(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-19
(45)【発行日】2025-05-27
(54)【発明の名称】残量推定装置および残量推定方法
(51)【国際特許分類】
B23H 7/02 20060101AFI20250520BHJP
【FI】
B23H7/02 R
(21)【出願番号】P 2023536285
(86)(22)【出願日】2021-07-21
(86)【国際出願番号】 JP2021027283
(87)【国際公開番号】W WO2023002594
(87)【国際公開日】2023-01-26
【審査請求日】2024-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003683
【氏名又は名称】弁理士法人桐朋
(72)【発明者】
【氏名】増田 政史
(72)【発明者】
【氏名】川原 章義
(72)【発明者】
【氏名】中島 廉夫
【審査官】黒石 孝志
(56)【参考文献】
【文献】実用新案登録第2510109(JP,Y2)
【文献】特許第2736544(JP,B2)
【文献】特開2003-25155(JP,A)
【文献】特開2010-179377(JP,A)
【文献】特開平2-279219(JP,A)
【文献】特開2019-130629(JP,A)
【文献】国際公開第2018/092181(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23H 1/00 - 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤボビン(18)と、
前記ワイヤボビンに巻き付けられたワイヤ電極(16)を送出する送出ローラ(20)と、
前記ワイヤボビンの第1回転位置(60)を検出する第1回転位置検出センサ(26)と、
前記送出ローラの第2回転位置(62)を検出する第2回転位置検出センサ(28)と、
を備えるワイヤ放電加工機(12)の前記ワイヤボビンのワイヤ残量(S)を推定する残量推定装置(30、301、302、303)であって、
前記第1回転位置と前記第2回転位置とを取得する取得部(50)と、
前記ワイヤボビンと前記送出ローラとの所定期間(T)の開始時における回転量の比である第1比(α)と、前記ワイヤボビンと前記送出ローラとの前記所定期間の終了時における回転量の比である第2比(β)と、前記所定期間で前記送出ローラが回転した総回転量(φ)とに基づいて、前記所定期間の終了時における前記ワイヤ残量を推定する第1推定演算部(52)と、
を備える、残量推定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の残量推定装置であって、
前記第1推定演算部は、前記総回転量と、前記第1比と、前記第2比と、前記ワイヤボビンの胴半径(L)と、前記送出ローラのローラ半径(Q)とに基づいて、前記所定期間の終了時における前記ワイヤ残量を推定する、残量推定装置。
【請求項3】
請求項2に記載の残量推定装置であって、
前記第1推定演算部は、前記ワイヤ残量を、次の数式(1)に基づいて推定する、残量推定装置。
(ただし、S:ワイヤ残量、α:第1比、β:第2比、Q:ローラ半径、L:ワイヤボビンの胴半径、φ:送出ローラの総回転量、π:円周率)
【数1】
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の残量推定装置(301、302、303)であって、
前記総回転量と、前記第1比と、前記第2比と、前記ワイヤ電極のワイヤ径(D)と、前記ワイヤボビンの寸法とに基づいて、前記ワイヤボビンに巻き付けられた前記ワイヤ電極の稠密度(A)を算出する稠密度算出部(68)と、
前記稠密度と、前記ワイヤ径と、前記ワイヤボビンの前記寸法とを対応付けて記憶部(40)に記憶させる記憶制御部(70)と、
前記ワイヤボビンに巻き付けられた前記ワイヤ電極の巻半径(R)と、前記稠密度と、前記ワイヤ径と、前記ワイヤボビンの前記寸法とに基づいて、前記ワイヤ残量を推定する第2推定演算部(72)と、
をさらに備える、残量推定装置。
【請求項5】
請求項4に記載の残量推定装置であって、
前記第2推定演算部は、前記稠密度を、次の数式(2)に基づいて推定する、残量推定装置。
(ただし、A:ワイヤボビンに巻き付けられたワイヤ電極の稠密度、α:第1比、β:第2比、D:ワイヤ径、H:ワイヤボビンの内幅、Q:ローラ半径、φ:送出ローラの総回転量)
【数2】
【請求項6】
請求項4または5に記載の残量推定装置(302、303)であって、
対応する前記ワイヤ径と、対応する前記ワイヤボビンの前記寸法との各々が互いに同じ複数の前記稠密度が前記記憶部に記憶されている場合に、複数の前記稠密度の平均値、または複数の前記稠密度の移動平均値を算出する平均算出部(76)をさらに備え、
前記第2推定演算部は、前記平均値または前記移動平均値を前記稠密度として、前記ワイヤ残量を推定する、残量推定装置。
【請求項7】
請求項4~6のいずれか1項に記載の残量推定装置であって、
前記ワイヤ径と、前記ワイヤボビンの前記寸法との少なくとも1つをオペレータが指定可能な操作部(38)をさらに備える、残量推定装置。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の残量推定装置であって、
前記ワイヤ残量を表示部(36)に表示させる表示制御部(58)をさらに備える、残量推定装置。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の残量推定装置(303)であって、
外部機器(78)に前記ワイヤ残量を送信する通信制御部(80)をさらに備える、残量推定装置。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の残量推定装置であって、
放電加工に必要な前記ワイヤ電極のワイヤ見積量(S’)と前記ワイヤ残量との比較結果に応じて警報を生成する警報生成部(56)をさらに備える、残量推定装置。
【請求項11】
請求項1~10のいずれか1項に記載の残量推定装置であって、
前記残量推定装置は、前記ワイヤ放電加工機を制御する制御装置(24)に備わる、残量推定装置。
【請求項12】
ワイヤボビン(18)と、
前記ワイヤボビンに巻き付けられたワイヤ電極(16)を送出する送出ローラ(20)と、
前記ワイヤボビンの第1回転位置(60)を検出する第1回転位置検出センサ(26)と、
前記送出ローラの第2回転位置(62)を検出する第2回転位置検出センサ(28)と、
を備えるワイヤ放電加工機(12)の前記ワイヤボビンのワイヤ残量(S)を推定する残量推定方法であって、
前記第1回転位置と、前記第2回転位置とを取得する取得ステップ(82)と、
前記ワイヤボビンと前記送出ローラとの所定期間(T)の開始時における回転量の比である第1比(α)と、前記ワイヤボビンと前記送出ローラとの前記所定期間の終了時における回転量の比である第2比(β)と、前記所定期間で前記送出ローラが回転した総回転量(φ)とに基づいて、前記所定期間の終了時における前記ワイヤ残量を推定する推定演算ステップ(84)と、
を含む、残量推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ放電加工機のワイヤボビンに巻き付けられたワイヤ電極の残量を推定する残量推定装置と、その残量推定装置により実行される残量推定方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工機は、ワイヤ電極を用いて放電加工を実行する。ワイヤ電極は、ワイヤボビンに予め巻き付けられる。なお、ワイヤボビンに巻き付けられたワイヤ電極の量は、以下において「ワイヤ残量」とも記載される。
【0003】
ワイヤ残量は、放電加工の実行中において徐々に減少する。ワイヤ残量が放電加工の実行途中で尽きた場合、その放電加工は中断される。この中断を予防するための先行技術が、実全平02-039824号公報に開示される。この先行技術は、ワイヤ残量の算出方法に係る。この先行技術は、ワイヤ電極の稠密度と、ワイヤ電極の巻径とを用いた計算を含む。なお、稠密度は、実全平02-039824号公報では巻子率と記載される。
【発明の概要】
【0004】
上記先行技術は、少なくとも次の課題を有する。オペレータは、上記先行技術を実施するために、稠密度と巻径とを計測する。ここで、稠密度と巻径との両方を計測する作業は、オペレータの負担である。
【0005】
本発明は、上述した課題を解決することを目的とする。
【0006】
本発明の第1の態様は、ワイヤボビンと、前記ワイヤボビンに巻き付けられたワイヤ電極を送出する送出ローラと、前記ワイヤボビンの第1回転位置を検出する第1回転位置検出センサと、前記送出ローラの第2回転位置を検出する第2回転位置検出センサと、を備えるワイヤ放電加工機の前記ワイヤボビンのワイヤ残量を推定する残量推定装置であって、前記第1回転位置と前記第2回転位置とを取得する取得部と、前記ワイヤボビンと前記送出ローラとの所定期間の開始時における回転量の比である第1比と、前記ワイヤボビンと前記送出ローラとの前記所定期間の終了時における回転量の比である第2比と、前記所定期間で前記送出ローラが回転した総回転量とに基づいて、前記所定期間の終了時における前記ワイヤ残量を推定する第1推定演算部と、を備える。
【0007】
本発明の第2の態様は、ワイヤボビンと、前記ワイヤボビンに巻き付けられたワイヤ電極を送出する送出ローラと、前記ワイヤボビンの第1回転位置を検出する第1回転位置検出センサと、前記送出ローラの第2回転位置を検出する第2回転位置検出センサと、を備えるワイヤ放電加工機の前記ワイヤボビンのワイヤ残量を推定する残量推定方法であって、前記第1回転位置と、前記第2回転位置とを取得する取得ステップと、前記ワイヤボビンと前記送出ローラとの所定期間の開始時における回転量の比である第1比と、前記ワイヤボビンと前記送出ローラとの前記所定期間の終了時における回転量の比である第2比と、前記所定期間で前記送出ローラが回転した総回転量とに基づいて、前記所定期間の終了時における前記ワイヤ残量を推定する推定演算ステップと、を含む。
【0008】
本発明の各態様によれば、オペレータの負担を低減しつつ、ワイヤ残量が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、実施形態に係る残量推定システムの構成図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る残量推定方法の流れを例示するフローチャートである。
【
図4】
図4は、変形例1に係る残量推定装置の構成図である。
【
図5】
図5は、ワイヤ電極が巻き付けられたワイヤボビンの説明図である。
【
図6】
図6は、記憶部に格納される参照テーブルの構成例である。
【
図7】
図7は、変形例1に係る残量推定方法の流れを例示するフローチャートである。
【
図8】
図8は、変形例2に係る残量推定装置の構成図である。
【
図9】
図9は、変形例3に係る残量推定システムの構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[実施形態]
図1は、実施形態に係る残量推定システム10の構成図である。なお、
図1の図示には、残量推定システム10のみならず、ワイヤ放電加工機12の送り機構14が含まれる。
【0011】
送り機構14は、ワイヤボビン18と、複数の送出ローラ20と、2つのモータ22とを備える。
【0012】
ワイヤボビン18は、回転可能なボビンである。
図1の点Oは、ワイヤボビン18の回転軸線を示す(
図5も参照)。ワイヤボビン18には、ワイヤ電極16が巻き付けられる。ワイヤ電極16は、放電加工に用いられる線材である。ワイヤ電極16は、ワイヤボビン18から引き出される。
【0013】
複数の送出ローラ20の各々は、回転可能なローラである。複数の送出ローラ20は、第1ローラ201と、第2ローラ202とを有する。ワイヤボビン18から引き出されたワイヤ電極16は、第1ローラ201と、第2ローラ202とに、この順番で架け渡される。
【0014】
複数の送出ローラ20は、補助ローラ203をさらに有する。補助ローラ203は、ワイヤ電極16の走行方向を変更する。また、補助ローラ203は、ワイヤ電極16の撓みを低減する。補助ローラ203の設置数は、特に限定されない。補助ローラ203の設置箇所も、特に限定されない。
【0015】
2つのモータ22の各々は、例えばサーボモータである。2つのモータ22は、第1モータ221と、第2モータ222とを有する。第1モータ221は第1ローラ201を回転させる。第2モータ222は、第2ローラ202を回転させる。
【0016】
2つのモータ22の各々は制御装置24に制御される。制御装置24は、ワイヤ放電加工機12を制御するための電子装置(コンピュータ)である。制御装置24は、例えば数値制御装置(CNC:Computerized Numerical Controller)である。
【0017】
送り機構14は、2つのワイヤガイド25をさらに備える。2つのワイヤガイド25は、第1ローラ201と第2ローラ202との間に設置される(
図1参照)。2つのワイヤガイド25の間には加工対象物Wが設置される。第1ローラ201と第2ローラ202との各々が回転することで、ワイヤ電極16はワイヤボビン18から加工対象物Wの方に送られる。加工対象物Wを通過したワイヤ電極16は、回収箱に送られる。なお、回収箱は不図示である。
【0018】
ワイヤ電極16は、ワイヤボビン18から加工対象物Wの方に送られつつ、加工対象物Wに対し相対移動する。ワイヤ電極16は、加工プログラム48に基づいて相対移動する。加工プログラム48は、ワイヤ電極16の相対移動の経路を指定する。加工プログラム48は制御装置24にインプットされる(
図2参照)。
【0019】
また、ワイヤ電極16には、電圧が印加される。これにより、ワイヤ電極16と、加工対象物Wとの間に放電が発生する。電圧は、加工条件46に基づいてワイヤ電極16に印加される。加工条件46は、1項目以上のパラメータを含む。加工条件46は制御装置24にインプットされる(
図2参照)。
【0020】
加工対象物Wは、ワイヤ電極16の相対移動と、ワイヤ電極16と加工対象物Wとの間の放電とに応じて加工される。ただし、加工対象物Wを加工する途中でワイヤ残量が尽きた場合、ワイヤ放電加工機12は加工の途中で停止する。この場合は、ワイヤ電極16の補充作業(ワイヤボビン18の交換作業)と、ワイヤ電極16の再結線作業とをオペレータが行う。しかし、これらの作業は、オペレータに負担をかける。したがって、加工の実行前にワイヤ残量を調べることはオペレータにとって重要である。
【0021】
しかし、ワイヤ残量を調べることはオペレータにとって容易でない。例えば上記先行技術が実施される場合、オペレータは稠密度と巻径との両方を計測しなければならない。稠密度と巻径との両方を計測する作業は、オペレータにとって大きな負担である。特に、稠密度を正確に計測することは、オペレータにとって難しい。
【0022】
残量推定システム10は、以上の予備的説明を踏まえ説明される。残量推定システム10は、ワイヤ残量Sを推定するためのシステムである。残量推定システム10は、第1回転位置検出センサ26と、第2回転位置検出センサ28と、残量推定装置30とを備える(
図1参照)。
【0023】
第1回転位置検出センサ26は、ワイヤボビン18の回転位置を検出するためのセンサである。第1回転位置検出センサ26は、ワイヤ放電加工機12に適宜設置される。第1回転位置検出センサ26は、ワイヤボビン18の回転位置に応じた信号を出力する。以下の説明において、ワイヤボビン18の回転位置に応じた信号は、第1検出信号32とも記載される。第1検出信号32は、残量推定装置30に入力される。
【0024】
第2回転位置検出センサ28は、第1ローラ201の回転位置を検出するためのセンサである。第2回転位置検出センサ28は、ワイヤ放電加工機12に適宜設置される。第2回転位置検出センサ28は、第1ローラ201の回転位置に応じた信号を出力する。以下の説明において、第1ローラ201の回転位置に応じた信号は、第2検出信号34とも記載される。第2検出信号34は、残量推定装置30に入力される。
【0025】
なお、第2回転位置検出センサ28は、第1モータ221のシャフトの回転位置を検出してもよい。
【0026】
【0027】
残量推定装置30は、ワイヤ残量Sを推定する電子装置である。残量推定装置30は、ワイヤ放電加工機12の制御装置24を兼ねる。残量推定装置30は、表示部36と、操作部38と、記憶部40と、演算部42とを備える(
図2参照)。
【0028】
表示部36は、表示画面361を有する表示装置である。表示画面361には、情報が適宜表示される。表示部36の材料は液晶を含む。ただし、表示部36の材料は液晶に限定されない。例えば、表示部36の材料はOEL(Organic Electro-Luminescence)を含んでもよい。
【0029】
操作部38は、オペレータによる情報入力を受け付ける入力装置である。オペレータは、操作部38を介して、残量推定装置30に情報を入力可能である。操作部38は、例えば操作盤と、マウスと、キーボードと、タッチパネルとを有する。タッチパネルは、表示画面361に設置される。
【0030】
記憶部40はメモリを有する。例えば記憶部40は、RAM(Random Access Memory)と、ROM(Read Only Memory)とを有する。
【0031】
記憶部40には残量推定プログラム44が格納される。残量推定プログラム44は、残量推定装置30にワイヤ残量Sを推定させるためのプログラムである。なお、記憶部40に格納される情報は、残量推定プログラム44に限定されない。記憶部40には、必要に応じて種々の情報が適宜格納される。例えば、本実施形態の残量推定装置30は制御装置24を兼ねる。この場合、加工条件46と加工プログラム48とが記憶部40に格納されてもよい。
【0032】
演算部42はプロセッサを有する。例えば演算部42は、CPU(Central Processing Unit)と、GPU(Graphics Processing Unit)とを有する。演算部42は、記憶部40に格納された情報を適宜参照可能である。
【0033】
演算部42は、取得部50と、推定演算部(第1推定演算部)52と、比較部54と、警報生成部56と、表示制御部58とを有する(
図2参照)。取得部50と、推定演算部52と、比較部54と、警報生成部56と、表示制御部58とは、演算部42が残量推定プログラム44を実行することで実現される。
【0034】
取得部50は、第1信号解析部501と、第2信号解析部502とを有する(
図2参照)。
【0035】
第1信号解析部501は、第1検出信号32を解析する。これにより、第1信号解析部501は、第1回転位置60を取得する。第1回転位置60は、ワイヤボビン18の回転位置を示す。第1回転位置60は記憶部40に格納される。第1回転位置60は推定演算部52に参照される。
【0036】
第2信号解析部502は、第2検出信号34を解析する。これにより、第2信号解析部502は、第2回転位置62を取得する。第2回転位置62は、第1ローラ201の回転位置を示す。第2回転位置62は記憶部40に格納される。第2回転位置62は推定演算部52に参照される。
【0037】
推定演算部52は、比率算出部521と、残量算出部522とを有する(
図2参照)。
【0038】
比率算出部521は、第1比αを算出する。第1比αは、ワイヤボビン18の回転量に対する第1ローラ201の回転量の比を示す。第1比αは、第1回転位置60と、第2回転位置62とに基づいて算出される。ただし、第1比αは、所定期間Tの開始時における比である。所定期間Tは、ワイヤボビン18からワイヤ電極16が送出される期間である。所定期間Tの範囲は、オペレータによって任意に指定される。ただし、残量推定装置30が所定期間Tの範囲を自動的に設定してもよい。
【0039】
第1比αは、次の数式(1)により表現される。数式(1)中の各文字が示す値は次のとおりである。すなわち、「α:第1比」である。「θ18:所定期間Tの開始時におけるワイヤボビン18の回転量」である。「θ20:所定期間Tの開始時における第1ローラ201の回転量」である。
【0040】
【0041】
第1比αは、残量算出部522に参照される。
【0042】
図10は、所定期間Tの説明図である。
図10には、所定期間Tを含むタイムフローが例示される。
【0043】
数式(1)中の分母(回転量θ18)は、ゼロではない。したがって、所定期間Tの「開始時」は、第1回転位置60が変化する程度の時間幅(TWA、TWA’、またはTWA’’)を有する。この場合、回転量θ18は、時間幅TWA、時間幅TWA’、または時間幅TWA’’における、第1回転位置60の変化量を示す。また、回転量θ20は、時間幅TWA、時間幅TWA’、または時間幅TWA’’における、第2回転位置62の変化量を示す。
【0044】
図10の時間幅TWAの始点は、所定期間Tの始点と一致する。時間幅TWAの終点は、所定期間Tの始点よりも後の時点である。
【0045】
図10の時間幅TWA’の始点は、所定期間Tの始点よりも前の時点である。時間幅TWA’の終点は、所定期間Tの始点と一致する。
【0046】
図10の時間幅TWA’’の始点は、所定期間Tの始点よりも前の時点である。時間幅TWA’’の終点は、所定期間Tの始点よりも後の時点である。
【0047】
なお、時間幅TWA’、または時間幅TWA’’において取得部50が第1回転位置60と第2回転位置62とを取得する場合、ワイヤ送出は、所定期間Tの始点よりも前から始まる。
【0048】
また、比率算出部521は、第2比βを算出する。第2比βは、ワイヤボビン18の回転量に対する第1ローラ201の回転量の比を示す。第2比βは、第1回転位置60と、第2回転位置62とに基づいて算出される。ただし、第2比βは、所定期間Tの終了時における比である。
【0049】
第2比βは、次の数式(2)により表現される。数式(2)中の各文字が示す値は次のとおりである。すなわち、「β:第2比」である。「θ’18:所定期間Tの終了時におけるワイヤボビン18の回転量」、「θ’20:所定期間Tの終了時における第1ローラ201の回転量」である。
【0050】
【0051】
数式(2)中の分母(回転量θ’
18)は、ゼロではない。したがって、所定期間Tの「終了時」は、第1回転位置60が変化する程度の時間幅(TWB、TWB’、またはTWB’’)を有する(
図10参照)。この場合、回転量θ’
18は、時間幅TWB、時間幅TWB’、または時間幅TWB’’における、第1回転位置60の変化量を示す。また、回転量θ’
20は、時間幅TWB、時間幅TWB’、または時間幅TWB’’における、第2回転位置62の変化量を示す。
【0052】
図10の時間幅TWBの始点は、所定期間Tの終点よりも前の時点である。時間幅TWBの終点は、所定期間Tの終点と一致する。
【0053】
図10の時間幅TWB’の始点は、所定期間Tの終点と一致する。時間幅TWB’の終点は、所定期間Tの終点よりも後の時点である。
【0054】
図10の時間幅TWB’’の始点は、所定期間Tの終点よりも前の時点である。時間幅TWB’’の終点は、所定期間Tの終点よりも後の時点である。
【0055】
なお、時間幅TWB’、または時間幅TWB’’において取得部50が第1回転位置60と第2回転位置62とを取得する場合、ワイヤ送出は、所定期間Tの終点後も継続する。
【0056】
なお、送り機構14がワイヤ電極16を送出する場合、次の数式(3)が成立する。数式(3)中の各文字が示す値は次のとおりである。すなわち、「Q:ローラ半径(ローラ径の半分)」である(
図1参照)。「θ
20:第1ローラ201の回転量」である。「R:ワイヤボビン18に巻き付けられたワイヤ電極16の巻半径(巻径の半分)」である(
図1参照)。「θ
18:ワイヤボビン18の回転量」である。
【0057】
【0058】
ローラ半径Qは一定である。この場合、一定量のワイヤ電極16を送出するための回転量θ20も、一定である。その一方で、巻半径Rは、ワイヤ残量Sが減少するほどに短くなる。したがって、一定量のワイヤ電極16を送出するための回転量θ18は、数式(3)に基づいて徐々に増大する。
【0059】
以上から、次の各関係が成立する。すなわち、数式(1)の回転量θ20と、数式(2)の回転量θ’20とは等しい(θ20=θ’20)。また、数式(1)の回転量θ18と、数式(2)の回転量θ’18とでは、回転量θ’18の方が大きい(θ18<θ’18)。よって、第2比βは、第1比αよりも小さい。
【0060】
第2比βは、残量算出部522に参照される。
【0061】
残量算出部522は、次の数式(4)に基づいてワイヤ残量Sを算出する。数式(4)中の各文字が示す値は次のとおりである。すなわち、「S:ワイヤ残量」である。「α:第1比」である。「β:第2比」である。「Q:ローラ半径」である。「L:ワイヤボビン18の胴半径(胴径の半分)」である(
図1または
図5参照)。「φ:第1ローラ201の総回転量」である。「π:円周率」である。
【0062】
【0063】
なお、ローラ半径Qと胴半径Lとは、記憶部40に予め格納される。総回転量φは、所定期間Tにおける第1ローラ201の回転量の総量である。したがって、総回転量φは、第2回転位置62に基づいて取得される。
【0064】
ワイヤ残量Sは、所定期間Tの終了時における、ワイヤボビン18に巻き付けられたワイヤ電極16の残量の推定値を示す。ワイヤ残量Sは、比較部54に参照される。
【0065】
比較部54は、ワイヤ残量Sと、ワイヤ見積量S’とを比較する。ワイヤ見積量S’は、放電加工に必要なワイヤ残量Sの見積量である。ワイヤ見積量S’は、例えば加工プログラム48に基づいて算出される。なお、ワイヤ見積量S’は、加工プログラム48のみならず、加工条件46に基づいて算出されてもよい。
【0066】
また、比較部54は、ワイヤ残量Sがワイヤ見積量S’よりも少ないか否かを判定する。判定は、比較結果に基づいて行われる。ワイヤ残量Sがワイヤ見積量S’よりも少ない場合、比較部54は、警報生成部56を呼び出す。
【0067】
警報生成部56は、警報を生成する。警報は、比較結果に応じて生成される。警報は、表示部36に表示可能なメッセージ形式で生成される。このメッセージは例えば、ワイヤ残量Sがワイヤ見積量S’よりも少ない旨を示す。生成された警報は、表示制御部58に参照される。
【0068】
表示制御部58は、表示部36を制御する。表示制御部58は、推定されたワイヤ残量Sを表示画面361に表示させる。これにより、オペレータは、ワイヤ残量Sを知る。また、表示制御部58は、警報生成部56により生成されたメッセージをも表示画面361に表示させる。これにより、オペレータは、ワイヤ残量Sがワイヤ見積量S’よりも少ないことを知る。
【0069】
なお、表示制御部58が表示画面361に表示させる情報は、ワイヤ残量Sと、メッセージとのみに限定されない。例えば表示制御部58は、比較部54が行った比較結果をも表示画面361に表示させてもよい。
【0070】
残量推定装置30は、稠密度と巻径(巻半径R)とを用いることなく、ワイヤ残量Sを算出する。したがって、オペレータが稠密度と巻径(巻半径R)とを計測する必要がない。よって、残量推定装置30は、オペレータの負担を低減させる。残量推定装置30の説明は以上である。
【0071】
図3は、実施形態に係る残量推定方法の流れを例示するフローチャートである。
【0072】
残量推定方法は、ワイヤ残量Sを推定するための方法である。残量推定方法は、残量推定装置30により実行される。残量推定方法は、取得ステップ82と、推定演算ステップ84と、比較ステップ86と、警報生成ステップ88と、表示ステップ90とを含む(
図3参照)。
【0073】
残量推定装置30は、取得ステップ82を実行する。取得ステップ82は、開始時判定ステップ821と、第1の取得ステップ822と、終了時判定ステップ823と、第2の取得ステップ824とを含む(
図3参照)。
【0074】
開始時判定ステップ821では、所定期間Tが開始されたか否かを、取得部50が判定する。所定期間Tの開始時になった場合(開始時判定ステップ821:YES)、取得部50は、第1の取得ステップ822を実行する。
【0075】
第1の取得ステップ822では、第1回転位置60と、第2回転位置62とを取得部50が取得する。ここで取得される第1回転位置60は、所定期間Tの開始時におけるワイヤボビン18の回転位置を示す。また、ここで取得される第2回転位置62は、所定期間Tの終了時における第1ローラ201の回転位置を示す。
【0076】
終了時判定ステップ823では、所定期間Tが終了したか否かを、取得部50が判定する。所定期間Tの終了時になった場合(終了時判定ステップ823:YES)、取得部50は、第2の取得ステップ824を実行する。
【0077】
第2の取得ステップ824では、第1回転位置60と、第2回転位置62とを取得部50が取得する。ここで取得される第1回転位置60は、所定期間Tの終了時におけるワイヤボビン18の回転位置を示す。また、ここで取得される第2回転位置62は、所定期間Tの終了時における第1ローラ201の回転位置を示す。残量推定装置30は、取得ステップ82の次に推定演算ステップ84を実行する。
【0078】
推定演算ステップ84は、比率算出ステップ841と、残量推定ステップ842とを含む(
図3参照)。
【0079】
比率算出ステップ841では、比率算出部521が第1比αと第2比βとを算出する。なお、第1比αは、所定期間Tの終了前に算出されてもよい。したがって、残量推定装置30は、第1の取得ステップ822の後に、比率算出ステップ841を開始してもよい。この場合、比率算出ステップ841は、終了時判定ステップ823、または第2の取得ステップ824と並行して実行されてもよい。
【0080】
残量推定ステップ842では、残量算出部522がワイヤ残量Sを算出する。残量推定装置30は、推定演算ステップ84の次に、比較ステップ86を実行する。
【0081】
比較ステップ86では、ワイヤ残量Sの推定結果とワイヤ見積量S’とを、比較部54が比較する。推定されたワイヤ残量Sがワイヤ見積量S’よりも少ない場合(86:YES)、残量推定装置30は警報生成ステップ88を実行する。ワイヤ残量Sがワイヤ見積量S’以上である場合(86:NO)、残量推定装置30は表示ステップ90を実行する。
【0082】
警報生成ステップ88では、警報生成部56が警報を生成する。警報はメッセージ形式である。このメッセージは、例えばワイヤ残量Sが不足している旨を示す。残量推定装置30は、警報生成ステップ88の次に、表示ステップ90を実行する。
【0083】
表示ステップ90では、表示制御部58が表示画面361にワイヤ残量Sを表示させる。また、警報生成ステップ88が事前に完了した場合、表示制御部58は、生成された警報をも表示画面361に表示させる。
【0084】
図3の残量推定方法が実行される場合には、稠密度と巻半径Rとの両方をオペレータが計測する必要がない。したがって、オペレータの負担が低減される。
図3の残量推定方法の説明は以上である。
【0085】
[変形例]
上記実施形態に係る変形例が以下に説明される。ただし、上記実施形態と重複する説明は、以下の説明では可能な限り省略される。上記実施形態で説明済の構成要素の参照符号は、特に断らない限り、上記実施形態から流用される。
【0086】
(変形例1)
図4は、変形例1に係る残量推定装置30(301)の構成図である。
【0087】
残量推定装置301は、実施形態の残量推定装置30の構成要素(
図2参照)を備える。ただし、
図4では、いくつかの構成要素の図示が割愛される。
【0088】
残量推定装置301は、稠密度算出部68と、記憶制御部70と、第2推定演算部72とをさらに有する。稠密度算出部68と、記憶制御部70と、第2推定演算部72とは、演算部42が残量推定プログラム44を実行することで、実現される。この点に関し、残量推定プログラム44は適宜変更される。
【0089】
図5は、ワイヤ電極16が巻き付けられたワイヤボビン18の説明図である。
図5には、ワイヤ電極16とワイヤボビン18とが断面的に図示される。なお、仮想直線Oは、ワイヤボビン18の回転軸線である。
【0090】
稠密度算出部68は、次の数式(5)に基づいて稠密度Aを算出する。数式(5)中の各文字が示す値は次のとおりである。すなわち、「A:稠密度」である。「α:第1比」である。「β:第2比」である。「D:ワイヤ電極16のワイヤ径」である(
図5参照)。「H:ワイヤボビン18の内幅」である(
図5参照)。「Q:ローラ半径」である。「φ:第1ローラ201の総回転量」である。
【0091】
【0092】
記憶制御部70は、稠密度Aと、ワイヤ径Dと、内幅Hと、胴半径Lとを互いに対応付ける。これにより、記憶制御部70は、参照テーブル74を作成する。
【0093】
図6は、記憶部40に格納される参照テーブル74の構成例である。
【0094】
参照テーブル74は、ワイヤボビン18の識別子(名称または番号)の列と、稠密度Aの列と、ワイヤ径Dの列と、内幅Hの列と、胴半径Lの列とを有する。各行において横並びになった情報同士が、互いに対応する。例えば、参照テーブル74は、とあるワイヤボビン18の「識別子:ボビン1」を含む(
図6参照)。「識別子:ボビン1」のワイヤボビン18に巻き付けられたワイヤ電極16の稠密度Aは、「AA」である。そのワイヤ電極16のワイヤ径Dは、「DA」である。また、「識別子:ボビン1」のワイヤボビン18の内幅Hは、「HA」である。「識別子:ボビン1」のワイヤボビン18の胴半径Lは、「LA」である。
【0095】
なお、多くの場合、ワイヤ電極16は、ワイヤ電極16に関する所定の規格に基づいて設計される。したがって、オペレータは、ワイヤ電極16の規格に基づいてワイヤ径Dを容易に特定できる。また、多くの場合、ワイヤボビン18は、ワイヤボビン18に関する所定の規格に基づいて設計される。したがって、オペレータは、ワイヤボビン18の内幅Hと、ワイヤボビン18の胴半径Lとの各々を、ワイヤボビン18の規格に基づいて容易に特定できる。
【0096】
記憶制御部70は、参照テーブル74を記憶部40に格納する。参照テーブル74は、第2推定演算部72に参照される。
【0097】
第2推定演算部72は、次の数式(6)に基づいてワイヤ残量Sを推定する。数式(6)中の各文字が示す値は次のとおりである。すなわち、「S:ワイヤ残量」である。「R:巻半径」である。「A:稠密度」である。「H:内幅」である。「L:胴半径」である。「D:ワイヤ径」である。なお、稠密度Aと、ワイヤ径Dと、内幅Hと、胴半径Lとは、参照テーブル74において互いに対応する。巻半径Rは、オペレータにより事前に計測される。
【0098】
【0099】
参照テーブル74は、稠密度Aと、ワイヤ径Dと、内幅Hと、胴半径Lとに対応する識別子を含む。したがって、オペレータは、識別子を指定することで、稠密度Aと、ワイヤ径Dと、内幅Hと、胴半径Lとを容易に指定できる。
【0100】
図7は、変形例1に係る残量推定方法の流れを例示するフローチャートである。なお、
図3の「推定演算ステップ」は、
図7において「第1推定演算ステップ」と記載される。
【0101】
図7の残量推定方法は、取得ステップ82と、第1推定演算ステップ84と、比較ステップ86と、警報生成ステップ88と、表示ステップ90とを含む。この点において、
図7の残量推定方法は、
図3の残量推定方法と共通する。ただし、
図7の残量推定方法は、選択ステップ92と、稠密度算出ステップ94と、記憶ステップ96と、第2推定演算ステップ98とをさらに含む。この点において、
図7の残量推定方法は、
図3の残量推定方法と相違する。
【0102】
残量推定装置301は、選択ステップ92を最初に実行する。選択ステップ92では、操作部38が入力操作を受け付ける。選択ステップ92において、オペレータは、第1推定演算ステップ84または第2推定演算ステップ98を選択する。
【0103】
オペレータが第1推定演算ステップ84を選択した場合、残量推定装置301は、取得ステップ82を実行する。取得ステップ82と、第1推定演算ステップ84との各々の説明は、本変形例において割愛される。残量推定装置301は、第1推定演算ステップ84の次に、稠密度算出ステップ94を実行する。
【0104】
稠密度算出ステップ94では、稠密度算出部68が稠密度Aを算出する。稠密度Aは、数式(5)に基づいて算出される。ここで、稠密度算出部68は、直近の第1推定演算ステップ84で使用された第1比αと、第2比βと、総回転量φとを流用する。残量推定装置301は、稠密度算出ステップ94の次に、記憶ステップ96を実行する。
【0105】
記憶ステップ96では、記憶制御部70が、記憶部40に稠密度Aを格納する。ここで、稠密度Aは、ワイヤ径Dと、内幅Hと、胴半径Lとに対応付けられる。残量推定装置301は、記憶ステップ96の次に、比較ステップ86~表示ステップ90を適宜実行する(
図7参照)。
【0106】
選択ステップ92においてオペレータが第2推定演算ステップ98を選択した場合、残量推定装置301は第2推定演算ステップ98を実行する。第2推定演算ステップ98では、第2推定演算部72が、ワイヤ残量Sを推定する。ワイヤ残量Sは数式(6)に基づいて算出される。
【0107】
第2推定演算ステップ98が実行される場合、取得ステップ82は実行されない。したがって、第2推定演算ステップ98が実行される場合、所定期間Tにわたるワイヤ送出は不要である。第2推定演算ステップ98の後は、比較ステップ86~表示ステップ90が適宜実行される(
図7参照)。
【0108】
第2推定演算ステップ98が実行される場合、オペレータは巻半径Rを事前に計測する。しかし、オペレータが稠密度Aを計測する必要はない。したがって、オペレータの負担が低減される。
【0109】
残量推定装置301は、選択ステップ92において第2推定演算ステップ98を自動的に選択してもよい。この場合、選択ステップ92において第2推定演算ステップ98を自動的に選択することを、オペレータが残量推定装置301に予め指示する。また、オペレータは、第2推定演算部72に参照させる稠密度Aと、ワイヤ径Dと、内幅Hと、胴半径Lとを予め指定する。
【0110】
また、残量推定装置301は、第1推定演算ステップ84の前に稠密度算出ステップ94を実行してもよい。その場合、第1比αと、第2比βと、総回転量φとは、稠密度算出ステップ94で算出されてもよい。また、その場合、第1比αと、第2比βと、総回転量φとは、第1推定演算ステップ84で流用されてもよい。
【0111】
(変形例2)
図7の取得ステップ82~記憶ステップ96を辿るフローは、過去に稠密度Aが算出されたことのあるワイヤボビン18について実行されてもよい。ここで、例えば第1検出信号32と、第2検出信号34との各々は、誤差(ノイズ)を含む場合がある。この誤差により、過去に算出された稠密度Aと、直近に算出された稠密度Aとは、互いに異なる値を示す場合がある。この場合、同一のワイヤボビン18に係る複数の稠密度Aが記憶部40に格納される。しかし、数式(6)に代入される稠密度Aの値は、一つのみである。以上の前提を踏まえ、本変形例では、同一のワイヤボビン18について複数の稠密度Aが算出済である場合にもワイヤ残量Sを算出可能な残量推定装置30(302)が説明される。
【0112】
図8は、変形例2に係る残量推定装置302の構成図である。
【0113】
残量推定装置302は、残量推定装置301の構成要素(
図4参照)を備える。また、残量推定装置302は、平均算出部76をさらに備える。平均算出部76は、演算部42が残量推定プログラム44を実行することで実現される。この点に関し、残量推定プログラム44は適宜変更される。
【0114】
平均算出部76は、複数の稠密度Aの平均値を算出する。ここで、複数の稠密度Aは、対応するワイヤ径Dが互いに同じである。また、複数の稠密度Aは、対応するワイヤボビン18の寸法(内幅H、胴半径L)も、互いに同じである。
【0115】
第2推定演算部72は、複数の稠密度Aの平均値を、稠密度Aの代わりに数式(6)に代入する。これにより、同一のワイヤボビン18について複数の稠密度Aが算出済である場合にも、ワイヤ残量Sが推定される。また、複数の稠密度Aの平均値がワイヤ残量Sの推定に用いられることで、前述の誤差がワイヤ残量Sの推定結果に及ぼす影響が低減される。
【0116】
なお、平均算出部76は、複数の稠密度Aの平均値ではなく、複数の稠密度Aの移動平均値を算出してもよい。この場合、第2推定演算部72は、複数の稠密度Aの移動平均値を、稠密度Aの代わりに数式(6)に代入する。
【0117】
(変形例3)
本変形例では、残量推定装置30から離れた場所にいるオペレータにワイヤ残量Sを知らせる残量推定装置30(303)が説明される。
【0118】
図9は、変形例3に係る残量推定システム10(101)の構成図である。
【0119】
残量推定システム101は、第1回転位置検出センサ26と、第2回転位置検出センサ28と、残量推定装置303と、外部機器78とを有する。第1回転位置検出センサ26と、第2回転位置検出センサ28との各々の説明は、本変形例において割愛される。
【0120】
外部機器78は、残量推定装置303と通信可能な電子機器(端末)である。外部機器78は表示画面781を有する。外部機器78は、残量推定装置303から離れた場所に設置可能である。外部機器78は、オペレータが携帯可能な可搬型端末でもよい。
【0121】
残量推定装置303は、実施形態の残量推定装置30の構成要素(
図2参照)を備える。ただし、
図9では、いくつかの構成要素の図示が割愛される。
【0122】
残量推定装置303は、通信制御部80をさらに有する。通信制御部80は、演算部42が残量推定プログラム44を実行することで実現される。この点に関し、残量推定プログラム44は適宜変更される。
【0123】
通信制御部80は、外部機器78との通信を制御する。特に、通信制御部80は、推定されたワイヤ残量Sを、外部機器78に送信する。外部機器78は、受信したワイヤ残量Sを表示画面781に表示させる。これにより、残量推定装置303の近くにいないオペレータが、ワイヤ残量Sを確認できる。
【0124】
なお、通信制御部80は、推定結果とワイヤ見積量S’との比較結果を、外部機器78に送信してもよい。また、通信制御部80は、警報を外部機器78に送信してもよい。
【0125】
また、残量推定システム101は、複数の外部機器78を有してもよい。
【0126】
(変形例4)
ワイヤボビン18の寸法(内幅H、胴半径L)は、操作部38を介してオペレータに指定されてもよい。例えば多くの場合、ワイヤボビン18は、ワイヤボビン18に関する規格に基づいて設計される。しかし、規格に基づかない寸法を有するワイヤボビン18も存在する。この場合、オペレータは、ワイヤボビン18の寸法を計測する。また、オペレータは、操作部38を介して、計測結果を残量推定装置30に入力する。
【0127】
なお、ワイヤ電極16に関する規格に基づかないワイヤ電極16も存在する。オペレータは、そのワイヤ電極16を使用する場合、操作部38を介してワイヤ径Dを指定してもよい。
【0128】
(変形例5)
警報の形式はメッセージ形式に限定されない。例えば警報は、アイコンを含んでもよい。また、警報は、音声(例えば、エラー音)を含んでもよい。
【0129】
(変形例6)
ワイヤボビン18には、トルクモータが接続されてもよい。トルクモータは、ワイヤボビン18の回転トルクを調整するためのモータである。
【0130】
第1回転位置検出センサ26は、トルクモータのシャフトの回転位置を検出してもよい。この場合は、トルクモータのシャフトの回転位置が、第1回転位置60として扱われる。
【0131】
(変形例7)
第1比αと、第2比βとの各々は、第2ローラ202の回転量と、ワイヤボビン18の回転量との比でもよい。この場合、第2検出信号34は、第2ローラ202の回転に応じて出力される。また、この場合、総回転量φは、所定期間Tの第2ローラ202の総回転量でもよい。
【0132】
(変形例8)
残量推定装置30と、ワイヤ放電加工機12の制御装置24とは、互いに別個の電子装置でもよい。
【0133】
その場合、残量推定装置30と制御装置24とは、互いに通信してもよい。これにより、残量推定装置30は、例えば取得ステップ82を実行するために、所定期間Tにわたるワイヤ送出の実行を制御装置24に要求できる。
【0134】
なお、本発明は、上述した実施形態、および変形例に限らず、本発明の要旨を逸脱することなく、種々の構成を取り得る。
【0135】
[実施形態から得られる発明]
上記実施形態および変形例から把握しうる発明について、以下に記載する。
【0136】
<第1の発明>
ワイヤボビン(18)と、前記ワイヤボビンに巻き付けられたワイヤ電極(16)を送出する送出ローラ(20)と、前記ワイヤボビンの第1回転位置(60)を検出する第1回転位置検出センサ(26)と、前記送出ローラの第2回転位置(62)を検出する第2回転位置検出センサ(28)と、を備えるワイヤ放電加工機(12)の前記ワイヤボビンのワイヤ残量(S)を推定する残量推定装置(30、301、302、303)であって、前記第1回転位置と前記第2回転位置とを取得する取得部(50)と、前記ワイヤボビンと前記送出ローラとの所定期間(T)の開始時における回転量の比である第1比(α)と、前記ワイヤボビンと前記送出ローラとの前記所定期間の終了時における回転量の比である第2比(β)と、前記所定期間で前記送出ローラが回転した総回転量(φ)とに基づいて、前記所定期間の終了時における前記ワイヤ残量を推定する第1推定演算部(52)と、を備える。
【0137】
これにより、オペレータの負担を低減しつつ、ワイヤ残量(S)が得られる。
【0138】
前記第1推定演算部は、前記総回転量と、前記第1比と、前記第2比と、前記ワイヤボビンの胴半径(L)と、前記送出ローラのローラ半径(Q)とに基づいて、前記所定期間(T)の終了時における前記ワイヤ残量を推定してもよい。
【0139】
前記第1推定演算部は、前記ワイヤ残量を、数式(4)に基づいて推定してもよい。
【0140】
前記残量推定装置は、前記総回転量と、前記第1比と、前記第2比と、前記ワイヤ電極のワイヤ径(D)と、前記ワイヤボビンの寸法とに基づいて、前記ワイヤボビンに巻き付けられた前記ワイヤ電極の稠密度(A)を算出する稠密度算出部(68)と、前記稠密度と、前記ワイヤ径と、前記ワイヤボビンの前記寸法とを対応付けて記憶部(40)に記憶させる記憶制御部(70)と、前記ワイヤボビンに巻き付けられた前記ワイヤ電極の巻半径(R)と、前記稠密度と、前記ワイヤ径と、前記ワイヤボビンの前記寸法とに基づいて、前記ワイヤ残量を推定する第2推定演算部(72)と、をさらに備えてもよい。これにより、稠密度(A)が容易に算出される。また、ワイヤ残量(S)が節約される。
【0141】
前記第2推定演算部は、前記稠密度を、数式(5)に基づいて推定してもよい。
【0142】
前記残量推定装置は、対応する前記ワイヤ径と、対応する前記ワイヤボビンの前記寸法との各々が互いに同じ複数の前記稠密度が前記記憶部に記憶されている場合に、複数の前記稠密度の平均値、または複数の前記稠密度の移動平均値を算出する平均算出部(76)をさらに備え、前記第2推定演算部は、前記平均値または前記移動平均値を前記稠密度として、前記ワイヤ残量を推定してもよい。これにより、同一のワイヤボビン(18)について複数の稠密度(A)が算出済である場合にも、ワイヤ残量(S)が推定される。
【0143】
前記残量推定装置は、前記ワイヤ径と、前記ワイヤボビンの前記寸法との少なくとも1つをオペレータが指定可能な操作部(38)をさらに備えてもよい。これにより、例えばワイヤボビン(18)の寸法が所定の規格に準拠していない場合においても、残量推定装置(30)がワイヤ残量(S)を推定する。
【0144】
前記残量推定装置は、前記ワイヤ残量を表示部(36)に表示させる表示制御部(58)をさらに備えてもよい。これにより、オペレータがワイヤ残量(S)を確認できる。
【0145】
前記残量推定装置(303)は、外部機器(78)に前記ワイヤ残量を送信する通信制御部(80)をさらに備えてもよい。これにより、残量推定装置から離れた場所にいるオペレータが、ワイヤ残量(S)を確認できる。
【0146】
前記残量推定装置は、放電加工に必要な前記ワイヤ電極のワイヤ見積量(S’)と前記ワイヤ残量との比較結果に応じて警報を生成する警報生成部(56)をさらに備えてもよい。これにより、例えばワイヤ残量(S)が不足することが、オペレータに知らされる。
【0147】
前記残量推定装置は、前記ワイヤ放電加工機を制御する制御装置(24)に備わってもよい。
【0148】
<第2の発明>
ワイヤボビン(18)と、前記ワイヤボビンに巻き付けられたワイヤ電極(16)を送出する送出ローラ(20)と、前記ワイヤボビンの第1回転位置(60)を検出する第1回転位置検出センサ(26)と、前記送出ローラの第2回転位置(62)を検出する第2回転位置検出センサ(28)と、を備えるワイヤ放電加工機(12)の前記ワイヤボビンのワイヤ残量(S)を推定する残量推定方法であって、前記第1回転位置と、前記第2回転位置とを取得する取得ステップ(82)と、前記ワイヤボビンと前記送出ローラとの所定期間(T)の開始時における回転量の比である第1比(α)と、前記ワイヤボビンと前記送出ローラとの前記所定期間の終了時における回転量の比である第2比(β)と、前記所定期間で前記送出ローラが回転した総回転量(φ)とに基づいて、前記所定期間の終了時における前記ワイヤ残量を推定する推定演算ステップ(84)と、を含む。
【0149】
これにより、オペレータの負担を低減しつつ、ワイヤ残量(S)が得られる。
【符号の説明】
【0150】
12…ワイヤ放電加工機 16…ワイヤ電極
18…ワイヤボビン 20…送出ローラ
24…制御装置 26…第1回転位置検出センサ
28…第2回転位置検出センサ
30、301、302、303…残量推定装置
36…表示部 38…操作部
40…記憶部 50…取得部
52…推定演算部(第1推定演算部) 56…警報生成部
58…表示制御部 60…第1回転位置
62…第2回転位置 68…稠密度算出部
70…記憶制御部 72…第2推定演算部
76…平均算出部 78…外部機器
80…通信制御部