051】
試験4(比較例)-リン脂質とのウルソール酸の固体分散体の溶解
実施例1の分散体の代わりにリン脂質とのウルソール酸の固体分散体300mgを用いて、試験1と同じ手順に従った。
【0052】
試験結果は、以下の表1に報告される。示されているとおり、アルカリ金属とのウルソール酸の塩及びリン脂質を使用して調製された固体分散体SDは、アルカリ金属単独、更にはアルカリ金属を欠いた固体分散体SDと比較して、ウルソール酸の最高の溶解を提供した。
【0053】
【表2】