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特許7684401窒化ケイ素焼結体、および、窒化ケイ素焼結体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-19
(45)【発行日】2025-05-27
(54)【発明の名称】窒化ケイ素焼結体、および、窒化ケイ素焼結体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/591 20060101AFI20250520BHJP
   C04B 35/622 20060101ALI20250520BHJP
【FI】
C04B35/591
C04B35/622
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2023536339
(86)(22)【出願日】2023-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2023004687
(87)【国際公開番号】W WO2023157784
(87)【国際公開日】2023-08-24
【審査請求日】2024-04-24
(31)【優先権主張番号】P 2022022064
(32)【優先日】2022-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591149089
【氏名又は名称】株式会社MARUWA
(74)【代理人】
【識別番号】110000659
【氏名又は名称】弁理士法人広江アソシエイツ特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松本 理
(72)【発明者】
【氏名】高橋 光隆
【審査官】田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-184333(JP,A)
【文献】国際公開第2022/024707(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/195298(WO,A1)
【文献】特開2015-199657(JP,A)
【文献】国際公開第2022/196693(WO,A1)
【文献】特開2022-145475(JP,A)
【文献】特開2023-030139(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/591
C04B 35/622
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β型窒化ケイ素粒子を含む基板を成し、基板平面におけるβ型窒化ケイ素粒子の(hk0)面の配向度を示すロットゲーリングファクタf(hk0)が負の値となることを特徴とする窒化ケイ素焼結体。
【請求項2】
基板厚み方向の熱伝導率が100W/mK以上であることを特徴とする請求項1に記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項3】
厚み方向に対して垂直な破壊靱性値KC1および厚み方向の破壊靱性値KC2を有し、KC1/KC2が0.85以上であることを特徴とする請求項1に記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項4】
基板を平面に対して垂直に切断した断面を撮影した断面写真において、200,000μmの領域中に、長軸が50μm以上であるβ型窒化ケイ素粒子が10個以上含まれることを特徴とする請求項1に記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項5】
基板を平面に対して垂直に切断した断面を撮影した断面写真において、200,000μmの領域中に、長軸が50μm以上、かつ、基板表面の法線に対する傾斜角が45度以下であるβ型窒化ケイ素粒子が7個以上含まれることを特徴とする請求項1に記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項6】
基板表面の粗さを示す算術平均高さSaが0.8μm以上であることを特徴とする請求項1に記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項7】
窒化ケイ素焼結体において、窒化ケイ素85~95モル%、希土類酸化物1~3モル%および窒化ケイ素マグネシウム4~12モル%のモル比率となるように、 99.9 径が9.5μm以下、比表面積が5.0m /g以上且つ9.0m /g以下のシリコン粉末、希土類酸化物粉末および窒化ケイ素マグネシウム粉末を混合して混合粉末を作製する混合工程と、
前記混合粉末をシート状に成形して成形体を作製する成形工程と、
前記成形体を窒素雰囲気中で第1の温度から第2の温度まで加熱する窒化工程と、
窒素雰囲気中、第3の温度および所定の時間で前記成形体を焼成して窒化ケイ素焼結体を作製する緻密化工程と、
を含むことを特徴とする窒化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項8】
前記窒化ケイ素マグネシウム粉末の比表面積は、9.0m/g以上であることを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項9】
前記成形体は、シート成形法によって作製されることを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項10】
前記成形体の無機充填率は47%以上であることを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【請求項11】
基板厚み方向の熱伝導率が100W/mK以上であり、且つ、
厚み方向に対して垂直な破壊靱性値KC1および厚み方向の破壊靱性値KC2を有し、KC1/KC2が0.85以上であることを特徴とする請求項1に記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項12】
基板を平面に対して垂直に切断した断面を撮影した断面写真において、200,000μmの領域中に、長軸が50μm以上であるβ型窒化ケイ素粒子が10個以上含まれ、且つ、
基板を平面に対して垂直に切断した断面を撮影した断面写真において、200,000μmの領域中に、長軸が50μm以上、かつ、基板表面の法線に対する傾斜角が45度以下であるβ型窒化ケイ素粒子が7個以上含まれ、
基板表面の粗さを示す算術平均高さSaが0.8μm以上であることを特徴とする請求項1、2、3、および11のいずれか一項に記載の窒化ケイ素焼結体。
【請求項13】
前記希土類酸化物は、Y、La、Sm、Gd、Dy、Er、およびYbからなる群の少なくとも1つから選択されることを特徴とする請求項7に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ケイ素焼結体、および、窒化ケイ素焼結体を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器や半導体デバイスの高密度化、高出力化に伴い、パワーモジュールの発熱密度が増加している。パワーモジュールの温度上昇は、素子の動作不良を引き起こしたり、絶縁回路基板の割れを引き起こしたりする要因となる。そのため、絶縁回路基板には、比較的に熱伝導率が高い材料であるアルミナや窒化アルミニウムなどのセラミック基板が用いられてきた。しかしながら、アルミナや窒化アルミニウムには、機械的強度が低いという欠点が存在する。それ故、熱応力が強くかかる厚銅をセラミック基板へ直接接合することが出来ず、パワーモジュールの構造に制約を与えてきた。具体的には、銅やアルミニウムなどの放熱板を絶縁回路基板に対して、はんだ接合する必要が生じることから、パワーモジュールが大型化することが問題として挙げられる。そこで、絶縁回路基板として注目されているのが窒化ケイ素(Si)材料である。窒化ケイ素焼結体は、アルミナや窒化アルミニウム焼結体と比較して強度や破壊靭性が高いことから、絶縁回路基板へ直接厚銅を接合することが可能となり、モジュールの小型化に貢献する。そのため、機械的強度とともに熱伝導性能を改良した窒化ケイ素焼結体の開発が行われている。
【0003】
例えば、特許文献1は、機械的特性および熱伝導性能を改良した窒化ケイ素質焼結体基板の製造方法を開示する。この製造方法では、Al含有量が0.1重量%以下の窒化ケイ素粉末に、Mg,Ca,Sr,Ba,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,Ho,Er,Ybのうちから選ばれる1種または2種以上の元素の焼結助剤を1重量%以上15重量%以下の範囲内で添加して成形した後、1気圧以上500気圧以下の窒素ガス圧下で、1700℃以上2300℃以下の温度で焼成する。該製造方法によって得られた窒化ケイ素質焼結体基板は、85重量%以上99重量%以下のβ型窒化ケイ素粒と残部が酸化物または酸窒化物の粒界相とから構成される。また、粒界相中にMg,Ca,Sr,Ba,Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,Ho,Er,Ybのうちから選ばれる1種または2種以上の金属元素を0.5重量%以上10重量%以下含有する。そして、粒界相中のAl原子含有量が1重量%以下であり、気孔率が5%以下でかつ焼結体の微構造についてβ型窒化ケイ素粒のうち短軸径5μm以上を持つものの割合が10体積%以上60体積%以下である。すなわち、高熱伝導性の窒化ケイ素焼結体基板を得るためには焼結助剤として希土類化合物や酸化マグネシウムを加え、それらの混合比や添加量によって熱伝導率や機械的強度を向上できることが知られている。
【0004】
特許文献2は、β型窒化ケイ素(β-Si)粒子の配向度を制御することにより、熱伝導率および機械的強度を実現した窒化ケイ素質焼結体基板およびその製造方法を開示する。特許文献2では、7%以下のβ型窒化ケイ素を含む窒化ケイ素粉末を原料として用いるとともに、スラリーの粘度を13000cps以上に調整した上でシート成形体を形成したことにより、当該製造方法による窒化ケイ素焼結体基板のβ型窒化ケイ素粒子の結晶構造の(101)面のX線回折ピークの強度I101とβ型窒化ケイ素の(210)面のX線回折ピークの強度I210との強度比I101/I210をより1に近付けるように制御したものである。その結果、窒化ケイ素焼結体基板の基板平面に平行な第1方向の破壊靱性値KC1が第1方向に垂直な第2方向の破壊靱性値KC2に対して相対的に低下することを抑え、両方向において等方的な破壊靱性を有する窒化ケイ素焼結体基板が得られた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平9-30866号公報
【文献】特開2019-52072号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
発明者らは、従来の窒化ケイ素焼結体に対し、その製造方法を見直すとともに、β型窒化ケイ素(β-Si)粒子の配向度のさらなる制御に着目して、β型窒化ケイ素粒子の基板厚み方向の熱伝導性能をより一層改善することを課題とした。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、その目的は、β型窒化ケイ素(β-Si)粒子の配向を制御し、基板厚み方向の熱伝導性能をより一層改善した窒化ケイ素焼結体、および、窒化ケイ素焼結体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一形態の窒化ケイ素焼結体は、β型窒化ケイ素粒子を含む基板を成し、基板平面におけるβ型窒化ケイ素粒子の(hk0)面の配向度を示すロットゲーリングファクタf(hk0)が負の値となることを特徴とする。
【0009】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素焼結体は、より好適には、基板厚み方向の熱伝導率が100W/mK以上であることを特徴とする。
【0010】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素焼結体は、より好適には、厚み方向に対して垂直な破壊靱性値KC1および厚み方向の破壊靱性値KC2を有し、KC1/KC2が0.85以上であることを特徴とする。
【0011】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素焼結体は、より好適には、基板を平面に対して垂直に切断した断面を撮影した断面写真において、200,000μmの領域中に、長軸が50μm以上であるβ型窒化ケイ素粒子が10個以上含まれることを特徴とする。
【0012】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素焼結体は、より好適には、基板を垂直に切断した断面を撮影した断面写真において、200,000μmの領域中に、長軸が50μm以上であり、かつ、基板表面の法線に対する傾斜角が45度以下であるβ型窒化ケイ素粒子が8個以上含まれることを特徴とする。
【0013】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素焼結体は、より好適には、基板表面の粗さを示す算術平均高さSaが0.8μm以上であることを特徴とする。
【0014】
本発明の一形態の窒化ケイ素焼結体の製造方法は、窒化ケイ素焼結体において、窒化ケイ素(Si)85~95モル%、希土類酸化物(RE)1~3モル%および窒化ケイ素マグネシウム(MgSiN)4~12モル%のモル比率となるように、シリコン粉末、希土類酸化物粉末および窒化ケイ素マグネシウム粉末を混合して混合粉末を作製する混合工程と、前記混合粉末をシート状に成形して成形体を作製する成形工程と、前記成形体を窒素雰囲気中で第1の温度から第2の温度まで加熱する窒化工程と、窒素雰囲気中、第3の温度および所定の時間で前記成形体を焼成して窒化ケイ素焼結体を作製する緻密化工程と、を含むことを特徴とする。
【0015】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素焼結体の製造方法は、より好適には、前記シリコン粉末の比表面積が5.0m/g以上であり、前記シリコン粉末のD99.9径が9.5μm以下であることを特徴とする。
【0016】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素焼結体の製造方法は、より好適には、前記窒化ケイ素マグネシウム粉末の比表面積は、9.0m/g以上であることを特徴とする。
【0017】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素焼結体の製造方法は、より好適には、前記成形体は、シート成形法によって作製されることを特徴とする。
【0018】
本発明のさらなる形態の窒化ケイ素焼結体の製造方法は、より好適には、前記成形体の無機充填率は47%以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明の窒化ケイ素焼結体およびその製造方法によれば、β型窒化ケイ素粒子の長軸を基板の板厚方向に揃えるように制御したことにより、基板の厚み方向の熱伝導率を改善したものである。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1の窒化ケイ素焼結体の基板表面を2000倍の倍率で撮影したSEM画像。
【0021】
図2】実施例5の窒化ケイ素焼結体の基板表面を2000倍の倍率で撮影したSEM画像。
【0022】
図3】比較例1の窒化ケイ素焼結体の基板表面を2000倍の倍率で撮影したSEM画像。
【0023】
図4】実施例1の窒化ケイ素焼結体のX線回折パターン。
【0024】
図5】実施例5の窒化ケイ素焼結体のX線回折パターン。
【0025】
図6】実施例12の窒化ケイ素焼結体のX線回折パターン。
【0026】
図7】比較例1の窒化ケイ素焼結体のX線回折パターン。
【0027】
図8】比較例7の窒化ケイ素焼結体のX線回折パターン。
【0028】
図9】実施例1の窒化ケイ素焼結体の基板断面の観察写真。
【0029】
図10】実施例5の窒化ケイ素焼結体の基板断面の観察写真。
【0030】
図11】比較例1の窒化ケイ素焼結体の基板断面の観察写真。
【0031】
図12】本発明において、第1方向及び第2方向の破壊靱性値の測定方法を説明するための、(a)破壊靱性試験後の窒化ケイ素焼結体の基板断面の例示画像、および、(b)その模式図。
【発明を実施するための形態】
【0032】
本発明の一実施形態の窒化ケイ素焼結体は、所定厚の基板形状をなし、主に、基板表面に銅板などの金属板がろう接(ろう付け又は半田付け)されて、電子部品を搭載するための電子部品搭載用基板として使用され得る。なお、基板の厚みは、好適には、0.1~1.0mmである。
【0033】
本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、原料粉末として、シリコンが完全に窒化した後の窒化ケイ素換算で85~95モル%のシリコン、1~3モル%の希土類酸化物と、4~12モル%の窒化ケイ素マグネシウムとから構成された焼結体である。本実施形態では、希土類酸化物は、Y,La,Ce,Pr,Nd,Sm,Gd,Dy,Ho,Er,Ybの酸化物またはこれらの組み合わせから選択され得る。
【0034】
窒化ケイ素焼結体の基板に含まれるβ型窒化ケイ素粒子は、長軸および短軸を有する細長い六角柱状の結晶構造を有している。本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、基板の厚み方向にβ型窒化ケイ素を優先的に配向させるように制御したことで、厚み方向の熱伝導性の改善を図ったものである。本実施形態の窒化ケイ素焼結体の特性を以下に示す。
【0035】
本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、基板平面におけるβ型窒化ケイ素の(hk0)面の配向度を示すロットゲーリングファクタf(hk0)が負の値となるように構成されている。
【0036】
ロットゲーリングファクタf(hk0)は、多結晶体を構成する各結晶粒の配向の程度を表す指標である。ロットゲーリングファクタf(hk0)の値は、対象とする結晶面から回折されるX線の各回折ピークの積分強度を用いて、以下の式1~3により計算する。
f(hk0)=(ρ―ρ)/(1―ρ) (式1)
ρ=ΣI(hk0)/ΣI(hkl) (式2)
ρ=ΣI(hk0)/ΣI(hkl) (式3)
ρは無配向試料のX線回折スペクトルの2θが20度から65度の範囲における回折強度Iを用いて計算され、全回折強度の和ΣI(hkl)に対する(hk0)面の回折強度の合計ΣI(hk0)の割合として、式2により求められる。ここで、回折強度Iは、基準試料(対象試料と同一組成を有する無配向試料)のX線回折スペクトルから計算される。また、ρは、窒化ケイ素焼結体の試料のX線回折スペクトルの2θが20度から65度の範囲における回折強度Iを用いて計算され、全回折強度の和ΣI(hkl)に対する(hk0)面の回折強度の合計ΣI(hk0)の割合として、式3により求められる。なお、h、k、lは整数であり、面指数を表す。得られた試料の結晶配向がランダムであれば、ρとρの差は小さく、式1により、f(hk0)はゼロに近い値となる。f(hk0)が負の値(ρ<ρ)となれば、得られた試料の方が、無配向試料よりも、(hk0)面の配向度が低いことを意味している。すなわち、得られた試料のロットゲーリングファクタf(hk0)が負の値をとることで、β型窒化ケイ素粒子の(00l)面(つまり長軸)が板厚方向へ強く配向していることが示される。
【0037】
また、本実施形態の窒化ケイ素焼結体の基板におけるβ型窒化ケイ素粒子の配向度を示す他の指標として、窒化ケイ素焼結体のβ型窒化ケイ素の(101)面のX線回折ピークの強度I101と、β型窒化ケイ素の(210)面のX線回折ピークの強度I210との強度比I101/I210が挙げられる。本実施形態の窒化ケイ素焼結体では、強度比I101/I210が、1.5以上であり、長軸の板厚方向への配向が推測される。
【0038】
さらに、本実施形態の窒化ケイ素焼結体では、基板表面の粗さを示す算術平均高さSaが0.8μm以上である。β型窒化ケイ素粒子は、柱状粒子であるため、板厚方向へβ型窒化ケイ素粒子の長軸が優先配向すると、基板表面から粒子先端が飛び出したような形状となるため、算術平均高さSaが0.8μm以上となり、比較的高い値を示す。
【0039】
そして、本実施形態の窒化ケイ素焼結体では、基板を平面に対して垂直に切断した断面を撮影した断面写真において、200,000μmの領域中に、長軸が50μm以上であるβ型窒化ケイ素の粗大粒子が10個以上含まれることが観察された。その中でも、長軸が50μm以上、かつ、基板表面の法線に対する傾斜角が45度以下であるβ型窒化ケイ素の粗大粒子が8個以上含まれることが観察された。すなわち、顕微鏡を用いた解析において、多数のβ型窒化ケイ素の粗大粒子の長軸が板厚方向に配向していることが示された。
【0040】
すなわち、本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、50μm以上の長軸を有する粗大粒子を比較的多く含み、かつ、基板の厚み方向にβ型窒化ケイ素の長軸を優先配向させたものである。
【0041】
そして、本実施形態の窒化ケイ素焼結体では、基板の厚み方向の熱伝導率が100W/mK以上である。すなわち、β型窒化ケイ素粒子の形状は棒状であり、長軸方向の熱伝導率は短軸方向に比べて約2倍である。そのため、β粒子を板厚方向に揃えたことにより、板厚方向への熱伝導率が大きく改善される。
【0042】
また、本実施形態の窒化ケイ素焼結体は、相対密度98%以上に緻密化されている。そして、本実施形態の窒化ケイ素焼結体では、基板平面に平行な第1方向の破壊靱性の値KC1が5.5MPa・m1/2以上であり、基板平面に垂直な第2方向の破壊靱性の値KC2が5.5MPa・m1/2以上である。さらに、第1方向の破壊靱性の値KC1と第2方向の破壊靱性の値KC2との比KC1/KC2が0.85以上である。すなわち、窒化ケイ素焼結体において、柱状結晶が縦方向に揃うように制御されたことにより、基板の機械的強度(破壊靱性)が等方的に発揮され、第1方向および第2方向の両方で高い機械的強度(破壊靱性)が発揮されている。
【0043】
続いて、本実施形態の窒化ケイ素焼結体を製造する方法について説明する。窒化ケイ素焼結体の製造方法は、窒化ケイ素粉末を出発原料として用いるのではなく、シリコン粉末を出発原料とし、成形したシリコン粉末を窒素雰囲気中で加熱し、窒化と緻密化とを同時に行う反応焼結法による。一般的に、反応焼結法は、原料純度が高いため、焼結体の熱伝導率が向上するが、緻密化させるための原料調整や焼成条件が難しいと言われている。また、一般的な反応焼結法では、シリコン粉末から棒状のβ型窒化ケイ素粒子へ転換するため、その配向を板厚方向に制御することは困難であり、配向がランダムとなり易いことが分かっている。
【0044】
本実施形態によれば、窒化ケイ素焼結体の製造方法は、主に、窒化ケイ素焼結体において、窒化ケイ素85~95モル%、希土類酸化物1~3モル%および窒化ケイ素マグネシウム4~12モル%のモル比率となるように、シリコン原料粉末、希土類酸化物粉末および窒化ケイ素マグネシウム粉末を混合して混合粉末を作製する混合工程と、混合粉末をスラリー化し、シート状に成形して成形体を作製する成形工程と、成形体を窒素雰囲気中で第1の温度から第2の温度まで加熱する窒化工程と、窒素雰囲気中、第3の温度および所定の時間で成形体を焼成して窒化ケイ素焼結体を得る緻密化工程と、を含むことを特徴とする。以下、各工程について、より具体的に説明する。
【0045】
出発原料としてシリコン粉末を準備する。シリコン粉末と有機溶剤と分散剤とをボールミルで粉砕し、シリコン粉末の比表面積が5.0m/g以上、D99.9径が9.5μm以下となるように粒度調整を行う。ここで、横軸を粒子径(μm)、縦軸を頻度(%)とした粒子径分布曲線において、D50径(メディアン径)は、頻度が50%の粒子径であり、D99.9径は、頻度が99.9%の(分布の最頻値に対応する)粒子径である。シリコン粉末の粒度調整ができたら、焼結助剤として、希土類酸化物粉末および窒化ケイ素マグネシウム粉末を混合して混合粉末を作製する。窒化ケイ素マグネシウム粉末の比表面積は、9.0m/g以上であることが好ましい。ここで、モル比として、シリコンが完全に窒化した後の窒化ケイ素換算で85~95モル%のシリコン、1~3モル%の希土類酸化物および4~12モル%の窒化ケイ素マグネシウムが混合される。この混合粉末に対し、ボールミルで十分に混合を行い、その後、バインダー、可塑剤および有機溶剤を添加し、スラリーとする。
【0046】
次に、スラリーを真空脱泡し、粘度調整を行う。脱泡後のスラリーに含まれる有機溶剤の割合を35wt%以下とし、スラリーの粘度は15000~25000cpsとする。そして、ドクターブレード等によってシート状の成形体を作製する。
【0047】
成形体は、無機充填率が47%以上となるように作製される。成形体の無機充填率を47%以上とするには、シリコン粉末の比表面積が9.0m/g以下(つまり、5.0~9.0m/gの範囲内)となるように粉砕粒度を調整し、かつ、脱泡後の有機溶剤の割合を35wt%以下とすることが好ましい。シリコン粉末の比表面積が9.0m/gよりも大きくなると、微粒のシリコン粉末の割合が多くなり、凝集を生じやすくなるため、充填性が悪くなる。また、脱泡後のスラリーに含まれる有機溶剤の割合が35wt%を超えると、シート成形時に揮発する有機溶剤分が多くなるため、乾燥収縮が大きくなり、成形体内に細かい気泡が生じやすくなる。なお、無機充填率の測定方法は以下のとおりである。測定に用いるシート成形体は、残留する有機溶剤が0.1wt%以下のものを使用した。シート成形体の体積および重量を測定し、成形体のグリーン密度ρ(g/cm)を測定する。その後、測定に用いたシート成形体を500℃/3hの大気中で脱バインダー処理を行った。脱バインダー処理後の重量を測定することで有機分率Pi(%)を求め、下記の式4によって無機充填率Fi(%)の計算を行った。
Fi=ρ×(1-Pi/100)/ρth×100 (式4)
ここで、ρthはミル配合時の理論密度であり、原料無機分の重量比から計算した値である。
【0048】
次いで、作製したシート状の成形体を約500~800℃の乾燥空気雰囲気で脱バインダーを行った。その後、炉内で約1000℃(第1の温度)まで真空中で加熱した後、窒素加圧雰囲気とし、約1000℃から約1350℃(第2の温度)まで昇温させる。この際、窒素加圧雰囲気中で、第1の温度から第2の温度まで徐々に(例えば1℃/分)昇温させることで、成形体の窒化を行うことができる。そして、炉内をより高圧の窒素加圧雰囲気とし、第2の温度から第3の温度として約1750~2000℃(好適には1900℃)まで昇温させる。昇温後、第3の温度で長時間(例えば約8時間)の温度保持を行うことで、窒化された成形体を焼成し、成形体の緻密化を十分に行って、窒化ケイ素焼結体を作製することができる。
【0049】
上記説明した工程を経ることによって、β型窒化ケイ素粒子が基板の厚み方向に優先的に配向した窒化ケイ素焼結体を製造することが可能である。すなわち、製造方法において、窒化ケイ素マグネシウムの使用と、酸化イットリウムの添加量を極力少なくすること(すなわち、希土類酸化物を1~3モル%とする)で成形体内の酸素量を抑えることで、窒化工程および緻密化工程における還元性が高まっていると考察され得る。このように還元性が高まると、シリコン粉末表面のシリコン酸化膜が還元され、SiO(g)が板厚方向へ揮散する。さらに、SiO(g)+CO(g)→Si(g)+CO(g)の還元反応が促進し、発生したSi(g)は緻密化前の多孔質体内で3Si(g)+2N(g)→β-Siの反応過程を得て、気孔内でβ-Siが板厚方向へ析出すると考えられる。更に、熱処理温度が増加すると、気孔内で板厚方向に析出したβ-Siを核として板厚方向にβ型窒化ケイ素粒子が優先配向した窒化ケイ素基板が得られる。そして、板厚方向へβ型窒化ケイ素粒子が伸長することで、熱伝導率が高くなり、絶縁基板としての放熱性が向上することが考えられる。
【0050】
なお、上記説明した工程は、一例にすぎず、本発明を限定するものではない。例えば、スラリーの成形方法はドクターブレード法に限定されず、スラリーは押出成形法、鋳込成形法等などでシート成形体に加圧成形されてもよい。
【実施例
【0051】
以下、本発明を実施例および比較例に基づいて、さらに具体的に説明するが、本発明は下記の実施例によって限定解釈されるものではない。
【0052】
実施例1~20、比較例1~8に係る窒化ケイ素焼結体は以下の条件および手順によって作製された。
【0053】
所定の粉末特性を有するシリコン粉末、および、焼結助剤粉末を準備した。適量のシリコン粉末をボールミルに投入し、シリコン粉末と有機溶剤と分散剤をボールミルで粉砕し、シリコン粉末の比表面積およびD99.9径の値が所定値になるまで粒度調整を行った。ここで、各試料における配合組成比、ならびに、シリコン粉末のD99.9径、D50径および比表面積の値は、表1のとおりである。シリコン粉末の粒度調整ができたら、焼結助剤を添加し、ボールミルで1時間の混合を行った。その後、バインダー(ポリビニルブチラール)と可塑剤(アジピン酸ジオクチル)と有機溶剤(トルエンとエタノールの混合溶媒)とを添加してスラリーとした。スラリーを真空脱泡して粘度調整を行った。脱泡後のスラリーに含まれる有機溶剤の割合を35wt%以下とし、スラリーの粘度は15000~25000cpsとした。スラリーの粘度は、東機産業株式会社製のTVC-7形粘度計によって測定された。具体的には、スピンドルをスラリー中で回転させ、その抵抗力から粘度が算出された。そして、成形速度を200mm/min以上としたドクターブレードによってシート状の成形体を作製した。次に、各試料のシート状の成形体の無機充填率Fi(%)を測定した。作製したシート状の成形体表面に離型材としてのBNをスプレー塗布し、1ブロック20枚の積層体を準備した。積層体を乾燥空気中500℃で脱バインダーを行い、その後、炉に投入し、真空中で約1000℃まで加熱し、0.2MPaの窒素加圧雰囲気中で約1350℃まで1℃/minで昇温させた。そして、0.9MPaの窒素加圧雰囲気とし、約1350℃から約1900℃まで昇温させ、約1900℃で約8時間かけて焼成を行った。焼成後、積層基板を分離し、ホーニング圧力0.4MPaでアルミナ砥粒(平均粒径~50μm)を吹きつけることにより焼結面をホーニング処理し、板厚0.35mmである190mm×140mmの窒化ケイ素焼結体を得た。
【0054】
作製した実施例1~20および比較例1~8の各試料について、X線回折測定によって各試料の結晶相の同定を行い、X線回折パターンを解析することにより、各回折ピークの積分強度、ロットゲーリングファクタf(hk0)、および、強度比I101/I210を導出した。また、各試料について、垂直切断断面のβ型窒化ケイ素粒子を観察し、200,000μmの領域中に、長軸が50μm以上である粗大粒子が何個あるか、また、基板表面の法線に対する傾斜角が45度以下である粗大粒子が何個あるかを導出した。さらに、各試料について、相対密度、算術平均高さSa、熱伝導率(W/mK)、破壊靱性(MPa・m1/2)が測定された。各種測定は、以下の条件の下で行われた。
【0055】
・X線回折測定およびその分析
株式会社リガク製の型式UltimaIVを用いて、Cu-Kα線を用いた粉末X線回折法により、各試料のX線回折強度測定を行った。測定には、10mm×10mmにカットした個片を使用した。ホーニング後の基板表面を測定面とした。測定条件は、以下のとおりである。
サンプリング幅:0.02度
スキャンスピード:10度/分
発散スリット:2/3度
発散縦スリット:10mm
散乱スリット:8mm
受光スリット:開放
管電圧/電流:40kV/40mA
検出器:半導体検出器
基板平面へのX線入射によって得られた基板平面のX線回折パターンにおいて、β型窒化ケイ素粒子のミラー指数(hkl)に対応する回折ピークの積分強度を算出した。算出したピーク強度に基づいて、ロットゲーリングファクタf(hk0)、および強度比I101/I210を導出した。
【0056】
・垂直切断断面のβ型窒化ケイ素粒子の観察方法
10mm×10mmにカットした個片を使用し、個片をエポキシ樹脂へ埋め込み、基板垂直断面の観察を行った。観察面は下記手順により作製した。#800のダイヤモンド研磨紙で平面出しを行い、各前工程で生じた研磨傷がなくなるまで、15μm、6μm、1μmの順にダイヤモンドスラリーで研磨を行い、50nmのアルミナスラリーで仕上げ研磨を行うことで鏡面を得た。鏡面加工後はCFのプラズマエッチングを行い、観察面とした。そして、株式会社キーエンス製のレーザー顕微鏡VKX-150を用いて、上記観察面を対物レンズ倍率20倍で観察し、断面の写真撮影を行った。断面写真の画像処理を行い、領域200,000μmの断面写真において、β型窒化ケイ素粒子の中で長軸が50μm以上の粗大粒子の数、および、該粗大粒子の中でさらに、基板表面に対する法線に対して傾きが45度以下である粗大粒子の数を測定した。
【0057】
・相対密度
原料配合比から求めた理論密度に対する焼結体の密度から計算した(式5)。焼結体の密度は純水を使用したアルキメデス法により測定した。
相対密度(%)=(焼結体密度/理論密度)×100 (式5)
【0058】
・算術平均高さSa
ホーニング加工後の基板表面について、500μm×500μmの領域の表面粗さSaを、株式会社キーエンス製のレーザー顕微鏡VKX-150を用いて測定した。測定条件は、以下のとおりである。
対物レンズ倍率:×20
画像補正:面傾き自動補正
フィルター種別:ガウシアン
S-フィルター:2μm
F-オペレーション:なし
L-フィルター:0.2mm
終端効果の補正:あり
【0059】
・熱伝導率
基板の厚み方向の熱伝導率の測定方法には、フラッシュ法が採用された。測定には、NETZSCH Geratebau GmbH製の熱伝導率測定装置LFA467が使用された。測定には、基板から10mm×10mmにカットした個片を使用した。フラッシュ光の透過を抑える目的で個片両面に金のスパッタ膜を形成し、パルス光を均一に吸収させる目的で個片両面にグラフェンスプレーを使用し、黒化処理を行った。熱伝導率の算出時には、得られた焼結体の比熱として0.68J/(g・K)の値を用いた。
【0060】
・破壊靱性
株式会社ミツトヨ製のビッカース硬度測定器HV-120を用いて、JIS-R1607に従って各試料の破壊靱性を測定した。すなわち、基板の厚み方向に沿って切断した基板断面の鏡面研磨加工を行い、図12(a)、(b)に示すように、鏡面加工面へ対角線の長さa1、a2を有する圧こんを鏡面加工面の厚み方向に対して中央付近に形成し、生じた圧こんの対角線長さa1とa2、圧こんの頂点から生じたき裂の長さc1とc2を測定し、押込荷重、圧こんの対角線長さ、き裂長さおよび弾性率から破壊靱性値Kを求めた。JIS-R1607によれば、破壊靱性値KCは、以下の式によって求められる。
=0.026×E1/2×P1/2×a/C3/2 (式6)
C=((c1/2+c2/2)/2)/2 (式7)
a=((a1/2+a2/2)/2)/2 (式8)
E:弾性率 P:押し込み荷重
a:圧こんの対角線長さの平均の半分
C:クラック長さの平均の半分
これに対し、本実施形態では、破壊靱性値Kを第1方向(基板平面に平行な方向)の破壊靱性値KC1、第2方向(基板平面に垂直な方向)の破壊靱性値KC2と分けて評価した。具体的には、基板平面に平行な方向に生じたクラック長さをc1とし、式6のCをc1/2とすることにより、KC1を算出した。また、c1に対して垂直な方向(基板の厚み方向)に生じたクラック長さをc2とし、式6のCをc2/2とすることにより、KC2を算出した。試験片の厚みは0.35mmとし、押し込み荷重Pは10kgfとした。
【0061】
実施例1~14および参考例1~8の各試料についての条件および各種測定結果を表1,3に示した。実施例15~20の各試料についての条件および各種測定結果を表2,4に示した。また、図1~3は、実施例1、5、比較例1の試料の基板表面を2000倍で撮影したSEM写真を例示的に示す。図4~8は、実施例1,5,12,比較例1,7のX線回折パターンを例示的に示す。X線回折パターンには、β型窒化ケイ素粒子の各回折ピークにミラー指数(hkl)を記載した。図9~11は、実施例1、5、比較例1の断面写真を例示的に示す。
【0062】
【表1】
【0063】
【表2】
【0064】
【表3】
【0065】
【表4】
【0066】
実施例1~20は、モル比率において、シリコン(窒化ケイ素換算)85~95モル%、希土類酸化物1~3モル%および窒化ケイ素マグネシウム4~12モル%の原料粉末からなる。ここで、実施例1~14では、希土類酸化物(RE)として酸化イットリウム(Y)が選択された。実施例15~20では、希土類酸化物(RE)としてLa、Sm、Gd、Dy、Er、およびYbがそれぞれ選択された。そして、出発原料であるシリコン粉末のD99.9径が8.0~9.5μm(9.5μm以下)であり、比表面積が5.0~8.0m/g(5.0m/g以上かつ9.0m/g以下)である。また、実施例1~20では、成形工程で作製された成形体の無機充填率が、47%以上となった。一方で、比較例1、2は、窒化ケイ素マグネシウムの代わりに、酸化マグネシウムを原料粉末とした試料である。比較例3は、窒化ケイ素マグネシウムを3モル%(4モル%未満)とした試料である。比較例4は、出発原料であるシリコン粉末のD99.9径を12.3μm(9.5μmよりも大きい)とし、比表面積を4.3m/g(5.0m/g未満)とした試料である。比較例5は、出発原料であるシリコン粉末の比表面積を9.9m/g(9.0m/gよりも大きい)とした試料である。比較例6は、酸化イットリウムを0.9モル%(1モル%未満)とした試料である。比較例7は、窒化ケイ素マグネシウムを12.7モル%(12モル%よりも大きい)とし、かつ、D99.9径を10.1μm(9.5μmよりも大きい)とした試料である。比較例8は、窒化ケイ素マグネシウムを0.5モル%(4モル%未満)とした試料である。また、比較例4、5、7では、そのシリコン粉末特性のため、成形工程で作製された成形体の無機充填率が、47%未満となった。なお、比較例1~3、6、8では、成形体の無機充填率の測定が省略されたが、シリコン粉末特性および製造条件が類似していることから、実施例と同様に、無機充填率が47%以上となることが推定される。
【0067】
図1~3に示した窒化ケイ素焼結体の基板表面のSEM写真(倍率2000倍)では、棒状のβ型窒化ケイ素粒子が確認できる。特に、実施例1,5に対応する図1,2では、長軸が基板の厚み方向に並んだβ型窒化ケイ素粒子の短軸方向の断面を観察することができる。また、図4~8のX線回折パターンでは、β型窒化ケイ素粒子の(110)面、(200)面、(101)面、(120)面、(201)面および(301)面に対応する2θにおいて、回折ピークが確認された。
【0068】
表1は、窒化ケイ素焼結体の実施例1~14および比較例1~8の各試料の構造的特徴を示している。表1によれば、実施例1~14では、β型窒化ケイ素粒子の(hk0)面の配向度を示すロットゲーリングファクタf(hk0)が負の値を示し、強度比I101/I210が1.5以上を示している。つまり、β型窒化ケイ素の配向が、基板の厚み方向に優位となっていることが分かる。これに対し、比較例1~8では、ロットゲーリングファクタf(hk0)が正の値と示し、強度比I101/I210が1.0未満を示している。また、表1は、実施例1~14では、基板表面の粗さを示す算術平均高さSaが0.8μm以上となることを示している。一方で、比較例1~8では、比較例6を除いて、算術平均高さSaが0.8μm未満である。さらに、表1および図9、10に示すように、撮影した基板断面画像の画像解析結果によれば、実施例1~14では、領域200,000μmの断面写真において、長軸が50μm以上のβ型窒化ケイ素の粗大粒子が10個以上含まれ、かつ、粗大粒子のうち基板表面の法線に対する傾斜角が45度以下であるβ型窒化ケイ素粒子が7個以上含まれることが示された。一方で、比較例1~8では、表1および図11に示すように、領域200,000μmの断面写真において、長軸が50μm以上のβ型窒化ケイ素の粗大粒子が8個以下であり、かつ、粗大粒子のうち基板表面の法線に対する傾斜角が45度以下であるβ型窒化ケイ素粒子が6個以下であった。
【0069】
表2は、窒化ケイ素焼結体の実施例15~20の各試料の構造的特徴を示している。実施例15~20では、β型窒化ケイ素粒子の(hk0)面の配向度を示すロットゲーリングファクタf(hk0)が負の値を示している。実施例15、16、20では、強度比I101/I210が1.1以上を示し、実施例17~19では、強度比I101/I210が1.5以上を示している。また、表2は、実施例15~20では、基板表面の粗さを示す算術平均高さSaが0.8μm以上となることを示している。さらに、表2に示すように、撮影した基板断面画像の画像解析結果によれば、実施例15~20では、領域200,000μmの断面写真において、長軸が50μm以上のβ型窒化ケイ素の粗大粒子が10個以上含まれることが示された。また、表2によれば、希土類酸化物がYbである実施例20を除いて、粗大粒子のうち基板表面の法線に対する傾斜角が45度以下であるβ型窒化ケイ素粒子が8個以上含まれることが示された。実施例20では、7個の、傾斜角が45度以下のβ型窒化ケイ素粒子が確認された。すなわち、実施例1~20では、粗大粒子のうち基板表面の法線に対する傾斜角が45度以下であるβ型窒化ケイ素粒子が少なくとも7個含まれることが示された。
【0070】
上記結果から、実施例1~20の窒化ケイ素焼結体では、比較例の試料に対して、基板の厚み方向にβ型窒化ケイ素の長軸が優先配向していることが推定される。また、実施例1~20の窒化ケイ素焼結体では、比較例の試料に対して、長軸が50μm以上であるβ型窒化ケイ素の粗大粒子が相対的に多く形成され、なおかつ、基板の厚み方向(法線に対して45度以内)に粗大粒子が優先的に並んでいることが分かった。すなわち、本発明の窒化ケイ素焼結体は、β型窒化ケイ素粒子が板厚方向に粗大化するように結晶成長したことを特徴とする。
【0071】
表3は、実施例1~14および比較例1~8の窒化ケイ素焼結体の各試料の熱伝導率および物理的強度を示している。表3によれば、実施例1~14では、基板の厚み方向の熱伝導率が100W/mK以上であった。他方、比較例1~8では、熱伝導率が100W/mK未満であった。すなわち、窒化ケイ素焼結体の結晶構造において、β型窒化ケイ素粒子の長軸の基板の厚み方向への優先配向と、β型窒化ケイ素粒子の粗大粒子化が、熱伝導率の向上に寄与していることが分かる。また、表3によれば、実施例1~14では、基板平面に平行な第1方向の破壊靱性の値KC1が5.5MPa・m1/2以上であり、基板平面に垂直な第2方向の破壊靱性の値KC2が5.5MPa・m1/2以上であった。さらに、実施例1~14では、第1方向の破壊靱性の値KC1と第2方向の破壊靱性の値KC2との比KC1/KC2が0.85~1.2であり、基板の機械的強度(破壊靱性)が等方的に発揮されていることが示された。これに対し、比較例1~8では、比KC1/KC2が約0.8となり、基板平面に垂直な第2方向の破壊靱性の値KC2が明らかに大きくなることが分かった。
【0072】
表4は、実施例15~20の窒化ケイ素焼結体の各試料の熱伝導率および物理的強度を示している。表4によれば、実施例15~20では、基板の厚み方向の熱伝導率が100W/mK以上であった。また、表4によれば、実施例15~20では、基板平面に平行な第1方向の破壊靱性の値KC1が5.5MPa・m1/2以上であり、基板平面に垂直な第2方向の破壊靱性の値KC2が、5.5MPa・m1/2とほぼ等しいか、または5.5MPa・m1/2以上であった。さらに、実施例15~20では、第1方向の破壊靱性の値KC1と第2方向の破壊靱性の値KC2との比KC1/KC2が0.85~1.2であり、基板の機械的強度(破壊靱性)が等方的に発揮されていることが示された。
【0073】
本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、本発明の技術的範囲に属する限りにおいて種々の態様で実施しうるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12