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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-21
(45)【発行日】2025-05-29
(54)【発明の名称】架空線用テンションバランサ
(51)【国際特許分類】
   B60M 1/26 20060101AFI20250522BHJP
   H02G 7/02 20060101ALI20250522BHJP
【FI】
B60M1/26 B
H02G7/02
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2022020476
(22)【出願日】2022-02-14
(65)【公開番号】P2023117748
(43)【公開日】2023-08-24
【審査請求日】2024-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004640
【氏名又は名称】日本発條株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000408
【氏名又は名称】弁理士法人高橋・林アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】田生 陽平
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-133816(JP,A)
【文献】特開2010-280320(JP,A)
【文献】特開2013-014245(JP,A)
【文献】米国特許第03418419(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60M 1/00-7/00
H02G 7/00-7/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1端と第2端を有する第1の円筒部材と、前記第1端側に位置して前記第1の円筒部材に囲まれるリング状の第1の前方座金と、前記第1の前方座金の前記第2端側に接し、前記第1の円筒部材から離隔するリング状の第1の前方ばね座金とを有する第1のユニット、
前記第1の円筒部材から露出する第1端と前記第1の円筒部材内に位置する第2端を有するとともに前記第1の円筒部材に挿入された第2の円筒部材と、前記第2の円筒部材を囲み、前記第1の円筒部材内に位置するリング状の第1の後方座金とを有する第2のユニット、
前記第1のユニットと前記第2のユニットの間に位置し、前記第2の円筒部材を囲み、前記第1の前方ばね座金と前記第1の後方座金に挟まれる第1のコイルばね、
前記第1のコイルばねと前記第1の円筒部材の間に位置し、それぞれの一部が前記第1の前方ばね座金と前記第1の円筒部材に挟まれる複数の第1のスライディングプレート、および
隣接する前記第1のスライディングプレートに挟まれ、前記複数の第1のスライディングプレートの回転を規制する複数の第1のストッパを備える、テンションバランサ。
【請求項2】
前記第1の前方ばね座金は、外周に複数の切り欠きを有し、
前記複数の第1のストッパは、それぞれ対応する前記複数の切り欠き内に位置する、請求項1に記載のテンションバランサ。
【請求項3】
前記複数の第1のストッパのそれぞれの高さは、対応する前記切り欠きの深さよりも大きい、請求項2に記載のテンションバランサ。
【請求項4】
前記第1の前方座金は、前記第1の円筒部材の中心軸に平行な方向において前記第1の前方ばね座金の前記複数の切り欠きと重なる複数の切り欠きを有し、
前記複数の第1のストッパは、それぞれ一部が前記第1の前方座金の対応する前記切り欠き内に位置する、請求項2に記載のテンションバランサ。
【請求項5】
前記複数の第1のストッパは、前記第1の前方ばね座金の外周から前記第1の前方ばね座金の半径方向に突出する凸部である、請求項1に記載のテンションバランサ。
【請求項6】
前記複数の第1のストッパは、前記第1の円筒部材を貫通するねじである、請求項1に記載のテンションバランサ。
【請求項7】
前記第1のユニットの前記第1の円筒部材の前記第2端側に取り付けられたフックをさらに有する、請求項1に記載のテンションバランサ。
【請求項8】
前記第2の円筒部材に挿入された第3の円筒部材と、前記第3の円筒部材を囲み、前記第2の円筒部材内に位置するリング状の第2の後方座金とを有する第3のユニット、
前記第2のユニットと前記第3のユニットの間に位置し、前記第3の円筒部材を囲む第2のコイルばね、
前記第2のコイルばねと前記第2の円筒部材の間に位置する複数の第2のスライディングプレート、および
隣接する前記第2のスライディングプレートに挟まれ、前記複数の第2のスライディングプレートの回転を規制する複数の第2のストッパを備え、
前記第2のユニットはさらに、
前記第2の円筒部材の前記第1端側に位置し、前記第2の円筒部材に囲まれるリング状の第2の前方座金、および
前記第2の前方座金に対して前記第2の円筒部材の前記第2端側に位置し、前記第2の前方座金と接し、前記第2の円筒部材から離隔するリング状の第2の前方ばね座金を有し、
前記複数の第2のスライディングプレートは、それぞれ一部が前記第2の前方ばね座金と前記第2の円筒部材に挟まれ
前記第2のコイルばねは、前記第2の前方ばね座金と前記第2の後方座金に挟まれる、請求項1に記載のテンションバランサ。
【請求項9】
前記第2の前方ばね座金は、外周に複数の切り欠きを有し、
前記複数の第2のストッパは、それぞれ対応する前記複数の切り欠き内に位置する、請求項8に記載のテンションバランサ。
【請求項10】
前記複数の第2のストッパの高さは、対応する前記複数の切り欠きの深さよりも大きい、請求項9に記載のテンションバランサ。
【請求項11】
前記第2の前方座金は、前記第2の円筒部材の中心軸に平行な方向において前記第2の前方ばね座金の前記複数の切り欠きと重なる複数の切り欠きを有し、
前記複数の第2のストッパは、それぞれ一部が前記第2の前方座金の対応する前記複数の切り欠き内に位置する、請求項9に記載のテンションバランサ。
【請求項12】
前記複数の第2のストッパは、前記第2の前方ばね座金の外周から前記第2の前方ばね座金の半径方向に突出する凸部である、請求項8に記載のテンションバランサ。
【請求項13】
前記複数の第2のストッパは、前記第2の円筒部材を貫通するねじである、請求項8に記載のテンションバランサ。
【請求項14】
前記第3のユニットは、前記第3の円筒部材に取り付けられ、前記第2の円筒部材から露出するフックをさらに有する、請求項8に記載のテンションバランサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、架空線に用いることができるテンションバランサに関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道などの架空線には、温度変化による膨張・収縮が生じても適正な張力で架空線を引張するための装置としてテンションバランサが取り付けられる。例えば特許文献1には、同軸上に配置される複数の円筒部材、および円筒部材の間に配置されるコイルばねを基本構成とするテンションバランサが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-296795号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の実施形態の課題の一つは、新規な構造を備えるテンションバランサを提供することを課題の一つとする。あるいは、本発明の実施形態の課題の一つは、ストローク-張力特性におけるヒステリシスが低減されたテンションバランサを提供することを課題の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の実施形態の一つは、テンションバランサである。このテンションバランサは、第1のユニット、第2のユニット、第1のコイルばね、複数の第1のスライディングプレート、および複数の第1のストッパを備える。第1のユニットは、第1端と第2端を有する第1の円筒部材、第1端側に位置して第1の円筒部材に囲まれるリング状の第1の前方座金、および第1の前方座金の第2端側に接し、第1の円筒部材から離隔するリング状の第1の前方ばね座金を有する。第2のユニットは、第1の円筒部材から露出する第1端と第1の円筒部材内に位置する第2端を有するとともに第1の円筒部材に挿入された第2の円筒部材、および第2の円筒部材を囲み、第1の円筒部材内に位置するリング状の第1の後方座金を有する。第1のコイルばねは、第1のユニットと第2のユニットの間に位置し、第2の円筒部材を囲み、第1の前方ばね座金と第1の後方座金に挟まれる。複数の第1のスライディングプレートは、第1のコイルばねと第1の円筒部材の間に位置し、それぞれの一部が第1の前方ばね座金と第1の円筒部材に挟まれる。複数の第1のストッパは、隣接する第1のスライディングプレートに挟まれ、複数の第1のスライディングプレートの回転を規制するように構成される。
【0006】
本発明の実施形態の一つは、テンションバランサである。このテンションバランサは、第1のユニット、第2のユニット、第1のコイルばね、第1のスライディングプレート、および第1のストッパを備える。第1のユニットは、第1端と第2端を有する第1の円筒部材、第1端側に位置して第1の円筒部材に囲まれるリング状の第1の前方座金、および第1の前方座金の第2端側に接し、第1の円筒部材から離隔するリング状の第1の前方ばね座金を有する。第2のユニットは、第1の円筒部材から露出する第1端と第1の円筒部材内に位置する第2端を有するとともに第1の円筒部材に挿入された第2の円筒部材、および第2の円筒部材を囲み、第1の円筒部材内に位置するリング状の第1の後方座金を有する。第1のコイルばねは、第1のユニットと第2のユニットの間に位置し、第2の円筒部材を囲み、第1の前方ばね座金と第1の後方座金に挟まれる。第1のスライディングプレートは、第1のコイルばねと第1の円筒部材の間に位置し、それぞれの一部が第1の前方ばね座金と第1の円筒部材に挟まれる。第1のストッパは、円筒状に巻かれた状態において互いに対向する第1のスライディングプレートの辺に挟まれ、第1のスライディングプレートの回転を規制するように構成される。
【0007】
本発明の実施形態の一つは、テンションバランサである。このテンションバランサは、第1のユニット、第2のユニット、第1のコイルばね、第1のスライディングチューブ、および第1のストッパを備える。第1のユニットは、第1端と第2端を有する第1の円筒部材、第1端側に位置して第1の円筒部材に囲まれるリング状の第1の前方座金、および第1の前方座金の第2端側に接し、第1の円筒部材から離隔するリング状の第1の前方ばね座金を有する。第2のユニットは、第1の円筒部材から露出する第1端と第1の円筒部材内に位置する第2端を有するとともに第1の円筒部材に挿入された第2の円筒部材、および第2の円筒部材を囲み、第1の円筒部材内に位置するリング状の第1の後方座金を有する。第1のコイルばねは、第1のユニットと第2のユニットの間に位置し、第2の円筒部材を囲み、第1の前方ばね座金と第1の後方座金に挟まれる。第1のスライディングチューブは、切り欠きを有し、第1のコイルばねと第1の円筒部材の間に位置し、それぞれの一部が第1の前方ばね座金と第1の円筒部材に挟まれる。第1のストッパは、第1のスライディングチューブの切り欠き内に配置され、第1のスライディングチューブの回転を規制するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の実施形態に係るテンションバランサの模式的斜視図。
図2】本発明の実施形態に係るテンションバランサの模式的端面図。
図3】本発明の実施形態に係るテンションバランサの模式的端面図。
図4】本発明の実施形態に係るテンションバランサの模式的側面図。
図5】本発明の実施形態に係るテンションバランサの模式的側面図。
図6】本発明の実施形態に係るテンションバランサの模式的斜視図、側面図、および正面図。
図7】本発明の実施形態に係るテンションバランサの模式的側面図、端面図、および正面図。
図8】本発明の実施形態に係るテンションバランサの模式的端面図。
図9】本発明の実施形態に係るテンションバランサに配置されるスライディングプレートの模式的斜視図。
図10】本発明の実施形態に係るテンションバランサに配置されるスライディングプレートの模式的斜視図。
図11】本発明の実施形態に係るテンションバランサに配置されるスライディングチューブの模式的斜視図。
図12】本発明の実施形態に係るテンションバランサの模式的斜視図、端面図、および正面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本出願で開示される発明の各実施形態について、図面を参照しつつ説明する。ただし、本発明は、その要旨を逸脱しない範囲において様々な形態で実施することができ、以下に例示する実施形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0010】
図面は、説明をより明確にするため、実際の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して説明したものと同様の機能を備えた要素には、同一の符号を付して、重複する説明を省略することがある。
【0011】
本明細書および図面において、同一、あるいは類似する複数の構成を総じて表記する際には同一の符号を用い、これらを個別に表記する際には符号の後にハイフンと数字を付す。一つの構成のうちの複数の部分をそれぞれ区別して表記する際には、同一の符号を用い、さらにハイフンとアルファベットを用いる。
【0012】
本明細書および請求項において、「ある構造体が他の構造体から露出する」という表現は、ある構造体の一部が他の構造体によって覆われていない態様を意味し、この他の構造体によって覆われていない部分は、さらに別の構造体によって覆われる態様も含む。また、この表現で表される態様は、ある構造体が他の構造体と接していない態様も含む。
【0013】
<第1実施形態>
本実施形態では、本発明の実施形態の一つであるテンションバランサ10について説明する。テンションバランサ10は、架空線を適切な張力で引張するために用いることができる。
【0014】
1.全体構造
図1にテンションバランサ10の模式的斜視図を示す。テンションバランサ10は、同軸上に配置され、外径の異なる複数の円筒状ユニットを備える。ユニット数に制約はなく、典型的には2から4であり、5以上でもよい。テンションバランサ10では、外径の大きいユニット内にそれよりも小さい外径を有するユニットの一部が挿入される。より具体的には、テンションバランサ10が第1から第n(nは2以上の自然数)のユニットを有し、外径が第1のユニットから第nのユニットの順に減少するする場合、第k(kは1以上(n-1)の自然数から選択される変数)のユニットの中に第(k+1)のユニットが配置され、各ユニットの中心軸の方向において第(k+1)のユニットが第kのユニットの内部を可逆的にスライドすることができる。図1には、二段式のテンションバランサとして、三つのユニット(第1のユニット100、第2のユニット200、第3のユニット300)を有するテンションバランサ10が示されている。以下、本実施形態では二段式のテンションバランサを主に用いて説明する。
【0015】
最大外径を有する第1のユニット100の一端(第2端)には、直接または間接的に支柱側取付部材(以下、第1のフックと記す)104が取り付けられ、この第1のフック104を用いることで、テンションバランサ10を支柱などの固定された構造体に接続することができる。一方、最小外径を有するユニット(ここでは第3のユニット300)の一端には、架空線に連結される架空線側取付部材(以下、第2のフックと記す)304が直接または間接的に取り付けられる。後述するように、隣接するユニットの間にはコイルばねが圧縮された状態で配置されており、コイルばねが伸長しようとする弾性力により、外側のユニットが隣接する内側のユニットを内部に引き込む力が発生する。この力によって架空線を適正な張力で引張することができる。
【0016】
以下、テンションバランサ10の長さ方向をx方向とし、x方向に垂直であり、互いに直交する方向をy方向とz方向として説明を行う。x方向は、テンションバランサ10および各ユニットの中心軸に平行な方向であり、第2から第nのユニットがスライドする方向である。図1のx方向に延伸する鎖線A-A´に沿った端面の模式図を図2に、鎖線A-A´に直交する鎖線B-B´に沿った端面の模式図を図3に示す。見やすさを考慮し、図3では後述するコイルばね(第1のコイルばね140、第2のコイルばね142)は図示されていない。
【0017】
2.第1のユニット
図1から図3に示すように、第1のユニット100は第1の円筒部材102を備える。第1の円筒部材102の第1のフック104が配置される第2端側には、底面を形成する蓋体106を設けることができる。第1のフック104は蓋体106に直接溶接によって取り付けられる。また、第1の円筒部材102には、テンションバランサ10を組み立てる際に第1の円筒部材102を吊り下げるための開口や、内部に浸入した水を排出するための開口が設けられていてもよい。第2端側にはさらに、第2のユニット200や第3のユニット300の脱落を防ぐ脱落防止機構が設けられる。脱落防止機構の構造に制約はなく、図1に示した例では、脱落防止機構としてU字棒114が設けられている。U字棒114は、z方向に垂直な方向に延伸して第1の円筒部材102を貫通し、その末端に設けられるカラー116によってU字棒114の脱落が防止される。第1のコイルばね140と第2のコイルばね142の復元力によって蓋体106が第2端側へ移動するが、U字棒114によってその動きが規制される。
【0018】
第1の円筒部材102の第2端に対向する他端(第1端)には、リング状の第1の前方座金110が設けられる。第1の前方座金110は、第1の円筒部材102に囲まれるように設けることができ、第1の円筒部材102の第1端の一部を塞ぐ。第1の前方座金110の開口は、第2のユニット200が第1のユニット100内でスライドして一部が第1のユニット100から露出するための開口として働く。図示しないが、第1の前方座金110は第1の円筒部材102を囲まず、第1の円筒部材102の外径と同一または実質的に同一の外径を有してもよい。また、第1の前方座金110は、第1の円筒部材102と一体化されていてもよい。
【0019】
第1の円筒部材102の第1端側には、第2のユニット200を囲むリング状の第1の前方ばね座金112がさらに設けられる。第1の前方ばね座金112は、第1の前方座金110に対して第2端側に配置され、第1の前方座金110と接する。
【0020】
ここで、第1の前方ばね座金112は、その外径が第1の前方座金110の外径よりも小さく、かつ、第1の円筒部材102の内径よりも小さくなるように構成される。このため、第1の前方ばね座金112と第1の円筒部材102の間には隙間が存在し、これらは互いに接しない。第1の前方ばね座金112と第1の円筒部材102の間の隙間は、後述する第1のスライディングプレート120がこれらの間に挿入できるように設定される。具体的には、第1のコイルばね140の線径にも依存するが、例えば、1mm以上3mm以下または1mm以上2mm以下となるよう、第1の前方ばね座金112の外径と第1の円筒部材102の内径が設定される。
【0021】
一方、第1の前方座金110の内径は、第1の前方ばね座金112の内径よりも大きい。このため、第1の前方ばね座金112が後述する第2の円筒部材202の外表面と接することになる。
【0022】
第1の円筒部材102、第1の前方座金110、および第1の前方ばね座金112は、それぞれ鉄やアルミニウム、ステンレスなどの金属材料を含む。好ましくは、強度が高く腐食性の小さいステンレスを用いてこれらの部材が形成される。第1の前方ばね座金112の第2端側と第2の円筒部材202側の表面は、それぞれ第1のコイルばね140と第2の円筒部材202との摩擦を低減するためのコーティング層を形成してもよい。同様に、第1の前方座金110の第2端側や第2の円筒部材202側の表面にもコーティング層を設けてもよい。コーティング層としては、例えばダイアモンドライクカーボン(DLC)膜、ハードクロムめっき膜、窒化チタン膜、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素含有高分子の膜、あるいはエンジニアリングプラスチックの膜などが用いられる。一方、第1の前方座金110の第1端側の表面や第1の円筒部材102の外表面は、溶融亜鉛めっきや溶融アルミニウムめっきを施してもよい。
【0023】
3.第2のユニット
第2のユニット200は第1のユニット100の内部に全体または一部が挿入される。第2のユニット200も第1のユニット100と類似する構造を備えることができる。具体的には、第2のユニット200は、第1の円筒部材102の内径よりも小さい外径を有する第2の円筒部材202を備え、第1の円筒部材102から露出する一端(第1端)には、リング状の第2の前方座金210が設けられる。第2の前方座金210は、第2の円筒部材202に囲まれるように設けることができ、第2の円筒部材202の第1端の一部を塞ぐ。第2の前方座金210の開口は、第3のユニット300が第2のユニット200内でスライドして一部が第2のユニット200から露出するための開口として働く。図示しないが、第1のユニット100と同様、第2の前方座金210は第2の円筒部材202を囲まず、第2の円筒部材202の外径と同一または実質的に同一の外径を有してもよい。また、第2の前方座金210は、第2の円筒部材202と一体化されていてもよい。
【0024】
第2の円筒部材202の第1端側には、第3のユニット300を囲むリング状の第2の前方ばね座金212がさらに設けられる。第2の前方ばね座金212は、第2の前方座金210に対して第2端側に配置され、第2の前方座金210と接する。
【0025】
第1のユニット100と同様、第2の前方ばね座金212は、その外径が第2の前方座金210の外径よりも小さく、かつ、第2の円筒部材202の内径よりも小さくなるように構成される。このため、第2の前方ばね座金212と第2の円筒部材202の間には隙間が存在し、これらは互いに接しない。第2の前方ばね座金212と第2の円筒部材202の間の隙間も、後述する第2のスライディングプレート122がこれらの間に挿入できるように設定される。具体的には、1mm以上3mm以下または1mm以上2mm以下となるよう、第2の前方ばね座金212の外径と第2の円筒部材202の内径が設定される。また、第2の前方座金210の内径は、第2の前方ばね座金212の内径よりも大きい。このため、第2の前方ばね座金212が後述する第3の円筒部材302の外表面と接することになる。第2の前方座金210と第2の前方ばね座金212の内径の差も、第2のコイルばね142の線径にも依存するが、例えば1mm以上5mm以下または1mm以上3mm以下の範囲となるように第2の前方座金210と第2の前方ばね座金212を構成すればよい。
【0026】
第2のユニット200はさらに、第2の円筒部材202の第1端に対向する第2端側に第1のコイルばね140の一端を支持するためのリング状の第1の後方座金214が設けられる。第1の後方座金214は、第2の円筒部材202を囲むように設けられる。第1の後方座金214は、第1の円筒部材102の内面との間に隙間を有するように設けられる。任意の構成として、第2のユニット200はさらに、第1の後方座金214と接し、第1の後方座金214に対して第1端側に配置される第1の後方ばね座金216を備えてもよい。第1の後方ばね座金216も第2の円筒部材202を囲むように設けられる。第1の後方ばね座金216の外径は第1の後方座金214の外径よりも大きい。このため、第1の後方ばね座金216が第1の円筒部材102の内表面と接することになる。第1の後方座金214も第2の円筒部材202と一体化されていてもよい。
【0027】
第1のユニット100と同様、第2の円筒部材202、第2の前方座金210、第2の前方ばね座金212、第1の後方座金214、および第1の後方ばね座金216は、それぞれ鉄やアルミニウム、ステンレスなどの金属材料を含み、好ましくはステンレスを用いて形成される。第1の後方ばね座金216の第1端側と第1の円筒部材102側の表面、および第2の前方ばね座金212の第2端側と第3の円筒部材302側の表面は、第1のコイルばね140や第2のコイルばね142、第1の円筒部材102、第3の円筒部材302との摩擦を低減するためのコーティング層を形成してもよい。また、第2の円筒部材202の外表面にも摩擦低減のためのコーティング層を形成してもよい。一方、第1の後方座金214の第1端面側と第1の円筒部材102側の表面、第2の前方座金210の第2端側と第3の円筒部材302側の表面には、溶融亜鉛めっきや溶融アルミニウムめっきを施してもよい。
【0028】
第2の円筒部材202の第2端側の底面は、図2に示すように開口(図中、点線楕円)を有している。この開口には、後述する第2のスライディングプレート122を支持するためのリング状のフランジ218を設けてもよい。フランジ218は第2の円筒部材202から独立した部材でもよく、あるいは第2の円筒部材202または第1の後方座金214と一体化されていてもよい。
【0029】
4.第3のユニット
ここで示す第3のユニット300は、架空線との接続に用いられる第2のフック304が固定され、複数のユニットのうち最小の外径を有する部材である。第3のユニット300はチューブ状、または円柱状の形状を備える部材として第3の円筒部材302を有し、その一部が第2のユニット200の内部に挿入される。第3の円筒部材302の第2の円筒部材202から露出する一端(第1端)に第2のフック304が溶接またはボルト留めによって固定される。なお、第3の円筒部材302の第1端に対向する第2端側の底面にも開口が設けられる。
【0030】
第2のユニット200と同様、第3のユニット300も第3の円筒部材302の第2端側に第2のコイルばね142の一端を支持するためのリング状の第2の後方座金314が設けられる。第2の後方座金314は、第3の円筒部材302を囲むように設けられる。第2の後方座金314は、第3の円筒部材302と一体化されていてもよい。第2の後方座金314は、第2の円筒部材202の内面との間に隙間を有するように設けられる。任意の構成として、第3のユニット300はさらに、第2の後方座金314と接し、第2の後方座金314に対して第1端側に配置される第2の後方ばね座金316を備えてもよい。第2の後方ばね座金316も第3の円筒部材302を囲むように設けられる。第2の後方ばね座金316の外径は第2の後方座金314の外径よりも大きい。
【0031】
第1のユニット100や第2のユニット200と同様、第3の円筒部材302、第2の後方座金314、および第2の後方ばね座金316は、それぞれ鉄やアルミニウム、ステンレスなどの金属を含み、好ましくはステンレスを用いて形成される。第2の後方ばね座金316の第1端側や第2の円筒部材202側の表面には、第2のコイルばね142や第2の円筒部材202との摩擦を低減するための上記コーティング層を設けてもよい。一方、第3の円筒部材302の外表面、第2の後方座金314の第1端側や第2の円筒部材202側の表面には、溶融亜鉛めっきや溶融アルミニウムめっきを施してもよい。
【0032】
5.コイルばね
第1のユニット100と第2のユニット200の間、および第2のユニット200と第3のユニット300の間には、それぞれ第1のコイルばね140と第2のコイルばね142が配置される。第1のコイルばね140と第2のコイルばね142は、それぞれ第2の円筒部材202と第3の円筒部材302を囲むように配置される。このため、中心軸(x方向)に対して垂直な方向において、第1のコイルばね140は第1の円筒部材102と第2の円筒部材202に挟まれ、第2のコイルばね142は第2の円筒部材202と第3の円筒部材302に挟まれる。一方、x方向において第1のコイルばね140は第1の前方ばね座金112と第1の後方座金214に挟まれ、第2のコイルばね142は第2の前方ばね座金212と第2の後方座金314に挟まれる。第1の後方ばね座金216を配置する場合には、第1のコイルばね140は、x方向において第1の前方ばね座金112と第1の後方ばね座金216を介して第1の前方座金110と第1の後方座金214に挟まれる。同様に、第2の後方ばね座金316を配置する場合には、第2のコイルばね142は、x方向において第2の前方ばね座金212と第2の後方ばね座金316を介して第2の前方座金210と第2の後方座金314に挟まれる。
【0033】
6.スライディングプレート
テンションバランサ10にはさらに、第1のユニット100と第2のユニット200の間に複数の第1のスライディングプレート120が設けられるとともに、第2のユニット200と第3のユニット300の間に複数の第2のスライディングプレート122が設けられる。第1のスライディングプレート120と第2のスライディングプレート122は、いずれも鉄やアルミニウム、銅などの金属、または、ステンレスに代表される、これらの金属から選択される一つまたは複数を含有する合金を含む四角形の金属板であり、テンションバランサ10内では中心軸を中心として湾曲した状態で配置される(図3参照。)。すなわち、複数の第1のスライディングプレート120と複数の第2のスライディングプレート122は、テンションバランサ10内に配置された際、yz平面において円弧状の断面を与えるように湾曲する。
【0034】
第1のスライディングプレート120と第2のスライディングプレート122は、それぞれ端部が第1の前方ばね座金112と第1の円筒部材102の間の隙間および第2の前方ばね座金212と第2の円筒部材202の間の隙間に挿入できる厚さを有する。具体的には、第1のスライディングプレート120と第2のスライディングプレート122の各々は、0.5mm以上3mm以下、0.5mm以上2mm以下、または0.5mm以上1mm以下の厚さを有する。第1のスライディングプレート120と第2のスライディングプレート122のそれぞれの数に制約はなく、図3に示すようにそれぞれ2枚の第1のスライディングプレート120と第2のスライディングプレート122を配置してもよい。あるいは、それぞれ3枚以上の第1のスライディングプレート120と第2のスライディングプレート122を配置してもよい。また、図示しないが、第1のスライディングプレート120と第2のスライディングプレート122の数は互いに異なってもよい。
【0035】
図2図3から理解されるように、第1のスライディングプレート120の各々は、第1のコイルばね140と第1の円筒部材102の間に配置され、第1のコイルばね140と第1の円筒部材102に接し、かつ第1のコイルばね140の一部を覆うように設けられる。好ましくは、第1のコイルばね140のほぼ全体が複数の第1のスライディングプレート120によって囲まれるよう、複数の第1のスライディングプレート120を配置する。同様に、第2のスライディングプレート122の各々も第2のコイルばね142と第2の円筒部材202との間に配置され、第2のコイルばね142と第2の円筒部材202に接し、かつ、第2のコイルばね142の一部を覆うように設けられる。好ましくは、第2のコイルばね142のほぼ全体が複数の第2のスライディングプレート122によって囲まれるよう、複数の第2のスライディングプレート122を配置する。
【0036】
さらに、複数の第1のスライディングプレート120の各々は、図2に示すように、一方の辺を含む一部が第1の前方ばね座金112と第1の円筒部材102の間に挟まれるように配置され、この辺に対向する辺が蓋体106によって支持される。同様に、複数の第2のスライディングプレート122の各々は、一方の辺を含む一部が第2の前方ばね座金212と第2の円筒部材202の間に挟まれる。フランジ218を設ける場合には、上記辺に対向する辺がフランジ218によって支持される。
【0037】
複数の第1のスライディングプレート120と複数の第2のスライディングプレート122の各々がそれぞれ第1のコイルばね140と第2のコイルばね142と接触する面には、第1のコイルばね140と第2のコイルばね142との摩擦を低減するためのコーティング層を形成することができる。ここで用いられるコーティング層は、上述したコーティング層から選択すればよい。
【0038】
7.回転防止機構
第1のコイルばね140と第2のコイルばね142は、いずれも圧縮された状態でテンションバランサ10内に配置される。このため、第1のコイルばね140と第2のコイルばね142には自然長に戻る向きに復元力が働く。すなわち、x方向に伸びるように復元力が働く。このため、テンションバランサ10に何ら負荷がかかっていない状態では、第1の前方ばね座金112と第1の後方ばね座金216が互いに離れ、第2の前方ばね座金212と第2の後方ばね座金316が互いに離れるよう、テンションバランサ10がx方向において収縮する。一方、第1のフック104を支柱などに固定し、第2のフック304を架空線に接続すると、架空線の重量や収縮力が第2のフック304を介してテンションバランサ10に印加され、第3のユニット300や第2のユニット200が外側に引き出される。しかしながら、第1のコイルばね140と第2のコイルばね142には復元力が働いているため、テンションバランサ10内部方向へ引き込もうとする張力を常に架空線に印加することができる。このため、架空線を常に適正な張力で引張することができる。
【0039】
このように、テンションバランサ10内部では第1のコイルばね140と第2のコイルばね142が架空線から受ける張力によって伸縮する。第1のコイルばね140と第2のコイルばね142は、伸縮すると同時に捻じれるため、第1のスライディングプレート120や第2のスライディングプレート122に対し、中心軸周りに回転する力を与える。このような回転が生じると、第1のスライディングプレート120同士、または第2のスライディングプレート122同士が干渉し、破損する場合がある。あるいは、第1のスライディングプレート120同士、または第2のスライディングプレート122同士が重なり、その結果、第1の円筒部材102、第2の円筒部材202、および第3の円筒部材302の中心軸にずれが生じ、テンションバランサ10の伸縮時に大きな摩擦が発生する。
【0040】
このため、テンションバランサ10には、第1のスライディングプレート120と第2のスライディングプレート122の回転を規制するための回転防止機構が設けられる。この回転防止機構を、図4図5に示される模式的側面図、および図6(A)から図6(C)にそれぞれ示される模式的斜視図、側面図、正面図を用いて説明する。図4図5はテンションバランサ10を第1のフック104が設けられる第2端側から見た模式的側面図であり、ここでは、見やすさを考慮し、第1のフック104や補強部材108、蓋体106のみならず、第1のコイルばね140や第2のコイルばね142なども省略されている。
【0041】
図4に示すように、第1のスライディングプレート120の回転防止機構として、複数の第1のストッパ130が設けられる。より詳細には、隣接する二つの第1のスライディングプレート120の間に第1のストッパ130が配置される。複数の第1のストッパ130のそれぞれは、第1のスライディングプレート120のyz平面における端面が形成する円弧を円の一部とする円周上において、隣接する二つの第1のスライディングプレート120に挟まれる。換言すると、この円周上において、複数の第1のスライディングプレート120と複数の第1のストッパ130が交互する。複数の第1のストッパ130は、yz平面において互いに等距離になるように配置することが好ましい。例えば二つの第1のストッパ130-1、130-2が設けられる場合、図4に示すように、これらは中心軸Acに対して点対称となるように配置することが好ましい。
【0042】
同様に、第2のスライディングプレート122の回転防止機構として、複数の第2のストッパ132が設けられる。より詳細には、隣接する二つの第2のスライディングプレート122の間に第2のストッパ132が配置される。複数の第2のストッパ132のそれぞれは、第2のスライディングプレート122のyz平面における端面が形成する円弧を円の一部とする円周上において、隣接する二つの第2のスライディングプレート122に挟まれる。換言すると、この円周上において、複数の第2のスライディングプレート122と複数の第2のストッパ132が交互する。複数の第2のストッパ132も、yz平面において互いに等距離になるように配置することが好ましい。例えば二つの第2のストッパ132-1、132-2が設けられる場合、図4に示すように、これらは中心軸Acに対して点対称となるように配置することが好ましい。
【0043】
上述したように、第1のスライディングプレート120と第2のスライディングプレート122の数に制約はない。例えばそれぞれ4枚の第1のスライディングプレート120と第2のスライディングプレート122を設ける場合には、図5に示すように、上述した円周上において四つの第1のスライディングプレート120と四つの第1のストッパ130が交互し、四つの第2のスライディングプレート122と四つの第2のストッパ132が交互する。
【0044】
第1のストッパ130の詳細な構造を図6(A)から図6(C)を用いて説明する。これらの図に示すように、第1の前方ばね座金112の外周には切り欠き112aが設けられ、この切り欠き112a内に第1のストッパ130が配置される。より具体的には、第1のストッパ130は、第1の前方ばね座金112の中心から外周に向かう方向(以下、この方向を半径方向と呼ぶ。)において、切り欠き112aから突出する凸部である。第1のストッパ130は、第1の前方ばね座金112と一体化されてもよく、あるいは別部材として第1の前方ばね座金112に溶接またはボルト留めによって固定されてもよい。第1のストッパ130の高さh(半径方向における第1の前方ばね座金112からの長さ)は、切り欠き112aの深さd(半径方向における長さ)よりも大きい(図6(B)参照。)。第1のストッパ130は、第1の円筒部材102と接するように構成される(図4図5参照。)。また、第1のストッパ130の外表面(第1の前方ばね座金112に接する面に対向する面)は、第1の前方座金110の外周面と同一平面上に位置してもよい(図6(A)、図6(B)参照。)。
【0045】
図6(A)や図6(C)に示すように、第1のストッパ130は、一部がx方向に対して垂直な方向(例えばy方向)において第1の前方座金110と重なってもよい。すなわち、x方向において切り欠き112aと重なる切り欠きを第1の前方座金110の外周に設け、一部が第1の前方座金110の切り欠き内に配置するように第1のストッパ130を設けてもよい。この場合、第1のストッパ130は、第1の前方座金110と一体化されてもよく、あるいは別部材として第1の前方座金110に溶接またはボルト留めによって固定されてもよい。
【0046】
第1のストッパ130を設けることで、第1のスライディングプレート120が中心軸周りに回転しても(図6(B)における矢印参照)、第1のストッパ130と衝突し、回転が規制される。その結果、第1のスライディングプレート120同士の干渉が防止され、これに起因する破損や重なり合いを防止することができる。
【0047】
回転防止機構の構成は上述した構成に限られず、第1のスライディングプレート120の回転を規制可能であれば任意の構成を採用することができる。例えば図7(A)と図7(B)の模式的側面図と正面図に示すように、第1の前方ばね座金112に第1のストッパ130のための切り欠き112a(図6(A)から図6(C)参照。)を設けず、半径方向に向けて第1の前方ばね座金112の外周から突出する凸部112bを回転防止機構、すなわち、第1のストッパ130として利用してもよい。
【0048】
あるいは、図7(D)の模式的正面図とその鎖線C-C´に沿った端面の模式図(図7(C))に示すように、第1の円筒部材102を貫通し、x方向と直交する方向(例えばy方向)において第1の前方ばね座金112と重なるねじ136を第1のストッパ130として利用してもよい。このとき、第1の前方ばね座金112に切り欠き112aを設け(図6(A)から図6(C)参照。)、ねじ136の先端が切り欠き112a内に位置するようにねじ136を設けてもよい。なお、ねじ136を利用する場合には、第1の円筒部材102の一部に切り欠き102aを設け、切り欠き102aの内部にねじ136のヘッド部が収容されるように第1の円筒部材102を構成することが好ましい。図示しないが、第2の円筒部材202を貫通するねじ136を第2のストッパ132として利用する場合には、ねじ136のヘッド部を収容する切り欠きを第2の円筒部材202に設けることで、第1のコイルばね140との干渉を防止することができる。
【0049】
第2のストッパ132の構成は、第1のストッパ130のそれと同様であるため、説明は割愛する。
【0050】
上述したように、第1のストッパ130と第2のストッパ132を設けることで、第1のスライディングプレート120と第2のスライディングプレート122の回転を規制することができ、これらの間の干渉を防止することができる。これにより、テンションバランサ10の長寿命化や信頼性の増大が可能である。
【0051】
また、第1のスライディングプレート120や第2のスライディングプレート122がそれぞれ第1のコイルばね140と第2のコイルばね142と接する面には、コーティング層が形成されるため、第1のコイルばね140と第2のコイルばね142との間の摩擦が小さい。このため、ストローク-張力特性におけるヒステリシスが低減され、要求される張力の範囲内でストローク長を増大させることができる。
【0052】
なお、第1のスライディングプレート120や第2のスライディングプレート122を用いず、第1の円筒部材102や第2の円筒部材202の内表面にコーティング層を設けることでも、第1のコイルばね140と第2のコイルばね142との摩擦を低減し、ストローク長を増大させることができる。しかしながら、円筒状の部材の内表面にこのようなコーティング層を均一に形成することは必ずしも容易ではなく、製造コストの増大を招く。これに対し、第1のスライディングプレート120や第2のスライディングプレート122は平板状の金属板を加工して作製・配置されるので、コーティング層は第1のスライディングプレート120や第2のスライディングプレート122が平板状態にある時に形成すればよい。このため、低コストで第1のスライディングプレート120や第2のスライディングプレート122上にコーティング層を形成することができる。このことは、テンションバランサ10の製造コストの低減に寄与する。
【0053】
<第2実施形態>
第1実施形態では、主に二段式のテンションバランサ10、すなわち、第3のユニットに架空線を固定する第2のフック304が設けられたテンションバランサ10について説明したが、より多くの段数を有するテンションバランサについても本発明のコンセプトを適用することができる。本実施形態では、本発明の実施形態の一つとして三段式のテンションバランサ12について説明する。第1実施形態で述べた構成と同一または類似する構成については、説明を割愛することがある。
【0054】
テンションバランサ12の模式的端面図を図8に示す。図8図2に対応する端面図である。図8に示すように、第3のユニット300は第1実施形態の第2のユニット200と同様の機能を有し、第3の円筒部材302の一方の端部(第1端)側に第3の前方座金310と第3の前方ばね座金312が設けられる。第3の前方座金310と第3の前方ばね座金312の構成は、それぞれ第1実施形態の第2の前方座金210と第2の前方ばね座金212と同様の構成であるため、説明は割愛する。
【0055】
テンションバランサ12はさらに、第3の円筒部材302内に一部が挿入される第4のユニットを有しており、第4のユニットは第1実施形態の第3のユニットと類似する構造を有する。すなわち、第4のユニットは、第3の円筒部材302の内径よりも小さい外径を有する第4の円筒部材402を備え、第3の円筒部材302から露出する端部(第1端)側に架空線側取付部材(第3のフック)404が直接または間接的に取り付けられる。第4の円筒部材402の第1端に対向する第2端側には第3の後方座金414が設けられ、さらに第3の後方座金414の第1端側に第3の後方ばね座金416を設けてもよい。第4の円筒部材402、第3の後方座金414、および第3の後方ばね座金416は、それぞれ第1実施形態の第3の円筒部材302、第2の後方座金314、および第2の後方ばね座金316と同様の構成であるため、説明は割愛する。
【0056】
テンションバランサ12には、第1のコイルばね140と第2のコイルばね142に加え、第3の円筒部材302と第4の円筒部材402の間に設けられる第3のコイルばね144が配置される。また、第3のコイルばね144と第3の円筒部材302の間には第3のスライディングプレート124が設けられる。第3のコイルばね144と第3のスライディングプレート124の構成は、それぞれ第2のコイルばね142と第2のスライディングプレート122と同様であるため、説明は割愛する。
【0057】
詳細な説明は省略するが、テンションバランサ12にも第3のスライディングプレート124の回転を規制するための回転防止機構が設けられる。また、第3のスライディングプレート124の第3のコイルばね144に接する面には、コーティング層を設けることができる。このため、第3のコイルばね144と第3のスライディングプレート124間の摩擦は小さく、これに起因してストローク-張力特性におけるヒステリシスを低減し、要求される張力の範囲内でストローク長を増大させることができる。また、回転防止機構が設けられるため、第3のスライディングプレート124同士の接触やそれに起因する破損や重なり合いを防止することができる。このことは、テンションバランサの長寿命化や信頼性の増大にも寄与する。
【0058】
<第3実施形態>
本実施形態では、第1のスライディングプレート120または第2のスライディングプレート122の変形例について説明する。第1、第2実施形態で述べた構成と同一または類似する構成については、説明を割愛することがある。
【0059】
第1実施形態で述べたテンションバランサ10には、複数の第1のスライディングプレート120と複数の第2のスライディングプレート122が配置される。一方、本実施形態のテンションバランサでは、第1のスライディングプレート120と第2のスライディングプレート122のうち少なくとも一方が単一である。以下、単一の第1のスライディングプレート120が用いられる態様について説明する。
【0060】
図9(A)に示すように、単一の第1のスライディングプレート120を用いる場合、元来平板状の第1のスライディングプレート120を湾曲させ、湾曲した状態で互いに対向する辺の間にギャップ120aが形成されるように加工する。このギャップ120aに第1のストッパ130が配置されるように第1のスライディングプレート120を第1の円筒部材102と第1のコイルばね140の間に配置すればよい。
【0061】
あるいは図9(B)に示すように、ギャップ120aとともに、またはギャップ120aに替えて一つまたは複数の貫通孔120bを第1のスライディングプレート120に設けてもよい。この貫通孔120bに第1のストッパ130が配置されるように第1のスライディングプレート120を第1の円筒部材102と第1のコイルばね140の間に配置すればよい。図9(B)に示す例では、貫通孔120bはギャップ120aの近傍に配置されているが、貫通孔120bの位置に制約はなく、例えば中心軸に対して点対称となるように配置してもよく、あるいは中心軸から半径方向に放射状に伸びる複数の直線と交差する位置に貫通孔120bを配置してもよい。この場合、任意に選択される隣接する二つの直線間の角度は、互いに同一または実質的に同一であることが好ましい。
【0062】
あるいは、図10に示すように、ギャップ120aとともに、またはギャップ120aに替えて一つまたは複数の切り欠き120cを第1のスライディングプレート120に設けてもよい。この切り欠き120cに第1のストッパ130が配置されるように第1のスライディングプレート120を第1の円筒部材102と第1のコイルばね140の間に配置すればよい。切り欠き120cの配置は、貫通孔120bの配置と同様に行えばよい。
【0063】
あるいは、図11(A)と図11(B)に示すように、第1のスライディングプレート120は、yz平面において閉じた円形状の端面を与えるチューブ(スライディングチューブ)でもよい。この場合、第1のスライディングプレート120には、第1のストッパ130を配置するための一つまたは複数の切り欠き120dまたは貫通孔120eが設けられる。切り欠き120dや貫通孔120eの配置は、貫通孔120bの配置と同様に行えばよい。
【0064】
切り欠き120cまたは120dが形成された第1のスライディングプレート120の回転を規制する回転防止機構として、第1実施形態で述べた第1のストッパ130を用いることができる。具体的には、図12(A)から図12(C)の模式的斜視図、端面図、正面図に示されるように、例えば第1の前方ばね座金112の外周に切り欠き112aを設け、切り欠き112aから半径方向に突出する凸部を第1のストッパ130として配置する。第1のスライディングプレート120は、半径方向(すなわち、x方向に直交する方向)において切り欠き120cまたは120dが第1のストッパ130と重なるように第1の円筒部材102と第1のコイルばね140の間に配置される。これにより、第1のスライディングプレート120の中心軸を中心とする回転が規制される。
【0065】
第2のスライディングプレート122に対しても第1のスライディングプレート120と同様の構成を適用することができるため、説明は割愛する。
【0066】
以上述べたように、本発明の実施形態の一つに係るテンションバランサでは、表面にコーティング層が形成された一つまたは複数のスライディングプレートが隣接するユニット間に設けられる。このため、低コストでテンションバランサを提供することができるだけでなく、テンションバランサが伸縮する際のコイルばねと円筒部材間の摩擦が低減される。その結果、ストローク-張力特性におけるヒステリシスが低減され、要求される張力の範囲内でストローク長を増大させることができる。また、スライディングプレートの回転を規制する回転防止機構が搭載されるため、スライディングプレートの破損や重なり合いを防止することができ、長寿命で信頼性の高いテンションバランサの提供が可能となる。
【0067】
本発明の実施形態として上述した各実施形態は、相互に矛盾しない限りにおいて、適宜組み合わせて実施することができる。また、各実施形態を基にして、当業者が適宜構成要素の追加、削除もしくは設計変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【0068】
また、上述した各実施形態によりもたらされる作用効果とは異なる他の作用効果であっても、本明細書の記載から明らかなもの、または、当業者において容易に予測し得るものについては、当然に本発明によりもたらされるものと理解される。
【符号の説明】
【0069】
10:テンションバランサ、12:テンションバランサ、100:第1のユニット、102:第1の円筒部材、102a:切り欠き、104:第1のフック、106:蓋体、108:補強部材、110:第1の前方座金、112:第1の前方ばね座金、112a:切り欠き、112b:凸部、114:U字棒、116:カラー、120:第1のスライディングプレート、120a:ギャップ、120b:貫通孔、120c:切り欠き、120d:切り欠き、120e:貫通孔、122:第2のスライディングプレート、124:第3のスライディングプレート、130:第1のストッパ、130-1:第1のストッパ、130-2:第1のストッパ、132:第2のストッパ、132-1:第2のストッパ、132-2:第2のストッパ、136:ねじ、140:第1のコイルばね、142:第2のコイルばね、144:第3のコイルばね、200:第2のユニット、202:第2の円筒部材、210:第2の前方座金、212:第2の前方ばね座金、214:第1の後方座金、216:第1の後方ばね座金、218:フランジ、300:第3のユニット、302:第3の円筒部材、304:第2のフック、310:第3の前方座金、312:第3の前方ばね座金、314:第2の後方座金、316:第2の後方ばね座金、402:第4の円筒部材、404:第3のフック、414:第3の後方座金、416:第3の後方ばね座金
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