(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-20
(45)【発行日】2025-05-28
(54)【発明の名称】純水製造用ストレーナー及びそれを用いた超純水製造システム、超純水製造方法
(51)【国際特許分類】
C02F 1/44 20230101AFI20250521BHJP
B01D 71/32 20060101ALI20250521BHJP
B01D 71/36 20060101ALI20250521BHJP
B01D 29/31 20060101ALI20250521BHJP
【FI】
C02F1/44 J
B01D71/32
B01D71/36
B01D23/06
(21)【出願番号】P 2024014074
(22)【出願日】2024-02-01
【審査請求日】2024-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000245531
【氏名又は名称】野村マイクロ・サイエンス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100176072
【氏名又は名称】小林 功
(74)【代理人】
【識別番号】100177770
【氏名又は名称】玉腰 紀子
(72)【発明者】
【氏名】山本 克美
(72)【発明者】
【氏名】天谷 徹
【審査官】石岡 隆
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-58015(JP,U)
【文献】国際公開第2023/053572(WO,A1)
【文献】特開平11-207113(JP,A)
【文献】特開2011-67793(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C02F1/44
B01D24/00-39/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端が開口するとともに、側面に複数のろ過孔を有する筒状のろ過体と、前記ろ過体の一端に液密に接着されるキャップ部材と、を有し、
前記ろ過体は、金属からなるろ過体本体と、前記ろ過体本体表面全体に設けられたフッ素樹脂膜とを備え、
前記キャップ部材は、前記ろ過体本体の外部に向けて凸状であり、接液面全体がフッ素樹脂からなる、純水製造用ストレーナー。
【請求項2】
さらに、筒状のハウジングを有し、
前記ハウジングは、一端に吐水口を、他端に入水口を備え、
前記キャップ部材が前記ハウジングの入水口に向くように、前記ハウジングが前記ろ過体及び前記キャップ部材を収容し、
前記ろ過体の開口と前記ハウジングの吐水口とが連通している、
請求項1に記載の純水製造用ストレーナー。
【請求項3】
前記ハウジング及び前記ろ過体は、円筒状であり、
前記キャップ部材は、中実円錐又は中実半球形状である、請求項2に記載の純水製造用ストレーナー。
【請求項4】
前記ろ過体の開口側の端部が前記ハウジングの吐出口に接続される請求項2又は3に記載の純水製造用ストレーナー。
【請求項5】
前記ろ過体と前記キャップ部材とを接続する接続部を有する請求項1又は2に記載の純水製造用ストレーナー。
【請求項6】
前記接続部は、
前記キャップ部材と前記ろ過体の端面を貫通するネジ部材と、を備える請求項5に記載の純水製造用ストレーナー。
【請求項7】
前記フッ素樹脂膜及び前記フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンを含む請求項1又は2に記載の純水製造用ストレーナー。
【請求項8】
前記純水製造用ストレーナーを通過した純水中の鉄(Fe)濃度が0.1ng/L以下である、請求項1又は2に記載の純水製造用ストレーナー。
【請求項9】
一次純水装置と、二次純水装置をこの順に備え、
二次純水装置は、非再生型混床式イオン交換樹脂装置を含み、
前記非再生型混床式イオン交換樹脂装置の後段に、請求項1又は2に記載の純水製造用ストレーナーを備える、超純水製造システム。
【請求項10】
前記純水製造用ストレーナーを通過した純水中の鉄(Fe)濃度が0.1ng/L以下である、請求項9に記載の超純水製造システム。
【請求項11】
原水を一次純水装置と、二次純水装置とでこの順に処理する超純水製造方法であって、
前記二次純水装置は、非再生型混床式イオン交換樹脂装置と、前記非再生型混床式イオン交換樹脂装置に付属してその後段に配置された純水製造用ストレーナーを含み、
前記純水製造用ストレーナーは、両端が開口するとともに、側面に複数のろ過孔を有する筒状のろ過体と、前記ろ過体の一端に液密に接着されるキャップ部材と、を有し、
前記ろ過体は、金属からなるろ過体本体と、前記ろ過体本体表面全体に設けられたフッ素樹脂膜とを備え、
前記キャップ部材は、前記ろ過体本体の外部に向けて凸状であり、接液面全体がフッ素樹脂からなり、
鉄(Fe)濃度が0.1ng/L以下の超純水を製造する、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、純水製造用ストレーナー及びそれを用いる超純水製造システム、超純水製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体ウエハの洗浄など、半導体製造工程で不純物が高度に除去された超純水が多く用いられる。超純水は、所望の水質に応じて水処理装置が組み合わされた超純水製造システムで製造される。超純水製造システムは、前処理装置、一次純水装置、二次純水装置を備えており、市水・井水・工業用水などからなる原水が各装置で順に処理されて超純水が製造される。製造された超純水は、供給ラインを介してユースポイント(POU)に供給されて使用される。
【0003】
半導体製造工程で使用される超純水に対しては、半導体製品の高度な微細化に対応するため、金属(Fe、Cr、Ni、Moなど)の濃度が1ng/L以下、時には0.1ng/L以下の水質が要求される。
【0004】
超純水の水質を向上させるため、二次純水装置の末端(最下流)付近には、非再生型混床式イオン交換樹脂装置(ポリッシャー)を設置し、ここで残留するイオン成分を除去している。さらに、ポリッシャーからの微量の樹脂、特に、ポリッシャー内で破損した樹脂の漏れによる水質悪化を抑制するため、ポリッシャーの後段には、樹脂を捕捉するためのストレーナーが設けられることがある。ストレーナーとしては、強度、耐食性などの観点からSUS(ステンレス鋼)製のものが一般的である。しかし、SUS製ストレーナーを長期間使用していると、SUSに含まれる鉄(Fe)、ニッケル(Ni)、Cr(クロム)などの金属成分、特に鉄(Fe)が水中に溶出することがあり、このストレーナーの後段には溶出した鉄を除去する装置は備えられないため、超純水の水質悪化につながるという課題があった。
【0005】
上記の問題を解決するため、接水部が低溶出性材料、例えばチタン、チタン合金、ニッケル合金などで形成されたストレーナーが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。また、容器及び容器上蓋の接液面が合成樹脂でライニングされたイオン交換塔も提案されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2023/053572号
【文献】特開2011-67793号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述したとおり、超純水に対しては、半導体製品の高度な微細化に対応するため、0.1ng/L以下ないし1ng/L以下の金属(Fe、Cr、Ni、Moなど)濃度が要求される。特に、二次純水装置内で、純水の加熱や冷却が行われる場合や、長期にわたって超純水を製造する場合に、鉄(Fe)の混入が避け難いという課題があることがわかった。
【0008】
また、一般にチタン、チタン合金、ニッケル合金などは高価であるため、ストレーナーやそれを用いて製造される超純水の製造コストが高くなるという課題がある。
【0009】
本発明は、上記した課題を解決するためになされたものであって、長期にわたって鉄の溶出を著しく抑制することのできる純水製造用ストレーナー及びそれを用いた超純水製造システム、超純水製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上述の通り、二次純水装置内での純水への鉄の混入を抑制するための更なる検討が求められていたところ、非再生型混床式イオン交換樹脂装置(ポリッシャー)後段に設けられるストレーナーの表面をフッ素樹脂で構成すことで、ストレーナーからの鉄の溶出を抑制し、長期間、超純水中の鉄濃度を著しく低減できることを本発明者らは見出した。
【0011】
本発明の実施形態の純水製造用ストレーナー、超純水製造システム又は超純水製造方法は以下のとおりである。
[1] 両端が開口するとともに、側面に複数のろ過孔を有する筒状のろ過体と、前記ろ過体の一端に液密に接着されるキャップ部材と、を有し、
前記ろ過体は、金属からなるろ過体本体と、前記ろ過体本体表面全体に設けられたフッ素樹脂膜とを備え、
前記キャップ部材は、前記ろ過体本体の外部に向けて凸状であり、接液面全体がフッ素樹脂からなる、純水製造用ストレーナー。
[2] さらに、筒状のハウジングを有し、
前記ハウジングは、一端に吐水口を、他端に入水口を備え、
前記キャップ部材が前記ハウジングの入水口に向くように、前記ハウジングが前記ろ過体及び前記キャップ部材を収容し、
前記ろ過体の開口と前記ハウジングの吐水口とが連通している、
[1]に記載の純水製造用ストレーナー。
[3] 前記ハウジング及び前記ろ過体は、円筒状であり、
前記キャップ部材は、中実円錐又は中実半球形状である、[2]に記載の純水製造用ストレーナー。
[4] 前記ろ過体の開口側の端部が前記ハウジングの吐出口に接続される[2]又は[3]に記載の純水製造用ストレーナー。
【0012】
[5] 前記ろ過体と前記キャップ部材とを接続する接続部を有する[1]乃至[4]のいずれかに記載の純水製造用ストレーナー。
[6] 前記接続部は、
前記キャップ部材と前記ろ過体の端面を貫通するネジ部材と、を備える[5]に記載の純水製造用ストレーナー。
[7] 前記フッ素樹脂膜及び前記フッ素樹脂は、ポリテトラフルオロエチレンを含む[1]乃至[6]のいずれかに記載の純水製造用ストレーナー。
[8] 前記純水製造用ストレーナーを通過した純水中の鉄(Fe)濃度が0.1ng/L以下である、[1]乃至[7]のいずれかに記載の純水製造用ストレーナー。
[9] 一次純水装置と、二次純水装置をこの順に備え、
二次純水装置は、非再生型混床式イオン交換樹脂装置を含み、
前記非再生型混床式イオン交換樹脂装置の後段に、[1]乃至[8]のいずれかに記載の純水製造用ストレーナーを備える、超純水製造システム。
[10] 前記純水製造用ストレーナーを通過した純水中の鉄(Fe)濃度が0.1ng/L以下である、[9]に記載の超純水製造システム。
【0013】
[11] 原水を一次純水装置と、二次純水装置とでこの順に処理する超純水製造方法であって、
前記二次純水装置は、非再生型混床式イオン交換樹脂装置と、前記非再生型混床式イオン交換樹脂装置に付属してその後段に配置された純水製造用ストレーナーを含み、
前記純水製造用ストレーナーは、両端が開口するとともに、側面に複数のろ過孔を有する筒状のろ過体と、前記ろ過体の一端に液密に接着されるキャップ部材と、を有し、
前記ろ過体は、金属からなるろ過体本体と、前記ろ過体本体表面全体に設けられたフッ素樹脂膜とを備え、
前記キャップ部材は、前記ろ過体本体の外部に向けて凸状であり、接液面全体がフッ素樹脂からなり、鉄(Fe)濃度が0.1ng/L以下の超純水を製造する、方法。
なお、「~」の符号はその前後の数値を含む数値範囲を示す。
【発明の効果】
【0014】
実施形態の純水製造用ストレーナーによれば、長期にわたって鉄の溶出を著しく抑制することができる。
また、実施形態の純水製造用ストレーナーを用いた超純水製造システム並びに超純水製造方法によれば、鉄の濃度が極めて低い高水質の超純水を長期にわたって製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施形態の純水製造用ストレーナー1を模式的に示す断面図である。
【
図2】他の形態の第一接続部13を模式的に示す断面図である。
【
図3】実施形態の純水製造用ストレーナーの製造方法を概略的に表すフロー図である。
【
図4】実施形態に係る超純水製造システムを概略的に示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[純水製造用ストレーナー]
以下、本発明の実施形態の純水製造用ストレーナーについて図面を参照して説明する。
図1は、実施形態の純水製造用ストレーナー1を模式的に示す断面図である。実施形態の純水製造用ストレーナー1は、両端が開口した筒状のろ過体11と、キャップ部材12とを備えている。ろ過体11の側面は複数のろ過孔を有することでろ面11aを構成している。純水製造用ストレーナー1においては、ろ過体11の側面のろ面11aからろ過体11内部に被処理水が通流する過程で、被処理水中の樹脂などの不純物が除去され、処理水がろ過体11の下流端の開口から流出する。以下、ろ過体11の両端を、ろ過体11を通流する水の流れに応じて上流端及び下流端という。
【0017】
ろ過体11は、金属からなるろ過体本体と、その表面全体に設けられた、フッ素樹脂膜を備えている。フッ素樹脂膜は、ろ過体本体の表面全体にわたって設けられており、具体的には、ろ過体11のろ面、ろ過孔の表面、ろ過体の内壁面等の接液面がすべてフッ素樹脂膜に覆われている。ろ過体本体を構成する金属は、SUS304、SUS316、SUS316L、SUS304L等のステンレス鋼(SUS)等が挙げられ、強度や耐食性の点から、SUS316又はSUS316Lであることがより好ましい。ろ過体本体は、例えば、螺旋状に巻かれたワイヤーからなるろ過体素子と、ろ過体素子の螺旋長手方向に配設され、螺旋周方向に離間して設けられる複数の棒状のサポート材からなる。ワイヤーの断面形状は例えば三角形であり、三角形の頂点がろ過体内部に向くようにワイヤーが配置され、螺旋をなすワイヤーとサポート材の空隙がろ過孔として機能する。ろ過孔の径は、イオン交換樹脂を通過させない大きさであればよく、例えば、直径(内径)0.3mmφ前後である。また、ろ過体11は、例えば、外径が15mmφ~220mmφあるいは15mmφ~165mmφの円筒形である。
【0018】
本実施形態の純水製造用ストレーナー1は、例えば、後述する純水製造用ストレーナーの製造方法のとおり、両端が開口したろ過体11表面にフッ素樹脂膜を形成し、その後キャップ部材12を接続することで、ろ過体11表面に容易にライニング又はコーティングを施すことができる。そのため、多数のろ過孔を有する複雑な形状でありながら、フッ素樹脂膜を簡易かつ均一に形成することが可能である。ライニング又はコーティングが不十分で、フッ素樹脂膜がピンホールなどの欠陥を有すると、たとえ微小な欠陥であっても、超純水の水質の悪化につながる。しかしながら、例えば、両端が開口したろ過体11表面にフッ素樹脂膜を形成することで、上記のような欠陥を有しないフッ素樹脂膜を、ライニング又はコーティングにより形成でき、ろ過体11の接液面の全体をフッ素樹脂膜で覆うことができる。
【0019】
なお、ろ過体11表面全体にフッ素樹脂膜が設けられていることは、例えば次の方法により確認することができる。第一に、超純水製造システム内で、実施形態の純水製造用ストレーナー1を非再生型混床式イオン交換樹脂装置に付属してその後段に設けて、超純水製造を継続したときに、例えば、30日のフラッシングの後、30日以上の間、鉄濃度が1.0ng/L以下の超純水を得ることができるか否かで確認できる。第二に、加速試験として、例えば、超純水に純水製造用ストレーナーを7日間浸漬し、浸漬後の超純水中の鉄濃度を測定し、同時に、同条件で、純水製造用ストレーナーと同表面積ないし同等(誤差±5%)の表面積をもつフッ素樹脂片又は、SUS片にフッ素樹脂ライニング又はコーティング処理したもの(以下、両者を「比較サンプル」という。)を浸漬した場合の浸漬後の超純水中の鉄濃度を測定し、得られた測定値を比較して、純水製造用ストレーナーを浸漬した超純水中の鉄濃度が、比較サンプルを浸漬した超純水中の鉄濃度と比較して有意か否かを検定することで確認することも可能である。この場合、例えば、複数個の比較サンプルを浸漬した超純水中の鉄濃度をそれぞれ測定した鉄濃度により、有意水準2.5%で検定する場合には、純水製造用ストレーナーを浸漬した超純水中の鉄濃度をFsamp、比較サンプルを浸漬した超純水中の鉄濃度から求めた平均値をFave、標準偏差をσとすると、Fsamp≦Fave+1.96×σの場合には、ろ過体11表面全体にフッ素樹脂膜が設けられていると判断することが可能である。また、一つの比較サンプルを浸漬した超純水中の鉄濃度を複数回測定して同様に判断してもよい。なお、試験方法は、例えばUC標準規格 超純水用配管材料の溶出試験方法(UCS12年半導体産業の発展とUCS12年の成果半導体基盤技術研究会編 1181頁~1188頁)に基づくことが好ましい。この方法を用いると、非流通系であるため、溶出物が少量の超純水に溶出させられるため、加速試験となり、かつ容易に測定可能である。第三に、さらなる加速試験として、第二の方法において、超純水に代えて過酸化水素若くは硫酸、又はその混合の水溶液を用いること以外は第二の方法と同じ方法を用いることで確認が可能である。この場合には浸漬時間は例えば1日程度で測定可能となる。
【0020】
純水製造用ストレーナー1において、キャップ部材12は、ろ過体11の上流端に液密に接着されている。キャップ部材12はろ過体11の上流端から外部に向けて凸状の形状であり、少なくとも接液面がフッ素樹脂からなる。キャップ部材12は、SUS等の金属製のキャップ部材本体とキャップ部材本体表面に設けられたフッ素樹脂膜から構成されていてもよく、キャップ部材全体がフッ素樹脂で構成されていてもよい。軽量で取り扱いが容易なことから、キャップ部材12全体がフッ素樹脂で構成されていることが好ましい。キャップ部材は、中空であっても中実であってもよいが、製造が容易である点で、中実であることが好ましく、特に、キャップ部材12全体がフッ素樹脂で中実に構成されることがより好ましい。
【0021】
キャップ部材12は、少なくとも、底面と、底面から立ち上がる側面とを有することが好ましい。キャップ部材12は、その底面、すなわち凸と反対側がろ過体11の上流端の開口に第一接続部13を介して接続される。キャップ部材12の凸状の形状としては、凸断面、すなわち、底面に垂直で底面からの距離が最も大きい点を通る断面、が多角形、四角形、三角形、半円形等であるものが挙げられる。
【0022】
キャップ部材12の凸状形状は、キャップ部材12表面の水流に片流れや渦流が生じない形状であることが好ましい。凸状のキャップ部材12表面の水流に片流れや渦流が生じると、水流によってストレーナーが振動する。超純水製造システムは少なくとも1年、長い場合には数年の間、連続的に運転されるので、長期間のストレーナーの振動は、ストレーナーのろ面のフッ素樹脂膜の劣化を促進させ、樹脂の破片の発生や樹脂で覆っていたSUS面からの鉄の溶出を引き起こす可能性がある。このような片流れや渦流が生じない凸断面としては、具体的には、三角形、半円形又は半楕円形であることが好ましい。凸断面が三角形の場合、例えば、当該三角形の一辺がろ過体11の上流端側に位置する。凸断面が半円形の場合、例えば、当該半円の直径がろ過体11の上流端側に位置する。凸断面が半楕円形の場合、例えば、当該半楕円の長軸又は単軸がろ過体11の上流端され側に位置する。キャップ部材12の凸状形状としては、例えば、ろ過体11の開口が円形である場合、キャップ部12表面で片流れが生じにくい点で、半球、半楕円球又は円錐が好ましい。特に、キャップ部材1の形状が円錐であると、頂点から底面へ向けての側面の傾斜が一定であるため、処理水の整流効果も得られるのでより好ましい。また、キャップ部材12表面に水のよどみが生じて、各部材から溶出するなどした不純物がこのよどみに滞留、堆積することがある。この場合、処理水流量の変動、例えば急な増量、減量、バルブの開閉などに伴い、不純物が純水中に大量に流出し、水質悪化につながるおそれもある。
【0023】
キャップ部材12の外径は、ろ過体11の開口の外径と同一であるか、略同一でろ過体11の開口の外径より大きいことが好ましい。これにより、ろ過体11とキャップ部材12の第一接続部13周辺での水流を調整できるので、上述したような、ライニング又はコーティングの劣化を抑制することができる。
【0024】
キャップ部材12のフッ素樹脂及びろ過体11表面のフッ素樹脂膜に使用されるフッ素樹脂は、特に限定されないが、例えば、テトラフルオロエチレンとペルフルオロエーテル共重合体(PFA、パーフルオロアルコキシアルカン)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレン/テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)等が挙げられる。キャップ部材12のフッ素樹脂と、ろ過体11表面のフッ素樹脂膜のフッ素樹脂は同種であっても異なってもよいが、同種であることが好ましい。
【0025】
フッ素樹脂としてETFEを用いる場合、結晶性の制御を目的として、ETFEは、エチレン及びテトラフルオロエチレンとともに、その他の含フッ素単量体を共重合して得られたものが好ましい。上記その他の含フッ素単量体としてはエチレンとテトラフルオロエチレンの両方に付加し得るものであれば特に限定されないが、炭素数3~8の含フッ素ビニルモノマーが使用しやすく、例えば、ヘキサフルオロイソブチレン、CH2=CFC3F6H等が挙げられる。上記その他の含フッ素単量体は、耐熱性、難燃性、耐薬品性を損なわない点から、上記ETFEの単量体全体の5モル%以下であることが好ましい。
【0026】
ETFEがその他の含フッ素単量体を共重合して得られたものである場合、ETFE中のフッ素含有率が50質量%以上であることが好ましい。フッ素含有率が50質量%以上であることで、優れた耐熱性、難燃性、耐薬品性を発揮する。ETFEのフッ素含有率は、例えば、70質量%以下である。フッ素含有率は、エチレン、テトラフルオロエチレン及び所望により用いる上記その他の単量体の比率を適宜調整することにより、調整することができる。上記フッ素含有率は、フッ素樹脂を燃焼し、そこに含有されるフッ素をアルカリ水等に吸収させ、イオンクロマトグラフ等により測定して得られる値である。
【0027】
上記したフッ素樹脂のなかでも、テトラフルオロエチレンとペルフルオロエーテル共重合体(PFA、パーフルオロアルコキシアルカン)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂は、耐熱性、耐薬品性に優れるため、超純水製造装置において広く汎用的に使われている素材であり、キャップ部材12やろ過体11上のフッ素樹脂膜にも好適に用いることが可能である。
【0028】
第一接続部13は、ろ過体11とキャップ部材12を液密に接続できる態様であれば特に限定されない。第一接続部13の態様としては、接続時に接続部の材料の状態変化を経るハンダ付、溶着、溶接等で形成される接続部が挙げられる。また、接続時に接続部の材料の状態変化を経ずに、機械構造的に接続する、例えば、螺合や、一又は複数のネジ部材を用いた接続部でもよい。ろ過体11とキャップ部材12の接続時に、ろ過体11表面のフッ素樹脂膜に欠陥を生じない点で、第一接続部13は機械構造的接続部であることが好ましい。
【0029】
図1に示すように、例えば、キャップ部材12の底面に、外表面に山部131aを有する第一接続体131を接続して、ろ過体11の上流端に当該山部と螺合する螺旋状の溝部132aを内壁に有する筒状の第二接続体132を接続して、第一接続体131の山部と第二接続体132の溝部の螺合によって、ろ過体11とキャップ部材12を接続することができる。この場合、第一接続部13は、第一接続体131と、第一接続体131に設けられた山部131aと、第二接続体132と、第二接続体132に設けられた溝部132aを備える。また、第一接続体131が山部を有し、第二接続体132が溝部を有する態様に代えて、第一接続体131が溝部を有し、第二接続体132の内壁が山部を有してもよい。ろ過体11とキャップ部材12の液密性を向上させるために、ろ過体11の第二接続体132の端面と、キャップ部材12の底面の外周近傍の間に、樹脂等で形成されたOリングなどのシール部材を介在させてもよい。
【0030】
図2は、他の形態の第一接続部13を模式的に示す断面図である。
図2に示すように、ろ過体11の上流端の端面上に第三接続体133を設ける。第三接続体133は、例えばろ過体11の上流端の周辺に沿って配置され、軸方向と周方向に厚みをもつ中実のリング形状である。キャップ部材12の外周近傍に複数のネジ穴134を設けて、当該ネジ穴134を介して、ネジ部材142等をキャップ部材12と第三接続体133に貫通させることにより、ろ過体11とキャップ部材12を接続することができる。この場合、第一接続部13は、キャップ部材12と、キャップ部材12を貫通し、第三接続体133に挿入されたネジ部材142と、を備える。なお、ろ過体11とキャップ部材12の液密性を向上させるために、第三接続体133の上流端の端面とキャプ部材12の底面の間に、樹脂等で形成されたOリングなどのシール部材141を介在させてもよい。このときは、第一接続部13は、シール部材141をさらに含む。
【0031】
図2に示すように、ネジ部材142を用いてろ過体11とキャップ部材12を接続する場合、ネジ部材142の表面(ネジ頭部)やその周辺近傍での水溜まりの発生や、ネジ部材142が金属である場合のネジ部材からの鉄の溶出の可能性があるが、ネジ部材142の大きさがろ過体11に比べて微小なため、これらが処理水水質に与える影響は極めて小さい。ネジ部材142の表面やその周辺近傍に窪みを有する場合には、処理水として得られる超純水の水質を向上させるために、当該窪みをフッ素樹脂で埋めて保護部を形成することが好ましい。この場合の保護部の材質は、キャップ部材12と異なるフッ素樹脂であっても同一のフッ素樹脂であってもよいが、同一のフッ素樹脂であることが好ましい。
【0032】
図1に示す純水製造用ストレーナー1は、さらに、ろ過体11を収容する筒状のハウジング15を備えている。ハウジング15はろ過体11全体を内部に収容する。ハウジング15の両端には、下流端に吐水口15aが、上流端に入水口15bが開口している。ハウジング15は、内径が一定の一連の筒状であってもよいし、内径の異なる筒部が複数連続に接続された形状であってもよい。また、筒の一部、特に両端又は一端に、端部に向かうほど径が小さくなるテーパー形状を有してもよい。なお、ハウジング15の内表面上、及び必要に応じて内表面以外の接液面には、フッ素樹脂膜が備えられることが好ましい。ハウジング15の内表面上等のフッ素樹脂膜は、ろ過体11と同様に、ライニング又はコーティングにより形成することが可能である。
【0033】
純水製造用ストレーナー1において、ろ過体11及びキャップ部材12は、キャップ部材12がハウジング15の入水口15bに向くようにハウジング15内に配置され、収容されている。また、ろ過体11の下流端の開口は、ハウジング15の吐水口15aと連通しており、ろ過体11のろ面11aを通過した処理水が、ハウジングの吐水口15aから排出されるようになっている。
【0034】
ろ過体11とハウジング15とは第二接続部18を介して接続される。第二接続部18はろ過体11とハウジング15を液密に接続できる形態であれば特に限定されない。
図1に示す、純水製造用ストレーナー1においては、第二接続部18を介してハウジング15に吐出管20が接続されている。吐出管20は吐出管本体22と吐出管本体22の上流端に連続して外周方向に設けられたフランジ部24を有している。フランジ部24にはネジ穴が設けられている。ハウジング15は、その下流端に、ハウジング15に連続して外周方向に設けられたフランジ部151を有し、フランジ部151にはネジ穴が設けられている。さらに、ろ過体11の下流端に、第四接続体148が接続されている。第四接続体148は、ろ過体11の下流端の周辺に沿って配置され、軸方向と周方向に厚みをもつ中実のリング形状である。第四接続体148の外周の下流端側(ろ過体11の下流端に接する側と反対側)の一部は上流端より外径を大きくして、フランジ部151が嵌合する切り欠きが設けられている。
【0035】
純水製造用ストレーナー1においては、フランジ部151とフランジ部24の間に第四接続体148の切り欠きを配置して、フランジ部151とフランジ部24のネジ穴にネジ部材144aを貫通させて、貫通したネジ部材144aをネジ止め部材144bで固定することで、第二接続部18を構成することができる。すなわち、第二接続部134は、フランジ部151と第四接続体148と、フランジ部24と、フランジ部151及びフランジ部24を貫通するネジ部材144aとねじ止め部材144bを含む。なお、フランジ部151と第四接続体148の切り欠きの間、第四接続体148の下流端の端面とフランジ部24の間には第二接続部18の液密性を向上させるために、樹脂等で形成されたOリングなどのシール部材146a、146bをそれぞれ介在させてもよい。このときは、第二接続部18は、シール部材146a、146bをさらに含む。
【0036】
次に、ろ過体11とハウジング15の他の接続方法について説明する。この方法では、
図1に示す、ろ過体11とキャップ部材12の接続と同様の構造を用いる。すなわち、吐出管20の上流端に、内壁に螺旋状の溝部を有する筒状の第六接続体を接続し、ろ過体11の下流端に当該溝部と螺合する山部を外表面に有する筒状の第五接続体を接続して、溝部と山部の螺合によって接続することができる。この場合、第二接続部18は、第五接続体と、第五接続体に設けられた山部と、第六接続体と、第六接続体の内壁に設けられた溝部を備える。また、第五接続体の内壁が山部を有し、第六接続体が溝部を有する態様に代えて、第五接続体の内壁が溝部を有し、第六接続体が山部を有していてもよい。ろ過体11とハウジング15の液密性を向上させるために、第五接続体の下流端の端面と、第六接続体の上流端の端面の間に、樹脂等で形成されたOリングなどのシール部材を介在させてもよい。このときは、第二接続部18は、シール部材をさらに含む。
【0037】
本実施形態の純水製造用ストレーナー1は、二次純水装置内の再生型混床式イオン交換樹脂装置(ポリッシャー)に付属してその後段に配置されることが好ましい。この場合、純水製造用ストレーナーを通過した純水中のFe濃度として、0.1ng/L以下を得ることができる。
【0038】
[純水製造用ストレーナーの製造方法]
本実施形態の純水製造用ストレーナーの製造方法について説明する。
図3は、実施形態の純水製造用ストレーナーの製造方法を概略的に表すフロー図である。
図3に示す純水製造用ストレーナーの製造方法は、ろ過体11を組み立てる組立工程S80と、ろ過体表面にフッ素樹脂膜を形成するフッ素樹脂膜形成工程S82と、表面にフッ素樹脂膜の形成されたろ過体11にキャプ部材12及び各接続体(第一接続体及び第二接続体、又は第三接続体)を接続する接続工程S84とを有する。
【0039】
まず、組立工程S80において、ろ過体11を組立製造する。組立工程S80では、上流端が封止され、下流端が開口した袋状のストレーナーの市販品を原材料として用い、当該ストレーナーの上流端を開口させて実施形態のろ過体11を得てもよい。
【0040】
続いて、フッ素樹脂膜形成工程S82において、ろ過体の表面に上述したフッ素樹脂膜を形成する。フッ素樹脂膜の形成方法としては、ディップコーティング、スプレーコーティング、静電塗装、刷毛塗り、ロールコーティングなどのコーティング法であってもよく、静電粉体塗装法、シートライニング法等のライニング法であってもよい。ろ過孔11a内表面に均一にフッ素樹脂膜を形成できる点で、スプレーコーティングであることが好ましい。このようにして形成されるろ過体11表面のフッ素樹脂膜の膜厚は、通常、200μm~300μm程度である。
【0041】
その後、キャップ部材12及び各接続体を上述した通りにろ過体11に接続する。さらに必要に応じてキャップ部材12の接続されたろ過体11をハウジング15に収容する。フッ素樹脂製の中空又は中実キャップ部材12を用いる場合、キャップ部材12は、フッ素樹脂をブロック状に形成した後、このフッ素樹脂からなるブロック材から工作機械等により切削加工して得ることができる。より具体的には、フッ素樹脂からなるブロック材から円柱のフッ素樹脂棒を削りだすか、フッ素樹脂を円柱のフッ素樹脂棒に形成した後、切削加工することにより所望の形状に製造することができる。なお、キャップ部材12は中実であることで、キャップ内部での純水の滞留を防ぐことができる。したがって、キャップ部材12は中実であることが、水質悪化の要因が生じないため、より好ましい。キャップ部材の材質は、ステンレス、ポリプロピレン、ポリエチレン製でもよい。これらの場合には、表面をフッ素系素材でコーティングもしくはライニングすることが好ましい。
【0042】
なお、上記では、ろ過体11にフッ素樹脂膜を形成した後に、各接続体を接続する態様について説明したが、ろ過体11に各接続体を接続した後に、フッ素樹脂膜を形成してもよい。本実施形態の純水製造用ストレーナーの製造方法では、両端が開口したろ過体11表面にフッ素樹脂膜を形成することで、容易にライニング又はコーティングを施すことができる。そのため、多数のろ過孔を有する複雑な形状でありながら、フッ素樹脂膜を簡易かつ均一に形成することが可能である。ライニング又はコーティングが不十分で、フッ素樹脂膜がピンホールなどの欠陥を有すると、たとえ微小な欠陥であっても、超純水の水質の悪化につながる。しかしながら、両端が開口したろ過体11表面にフッ素樹脂膜を形成することで、上記のような欠陥を有しないフッ素樹脂膜を、ライニング又はコーティングにより形成でき、超純水の製造に適した純水製造用ストレーナーを得ることができる。
【0043】
[超純水製造システム及び超純水製造方法]
次に、本実施形態に係る超純水製造システム及び超純水製造方法について説明する。
本実施形態に係る超純水製造システムは、原水又は前処理水を一次純水にする一次純水処理を行う一次純水装置と、上述した純水製造用ストレーナーを含み、一次純水を二次純水にする二次純水処理を行う二次純水装置と、を備える。
【0044】
図4は、本実施形態に係る超純水製造システム100を概略的に示すブロック図である。超純水製造システム100は、前処理装置112、一次純水装置114、純水タンク116、二次純水装置117を含んで構成されている。二次純水装置117は、送水ポンプ118、熱交換器120、紫外線照射装置122、膜脱気装置124、非再生型混床式イオン交換樹脂装置(ポリッシャー)126、及び限外ろ過(UF)装置128を備えている。そして、非再生型混床式イオン交換樹脂装置126の後段に上述した実施形態に係る純水製造用ストレーナー1を備える。
【0045】
(前処理装置)
前処理装置112には、原水が供給される。前処理装置112は、供給された原水に対し、凝集沈澱装置、砂ろ過装置、膜ろ過装置などを備えており、原水を除濁し、懸濁物質及び有機物の一部が除去された前処理水を製造する。原水としては、工業用水、水道水、地下水、河川水等を挙げることができる。
【0046】
(一次純水装置)
一次純水装置114は、前処理水に対し、さらに清浄化処理を行って、前処理水から不純物を除去し、一次純水を製造する。具体的には、一次純水装置114は、不純物イオンの除去を行う脱塩装置、無機イオン、有機物、微粒子等の除去を行う逆浸透膜装置、溶存酸素等の溶存ガスの除去を行う真空脱気装置又は膜脱気装置、残存するイオン等を除去する再生型混床式脱塩装置、等の各種装置を有する。
【0047】
(純水タンク)
一次純水装置114で得られた一次純水は、純水タンク116へ送水される。純水タンク116は、一次純水装置114で得られた一次純水を一時的に貯留する。純水タンク116としては、錆の発生等がなく、容器からの成分溶出がほとんどなく、一次純水を安定して貯留できるものであれば、その材質や形状等は特に限定されない。純水タンク116の材質は、例えば、繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)、ポリエチレン、SUS304、及びそれらをテフロン(登録商標)ライニングしたもの等が好ましい。また、純水タンク116の上部は、炭酸ガス、溶存酸素等の不純物ガスの吸収を防ぐため、純窒素でパージされていることが好ましい。純水タンク116は、後述するように、製造された超純水のうち未使用の超純水を循環させる際、上記の一次純水と超純水とを混合して貯留することもできる。
【0048】
(送水ポンプ)
送水ポンプ118は、純水タンク116から一次純水を熱交換器120に送水する。送水ポンプの構成は特に限定されない。例えば、一次純水と接触する部分がステンレスなど、金属成分が微量に溶出する材料で形成されていても、溶出した金属成分は非再生型混床式イオン交換樹脂装置(ポリッシャー)126においてイオン交換樹脂に吸着される。そのため、送水ポンプ118において一次純水と接触する部分の材料は、製造する超純水の水質への影響はほとんどない。したがって、送水ポンプ118としては、純水の製造において汎用されている送水ポンプを用いることができる。
【0049】
(熱交換器)
熱交換器120では、熱交換(加熱又は冷却)により、一次純水の温度調整を行う。熱交換器120としては、例えば、プレート型の熱交換器を挙げることができるが、具体的構造は特に限定されない。熱交換器は、一般に、水温を常温、例えば、20℃程度に調整する。しかし、例えば、60~80℃に調整する場合もあり、この場合、製造される超純水は熱超純水といわれる。なお、熱超純水を製造する場合には、熱交換器120に加えて、さらに熱交換器を設置してもよく、その場合、当該熱交換器は例えば、純水製造用ストレーナー1と限外ろ過(UF)装置128の間に設置される。
【0050】
(紫外線照射装置)
熱交換器120で温度調整された一次純水は、紫外線照射装置122へ送水される。紫外線照射装置122では、一次純水に対して紫外線を照射することにより、一次純水中の有機物の分解や生菌の死滅処理(殺菌)等を行う。紫外線照射装置122は、例えば、185nm付近の波長や254nm付近の波長を照射可能な紫外線ランプを備えており、一次純水中の有機物の分解や殺菌を確実に行うことができる。紫外線照射装置122の紫外線ランプとしては特に限定されないが、低圧水銀ランプが、取り扱いの容易さの点で好ましい。また、紫外線照射装置122としては、筐体内部に紫外線ランプが被処理水の流路に沿って配置された流通型、又は被処理水を貯留するタンクに紫外線ランプを浸漬した浸漬型が挙げられるが、流通型が処理効率の点から好ましい。
【0051】
(膜脱気装置)
膜脱気装置124は、水分を透過させず気体は透過させる気体分離膜を用いて、一次純水中の気体、特に溶存酸素を除去する。
【0052】
(非再生型混床式イオン交換樹脂装置)
膜脱気装置124によって溶存酸素濃度が除去された一次純水は、非再生型混床式イオン交換樹脂装置126へ送水される。非再生型混床式イオン交換樹脂装置126は、紫外線照射装置122で有機物が分解されて生じた有機酸や、水中に残留する金属イオンなどの不純物イオンを吸着除去する。
【0053】
(純水製造用ストレーナー)
超純水製造システム100においては、非再生型混床式イオン交換樹脂装置126の後段に、非再生型混床式イオン交換樹脂装置126に付属して上述した純水製造用ストレーナー1が設けられる。これにより、ストレーナーを構成する金属からのFeの溶出を抑え、処理水の水質を向上させることができる。
【0054】
(限外ろ過装置)
非再生型混床式イオン交換樹脂装置126によって不純物イオンが除去された一次純水は、限外ろ過(UF)装置128へ送水される。限外ろ過(UF)装置128は、微粒子を除去して超純水を製造する。限外ろ過(UF)装置128は、二次純水装置117の末端に配置されている。
なお、二次純水装置117においては、例えば、紫外線照射装置で副次的に発生した過酸化水素を除去するために、触媒樹脂充填塔等、必要に応じて他の処理装置を設けて、所望の純度を有する超純水を得ることもできる。
【0055】
また、限外ろ過装置128への送水圧力を高めるため、例えば、非再生型混床式イオン交換樹脂装置126と限外ろ過(UF)装置128との間にブースターポンプを設けてもよい。ただし、ブースターポンプとの接触により金属成分が溶出して金属濃度が上昇することがある。そのため、金属濃度がより低い超純水を製造する場合は、ブースターポンプを設けないか、被処理水との接触部分が金属成分の溶出しない又は溶出し難い材料で構成されているブースターポンプを用いることが好ましい。もしくは、ブースターポンプを非再生型混床式イオン交換樹脂装置126の前段に設置することが好ましい。
【0056】
上記の各装置(各工程)を経て二次純水装置117によって得られた二次純水(超純水)は、送水配管162によって、例えば半導体製造工程におけるプロセスポイントなどの使用場所(ユースポイント)160へ送出される。送出された超純水のうち、使用されなかった超純水は循環配管164によって純水タンク116へ循環され、一次純水と一緒に純水タンク116内に貯留される。
【0057】
上述した純水製造用ストレーナー1及び超純水製造システム100によれば、鉄の含有量が、1ng/L以下の超純水、さらには、0.1ng/L以下の超純水を得ることも可能であり、特に半導体製造工程におけるプロセスポイントに供給する超純水の製造に好適に用いることができる。また、ニッケルやクロムなどの成分が0.1ng/L以下の超純水の製造が可能である。これらニッケルやクロムは主にステンレス鋼由来のものである。
【実施例】
【0058】
以下、本実施形態の実施例について説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものでない。
【0059】
(実施例1)
図4に示したのと同様の超純水製造システムにおいて、上述した実施形態の方法で製造した、ろ過体の上流端に中実円錐形のキャップ部材を備えたストレーナーを用いて超純水を製造した。なお、通水条件は次の通りである。
ストレーナー:線速度1.2m/h
:両端が開口した状態で、PTFEコーティングしたもの(ろ面のスロット(ろ過孔)幅0.3mm、野村マイクロ・サイエンス株式会社製の試作品)
【0060】
(比較例1)
実施例1において使用したストレーナーに代えて、次のストレーナーを使用した以外は同じ条件で超純水を製造した。
ストレーナー:SUS製、片側のみ開口したもの。(ろ面のスロット幅0.3mm、野村マイクロ・サイエンス株式会社製の試作品)
【0061】
(比較例2)
比較例1において使用したストレーナーに代えて、比較例1のストレーナー表面をPTFEコーティング処理したストレーナーを使用した以外は、比較例1と同じ条件で超純水を製造した。
【0062】
以上の場合で30日経過後の非再生型混床式イオン交換樹脂装置(ポリッシャー)出口(すなわち、ストレーナー入口)及びストレーナー出口の水質を表1に示す。なお、鉄濃度は各場所から採取したサンプルを蒸発濃縮して、誘導結合プラズマ質量分析法(ICP-MS)で測定した値である。
【0063】
【0064】
以上の結果から、比較例2の既存の片側が開口したストレーナーをフッ素樹脂コーティングしたものでは、十分な性能が得られないことが確認された。比較例2のストレーナーは、片側開口のストレーナーにフッ素樹脂コーティングを施したものであるが、この作業は容易でないため、目視では均一にコーティングされているが、ごく微小の部分がコーティングされていない、もしくは、コーティングが不十分であることが原因と考えられる。一方、実施形態の方法を用いると、フッ素樹脂コーティングが均一で、欠陥なく形成されたので、十分に鉄の溶出を抑えられていると考えられる。
【符号の説明】
【0065】
1…純水製造用ストレーナー、11…ろ過体、11a…ろ面、12…キャップ部材、13…第一接続部、131…第一接続体、131a…溝部、132…第二接続体、132a…山部、133…第三接続体、134…ネジ穴、141、146a、146b…シール部材、142…ネジ部材、15…ハウジング、15a…吐水口、15b…入水口、18…第二接続部、20…吐出管、22…吐出管本体、24、151…フランジ部、144a…ネジ部材、144b…ネジ止め部材、148…第四接続体、100…超純水製造システム、112…前処理装置、114…一次純水装置、116…純水タンク、117…二次純水装置、118…送水ポンプ、120…熱交換器、122…紫外線照射装置、124…膜脱気装置、126…非再生型混床式イオン交換樹脂装置(ポリッシャー)、128…限外ろ過(UF)装置、160…使用場所(ユースポイント)、162…送水配管、164…循環配管、S80…組立工程、S82…フッ素樹脂膜形成工程、S84…接続工程
【要約】
【課題】長期にわたって鉄の溶出を著しく抑制することができる純水用ストレーナー及びこれを用いた超純水製造システム並びに超純水製造方法の提供。
【解決手段】両端が開口するとともに、側面に複数のろ過孔を有する筒状のろ過体11と、ろ過体11の一端に液密に接着されるキャップ部材12と、を有し、ろ過体11は、金属からなるろ過体本体と、ろ過体本体表面全体に設けられたフッ素樹脂膜とを備え、キャップ部材12は、ろ過体本体11の外部に向けて凸状であり、接液面全体がフッ素樹脂からなる、純水製造用ストレーナー1。
【選択図】
図1