(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-21
(45)【発行日】2025-05-29
(54)【発明の名称】銅材料の耐酸化処理方法およびプラズマ処理装置
(51)【国際特許分類】
C23F 15/00 20060101AFI20250522BHJP
C23C 8/36 20060101ALI20250522BHJP
H05H 1/46 20060101ALI20250522BHJP
【FI】
C23F15/00
C23C8/36
H05H1/46 A
(21)【出願番号】P 2024070661
(22)【出願日】2024-04-24
【審査請求日】2024-04-24
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】593030923
【氏名又は名称】株式会社ニッシン
(74)【代理人】
【識別番号】100093056
【氏名又は名称】杉谷 勉
(74)【代理人】
【識別番号】100142930
【氏名又は名称】戸高 弘幸
(74)【代理人】
【識別番号】100175020
【氏名又は名称】杉谷 知彦
(74)【代理人】
【識別番号】100180596
【氏名又は名称】栗原 要
(74)【代理人】
【識別番号】100195349
【氏名又は名称】青野 信喜
(72)【発明者】
【氏名】小谷 一哉
(72)【発明者】
【氏名】本田 剛
(72)【発明者】
【氏名】角野 楓子
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2012/0273787(US,A1)
【文献】特表2008-535251(JP,A)
【文献】特開2009-131850(JP,A)
【文献】特開2012-212803(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102007573(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23F 15/00
C23C 8/36
H05H 1/46
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状の誘電体基板と、
前記誘電体基板の一方の面に配置された第1電極と、
前記誘電体基板を介して前記第1電極と対向するように配置された第2電極と、
前記第1電極と前記第2電極との間の空間である放電空間に対して水素を含む反応ガスを供給する気体供給部と、
前記第1電極および前記第2電極のうち少なくとも一方にパルス電圧を印加させるパルス電源と、
前記放電空間の温度が0℃以上40℃以下である条件で前記パルス電源が前記パルス電圧を印加することで、前記放電空間に発生させたプラズマを前記第1電極と前記第2電極との間に配置された銅材料に照射させるプラズマ照射部と、
を備え、
前記放電空間は、少なくとも一部が外部と常に繋がっているように構成されており、
前記パルス電源は、電力密度が
3.1W/cm
2
以上になるパルス電圧を印加するように構成されるプラズマ処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銅材料の耐酸化処理方法、およびプラズマ処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
プリント基板を例とする電気部品などにおいては、表面の一部が銅または銅合金で形成されている材料(以下、「銅材料」とする)が広く用いられている。銅材料は一例として板状、薄膜状、または線状であり、金属材料または樹脂を例とする他の材料と貼り合わせることで電気部品が形成される。
【0003】
このような銅材料は、空気中で保管する間に表面が酸化する。銅材料の酸化によって銅酸化膜が銅材料の表面に形成されると、銅材料と他の材料とを貼り合わせる工程において、銅材料と他の材料との接着性が低下する。また、ハンダ付けやワイヤボンディングを行う場合、銅材料における電気的接続性が銅酸化膜によって低下するという問題も発生する。さらに銅酸化膜が銅材料に形成されると、銅材料の表面が変色して美観を損なうという問題も懸念される。
【0004】
銅材料における酸化を防止する従来の耐酸化処理方法として、銅材料の表面に防錆剤を塗布する防錆処理が用いられている。従来の耐酸化処理に用いられる防錆剤として、アゾ-ル類を例とする有機系防錆剤、またはクロメートを例とする無機系防錆剤などが用いられている(例えば、特許文献1)。銅材料の表面を防錆剤で処理することにより、倉庫などにおいて銅材料を保管する間に当該銅材料が酸化することを防止できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、このような構成を有する従来例の場合には、次のような問題がある。
【0007】
従来の耐酸化処理では一般的に、耐酸化性を有する防錆剤を銅材料の表面に塗布する。ここで、銅材料を他の材料と貼り合わせる工程、または、銅材料に対して熱処理を行う工程を例とする後処理工程を行う場合、銅材料の表面に塗布された防錆剤が当該後処理工程の妨げとなる。そのため、保管されていた、銅材料を後処理工程に供する前に、当該、銅材料に塗布されていた防錆剤を除去する工程が必須となる。このような、防錆剤を除去する工程を行うことにより、銅材料の処理に要する時間およびコストが増大するので、銅材料の処理効率が低下する。
【0008】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであって、銅材料の酸化を防止しつつ当該銅材料の処理効率を向上できる、銅材料の耐酸化処理方法およびプラズマ処理装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとる。
すなわち本発明は、プラズマを用いた銅材料の耐酸化処理方法であって、第1電極と前記第1電極に対向配置されている第2電極との間に銅材料を配置させ、前記第1電極および前記第2電極のうち少なくとも一方にパルス電圧を印加させ、前記第1電極と前記第2電極との間の空間である放電空間に発生させたプラズマを前記銅材料に照射するプラズマ処理過程を備え、前記プラズマ処理過程は、前記放電空間の温度が0℃以上40℃以下である条件で行われ、水素を含む反応ガスを前記放電空間に供給しつつ電力密度が3.1W/cm
2
以上になる条件下で発生したプラズマを前記銅材料に照射することを特徴とするものである。
【0010】
(作用・効果)この構成によれば、水素を含む反応ガスを供給しつつ電力密度が3.1W/cm2以上になる条件下で発生したプラズマを銅材料に照射することにより、銅材料の耐酸化性を向上させることができる。この場合、耐酸化性が向上した銅材料をそのまま後処理工程に供することができる。そのため、後処理工程の前に防錆剤を例とする酸化防護膜を除去する必要がないので、銅材料の処理効率を向上できる。
【0011】
この発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとってもよい。
すなわち本発明は、プラズマを用いた銅材料の耐酸化処理方法であって、第1電極と前記第1電極に対向配置されている第2電極との間に銅材料を配置させ、前記第1電極および前記第2電極のうち少なくとも一方にパルス電圧を印加させ、前記第1電極と前記第2電極との間の空間である放電空間に発生させたプラズマを前記銅材料に照射するプラズマ処理過程を備え、前記プラズマ処理過程は、前記放電空間の温度が0℃以上40℃以下である条件で行われ、水素を含む反応ガスを前記放電空間に供給しつつ周波数が20kHz以上であるパルス電圧を印加することで発生したプラズマを前記銅材料に照射することを特徴とするものである。
【0012】
(作用・効果)この構成によれば、水素を含む反応ガスを供給しつつ周波数が20kHz以上であるパルス電圧を印加することで発生したプラズマを銅材料に照射することにより、銅材料の耐酸化性を向上させることができる。この場合、耐酸化性が向上した銅材料をそのまま後処理工程に供することができる。そのため、後処理工程の前に防錆剤を例とする酸化防護膜を除去する必要がないので、銅材料の処理効率を向上できる。
【0013】
また、上述した発明において、前記プラズマ処理過程は、誘電体バリア放電方式によって発生した前記プラズマを前記銅材料に照射することが好ましい。
【0014】
(作用・効果)この構成によれば、誘電体バリア放電方式によって発生したプラズマを銅材料に照射する。誘電体バリア放電方式では均一性が高いプラズマをより広い範囲において発生できる。そのため、プラズマを用いて銅材料に対する耐酸化処理を行う過程の処理効率を大きく向上できる。
【0015】
また、上述した発明において、前記プラズマ処理過程は、連続処理方式によって搬送されている前記銅材料に対して前記プラズマを照射することが好ましい。
【0016】
(作用・効果)この構成によれば、連続処理方式によって搬送されている銅材料に対して前記プラズマを照射する。連続処理方式で銅材料を搬送してプラズマ処理過程を行うことにより、バッチ方式で搬送してプラズマ処理を行う従来構成と比べ、銅材料に対するプラズマ処理効率を大きく向上できる。よって、銅材料に対する耐酸化処理の処理効率を大きく向上できる。
【0017】
この発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとってもよい。
すなわち、本発明に係るプラズマ処理装置は、板状の誘電体基板と、前記誘電体基板の一方の面に配置された第1電極と、前記誘電体基板を介して前記第1電極と対向するように配置された第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間の空間である放電空間に対して水素を含む反応ガスを供給する気体供給部と、前記第1電極および前記第2電極のうち少なくとも一方にパルス電圧を印加させるパルス電源と、前記放電空間の温度が0℃以上40℃以下である条件で前記パルス電源が前記パルス電圧を印加することで、前記放電空間に発生させたプラズマを前記第1電極と前記第2電極との間に配置された銅材料に照射させるプラズマ照射部と、を備え、前記放電空間は、少なくとも一部が外部と常に繋がっているように構成されており、前記パルス電源は、電力密度が3.1W/cm
2
以上になるパルス電圧を印加するように構成されることを特徴とするものである。
【0018】
(作用・効果)この構成によれば、水素を含む反応ガスを供給しつつ電力密度が3.1W/cm2以上になる条件下で発生したプラズマを銅材料に照射することにより、銅材料の耐酸化性を向上させることができる。この場合、耐酸化性が向上した銅材料をそのまま後処理工程に供することができる。そのため、後処理工程の前に防錆剤を例とする酸化防護膜を除去する必要がないので、銅材料の処理効率を向上できる。また、誘電体基板を備える第1電極と第2電極とを用いた、誘電体バリア放電方式によって発生したプラズマを銅材料に照射する。誘電体バリア放電方式では均一性が高いプラズマをより広い範囲において発生できる。そのため、プラズマを用いて銅材料に対する耐酸化処理を行う過程の処理効率を大きく向上できる。
【0019】
この発明は、このような目的を達成するために、次のような構成をとってもよい。
すなわち、本発明に係るプラズマ処理装置は、板状の誘電体基板と、前記誘電体基板の一方の面に配置された第1電極と、前記誘電体基板を介して前記第1電極と対向するように配置された第2電極と、前記第1電極と前記第2電極との間の空間である放電空間に対して水素を含む反応ガスを供給する気体供給部と、前記第1電極および前記第2電極のうち少なくとも一方にパルス電圧を印加させるパルス電源と、前記放電空間の温度が0℃以上40℃以下である条件で前記パルス電源が前記パルス電圧を印加することで、前記放電空間に発生させたプラズマを前記第1電極と前記第2電極との間に配置された銅材料に照射させるプラズマ照射部と、を備え、前記放電空間は、少なくとも一部が外部と常に繋がっているように構成されており、前記パルス電源は、周波数が20kHz以上であるパルス電圧を印加するように構成されることを特徴とするものである。
【0020】
(作用・効果)この構成によれば、水素を含む反応ガスを供給しつつ周波数が20kHz以上であるパルス電圧を印加することで発生したプラズマを銅材料に照射することにより、銅材料の耐酸化性を向上させることができる。この場合、耐酸化性が向上した銅材料をそのまま後処理工程に供することができる。そのため、後処理工程の前に防錆剤を例とする酸化防護膜を除去する必要がないので、銅材料の処理効率を向上できる。また、誘電体基板を備える第1電極と第2電極とを用いた、誘電体バリア放電方式によって発生したプラズマを銅材料に照射する。誘電体バリア放電方式では均一性が高いプラズマをより広い範囲において発生できる。そのため、プラズマを用いて銅材料に対する耐酸化処理を行う過程の処理効率を大きく向上できる。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係る銅材料の耐酸化処理方法およびプラズマ処理装置によれば、水素を含む反応ガスを供給しつつ所定以上の電力密度または周波数の条件下で発生したプラズマを銅材料に照射することにより、銅材料の耐酸化性を向上させることができる。この場合、耐酸化性が向上した銅材料をそのまま後処理工程に供することができる。そのため、後処理工程の前に防錆剤を例とする酸化防護膜を除去する必要がないので、銅材料の処理効率を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施例に係るプラズマ処理装置の全体構成を説明する正面図である。
【
図2】実施例に係るプラズマ処理装置の要部を説明する斜視図である。
【
図3】実施例に係るプラズマ処理装置において、第2分体が処理位置に移動した状態を説明する正面図である。
【
図4】実施例に係るプラズマ処理装置において、プラズマが発生する状態を説明する正面図である。
【
図5】実施例に係る第1分体の構成を説明する縦断面図である。
【
図6】実施例に係る実験1を説明する図である。(a)は銅材料を示す平面図であり、(b)は銅材料の第1領域と第2領域に対する操作を示す平面図であり、(c)は加熱処理を行う前の状態における、プラズマ処理後の銅材料を示す画像であり、(d)は加熱処理を行った後の状態における、プラズマ処理後の銅材料を示す画像である。
【
図7】変形例に係るプラズマ処理装置において、第2分体が初期位置に移動した状態を説明する正面図である。
【
図8】変形例に係るプラズマ処理装置において、第2分体が処理位置に移動した状態を説明する正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照してこの発明の実施例を説明する。
図1は実施例に係るプラズマ処理装置1の概略図である。なお本実施例において、
図1における左右方向をx方向、奥行き方向をy方向、上下方向をz方向とする。
【0024】
<全体構成の説明>
実施例1に係るプラズマ処理装置1は、プラズマ発生装置3と、基材供給部5と、基材回収部7とを備えている。プラズマ発生装置3は、後述するパルス電源11から供給される電力を用いて、プラズマを発生させる。基材供給部5は、プラズマ処理の対象である基材をプラズマ発生装置3へ供給する。本実施例では、銅材料Cuを基材として用いる。本実施例では銅材料Cuとして、薄膜状の銅(銅箔)を用いるものとする。銅箔である銅材料Cuの厚みの一例として、0.002mm~3.2mmが挙げられる。基材回収部7は、プラズマ発生装置3においてプラズマが照射された基材を回収する。
【0025】
プラズマ発生装置3は、プラズマリアクタ9と、パルス電源11と、気体供給部13と、気体回収部15とを備えている。プラズマリアクタ9は、第1分体17と、第2分体19とを備えている。第1分体17および第2分体19は
図2に示すように、間隔を空けて互いに対向するように配置されている。
【0026】
第1分体17は、全体としてy方向に延びる直方体状の部材である。第1分体17は、第1電極21と誘電体基板23とを備えている。第1電極21は、第1分体17の下面側に埋設されている。第1電極21は、x方向およびy方向に延びる板状形状を有する。誘電体基板23は、第1電極21の下部に配設されている。誘電体基板23は、第1電極21の下面を覆うように配設されている。誘電体基板23は第1電極21と同様に、x方向およびy方向に延びる板状形状を有する。誘電体基板23は誘電性を有する材料で構成されており、構成材料の一例としては酸化アルミニウム(アルミナ)または石英などが挙げられる。
【0027】
第2分体19は、全体としてy方向に延びる直方体状の部材である。第2分体19は、第2電極27を備えている。第2電極27は、第2分体19の上面側に配設されている。第2電極27は、y方向に延びる一対の円柱状の部材である。第2電極27は、第1電極21と互いに対向するように平行配置される。すなわち第1電極21および第2電極27は、平行平板電極を構成する。なお
図2では説明の便宜上、第1電極21および第2電極27の記載を省略している。第1電極21は、パルス電源11が出力する高電圧のパルス電圧が印加される。第2電極27には、グランド電圧が供給されている。なお第2電極27の形状は円柱状に限ることはなく適宜変更してよい。一例として、第2電極27は1枚の平板状の部材で構成されてもよい。また第1分体17および第2分体19の形状についても直方体に限ることはなく、適宜変更してよい。
【0028】
第1電極21が第2電極27に対して間隔を空けて配設されることにより、第1電極21と第2電極27との間には、放電空間Fsが形成される。放電空間Fsは、第1電極21に高電圧が印加されることにより、プラズマPrが形成される空間である。放電空間Fsは
図2などに示すように、プラズマリアクタ9の外部の空間Nに対して常に繋がっている。すなわち放電空間Fsは、プラズマリアクタ9の外部の空間Nに対して遮断されることがなく、プラズマリアクタ9の外部に対して常に開放された状態となっている。
【0029】
放電空間Fsが開放空間であることにより、放電空間Fsにおける気圧が大気圧である状態で、放電空間FsにプラズマPrを発生させることができる。また放電空間Fsにおける温度が室温である状態で、放電空間FsにプラズマPrを発生させることができる。放電空間Fsにおける温度の一例として、0℃以上40℃以下が挙げられる。また放電空間Fsにおける好ましい温度の一例として、10℃以上30℃以下が挙げられる。
【0030】
また第2電極27は、第2分体19の上面部に配設されている。第2電極27の上面に、基材である銅材料Cuが案内される。第2電極27を構成する一対の円柱状の部材は、各々の上面が面一となるように高さが調整される。すなわちプラズマ発生装置3に案内された銅材料Cuは、第2電極27によって水平状態となるように配置される。すなわち第2電極27は、プラズマリアクタ9の内部に搬入された銅材料Cuを水平姿勢に案内させる案内部材としての機能も有する。
【0031】
第2分体19は、図示しない昇降機構によって、z方向に昇降移動するように構成される。第2分体19が昇降移動することにより、第1分体17に対して第2分体19が近接または離間する。すなわち、第2分体19が昇降移動することにより、第1分体17が備える第1電極21と、第2分体19が備える第2電極27との距離が変化する。言い換えると、第2分体19が昇降移動することにより、第1分体17の第1電極21に配設されている誘電体基板23と、第2分体19の第2電極27に案内されている銅材料Cuとの間隔が変化する。
図1は、プラズマ処理装置1において、第2分体19が初期位置に移動している状態を示している。
【0032】
パルス電源11は、一例としてテーブル28に載置されている。パルス電源11は、ケーブル29を介して第1電極21および第2電極27と電気的に接続されている。パルス電源11は、所定のパルス電圧を出力する。パルス電源11から出力されたパルス電圧が第1電極21に印加することにより、第1電極21と第2電極27との間の放電空間Fsにおいて誘電体バリア放電が生じてプラズマPrが発生する。パルス電源11は、所定の周波数を有するパルス電圧を出力できるように構成されている。
【0033】
基材供給部5は、基材である銅材料Cuをプラズマ発生装置3に供給する。基材供給部5は、供給ボビン31を備えている。供給ボビン31には、薄膜状の銅材料Cuを巻回させた原反ロールが装填されている。供給ボビン31は、装填されている原反ロールから銅材料Cuを繰り出し供給する。基材供給部5から繰り出された銅材料Cuは、案内ロール32を経由してプラズマ発生装置3に供給される。プラズマ発生装置3に供給された銅材料Cuは、
図2に示すように、プラズマリアクタ9の第2分体19において、第2電極27の上面に沿って案内される。銅材料Cuが繰り出される方向は、各図において矢印S1で示されている。
【0034】
基材回収部7は、基材である銅材料Cuをプラズマ発生装置3から回収する。基材回収部7は、回収ボビン33を備えている。回収ボビン33は、プラズマ発生装置3においてプラズマ処理がなされた状態の銅材料Cuを巻き取り回収する。すなわちプラズマ処理後の銅材料Cuは、案内ローラ34を経由して基材回収部7に回収される。供給ボビン31および回収ボビン33は、図示されていないモータなどによって正逆に回転駆動制御されるようになっている。
【0035】
このように、基材供給部5および基材回収部7をプラズマ処理装置1に配設させるとともに、プラズマ発生装置3において放電空間Fsを開放空間とすることにより、基材である銅材料Cuを放電空間Fsに連続的に供給することができる。
【0036】
気体供給部13は、反応ガスAhが収容されている。気体供給部13には、気体供給管35の一端が接続されている。気体供給管35の他端は、プラズマリアクタ9が有する放電空間Fsに配置されている。すなわち気体供給部13は、気体供給管35を経由して反応ガスAhを放電空間Fsに供給する。反応ガスAhは、水素を含む気体である。反応ガスAhの一例として、アルゴンと水素とを含む気体が挙げられる。
【0037】
気体回収部15は、反応ガスAhを収容可能に構成されている。気体回収部15には、気体回収管37の一端が接続されている。気体回収部37の他端は、放電空間Fsに配置されている。すなわち放電空間Fsに供給された反応ガスAhは、気体回収管37を経由して気体回収部15に回収される。
【0038】
また、プラズマ処理装置1は制御部39を備えている。制御部39は、例として中央処理演算装置(CPU:Central Processing Unit)などの情報処理手段を備えている。制御部39は、プラズマリアクタ9、パルス電源11、気体供給部13、気体回収部15を例とする、プラズマ処理装置1における各構成の動作を統括制御する。
【0039】
ここで、第1分体17の内部構造について説明する。
図5は、プラズマリアクタ9における第1分体17の縦断面図である。第1分体17は、フレーム41と、電極保持部43と、接続部45と、冷却ファン47とを備えている。
【0040】
フレーム41は、第1分体17の外郭を構成する筐体である。本実施例において、フレーム41は金属で構成されている。電極保持部43は、第1電極21の上面側に配置されており、第1電極21の上面を保持する。接続部45は、電極保持部43の左右に配置されている。接続部45は、電極保持部43とフレーム41とを接続する。すなわち電極保持部43は直接的に第1電極21を保持している。接続部45は、間接的に第1電極21を保持している。
【0041】
電極保持部43および接続部45は、第1電極21の保持に適した強度を有する誘電体で構成されることが好ましい。また電極保持部43および接続部45は、耐熱性が高い材料で構成されることが好ましい。本実施例において、電極保持部43および接続部45は酸化アルミニウムで構成されている。酸化アルミニウムは耐熱性が高い材料であるので、パルス電源11が印加するパルス電圧の周波数を高くすることによって第1電極21における発熱量が増大した場合であっても、好適かつ安定にプラズマPrを発生させることができる。
【0042】
接続部45には、放電防止部46が配置されている。放電防止部46は、第1電極21とフレーム41との間で沿面放電が発生することを防止する。本実施例において、放電防止部46は、接続部45の下面に形成されている凹凸部である。すなわち第1電極21とフレーム41との間に配設されている接続部45に凹凸構造を形成させることにより、第1電極21とフレーム41との間における沿面距離が大きくなる。沿面距離が大きくなることにより、第1電極21とフレーム41との間で沿面放電が発生することを防止できる。
【0043】
プラズマ処理装置1では、第1電極21における沿面放電を防止する放電防止部46を備えることにより、パルス電源11が印加するパルス電圧の周波数を大きくした場合であっても沿面放電が発生することを回避できる。よって、より周波数が高い条件で銅材料Cuに対するプラズマ処理を実行できる。
【0044】
冷却ファン47は、一例として第1電極21の上方に配設されている。冷却ファン47は、電極保持部43を挟んで第1電極21と対向配置されている。冷却ファン47はz方向の軸周りに回転可能に構成されており、冷却ファン47は当該回転によって第1電極21を冷却させる。パルス電源11が印加するパルス電圧の周波数を高くすることによって第1電極21における発熱量が増大した場合であっても、冷却ファン47は第1電極21を冷却する。すなわち第1電極21および放電空間Fsなどが高温化することをより確実に回避できる。よって、より周波数が高い条件で銅材料Cuに対するプラズマ処理を実行できる。
【0045】
<動作の説明>
ここで、プラズマ処理装置1を用いて銅材料Cuに対して耐酸化処理を行う一連の動作について説明する。
【0046】
銅材料Cuに対する耐酸化処理を開始する指令が出されると、基材供給部5からプラズマ発生装置3へと銅材料Cuを供給する動作を開始する。すなわち基材供給部5の供給ボビン31から所定の速度で帯状の銅材料Cuが繰り出される。基材供給部5から繰り出された銅材料Cuは、案内ローラ32に巻回され、第2分体19に配設された第2電極27の上面へと案内されて放電空間Fsに搬入される。
【0047】
耐酸化処理前の銅材料Cuがプラズマ発生装置3へ供給されると、制御部39は図示しない昇降機構を制御して第2分体19を上昇させる。すなわち制御部39の制御により、第2分体19は
図3において点線で示される初期位置から実線で示される処理位置へと上昇する。第2分体19が上昇することにより、第1電極21の下面に配設されている誘電体基板23に対し、第2電極の上方に案内されている銅材料Cuが近接する。誘電体基板23と銅材料Cuとの距離の一例として、0.5mm~2.0mmが挙げられる。
【0048】
誘電体基板23に対して銅材料Cuを近接させた後、第1電極21および第2電極27で挟まれる放電空間Fsに対して反応ガスAhを供給する。すなわち気体供給部13は
図4に示すように、気体供給管35を介して反応ガスAhを放電空間Fsに供給する。
【0049】
放電空間Fsに反応ガスAhを供給させた後、プラズマを発生させて銅材料Cuの表面処理を行う。すなわちパルス電源11は、所定の電圧および周波数を有するパルス電圧を第1電極21に印加する。パルス電圧が第1電極21に印加されることにより、第1電極21および第2電極27で挟まれる放電空間Fsにおいて誘電体バリア放電が生じる。すなわち
図4に示すように、誘電体基板23の下面において反応ガスAhが励起され、誘電体バリア放電によるプラズマPrが発生する。反応ガスAhが水素を含む場合、プラズマPrには水素プラズマが含まれていると考えられる。
【0050】
第2分体19が上昇していることにより、誘電体基板23の下面には銅材料Cuの上面が近接している。そのため、プラズマPrによって銅材料Cuの上面に対するプラズマ処理が実行される。後述するように、放電空間Fsにおいて発生したプラズマPrで銅材料Cuの表面を処理することにより、当該表面は耐酸化状態となる。すなわちプラズマPrによるプラズマ処理を行った結果、銅材料Cuに対して耐酸化処理が実行される。
【0051】
銅材料Cuに対する耐酸化処理が完了した後、銅材料Cuを回収する。すなわち耐酸化処理が行われた銅材料Cuをプラズマ発生装置3の放電空間Fsから搬出させる。放電空間Fsから搬出された銅材料Cuは、案内ローラ34に巻回されて基材回収部7へと案内される。基材回収部7は、耐酸化処理が行われた銅材料Cuを回収ボビン33に巻き取って回収する。以上で銅材料Cuに対する耐酸化処理に関する一連の工程が終了する。
【0052】
以降、銅材料Cuを所定の速度で放電空間Fsに供給しつつ、パルス電圧を第1電極21に印加する。プラズマ発生装置3では放電空間Fsが常に外部に開放されている状態である。すなわちプラズマPrを発生させて銅材料Cuをプラズマ処理する際に、放電空間Fsを密閉状態にさせる必要がない。言い換えると、銅材料Cuを連続供給しつつ、連続供給された銅材料Cuに対して連続的にプラズマPrを照射することができる。その結果、バッチ方式のみならず、連続処理方式による銅材料Cuのプラズマ処理を行うことができるので、銅材料Cuに対する耐酸化処理の効率を大きく向上できる。
【0053】
<耐酸化効果の説明>
ここで、プラズマ処理装置1を用いて行うプラズマ処理によって得られる耐酸化効果について説明する。
【0054】
<実験1>
図6(a)に示す薄膜状の銅材料Cuに対し、表面の一部にカプトンテープ(カプトン:登録商標)を貼り付けた状態で、プラズマ処理装置1によるプラズマ処理を行った。すなわち
図6(b)に示すように、銅材料Cuの表面のうち左側の領域である第1領域T1に対してカプトンテープKPを貼り付け、銅材料Cuの表面のうち左側の領域である第2領域T2はカプトンテープを貼り付けていない状態(表面を露出させた状体)で、当該銅材料Cuをプラズマリアクタ9の内部へ搬入させた。
【0055】
そして第2電極27の上面に銅材料Cuが案内された状態で、パルス電源11を作動させて第1電極21にパルス電圧を印加させ、放電空間FsにおいてプラズマPrを発生させた。すなわちカプトンテープKPが表面に貼り付けられている第1領域T1およびカプトンテープKPが貼り付けられていない第2領域T2の各々に対して、プラズマPrによるプラズマ処理を行った。
【0056】
なお、プラズマ処理装置1を用いて銅材料Cuに対して行ったプラズマ処理の条件は以下の通りである。
パルス電源11のDC電圧:65V
パルス電源11のDC電流:1.83A
パルス電源11の周波数 :80kHz
銅材料Cuの搬送速度 :0.5m/min
反応ガスAh :アルゴン/水素ガス(水素含有率8%)
反応ガスAhの排気速度 :6L/min
第1電極21と第2電極27との距離:1.0mm
プラズマ処理時間 :2.5sec
放電空間Fsの気圧 :1気圧(大気圧)
放電空間Fsの温度 :20℃
【0057】
第1領域T1および第2領域T2を含む銅材料Cuに対して上記の条件でプラズマ処理を行った後、銅材料Cuの第1領域T1からカプトンテープKPを剥がし、銅材料Cuの全体を150℃で1時間加熱した。当該加熱の前後において、銅材料Cuの第1領域T1および第2領域T2における表面の色を観察した。
【0058】
図6(c)は、プラズマ処理を行った後、加熱前における第1領域T1および第2領域T2の色を示す図である。
図6(d)は、150℃で1時間加熱した後における第1領域T1および第2領域T2の色を示す図である。
図6(e)は、150℃で1時間加熱した後において、第1領域T1および第2領域T2に形成された酸化銅の膜厚(酸化膜の厚み)を示すグラフ図である。
【0059】
銅材料Cuに対してプラズマ処理を行う際に、第1領域T1の表面には耐プラズマ性を有するカプトンテープKPが貼り付けられている。つまり第1領域T1に対して照射されたプラズマPrは、カプトンテープKPによって遮られている。すなわち第1領域T1は、プラズマ処理が行われていない非処理領域に相当する。一方、第1領域T1の表面にはカプトンテープKPが貼り付けられず、露出した状態でプラズマPrが照射される。すなわち第2領域T2は、プラズマ処理が行われる処理領域に相当する。
【0060】
図6(c)に示すように、プラズマPrが照射された後であって加熱処理を行う前の状態では、第1領域T1における銅材料Cuの色と第2領域T2における銅材料Cuの色は同じである。一方で
図6(d)に示すように、プラズマPrの照射と加熱処理とが行われた後の状態では、プラズマ処理が行われた状態となっている第2領域T2の色と比べて、プラズマ処理が行われていない状態となっている第1領域T1の色は、赤褐色が強く暗い色となっている(符号Bを参照)。
【0061】
すなわち第2領域T2では加熱によって銅の酸化が進行し、酸化銅の色が明確に表れている。一方、第1領域T1では加熱を行っても銅の酸化が進行しておらず、酸化銅の色が表れていないことが判明した。事実、プラズマ処理が行われていない第1領域T1では、加熱処理によって形成された酸化銅の膜厚が15.7nmである一方、プラズマ処理が行われた第2領域T2では、加熱処理によって形成された酸化銅の膜厚が9.6nmであった。なお加熱処理後の銅材料Cuにおける酸化銅の膜厚の測定は、連続電気化学還元法(SERA法)によって行った。
【0062】
これら実験1の結果から、プラズマ処理が行われた第2領域T2は、プラズマ処理が行われていない第1領域T1と比べて高い耐酸化性を有していることが判明した。すなわち本実施例に係るプラズマ処理装置1を用いたプラズマ処理によって、銅材料Cuに対して高い耐酸化性を付与できることが判明した。言い換えると、プラズマ処理装置1を用いてプラズマPrを銅材料Cuに照射することで、当該銅材料Cuに対する耐酸化処理が可能になることが判明した。
【0063】
<実験2>
プラズマPrによる処理を行った銅材料Cuの耐酸化性を評価するため、プラズマPrによる処理条件をそれぞれ変えた銅材料Cuの試料1~7を用意した。そしてプラズマ処理が行われた試料1~7に対して、200℃で30分間加熱し、各試料の色を観察して耐酸化性の向上の有無を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0064】
【0065】
なお表1において、電力密度(単位:W/cm2)は、投入電力(単位:W)を放電面積(単位:cm2)で除算した値に相当する。投入電力は、パルス電源11に投入される電力の値に相当する。また周波数の数値は、パルス電源11が印加するパルス電圧の周波数に相当する。パルス電圧の周波数が大きくなると、投入電力の値が大きくなる。
【0066】
放電面積はプラズマPrの処理対象である銅材料Cuの面積であり、横2.1cm×縦5.8cmに相当する。試料1~5において、反応ガスAhは実験1と同様にアルゴン/水素ガス(水素含有率8%、アルゴン含有率92%)である。試料6において、反応ガスAhはアルゴンガスであり、水素を含まないガスを用いている。試料7において、反応ガスAhはヘリウム/水素ガス(水素含有率8%、ヘリウム含有率92%)である。
【0067】
表1において、耐酸化性向上評価の欄に「×」の符号が付されている場合、加熱後における銅材料Cuの試料の色が、実験1における第1領域T1と同様の色であることを示している。すなわち試料の表面は赤褐色が強く暗い色となっており、銅材料Cuの試料において耐酸化性の向上効果が観察されなかったことを意味している。
【0068】
表1において、耐酸化性向上評価の欄に「○」の符号が付されている場合、加熱後における銅材料Cuの試料の色が、実験1における第2領域T2と同様の色であることを示している。すなわち試料の表面には酸化銅の色が観察されず、銅材料Cuの試料において耐酸化性が大きく向上されたことを意味している。言い換えると、耐酸化性向上評価の欄に「○」の符号が付されている場合、プラズマ処理によって、実験1における第2領域T2と同様の耐酸化性向上効果が得られたことを示している。
【0069】
表1において、耐酸化性向上評価の欄に「△」の符号が付されている場合、加熱後における銅材料Cuの試料の色が、実験1における第1領域T1と比べて弱い赤褐色であったことを示している。すなわち銅材料Cuの試料において、第2領域T2に対する耐酸化性向上効果よりは弱いものの、プラズマ処理による耐酸化性の向上効果が確認されたことを意味している。
【0070】
試料1~5では、パルス電源11に投入される投入電力の条件をそれぞれ変えて、銅材料Cuに対するプラズマ処理を行っている。実験2では、放電面積すなわちプラズマ処理の対象となる銅材料Cuの面積は一定である。そのため、投入電力の変化に応じて、電力密度も変化する。また投入電力に応じて、第1電極21に印加されるパルス電圧の周波数も変化する。
【0071】
投入電力が低い条件である試料1および試料2では耐酸化性の向上が確認できない一方、試料2の条件よりも投入電力が高い試料3では耐酸化性の向上が確認されている。また試料3の条件よりも投入電力がさらに高い試料4および試料5では、耐酸化性が大きく向上していることが確認できる。従って、電力密度を高くすることによって、プラズマ処理による耐酸化性向上効果が大きくなることがわかる。言い換えると、パルス電圧の周波数を高くすることによって、プラズマ処理による耐酸化性向上効果が大きくなることがわかる。
【0072】
具体的には、電力密度が3.1W/cm2以上になる場合にプラズマ処理による耐酸化性向上効果が得られ、好ましい条件として電力密度が5.9W/cm2以上になる場合にプラズマ処理による高い耐酸化性向上効果が得られることが判明した。言い換えると、パルス電圧の周波数が20kHz以上である場合にプラズマ処理による耐酸化性向上効果が得られ、好ましい条件としてパルス電圧の周波数が40kHz以上である場合にプラズマ処理による高い耐酸化性向上効果が得られることが判明した。
【0073】
なお装置の性能上、パルス電源11に投入可能な投入電力の大きさには上限が存在する。パルス電源11に対する投入電力の実質的な上限値としては、一例として400W/cm2が挙げられる。そのため、電力密度が3.1W/cm2以上かつ400W/cm2以下である場合にプラズマ処理による耐酸化性向上効果が得られ、好ましい条件として電力密度が5.9W/cm2以上かつ400W/cm2以下である場合にプラズマ処理による高い耐酸化性向上効果が得られる。
【0074】
また、パルス電源11が印加するパルス電圧の周波数の実質的な上限値として、一例として300kHzが挙げられる。そのため、周波数が20kHz以上かつ300kHzである場合にプラズマ処理による耐酸化性向上効果が得られ、好ましい条件として周波数が40kHz以上かつ300kHz以下である場合にプラズマ処理による高い耐酸化性向上効果が得られる。
【0075】
試料5~7では、反応ガスAhとして用いられる気体の種類をそれぞれ変えて、銅材料Cuに対するプラズマ処理を行っている。反応ガスAhとして実験1と同様にアルゴン/水素ガスを用いた場合、プラズマ処理によって高い耐酸化性向上効果が発揮される(試料4)。一方、反応ガスAhとしてアルゴンガスを用いた場合、プラズマ処理による耐酸化性向上効果は観察されなかった(試料6)。また、反応ガスAhとしてヘリウム/水素ガスを用いた場合、プラズマ処理による耐酸化性向上効果は観察された(試料7)。これら試料5~7の結果から、放電空間Fsに供給される反応ガスAhに水素ガスが含まれる場合、プラズマ処理による耐酸化性向上の効果が得られると考えられる。
【0076】
<実施例の構成による効果>
このように発明者の鋭意検討により、実施例に係るプラズマ処理装置1を用いて銅材料CuにプラズマPrを照射することにより、銅材料Cuの耐酸化性を大きく向上できることが判明した。すなわちプラズマ処理装置1を用いたプラズマPrの照射によって、銅材料Cuの耐酸化処理が可能になることが判明した。
【0077】
従来の耐酸化処理では、防錆剤を銅材料に塗布する塗布処理、または銅材料の表面をめっきするめっき処理などを行うことによって、耐酸化性を有する化合物を含む防護膜を銅材料の表面に形成させる。この場合、倉庫などにおいて銅材料を保管する間に当該銅材料が酸化することを回避できる一方、銅材料に対して各種の後処理工程を行う場合、銅とは異なる成分を含む防護膜が後処理工程の妨げとなることがある。そのため従来の耐酸化処理がなされた銅材料を用いると、当該銅材料に対して各種の後処理工程を行う場合、防護膜を除去する工程を後処理工程の前に実施する必要がある。
【0078】
一方、本実施例に係る耐酸化処理では、プラズマPrを銅材料Cuに照射することによって銅材料Cuの耐酸化性を向上させることができる。そしてプラズマPrが照射された銅材料Cuの表面には、後処理工程の妨げとなる成分が存在しない。そのため、倉庫などにおいて銅材料を保管する間に当該銅材料が酸化することを回避できるとともに、耐酸化処理が行われた銅材料Cuをそのまま後処理工程に供することができる。よって、銅材料を用いて電気部品を製造する工程などにおいて、当該工程の効率を大きく向上させることができる。
【0079】
またプラズマ処理装置1では、誘電体基板23を備える第1電極21と、誘電体基板23に対向配置される第2電極27とを備える。そして第1電極21と第2電極27との間に電圧を印加することで、第1電極21と第2電極27との間の空間である放電空間FsにプラズマPrを発生させる。すなわちプラズマ処理装置1では、誘電体バリア放電方式によって発生するプラズマPrを用いて、銅材料Cuに対するプラズマ処理すなわち耐酸化処理を行う。誘電体バリア放電方式を用いることにより、均一性が高いプラズマPrをより広い範囲において発生できる。そのため、プラズマ処理装置1を用いた耐酸化処理の処理効率を大きく向上できる。また、銅材料Cuに対する耐酸化処理にムラが発生することをより確実に防止できる。
【0080】
プラズマ処理装置1は、第1電極21における放電を防止する放電防止部46と、第1電極21を冷却する冷却ファン47とを備える。一般的に、プラズマを生成させるための電極に高周波のパルス電圧を印加すると、当該電極において沿面放電が発生しやすくなるとともに、電極において発生する熱が増大する。このような放電および発熱が発生するので、従来のプラズマ処理装置ではパルス電圧の周波数を高くすることが困難である。言い換えると、従来のプラズマ処理装置では電力密度を高くすることが困難である。
【0081】
一方、実施例に係るプラズマ処理装置1では、第1電極21を保持する接続部45に放電防止部46が配設されている。接続部45が放電防止部46を備えることにより、第1電極21における沿面放電の発生を防止できる。そのため、第1電極21に印加されるパルス電圧の周波数をより高くした条件でプラズマPrを生成できる。すなわち第1電極21に対する電力密度をより高くした条件でプラズマPrを生成できる。従って、銅材料Cuの耐酸化性が向上する効果が発揮されるような条件において、銅材料Cuに対するプラズマ処理が可能となる。
【0082】
またプラズマ処理装置1は、プラズマリアクタ9の第1分体17の内部に、第1電極21を冷却する冷却ファン47を備えている。冷却ファン47を備えることにより、第1電極21の高温化を回避できる。そのため、第1電極21に印加されるパルス電圧の周波数をより高くした条件でプラズマPrを生成できる。従って、銅材料Cuの耐酸化性が向上する効果が発揮されるような条件において、銅材料Cuに対するプラズマ処理が可能となる。
【0083】
さらにプラズマ処理装置1では、プラズマPrが発生される放電空間Fsが開放空間となっている。すなわちプラズマリアクタ9の内部に配置される放電空間Fsは、プラズマリアクタ9の外部空間Nと常に繋がっている。処理室を例とする閉鎖空間内に放電空間Fsを配置する場合、放電空間Fsを一時的に開放してプラズマ処理の対象となる銅材料Cuを放電空間Fsに搬入する工程、放電空間Fsを開放状態から閉鎖状態に移行させる工程、および放電空間Fsを一時的に開放してプラズマ処理後の銅材料Cuを放電空間Fsから搬出する工程などが必要となる。言い換えると、処理室を例とする閉鎖空間内に放電空間Fsを配置する場合、銅材料Cuを放電空間Fs内に搬送する方法はバッチ方式に限られる。
【0084】
一方、放電空間Fsが開放空間となっていることにより、銅材料Cuを連続的に放電空間Fsに搬送させる方式すなわち連続処理方式(ストリーミング方式)を用いて、銅材料Cuに対するプラズマ処理を行うことができる。この場合、銅材料Cuの搬送を一時的に停止させる工程が必須であるバッチ方式に比べて、連続処理方式を用いることで銅材料Cuに対する耐酸化処理の処理効率を大きく向上できる。
【0085】
さらに放電空間Fsを開放空間とすることにより、放電空間Fsがプラズマ処理装置1の外気と同様の気圧および温度である条件で、プラズマ処理装置1はプラズマPrを発生させる。言い換えると、プラズマ処理装置1は大気圧かつ室温の条件下で発生させたプラズマPrを用いて、銅材料Cuに対する耐酸化処理を行うことができる。そのため、プラズマPrを発生させる放電空間Fsの圧力または温度を調節する構成をプラズマ処理装置1に配設する必要がない。そのため、プラズマ処理装置1をより小型化できるとともに、プラズマ処理装置1に要するコストを低減できる。
【0086】
またプラズマPrを比較的低い温度の条件下で発生させることにより、電子のみが高いエネルギーを有している低温プラズマを発生させることができる。そのため、比較的低い電子密度または周波数の条件下であっても、より高いエネルギーのプラズマPrを発生させて銅材料Cuをプラズマ処理することができる。より高エネルギーのプラズマPrを用いることで、銅材料Cuの耐酸化処理の効果をより向上できると考えられる。
【0087】
<他の実施例>
なお、今回開示された実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲、並びに、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれる。例として、本発明は下記のように変形実施することができる。
【0088】
(1)上述した実施例において、薄膜状の銅材料Cuをプラズマ処理の対象として用いる構成を例示したがこれに限られない。銅材料Cuとしては薄膜状の銅箔の他に、板状である銅板、線状である銅線などを用いることができる。この場合、銅材料Cuの形状に応じて、基材供給部5および基材回収部7の構成を適宜変更してよい。
【0089】
(2)上述した各実施例において、放電空間Fsが開放空間である構成を例として示したがこれに限られない。すなわちプラズマリアクタ9は、密閉が可能な処理室を備え、当該処理室の内部に第1電極21、誘電体基板23、および第2電極27を備えてもよい。この場合、密閉が可能な処理室の内部に放電空間Fsが形成される。また処理室内において放電空間Fsを形成させる構成とすることで、当該処理室の内部を所定の気圧または温度に調節した条件下でプラズマPrを発生させることが可能となる。一例として、真空条件下で発生させたプラズマPrを銅材料Cuに照射して、銅材料Cuに対する耐酸化処理を行ってもよい。
【0090】
(3)上述した実施例において、第1電極21を冷却する構成は冷却ファン47に限られない。一例として、第1電極21または電極保持部43にペルチェ素子を例とする冷却部材を当接させ、当該冷却部材によって第1電極21を冷却してもよい。また放電防止部46の構成は接続部45に形成された凹凸構造に限ることはなく、第1電極21における放電を防止できる部材および構成であれば適宜用いてよい。また放電防止部46が配設される場所は接続部45に限ることはなく適宜の場所に配設してよい。
【0091】
(4)上述した各実施例において、プラズマリアクタ9の内部にある放電空間Fsの全体がプラズマリアクタ9の外部空間Nと繋がっている構成を例示しているが、これに限られない。すなわち
図7および
図8に示すように、放電空間Fsの少なくとも一部を外部空間Nから遮る部材を備えてもよい。
【0092】
図7は、変形例に係るプラズマリアクタ9Aの初期状態を示す正面図である。プラズマリアクタ9Aは、第1遮蔽部51と第2遮蔽部53とを備えている。第1遮蔽部51は、第1分体17の外周部に配設されており、第1分体17を囲繞するように配設されている。第2遮蔽部53は、第2分体19の外周部に配設されており、第2分体19を囲繞するように配設されている。
【0093】
第1遮蔽部51の下端部51aは、第1分体17の下端より低い位置となるように構成されている。なお第1遮蔽部51の下端部51aの高さは、第2分体19が初期位置から処理位置へと上昇した場合において、下端部51aが銅材料Cuを押圧しない程度の高さとなるように予め設計される。言い換えると、第2分体19が初期位置から処理位置へと上昇した場合において、銅材料Cuの搬送が第1遮蔽部51によって妨げられることがないように、第1遮蔽部51の下端部51aの高さが予め定められる。
【0094】
第2遮蔽部53の上端部53aは、第2分体19の上端より高い位置となるように構成されている。すなわち第1遮蔽部51は、放電空間Fsの少なくとも一部と、プラズマリアクタ9の外部空間Nとの間を遮蔽する。また第2遮蔽部53は、放電空間Fsの少なくとも一部と、プラズマリアクタ9の外部空間Nとの間を遮蔽する。
【0095】
第2遮蔽部53の上端部53aの形状は、銅材料Cuが搬送させる軌跡に応じた形状であることが好ましい。この場合、
図7に示すように、プラズマリアクタ9に搬入される銅材料Cuおよびプラズマリアクタ9から搬出される銅材料Cuの各々は、第2遮蔽部53の上端部53aに当接した状態となる。すなわち第2遮蔽部53の上端部53aは、銅材料Cuの下面を支持する。その結果、搬送される銅材料Cuの姿勢をより安定化できる。
【0096】
変形例に係るプラズマリアクタ9Aにおいて、気体回収管37は第1遮蔽部51を貫通するように配置されている。気体回収管37は、第1遮蔽部51の外周に沿った複数箇所において第1遮蔽部51を貫通するように配置されていることが好ましい。一例として
図7に示すように、プラズマリアクタ9Aの左側および右側に気体回収管37が配置される。この場合、放電空間Fsに供給された反応ガスAhは、プラズマリアクタ9Aの左側および右側から気体回収管37へと排出され、気体回収管37を通って気体回収部15に回収される。このように放電空間Fsの両側から反応ガスAhを回収する構成とすることにより、反応ガスAhを効率良く回収できる。特に反応ガスAhに含まれる水素ガスをより確実に回収できる。
【0097】
図8は、変形例に係るプラズマリアクタ9Aにおいて、第2分体19が初期位置から処理位置へと移動した状態を示している。第2分体19が初期位置から処理位置へと上昇することにより、第1遮蔽部51の下端部51aは銅材料Cuの上面に近接する。その結果、放電空間Fsのうち外部空間Nと繋がっている領域が減少するので、放電空間Fsの気密性が高くなる。放電空間Fsの気密性を向上させることにより、放電空間Fsにおける反応ガスAhの濃度をより高くすることできる。
【0098】
なお第2分体19が処理位置へと上昇した場合であっても、下端部51aは銅材料Cuに接触しない程度の高さとなっている。そのため、第1遮蔽部51の下端部51aと第2遮蔽部53の上端部53aとが銅材料Cuを上下から挟み込むことによって銅材料Cuの搬送が阻害されることを回避できる。第2分体19が初期位置から処理位置へと上昇した場合において、銅材料Cuの連続搬送が可能となる程度に、放電空間Fsはプラズマリアクタ9の外部空間Nと繋がっている。すなわち実施例では放電空間Fsの全体が外部空間Nと常に繋がっている構成である一方、変形例では放電空間Fsの一部が外部空間Nと常に繋がっている構成となっている。
【0099】
変形例に係るプラズマリアクタ9Aを備えるプラズマ処理装置1では、
図8に示すように第2分体19を処理位置へと上昇させた後、気体供給部13から放電空間Fsへと反応ガスAhを供給しつつ、パルス電源11から第1電極21へとパルス電圧を印加させる。パルス電圧を印加させることにより、気密性が向上している放電空間FsにおいてプラズマPrが発生し、放電空間Fsに搬入されている銅材料Cuの表面に対してプラズマ処理が行われる。当該プラズマ処理の結果、銅材料Cuの耐酸化性が向上する。
【0100】
当該変形例では、銅材料Cuの連続的な搬送が可能である状態を維持しつつ、第1遮蔽部51および第2遮蔽部53によって放電空間Fsの気密性を向上させる。そのため、反応ガスAhの濃度を高めつつ、連続処理方式による銅材料Cuの耐酸化処理が可能となるので、当該耐酸化処理の処理効果および処理効率を向上させることができる。
【0101】
(5)上述した実施例および変形例において、気体供給管35および気体回収管37の構成は適宜変更してよい。すなわち一例として、気体供給管35および気体回収管37が配置される場所および数は、
図1および
図7などに記載される態様に限ることはなく適宜変更できる。
【符号の説明】
【0102】
1 …プラズマ処理装置
3 …プラズマ発生装置
5 …基材供給部
7 …基材回収部
9、9A …プラズマリアクタ
11 …パルス電源
13 …気体供給部
15 …気体回収部
17 …第1分体
19 …第2分体
21 …第1電極
23 …誘電体基板
27 …第2電極
29 …ケーブル
31 …供給ボビン
33 …回収ボビン
35 …気体供給管
37 …気体回収管
39 …制御部
41 …フレーム部
43 …電源保持部
45 …接続部
46 …放電防止部
47 …冷却ファン
51 …第1遮蔽部
53 …第2遮蔽部
【要約】
【課題】銅材料の酸化を防止しつつ当該銅材料の処理効率を向上できる、銅材料の耐酸化処理方法およびプラズマ処理装置を提供する。
【解決手段】
板状の誘電体基板23の一方の面に配置された第1電極21と、誘電体基板23を介して第1電極21と対向配置された第2電極27との間の空間である放電空間Fsに銅材料Cuを搬送する。水素を含む反応ガスAhを放電空間Fsに供給しつつ、電力密度が3.1W/cm
2以上になるパルス電圧を第1電極21に印加し、放電空間Fsに発生したプラズマPrを銅材料Cuに照射する。プラズマPrを照射することにより、銅材料Cuの耐酸化性が向上するとともに、耐酸化性が向上した銅材料Cuをそのまま後処理工程に供することができる。
【選択図】
図1