(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-21
(45)【発行日】2025-05-29
(54)【発明の名称】電波吸収体
(51)【国際特許分類】
H05K 9/00 20060101AFI20250522BHJP
【FI】
H05K9/00 M
(21)【出願番号】P 2022556337
(86)(22)【出願日】2020-10-22
(86)【国際出願番号】 JP2020039768
(87)【国際公開番号】W WO2022085164
(87)【国際公開日】2022-04-28
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】524066085
【氏名又は名称】FCNT合同会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伴 泰光
【審査官】須山 直紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-073662(JP,A)
【文献】特開2011-217205(JP,A)
【文献】特開平11-017380(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シート状に形成される誘電体層と、
前記誘電体層の一方の面に形成される導体層と、
前記誘電体層の他方の面に配置される複数の導体パターンと、を備え、
前記複数の導体パターンの夫々は、
枠状に形成され、第1波長の電波で共振する枠状素子と、
板状に形成されるとともに前記枠状素子に内接し、
前記枠状素子の一部を共用することで前記第1波長より短い第2波長の電波で共振する板状素子と、を含む、
電波吸収体。
【請求項2】
前記板状素子は、前記枠状素子の少なくとも2か所で内接する、
請求項1に記載の電波吸収体。
【請求項3】
前記複数の導体パターンは、複数の板状素子が内接する前記枠状素子を含み、
前記複数の板状素子は、互いに離れて設けられる、
請求項1または2に記載の電波吸収体。
【請求項4】
前記枠状素子は多角形に形成され、
前記複数の板状素子の夫々は、前記枠状素子の互いに異なる角に内接する、
請求項3に記載の電波吸収体。
【請求項5】
前記複数の板状素子は、前記第1波長より短く、かつ、前記第2波長とは異なる波長の電波で共振する板状素子を含む、
請求項3または4に記載の電波吸収体。
【請求項6】
前記複数の導体パターンは、隣り合って配置される第1導体パターンと第2導体パターンとを含み、
前記第1導体パターンは、前記枠状素子の第1の箇所で前記板状素子が内接し、
前記第2導体パターンは、前記枠状素子の第2の箇所で前記板状素子が内接する、
請求項1から5のいずれか一項に記載の電波吸収体。
【請求項7】
前記板状素子を厚さ方向に貫通する貫通孔が設けられる、
請求項1から6のいずれか一項に記載の電波吸収体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波吸収体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、駅や飛行場の待合室、コワーキングスペース、工場等の様々な場所で無線通信技術が利用されている。このような場所において、無線通信に用いる電波が他の区域に漏出しないことが好ましい場合もある。そこで、このような漏出を防ぐことができる電波吸収体が提案されている(例えば、特許文献1-3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-073662号公報
【文献】特開2005-317945号公報
【文献】特開2009-071278号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献に記載の電波吸収体は広帯域の電波を吸収することができる一方で、薄型化すると狭帯域になるものであった。そのため、電波吸収体を部屋の壁紙として用いたり、座席の座面に電波吸収体を設けたりするような使い方での電波吸収効率に課題があった。
【0005】
開示の技術の1つの側面は、より電波吸収効率の改善が可能な電波吸収体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
開示の技術の1つの側面は、次のような電波吸収体によって例示される。本電波吸収体は、シート状に形成される誘電体層と、誘電体層の一方の面に形成される導体層と、誘電体層の他方の面に配置される複数の導体パターンと、を備える。複数の導体パターンの夫々は、枠状に形成され、第1波長の電波で共振する枠状素子と、板状に形成されるとともに枠状素子に内接し、第1波長より短い第2波長の電波で共振する板状素子と、を含む。
【発明の効果】
【0007】
開示の技術によれば、第1波長の電波で共振する枠状素子の一部を、第1波長より短い第2波長の電波で共振する板状素子の一部として共用することで、電波吸収効率を高めることが可能な電波吸収体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施形態に係る電波吸収シートの一例を示す第1の図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係る電波吸収シートの一例を示す第2の図である。
【
図3】
図3は、実施形態に係る電波吸収シートの一例を示す第3の図である。
【
図4】
図4は、実施形態における導体パターンの形状を例示する図である。
【
図5】
図5は、実施形態に係る電波吸収シートについてシミュレーションで設定したサイズを例示する斜視図である。
【
図6】
図6は、実施形態に係る電波吸収シートのシミュレーション結果を例示する第1の図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係る電波吸収シートのシミュレーション結果を例示する第2の図である。
【
図8】
図8は、第1比較例に係る電波吸収シートの一例を示す第1の図である。
【
図9】
図9は、第1比較例に係る電波吸収シートの一例を示す第2の図である。
【
図10】
図10は、第1比較例に係る電波吸収シートのシミュレーション結果を例示する図である。
【
図11】
図11は、第2比較例に係る電波吸収シートの一例を示す第1の図である。
【
図12】
図12は、第2比較例に係る電波吸収シートの一例を示す第2の図である。
【
図13】
図13は、第2比較例に係る電波吸収シートのシミュレーション結果を示す図である。
【
図14】
図14は、第3比較例に係る電波吸収シートの一例を示す第1の図である。
【
図15】
図15は、第3比較例に係る電波吸収シートの一例を示す第2の図である。
【
図16】
図16は、第3比較例に係る電波吸収シートのシミュレーション結果を例示する第1の図である。
【
図17】
図17は、第3比較例に係る電波吸収シートのシミュレーション結果を例示する第2の図である。
【
図18】
図18は、第3比較例においてループスロットの幅を変動させたシミュレーション結果を例示する第1の図である。
【
図19】
図19は、第3比較例においてループスロットの幅を変動させたシミュレーション結果を例示する第2の図である。
【
図20】
図20は、第3比較例において、ループアンテナ素子の線幅と導体パターンの材料の抵抗との関係を例示する模式図である。
【
図21】
図21は、第1変形例における導体パターンの一例を示す図である。
【
図22】
図22は、第2変形例における導体パターンの一例を示す図である。
【
図23】
図23は、シミュレーションによる第1変形例、第2変形例の比較結果を例示する図である。
【
図24】
図24は、シミュレーションによる第1変形例、第2変形例の比較結果を例示するスミスチャートである。
【
図25】
図25は、第3変形例における導体パターンの一例を示す図である。
【
図26】
図26は、第4変形例における導体パターンの一例を示す図である。
【
図27】
図27は、シミュレーションによる第3変形例、第4変形例の比較結果を例示する図である。
【
図28】
図28は、シミュレーションによる第3変形例、第4変形例の比較結果を例示するスミスチャートである。
【
図29】
図29は、第5変形例における導体パターンの形状を例示する図である。
【
図30】
図30は、第5変形例における導体パターンの形状を例示する図である。
【
図31】
図31は、第6変形例における導体パターンの形状を例示する図である。
【
図32】
図32は、第7変形例における導体パターンの形状を例示する図である。
【
図33】
図33は、第8変形例における導体パターンの形状を例示する図である。
【
図34】
図34は、第9変形例における導体パターンの形状を例示する図である。
【
図35】
図35は、第9変形例における導体パターンにおいて、3つのパッチアンテナ素子を備える場合を例示する図である。
【
図36】
図36は、第10変形例における導体パターンの形状を例示する図である。
【
図37】
図37は、第11変形例における導体パターンの形状を例示する図である。
【
図38】
図38は、第12変形例における導体パターンの形状を例示する図である。
【
図39】
図39は、電波吸収シートへの導体パターンの配置を例示する第1の図である。
【
図40】
図40は、電波吸収シートへの導体パターンの配置を例示する第2の図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<実施形態>
以下に示す実施形態の構成は例示であり、開示の技術は実施形態の構成に限定されない。実施形態に係る電波吸収体は、例えば、シート状に形成される誘電体層と、誘電体層の一方の面に形成される導体層と、誘電体層の他方の面に配置される複数の導体パターンと、を備える。複数の導体パターンの夫々は、枠状に形成され、第1波長の電波で共振する枠状素子と、板状に形成されるとともに枠状素子に内接し、第1波長より短い第2波長の電波で共振する板状素子と、を含む。
【0010】
このような電波吸収体によれば、第1波長の電波を枠状素子で受信し、第2波長の電波を板状素子で受信することができる。そして、電波吸収体は、誘電体層を薄く形成しても、受信した第1電波及び第2電波を誘電体層で減衰させることができる。また、電波吸収体は、第1波長の電波で共振する枠状素子の一部を、第1波長より短い第2波長の電波で共振する板状素子の一部として共用することで電波吸収効率を高めることができるため、より薄型化が可能な電波吸収体を実現することができる。
【0011】
以下、図面を参照して上記電波吸収体を電波吸収シートに適用した実施形態についてさらに説明する。
図1から
図3は、実施形態に係る電波吸収シートの一例を示す図である。
図1は実施形態に係る電波吸収シートの正面図である。
図2は、実施形態に係る電波吸収シートに配置された導体パターンを拡大した斜視図である。
図3は、実施形態に係る電波吸収シートの背面図である。
【0012】
電波吸収シート1は、誘電体層10、導体層20及び複数の導体パターン30を備え、その全体はシート状に形成される。
図1を参照すると理解できるように、シート状に形成される誘電体層10の前面11には、複数の導体パターン30が互いに離れて配置される。また、
図3を参照すると理解できるように、誘電体層10の背面12には、導体層20が形成される。
【0013】
誘電体層10は、絶縁体によって形成される。絶縁体としては、例えば、ゴム、プラスチック、樹脂、ガラス、紙、空気等を挙げることができる。弾性を有する絶縁体を誘電体層10に採用することで、電波吸収シート1を使用する場所に応じて電波吸収シート1の形状を容易に変形することができる。誘電体層10の厚さT(
図2参照)は、例えば、5.0mmである。
【0014】
導体層20は、金属等の導体によって形成される。導体としては、例えば、銅、金、アルミニウム等を挙げることができる。導体層20は、
図3に例示するように、誘電体層10の背面12全面に形成される。
【0015】
導体パターン30は、導体層20と同様に、金属等の導体によって形成される。導体パターン30は、誘電体層10の前面11に複数並んで周期的に配置される。
図4は、実施形態における導体パターンの形状を例示する図である。導体パターン30は、例えば、導体で形成された板部材に十字状の孔部34が設けられることで、ループアンテナ素子31と4つのパッチアンテナ素子32が形成される。
図4では、ループアンテナ素子31とパッチアンテナ素子32の夫々に傾斜方向の異なる斜線を付している。なお、
図4では、理解を助けるためループアンテナ素子31とパッチアンテナ素子32との間に実線を付しているが、ループアンテナ素子31とパッチアンテナ素子32とが異なる材質で形成されるわけではない。ループアンテナ素子31とパッチアンテナ素子32とは、例えば、一体として形成される。なお、ループアンテナ素子31とパッチアンテナ素子32とは、別体で形成された後に、ループアンテナ素子31とパッチアンテナ素子32とが組み合わされて導体パターン30が形成されてもよい。
【0016】
ループアンテナ素子31は、導体パターン30の矩形の枠を形成する。ループアンテナ素子31は、無線Local Area Network(LAN)で使用される2つの周波数帯域(2.4GHz帯及び5.0GHz帯)のうち、周波数2.5GHzの電波で共振するように設計される。矩形に形成されたループアンテナ素子31の一辺は、周波数2.5GHzの電波の1/4波長の長さに形成される。すなわち、ループアンテナ素子31の長さは、周波数2.5GHzの電波の1波長の長さを有する。なお、ループアンテナ素子31の一辺の長さは周波数2.5GHzの電波の1/4波長の長さに厳密に一致しなくともよい。ループアンテナ素子31の一辺の長さは、ループアンテナ素子31が周波数2.5GHzの電波で共振するように適宜調整されればよい。ループアンテナ素子31は、「枠状素子」の一例である。
【0017】
パッチアンテナ素子32は、ループアンテナ素子31に内接する矩形の板状の素子である。パッチアンテナ素子32の夫々は、ループアンテナ素子31の互いに異なる角に内接するように配置される。パッチアンテナ素子32の夫々は、十字状の孔部34によって互いに離間している。矩形に形成されたパッチアンテナ素子32の一辺は、無線LANで使用される2つの周波数帯域(2.4GHz帯及び5.0GHz帯)のうち、周波数5.0GHzの電波の1/4波長の長さに形成される。すなわち、パッチアンテナ素子32の31の外周の長さは、周波数5.0GHzの電波の1波長の長さを有する。なお、パッチアンテナ素子32の一辺の長さは周波数5.0GHzの電波の1/4波長の長さに厳密に一致しなくともよい。パッチアンテナ素子32の一辺の長さは、パッチアンテナ素子32が周波数5.0GHzの電波で共振するように適宜調整されればよい。
【0018】
また、パッチアンテナ素子32は、パッチアンテナ素子32の厚さ方向に貫通する矩形の貫通孔33が設けられてもよい。貫通孔33の大きさを適宜調整することで、パッチアンテナ素子32が共振する電波の周波数を調整することができる。さらに、複数配置される導体パターン30の間隔D(
図1参照)は、隣り合った導体パターン30のループアンテナ素子31が容量結合する距離に設定されることが好ましい。すなわち、電波吸収シート1では、導体パターン30と、その周囲にD/2の幅で露出する誘電体層10を含む単位構造が周期的に配置されるということができる。パッチアンテナ素子32は、「板状素子」の一例である。
【0019】
<電波吸収シート1のシミュレーション>
電波吸収シート1の効果をシミュレーションで検証したので、以下に説明する。
図5は、実施形態に係る電波吸収シートについてシミュレーションで設定したサイズを例示する斜視図である。導体パターン30の一辺の長さLを35.20mm、ループアンテナ素子31の線幅W1を4.40mm、パッチアンテナ素子32の線幅W2を4.40mm、パッチアンテナ素子32の幅L2を15.13mm、誘電体層10の厚さTを10.00mmとした。また、導体パターン30と露出する誘電体層10とを含む周期構造の高さHを44.00mmとした。そして、導体層20及び導体パターン30の導電率を1e+4(S/m)、誘電体層10の比誘電率を1.0とした。
【0020】
図6及び
図7は、実施形態に係る電波吸収シートのシミュレーション結果を例示する図である。
図6は、電波吸収シート1の電波吸収特性を例示する。
図6において、縦軸は吸収効率(dB)、横軸は周波数(GHz)を例示する。
図7は、電波吸収シート1のスミスチャートを例示する。吸収効率が-10db以下となる範囲を所望の性能が発揮されている領域とすると、電波吸収シート1は、2.4GHz及び5.0GHzの2つの周波数帯域において所望の電波吸収特性を示すことが理解できる。
【0021】
<比較例>
ここで、導体パターンの形状を変更した比較例についてもシミュレーションにより検証を行ったので、以下に説明する。
図8及び
図9は、第1比較例に係る電波吸収シートの一例を示す図である。
図8は第1比較例に係る電波吸収シートの正面図である。
図9は、第1比較例に係る導体パターンの形状を例示する斜視図である。
【0022】
第1比較例に係る電波吸収シート500は、導体パターン30に代えて導体パターン530が複数配置される。導体パターン530は、矩形の枠状に形成される。シミュレーションにおいて、導体パターン530の線幅W50(
図9参照)は、9.50mmに設定した。導体パターン530の導電率、導体パターン530の一辺の長さL、誘電体層10の厚さT、導体パターン530と露出する誘電体層10とを含む周期構造の高さHは、実施形態に係る電波吸収シート1と同じ値とした。
【0023】
図10は、第1比較例に係る電波吸収シートのシミュレーション結果を例示する図である。
図10は、電波吸収シート500の電波吸収特性を例示する。
図10において、縦軸は吸収効率(dB)、横軸は周波数(GHz)を例示する。実施形態と同様に-10db以下となる範囲を所望の性能が発揮されている領域とすると、電波吸収シート500は、2.4GHz及び5.0GHzのいずれの周波数帯においても所望の性能を発揮できないことが理解できる。
【0024】
<第2比較例>
図11及び
図12は、第2比較例に係る電波吸収シートの一例を示す図である。
図11は第2比較例に係る電波吸収シートの正面図である。
図12は、第2比較例に係る導体パターンの形状を例示する斜視図である。
【0025】
第2比較例に係る電波吸収シート600は、導体パターン30に代えて導体パターン630が複数配置される。導体パターン630は、矩形の枠状に形成される。第2比較例のシミュレーションにおいて、導体パターン630の線幅W60(
図12参照)は2.11mm、誘電体層10の厚さT60(
図12参照)は15.00mmに設定した。導体パターン630の導電率、導体パターン630の一辺の長さL、導体パターン630と露出する誘電体層10とを含む周期構造の高さHは、実施形態に係る電波吸収シート1と同じ値とした。すなわち、第2比較例に係る導体パターン630は、第1比較例に係る導体パターン530から線幅W60と誘電体層10の厚さT60を変更したものということができる。
【0026】
図13は、第2比較例に係る電波吸収シートのシミュレーション結果を示す図である。
図13において、縦軸は吸収効率(dB)、横軸は周波数(GHz)を例示する。実施形態と同様に-10db以下となる範囲を所望の性能が発揮されている領域とすると、電波吸収シート600は、2.4GHz及び5.0GHzの2つの周波数帯域において所望の電波吸収特性を示すことが理解できる。
【0027】
<第3比較例>
図14及び
図15は、第3比較例に係る電波吸収シートの一例を示す図である。
図14は第3比較例に係る電波吸収シートの正面図である。
図15は、第3比較例に係る導体パターンの形状を例示する斜視図である。
【0028】
第3比較例に係る電波吸収シート700は、導体パターン30に代えて導体パターン730が複数配置される。導体パターン730は、一辺18mmの板状の導体(例えば、銅)を厚さ方向に貫通する矩形のループスロット733を形成することで、ループアンテナ素子731とパッチアンテナ素子732が形成される。ループスロット733の幅(ループアンテナ素子731とパッチアンテナ素子732の距離)は、1mmに設定した。ループスロット733の中心ループ長は44mmに設定した。また、電波吸収シート700において、導体パターン730は中心間隔が22mmとなるように複数配置される。
【0029】
図16及び
図17は、第3比較例に係る電波吸収シートのシミュレーション結果を例示する図である。
図16及び
図17では、誘電体層10の誘電正接(tanδ)を0.1から0.001の範囲で変化させた場合におけるシミュレーション結果を示す。なお、
図16において、縦軸は吸収効率(dB)、横軸は周波数(GHz)を例示する。
図16を参照すると、電波吸収シート700は、2.4GHz及び5.0GHzのいずれの周波数帯においても-10db以下の性能を発揮できないことが理解できる。また、
図17を参照すると、tanδの値を変動させることで導体パターン730の抵抗が大きく変動することが理解できる。
【0030】
さらに、第3比較例において、誘電体層10のtanδの値を0.02に固定した上で、ループスロット733の幅を1.0mmから6.9mmまで変動させたシミュレーションを行った。なお、このシミュレーションでは、ループスロット733の幅を変動させたことに伴い、ループアンテナ素子731の線幅が3.0mmから0.05mmに変動する。そのため、このシミュレーションでは、ループアンテナ素子731の線幅を3.0mmから0.05mmに変動させたということができる。
【0031】
図18及び
図19は、第3比較例においてループスロットの幅を変動させたシミュレーション結果を例示する図である。なお、
図18において、縦軸は吸収効率(dB)、横軸は周波数(GHz)を例示する。
図18を参照すると、電波吸収シート700は、ループアンテナ素子731の線幅を変動させることで、高い電波吸収特性を発揮する周波数帯を変動させることができることが理解できる。また、
図19を参照すると、電波吸収シート700は、ループアンテナ素子731の線幅の変動に応じて抵抗も変動することが理解できる。
【0032】
すなわち、第3比較例では、ループアンテナ素子731の線幅や導体パターン730の材料の抵抗に応じて高い電波吸収特性を発揮する周波数帯を変動させるということができる。
図20は、第3比較例において、ループアンテナ素子の線幅と導体パターンの材料の抵抗との関係を例示する模式図である。
図20において、縦軸はループアンテナ素子731の線幅を例示し、横軸は導体パターン730の抵抗を例示する。
図20の縦軸において、上に行けば行くほど線幅が細くなることを例示する。また、
図20の横軸において、右方向に行けば行くほど導体パターン730の抵抗が小さくなることを例示する。
【0033】
ループスロット733の形成や加工精度等の影響により、ループアンテナ素子731の線幅には上限値及び下限値が存在する。また、導体パターン730を形成する金属等の材料の抵抗が大きすぎても小さすぎても電波吸収シート700の性能は低下すると考えられる。そのため、第3比較例において電波吸収シート700に好適な導体パターン730を形成できるのは、線幅上限から線幅下限の間、かつ、抵抗上限から抵抗下限の間となる領域Aの範囲となる。すなわち、第3変形例では、導体パターンの線幅や抵抗を変更することで高い電波吸収特性を発揮する周波数帯を変動させることができるものの、このような変更は領域Aの範囲に限定されることになる。
【0034】
<実施形態と各比較例との比較>
上記シミュレーションの結果を参照すると、第1比較例に係る電波吸収シート500及び第3比較例に係る電波吸収シート700では、無線LANで使用される2つの周波数帯域(2.4GHz及び5.0GHz)に対応させることは困難である。一方で、第1比較例よりも誘電体層10の厚さを増した第2比較例に係る電波吸収シート600では、無線LANで使用される2つの周波数帯域(2.4GHz及び5.0GHz)に対応可能ではあるものの、誘電体層10が15mmとなることから、実施形態に係る電波吸収シート1のような薄型化は困難である。
【0035】
実施形態に係る電波吸収シート1であれば、第2比較例に係る電波吸収シート600よりも薄型化が可能であり、無線LANで使用される2つの周波数帯域(2.4GHz及び5.0GHz)に対応可能な電波吸収シートを提供することができる。
【0036】
<変形例>
実施形態に係る電波吸収シート1は、導体パターンの形状を様々に変形可能である。以下、図面を参照して電波吸収シート1の導体パターンの変形例について説明する。
【0037】
<第1変形例>
図21は、第1変形例における導体パターンの一例を示す図である。第1変形例に係る電波吸収シートの導体パターン30aは、ループアンテナ素子31とループアンテナ素子31に内接する1つのパッチアンテナ素子32aを含む。パッチアンテナ素子32aは、矩形枠状に形成されたループアンテナ素子31の4つの角のうち、1つの角で内接する。
【0038】
<第2変形例>
図22は、第2変形例における導体パターンの一例を示す図である。第2変形例に係る電波吸収シートの導体パターン30bは、ループアンテナ素子31とループアンテナ素子31に内接する1つのパッチアンテナ素子32bを含む。パッチアンテナ素子32bは、矩形枠状に形成されたループアンテナ素子31の4つの辺のうち、1つの辺で内接する。
【0039】
<第1変形例、第2変形例のシミュレーション>
第1変形例及び第2変形例について、電波吸収特性を検証するためシミュレーションを行った。このシミュレーションでは、誘電体層10を空気(比誘電率1.0)、誘電体層10の厚さを5.0mm、導体パターンを形成する金属の導電率を1e+5(S/m)、導体パターンの厚さを10μm、ループアンテナ素子の一辺の長さを18.7mm、ループアンテナ素子の線幅を4.55mm、ループアンテナ素子とパッチアンテナ素子との間隔を4.0mm、パッチアンテナ素子の一辺の長さを20.31mmに設定した。また、導体パターンの周期(中心間の距離)を44.0mmに設定した。
【0040】
図23は、シミュレーションによる第1変形例、第2変形例の比較結果を例示する図である。
図23では、参考のため、第3比較例についてのシミュレーション結果も例示する。
図23において、縦軸は吸収効率(dB)、横軸は周波数(GHz)を例示する。
【0041】
図23を参照すると、第1変形例では、無線LANで使用される2つの周波数帯域(2.4GHz及び5.0GHz)で高い電波吸収特性を発揮することが理解できる。また、第1変形例では、電波吸収特性のピークを示す周波数帯域が追加(
図23において円で囲んだ部分)されていることが理解できる。また、第2変形例においても、2.1GHzや5.0GHzで電波吸収特性のピークを示していることが理解できる。
【0042】
図24は、シミュレーションによる第1変形例、第2変形例の比較結果を例示するスミスチャートである。
図24では、参考のため、第3比較例についてのシミュレーション結果も例示する。
【0043】
図24に例示するスミスチャートにおいて、第1変形例では、第2変形例及び第3比較例よりもスミスチャート上における軌跡が狭まっている。すなわち、第1変形例では、第2変形例及び第3比較例よりも抵抗が大きくなる傾向にあると考えられる。そこで、第1変形例では、例えば、ループアンテナ素子31やパッチアンテナ素子32aの線幅を太くすることで抵抗を下げることが考えられる。
【0044】
<第3変形例>
図25は、第3変形例における導体パターンの一例を示す図である。第3変形例に係る電波吸収シートの導体パターン30cは、ループアンテナ素子31とループアンテナ素子31に内接する1つのパッチアンテナ素子32cを含む。パッチアンテナ素子32cは、矩形枠状に形成されたループアンテナ素子31の4つの角のうち、同一の辺上に形成される2つの角で内接する。
【0045】
<第4比較例>
図26は、第4変形例における導体パターンの一例を示す図である。第4変形例に係る電波吸収シートの導体パターン30dは、ループアンテナ素子31とループアンテナ素子31に内接する1つのパッチアンテナ素子32dを含む。パッチアンテナ素子32dは、矩形枠状に形成されたループアンテナ素子31の4つの辺のうち、隣り合った2つの辺で内接する。
【0046】
<第3変形例、第4変形例のシミュレーション>
第3変形例及び第4変形例について、電波吸収特性を検証するためシミュレーションを行った。シミュレーションにおいて設定した条件は、上記の第1変形例、第2変形例のシミュレーションと同一である。
【0047】
図27は、シミュレーションによる第3変形例、第4変形例の比較結果を例示する図である。
図27では、参考のため、第3比較例についてのシミュレーション結果も例示する。
図27において、縦軸は吸収効率(dB)、横軸は周波数(GHz)を例示する。
【0048】
図27を参照すると、第4変形例では、無線LANで使用される2つの周波数帯域(2.4GHz及び5.0GHz)で高い電波吸収特性を発揮することが理解できる。また、第4変形例では、電波吸収特性のピークを示す周波数帯域が追加(
図27において円で囲んだ部分)されていることが理解できる。換言すれば、第4変形例は、電波吸収特性において第1変形例と類似しているということができる。また、第3変形例においても、2.1GHzや5.0GHzで電波吸収特性のピークを示していることが理解できる。
【0049】
図28は、シミュレーションによる第3変形例、第4変形例の比較結果を例示するスミスチャートである。
図28では、参考のため、第3比較例についてのシミュレーション結果も例示する。
【0050】
図28に例示するスミスチャートにおいて、第4変形例では、第1変形例及び第3比較例よりもスミスチャート上における軌跡が狭まっている。すなわち、第4変形例では、第3変形例及び第3比較例よりも抵抗が大きくなる傾向にあると考えられる。そこで、第4変形例では、例えば、ループアンテナ素子31やパッチアンテナ素子32aの線幅を太くすることで抵抗を下げることが考えられる。
【0051】
<導体パターンのバリエーション>
実施形態に係る電波吸収シート1では、さらに、様々な形状の導体パターンを採用することが可能である。
図29は、第5変形例における導体パターンの形状を例示する図である。第5変形例における導体パターン30eは、実施形態における導体パターン30の4つのパッチアンテナ素子32に代えて、3つのパッチアンテナ素子32eを備える。パッチアンテナ素子32eは、貫通孔33を有しない点で、パッチアンテナ素子32とは異なる。すなわち、開示の技術は、貫通孔33を有しないパッチアンテナ素子32eを採用することもできる。
【0052】
図30は、第5変形例における導体パターンの形状を例示する図である。第5変形例における導体パターン30fは、ループアンテナ素子31の対向する2つの角夫々に内接する2つのパッチアンテナ素子32eを備える点で、第4変形例における導体パターン30eとは異なる。
【0053】
図31は、第6変形例における導体パターンの形状を例示する図である。第6変形例における導体パターン30gは、ループアンテナ素子31の4つの辺のうちのひとつの辺の両端夫々に内接する2つのパッチアンテナ素子32eを備える点で、第4変形例における導体パターン30eとは異なる。
【0054】
図32は、第7変形例における導体パターンの形状を例示する図である。第7変形例における導体パターン30hは、ループアンテナ素子31の4つの角のうちのひとつの角に内接する1つのパッチアンテナ素子32eを備える点で、第4変形例における導体パターン30eとは異なる。
【0055】
図33は、第8変形例における導体パターンの形状を例示する図である。第8変形例における導体パターン30iは、ループアンテナ素子31の4つの辺の中央夫々に内接する4つのパッチアンテナ素子32を備える点で、実施形態に係る導体パターン30とは異なる。すなわち、導体パターン30iは、パッチアンテナ素子32の位置が導体パターン30とは異なる。
【0056】
図34は、第9変形例における導体パターンの形状を例示する図である。第9変形例における導体パターン30jは、円形の枠状に形成されるループアンテナ素子31aと、円形の枠状に形成され、互いに離間してループアンテナ素子31aに内接するように配置される4つのパッチアンテナ素子32fを備える。パッチアンテナ素子32fは、円形に形成されパッチアンテナ素子32fを厚さ方向に貫通する貫通孔33aが設けられる。すなわち、導体パターン30jは、ループアンテナ素子31a、パッチアンテナ素子32f及び貫通孔33aの形状が、実施形態における導体パターン30とは異なる。なお、導体パターン30jが備えるパッチアンテナ素子32fの数は、4つに限定されない。
図35は、第9変形例における導体パターンにおいて、3つのパッチアンテナ素子を備える場合を例示する図である。導体パターン30jは、
図35に例示するように3つのパッチアンテナ素子32fを備えてもよいし、5つ以上または2つ以下のパッチアンテナ素子32fを備えてもよい。
【0057】
図36は、第10変形例における導体パターンの形状を例示する図である。第10変形例に導体パターン30kは、パッチアンテナ素子32fよりも大きく形成されたパッチアンテナ素子32gをひとつ備える点で、第9変形例における導体パターン30jとは異なる。
【0058】
図37は、第11変形例における導体パターンの形状を例示する図である。第11変形例における導体パターン30mは、三角形の枠状に形成されるループアンテナ素子31bと、三角形の枠状に形成され、互いに離間してループアンテナ素子31bに内接するように配置される3つのパッチアンテナ素子32hを備える。パッチアンテナ素子32hは、三角形に形成されパッチアンテナ素子32hを厚さ方向に貫通する貫通孔33bが設けられる。すなわち、導体パターン30hは、ループアンテナ素子31a、パッチアンテナ素子32h及び貫通孔33bの形状が、実施形態における導体パターン30とは異なる。
【0059】
図38は、第12変形例における導体パターンの形状を例示する図である。第12変形例における導体パターン30nは、ループアンテナ素子31に内接する3つのパッチアンテナ素子32と、ループアンテナ素子31に内接するとともにパッチアンテナ素子32とは大きさが異なるパッチアンテナ素子32iを備える。このように大きさの異なるパッチアンテナ素子32iを備える導体パターン30nを採用した電波吸収シート1であれば、3つ以上の周波数帯域の電波を吸収することができる。
【0060】
以上、第1変形例から第12変形例に例示したように、導体パターン30には、様々な形状を採用することができる。また、パッチアンテナ素子においては、貫通孔を設けても設けなくともよい。パッチアンテナ素子において貫通孔を設ける場合には、所望の周波数の電波との整合を考慮して貫通孔の大きさを適宜決定すればよい。
【0061】
また、電波吸収シート1では、導体パターンを並べる並べ方についても様々なバリエーションを採用することができる。
図39は、電波吸収シートへの導体パターンの配置を例示する第1の図である。
図39では、導体パターン30jが誘電体層10の前面11上に略ハニカム構造となるように並べて配置した電波吸収シート1が例示される。なお、電波吸収シート1では、導体パターン30j以外の導体パターンをハニカム構造となるように誘電体層10の前面11上に並べて配置してもよい。
【0062】
図40は、電波吸収シートへの導体パターンの配置を例示する第2の図である。
図40では、全体視三角形状に形成された導体パターン30mを頂点を下に向けて横一列に配置した第1列と、頂点を上に向けて横一列に配置した第2列とを含む。第2列に並べられた導体パターン30mの頂点は、第1列に並べられた導体パターン30mの隣り合った頂点の間に入るように並べられる。このように導体パターン30mを並べることで、電波吸収シート1上において導体パターン30mをより多く配置することができる。
【0063】
<使用例>
以上説明した電波吸収シート1は、例えば、工場の各レーンの間に設けることで、あるレーンから他のレーンに電波が漏出することを抑制することができる。また、電波吸収シート1は、展示場、水族館、博物館、動物園等の各ブースの境界に設けられることで、各ブースで他のブーストは異なる情報提供を無線通信を用いて行うことができる。電波吸収シート1は、事務所内において、各部署の境界に設けられることで、無線通信で用いる電波が他の部署に到達してしまうことによる部署間の情報漏洩を抑制することができる。
【0064】
近年では、駅や空港の待合室、新幹線の車内、飲食店の店内、コワーキングスペース等の公共の場所で無線LAN環境が提供されている。このような公共の場所において座席の境界等に電波吸収シート1を設けることで、無線通信で用いる電波が他の席等に到達することによる情報漏洩を抑制することができる。
【0065】
また、病院やサーバールーム等の電磁波の入射によって機械等が誤作動する虞がある空間において、当該空間の境界に電波吸収シート1が設けられることで、このような誤作動を抑制することができる。
【0066】
また、展示会や野外ライブ、フェスタ等のイベントの際に、電波吸収シート1を入場ゲートに設けることで、無線通信を用いた入場時のチェックをチェック対象者に限定することが容易となる。
【0067】
なお、上記の通り、本実施形態に係る電波吸収シート1は、薄型化が容易である。そのため、電波吸収シート1は、部屋の壁紙として用いたり、椅子の座面や背もたれに重畳して用いたりすることが容易となる。
【0068】
以上説明した実施形態や各変形例は、適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0069】
1、500、600、700・・・電波吸収シート
10・・・誘電体層
11・・・前面
12・・・背面
20・・・導体層
30、30a、30b、30c、30d、30e、30f、30g、30h、30i、30j、30k、30m、30n、530、630、730・・・導体パターン
31、31a、31b、731・・・ループアンテナ素子
32、32a、32b、32c、32d、32e、32f、32g、32h、32i、732・・・パッチアンテナ素子
33、33a、33b・・・貫通孔
34・・・孔部
733・・・ループスロット