(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-21
(45)【発行日】2025-05-29
(54)【発明の名称】偏心揺動型の歯車装置
(51)【国際特許分類】
F16H 1/32 20060101AFI20250522BHJP
【FI】
F16H1/32 A
(21)【出願番号】P 2021116493
(22)【出願日】2021-07-14
【審査請求日】2023-10-11
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100116274
【氏名又は名称】富所 輝観夫
(72)【発明者】
【氏名】田村 光拡
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-44319(JP,A)
【文献】特開2016-191448(JP,A)
【文献】特開2017-141915(JP,A)
【文献】特開2004-301136(JP,A)
【文献】特開2014-122668(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
揺動歯車と、前記揺動歯車を揺動回転させる偏心体を有するクランク軸と、前記揺動歯車と前記偏心体の間に配置される偏心軸受と、前記クランク軸と軸方向に対向して配置されるフランジ部材と、を備えた偏心揺動型の歯車装置において、
前記クランク軸は、中空部を有し、
前記フランジ部材は、前記中空部に挿入される軸部材を有し、
前記クランク軸の内周と、前記軸部材の外周との間に内側軸受が配置され、
前記クランク軸に連結され、一体化されて前記偏心軸受の軸方向移動を規制する規制部材を有し、
前記規制部材は、前記内側軸受の軸方向移動も規制し、
前記内側軸受は、軸方向について、前記偏心軸受と重なる位置に配置され、
前記規制部材は、中空円環状の部材であり、
前記フランジ部材と、前記偏心軸受および前記内側軸受と、に軸方向に挟まれるスペーサ部材を有する偏心揺動型の歯車装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏心揺動型の歯車装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、クランク軸に伝達された回転を減速して出力する歯車装置が記載されている。この歯車装置は、揺動歯車を揺動回転させるクランク軸と、このクランク軸に設けられた中空部に挿入される軸部材を有するフランジ部材とを備える。クランク軸の内周と、軸部材の外周との間に内側軸受が配置され、クランク軸に設けられた偏心体と揺動歯車との間に偏心体軸受が配置される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の歯車装置は、フランジ部材、内側軸受、偏心体軸受などの構成部材の軸方向位置を所定範囲に制限するために、スペーサや止め輪など多数の位置決め部材を用いており、部品点数が多い。部品点数が多いと、部品の加工費用や組み立て費用が多く掛かりコスト面で不利である。
【0005】
本発明の目的は、このような課題に鑑みてなされたもので、部品点数を削減可能な偏心揺動型の歯車装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の歯車装置は、揺動歯車と、揺動歯車を揺動回転させる偏心体を有するクランク軸と、揺動歯車と偏心体の間に配置される偏心軸受と、クランク軸と軸方向に対向して配置されるフランジ部材と、を備えた偏心揺動型の歯車装置において、クランク軸は、中空部を有する。フランジ部材は、中空部に挿入される軸部材を有する。クランク軸の内周と、軸部材の外周との間に内側軸受が配置され、クランク軸に一体化されて偏心軸受の軸方向移動を規制する規制部材を有する。規制部材は、クランク軸に動力を伝達する動力伝達部材を連結する連結部を有する。
【0007】
本発明の別の態様もまた、歯車装置である。この装置は、揺動歯車と、揺動歯車を揺動回転させる偏心体を有するクランク軸と、揺動歯車と偏心体の間に配置される偏心軸受と、クランク軸と軸方向に対向して配置されるフランジ部材と、を備えた偏心揺動型の歯車装置において、クランク軸は、中空部を有する。フランジ部材は、中空部に挿入される軸部材を有する。クランク軸の内周と、軸部材の外周との間に内側軸受が配置され、クランク軸に一体化されて偏心軸受の軸方向移動を規制する規制部材を有する。規制部材は、内側軸受の軸方向移動も規制する。
【0008】
なお、以上の構成要素の任意の組み合わせや、本発明の構成要素や表現を方法、システムなどの間で相互に置換したものもまた、本発明の態様として有効である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、部品点数を削減可能な偏心揺動型の歯車装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態の偏心揺動型歯車装置の側面断面図である。
【
図2】第2実施形態の偏心揺動型歯車装置の側面断面図である。
【
図3】第3実施形態の偏心揺動型歯車装置の側面断面図である。
【0011】
以下、本発明を好適な実施形態をもとに各図面を参照しながら説明する。実施形態および変形例では、同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付するものとし、適宜重複した説明は省略する。また、各図面における部材の寸法は、理解を容易にするために適宜拡大、縮小して示される。また、各図面において実施形態を説明する上で重要ではない部材の一部は省略して表示する。
【0012】
また、共通点のある別々の構成要素には、要素名の先頭に「第1、第2」などの序数を付して区別し、総称するときはこれらを省略する。また、第1、第2などの序数を含む用語は多様な構成要素を説明するために用いられるが、この用語は一つの構成要素を他の構成要素から区別する目的でのみ用いられ、この用語によって構成要素が限定されるものではない。
【0013】
[第1実施形態]
以下、
図1を参照して、本発明の第1実施形態の偏心揺動型の歯車装置100(以下、単に「歯車装置100」と表記する)の構成を説明する。
図1は、歯車装置100を概略的に示す側面断面図である。歯車装置100は、クランク軸11と、偏心体12、13と、外歯歯車14、15と、内歯歯車16と、偏心軸受34、35と、キャリヤ18と、規制部材41、42と、動力伝達部材82と、連結部44と、内側規制部材46と、ケーシング21、22、23と、カバー体20と、主軸受24とを備える。
【0014】
以下、内歯歯車16の中心軸線Laに沿った方向を「軸方向」といい、その中心軸線Laを中心とする円の円周方向、半径方向をそれぞれ「周方向」、「径方向」とする。また、以下、便宜的に、軸方向の一方側(図中右側)を入力側といい、他方側(図中左側)を反入力側という。このような方向の表記は、歯車装置100の使用姿勢を制限するものではなく、歯車装置100は、任意の姿勢で使用されうる。
【0015】
外歯歯車14、15および内歯歯車16は、その一方が揺動歯車84、他方が非揺動歯車85として機能する。この例では、外歯歯車14、15が揺動歯車84として機能し、内歯歯車16が非揺動歯車85として機能する。
【0016】
歯車装置100は、クランク軸11が内歯歯車16の中心軸線Laと同軸に配置されるセンタークランクタイプの遊星歯車装置である。歯車装置100は、クランク軸11と一体に偏心体12、13が偏心回転すると、この偏心回転により偏心軸受34、35を介して外歯歯車14、15が揺動する。歯車装置100は、外歯歯車14、15が揺動することによって得られる内歯歯車16との相対回転を、内ピン19を介してキャリヤ18から取り出す。
【0017】
ケーシング21、22、23は、外歯歯車14、15等の歯車装置100の構成部品を収容する外殻として機能する。本実施形態のケーシング21、22、23は、複数のケーシング部材を組み合わせて構成される。この例では、ケーシング21、22、23は、第1ケーシング部材21と、第1ケーシング部材21の反入力側に配置される第2ケーシング部材22と、第2ケーシング部材22の反入力側に配置される第3ケーシング部材23とで構成される。この例では、第1ケーシング部材21と、第2ケーシング部材22と、第3ケーシング部材23とは、ボルトB4によって連結されている。
【0018】
クランク軸11は、中空部112を有し、キャリヤ18は、中空部112に挿入される軸部材38を有する。クランク軸11の内周114と、軸部材38の外周383との間に内側軸受30が配置される。歯車装置100は、クランク軸11に一体化されて偏心軸受34、35の軸方向移動を規制する規制部材41、42を有する。規制部材41、42は、クランク軸11に動力を伝達する動力伝達部材82を連結する連結部44を有する。規制部材41、42は、偏心軸受34、35の入力側に設けられる入力側規制部材41と、偏心軸受34、35の反入力側に設けられる反入力側規制部材42とを含む。
【0019】
クランク軸11は、軸本体111に形成された中空部112を有する円環状の部材であり、中心軸線Laと同軸線上に設けられる。クランク軸11は、モータ96から伝達される回転動力によって回転可能である。本実施形態では、クランク軸11の軸本体111の外周には、位相が180°ずれた2つの偏心体12、13が設けられる。偏心体12、13は、外歯歯車14、15を揺動させる。2つの偏心体12、13のうち第1偏心体12は、第2偏心体13の入力側に配置される。
【0020】
クランク軸11の外周には、外周面から半径方向に突出する鍔状の外周突出部116を有する。クランク軸11は、入力側の端面に設けられた複数(例えば、3個)のタップ孔118を有する。複数のタップ孔118は、中心軸線Laからオフセットした位置に周方向に所定の間隔で配置される。クランク軸11は、反入力側の端面に設けられた複数(例えば、3個)のタップ孔119を有する。複数のタップ孔119は、中心からオフセットした位置に周方向に所定の間隔で配置される。
【0021】
偏心体12、13の軸心は、内歯歯車16の中心軸線Laに対して偏心しており、偏心体12、13が中心軸線La周りに回転することにより外歯歯車14、15を揺動させる。外歯歯車14、15は、複数の偏心体12、13のそれぞれに対応して個別に設けられ、偏心軸受34、35を介して対応する偏心体12、13に回転自在に支持される。偏心軸受34、35のうち第1偏心軸受34は、第2偏心軸受35の入力側に配置される。
【0022】
図1の例では、動力伝達部材82は入力ギア28である。入力ギア28には、モータ96のモータ軸に連結されたピニオン98が噛み合う。モータ96の駆動により、ピニオン98が回転すると、ピニオン98と入力ギア28とで変速された回転がクランク軸11に入力される。入力ギア28は、クランク軸11に動力を伝達する動力伝達部材として機能する。
【0023】
外歯歯車14、15は、外歯歯車14、15の中心において貫通する中心孔142、152と、中心軸線Laからオフセットした位置において貫通する複数(例えば6つ)の内ピン孔144、154とを有する。内ピン孔144、154には内ピン19が挿通される。外歯歯車14、15の外周に形成された歯が、内歯歯車16の歯と噛み合いながら回転することで、外歯歯車14、15が揺動する。外歯歯車14、15のうち第1外歯歯車14は、第2外歯歯車15の入力側に配置される。第1外歯歯車14と第2外歯歯車15の間には、スペーサ17が配置される。
【0024】
カバー体20は、第1外歯歯車14の入力側の側部に配置される薄板状の部材で、第1外歯歯車14の入力側への軸方向移動を規制する。カバー体20は、第3ケーシング部材23の入力側にボルトB1によって固定される。第2外歯歯車15は、キャリヤ18の入力側の側部に配置され、キャリヤ18によって、反入力側への軸方向移動が規制される。
【0025】
内ピン19は、内ピン孔144、154を貫通するように、キャリヤ18の入力側から軸方向に延在する。内ピン19の入力側の端部は、カバー体20の近傍まで延びている。
【0026】
内歯歯車16は、ケーシング21、22、23と一体化される。この例の内歯歯車16は、第1ケーシング部材21によって構成される。
【0027】
本実施形態のキャリヤ18は、第2外歯歯車15の反入力側に配置される。キャリヤ18は、外歯歯車14、15の自転成分と同期して回転し、その自転成分を被駆動装置(不図示)に出力する。キャリヤ18の代わりに内歯歯車16が自転し、その自転成分をケーシング21、22、23を介して被駆動装置に出力する構成であってもよい。
【0028】
上述したように、キャリヤ18は、クランク軸11と軸方向に対向して配置されたフランジとして機能する。キャリヤ18は、円板状のキャリヤ本体182と、キャリヤ本体182から入力側に突出する複数の内ピン19と、キャリヤ本体182から入力側に突出する周状突出部184とを有する。キャリヤ本体182および周状突出部184は、中心軸線Laと同軸線上に設けられる貫通孔であるキャリヤ孔186を有する。
【0029】
軸部材38は、外周383を有する円筒状の軸本体382と、軸本体382の入力側から軸方向に延出する延出部384とを有する。延出部384は、軸本体382よりも小径に形成され、ワッシャW1が嵌合するための周溝G1を有する。この例では、軸部材38は、キャリヤ18とは別の部材で構成され、例えば、キャリヤ孔186に圧入され、キャリヤ18に一体化されている。なお、軸部材38は、キャリヤ18と単一の部材で一体的に形成されてもよい。
【0030】
複数の内ピン19は、中心軸線Laからオフセットした位置に周方向に所定の間隔で設けられる円筒状の部分である。内ピン19は、外歯歯車14、15の内ピン孔144、154に挿入される。
【0031】
主軸受24は、キャリヤ18をケーシング21、22、23に対して回転自在に支持する。この例の主軸受24は、外歯歯車14、15の反入力側において、キャリヤ18の外周と、第2ケーシング部材22、第3ケーシング部材23の間に配置される。主軸受24の構成に制限はないが、この例の主軸受24は、クロスローラベアリングである。
【0032】
入力側規制部材41は、中心軸線Laと同軸線上に位置する中空部411を有する中空環状部材である。入力側規制部材41は、中空円盤状の円盤部416と、円盤部416の内周側から軸方向で反入力側に突出する周状突出部418とを有する。円盤部416は、クランク軸11の入力側に軸方向に対向する。周状突出部418は、周状に設けられており、クランク軸11の内周114に嵌合する。周状突出部418は、内側軸受30の入力側の側面に対向する。この構成により、入力側規制部材41は、内側軸受30の入力側への軸方向移動も規制する。
【0033】
入力側規制部材41は、クランク軸11に動力を伝達する動力伝達部材82である入力ギア28を連結する連結部44を有する。本実施形態では、連結部44は、入力ギア28をボルトで固定するためのタップ孔412である。この例では、タップ孔412は、入力側規制部材41の円盤部416に複数(例えば、3個)形成される。複数のタップ孔412は、中心軸線Laからオフセットした位置に周方向に所定の間隔で配置される。この例のタップ孔412は、軸方向に貫通している。
【0034】
入力ギア28は、タップ孔412に対応する位置に設けられた貫通孔282を有する。入力ギア28は、貫通孔282に入力側から挿入されたボルトB5が、タップ孔412に螺合されることにより、入力側規制部材41に連結される。
【0035】
入力側規制部材41の円盤部416には、中心軸線Laからオフセットした位置に周方向に所定の間隔で配置された複数(例えば、3個)の貫通孔414が穿設される。貫通孔414は、クランク軸11のタップ孔118に対応する位置に形成される。入力側規制部材41は、入力側から貫通孔414に挿入されたボルトB2が、タップ孔118に螺合されることにより、クランク軸11に連結され、一体化される。
【0036】
反入力側規制部材42は、中心軸線Laと同軸線上に設けられる中空環状部材である。反入力側規制部材42は、中空円盤状の円盤部422と、円盤部422の内周側から軸方向で入力側に突出する中空の周状突出部424とを有する。円盤部422は、クランク軸11の反入力側に軸方向に対向する。周状突出部424は、クランク軸11の内周114に嵌合する。
【0037】
反入力側規制部材42の円盤部422には、中心軸線Laからオフセットした位置に周方向に所定の間隔で配置された複数(例えば、3個)の貫通孔426が穿設される。貫通孔426は、クランク軸11のタップ孔119に対応する位置に形成される。反入力側規制部材42は、反入力側から貫通孔426に挿入されたボルトB3が、タップ孔119に螺合されることにより、クランク軸11に連結され、一体化される。
【0038】
偏心軸受34、35は、クランク軸11の偏心体12、13の外周に、周方向に所定の間隔で配置された複数の転動体342、352を有する。偏心軸受34、35は、リテーナを有してもよいし、リテーナを有しなくてもよい。偏心軸受34、35は、内輪および/または外輪を有してもよいが、この例では、専用の内輪および外輪を有しない。偏心体12、13の外周が内輪側転動面として機能し、外歯歯車14、15の内周が外輪側転動面として機能する。転動体342は、入力側規制部材41と外周突出部116とに軸方向に挟まれる。転動体342は、入力側規制部材41によって入力側への軸方向移動が規制され、外周突出部116によって反入力側への軸方向移動が規制される。転動体352は、反入力側規制部材42と外周突出部116とに軸方向に挟まれる。転動体352は、反入力側規制部材42によって反入力側への軸方向移動が規制され、外周突出部116によって入力側への軸方向移動が規制される。
【0039】
上述したように、内側軸受30は、クランク軸11の内周114と、軸部材38の外周383との間に配置される。内側軸受30は、軸部材38の外周に、周方向に所定の間隔で配置された複数の転動体302を有する。転動体302は、円筒状のころである。転動体302は、入力側規制部材41の周状突出部418と、反入力側規制部材42の周状突出部424とに軸方向に挟まれる。転動体302は、周状突出部418によって入力側への軸方向移動が規制され、周状突出部424によって反入力側への軸方向移動が規制される。
【0040】
内側軸受30は、軸方向に複数(例えば、2個)設けられてもよいが、この例では、単一の軸受である。内側軸受30は、内輪および/または外輪を有してもよいが、この例では、専用の内輪および外輪を有しない。軸部材38の外周383が内輪側転動面として機能し、クランク軸11の内周114が外輪側転動面として機能する。内側軸受30は、リテーナを有してもよいし、有しなくてもよい。
【0041】
内側規制部材46は、中心軸線Laと同軸線上に設けられる中空環状部材である。内側規制部材46は、ワッシャW1により軸部材38に固定される。この例では、内側規制部材46は、軸部材38の延出部384の外周に嵌合する。内側規制部材46は、その入力側側部において、軸部材38の周溝G1に嵌合されたワッシャW1により、入力側への軸方向移動が規制される。内側規制部材46は、入力側規制部材41の中空部411に収容され、中空部411内において内側軸受30と軸方向に対向する。この構成により、内側軸受30の入力側への軸方向移動が規制される。
【0042】
以上のように構成された偏心揺動型の歯車装置100の動作を説明する。モータ96からクランク軸11に回転動力が伝達されると、クランク軸11が回転中心線La周りに回転し、偏心体12、13によって外歯歯車14、15が揺動する。外歯歯車14、15が揺動すると、外歯歯車14、15と内歯歯車16の噛合位置が順次に周方向にずれる。この結果、クランク軸11が一回転する毎に、外歯歯車14、15と内歯歯車16の歯数差(例えば、1)に相当する分、外歯歯車14、15がキャリヤ18とともに自転する。クランク軸11の回転は、外歯歯車14、15と内歯歯車16の歯数差に応じた減速比で減速されたうえでキャリヤ18を介して被駆動装置に出力される。
【0043】
以上のように構成された偏心揺動型の歯車装置100の特徴を説明する。歯車装置100は、外歯歯車14(揺動歯車84)と、外歯歯車14を揺動回転させる偏心体12、13を有するクランク軸11と、外歯歯車14と偏心体12、13の間に配置される偏心軸受34、35と、クランク軸11と軸方向に対向して配置されるキャリヤ18(フランジ部材86)と、を備えた偏心揺動型の歯車装置である。クランク軸11は、中空部112を有し、キャリヤ18は、中空部112に挿入される軸部材38を有し、クランク軸11の内周114と、軸部材38の外周383との間に内側軸受30が配置され、クランク軸11に一体化されて偏心軸受34、35の軸方向移動を規制する規制部材41、42を有し、規制部材41、42は、クランク軸11に動力を伝達する入力ギア28(動力伝達部材82)を連結する連結部44を有する。
【0044】
この構成によればクランク軸11の内周114と、軸部材38の外周383との間に内側軸受30が配置され、内側軸受30の移動規制をする規制部材41、42が偏心軸受34、35の移動規制を兼ねることにより、歯車装置100を軸方向にコンパクト化することが可能である。部材を兼用するので部品点数を削減可能であり、コスト面でも有利である。
【0045】
以下、本発明の第2、第3実施形態を説明する。第2、第3実施形態の図面および説明では、第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。第1実施形態と重複する説明を適宜省略し、第1実施形態と相違する構成について重点的に説明する。したがって、第2、第3実施形態における第1実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、第1実施形態の説明が適用される。
【0046】
[第2実施形態]
図2を参照して、本発明の第2実施形態の偏心揺動型の歯車装置100の構成を説明する。
図2は、本実施形態に係る歯車装置100を概略的に示す側面断面図である。この図は、理解を容易にするため、モータ96を分離した状態の歯車装置100を示している。
【0047】
本実施形態では、動力伝達部材82がモータ軸97であり、連結部44が、スプライン419である点で第1実施形態と相違し、他の構成は共通である。したがって、主にスプライン419を説明する。スプライン419(内歯)は、入力側規制部材41の中空部411の内周に形成され、モータ軸97に形成されたスプライン93(外歯)に連結される。モータ軸97が中空部411に嵌入されることにより、スプライン93がスプライン419と噛み合い、入力側規制部材41はモータ軸97に連結される。
【0048】
本実施形態の歯車装置100は、第1実施形態と同様に動作し、第1実施形態と同様の作用と効果を奏する。
【0049】
[第3実施形態]
図3を参照して、本発明の第3実施形態の偏心揺動型の歯車装置100の構成を説明する。
図3は、本実施形態に係る歯車装置100を概略的に示す側面断面図である。この図では、モータ96および動力伝達部材82の記載を省略している。本実施形態は、第1実施形態に対して、クランク軸11に入力側突出部113が設けられ、入力側規制部材41の構成が異なり、内側軸受30が内輪304を有し、スペーサ部材48を備える点で相違し、他の構成は共通である。したがって、主に入力側突出部113、入力側規制部材41およびスペーサ部材48を説明する。内輪304は、軸部材38の外周383を環囲する円環状の部材で、その外周に転動体302が転動するための内輪側転動面が設けられる。
【0050】
入力側突出部113は、クランク軸11の軸本体111から入力側に突出する中空円環状の部分で、軸本体111と単一の部材として形成される。入力側突出部113は、軸本体111よりも小径に形成され、止め輪W2が嵌合するための周状溝G2を有する。本実施形態では、連結部44は、入力側突出部113に形成された複数(例えば、3個)のタップ孔117である。複数のタップ孔117は、中心軸線Laからオフセットした位置に周方向に所定の間隔で穿設される。
【0051】
第1実施形態の入力側規制部材は、内側軸受30についても軸方向移動を規制していたが、本実施形態の入力側規制部材41は、内側軸受30の移動は規制しない。この例の入力側規制部材41は、第1偏心軸受34の入力側に軸方向に対向し、第1偏心軸受34の入力側への軸方向移動を規制する。
図3の入力側規制部材41は、中心軸線Laと同軸線上に設けられる中空円環状の部材であり、入力側突出部113の外周に嵌合する。入力側規制部材41は、入力側突出部113の外周に設けられた周状溝G2に嵌め込まれた止め輪W2により入力側突出部113に固定される。
【0052】
本実施形態のスペーサ部材48は、中心軸線Laと同軸線上に設けられる中空円環状の部材であり、キャリヤ18の周状突出部184の外周に嵌合する。スペーサ部材48は、キャリヤ18と、クランク軸11および内側軸受30とに軸方向に挟まれる。特に、スペーサ部材48は、キャリヤ本体182と軸本体111との間に配置され、キャリヤ18およびクランク軸11に対して摺動可能に設けられる。この構成により、キャリヤ18は、スペーサ部材48を介して、内側軸受30の転動体302、クランク軸11および第2偏心軸受35の転動体352の反入力側への軸方向移動を規制する規制部材として機能する。
【0053】
本実施形態では、内側規制部材46は、軸部材38の軸本体382の外周に嵌合し、入力側突出部113の入力側の側部に当接する。この構成により、内側規制部材46は、クランク軸11の入力側への軸方向移動を規制する。
【0054】
本実施形態の歯車装置100は、第1実施形態と同様に動作し、第1実施形態と同様の作用と効果を奏する。
【0055】
以上、本発明の実施形態の例について詳細に説明した。前述した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたっての具体例を示したものにすぎない。実施形態の内容は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、請求の範囲に規定された発明の思想を逸脱しない範囲において、構成要素の変更、追加、削除等の多くの設計変更が可能である。前述の実施形態では、このような設計変更が可能な内容に関して、「実施形態の」「実施形態では」等との表記を付して説明しているが、そのような表記のない内容に設計変更が許容されないわけではない。また、図面の断面に付したハッチングは、ハッチングを付した対象の材質を限定するものではない。
【0056】
以下、変形例を説明する。変形例の図面および説明では、実施形態と同一または同等の構成要素、部材には、同一の符号を付する。実施形態と重複する説明を適宜省略し、実施形態と相違する構成について重点的に説明する。
【0057】
実施形態の説明では、歯車装置100が、いわゆるセンタークランクタイプの偏心揺動型歯車装置である例を示したが、本発明はこれに限定されない。例えば、歯車装置は、中心から径方向にオフセットした位置に複数の偏心体軸が配置されるいわゆる振り分けタイプ等であってもよい。
【0058】
実施形態の説明では、偏心体12、13の数が2である例を示したが、偏心体の数は1または3以上であってもよい。
【0059】
実施形態の説明では、揺動歯車84が外歯歯車14である例を示したが、揺動歯車84は、内歯歯車であってもよい。
【0060】
実施形態の説明では、動力伝達部材82が入力ギア28である例と、モータ軸97である例とを示したが、これに限定されない。動力伝達部材として、プーリ等の公知の様々な動力伝達手段を採用できる。
【0061】
実施形態の説明では、連結部44がタップ孔412である例と、スプラインである例とを示したが、これに限定されない。連結部として、公知の様々な連結手段を採用でき、例えばキー連結部でもよい。
【0062】
実施形態の説明では、フランジ部材86がキャリヤ18である例を示したが、これに限定されず、フランジ部材は、キャリヤ以外の機能を有する部材であってもよい。
【0063】
上述の各変形例は実施形態と同様の作用と効果を奏する。
【0064】
上述した実施形態の構成要素と変形例の任意の組み合わせもまた本発明の実施形態として有用である。組み合わせによって生じる新たな実施形態は、組み合わされる実施形態および変形例それぞれの効果をあわせもつ。
【符号の説明】
【0065】
100 歯車装置、 11 クランク軸、 12、13 偏心体、 14、15 外歯歯車、 16 内歯歯車、 18 キャリヤ、 30 内側軸受、 34、35 偏心軸受、 38 軸部材、 41 入力側規制部材、 42 反入力側規制部材、 44 連結部、 46 内側規制部材、 82 動力伝達部材、 84 揺動歯車、 86 フランジ部材、 112 中空部、 114 内周、 116 外周突出部、 118 タップ孔、 383 外周。