(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-21
(45)【発行日】2025-05-29
(54)【発明の名称】通気性を有する硬質ポリウレタンフォーム形成用組成物及び硬質ポリウレタンフォーム
(51)【国際特許分類】
C08G 18/00 20060101AFI20250522BHJP
C08G 18/40 20060101ALI20250522BHJP
C08G 18/48 20060101ALI20250522BHJP
C08G 101/00 20060101ALN20250522BHJP
【FI】
C08G18/00 L
C08G18/40
C08G18/48 083
C08G101:00
(21)【出願番号】P 2022538764
(86)(22)【出願日】2020-12-17
(86)【国際出願番号】 EP2020086607
(87)【国際公開番号】W WO2021130092
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-12-14
(32)【優先日】2020-02-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515266223
【氏名又は名称】コベストロ、ドイチュラント、アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】COVESTRO DEUTSCHLAND AG
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西川 新治
(72)【発明者】
【氏名】佐渡 信一郎
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-060414(JP,A)
【文献】特開2007-106881(JP,A)
【文献】特開昭49-105899(JP,A)
【文献】特開昭49-006093(JP,A)
【文献】特開2006-241312(JP,A)
【文献】特表2007-528434(JP,A)
【文献】特開2021-101006(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00-18/87
C08G101/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオール成分と、ポリイソシアネート成分と、分子内に親水基を有さない非水溶性の油とを含
み、
前記分子内に親水基を有さない非水溶性の油は、機械油、燃料油、切削油及び絶縁油からなる群より選択される少なくとも1種の油であり、
前記分子内に親水基を有さない非水溶性の油の含有量は、0.01質量%~1.0質量%である硬質ポリウレタンフォーム形成用組成物。
【請求項2】
前記ポリオール成分が、該ポリオール成分に対して60質量%以下の量でシュガーベースポリオールを含む、請求項1に記載の硬質ポリウレタンフォーム形成用組成物。
【請求項3】
前記シュガーベースポリオールの官能基数が4~8である、請求項2に記載の硬質ポリウレタンフォーム形成用組成物。
【請求項4】
前記ポリオール成分が、該ポリオール成分に対して60質量%以下の量で、官能基数が5~6である多価アルコールに基づくポリオールを含む、請求項1に記載の硬質ポリウレタンフォーム形成用組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の硬質ポリウレタンフォーム形成用組成物から形成される硬質ポリウレタンフォーム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通気性を有する硬質ポリウレタンフォーム形成用組成物、及び該組成物の成形物である硬質ポリウレタンフォームに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリウレタンフォームは、軟質ポリウレタンフォームと硬質ポリウレタンフォームとに大別されている。軟質ポリウレタンフォームは、連続気泡(open cell)のセル構造を有し、柔らかくて復元性のあるポリウレタンフォームであり、衝撃吸収性に優れる。また、軟質ポリウレタンフォームは、そのセル構造により、通気性が高く、吸音特性を有している。一方、硬質ポリウレタンフォームは、独立気泡(closed cell)のセル構造を有し、断熱性能に優れたポリウレタンフォームである。
【0003】
軟質ポリウレタンフォーム及び硬質ポリウレタンフォームは、そのセル構造の違いから、特性及び用途は異なるものであったが、硬質ポリウレタンフォームのうち、特に硬質ポリイソシアヌレートフォームには、独立気泡のセル構造を有するもので、衝撃吸収フォームとしての特性を有するものも提案されている。しかし、吸音特性については、連続気泡のセル構造により通気性を向上させることが重要である。通気性を有する硬質ポリウレタンフォームを得るには、依然として改善の余地があった(特許文献1~5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2018-522100号
【文献】特表2011-529983号
【文献】特開平10-36475号
【文献】特表2012-520915号
【文献】特開平11-181045号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、上記従来技術の問題を解決するために、通気性を有する硬質ポリウレタンフォーム形成用組成物を提供することを目的とする。また、本発明は、この組成物より形成される通気性を有する硬質ポリウレタンフォームを提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討を行った結果、硬質ポリウレタンフォームの処方において、分子内に親水基を有さない非水溶性の油、例えばシリコーンオイル、機械油、燃料油、切削油及び絶縁油からなる群より選択される少なくとも1種の油を用いることで、セルが破泡し、通気性を有する硬質ポリウレタンフォームが得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0007】
本発明者は、さらに、硬質ポリウレタンフォームの圧縮強度を改善させることについて検討を進めたところ、ポリオール成分に一定量のシュガーベースポリオールを含有させることにより、優れた通気性を維持しながら、通気性と圧縮強度とのバランスがより優れた硬質ウレタンフォームを形成することができることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明の硬質ポリウレタンフォーム形成用組成物は、ポリオール成分と、ポリイソシアネート成分と、分子内に親水基を有さない非水溶性の油とを含む。この組成物は、物理的発泡剤、水及びこれらの組合せからなる群より選択される発泡剤を更に含むことが好ましく、非水溶性の油の含有量は、組成物に対して0.01質量%~1.0質量%である。
【0009】
本発明の硬質ポリウレタンフォーム形成用組成物の好ましい実施の形態においては、ポリオール成分は、該ポリオール成分に対して60質量%以下の量でシュガーベースポリオールを含む。
【0010】
本発明の硬質ポリウレタンフォーム形成用組成物の他の好ましい実施の形態においては、シュガーベースポリオールの官能基数が4~8である。
【0011】
本発明の硬質ポリウレタンフォーム形成用組成物の他の好ましい実施の形態においては、ポリオール成分は、該ポリオール成分に対して60質量%以下の量で、官能基数が5~6である多価アルコールに基づくポリオールを含む。
【0012】
また、本発明の硬質ポリウレタンフォームは、上記の硬質ポリウレタンフォーム形成用組成物より形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の硬質ポリウレタンフォーム形成用組成物によれば、通気性に優れ、好ましくは通気性と圧縮強度とのバランスが良好な硬質ポリウレタンフォームを形成可能な組成物を提供することができる。さらに、本発明の硬質ポリウレタンフォームによれば、上記組成物より形成された通気性に優れ、好ましくは通気性と圧縮強度とのバランスが良好な硬質ポリウレタンフォームを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の硬質ポリウレタンフォーム形成用組成物(以下、単に「本発明の組成物」ともいう)を詳細に説明する。本発明の組成物は、ポリオール成分と、ポリイソシアネート成分と、分子内に親水基を有さない非水溶性の油と、必要に応じて架橋剤と、触媒と、発泡剤等とを含む組成物であって、硬質ポリウレタンフォームの形成に用いる組成物である。また、本発明の組成物は、硬質ポリウレタンフォームの原料組成物と称することもできる。
【0015】
本発明の組成物に用いるポリオール成分は、複数の水酸基を有する化合物であり、重合体のポリオールであることが好ましい。その具体例としては、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルエーテルポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール、ポリラクトンポリオール、ポリブタジエンポリオール、ポリマーポリオール、シリコーンポリオール等が挙げられる。これらポリオール成分は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ポリオール成分は、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルエーテルポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール及びこれらの2種以上の組合せから選択されることが特に好ましい。ポリオール成分は、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルエーテルポリオール、ポリエステルポリカーボネートポリオール及びこれらのポリオールの2種以上の組合せから選択され、ここで、ポリエーテルポリオールが脂肪族ポリエーテルポリオールである、及び/又は、ポリエーテル成分がベンジルエーテルを含まないことが最も好ましい。
【0016】
ポリオール成分のうち、ポリエーテルポリオールの例としては、環状エーテルの重付加物、多価アルコールの縮合物等が挙げられる。ここで、環状エーテルの例としては、スチレンオキサイド、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、テトラヒドロフラン、ブチレンオキサイド、エピクロロヒドリン等が挙げられる。これらの環状エーテルは、単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。また、多価アルコールの例としては、エタンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、1,2-プロパンジオール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、1,4-ジヒドロキシシクロヘキサン、1,4-ジメチロールシクロヘキサン、1,8-オクタンジオール、1,10-デカンジオール及び1,12-ドデカンジオール等のジオール、トリメチロールプロパン及びグリセロール等の官能基数3の多価アルコール、ペンタエリスリトール及びエチレンジアミン等の官能基数4の多価アルコール又はアミン、ジエチレントリアミン等の官能基数5のアミン、ソルビトール等の官能基数6の多価アルコール、並びにスクロース等の官能基数8の多価アルコールが挙げられる。これらの多価アルコールは、単独で用いてもよく、組み合わせて用いてもよい。例えば、テトラヒドロフランの重付加物は、ポリテトラメチレンエーテルグリコール(PTMG)として知られている。
【0017】
ポリエステルポリオールは、ポリエステルの製造条件を調整して製造することができ、その例としては、主鎖の両末端に水酸基を有するポリエステルが挙げられ、より具体的には、直鎖状のポリエステルポリオール、わずかに分岐したポリエステルポリオール等が挙げられる。ポリエステルポリオールは、脂肪族、脂環式又は芳香族のジカルボン酸類と、ジオールと、任意に多価カルボン酸類及び/又は三官能性以上のポリオールとを使用して、既知の方法で調製することができる。
【0018】
ポリラクトンポリオールは、ε-カプロラクトン、β-ブチロラクトン、γ-ブチロラクトン、γ-バレロラクトン及びδ-バレロラクトン等のラクトンのホモポリマー又はコポリマーであり、その例としては、主鎖の両末端に水酸基を有するポリラクトン等が挙げられる。
【0019】
ポリカーボネートポリオールは、ポリカーボネートの製造条件を調整して製造することができ、その例としては、主鎖の両末端に水酸基を有するポリカーボネート等が挙げられる。また、ポリブタジエンポリオールの例としては、主鎖の両末端に水酸基を有するポリブタジエン等が挙げられる。ポリマーポリオールの例としては、ポリエーテルポリマー中でアクリルニトリル及びスチレン等のビニル単量体を重合して得られるもの等が挙げられる。シリコーンポリオールの例としては、主鎖の両末端に水酸基を有するポリシロキサン等が挙げられる。
【0020】
ポリオール成分は、水酸基価が30mgKOH/g~700mgKOH/gであることが好ましく、35mgKOH/g~630mgKOH/gであることが更に好ましい。水酸基価とは、試料1g中の遊離水酸基を無水酢酸で完全にアセチル化した後、それを中和するのに要する水酸化カリウムのmg数である(JIS K 1557 2007参照)。
【0021】
ポリオール成分の官能基数(fn)は3個~6個が好ましく、3個~5個が更に好ましい。ポリオール1分子当たりの官能基数(fn)は、ポリオールの持つ水酸基価(OHV)と数平均分子量(Mn)とから次の計算式により求められる。
n=Mn(g/mol)×OHV(mgKOH/g)/56110
【0022】
本発明の組成物中において、ポリオール成分の含有量は、後述するように、ポリイソシアネート成分の量に応じて適宜調整されるが、10質量%~50質量%であることを例示することができ、15質量%~40質量%であることが好ましい。
【0023】
本発明の組成物に用いるポリオール成分は、シュガーベースポリオールを含むことが好ましく、該ポリオール成分に対して60質量%以下の量でシュガーベースポリオールを含むことがより好ましく、40重量%以下の量でシュガーベースポリオールを含むことが更に好ましく、該ポリオール成分に対して10質量%以上の量でシュガーベースポリオールを含むことがより好ましく、20質量%以上の量でシュガーベースポリオールを含むことが更に好ましい。ポリオール成分に一定量のシュガーベースポリオールを含有させることにより、通気性と圧縮強度とのバランスが良好な硬質ウレタンフォームを形成することができる。
【0024】
本発明におけるシュガーベースポリオールは、官能基数が4~8である糖類、例えばスクロース等の多価アルコールを開始剤として用いて、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、ブチレンオキサイド等の1種以上を付加重合して得られるポリエーテルポリオールである。
【0025】
また、一般的にシュガーベースポリオールは高粘度であるため、粘度調整用にグリコール等が添加されたものを含む。
【0026】
シュガーベースポリオールは、水酸基価が200mgKOH/g~500mgKOH/gであることが好ましく、300mgKOH/g~460mgKOH/gであることが更に好ましい。
【0027】
本発明の組成物に用いるポリオール成分は、ソルビトール等の糖アルコールのような、官能基数が5~6である多価アルコールに基づくポリオールを含むことが好ましい。ポリオール成分は、該ポリオール成分に対して60質量%以下の量で上記多価アルコールを含むことがより好ましく、40質量%以下の量で上記多価アルコールを含むことが更に好ましく、該ポリオール成分に対して10質量%以上の量で上記多価アルコールを含むことがより好ましく、20質量%以上の量で上記多価アルコールを含むことが更に好ましい。ソルビトール等の糖アルコールのような、官能基数が5~6である多価アルコールに基づくポリオール、特に好ましくはソルビトールを多価アルコールとして含むポリエーテルポリオールは、シュガーベースポリオールのように、通気性と圧縮強度とのバランスを改善させることができる。
【0028】
官能基数が5~6である多価アルコールに基づくポリオールは、水酸基価が100mgKOH/g~600mgKOH/gであることが好ましく、200mgKOH/g~500mgKOH/gであることが更に好ましい。
【0029】
シュガーベースポリオールの官能基数(fn)は、4個~8個が好ましく、4.5個~6.5個が更に好ましい。
【0030】
本発明の組成物に用いるポリイソシアネート成分は、複数のイソシアネート基を有する化合物である。その例としては、脂肪族、脂環式、芳香族又は芳香脂肪族のポリイソシアネートが挙げられ、また、これらのポリイソシアネートの変性物も含まれる。変性ポリイソシアネートの例としては、ウレトジオン、イソシアヌレート、ウレタン、ウレア、アロファネート、ビウレット、カルボジイミド、イミノオキサジアジンジオン、オキサジアジントリオン又はオキサゾリドン等の構造を有するポリイソシアネートが挙げられる。さらに、ポリイソシアネート成分として、ポリオールとポリイソシアネートとを反応させて得られるイソシアネート基含有プレポリマーを使用してもよい。
【0031】
上記ポリイソシアネート成分のうち、脂肪族ポリイソシアネートとしては、炭素数2~18の脂肪族ジイソシアネートが好ましく、具体例としては1,6-ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート等が挙げられる。脂環式ポリイソシアネートとしては、炭素数4~16の脂環式ジイソシアネートが好ましく、具体例としてはイソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’-ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、ノルボルナンジイソシアネート等が挙げられる。芳香族ポリイソシアネートの例としては、1,3-及び/又は1,4-フェニレンジイソシアネート、2,4-及び/又は2,6-トリレンジイソシアネート(TDI)、ポリメリックTDI(粗製TDI又はクルードTDIともいう)、2,4’-及び/又は4,4’-ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ポリメチレンポリフェニルイソシアネート(粗製MDI又はポリメリックMDIともいう)、ポリアリールポリイソシアネート(PAPI)等が挙げられる。これらのポリイソシアネート成分は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0032】
ポリイソシアネート成分は、イソシアネート基含有率が20質量%~40質量%であることが好ましく、25質量%~35質量%であることが更に好ましい。本明細書において、イソシアネート基含有率は、JIS K 1603に準拠して求められる。
【0033】
本発明の組成物中において、ポリイソシアネート成分の含有量は、イソシアネートインデックスが好ましくは80~500、更に好ましくは100~250、更により好ましくは150~250となる量である。本明細書において、イソシアネートインデックスとは、ポリオール成分、発泡剤(カルボン酸又は水)等のイソシアネート基と反応する活性水素の合計に対するポリイソシアネート成分のイソシアネート基の比に100を乗じた値である。
【0034】
本発明の組成物は、ポリイソシヌレート形成に用いる組成物であることができ、ポリイソシアヌレートフォームの原料組成物と称することもできる。
【0035】
ポリイソシアヌレートフォームは、ポリウレタンフォームと同様にポリオールとポリイソシアネートとから得られる樹脂系フォームであり、ウレタン結合を有する重合体を含むものである。一方、ポリイソシアヌレートフォームは、一定の割合以上にイソシアヌレート環構造を含むことから、ポリウレタンフォームと区別される。イソシアネートの三量化反応により生成されるイソシアヌレート環は、ウレタン結合を有する重合体に結合しているが、その一部がウレタン結合を有する重合体に結合していない三量体そのものとしてポリイソシアヌレートフォーム中に存在していてもよい。ポリウレタンフォームを構成する樹脂をウレタン樹脂と称するのに対して、ポリイソシアヌレートフォームを構成する樹脂をポリイソシアヌレート樹脂とも称する。
【0036】
本明細書において、ポリイソシアヌレートフォームとは、イソシアネートインデックスが150以上で、三量化触媒を使用するものを指す。
【0037】
本発明の組成物は、分子内に親水基を有さない非水溶性の油を含む。この油を硬質ポリウレタンフォームに用いることで、通気性を改善することができる。
【0038】
ここで、親水基としては、界面活性効果を発生させない親水基が挙げられ、その例としては、水酸基、カルボニル基、アルデヒド基、カルボキシル基、エーテル基(ポリシロキサンは除く)、エステル基、アミノ基、ニトロ基、ニトリル基、酸無水物等が挙げられる。
【0039】
「非水溶性」という用語は、水と混合すると、分離して水層と油層とを形成する疎水性の高い性質を意味する。
【0040】
分子内に親水基を有さない非水溶性の油は、表面張力が低く、泡立っている液体に対して均一に拡散するため、泡の表面に接しやすくなる。また、これらの油はポリオール成分、イソシアネート成分及び水に対して溶解性が低いことから、油と接した泡の表面は局所的に表面張力が低下し、この部分が油に触れていない表面張力の大きい部分に引っ張られて、破泡し、通気性を有するフォームを形成することができると考えられる。
【0041】
泡を形成している液体(ポリオール成分、イソシアネート成分、水)に上記油が溶解してしまうと、液体の表面張力が均一になり、泡立ちがよくなり、整泡されてしまうため、本発明の効果が得られないと考えられ、すなわち、本発明の油は界面活性効果を有さないことが望ましい。
【0042】
さらに、本発明の油の表面張力は低いことが好ましく、35mN/m以下であることが好ましい。
【0043】
本発明の組成物は、シリコーンオイル、機械油、燃料油、切削油及び絶縁油からなる群より選択される少なくとも1種の油を含むことができる。
【0044】
シリコーンオイルは、無色透明の液体で、直鎖構造を有し、オイル状の性質を示す。シリコーンオイルは、化学的に安定で温度による粘度変化も少ない。
【0045】
機械油は、潤滑油、グリース等であるが、その具体的としては、真空ポンプ用オイル、油圧作動油、タービン油、コンプレッサー油、歯車油、摺動面油、軸受油、キャリブレーション油、工作機械油、コンプレッサー油等が挙げられる。
【0046】
切削油は、油性切削油であることが好ましく、具体的には、JIS K2241-2000に規定されているものが挙げられる。絶縁油としては、JIS C 2320に規定されている絶縁油が挙げられる。
【0047】
上記油はいずれも、それらの用途に使用された結果劣化して、いわゆる廃油の状態になっても、本発明の組成物における油として使用することができる。
【0048】
本発明の油としては、ポリジメチルシロキサンから構成されるシリコーンオイルが好ましく、又は石油系炭化水素から構成される鉱物油が好ましい。
【0049】
本発明の組成物中において、上記油の含有量は、0.01質量%~1.0質量%であることが好ましい。
【0050】
本発明の組成物は、発泡剤を含むことが好ましく、物理的発泡剤、水及びこれらの組合せからなる群より選択される発泡剤を含むことがより好ましい。発泡剤は、一般的に、物理的発泡剤と化学的発泡剤とに分類される。物理的発泡剤の具体例としては、クロロフルオロカーボン(CFC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)及びハイドロフルオロカーボン(HFC)等のフロン類、ハイドロフルオロオレフィン(HFO)、ヘプタン、ヘキサン及びペンタン等の炭化水素、二酸化炭素等が挙げられる。一方、化学的発泡剤の例としては、水、ギ酸、酢酸、グルタル酸及びコハク酸等のカルボン酸等が挙げられる。本発明の発泡剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。物理的発泡剤と水とを併用してもよく、好ましくは、物理的発泡剤と水とを併用することができる。ポリウレタンフォーム組成物において、発泡剤の含有量は、例えば1質量%~20質量%である。本発明の組成物に用いる発泡剤は、好ましくは水である。
【0051】
本発明の組成物は、触媒を含むことが好ましい。触媒の例としては、水とイソシアネートとの反応を促進する泡化触媒、ポリールとイソシアネートとの反応を促進する触媒(樹脂化触媒)、イソシアネートの三量化反応(すなわち、イソシアヌレート環の形成)を促進する触媒(三量化触媒)等が挙げられる。
【0052】
泡化触媒の例としては、ジモルホリン-2,2-ジエチルエーテル、N,N,N’,N’’,N’’-ペンタメチルジエチレントリアミン、ビス(ジメチルアミノエチル)エーテル、2-(2-ジメチルアミノエトキシ)エタノール等が挙げられる。
【0053】
樹脂化触媒の例としては、トリエチレンジアミン、N,N-ジメチルシクロヘキシルアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’’,N’’’,N’’’-ヘキサメチルトリエチレンテトラミン、N-ジメチルアミノエチル-N’-メチルピペラジン、N,N,N’,N’-テトラメチルヘキサメチレンジアミン、1,2-ジメチルイミダゾール、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン及びビス(ジメチルアミノプロピル)アミン等のアミン触媒、N,N-ジメチルアミノエタノール、N,N,N’-トリメチルアミノエチルエタノールアミン、N,N,N’-トリメチル-N’-ヒドロキシエチルビスアミノエチルエーテル、N-(3-ジメチルアミノプロピル)-N,N-ジイソプロパノールアミン、N-(2-ヒドロキシエチル)-N’-メチルピペラジン、N,N-ジメチルアミノヘキサノール及び5-ジメチルアミノ-3-メチル-1-ペンタノール等のアルカノールアミン触媒等が挙げられる。
【0054】
三量化触媒の例としては、2,4,6-トリス(ジアルキルアミノアルキル)ヘキサヒドロ-S-トリアジン、1,3,5-トリス(N,N-ジメチルアミノプロピル)ヘキサヒドロ-S-トリアジン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、2,4-ビス(ジメチルアミノメチル)フェノール及び1-イソブチル-2-メチルイミダゾール等の芳香族化合物、酢酸カリウム、2-エチルヘキサン酸カリウム及びオクチル酸カリウム等のカルボン酸アルカリ金属塩、カルボン酸の4級アンモニウム塩、又はその他オニウム塩等が挙げられる。
【0055】
また、触媒は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ポリウレタンフォーム組成物において、触媒の含有量は、ポリウレタンフォーム組成物の反応性に応じて適宜調整されるが、例えば0.1質量%~1質量%である。
【0056】
本発明の組成物は、架橋剤を含むことが好ましい。架橋剤の例としては、1,4-ブタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール及びグリセリン等の多価アルコール、並びにエタノールアミン類及びポリエチレンポリアミン類等のアミンが挙げられる。架橋剤の含有量は、0.5質量%~5.0質量%であることが好ましい。
【0057】
本発明の組成物には、その他の成分として、各種顔料及び着色剤、充填材、酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤、光安定剤、可塑剤、防かび剤、抗菌剤、工業用カシューナッツ殻液、溶媒、減粘剤、減圧剤、難燃剤、整泡剤等を必要に応じて適宜配合してもよい。これらの成分としては、市販品を好適に使用することができる。
【0058】
本発明の組成物は、必要に応じて適宜選択される各種成分を混合することによって調製することができる。例えば、ポリオール成分、架橋剤、触媒、発泡剤、油等を含むポリオール混合物と、ポリイソシアネート成分とを混合することで、本発明の組成物を調製することができる。本発明の組成物を調製する際において、ポリイソシアネート成分は、単独で用いてもよく、他の成分との混合物として用いてもよい。
【0059】
本発明の硬質ポリウレタンフォームの発泡方法は、特に限定されず、既知の発泡手段、例えば、ハンドミキシング発泡、簡易発泡、注入法、フロス注入法、スプレー法等を使用することができる。また、ポリイソシアヌレートフォームの成形方法も、特に限定されず、既知の成形手段、例えば、モールド成形、スラブ成形、ラミネート成形、現場発泡成形等を使用することができる。
【0060】
本発明の硬質ポリウレタンフォームは、船舶、車両、プラント類、断熱機器、建築、土木、家具及びインテリア等の各種用途に使用することができるが、通気性に優れることから、自動車の内装部品、特に通気性を有する衝撃吸収部材として好適に使用することができる。
【0061】
本発明の硬質ポリウレタンフォームは、密度が20kg/m3~120kg/m3であることが好ましく、25kg/m3~80kg/m3であることが更に好ましい。本明細書において、硬質ウレタンフォームの密度は、JIS K 7222:1999に準拠して測定される。
【0062】
密度と圧縮強度とには相関があり、高密度になるほど、圧縮強度は高くなる。衝撃吸収フォームの場合、使用部位により求められる圧縮強度が違い、密度を変えることで対応することができる。
【0063】
本発明の硬質ポリウレタンフォームは、通気性が0.01L/秒~3.00L/秒であることが好ましく、0.1L/秒以上であることが更に好ましい。本明細書において、硬質ウレタンフォームの通気性は、JIS K6400-7A法(負圧式)に準拠して測定される。
【0064】
一般的に通気性が良い方が吸音特性はよく、通気性が全く無ければ吸音しない。
【0065】
吸音のメカニズムは多孔質材料のウレタンフォームに対し空気伝搬によって音があたると、ウレタン材料内部の気泡部分に音の振動が伝わり、その気泡内では伝わった音の振動によって空気の粘性摩擦現象が起こり、入射した音のエネルギーを熱エネルギーに変換させることで吸音作用が生じる。
【0066】
本発明の硬質ポリウレタンフォームは、圧縮強度が150N~1200Nであることが好ましく、200N以上であることが更に好ましい。本明細書において、硬質ウレタンフォームの圧縮強度は、JIS K 6400-7:2012に準拠して測定される。
【0067】
本発明の硬質ウレタンフォームは、吸音率が周波数800Hz~4000Hzにおける平均値として30%以上であることが好ましく、40%以上であることが更に好ましい。本明細書において、硬質ウレタンフォームの吸音特性は、日本音響エンジニアリング社製の垂直入射吸音率測定システム(Win ZacMTX)を用いて測定する。
【実施例】
【0068】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0069】
1.材料
1)ポリオール成分
ポリオール1:スミフェン3900(住化コベストロウレタン社製)、グリセリンにプロピレンオキサイドとエチレンオキサイドとを付加して得られた官能基数fn=3、水酸基価35mgKOH/g、平均分子量約5000のポリエーテルポリオール;
ポリオール2:スミフェンVB(住化コベストロウレタン社製)、エチレンジアミンにプロピレンオキサイドを付加して得られた官能基数fn=4.0、水酸基価630mgKOH/g、平均分子量約360のポリエーテルポリオール;
ポリオール3:スミフェンTS(住化コベストロウレタン社製)、スクロースにプロピレンオキサイドを付加して得られた官能基数fn=5.8、水酸基価380mgKOH/g、平均分子量約880のポリエーテルポリオール;
ポリオール4:J406(住化コベストロウレタン社製)、ソルビトールにプロピレンオキサイドを付加して得られた官能基数fn=6.0、水酸基価430mgKOH/g、平均分子量約780のポリエーテルポリオール
2)ポリイソシアネート成分
ポリメリックMDI:スミジュール 44V20 L(住化コベストロウレタン社製)、イソシアネート基含有率31.5質量%
3)架橋剤
エチレングリコール
4)触媒
触媒1:カオーライザーNo.3(花王社製);
触媒2:DABCO K-15(エボニックジャパン社製)2-エチルヘキサン酸カリウム70%ジエチレングリコール溶液);
5)発泡剤
水
6)油
シリコーンオイル:SH200(東レ・ダウコーニング社製)ジメチルシロキサン(表面張力:26mN/m);
真空ポンプ用オイル:フェアバックホワイト(ENEOS社製)石油系炭化水素100%の鉱物油(表面張力:32mN/m);
真空ポンプ用オイルの使用済みオイル:上記真空ポンプ用オイルを、松井製作所製金型温調機(型式MC5-G3-55)において、使用温度が60℃~150℃、使用期間が約2年半の条件で使用したもので、使用前は淡褐色透明の外観を有していたものが、使用後に暗褐色に変化した真空ポンプ用オイル
【0070】
2.方法
<ポリオール混合物の調製>
1)表1に示す配合処方のポリオール混合物を調製するため、ポリオール成分、架橋剤、触媒及び油を混合釜に投入して混合する。
2)混合物を5分以上撹拌し、十分に撹拌されたことを目視で確認する。
3)得られた混合物に発泡剤を添加し、混合物を充分に混合し、ポリオール混合物を調製する。
【0071】
<硬質ウレタンフォームの製造及び評価>
4)硬質ウレタンフォームの製造は、ハンドミキシング発泡にて行う。具体的には、20℃に調整されたポリオール混合物に20℃に調整されたポリイソシアネート成分を表1に示す混合質量比で加え、撹拌混合後、混合物を液状のまま1リットルカップに注入し、発泡、硬化させる。
5)硬質ウレタンフォームの硬化後、立方体(寸法:縦(5cm)、横(5cm)、高さ(2cm~3cm))のサンプルを切り出し、フリーコアー密度、通気性、圧縮強度及び吸音率を測定した。測定方法及び使用した機材は上述のとおりである。
【0072】
(参考例1及び3、実施例2、4~7及び比較例1)
上記「2.方法」の記載に従い、比較例1、参考例1及び3、及び実施例2、4~7の硬質ポリウレタンフォームを作製し、品質の評価を行った。結果を表1に示す(特に指定がない場合、表中の各成分の数値は、それらの質量部を表す)。
【0073】
泡化反応が開始される時間をクリームタイム(CT)、フォームの高さが最高点に達した時間をライズタイム(RT)、フォーム表面が硬化し、「べとつき」がなくなった時間をタックフリータイム(TFT)として記載した。
【0074】
フリーコアー密度が20kg/m3~120kg/m3、通気性が0.1(L/秒)以上、圧縮強度が150N~1200N、吸音率が800Hz~4000Hzの平均値で30%以上であることが望ましい。
【0075】
【0076】
表1から、実施例の硬質ウレタンフォームは、比較例と比較して、通気性が高く、吸音特性が良好であることが分かる。また圧縮強度を維持していることも分かる。