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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-21
(45)【発行日】2025-05-29
(54)【発明の名称】積層体及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/082 20060101AFI20250522BHJP
   B32B 15/095 20060101ALI20250522BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20250522BHJP
   B32B 27/40 20060101ALI20250522BHJP
   B05D 7/14 20060101ALI20250522BHJP
   B05D 3/10 20060101ALI20250522BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20250522BHJP
   C09D 127/12 20060101ALI20250522BHJP
【FI】
B32B15/082 B
B32B15/095
B32B27/30 D
B32B27/40
B05D7/14 Z
B05D3/10 A
B05D7/24 302L
B05D7/24 302T
C09D127/12
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021103939
(22)【出願日】2021-06-23
(65)【公開番号】P2023003027
(43)【公開日】2023-01-11
【審査請求日】2024-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000116954
【氏名又は名称】AGCコーテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100168985
【弁理士】
【氏名又は名称】蜂谷 浩久
(72)【発明者】
【氏名】長岡 亮介
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-118291(JP,A)
【文献】国際公開第01/025354(WO,A1)
【文献】特開2006-028434(JP,A)
【文献】特開2019-026807(JP,A)
【文献】特開2013-010822(JP,A)
【文献】特開平11-061039(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
B05D
C09D
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材と、前記金属基材の表面に形成された化成処理皮膜と、前記化成処理皮膜上に形成されたクリヤ塗膜と、を有する積層体であって、
前記クリヤ塗膜が、前記化成処理皮膜側から順に、含フッ素重合体a1の架橋物A1を含む中塗り層と、含フッ素重合体a2の架橋物A2を含む上塗り層と、を有し、
前記含フッ素重合体a1と前記含フッ素重合体a2とが異なり、
前記架橋物A1が前記含フッ素重合体a1とブロック化イソシアネート硬化剤の架橋物であること、及び、前記架橋物A2が前記含フッ素重合体a2とブロック化イソシアネート硬化剤の架橋物であること、の少なくとも一方を満たし、
前記ブロック化イソシアネート硬化剤が、ブロック化剤によってイソシアネート基がブロックされたブロック化イソシアネート基を有し、
前記ブロック化剤が、ジメチルピラゾール、ピラゾール、ε-カプロラクタム、及び、活性メチレン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物であることを特徴とする、積層体。
【請求項2】
前記中塗り層のガラス転移温度と、前記上塗り層のガラス転移温度との差の絶対値が、5~15℃である、請求項に記載の積層体。
【請求項3】
前記上塗り層又は前記中塗り層が紫外線吸収剤を含む、請求項又はに記載の積層体。
【請求項4】
前記上塗り層及び前記中塗り層がいずれも、前記紫外線吸収剤を2種以上含む、請求項に記載の積層体。
【請求項5】
前記クリヤ塗膜が、更に紫外線吸収剤を含み、
前記紫外線吸収剤の含有量が、前記クリヤ塗膜の全質量に対して、1~20質量%である、請求項1~のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項6】
前記クリヤ塗膜が、更に着色剤を含む、請求項1~のいずれか1項に記載の積層体。
【請求項7】
金属基材と、前記金属基材の表面に形成された化成処理皮膜と、前記化成処理皮膜上に形成され、前記化成処理皮膜側から順に、含フッ素重合体a1の架橋物A1を含む中塗り層と、含フッ素重合体a2の架橋物A2を含む上塗り層と、を有するクリヤ塗膜と、を有する積層体の製造方法であって、
前記含フッ素重合体a1と前記含フッ素重合体a2とが異なり、
前記クリヤ塗膜を形成する際に、
前記含フッ素重合体aと、
ジメチルピラゾール、ピラゾール、ε-カプロラクタム、及び、活性メチレン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物であるブロック化剤によって、イソシアネート基がブロックされたブロック化イソシアネート基を有するブロック化イソシアネート硬化剤と、を含む塗料を、前記化成処理皮膜上に塗布して第1塗装層を形成して、前記第1塗装層を160~250℃で加熱硬化して、前記中塗り層を得ること
及び、
前記含フッ素重合体a2と、前記ブロック化イソシアネート硬化剤と、を含む塗料を、前記中塗り層上に塗布して第2塗装層を形成して、前記第2塗装層を160~250℃で加熱硬化して、前記上塗り層を得ること、
のうち、少なくとも一方を含むことを特徴とする、積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層体及び積層体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築部材及び車両等に使用される金属基材上には、意匠性や耐候性等を向上するために、塗料を用いて得られる塗膜が形成されている場合がある。このような金属基材上に形成される塗膜として、金属基材の質感を活かすために、着色剤を含まないか、又は、透明感が損なわれない程度の着色剤を含むクリヤ塗膜が用いられる場合がある。
特許文献1には、ヒドロキシ基を含有する含フッ素重合体と、硬化剤と、を含む塗料を用いて、金属基材上にクリヤ塗膜を形成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3275317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
クリヤ塗膜は、例えば、塗料を用いて形成される塗装層を加熱硬化して形成される。本発明者らが、特許文献1に記載されているような含フッ素重合体及び硬化剤等を含む塗料を用いて、金属基材の表面に形成された化成処理皮膜上にクリヤ塗膜を形成したところ、得られるクリヤ塗膜が黄変している場合があることを知見した。
【0005】
そこで、本発明は、黄変が抑制されたクリヤ塗膜を有する積層体及び積層体の製造方法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討した結果、金属基材と、金属基材上に形成された化成処理皮膜と、化成処理皮膜上に形成されたクリヤ塗膜と、を有する積層体において、含フッ素重合体と特定のブロック化イソシアネート硬化剤との架橋物を含むクリヤ塗膜は、黄変が抑制されていることを見出し、本発明に至った。
【0007】
すなわち、発明者らは、以下の構成により上記課題が解決できることを見出した。
[1]金属基材と、上記金属基材の表面に形成された化成処理皮膜と、上記化成処理皮膜上に形成されたクリヤ塗膜と、を有する積層体であって、上記クリヤ塗膜が、含フッ素重合体aとブロック化イソシアネート硬化剤との架橋物Aを含み、上記ブロック化イソシアネート硬化剤が、ブロック化剤によってイソシアネート基がブロックされたブロック化イソシアネート基を有し、上記ブロック化剤が、ジメチルピラゾール、ピラゾール、ε-カプロラクタム、及び、活性メチレン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物であることを特徴とする、積層体。
[2]上記クリヤ塗膜が、上記化成処理皮膜側から順に、含フッ素重合体a1の架橋物A1を含む中塗り層と、含フッ素重合体a2の架橋物A2を含む上塗り層と、を有し、上記架橋物A1及び上記架橋物A2の少なくとも一方が、上記架橋物Aであり、上記含フッ素重合体a1と上記含フッ素重合体a2とが異なる、[1]の積層体。
[3]上記中塗り層のガラス転移温度と、上記上塗り層のガラス転移温度との差の絶対値が、5~15℃である、[2]の積層体。
[4]上記上塗り層又は上記中塗り層が紫外線吸収剤を含む、[2]又は[3]の積層体。
[5]上記上塗り層及び上記中塗り層がいずれも、上記紫外線吸収剤を2種以上含む、[4]の積層体。
[6]上記クリヤ塗膜が、更に紫外線吸収剤を含み、上記紫外線吸収剤の含有量が、上記クリヤ塗膜の全質量に対して、1~20質量%である、[1]~[5]のいずれかの積層体。
[7]上記クリヤ塗膜が、更に着色剤を含む、[1]~[6]のいずれかの積層体。
[8]金属基材と、上記金属基材の表面に形成された化成処理皮膜と、上記化成処理皮膜上に形成されたクリヤ塗膜と、を有する積層体の製造方法であって、含フッ素重合体aと、ジメチルピラゾール、ピラゾール、ε-カプロラクタム、及び、活性メチレン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物であるブロック化剤によって、イソシアネート基がブロックされたブロック化イソシアネート基を有するブロック化イソシアネート硬化剤と、を含む塗料を、上記化成処理皮膜上に塗布して塗装層を形成して、上記塗装層を160~250℃で加熱硬化して上記クリヤ塗膜を形成することを特徴とする、積層体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、黄変が抑制されたクリヤ塗膜を有する積層体及び積層体の製造方法を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明における用語を以下に説明する。
「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタクリレートの総称であり、(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタクリルの総称である。
単位とは、単量体が重合して直接形成された、上記単量体1分子に基づく原子団と、上記原子団の一部を化学変換して得られる原子団との総称である。なお、重合体が含む全単位に対する、それぞれの単位の含有量(モル%)は、重合体を核磁気共鳴スペクトル(NMR)法により分析して求められる。
酸価及び水酸基価は、それぞれ、JIS K 0070-3(1992)の方法に準じて測定される値である。
含フッ素重合体のガラス転移温度(Tg)は、示差走査熱量測定(DSC)法で測定される、重合体の中間点ガラス転移温度である。
最低造膜温度(MFT)は、含フッ素重合体を乾燥させたとき、亀裂のない均一な塗膜が形成される最低温度であり、例えば、造膜温度測定装置IMC-1535型(株式会社井元製作所製)を用いて測定できる。
上塗り層及び中塗り層のガラス転移温度(Tg)は、剛体振り子型物性試験器 RPT-3000Wを用いて測定される、最大対数減衰率値を示した温度である。
数平均分子量(Mn)は、ポリスチレンを標準物質としてゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定される値である。
積層体の厚さは、渦電流式膜厚計を用いて測定される値であり、例えば、サンコウ電子社製「EDY-5000」を用いて測定できる。積層体における各層の厚さは、エネルギー分散型X線分析装置を備えた走査型電子顕微鏡によって積層体の断面を観察して得られる各層の厚さの比と、積層体の厚さとから算出できる。
全光線透過率は、JIS K 7361-1:1997に準拠し、D光源にて測定される値である。
塗料の固形分質量とは、塗料が溶媒を含む場合に、塗料から溶媒を除去した質量である。なお、溶媒以外の組成物の固形分を構成する成分に関して、その性状が液体状であっても、固形分とみなす。塗料の固形分質量は、塗料1gを130℃で20分加熱した後に残存する質量として求められる。
【0010】
本発明の積層体(以下、本積層体ともいう。)は、金属基材と、上記金属基材上に形成された化成処理皮膜と、上記化成処理皮膜上に形成されたクリヤ塗膜と、を有する積層体である。また、本積層体において、上記クリヤ塗膜は、含フッ素重合体aとブロック化イソシアネート硬化剤との架橋物Aを含む。また、本積層体において、上記ブロック化イソシアネート硬化剤が、ブロック化剤によってイソシアネート基がブロックされたブロック化イソシアネート基を有し、上記ブロック化剤が、ジメチルピラゾール、ピラゾール、ε-カプロラクタム、及び、活性メチレン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物(以下、特定ブロック化剤ともいう。)である。
本積層体が有するクリヤ塗膜は、黄変が抑制されている。この理由は必ずしも明らかではないが、以下のように考えられる。
すなわち、化成処理皮膜上にクリヤ塗膜を形成する際に、ブロック化イソシアネート硬化剤から遊離するブロック化剤の種類によっては、化成処理皮膜に含まれる成分と反応して、黄色に発色する構造(例えば、アゾ構造)を有する化合物が生じる場合がある。特に、ブロック化剤がメチルエチルケトンオキシムである場合、クリヤ塗膜の黄変が顕著になることを見出した。
この問題に対して、特定ブロック化剤であれば、化成処理皮膜に含まれる成分と反応しないか、又は、反応する場合であっても黄色に発色する構造を有する化合物が生じないので、クリヤ塗膜の黄変が抑制されたと推測される。
【0011】
金属基材の材質としては、アルミニウム、鉄、銅、亜鉛、マグネシウム、コバルト、ニッケル、錫、チタン等の金属、及び、これらのいずれかの金属を含む合金(例えば、アルミニウム合金、ステンレス鋼、炭素鋼、真鍮)が挙げられる。中でも、アルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、炭素鋼が好ましく、アルミニウム、アルミニウム合金がより好ましい。
金属基材の形状の具体例としては、平板状、柱状、球状、棒状が挙げられる。
【0012】
化成処理皮膜は、金属基材の化成処理によって、金属基材の表面に形成される皮膜である。
化成処理の具体例としては、ジルコニウム処理、リン酸塩処理(例えば、リン酸亜鉛処理、リン酸鉄処理、リン酸マンガン処理)、クロメート処理(例えば、3価クロメート処理、6価クロメート処理)が挙げられる。
中でも、ジルコニウム処理、リン酸塩処理、3価クロメート処理が好ましい。すなわち、化成処理皮膜としては、ジルコニウム酸化物皮膜、リン酸塩皮膜、クロメート皮膜が好ましい。
化成処理皮膜の厚さは、0.01~50μmが好ましく、0.01~30μmがより好ましく、0.01~20μmが更に好ましい。
【0013】
クリヤ塗膜は、化成処理皮膜上に形成されており、化成処理皮膜の表面に形成されていることが好ましい。
【0014】
クリヤ塗膜は、含フッ素重合体aとブロック化イソシアネート硬化剤との架橋物Aを含む。
【0015】
含フッ素重合体aは、フッ素原子を有する重合体であり、フルオロオレフィンに基づく単位(以下、「単位X1」ともいう。)を有し、かつ、イソシアネート基と反応する反応性基を有する重合体であるのが好ましい。
【0016】
フルオロオレフィンは、水素原子の1個以上がフッ素原子で置換されたオレフィンである。フルオロオレフィンは、フッ素原子で置換されていない水素原子の1個以上が塩素原子で置換されていてもよい。フルオロオレフィンの炭素数としては、2~8が好ましく、2~6がより好ましく、2~4が更に好ましい。
フルオロオレフィンの具体例としては、CF=CF、CF=CFCl、CF=CHF、CH=CF、CF=CFCF、CF=CHCF、CFCH=CHF、CFCF=CH、式CH=CXf1(CFn1f1(式中、Xf1及びYf1は、独立に水素原子又はフッ素原子であり、n1は2~10の整数である。)で表される単量体が挙げられる。
フルオロオレフィンとしては、共重合性の点から、CF=CFCl、CFCH=CHF、CFCF=CHが好ましい。
フルオロオレフィンは、2種以上を併用してもよい。
【0017】
単位X1の含有量は、含フッ素重合体aが含む全単位に対して、クリヤ塗膜の耐候性の観点から、20~70モル%が好ましく、40~60モル%がより好ましい。
【0018】
反応性基の具体例としては、ヒドロキシ基、カルボキシ基、アミノ基が挙げられ、イソシアネート基との反応性に優れる点から、ヒドロキシ基及びカルボキシ基が好ましく、ヒドロキシ基がより好ましい。
反応性基の数は、1又は2以上であってもよい。上記反応性基は、2種以上を併用してもよい。
【0019】
含フッ素重合体aは、上記反応性基を有する単量体(以下、単量体X2ともいう。)に基づく単位(以下、単位X2ともいう。)を含むことが好ましい。
単量体X2は、式X11-Y11で表される単量体(以下、単量体X21ともいう。)、式X12-Y12で表される単量体(以下、単量体X22ともいう。)又はアリルアルコールが好ましい。
式中の記号は、以下の意味を示す。
11は、CH=CH-、CH(CH)=CH-又はCH=C(CH)-であり、CH=CH-又はCH(CH)=CH-が好ましい。
11は、カルボキシ基又はカルボキシ基を有する炭素数1~12の1価の飽和炭化水素基であり、カルボキシ基又は炭素数1~10のカルボキシアルキル基が好ましい。
12は、CH=CHO-又はCH=CHCHO-である。
12は、ヒドロキシ基を有する炭素数2~12の1価の飽和炭化水素基である。1価の飽和炭化水素基は、直鎖状であってもよく分岐鎖状であってもよい。また、1価の飽和炭化水素基は、環構造からなっていてもよく、環構造を含んでいてもよい。
1価の飽和炭化水素基は、炭素数2~6のアルキル基又は炭素数6~8のシクロアルキレン基を含むアルキル基が好ましい。
【0020】
単量体X21の具体例としては、CH=CHCOOH、CH(CH)=CHCOOH、CH=C(CH)COOH、式CH=CH(CHn2COOHで表される化合物(ただし、n2は1~10の整数を示す。)が挙げられる。
単量体X22の具体例としては、CH=CHO-CH-cycloC10-CHOH、CH=CHCHO-CH-cycloC10-CHOH、CH=CHOCHCHOH、CH=CHCHOCHCHOH、CH=CHOCHCHCHCHOH、CH=CHCHOCHCHCHCHOHが挙げられる。なお、「-cycloC10-」はシクロへキシレン基を表し、「-cycloC10-」の結合部位は、通常1,4-である。
単量体X2は、1種を単独使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
含フッ素重合体aが単位X2を含む場合、単位X2の反応性基が架橋点となって、含フッ素重合体間の架橋反応がブロック化イソシアネート硬化剤を介して進行し、架橋物Aが形成される。
【0022】
単位X2の含有量は、含フッ素重合体aが含む全単位に対して、1~40モル%が好ましく、5~25モル%がより好ましく、5~20モル%が更に好ましい。
【0023】
含フッ素重合体aは、クリヤ塗膜の加工性の点から、式X13-Z13で表される単量体(以下、「単量体X3」ともいう。)に基づく単位(以下、「単位X3」ともいう。)を含んでいてもよい。
13は、CH=CHC(O)O-、CH=C(CH)C(O)O-、CH=CHOC(O)-、CH=CHCHOC(O)-、CH=CHO-又はCH=CHCHO-であり、クリヤ塗膜の耐候性に優れる点から、CH=CHOC(O)-、CH=CHCHOC(O)-、CH=CHO-又はCH=CHCHO-が好ましい。
【0024】
13は炭素数1~24の1価の炭化水素基である。1価の炭化水素基は、直鎖状であってもよく分岐鎖状であってもよい。また、1価の炭化水素基は、環構造からなっていてもよく、環構造を含んでいてもよい。また、1価の炭化水素基は、1価の飽和炭化水素基であってもよく1価の不飽和炭化水素基であってもよい。
1価の炭化水素基は、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はアラルキル基が好ましく、炭素数2~12のアルキル基、炭素数6~10のシクロアルキル基、炭素数6~10のアリール基又は炭素数7~12のアラルキル基がより好ましい。
アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、tert-ブチル基、ヘキシル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基が挙げられる。
シクロアルキル基の具体例としては、シクロヘキシル基が挙げられる。
アラルキル基の具体例としては、ベンジル基が挙げられる。
アリール基の具体例としては、フェニル基、ナフチル基が挙げられる。
【0025】
単量体X3は、1種を単独使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
単量体X3の具体例としては、エチルビニルエーテル、tert-ブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、酢酸ビニル、ピバル酸ビニルエステル、ネオノナン酸ビニルエステル(HEXION社製、商品名「ベオバ9」)、ネオデカン酸ビニルエステル(HEXION社製、商品名「ベオバ10」)、安息香酸ビニルエステルtert-ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレートが挙げられる。
含フッ素重合体aが単位X3を含む場合、単位X3の含有量は、含フッ素重合体aが含む全単位に対して、1~70モル%が好ましく、10~50モル%がより好ましい。
【0026】
含フッ素重合体aは、含フッ素重合体が有する全単位に対して、単位X1と単位X2と単位X3とを、この順に20~70モル%、1~40モル%、0~70モル%含むのが好ましい。
含フッ素重合体aのMnは、クリヤ塗膜の耐候性の点から、2,000~40,000が好ましく、5,000~30,000がより好ましく、7,000~20,000が更に好ましい。
含フッ素重合体aが酸価を有する場合、含フッ素重合体aの酸価は、クリヤ塗膜の付着性の点から、1~150mgKOH/gが好ましく、3~100mgKOH/gがより好ましく、5~50mgKOH/gが更に好ましい。
含フッ素重合体aが水酸基価を有する含フッ素重合体である場合、含フッ素重合体aの水酸基価は、クリヤ塗膜の付着性の点から、1~200mgKOH/gが好ましく、20~150mgKOH/gがより好ましく、40~100mgKOH/gが更に好ましい。
含フッ素重合体aは、水酸基価及び酸価の少なくとも一方を有していることが好ましく、両方を有していてもよい。含フッ素重合体aが、水酸基価及び酸価の両方を有する場合、水酸基価及び酸価の合計は、1~200mgKOH/gが好ましく、40~100mgKOH/gがより好ましい。
【0027】
含フッ素重合体aのTgとしては、0~120℃が好ましく、10~100℃がより好ましく、20~80℃が更に好ましい。
含フッ素重合体aのMFTとしては、0~100℃が好ましく、10~40℃がより好ましい。
含フッ素重合体aのTg又はMFTが上記範囲内にあると、クリヤ塗膜の硬度が向上する。
【0028】
含フッ素重合体aは、公知の方法で製造される。例えば、含フッ素重合体aは、溶媒とラジカル重合開始剤の存在下、各単量体を共重合させて得られる。含フッ素重合体aの製造方法としては、溶液重合、乳化重合が挙げられる。含フッ素重合体aの製造時又は製造後には、必要に応じて、重合安定剤、重合禁止剤、界面活性剤等が使用されていてもよい。
【0029】
含フッ素重合体aとしては、市販品を用いてもよく、具体例としては、「ルミフロン」シリーズ(AGC社製)、「Fluon」シリーズ(AGC社製)、「Kynar」シリーズ(アルケマ社製)、「ゼッフル」シリーズ(ダイキン工業社製)、「Eterflon」シリーズ(エターナル社製)、「Zendura」シリーズ(Honeywell社製)が挙げられる。
含フッ素重合体aは、2種以上を併用してもよい。
【0030】
ブロック化イソシアネート硬化剤は、特定ブロック化剤によってイソシアネート基がブロックされたブロック化イソシアネート基を有する。
ブロック化イソシアネート硬化剤を加熱した場合、特定ブロック化剤がブロック化イソシアネート硬化剤から遊離して、イソシアネート基を有する硬化剤が生じる。これにより、硬化剤が有するイソシアネート基と、含フッ素重合体a(具体的には、上述の反応性基)とが反応して、架橋物Aが得られる。
【0031】
ブロック化イソシアネート硬化剤は、ブロック化イソシアネート基を1分子中に2個以上有することが好ましく、2~30個有することがより好ましい。
【0032】
ブロック化イソシアネート硬化剤は、ポリイソシアネート単量体又はポリイソシアネート誘導体が有する2以上のイソシアネート基が特定ブロック化剤によってブロックされた化合物であることが好ましい。
ポリイソシアネートとしては、ポリイソシアネート単量体、ポリイソシアネート誘導体が好ましい。
ポリイソシアネート単量体としては、脂環族ポリイソシアネート、脂肪族ポリイソシアネート、芳香族ポリイソシアネートが好ましい。ポリイソシアネート誘導体としては、ポリイソシアネート単量体の多量体又は変性体(アダクト体、アロファネート体、ビウレット体、イソシアヌレート体等)が好ましい。
【0033】
脂肪族ポリイソシアネートの具体例としては、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、2,2,4-トリメチル-1,6-ジイソシアナトヘキサン、リジンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート、リジントリイソシアネート、4-イソシアナトメチル-1,8-オクタメチレンジイソシアネート、ビス(2-イソシアナトエチル)2-イソシアナトグルタレートが挙げられる。
脂環族ポリイソシアネートの具体例としては、イソホロンジイソシアネート、1,3-ビス(イソシアナトメチル)-シクロヘキサン、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルネンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート等の脂環族ジイソシアネートが挙げられる。
芳香族ポリイソシアネートの具体例としては、キシリレンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネートが挙げられる。
【0034】
特定ブロック化剤は、ジメチルピラゾール、ピラゾール、ε-カプロラクタム、及び、活性メチレン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である。特定ブロック化剤は、2種以上を併用してもよい。
活性メチレン化合物の具体例としては、マロン酸ジメチル、マロン酸ジエチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチルが挙げられる。
【0035】
ブロック化イソシアネート硬化剤は、2種以上を併用してもよい。
【0036】
クリヤ塗膜中の架橋物Aの含有量は、クリヤ塗膜の全質量に対して、本積層体の耐候性がより優れる点から、50.0~99.9%が好ましく、60.0~99.9質量%がより好ましく、70.0~99.9質量%が更に好ましい。
【0037】
クリヤ塗膜は、紫外線吸収剤を含むことが好ましい。紫外線吸収剤は、紫外線から本積層体を保護して耐候性を向上させる成分である。
紫外線吸収剤の具体例としては、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、トリアジン系(特に、ヒドロキシフェニルトリアジン系)紫外線吸収剤及びベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が挙げられ、トリアジン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤が好ましい。
【0038】
クリヤ塗膜は、紫外線吸収剤を1種単独で含んでいてもよく、2種以上を含んでいてもよいが、耐候性により優れる点から、2種以上を含むのが好ましい。
【0039】
クリヤ塗膜が紫外線吸収剤を含む場合、紫外線吸収剤の含有量は、クリヤ塗膜の全質量に対して、1~20質量%が好ましく、2~15質量%がより好ましく、3~10質量%が更に好ましい。紫外線吸収剤の含有量が1質量%以上であれば、本積層体の耐候性がより優れる。紫外線吸収剤の含有量が20質量%以下であれば、クリヤ塗膜の黄変をより抑制できる。
【0040】
クリヤ塗膜は、更にシランカップリング剤の加水分解物、又は、その加水分解縮合物を含んでいてもよい。これにより、化成処理皮膜とクリヤ塗膜との密着性がより優れる。
【0041】
シランカップリング剤の加水分解物とは、シランカップリング剤中の加水分解性基が加水分解して得られる化合物を意図する。なお、上記加水分解物は、加水分解性基の全てが加水分解されているもの(完全加水分解物)であっても、加水分解性基の一部が加水分解されているもの(部分加水分解物)であってもよい。つまり、上記加水分解物は、完全加水分解物、部分加水分解物、または、これらの混合物であってもよい。
また、加水分解縮合物とは、上記加水分解物を縮合して得られる化合物を意図する。なお、上記加水分解縮合物としては、すべての加水分解性基が加水分解され、かつ、加水分解物がすべて縮合されているもの(完全加水分解縮合物)であっても、一部の加水分解性基が加水分解され、一部の加水分解物が縮合しているもの(部分加水分解縮合物)であってもよい。つまり、上記加水分解縮合物は、完全加水分解縮合物、部分加水分解縮合物、または、これらの混合物であってもよい。また、加水分解縮合物は、シランカップリング剤のうち2種以上の化合物の加水分解物が互いに縮合して得られた加水分解縮合物であってもよい。
クリヤ塗膜は、シランカップリング剤の加水分解物、及び、その加水分解縮合物の両方を含んでいてもよいし、一方のみを含んでいてもよい。
【0042】
シランカップリング剤の具体例としては、エポキシ基を有するシランカップリング剤、メルカプト基を有するシランカップリング剤、イミダゾール基を有するシランカップリング剤、及び、メタクリル基を有するシランカップリング剤が挙げられる。
【0043】
エポキシ基を有するシランカップリング剤の具体例としては、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
メルカプト基を有するシランカップリング剤の具体例としては、γ-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ-メルカプトプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。
イミダゾール基を有するシランカップリング剤の具体例としては、イミダゾールシラン、等が挙げられる。
メタクリル基を有するシランカップリング剤の具体例としては、γ-(メタクリロイルオキシプロピル)トリメトキシシラン、γ-(メタクリロイルオキシプロピルメチル)ジメトキシシラン等が挙げられる。
中でも、エポキシ基を有するシランカップリング剤、メルカプト基を有するシランカップリング剤、イミダゾール基を有するシランカップリング剤が好ましく、エポキシ基を有するシランカップリング剤がより好ましい。
【0044】
クリヤ塗膜がシランカップリング剤の加水分解物、又は、その加水分解縮合物を含む場合、シランカップリング剤の加水分解物、及び、その加水分解縮合物の含有量の合計は、クリヤ塗膜の全質量に対して、化成処理皮膜とクリヤ塗膜との密着性がより優れる点から、0.1~10質量%が好ましく、0.5~5質量%がより好ましく、1~3質量%が更に好ましい。
【0045】
クリヤ塗膜は、更に着色剤を含んでいてもよい。これにより、意匠性により優れた積層体が得られる。
着色剤の具体例としては、染料、有機顔料、無機顔料、金属又はマイカ等を使用した光輝顔料が挙げられる。
クリヤ塗膜が着色剤を含む場合、着色剤の含有量は、クリヤ塗膜の全質量に対して、0.001~60質量%が好ましく、0.01~40質量%がより好ましく、0.1~30質量%が更に好ましい。着色剤の含有量が10質量%以上であれば、本積層体の意匠性がより優れる。着色剤の含有量が5質量%以下であれば、クリヤ塗膜の透明性がより優れ、金属基材の質感を維持できる。
【0046】
クリヤ塗膜は、上記以外の成分を含んでいてもよい。該成分としては、添加剤が挙げられる。
添加剤としては、硬化触媒、光安定剤、つや消し剤、レベリング剤、表面調整剤、脱ガス剤、熱安定剤、増粘剤、分散剤、界面活性剤、帯電防止剤、防錆剤、防汚剤、低汚染化処理剤、可塑剤、接着剤等が挙げられる。
クリヤ塗膜が添加剤を含む場合、添加剤の含有量は、クリヤ塗膜の全質量に対して15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、0.1~5質量%が更に好ましい。
【0047】
クリヤ塗膜の厚さは、0.5~200μmが好ましく、1~100μmがより好ましく、2~80μmであるのが更に好ましい。
クリヤ塗膜の全光線透過率は、クリヤ塗膜の透明性が優れる点から、70%以上が好ましく、80%以上がより好ましく、90%以上が更に好ましい。
【0048】
クリヤ塗膜は、含フッ素重合体a、及び、ブロック化イソシアネート硬化剤を含む塗料(以下、本塗料ともいう。)から形成されるのが好ましい。本塗料における含フッ素重合体a、及び、ブロック化イソシアネート硬化剤については、上述の通りである。
【0049】
含フッ素重合体aの含有量は、本塗料の固形分質量に対して、1~99質量%が好ましく、20~95質量%がより好ましく、40~90質量%が更に好ましい。
ブロック化イソシアネート硬化剤の含有量は、本塗料の固形分質量に対して、1~60質量%が好ましく、5~40質量%がより好ましく、10~30質量%が更に好ましい。
【0050】
本塗料は、上述した紫外線吸収剤、シランカップリング剤、着色剤、添加剤等を含んでいてもよい。
本塗料が紫外線吸収剤を含む場合、紫外線吸収剤の含有量は、本塗料の固形分質量に対して、1~20質量%が好ましく、2~15質量%がより好ましく、3~10質量%が更に好ましい。
本塗料がシランカップリング剤を含む場合、シランカップリング剤の含有量は、本塗料の固形分質量に対して、0.1~10質量%が好ましく、0.5~5質量%がより好ましく、1~3質量%が更に好ましい。
本塗料が着色剤を含む場合、着色剤の含有量は、本塗料の固形分質量に対して、0.001~60質量%が好ましく、0.01~40質量%がより好ましく、0.1~30質量%が更に好ましい。
本塗料が添加剤を含む場合、添加剤の含有量は、本塗料の固形分質量に対して、15質量%以下が好ましく、10質量%以下がより好ましく、0.1~5質量%が更に好ましい。
本塗料は、含フッ素重合体aが液状媒体に溶解又は分散している塗料であってもよく、液状媒体を実質的に含まない塗料(粉体塗料等)であってもよい。
液状媒体としては有機溶剤及び水が挙げられ、液状媒体に溶解又は分散している塗料としては、有機溶剤等に溶解している塗料(溶剤型塗料等)、及び、水に分散している塗料(水系塗料等)が挙げられる。本塗料は、緻密なクリヤ塗膜を形成でき耐候性に優れる点からは、溶剤型塗料であることが好ましい。
本塗料が液状媒体を実質的に含まないとは、液状媒体の含有量が、本塗料の全質量に対して、0.1質量%以下であることを意味する。
【0051】
有機溶剤としては、ケトン系溶剤、エステル系溶剤、炭化水素系溶剤、アルコール系溶剤、グリコールエーテル系溶剤、グリコールエステル系溶剤が挙げられる。
ケトン系溶剤の具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、ジアセトンアルコールが挙げられる。
エステル系溶剤の具体例としては、酢酸エチル、酢酸ブチルが挙げられる。
炭化水素系溶剤の具体例としては、ヘキサン、へプタン、シクロヘキサン、キシレン、トルエン、エクソンモービル社製ソルベッソ100、エクソンモービル社製ソルベッソ150等)、芳香族炭化水素溶剤(ミネラルスピリット等)が挙げられる。
アルコール系溶剤の具体例としては、ブチルアルコールが挙げられる。
グリコールエーテル系溶剤の具体例としては、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテルが挙げられる。
グリコールエステル系溶剤の具体例としては、1-メトキシプロピル-2-アセテートが挙げられる。
【0052】
本塗料が液状媒体を含む場合、液状媒体の含有量は、本塗料の全質量に対して、10~95質量%が好ましく、20~90質量%がより好ましい。
【0053】
本塗料は、例えば、含フッ素重合体a、ブロック化イソシアネート硬化剤及び任意成分を混合して製造できる。液状媒体は、含フッ素重合体aを製造する際の重合溶媒であってもよい。
【0054】
クリヤ塗膜の好適態様の一つとしては、クリヤ塗膜が複層構造である態様が挙げられる。中でも、クリヤ塗膜は、化成処理皮膜側から順に、含フッ素重合体a1の架橋物A1を含む中塗り層と、含フッ素重合体a2の架橋物A2を含む上塗り層と、を有することが好ましい。
【0055】
中塗り層に含まれる架橋物A1、及び、上塗り層に含まれる架橋物A2の少なくとも一方は、上述の架橋物Aである。
中塗り層に含まれる架橋物A1が架橋物Aである場合、中塗り層の形成時に化成処理皮膜に含まれる成分と反応するようなブロック化剤が生じないので、クリヤ塗膜の黄変がより抑制できる。したがって、中塗り層及び上塗り層のうち、少なくとも中塗り層に含まれる架橋物A1が架橋物Aであることが好ましい。
特に、中塗り層に含まれる架橋物A1及び上塗り層に含まれる架橋物A2の両方が架橋物Aであれば、クリヤ塗膜の黄変がより一層抑制できる。
ここで、架橋物A1が架橋物Aであるとは、架橋物A1が上記含フッ素重合体aと上記ブロック化イソシアネート硬化剤との架橋物であることを意味し、架橋物A2が架橋物Aであるとの意味についても同様である。
【0056】
架橋物A1及び架橋物A2の一方の架橋物が架橋物Aであり、他方の架橋物が架橋物Aではない場合、他方の架橋物の具体例としては、含フッ素重合体aと、特定ブロック化剤以外のブロック化剤(例えば、メチルエチルケトンオキシム)によってイソシアネート基がブロックされたブロック化イソシアネート基を有するブロック化イソシアネート硬化剤と、の架橋物が挙げられる。
【0057】
含フッ素重合体a1及び含フッ素重合体a2は、上述の含フッ素重合体aと同様である。
含フッ素重合体a1と含フッ素重合体a2とは、異なることが好ましい。これにより、クリヤ塗膜の付着性を確保できる。
ここで、含フッ素重合体a1と含フッ素重合体a2とが異なるとは、各含フッ素重合体が有する繰り返し単位の種類が互いに異なること、又は、各含フッ素重合体が有する繰り返し単位の種類が互いに同じであって繰り返し単位の含有割合が互いに異なること、を意味する。
【0058】
中塗り層中の架橋物A1の含有量は、上述のクリヤ塗膜で示した架橋物Aの質量割合と同様の範囲であることが好ましい。
上塗り層中の架橋物A2の含有量は、上述のクリヤ塗膜で示した架橋物Aの質量割合と同様の範囲であることが好ましい。
【0059】
上塗り層及び中塗り層の少なくとも一方は、紫外線吸収剤を含むことが好ましい。耐候性により優れる点から、上塗り層及び中塗り層の両方が紫外線吸収剤を含むことが好ましく、上塗り層及び中塗り層の両方が紫外線吸収剤を2種以上含むことがより好ましい。
中塗り層が紫外線吸収剤を含む場合、中塗り層中の紫外線吸収剤の質量割合は、上述のクリヤ塗膜で示した紫外線吸収剤の質量割合と同様の範囲であることが好ましい。
上塗り層が紫外線吸収剤を含む場合、上塗り層中の紫外線吸収剤の質量割合は、上述のクリヤ塗膜で示した紫外線吸収剤の質量割合と同様の範囲であることが好ましい。
【0060】
中塗り層及び上塗り層の少なくとも一方は、上述のシランカップリング剤の加水分解物、又は、その加水分解縮合物、着色剤、添加剤を含んでいてもよい。
中塗り層が、シランカップリング剤の加水分解物若しくはその加水分解縮合物、着色剤、又は、添加剤を含む場合、中塗り層中の各成分の質量割合は、上述のクリヤ塗膜で示した各成分の質量割合と同様の範囲であることが好ましい。
上塗り層が、シランカップリング剤の加水分解物若しくはその加水分解縮合物、着色剤、又は、添加剤を含む場合、上塗り層中の各成分の質量割合は、上述のクリヤ塗膜で示した各成分の質量割合と同様の範囲であることが好ましい。
【0061】
中塗り層のTgと、上塗り層のTgとの差の絶対値は、5~15℃が好ましく、6~14℃がより好ましい。Tgの差が上記範囲内にあれば、中塗り層及び上塗り層との密着性と、クリヤ塗膜の硬度と、のバランスがより優れる。
【0062】
本積層体の製造方法は、金属基材の表面に形成された化成処理皮膜上に、本塗料を塗布して塗装層を形成し、上記塗装層を160~250℃で加熱硬化してクリヤ塗膜を形成する。本塗料は、化成処理皮膜の表面に塗布されることが好ましい。
また、クリヤ塗膜が上述の上塗り層及び中塗り層を有する場合には、例えば、次の方法よって各層を形成できる。まず、化成処理皮膜上に中塗り層形成用組成物(例えば、上述の本塗料)を塗布して第1塗装層を形成し、第1塗装層を160~250℃で加熱硬化して中塗り層を形成する。その後、中塗り層上に上塗り層形成用組成物(例えば、上述の本塗料)を塗布して第2塗装層を形成し、第2塗装層を160~250℃で加熱硬化して上塗り層を形成する。
【0063】
本塗料が水系塗料又は溶剤型塗料である場合、塗布方法としては、スプレーコート法、スキージコート法、フローコート法、バーコート法、スピンコート法、ディップコート法、スクリーン印刷法、グラビア印刷法、ダイコート法、インクジェット法、カーテンコート法、はけやへらを用いる方法等が挙げられる。
本塗料が粉体塗料である場合、塗装方法としては、静電塗装法、静電吹付法、静電浸漬法、噴霧法、流動浸漬法、吹付法、スプレー法、溶射法、プラズマ溶射法等が挙げられる。
【0064】
塗装層の加熱温度は、160~250℃が好ましく、190~240℃がより好ましい。塗装層をこのような高温で加熱しても、クリヤ塗膜の黄変を抑制できる。この理由としては、特定ブロック化剤と表面処理の組み合わせによって、黄色に発色する構造を有する化合物の発生が抑制されたためと推測される。
塗装層の加熱時間は、通常30秒~24時間である。
【0065】
本積層体の用途としては、建築部材、車両等の外装部材が挙げられる。
本積層体が有するクリヤ塗膜は、黄変が抑制されている。そのため、ヘアライン加工等が施された金属基材を用いた場合であっても、金属基材の優れた意匠性が維持される。
【実施例
【0066】
以下、例を挙げて本発明を詳細に説明する。ただし本発明はこれらの例に限定されない。なお、後述する表中における各成分の配合量は、質量基準を示す。
【0067】
[フッ素系塗料の製造]
表1に記載の成分を分散・混合して塗料1~23を得た。表中に記載の成分の詳細は以下の通りである。
F1溶液:クロロトリフルオロエチレンに基づく単位を50モル%、エチルビニルエーテルに基づく単位を25モル%、シクロヘキシルビニルエーテルに基づく単位を15モル%、4-ヒドロキシブチルビニルエーテルに基づく単位を10モル%含む含フッ素重合体を60質量%含むキシレン溶液
F2溶液:クロロトリフルオロエチレンに基づく単位を50モル%、エチルビニルエーテルに基づく単位を40モル%、4-ヒドロキシブチルビニルエーテルに基づく単位を10モル%含む含フッ素重合体を50質量%含むキシレン溶液
硬化剤1:TRIXENE BI 7961(ジメチルピラゾール系のブロック化イソシアネート、LANXESS Urethanes UK社商品)
硬化剤2:デスモジュール BL 3575/1 MPA/SN(ピラゾール系のブロック化イソシアネート、住化コベストロウレタン社商品)
硬化剤3:デスモジュール PL 350(ピラゾール系のブロック化イソシアネート、住化コベストロウレタン社商品)
硬化剤4:デスモジュール BL 3272 MPA(ε-カプロラクタム系のブロック化イソシアネート、住化コベストロウレタン社商品)
硬化剤5:デスモジュール BL 3475 BA/SN(活性メチレン系のブロック化イソシアネート、住化コベストロウレタン社商品)
硬化剤6:デスモジュール BL 3370 MPA(活性メチレン系のブロック化イソシアネート、住化コベストロウレタン社商品)
硬化剤7:スミジュール BL-3175(MEKオキシム系のブロック化イソシアネート、住化コベストロウレタン社商品)
UVA1:TINUVIN-1130(ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、BASF社商品)
UVA2:TINUVIN-479(トリアジン系紫外線吸収剤、BASF社商品)
光安定剤:TINUVIN-123(BASF社商品)
硬化触媒:ジブチルチンジラウレートの100倍希釈キシレン溶液
【0068】
【表1】
【0069】
[試験片の作製]
各例において、表2~8に記載の化成処理がなされた各アルミニウム基材(サイズ:140mm×240mm)に、表2に記載した番号の塗料をバーコーターを用いて塗布し、230℃にて60秒間加熱し、硬化及び乾燥させクリヤ塗膜を形成して、各例の試験片を得た。中塗り層と上塗り層の二層塗膜を形成する場合、中塗り層と上塗り層のそれぞれについて、上記操作を行った。一層からなるクリヤ塗膜については、乾燥膜厚20μmとなるように塗布し、二層からなるクリヤ塗膜については、各層のそれぞれが乾燥膜厚20μmになるように塗布した。
以下の表において、例えば、実施例A4-1の試験片の作製では、中塗り層の形成に塗料12を用い、上塗り層の形成に塗料4を用いたという意味である。また、実施例X2-2の試験片の作製では、クリヤ塗膜の形成に塗料4を用いたという意味である。
各例の試験片の構成を表2~8に示す。なお、各例で使用した基材の詳細は以下の通りである。
Cr(III)-A:3価クロメート系の表面処理剤で処理されたアルミニウム基材A
Cr(III)-B:3価クロメート系の表面処理剤で処理されたアルミニウム基材B
Cr(III)-C:SurTec650(3価クロメート系の表面処理剤)で処理されたアルミニウム基材C
Cr(VI):アロジン1000(6価クロメート系の表面処理剤)で処理されたアルミニウム基材
Zr:パルコート3756(ジルコニウム塩系の表面処理剤)で処理されたアルミニウム基材
【0070】
【表2】
【0071】
【表3】
【0072】
【表4】
【0073】
【表5】
【0074】
【表6】
【0075】
【表7】
【0076】
【表8】
【0077】
[試験片の評価]
得られた各例の試験片を、後述の通り評価した。結果を表9~15に示す。
なお、Δb値は、同一の基材を用いた例のうち、硬化剤の種類及び硬化触媒の有無のみが異なりその他の配合が同一の塗料を用いた構成における、その構成の比較例を基準とした場合のb値の差を表す。
また、表16の各塗膜を上述の各実施例と同様の方法で作製して、各塗膜のTgを測定した。各塗膜のTgを表16に示す。なお、表16において、塗膜1とは、クリヤ塗膜の作製に塗料1を用いたという意味である。
【0078】
[試験片の評価]
(b値、Δb値)
分光測色計CM-5(コニカミノルタ社製)を用いて、JIS K 5600-4-4、JIS K 5600-4-5、JIS K 5600-4-6に準拠して、黄色度bを評価した。また、比較例との差異をΔbとして算出した。
【0079】
【表9】
【0080】
【表10】
【0081】
【表11】
【0082】
【表12】
【0083】
【表13】
【0084】
【表14】
【0085】
【表15】
【0086】
【表16】

【0087】
表9~15に示す通り、実施例のクリヤ塗膜は、基準とした比較例のクリヤ塗膜よりも、b値が0に近く、黄変が抑制されていることが確認できた。
【0088】
中塗り層の形成に塗料12を用い、上塗り層の形成に塗料1を用いた以外は、実施例A4-1と同様にして、積層体を作製した。
また、中塗り層の形成に塗料11を用い、上塗り層の形成に塗料1を用いた以外は、実施例A3-1と同様にして、積層体を作製した。
また、中塗り層の形成に塗料13を用い、上塗り層の形成に塗料3を用いた以外は、実施例A0-1と同様にして、積層体を作製した。
【0089】
中塗り層の形成に塗料12を用い、上塗り層の形成に塗料1を用いた以外は、実施例B4-1と同様にして、積層体を作製した。
また、中塗り層の形成に塗料11を用い、上塗り層の形成に塗料1を用いた以外は、実施例B3-1と同様にして、積層体を作製した。
また、中塗り層の形成に塗料13を用い、上塗り層の形成に塗料3を用いた以外は、実施例B0-1と同様にして、積層体を作製した。
【0090】
中塗り層の形成に塗料22を用い、上塗り層の形成に塗料17を用いた以外は、実施例C3-1と同様にして、積層体を作製した。
また、中塗り層の形成に塗料23を用い、上塗り層の形成に塗料18を用いた以外は、実施例C3-1と同様にして、積層体を作製した。
【0091】
中塗り層の形成に塗料12を用い、上塗り層の形成に塗料4を用いた以外は、実施例D4-2と同様にして、積層体を作製した。
また、中塗り層の形成に塗料12を用い、上塗り層の形成に塗料1を用いた以外は、実施例D4-2と同様にして、積層体を作製した。
また、中塗り層の形成に塗料11を用い、上塗り層の形成に塗料1を用いた以外は、実施例D31-1と同様にして、積層体を作製した。
また、中塗り層の形成に塗料13を用い、上塗り層の形成に塗料3を用いた以外は、実施例D0-1と同様にして、積層体を作製した。
【0092】
中塗り層の形成に塗料10を用い、上塗り層の形成に塗料4を用いた以外は、実施例E4-1と同様にして、積層体を作製した。
また、中塗り層の形成に塗料12を用い、上塗り層の形成に塗料1を用いた以外は、実施例E4-1と同様にして、積層体を作製した。
また、中塗り層の形成に塗料11を用い、上塗り層の形成に塗料4を用いた以外は、実施例E4-1と同様にして、積層体を作製した。
また、中塗り層の形成に塗料8を用い、上塗り層の形成に塗料4を用いた以外は、実施例E4-1と同様にして、積層体を作製した。
また、中塗り層の形成に塗料8を用い、上塗り層の形成に塗料1を用いた以外は、実施例E4-1と同様にして、積層体を作製した。
また、中塗り層の形成に塗料11を用い、上塗り層の形成に塗料1を用いた以外は、実施例E4-1と同様にして、積層体を作製した。
また、中塗り層の形成に塗料8を用い、上塗り層の形成に塗料2を用いた以外は、実施例E4-1と同様にして、積層体を作製した。
また、中塗り層の形成に塗料8を用い、上塗り層の形成に塗料5を用いた以外は、実施例E4-1と同様にして、積層体を作製した。
【0093】
塗膜の形成に塗料17を用いた以外は、実施例X2-2と同様にして、積層体を作製した。
【0094】
塗膜の形成に塗料4を用いた以外は、実施例Y2-3と同様にして、積層体を作製した。
また、塗膜の形成に塗料15を用いた以外は、実施例Y2-4と同様にして、積層体を作製した。