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特許7685422操舵制御装置、車両用電源システムおよび車両
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-21
(45)【発行日】2025-05-29
(54)【発明の名称】操舵制御装置、車両用電源システムおよび車両
(51)【国際特許分類】
   B62D 6/00 20060101AFI20250522BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20250522BHJP
   B60K 28/10 20060101ALI20250522BHJP
   B62D 113/00 20060101ALN20250522BHJP
   B62D 101/00 20060101ALN20250522BHJP
   B62D 119/00 20060101ALN20250522BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D5/04
B60K28/10
B62D113:00
B62D101:00
B62D119:00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2021174722
(22)【出願日】2021-10-26
(65)【公開番号】P2023064437
(43)【公開日】2023-05-11
【審査請求日】2024-09-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼台 尭資
(72)【発明者】
【氏名】藤田 祐志
(72)【発明者】
【氏名】長嶋 雄吾
(72)【発明者】
【氏名】梶澤 祐太
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 一馬
(72)【発明者】
【氏名】山下 洋介
(72)【発明者】
【氏名】高山 晋太郎
【審査官】森本 康正
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-112250(JP,A)
【文献】実開平01-055128(JP,U)
【文献】特開2015-204655(JP,A)
【文献】特開2020-142733(JP,A)
【文献】特開2018-196203(JP,A)
【文献】特開2009-154802(JP,A)
【文献】特開2013-075539(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04- 6/10
B60K 28/10
B62D 101/00-137/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載の主電源または前記主電源をバックアップする補助電源からの電力を使用して車両の操舵機構に付与されるトルクを発生するモータの駆動を制御する制御部を有し、
前記制御部は、前記車両の起動操作を契機として起動して前記モータの制御を実行可能な状態に遷移したとき、前記補助電源が前記主電源をバックアップ可能となる程度に充電されるのを待って前記車両の走行を許可する操舵制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記モータの制御を実行可能な状態に遷移したとき、前記補助電源の充電を許可する請求項1に記載の操舵制御装置。
【請求項3】
前記主電源は車載の発電機が発電する電力によって充電される一方、前記補助電源は前記主電源の電力により充電されるものであって、
前記制御部は、前記車両の起動操作を契機として起動した後、前記発電機が発電開始されることを契機として、前記モータの制御を実行可能な状態に遷移する請求項1または請求項2に記載の操舵制御装置。
【請求項4】
前記車両に搭載される主電源と、
前記主電源をバックアップする補助電源と、
請求項1~請求項3のうちいずれか一項に記載の操舵制御装置と、を有する電源システム。
【請求項5】
前記補助電源の充電状態を監視するとともに、前記補助電源の充電状態が前記主電源をバックアップ可能な状態であるかどうかを判定する監視回路を有し、
前記制御部は、前記監視回路の判定結果に基づき、前記補助電源が前記主電源をバックアップ可能となる程度に充電されているかどうかを認識する請求項4に記載の電源システム。
【請求項6】
前記車両を走行させる際に操作される操作機器と、
前記操作機器の操作に基づき前記車両を制御する車両制御装置と、
請求項4または請求項5の電源システムと、を含み、
前記車両制御装置は、前記操舵制御装置によって前記車両の走行が許可されていないとき、前記操作機器の操作をロックまたは無効とする車両。
【請求項7】
前記操作機器は、前記車両に搭載される変速機のシフトレンジを切り替える際に操作されるシフトレバーである請求項6に記載の車両。
【請求項8】
インジケータを有し、
前記車両制御装置は、前記操舵制御装置によって前記車両の走行が許可されていないとき、前記インジケータを点灯させる請求項6または請求項7に記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、操舵制御装置、車両用電源システムおよび車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステアリングホイールと転舵輪との間の動力伝達が分離されたステアバイワイヤ式の操舵装置が知られている。たとえば、特許文献1の操舵装置は、操舵反力アクチュエータを含む操舵部と、転舵アクチュエータを含む転舵部と、操舵部と転舵部との間を連結または分離する電磁クラッチとを備えている。
【0003】
操舵反力アクチュエータおよび転舵アクチュエータには、車載の電源装置から電力が供給される。電源装置は、バッテリおよび発電機を有している。バッテリの状態が正常でない場合、バッテリが十分に充電されず、発電機においては急速な電力供給が難しい。このため、たとえば転舵アクチュエータに必要とされる電力が供給されないおそれがある。
【0004】
そこで操舵装置は、バッテリの状態が正常でないとき、電磁クラッチを接続する。操舵部と転舵部との間の動力伝達が可能となるため、転舵アクチュエータの駆動力とステアリングホイールの操作力とによって転舵輪を転舵可能となる。これにより、電力消費を抑えつつ、転舵アクチュエータの駆動力によってステアリングホイールの操作が補助される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2018-103731号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
操舵装置の動作に対する信頼性を確保する観点から、バッテリの状態に応じて、操舵反力アクチュエータおよび転舵アクチュエータへの給電をバックアップする補助電源が設けられることがある。車両が走行する際には、補助電源によるバックアップが可能な状態であることが求められる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決し得る操舵制御装置は、車載の主電源または前記主電源をバックアップする補助電源からの電力を使用して車両の操舵機構に付与されるトルクを発生するモータの駆動を制御する制御部を有している。前記制御部は、前記車両の起動操作を契機として起動して前記モータの制御を実行可能な状態に遷移したとき、前記補助電源が前記主電源をバックアップ可能となる程度に充電されるのを待って前記車両の走行を許可する。
【0008】
この構成によれば、→補助電源が主電源をバックアップ可能となる程度に充電されるまで、車両の走行が許可されない。このため、補助電源が主電源をバックアップすることができない状態で車両の走行が開始されることを回避することができる。
【0009】
上記の操舵制御装置において、前記制御部は、前記モータの制御を実行可能な状態に遷移したとき、前記補助電源の充電を許可するようにしてもよい。
この構成によれば、制御部がモータの制御を実行可能な状態でないにもかかわらず、車両の走行が許可されることを抑制することができる。
【0010】
上記の操舵制御装置において、前記主電源は車載の発電機が発電する電力によって充電される一方、前記補助電源は前記主電源の電力により充電されるものであってもよい。この場合、前記制御部は、前記車両の起動操作を契機として起動した後、前記発電機が発電開始されることを契機として、前記モータの制御を実行可能な状態に遷移するようにしてもよい。
【0011】
この構成によれば、発電開始後、補助電源の充電が開始される。このため、主電源の消耗が抑えられる。
上記課題を解決し得る電源システムは、前記車両に搭載される主電源と、前記主電源をバックアップする補助電源と、上記の操舵制御装置と、を有する。
【0012】
この構成によれば、上記の操舵制御装置を備えることにより、補助電源が主電源をバックアップすることができない状態で車両の走行が開始されることを回避することができる。
【0013】
上記の電源システムは、前記補助電源の充電状態を監視するとともに、前記補助電源の充電状態が前記主電源をバックアップ可能な状態であるかどうかを判定する監視回路を有していてもよい。この場合、前記制御部は、前記監視回路の判定結果に基づき、前記補助電源が前記主電源をバックアップ可能となる程度に充電されているかどうかを認識するようにしてもよい。
【0014】
この構成によれば、監視回路によって、補助電源の充電状態が主電源をバックアップ可能な状態であるかどうかが判定される。制御部が、補助電源の充電状態を監視する必要がない分、制御部の演算負荷を軽減することが可能である。
【0015】
上記課題を解決し得る車両は、前記車両を走行させる際に操作される操作機器と、前記操作機器の操作に基づき前記車両を制御する車両制御装置と、上記の電源システムと、を含んでいる。前記車両制御装置は、前記操舵制御装置によって前記車両の走行が許可されていないとき、前記操作機器の操作をロックまたは無効とする。
【0016】
この構成によれば、操舵制御装置によって車両の走行が許可されていないとき、操作機器の操作がロックまたは無効とされる。このため、操舵制御装置によって車両の走行が許可されていないとき、すなわち補助電源が主電源をバックアップ可能となる程度に充電されていないとき、車両の走行が開始されることがない。
【0017】
上記の車両において、前記操作機器は、前記車両に搭載される変速機のシフトレンジを切り替える際に操作されるシフトレバーであってもよい。
この構成によれば、操舵制御装置によって車両の走行が許可されていないとき、シフトレバーの操作がロックまたは無効とされる。このため、操舵制御装置によって車両の走行が許可されていないとき、すなわち補助電源が主電源をバックアップ可能となる程度に充電されていないとき、車両の走行が開始されることがない。
【0018】
上記の車両は、インジケータを有していてもよい。この場合、前記車両制御装置は、前記操舵制御装置によって前記車両の走行が許可されていないとき、前記インジケータを点灯させるようにしてもよい。
【0019】
この構成によれば、運転者はインジケータを視認することにより、車両の走行が許可された状態であるかどうかを認識することが可能である。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、制御対象の動作に対する信頼性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】操舵制御装置の一実施の形態が搭載されるステアバイワイヤ式の操舵装置の構成図である。
図2】一実施の形態における操舵制御装置および電源装置を含む電源システムのブロック図である。
図3】比較例における電源装置、操舵制御装置および車両制御装置の処理手順を示すシーケンス図である。
図4】一実施の形態における電源装置の制御回路、操舵制御装置および車両制御装置の処理手順を示すシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
操舵制御装置をステアバイワイヤ式の操舵装置に具体化した一実施の形態を説明する。
図1に示すように、車両の操舵装置10は、ステアリングホイール11に連結されたステアリングシャフト12を有している。また、操舵装置10は、車幅方向(図1中の左右方向)に沿って延びる転舵シャフト14を有している。転舵シャフト14の両端には、それぞれタイロッド15,15を介して左右の転舵輪16が連結されている。転舵シャフト14が直線運動することにより、転舵輪16の転舵角θが変更される。ステアリングシャフト12および転舵シャフト14は車両の操舵機構を構成する。
【0023】
<操舵反力を発生させるための構成:反力ユニット>
操舵装置10は、操舵反力を生成するための構成として、反力モータ31、減速機構32、回転角センサ33、およびトルクセンサ34を有している。ちなみに、操舵反力とは、運転者によるステアリングホイール11の操作方向と反対方向へ向けて作用する力をいう。操舵反力をステアリングホイール11に付与することにより、運転者に適度な手応え感を与えることが可能である。
【0024】
反力モータ31は、操舵反力の発生源である。反力モータ31としてはたとえば三相のブラシレスモータが採用される。反力モータ31は、2系統の巻線群を有している。第1系統の巻線群および第2系統の巻線群は、共通のステータに巻回される。第1系統の巻線群と第2系統の巻線群との電気的な特性は同等である。反力モータ31の回転軸は、減速機構32を介してステアリングシャフト12に連結されている。反力モータ31のトルクは、操舵反力としてステアリングシャフト12に付与される。反力モータ31のトルクは、ステアリングシャフト12に付与される駆動力である。
【0025】
回転角センサ33は反力モータ31に設けられている。回転角センサ33は、反力モータ31の回転角θを検出する。反力モータ31の回転角θは、操舵角θの演算に使用される。反力モータ31とステアリングシャフト12とは減速機構32を介して連動する。このため、反力モータ31の回転角θとステアリングシャフト12の回転角、ひいてはステアリングホイール11の回転角である操舵角θとの間には相関がある。したがって、反力モータ31の回転角θに基づき操舵角θを求めることができる。
【0026】
トルクセンサ34は、操舵トルクTを検出する。操舵トルクTは、ステアリングホイール11の回転操作を通じてステアリングシャフト12に加わるトルクである。トルクセンサ34は、ステアリングシャフト12の途中に設けられるトーションバーの捻じれ量に基づきステアリングシャフト12に印加される操舵トルクTを検出する。トルクセンサ34は、ステアリングシャフト12における減速機構32とステアリングホイール11との間の部分に設けられている。
【0027】
<転舵力を発生させるための構成:転舵ユニット>
操舵装置10は、転舵輪16を転舵させるための動力である転舵力を生成するための構成として、転舵モータ41、減速機構42、および回転角センサ43を有している。
【0028】
転舵モータ41は転舵力の発生源である。転舵モータ41としては、たとえば三相のブラシレスモータが採用される。転舵モータ41は、2系統の巻線群を有している。第1系統の巻線群および第2系統の巻線群は、共通のステータに巻回される。第1系統の巻線群と第2系統の巻線群との電気的な特性は同等である。転舵モータ41の回転軸は、減速機構42を介してピニオンシャフト44に連結されている。
【0029】
ピニオンシャフト44のピニオン歯44aは、転舵シャフト14のラック歯14bに噛み合わされている。転舵モータ41のトルクは、転舵力としてピニオンシャフト44を介して転舵シャフト14に付与される。転舵モータ41のトルクは、転舵シャフト14に付与される駆動力である。転舵モータ41の回転に応じて、転舵シャフト14は図1中の左右方向である車幅方向に沿って移動する。
【0030】
回転角センサ43は転舵モータ41に設けられている。回転角センサ43は転舵モータ41の回転角θを検出する。
ちなみに、操舵装置10は、ピニオンシャフト13を有している。ピニオンシャフト13は、転舵シャフト14に対して交わるように設けられている。ピニオンシャフト13のピニオン歯13aは、転舵シャフト14のラック歯14aに噛み合わされている。ピニオンシャフト13を設ける理由は、ピニオンシャフト44と共に転舵シャフト14を図示しないハウジングの内部に支持するためである。すなわち、操舵装置10に設けられる図示しない支持機構によって、転舵シャフト14は、その軸方向に沿って移動可能に支持されるとともに、ピニオンシャフト13,44へ向けて押圧される。これにより、転舵シャフト14はハウジングの内部に支持される。ただし、ピニオンシャフト13を使用せずに転舵シャフト14をハウジングに支持する他の支持機構を設けてもよい。
【0031】
<操舵制御装置>
操舵装置10は、操舵制御装置50を有している。操舵制御装置50は、車載される各種のセンサの検出結果に基づき、反力モータ31および転舵モータ41を制御する。センサとしては、前述した回転角センサ33、トルクセンサ34および回転角センサ43に加えて、車速センサ501が挙げられる。車速センサ501は、車速Vを検出する。
【0032】
操舵制御装置50は、反力モータ31の制御を通じて操舵トルクTに応じた操舵反力を発生させる反力制御を実行する。操舵制御装置50は操舵トルクTおよび車速Vに基づき目標操舵反力を演算し、この演算される目標操舵反力に基づき操舵反力指令値を演算する。操舵制御装置50は、操舵反力指令値に応じた操舵反力を発生させるために必要とされる電流を反力モータ31へ供給する。
【0033】
操舵制御装置50は、転舵モータ41の制御を通じて転舵輪16を操舵状態に応じて転舵させる転舵制御を実行する。操舵制御装置50は、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ41の回転角θに基づきピニオン角θを演算する。ピニオン角θは、ピニオンシャフト44の実際の回転角であって、転舵輪16の転舵角θを反映する値である。また、操舵制御装置50は、回転角センサ33を通じて検出される反力モータ31の回転角θに基づき操舵角θを演算し、この演算される操舵角θに基づきピニオン角θの目標値である目標ピニオン角を演算する。操舵制御装置50は、目標ピニオン角と実際のピニオン角θとの偏差を求め、当該偏差を無くすように転舵モータ41に対する給電を制御する。
【0034】
操舵制御装置50と車載の車両制御装置60との間は、車載ネットワーク61を介して相互に接続されている。車載ネットワーク61は、たとえばCAN(Controller Area Network)である。操舵制御装置50と車載の車両制御装置60とは、車載ネットワーク61を介して、互いに情報を授受する。車両制御装置60は、車載機器62を制御する。車載機器62は、シフトレバーおよびシフトロック機構を含む。シフトロック機構は、シフトレバーのロックとアンロックとを切り換えるための機構である。シフトレバーは、車両を走行させる際に操作される操作機器であって、変速機のシフトレンジを切り替える際に操作される。車両制御装置60は、車両の走行用駆動源が始動された後、フットブレーキが踏み込み操作されるとき、シフトレバーをアンロックする。これにより、シフトレバーをパーキングポジション(P)から動かすことが可能となる。
【0035】
<操舵制御装置の詳細構成>
つぎに、操舵制御装置50の構成を詳細に説明する。
図2に示すように、操舵制御装置50は、反力制御装置51および転舵制御装置52を含んでいる。反力制御装置51は、反力モータ31に対する給電を制御する。転舵制御装置52は、転舵モータ41に対する給電を制御する。反力制御装置51と転舵制御装置52とは、シリアル通信などのローカルネットワークを介して相互に情報を授受する。
【0036】
反力制御装置51は、第1の反力制御部51Aおよび第2の反力制御部51Bを有している。第1の反力制御部51Aは、反力モータ31における第1系統の巻線群N11に対する給電を制御する。第2の反力制御部51Bは、反力モータ31における第2系統の巻線群N12に対する給電を制御する。
【0037】
第1の反力制御部51Aは、(1)コンピュータプログラム(ソフトウェア)に従って動作する1つ以上のプロセッサ、(2)各種の処理のうち少なくとも一部の処理を実行する特定用途向け集積回路(ASIC)などの1つ以上の専用のハードウェア回路、(3)それらの組み合わせ、を含む処理回路によって構成される。プロセッサはCPU(central processing unit)を含む。また、プロセッサはRAM(random-access memory)およびROM(read-only memory)などのメモリを含む。メモリは、処理をCPUに実行させるように構成されたプログラムコードまたは指令を格納している。メモリ、すなわち非一時的なコンピュータ可読媒体は、汎用または専用のコンピュータでアクセスできるあらゆる利用可能な媒体を含む。
【0038】
第1の反力制御部51Aは、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクTに基づき反力モータ31に発生させるべき目標操舵反力を演算し、この演算される目標操舵反力の値に応じて第1系統の巻線群N11に対する第1の電流指令値を演算する。ただし、第1の電流指令値は、反力モータ31に目標操舵反力を発生させるために必要とされる電流量(100%)の半分(50%)の値に設定される。第1の反力制御部51Aは、第1の電流指令値に応じた電流を第1系統の巻線群N11へ供給する。これにより、第1系統の巻線群N11は第1の電流指令値に応じたトルクを発生する。
【0039】
第2の反力制御部51Bは、基本的には第1の反力制御部51Aと同様の構成を有している。第2の反力制御部51Bは、トルクセンサ34を通じて検出される操舵トルクTに基づき反力モータ31に発生させるべき目標操舵反力を演算し、この演算される目標操舵反力の値に応じて第2系統の巻線群N12に対する第2の電流指令値を演算する。ただし、第2の電流指令値は、反力モータ31に目標操舵反力を発生させるために必要とされる電流量の半分の値に設定される。第2の反力制御部51Bは、第2の電流指令値に応じた電流を第2系統の巻線群N12へ供給する。これにより、第2系統の巻線群N12は第2の電流指令値に応じたトルクを発生する。
【0040】
なお、製品仕様によっては、第1の反力制御部51Aと第2の反力制御部51Bとの間に主従関係があってもよい。この場合、たとえば第1の反力制御部51Aがマスター、第2の反力制御部51Bがスレーブとして機能してもよい。また、製品仕様によっては、第1の反力制御部51Aと第2の反力制御部51Bとが対等の関係であってもよい。
【0041】
第1の反力制御部51Aと第2の反力制御部51Bとは、ローカルネットワークを介して互いに情報を授受することが可能である。また、第1の反力制御部51Aと第2の反力制御部51Bとは、車載ネットワーク61を介して、互いに情報を授受することが可能である。
【0042】
転舵制御装置52は、第1の転舵制御部52Aおよび第2の転舵制御部52Bを有している。第1の転舵制御部52Aは、転舵モータ41における第1系統の巻線群N21に対する給電を制御する。第2の転舵制御部52Bは、転舵モータ41における第2系統の巻線群N22に対する給電を制御する。
【0043】
第1の転舵制御部52Aは、基本的には第1の反力制御部51Aと同様の構成を有している。第1の転舵制御部52Aは、たとえば第1の反力制御部51Aにより演算される操舵角θに基づき、ピニオン角θの目標値である目標ピニオン角を演算する。第1の転舵制御部52Aは、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ41の回転角θに基づきピニオン角θを演算する。第1の転舵制御部52Aは、ピニオン角θを目標ピニオン角に追従させる角度フィードバック制御の実行を通じて、転舵モータ41に発生させるべき目標転舵力を演算し、この演算される目標転舵力の値に応じて第1系統の巻線群N21に対する第3の電流指令値を演算する。ただし、第3の電流指令値は、転舵モータ41に目標転舵力を発生させるために必要とされる電流量の半分(50%)の値に設定される。第1の転舵制御部52Aは、第3の電流指令値に応じた電流を第1系統の巻線群N21へ供給する。これにより、第1系統の巻線群N21は第3の電流指令値に応じたトルクを発生する。
【0044】
第2の転舵制御部52Bは、基本的には第1の転舵制御部52Aと同様の構成を有している。第2の転舵制御部52Bは、たとえば第2の反力制御部51Bにより演算される操舵角θに基づき、ピニオン角θの目標値である目標ピニオン角を演算する。第2の転舵制御部52Bは、回転角センサ43を通じて検出される転舵モータ41の回転角θに基づきピニオン角θを演算する。第2の転舵制御部52Bは、ピニオン角θを目標ピニオン角に追従させる角度フィードバック制御の実行を通じて、転舵モータ41に発生させるべき目標転舵力を演算し、この演算される目標転舵力の値に応じて第2系統の巻線群N22に対する第4の電流指令値を演算する。ただし、第4の電流指令値は、転舵モータ41に目標転舵力を発生させるために必要とされる電流量の半分(50%)の値に設定される。第2の転舵制御部52Bは、第4の電流指令値に応じた電流を第2系統の巻線群N22へ供給する。これにより、第2系統の巻線群N22は第4の電流指令値に応じたトルクを発生する。
【0045】
なお、製品仕様によっては、第1の転舵制御部52Aと第2の転舵制御部52Bとの間に主従関係があってもよい。この場合、たとえば第1の転舵制御部52Aがマスター、第2の転舵制御部52Bがスレーブとして機能してもよい。また、製品仕様によっては、第1の転舵制御部52Aと第2の転舵制御部52Bとが対等の関係であってもよい。
【0046】
第1の転舵制御部52Aと第2の転舵制御部52Bとは、ローカルネットワークを介して互いに情報を授受することが可能である。第1の転舵制御部52Aと第2の転舵制御部52Bとは、車載ネットワーク61を介して、互いに情報を授受することが可能である。第1の転舵制御部52Aと第1の反力制御部51Aとは、ローカルネットワークを介して互いに情報を授受することが可能である。第2の転舵制御部52Bと第2の反力制御部51Bとは、ローカルネットワークを介して互いに情報を授受することが可能である。
【0047】
<給電経路>
つぎに、操舵制御装置50に対する給電経路を説明する。
図2に示すように、操舵制御装置50は、電源装置70を介して車載の主電源71に接続されている。主電源71は、たとえば直流電源であるバッテリである。操舵制御装置50は、電源装置70を介して供給される主電源71の電力を消費して動作する。主電源71は、オルタネータなどの発電機72に接続されている。発電機72は、車両の走行用駆動源であるエンジンの回転を動力源として利用して発電する。発電機72により発電される交流電力は直流電力に変換されて主電源71に蓄えられる。
【0048】
電源装置70は2つの電源線L1,L2を介して主電源71と接続されている。電源線L2は、電源線L1の接続点P0から分岐している。電源線L2には、起動スイッチ73が設けられている。起動スイッチ73は、たとえばイグニッションスイッチあるいはパワースイッチである。起動スイッチ73は、車両の走行用駆動源を始動または停止させる際に操作される。
【0049】
第1の反力制御部51Aは、電源装置70を介して主電源71に接続されている。第1の反力制御部51Aは、電源線L11Aおよび電源装置70を介して電源線L1に接続されている。また、第1の反力制御部51Aは、電源線L11Bおよび電源装置70を介して電源線L2に接続されている。
【0050】
主電源71の電力は、電源線L11Aを介して第1の反力制御部51Aのパワー回路へ供給される。パワー回路は、より大きい電力を取り扱う電気回路であって、たとえば主電源71の直流電力を交流電力に変換するインバータが含まれる。また、主電源71の電力は、電源線L11Bを介して第1の反力制御部51Aの制御回路へ供給される。制御回路は、反力モータ31を制御するための電気回路であって、たとえばCPUおよびメモリが含まれる。
【0051】
第2の反力制御部51Bは、電源装置70を介さずに主電源71に接続されている。第2の反力制御部51Bは、電源線L12Aを介して電源線L1に接続されている。また、第2の反力制御部51Bは、電源線L12Bを介して電源線L2に接続されている。主電源71の電力は、電源線L12Aを介して第2の反力制御部51Bのパワー回路へ供給される。また、主電源71の電力は、電源線L12Bを介して第2の反力制御部51Bの制御回路へ供給される。
【0052】
第1の転舵制御部52Aは、電源装置70を介して主電源71に接続されている。第1の転舵制御部52Aは、電源線L13Aを介して電源線L11Aに接続されている。また、第1の転舵制御部52Aは、電源線L13Bを介して電源線L11Bに接続されている。主電源71の電力は、電源線L13Aを介して第1の転舵制御部52Aのパワー回路へ供給される。また、主電源71の電力は、電源線L13Bを介して第1の転舵制御部52Aの制御回路へ供給される。
【0053】
第2の転舵制御部52Bは、電源装置70を介さずに主電源71に接続されている。第2の転舵制御部52Bは、電源線L14Aを介して電源線L1に接続されている。また、第2の転舵制御部52Bは、電源線L14Bを介して電源線L2に接続されている。主電源71の電力は、電源線L14Aを介して第2の転舵制御部52Bのパワー回路へ供給される。また、主電源71の電力は、電源線L14Bを介して第2の転舵制御部52Bの制御回路へ供給される。
【0054】
なお、主電源71、電源装置70および操舵制御装置50は、車両の電源システムを構成する。
<電源装置>
つぎに、電源装置70の構成を説明する。
【0055】
電源装置70は、補助電源70A、切替回路70Bおよび制御回路70Cを有している。
補助電源70Aは、電荷を充放電可能とされた蓄電装置であって、たとえばキャパシタが採用される。補助電源70Aの電圧は、たとえば操舵制御装置50を適切に動作させるために必要とされる電圧の下限値よりも高く、かつ主電源71の電圧よりも低い値に設定される。
【0056】
切替回路70Bは、制御回路70Cからの指令に基づき、補助電源70Aの充電が行われるように電源線L1に対する補助電源70Aの接続状態を切り替える。また、切替回路70Bは、制御回路70Cからの指令に基づき、第1の反力制御部51Aおよび第1の転舵制御部52Aの電源を主電源71と補助電源70Aとの間で切り替える。
【0057】
切替回路70Bにより切り替えられる主電源71の電力または補助電源70Aの電力は、電源線L11A,L11Bを介して第1の反力制御部51Aに供給される。また、切替回路70Bにより切り替えられる主電源71の電力または補助電源70Aの電力は、電源線L13A,L13Bを介して第1の転舵制御部52Aに供給される。
【0058】
制御回路70Cは、切替回路70Bの切り替えを制御する。また、制御回路70Cは、主電源71の電圧を監視する。制御回路70Cは、主電源71の電圧がしきい値電圧よりも小さいとき、主電源71の電圧が低下した旨判定する。しきい値電圧は、主電源71の電圧低下を判定する際の基準でであって、反力モータ31および転舵モータ41、ならびに第1の反力制御部51Aおよび第1の転舵制御部52Aを適切に動作させるために必要とされる電圧の下限値を基準として設定される。
【0059】
制御回路70Cは、主電源71の電圧の低下が検出されないとき、切替回路70Bに対する第1の指令を生成する。第1の指令は、第1の反力制御部51Aおよび第1の転舵制御部52Aの電源を主電源71に切り替えるための指令である。また、第1の指令は、補助電源70Aの充電が行われるように補助電源70Aの電源線L1に対する接続状態を切り替えるための指令でもある。
【0060】
制御回路70Cは、主電源71の電圧の低下が検出されるとき、切替回路70Bに対する第2の指令を生成する。第2の指令は、第1の反力制御部51Aおよび第1の転舵制御部52Aの電源を主電源71から補助電源70Aに切り替えるための指令である。また、第2の指令は、電源線L1と補助電源70Aとの間を遮断して補助電源70Aの充電が行われないように補助電源70Aの電源線L1に対する接続状態を切り替えるための指令でもある。
【0061】
制御回路70Cは、補助電源70Aの充電量を検出する。制御回路70Cは、補助電源70Aに設けられる電圧センサを通じて補助電源70Aの電圧を検出し、その検出される電圧に基づき補助電源70Aの充電量を検出する。補助電源70Aがキャパシタである場合、制御回路70Cは、キャパシタの端子間電圧に基づき、キャパシタの充電量を検出する。制御回路70Cは、補助電源70Aの充電状態を監視する監視回路としても機能する。
【0062】
<起動シーケンスの比較例>
つぎに、起動スイッチ73がオンされることを契機として実行される起動シーケンスの比較例を説明する。起動シーケンスは、車両制御装置60、操舵制御装置50および電源装置70の起動時に実行される一連の処理である。
【0063】
ただし、車両制御装置60、操舵制御装置50および電源装置70は、たとえば起動スイッチ73の両端の電圧を監視することにより起動スイッチ73のオンオフを検出することが可能である。起動スイッチ73がオンすることは、車両電源がオンすることである。起動スイッチ73がオフすることは、車両電源がオフすることである。
【0064】
図3のシーケンス図に示すように、車両制御装置60は、起動スイッチ73がオンされたとき、イニシャルチェックを実行する(ステップS101)。イニシャルチェックは、車両システムが稼働するために必要とされる一連の処理である。イニシャルチェックは、たとえばハードウェアのチェック、CPU(中央処理装置)の初期化、および変数あるいはフラグなどの初期化を含む。車両制御装置60は、イニシャルチェックの実行が完了した後、車両の走行用駆動源の始動に伴い発電機72による発電が開始されたことが検出されるとき(ステップS102)、たとえば操舵制御装置50の第1の反力制御部51Aへアシスト開始許可信号S1を送信する。また、車両制御装置60は、発電機72による発電が開始されたことが検出されるとき(ステップS102)、車両が走行可能な状態であることを認識する(ステップS103)。
【0065】
第1の反力制御部51Aは、起動スイッチ73がオンされたとき、イニシャルチェックを実行する(ステップS201)。第1の反力制御部51Aは、イニシャルチェックの実行が完了した後、車両の走行準備の完了を待つ(ステップS202)。第1の反力制御部51Aは、車両の走行準備の完了を待っている状態で、アシスト開始許可信号S1が受信されるとき、アシスト開始状態へ遷移する(ステップS203)。アシスト開始状態は、反力モータ31を通じた反力制御を実行することが可能な状態である。第1の反力制御部51Aは、アシスト開始状態へ遷移したとき(ステップS203)、充電開始許可信号S2を電源装置70の制御回路70Cへ送信する。
【0066】
なお、第1の反力制御部51Aの状態がアシスト開始状態へ遷移することは、第2の反力制御部51B、第1の転舵制御部52Aおよび第2の転舵制御部52Bに伝達される。このため、第1の反力制御部51Aの状態がアシスト開始状態に遷移するタイミングで、第2の反力制御部51B、第1の転舵制御部52Aおよび第2の転舵制御部52Bの状態もアシスト開始状態へ遷移する。
【0067】
電源装置70の制御回路70Cは、起動スイッチ73がオンされたとき、イニシャルチェックを実行する(ステップS301)。制御回路70Cは、イニシャルチェックの実行が完了した後、第1の反力制御部51Aの状態がアシスト開始状態に遷移することを待つ(ステップS302)。制御回路70Cは、第1の反力制御部51Aの状態がアシスト開始状態に遷移することを待っている状態で、充電開始許可信号S2が受信されるとき、補助電源70Aの充電状態を確認し(ステップS303)、補助電源70Aの充電量が主電源71をバックアップするうえで十分であるかどうかを判定する(ステップS304)。
【0068】
制御回路70Cは、たとえば補助電源70Aであるキャパシタの端子間電圧に基づき、キャパシタの充電量を検出する。制御回路70Cは、キャパシタの端子間電圧の値が電圧がしきい値電圧よりも小さいとき、補助電源70Aの充電量が十分でない旨判定する。制御回路70Cは、キャパシタの端子間電圧の値がしきい値電圧以上であるとき、補助電源70Aの充電量が十分である旨判定する。しきい値電圧は、補助電源70Aの充電量が十分であるかどうかを判定する際の基準である。しきい値電圧は、反力モータ31および転舵モータ41、ならびに第1の反力制御部51Aおよび第1の転舵制御部52Aを適切に動作させるために必要とされる電圧の下限値を基準として設定される。
【0069】
制御回路70Cは、補助電源70Aの充電量が十分でない旨判定されるとき(ステップS304でNO)、補助電源70Aの充電を開始して、補助電源70Aの充電量が十分な量に達するのを待つ。制御回路70Cは、補助電源70Aの充電量が十分である旨判定されるとき(ステップS304でYES)、主電源71のバックアップが可能な状態であることを認識する(ステップS305)。
【0070】
ところが、図3に示される比較例の起動シーケンスを採用する場合、つぎのことが懸念される。すなわち、電源装置70の制御回路70Cは、車両の発電機72が発電を開始して走行可能状態となった後、操舵制御装置50(ここでは、第1の反力制御部51A)からの充電開始許可信号S2を受信することを契機として補助電源70Aを充電開始する。やがて補助電源70Aの充電状態は、主電源71をバックアップ可能となる程度の充電状態に至る。
【0071】
起動時の補助電源70Aの充電量不足により電源バックアップできない状態は、異常状態ではないため車両は走行可能となる。しかし、車両は走行可能であるものの、補助電源70Aが主電源71をバックアップできない期間ΔTが発生することが懸念される。操舵装置10の動作に対する信頼性を確保する観点から、車両が走行する際には補助電源70Aによる主電源71のバックアップが可能な状態であることが求められる。そこで、本実施の形態では、つぎの起動シーケンスを採用している。
【0072】
<起動シーケンスの実施例>
つぎに、本実施の形態の起動シーケンスを説明する。
図4のシーケンス図に示すように、車両制御装置60は、起動スイッチ73がオンされたとき、イニシャルチェックを実行する(ステップS101)。車両制御装置60は、イニシャルチェックの実行が完了した後、車両の走行用駆動源の始動に伴い発電機72による発電が開始されたことが検出されるとき(ステップS102)、たとえば操舵制御装置50の第1の反力制御部51Aへアシスト開始許可信号S1を送信する。また、車両制御装置60は、発電機72による発電が開始されたことが検出されるとき(ステップS102)、走行許可待ちの状態へ遷移する(ステップS104)。この後、車両制御装置60は、車両の走行が許可されているかどうかを判定する(ステップS105)。
【0073】
第1の反力制御部51Aは、起動スイッチ73がオンされたとき、イニシャルチェックを実行する(ステップS201)。第1の反力制御部51Aは、イニシャルチェックの実行が完了した後、車両の走行準備の完了を待つ(ステップS202)。第1の反力制御部51Aは、車両の走行準備の完了を待っている状態で、アシスト開始許可信号S1が受信されるとき、アシスト開始状態へ遷移する(ステップS203)。第1の反力制御部51Aは、アシスト開始状態へ遷移したとき、充電開始許可信号S2を電源装置70の制御回路70Cへ送信する。この後、第1の反力制御部51Aは、補助電源70Aによる主電源71のバックアップが可能であるかどうかを判定する(ステップS204)。
【0074】
電源装置70の制御回路70Cは、起動スイッチ73がオンされたとき、イニシャルチェックを実行する(ステップS301)。制御回路70Cは、イニシャルチェックの実行が完了した後、第1の反力制御部51Aの状態がアシスト開始状態に遷移することを待つ(ステップS302)。制御回路70Cは、第1の反力制御部51Aの状態がアシスト開始状態に遷移することを待っている状態で、充電開始許可信号S2が受信されるとき、補助電源70Aの充電状態を確認し(ステップS303)、補助電源70Aの充電量が主電源71をバックアップするうえで十分であるかどうかを判定する(ステップS304)。
【0075】
制御回路70Cは、補助電源70Aの充電量が十分でない旨判定されるとき(ステップS304でNO)、補助電源70Aの充電を開始して、補助電源70Aの充電量が十分な量に達するのを待つ。また、制御回路70Cは、補助電源70Aの充電量が十分でない旨判定されるとき(ステップS304でNO)、フラグF10を第1の反力制御部51Aへ送信する。フラグF10は、補助電源70Aによる主電源71のバックアップが可能でないことを示す情報である。
【0076】
制御回路70Cは、補助電源70Aの充電量が十分である旨判定されるとき(ステップS304でYES)、補助電源70Aによる主電源71のバックアップが可能な状態であることを認識する(ステップS305)。また、制御回路70Cは、補助電源70Aの充電量が十分である旨判定されるとき(ステップS304でYES)、フラグF11を第1の反力制御部51Aへ送信する。フラグF11は、補助電源70Aによる主電源71のバックアップが可能であることを示す情報である。
【0077】
第1の反力制御部51Aは、フラグF10が受信されるとき、補助電源70Aによる主電源71のバックアップが可能でない旨判定する(ステップS204でNO)。第1の反力制御部51Aは、補助電源70Aによる主電源71のバックアップが可能でない旨判定されるとき、フラグF20を車両制御装置60へ送信する。フラグF20は、車両の走行を許可しない旨示す情報である。
【0078】
第1の反力制御部51Aは、フラグF11が受信されるとき、補助電源70Aによる主電源71のバックアップが可能である旨判定する(ステップS204でYES)。第1の反力制御部51Aは、補助電源70Aによる主電源71のバックアップが可能である旨判定されるとき、フラグF21を車両制御装置60へ送信する。フラグF21は、車両の走行を許可する旨示す情報である。
【0079】
車両制御装置60は、フラグF20が受信されるとき、車両の走行が許可されていない旨判定し(ステップS105でNO)、車両の走行を不可能な状態に維持する(ステップS106)。車両制御装置60は、たとえばシフトロック機構をロックした状態に維持する。これにより、車両は走行することができない状態に維持される。また、車両制御装置60は、車両の走行が許可されていない旨判定されるとき(ステップS105でNO)、その旨を運転者に通知する(ステップS107)。車両制御装置60は、たとえば運転席のメータパネルに設けられるインジケータを点灯させる。運転者は、インジケータを視認することにより、車両の走行が許可されていない状態であることを認識することが可能である。インジケータは、車載機器62の一つである。
【0080】
車両制御装置60は、フラグF21が受信されるとき、車両の走行が許可されている旨判定し(ステップS105でYES)、車両が走行可能な状態であることを認識する(ステップS103)。車両制御装置60は、車両の走行が許可されている旨判定されるとき、シフトロック機構をアンロックする。これにより、シフトレバーの操作、ひいては車両の走行が可能となる。車両制御装置60は、運転者の車両操作に応じて車両の走行を制御する。また、車両制御装置60は、車両の走行が許可されている旨判定されるとき、車両の走行が許可されていない状態であることを示すインジケータを消灯させる。運転者は、インジケータを視認することにより、車両の走行が許可された状態であることを認識することが可能である。
【0081】
<実施の形態の効果>
したがって、本実施の形態によれば、以下の効果を得ることができる。
(1)第1の反力制御部51Aは、車両の起動操作(ここでは、起動スイッチ73のオン操作)を契機として起動してアシスト開始状態に遷移したとき、補助電源70Aが主電源71をバックアップ可能となる程度に充電されるのを待って車両の走行を許可する。アシスト開始状態は、第1の反力制御部51Aの制御対象である反力モータ31の制御を実行可能な状態である。このため、補助電源70Aが主電源71をバックアップ可能となる程度に充電されるまで、車両の走行が許可されない。したがって、補助電源70Aが主電源71をバックアップすることができない状態で車両の走行が開始されることを回避することができる。操舵装置10の動作に対する信頼性を確保することもできる。
【0082】
(2)第1の反力制御部51Aは、反力モータ31の制御を実行可能な状態に遷移したとき、補助電源70Aの充電を許可する。このため、第1の反力制御部51Aが反力モータ31の制御を実行可能な状態でないにもかかわらず、車両の走行が許可されることを抑制することができる。
【0083】
(3)第1の反力制御部51Aは、車両の起動操作を契機として起動した後、発電機72が発電開始されることを契機として、反力モータ31の制御を実行可能な状態に遷移する。発電機72が発電を開始した後に補助電源70Aの充電が開始されるため、主電源71の消耗が抑えられる。発電機72により発電される電力は主電源71に充電されるからである。
【0084】
(4)車両に搭載される主電源71、主電源71をバックアップする補助電源70A、および操舵制御装置50から電源システムが構成される。電源システムが上記の操舵制御装置50を備えることにより、補助電源70Aが主電源71をバックアップすることができない状態で車両の走行が開始されることを回避することができる。
【0085】
(5)電源システムは、制御回路70Cを有している。制御回路70Cは、補助電源70Aの充電状態を監視するとともに、補助電源70Aの充電状態が主電源71をバックアップ可能な状態であるかどうかを判定する監視回路として機能する。第1の反力制御部51Aは、制御回路70Cの判定結果に基づき、補助電源70Aが主電源71をバックアップ可能となる程度に充電されているかどうかを認識する。制御回路70Cによって補助電源70Aの充電状態が主電源71をバックアップ可能な状態であるかどうかが判定されるため、第1の反力制御部51Aが補助電源70Aの充電状態を監視する必要はない。その分だけ、第1の反力制御部51Aの演算負荷を軽減することが可能である。
【0086】
(6)車両は、車両を走行させる際に操作される操作機器であるシフトレバー、およびシフトレバーの操作に基づき車両を制御する車両制御装置60を有している。車両制御装置60は、第1の反力制御部51Aによって車両の走行が許可されていないとき、シフトレバーの操作をロックまたは無効とする。このため、第1の反力制御部51Aによって車両の走行が許可されていないとき、すなわち補助電源70Aが主電源71をバックアップ可能となる程度に充電されていないとき、車両の走行が開始されることがない。
【0087】
(7)車両はインジケータを有している。車両制御装置60は、第1の反力制御部51Aによって車両の走行が許可されていないとき、インジケータを点灯させる。このため、運転者はインジケータを視認することにより、車両の走行が許可された状態であるかどうかを認識することが可能である。
【0088】
<他の実施の形態>
なお、本実施の形態は、つぎのように変更して実施してもよい。
・車両制御装置60は、図4のステップS106において、シフトロック機構をロックした状態に維持することにより車両の走行を不可能な状態に維持するようにしたが、つぎのようにしてもよい。たとえば、車両制御装置60は、シフトロック機構をロックした状態に維持することに代えて、またはシフトロック機構をロックした状態に維持することに加えて、アクセルペダルの操作を無効としてもよい。このようにすれば、運転者がアクセルペダルを踏み込み操作した場合であれ、車両は走行しない状態が得られる。また、車両制御装置60は、シフトロック機構をロックした状態に維持することに代えて、またはシフトロック機構をロックした状態に維持することに加えて、アクセルペダルをロックした状態に維持するようにしてもよい。このようにすれば、運転者はアクセルペダルの踏み込み操作を行うことができなくなる。このため、車両を走行させることができない。なお、アクセルペダルは、車両を走行させる際に操作される操作機器である。
【0089】
・本実施の形態では、第1の反力制御部51Aが補助電源70Aの充電状態に基づき車両の走行を許可するようにしたが、第1の転舵制御部52Aが車両の走行を許可するようにしてもよい。この場合、図4のシーケンス図において、第1の反力制御部51Aを第1の転舵制御部52Aと読み替える。また、反力モータ31を転舵モータ41と読み替える。なお、第2の反力制御部51Bまたは第2の転舵制御部52Bが車両の走行を許可するようにしてもよい。
【0090】
・本実施の形態において、反力モータ31および転舵モータ41は、2系統の巻線群を有していたが、1系統の巻線群を有するものであってもよい。この場合、反力制御装置51は、第1の反力制御部51Aおよび第2の反力制御部51Bのうちいずれか一方のみを有していてもよい。また、この場合、転舵制御装置52は、第1の転舵制御部52Aおよび第2の転舵制御部52Bのうちいずれか一方のみを有していてもよい。なお、第1の反力制御部51Aまたは第2の反力制御部51Bは、反力制御部に相当する。第1の転舵制御部52Aまたは第2の転舵制御部52Bは、転舵制御部に相当する。
【0091】
・操舵装置10は、電動パワーステアリング装置であってもよい。電動パワーステアリング装置は、先の図1に示されるステアリングホイール11と転舵輪16との間が機械的に連結されてなる。すなわち、ステアリングシャフト12、ピニオンシャフト13および転舵シャフト14は、ステアリングホイール11と転舵輪16との間の動力伝達経路として機能する。ステアリングホイール11の操舵に伴い転舵シャフト14が直線運動することにより、転舵輪16の転舵角θが変更される。
【0092】
電動パワーステアリング装置は、アシストモータおよびアシスト制御装置を有している。アシストモータは、先の図1に示される反力モータ31または転舵モータ41と同じ位置に設けられる。アシストモータは、ステアリングホイール11の操作を補助するためのアシスト力を発生する。アシスト力は、ステアリングホイール11の操舵方向と同じ方向のトルクである。アシスト制御装置は、操舵制御装置に相当する。アシスト制御装置は、制御対象であるアシストモータの駆動を制御する。アシスト制御装置は、先の図2に示される反力制御装置51または転舵制御装置52と同様の構成を有している。
【符号の説明】
【0093】
31…反力モータ(制御対象)
41…転舵モータ(制御対象)
50…操舵制御装置
51A…第1の反力制御部(制御部)
51B…第2の反力制御部(制御部)
52A…第1の転舵制御部(制御部)
52B…第2の転舵制御部(制御部)
60…車両制御装置
62…車載機器(操作機器)
70…電源装置
70A…補助電源
70C…制御回路(監視回路)
71…主電源
72…発電機
図1
図2
図3
図4