(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-21
(45)【発行日】2025-05-29
(54)【発明の名称】ダストカバーおよびボールジョイント
(51)【国際特許分類】
F16C 11/06 20060101AFI20250522BHJP
【FI】
F16C11/06 Q
(21)【出願番号】P 2024503007
(86)(22)【出願日】2023-02-09
(86)【国際出願番号】 JP2023004358
(87)【国際公開番号】W WO2023162699
(87)【国際公開日】2023-08-31
【審査請求日】2024-08-06
(31)【優先権主張番号】P 2022026452
(32)【優先日】2022-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004385
【氏名又は名称】NOK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003177
【氏名又は名称】弁理士法人旺知国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 直哉
(72)【発明者】
【氏名】宝泉 達郎
【審査官】藤村 聖子
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-503476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 11/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状体とカバーとを備えるダストカバーであって、
前記環状体は、
前記環状体の中心軸に沿う第1方向の第1端と、前記第1端とは反対側の第2端とを有する円筒部と、
前記第1端に連結される環状の第1部分と、
前記円筒部の外周面から径方向の外側に向けて前記第2端から延出する環状の第2部分とを含み、
前記第1部分の外周面は、前記中心軸に対して径方向の外側に傾斜する第1面を含み、
前記第2部分のうち前記第1方向に向く表面は、第2面を含み、
前記第2面は、前記中心軸に直交し前記第2端を含む基準面に対して前記第1方向に位置し、当該基準面に対して0°を上回る角度をなし、
前記中心軸の方向において、前記第2部分の外周縁は、前記円筒部における前記第1端と前記第2端との間に位置し、
前記カバーは、
前記円筒部を包囲する環状のシール部を含み、
前記シール部は、前記第1面および前記第2面に接触する
ダストカバー。
【請求項2】
前記第2部分は、
前記中心軸に直交する方向に前記第2端から延出する第1環状部と、
前記第1環状部を包囲する第2環状部とを含み、
前記第2面は、前記第1環状部のうち前記第1方向に向く表面に連続する
請求項1のダストカバー。
【請求項3】
前記第2面は、前記基準面に対して1°以上かつ90°以下の範囲内の角度をなす傾斜面である
請求項1または請求項2のダストカバー。
【請求項4】
前記第1面は、前記中心軸に対して1°以上かつ15°以下の範囲内の角度をなす傾斜面である
請求項1または請求項2のダストカバー。
【請求項5】
前記シール部は、
前記円筒部を包囲する環状の本体部と、
前記本体部のうち前記第2部分との対向面から突出するリップ部とを含み、
前記リップ部は、前記第2面に接触する
請求項1
または請求項2のダストカバー。
【請求項6】
ジョイント機構とダストカバーとを備えるボールジョイントであって、
前記ジョイント機構は、
端部に球状部を有するボールスタッドと、
前記球状部を支持する軸受部とを含み、
前記ダストカバーは、
前記ボールスタッドを包囲する環状体と、
カバーとを含み、
前記環状体は、
前記環状体の中心軸に沿う第1方向の第1端と、前記第1端とは反対側の第2端とを有する円筒部と、
前記第1端に連結される環状の第1部分と、
前記円筒部の外周面から径方向の外側に向けて前記第2端から延出する環状の第2部分とを含み、
前記第1部分の外周面は、前記円筒部の外周面に対して径方向の外側に傾斜する第1面を含み、
前記第2部分のうち前記第1方向に向く表面は、第2面を含み、
前記第2面は、前記中心軸に直交し前記第2端を含む基準面に対して前記第1方向に位置し、当該基準面に対して0°を上回る角度をなし、
前記中心軸の方向において、前記第2部分の外周縁は、前記円筒部における前記第1端と前記第2端との間に位置し、
前記カバーは、
前記円筒部を包囲する環状のシール部を含み、
前記シール部は、前記第1面および前記第2面に接触する
ボールジョイント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダストカバーおよびボールジョイントに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の各種の装置に設置されるボールジョイントには、塵埃または水分の進入と潤滑剤の流出とを防止するためのダストカバーが設置される。例えば特許文献1には、取着部材とダストカバーとをボールジョイントに装着した構成が開示されている。取着部材は、ボールスタッドを包囲する筒状部と、筒状部に対して傾斜する傾斜部と、筒状部の端部から外側に突出するフランジ部とを含む環状の構造体である。ダストカバーの端部の開口部は、筒状部および傾斜部の外周面とフランジ部の下面とに接触する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の技術においては、取着部材からダストカバーに対して充分な押圧力を作用させることが容易ではない。したがって、充分なシール性を確保できない可能性がある。以上の事情を考慮して、本発明のひとつの態様は、ダストカバーのシール性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明のひとつの態様に係るダストカバーは、環状体とカバーとを備えるダストカバーであって、前記環状体は、前記環状体の中心軸に沿う第1方向の第1端と、前記第1端とは反対側の第2端とを有する円筒部と、前記第1端に連結される環状の第1部分と、前記円筒部の外周面から径方向の外側に向けて前記第2端から延出する環状の第2部分とを含み、前記第1部分の外周面は、前記中心軸に対して径方向の外側に傾斜する第1面を含み、前記第2部分のうち前記第1方向に向く表面は、第2面を含み、前記第2面は、前記中心軸に直交し前記第2端を含む基準面に対して前記第1方向に位置し、当該基準面に対して0°を上回る角度をなし、前記カバーは、前記円筒部を包囲する環状のシール部を含み、前記シール部は、前記第1面および前記第2面に接触する。
【0006】
本発明のひとつの態様に係るボールジョイントは、ジョイント機構とダストカバーとを備えるボールジョイントであって、前記ジョイント機構は、端部に球状部を有するボールスタッドと、前記球状部を支持する軸受部とを含み、前記ダストカバーは、前記ボールスタッドを包囲する環状体と、カバーとを含み、前記環状体は、前記環状体の中心軸に沿う第1方向の第1端と、前記第1端とは反対側の第2端とを有する円筒部と、前記第1端に連結される環状の第1部分と、前記円筒部の外周面から径方向の外側に向けて前記第2端から延出する環状の第2部分とを含み、前記第1部分の外周面は、前記円筒部の外周面に対して径方向の外側に傾斜する第1面を含み、前記第2部分のうち前記第1方向に向く表面は、第2面を含み、前記第2面は、前記中心軸に直交し前記第2端を含む基準面に対して前記第1方向に位置し、当該基準面に対して0°を上回る角度をなし、前記カバーは、前記円筒部を包囲する環状のシール部を含み、前記シール部は、前記第1面および前記第2面に接触する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ダストカバーのシール性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明のひとつの形態に係るボールジョイントの断面図および平面図である。
【
図2】ダストカバーのうち環状体の近傍の部分を拡大した断面図である。
【
図4】実施形態の効果を説明するための断面図である。
【
図5】変形例におけるダストカバーの断面図である。
【
図6】変形例におけるダストカバーの断面図である。
【
図7】変形例におけるダストカバーの断面図である。
【
図8】変形例におけるダストカバーの断面図である。
【
図9】変形例におけるダストカバーの断面図である。
【
図10】変形例におけるダストカバーの断面図である。
【
図11】変形例におけるダストカバーの断面図である。
【
図12】変形例におけるダストカバーの断面図である。
【
図13】変形例におけるダストカバーの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明の好適な形態に係るボールジョイント100の構成を例示する断面図および平面図である。本実施形態のボールジョイント100は、例えば自動車の懸架装置または操舵装置等の各種の装置に利用される。
図1に例示される通り、ボールジョイント100は、ジョイント機構10とダストカバー20とを備える。
【0010】
なお、以下の説明においては、ボールジョイント100の中心軸Cを想定する。中心軸Cに沿う一方向をZ1方向と表記し、Z1方向とは反対の方向をZ2方向と表記する。Z1方向は「第1方向」の一例であり、Z2方向は「第2方向」の一例である。Z1方向は、例えば鉛直方向の下方であり、Z2方向は、例えば鉛直方向の上方である。ただし、ボールジョイント100が設置される方向は、以上の例示に限定されず任意である。
【0011】
また、中心軸Cを中心とした任意の直径の仮想円における円周の方向を「周方向」と表記し、当該仮想円の半径の方向を「径方向」と表記する。径方向において中心軸Cに向かう方向を「内側」と表記し、中心軸Cとは反対に向かう方向を「外側」と表記する。
【0012】
図1に例示される通り、ジョイント機構10は、ボールスタッド11とソケット12とナックル13とを備える。ボールスタッド11は、軸部112と球状部113とを含む。軸部112は、棒状の部材である。軸部112は取付部114を含む。取付部114は、軸部112の他の部位と比較して大径に形成された円柱状または円環状の部分である。すなわち、取付部114は、軸部112の他の部位の外周面から径方向の外側に突出するフランジである。球状部113は、軸部112の一方の端部に設置される。以上の説明から理解される通り、ボールスタッド11は、端部に球状部113を有する構造体である。
【0013】
ソケット12は、ボールスタッド11を支持する。具体的には、ソケット12は、球状部113を支持する軸受部121を備える。軸受部121には軸受面122が形成される。軸受面122は、球状部113の外径を僅かに上回る内径の凹球面である。球状部113の表面が軸受面122に接触した状態でボールスタッド11は軸受部121に支持される。球状部113の表面と軸受面122との間隙には潤滑剤が充填される。したがって、ボールスタッド11は、回転および揺動が可能な状態で軸受部121に支持される。
【0014】
ナックル13は、軸部112のうち取付部114を挟んで球状部113とは反対側の部位に固定される構造体である。すなわち、球状部113とナックル13との間に取付部114が位置する。ナックル13は、取付孔131と溝部132とが形成された板状部材である。取付孔131は、軸部112が挿入される貫通孔である。溝部132は、取付孔131から径方向に延在する。ナックル13には、溝部132を横断するボルト133が挿入される。軸部112が取付孔131に挿通された状態でボルト133によりナックル13を締付けることで、軸部112にナックル13が固定される。すなわち、本実施形態のボールジョイント100は、ピンチボルトタイプである。ピンチボルトタイプのボールジョイント100において、取付部114の外径は、中心軸Cに沿う方向の全範囲にわたり一定である。
【0015】
ダストカバー20は、球状部113と軸受部121との連結部分に対する塵埃または水分の付着と、連結部分に塗布される潤滑剤の流出とを防止するためにジョイント機構10に設置される。
図1に例示される通り、ダストカバー20は、環状体21とカバー22とを備える。環状体21およびカバー22は、ボールスタッド11を包囲するように設置される。
【0016】
図2は、ダストカバー20のうち環状体21の近傍を拡大した断面図である。また、
図3は、環状体21の断面図である。
【0017】
環状体21は、ボールスタッド11を包囲する環状のフェルール環である。環状体21は、例えばステンレス等の金属材料で形成された硬質の構造体である。前述の中心軸Cは、環状体21の中心軸に相当する。前述のピンチボルトタイプのボールジョイント100においては、ナックル13の溝部132を介して塵埃または水分がソケット12側に進入し得る。環状体21を設置することで、溝部132を介した塵埃または水分の進入が阻害される。したがって、例えばボールスタッド11またはナックル13における錆の発生を抑制できる。
【0018】
環状体21は、円筒部30と第1部分31と第2部分32とを含む。円筒部30と第1部分31と第2部分32とは、例えば、所定の板厚の金属板をプレス成形することで一体的に構成される。円筒部30と第1部分31と第2部分32とにおける板厚は共通する。ただし、環状体21の部位毎に板厚が相違してもよい。
【0019】
円筒部30は、ボールスタッド11の取付部114を包囲する円筒状の部分である。円筒部30は、外周面301と内周面302とを含む。円筒部30の内径と取付部114の外径とは略同等である。
図1に例示される通り、円筒部30は取付部114に嵌合される。すなわち、円筒部30の内周面302と取付部114の外周面とが相互に密着した状態で、円筒部30は取付部114に固定される。したがって、ボールスタッド11の回転に連動して環状体21も回転する。
図2および
図3に例示される通り、円筒部30は、第1端E1と第2端E2とを有する。第1端E1は、円筒部30のうちZ1方向に位置する端部であり、第2端E2は、円筒部30のうちZ2方向に位置する端部である。
【0020】
第1部分31は、第1端E1に連結される環状の部分である。すなわち、第1部分31は、円筒部30からZ1方向に延出する。
図3に例示される通り、中心軸Cの方向における第1部分31の寸法L1は、中心軸Cの方向における円筒部30の寸法L2と同等である。例えば寸法L1および寸法L2は1mm程度である。ただし、第1部分31の寸法L1が円筒部30の寸法L2を上回る構成、または、第1部分31の寸法L1が円筒部30の寸法L2を下回る構成も想定される。
【0021】
第1部分31は、外周面(以下「第1面」という)311と内周面312とを有する。第1面311は円筒部30の外周面301に連続し、内周面312は円筒部30の内周面302に連続する。
図1に例示される通り、第1部分31は、円筒部30とともにボールスタッド11の取付部114を包囲する。すなわち、第1部分31の内周面312は取付部114の外周面に対向する。
【0022】
図2および
図3に例示される通り、第1部分31は、中心軸Cに対して傾斜する。すなわち、第1部分31は、円筒部30に対して折曲げられた円錐台状の部分である。具体的には、第1部分31は、
図3に例示される通り、Z1方向の端部における外径D1がZ2方向の端部における外径D2を上回るように、Z1方向に向けて連続的に拡径するテーパー状に形成される。したがって、第1部分31の第1面311は、円筒部30の外周面301に対して径方向の外側に傾斜する。具体的には、第1面311は、中心軸Cに対して角度θ1で傾斜する傾斜面である。角度θ1は任意であるが、例えば1°以上かつ15°以下の範囲内の角度に設定される。さらに好適な態様において、角度θ1は、1°以上かつ5°以下の範囲内の角度に設定される。同様に、第1部分31の内周面312は、中心軸Cに対して角度θ1で傾斜する。すなわち、内周面312は、円筒部30の内周面302に対して角度θ1で傾斜する。したがって、内周面312は、取付部114の外周面に間隔をあけて対向する。
【0023】
第2部分32は、円筒部30の外周面301から径方向の外側に向けて、当該円筒部30の第2端E2から延出する環状のフランジである。第2部分32は、封止面321と対向面322とを含む板状の部分である。封止面321は、第2部分32におけるZ1方向の表面である。対向面322は、第2部分32におけるZ2方向の表面である。すなわち、封止面321と対向面322とは、相互に反対側の表面である。
図1から理解される通り、第2部分32の対向面322はナックル13の下面134に対向する。
図2および
図3に例示される通り、第2部分32は、第1環状部41と第2環状部42とを含む。
【0024】
第1環状部41は、円筒部30の第2端E2から中心軸Cに直交する方向に延出する部分である。すなわち、第1環状部41の内周が円筒部30の第2端E2に連結され、当該第1環状部41は円筒部30の外周面301から径方向の外側に突出する。第1環状部41は、下面411と上面412とを含む平板状の部分である。下面411は、第1環状部41のうちZ1方向に向く表面である。上面412は、第1環状部41のうちZ2方向に向く表面である。
図1から理解される通り、第1環状部41の上面412は、ナックル13の下面134に接触する。
【0025】
図3には、基準面Rが図示されている。基準面Rは、中心軸Cに直交し、かつ、円筒部30の第2端E2を含む仮想的な平面である。第1環状部41の下面411および上面412は、基準面Rに平行な平面である。すなわち、第1環状部41の下面411および上面412は、円筒部30の外周面301に対して直交する。
図3から理解される通り、第1環状部41の下面411は、基準面Rに内包される。
【0026】
第2環状部42は、第1環状部41を包囲する環状の部分である。すなわち、第2環状部42の内周が第1環状部41の外周に連結される。径方向における第2環状部42の寸法W2は、径方向における第1環状部41の寸法W1を下回る。ただし、第1環状部41の寸法W1と第2環状部42の寸法W2とが同等である構成、または、第2環状部42の寸法W2が第1環状部41の寸法W1を上回る構成も想定される。
【0027】
第2環状部42は、下面(以下「第2面」という)421と上面422とを含む。第2面421は、第2環状部42のうちZ1方向に向く表面である。上面422は、第2環状部42のうちZ2方向に向く表面である。以上の説明から理解される通り、第2部分32の封止面321は、第1環状部41の下面411と第2環状部42の第2面421(下面)とを含む。第2面421は、第1環状部41の下面411に連続する。また、第2部分32の対向面322は、第1環状部41の上面412と第2環状部42の上面422とを含む。
【0028】
第2環状部42は、基準面Rに対してZ1方向に位置する。具体的には、第2環状部42は、基準面Rに交差する方向に延在する。すなわち、第2環状部42は、第1環状部41に対して折曲げられることで当該第1環状部41に対して傾斜した円錐台状の部分である。
図3には、第1地点P1と第2地点P2とが図示されている。第1地点P1および第2地点P2は、第2面421に含まれる地点である。第2地点P2は、第1地点P1よりも第1環状部41に近い地点である。具体的には、本実施形態の第2地点P2は、第1地点P1よりも第2部分32の径方向における内側に位置する。なお、第1地点P1は、第2環状部42における外周上の地点でもよい。第2地点P2は、第2環状部42における内周上の地点でもよい。
【0029】
図3に例示される通り、中心軸C上における第1地点P1の位置C1が、中心軸C上における第2地点P2の位置C2よりもZ1方向に位置するように、第2面421は、基準面Rに対して傾斜する。すなわち、第2面421は、第2端E2からみて基準面Rに対してZ1方向に傾斜する。したがって、第2面421は、基準面Rに対してZ1方向に位置する。以上の説明の通り、第2部分32の封止面321は、基準面Rに対してZ1方向に傾斜する第2面421を含む。
【0030】
第2環状部42の第2面421は、基準面Rに対して角度θ2で傾斜する。角度θ2は任意であるが、例えば1°以上かつ90°以下の範囲内の角度に設定される。さらに好適な態様において、角度θ2は、1°以上かつ45°以下の範囲内の角度に設定される。同様に、第2環状部42の上面422は、基準面Rに対して角度θ2で傾斜する。したがって、第2環状部42の上面422は、ナックル13の下面134に間隔をあけて対向する。
【0031】
図1のカバー22は、弾性材料により形成された筒状の部材である。ボールスタッド11を包囲するようにカバー22が設置される。カバー22の材料としては、例えば、クロロプレンゴム(CR)、ポリウレタンゴム(PUR)、エピクロロヒドリンゴム(ECO)、ニトリルゴム(NBR)またはスチレンゴム(SBR)等の各種のゴム材料が例示される。
図1に例示される通り、本実施形態のカバー22は、固定部23とシール部24と胴体部25とが一体に形成された筒状の弾性膜である。
【0032】
固定部23は、中心軸Cの方向におけるカバー22の一方の端部を構成する環状の部分である。固定部23はソケット12に固定される。他方、シール部24は、中心軸Cの方向におけるカバー22の他方の端部を構成する。胴体部25は、固定部23とシール部24との間に位置する部分である。胴体部25は、ソケット12に対するボールスタッド11の揺動に連動して弾性的に変形する。
【0033】
図2に例示される通り、カバー22のシール部24は、環状体21の円筒部30および第1部分31を包囲する環状の部分である。環状体21がボールスタッド11に連動して回転してもシール部24は回転しない。すなわち、環状体21に対してシール部24は摺動する。ただし、カバー22におけるシール部24側の部分が、ボールスタッド11の回転または揺動に連動して例えば捩れるように変形してもよい。
【0034】
シール部24は、本体部50と第1リップ部51と第2リップ部52と第3リップ部53と第4リップ部54とが一体的に形成された環状の構造体である。本体部50は、円筒部30を包囲する環状の部分である。第1リップ部51および第2リップ部52は、本体部50の内周面に形成されて周方向に延在する環状の突起である。すなわち、第1リップ部51および第2リップ部52は、本体部50の内周面から径方向の内側に突出する。第2リップ部52は第1リップ部51のZ1方向に位置する。
図2に例示される通り、第1リップ部51は円筒部30の外周面301に接触し、第2リップ部52は第1部分31の第1面311(外周面)に接触する。すなわち、円筒部30の外周面301により第1リップ部51が押圧され、第1部分31の第1面311により第2リップ部52が押圧される。
【0035】
第3リップ部53および第4リップ部54は、本体部50のうち第2部分32に対向する上面に形成されて周方向に延在する環状の突起である。第3リップ部53および第4リップ部54は、本体部50の上面から突出する。第3リップ部53は第4リップ部54の内側に位置する。第3リップ部53は第1環状部41の下面411に接触し、第4リップ部54は第2環状部42の第2面421に接触する。すなわち、第1環状部41の下面411により第3リップ部53が押圧され、第2環状部42の第2面421により第4リップ部54が押圧される。
【0036】
以上の説明から理解される通り、シール部24は、円筒部30の外周面301と第1部分31の第1面311と第2部分32の封止面321(第1環状部41の下面411および第2環状部42の第2面421)とに接触する。第1面311が中心軸Cに対して傾斜し、かつ、第2面421が基準面Rに対して傾斜する構成により、第1面311と第2面421とは、シール部24を挟んで相対する。
【0037】
以上に説明した通り、本実施形態においては、第1面311が中心軸Cに対して傾斜する構成(以下「構成1」という)と、第2面421が基準面Rに対してZ1方向に位置する構成(以下「構成2」という)とを採用する。構成1によれば、第1面311が中心軸Cに平行である構成と比較して、第1面311からシール部24に作用する接触圧が増加する。したがって、第1面311とシール部24との接触によるシール性が向上する。また、構成2によれば、第2面421が基準面Rに平行である構成と比較して、第2面421からシール部24に作用する接触圧が増加する。したがって、第2面421とシール部24との接触によるシール性が向上する。本実施形態においてはシール部24の第4リップ部54が第2面421に接触するから、本体部50が第2面421に接触する構成と比較して、シール性の向上という前述の効果は格別に顕著である。
【0038】
また、構成1および構成2の双方を採用した結果、本実施形態においては、環状体21における第1部分31の第1面311と第2部分32の第2面421との双方により、カバー22のシール部24が押圧される。構成1においては、第1面311が円筒部30の外周面301に対して径方向の外側に傾斜するから、第1面311からシール部24に作用する押圧力のうち径方向の成分は、径方向の外側を向く。また、構成2においては、第2面421が基準面Rに対してZ1方向に位置するから、第2面421からシール部24に作用する押圧力のうち径方向の成分は、径方向の内側を向く。すなわち、第1面311と第2面421とによりシール部24が径方向に挟み込まれる。以上の通り、構成1および構成2の双方を採用することで、環状体21が第1部分31および第2部分32の一方のみを備える形態と比較して、シール部24が安定的に保持され、結果的にシール部24によるシール性が向上する。
【0039】
構成1および構成2の双方を採用する本実施形態との対比例として、構成2のみを採用した構成を想定する。対比例においては、第2面421は基準面Rに対してZ1方向に位置するが、第1部分31は円筒部30と同径の円筒である。対比例においては、第2面421からシール部24に作用する接触圧を構成2により増加できる反面、第2面421による押圧でシール部24がZ1方向に降下し、結果的にシール性が低下する可能性がある。低温環境においてはカバー22の柔軟性が低下するため、ボールスタッド11の揺動に対してカバー22の変形が追従し難くなる。すなわち、シール部24の降下によるシール性の低下という問題は、低温環境において特に顕在化し易い。
【0040】
以上の対比例とは対照的に、本実施形態においては構成1および構成2の双方が採用される。構成2の採用により第2面421からシール部24に対する接触圧が増加する。他方、構成1により、第1面311がシール部24を下方から支持することでシール部24の降下が抑制される。すなわち、本実施形態によれば、構成1と構成2との相互的な作用により、構成1および構成2の各々を個別に採用した場合と比較して、シール部24を安定的に保持できるという格別な効果が実現される。
【0041】
ところで、シール部24の降下を抑制することのみを考慮すると、構成1における第1面311の面積を充分に確保することが望ましい。例えば、
図4の例示のように円筒部30が省略された構成も想定される。しかし、円筒部30が省略された構成では、環状体21と取付部114との嵌合が困難である。すなわち、環状体21を取付部114に対して強固に固定することができない。なお、取付部114の外周面を第1面311に密着するテーパー状とすれば、環状体21を取付部114に強固に固定することも可能である。しかし、前述のピンチボルトタイプのボールジョイント100においては、
図4に鎖線で図示される通り、取付部114の外径が中心軸Cに沿う方向の全範囲にわたり一定である構成が一般的である。以上の事情を考慮して、本実施形態においては、環状体21が第1部分31に加えて円筒部30を含む構成を採用する。以上の構成によれば、円筒部30の内周面302が取付部114の外周面に密着することで環状体21が取付部114に嵌合される。したがって、第1部分31の第1面311によりシール部24の降下を抑制しながら、円筒部30により環状体21を取付部114に強固に固定できるという利点がある。
【0042】
B:変形例
以上に例示した各態様に付加される具体的な変形の態様を以下に例示する。以下の例示から任意に選択された2以上の態様を、相互に矛盾しない範囲で適宜に併合してもよい。
【0043】
(1)第1部分31の形状は、前述の形態に例示した形状に限定されない。例えば、前述の形態においては、第1部分31が円筒部30に対して折曲げられた形態を例示したが、
図5に例示される通り、第1部分31が円筒部30に対して湾曲した形態も想定される。すなわち、円筒部30と第1部分31との間に明確な境界(折曲げ線)は存在しなくてもよい。前述の形態においては、第1部分31の母線が直線である形態を例示したが、
図6に例示される通り、第1面311の母線が曲線である形態も想定される。すなわち、第1部分31の第1面311および内周面312の各々の母線は曲線でもよい。また、前述の形態においては、第1部分31の第1面311および内周面312の双方が円筒部30に対して傾斜する形態を例示したが、
図7に例示される通り、第1部分31の内周面312は、中心軸Cに平行な円柱面でもよい。
図7の構成においては、第1部分31のうちZ1方向の端部に近い地点ほど、当該第1部分31の板厚が大きい。
【0044】
(2)第2環状部42の形状は、前述の形態に例示した形状に限定されない。例えば、前述の形態においては、第2環状部42が第1環状部41に対して折曲げられた形態を例示したが、
図8に例示される通り、第2環状部42が第1環状部41に対して湾曲した形態も想定される。すなわち、第1環状部41と第2環状部42との間に明確な境界(折曲げ線)は存在しなくてもよい。前述の形態においては、第2環状部42の母線が直線である形態を例示したが、
図9に例示される通り、第2環状部42の母線が曲線である形態も想定される。すなわち、第2環状部42の第2面421および上面422の各々の母線は曲線でもよい。また、前述の形態においては、第2環状部42の第2面421および上面422の双方が第1環状部41に対して傾斜する形態を例示したが、
図10に例示される通り、第2環状部42の上面422は、中心軸Cに垂直な平面でもよい。
図10の構成においては、第2環状部42のうち径方向の外側の端部に近い地点ほど、当該第2環状部42の板厚が大きい。
【0045】
また、
図11に例示される通り、第2部分32は、第2環状部42を包囲する第3環状部43を含んでもよい。すなわち、第2部分32は、2段以上に折曲げられてもよい。
図11の例示から理解される通り、第2面421を含む第2環状部42は、第2部分32の最外周に位置する部分でなくてもよい。
【0046】
(3)前述の形態においては、第2部分32が第1環状部41を含む形態を例示したが、
図12に例示される通り、第1環状部41は省略されてよい。
図12に例示された形態においては、第2環状部42が円筒部30に直接的に連結される。以上の説明から理解される通り、中心軸C上における第1地点P1の位置C1が第2地点P2の位置C2よりもZ1方向に位置する第2面421を、第2部分32が含む構成であれば、第1環状部41の有無は本発明において不問である。
【0047】
ただし、第2部分32が第1環状部41と第2環状部42とを含む前述の形態によれば、第1環状部41の上面412をナックル13の下面134に接触させることが可能である。したがって、
図12の構成と比較して環状体21を安定的に保持できるという利点がある。また、第2部分32が第1環状部41を含む形態によれば、第2部分32とナックル13とが相互に接触する面積を充分に確保できる。したがって、環状体21とナックル13との間隙に塵埃または水分が進入する可能性を低減できる。
【0048】
(4)前述の形態においては、中心軸Cに対する第1面311の角度θ1が1°以上かつ15°以下である構成を例示したが、角度θ1は以上の例示に限定されない。例えば、第1面311が、15°を上回る角度θ1で中心軸Cに対して傾斜する形態も想定される。
【0049】
ところで、環状体21の円筒部30および第1部分31をシール部24の開口に挿入することで、環状体21とカバー22とが相互に装着される。第1面311が中心軸Cに対して傾斜する形態においては、第1部分31のうちZ1方向の端部における外径D1を上回る程度にシール部24の内径を弾性的に拡張した状態で、シール部24の開口に環状体21の円筒部30および第1部分31が挿入される。第1面311の角度θ1が過度に大きい形態では、環状体21とシール部24との装着時にシール部24の内径を大きく拡張する必要がある。第1面311の角度θ1が1°以上かつ15°以下に抑制された前述の形態によれば、環状体21にシール部24を装着する工程において、シール部24の内径を過度に拡張する必要がない。したがって、環状体21の円筒部30および第1部分31をシール部24の開口に挿入する作業が容易であるという利点がある。
【0050】
(5)前述の形態においては、基準面Rに対する第2面421の角度θ2が1°以上かつ90°以下である構成を例示したが、角度θ2は以上の例示に限定されない。例えば、
図13に例示される通り、第2面421が90°を上回る角度θ2で基準面Rに対して傾斜する形態も想定される。
図13には、第2面421に含まれる第1地点P1と第2地点P2とが図示されている。第2地点P2は、第1地点P1よりも第1環状部41に近い地点である。
図13から理解される通り、角度θ2が90°を上回る形態においても、中心軸C上における第1地点P1の位置C1は、当該中心軸C上における第2地点P2の位置C2よりもZ1方向に位置する。なお、第4リップ部54が第2面421に接触する構成は、前述の形態と同様である。
【0051】
図13の形態は、前述の形態と同様に、第2面421が基準面Rに対してZ1方向に位置する前述の構成2に該当する。したがって、第2面421からシール部24に作用する押圧力のうち径方向の成分は、径方向の内側を向く。すなわち、第1面311と第2面421とによりシール部24が径方向に挟み込まれる。したがって、前述の形態と同様に、シール部24が安定的に保持され、結果的にシール部24によるシール性が向上する。
【0052】
なお、第2面421の角度θ2が1°以上かつ90°以下である形態によれば、第2面421からシール部24に作用する押圧力のうち中心軸Cの方向の成分がZ1方向に向く。他方、第1面311からシール部24に作用する押圧力のうち中心軸Cの方向の成分はZ2方向に向く。すなわち、第1面311と第2面421とによりシール部24が中心軸Cの方向に挟み込まれる。したがって、第2面421の角度θ2が90°を上回る形態と比較して、シール部24が安定的に保持され、結果的にシール部24によるシール性が向上するという利点がある。
【0053】
他方、
図13の例示のように角度θ2が90°を上回る構成によれば、第2面421からシール部24に作用する押圧力のうち中心軸Cの方向の成分がZ2方向に向く。したがって、角度θ2が90°を下回る構成と比較すると、シール部24の降下を抑制する効果が、第1面311に加えて第2面421によっても実現される。したがって、例えば、第1面311の角度θ1を充分に確保できない構成でも、第2面421によりシール部24を安定的に保持できるという利点がある。換言すると、シール部24を安定的に保持するために必要な第1面311の角度θ1を低減できる。角度θ1が低減される結果、環状体21にシール部24を装着する工程において、シール部24の内径を過度に拡張する必要がない。したがって、環状体21にシール部24を装着する工程が容易であるという利点もある。
【符号の説明】
【0054】
100…ボールジョイント、10…ジョイント機構、11…ボールスタッド、112…軸部、113…球状部、114…取付部、12…ソケット、121…軸受部、122…軸受面、13…ナックル、131…取付孔、132…溝部、133…ボルト、20…ダストカバー、21…環状体、22…カバー、30…円筒部、301…外周面、302…内周面、31…第1部分、311…第1面、312…内周面、32…第2部分、41…第1環状部、411…下面、412…上面、42…第2環状部、421…第2面、422…上面。