(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-20
(45)【発行日】2025-05-28
(54)【発明の名称】共振合成反強磁性体参照層構造
(51)【国際特許分類】
H10B 61/00 20230101AFI20250521BHJP
H10N 50/20 20230101ALI20250521BHJP
H10N 50/10 20230101ALI20250521BHJP
【FI】
H10B61/00
H10N50/20
H10N50/10 M
(21)【出願番号】P 2023527685
(86)(22)【出願日】2021-10-29
(86)【国際出願番号】 IB2021060005
(87)【国際公開番号】W WO2022106940
(87)【国際公開日】2022-05-27
【審査請求日】2024-03-19
(32)【優先日】2020-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390009531
【氏名又は名称】インターナショナル・ビジネス・マシーンズ・コーポレーション
【氏名又は名称原語表記】INTERNATIONAL BUSINESS MACHINES CORPORATION
【住所又は居所原語表記】New Orchard Road, Armonk, New York 10504, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】100112690
【氏名又は名称】太佐 種一
(74)【代理人】
【識別番号】100120710
【氏名又は名称】片岡 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】ザフランスキー、クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】サン、ジョナサン、ザンホン
【審査官】小山 満
(56)【参考文献】
【文献】特表2020-511002(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0165255(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10B 61/00
H10N 50/20
H10N 50/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
合成反強磁性体(SAF)参照層構造と磁気的自由層との間に挟まれたトンネル障壁層を含むMTJピラーを含み、前記SAF参照層構造は、第1の磁気参照層および第2の磁気参照層を含む磁気参照層のスタックに交換結合された分極磁性層を含み、前記分極磁性層は前記トンネル障壁層との界面を形成し、少なくとも前記第1の磁気参照層の共振周波数ピークと実質的に重複する共振周波数ピークを有する、
磁気メモリ装置。
【請求項2】
前記分極磁性層の前記共振周波数ピークは、前記第1および第2の磁気参照層の両方の前記共振周波数ピークと実質的に重複する、請求項1に記載の磁気メモリ装置。
【請求項3】
前記第1の磁気参照層は、前記第2の磁気参照層と反強磁性交換結合している、請求項1または請求項2に記載の磁気メモリ装置。
【請求項4】
第1の結合層は、前記分極磁性層を第1の磁気参照層から分離し、第2の結合層は、前記第1の磁気参照層を前記第2の磁気参照層から分離する、請求項3に記載の磁気メモリ装置。
【請求項5】
前記MTJピラーは、前記SAF参照層構造の
下に位置する前記磁気的自由層を有する
トップピンMTJピラーである、請求項1~4のいずれか
1項に記載の磁気メモリ装置。
【請求項6】
前記MTJピラーは、前記SAF参照層構造の
上に位置する前記磁気的自由層を有する
ボトムピンMTJピラーである、請求項1~4のいずれか1項に記載の磁気メモリ装置。
【請求項7】
前記分極磁性層は、コバルト-鉄-ホウ素(Co-Fe-B)の合金、コバルト-鉄(Co-Fe)の合金、鉄(Fe)、コバルト(Co)またはそれらの多層スタックからなり、0.5nm~3nmの厚さを有する、請求項1~6のいずれか
1項に記載の磁気メモリ装置。
【請求項8】
前記第1の磁気参照層および前記第2の磁気参照層は、コバルト/ニッケル(Co/Ni)、コバルト/プラチナ(Co/Pt)、コバルト/パラジウム(Co/Pd)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、プラチナ(Pt)、パラジウム(Pd)またはこれらの多層スタックからなり、0.2nm~1nmの厚さを有する、請求項1に記載の磁気メモリ装置。
【請求項9】
前記第1の磁気参照層は、その中に挿入された希土類元素を含み、0.0001~1の減衰値を有する、請求項7に記載の磁気メモリ装置。
【請求項10】
前記分極磁性層は、-1kOe~10kOeの垂直異方性H
Kを有し、前記第1の磁気参照層は、0kOe~10kOeの垂直異方性H
Kを有し、前記分極磁性層の前記垂直異方性は前記第1の磁気参照層の前記垂直異方性と実質的に一致する、請求項1に記載の磁気メモリ装置。
【請求項11】
合成反強磁性体(SAF)参照層構造と磁気的自由層との間に挟まれたトンネル障壁層を含むMTJピラーを含み、前記SAF参照層構造は、第1の磁気参照層および第2の磁気参照層を含む磁気参照層のスタックに交換結合された分極磁性層を含み、前記分極磁性層および前記第1の磁気参照層の両方が、そこに存在するスピン流励起を有する
磁気メモリ装置。
【請求項12】
前記分極磁性層および前記第1および第2の磁気参照層はそれぞれ、その中に存在するスピン流励起を有する、請求項11に記載の磁気メモリ装置。
【請求項13】
前記第1の磁気参照層は、前記第2の磁気参照層と反強磁性交換結合している、請求項11または請求項12に記載の磁気メモリ装置。
【請求項14】
第1の結合層は、前記分極磁性層を第1の磁気参照層から分離し、第2の結合層は、前記第1の磁気参照層を前記第2の磁気参照層から分離する、請求項13に記載の磁気メモリ装置。
【請求項15】
前記MTJピラーは、前記SAF参照層構造の
下に位置する前記磁気的自由層を有する
トップピンMTJピラーである、請求項11~14のいずれか1項に記載の磁気メモリ装置。
【請求項16】
前記MTJピラーは、前記SAF参照層構造の
上に位置する前記磁気的自由層を有する
ボトムピンMTJピラーである、請求項11~14のいずれか1項に記載の磁気メモリ装置。
【請求項17】
前記分極磁性層は、コバルト-鉄-ホウ素(Co-Fe-B)の合金、コバルト-鉄(Co-Fe)の合金、鉄(Fe)、コバルト(Co)またはそれらの多層スタックからなり、0.5nm~3nmの厚さを有する、請求項11に記載の磁気メモリ装置。
【請求項18】
前記第1の磁気参照層および前記第2の磁気参照層は、コバルト/ニッケル(Co/Ni)、コバルト/プラチナ(Co/Pt)、コバルト/パラジウム(Co/Pd)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、プラチナ(Pt)、パラジウム(Pd)またはこれらの多層スタックからなり、0.2nm~1nmの厚さを有する、請求項11に記載の磁気メモリ装置。
【請求項19】
前記第1の磁気参照層は、その中に挿入された希土類元素を含み、0.0001~1の減衰値を有する、請求項18に記載の磁気メモリ装置。
【請求項20】
前記分極磁性層は、-1kOe~10kOeの垂直異方性H
Kを有し、前記第1の磁気参照層は、0kOe~10kOeの垂直異方性H
Kを有し、前記分極磁性層の前記垂直異方性は前記第1の磁気参照層の前記垂直異方性と実質的に一致する、請求項11に記載の磁気メモリ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に磁気メモリに関し、より詳細には、安定した共振合成反強磁性体(SAF)参照層構造を有する磁気トンネル接合(MTJ)ピラーを含む磁気メモリデバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気トンネル接合(MTJ)ピラーは、不揮発性メモリへの応用の潜在的な候補である。MTJピラーを含むデバイスは、磁気的自由層の磁化の情報を保存する。磁気的自由層、トンネル障壁層および分極磁性層を含むMTJピラーに電流を流すことで、状態の切り替えや読み出しを実現する。流れる電流が大きいほど、ビットは高速に切り替わる。しかし、書き込み電流が大きすぎると、分極磁性層も切り替わる可能性があり、磁気的自由層と分極磁性層の上部との間で「フリップフロップ」運動が起こり、書き込みエラーが発生する。
【0003】
分極磁性層を安定化させるために、分極磁性層は異方性の高い磁気参照層のスタックと交換結合され、分極磁性層を支えようとする。このような構造は、合成反強磁性体(SAF)参照層構造と呼ばれることがある。静的試験では、このような構造により安定性を高めることができる。しかし、大きなスピン流の適用下で動的に(MTJピラーが高電圧でバイアスされた場合など)、従来のSAF参照層構造の設計では、磁気参照層の望ましくないスピン流励起による振動が、分極磁気層のみに局在化することが多い。
【発明の概要】
【0004】
本発明の実施形態では、SAF参照層構造の分極磁性層の強磁性共振特性がSAF参照層構造内の少なくとも第1の磁気参照層に実質的に一致する安定した共振合成反強磁性体(SAF)参照層構造を含む磁気トンネル接合(MTJ)ピラーを含む磁気メモリデバイスが提供されている。SAF参照層構造の「第1の磁気参照層」は、第1の結合層を介して、分極磁性層に直接結合される磁気参照層である。分極磁性層の強磁性共振特性を少なくとも第1の磁気参照層に実質的に一致させることによって、分極磁性層の動的安定性が改善される場合があり、望ましくない磁気参照層の不安定性に関連する書き込みエラーが緩和される場合があるMTJピラーが提供される。
【0005】
本発明の一態様によれば、磁気メモリ装置は、合成反強磁性体(SAF)参照層構造と磁気的自由層との間に挟まれたトンネル障壁層を含むMTJピラーを含む。SAF参照層構造は、第1の磁気参照層および第2の磁気参照層を含む磁気参照層のスタックに交換結合された分極磁性層を含む。分極磁性層はトンネル障壁層との界面を形成し、少なくとも第1の磁気参照層の共振周波数ピークと実質的に重複する共振周波数ピークを有する。いくつかの実施形態において、分極磁性層の共振周波数ピークは、第1および第2の磁気参照層の両方の共振周波数ピークと実質的に重複し得る。
【0006】
別の態様によれば、磁気メモリ装置は、合成反強磁性体(SAF)参照層構造と磁気的自由層との間に挟まれたトンネル障壁層を含むMTJピラーを含む。SAF参照層構造は、第1の磁気参照層および第2の磁気参照層を含む磁気参照層のスタックに交換結合された分極磁性層を含む。本願によれば、分極磁性層および第1の磁気参照層の両方が、そこに存在するスピン流励起を有する。いくつかの実施形態では、分極磁性層および第1および第2の磁気参照層は、全てその中に存在するスピン流励起を有する。
【0007】
本願のいずれかの態様の実施形態において、第1の磁気参照層は、第2の磁気参照層と反強磁性交換結合している。本願発明において、第1の結合層は、分極磁性層を第1の磁気参照層から分離し、第2の結合層は、第1の磁気参照層を第2の磁気参照層から分離する。
【0008】
いくつかの実施形態では、MTJピラーは、SAF参照層構造の下に位置する磁気的自由層を有するトップピンMTJピラーであり、他の実施形態では、MTJピラーは、SAF参照層構造の上に位置する磁気的自由層を有するボトムピンMTJピラーである。
【0009】
本願のいくつかの実施態様において、分極磁性層は、コバルト-鉄-ホウ素(Co-Fe-B)の合金、コバルト-鉄(Co-Fe)の合金、鉄(Fe)、コバルト(Co)またはそれらの多層スタックからなり、0.5nm~3nmの厚さを有する。いくつかの実施態様において、分極磁性層は、-1kOe~10kOeの垂直異方性HKを有する。
【0010】
本願のいくつかの実施態様において、第1の磁気参照層および第2の磁気参照層は、コバルト/ニッケル(Co/Ni)、コバルト/プラチナ(Co/Pt)、コバルト/パラジウム(Co/Pd)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、プラチナ(Pt)、パラジウム(Pd)またはこれらの多層スタックからなり、0.2nm~1nmの厚さを有する。いくつかの実施態様において、第1の磁気参照層は、0kOe~10kOeの垂直異方性HKを有し、第1の磁気参照層の垂直異方性は、分極磁性層の垂直異方性と実質的に一致する。
【0011】
いくつかの実施形態において、および分極磁性層と第1の磁気参照層との共振周波数ピークの重複を増加させるために、第1の磁気参照層は、その中に挿入された希土類元素を含む。そのような実施形態では、希土類元素の挿入を含む第1の磁気参照層は、0.0001~1の減衰値を有する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1A】本願の一実施形態に係るMTJピラーの断面図である。
【
図1B】本願の他の実施形態に係るMTJピラーの断面図である。
【
図2A】分極磁性層の共振周波数(ω
PL)が第1の磁気参照層の共振周波数(ω
RL)と等しくない場合の静止状態軸周りの磁気モーメントベクトル処理を示す図である。
【
図2B】分極磁性層の共振周波数(ω
PL)が第1の磁気参照層の共振周波数(ω
RL)と実質的に等しい場合の静止状態軸周りの磁気モーメントベクトル処理を示す図である。
【
図3A】分極磁性層の共振周波数(ω
PL)が第1の磁気参照層の共振周波数(ω
RL)と等しくない場合の励起振幅対周波数(ω)のグラフである。
【
図3B】分極磁性層の共振周波数(ω
PL)が第1の磁気参照層の共振周波数(ω
RL)と実質的に等しい場合の励起振幅対周波数(ω)のグラフである。
【
図4】第1の磁気参照層の磁気減衰特性を高めて共振ピークの幅を広げ、2つのピークの重複を大きくした一実施形態の励起振幅対周波数(ω)のグラフである。
【
図5A】分極磁性層と磁気参照層の共振周波数が一致しない先行技術のMTJピラーにおける磁気的自由層の磁化方向Mを時間nsの関数として示すプロットである。
【
図5B】分極磁性層と磁気参照層の共振周波数が一致しない先行技術のMTJピラーにおける分極自由層の磁化方向Mを時間nsの関数として示すプロットである。
【
図6A】分極性磁性層と磁気参照層の共振周波数が実質的に一致する本発明のMTJピラーにおける磁気的自由層の磁化方向Mを時間nsの関数として示すプロットである。
【
図6B】分極磁性層と磁気参照層の共振周波数が実質的に一致する本発明のMTJピラーにおける分極自由層の磁化方向Mを時間nsの関数として示すプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、以下の議論および本願に添付される図面を参照することによって、本願をより詳細に説明する。本願の図面は、例示のみを目的として提供され、したがって、図面は縮尺通りに描かれていないことに留意されたい。また、同様の要素および対応する要素は、同様の参照数字によって参照されることに留意されたい。
【0014】
以下の説明では、本願の様々な実施形態の理解を提供するために、特定の構造、構成要素、材料、寸法、処理ステップおよび技術など、多数の特定の詳細が記載されている。しかしながら、本願の様々な実施形態は、これらの特定の詳細なしに実施され得ることが、当業者には理解されよう。他の例では、本願を不明瞭にしないために、周知の構造または処理ステップは詳細に説明されていない。
【0015】
層、領域、または基板としての要素が、他の要素の「上に(on)」または「上に(over)」あると言及されるとき、それは他の要素の上に直接あることができ、または介在する要素が存在し得ることも理解されるであろう。対照的に、ある要素が他の要素の「上に直接(directly on)」または「上に直接(directly over)」存在すると言及されるとき、介在する要素は存在しない。また、ある要素が他の要素の「下に(beneath)」または「下に(under)」あると言及されるとき、それは他の要素の真下または直下にあることができ、または介在する要素が存在し得ることも理解されるであろう。対照的に、ある要素が他の要素の「真下(directly beneath)」または「直下(directly under)」にあると言及されるとき、介在する要素は存在しない。
【0016】
前述のように、本願は、例えば、磁気抵抗メモリ(MRAM)などの磁気メモリデバイスを提供し、磁気メモリデバイスはSAF参照層構造の分極磁性層の強磁性共振特性がSAF参照層構造内の少なくとも第1の磁気参照層に実質的に一致する安定した共振SAF参照層構造を含むMTJピラーを含む。SAF参照層構造の「第1の磁気参照層」は、第1の結合層を介して、分極磁性層に直接結合される磁気参照層である。分極層の強磁性共振特性を少なくとも第1の磁気参照層に実質的に一致させることにより、分極磁性層の動的安定性を改善することができ、望ましくない磁気参照層の不安定性に関連する書き込みエラーを緩和することができるMTJピラーが提供される。注目すべきは、このような安定した共振SAF参照層構造の層が共振するとき、エネルギーを分極磁性層から引き離すことができ、その結果、書き込みエラーを軽減し、場合によっては、書き込みエラーをなくすことさえできることである。
【0017】
本発明の異なる実施形態に係る様々なMTJピラーを示す
図1A~1Bを最初に参照する。
図1Aに示されたMTJピラーは、
ボトムピンMTJピラーと称することができ、
図1Bに示されたMTJピラーは、
トップピンMTJピラーと称することができる。
【0018】
図1A~1Bに示す各MTJピラーは、磁気的自由層24と、トンネル障壁層22と、安定した共振SAF参照層構造10とを含む。「安定した共振SAF参照層構造」によって、SAF参照層構造は、安定した共振SAF参照層構造の分極磁性層の強磁性共振特性が、安定した共振SAF参照層構造10内の少なくとも第1の磁気参照層に実質的に一致するように設計されることが意味される。いくつかの実施形態では、安定した共振SAF参照層構造の分極磁性層の強磁性共振特性は、SAF参照層構造10内に存在する磁気参照層の各々に実質的に一致する。本願では、SAF参照層構造体は、分極磁性層の共振周波数ピークが、SAF参照層構造の少なくとも第1の磁気参照層の共振周波数ピークと実質的に重複するように設計されている。共振周波数ピークは、磁化、形状、異方性磁場、内部磁場によって決定することができる。実質的に重複する共振周波数ピークとは、ピークの一部が他のピークの一部と一致するピークのことである。
【0019】
安定した共振SAF参照層構造10は、トンネル障壁層22との界面を形成する分極磁性層20を含む。
図1A~1Bに示すMTJピラーでは、情報は、磁気的自由層24上に格納され、トンネル障壁層22を挟んで分極磁性層20に参照される。分極磁性層20の安定性を高めるために、分極磁性層20は、第1の結合層18を介して第1の磁気参照層16に結合される。第1の磁気参照層16は、第2の磁気参照層12に反強磁性交換結合され、第2の結合層14は、第1の磁気参照層16と第2の磁気参照層12との間に配置される。本願のMTJピラーには、追加の磁気参照層および結合層が存在し得る。
【0020】
図1A~1Bにおいて、磁気的自由層24に存在する両頭矢印は、その層の磁化の向きが切り替えられ得ることを表し、分極磁性層20、第1の磁気参照層16および第2の磁気参照層12の各々に存在する片頭矢印は、それらの層の磁化の向きが固定されていることを表している。
図1A~1Bに示すMTJピラーは、典型的には、バックエンド(BEOL)に存在し、上部電極(不図示)と下部電極(同じく不図示)とに挟まれる。下部電極は、典型的には、導電性構造体(同じく不図示)の表面上に配置される。導電性構造体は、相互接続誘電体材料層(同じく不図示)に埋め込まれる。別の相互接続誘電体材料層(同じく不図示)は、
図1Aおよび1Bに示されるMTJピラーを埋め込むことができる。別の導電性構造体(同じく不図示)は、上部電極上に配置することができる。
【0021】
図1A~1Bに示すMTJピラーは、まずMTJピラーに存在する材料層のそれぞれを含む材料スタックを堆積させ、その後、材料スタックをパターニングプロセスにかけることによって形成することができる。材料スタックの堆積は、化学気相堆積(CVD)、プラズマCVD(PECVD)、スパッタリングの物理気相堆積(PVD)を含むことができる。本願のいくつかの実施形態では、材料スタックの各層の形成において、同じ堆積プロセスを使用することができる。他の実施形態では、材料スタックを形成する際に少なくとも2つの異なる堆積プロセスを使用することができる。材料スタックのパターニングは、フォトリソグラフィおよびエッチングを含むことができる。エッチングは、反応性イオンエッチング(RIE)、イオンビームエッチング(IBE)、またはプラズマエッチングのうちの少なくとも1つを含むことができる。
【0022】
形成されるMTJピラーは、例えば、円筒形を含む様々な形状を有することができる。MTJピラーの臨界寸法(CD)は、変更可能であり、本願にとって重要ではない。いくつかの実施形態では、MTJピラーのCDは、下部電極のCDに等しい。他の実施形態では、MTJピラーのCDは、下部電極のCDよりも大きい。本願のさらに別の実施形態では、MTJピラーのCDは、下部電極のCDよりも小さい。
【0023】
磁気的自由層24は、SAF参照層構造10に存在する分極磁性層20の磁化方位に対して方位を変えることができる磁化を有する少なくとも1つの磁性材料で構成されている。磁気的自由層24の例示的な磁性材料は、コバルト(Co)、鉄(Fe)、コバルト-鉄(Co-Fe)の合金、ニッケル(Ni)、ニッケル-鉄(Ni-Fe)の合金およびコバルト-鉄-ホウ素(Co-Fe-B)の合金の、合金もしくは多層膜またはその両方を含む。本願で採用できる磁気的自由層24は、1nm~3nmの厚さを有することができるが、磁気的自由層24の他の厚さを使用することもできる。MTJピラーに電流を流すことにより、磁気的自由層24の磁気状態をアップ状態またはダウン状態のいずれかに切り替えることができる。分極磁性層20によって分極スピン流が生成され、磁気的自由層24にスイッチングトルクを作用させる。
【0024】
トンネル障壁層22は、絶縁体材料で構成され、適切なトンネル抵抗が得られるような厚さで形成される。トンネル障壁層22の例示的な材料としては、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、および酸化チタン、または、半導体または低バンドギャップ絶縁体などの電気トンネルコンダクタンスがより高い材料が挙げられる。一実施形態では、トンネル障壁層22を提供する材料として、酸化マグネシウムが使用される。トンネル障壁層22の厚さは、0.5nm~1.5nmとすることができるが、選択された厚さが所望のトンネル障壁抵抗を提供する限り、トンネル障壁層22の他の厚さを使用することができる。トンネル障壁層22は、磁気的自由層24との第1の界面、および第1の界面の反対側にある、安定した共振SAF参照層構造10の分極磁性層20との第2の界面を形成する。
【0025】
分極磁性層20は、トンネル障壁層22との界面を介してコヒーレントトンネルを増強することにより、スピントルク電流の分極を増強する磁性材料で構成されている。分極磁性層20として使用できる例示的な磁性材料としては、コバルト-鉄-ホウ素(Co-Fe-B)の合金、コバルト-鉄(Co-Fe)の合金、鉄(Fe)、コバルト(Co)またはそれらの任意の多層スタックなどがあるが、これらに限定されるわけではない。分極磁性層20の垂直異方性は、トンネル障壁層22との界面および分極磁性層20自体の厚さによって設定される。分極磁性層20は、典型的には、-1kOe~10kOeの垂直異方性HKを有する。分極磁性層20は、0.5nm~3nmの厚さを有することができるが、分極磁性層20の他の厚さを使用することもできる。
【0026】
第1の結合層18および第2の結合層14は、いずれも、例えば、タンタル(Ta)、タングステン(W)、ルテニウム(Ru)、イリジウム(Ir)またはタンタル-鉄(Ta-Fe)の合金などの非磁性金属含有物質で構成することができる。本発明によれば、第1の結合層18は、分極磁性層20と第1の磁気参照層16との間に挟まれ、第2の結合層14は、第1の磁気参照層16と第2の磁気参照層12との間に挟まれる。第1の結合層18および第2の結合層14の両方は、0.4nm~1nmの厚さを有することができるが、第1の結合層18および第2の結合層14の両方について他の厚さを使用することもできる。
【0027】
第1の磁気参照層16と第2の磁気参照層12は、いずれも磁化が固定されている。第1の磁気参照層16と第2の磁気参照層12は、いずれも、コバルト/ニッケル(Co/Ni)、コバルト/プラチナ(Co/Pt)、コバルト/パラジウム(Co/Pd)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、プラチナ(Pt)、パラジウム(Pd)またはこれらの任意の多層スタックで構成することが可能である。いくつかの実施形態において、第1の磁気参照層16および第2の磁気参照層12は、組成的に同じ磁性材料で構成される。他の実施形態では、第1の磁気参照層16は、第2の磁気参照層12と組成的に異なる磁性材料で構成される。第1の磁気参照層16および第2の磁気参照層12の両方の厚さは、0.2nm~1nmとすることができる。
【0028】
第1の磁気参照層16は、典型的には、0kOe~10kOeの垂直異方性HKを有する。本願では、第1の磁気参照層16の垂直異方性は、分極磁性層20の垂直異方性と実質的に一致する(±10%以内)。第1の磁気参照層16と分極磁性層20の垂直異方性を実質的に一致させることにより、それらの層の共振周波数ピークが互いに実質的に一致することになる。
【0029】
第2の磁気参照層12は、典型的には、0kOe~10kOeの垂直異方性HKを有する。本願のいくつかの実施形態では、第2の磁気参照層12の垂直異方性は、第1の磁気参照層16および分極磁性層20の両方の垂直異方性に実質的に一致する(±10%以内)。このような一実施形態では、分極磁性層20の共振周波数ピークは、第1および第2の磁気参照層の両方の共振周波数ピークと実質的に重複することになる。
【0030】
いくつかの実施形態において、また、分極磁性層20と第1の磁気参照層16の共振周波数ピークの重複を増加させるために、第1の磁気参照層16は、そこに挿入された希土類元素を含むことができる。希土類元素としては、セリウム(Ce)、ジスプロシウム(Dy)、エルビウム(Er)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、ホルミウム(Ho)、ランタン(La)、ルテチウム(Lu)、ネオジム(Nd)、プラセオジム(Pr)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、スカンジウム(Sc)、テルビウム(Tb)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、およびイットリウム(Y)である。いくつかの実施形態では、希土類元素の挿入は、第1の磁気参照層16内に位置する離散的な希土類元素含有層を含む。他の実施形態では、希土類元素の挿入は、第1の磁気参照層16を希土類元素でドーピングすることを含む。いくつかの実施形態では、そして希土類元素が第1の磁気参照層16に存在するとき、希土類元素を含む第1の磁気参照層16は、0.0001~1の減衰値αを有し得る。
【0031】
いくつかの実施形態では、第2の磁気参照層12は、希土類元素の挿入を含むことができる。いくつかの実施形態では、第1の磁気参照層16および第2の磁気参照層12の両方が、希土類の挿入を含む。いくつかの実施形態において、そして希土類元素が第2の磁気参照層12内に存在するとき、希土類元素を含む第2の磁気参照層12は、0.0001~1の減衰値αを有し得る。
【0032】
安定した共振SAF参照層構造10は、第1の磁気参照層16の材料特性を調整することによって、2端子磁気トンネル接合製作に実装することができる。安定性を向上させるために、第1の磁気参照層16の共振周波数は、分極磁性層20と実質的に一致させる必要がある。分極磁性層の共振周波数(ωPL)と第1の磁気参照層の共振周波数(ωRL)が等しくない場合、スピン流励起が分極磁性層20に閉じ込められる。これは、
図2Aにおける、静止状態軸周りの磁気モーメントベクトル処理を概念的に示している。十分に大きなスピン流励起は、この分極磁性層20の反転をもたらす。共振周波数が等しい場合、スピン流励起は、第1の磁気参照層16に広がるが、これは
図2Bに概念的に示されている。分極磁性層20に堆積される総エネルギーは減少し、その結果、分極磁性層20のスピン流励起はより低くなる。
【0033】
分極磁性層20と第1の磁気参照層16の共振周波数は、垂直異方性エネルギーに線形に依存する。第1の磁気参照層16の垂直異方性は、材料界面で生成される。そして、界面で生成された全異方性エネルギーは、分極磁性層20のバルクに分配され、第1の磁気参照層16の厚さを上記の厚さ範囲内で変更することにより、全エネルギーと共振周波数が調整され得ることを意味する。これらの層の厚さを最適化することで、分極磁性層20と第1の磁気参照層16の共振周波数の一致条件を達成することができる。
【0034】
分極磁性層20と第1の磁気参照層16との間には、所望の効果が見られる程度の共振周波数の不一致がある。
【0035】
加工磁気モーメントの励起周波数は、単一の独立した値ではない。むしろ、材料の磁気減衰によって決定される幅を持つ周波数の範囲に及ぶ。以下では、周波数の関数としての励起周波数を表している。2つの共振周波数が分離している場合、2つのピークの重複はない(例えば
図3Aを参照)。共振周波数が近い場合は、ピークが重複する(例えば、
図3Bを参照)。この状況では、分極磁性層20と第1の磁気参照層16との間で共振が起こり得る。
【0036】
本願が動作するための要件は、分極磁性層の共振ラインが、第1の磁気参照層の残りのライン幅と大きく重複することである。共振中心周波数の調整に加えて、磁気減衰特性を増加させるために、第1の磁気参照層16を設計することもできる。一実施形態では、そして上述したように、第1の磁気参照層16の増加した磁気減衰は、第1の磁気参照層16への希土類元素の挿入によって得ることができる。単純な共線幾何学において、強磁性共振のライン幅は、使用される材料の磁気減衰定数に正比例する。
図4に示すように、減衰αを増加させると、共振ピークの幅が大きくなり、より広い範囲の重複を可能にする。
【0037】
この設計の有効性を示すために、マクロスピンモデルを用いた数値シミュレーションを行う。このモデルはランダウ=リフシッツ=ギルバート方程式に基づいている。
ここで、n
m1は磁気的自由層方向ベクトル、n
m2は分極磁性層方向ベクトルである。J
sはスピン流、H
kは垂直異方性磁場、αは減衰、tは層厚、M
sは飽和磁化を表す。E
exは層間交換結合エネルギーを表す。第1および第2の磁気参照層に関する追加の方程式が含まれるが、ここでは示さない。
【0038】
まず、磁気参照層と分極磁性層が異なる共振周波数を有する(Hkが異なる)構造(先行技術による)を、表1に示すような以下のパラメータでシミュレーションした。
【0039】
【0040】
ここで、分極磁性層と磁気参照層の共振周波数が一致しない先行技術のMTJピラーにおける磁気的自由層(
図5A)および分極磁性層(
図5B)の時間nsの関数としての磁化方向Mを示すプロットである
図5A~
図5Bが参照され、
図5A~
図5Bは上記の表1に示すパラメータに基づくものである。磁化M
zのz成分は、デバイスの状態を決定する。このシミュレーションでは、数ナノ秒後に磁気的自由層が切り替わる。その直後、分極磁性層で励起が始まり、その後反転して書き込みエラーが発生する。
【0041】
次に、磁気参照層と分極磁性層が実質的に一致する共振周波数(Hkが異なる)を有する別の構造(本願による)を、表2に示すような以下のパラメータでシミュレーションした。
【0042】
【0043】
次に、分極磁性層および磁気参照層の共振周波数が実質的に一致するMTJピラーにおける磁気的自由層(
図6A)および分極磁性層(
図6B)の時間nsの関数としての磁化方向Mを示すプロットである
図6A~
図6Bが参照され、
図6A~
図6Bは上記の表2に示すパラメータに基づくものである。このシミュレーションでは、磁気的自由層(
図6A)のスイッチングがエラーなく発生した。分極磁性層(
図6B)および少なくとも第1の磁気参照層の共振周波数が一致すると(このシミュレーションでは、分極磁性層および第1および第2の磁気参照の共振周波数が全て実質的に一致する)、分極磁性層の電流駆動励起は減少する。結合している磁気参照層にも励起が起こり始めるが、分極磁性層の振幅は減少している。このように、構造全体にエネルギーが行き渡ることで、全体的な安定性が向上する。減衰などの材料パラメータをさらに調整することで、構造をさらに安定化させることができる。
【0044】
本願は、その好ましい実施形態に関して特に示され、説明されてきたが、本願の範囲から逸脱することなく、形態および詳細における前述および他の変更がなされ得ることは、当業者には理解されよう。したがって、本願は、記載され図示された正確な形態および詳細に限定されるものではなく、添付の特許請求の範囲の範囲内に入ることが意図されるものである。