IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東海光学株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-22
(45)【発行日】2025-05-30
(54)【発明の名称】照明カバー
(51)【国際特許分類】
   G02B 1/14 20150101AFI20250523BHJP
   C23C 14/06 20060101ALI20250523BHJP
   C23C 14/34 20060101ALI20250523BHJP
   F21V 3/00 20150101ALI20250523BHJP
   F21V 3/10 20180101ALI20250523BHJP
【FI】
G02B1/14
C23C14/06 K
C23C14/34 Z
F21V3/00 310
F21V3/10
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022559023
(86)(22)【出願日】2021-10-18
(86)【国際出願番号】 JP2021038468
(87)【国際公開番号】W WO2022091848
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2024-08-09
(31)【優先権主張番号】P 2020179884
(32)【優先日】2020-10-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000219738
【氏名又は名称】東海光学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078721
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 喜樹
(74)【代理人】
【識別番号】100124420
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 清隆
(72)【発明者】
【氏名】西本 圭司
(72)【発明者】
【氏名】井上 知晶
(72)【発明者】
【氏名】松原 弘宗
【審査官】渡邊 吉喜
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/170577(WO,A1)
【文献】特開平07-224381(JP,A)
【文献】特開平06-337406(JP,A)
【文献】特開平06-174923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 1/14
C23C 14/06
C23C 14/34
F21V 3/00
F21V 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サイアロン製であって、前記サイアロンにおける波長550nmの光に対する屈折率、1.90以上1.94以下である表面保護膜を含む
ことを特徴とする照明カバー
【請求項2】
サイアロン製であって、前記サイアロン、アルミニウムを、原子数比で15%以上32%以下含んでいる表面保護膜を含む
ことを特徴とする照明カバー
【請求項3】
サイアロン製であって、前記サイアロンの原子数での組成における、アルミニウムを、アルミニウムとシリコンとの和で割った商が、0.38以上0.67以下である表面保護膜を含む
ことを特徴とする照明カバー
【請求項4】
サイアロン製であって、前記サイアロン、酸素を、原子数比で7%以上16%以下含んでいる表面保護膜を含む
ことを特徴とする照明カバー
【請求項5】
サイアロン製であって、前記サイアロンの可視域平均吸収率、1%以下である表面保護膜を含む
ことを特徴とする照明カバー
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、サイアロンに係る表面保護膜を有する照明カバーに関する。
【背景技術】
【0002】
サーマルヘッドに施された表面保護膜として、特開2011-83923号公報(特許文献1)に記載されたものが知られている。
この表面保護膜は、窒素ガスを2%混合したアルゴンガス雰囲気の高周波(RF)スパッタ法で成膜されたサイアロン膜を表層として有している。
【0003】
他方、道路及び誘導路の各路面に設置される照明(誘導灯)のカバーとして、ガラス製のプリズムの表面に対し真空蒸着等によりコーティングが形成されたものが知られている。そのカバーにおけるコーティングは、照明光を透過しつつ、高い硬度を有して耐傷性を有するように設計される。又、そのコーディングは、路面において想定される環境温度及び環境湿度に長期間耐え、又路面で用いられる融雪剤等の薬品にも長期間耐えるように設計される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-83923号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の表面保護膜は、サーマルヘッドの表層を記録媒体等が通過した際に生じる摩擦による摩耗から保護する。
しかし、サイアロンは、シリコン、アルミニウム、酸素、及び窒素の各原子から成り(SiAlON)、サイアロンの特性は、シリコンとアルミニウムとの原子数比等により変化するところ、上述の表面保護膜におけるサイアロン膜は、上述の通り所定の製法で製造されており、所定の特性を有するに留まる。上述の表面保護膜におけるサイアロン膜の耐傷性等は、向上の余地がある。
【0006】
他方、誘導灯のカバーにおけるコーティングの耐傷性及び耐環境性は、向上の余地がある。又、そのコーティングは、長期の使用あるいは強い衝撃の作用等により、剥離する可能性が存在する。
【0007】
そこで、本発明の主な目的は、所定の性能を有しつつ、剥離が防止される照明カバーを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、照明カバーにおいて、サイアロン製であって、前記サイアロンにおける波長550nmの光に対する屈折率、1.90以上1.94以下である表面保護膜を含むことを特徴とするものである。
請求項2に記載の発明は、照明カバーにおいて、サイアロン製であって、前記サイアロン、アルミニウムを、原子数比で15%以上32%以下含んでいる表面保護膜を含むことを特徴とするものである。
請求項3に記載の発明は、照明カバーにおいて、サイアロン製であって、前記サイアロンの原子数での組成における、アルミニウムを、アルミニウムとシリコンとの和で割った商が、0.38以上0.67以下である表面保護膜を含むことを特徴とするものである。
請求項4に記載の発明は、照明カバーにおいて、サイアロン製であって、前記サイアロン、酸素を、原子数比で7%以上16%以下含んでいる表面保護膜を含むことを特徴とするものである。
請求項5に記載の発明は、照明カバーにおいて、サイアロン製であって、前記サイアロンの可視域平均吸収率、1%以下である表面保護膜を含むことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の主な効果は、所定の性能を有しつつ、剥離が防止される照明カバーを提供することである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の第1形態に係る表面保護膜及びプリズムの模式的な横断面図である。
図2】シリコンとアルミニウムとの原子数比を横軸とし、各種特性の相対的な強弱を縦軸とした、サイアロン膜の各種特性に関する模式的なグラフである。
図3】表面保護膜の製造装置の模式的な上面図である。
図4図3の動作例のフローチャートである。
図5】本発明の第2形態に係る表面保護膜及びプリズムの模式的な横断面図である。
図6】実施例1~4及び比較例1~7、並びに白板ガラス基板及び石英基板のビッカース硬さに係るグラフである。
図7】実施例1~4及び比較例7(サイアロン膜)の可視域及び隣接域における分光吸収率分布に係るグラフである。
図8】実施例1~4及び比較例7(サイアロン膜)の可視域における平均吸収率に係るグラフである。
図9】比較例11の可視域及び隣接域における分光透過率分布に係るグラフである。
図10】比較例12の可視域及び隣接域における分光透過率分布に係るグラフである。
図11】実施例11の可視域及び隣接域における分光透過率分布に係るグラフである。
図12】実施例12の赤外域における分光透過率分布に係るグラフである。
図13】実施例13の可視域及び隣接域における分光透過率分布に係るグラフである。
図14】実施例14の可視域及び隣接域における分光透過率分布に係るグラフである。
図15】実施例15の可視域及び隣接域における分光透過率分布に係るグラフである。
図16】実施例16の赤外域における分光透過率分布に係るグラフである。
図17】実施例17の可視域及び隣接域における分光透過率分布に係るグラフである。
図18】比較例11の耐傷性試験後に撮影された写真である。
図19】比較例12の耐傷性試験後に撮影された写真である。
図20】実施例11の耐傷性試験後に撮影された写真である。
図21】実施例12の耐傷性試験後に撮影された写真である。
図22】実施例13の耐傷性試験後に撮影された写真である。
図23】実施例14の耐傷性試験後に撮影された写真である。
図24】実施例15の耐傷性試験後に撮影された写真である。
図25】実施例16の耐傷性試験後に撮影された写真である。
図26】実施例17の耐傷性試験後に撮影された写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明に係る実施の形態の例が、適宜図面を用いて説明される。
尚、本発明は、以下の例に限定されない。
【0013】
[第1形態]
≪表面保護膜の構成等≫
図1に例示されるように、本発明の第1形態に係る表面保護膜1は、ガラス製のプリズム2の成膜面M上に形成されている。
表面保護膜1付きのプリズム2は、照明としての道路誘導灯(図示略)の光学系要素を兼ねた照明カバーCとして用いられる。
プリズム2は、表面保護膜1が形成される基材であり、特に板状の場合、基板である。プリズム2の成膜面Mは、道路誘導灯に設置された場合に露出する面である。
尚、表面保護膜1自体が照明カバーCと捉えられても良い。又、成膜面Mは、プリズム2の全表面等、露出する面を超えた面とされても良い。プリズム2と表面保護膜1との間に、1つ以上の中間膜が配置されても良い。プリズム2は、ガラス以外の材質を有していても良い。表面保護膜1は、道路誘導灯におけるプリズム2以外の部分に形成されても良いし、道路誘導灯以外の装置、部品、部材等に形成されても良い。例えば、表面保護膜1は、自動車道、鉄道(線路)、モノレール、歩道に係る誘導灯、表示器に形成されても良い。
【0014】
表面保護膜1は、サイアロン(SiAlON)製の膜である。
サイアロンの特性は、シリコンとアルミニウムとの原子数比等により変化する。サイアロンの特性は、シリコンの原子数がアルミニウムの原子数に対して多くなると窒化シリコン(Si)の特性に近づき、アルミニウムの原子数がシリコンの原子数に対して多くなると酸化アルミニウム(Al)の特性に近づく。シリコンとアルミニウムとの原子数比に応じ、結合する酸素及び窒素の原子数比が変化する。
サイアロンの特性(シリコンとアルミニウムとの原子数比等)は、製法の種類及びその条件設定等により変化させることができる。
【0015】
図2は、シリコンとアルミニウムとの原子数比を横軸とし、各種特性(硬さ、密着性及び耐薬品性)の相対的な強弱を縦軸とした、サイアロン膜の各種特性に関する模式的なグラフである。横軸において、左に行くほどアルミニウムの原子数がシリコンの原子数に対して多くなり、左端ではAlとなる。又、右に行くほどシリコンの原子数がアルミニウムの原子数に対して多くなり、左端ではSiとなる。
サイアロン膜の硬さは、シリコンの原子数が多くなる程、硬く(縦軸で上に)なる。
サイアロン膜の基材に対する密着性は、アルミニウム及びシリコンが混じる横軸中央部で高く(縦軸で上に位置し)、その両側で低くなる。
サイアロン膜の耐薬品性は、シリコンの原子数がアルミニウムの原子数に対して所定程度以上となれば、ほぼ一定の高い(縦軸で上側の)水準を示し、シリコンの原子数がアルミニウムの原子数に対して所定程度未満であると、低くなっていく。
本発明に係るサイアロン製の表面保護膜1は、硬さ、密着性及び耐薬品性が何れも高い水準となるシリコンとアルミニウムとの原子数比を有している(図2の良好な領域参照)。
【0016】
又、サイアロン膜の屈折率は、シリコンとアルミニウムとの原子数比に応じて変化し、概ね、シリコンの原子数がアルミニウムの原子数に対して多くなる程、大きくなる。
例えば、波長550nmの光に対する屈折率が1.90以上1.94以下のサイアロン膜は、上述した良好な領域の原子数比に対応し、硬さ、密着性及び耐薬品性が何れも高い水準となって、本発明の表面保護膜1となる。
【0017】
≪表面保護膜の製造装置等≫
次いで、上述の表面保護膜1を製造する装置の実施形態が、説明される。
尚、本発明に係る表面保護膜1の製造装置は、以下の形態に限定されない。
【0018】
図3は、当該形態に係る製造装置101の模式的な上面図である。
製造装置101は、ドラム型スパッタ成膜装置(カルーセル型スパッタリング装置)であり、1以上の板状のプリズム2における片面に表面保護膜1を成膜するものである。
製造装置101は、成膜室としての真空室102と、その中央部において自身の軸周りで回転可能に配置された円筒状のドラム104と、を備えている。ドラム104の外周円筒面には、成膜対象としてのプリズム2が、成膜面Mを外側に向けた状態で保持されている。
【0019】
真空室102の一面には、第1スパッタ源110が配置されている。
第1スパッタ源110は、第1ターゲットT1をセットするスパッタカソード112と、一対の防着板114と、スパッタガスが適宜流量調整のうえで導入されるスパッタガス導入口116と、を備えている。
スパッタカソード112は、外部直流電源(図示略)と接続されている。
防着板114は、第1ターゲットT1とこれに対向するドラム104の部分との間を、他の真空室102の内部部分から区切るように配置されている。
スパッタガス導入口116は、防着板114によって区切られた空間へ向けてスパッタガスを流す。
【0020】
真空室102の別の一面には、第2スパッタ源120が配置されている。
第2スパッタ源120は、第1スパッタ源110と同様に、第2ターゲットT2をセットするスパッタカソード122と、一対の防着板124と、スパッタガス導入口126と、を備えている。
【0021】
更に、真空室102の他の一面には、ラジカル源130が配置されている。
ラジカル源130は、ガスをバルブ132により流量調整のうえで導入可能なラジカルガス導入口134と、加速電圧用電源(図示略)により電圧が印加されることでプラズマを発生可能なガン136と、を有する。
ラジカルガス導入口134から真空室102の内部に導入されたガスは、ガン136が発生したプラズマによりラジカル化し、プリズム2に向かってビーム状に照射される。
【0022】
加えて、ラジカル源130の両脇には、排気部140が設けられている。各排気部140では、真空室102内の排気が行われる。
尚、第1スパッタ源110、第2スパッタ源120、ラジカル源130及び各排気部140の少なくとも何れかの配置、及び設置数は、上述のものに限定されない。第1スパッタ源110、第2スパッタ源120、及びラジカル源130の少なくとも何れかにおける電流(電圧)は、直流に係るものであっても良いし、低周波あるいは高周波の交流に係るものであっても良い。
【0023】
製造装置101の動作例(表面保護膜1の製造方法の例)について、主に図4に基づいて説明される。
【0024】
まず、プリズム2がドラム104にセットされると共に、第1ターゲットT1としてシリコン(Si)がセットされ、第2ターゲットT2としてアルミニウム(Al)がセットされる(ステップS1)。
次に、真空室102の内部が排気される(ステップS2)。
続いて、ドラム104が回転され、ドラム104に保持されたプリズム2が、第1スパッタ源110,第2スパッタ源120,ラジカル源130の各内側を順次繰り返し高速で通過するようにされる(ステップS3)。
次いで、プリズム2のクリーニングが行われる(ステップS4)。即ち、ラジカル源130のラジカルガス導入口34から酸素(O)ガスが導入された状態で、ガン136に高周波電圧が印加されて、ラジカル酸素が生成され、移動しているプリズム2に対して所定時間照射される。かようなラジカル酸素の照射により、プリズム2表面に有機物等が付着していたとしても、有機物等はラジカル酸素及びプラズマで発生する紫外線によって分解剥離され、プリズム2の表面がクリーニングされる。かようなクリーニングにより、後に形成する膜の密着性が向上する。
【0025】
続いて、表面保護膜1が形成される(ステップS5)。
即ち、ドラム104の回転が維持された状態で、第1スパッタ源110のスパッタガス導入口116から希ガス(ここではArガス)が導入され、スパッタカソード112に直流(DC)電圧が印加されることで、第1ターゲットT1表面のSiが、Arによるスパッタにより、プリズム2の表面上に堆積する。又、第2スパッタ源120のスパッタガス導入口126から希ガス(ここではArガス)が導入され、スパッタカソード122に直流電圧が印加されることで、第2ターゲットT2表面のAlが、Arによるスパッタにより、プリズム2の表面上に堆積する。
更に、ラジカル源130のラジカルガス導入口134から酸素ガス(Oガス)及び窒素ガス(Nガス)が導入された状態で、ガン136に高周波電圧が印加されて、ラジカル酸素及びラジカル窒素が生成され、Si及びAlの堆積した移動中のプリズム2に対して照射されて、Si及びAlの酸窒化がなされる。尚、Oガス及びNガスと共に、希ガスが導入されても良い。
表面保護膜1の膜厚は、スパッタカソード112への投入電力が一定であり、単位時間当たりの成膜される物理膜厚である成膜レートが一定である場合には、スパッタリングの時間の長短により制御される。よって、所望の膜厚に相当する時間が経過した時点で、スパッタカソード112,122及びガン136への電圧印加が停止されて、表面保護膜1の成膜が完了する。
【0026】
表面保護膜1の形成が完了すれば、ドラム104が止められ、適宜冷却が行われた後、表面保護膜1付きプリズム2が取り出される(ステップS6)。
尚、表面保護膜1とプリズム2との間に、製造装置101あるいは別の装置によって更に1以上の中間膜が付与されても良い。
【0027】
[第2形態]
≪表面保護膜の構成等≫
次に、表面保護膜を除き第1形態と同様に成る本発明の第2形態が説明される。第1形態と同様に成る部材及び部分については、適宜、同じ符号が付され、説明が省略される。第2形態は、第1形態と同様な変更例を適宜有する。
図5に例示されるように、本発明に係る表面保護膜201は、ガラス製のプリズム2の成膜面M上に形成されている。
【0028】
表面保護膜201は、サイアロン製の層であるサイアロン層204と誘電体製の層である誘電体層206とを含む膜である。表面保護膜201は、好ましくはサイアロン層204と誘電体層206の交互膜であり、より好ましくはサイアロン層204と1種類の誘電体製の誘電体層206との交互膜である。
表面保護膜201は、2以上の層を含む多層膜である。表面保護膜201の層数は、特に限定されず、奇数でも偶数でも良い。表面保護膜201における各層の配置は、特に限定されないところ、好ましくは誘電体層206が表面保護膜201における最も空気側(プリズム2と反対側)の層である最表層となるものとされる。
【0029】
誘電体層206における誘電体の材料は、特に限定されないところ、サイアロンが高屈折率材料となるような屈折率を有していてサイアロン層204が高屈折率層の役割を担えるため、好ましくは低屈折率材料及び中屈折率材料の少なくとも一方である。
例えば、誘電体(の材料)は、酸化ケイ素(SiO)、フッ化カルシウム(CaF)、フッ化マグネシウム(MgF)、あるいはこれらの二種以上の混合物である。
【0030】
表面保護膜201における各サイアロン層204の物理膜厚の合計(サイアロン層204が1つの場合には当該サイアロン層204の物理膜厚)は、より良好な耐傷性を得る観点から、好ましくは200nm以上である。
【0031】
≪表面保護膜の製造等≫
表面保護膜201は、物理蒸着法(Physical Vapor Deposition(PVD),真空蒸着及びスパッタリング等)、あるいは原子層堆積(Atomic Layer Deposition)等により形成され、好ましくは、サイアロン層204及び誘電体層206の双方において同じ製造装置により順次形成される。サイアロン層204は、好ましくは上述の製造装置101において、第1形態のサイアロン製の表面保護膜1と同様に形成される。
【実施例
【0032】
次いで、本発明の好適な実施例、及び本発明に属さない比較例が説明される。
尚、本発明は、以下の実施例に限定されない。又、本発明の捉え方により、下記の実施例が実質的には比較例となったり、下記の比較例が実質的には実施例となったりすることがある。
【0033】
≪実施例1~4及び比較例1~7で共通する製造条件等≫
実施例1~4及び比較例1~7は、それぞれ、上述の製造装置101により、次の条件を揃えて成膜された。実施例1~4は、上述の第1形態に属する。
即ち、実施例1~4及び比較例1~7は、白板ガラス製の板状のプリズム2の片面(成膜面M)に、中間膜なしで直接成膜された。白板ガラス基板のビッカース硬さ(HVpl)は、646.23である。尚、石英基板のビッカース硬さは、959.93である。ここでのビッカース硬さ(HVpl)は、インデンテーション硬度に対するDIN規格のビッカース換算値であって、測定装置(フィッシャーインスツルメンツ社製HM2000LT)で測定されたものであり、以下同様である。
又、真空室102の内部は、成膜開始時点で2×10-4Pa(パスカル)とされた。
更に、ドラム104の回転数は、100rpm(回毎分)とされた。尚、ドラム104の回転は、一時的に変速されたり一旦停止されたりしても良い。
又更に、第1ターゲットT1のSiとして、B(ホウ素)でドーピングされた純度99.99%のものが用いられた。又、第2ターゲットT2のAlとして、純度99.99%のものが用いられた。
加えて、Oガス、Nガス、及びArガスとして、何れも純度99.99%以上のものが用いられた。
尚、排気部140において、ターボ分子ポンプが用いられた。
【0034】
≪実施例1~4の製造条件等≫
そして、実施例1~4が、次の共通の条件下で成膜された。
即ち、第1スパッタ源110及び第2スパッタ源120における各Arガスの流量は、何れも120sccm(Standard Cubic Centimeter per Minute;毎分120ミリリットル)とされた。又、ラジカル源130におけるOガスの流量は、何れも10sccmとされ、ラジカル源130におけるNガスの流量は、何れも150sccmとされた。更に、ラジカル源130における電力は、1500W(ワット)とされた。
又、実施例1~4は、次の表1に示される個別の条件において成膜された。
【0035】
【表1】
【0036】
即ち、実施例1の成膜において、第1スパッタ源110のスパッタカソード112の電力は9000Wとされ、第2スパッタ源120のスパッタカソード122の電力は6000Wとされた。尚、成膜レートは、0.40nm/sec(ナノメートル毎秒)であった。
又、実施例2の成膜において、第1スパッタ源110の電力は4500Wとされ、第2スパッタ源120の電力は6000Wとされた。尚、成膜レートは、0.25nm/secであった。
更に、実施例3の成膜において、第1スパッタ源110の電力は9000Wとされ、第2スパッタ源120の電力は5000Wとされた。尚、成膜レートは、0.36nm/secであった。
加えて、実施例4の成膜において、第1スパッタ源110の電力は9000Wとされ、第2スパッタ源120の電力は4000Wとされた。尚、成膜レートは、0.32nm/secであった。
【0037】
≪比較例1~7の製造条件等≫
又、比較例1~7は、次の表2,表3に示される個別の条件において成膜された。
【0038】
【表2】
【表3】
【0039】
即ち、比較例1(Al膜)の成膜において、第1スパッタ源110は、真空室102内の雰囲気調整のためにArガスを120sccmで導入することを除き、Siが不要であることから不作動とされた。又、第2スパッタ源120の電力は6500Wとされ、Arガスは100sccmで導入された。ラジカル源130については、電力が2000Wとされ、Oガスが70sccmで導入され、Nガスは導入されなかった。尚、成膜レートは、0.38nm/secであった。
又、比較例2(窒化アルミニウム膜;AlN膜)の成膜において、第1スパッタ源110は、比較例1と同様に不作動とされた。又、第2スパッタ源120の電力は6000Wとされ、Arガスは120sccmで導入された。ラジカル源130については、電力が2000Wとされ、Nガスが50sccmで導入され、Oガスは導入されなかった。尚、成膜レートは、0.29nm/secであった。
更に、比較例3(酸窒化アルミニウム膜;AlON膜)の成膜において、第1スパッタ源110及び第2スパッタ源120は、比較例2と同様とされた。ラジカル源130については、電力が2000Wとされ、Oガスが10sccmで導入され、Nガスが100sccmで導入された。尚、成膜レートは、0.26nm/secであった。
又更に、比較例4(酸窒化シリコン膜;SiON膜)の成膜において、第1スパッタ源110の電力は9000Wとされ、Arガスは80sccmで導入された。又、第2スパッタ源120は、真空室102内の雰囲気調整のためにArガスを100sccmで導入することを除き、Alが不要であることから不作動とされた。ラジカル源130については、電力が1000Wとされ、Oガスが10sccmで導入され、Nガスが150sccmで導入された。尚、成膜レートは、0.20nm/secであった。
【0040】
加えて、比較例5(窒化シリコン膜;Si膜)の成膜において、第1スパッタ源110の電力は8000Wとされ、Arガスは100sccmで導入された。又、第2スパッタ源120は、Arガスの流量が100sccmとされたことを除き、比較例4と同様に不作動とされた。ラジカル源130については、電力が1000Wとされ、Nガスが80sccmで導入され、Oガスは導入されなかった。尚、成膜レートは、0.20nm/secであった。
又、比較例6(酸化シリコン膜;SiO膜)の成膜において、第1スパッタ源110の電力は9000Wとされ、Arガスは120sccmで導入された。又、第2スパッタ源120は、Arガスの流量が120sccmとされたことを除き、比較例4と同様に不作動とされた。ラジカル源130については、電力が1000Wとされ、Oガスが100sccmで導入され、Nガスは導入されなかった。尚、成膜レートは、0.34nm/secであった。
更に、比較例7(サイアロン膜)の成膜において、第1スパッタ源110の電力は9000Wとされ、Arガスは120sccmで導入された。又、第2スパッタ源120の電力は3000Wとされ、Arガスは120sccmで導入された。ラジカル源130については、電力が1500Wとされ、Oガスが10sccmで導入され、Nガスが150sccmで導入された。尚、成膜レートは、0.27nm/secであった。
【0041】
≪実施例1~4,比較例1~7の特性等≫
実施例1~4,比較例1~7の各種の特性が、次の表4~表5に示される。
又、サイアロン膜(実施例1~4,比較例7)の組成が、次の表6に示される。
更に、上述の通り測定されたビッカース硬さが、図6に示される。
又更に、サイアロン膜(実施例1~4,比較例7)の透明性が、図7(分光吸収率分布),図8(可視域平均吸収率)に示される。
【0042】
【表4】
【表5】
【0043】
【表6】
【0044】
サイアロン膜(SiAlON)の組成は、実施例1~4,比較例7についてエネルギー分散型X線分析(EDX)で分析された。この分析により、実施例1~4,比較例7の元素比(原子数比,%)が、組成として把握された(表6)。
第1スパッタ源110の電力(Si電力)に対して第2スパッタ源120の電力(Al電力)が高い場合、即ちAl電力/(Al電力+Si電力)が大きい場合、SiAlONにおけるAlの元素比及びSiの元素比の和に対するAlの元素比の比率、即ちAl/(Al+Si)は大きくなる。但し、各電力の絶対値、及び各種ガスの導入流量等の違いにより、Al/(Al+Si)の大きさと、Al電力/(Al電力+Si電力)の大きさとは、単純な比例関係にならない。
SiAlONの特性は、Al/(Al+Si)が大きい程、Alの特性に近づき、Al/(Al+Si)が小さい程、Siの特性に近づく。
【0045】
屈折率(波長550nmの光におけるもの)は、比較例6(SiO)において1.48と最も小さく、次いで比較例1(Al)において小さい。これに対し、各窒化物の屈折率は、比較例2(AlN)において2.00であり、比較例5(Si)において2.04であって、他より高くなっている。
SiAlONの屈折率は、Al/(Al+Si)が所定程度(実施例4の程度)以上であると1.90以上となり、Al/(Al+Si)が所定程度を下回ると(実施例4の程度を下回り比較例7の程度となると)、1.90未満となる。
【0046】
ビッカース硬さは、比較例1(Al)及び比較例6(SiO)において、石英基板のビッカース硬さよりも小さい(柔らかい)。
比較例2~5のビッカース硬さは、石英基板のビッカース硬さを上回っており、大きい(硬い)順に、比較例5(Si)、比較例4(SiON)、比較例3(AlON)、比較例2(AlN)となっている。
又、SiAlONのビッカース硬さは、比較例3,4と概ね同程度となっている。SiAlONの中では、実施例2のビッカース硬さが最も小さく、実施例1のビッカース硬さが最も大きくなっている。SiAlONのビッカース硬さは、概ね、Al/(Al+Si)が小さくSiに近い程大きい。
実施例1~4のビッカース硬さは、石英基板のビッカース硬さを上回るものである。よって、実施例1~4は、十分な耐傷性を有する。
【0047】
又、SiAlONの透明性について、まずプリズム2の成膜面Mに対する薄膜の形成により、可視域及び隣接域において、サイアロン膜付きプリズム2の分光透過率分布(横軸:波長,縦軸:透過率)が正弦波状となるものの、その中心軸は水平であり、その上限は97%程度であり、その下限は80%程度である。よって、サイアロン膜付きプリズム2の透過光には、若干の干渉が生じるものの、当該透過光の透過率は、少なくとも可視域において十分なものである。従って、サイアロン膜付きプリズム2は、可視光に対して十分に透明であり、照明カバーCとして十分に用い得る。
次に、SiAlONにおける光の吸収(小さい程透明である)について、吸収率[%]は、簡易的に「100-(透過率[%]+反射率[%])」で表され、以下透過率をTとし反射率をRとして100-T-Rと表される。そこで、可視域及び隣接域において、TとRが測定され、吸収率100-T-Rが算出された(図7)。又、可視域における平均吸収率が算出された(図8)。ここで、可視域は、可視光の波長域であり、ここでは400nm以上700nm以下とされた。
平均吸収率は、比較例7において1を超え、実施例1~4では1以下となった。よって、実施例1~4のSiAlONの吸収は、比較例7に比べて小さく、透明性は、比較例7より高い。
【0048】
更に、実施例1~4,比較例1~7に対して、温水試験、恒温恒湿試験、及び耐薬品試験が行われた(表5)。
各試験は、成膜後、他の試験等を行っていない新たな試料に対して行われた。
【0049】
温水試験は、次のように行われた。即ち、試料が、98℃の温水中に24時間入れられた後で取り出され、試料の様子が観察された。
温水試験では、比較例1(Al)、比較例2(AlN)、比較例3(AlON)において、膜の溶解が発生した。又、比較例5(Si)において、膜の剥がれが発生した。
温水試験では、上記以外の実施例,比較例では、膜に変化はみられなかった。
【0050】
恒温恒湿試験は、次のように行われた。即ち、試料が、気温85℃で相対湿度85%に保持された恒温恒湿槽に72時間入れられた後で取り出され、試料の様子が観察された。
恒温恒湿試験では、比較例1(Al)、比較例2(AlN)、比較例3(AlON)において、膜にクラックが発生した。又、比較例4(SiON)、比較例5(Si)、比較例7において、膜の剥がれが発生した。
恒温恒湿試験では、上記以外の実施例,比較例では、膜に変化はみられなかった。
温水試験及び恒温恒湿試験の少なくとも一方において膜の剥がれ又は溶解が発生するものは、プリズム2に対する密着性に劣るものと考えられる。
尚、ビッカース硬さの大きさが十分でない比較例6(SiO)について、恒温恒湿試験は省略された。
【0051】
耐薬品試験は、次の3つの薬品について実施された。3つの薬品は、酢酸ナトリウム(酢酸Na)、蟻酸ナトリウム(蟻酸Na)、蟻酸カリウム(蟻酸Ka)である。これらの薬品は、道路において融雪剤として用いられている。
耐薬品試験は、3つの薬品について、それぞれ次のように同様に実施された。即ち、試料が、3重量%で室温である薬品の水溶液に24時間入れられた後で取り出され、試料の様子が観察された。
耐薬品試験では、比較例1(Al)において、蟻酸Naに対し膜が溶解し、比較例2(AlN)、比較例3(AlON)において、蟻酸Na及び蟻酸Kaに対し膜が溶解した。又、比較例4(SiON)、比較例5(Si)において、酢酸Na、蟻酸Na及び蟻酸Kaに対し膜の剥がれが発生した。更に、比較例7において、蟻酸Kaに対し膜の溶解が発生した。
耐薬品試験では、上記以外の実施例,比較例では、何れの薬品に対しても膜に変化はみられなかった。
【0052】
≪実施例1~4,比較例1~7のまとめ等≫
実施例1~4は、サイアロン製の膜であり、そのサイアロンにおける波長550nmの光に係る屈折率は、1.90以上1.94以下である。実施例1~4は、十分なビッカース硬さを有して十分な耐傷性を有し、且つ十分な透明性を有しながら、耐環境性、即ち耐温性及び耐湿性(良好な密着性)、並びに耐薬品性を備えた表面保護膜1となっている。これに対し、比較例7は、屈折率が1.90を下回る1.89であるサイアロン膜であり、耐湿性及び耐薬品性(蟻酸Ka)に劣る。又、比較例1~5は耐環境性(密着性)で劣り、比較例1,6はビッカース硬さないし耐傷性で劣る。
又、実施例1~4は、サイアロン製の膜であり、そのサイアロンは、アルミニウムを、原子数比で15%以上32%以下の範囲内において含んでいる。実施例1~4は、十分なビッカース硬さを有して十分な耐傷性を有し、且つ十分な透明性を有しながら、耐環境性に優れた表面保護膜1となっている。これに対し、比較例7は、アルミニウムを原子数比で15%を下回る10.3%有するサイアロン膜であり、耐湿性及び耐薬品性(蟻酸Ka)に劣る。
更に、実施例1~4は、サイアロン製の膜であり、そのサイアロンの原子数での組成における、アルミニウムを、アルミニウムとシリコンとの和で割った商(Al/(Al+Si))が、0.38以上0.67以下である。実施例1~4は、十分なビッカース硬さを有して十分な耐傷性を有し、且つ十分な透明性を有しながら、耐環境性に優れた表面保護膜1となっている。これに対し、比較例7は、Al/(Al+Si)が0.38を下回る0.276(27.6%)であるサイアロン膜であり、耐湿性及び耐薬品性(蟻酸Ka)に劣る。
加えて、実施例1~4のサイアロンは、酸素を、原子数比で7%以上16%以下含んでいる。実施例1~4は、十分なビッカース硬さを有して十分な耐傷性を有し、且つ十分な透明性を有しながら、耐環境性に優れた表面保護膜1となっている。これに対し、比較例7は、酸素を原子数比で20%を上回る20.2%有するサイアロン膜であり、耐湿性及び耐薬品性(蟻酸Ka)に劣る。
又、実施例1~4のサイアロンの可視域平均吸収率は、1%以下である。よって、実施例1~4は、透明性に優れている。
【0053】
そして、実施例1~4の表面保護膜1を含む照明カバーCは、十分なビッカース硬さを有して十分な耐傷性を有し、且つ十分な透明性ないし照明光の透過性を有しながら、耐環境性に優れており、例えば道路誘導灯に組み込まれたとしても、小傷(スクラッチ)等が付いて曇り透光性が劣化する事態が防止され、又温度湿度変化及び融雪剤に耐えるものにできる。又、実施例1~4の表面保護膜1では、従来の道路誘導灯で発生していた剥離が防止される。
更に、実施例1~4は、プリズム2を置いた真空室102内において、Oガス及びNガスを導入しながら、SiのスパッタとAlのスパッタとを行うことで、プリズム2に形成される。又、Siのスパッタ及びAlのスパッタは、直流電圧の印加により行われる。よって、新規なサイアロン膜である実施例1~4が実際に形成される。
【0054】
≪実施例11~17及び比較例11~12で共通する製造条件等≫
実施例11~17及び比較例11は、それぞれ、上述の製造装置101により、次の条件を揃えて成膜された。又、比較例12は、プリズム2(基板)のみ、実施例11~17及び比較例11と揃えて、真空蒸着により形成された。実施例11~17は、上述の第2形態に属する。明確化のため、実施例5~10及び比較例8~10は、欠番とする。
即ち、実施例11~17及び比較例11~12は、シクロオレフィンポリマー(COP;日本ゼオン株式会社製「ZEONEX E48R」)製の基板の片面に、中間膜なしで直接成膜された。
実施例11~17及び比較例11で共通する製造条件は、プリズム2(基板)の材質を除き、実施例1~4及び比較例1~7で共通する製造条件と同じものとされた。
比較例12においては、基板以外に他と共通する製造条件はない。
【0055】
≪実施例11~17の製造条件等≫
そして、実施例11~17が、次の共通の条件下で成膜された。
即ち、誘電体層206であるSiO層を形成する場合、第1スパッタ源110及び第2スパッタ源120における電力は、順に9000W,0Wとされ、第1スパッタ源110及び第2スパッタ源120における各Arガスの流量は、何れも120sccmとされた。又、ラジカル源130における電力は、1000Wとされ、ラジカル源130におけるArガス,Oガス,Nガスの流量は、順に0sccm,100sccm,0sccmとされた。この場合の成膜レートは、0.34nm/secとされた。
他方、サイアロン層204を形成する場合、第1スパッタ源110及び第2スパッタ源120における各電力は、順に9000W,6000Wとされ、第1スパッタ源110及び第2スパッタ源120における各Arガスの流量は、何れも120sccmとされた。又、ラジカル源130における電力は、1500Wとされ、ラジカル源130におけるArガス,Oガス,Nガスの流量は、順に0sccm,10sccm,150sccmとされた。この場合の成膜レートは、0.4nm/secとされた。
かような実施例11~17に共通する製造条件が、次の表7に示される。
又、実施例11~17の層構成及び各層の物理膜厚が、次の表8~表10に示される。
【0056】
【表7】
【0057】
【表8】
【表9】
【表10】
【0058】
実施例11~17の表面保護膜201の全層数は、順に4,2,15,10,11,2,12である。
実施例13,15の表面保護膜201では、基板から数えて1層目(最も基板に近い層)である最下層がSiO層となっている。他方、実施例11,12,14,16,17の表面保護膜201では、最下層がサイアロン層204となっている。
【0059】
実施例16は、ステップS5(表面保護膜の形成)を除き、第1形態のフローチャート(図4)のフローと同様のフローで形成される。実施例14のステップS5では、まず1層目のサイアロン層204が、上述の製造条件で形成される。1層目のサイアロン層204の物理膜厚は、成膜レートが上述の値において一定であることから、成膜時間により調整される。即ち、1層目の物理膜厚をサイアロン層204の成膜レートで除して算出された成膜時間において1層目が成膜される。次に、2層目の誘電体層206(SiO層)が、上述の製造条件で形成される。2層目は、2層目の物理膜厚をSiO層の成膜レートで除して算出された成膜時間において成膜される。
実施例12の表面保護膜201は、実施例16の表面保護膜201と、各層の物理膜厚を除き、同様に形成される。
実施例11,14,17の表面保護膜201は、実施例16の表面保護膜201の形成を適宜繰り返すことで形成される。
【0060】
一方、実施例13,15の表面保護膜201は、奇数層目がSiO層で偶数層目がサイアロン層204となることを除き、実施例11,14,17の表面保護膜201と同様に形成される。
尚、表8~表10では、表面保護膜201の物理膜厚(「合計」)、並びに表面保護膜201中の全てのSiO層の物理膜厚の合計(「SiO計」)、及び表面保護膜201中の全てのサイアロン層204の物理膜厚の合計(「SiAlON計」)が併せて示される。後述の表13でも同様に各種の合計が示される。
【0061】
実施例11,12におけるサイアロン層204の物理膜厚(nm)の合計は、順に104.65,61.35であり、何れも215nm未満であった。
実施例13~17におけるサイアロン層204の物理膜厚(nm)の合計は、順に585.88,215.96,215.96,270.00,290.34であり、何れも215nm以上であった。
【0062】
≪比較例11~12の製造条件等≫
他方、比較例11~12は、次のように成膜された。
まず、比較例11は、Si製の層であるSi層とSiO層との交互膜であり、製造装置101において、次の表11に示される製造条件で成膜された。
即ち、Si層を形成する場合、第1スパッタ源110及び第2スパッタ源120における各電力は、順に8000W,0Wとされ、第1スパッタ源110及び第2スパッタ源120における各Arガスの流量は、何れも100sccmとされた。又、ラジカル源130における電力は、1000Wとされ、ラジカル源130におけるArガス,Oガス,Nガスの流量は、順に0sccm,0sccm,80sccmとされた。この場合の成膜レートは、0.2nm/secとされた。
又、比較例11のSiO層は、実施例11~17におけるSiO層を形成する場合と同じ条件で成膜された。
【0063】
【表11】
【0064】
次に、比較例12は、TiO製の層であるTiO層とSiO層との交互膜であり、真空蒸着により、次の表12に示される製造条件で成膜された。真空蒸着は、より詳しくは、イオンビームアシスト蒸着(Ion Assist Depotition;IAD)である。
SiO層の成膜時、電子ビーム(EB)の電圧は6kV(キロボルト)、電流は100mA(ミリアンペア)とされ、成膜レートは10Å/sec(オングストローム毎秒)とされた。又、イオンビーム(イオンガン)の加速電圧は750V、加速電流は250mAとされ、イオンビーム発出部に供給するOガスの流量は20sccmとされ、真空室内に導入するOガスの流量は0sccm(上述のイオンビーム発出部を除き真空室内にOガスを導入しない)とされた。
他方、TiO層の成膜時、EBの電圧は6kV(キロボルト)、電流は450mAとされ、成膜レートは3Å/secとされた。又、イオンビームの加速電圧は700V、加速電流は250mAとされ、イオンビーム発出部に供給するOガスの流量は15sccmとされ、真空室内に導入するOガスの流量は120sccmとされた。
尚、何れの層の成膜時においても、真空室内の温度は100℃に保持され、1層目の成膜開始時の真空度は8.0×10-4Paとされた。
【0065】
【表12】
【0066】
かような比較例11~12の層構成及び各層の物理膜厚が、次の表13に示される。
比較例11~12の表面保護膜の全層数は、順に15,5とされた。
比較例11,12の表面保護膜では、何れも最下層がSiO層とされた。比較例11,12は、上述の製造条件において形成された。
【0067】
【表13】
【0068】
≪実施例11~17,比較例11~12の特性等≫
比較例11~12,実施例11~17の各種の特性が、次の表14に示される。
又、比較例11~12,実施例11~17の透明性(白板ガラス基板におけるシミュレーション値)が、順に図9図17(分光反射率分布)に示される。
更に、耐傷性試験後に撮影された比較例11~12,実施例11~17の写真が、順に図18図26に示される。
【0069】
【表14】
【0070】
透明性(分光反射率分布)に関し、実施例11,13~15,17及び比較例11~12では、可視域(ここでは400nm以上700nm以下)において反射率が概ね1%以下となっている。
より詳しくは、実施例11における400nm以上405nm未満の領域と680nmを超えて700nm以下の領域で、反射率が1%を僅かに上回って2%以下となっており、405nm以上680nmの領域で、反射率が1%以下となっている。又、実施例17では、420nm以上670nm以下の領域で反射率が1%以下となっており、その領域以外の可視域で反射率が2%以下となっている。更に、比較例11,12及び実施例13,14において、可視域での反射率が0.5%以下となっている。又更に、実施例15において、可視域での反射率が数箇所の領域を除き0.5%以下となっており、当該数箇所の領域においても反射率は1%以下となっている。よって、実施例11,13~15,17及び比較例11~12では、可視域(実施例17ではその大部分)における透明性が得られている。
他方、実施例12,16では、近赤外域(ここでは800nm以上1000nm以下)において反射率が概ね3%以下となっている。より詳しくは、実施例12では、850nm以上1000nm以下において反射率が1%以下となっており、実施例16では、850nm以上1000nm以下において反射率が3%以下となっている。よって、実施例12,16では、近赤外域における透明性が得られている。
【0071】
又、耐傷性に関し、次の試験が行われた。即ち、研磨材(スリーエムジャパン株式会社製「スコッチブライト7530DOT」;#3000番相当)が、試料の表面保護膜に対して、荷重200g(グラム)で当てられ、表面保護膜上の仮想的な直線(長さ20mm(ミリメートル))に沿って第1の端部から第2の端部まで10往復にて移動された。その後、研磨材が表面保護膜から離されて、表面保護膜が撮影され、観察された。
かような試験の結果、実施例13~17(図22図26)及び比較例11(図18)では、独立した細い筋状の傷が散見される程度で済んでいて傷の数が少なくなっており、耐傷性は良好であった。又、実施例11~12(図20図21)では、実施例13~17及び比較例11に比べ、傷の数がやや多く、耐傷性は比較的に並であった。これに対し、比較例12では、比較的に多数の筋状の傷が見受けられ、耐傷性は他に比べ劣っていた。
【0072】
更に、実施例11~17,比較例11~12に対し、実施例1~4,比較例1~7と同様の恒温恒湿試験(温度85℃,相対湿度85%,72時間(hr)保持)が行われ、その試験後更に継続して同様の環境で328時間(合計400時間)槽内に試料が保持されて、長時間の恒温恒湿試験が行われた。実施例11~17,比較例11~12の各恒温恒湿試験では、外観観察に加え、テープ試験(剥離試験)が行われた。即ち、一辺が10mmの仮想的な正方形に沿って試料の表面保護膜に対しナイフで切れ込みを入れ、その切れ込みで区画された正方形内に対し、粘着テープ(ニチバン株式会社製「セロテープCT-15」)が貼り付けられ、垂直方向に引き剥がされた。
72時間の恒温恒湿試験では、実施例11~17,比較例11~12の何れにおいても、試験後の外観は良好であり、剥がれは発生しなかった。これに対し、長時間の恒温恒湿試験では、実施例11~17,比較例12では、試験後の外観は良好であり、剥がれが発生しなかったのに対し、比較例11では、剥がれが発生した。
【0073】
≪実施例11~17,比較例11~12のまとめ等≫
実施例11~17の表面保護膜201は、1以上のサイアロン製のサイアロン層204、及び1以上の誘電体製の誘電体層206を含む。よって、透明で、耐傷性及び耐久性に優れた表面保護膜201が提供される。比較例11は、Si層及び誘電体層を含む多層膜であり、長期間の恒温恒湿試験で剥がれが発生して耐久性に劣る。又、比較例12は、TiO層及び誘電体層を含む多層膜であり、耐傷性試験で傷が多く、耐傷性に劣る。
又、実施例11~17の表面保護膜201において、誘電体層206は、SiO製である。よって、誘電体層206が低屈折率層としてより低コストでより容易に形成され、高屈折率層として振る舞うサイアロン層204との多層膜により、透明性を有する表面保護膜201がより容易に設計可能である。
更に、実施例13~17の表面保護膜201において、サイアロン層の合計物理膜厚は、215nm以上である。よって、耐傷性試験で傷の数がより少なく、更に耐傷性に優れる。
【符号の説明】
【0074】
1,201・・表面保護膜、2・・プリズム(基材)、102・・真空室(成膜室)、204・・サイアロン層、206・・誘電体層、C・・照明カバー。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26