(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-20
(45)【発行日】2025-05-28
(54)【発明の名称】変速機の制御装置
(51)【国際特許分類】
F16H 61/04 20060101AFI20250521BHJP
F16H 61/662 20060101ALI20250521BHJP
F16H 59/38 20060101ALI20250521BHJP
F16H 59/68 20060101ALI20250521BHJP
F16H 61/682 20060101ALI20250521BHJP
F16H 37/02 20060101ALI20250521BHJP
【FI】
F16H61/04
F16H61/662
F16H59/38
F16H59/68
F16H61/682
F16H37/02 R
(21)【出願番号】P 2023046939
(22)【出願日】2023-03-23
【審査請求日】2024-03-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100180644
【氏名又は名称】▲崎▼山 博教
(72)【発明者】
【氏名】井川 将
(72)【発明者】
【氏名】岩野 勉
【審査官】大山 広人
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-116038(JP,A)
【文献】特開2020-106097(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/04
F16H 61/662
F16H 59/38
F16H 59/68
F16H 61/682
F16H 37/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インプット軸とアウトプット軸との間の第一動力伝達経路上に介在される第一係合要素と、前記インプット軸と前記アウトプット軸との間の第二動力伝達経路に介在される第二係合要素とを備え、前記第二動力伝達経路上に無段変速機構を有し、前記第一係合要素の解放及び前記第二係合要素の係合により、前記無段変速機構によるベルト変速比が大きいほど前記インプット軸と前記アウトプット軸との間でのトータル変速比が大きくなる第一モードとなり、前記第一係合要素の係合及び前記第二係合要素の解放により、前記ベルト変速比が大きいほど前記トータル変速比が小さくなる第二モードとなり、前記ベルト変速比が一定値であるときに、前記第一係合要素及び前記第二係合要素に差回転が生じないように構成された変速機の制御装置であって、
前記第二モードから前記第一モードへのモード切替に際して、前記インプット軸への入力トルクに基づいて導出される入力回転数の上昇勾配である導出回転勾配と、目標回転数の上昇勾配との大小関係に応じて、前記目標回転数に応じて前記第二係合要素の係合度を調整することにより実回転数を上昇させるオフダウンクラッチツークラッチ制御、及び前記目標回転数に応じて前記第一係合要素の係合度を調整することにより実回転数を上昇させるオンダウンクラッチツークラッチ制御のいずれかを、選択的に実行可能なものであること、を特徴とする変速機の制御装置。
【請求項2】
前記導出回転勾配が前記目標回転数の上昇勾配を下回ることを条件として、オフダウンクラッチツークラッチ制御を実行し、
前記導出回転勾配が前記目標回転数の上昇勾配を上回ることを条件として、オンダウンクラッチツークラッチ制御を実行すること、を特徴とする請求項1に記載の変速機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車などの車両に搭載される変速機として、動力を無段階に変速する無段変速機構を備え、インプット軸とアウトプット軸との間で動力を2つの経路で分割して伝達可能な動力分割式無段変速機が提案されている。
【0003】
下記特許文献1に開示されている変速機の制御装置は、上述した動力分割式無段変速機において、第二モードであるスプリットモードから第一モードであるベルトモードに遷移するダウンシフトにおける変速ショックの発生を抑制すべく提供されたものである。特許文献1の制御装置は、スプリットモードにおいてトータル変速比の目標が一定値よりも大きい値に設定された場合に、スプリットモードからベルトモードへの切り替え、つまり第一クラッチと第二クラッチとの係合の切り替えを行う。この場合に、特許文献1の制御装置は、キックダウン要求発生時のベルト変速比のアップシフト方向への時間変化率が所定の変速閾値以上である場合に、ベルト変速比がスプリット点に一致しない状態でのクラッチツークラッチの制御の実施を禁止する制御を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで本発明者らは、上記特許文献1に開示されているような動力分割式の無段変速機において、第二モードであるスプリットモードから第一モードであるベルトモードへのモード切替に際して、第一係合要素を解放させつつ、第二係合要素を係合させるクラッチツークラッチ制御を行う場合に、目標回転数に応じて第二係合要素の係合度を調整することにより実回転数を上昇させるオフダウンクラッチツークラッチ制御、及び目標回転数に応じて第一係合要素の係合度を調整することにより実回転数を上昇させるオンダウンクラッチツークラッチ制御のいずれかを、選択的に行えるようにすることを検討した。その結果、アクセルのオンオフに応じて、オフダウンクラッチツークラッチ制御、及びオンダウンクラッチツークラッチ制御を選択的に行うようにすれば、適確に第二モードであるスプリットモードから第一モードであるベルトモードへのモード切替を行えるのではないかとの知見に至った。
【0006】
しかしながら、さらに鋭意検討を重ねたところ、アクセルがオンであっても、アクセル開度が低い場合には、入力トルクが低くなるため、第一係合要素が解放状態であったとしても実回転数を所定の期間内に上昇させることができない可能性があるとの知見に至った。また、このような現象が生じると、クラッチにおける発熱量の増加等の副次的な現象も発生する可能性があるとの知見に至った。
【0007】
そこで本発明は、第二モードから第一モードへのモード切替に際してクラッチツークラッチ制御を行う場合に、オンダウンクラッチツークラッチ制御、及びオフダウンクラッチツークラッチ制御を適確に使い分けることにより、目標回転数に則して実回転数を適切に上昇させることが可能な変速機の制御装置の提供を目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る変速機の制御装置は、インプット軸とアウトプット軸との間の第一動力伝達経路上に介在される第一係合要素と、前記インプット軸と前記アウトプット軸との間の第二動力伝達経路に介在される第二係合要素とを備え、前記第二動力伝達経路上に無段変速機構を有し、前記第一係合要素の解放及び前記第二係合要素の係合により、前記無段変速機構によるベルト変速比が大きいほど前記インプット軸と前記アウトプット軸との間でのトータル変速比が大きくなる第一モードとなり、前記第一係合要素の係合及び前記第二係合要素の解放により、前記ベルト変速比が大きいほど前記トータル変速比が小さくなる第二モードとなり、前記ベルト変速比が一定値であるときに、前記第一係合要素及び前記第二係合要素に差回転が生じないように構成された変速機の制御装置であって、前記第二モードから前記第一モードへのモード切替に際して、前記インプット軸への入力トルクに基づいて導出される入力回転数の上昇勾配である導出回転勾配と、目標回転数の上昇勾配との大小関係に応じて、前記目標回転数に応じて前記第二係合要素の係合度を調整することにより実回転数を上昇させるオフダウンクラッチツークラッチ制御、及び前記目標回転数に応じて前記第一係合要素の係合度を調整することにより実回転数を上昇させるオンダウンクラッチツークラッチ制御のいずれかを、選択的に実行可能なものであること、を特徴とするものである。
【0009】
本発明の変速機の制御装置は、上記(1)のように、インプット軸への入力トルクに基づいて導出される入力回転数の上昇勾配である導出回転勾配と、目標回転数の上昇勾配との大小関係に応じて、オフダウンクラッチツークラッチ制御、及びオンダウンクラッチツークラッチ制御のいずれかを、選択的に実行可能なものとされている。そのため、本発明の変速機の制御装置は、アクセルのオンオフを指標とする場合に比べて、オフダウンクラッチツークラッチ制御と、オンダウンクラッチツークラッチ制御とを適切に使い分けることができる。これにより、本発明の変速機の制御装置は、例えば、アクセルがオン状態であるものの、アクセル開度が小さい場合のように、インプット軸への入力回転数(入力トルク)が十分な大きさに達していない状態において、オフダウンクラッチツークラッチ制御が行われることにより、実回転数の上昇を所定時間内に完了させ、第二モードから第一モードへのモード切替をスムーズに行わせることができる。また、本発明の変速機の制御装置は、第二モードから第一モードへのモード切替に際して実回転数の上昇を所定時間内に完了させることができるため、クラッチにおける発熱量の増加等の副次的な現象の発生を抑制することができる。
【0010】
ここで、本発明においては、インプット軸の実際の回転数(実回転数)から求められるインプット軸への入力回転数の上昇勾配を、上述した導出回転勾配の代わりに用いることも考えられるが、この場合はクラッチ制御による影響により、インプット軸への入力回転数の上昇勾配を精度良く把握することができなくなる懸念がある。このような懸念を払拭すべく、本発明では、インプット軸への入力トルクに基づいて導出される入力回転数の上昇勾配を導出回転勾配として導出し、これと目標回転数の上昇勾配との大小関係を指標として、オフダウンクラッチツークラッチ制御、及びオンダウンクラッチツークラッチ制御のいずれかを、選択的に実行可能なものとしている。従って、変速機の制御装置によれば、クラッチ制御による影響を受けることなく、オフダウンクラッチツークラッチ制御、及びオンダウンクラッチツークラッチ制御のいずれを選択するべきであるのかを精度良く判定することができる。
【0011】
(2)本発明に係る変速機の制御装置は、前記導出回転勾配が前記目標回転数の上昇勾配を下回ることを条件として、オフダウンクラッチツークラッチ制御を実行し、前記導出回転勾配が前記目標回転数の上昇勾配を上回ることを条件として、オンダウンクラッチツークラッチ制御を実行するものであると良い。
【0012】
本発明の変速機の制御装置は、上記(2)のようにして、オフダウンクラッチツークラッチ制御と、オンダウンクラッチツークラッチ制御とを適切に使い分けることとすれば、実回転数の上昇を所定時間内に完了させ、第二モードから第一モードへのモード切替をスムーズに行わせることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、上述した本発明の課題を解消できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る変速システムを採用した車両の駆動系の構成を示すスケルトン図である。
【
図2】
図1の変速システムを構成する変速機が備える各係合要素の状態を示す図である。
【
図3】
図1の変速システムを構成する変速機が備える遊星歯車機構のサンギヤ、キャリヤ、及びリングギヤの回転数(回転速度)の関係を示す共線図である。
【
図4】
図1の変速システムを構成する変速機が備える無段変速機構のプーリ比と動力分割式無段変速機全体の減速比(ユニット変速比)との関係を示す図である。
【
図5】
図1の変速システムが備える制御系の構成を示す図である。
【
図6】変速システムにおいて行われるクラッチツークラッチ制御の制御フローを示すフローチャートである。
【
図7】導出回転勾配と目標回転勾配との関係を示す説明図であり、(a)は導出回転勾配が目標回転勾配を下回る場合を示す説明図、(b)は導出回転勾配が目標回転勾配以上である場合を示す説明図である。
【
図8】(a)はオフダウンクラッチツークラッチ制御におけるクラッチC1,C2の油圧(係合度)と、目標回転数及び実回転数の関係を示す説明図であり、(b)はオンダウンクラッチツークラッチ制御におけるクラッチC1,C2の油圧(係合度)と、目標回転数及び実回転数の関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係る変速システムSについて、これを搭載した車両1を例に挙げ、図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0016】
≪車両の駆動系≫
図1は、車両1の駆動系の構成を示すスケルトン図である。車両1は、エンジン2を駆動源とする自動車である。
【0017】
エンジン2には、エンジン2の燃焼室への吸気量を調整するための電子スロットルバルブ、燃料を吸入空気に噴射するインジェクタ(燃料噴射装置)、及び燃焼室内に電気放電を生じさせる点火プラグなどが設けられている。また、エンジン2には、その始動のためのスタータが付随して設けられている。エンジン2の動力は、トルクコンバータ3、及び変速機4を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達され、デファレンシャルギヤ5から左右のドライブシャフト6L,6Rを介してそれぞれ左右の駆動輪7L,7Rに伝達される。
【0018】
エンジン2は、E/G出力軸11を備えている。E/G出力軸11は、エンジン2が発生する動力により回転される。
【0019】
トルクコンバータ3は、フロントカバー21、ポンプインペラ22、タービンランナ23、及びロックアップ機構24を備えている。フロントカバー21には、E/G出力軸11が接続され、フロントカバー21は、E/G出力軸11と一体に回転する。ポンプインペラ22は、フロントカバー21に対するエンジン2側と反対側に配置されている。ポンプインペラ22は、フロントカバー21と一体回転可能に設けられている。タービンランナ23は、フロントカバー21とポンプインペラ22との間に配置されて、フロントカバー21と共通の回転軸線を中心に回転可能に設けられている。
【0020】
ロックアップ機構24は、ロックアップピストン25を備えている。ロックアップピストン25は、フロントカバー21とタービンランナ23との間に設けられている。ロックアップ機構24は、ロックアップピストン25とフロントカバー21との間の解放油室26の油圧とロックアップピストン25とポンプインペラ22との間の係合油室27の油圧との差圧により、ロックアップオン(係合)/オフ(解放)される。すなわち、解放油室26の油圧が係合油室27の油圧よりも高い状態では、その差圧により、ロックアップピストン25がフロントカバー21から離間し、ロックアップオフとなる。係合油室27の油圧が解放油室26の油圧よりも高い状態では、その差圧により、ロックアップピストン25がフロントカバー21に押し付けられて、ロックアップオンとなる。
【0021】
ロックアップオフの状態では、E/G出力軸11が回転されると、ポンプインペラ22が回転する。ポンプインペラ22が回転すると、ポンプインペラ22からタービンランナ23に向かうオイルの流れが生じる。このオイルの流れがタービンランナ23で受けられて、タービンランナ23が回転する。このとき、トルクコンバータ3の増幅作用が生じ、タービンランナ23には、E/G出力軸11のトルクよりも大きなトルクが発生する。
【0022】
ロックアップオンの状態では、E/G出力軸11が回転されると、E/G出力軸11、ポンプインペラ22、及びタービンランナ23が一体となって回転する。
【0023】
変速機4は、インプット軸31、及びアウトプット軸32を備え、インプット軸31に入力される動力を2つの経路に分岐してアウトプット軸32に伝達可能に構成された、いわゆる動力分割式(トルクスプリット式)変速機である。2つの動力伝達経路を構成するため、変速機4は、無段変速機構33、前減速ギヤ機構34、遊星歯車機構35、及びスプリット変速機構36を備えている。
【0024】
インプット軸31は、トルクコンバータ3のタービンランナ23に連結され、タービンランナ23と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
【0025】
アウトプット軸32は、インプット軸31と平行に設けられている。アウトプット軸32には、出力ギヤ37が相対回転不能に支持されている。出力ギヤ37は、デファレンシャルギヤ5(デファレンシャルギヤ5のリングギヤ)と噛合している。
【0026】
無段変速機構33は、ベルト式の無段変速機(CVT:Continuously Variable Transmission)によって構成されている。具体的には、無段変速機構33は、プライマリ軸41、セカンダリ軸42、プライマリプーリ43、セカンダリプーリ44、及びベルト45を備えている。プライマリ軸41及びセカンダリ軸42は、互いに並行に設けられている。また、プライマリプーリ43は、プライマリ軸41に相対回転不能に支持されたプーリである。セカンダリプーリ44は、セカンダリ軸42に相対回転不能に支持されたプーリである。ベルト45は、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とに亘って巻き掛けられている。
【0027】
プライマリプーリ43は、固定シーブ51、及び可動シーブ52を備えている。固定シーブ51は、プライマリ軸41に固定されたシーブである。また、可動シーブ52は、ベルト45を挟んで固定シーブ51に対して対向配置され、プライマリ軸41にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持されたシーブである。また、可動シーブ52に対して固定シーブ51と反対側には、シリンダ53が設けられている。シリンダ53は、プライマリ軸41に固定されている。可動シーブ52とシリンダ53との間には、油圧室54が形成されている。
【0028】
セカンダリプーリ44は、固定シーブ55、及び可動シーブ56を備えている。固定シーブ55は、セカンダリ軸42に固定されたシーブである。可動シーブ56は、ベルト45を挟んで固定シーブ55に対して対向配置され、セカンダリ軸42にその軸線方向に移動可能かつ相対回転不能に支持されたシーブである。可動シーブ56に対して固定シーブ55と反対側には、シリンダ57が設けられている。シリンダ57は、セカンダリ軸42に固定されている。また、可動シーブ56とシリンダ57との間には、油圧室58が形成されている。回転軸線方向において、固定シーブ55と可動シーブ56との位置関係は、プライマリプーリ43の固定シーブ51と可動シーブ52との位置関係と逆転している。
【0029】
無段変速機構33では、プライマリプーリ43の油圧室54、及びセカンダリプーリ44の油圧室58に供給される油圧がそれぞれ制御されて、プライマリプーリ43、及びセカンダリプーリ44の各溝幅が変更される。これにより、無段変速機構33は、ベルト変速比(プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比)が連続的に無段階に変更できるものとされている。
【0030】
具体的には、ベルト変速比が小さくされるときには、プライマリプーリ43の油圧室54に供給される油圧が上げられる。これにより、プライマリプーリ43の可動シーブ52が固定シーブ51側に移動し、固定シーブ51と可動シーブ52との間隔(溝幅)が小さくなる。これに伴い、プライマリプーリ43に対するベルト45の巻きかけ径が大きくなり、セカンダリプーリ44の固定シーブ55と可動シーブ56との間隔(溝幅)が大きくなる。その結果、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比が小さくなる。
【0031】
ベルト変速比が大きくされるときには、プライマリプーリ43の油圧室54に供給される油圧が下げられる。これにより、セカンダリプーリ44の推力(セカンダリ推力)に対するプライマリプーリ43の推力(プライマリ推力)の比である推力比が小さくなり、セカンダリプーリ44の固定シーブ55と可動シーブ56との間隔が小さくなるとともに、固定シーブ51と可動シーブ52との間隔が大きくなる。その結果、プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比が大きくなる。
【0032】
一方、プライマリプーリ43、及びセカンダリプーリ44の推力は、プライマリプーリ43、及びセカンダリプーリ44とベルト45との間で滑り(ベルト滑り)が生じない大きさを必要とする。そのため、ベルト滑りを生じない必要十分な挟圧が得られるよう、プライマリプーリ43の油圧室54、及びセカンダリプーリ44の油圧室58に供給される油圧が制御される。
【0033】
前減速ギヤ機構34は、インプット軸31に入力される動力を逆転かつ減速させてプライマリ軸41に伝達する構成である。具体的には、前減速ギヤ機構34は、インプット軸ギヤ61と、プライマリ軸ギヤ62とを備えている。インプット軸ギヤ61は、インプット軸31に相対回転不能に支持されたギヤである。また、プライマリ軸ギヤ62は、インプット軸ギヤ61よりも大径で歯数が多く、インプット軸ギヤ61と噛合するギヤである。プライマリ軸ギヤ62は、プライマリ軸41にスプライン嵌合により相対回転不能に支持されている。
【0034】
遊星歯車機構35は、サンギヤ71、キャリヤ72、及びリングギヤ73を備えている。サンギヤ71は、セカンダリ軸42にスプライン嵌合により相対回転不能に支持されている。キャリヤ72は、アウトプット軸32に相対回転可能に外嵌されている。キャリヤ72は、複数個のピニオンギヤ74を回転可能に支持している。ピニオンギヤ74は、円周上に複数個配置され、それぞれサンギヤ71と噛合している。リングギヤ73は、複数個のピニオンギヤ74を一括して取り囲む円環状の形状を有し、各ピニオンギヤ74にセカンダリ軸42の回転径方向の外側から噛合している。また、リングギヤ73には、アウトプット軸32が接続され、リングギヤ73は、アウトプット軸32と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。
【0035】
スプリット変速機構36は、スプリットドライブギヤ81と、スプリットドライブギヤ81と噛合するスプリットドリブンギヤ82とを含む平行軸式歯車機構である。
【0036】
スプリットドライブギヤ81は、インプット軸31に相対回転可能に外嵌されている。
【0037】
スプリットドリブンギヤ82は、遊星歯車機構35のキャリヤ72と同一の回転軸線を中心に一体的に回転可能に設けられている。スプリットドリブンギヤ82は、スプリットドライブギヤ81よりも小径に形成され、スプリットドライブギヤ81よりも少ない歯数を有している。
【0038】
また、変速機4は、クラッチC1,C2、及びブレーキB1を備えている。
【0039】
クラッチC1(第一係合要素)は、油圧により、インプット軸31とスプリットドライブギヤ81とを直結(一体回転可能に結合)する係合状態と、その直結を解除する解放状態とに切り替えられる。
【0040】
クラッチC2(第二係合要素)は、油圧により、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とを直結(一体回転可能に結合)する係合状態と、その直結を解除する解放状態とに切り替えられる。
【0041】
ブレーキB1は、油圧により、遊星歯車機構35のキャリヤ72を制動する係合状態と、キャリヤ72の回転を許容する解放状態とに切り替えられる。
【0042】
≪動力伝達モード≫
図2は、車両1の前進時、及び後進時におけるクラッチC1,C2、及びブレーキB1の状態を示す図である。
図3は、遊星歯車機構35のサンギヤ71、キャリヤ72、及びリングギヤ73の回転数(回転速度)の関係を示す共線図である。
図4は、無段変速機構33によるベルト変速比(プーリ比)と変速機4の全体でのトータル変速比(ユニット変速比)との関係を示す図である。
【0043】
図2において、「○」は、クラッチC1,C2、及びブレーキB1が係合状態であることを示している。「×」は、クラッチC1,C2、及びブレーキB1が解放状態であることを示している。
【0044】
車両1の車室内には、運転者が操作可能な位置に、複数のポジション間で変位可能に設けられた変位部材が設けられている。本実施形態では、シフトレバー(セレクトレバー)が、変位部材として配設されている。シフトレバーの可動範囲には、たとえば、P(パーキング)ポジション、R(リバース)ポジション、N(ニュートラル)ポジション、D(ドライブ)ポジション、S(スポーツ)ポジション、及びB(ブレーキ)ポジションがこの順に一列に並べて設けられている。
【0045】
シフトレバーがPポジションに位置する状態では、クラッチC1,C2、及びブレーキB1のすべてが解放され、パーキングロックギヤ(図示せず)が固定されることにより、変速機4の変速レンジの1つであるPレンジが構成される。また、シフトレバーがNポジションに位置する状態では、クラッチC1,C2、及びブレーキB1のすべてが解放されて、パーキングロックギヤが固定されないことにより、変速機4の変速レンジの1つであるNレンジが構成される。クラッチC1、及びブレーキB1の両方が解放された状態では、エンジン2の動力がセカンダリ軸42まで伝達されて、セカンダリ軸42が回転するが、遊星歯車機構35のサンギヤ71、及びピニオンギヤ74が空転し、エンジン2の動力は駆動輪7L,7Rに伝達されない。
【0046】
シフトレバーがDポジション、Sポジション、又はBポジションに位置する状態では、変速機4の変速レンジの1つである前進レンジが構成される。この前進レンジでの動力伝達モードには、ベルトモード、及びスプリットモードが含まれる。ベルトモードとスプリットモードとは、クラッチC1が係合している状態とクラッチC2が係合している状態との切り替え(クラッチC1,C2の掛け替え)により切り替えられる。
【0047】
ベルトモードでは、
図2に示されるように、クラッチC1、及びブレーキB1が解放され、クラッチC2が係合される。これにより、スプリットドライブギヤ81がインプット軸31から切り離され、遊星歯車機構35のキャリヤ72がフリー(自由回転状態)になり、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが直結される。
【0048】
インプット軸31に入力される動力は、前減速ギヤ機構34により逆転かつ減速されて、無段変速機構33のプライマリ軸41に伝達され、プライマリ軸41、及びプライマリプーリ43を回転させる。プライマリプーリ43の回転は、ベルト45を介して、セカンダリプーリ44に伝達され、セカンダリプーリ44、及びセカンダリ軸42を回転させる。遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが直結されているので、セカンダリ軸42と一体となって、サンギヤ71、リングギヤ73、及びアウトプット軸32が回転する。したがって、ベルトモードでは、
図3、及び
図4に示されるように、変速機4のトータル変速比(ユニット変速比)が無段変速機構33のベルト変速比(プライマリプーリ43とセカンダリプーリ44とのプーリ比)に前減速比(インプット軸31の回転数/プライマリ軸41の回転数)を乗じた値と一致する。
【0049】
スプリットモードでは、
図2に示されるように、クラッチC1が係合され、クラッチC2、及びブレーキB1が解放される。これにより、インプット軸31とスプリットドライブギヤ81とが結合されて、インプット軸31の回転がスプリットドライブギヤ81、及びスプリットドリブンギヤ82を介して遊星歯車機構35のキャリヤ72に伝達可能になり、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが切り離される。
【0050】
インプット軸31に入力される動力は、スプリットドライブギヤ81からスプリットドリブンギヤ82を介して遊星歯車機構35のキャリヤ72に増速されて伝達される。キャリヤ72に伝達される動力は、キャリヤ72からサンギヤ71、及びリングギヤ73に分割して伝達される。サンギヤ71の動力は、セカンダリ軸42、セカンダリプーリ44、ベルト45、プライマリプーリ43、及びプライマリ軸41を介してプライマリ軸ギヤ62に伝達され、プライマリ軸ギヤ62からインプット軸ギヤ61に伝達される。そのため、ベルトモードでは、インプット軸ギヤ61が駆動ギヤとなり、プライマリ軸ギヤ62が被動ギヤとなるのに対し、スプリットモードでは、プライマリ軸ギヤ62が駆動ギヤとなり、インプット軸ギヤ61が被動ギヤとなる。
【0051】
スプリットドライブギヤ81とスプリットドリブンギヤ82とのギヤ比は一定で不変(固定)であるので、スプリットモードでは、インプット軸31に入力される動力が一定であれば、遊星歯車機構35のキャリヤ72の回転が一定速度に保持される。そのため、ベルト変速比が上げられると、遊星歯車機構35のサンギヤ71の回転数が下がるので、
図3に破線で示されるように、遊星歯車機構35のリングギヤ73(アウトプット軸32)の回転数が上がる。その結果、スプリットモードでは、
図4に示されるように、無段変速機構33のベルト変速比が大きいほど、変速機4の減速比が小さくなり、ベルト変速比に対する減速比の感度(ベルト変速比の変化量に対する減速比の変化量の割合)がベルトモードと比べて低い。
【0052】
ベルトモード、及びスプリットモードにおけるアウトプット軸32の回転は、出力ギヤ37を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト6L,6R、及び駆動輪7L,7Rが前進方向に回転する。
【0053】
なお、シフトレバーがDポジション、Sポジション、又はBポジションのいずれに位置する状態であっても、前進レンジでは、変速比を自動的かつ連続的に無段階で変化させる変速制御が行われる。ただし、シフトレバーがSポジションに位置する状態(Sレンジ)では、シフトレバーがDポジションに位置する状態(Dレンジ)と比較して、エンジン回転数が高めに維持されるように変速比が変更される。これにより、Sレンジでは、Dレンジと比較して、運転者がスポーティな走行を楽しむことができ、また、減速時に強いエンジンブレーキが得られる。シフトレバーがBポジションに位置する状態(Bレンジ)では、Sレンジよりもエンジン回転数がさらに高めに維持されるように変速比が変更され、減速時にSレンジよりもさらに強いエンジンブレーキが得られる。
【0054】
シフトレバーがRポジションに位置する状態では、変速機4の変速レンジの1つである後進レンジが構成される。後進レンジでは、
図2に示されるように、クラッチC1,C2が解放され、ブレーキB1が係合される。これにより、スプリットドライブギヤ81がインプット軸31から切り離され、遊星歯車機構35のサンギヤ71とリングギヤ73とが切り離され、遊星歯車機構35のキャリヤ72が制動される。
【0055】
インプット軸31に入力される動力は、前減速ギヤ機構34により逆転かつ減速されて、無段変速機構33のプライマリ軸41に伝達され、プライマリ軸41からプライマリプーリ43、ベルト45、及びセカンダリプーリ44を介してセカンダリ軸42に伝達され、セカンダリ軸42と一体に、遊星歯車機構35のサンギヤ71を回転させる。遊星歯車機構35のキャリヤ72が制動されているので、サンギヤ71が回転すると、遊星歯車機構35のリングギヤ73がサンギヤ71と逆方向に回転する。このリングギヤ73の回転方向は、前進時(ベルトモード、及びスプリットモード)におけるリングギヤ73の回転方向と逆方向となる。そして、リングギヤ73と一体に、アウトプット軸32が回転する。アウトプット軸32の回転は、出力ギヤ37を介して、デファレンシャルギヤ5に伝達される。これにより、車両1のドライブシャフト6L,6R、及び駆動輪7L,7Rが後進方向に回転する。
【0056】
≪車両の制御系≫
図5は、車両1の制御系の構成を示すブロック図である。
【0057】
車両1には、マイコン(マイクロコントローラユニット)を含む構成のECU91(Electronic Control Unit:電子制御ユニット)が制御装置として備えられている。マイコンには、たとえば、CPU、フラッシュメモリなどの不揮発性メモリおよびDRAM(Dynamic Random Access Memory)などの揮発性メモリが内蔵されている。
図5には、1つのECU91のみが示されているが、車両1には、各部を制御するため、ECU91と同様の構成を有する複数のECUが搭載されている。ECU91を含む複数のECUは、CAN(Controller Area Network)通信プロトコルによる双方向通信が可能に接続されている。
【0058】
ECU91は、エンジン2の始動、停止、及び出力調整などのため、エンジン2に設けられた電子スロットルバルブ、インジェクタ、及び点火プラグなどを制御する。また、トルクコンバータ3のロックアップ制御、及び変速機4の変速制御などのため、トルクコンバータ3、及び変速機4を含むユニットの各部に油圧を供給するための油圧回路92に含まれる各種のバルブを制御する。
【0059】
ECU91には、その制御に必要な各種センサが接続されている。一例として、ECU91には、トルクコンバータ3のタービンランナ23の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するタービン回転センサ93と、プライマリ軸41の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するプライマリ回転センサ94と、セカンダリ軸42の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するセカンダリ回転センサ95と、アウトプット軸32の回転に同期したパルス信号を検出信号として出力するアウトプット回転センサ96と、運転者により操作されるアクセルペダル(図示せず)の操作量に応じた検出信号を出力するアクセルセンサ97とが接続されている。
【0060】
ECU91では、タービン回転センサ93、プライマリ回転センサ94、セカンダリ回転センサ95およびアウトプット回転センサ96の各検出信号から、タービンランナ23の回転数であるタービン回転数、プライマリ軸41(プライマリプーリ43)の回転数であるプライマリ回転数、セカンダリ軸42(セカンダリプーリ44)の回転数であるセカンダリ回転数、およびアウトプット軸32の回転数であるアウトプット回転数が取得される。また、ECU91では、アクセルセンサ97の検出信号から、アクセルペダルの最大操作量に対する操作量の割合、つまりアクセルペダルが踏み込まれていないときを0%とし、アクセルペダルが最大に踏み込まれたときを100%とする百分率であるアクセル開度が求められる。
【0061】
なお、タービン回転センサ93、プライマリ回転センサ94、セカンダリ回転センサ95、アウトプット回転センサ96およびアクセルセンサ97の一部は、他のECUに接続されて、その一部のセンサから取得される情報は、他のECUから受信してもよい。
【0062】
≪変速制御≫
変速機4のトータル変速比は、ECU91によるベルト変速比の変更ならびにクラッチC1,C2及びブレーキB1の係合/解放により制御される。この変速制御では、まず、変速線図に基づいて、アクセル開度及び車速に応じた目標回転数が設定される。変速線図は、アクセル開度及び車速と目標回転数との関係を定めたマップであり、ECU91のROMに格納されている。車速の情報は、たとえば、エンジン2を制御するエンジンECUからECU91に送信される。目標回転数が設定されると、インプット軸31に入力される回転数、つまりタービン回転数を目標回転数に一致させるトータル変速比の目標が求められ、その目標に応じたベルト変速比の目標が設定される。
【0063】
その後、ベルト変速比の目標に基づいて、プライマリプーリ43の可動シーブ52に供給される油圧であるプライマリ圧及びセカンダリプーリ44の可動シーブ56に供給される油圧であるセカンダリ圧の指令値が設定され、各指令値に基づいて、ベルト変速比の目標と実ベルト変速比との偏差が零に近づくように、プライマリ圧及びセカンダリ圧が制御される。実ベルト変速比は、プライマリ回転数をセカンダリ回転数で除することにより求められる。
【0064】
トータル変速比がスプリットドライブギヤ81とスプリットドリブンギヤ82とのギヤ比に等しいスプリット点を跨いで変更される場合、そのトータル変速比の変更には、ベルトモードとスプリットモードとの切り替え(以下、単に「モード切替」という。)が伴う。モード切替は、クラッチC1,C2の係合の切り替えにより達成される。すなわち、クラッチC1,C2に供給される油圧の制御により、解放状態のクラッチC1(係合側)が係合され、係合状態のクラッチC2(解放側)が解放されることにより、ベルトモードからスプリットモードに切り替えられる。逆に、係合状態のクラッチC1(解放側)が解放され、解放状態のクラッチC2(係合側)が係合されることにより、スプリットモードからベルトモードに切り替えられる。
【0065】
ここで、本実施形態の変速システムSにおいては、スプリットモードからベルトモードへのモード切替に際して、クラッチC1を解放させつつ、クラッチC2を係合させるクラッチツークラッチ制御を行うことができる。また、変速システムSにおいては、クラッチツークラッチ制御を行う場合に、目標回転数に応じてクラッチC2の係合度を調整することにより実回転数を上昇させる制御方法(オフダウンクラッチツークラッチ制御)、及び目標回転数に応じてクラッチC1の係合度を調整することにより実回転数を上昇させる制御方法(オンダウンクラッチツークラッチ制御)のいずれかを、
図6に示した制御フローに則ってECU91により選択して実行可能とされている。以下、
図6を参照しつつ、変速システムSにおいて行われるクラッチツークラッチ制御について、さらに詳細に説明する。
【0066】
(ステップ1)
変速システムSにおいては、先ずステップ1において、スプリットモードからベルトモードへのモード切替要求の有無が確認される。ここで、スプリットモードからベルトモードへのモード切替要求の存在が確認された場合には、制御フローがステップ2に進められる。
【0067】
(ステップ2)
制御フローがステップ2に進むと、ECU91は、アクセル開度及び車速に応じて設定された目標回転数の上昇勾配(目標回転勾配)と、タービントルク及び効率に基づいて導出されるタービン回転数(=インプット軸31の回転数)の上昇勾配(導出回転勾配)との大小関係を比較する。その結果、
図7(a)のように、導出回転勾配が目標回転勾配を下回る場合には、タービントルクのみによっては所定の時間内に目標回転数まで上昇させることができない状態にある。このようにタービンの導出回転勾配が目標回転勾配を下回る場合には、制御フローがステップ3に進められる。一方、
図7(b)のように、導出回転勾配が目標回転勾配以上である場合には、所定の時間内に目標回転数を達成するうえでタービントルクが十分に大きい状態にある。このように導出回転勾配が目標回転勾配以上である場合には、制御フローがステップ4に進められる。
【0068】
(ステップ3)
制御フローが上述したステップ2からステップ3に進むと、ECU91は、オフダウンクラッチツークラッチ制御を実行する。すなわち、ステップ3において、ECU91は、
図8(a)に示すようにして目標回転数に応じてクラッチC2の係合度を調整することにより実回転数を上昇させる。この際、クラッチC1は、当接圧程度を維持するように制御される。これにより、タービントルクのみによっては所定の時間内に目標回転数まで上昇させることができない状態から、クラッチC2の係合度の調整により回転数を引きあげ、実回転数を目標回転数になるように調整する。
【0069】
(ステップ4)
一方、制御フローが上述したステップ2からステップ4に進んだ場合には、ECU91は、オンダウンクラッチツークラッチ制御が実行される。すなわち、ステップ3において、ECU91は、
図8(b)に示すようにして目標回転数に応じてクラッチC1の係合度を調整することにより実回転数を上昇させる。この際、クラッチC2は、当接圧程度を維持するように制御される。これにより、タービントルクによって吹き上がろうとする実回転数が、クラッチC1の係合度の調整を行うことにより目標回転数になるように抑制される。
【0070】
≪作用効果≫
上述した本実施形態の変速機4のECU91(制御装置)は、以下の(a),(b)のような特徴的構成を備えている。これにより、変速機4のECU91は、以下に記載のような特有の効果を奏することができる。
【0071】
(a)本実施形態に係るECU91(制御装置)は、インプット軸31とアウトプット軸32との間の第一動力伝達経路上に介在されるクラッチC1(第一係合要素)と、インプット軸31とアウトプット軸32との間の第二動力伝達経路に介在されるクラッチC2(第二係合要素)とを備え、第二動力伝達経路上に無段変速機構33を有し、クラッチC1の解放及びクラッチC2の係合により、無段変速機構33によるベルト変速比が大きいほどインプット軸31とアウトプット軸32との間でのトータル変速比が大きくなるベルトモード(第一モード)となり、クラッチC1の係合及びクラッチC2の解放により、ベルト変速比が大きいほどトータル変速比が小さくなるスプリットモード(第二モード)となり、ベルト変速比が一定値であるときに、クラッチC1及びクラッチC2に差回転が生じないように構成された変速機4の制御装置であって、スプリットモードからベルトモードへのモード切替に際して、インプット軸31への導出回転勾配と、目標回転数の上昇勾配との大小関係に応じて、目標回転数に応じてクラッチC2の係合度を調整することにより実回転数を上昇させるオフダウンクラッチツークラッチ制御、及び目標回転数に応じてクラッチC1の係合度を調整することにより実回転数を上昇させるオンダウンクラッチツークラッチ制御のいずれかを、選択的に実行可能なものであること、を特徴とするものである。
【0072】
本実施形態のECU91は、上記(a)のように、インプット軸31への導出回転勾配と、目標回転数の上昇勾配との大小関係に応じて、オフダウンクラッチツークラッチ制御、及びオンダウンクラッチツークラッチ制御のいずれかを、選択的に実行可能なものとされている。そのため、本実施形態のECU91は、アクセルのオンオフを指標とする場合に比べて、オフダウンクラッチツークラッチ制御と、オンダウンクラッチツークラッチ制御とを適切に使い分けることができる。これにより、ECU91は、例えば、アクセルがオン状態であるものの、アクセル開度が小さい場合のように、インプット軸31への入力回転数(入力トルク)が十分な大きさに達していない状態において、オフダウンクラッチツークラッチ制御が行われることにより、実回転数の上昇を所定時間内に完了させ、スプリットモードからベルトモードへのモード切替をスムーズに行わせることができる。また、本実施形態の変速機4のECU91は、スプリットモードからベルトモードへのモード切替に際して実回転数の上昇を所定時間内に完了させることができるため、クラッチにおける発熱量の増加等の副次的な現象の発生を抑制することができる。
【0073】
ここで、インプット軸31の実際の回転数(実回転数)から求められるインプット軸への入力回転数の上昇勾配を、前述の導出回転勾配の代わりに用いることも考えられるが、この場合はクラッチ制御による影響により、インプット軸31への入力回転数の上昇勾配を精度良く把握することができなくなる懸念がある。このような懸念を払拭すべく、本実施形態のECU91は、インプット軸31への入力トルク(タービントルク)及び効率を乗じることによりインプット軸31への入力回転数の上昇勾配を導出回転勾配として導出し、これと目標回転数の上昇勾配との大小関係を指標として、オフダウンクラッチツークラッチ制御、及びオンダウンクラッチツークラッチ制御のいずれかを、選択的に実行可能なものとされている。従って、ECU91によれば、クラッチ制御による影響を受けることなく、オフダウンクラッチツークラッチ制御、及びオンダウンクラッチツークラッチ制御のいずれを選択するべきであるのかを精度良く判定することができる。
【0074】
(b)本実施形態に係るECU91は、導出回転勾配が目標回転数の上昇勾配を下回ることを条件として、オフダウンクラッチツークラッチ制御を実行し、導出回転勾配が目標回転数の上昇勾配を上回ることを条件として、オンダウンクラッチツークラッチ制御を実行するものである。
【0075】
ECU91は、上記(b)のようにして、オフダウンクラッチツークラッチ制御と、オンダウンクラッチツークラッチ制御とを適切に使い分けることとすれば、実回転数の上昇を所定時間内に完了させ、スプリットモードからベルトモードへのモード切替をスムーズに行わせることができる。
【0076】
≪変形例≫
上記実施形態において例示した変速機4のECU91は本発明の一例を示したものに過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない限り、例えば上述した(a),(b)に係る構成を上記実施形態において例示したものとは異なるものとすることが可能である。また、変速機4のECU91は、上述した(a),(b)に含まれる構成に加えて、あるいは(a),(b)に含まれる構成に代えて他の構成を備えたものとしたり、一部の構成を省略した構成としたりしても良い。具体的には、以下に説明するような変形例が考えられる。
【0077】
本実施形態では、エンジン2を駆動源として駆動力が変速機4に入力される例を示したが、本発明はこれに限定されず、エンジン2に加えて、あるいはエンジン2に代えてモータ等の駆動源からの動力を受けて動作するものとしても良い。また、本実施形態の変速システムSは、複数のポジション間で変位可能に設けられた変位部材の例としてシフトレバーを例示したが、本発明はこれに限定されず他の部材を変位部材としても良い。
【0078】
また、本実施形態では、ECU91により、エンジン2ならびにトルクコンバータ3、及びCVT4の油圧回路92が制御される例を示したが、エンジン2とトルクコンバータ3、及び変速機4の油圧回路92とは、別々のECUによって制御されるものとしても良い。
【0079】
本発明は、上述した実施形態や変形例等として示したものに限定されるものではなく、特許請求の範囲を逸脱しない範囲でその教示及び精神から他の実施形態があり得る。上述した実施形態の構成要素は任意に選択して組み合わせて構成するとよい。また実施形態の任意の構成要素と、課題を解決するための手段に記載の任意の構成要素又は課題を解決するための手段に記載の任意の構成要素を具体化した構成要素とは任意に組み合わせて構成してもよい。これらについても本願の補正又は分割出願等において権利取得する意思を有する。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、いわゆる動力分割式変速機構を備えた変速システム全般において好適に利用することができる。
【符号の説明】
【0081】
2 :エンジン(駆動源)
4 :変速機
31 :インプット軸
32 :アウトプット軸
33 :無段変速機構
43 :プライマリプーリ
44 :セカンダリプーリ
45 :ベルト
91 :ECU(制御装置)
96 :シフトポジションセンサ(ポジション検出部)
C1 :クラッチ(第一係合要素)
C2 :クラッチ(第二係合要素)
S :変速システム