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特許7684669鞍乗型車両用跨ぎ部パッドおよび鞍乗型車両
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-20
(45)【発行日】2025-05-28
(54)【発明の名称】鞍乗型車両用跨ぎ部パッドおよび鞍乗型車両
(51)【国際特許分類】
   B62J 25/02 20200101AFI20250521BHJP
   B62J 35/00 20060101ALI20250521BHJP
【FI】
B62J25/02
B62J35/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024507723
(86)(22)【出願日】2023-03-02
(86)【国際出願番号】 JP2023007817
(87)【国際公開番号】W WO2023176476
(87)【国際公開日】2023-09-21
【審査請求日】2024-07-01
(31)【優先権主張番号】P 2022044054
(32)【優先日】2022-03-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010076
【氏名又は名称】ヤマハ発動機株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519366237
【氏名又は名称】NatureArchitects株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100139930
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 亮司
(72)【発明者】
【氏名】奥田 裕也
(72)【発明者】
【氏名】谷道 鼓太朗
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】実開平06-42569(JP,U)
【文献】特表2021-531107(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0076758(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0235798(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0007115(US,A1)
【文献】米国特許第5511822(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62J 25/02
B62J 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部がライダーに接するように鞍乗型車両の跨ぎ部に取り付けられる鞍乗型車両用跨ぎ部パッドであって、
負のポアソン比を有する第1部分を含み、
互いに硬さが異なる第3部分および第4部分を含み、
ライダーの膝および/または内腿に接する位置に配置される一対のニーパッド部と、
前記一対のニーパッド部の間に位置するミドルパッド部と、
を有し、
前記第3部分は、前記第4部分よりも硬く、
前記一対のニーパッド部のそれぞれに前記第3部分が含まれ、
前記ミドルパッド部に前記第4部分が含まれる、跨ぎ部パッド。
【請求項2】
前記第1部分のポアソン比と異なるポアソン比を有する第2部分を含む、請求項1に記載の跨ぎ部パッド。
【請求項3】
記一対のニーパッド部のそれぞれに前記第1部分が含まれる、請求項1または2に記載の跨ぎ部パッド。
【請求項4】
前記ミドルパッド部の最大厚さは、前記一対のニーパッド部のそれぞれの最小厚さよりも大きく、かつ、前記一対のニーパッド部のそれぞれの最大厚さ以上である、請求項またはに記載の跨ぎ部パッド。
【請求項5】
前記ミドルパッド部の最大厚さは、前記一対のニーパッド部のそれぞれの最大厚さよりも大きい、請求項に記載の跨ぎ部パッド。
【請求項6】
三次元格子状の複数の単位構造体を含むラティス構造を有する、請求項1または2に記載の跨ぎ部パッド。
【請求項7】
付加製造技術により樹脂材料またはゴム材料から形成されている、請求項1または2に記載の跨ぎ部パッド。
【請求項8】
請求項1または2に記載の跨ぎ部パッドを備えた鞍乗型車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鞍乗型車両用跨ぎ部パッドおよび鞍乗型車両に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車のタンクの傷付きを防止する目的で、タンクの後部(ライダーの衣服等に接触する部分)にタンクパッドと呼ばれるパッド部材が貼り付けられることがある。タンクパッドは、例えば特許文献1に開示されている。
【0003】
また、ニーグリップ時にライダーの膝等を滑りにくくするために、タンクの側部にニーパッドと呼ばれるパッド部材が貼り付けられることがある。ニーパッドは、例えば特許文献2に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/170689号
【文献】特開2018-52454号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本願発明者は、タンクパッドおよびニーパッド(後述するように本願明細書では「跨ぎ部パッド」と総称することがある)に新たな付加価値を付与すベく、鋭意検討を行った。
【0006】
本発明の実施形態の目的は、快適性が向上する鞍乗型車両用跨ぎ部パッドを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書は、以下の項目に記載の鞍乗型車両用跨ぎ部パッドおよび鞍乗型車両を開示している。
【0008】
[項目1]
少なくとも一部がライダーに接するように鞍乗型車両の跨ぎ部に取り付けられる鞍乗型車両用跨ぎ部パッドであって、
負のポアソン比を有する第1部分を含む、跨ぎ部パッド。
【0009】
本発明の実施形態による跨ぎ部パッドは、負のポアソン比を有する(つまりオーセチック構造を有する)部分(第1部分)を含むので、その部分は、荷重が加えられると荷重点を包み込むように変形する。そのため、ライダーの身体に対するフィット感が向上するので、快適性が向上する。
【0010】
[項目2]
前記第1部分のポアソン比と異なるポアソン比を有する第2部分を含む、項目1に記載の跨ぎ部パッド。
【0011】
本発明の実施形態による跨ぎ部パッドは、第1部分のポアソン比と異なるポアソン比を有する第2部分を含んでいてもよい。つまり、本発明の実施形態による跨ぎ部パッドは、ポアソン比に分布を有していてもよい。跨ぎ部パッドがポアソン比に分布を有することにより、跨ぎ部パッドに接するライダーの身体部位に応じたフィット感を設定することができ、快適性がいっそう向上する。
【0012】
[項目3]
ライダーの膝および/または内腿に接する位置に配置される一対のニーパッド部と、
前記一対のニーパッド部の間に位置するミドルパッド部と、
を有し、
前記一対のニーパッド部のそれぞれに前記第1部分が含まれる、項目1または2に記載の跨ぎ部パッド。
【0013】
負のポアソン比を有する第1部分がニーパッド部に含まれていることにより、ニーパッド部におけるフィット感を高くすることができる。そのため、ニーグリップが弱くても身体をしっかりホールドできので、ニーグリップが容易となり、快適性が向上する。
【0014】
[項目4]
互いに硬さが異なる第3部分および第4部分を含む、項目1または2に記載の跨ぎ部パッド。
【0015】
本発明の実施形態による跨ぎ部パッドは、互いに硬さが異なる第3部分および第4部分を含んでいてもよい。つまり、本発明の実施形態による跨ぎ部パッドは、硬さ分布を有していてもよい。跨ぎ部パッドが硬さ分布を有することにより、跨ぎ部パッドに接する身体部位に応じた硬さを設定することができ、快適性がいっそう向上する。
【0016】
[項目5]
ライダーの膝および/または内腿に接する位置に配置される一対のニーパッド部と、
前記一対のニーパッド部の間に位置するミドルパッド部と、
を有し、
前記第3部分は、前記第4部分よりも硬く、
前記一対のニーパッド部のそれぞれに前記第3部分が含まれ、
前記ミドルパッド部に前記第4部分が含まれる、項目4に記載の跨ぎ部パッド。
【0017】
相対的に硬い第3部分がニーパッド部に含まれ、相対的に柔らかい第4部分がミドルパッド部に含まれていることにより、ニーグリップ時に身体をしっかり支持したい部位であるニーパッド部を硬くするとともに、体圧を分散して圧迫感を軽減したい部位であるミドルパッド部を柔らかくすることができる。
【0018】
[項目6]
前記ミドルパッド部の最大厚さは、前記一対のニーパッド部のそれぞれの最小厚さよりも大きく、かつ、前記一対のニーパッド部のそれぞれの最大厚さ以上である、項目3または5に記載の跨ぎ部パッド。
【0019】
ミドルパッド部の最大厚さは、各ニーパッド部の最小厚さよりも大きく、かつ、各ニーパッド部の最大厚さ以上であってもよい。つまり、跨ぎ部パッドは、厚さ分布を有していてもよい。跨ぎ部パッドが厚さ分布を有することにより、跨ぎ部パッドに接するライダーの身体部位に応じた適切な体圧分散を図ることができ、快適性が向上する。ミドルパッド部の最大厚さが各ニーパッド部の最小厚さよりも大きく、かつ、各ニーパッド部の最大厚さ以上であることにより、ミドルパッド部におけるフィット感および振動低減性を高めつつ、ニーパッド部における下半身の保持(ニーグリップ)を好適に行うことができる。
【0020】
[項目7]
前記ミドルパッド部の最大厚さは、前記一対のニーパッド部のそれぞれの最大厚さよりも大きい、項目6に記載の跨ぎ部パッド。
【0021】
ミドルパッド部におけるフィット感および振動低減性を高める観点からは、ミドルパッド部の最大厚さは、各ニーパッド部の最大厚さよりも大きいことが好ましい。
【0022】
[項目8]
三次元格子状の複数の単位構造体を含むラティス構造を有する、項目1から7のいずれかに記載の跨ぎ部パッド。
【0023】
跨ぎ部パッドは、三次元格子状の複数の単位構造体を含むラティス構造を有していてもよい。ラティス構造の単位構造体の設計を適宜変更することにより、跨ぎ部パッドのポアソン比を調整して負のポアソン比を実現することができる。また、跨ぎ部パッドの複数の部分において、単位構造体の設計を互いに異ならせることによってポアソン比を互いに異ならせたり、硬さを互いに異ならせたりすることもできる(つまり跨ぎ部パッドにポアソン比の分布を持たせたり、硬さの分布を持たせたりすることができる)。さらに、跨ぎ部パッドがラティス構造を有することにより、通気性が向上し、蒸れを抑制することができる。
【0024】
[項目9]
付加製造技術により樹脂材料またはゴム材料から形成されている、項目1から8のいずれかに記載の跨ぎ部パッド。
【0025】
本発明の実施形態による跨ぎ部パッドは、例えば、付加製造技術を用いて樹脂材料またはゴム材料から形成され得る。付加製造技術を用いることにより、ラティス構造を有する跨ぎ部パッドを好適に形成することができ、負のポアソン比を有する跨ぎ部パッドを容易に得ることができる。
【0026】
[項目10]
項目1から9のいずれかに記載の跨ぎ部パッドを備えた鞍乗型車両。
【0027】
本発明の実施形態による跨ぎ部パッドは、各種の鞍乗型車両に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の実施形態によると、快適性が向上する鞍乗型車両用跨ぎ部パッドを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の実施形態による自動二輪車1を模式的に示す左側面図である。
図2A】自動二輪車1が備える跨ぎ部パッド100を模式的に示す平面図である。
図2B】跨ぎ部パッド100を模式的に示す断面図であり、図2A中の2B-2B’線に沿った断面を示している。
図3A】正のポアソン比を有する部材Pに圧縮荷重を加えたときの変化を示す図である。
図3B】負のポアソン比を有する部材Pに圧縮荷重を加えたときの変化を示す図である。
図4A】跨ぎ部パッド100を模式的に示す断面図である。
図4B】跨ぎ部パッド100を模式的に示す平面図である。
図4C】跨ぎ部パッド100を模式的に示す断面図であり、図4B中の4C-4C’線に沿った断面を示している。
図5A】ラティス構造を有する跨ぎ部パッド100の一部を拡大して示す平面図であり、Z方向から見た図である。
図5B】ラティス構造を有する跨ぎ部パッド100の一部を拡大して示す断面図であり、YZ面に平行な断面を示している。
図6図5Bに例示したラティス構造を有する第1部分P1に対し、Z方向に平行に圧縮荷重が加えられたときにX方向およびY方向に生じるひずみを示す図である。
図7A】正のポアソンを有する第2部分P2の一部を拡大して示す平面図であり、Z方向から見た図である。
図7B】正のポアソンを有する第2部分P2の一部を拡大して示す断面図であり、YZ面に平行な断面を示している。
図8】跨ぎ部パッド100を模式的に示す断面図である。
図9A】実走評価において乗車感の向上が感じられたサンプルの荷重変位曲線を示すグラフである。
図9B】実走評価において乗車感の向上が感じられたサンプルの荷重変位曲線を示すグラフである。
図10A】跨ぎ部パッド100を模式的に示す平面図である。
図10B】跨ぎ部パッド100を模式的に示す断面図であり、図10A中の10B-10B’線に沿った断面を示している。
図11A】跨ぎ部パッド100を模式的に示す平面図である。
図11B】跨ぎ部パッド100を模式的に示す断面図であり、図11A中の11B-11B’線に沿った断面を示している。
図12A】跨ぎ部パッド100を模式的に示す平面図である。
図12B】跨ぎ部パッド100を模式的に示す断面図であり、図12A中の12B-12B’線に沿った断面を示している。
図13A】跨ぎ部パッド100を模式的に示す断面図である。
図13B】跨ぎ部パッド100を模式的に示す断面図である。
図13C】跨ぎ部パッド100を模式的に示す断面図であり、図10A中の13C-13C’に沿った断面に相当する。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明する。以下の説明では、本発明の実施形態による鞍乗型車両として自動二輪車を例示するが、本発明の実施形態による鞍乗型車両は、自動二輪車に限定されない。
【0031】
[自動二輪車および跨ぎ部パッドの構成]
図1を参照しながら、本発明の実施形態による自動二輪車1を説明する。図1は、自動二輪車1を模式的に示す左側面図である。図1に示す自動二輪車1は、オンロード型の自動二輪車1である。なお、本発明の実施形態による自動二輪車は、オンロード型の自動二輪車1に限定されず、モペット型、オフロード型等の他の型式の自動二輪車であってもよい。
【0032】
以下の説明において、前、後、左、右は、それぞれ自動二輪車1に着座したライダーから見た前、後、左、右を意味する。また、上、下は、それぞれ自動二輪車1が水平面上に停止しているときの上、下を意味する。
【0033】
図1に示すように、自動二輪車1は、車体フレーム10と、前輪2と、後輪3と、内燃機関(エンジン)4とを備えている。また、自動二輪車1は、車体フレーム10に支持される燃料タンク5と、ライダーが着座するシート6とを備えている。シート6は、燃料タンク5の後方に配置されている。
【0034】
車体フレーム10は、ヘッドパイプ11と、ヘッドパイプ11から後方かつ車幅方向の外方に延びる左右のサイドフレーム12と、左右のサイドフレーム12の後端から下方に延びる左右のダウンフレーム13とを含んでいる。ヘッドパイプ11には、ハンドル14が固定されたステアリングシャフト(不図示)が左右に回動可能に支持されている。ステアリングシャフトは、フロントフォーク7に固定されている。
【0035】
前輪2は、フロントフォーク7に支持されている。後輪3は、リアアーム8の後端部に支持されている。リアアーム8の前端部は、ピボット軸9により、ダウンフレーム13に上下に揺動可能に支持されている。前輪2は、従動輪である。後輪3は、エンジン4によって駆動される駆動輪である。エンジン4と後輪3とは、チェーン15によって連結されている。チェーン15は、エンジン4の動力を後輪3に伝達する動力伝達部材の一例である。動力伝達部材は、チェーン15に限定されず、伝動ベルト、ドライブシャフト等であってもよい。
【0036】
本明細書では、自動二輪車1に跨ったライダーの下半身に接し得る部分を「跨ぎ部」と呼ぶ。跨ぎ部は、シート6や燃料タンク5などを少なくとも部分的に含む。図示している例では、燃料タンク5の側部を覆う左右のタンクサイドカバー16の少なくとも一部も跨ぎ部に含まれる。また、本明細書では、少なくとも一部がライダーに接するように跨ぎ部に取り付けられるパッド部材を「跨ぎ部パッド」と呼ぶ。
【0037】
図1に示すように、自動二輪車1は、跨ぎ部に取り付けられた跨ぎ部パッド100を備える。以下、図2Aおよび図2Bも参照しながら、跨ぎ部パッド100の構成を説明する。図2Aは、跨ぎ部パッド100を模式的に示す平面図である。図2Bは、跨ぎ部パッド100を模式的に示す断面図であり、図2A中の2B-2B’線に沿った断面を示している。
【0038】
跨ぎ部パッド100は、図2Aおよび図2Bに示すように、一対のニーパッド部110と、ミドルパッド部120とを有する。跨ぎ部パッド100は、例えば樹脂材料またはゴム材料から形成されている。
【0039】
一対のニーパッド部110は、ライダーの膝および/または内腿に接する位置に配置されている。一対のニーパッド部110の一方(左ニーパッド部)110Lは、自動二輪車1の左側に位置しており、燃料タンク5の後部左側および左のタンクサイドカバー16に貼り付けられている。一対のニーパッド部110の他方(右ニーパッド部)110Rは、自動二輪車1の右側に位置しており、燃料タンク5の後部右側および右のタンクサイドカバー16に貼り付けられている。
【0040】
ミドルパッド部120は、一対のニーパッド部110の間に位置する。ミドルパッド部120は、燃料タンク5の後部中央に貼り付けられている。図示している例では、ミドルパッド部120は、左ニーパッド部110Lと連続しているとともに、右ニーパッド部110Rとも連続している。つまり、ミドルパッド部120および一対のニーパッド部110は、一体に形成されている。
【0041】
跨ぎ部パッド100は、負のポアソン比を有する(つまりオーセチック構造を有する)部分(以下では「第1部分」と呼ぶ)P1を含む。図示している例では、跨ぎ部パッド100全体(つまりミドルパッド部120全体および各ニーパッド部110全体)が負のポアソン比を有する。言い換えると、跨ぎ部パッド100全体が第1部分P1である。
【0042】
ポアソン比は、物体に弾性限界内で荷重を加えたときに、荷重方向に直交する方向に発生するひずみと荷重方向に沿って発生するひずみの比である。
【0043】
図3Aは、正のポアソン比を有する部材Pに圧縮荷重を加えたときの変化を示す図であり、図3Bは、負のポアソン比を有する部材Pに圧縮荷重を加えたときの変化を示す図である。
【0044】
図3Aに示すように、正のポアソン比を有する部材Pに圧縮荷重を加えると、荷重方向に直交する方向に引張ひずみが生じる。これに対し、図3Bに示すように、負のポアソン比を有する部材Pに圧縮荷重を加えると、荷重方向に直交する方向に圧縮ひずみが生じる。そのため、負のポアソン比を有する部分Pは、荷重点を包み込むように変形する。
【0045】
上述したように、本発明の実施形態による自動二輪車1が備える跨ぎ部パッド100は、負のポアソン比を有する部分(第1部分)P1を含むので、その部分P1(図示した例では跨ぎ部パッド100全体)は、荷重が加えられると荷重点を包み込むように変形する。そのため、ライダーの身体に対するフィット感が向上するので、快適性が向上する。負のポアソン比は、跨ぎ部パッド100が例えば後述するようなラティス構造を有することにより実現され得る。
【0046】
図4Aに、跨ぎ部パッド100の他の構成を示す。図4Aは、跨ぎ部パッド100を模式的に示す断面図である。
【0047】
図4Aに示す例では、跨ぎ部パッド100は、第1部分P1のポアソン比と異なるポアソン比を有する第2部分P2を含む。図示している例では、一対のニーパッド部110のそれぞれに第1部分P1が含まれ、ミドルパッド部120に第2部分P2が含まれている。
【0048】
このように、跨ぎ部パッド100は、第1部分P1のポアソン比と異なるポアソン比を有する第2部分P2を含んでいてもよい。つまり、跨ぎ部パッド100は、ポアソン比に分布を有していてもよい。跨ぎ部パッド100がポアソン比に分布を有することにより、跨ぎ部パッド100に接するライダーの身体部位に応じたフィット感を設定することができ、快適性がいっそう向上する。
【0049】
例示したように、負のポアソン比を有する第1部分P1がニーパッド部110に含まれていることにより、ニーパッド部110におけるフィット感を高くすることができる。そのため、ニーグリップが弱くても身体をしっかりホールドできので、ニーグリップが容易となり、快適性が向上する。
【0050】
なお、第2部分P2のポアソン比は、負であってもよいし、正であってもよい。また、第2部分P2においてポアソン比は一定でなくても(つまり分布を有しても)よい。
【0051】
また、第1部分P1においてポアソン比は一定でなくても(つまり負である限り分布を有していても)よい。図示している例では、各ニーパッド部110の全体が第1部分P1であるが、各ニーパッド部110に、第1部分P1と、正のポアソン比を有する部分とが混在してもよい。
【0052】
図4Bおよび図4Cに、跨ぎ部パッド100の他の構成を示す。図4Bは、跨ぎ部パッド100を模式的に示す平面図である。図4Cは、跨ぎ部パッド100を模式的に示す断面図であり、図4B中の4C-4C’線に沿った断面を示している。
【0053】
図4Bおよび図4Cに示す例では、ミドルパッド部120は、左ニーパッド部110Lと連続しておらず、右ニーパッド部110Rとも連続していない。つまり、左ニーパッド部110Lは、ミドルパッド部120と分離されており、右ニーパッド部110Rも、ミドルパッド部120と分離されている。さらに言い換えると、ミドルパッド部120および一対のニーパッド部110は、一体に形成されていない。
【0054】
図4Bおよび図4Cに示す例においても、負のポアソン比を有する第1部分P1を含んでいるので、快適性を向上させる効果が得られる。
【0055】
図4Bおよび図4Cには、ミドルパッド部120が一体に形成されている例を示しているが、ミドルパッド部120が2つ以上の部分に分割されていても(つまり別体に形成された2つ以上の部材の組み合わせであっても)よい。同様に、左ニーパッド部110Lおよび右ニーパッド部110Rのそれぞれも、一体に形成されている例に限定されず、2つ以上の部分に分割されていても(つまり別体に形成された2つ以上の部材の組み合わせであっても)よい。
【0056】
なお、言うまでもないが、跨ぎ部パッド100、ニーパッド部110およびミドルパッド部120の平面形状は、図2Aおよび図4Bに例示したものに限定されない。
【0057】
[ラティス構造]
跨ぎ部パッド100は、所望の機能・機械特性を実現するための微細構造を有していてもよい。
【0058】
例えば、跨ぎ部パッド100は、三次元格子状の複数の単位構造体を含むラティス構造を有していてもよい。ラティス構造の単位構造体の設計を適宜変更することにより、跨ぎ部パッド100のポアソン比を調整して負のポアソン比を実現することができる。また、跨ぎ部パッド100の複数の部分において、単位構造体の設計を互いに異ならせることによってポアソン比を互いに異ならせる(つまり跨ぎ部パッド100にポアソン比の分布を持たせる)ことができる。さらに、跨ぎ部パッド100がラティス構造を有することにより、通気性が向上し、蒸れを抑制することができる。
【0059】
図5Aおよび図5Bに、ラティス構造を有する跨ぎ部パッド100の例を示す。図5Aは、跨ぎ部パッド100の一部を拡大して示す平面図であり、Z方向から見た図である。図5Bは、跨ぎ部パッド100の一部を拡大して示す断面図であり、YZ面に平行な断面を示している。
【0060】
図5Aおよび図5Bに示す例では、跨ぎ部パッド100のラティス構造は、複数の単位構造体Uを有する。各単位構造体Uは、複数の梁bを組み合わせて構成されている。以下では、跨ぎ部パッド100において複数の単位構造体Uが占める部分LPを「格子部」と呼び、格子部LP以外の空間(格子部LPによって区画される空間)SPを「空隙部」と呼ぶ。図示している例では、格子部LPは、複数の三角錐を(より厳密には三角錐の辺に対応する部分を)組み合わせ、Z方向に延びる辺を省略した形状を有する。
【0061】
跨ぎ部パッド100がラティス構造を有していると、跨ぎ部パッド100に荷重が加えられた際に、格子部LPが十分に変形して空隙部SPがつぶれるまでは柔らかく、空隙部SPがつぶれた後はある程度硬くなる挙動を実現することができる。これにより、跨ぎ部パッド100を軽くホールドしているときや圧迫感を軽減したい部位については跨ぎ部パッド100を柔らかくして圧迫感を軽減することができる一方で、跨ぎ部パッド100をしっかりとホールドしているときには跨ぎ部パッド100を硬くしてグリップ感を向上させる(柔らかすぎることによる頼りなさを感じないようにさせる)ことができる。つまり、圧迫感の軽減とグリップ感の向上を両立することができる。また、跨ぎ部パッド100がラティス構造を有することにより、通気性が向上し、蒸れを抑制することができる。
【0062】
また、図5Aおよび図5Bに例示したラティス構造は、負のポアソン比を実現することができる。例えば、図6に示すように、図5Aおよび図5Bに例示したラティス構造を有する第1部分P1に対し、Z方向に平行に圧縮荷重が加えられると、荷重方向に直交する方向、すなわちX方向およびY方向に圧縮ひずみが生じる。
【0063】
なお、負のポアソン比を実現するための構造は、図5Aおよび図5Bに例示した構造に限定されず、公知の種々のオーセチック構造を用いることができる。
【0064】
負のポアソン比の具体的な値に、特に制限はない。等方弾性体(等方性材料)の場合、負のポアソン比の理論的な下限値は-1であるが、異方弾性体(異方性材料)の場合には、負のポアソン比に理論的な下限値は存在しない(-1以下の値を取り得る)。図5Aおよび図5Bに例示したようなラティス構造を有する部分は、異方弾性体と見なせるので、種々の値のポアソン比を実現し得る。
【0065】
また、既に説明したように、跨ぎ部パッド100の第1部分P1以外の部分(例えば上述した第2部分P2)は、正のポアソン比を有していてもよく、そのような部分は、正のポアソン比が実現されるラティス構造を有していてもよい。
【0066】
図7Aおよび図7Bに、正のポアソン比を有するラティス構造の例を示す。図7Aは、正のポアソンを有する第2部分P2の一部を拡大して示す平面図であり、Z方向から見た図である。図7Bは、第2部分P2の一部を拡大して示す断面図であり、YZ面に平行な断面を示している。
【0067】
図7Aおよび図7Bに示す例では、ラティス構造の単位構造体Uは、立方体(より厳密には立方体の辺に対応する部分)状であり、格子部LPは、複数の立方体を連続的に配置した形状を有する。図7Aおよび図7Bに例示しているような、正のポアソン比を有するラティス構造を採用した場合でも、圧迫感の軽減とグリップ感の向上の両立や、蒸れの抑制を図ることができる。
【0068】
なお、正のポアソンを実現するラティス構造は、図7Aおよび図7Bに例示した構造に限定されず、公知の種々のラティス構造(3次元メッシュ構造)を用いることができる。
【0069】
また、跨ぎ部パッド100がラティス構造を有する場合、厚さ方向に沿ってほぼ空隙部SPのみが存在する領域もあり得るが、跨ぎ部パッド100の厚さは、格子部LPおよび空隙部SPの両方を含んで規定される、跨ぎ部パッド100の外縁(輪郭)で定義される。
【0070】
なお、ラティス構造の単位構造体Uは、そのサイズや形状、配置等が必ずしも厳密に規則的である必要はなく、所望の機能や機械特性が実現される限りにおいて多少の不規則は許容され得る。
【0071】
[硬さ分布]
図8を参照しながら、跨ぎ部パッド100のさらに他の構成を説明する。図8は、跨ぎ部パッド100を模式的に示す断面図である。
【0072】
図8に示す例では、跨ぎ部パッド100は、互いに硬さが異なる2種類の部分P3およびP4を含んでいる。以下では、相対的に硬い部分P3を「第3部分」と呼び、相対的に柔らかい部分P4を「第4部分」と呼ぶ。跨ぎ部パッド100が、互いに硬さが異なる第3部分P3および第4部分P4を含んでいることにより、言い換えると、跨ぎ部パッド100が硬さ分布を有していることにより、跨ぎ部パッド100に接する身体部位に応じた硬さを設定することができ、快適性が向上する。
【0073】
図8に示す例では、相対的に硬い第3部分P3がニーパッド部110に含まれ、相対的に柔らかい第4部分P4がミドルパッド部120に含まれている。これにより、ニーグリップ時に身体をしっかり支持したい部位であるニーパッド部110を硬くするとともに、体圧を分散して圧迫感を軽減したい部位であるミドルパッド部120を柔らかくすることができる。
【0074】
なお、図8に例示しているように左ニーパッド部110L全体において硬さが実質的に同じ(つまり左ニーパッド部110L全体が第3部分P3)であってもよいし、そうでなくてもよい。つまり、左ニーパッド部110Lは、第3部分P3と硬さが異なる部分を有していてもよい。同様に、右ニーパッド部110R全体において硬さが実質的に同じ(つまり右ニーパッド部110R全体が第3部分P3)であってもよいし、そうでなくてもよい。つまり、右ニーパッド部110Rは、第3部分P3と硬さが異なる部分を有していてもよい。また、ミドルパッド部120全体において硬さが実質的に同じ(つまりミドルパッド部120全体が第4部分P4)であってもよいし、そうでなくてもよい。つまり、ミドルパッド部120は、第4部分P4と硬さが異なる部分を有していてもよい。
【0075】
なお、跨ぎ部パッド100の一部または全体において、硬さが連続的に変化してもよい。また、第3部分P3と第4部分P4との間に、第3部分P3よりも柔らかく、かつ、第4部分P4よりも硬い部分(中間硬さ部分)が配置されてもよい。例えば、ニーパッド部110の中央部を第3部分P3、ミドルパッド部120の中央部を第4部分P4とし、それ以外の部分を中間硬さ部分としてもよい。
【0076】
跨ぎ部パッド100の硬さ(第3部分P3および第4部分P4の硬さ)は、例えば、JASO(日本自動車技術会規格) B408-89に準拠した荷重試験を行うことによって得られた荷重変位曲線を用いて評価することができる。具体的には、そのようにして得られた荷重変位曲線において、所定の変位量における荷重を「硬さ」と見なすことができる。
【0077】
ここで、ニーパッド部110およびミドルパッド部120のそれぞれについて、硬さが異なる複数のサンプルを作製し、自動二輪車に取り付けて実走評価を行った結果を説明する。実走評価の結果、2つの組み合わせA、Bについて、乗車感の向上が感じられた。以下では、組み合わせAを構成するサンプルをニーパッド部サンプル#1およびミドルパッド部サンプル#3と呼ぶ。また、組み合わせBを構成するサンプルをニーパッド部サンプル#2およびミドルパッド部サンプル#4と呼ぶ。
【0078】
ニーパッド部サンプル#1、#2およびミドルパッド部サンプル#3、#4について、上述した荷重試験により得られた荷重変位曲線を図9Aおよび図9Bに示す。
【0079】
組み合わせAについて、変位量1.0mmにおける荷重を硬さとすると、図9Aに示すように、ニーパッド部サンプル#1の硬さはミドルパッド部サンプル#3の硬さの約3.1倍であった。また、変位量6.0mmにおける荷重を硬さとすると、図9Bに示すように、ニーパッド部サンプル#1の硬さはミドルパッド部サンプル#3の硬さの約1.3倍であった。
【0080】
組み合わせBについて、変位量1.0mmにおける荷重を硬さとすると、図9Aに示すように、ニーパッド部サンプル#2の硬さはミドルパッド部サンプル#4の硬さの約7.1倍であった。また、変位量4.0mmにおける荷重を硬さとすると、図9Aに示すように、ニーパッド部サンプル#2の硬さはミドルパッド部サンプル#4の硬さの約15倍であった。
【0081】
上述した結果からは、荷重が50N以下の範囲において、ニーパッド部110に含まれる第3部分P3の硬さは、ミドルパッド部120に含まれる第4部分P4の硬さの1.2倍以上であることが好ましいと言える。
【0082】
[厚さ分布]
図10Aおよび図10Bを参照しながら、跨ぎ部パッド100のさらに他の構成を説明する。図10Aは、跨ぎ部パッド100を模式的に示す平面図である。図10Bは、跨ぎ部パッド100を模式的に示す断面図であり、図10A中の10B-10B’線に沿った断面を示している。
【0083】
図10Aおよび図10Bに示す跨ぎ部パッド100では、ミドルパッド部120の最大厚さは、各ニーパッド部110の最小厚さよりも大きく、かつ、各ニーパッド部110の最大厚さ以上である。
【0084】
図10Bに示す例では、ミドルパッド部120の厚さt3は、ミドルパッド部120全体で一定(実質的に同じ)である。
【0085】
また、図10Bに示す例では、左ニーパッド部110Lは、その厚さt1に着目すると、2つの領域110Laおよび110Lb(それぞれ「第1の領域」、「第2の領域」と呼ぶ)に区分される。第1の領域110Laでは、左ニーパッド部110Lの厚さt1は実質的に同じである。第2の領域110Lbは、第1の領域110Laとミドルパッド部120との間に位置している。第2の領域110Lbでは、左ニーパッド部110Lの厚さt1は、ミドルパッド部120側から第1の領域110La側に向かうにつれて減少する。
【0086】
同様に、右ニーパッド部110Rは、その厚さt2に着目すると、2つの領域110Raおよび110Rb(それぞれ「第3の領域」、「第4の領域」と呼ぶ)に区分される。第3の領域110Raでは、右ニーパッド部110Rの厚さt2は実質的に同じである。第4の領域110Rbは、第3の領域110Raとミドルパッド部120との間に位置している。第4の領域110Rbでは、右ニーパッド部110Lの厚さt2は、ミドルパッド部120側から第3の領域110Ra側に向かうにつれて減少する。左ニーパッド部110Lの第1の領域110Laにおける厚さt1と、右ニーパッド部110Rの第3の領域110Raにおける厚さt2とは、例えば実質的に同じであるが、これに限定されない。
【0087】
上述したように、図10Aおよび図10Bに示す跨ぎ部パッド100では、ミドルパッド部120の最大厚さは、各ニーパッド部110の最小厚さよりも大きく、かつ、各ニーパッド部110の最大厚さ以上である。つまり、跨ぎ部パッド100は、厚さ分布を有している。跨ぎ部パッド100が厚さ分布を有することにより、跨ぎ部パッド100に接するライダーの身体部位に応じた適切な体圧分散を図ることができ、快適性が向上する。ミドルパッド部120の最大厚さが各ニーパッド部110の最小厚さよりも大きく、かつ、各ニーパッド部110の最大厚さ以上であることにより、ミドルパッド部120におけるフィット感および振動低減性を高めつつ、ニーパッド部110における下半身の保持(ニーグリップ)を好適に行うことができる。
【0088】
ミドルパッド部120におけるフィット感および振動低減性を高める観点からは、ミドルパッド部120の最大厚さは、後に例示するように、各ニーパッド部110の最大厚さよりも大きいことが好ましい。
【0089】
ミドルパッド部120の最大厚さは、特に限定されない。同様に、一対のニーパッド部110のそれぞれの最大厚さは、特に限定されない。
【0090】
ミドルパッド部120におけるフィット感および振動低減性を高める観点からは、ミドルパッド部120の最大厚さは、ニーパッド部110の最小厚さの150%以上であることが好ましく、200%以上であることがより好ましい。
【0091】
ミドルパッド部120におけるフィット感および振動低減性を高める観点からは、ミドルパッド部120の最大厚さは、ニーパッド部110の最大厚さの150%以上であることが好ましく、200%以上であることがより好ましい。
【0092】
また、跨ぎ部パッド100が、例えば前述したようなラティス構造を有することにより、跨ぎ部パッド100に荷重が加えられた際に、最初は柔らかく、ある程度押しつぶされると硬くなるような挙動を実現することができる。このような二段階挙動を実現する観点からは、ミドルパッド部120の最大厚さが10mm以上であることが好ましく、20mm以上であることがより好ましい。
【0093】
ニーパッド部110は、低反発性であっても、つまり、加えられている荷重が除かれた際に元の形状に戻る速度(復元速度)が比較的遅くてもよい。ニーパッド部110が低反発性であると、ニーグリップを解除して脚を下げる際にニーパッド部110が邪魔になりにくいので、脚下げをいっそう容易に行うことができる。
【0094】
図11Aおよび図11Bに、厚さ分布を有する跨ぎ部パッド100の他の構成を示す。図11Aは、跨ぎ部パッド100を模式的に示す平面図である。図11Bは、跨ぎ部パッド100を模式的に示す断面図であり、図11A中の11B-11B’線に沿った断面を示している。
【0095】
図11Aおよび図11Bに示す例では、ミドルパッド部120の厚さt3は、ミドルパッド部120全体において一定(実質的に同じ)である。また、左ニーパッド部110Lの厚さt1は、左ニーパッド部110L全体において一定ではなく、ミドルパッド部120から離れるにつれて減少する。同様に、右ニーパッド部110Rの厚さt2は、右ニーパッド部110R全体において一定ではなく、ミドルパッド部120から離れるにつれて減少する。
【0096】
図11Aおよび図11Bに例示した構成においても、跨ぎ部パッド100が厚さ分布を有することにより、快適性を向上させる効果が得られる。
【0097】
図12Aおよび図12Bに、厚さ分布を有する跨ぎ部パッド100のさらに他の構成を示す。図12Aは、跨ぎ部パッド100を模式的に示す平面図である。図12Bは、跨ぎ部パッド100を模式的に示す断面図であり、図12A中の12B-12B’線に沿った断面を示している。
【0098】
図12Aおよび図12Bに示す例では、ミドルパッド部120は、左ニーパッド部110Lと連続しておらず、右ニーパッド部110Rとも連続していない。つまり、左ニーパッド部110Lは、ミドルパッド部120と分離されており、右ニーパッド部110Rも、ミドルパッド部120と分離されている。さらに言い換えると、ミドルパッド部120および一対のニーパッド部110は、一体に形成されていない。
【0099】
また、図12Aおよび図12Bに示す例では、左ニーパッド部110Lの厚さt1は、左ニーパッド部110L全体で一定(実質的に同じ)であり、右ニーパッド部110Rの厚さt2は、右ニーパッド部110R全体で一定(実質的に同じ)である。また、ミドルパッド部120の厚さt3は、ミドルパッド部120全体で一定(実質的に同じ)である。
【0100】
図12Aおよび図12Bに例示した構成においても、跨ぎ部パッド100が厚さ分布を有する(より具体的にはミドルパッド部120の最大厚さが、各ニーパッド部110の最大厚さよりも大きい)ことにより、快適性を向上させる効果が得られる。
【0101】
なお、跨ぎ部パッド100の厚さ分布は、図10B図11Bおよび図12Bに例示したものに限定されない。
【0102】
例えば、図10Bに示した構成は、図13Aに示すように改変されてもよい。図13Aに示す構成では、ミドルパッド部120における厚さt3が一定ではない。ミドルパッド部120は、厚さt3が最大である第5の領域120aと、ミドルパッド部120の左右方向(Y方向に平行な方向)における中央に位置して厚さt3が最大厚さよりも小さい第6の領域120bとを有する。また、第5の領域120aと第6の領域120bとの間には、第7の領域120cが位置しており、第7の領域120cでは、厚さt3は、第6の領域120b側から第5の領域120a側に向かうにつれて増加する。
【0103】
また、図10Bに示した構成は、図13Bに示すように改変されてもよい。図13Bに示す構成では、左ニーパッド部110Lの厚さt1は、左ニーパッド部110L全体で一定(実質的に同じ)であり、右ニーパッド部110Rの厚さt2は、右ニーパッド部110R全体で一定(実質的に同じ)である。左ニーパッド部110Lとミドルパッド部120との境界において厚さはステップ状に変化しており、右ニーパッド部110Rとミドルパッド部120との境界において厚さはステップ状に変化している。
【0104】
また、ミドルパッド部120が、上下方向(跨ぎ部パッド100が跨ぎ部に取り付けられた状態での上下方向)に厚さ分布を有していてもよい。このようなミドルパッド部120の例を図13Cに示す。図13Cは、跨ぎ部パッド100を模式的に示す断面図であり、図10A中の13C-13C’に沿った断面に相当する。
【0105】
図13Cに示す例では、ミドルパッド部120は、上下方向に沿って隣接する2つの領域120uおよび120lを含む。2つの領域120uのうちの相対的に上方に位置する一方の領域(上領域)120uは、他方の領域(下領域)120lよりも薄い部分を含んでいる。より具体的には、上領域120uは、下領域120lから離れるにつれて薄くなる。ミドルパッド部120がこのような厚さ分布を上下方向に有していることにより、燃料タンク5と跨ぎ部パッド100との段差を小さくして一体感を向上させ得る。
【0106】
また、ミドルパッド部120は、上下に分割されていてもよい。例えば、上述した上領域120uと下領域120lとが一体ではなく分離されていてもよい。
【0107】
図10B図11B図13Aおよび図13Bに例示したような、ミドルパッド部120および一対のニーパッド部110が一体に形成されている構成においては、跨ぎ部パッド100の左右方向における中央から側方に向かう場合の厚さ変化を考えたときに厚さが減少し始める部分が、ミドルパッド部120と各ニーパッド部110との境界と規定され得る。
【0108】
なお、上述したように跨ぎ部パッド100が厚さ分布を有する構成は、跨ぎ部パッド100が硬さ分布を有する構成と組み合わせ得る。
【0109】
[跨ぎ部パッドの製造方法]
跨ぎ部パッド100は、例えば、付加製造技術(additive manufacturing)を用いて好適に形成することができる。付加製造技術は、3Dプリンタを用いて立体構造物(三次元のオブジェクト)を形成する技術である。付加製造技術によれば、3DCADデータや3DCGデータに基づいて、複雑な形状を有する立体構造物であっても簡便に製造することができる。
【0110】
跨ぎ部パッド100の材料としては、例えば、樹脂材料(エラストマー、ゲルを含む)またはゴム材料を好適に用いることができる。樹脂材料およびゴム材料としては、公知の種々の樹脂材料、ゴム材料を用いることができる。
【0111】
3Dプリンタとしては、例えば、Stratasys社により提案されているPolyJet方式の3Dプリンタを用いることができる。PolyJet方式では、インクジェットヘッドのノズルからの、紫外線硬化型材料を含む液体微粒子の噴射と、紫外線照射による硬化とを交互に繰り返し行うことによって、造形が行われる。勿論、PolyJet方式以外の3Dプリンタを用いてもよい。
【0112】
付加製造技術を用いると、既に説明したようなラティス構造を有する跨ぎ部パッド100を好適に形成することができる。付加製造技術を用いてラティス構造を有する跨ぎ部パッド100を形成する場合、部位ごとに、単位構造体Uの設計を異ならせることができる。単位構造体Uの設計を部位ごとに異ならせることにより、部位ごとにポアソン比を異ならせたり、部位ごとに硬さを異ならせたりすることができるので、ラティス構造を有する跨ぎ部パッド100では、跨ぎ部パッド100にポアソン比分布を持たせたり、硬さ分布を持たせたりすることが容易となる。
【0113】
これまでの説明では、跨ぎ部パッド100が一対のニーパッド部110と、ミドルパッド部120とを含む構成を例示したが、跨ぎ部パッド100はこのような構成に限定されない。跨ぎ部パッド100は、ミドルパッド部120のみを含んでもよいし、一対のニーパッド部110のみを含んでいてもよく、左ニーパッド部110Lまたは右ニーパッド部110Rのみを含んでいてもよい。いずれの構成においても、跨ぎ部パッド100が、負のポアソン比を有する部分(第1部分)P1を含むことにより、快適性を向上させる効果が得られる。
【0114】
なお、跨ぎ部パッド100は、布や皮革などで形成された表皮材(以下「パッドカバー」と呼ぶ)に包まれていてもよい。左ニーパッド部110Lおよび右ニーパッド部110Rが、ミドルパッド部120と分離されている場合には、ミドルパッド部120、左ニーパッド部110Lおよび右ニーパッド部110Rが、それぞれ別のパッドカバーに包まれていてもよいし、1つのパッドカバーによって一体に包まれていてもよい。また、跨ぎ部パッド100は、布や皮革などで形成された下地材(以下「パッドベース」と呼ぶ)上に付けられていてもよい。左ニーパッド部110Lおよび右ニーパッド部110Rが、ミドルパッド部120と分離されている場合には、ミドルパッド部120、左ニーパッド部110Lおよび右ニーパッド部110Rが、それぞれ別のパッドベース上に付けられていてもよいし、1つのパッドベース上に付けられていてもよい。
【0115】
上述したように、本発明の実施形態によると、快適性が向上する跨ぎ部パッドを提供することができる。これまでの説明では、鞍乗型車両として自動二輪車を例示したが、本発明の実施形態による跨ぎ部パッドは、自動二輪車以外の鞍乗型車両にも好適に用いることができ、例えば水上オートバイなどにも用いることができる。また、本発明の実施形態による跨ぎ部パッドは、駆動源として内燃機関(エンジン)に代えて(あるいは加えて)電動モータを有する鞍乗型車両にも好適に用いることができる。鞍乗型車両の種類や仕様によっては、シートの直ぐ前に配置される部材が燃料タンクではない(例えばダミータンクやバッテリ収容ケースである)こともあり、その場合、「跨ぎ部」は燃料タンクを含まないこともある。また、シートの直ぐ前に配置される部材が燃料タンクである場合、燃料タンクを覆うカバーが設けられていてもよい。その場合(つまり跨ぎ部がそのようなカバーを含む場合)、跨ぎ部パッドはカバーに取り付けられる。
【0116】
上述したように、本発明の実施形態による跨ぎ部パッド100は、少なくとも一部がライダーに接するように鞍乗型車両1の跨ぎ部に取り付けられる鞍乗型車両用跨ぎ部パッド100であって、負のポアソン比を有する第1部分P1を含む。
【0117】
本発明の実施形態による跨ぎ部パッド100は、負のポアソン比を有する(つまりオーセチック構造を有する)部分(第1部分)P1を含むので、その部分P1は、荷重が加えられると荷重点を包み込むように変形する。そのため、ライダーの身体に対するフィット感が向上するので、快適性が向上する。
【0118】
ある実施形態において、前記跨ぎ部パッド100は、前記第1部分P1のポアソン比と異なるポアソン比を有する第2部分P2を含む。
【0119】
本発明の実施形態による跨ぎ部パッド100は、第1部分P1のポアソン比と異なるポアソン比を有する第2部分P2を含んでいてもよい。つまり、本発明の実施形態による跨ぎ部パッド100は、ポアソン比に分布を有していてもよい。跨ぎ部パッド100がポアソン比に分布を有することにより、跨ぎ部パッド100に接するライダーの身体部位に応じたフィット感を設定することができ、快適性がいっそう向上する。
【0120】
ある実施形態において、前記跨ぎ部パッド100は、ライダーの膝および/または内腿に接する位置に配置される一対のニーパッド部110と、前記一対のニーパッド部110の間に位置するミドルパッド部120とを有し、前記一対のニーパッド部110のそれぞれに前記第1部分P1が含まれる。
【0121】
負のポアソン比を有する第1部分P1がニーパッド部110に含まれていることにより、ニーパッド部110におけるフィット感を高くすることができる。そのため、ニーグリップが弱くても身体をしっかりホールドできので、ニーグリップが容易となり、快適性が向上する。
【0122】
ある実施形態において、前記跨ぎ部パッド100は、互いに硬さが異なる第3部分P3および第4部分P4を含む。
【0123】
本発明の実施形態による跨ぎ部パッド100は、互いに硬さが異なる第3部分P3および第4部分P4を含んでいてもよい。つまり、本発明の実施形態による跨ぎ部パッド100は、硬さ分布を有していてもよい。跨ぎ部パッド100が硬さ分布を有することにより、跨ぎ部パッド100に接する身体部位に応じた硬さを設定することができ、快適性がいっそう向上する。
【0124】
ある実施形態において、前記跨ぎ部パッド100は、ライダーの膝および/または内腿に接する位置に配置される一対のニーパッド部110と、前記一対のニーパッド部110の間に位置するミドルパッド部120とを有し、前記第3部分P3は、前記第4部分P4よりも硬く、前記一対のニーパッド部110のそれぞれに前記第3部分P3が含まれ、前記ミドルパッド部120に前記第4部分P4が含まれる。
【0125】
相対的に硬い第3部分P3がニーパッド部110に含まれ、相対的に柔らかい第4部分P4がミドルパッド部120に含まれていることにより、ニーグリップ時に身体をしっかり支持したい部位であるニーパッド部110を硬くするとともに、体圧を分散して圧迫感を軽減したい部位であるミドルパッド部120を柔らかくすることができる。
【0126】
ある実施形態において、前記ミドルパッド部120の最大厚さは、前記一対のニーパッド部110のそれぞれの最小厚さよりも大きく、かつ、前記一対のニーパッド部110のそれぞれの最大厚さ以上である。
【0127】
ミドルパッド部120の最大厚さは、各ニーパッド部110の最小厚さよりも大きく、かつ、各ニーパッド部110の最大厚さ以上であってもよい。つまり、跨ぎ部パッド100は、厚さ分布を有していてもよい。跨ぎ部パッド100が厚さ分布を有することにより、跨ぎ部パッド100に接するライダーの身体部位に応じた適切な体圧分散を図ることができ、快適性が向上する。ミドルパッド部120の最大厚さが各ニーパッド部110の最小厚さよりも大きく、かつ、各ニーパッド部110の最大厚さ以上であることにより、ミドルパッド部120におけるフィット感および振動低減性を高めつつ、ニーパッド部110における下半身の保持(ニーグリップ)を好適に行うことができる。
【0128】
ある実施形態において、前記ミドルパッド部120の最大厚さは、前記一対のニーパッド部110のそれぞれの最大厚さよりも大きい。
【0129】
ミドルパッド部120におけるフィット感および振動低減性を高める観点からは、ミドルパッド部120の最大厚さは、各ニーパッド部110の最大厚さよりも大きいことが好ましい。
【0130】
ある実施形態において、前記跨ぎ部パッド100は、三次元格子状の複数の単位構造体Uを含むラティス構造を有する。
【0131】
跨ぎ部パッド100は、三次元格子状の複数の単位構造体Uを含むラティス構造を有していてもよい。ラティス構造の単位構造体Uの設計を適宜変更することにより、跨ぎ部パッド100のポアソン比を調整して負のポアソン比を実現することができる。また、跨ぎ部パッド100の複数の部分において、単位構造体Uの設計を互いに異ならせることによってポアソン比を互いに異ならせたり、硬さを互いに異ならせたりすることもできる(つまり跨ぎ部パッド100にポアソン比の分布を持たせたり、硬さの分布を持たせたりすることができる)。さらに、跨ぎ部パッド100がラティス構造を有することにより、通気性が向上し、蒸れを抑制することができる。
【0132】
ある実施形態において、前記跨ぎ部パッド100は、付加製造技術により樹脂材料またはゴム材料から形成されている。
【0133】
本発明の実施形態による跨ぎ部パッド100は、例えば、付加製造技術を用いて樹脂材料またはゴム材料から形成され得る。付加製造技術を用いることにより、ラティス構造を有する跨ぎ部パッド100を好適に形成することができ、負のポアソン比を有する跨ぎ部パッド100を容易に得ることができる。
【0134】
本発明の実施形態による鞍乗型車両1は、上述したいずれかの構成を有する跨ぎ部パッド100を備える。
【0135】
本発明の実施形態による跨ぎ部パッド100は、各種の鞍乗型車両1に好適に用いられる。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明の実施形態によると、快適性が向上する鞍乗型車両用跨ぎ部パッドを提供することができる。本発明の実施形態による跨ぎ部パッドは、種々の鞍乗型車両に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0137】
1:自動二輪車、2:前輪、3:後輪、4:内燃機関(エンジン)、5:燃料タンク、6:シート、7:フロントフォーク、8:リアアーム、9:ピボット軸、10:車体フレーム、11:ヘッドパイプ、12:サイドフレーム、13:ダウンフレーム、14:ハンドル、15:チェーン、16:タンクサイドカバー、100:跨ぎ部パッド、110:ニーパッド部、110L:左ニーパッド部、110La:左ニーパッド部の第1の領域、110Lb:左ニーパッド部の第2の領域、110R:右ニーパッド部、110Ra:右ニーパッド部の第3の領域、110Rb:右ニーパッド部の第4の領域、120:ミドルパッド部、120a:ミドルパッド部の第5の領域、120b:ミドルパッド部の第6の領域、120c:ミドルパッド部の第7の領域、120u:ミドルパッド部の上領域、120l:ミドルパッド部の下領域、P1:第1部分、P2:第2部分、P3:第3部分、P4:第4部分LP:格子部、SP:空隙部、U:単位構造体、b:梁
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B
図13A
図13B
図13C