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特許7685737疾患の治療または予防に用いるためのファクター1およびファクター2タンパク質、およびその阻害剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-22
(45)【発行日】2025-05-30
(54)【発明の名称】疾患の治療または予防に用いるためのファクター1およびファクター2タンパク質、およびその阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/17 20060101AFI20250523BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20250523BHJP
   A61P 9/04 20060101ALI20250523BHJP
   A61P 9/10 20060101ALI20250523BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20250523BHJP
【FI】
A61K38/17 ZNA
A61K48/00
A61P9/04
A61P9/10
A61P9/10 101
A61P9/10 103
A61P43/00 105
A61P43/00 107
【請求項の数】 10
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020135954
(22)【出願日】2020-08-11
(62)【分割の表示】P 2015553072の分割
【原出願日】2014-01-16
(65)【公開番号】P2020203894
(43)【公開日】2020-12-24
【審査請求日】2020-09-04
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-08
(31)【優先権主張番号】13151593.4
(32)【優先日】2013-01-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】515195668
【氏名又は名称】メディツィーニシェ・ホーホシューレ・ハノーファー
【氏名又は名称原語表記】Medizinische Hochschule Hannover
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100170520
【弁理士】
【氏名又は名称】笹倉 真奈美
(74)【代理人】
【識別番号】100221545
【弁理士】
【氏名又は名称】白江 雄介
(72)【発明者】
【氏名】カイ・クリストフ・ヴォラート
(72)【発明者】
【氏名】モルティマー・コーフ-クリンゲビール
【合議体】
【審判長】松波 由美子
【審判官】吉田 佳代子
【審判官】岡山 太一郎
(56)【参考文献】
【文献】Int. J. Cancer, 2011, 発行日, Vol. 129, pp. 1576-1585
【文献】Arthritis Research & Therapy, 2007, 発行日, Vol.9, R30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
医薬の製造のための、N末端に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、または30のアミノ酸の欠失を有する配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質または該欠失を有する配列番号2の変異体の使用であって、該変異体は、該欠失を有する配列番号2と少なくとも99%の配列同一性を有し、
該医薬が、
(i)心臓の虚血、心臓の再灌流傷害、心臓の機械的負荷、心筋梗塞、および心不全からなる群から選択される疾患を治療する;
(ii)左心室収縮機能を改善する;または
(iii)心筋細胞をアポトーシスから保護する
ことにおいて使用するためのものである、使用。
【請求項2】
医薬の製造のための、請求項1に記載のタンパク質または変異体をコードする核酸の使用であって、
該医薬が、
(i)心臓の虚血、心臓の再灌流傷害、心臓の機械的負荷、心筋梗塞、および心不全からなる群から選択される疾患を治療する;
(ii)左心室収縮機能を改善する;または
(iii)心筋細胞をアポトーシスから保護する
ことにおいて使用するためのものである、使用。
【請求項3】
医薬の製造のための、請求項に記載の核酸を含むベクターの使用であって、
医薬が、
(i)心臓の虚血、心臓の再灌流傷害、心臓の機械的負荷、心筋梗塞、および心不全からなる群から選択される疾患を治療する;
(ii)左心室収縮機能を改善する;または
(iii)心筋細胞をアポトーシスから保護する
ことにおいて使用するためのものである、使用。
【請求項4】
ベクターが以下からなる群から選ばれる請求項に記載のベクターの使用:プラスミドベクター;コスミドベクター;ファージベクター、ウイルスベクターおよび細菌胞子。
【請求項5】
(i)ウイルスベクターが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アルファウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、麻疹ウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、水疱性口内炎ウイルスベクター、レトロウイルスベクターおよびレンチウイルスベクター;またはウイルス様粒子であるか、または
(ii)ファージベクターが、ラムダファージまたは糸状ファージベクターである、
請求項に記載のベクターの使用。
【請求項6】
求項に記載の使用または請求項3~5のいずれかに記載の使であって、
医薬が、
(i)心臓の虚血、心臓の再灌流傷害、心臓の機械的負荷、心筋梗塞、および心不全からなる群から選択される疾患を治療する;
(ii)左心室収縮機能を改善する;または
(iii)心筋細胞をアポトーシスから保護する
ことにおいて使用するためのものである、使用。
【請求項7】
医薬が、経口、静脈内、粘膜内、動脈内、筋肉内、または冠動脈内経路を介する投与のために製剤化される、請求項に記載の使用。
【請求項8】
医薬が、再灌流療法の前、後またはそれと同時に投与するために製剤化される、請求項6または7に記載の使用。
【請求項9】
該投与が1またはそれ以上のボーラス注射および/または注入によるものである、請求項に記載の使用。
【請求項10】
a) N末端に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、または30個のアミノ酸の欠失を有する配列番号2のアミノ酸配列を含むタンパク質または該欠失を有する配列番号2の変異体であって、該変異体は、該欠失を有する配列番号2と少なくとも99%の配列同一性を有する、タンパク質または変異体
b) a)のタンパク質または変異体をコードする核酸、または
c) b)の核酸を含むベクター、
および適切な医薬的賦形剤を含む、医薬組成物であって、
該医薬組成物が、
(i)心臓の虚血、心臓の再灌流傷害、心臓の機械的負荷、心筋梗塞、および心不全からなる群から選択される疾患を治療する;
(ii)左心室収縮機能を改善する;または
(iii)心筋細胞をアポトーシスから保護する
ことにおいて使用するためのものである、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非形質転換組織または非形質転換細胞の増殖の増強および/または治癒および/またはアポトーシスの阻害に用いるための、ファクター1と呼ばれるヒト染色体領域C19Orf10および/またはファクター2と呼ばれるC19Orf63由来の核酸によりコードされるアミノ酸配列を含むタンパク質に関する。医療用の、特に、血管新生が疾患の発現または進行の一因となる疾患を治療または予防するのに用いるためのファクター1およびファクター2の阻害剤も提供する。
【背景技術】
【0002】
急性心筋梗塞(AMI)は、世界的な罹患率および死亡率の主原因である。ドイツだけで、発生率が約280.000例/年である。AMIを有する患者の治療は、再灌流療法による冠動脈閉塞の開通と血管の再閉塞を予防するための血小板凝集阻害剤および凝固阻害剤の投与との組み合わせを含む。さらに、脈拍および血圧はβ遮断薬およびACE阻害剤の投与により下げることができる。コレステロールレベルを低下させるためのスタチンの使用も一般的である。心筋を直接修復するための医学的アプローチは、現在のところ、自己の骨髄細胞の実験的使用に限られる。骨髄細胞を使用せずに同様の効果を有する薬剤が是非必要である。
【0003】
AMI時に持続する組織壊死は、壊死領域が肉芽組織で置き換わり、最終的にコラーゲン豊富な瘢痕を生じる創傷治癒反応を引き起こす。単球は、骨髄から梗塞した心筋に補充され、AMI後の創傷治癒時に重要な役割を果たす。心筋における単球の反応は時間的に二相性である。炎症誘発性単球は、より早く出現し、梗塞した組織の消化と壊死残屑の除去を促進するが、修復性単球は後で優位となり、血管新生と修復をもたらす。ケモカインレセプターCXCR4の細胞表面発現は、マウスおよびヒトの修復性単球サブセットを同定する。CXCR4+骨髄細胞の血管新生刺激および治癒促進効果は、パラクリン的に作用する分泌タンパク質により仲介されると考えられるが、これら因子の正体はほとんどわかっていない。
したがって、本発明者らは、AMI後の治療的可能性を示し梗塞治癒を制御する新規分泌タンパク質を同定するためにヒトCXCR4+骨髄細胞を用いるバイオインフォーマティックセクレトーム分析を行った。
【0004】
これらの試験は、本発明者らがファクター1およびファクター2タンパク質と名付けた血管新生刺激および/または細胞保護効果を示す2つの異なるポリペプチドを同定した。
【0005】
両因子は、非形質転換細胞または非形質転換組織におけるこれら因子の血管新生刺激および/または細胞保護効果を含まない生物学的文脈に言及する種々の科学出版物に記載された。いずれの研究も、これらの因子の機能や非形質転換細胞または非形質転換組織とのみ関連する疾患または病状と該因子の1つとの有意な相関の証拠やヒントを開示していない。
【0006】
ヒトファクター1のアミノ酸配列はヒト染色体19のオープンリーディングフレーム10にコードされている(C19Orf10)。該タンパク質は、2007年にいわゆる線維芽細胞様滑膜細胞 (FLS-細胞)のプロテオーム分析において滑膜中の新規分泌ファクターとして記載された。該タンパク質の分泌と関節の炎症疾患との相互関係は、いかなる実験的または統計的証拠もなしに推定されてきた(Weiler et al.、Arthritis Research and Therapy 2007、The identification and characterization of a novel protein、c19orf10、in the synovium)。対応特許出願は該タンパク質を関節治療用治療薬、および増殖変化を受けている組織の診断および組織の変化のモニタリング用にクレームしている(US 2008/0004232 A1、Characterization of c19orf10、a novel synovial protein)。別の科学出版物は、肝細胞癌細胞における該タンパク質の分泌増強について記載している (Sunagozaka et al.、International Journal of Cancer、2010、Identification of a secretory protein c19orf10 activated in hepatocellular carcinoma)。組換え製造タンパク質は、培養肝細胞癌細胞に対する増殖増強効果を示した。C19Orf10は、最初インターロイキンと考えられたのでIL-25、IL-27およびIL-27Wとも呼ばれたことが注目される。しかしながら、用語「IL-25」および「IL-27」は、当該分野では一貫性なく使われ、種々の異なるタンパク質を示すために用いられてきた。例えば、US 2004/0185049は、あるタンパク質をIL-27と呼び、免疫反応の調節における使用を開示している。このタンパク質は、構造的にファクター1と異なる(配列番号1で示されるファクター1アミノ酸配列をUniProt:Q8NEV9に従って「IL-27」のアミノ酸配列と比較する)。同様に、EP 2 130 547 A1は、あるタンパク質をIL-25と呼び、炎症治療への使用を開示している。このタンパク質は、当該分野ではIL-17Eとも呼ばれ、ファクター1と構造的に異なる (配列番号1で示されるファクター1のアミノ酸配列をUniProt:Q9H293に従って「IL-25」のアミノ酸配列と比較する)。
【0007】
ヒトファクター2のアミノ酸配列はヒト染色体19のオープンリーディングフレーム63にコードされる(C19Orf63)。該タンパク質は、2009年に新規分泌ファクターINM02として記載された(Wang et al.、Journal of Endocrinology 2009、Molecular cloning of a novel secreted peptide、INM02、and regulation of its expression by glucose)。該タンパク質の存在は、ポリクローナル抗体を用いてヒト血清で示された。さらに、培養MIN6(β細胞)および単離ラット膵臓アイレットと培地中のグルコース濃度との相関が示された。糖尿病とINM2の発現との相関分析は有意差を示さなかった。対応特許出願は、該タンパク質に対するポリクローナル抗体の産生とその糖尿病治療への使用をクレームしている (CN 200910055490、Novel polyclonal antibody of secretive peptide INM02 and preparation method thereof)。
【0008】
別の科学出版物は、該タンパク質を新規分泌ファクターhHSS1と記載した (ヒト造血シグナルペプチド含有分泌1) (Junes-Gill et al.、J Neurooncol、2011、hHSS1:a novel secreted facto and suppressor of glioma growth located at chromosome 19q13.33)。
公表されたデータは、造血系幹細胞におけるhHSS1の発現を示し、特定の脳腫瘍(神経膠腫)の発生における腫瘍抑制因子としての機能を示唆する。対応特許出願は、脳腫瘍治療におけるhHSS1の使用をクレームしている(WO2011/094446 A1、A method for treating brain cancer using a novel tumor suppressor gene and secreted factor)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
(発明の要約)
本発明は、第1の局面において、非形質転換組織または非形質転換細胞の増殖の増強および/または治癒および/またはアポトーシスの阻害に用いるための配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質またはその断片もしくは配列番号1と少なくとも80%の配列同一性を有する変異体を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第2の局面において、本発明は、非形質転換組織または非形質転換細胞の増殖の増強および/または治癒および/またはアポトーシスの阻害に用いるための配列番号3のアミノ酸配列を含むタンパク質またはその断片もしくは配列番号3と少なくとも80%の配列同一性を有する変異体を提供する。
【0011】
第3の局面において、本発明は、非形質転換組織または非形質転換細胞の増殖を増強し、および/またはアポトーシスを治癒および/または阻害するための、第1および第2の局面のタンパク質をコードする核酸を提供する。
【0012】
第4の局面において、本発明は、第3の局面の核酸を含む、非形質転換組織または非形質転換細胞の増殖の増強および/または治癒および/またはアポトーシスの阻害に用いるためのベクターを提供する。
【0013】
第5の局面において、本発明は、非形質転換組織または非形質転換細胞の増殖の増強および/または治癒および/またはアポトーシスの阻害に用いるための、第1および/または第2の局面のタンパク質および/または第3の局面の核酸および/または第4の局面のベクターおよび所望により適切な医薬的賦形剤を含む医薬組成物を提供する。
【0014】
第6の局面において、本発明は、医療用、好ましくは血管新生が疾患の発現または進行の一因となる疾患を治療または予防するためのそれぞれファクター1およびファクター2の阻害剤を提供する。
【0015】
第7の局面において、本発明は、血管新生が疾患の発現または進行の一因となる疾患を治療または予防するためのそのような阻害剤をコードする核酸を提供する。
【0016】
第8の局面において、本発明は、血管新生が疾患の発現または進行の一因となる疾患を治療または予防するためのそのような阻害剤をコードする第7の局面の核酸を含むベクターを提供する。
【0017】
第9の局面において、本発明は、血管新生が疾患の発現または進行の一因となる疾患の治療または予防に用いる第6の局面の阻害剤および/または第7の局面の核酸および/または第8の局面のベクターおよび所望により適切な医薬的賦形剤を含む医薬組成物を提供する。上記要約は本発明のすべての局面を必ずしも説明していない。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ヒト冠動脈内皮細胞 (HCAEC)およびヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)を、示すように10%FCS、ヒト組換えVEGF-A (R&D Systems)、または種々の濃度の組換えヒトファクター1 (配列番号2で示されるアミノ酸配列)またはファクター2 (配列番号4で示されるアミノ酸配列)の非存在下(コントロール)または存在下、最少培地中で24時間培養した。(A) HCAECの増殖をブロモデオキシウリジンの取込みにより測定した。(B) HCAECの遊走をコンフルエント内皮細胞の単層をピペットチップで傷つけた後に評価した。(C) HUVECのネットワーク形成を増殖因子減少マトリゲル上で培養した細胞で評価した。N=3~5 独立した実験/条件;*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001対コントロール。
図2】心室心筋細胞を、1~3日齢のSprague-Dawleyラットからパーコール密度勾配遠心分離により単離した。心筋細胞を、示した組換えヒトGDF-15または種々の濃度の組換えマウスファクター1 (配列番号13で示されるアミノ酸配列)の非存在下(コントロール)または存在下、180時間、模擬虚血(5%CO2/95%N2雰囲気中の2-デオキシグルコース含有グルコース不含培地)、次いで60分間、模擬再灌流(5%CO2/95%室内空気中のグルコース含有培地に戻す)に暴露した。細胞死をin situ TdT介在性dUTPニック末端標識 (TUNEL)で評価した。N=3 独立した実験/条件;*P<0.05対コントロール。
図3】マウスファクター1またはファクター2 cDNAs (配列番号7および10で示される核酸)を複製欠損性アデノウイルスにクローン化した。ガラクトシダーゼをコードする(lacZ)複製欠損性アデノウイルスをコントロールに用いた。10~12週齢の雄C57BL/6マウスをイソフルランで麻酔および換気し、次いで永久左前下行枝冠動脈(LAD)結紮を行った。LAD結紮直後にウイルスを左心室(LV)腔内に注射した。(A) 左心室収縮機能 (分別面積変化、FAC)をLAD結紮後28日の経胸壁心エコー検査により評価した。(B) 境界域梗塞のイソレクチン陽性毛細血管密度をLAD結紮後28日の蛍光顕微鏡検査により定量した。*P<0.05、**P<0.01対Ad.lacZコントロール。
図4】10~12週齢の雄C57BL/6マウスをイソフルランで麻酔および換気し、一時間、一時的左前下行枝冠動脈結紮を行い、次いで28日間、再灌流した。マウスに、再灌流時に、組換えマウスファクター1 (配列番号13で示されるアミノ酸配列)またはファクター2 (配列番号24で示されるアミノ酸配列)を単回s.c.注射した。次いで、組換えファクター1またはファクター2を7日間連続s.c.注入した。コントロールマウスにPBSを注入した。(A)左心室収縮機能 (分別面積変化、FAC)を再灌流後28日に経胸壁心エコー検査で評価した。(B) 境界域梗塞のイソレクチン陽性毛細血管密度を再灌流後28日に蛍光顕微鏡検査で定量した。*P<0.05、**P<0.01対PBSコントロール。
図5】10~12週齢の雄C57BL/6マウスをイソフルランで麻酔および換気し(1~2%)、1時間、一時的左前下行枝冠動脈結紮し、次いで28日間、再灌流した。再灌流時にマウスに組換えマウスファクター1またはファクター2 (それぞれ配列番号13および24)を単回s.c.注射した(コントロールマウスにはPBSを注射した)。次いで、組換えファクター1またはファクター2を7日間連続s.c.注入した。コントロールマウスにはPBSを注入した。マウスを28日間毎日検査して梗塞後の生存を評価した。
図6】ヒトC19Orf10によりコードされたタンパク質との配列相同物をBLASTPアルゴリズムにより調べた。同定した配列から、種々の脊椎動物種、主として哺乳類からの例と、両生類、鳥類および魚類から一例を選んだ。選んだアミノ酸配列をCLUSTALW2アルゴリズムを用いてアラインメントした。すべてのアラインメントした種間の同一性を「*」でマークし、ほとんど高度に保存されたアミノ酸位置(すなわち、保存的置換を示すのみ)を「:」でマークし、高度に保存されたアミノ酸位置を「.」でマークする。
図7】ヒトC19Orf10によりコードされたタンパク質との配列相同物をBLASTPアルゴリズムにより調べた。同定した配列から、種々の脊椎動物種、主として哺乳類からの例と、両生類、鳥類および魚類から一例を選んだ。選んだ哺乳類のアミノ酸配列をCLUSTALW2アルゴリズムでアラインメントした。すべてのアラインメントした種間の同一性を「*」でマークし、ほとんど高度に保存されたアミノ酸位置(すなわち、保存的置換を示すのみ)を「:」でマークし、高度に保存されたアミノ酸位置を「.」でマークする。
図8】ヒトC19Orf63スプライス変異体によりコードされたタンパク質との配列相同物HSS1をBLASTPアルゴリズムにより調べた。同定した配列から、種々の脊椎動物種、主として哺乳類からの例と、両生類および鳥類から一配列を選んだ。選んだアミノ酸配列をCLUSTALW2アルゴリズムを用いてアラインメントした。すべてのアラインメントした種間の同一性を「*」でマークし、ほとんど高度に保存されたアミノ酸位置(すなわち、保存的置換を示すのみ)を「:」でマークし、高度に保存されたアミノ酸位置を「.」でマークする。
図9】ヒトC19Orf63スプライス変異体HSS1によりコードされたタンパク質との配列相同物をBLASTPアルゴリズムにより調べた。同定した配列から、種々の脊椎動物種、主として哺乳類からの例と、両生類および魚類種から一配列を選んだ。選んだ哺乳類のアミノ酸配列をCLUSTALW2アルゴリズムを用いてアラインメントした。すべてのアラインメントした種間の同一性を「*」でマークし、ほとんど高度に保存されたアミノ酸位置(すなわち、保存的置換を示すのみ)を「:」でマークし、高度に保存されたアミノ酸位置を「.」でマークする。
図10】ヒトC19Orf63スプライス変異体 HSM1によりコードされたタンパク質との配列相同物をBLASTPアルゴリズムにより調べた。同定した配列から、種々の脊椎動物種、主として哺乳類からの例と、両生類および魚類から一配列を選んだ。選んだ哺乳類のアミノ酸配列をCLUSTALW2アルゴリズムを用いてアラインメントした。すべてのアラインメントした種間の同一性を「*」でマークし、ほとんど高度に保存されたアミノ酸位置(すなわち、保存的置換を示すのみ)を「:」でマークし、高度に保存されたアミノ酸位置を「.」でマークする。
図11】ヒトC19Orf63スプライス変異体 HSM1によりコードされたタンパク質との配列相同物をBLASTPアルゴリズムにより調べた。同定した配列から、種々の脊椎動物種、主として哺乳類からの例と、両生類および魚類から一配列を選んだ。選んだ哺乳類のアミノ酸配列をCLUSTALW2アルゴリズムを用いてアラインメントした。すべてのアラインメントした種間の同一性を「*」でマークし、ほとんど高度に保存されたアミノ酸位置(すなわち、保存的置換を示すのみ)を「:」でマークし、高度に保存されたアミノ酸位置を「.」でマークする。
図12】組換えファクター1 (パネルA)および組換えファクター2 (パネルB)で刺激したHCAECの増殖に対するファクター1および2特異抗体の効果を示す。データは、3~6実験の平均±SEMである。パネルA: #P<0.05、##P<0.01対非刺激コントロール(左のカラム) *P<0.05、**P<0.01対抗体なしファクター1;パネルB:##P<0.01対非刺激コントロール(左端のカラム) *P<0.05、**P<0.01対抗体なしファクター2。
【0019】
(発明の詳細な説明)
本発明を詳細に説明する前に、本発明は本明細書に記載の特定の方法論、プロトコール、および試薬に限定されず変化しうると理解すべきである。本明細書で用いている用語は特定の態様を説明するだけのためであり、本発明の範囲はそれに限定されるものではなく、特許請求の範囲によってのみ限定されると理解すべきである。特記しない限り、本明細書で用いているすべての技術および科学用語は、当業者が一般に理解しているのと同じ意味を有する。
【0020】
(定義)
好ましくは、本明細書で用いている用語は、「A multilingual glossary of biotechnological terms:(IUPAC Recommendations)」、H.G.W. Leuenberger、B. Nagel、and H. Koelbl編、Helvetica Chimica Acta、CH-4010 Basel、Switzerland、(1995)に記載のごとく定義される。
【0021】
本発明を実施するには、特記しない限り、当該分野の文献に記載の常套的な化学、生化学、細胞生物学的方法、および組換えDNA技術を用いる(例えば、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、J. Sambrook et al編、Cold Spring Harbor Laboratory Press、Cold Spring Harbor 1989参照)。さらに、当該分野の文献に記載の常套的な臨床心臓病学的方法を用いる(例えば、Braunwald’s Heart Disease. A Textbook of Cardiovascular Medicine、第9版、P. Libby et al編、Saunders Elsevier Philadelphia、2011参照)。
【0022】
本明細書および特許請求の範囲を通して、文脈が他を要求しない限り、用語「含む(「comprise」およびその変化「comprises」および「comprising」)」は、示した整数もしくは工程または整数もしくは工程群を含むがいかなる他の整数もしくは工程または整数もしくは工程群も排除しないことを意味すると理解される。本明細書および特許請求の範囲で用いている単数形は「a」、「an」、および「the」を形成し、文脈が明らかに他を要求しない限り、複数を参照する。
【0023】
核酸分子は、ヌクレオチド単量体を基にした重合体高分子と理解される。ヌクレオチド単量体は、核酸塩基、五炭糖(例えば限定されるものではないがリボースまたは2'-デオキシリボース)、および1~3個のリン酸基からなる。典型的には、ポリヌクレオチドは、個々のヌクレオチド単量体間のホスホジエステル結合により形成される。本発明の文脈において、核酸分子には、限定されるものではないが、リボ核酸(RNA)とデオキシリボ核酸(DNA)が含まれる。用語「ポリヌクレオチド」および「核酸」は本明細書において互換性に用いる。
【0024】
用語「オープンリーディングフレーム」(ORF)は、アミノ酸に翻訳することができるヌクレオチド配列を表す。典型的には、そのようなORFは、所定のリーディングフレームに出発コドン、通常、複数の3ヌクレオチドの長さを持つ後続領域を含むが終止コトン (TAG、TAA、TGA、UAG、UAA、またはUGA)は含まない。典型的には、ORFは天然に生じるかまたは人工的、すなわち遺伝子技術的手段により構築される。ORFは、翻訳されてアミノ酸がペプチド結合鎖を形成するタンパク質をコードする。
【0025】
用語「タンパク質」および「ポリペプチド」は本明細書では互換性に用い、長さや翻訳後修飾に関わらずあらゆるペプチド結合で結合した鎖を表す。本発明に使用できるタンパク質(タンパク質誘導体、タンパク質変異体、タンパク質断片、タンパク質部分、タンパク質エピトープ、およびタンパク質ドメインを含む)は、さらに化学修飾により修飾することができる。これは、そのような化学修飾ポリペプチドは、20の天然アミノ酸以外の他の化学基を含む。そのような他の化学基の例には、限定されるものではないが、グリコシル化アミノ酸およびリン酸化アミノ酸が含まれる。ポリペプチドの化学修飾は、非ポリペプチドに比べて好都合な特性、例えば安定性の増強、生物学的半減期の増加、または水溶性の増加の1またはそれ以上をもたらしうる。本発明に使用できる変異体に適用可能な化学修飾には、限定されるものではないが以下のものが含まれる:ペグ化、非グリコシル化親ポリペプチドのグリコシル化;エクセナチド、アルビグルチド、タスポグルチド、DPP4阻害剤、インクレチン、およびリラグルチドを含むグルカゴン様ペプチド1アゴニストなどの治療的小分子との共有結合;または親ポリペプチドに存在するグリコシル化パターンの修飾。本発明に使用できる変異体に適用可能なそのような化学修飾は共翻訳(翻訳時)または翻訳後に生じうる。
【0026】
用語「アミノ酸」は、天然アミノ酸およびアミノ酸誘導体を含む。本発明の文脈において疎水性非芳香族アミノ酸は、好ましくはKyte-Doolittleヒドロパシー指数0.5以上、より好ましくは1.0以上、さらにより好ましくは1.5以上の芳香族でないあらゆるアミノ酸である。好ましくは、本発明の文脈において疎水性非芳香族アミノ酸は、アミノ酸アラニン(Kyte Doolittleヒドロパシー指数1.8)、メチオニン(Kyte Doolittleヒドロパシー指数1.9)、イソロイシン(Kyte Doolittleヒドロパシー指数4.5)、ロイシンKyte Doolittleヒドロパシー指数3.8)、およびバリン(Kyte Doolittleヒドロパシー指数4.2)、または上記Kyte Doolittleヒドロパシー指数を有するその誘導体からなる群から選ばれる。
【0027】
本明細書で用いている用語「翻訳後」は、ヌクレオチドトリプレットのアミノ酸への翻訳および配列中の続くアミノ酸とのペプチド結合の形成後に生じる事象を表す。そのような翻訳後事象は、完全なポリペプチドが形成された後に生じるか、または翻訳過程中にすでに翻訳されたポリペプチドの部分にすでに生じうる。翻訳後事象は、典型的には生じたポリペプチドの化学的または構造的特性を変化させるか修飾する。翻訳後事象の例には、限定されるものではないが、アミノ酸のグリコシル化またはリン酸化、またはペプチド鎖のエンドペプチダーゼなどによる開裂などの事象が含まれる。
【0028】
本明細書で用いている用語「共翻訳(翻訳時)」は、ヌクレオチドトリプレットのアミノ酸鎖への翻訳過程中に生じる事象を表す。該事象は、典型的には、生じたアミノ酸鎖の化学的または構造的特性を変化させるか修飾する。共翻訳事象の例には、限定されるものではないが、翻訳過程を完全に止めるか、またはペプチド結合形成を妨げて2つの分離した翻訳産物を生じうる事象が含まれる。
【0029】
本明細書で用いている用語「変異体」は、ポリペプチドが誘導されるポリペプチドまたはその断片と比べてアミノ酸配列に1またはそれ以上の変化があることが異なるポリペプチドを表す。タンパク質変異体が誘導されるポリペプチドは親ペプチドとしても知られている。同様に、タンパク質断片変異体が誘導される断片は親断片として知られている。典型的には、変異体は、人工的、好ましくは遺伝子技術的手段により構築される。典型的には、親ポリペプチドは野生型タンパク質または野生型タンパク質ドメインである。さらに、本発明に使用できる該変異体は、親ポリペプチドの相同体、オルソログ、またはパラログ、または人工的に構築された変異体から誘導され、親ポリペプチドの少なくとも1の生物活性を有する。アミノ酸配列の変化は、1または種々の部位に生じうるアミノ酸置換、挿入、欠失、N末端切断、またはC末端切断、またはこれらの変化のあらゆる組み合わせでありうる。好ましい態様において、本発明に使用できる変異体は、アミノ酸配列中に総数100以下(1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、または100以下)の変化(すなわち、置換、挿入、欠失、N末端切断、および/またはC末端切断)を有する。該アミノ酸置換は、保存的および/または半保存的および/または非保存的でありうる。好ましい態様において、本発明に使用できる変異体は、それが誘導されるタンパク質またはドメインと1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、または50以下のアミノ酸置換、好ましくは保存的アミノ酸変化が異なる。
【0030】
典型的な置換は、脂肪族アミノ酸、脂肪族ヒドロキシル側鎖を有するアミノ酸、酸性残基を有するアミノ酸、アミド誘導体、塩基性残基を有するアミノ酸、または芳香族残基を有するアミノ酸に生じる。典型的な半保存的および保存的置換は以下の通りである:
【0031】
【表1】
【0032】
新規システインが遊離チオールのままである場合は、A、F、H、I、L、M、P、V、W、またはYからCへの変化は半保存的である。さらに、当業者は、立体的にかさ高い位置のグリシンは置換されるべきではなく、Pはαらせんまたはβシート構造を有するタンパク質の部分に導入されるべきではないことを認識するだろう。
【0033】
あるいはまたはさらに、本明細書で用いている「変異体」は、それが誘導される親ポリペプチドまたは親ポリヌクレオチドに対するある程度の配列同一性により特徴付けることができる。より正確には、本発明の文脈においてタンパク質変異体は、その親ポリペプチドと少なくとも80%の配列同一性を有する。好ましくは、該ポリペプチドおよび基準ポリペプチドは、20、30、40、45、50、60、70、80、90、100またはそれ以上のアミノ酸の連続ストレッチまたは基準ポリペプチドの全長にわたり示した配列同一性を示す。好ましくは、該ポリヌクレオチドおよび基準ポリヌクレオチドは、60、90、120、135、150、180、210、240、270、300またはそれ以上のヌクレオチドの連続ストレッチまたは基準ポリペプチドの全長にわたり示した配列同一性を示す。
【0034】
用語「少なくとも80%の配列同一性」は、本明細書を通してポリペプチドおよびポリヌクレオチド配列比較について用いる。この表現は、好ましくは、各基準ポリペプチドまたは各基準ポリヌクレオチドに対して少なくとも80%、少なくとも81%、少なくとも82%、少なくとも83%、少なくとも84%、少なくとも85%、少なくとも86%、少なくとも87%、少なくとも88%、少なくとも89%、少なくとも90%、少なくとも91%、少なくとも92%、少なくとも93%、少なくとも94%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%、または少なくとも99%の配列同一性を表す。
【0035】
タンパク質の断片は、N末端切断、C末端切断、または内部欠失、またはこれらのあらゆる組み合わせでありうるアミノ酸の欠失を含む。N末端切断、C末端切断および/または内部欠失を含むそのような変異体は、本願の文脈において「断片」という。断片は天然(例えばスプライス変異体)であるか、または人工的、好ましくは遺伝子技術的手段により構築することができる。好ましくは、断片(または欠失変異体)は、親ポリペプチドと比べてそのN末端および/またはそのC末端および/または内部、好ましくはそのN末端、そのNおよびC末端、またはそのC末端に1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、15、20、25、30、35、40、45、または50以下のアミノ酸の欠失を有する。
【0036】
2つの配列を比較し、配列同一性パーセンテージを計算するために比較する基準配列が特定されていない場合は、該配列同一性は、特記しない限り比較する2つの配列の長い方を基準にして計算すべきである。
【0037】
ヌクレオチドおよびアミノ酸配列の類似性、例えば配列同一性パーセンテージは、配列アラインメントにより決定することができる。そのようなアラインメントは、種々の既知のアルゴリズム、好ましくはKarlin and Altschulの数学的アルゴリズム (Karlin & Altschul (1993) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90:5873-5877)、hmmalign (HMMERパッケージ、http://hmmer.wustl.edu/)、またはCLUSTALアルゴリズム (Thompson、J. D.、Higgins、D. G. & Gibson、T. J. (1994) Nucleic Acids Res. 22、4673-80)もしくはCLUSTALW2アルゴリズム (Larkin MA、Blackshields G、Brown NP、Chenna R、McGettigan PA、McWilliam H、Valentin F、Wallace IM、Wilm A、Lopez R、Thompson JD、Gibson TJ、Higgins DG. (2007). Clustal W and Clustal Xバージョン2.0. Bioinformatics、23、2947-2948.)(これらは例えばhttp://npsa-pbil.ibcp.fr/cgi-bin/npsa_automat.pl?page=/NPSA/npsa_clustalw.htmlまたはhttp://www.ebi.ac.uk/Tools/clustalw2/index.htmlで利用可能である)を用いて実施することができる。好ましくは、http://www.ebi.ac.uk/Tools/clustalw2/index.htmlのCLUSTALW2アルゴリズムは、用いるパラメーターがhttp://www.ebi.ac.uk/Tools/clustalw2/index.htmlに記載のデフォルトパラメーター(アラインメントタイプ=スロー、タンパク質重量マトリックス=Gonnet、ギャップオープン=10、ギャップエクステンション=0,1(スロー対アラインメントオプションについて)、およびタンパク質重量マトリックス=Gonnet、ギャップオープン=10、ギャップエクステンション=0,20、ギャップ距離=5、末端ギャップなし=なし、アウトプットオプション:フォーマット=Aln w/numbers、順序=アラインド)である場合に用いる。
【0038】
配列同一性(配列マッチング)のグレードは、例えばBLAST、BLAT、またはBlastZ (またはBlastX)を用いて計算することができる。同様のアルゴリズムを、Altschul et al. (1990) J. Mol. Biol. 215:403-410のBLASTNおよびBLASTPプログラムに組み込む。BLASTタンパク質検索は、例えばhttp://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?PROGRAM=blastp&BLAST_PROGRAMS=blastp&PAGE_TYPE=BlastSearch&SHOW_DEFAULTS=on&LINK_LOC=blasthomeで利用可能なBLASTPプログラムを用いて行う。用いる好ましいアルゴリズムパラメーターは、http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?PROGRAM=blastp&BLAST_PROGRAMS=blastp&PAGE_TYPE=BlastSearch&SHOW_DEFAULTS=on&LINK_LOC=blasthomeに記載のデフォルトパラメーター(期待閾値=10、ワードサイズ=3、クエリー範囲中の最大マッチ=0、マトリックス=BLOSUM62、ギャップコスト=存在:11 エクステンション:1、組成調整=ファクター1およびファクター2ポリペプチドとホモローガスなアミノ酸配列を得るための非冗長タンパク質配列(nr)のデータベースと共に条件付き組成スコアマトリックス調整)である。
【0039】
比較のためのギャップドアラインメントを得るには、Altschul et al. (1997) Nucleic Acids Res. 25:3389-3402に記載のギャップped BLASTを用いる。BLASTおよびギャップped BLASTプログラムを用いる場合は、各プログラムのデフォルトパラメーターを用いる。
配列マッチング分析は、Shuffle-LAGAN (Brudno M.、Bioinformatics 2003b、19 Suppl 1:I54-I62)またはMarkov確率場などの確立された相同性マッピング技術で補完することができる。本願において配列同一性パーセンテージに言及するときは、該パーセンテージは、特記しない限り、より長い配列の全長について計算する。
【0040】
本明細書で用いている用語「宿主細胞」は、本発明の核酸(例えばプラスミドまたはウイルス)を有する細胞を表す。そのような宿主細胞は、原核細胞(例えば細菌細胞)または真核細胞(例えば心筋、植物、または動物細胞)でありうる。該細胞は形質転換されるかまたは形質転換されないことがある。該細胞は、例えば細胞培養、またはそれ自身単離することができる組織の部分、または臓器または個体などのより複雑な組織構造の部分中の単離された細胞でありうる。
【0041】
用語「ファクター1」、「ファクター1タンパク質」または「ファクター1ポリペプチド」は互換性に用い、NCBI基準配列NM_019107.3に示すタンパク質(ヒト相同体)、およびその哺乳類相同体(特にマウスまたはラット由来)を表す。該ヒト相同体のアミノ酸配列は、ヒト染色体19のオープンリーディングフレーム10(C19Orf10)にコードされる。好ましくは、ファクター1タンパク質は、配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するヒトファクター1のコア部分を含むか、から実質的になるか、またはからなるタンパク質を表す。より好ましい態様において、ファクター1タンパク質は配列番号2で示されるアミノ酸配列を有する。
【0042】
用語「ファクター2」、「ファクター2タンパク質」、または「ファクター2 ポリペプチド」は互換性に用い、NCBI基準配列NM_175063.4に示すタンパク質(ヒト相同体)およびその哺乳類相同体(特にマウスまたはラット由来)を表す。ヒトファクター2のアミノ酸配列は、ヒト染色体19のオープンリーディングフレーム63(C19Orf63)にコードされる。好ましくは、ファクター2タンパク質は、配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するヒトファクター2のコア部分を含むか、から実質的になるか、またはからなるタンパク質を表す。
より好ましい態様において、ファクター2タンパク質はそれぞれ配列番号4および5で示されるアミノ酸配列を有する。最も好ましい態様において、ファクター2タンパク質は、好ましくは配列番号4で示されるアミノ酸配列を有する分泌型である。
【0043】
用語「非形質転換組織」または「非形質転換細胞」は、同等な非癌性または発癌性細胞または組織の生理学的パラメーターを示す組織および細胞を表す。そのようなパラメーターには、例えば限定されるものではないが、細胞周期調節、細胞分裂速度、接触阻害、アンカー非依存性増殖または代謝がある。同等な非癌性または発癌性細胞または組織は健康であるか、損傷しているか、または病的である。
【0044】
用語「治癒する」は、生細胞、組織、器官、および生体系全体の再生および修復、および正常機能の部分的または完全な回復を含む。組織、器官、または生体系全体の場合は、該用語は、体内の細胞が損傷または壊死領域の大きさを減少させ、それが新たな生組織で置換する再生および修復プロセスを含む。該置換は、例えば壊死細胞が最初にそこにあったものと同様の組織を形成する新たな細胞で置換する再生によるか、または損傷組織が瘢痕組織で置換する修復により生じ得る。再生は、正常機能の部分的または完全な回復をもたらすプロセスであるので、治癒プロセスの好ましい変形である。したがって、本発明の文脈において用語治癒するはすべてのプロセスを含み、当業者はこの用語と組み合わせるだろうが、好ましくは、再生プロセスは、瘢痕組織などの非機能的組織の生成をもたらすプロセスの代わりに促進されるべきである。本発明の文脈において用語治癒するは、好ましくは増殖、遊走、ネットワーク形成、および血管新生の促進を指向する。
【0045】
用語「増殖を増強する」は、本発明のタンパク質、核酸、ベクター、または医薬組成物で治療しない細胞または細胞群に比べて、細胞または細胞群の細胞分裂速度が増加するこを表す。例えばFACSを用いて有糸分裂細胞を数えることにより細胞の細胞分裂速度を測定する方法は当該分野でよく知られている。
【0046】
用語「アポトーシスを阻害する」は、コントロール細胞または細胞群がアポトーシスになる条件下で細胞または細胞群がアポトーシスになるのを予防する本発明のタンパク質、核酸、ベクター、または医薬組成物の能力を表す。例えばTUNELアッセイなどにより細胞がアポトーシスになるか否かを測定する方法は当業者によく知られている。該態様の説明は、さらに本明細書を通して用いる用語の定義と説明を含む。これらの説明と定義は特記しない限り本願全体に有効である。
【0047】
(態様)
以下に本発明の要素について説明する。該要素は具体的態様と共に記載するが、さらなる態様を生み出すために幾つでも如何様にも組み合わせることができると理解すべきである。種々の記載した実施例および好ましい態様は明示的に記載した態様のみに限定されると解釈すべきではない。本明細書は、明示的に記載した態様とあらゆる数の開示したおよび/または好ましい要素を組み合わせる態様を支持し含むと理解すべきである。さらに、文脈がそうでないと示さない限り、本願中の記載したすべての要素のあらゆる置換と組み合わせが本願の明細書に開示されていると考えるべきである。
【0048】
第1の局面において、本発明は、非形質転換組織または非形質転換細胞について増殖を増強し、および/または治癒し、および/またはアポトーシスを阻害する、特に、非形質転換組織の増殖を増強し、非形質転換細胞の増殖を増強し、非形質転換組織のアポトーシスを阻害し、または非形質転換細胞のアポトーシスを阻害するのに用いるための、好ましくは配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するファクター1タンパク質またはその断片もしくは配列番号1と少なくとも80%の配列同一性を有する変異体を含むか、から実質的になるか、またはからなるタンパク質を提供する。本発明の特に好ましい態様において、該タンパク質は、配列番号1のアミノ酸配列またはその断片を含む。好ましくは、該タンパク質は、配列番号1と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性を有する。
【0049】
本発明のこの局面の好ましい態様において、該タンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列またはその断片、または配列番号2と少なくとも80%の配列同一性を有する変異体を含む。配列番号2の好ましい断片は、N末端シグナル配列MAAPSGGWNGVGASLWAALLLGAVALRPAEA (配列番号35)を欠く。当業者は、不当な負担なしに、親ポリペプチド中のどの位置がどの程度突然変異することができ、どの位置が該ポリペプチドの機能を保存するために維持されなければならないかを決定することができる。そのような情報は、例えば当該分野でよく知られた生物情報学的方法により同定、アラインメント、および分析することができる相同配列から得ることができる。そのような分析は、実施例7に例示的に記載されており、結果を図6および7に示す。突然変異は、好ましくは、種、好ましくは哺乳動物間で完全に保存されていない該タンパク質の領域に導入され、すなわち、該アミノ酸位置の1またはそれ以上が突然変異する(「*」でマークされていない)。より好ましい態様において、完全に保存(「*」で示す)も、より程度の少ない保存(「:」または「.」で示す)もされていないアミノ酸のみが変化する。本発明の特に好ましい態様において、ファクター1タンパク質は、配列番号2のアミノ酸配列またはその断片を含むか、から実質的になるか、またはからなる。好ましくは、該タンパク質は、配列番号2と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有する。そのような突然変異は、配列番号2で示される完全長タンパク質または配列番号1で示されるN末端シグナル配列を欠くタンパク質中に存在するかもしれない。
【0050】
N末端欠失変異体は、N末端シグナルに加えて、アミノ酸位32~55 (配列番号2に基づく)、すなわち、N末端保存領域から1またはそれ以上のアミノ酸が欠失しているかもしれない。したがって、欠失ファクター1タンパク質のN末端は、さらに32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、または56位であるか、あるいはまた、欠失ファクター1タンパク質は、すなわち、C末端保存領域からアミノ酸位146~173(配列番号2に基づく)の1またはそれ以上が欠失しているかもしれない。したがって、欠失ファクター1タンパク質のC末端は、145、146、147、148、149、150、151、152、153、154、155、156、157、158、159、160、161、162、163、164、165、166、167、168、169、170、171、または172位でありうる。本発明の第1の局面のタンパク質は、例えば、得られたタンパク質を安定化または精製するためのさらなるアミノ酸配列をさらに含みうる。そのようなアミノ酸の例には、His6-tags (配列番号36)、myc-tags、またはFLAG-tagsがある。
【0051】
そのような態様において、本発明の第1の局面のタンパク質内のプロテアーゼ開裂部位を突然変異させて該タンパク質を安定化させることが好ましい(Segers et al. Circulation 2007、2011参照)。当業者は、タンパク質内の潜在的タンパク分解開裂部位を決定する方法を知っている。例えば、タンパク質配列を、そのような分析を提供するウェブサイト(例えば、http://web.expasy.org/peptide_cutter/ or http://pmap.burnham.org/proteases)に提出することができる。配列番号2のタンパク質配列をhttp://web.expasy.org/peptide_cutter/に提出すると、低頻度(10未満)の下記開裂部位が決定される:
【0052】
【表2】
【0053】
これらの部位は、該タンパク質の血清半減期を増加するためにそれぞれ同定したプロテアーゼの認識/開裂配列を除去するために変化させることができる。
【0054】
ファクター1およびファクター2は、特に血管新生の増強において増殖増強活性を示した。好ましい態様において、第1の局面のタンパク質は、非形質転換組織または非形質転換細胞の増殖、好ましくは血管新生を増強するのに用いられる。したがって、ファクター1またはファクター2を血管新生の増強が有益でありうる疾患の治療に用いるのが好都合である。そのような疾患の例をさらに以下に例示する。
【0055】
増殖の増強は、本発明の文脈において、本発明のタンパク質を投与しないコントロール細胞またはコントロール組織と比べた細胞または組織のあらゆる程度の増強を含む。細胞の増殖は、例えば、実施例2に記載のブロモデオキシウリジンの取込みにより測定することができる。組織の増殖の増強は、例えば各組織の重量や大きさの増加の測定および組織学的方法により決定することができる。そのような方法は当該分野でよく知られており、その多くが臨床応用するための標準的方法である。
【0056】
別の好ましい態様において、第1の局面のタンパク質は、非形質転換組織または非形質転換細胞の治癒に用いられる。別の好ましい態様において、第1の局面のタンパク質は、非形質転換組織または非形質転換細胞の増殖の増強および治癒に用いられる。特に好ましい態様において、該第1の局面のタンパク質は、非形質転換組織または非形質転換細胞の増殖の増強および治癒、およびアポトーシスの阻害に用いられる。
【0057】
別の好ましい態様において、第1の局面のタンパク質は、非形質転換組織または非形質転換細胞のアポトーシスを阻害するのに用いられる。したがって、本発明のタンパク質は、本発明のタンパク質は、抗アポトーシス潜在能力を示し、アポトーシスによる細胞死から細胞または組織を保護する。この文脈において「保護する」または「細胞保護効果」は、本発明のファクター1タンパク質で処理した細胞でアポトーシスによる細胞死の程度がコントロールと比べて少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%、およびさらにより好ましくは少なくとも50%、および最も好ましくは少なくとも60%減少することを意味する。当業者は、例えば、実施例3に記載のin situ TdT介在性dUTPニック末端標識(TUNEL)により細胞死を評価することができる。アポトーシスの他の指標は、例えば、DNAラダリング(Liu et al.、2005、Circulation 111:90-96)、チトクローム-c放出、またはカスパーゼ3活性(Most et al.、2003、J. Biol. Chem. 278:48404-48412)により試験することができる断片化ゲノムである。ペプチドの抗アポトーシス効果は、実験的心不全動物モデルを用いてin vivoで評価することができる。例えば、虚血後収縮機能不全のマウスを該タンパク質で処理し、処理マウスとコントロールマウスの心臓組織のアポトーシス心筋細胞の程度を評価することができる。該ペプチドを好ましくは非経口的に、例えば腹腔内、静脈内、または皮下に投与することができる。特に好ましい態様において、本発明のタンパク質は、上記機能、すなわち、非形質転換組織または非形質転換細胞の増殖の増強および治癒、およびアポトーシスの阻害の2、好ましくはすべてを示す。配列番号1または配列番号2、より好ましくは配列番号1で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質のそれの少なくとも50%、好ましくは60%、好ましくは70%、好ましくは80%、好ましくは90%およびより好ましくは少なくとも100%である、本発明に含まれるファクター1タンパク質の断片および変異体は、抗アポトーシス潜在能力を示し、アポトーシスによる細胞死から細胞または組織を保護する。
【0058】
第2の局面において、本発明は、非形質転換組織または非形質転換細胞の増殖の増強および/または治癒に用いるための、配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するファクター2タンパク質またはその断片もしくは配列番号3と少なくとも80%の配列同一性を有する変異体を含むか、から実質的になるか、またはからなるタンパク質を提供する。本発明の好ましい態様において、ファクター2タンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列、その断片もしくは配列番号3と少なくとも80%の同一性を有する変異体を含む。当業者は、過度な負担なしに、該ポリペプチドの機能を保存するには、該ポリペプチド中のどの位置をどの程度突然変異させることができ、どの位置を維持しなければならないかを決定することができる。そのような情報は、例えば、当該分野でよく知られた生物情報学的方法により同定、アラインメント、および分析することができる相同配列から得ることができる。本発明の特に好ましい態様において、本発明の第2の局面のタンパク質は、配列番号3のアミノ酸配列またはその断片を含む。好ましくは、該タンパク質は配列番号3と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の配列同一性を有する。
【0059】
本発明の第2の局面のタンパク質は、さらに、例えば得られたタンパク質を安定化または精製するためのさらなるアミノ酸配列を含みうる。
【0060】
ある態様において、本発明の第1の局面のタンパク質内のプロテアーゼ開裂部位を突然変異させて該タンパク質を安定化することが好ましい。適切なタンパク分解開裂部位は上記のごとく同定することができる。
【0061】
本発明の別の好ましい態様において、本発明の第2の局面のタンパク質は、配列番号4のアミノ酸配列、その断片、もしくは配列番号4と少なくとも80%の同一性を有する変異体を含むか、から実質的になるか、またはからなる。好ましい断片は、N末端シグナル配列 MAAASAGATRLLLLLLMAVAA PSRARG’(配列番号37)を欠く。当業者は、過度な負担なしに、該ポリペプチドの機能を保存するには、該ポリペプチド中のどの位置をどの程度突然変異させることができ、どの位置を維持しなければならないかを決定することができる。そのような情報は、例えば、当該分野でよく知られた生物情報学的方法により同定、アラインメント、および分析することができる相同配列から得ることができる。そのような分析は実施例8に例示的に記載されており、結果を図8および9に示す。突然変異は、好ましくは種(好ましくは哺乳動物)間で完全に保存されていないタンパク質の領域のみに導入され、すなわち、「*」でマークしていないアミノ酸位置の1またはそれ以上が突然変異している。より好ましい態様において、完全に保存されて(「*」で示す)も、より少ない程度に保存されて(「:」または「.」で示す)もいないアミノ酸のみを変化させる。本発明の特に好ましい態様において、ファクター2タンパク質は配列番号4のアミノ酸配列またはその断片を含む。好ましくは、該タンパク質は、配列番号4と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性を有する。
【0062】
そのような突然変異は、配列番号4で示される完全長タンパク質、またはN末端シグナル配列を欠く該タンパク質中に存在しうる。N末端欠失突然変異体は、N末端シグナルに加えてアミノ酸位置27~73(配列番号4に基づく)、すなわち、N末端保存領域から1またはそれ以上のアミノ酸が欠失しうる。したがって、欠失ファクター2タンパク質のN末端は、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、または56位でありうる。さらにまたはあるいはまた、欠失ファクター1タンパク質はアミノ酸位置190~254 (配列番号4に基づく、すなわちC末端保存領域から)から1またはそれ以上を欠くかもしれない。さらに、欠失ファクター2タンパク質のC末端は、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205、206、207、208、209、210、211、212、213、214、215、216、217、218、219、220、221、222、223、224、225、226、227、228、229、230、231、232、233、234、235、236、237、238、239、240、241、242、243、244、245、246、247、248、249、250、251、252、または253位でありうる。
【0063】
本発明の別の好ましい態様において、本発明の第2の局面のタンパク質は、配列番号5のアミノ酸配列、その断片、もしくは配列番号5と少なくとも80%の同一性を有する変異体を含むか、から実質的になるか、またはからなる。好ましい断片は、N末端シグナル配列 MAAASAGATRLLLLLLMAVAAPSRARG (配列番号37)を欠く。当業者は、過度な負担なしに、該ポリペプチドの機能を保存するには、該ポリペプチド中のどの位置をどの程度突然変異させることができ、どの位置を維持しなければならないかを決定することができる。そのような情報は、例えば、当該分野でよく知られた生物情報学的方法により同定、アラインメント、および分析することができる相同配列から得ることができる。そのような分析は実施例9に例示的に記載されており、結果を図10および11に示す。突然変異は、好ましくは種(好ましくは哺乳動物)間で完全に保存されていないタンパク質の領域のみに導入され、すなわち、「*」でマークしていないアミノ酸位置の1またはそれ以上が突然変異している。より好ましい態様において、完全に保存されて(「*」で示す)も、より少ない程度に保存されて(「:」または「.」で示す)もいないアミノ酸のみを変化させる。本発明の特に好ましい態様において、ファクター2タンパク質は配列番号5のアミノ酸配列またはその断片を含む。好ましくは、該タンパク質は、配列番号5と少なくとも85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%の同一性を有する。
【0064】
そのような突然変異は、配列番号5で示される完全長タンパク質、またはN末端シグナル配列を欠く配列番号5で示されるタンパク質中に存在しうる。
【0065】
N末端欠失変異体は、N末端シグナルに加えてアミノ酸位置27~73(配列番号4に基づく)、すなわち、N末端保存領域から1またはそれ以上のアミノ酸を欠くかもしれない。さらに、欠失ファクター2タンパク質のN末端は、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、40、41、42、43、44、45、46、47、48、49、50、51、52、53、54、55、または56位でありうる。さらにまたはあるいはまた、欠失ファクター1タンパク質はアミノ酸位置190~262 (配列番号4に基づく)、すなわちC末端保存領域から1またはそれ以上を欠くかもしれない。したがって、欠失ファクター2タンパク質のC末端は、189、190、191、192、193、194、195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205、206、207、208、209、210、211、212、213、214、215、216、217、218、219、220、221、222、223、224、225、226、227、228、229、230、231、232、233、234、235、236、237、238、239、240、241、242、243、244、245、246、247、248、249、250、251、252、253、254、255、256、257、258、259、260、または261位でありうる。
【0066】
配列番号3、配列番号4、または配列番号5、最も好ましくは配列番号3で示されるアミノ酸配列を有するタンパク質のそれの少なくとも50%、好ましくは60%、好ましくは70%、好ましくは80%、好ましくは90%、より好ましくは少なくとも100%である本発明の第2の局面のタンパク質の断片および変異体は、抗アポトーシス潜在能力を示し、アポトーシス細胞死から細胞または組織を保護する。
【0067】
好ましい態様において、該第2の局面のタンパク質は、非形質転換組織または非形質転換細胞の増殖を増強するのに用いられる。増殖の増強は、タンパク質を投与しないコントロール細胞または組織と比べたあらゆるグレードの増強を含む。増殖を測定するための実験的方法は上記している。ブロモデオキシウリジンの取込みにより評価した本発明の第2の局面のタンパク質に関する各増殖測定値も実施例2に記載している。
【0068】
別の好ましい態様において、該第2の局面のタンパク質は非形質転換組織または非形質転換細胞の治癒に用いられる。特に好ましい態様において、本発明の第2の局面のタンパク質は、上記両機能、すなわち、非形質転換組織または非形質転換細胞の増殖増強と治癒を示す。
【0069】
本発明の別の態様において、局面1および/または2のタンパク質をin vivo、ex vivo、またはin vitro、好ましくはin vivoで投与する。本発明の第1の局面のタンパク質および/または本発明の第2の局面のタンパク質をex vivoまたはin vitroで投与する典型的態様では、組織を個体内に移植するために生成する組織工学のために増殖を増強および/または治癒し、および/またはアポトーシスを阻害する。組織工学に用いる細胞は、同じ個体だけでなく同じ種または別の種の別の個体由来でありうる。該細胞または組織の除去方法と新規組織の個体への移植は本発明に含まれない。
【0070】
本発明の好ましい態様において、該非形質転換細胞は幹細胞である。そのような幹細胞は、胚性幹細胞または成体幹細胞および前駆細胞でありうる。本発明は、全能幹細胞および多能性幹細胞を含む。
【0071】
好ましい態様において、該非形質転換細胞または該非形質転換組織は病的である。別の好ましい態様において、該非形質転換細胞または該非形質転換組織は損傷している。別の好ましい態様において、該非形質転換細胞または該非形質転換組織は損傷し、病的である。
【0072】
好ましい態様において、該非形質転換細胞または該非形質転換組織は筋肉細胞または筋肉組織である。筋肉は、当業者に知られたすべてのタイプの筋肉を含む。そのような筋肉は、例えば骨格筋、平滑筋、または心筋である。より特に好ましい態様において、該筋肉は心筋である。別の好ましい態様において、該非形質転換細胞または該非形質転換組織は、上皮細胞または上皮組織である。別の好ましい態様において、該非形質転換細胞または該非形質転換組織は神経細胞または神経組織である。
【0073】
好ましい態様において、該非形質転換細胞または該非形質転換組織は個体の循環器系に属する。
別の好ましい態様において、該非形質転換細胞または該非形質転換組織は、消化器系、内分泌系、排泄系、免疫系、外皮系、筋肉系、神経系、生殖系、呼吸器系、または骨格系を含む群から選ばれる個体の身体の特定の系に属するかまたは由来する。本発明の別の好ましい態様において、該細胞は、個体の記載した系の2、3、4、5、6、7、8、9、10、またはすべてに属する。
【0074】
別の好ましい態様において、該非形質転換細胞または該非形質転換組織は、皮膚、骨、心臓、軟骨、血管、食道、胃、腸、腺、肝臓、腎臓、肺、脳,および脾臓を含む群から選ばれる個体の身体の特定部分または器官に属するかまたは由来する。特に好ましい態様において、該非形質転換細胞または該非形質転換組織は心臓に属するかまたは由来する。
【0075】
損傷した非形質転換細胞または非形質転換組織の場合は、該損傷は、遺伝子/遺伝性疾患、または例えば、虚血、再灌流傷害、炎症、感染症、外傷、機械的負荷、中毒、または外科手術から生じる後天性疾患から生じることがさらに好ましい。特に好ましい態様において、該損傷は虚血から生じる。別の特に好ましい態様において、該損傷は再灌流傷害から生じる。
【0076】
本発明の文脈において、病的または損傷細胞または組織の場合は、該損傷が萎縮、減生、炎症、損傷、または創傷に関連する疾患から生じることが好ましい。該疾患が損傷と関連することが特に好ましい。該疾患が創傷と関連することも特に好ましい。
【0077】
本発明の好ましい態様において、該疾患は、筋ジストロフィー、筋力低下、筋萎縮症、筋炎、セントラルコア病、ネマリン(ロッド)ミオパシー、中心核ミオパシー、筋細管ミオパシー、中心核筋細管ミオパシー、眼筋麻痺、およびミトコンドリアミオパシーからなる群から選ばれる骨格筋障害である。筋ジストロフィーは、Becker筋ジストロフィー、先天性筋ジストロフィー、Duchenne筋ジストロフィー、末梢性筋ジストロフィー、Emery-Dreifuss筋ジストロフィー、顔面肩甲上腕型筋ジストロフィー、肢帯筋ジストロフィー、筋緊張性筋ジストロフィー、および眼咽頭筋筋ジストロフィーからなる群から選ばれうる。
筋炎は、骨化性筋炎、線維筋炎、特発性炎症性ミオパシー (例えば、皮膚筋炎、多発性筋炎,および封入体筋炎)、および化膿性筋炎からなる群から選ばれうる。
【0078】
本発明の別の好ましい態様において、該疾患は原発性または後天性心筋症である。原発性心筋症は遺伝性心筋症および自然突然変異により生じる心筋症から選ばれる。心筋症は、例えば限定されるものではないが、肥大型心筋症(HCMまたはHOCM)、不整脈源性右室心筋症 (ARVC)、孤立性心室心筋緻密化ミトコンドリアミオパシー、拡張型心筋症 (DCM)、拘束性心筋症 (RCM)、たこつぼ型心筋症、Loeffler心内膜炎、糖尿病性心筋症、アルコール性心筋症、肥満関連心筋症である。
【0079】
本発明の文脈において、該後天性心筋症は、好ましくはアテローム性動脈硬化または他の冠動脈疾患により生じる虚血性心筋症、心筋の感染症または中毒により生じる心筋症、肺動脈高血圧および/または動脈性高血圧により生じる高血圧性心臓疾患、および心臓弁疾患から選ばれ、アテローム性動脈硬化または他の冠動脈疾患により生じる虚血性心筋症が特に好ましい。
【0080】
本発明の最も好ましい態様において、虚血または再灌流傷害により損傷する該非形質転換細胞または該非形質転換組織は心臓に属する。したがって、治療する生じる疾患は、心筋梗塞、狭心症、および心不全からなる群から選ばれることが好ましく、心筋梗塞が特に好ましい。本発明の文脈において用いる用語「心筋梗塞」は急性心筋梗塞 (AMI)を含む。
【0081】
特に好ましい態様において、本発明の第1の局面のタンパク質または本発明の第2の局面のタンパク質の使用は、心筋梗塞後の個体への適用を含み、該治癒は左心室収縮機能の改善を含み、境界域梗塞における毛細血管密度の増加と関連しうる。さらに、本発明の第1の局面のタンパク質または本発明の第2の局面のタンパク質は心筋梗塞後の死亡率を減少させうる。左心室収縮機能の改善、境界域梗塞における毛細血管密度の増加、および心筋梗塞後の死亡率の減少などのパラメーターを測定するのに使用できる方法は、当該分野でよく知られており、典型的には実施例4~6に記載されている。
【0082】
上記ファクター1およびファクター2タンパク質、断片、または変異体は、萎縮;減生;炎症、損傷;創傷、虚血;再灌流傷害;炎症;感染症;外傷;機械的負荷;中毒;原発性または後天性心筋症、好ましくは遺伝性心筋症および自然突然変異により生じる心筋症を治療または改善するのに用いられる。心筋症は、例えば限定されるものではないが、肥大型心筋症 (HCMまたはHOCM)、不整脈源性右室心筋症 (ARVC)、孤立性心室心筋緻密化ミトコンドリアミオパシー、拡張型心筋症 (DCM)、拘束性心筋症 (RCM)、たこつぼ型心筋症、Loeffler心内膜炎、糖尿病性心筋症、アルコール性心筋症、または肥満関連心筋症;心筋梗塞または左心室収縮機能の改善におけるものである。上記ファクター1およびファクター2タンパク質、断片、または変異体は、それぞれ記載した病状および疾患の治療方法にも用いうる。
【0083】
第3の局面において、本発明は、非形質転換組織または非形質転換細胞の増殖の増強および/または治癒および/またはアポトーシスの阻害に用いるための第1および第2の局面のタンパク質をコードする核酸を提供する。
【0084】
用語「非形質転換組織または非形質転換細胞の増殖を増強し、および/またはアポトーシスを治癒および/または阻害する」は上記の意味および好ましい意味を有する。
【0085】
核酸配列は、宿主細胞における発現を増強するために最適化することができる。考慮すべきパラメーターには、C:G含有量、好ましいコドン、および阻害的二次構造の回避が含まれる。これらの因子は、特定宿主における発現が増強した核酸配列を得るために種々に組み合わせることができる(例えば、Donnelly et al.、国際公開番号WO 97/47358参照)。
特定宿主で発現を増強する特定配列の能力にはいくつかの経験的実験を必要とする。そのような実験は、予期される核酸配列の発現を測定し、必要であれば該配列を変化させることを伴う。特定アミノ酸配列と遺伝子コードの既知の縮重で始まる多数の種々のコーディング核酸配列を得ることができる。遺伝子コードの縮重は、ほとんどすべてのアミノ酸がヌクレオチドトリプレットすなわち「コドン」の種々の組み合わせによりコードされていることから生じる。特定コドンの特定アミノ酸への翻訳は当該分野でよく知られている(例えば、Lewin GENES IV、p.119、Oxford University Press、1990参照)。
【0086】
本発明の好ましい態様において、該核酸はさらに該タンパク質の発現を調節する位置に転写調節エレメントまたは発現調節配列を含む。そのような核酸は調節エレメントと共にしばしば発現系と呼ばれる。本明細書で用いている用語「発現系」は、目的とする1またはそれ以上の遺伝子産物を製造するように設計された系を表す。典型的には、そのような系は、「人工的に」、すなわちin vivo、in vitro、またはex vivoで目的とする遺伝子産物を製造するのに用いることができる遺伝子技術的手段により設計される。用語「発現系」は、さらに、ポリヌクレオチドの転写、mRNAスプライシング、ポリペプチドへの翻訳、ポリペプチドまたはタンパク質の共翻訳および翻訳後修飾、および細胞内部の1またはそれ以上のコンパートメントに対する該タンパク質のターゲッティング、該細胞からの分泌、および同じまたは別の細胞における該タンパク質の取込みを含む目的とする遺伝子産物の発現を含む。この概要は、真核細胞、組織、または生物に用いる発現系という。原核生物系用の発現系は異なることがあり、原核細胞の発現系を構築する方法は当該分野でよく知られている。
【0087】
遺伝子発現カセット中に存在する調節エレメントは一般的に以下のものを含む:(a)該ポリペプチドをコードするヌクレオチド配列と転写的に結合したプロモーター、(b)該ヌクレオチド配列と機能的に結合した5’リボソーム結合部位、(c)該ヌクレオチド配列の3’末端と結合したターミネーター、および(d)該ヌクレオチド配列と機能的に結合した3’
ポリアデニル化シグナル。遺伝子発現またはポリペプチドプロセシングを増強または調節するのに有用なさらなる調節エレメントも存在しうる。プロモーターは、RNAポリメラーゼにより認識され、下流領域の転写を仲介する遺伝子エレメントである。好ましいプロモーターは、転写レベルの増加をもたらす強プロモーターである。強プロモーターの例には、前初期ヒトサイトメガロウイルスプロモーター (CMV)およびイントロンAを含むCMVがある(Chapman et al、Nucl. Acids Res. 19:3979-3986、1991)。プロモーターのさらなる例には、天然プロモーター、例えばEF1αプロモーター、ネズミCMVプロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、およびSV40初期/後期プロモーター、および[β]-アクチンプロモーター;および人工的プロモーター、例えば合成筋肉特異的プロモーターおよびキメラ筋肉特異的/CMVプロモーターが含まれる(Li et al.、Nat. Biotechnol. 17:241-245、1999、Hagstrom et al.、Blood 95:2536-2542、2000)。
【0088】
リボソーム結合部位は、開始コドンまたはその近くに位置する。好ましいリボソーム結合部位の例にはCCACCAUGG、CCGCCAUGG、およびACCAUGG(ここで、AUGが開始コドンである)が含まれる(Kozak、Cell 44:283-292、1986)。ポリアデニル化シグナルは、転写したRNAの開裂と該RNAへのポリ(A)テールの付加に関与する。高等真核生物のポリアデニル化シグナルは、ポリアデニル化付加部位から約11~30ヌクレオチドにAAUAAA配列を含む。AAUAAA配列は、RNA開裂の情報伝達に関与する(Lewin、Genes IV、Oxford University Press、NY、1990)。ポリ(A)テールは、mRNAのプロセシング、核からの搬出、翻訳、および安定化に重要である。
【0089】
遺伝子発現カセットの部分として用いることができるポリアデニル化シグナルには、最小ウサギ[β]グロビンポリアデニル化シグナルおよびウシ成長ホルモンポリアデニル化 (BGH)が含まれる(Xu et al.、Gene 272:149-156、2001、Post et al.、米国特許U.S.5,122,458)。存在しうる遺伝子発現の増強または調節またはポリペプチドプロセシングに有用なさらなる調節エレメントの例には、エンハンサー、リーダー配列、およびオペレーターが含まれる。エンハンサー領域は転写を増加させる。エンハンサー領域の例には、CMVエンハンサーおよびSV40エンハンサーが含まれる(Hitt et al.、Methods in Molecular genes 7:13-30、1995、Xu、et al.、Gene 272:149-156、2001)。エンハンサー領域は、プロモーターと関連させることができる。
【0090】
本発明の第2の局面のタンパク質の発現または本発明の第2の局面のタンパク質が調節されうる。そのような調節は、遺伝子発現の多くの工程において達成することができる。考えられ調節工程には、例えば限定されるものではないが、転写開始、プロモータークリアランス、転写の延長、スプライシング、核からの搬出、mRNA安定性、翻訳開始、翻訳効率、翻訳の延長、およびタンパク質のホールディングがある。細胞内部のファクター1またはファクター2ポリペプチド濃度に影響する他の調節工程は、タンパク質の半減期に影響する。そのような調節工程には、例えばタンパク質変性の調節がある。本発明のタンパク質は分泌タンパク質を含むので、該タンパク質は、宿主細胞の分泌経路を指向しうる。分泌効率は、発現およびタンパク質安定性に対する調節工程と共に、細胞の外側の各タンパク質の濃度を調節する。該細胞の外側は、例えば限定されるものではないが、培養液、組織、細胞内マトリックスまたは腔、または体液、例えば血液またはリンパ液をさすことができる。上記調節工程の調節は、例えば細胞タイプまたは組織タイプ非依存性または細胞タイプまたは組織タイプ特異的でありうる。本発明の特に好ましい態様において、該調節工程の調節は細胞タイプまたは組織タイプ特異的である。そのような細胞タイプまたは組織タイプ特異的調節は、好ましくは、核酸の転写に関する調節工程により達成される。この転写調節は、細胞タイプまたは組織タイプ特異的プロモーター配列の使用により達成することができる。この細胞タイプまたは組織タイプ特異的調節の結果は、異なるグレードの特異性を有しうる。これは、各ポリペプチドの発現が他の細胞または組織タイプに比べて各細胞または組織で増強されるか、または該発現が各細胞または組織タイプに限定されることを意味する。細胞または組織タイプ特異的プロモーター配列は当該分野でよく知られており、広範囲の細胞または組織タイプで利用可能である。
【0091】
別の好ましい態様において、該発現は、細胞タイプまたは組織タイプ特異的ではないが、生理学的条件に依存する。そのような条件には、例えば炎症または創傷がある。そのような生理学的条件特異的発現は、すべての上記調節工程で調節することにより達成することもできる。生理学的条件特異的発現の好ましい調節方法は転写調節である。この目的には創傷または炎症特異的プロモーターを用いることができる。各プロモーターには、例えば免疫反応および/または創傷組織の再生時に特異的に発現する遺伝子由来でありうる天然配列などがある。別の可能性は、例えば2またはそれ以上の天然配列を組み合わせて構築される人工的プロモーター配列の使用である。
別の好ましい態様において、該調節は細胞タイプまたは組織タイプ特異的および生理的条件特異的である。特に好ましい態様において、該発現は心臓特異的発現である。特に別の態様において、該発現は心臓特異的および創傷特異的である。
【0092】
本発明の第2の局面のタンパク質の発現または本発明の第2の局面のタンパク質を調節するための別の可能性は該遺伝子発現の条件的調節である。条件的調節を達成するにはオペレーター配列を用いることができる。例えば、Tetオペレーター配列を用いて遺伝子発現を抑制することができる。Tetリプレッサーと共にTetオペレーター配列による遺伝子発現の条件的調節は当該分野でよく知られており、多くの各系が広範囲の原核生物および真核生物について確立されている。当業者は、適切な系を選択し、それを各適用の特殊な要求に適合させる方法を知っている。
【0093】
特に好ましい態様において、本発明の核酸の使用には心筋梗塞後の個体への適用が含まれ、該治癒は左心室収縮機能の改善を含み、境界域梗塞の毛細血管密度の増加と関連しうる。さらに、該核酸の使用は心筋梗塞後の死亡率を減少させうる。左心室収縮機能の改善、境界域梗塞における毛細血管密度の増加、および心筋梗塞後の死亡率の減少などのパラメーターを測定するのに用いることができる方法は当該分野でよく知られており、典型的には実施例4~6に記載されている。
【0094】
上記ファクター1およびファクター2タンパク質、断片、または変異体をコードする核酸は、好ましくは萎縮;減生;炎症、損傷;創傷、虚血;再灌流傷害;炎症;感染症;外傷;機械的負荷;中毒;原発性または後天性心筋症、好ましくは遺伝性心筋症および自然突然変異により生じる心筋症を治療または改善するのに用いられる。心筋症には、例えば限定されるものではないが、肥大型心筋症 (HCMまたはHOCM)、不整脈源性右室心筋症 (ARVC)、孤立性心室心筋緻密化ミトコンドリアミオパシー、拡張型心筋症 (DCM)、拘束性心筋症 (RCM)、たこつぼ型 心筋症、Loeffler心内膜炎、糖尿病性心筋症、アルコール性心筋症、または肥満関連心筋症;心筋梗塞または左心室収縮機能の改善におけるものがある。
【0095】
第4の局面において、本発明は、非形質転換組織または非形質転換細胞の増殖の増強および/または治癒および/またはアポトーシスの阻害に用いるための第3の局面の核酸または発現系を含むベクターを提供する。
【0096】
用語「非形質転換組織または非形質転換細胞の増殖を増強し、および/またはアポトーシスを治癒および/または阻害する」は上記の意味および好ましい意味を有する。
【0097】
本明細書で用いている用語「ベクター」は、タンパク質および/またはその中に含まれる核酸を細胞中に導入するかまたはそれらが導入されることができるタンパク質またはポリヌクレオチドまたはその混合物を表す。本発明の文脈において、導入されたポリヌクレオチドによりコードされた目的とする遺伝子は該ベクター(単数または複数)を導入すると宿主細胞内で発現することが好ましい。適切なベクターの例には、限定されるものではないが、プラスミドベクター、コスミドベクター、ファージベクター、例えばラムダファージ、糸状ファージベクター、ウイルスベクター、ウイルス様粒子、および細菌胞子が含まれる。
【0098】
本発明の好ましい態様において、該ベクターはウイルスベクターである。適切なウイルスベクターには、限定されるものではないが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アルファウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、麻疹ウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、水疱性口内炎ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、およびレンチウイルスベクターが含まれる。
【0099】
本発明の特に好ましい態様において、該ベクターはアデノウイルスまたはアデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターである。
【0100】
本発明の第1の局面の1またはそれ以上のタンパク質および本発明の第2の局面の1またはそれ以上のタンパク質をコードする核酸を、治療的投与に適したベクターを用いて宿主細胞、組織、または個体中に導入することができる。適切なベクターは、好ましくは、許容されない副作用を生じずに標的細胞中に核酸を供給することができる。
【0101】
特に好ましい態様において、本発明のベクターの使用には心筋梗塞後の個体への適用が含まれ、該治癒は左心室収縮機能の改善を含み、境界域梗塞における毛細血管密度の増加と関連しうる。さらに、該使用は心筋梗塞後の死亡率を減少させうる。左心室収縮機能の改善、境界域梗塞における毛細血管密度の増加、および心筋梗塞後の死亡率の減少などのパラメーターを測定するのに用いることができる方法は当該分野でよく知られており、典型的には実施例4~6に記載されている。
【0102】
上記ファクター1およびファクター2タンパク質、断片、または変異体をコードする核酸を含むベクターは、好ましくは萎縮;減生;炎症、損傷;創傷、虚血;再灌流傷害;炎症;感染症;外傷;機械的負荷;中毒;原発性または後天性心筋症、好ましくは遺伝性心筋症および自然突然変異により生じる心筋症を治療または改善するのに用いられる。心筋症には、例えば限定されるものではないが、肥大型心筋症(HCMまたはHOCM)、不整脈源性右室心筋症 (ARVC)、孤立性心室心筋緻密化ミトコンドリアミオパシー、拡張型心筋症 (DCM)、拘束性心筋症 (RCM)、たこつぼ型 心筋症、Loeffler心内膜炎、糖尿病性心筋症、アルコール性心筋症、または肥満関連心筋症;心筋梗塞または左心室収縮機能の改善におけるものがある。
【0103】
第5の局面において、本発明は、非形質転換組織または非形質転換細胞の増殖の増強および/または治癒および/またはアポトーシスの阻害に用いるための、第1および/または第2の局面のタンパク質および/または第3の局面の核酸および/または第4の局面のベクターおよび所望により担体を含む医薬組成物を提供する。用語「非形質転換組織または非形質転換細胞の増殖を増強し、および/またはアポトーシスを治癒および/または阻害する」は上記の意味および好ましい意味を有する。
【0104】
本明細書で用いている用語「担体」は、薬理学的に不活性な物質、例えば、限定されるものではないが、希釈剤、賦形剤、界面活性剤、安定化剤、生理学的緩衝溶液、または治療的活性成分を一緒に投与するビークルを表す。そのような医薬的担体は液体または固体でありうる。液体担体には、限定されるものではないが、無菌液、例えば水または油(限定されるものではないが、石油、動物、植物、または合成起源のもの、例えばピーナツ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油などを含む)中の生理食塩水溶液が含まれる。生理食塩水溶液、および水性デキストロースおよびグリセロール溶液も特に注射可能溶液用の液体担体として用いることができる。生理食塩水溶液は医薬組成物を静脈内に投与する場合に好ましい担体である。適切な医薬的担体の例は「Remington's Pharmaceutical Sciences」(E. W. Martin)に記載されている。本発明の好ましい態様において、該担体は適切な医薬的賦形剤である。適切な医薬的「賦形剤」には、デンプン、グルコース、ラクトース、スクロース、ゼラチン、麦芽、米、小麦粉、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセロール、プロピレン、グリコール、水、エタノールなどが含まれる。そのような適切な医薬的賦形剤は好ましくは医薬的に許容される。
【0105】
「医薬的に許容される」は、連邦または州政府の監督官庁により承認されているか、または米国薬局方または他の一般的に認識された動物、より詳細にはヒトで用いる薬局方に記載されていることを意味する。
【0106】
用語「組成物」は、他の担体を含むか含まない活性成分が担体によって取り囲まれている(すなわち、活性成分と関連している)カプセルを提供する担体として封入物質を含む活性化合物の製剤を含むことを意図する。
【0107】
用語「活性成分」は、生物学的に活性な、すなわち、医薬的価値をもたらす医薬組成物または製剤中の物質を表す。本発明の文脈において、該活性成分は、第1および/または第2の局面のタンパク質および/または第3の局面の核酸および/または第4の局面のベクターを表す。医薬組成物は、互いに独立してまたは協力して作用しうる1またはそれ以上の活性成分を含みうる。該活性成分は中性または塩の形で製剤化することができる。塩形は好ましくは医薬的に許容される塩である。
【0108】
用語「医薬的に許容される塩」は、例えば限定されるものではないが、例えばのポリペプチドの塩を表す。適切な医薬的に許容される塩には、例えば本発明のポリペプチドの溶液を医薬的に許容される酸(例えば、塩酸、硫酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、酢酸、安息香酸、クエン酸、酒石酸、炭酸、またはリン酸)の溶液と混合して形成することができる酸付加塩が含まれる。さらに、該ペプチドが酸性部分を有する場合は、その適切な医薬的に許容される塩には、アルカリ金属塩(例えばナトリウムまたはカリウム塩);アルカリ土類金属塩(例えばカルシウムまたはマグネシウム塩);および適切な有機リガンドと形成される塩(例えば対アニオン、例えばハリド、ヒドロキシド、カルボン酸塩、硫酸塩、リン酸塩、硝酸塩、アルキルスルホン酸塩、およびアリールスルホン酸塩を用いて形成されるアンモニウム、第4級アンモニウム、およびアミンカチオン)が含まれうる。医薬的に許容される塩の具体例には、限定されるものではないがいかのものが含まれる:酢酸塩、アジピン酸塩、アルギン酸塩、アスコルビン酸塩、アスパラギン酸塩、ベンゼンスルホン酸塩、安息香酸塩、重炭酸塩、重硫酸塩、酸性酒石酸塩、ホウ酸塩、ブロミド、酪酸塩、エデト酸カルシウム、樟脳、樟脳スルホン酸塩、カンシル酸塩、炭酸塩、クロリド、クエン酸塩、クラブラン酸塩、シクロペンタンプロピオン酸塩、ジグルコン酸塩、ジヒドロクロリド、ドデシル硫酸塩、エデト酸塩、エジシル酸塩、エストレート、エシレート、エタンスルホン酸塩、ギ酸塩、フマル酸塩、グルセプテート、グルコヘプトネート、グルコン酸塩、グルタミン酸塩、グリセロリン酸塩、グリコリルアルサニレート、ヘミ硫酸塩、ヘプタン酸塩、ヘキサン酸塩、ヘキシルレゾルシノール、ヒドラバミン、臭化水素酸塩、》塩酸塩、ヨウ化水素酸塩、2-ヒドロキシ-エタンスルホン酸塩、ヒドロキシナフトエート、ヨージド、イソチオネート、乳酸塩、ラクトビオン酸塩、ラウリン酸塩、ラウリル硫酸塩、リンゴ酸塩、マレイン酸塩、マロン酸塩、マンデル酸塩、メシル酸塩、メタンスルホン酸塩、メチルスルホン酸塩、モケート、2-ナフタレンスルホン酸塩、ナプシル酸塩、ニコチン酸塩、硝酸塩、N-メチルグルカミンアンモニウム塩、オレイン酸塩、シュウ酸塩、パモ酸塩(エンボネート)、パルミチン酸塩、パントテン酸塩、ペクチネート、過硫酸塩、3-フェニルプロピオン酸塩、リン酸塩/二リン酸塩、ピクリン酸塩、ピバル酸塩、ポリガラクツロン酸塩、プロピオン酸塩、サリチル酸塩、ステアリン酸塩、硫酸塩、塩基性酢酸塩、コハク酸塩、タンニン酸塩、酒石酸塩、テオクリル酸塩、トシル酸塩、トリエチオダイド、ウンデカノエート、吉草酸塩など(例えば、S. M. Berge et al.、「Pharmaceutical salts」、J. Pharm. Sci.、66、pp. 1-19 (1977)参照)。
【0109】
活性成分の有効量を細胞、組織、または個体に投与する。「有効量」は、意図する目的を達成するのに十分な活性成分の量である。活性成分は治療薬でありうる。所定の活性成分の有効量は、成分の性質、投与経路、活性成分を投与される個体の大きさと種、および投与目的などのパラメーターに応じて変化するだろう。個々の場合の有効量は、当該分野で確立された方法により当業者が実験的に決定することができる。本発明の文脈において用いている「投与する」には、個体へのin vivo投与と細胞または組織へのin vitroまたはex vivoでの直接投与が含まれる。
【0110】
本発明の好ましい態様において、医薬組成物は、疾患または障害を治療するためにカスタマイズされる。本明細書で用いている、疾患または障害の「治療(treat、treating、またはtreatment)」は、以下の1またはそれ以上を達成することを意味する:(a)障害の重症度の減少;(b)治療する障害に特徴的な症状を制限または予防;(c)治療する障害に特徴的な症状の悪化を抑制;(d)以前に障害があった患者の障害の再発を制限または予防;(e)以前に障害の症状があった患者の症状の再発を制限または予防;(f)疾病または障害の発生後の死亡率の減少;(g)治癒;および(h)疾患の予防。本明細書で用いている疾患または障害の「予防(prevent、preventing、prevention、またはprophylaxis)」は、そのような疾患または障害が患者に生じることを予防することを意味する。
【0111】
本発明の特に好ましい態様において、本発明の医薬組成物による治療、治癒は、心筋梗塞後の個体の治療を含み、該治癒は、左心室収縮機能の改善を含み、および境界域梗塞における毛細血管密度の増加と関連しうる。さらに、治癒は心筋梗塞後の死亡率を減少させうる。左心室収縮機能の改善、境界域梗塞における毛細血管密度の増加、および心筋梗塞後の死亡率の減少などのパラメーターを測定するのに用いることができる方法は当該分野でよく知られており、典型的には実施例4~6に記載されている。
【0112】
本発明によって予期される医薬組成物は、当業者によく知られた種々の方法で製剤化することができる。例えば、本発明の医薬組成物は、液体形、例えば溶液、エマルジョン、またはサスペンジョンの形でありうる。好ましくは、本発明の医薬組成物は、非経口投与、好ましくは静脈内、動脈内、筋肉内、皮下、経皮的、肺内、腹腔内、冠動脈内、心内投与、または粘膜を介する投与、好ましくは静脈内、皮下、または腹腔内投与用に製剤化される。経口または肛門投与用の製剤も可能である。好ましくは、本発明の医薬組成物は、他の物質、例えば血液と等張の溶液にするのに充分な塩またはグルコースを含みうる無菌水性溶液の形である。水性溶液は、必要に応じて適切に緩衝されるべきである(好ましくはpH3~9、より好ましくはpH5~7)。該医薬組成物は、好ましくは単位剤形である。そのような形では、該医薬組成物は、適切な量の活性成分を含む単位用量に小分けされる。単位剤形は、包装製剤、分離した量の医薬組成物を含む包装、例えばバイアルまたはアンプルでありうる。該医薬組成物の投与は、好ましくは静脈内、動脈内、筋肉内、皮下、経皮的、肺内、腹腔内、冠動脈内、または心内経路で投与されるが、当該分野で知られた他の投与経路も含まれる。
【0113】
この場合、該医薬組成物は個体に対する治療として用いられ、該医薬組成物の使用は、各疾患または病状の標準的治療に取って代わりうるか、または標準的治療に加えて投与することができる。該医薬組成物をさらに使用する場合は、該医薬組成物は、標準療法の前、後、またはそれと同時に投与することができる。好ましい態様において、標準療法は再灌流療法であり、医薬組成物は再灌流療法の前、後、またはそれと同時に投与することができる。
【0114】
医薬組成物は1回または1回より多く投与することがさらに好ましい。これは、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、または50回を含む。医薬を投与するための期間は限定されない。好ましくは、該投与は、1、2、3、4、5、6、7、または8週間を超えない。
【0115】
該医薬組成物の単回用量は、投与する用量の全量や1またはそれ以上のボーラス注射および/または注入として投与される各投与期間に依存しないことがある。
【0116】
本発明の第1~第5の局面は、ファクター1およびファクター2がin vitroおよびin vivoで強力な血管新生刺激分子であるという本発明者らの知見に基づく。したがって、上記タンパク質、核酸、およびベクターは、例えば、上記細胞をex vivoで刺激するかまたは細胞培養適用に用いるための、治療薬でありうるex vivo使用も予期される。
【0117】
しかしながら、ファクター1および2の血管新生刺激活性の知見により、本発明者らは、ファクター1およびファクター2がそれぞれ抗血管新生療法の標的であるか否かについて検討した。本発明者らは、ファクター1の阻害またはファクター2の阻害を用いて血管新生を阻害するのに成功した。
【0118】
抗血管新生戦略を用いて、血管新生が疾患の進行に関与する、癌病状および他の障害、例えば加齢性黄斑変性症を治療する(例えば、Ferrara N and Kerbel RS (2005) Nature:438:967-974 or Potente M、et al. (2011) Cell. 146(6):873-887参照)。さらに、さらなる局面において、本発明は、ファクター1およびファクター2の阻害剤の抗血管新生特性に関する。これらの局面において、定義の項に上記定義を等しく適用する。さらに、第1~第5の局面および例えば用語「ベクター」および好ましいベクターの好ましい態様の説明で記載した特定の定義を、それを使用する文脈が明らかにそうでないことを示さない限り、本発明の以下の局面にも適用する。
【0119】
第6の局面において、本発明は、医療用、好ましくは血管新生が疾患の発現または進行の一因となる疾患の治療または予防におけるファクター1および/または2タンパク質の阻害剤を提供する。用語「阻害剤」は、ファクター1またはファクター2の血管新生刺激活性と干渉する化合物を表す。阻害剤は、ファクター1またはファクター2をコードするmRNAの転写および/または翻訳に作用することによりその細胞での産生と循環および/または疾患の発現または進行部位への分泌を予防する。また、阻害剤は、ファクター1またはファクター2タンパク質またはファクター1またはファクター2タンパク質が特異的に結合する細胞タンパク質、好ましくはその細胞レセプターと特異的に結合することにより作用しうる。そのような結合は、ファクター1またはファクター2と他の細胞タンパク質、好ましくはそれらの各細胞レセプターとの天然の相互作用を予防または妨害しうる。当業者は、レセプターとそのアゴニストの結合を干渉する方法をよく知っており、この知識をファクター1およびファクター2の適切な阻害剤を設計するのに用いることができる。さらに、阻害剤は、ファクター1およびファクター2の血管新生促進機能を示すそれぞれファクター1およびファクター2タンパク質の部分を欠失または突然変異させることによりファクター1またはファクター2タンパク質それ自身から誘導することができる。そのような不活化突然変異または欠失ファクター1またはファクター2は、その天然の結合パートナーについて野生型ファクター1およびファクター2と競合するだろう。ファクター1またはファクター2の血管新生刺激活性と干渉する化合物は、該活性を少なくとも20%、好ましくは少なくとも30%、より好ましくは少なくとも40%低下させる。ファクター1またはファクター2と特異的に結合するか、またはそれぞれファクター1またはファクター2の突然変異体または断片を含むか、から実質的になるか、またはからなる阻害剤の文脈において、それらは、等モル濃度でこのレベルのファクター1タンパク質またはファクター2タンパク質の阻害を示すことが好ましい。血管新生刺激活性の阻害を測定するのに用いることができる好ましいアッセイは本明細書の実施例10に記載されている。ある阻害剤が等モル量でこの活性を有するか否かを決定するため、それぞれファクター1および2および各阻害剤のモル量を測定しなければならない。配列番号1で示されるファクター1は15.84kDのMWを有し、配列番号3で示されるファクター2は21.57kDのMWを有し、IgGの分子量は約150kDである。したがって、100ngのファクター1および947ngのファクター1特異的IgGはほぼ等モルであり、100ngのファクター2および695ngのファクター2特異的IgGはほぼ等モルである。本明細書に記載のファクター1およびファクター2特異的抗体は、その意味でファクター1タンパク質またはファクター2タンパク質の阻害剤であることはそれぞれ図12のパネルAおよびBから明らかである。ファクター1またはファクター2をコードするmRNAの転写および/または翻訳と干渉する阻害剤の文脈において、阻害レベルは、好ましくはファクター1またはファクター3を天然に産生する細胞中で産生されたタンパク質に基づいて測定する。当業者は、ファクター1またはファクター3をコードするmRNAおよびファクター1またはファクター2タンパク質の量を測定する多くの方法をよく知っており、ファクター1またはファクター2をコードするmRNAの転写および/または翻訳と干渉する化合物の能力を評価する際に用いることができる。好ましくは、ファクター1タンパク質は、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含むか、から実質的になるか、またはからなり、ファクター2は、配列番号3で示されるアミノ酸配列、または配列番号1または3と少なくとも80%の配列同一性を有するその変異体を含むか、から実質的になるか、またはからなる。
【0120】
本発明の文脈において用いる阻害剤は、配列番号1または3で示されるアミノ酸配列、または配列番号1または3で示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有するその変異体の阻害断片または阻害突然変異体を含むか、から実質的になるか、またはからなるタンパク質であることが好ましい。レセプターを介するタンパク質-タンパク質相互作用によりその機能を示すタンパク質は、該レセプターと結合するのに必要なドメイン、および細胞内にシグナルを伝達するように該レセプターを刺激するドメインを含むことが当該分野でよく知られている。したがって、当業者は、そのようなレセプター結合タンパク質の阻害断片または突然変異体を製造する方法を良く知っている。例えば、一連のN-および/またはC末端切断ファクター1またはファクター2タンパク質を製造し、実施例2に記載のアッセイにおいてその血管新生刺激活性を試験することができる。次いで、血管新生刺激活性をもはや示さないそれらの断片のファクター1または2タンパク質の血管新生刺激活性を阻害する能力を実施例10に記載のアッセイで試験する。ファクター1および2の突然変異体は、例えば、アラニンスキャンニング突然変異誘発により当該分野で知られたように作製することができる。アラニンスキャンニングにおいて、各突然変異体がアラニンに突然変異している1、2、3またはそれ以上のアミノ酸を含み(いわゆるカセット)、ファクター1または2内の該カセットの位置が異なる一連の突然変異体を作製する。血管新生刺激活性を失ったファクター1または2突然変異体を再度実施例2に記載のごとく同定することができる。次いで、阻害突然変異体を実施例10に記載のアッセイを用いて同定することができる。
【0121】
別の好ましい態様において、該阻害剤は、配列番号1または3で示されるアミノ酸配列またはその配列番号1または3で示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有する変異体、またはファクター1または3またはその配列番号1または3で示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有する変異体と天然に相互作用するレセプターと特異的に結合するリガンドである。用語「リガンド」は、特定の抗原と特異的に結合する化学的部分を表す。好ましいリガンドは、アミノ酸ベースのリガンド、例えば免疫グロブリン、好ましくは抗体またはその抗原結合断片、および抗体様タンパク質である。あるいはまた、リガンドはペプチド模倣物でありうる。
【0122】
本明細書で用いている用語「免疫グロブリン(Ig)」は、免疫グロブリンスーパーファミリーの免疫を与える糖タンパク質を表す。「表面免疫グロブリン」は、限定されるものではないが、B細胞レセプター、T細胞レセプター、クラスIおよびII主要組織適合複合体(MHC)タンパク質、β-2ミクログロブリン(β2M)、CD3、CD4、およびCD8などの分子を含む
その貫膜領域によりエフェクター細胞の膜と結合する。典型的には、本明細書で用いている用語「抗体」は、貫膜領域を欠き、血流および体腔中に放出されることができる分泌免疫グロブリンを表す。抗体は、それが持つ重鎖に基づいて種々のアイソタイプに分類される。ギリシャ文字、α、δ、ε、γ、およびμで示される5種類のヒトIg重鎖がある。存在する重鎖の種類は抗体のクラスを定義し、これらの鎖は、それぞれ異なる役割を果たし、異なるタイプの抗原に対する適切な免疫反応をもたらすIgA、IgD、IgE、IgG、およびIgM抗体にみられる。別個の重鎖は大きさと組成が異なり、αとγは約450アミノ酸を含むが、μとεは約550アミノ酸を有する(Janeway et al. (2001) Immunobiology、Garland Science)。抗体は、4つのポリペプチド鎖、すなわちジスルフィド結合で互いに結合した2つの重(H)鎖と2つの軽(L)鎖を含む。各重鎖は、重鎖可変領域(本明細書ではHCVRまたはVHと略す)と重鎖定常領域からなる。重鎖定常領域は、3つのドメイン、CH1、CH2、およびCH3からなる。各軽鎖は、軽鎖可変領域(本明細書ではLCVRまたはVLと略す)および軽鎖定常領域からなる。軽鎖定常領域は1つのドメインCLからなる。VHおよびVL領域は、さらに、フレームワーク領域(FR)と呼ばれるより保存された領域が組み込まれた相補性決定領域(CDR)と呼ばれる超可変領域に細分することができる。各VHおよびVLは、以下の順番でアミノ末端からカルボキシ末端に並んだ3つのCDRと4つのFRからなる:FR1、CDR1、FR2、CDR2、FR3、CDR3、FR4。重鎖と軽鎖のCDRは当該分野で知られたごとく決定することができる。例えば、以下の一連の規則を用いて各抗体軽鎖配列と重鎖配列内のCDRをみいだすことができる:
軽鎖CDR-1:開始:約残基24、CDR-1前の残基は常にCys、CDR1後の残基は常にTrp。典型的には、Trp-Tyr-Gln、およびTrp-Leu-Gln、Trp-Phe-Gln、Trp-Tyr-Leu;長さ:10~17残基
軽鎖CDR-2:開始:常にL1の末端後の16残基、一般的にはIle-Tyr、およびVal-Tyr、Ile-Lys、Ile-Phe前の残基、長さは常に7残基;
軽鎖CDR-3:開始:常にCDR-2の末端後33残化合物に;常にCys前の残基、常にPhe-Gly-XXX-Gly後の残基、長さ:7~11残基
重鎖CDR-1:開始:常にCys後4の約残基26(Chothia AbM定義に基づく、Kabat定義は5残期後に始まる);常にCys-XXX-XXX-XXX前の残基;常にTrp後の残基。典型的にはTrp-Val、およびTrp-Ile、Trp-Ala、長さ:10~12残基[AbM定義、Chothia定義は最後の4残基を除く);
重鎖CDR-2:開始:常にKabat/AbM定義の末端後の15残基、重鎖CDR-1の;典型的にはLeu-Glu-Trp-Ile-Glyの前の残基(多くの変化あり)、Lys/Arg-Leu/Ile/Val/Phe/Thr/Ala-Thr/Ser/Ile/Ala後の残基、Length Kabat定義16~19残基(AbMに従った定義;Chothia定義は7残基前に終わる)
重鎖CDR-3:開始:常に重鎖CDR-2の末端後33残基 (常にCys後2アミノ酸残基);常にCys-XXX-XXX(典型的にはCys-Ala-Arg)前の残基;常にTrp-Gly-XXX-Gly後の残基;長さ:3~25残基。この一連の規則は、当業者に知られており、http://www.bioinf.org.uk/abs/#cdridでもみることができる。
【0123】
本明細書で用いている用語「ヒト抗体」は、ヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列由来の可変および定常領域を有する抗体を含むことを意図する。ヒトmAbsは、例えばCDR中にヒト生殖細胞系免疫グロブリン配列によってコードされていないアミノ酸残基を含みうる(例えば、in vitroのランダムまたは部位特異的突然変異誘発により生じた突然変異、またはin vivoの体細胞突然変異)。しかしながら、本明細書で用いている用語「ヒト抗体」は、別の哺乳類種(例えばマウス)の生殖細胞系由来のCDR配列がヒトFR配列上に移植されている「ヒト化抗体」を含むことは意図しない。ヒト抗体は、ヒト免疫グロブリンライブラリー、または内因性免疫グロブリンを発現しない1またはそれ以上のヒト免疫グロブリンに対するトランスジェニック動物から単離された抗体も含む。
【0124】
本明細書で用いている用語「モノクローナル抗体」は、単一分子組成物の抗体分子の調製物を表す。モノクローナル抗体は、特定のエピトープに対する単一結合特異性と親和性を示す。ある態様において、モノクローナル抗体は、不死化細胞と融合した非ヒト動物(例えばマウス)から得たB細胞を含むハイブリドーマにより製造される。本明細書で用いている用語「組換え抗体」には、以下のような組換え手段により製造、発現、生成、または単離したあらゆる抗体が含まれる:(a)免疫グロブリン遺伝子に対してトランスジェニックまたはトランスクロモソーマルである動物(例えばマウス)から単離した抗体、またはそれから製造したハイブリドーマ、(b)抗体を発現するように形質転換した宿主細胞(例えばトランスフェクトーマ)から単離した抗体、(c)組換え組み合わせ抗体ライブラリーから単離した抗体、および(d)免疫グロブリン遺伝子配列の他のDNA配列とのスプライシングを含むあらゆる他の手段により製造、発現、生成、または単離された抗体。本明細書で用いている「ヘテロローガスな抗体」は、そのような抗体を生成するトランスジェニック生物について定義される。この用語は、トランスジェニック生物で構成されない生物中にみられる、一般的にはトランスジェニック生物以外の種由来のものに対応するアミノ酸配列またはコーディング核酸配列を有する抗体を表す。本明細書で用いている「ヘテロハイブリッド抗体」は、異なる生物起源の軽鎖と重鎖を有する抗体を表す。例えば、ネズミ軽鎖と結合したヒト重鎖を有する抗体はヘテロハイブリッド抗体である。
【0125】
用語「抗原結合断片」は、抗原または抗原性タンパク質と特異的に結合する機能を保持するが、抗体のいくつかまたはすべての他の構造的特徴または抗体の部分を含む人工的構築物を欠く抗体断片を表す。抗原結合断片の好ましい例には、限定されるものではないが、下記Fab断片、Fc断片、Fab’断片、F(ab’)2、単一ドメイン抗体 (sdAb)、ナノボディ、一本鎖Fv、二価一本鎖可変断片(ジ-scFvs)、タンデムscFvs、ディアボディ、一本鎖デ
ィアボディ(scDB)、トリアボディ、二特異的T細胞エンゲイジャー(BiTE)、または二重親和性再標的化分子(DART分子)が含まれる。
【0126】
「Fab断片」(「Fab部分」または「Fab領域」ともいう)はそれぞれ単一抗原結合部位および残存「Fc断片」(「Fc部分」または「Fc領域」ともいう)を有する(その名前はその容易に結晶する能力を反映している)。「Fab’断片」は、Ig分子のヒンジ領域をさらに含むFab断片をいい、「F(ab’)2断片」は、化学的に結合するかまたはジスルフィド結合に
より結合している2つのFab’断片を含むと理解される。sdAb (Desmyter et al. 1996)および「ナノボディ」は単一VHドメインのみを含むが、「一本鎖Fv (scFv)」断片は、短リ
ンカーペプチドを介して軽鎖可変ドメインと結合した重鎖可変ドメインを含む(Huston et al. 1988)。ジ-scFvsは、2つのscFvsを結合することにより作製することができる(scFvA-scFvB)。これは、2つのVHと2つのVL領域を有する単一ペプチド鎖を製造し、「タンデムscFvs」(VHA-VLA-VHB-VLB)を得ることにより行うことができる。別の可能性は、2つの可変領域を一緒にフォールドするには短すぎるリンカーを有するscFvsを作製して強制的にscFvsを二量体にすることである。通常、長さが5残基のリンカーを用いてこれら二量体を作製する。このタイプは「ディアボディ」として知られる。VHおよびVLドメイン間のさらに短いリンカー(1または2アミノ酸)は、単一特異的三量体、いわゆる「トリアボディ」または「トリボディ」の形成をもたらす。二特異的ディアボディは、それぞれVHA-VLBおよびVHB-VLAまたはVLA-VHBおよびVLB-VHAの配列を有する鎖を発現することにより形成される。
一本鎖ディアボディ(scDb)は、12~20アミノ酸、好ましくは14アミノ酸のリンカーペプチド(P)により結合したVHA-VLBおよびVHB-VLA断片を含む(VHA-VLB-P-VHB-VLA)。「二特異的T細胞エンゲイジャー (BiTEs)」は、scFvsの1つがCD3レセプターを介してT細胞と結合し、他方が腫瘍特異的分子により腫瘍細胞と結合する、異なる抗体の2つのscFvsからなる融合タンパク質である(Kufer et al. 2004))。二重親和性再標的化分子(「DART」分子)は、C末端ジスルフィド架橋によりさらに安定化したディアボディである。
【0127】
用語「抗体様タンパク質」は、必ずしも抗体の構造的特徴を持たない抗原または抗原性タンパク質と結合する抗体と同様の特性を有するタンパク質を表す。抗体様タンパク質は、天然に生じるか、または人工的、例えばバイオテクノロジー的に設計することができる。天然の抗体様タンパク質の例には、限定されるものではないが、通常、生物学的に重要な化合物を貯蔵または輸送する役割を果たす広範なタンパク質のファミリーを表すリポカリンのファミリーなどの抗原結合タンパク質が含まれる。それらは、その中心フォールディングモチーフとして8つの逆平行β鎖の保存されたバレルを共有し、このバレル構造の一末端にβ鎖の各ペアと結合する6つの超可変ループを含む。これらのループは、結合ポケットの入り口を形成する。リポカリンファミリーのメンバー間の構造の多様性は、その結合パートナーの形状と化学特性の違いを反映する。したがって、一本鎖ポリペプチドからなり、免疫グロブリンよりはるかに小さいが、それらは特異性の異なる抗原と結合する大きな可能性を有する。人工的に設計された抗体様タンパク質の例には、ある種の標的に対する既知の親和性を有するペプチドを融合することによるか、または該ペプチドを該ペプチドの結合特性と足場担体の望ましい有益な特性を組み合わせるために足場タンパク質中に挿入することにより製造される足場ベースのタンパク質が含まれる。当業者は、足すのそのような足場ベースのタンパク質を知っている。本明細書で用いている用語「足場タンパク質」は、構造的剛性を有する、すなわち、安定な三次構造にフォールドするタンパク質を表す。足場タンパク質のアミノ酸は、足場タンパク質内の特定の三次元的位置を占めるようである。したがって、足場タンパク質のアミノ酸の1またはそれ以上を適切な長さのポリペプチドで置換すると、該ポリペプチドは、置換されたものと同様の位置を占めるだろう。これは、特定のポリペプチドの足場タンパク質内の特定の三次元的位置および/または方向での配置を可能にする。さらに、足場タンパク質は、分子認識のために抗体の代替物として用いることができる(例えば、Skerra A.:(2007) Curr. Opin. Biotechnol. 2007、18:295-304、またはSkerra A. (2000) J. Mol. Recognit. 2000、13:167-187参照)。そのような足場タンパク質の例には、SH3ドメインに新規結合特異性を伝達するために突然変異させることができる2つのドメインを含むFyn SH3ドメインがある。ある抗原と特異的に結合するFyn SH3ドメインを選ぶ方法は、例えばWO2000/072742またはWO2008/022759に記載されている。
【0128】
本発明の文脈において、用語「ペプチド模倣物」は、その本質的要素(活性基)が天然ペプチドまたはタンパク質と三次元空間的によく似ており、生物学的標的と相互作用する能力を保持し、同じ生物学的作用をもたらすあらゆる分子を表す。ペプチド模倣物には、典型的には、存在するペプチドを修飾するかまたはペプチドとよく似た同様の系(例えばペプトイドおよびβペプチド)を設計することにより得ることができるペプチドとよく似るように設計された小タンパク質様の鎖が含まれる。該アプローチに関わらず、安定性や生物活性を増加または低下させるなど好都合に分子特性を調整するために化学構造変化を設計する。したがって、修飾には、限定されるものではないが、骨格の変化および非天然アミノ酸の取込みを含む天然に生じないペプチドの変化を含む。
【0129】
抗原、例えばファクター1またはファクター2と用語「特異的に結合する(specific bindingまたはspecifically binding)」は、リガンドが高親和性に抗原の抗原決定基と結合する能力を表す。その文脈において、「高親和性」は、相互作用のKdが1 x 10-5M未満、好ましくは1 x 10-6M未満、より好ましくは1 x 10-7M未満、さらにより好ましくは1 x 10-8M未満、最も好ましくは1 x 10-9M未満であることを意味する。
【0130】
本発明の第6の局面の文脈で用いるための好ましい抗体は、モノクローナル抗体、好ましくはヒトまたはヒト化抗体である。別の好ましい態様において、阻害剤は、配列番号1または3で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質またはその配列番号1または3で示されるアミノ酸配列と少なくとも80%の配列同一性を有する変異体をコードするmRNAの転写および/または翻訳を阻害または予防する核酸である。当業者は、配列番号1または3のアミノ酸配列を含むタンパク質をコードするゲノム配列に基づいてそのような核酸の配列を決定する方法をよく知っている。そのような阻害核酸の例には、ファクター1またはファクター2をコードするmRNAに特異的なsiRNAがある。
【0131】
本発明の第6の局面の阻害剤が核酸によってコードされうるタンパク質である場合は、該阻害剤は該阻害剤をコードする核酸を供給することにより投与されると予期される。従って、第7の局面において、本発明は、血管新生が疾患の発現または進行の一因となる疾患を治療または予防するための本発明の第6の局面の阻害剤をコードする核酸を提供する。該核酸は、さらに本発明の第3の局面の文脈において記載した要素のいずれかを含みうる。
【0132】
したがって、第8の局面において、本発明は、血管新生が疾患の発現または進行の一因となる疾患を治療または予防するための本発明の第6の局面の核酸を含むベクターを提供する。第7の局面の文脈において用語「ベクター」は、本発明の第4の局面の文脈において記載したものと同じ意味を有する。
【0133】
本発明のこの局面の好ましい態様において、ベクターはウイルスベクターである。適切なウイルスベクターには、限定されるものではないが、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、アルファウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、麻疹ウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、水疱性口内炎ウイルスベクター、レトロウイルスベクター、およびレンチウイルスベクターが含まれる。転移 さらに、第9の局面において、本発明は、血管新生が疾患の発現または進行の一因となる疾患を治療または予防するための、第6の局面の阻害剤、第7の局面の核酸、または第8の局面のベクター、および所望により適切な医薬的賦形剤を含む医薬組成物を提供する。この医薬組成物は、本発明の第5の局面で記載の成分のいずれかも含みうる。
【0134】
本発明の第6~第9の局面で用いている用語「血管新生が疾患の発現または進行の一因となる疾患」は、血管を形成する細胞の増殖が疾患の発症時、発生中、および/または進行中に生じる疾患を表す。血管を形成し増殖させることができる細胞には、血管内部を裏張りする内皮細胞と血管壁を形成する平滑筋細胞が含まれる。内皮細胞や平滑筋細胞は健康な血管では増殖しない。これらの細胞は、例えば、損傷や化学的合図(例えばVEGF)に反応して増殖する。血管新生は、新血管形成ともいい、既存の血管から新たな血管を形成するプロセスを特徴とする。眼血管新生疾患などのある疾患では、血管の異常な形成が疾患の原因であり、良性または悪性腫瘍などのある疾患では、血管新生が疾患の進行時に生じ、増殖中の腫瘍塊に酸素と影響を供給する。該疾患において血管新生は疾患の原因ではないが、疾患の進行を促進する。悪性腫瘍の新血管形成は、腫瘍細胞に腫瘍塊からの逃げ道を与えることにより転移を助けることにも寄与する。
【0135】
このましくは、血管新生が疾患の発現または進行の一因となる疾患は増殖性疾患である。好ましい増殖性疾患は、良性腫瘍、悪性腫瘍、リウマチ性関節炎、乾癬、眼血管新生疾患、Osier-Webber症候群、プラーク血管新生、移植および血管形成術後再狭窄、毛細血管拡張症、血友病関節症、血管線維腫、創部肉芽形成、腸管癒着症、アテローム性動脈硬化症、強皮症、肥厚性瘢痕、猫ひっかき病、および潰瘍、特に、黄斑変性症、副腎皮質癌、膀胱癌、骨癌、脳癌、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、大腸癌、子宮内膜癌、食道癌、眼癌、胆嚢癌、胃癌、頭頸部癌、喉頭癌、肝臓癌、肺癌、黒色腫、骨髄増殖性疾患、頸部癌、非黒色腫皮膚癌、卵巣癌、前立腺癌、良性前立腺過形成、膵臓癌、直腸癌、および精巣癌からなる群から選ばれる。治療する好ましい疾患は、良性腫瘍、悪性腫瘍、および眼血管新生疾患である。
【0136】
本発明者らは、ファクター1およびファクター2のあるエピトープに対する抗体がそれぞれファクター1およびファクター2の血管新生刺激機能と干渉する、すなわちアンタゴニスト抗体であることを確認した。したがって、第10の局面において本発明は、それぞれファクター1およびファクター2の血管新生刺激活性を阻害するそれぞれファクター1およびファクター2のリガンドを指向する。それぞれファクター1およびファクター2の血管新生刺激活性を阻害する抗体またはその断片が特に好ましい。本発明者らは、ファクター1および2の表面に露出したドメインと特異的に結合する抗体を生じることによりそのような阻害抗体の例をもたらすことに成功した。この局面の好ましい態様において、本発明はそれぞれファクター1および2のこれらの断片と特異的に結合することができるリガンドに関する。本発明のこの局面の文脈において、一般的定義の項に記載の定義と本発明の第6の局面の文脈で特定の定義を同等に適用する。
【0137】
したがって、好ましい態様において、本発明は、配列番号1のアミノ酸61~76に含まれるかまたはからなるヒトファクター1タンパク質のエピトープ、またはこのエピトープに対応する別のファクター1タンパク質の領域と特異的に結合するリガンド、好ましくは抗体またはその断片、または抗体様タンパク質に関する。
【0138】
さらに好ましい態様において、本発明は、配列番号3のアミノ酸181~195に含まれるかまたはからなるヒトファクター2タンパク質のエピトープ、またはこのエピトープに対応する別のファクター2タンパク質の領域と特異的に結合するリガンド、好ましくは抗体またはその断片、または抗体様タンパク質に関する。
【0139】
本発明の上記の好ましい局面の文脈において用語「このエピトープに対応する別のファクター1または2タンパク質の領域」は、例えば、ClustalWおよび上記の標準的パラメーターなどの標準的アラインメント手段を用いるとファクター1または2の示したアミノ酸配列とアラインメントする別のファクター1または2タンパク質由来のアミノ酸配列を表す。図6~11は、ファクター1および2タンパク質の種々のそのようなアラインメントを示す。当業者は、アミノ酸配列 CTIWRPQGKSYLYFTQ (配列番号38)を有する配列番号2の断片を容易に同定し、別のファクター1タンパク質の対応するアミノ酸を決定することができる。
(実施例)
【0140】
本発明をさらに例示し、よりよい理解を助けるために実施例を示す。実施例は本発明の範囲を何ら限定するものではない。
【実施例1】
【0141】
多施設プラセボ対照臨床試験において、AMI患者の自己骨髄細胞の冠動脈内注入の効果を、本発明者らの一人が試験した(BOOST-2、対照のある臨床試験識別番号ISRCTN17457407)。該臨床試験において、骨髄吸引物をAMI患者から研究目的で得た。CXCR4+骨髄細胞を磁気細胞分離により単離した(MiniMACS(登録商標)、Miltenyi Biotec)。続く2精製工程後、CXCR4+豊富化細胞ポピュレーションを得た(純度>95%をフローサイトメトリーで確認した)。次に、RNAをこれらの細胞から単離し、RNAをマイクロアレイ分析に用いた(Affymetrix GeneChip HG_U133 Plus 2.0)。続く生物情報学的分析において、マイクロアレイ中CXCR4+骨髄細胞によって最も強く発現した4000発現配列タグ(EST)を試験した。一連の生物情報学的手段を用いてそれらESTの中から、N末端シグナルペプチド、ミトコンドリアまたは核シグナルペプチドの欠失、小胞体保持配列の欠失、および貫膜ドメインの欠失により特徴づけられる推定分泌ファクターを同定した。全部で283の推定分泌ファクターを同定し、その117がNCBI Blastにおいてマウス相同体を有することがわかった。ヒト相同体のcDNAを発現プラスミドにクローニングし、次いで、個々にヒト胚性腎臓(HEK)細胞にトランスフェクションした。トランスフェクションしたHEK細胞を無血清培地中で培養して30時間後に順化培養上清を得た。順化HEK細胞上清について、微小血管新生アッセイで血管新生刺激効果と心筋細胞死アッセイで細胞保護効果を個々に試験した。このスクリーニングは2つの分泌タンパク質の同定をもたらした;「ファクター1」は上記アッセイにおいて血管新生刺激効果と細胞保護効果を示した;「ファクター2」は上記アッセイにおいて血管新生刺激効果を示した。
【0142】
スクリーニングで同定した配列および各マウスまたはヒト相同体は以下の通りである:ファクター1:
ヒトファクター1をスクリーニングで同定し、実施例2および図1で用いた:
Homo sapiens 染色体19オープンリーディングフレーム10 (C19orf10)
ヒトファクター1をコードする核酸配列はNCBI基準配列:NM_019107.3 (配列番号6)が利用可能である。ヒトファクター1のアミノ酸を図6(配列番号2)に示す。
【0143】
マウス相同体を実施例3~6および図2~5で用いた:
Mus musculus(マウス)DNA断片、Chr17、Wayne State University 104(発現)(D17Wsu104e)
マウスファクター1をコードする核酸配列はNCBI基準配列:NM_080837.2 (配列番号7)が利用可能である。マウスファクター1のアミノ酸配列を図6に示す(配列番号13)。
【0144】
ファクター2:
分泌型のヒトファクター2をスクリーニングにおいて同定し、実施例2および図1で用いた:
Homo sapiens(ホモサピエンス)染色体19オープンリーディングフレーム63 (C19orf63)、転写変異体HSS1。ヒトファクター2をコードする核酸配列はNCBI基準配列:NM_175063.4 (配列番号8)が利用可能である。ヒトファクター2の分泌型のアミノ酸配列を図8に示す(配列番号4)。
【0145】
貫膜型のヒトファクター2:
Homo sapiens染色体19オープンリーディングフレーム63 (C19orf63)、転写変異体 HSM1。ヒトファクター2の貫膜型をコードする核酸配列はNCBI基準配列:NM_206538.2 (配列番号9)が利用可能である。ヒトファクター2の貫膜型のアミノ酸配列を図10に示す(配列番号5)。
【0146】
ヒトファクター2の貫膜型の変異体のアミノ酸配列はGenBank:AY358710.1 (配列番号34)が利用可能である。
【0147】
分泌型のマウス相同体を実施例4~6および図3~5で用いた:
Mus musculus造血シグナルペプチド含有分泌1(2310044H10Rik)mRNA、完全cds、あるいはスプライスド。マウスファクター2の貫膜型をコードする核酸配列はGenBank:AY761096.1 (配列番号10)が利用可能である。マウスファクター2の分泌型のアミノ酸配列を図8に示す(配列番号24)。
【0148】
該貫膜型のマウス相同体:
Mus musculusRIKEN cDNA 2310044H10遺伝子(2310044H10Rik)。マウスファクター2の貫膜型をコードする核酸配列はNCBI基準配列:NM_197991.2 (配列番号11)が利用可能である。
マウスファクター2の貫膜型のアミノ酸配列を図10に示す(配列番号29)。
【実施例2】
【0149】
スクリーニングにおいて認められた血管新生刺激活性を確認するために、両ファクター(配列番号6および8に示す核酸配列によりコードされるヒト相同体)をCOS7細胞中でHis標識組換えタンパク質として生成した。図1に示すように、組換えファクター1および組換えファクター2は培養ヒト内皮細胞において用量依存性に血管新生刺激作用を促進した。ヒト冠動脈内皮細胞 (HCAEC)およびヒト臍静脈内皮細胞(HUVEC)をProvitro (Berlin、Germany)から購入した。細胞を、10%ウシ胎児血清(FCS)、ヒト組換えVEGF-A (R&D Systems)、または種々の濃度の示した組換えヒトファクター1 (配列番号2)またはファクター2 (配列番号4)の存在下または非存在下(コントロール)の最小培地中で24時間培養した。(A) HCAEC増殖をブロモデオキシウリジンの取込みにより測定した。(B) HCAECの遊走をコンフルエント内皮細胞の単層にピペットチップで傷をつけた後に評価した。(C) HUVECのネットワーク形成を成長因子減少マトリゲルで培養した細胞で評価した。N=3-5 独立した実験/条件;*P<0.05、**P<0.01、***P<0.001対コントロール(図1参照)。
【実施例3】
【0150】
スクリーニングにおいて認められたファクター1の心筋保護作用を確認するため、新生ラット心室心筋細胞を組換えファクター1の存在下または非存在下で模擬虚血-再灌流傷害に付した。ファクター1(配列番号7に示す核酸配列によりコードされたマウス相同体)をCOS7細胞中でHis標識組換えタンパク質として生成した。図2に示すように、組換えファクター1は培養心筋細胞において用量依存性に抗アポトーシス作用を促進した。心室心筋細胞をパーコール密度勾配遠心分離により1~3日齢のSprague-Dawleyラットから単離した。心筋細胞を180分間模擬虚血にさらし(5%CO2/95%N2雰囲気中2-デオキシグルコース含有グルコース不含培地)、次いで組換えヒトGDF-15 (R&D Systems、既知の抗アポトーシスサイトカイン)または種々の濃度の示した組換えマウスファクター1の存在下または非存在下(コントロール)で60分間、模擬再灌流(5%CO2/95%室内空気中グルコース含有培地に戻した)した。細胞死をin situ TdT介在性dUTPニック末端標識(TUNEL)により評価した。N=3独立した実験/条件;*P<0.05対コントロール。
【実施例4】
【0151】
AMIの設定におけるファクター1およびファクター2の治療的潜在能力を検討するため、ファクター1またはファクター2のネズミ相同体(配列番号7および10に示す核酸配列)をコードするlアデノウイルスを作製し、AMIのマウスモデルで試験した。両ファクターのアデノウイルス発現は、梗塞後28日の左心室収縮機能の改善をもたらした。これは境界域梗塞における毛細血管密度の増加と関連した(図3)。
【0152】
マウスファクター1またはファクター2cDNAをAdEasy XLベクター系(Stratagene)を用いて複製欠損性アデノウイルス中にクローニングした。ガラクトシダーゼをコードする複製欠損性アデノウイルス(lacZ)をコントロールとして用いた。ウイルスをアデノXウイルス精製キット(BD Biosciences)を用いて精製した。10~12週齢の雄C57BL/6マウスをイソフルラン(1~2%)で麻酔および換気し、次いで永久左前下行冠動脈(LAD)結紮を行った。ウイルス (5x109p.f.u.)をLAD結紮直後に左心室(LV)腔内に注射した。(A)左心室収縮機能 (分別面積変化、FAC)をLAD結紮後28日の経胸壁心エコー検査(Visualsonics)により評価した(N=10~12マウス/群)。(B)境界域梗塞におけるイソレクチン陽性毛細血管密度をLAD結紮後28日の蛍光顕微鏡検査により評価した(N=3マウス/群)。*P<0.05、**P<0.01対Ad.lacZコントロール。
【実施例5】
【0153】
再灌流AMI(再灌流療法を受けたAMI患者の臨床状況によく似ている)の設定で組換えタンパク質として用いたときのファクター1およびファクター2の治療的潜在能力を検討するため、10~12週齢の雄C57BL/6マウスに1時間冠動脈結紮(虚血)し、次いで28日間再灌流した。マウスに再灌流後最初の7日間、両ファクターをs.c.処置した。ファクター1およびファクター2(マウス相同体;配列番号13および24に対応するアミノ酸配列)をHEK293細胞中でHis標識組換えタンパク質として生成した。組換えファクター1または組換えファクター2で処置すると、梗塞後28日の左心室収縮機能の顕著な改善をもたらした。これは、境界域梗塞における毛細血管密度の顕著な増加と関連した (図4)。10~12週齢の雄C57BL/6マウスをイソフルラン(1-2%)で麻酔および換気し、一時的左前下行枝冠動脈結紮を1時間、次いで再灌流を28日間行った。マウスに、再灌流時に組換えファクター1またはファクター2 (各10μg)を単回s.c.注射した(PBSにコントロールマウスを注射した)。次いで、組換えファクター1またはファクター2をAlzetミニポンプを用いて7日間連続s.c.注入した(10μg/日)。コントロールマウスにはPBSを注入した。(A) 左心室収縮機能 (分別面積変化、FAC)を再灌流後28日に経胸壁心エコー検査により評価した(N=10-13マウス/群)。(B) 境界域梗塞におけるイソレクチン陽性毛細血管密度を再灌流後28日に蛍光顕微鏡検査により評価した(N=6マウス/群)。*P<0.05、**P<0.01対PBSコントロール。
【実施例6】
【0154】
ファクター1およびファクター2を組換えタンパク質として用いると再灌流AMI後の生存を増加させることができるか否かを検討するため、マウスに冠動脈結紮を1時間行い、次いで28日間再灌流した。マウスに再灌流後の最初の7日間、両因子をs.c.注射した。ファクター1およびファクター2(マウス相同体;配列番号7および10)をHEK293細胞中でHis標識組換えタンパク質として生成した。組換えファクター1または組換えファクター2による処置は、閉塞後最初の28日間の生存を顕著に改善した(図5)。
10~12週齢の雄C57BL/6マウスをイソフルラン(1~2%)で麻酔および換気し、一時的左前下行枝冠動脈結紮を1時間行い、次いで28日間再灌流した。マウスに、再灌流時に組換えファクター1またはファクター2(各10μg)を単回s.c.注射した(PBSをコントロールマウスに注射した)。次いで、Alzetミニポンプを用いて組換えファクター1またはファクター2を7日間連続s.c.注入した(10μg/日)。コントロールマウスにPBSを注入した。マウスを28日間毎日検査して梗塞後の生存を評価した。N=29 PBS処置マウス;N=25 ファクター1処置マウス;N=15 ファクター2処置マウス。
【実施例7】
【0155】
ヒトC19Orf10でコードされるタンパク質に対する相同配列をhttp://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?PROGRAM= blastp&BLAST_PROGRAMS=blastp&PAGE_TYPE=BlastSearch&SHOW_DEFAULTS=on&LINK_LOC=blasthomeのBLASTPアルゴリズムで同定した。配列番号2をマトリックスとして用いた。
用いたパラメーターはデフォルトパラメーターである:11エクステンション:1、組成調整=非冗長タンパク質配列(nr)のデータベースと共に条件組成スコアマトリックス調整。
同定した配列から、種々の脊椎動物、主として哺乳類からの例と両生類、鳥類および魚類から1配列を選んだ。各配列を表1に記載する。
選んだアミノ酸配列をhttp://www.ebi.ac.uk/Tools/clustalw2/index.htmlのCLUSTALW2アルゴリズムを用いてアラインメントした。用いた各パラメーターはデフォルトパラメーターである:アラインメントタイプ=スロー、タンパク質重量マトリックス=Gonnet、ギャップオープン=10、ギャップエクステンション=0,20、ギャップ間隔=5、末端ギャップなし=なし、アウトプットオプション:フォーマット=Aln w/numbers、順序=アラインド。すべての配列について得られた複数のアラインメントを図6に、哺乳類配列に関するものを図7に示す。
【0156】
【表3】
【実施例8】
【0157】
ヒトC19Orf63スプライス変異体 HSS1によりコードされたタンパク質に対する相同配列をhttp://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?PROGRAM=blastp&BLAST_PROGRAMS=blastp&PAGE_TYPE=BlastSearch&SHOW_DEFAULTS=on&LINK_LOC=blasthomeのBLASTPアルゴリズムで検索した。配列番号4をマトリックスとして用いた。
用いたパラメーターはデフォルトパラメーターである:11エクステンション:1、組成調整=非冗長タンパク質配列(nr)のデータベースと共に条件組成スコアマトリックス調整。同定した配列から、種々の脊椎動物種、主として哺乳類からの例と、両生類および魚類から一配列を選んだ。各配列を表2に示す。
選んだアミノ酸配列をhttp://www.ebi.ac.uk/Tools/clustalw2/index.htmlのCLUSTALW2アルゴリズムを用いてアラインメントした。用いた各パラメーターはデフォルトパラメーターである:アラインメントタイプ=スロー、タンパク質重量マトリックス=Gonnet、ギャップオープン=10、ギャップエクステンション=0,20、ギャップ間隔=5、末端ギャップなし=なし、アウトプットオプション:フォーマット=Aln w/numbers、順序=アラインド。
すべての配列について得られた複数のアラインメントを図8に、哺乳類配列に関するものを図9に示す。
【0158】
【表4】
【実施例9】
【0159】
ヒトC19Orf63スプライス変異体 HSM1によりコードされたタンパク質に対する相同配列を、http://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi?PROGRAM=blastp&BLAST_PROGRAMS=blastp&PAGE_TYPE=BlastSearch&SHOW_DEFAULTS=on&LINK_LOC=blasthomeのBLASTPアルゴリズムで検索した。配列番号5をマトリックスとして用いた。
【0160】
用いたパラメーターはデフォルトパラメーターである:11エクステンション:1、組成調整=非冗長タンパク質配列(nr)のデータベースと共に条件組成スコアマトリックス調整。同定した配列から、種々の脊椎動物種、主として哺乳類からの例と、両生類および魚類から一配列を選んだ。各配列を表3に記載する。
選んだアミノ酸配列を、http://www.ebi.ac.uk/Tools/clustalw2/index.htmlのCLUSTALW2アルゴリズムを用いてアラインメントした。用いた各パラメーターはデフォルトパラメーターである:アラインメントタイプ=スロー、タンパク質重量マトリックス=Gonnet、ギャップオープン=10、ギャップエクステンション=0,20、ギャップ間隔=5、末端ギャップなし=なし、アウトプットオプション:フォーマット=Aln w/numbers、順序=アラインド。すべての配列について得られた複数のアラインメントを図10に、哺乳類配列に関するものを図11に示す。
【0161】
【表5】
【実施例10】
【0162】
ヒト冠動脈内皮細胞 (HCAECs、Provitro)を、T75フラスコ中の10% FCS (Biochrom)添加EGM-2培地(Lonza)中で増殖させた。3~6継代の細胞を用いた。種々の薬剤で刺激する前に、細胞を2% FCS含有MCDB131 (Life Technologies)中で一夜培養した。次に、HCAECを、96ウェルプレート(5x103細胞/ウェル)に播き、種々の濃度のウサギ抗ファクター1抗体、ウサギ抗ファクター2抗体、またはコントロールIgGの存在下または非存在下で16時間、組換えヒトファクター1、組換えヒトファクター2、またはVEGF (陽性コントロール)で刺激した。抗体をEurogentecにより生成し、ヒトファクター1 (CTIWRPQGKSYLYFTQ、配列番号38、すなわち配列番号1のアミノ酸 61~76)またはファクター2 (CEQAQKAKNPQEQKSF;配列番号39、すなわち配列番号3のアミノ酸181~195+N末端Cys)中に含まれるポリペプチドに対して生じさせた。細胞増殖を比色分析BrdU取込みイムノアッセイ(Roche)により測定した。データを図12に示す(パネルA ファクター1;パネルB ファクター2;データは3~6実験の平均±SEMである)。
本発明は、例えば、以下の態様も含む。
[態様1]
非形質転換組織または非形質転換細胞の増殖の増強、および/または治癒および/またはアポトーシスの阻害に用いるための配列番号1のアミノ酸配列を含むタンパク質またはその断片もしくは配列番号1と少なくとも80%の配列同一性を有する変異体。
[態様2]
非形質転換組織または非形質転換細胞の増殖の増強および/または治癒に用いるための、配列番号3のアミノ酸配列を含むタンパク質またはその断片もしくは配列番号3と少なくとも80%の配列同一性を有する変異体。
[態様3]
アミノ酸配列が配列番号4または配列番号5からなる群から選ばれる態様2記載のタンパク質。
[態様4]
非形質転換組織または細胞が健康か、病気か、または損傷している態様1~4のいずれかに記載のタンパク質。
[態様5]
該細胞または該組織が、
(i)筋肉組織細胞、結合組織細胞、上皮組織細胞、または神経組織細胞、または筋肉組織、結合組織、上皮組織、または神経組織であり;および/または
(ii)循環器系、消化器系、内分泌系、排泄系、免疫系、外皮系、筋肉系、神経系、生殖系、呼吸器系、または骨格系に属すかまたは由来である;および/または
(iii)心臓、皮膚、骨、軟骨、血管、食道、胃、腸、腺、肝臓、腎臓、肺、脳、および脾臓に属すかまたは由来である態様1~5のいずれかに記載のタンパク質。
[態様6]
損傷が、遺伝子/遺伝性疾患、または虚血、再灌流傷害、炎症、感染症、外傷、機械的負荷、中毒、または外科手術から生じる後天性疾患から生じ、好ましくは生じる疾患が心筋梗塞、狭心症、および心不全からなる群から選ばれる態様5に記載のタンパク質。
[態様7]
該疾患が、萎縮、減生、炎症、損傷、または創傷と関連する態様5または6に記載のタンパク質。
[態様8]
該疾患が、原発性、好ましくは遺伝性心筋症および自然突然変異により生じる心筋症、または後天性心筋症、好ましくはアテローム性動脈硬化または他の冠動脈疾患により生じる虚血性心筋症、心筋の感染症または中毒により生じる心筋症、肺動脈高血圧および/または動脈性高血圧により生じる高血圧性心臓疾患、および心臓弁疾患である態様6または7に記載のタンパク質。
[態様9]
非形質転換組織または非形質転換細胞の増殖の増強および/または治癒および/またはアポトーシスの阻害に用いるための態様1~8のいずれかに記載のタンパク質をコードする核酸。
[態様10]
非形質転換組織または非形質転換細胞の増殖の増強および/または治癒および/またはアポトーシスの阻害に用いるための態様9の核酸を含むベクター。
[態様11]
ベクターが以下からなる群から選ばれる態様10記載のベクター:プラスミドベクター;コスミドベクター;ファージベクター、例えばラムダファージ、糸状ファージベクター;ウイルスベクター、好ましくはアデノウイルスベクター、アデノ関連ウイルス(AAV)ベクター、アルファウイルスベクター、ヘルペスウイルスベクター、麻疹ウイルスベクター、ポックスウイルスベクター、水疱性口内炎ウイルスベクター、レトロウイルスベクターおよびレンチウイルスベクター;ウイルス様粒子;および細菌胞子。
[態様12]
非形質転換組織または非形質転換細胞の増殖の増強および/または治癒および/またはアポトーシスの阻害に用いるための、態様1~8のいずれかに記載のタンパク質、態様9記載の核酸、または態様10または11記載のベクター、および所望により適切な医薬的賦形剤を含む医薬組成物。
[態様13]
経口、静脈内、粘膜内、動脈内、筋肉内、または冠動脈内経路で投与される態様12記載の医薬組成物。
[態様14]
再灌流療法の前、後またはそれと同時に投与される態様12または13に記載の医薬組成物。
[態様15]
該投与が1またはそれ以上のボーラス注射および/または注入によるものである態様14記載の医薬組成物。
[態様16]
医学的使用のためのファクター1および/または2タンパク質の阻害剤。
[態様17]
医学的使用が、血管新生が疾患の発現または進行の一因となる疾患の治療または予防である態様16に記載のファクター1および/または2の阻害剤。
[態様18]
ファクター1タンパク質が、配列番号1で示されるアミノ酸配列を含み、ファクター2タンパク質が、配列番号3で示されるアミノ酸配列、または配列番号1または3と少なくとも80%の配列同一性を有するその変異体を含む態様17に記載の阻害剤。
[態様19]
配列番号1または3の阻害断片または配列番号1または3と少なくとも80%の配列同一性を有するその変異体を含むタンパク質;配列番号1または3で示されるアミノ酸または配列番号1または3と少なくとも80%の配列同一性を有するその変異体と特異的に結合するリガンド;および配列番号1または3で示されるアミノ酸または配列番号1または3と少なくとも80%の配列同一性を有するその変異体を含むタンパク質をコードするmRNAの転写および/または翻訳を阻害または予防する核酸からなる群から選ばれる態様17または18に記載の阻害剤。
[態様20]
該リガンドが、抗体またはその断片、抗体様タンパク質、またはペプチド模倣薬からなる群から選ばれる態様19記載の阻害剤。
[態様21]
血管新生が疾患の発現または進行の一因となる疾患を治療または予防するのに用いるための態様17~20のいずれかに記載の阻害剤をコードする核酸。
[態様22]
血管新生が疾患の発現または進行の一因となる疾患を治療または予防するための態様22記載の核酸を含むベクター。
[態様23]
血管新生が疾患の発現または進行の一因となる疾患を治療または予防するのに用いるための態様17~20のいずれかに記載の阻害剤、態様21記載の核酸、または態様22記載のベクター、および所望により適切な医薬的賦形剤を含む医薬組成物。
[態様24]
血管新生が疾患の発現または進行の一因となる疾患が増殖性疾患である態様17~20のいずれかに記載の阻害剤、態様21記載の核酸、態様22記載のベクター、態様23記載の医薬組成物。
[態様25]
該増殖性疾患が、良性腫瘍、悪性腫瘍、リウマチ性関節炎、乾癬、眼血管新生疾患、Osier-Webber症候群、プラーク血管新生、移植および血管形成術後再狭窄、毛細血管拡張症、血友病関節症、血管線維腫、創部肉芽形成、腸管癒着症、アテローム性動脈硬化症、強皮症、肥厚性瘢痕、猫ひっかき病、および潰瘍、特に、黄斑変性症、副腎皮質癌、膀胱癌、骨癌、脳癌、乳癌、子宮頸癌、結腸癌、大腸癌、子宮内膜癌、食道癌、眼癌、胆嚢癌、胃癌、頭頸部癌、喉頭癌、肝臓癌、肺癌、黒色腫、骨髄増殖性疾患、頸部癌、非黒色腫皮膚癌、卵巣癌、前立腺癌、良性前立腺過形成、膵臓癌、直腸癌、および精巣癌からなる群から選ばれる、態様17~20のいずれかに記載の阻害剤、態様21記載の核酸、態様22記載のベクター、または態様23記載の医薬組成物。
[態様26]
ファクター1またはファクター2の血管新生刺激活性を阻害するファクター1またはファクター2と特異的に結合するリガンド。
[態様27]
配列番号1のアミノ酸61~76に含まれるかまたはからなるヒトファクター1タンパク質のエピトープ、またはこのエピトープに対応する別のファクター1タンパク質の領域と特異的に結合する態様26記載のリガンド。
[態様28]
配列番号3のアミノ酸181~195に含まれるかまたはからなるヒトファクター2タンパク質のエピトープ、またはこのエピトープに対応する別のファクター2タンパク質の領域と特異的に結合する態様26記載のリガンド。
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【配列表】
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