(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-22
(45)【発行日】2025-05-30
(54)【発明の名称】ケイ酸塩鉱物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 33/40 20060101AFI20250523BHJP
A23L 29/00 20160101ALI20250523BHJP
A61K 8/25 20060101ALI20250523BHJP
A61K 9/20 20060101ALI20250523BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20250523BHJP
A61Q 1/00 20060101ALI20250523BHJP
A61Q 1/10 20060101ALI20250523BHJP
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A61Q 19/10 20060101ALI20250523BHJP
【FI】
C01B33/40
A23L29/00
A61K8/25
A61K9/20
A61K47/02
A61Q1/00
A61Q1/10
A61Q1/12
A61Q1/14
A61Q19/00
A61Q19/10
(21)【出願番号】P 2025517866
(86)(22)【出願日】2024-11-20
(86)【国際出願番号】 JP2024041068
【審査請求日】2025-03-25
(31)【優先権主張番号】P 2023198887
(32)【優先日】2023-11-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2024104560
(32)【優先日】2024-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518268798
【氏名又は名称】株式会社スーパーナノデザイン
(74)【代理人】
【識別番号】100173679
【氏名又は名称】備後 元晴
(72)【発明者】
【氏名】阿尻 雅文
(72)【発明者】
【氏名】大原 智
(72)【発明者】
【氏名】中西 亮
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-077965(JP,A)
【文献】特開平01-111711(JP,A)
【文献】特開2014-161848(JP,A)
【文献】特開2008-019111(JP,A)
【文献】特開2023-097431(JP,A)
【文献】日本産業衛生学会 許容濃度等に関する委員会, "許容濃度(2023)の提案理由",産業衛生学雑誌,2023年09月20日,Vol.65, No.5,p.301-326,DOI: 10.1539/sangyoeisei.S23002
【文献】CASTILLO, Luciana A. et al.,“Integrated Process for Purification of Low Grade Talc Ores”,Particulate Science and Technology,2013年12月02日,Vol. 32,No. 1,p.1-7,DOI: 10.1080/02726351.2012.755588
【文献】木村邦夫,"風化花崗岩系微粒物の水熱処理による精製",資源・素材学会 研究・業績発表講演会講演要旨集 1990年春季大会,1990年,p.403-404
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 33/20 - 39/54
A23L 29/00
A61K 8/25
A61K 9/20
A61K 47/02
A61Q 1/00
A61Q 1/10
A61Q 1/12
A61Q 1/14
A61Q 19/00
A61Q 19/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶質シリカ及びアスベストの含有量がいずれも0.1重量%以下であ
り、
以下の手法で必要となるNaOH水溶液(0.01M)の量が180μl以上である、化粧品、衛生用品、医薬品及び食品から選択される1種以上を用途にするケイ酸塩鉱物
粉末。
(1)ケイ酸塩鉱物粉末0.1gを水10mlに分散する。
(2)NaClを2g加えた後、希塩酸(0.12M)でpHを4以下に調整する。
(3)NaOH水溶液(0.01M)を加えていき、pHを4にした後、そこからpH9になるまでのNaOH水溶液(0.01M)の必要量を測定する。
【請求項2】
炭酸塩を含有する請求項1に記載のケイ酸塩鉱物
粉末。
【請求項3】
一次粒子の平均粒子径が100nm以上である、請求項1に記載のケイ酸塩鉱物粉末。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれか1項に記載のケイ酸塩鉱物
粉末が含まれる化粧品。
【請求項5】
請求項1から
3のいずれか1項に記載のケイ酸塩鉱物
粉末が含まれる衛生用品。
【請求項6】
請求項1から
3のいずれか1項に記載のケイ酸塩鉱物
粉末が含まれる医薬品。
【請求項7】
請求項1から
3のいずれか1項に記載のケイ酸塩鉱物
粉末が含まれる食品。
【請求項8】
天然鉱物由来のケイ酸塩鉱物をpH
4以上9.4以下で温水若しくは熱水処理又は水熱反応処理する工程を含
み、
前記温水若しくは前記熱水処理又は前記水熱反応処理での温度が100℃以上370℃以下であり、圧力が水の飽和蒸気圧以上であり、処理時間が1分以上10時間以下である、
化粧品、衛生用品、医薬品及び食品から選択される1種以上を用途にするケイ酸塩鉱物
粉末の製造方法。
【請求項9】
前記温水若しくは前記熱水処理又は前記水熱反応処理は、炭酸又はCO
2の共存下で行われる、請求項
8に記載の方法。
【請求項10】
前記温水若しくは前記熱水処理又は前記水熱反応処理は、Mgイオン共存下で行われる、請求項
8に記載の方法。
【請求項11】
回分装置又は半回分装置を用いて前記温水若しくは前記熱水処理又は前記水熱反応処理を行う、請求項
8に記載の方法。
【請求項12】
反応装置が前記半回分装置であり、
前記半回分装置に供給する水系溶媒の量は、原料としての前記ケイ酸塩鉱物に含まれる結晶質シリカを、反応場の共存イオンを含む反応溶液に飽和溶解する理論量の0.1倍以上である、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
反応装置が前記半回分装置であり、
前記半回分装置に仕込む原料としての前記ケイ酸塩鉱物に含まれる結晶質シリカの量は、反応場の共存イオンを含む反応溶液に対して飽和溶解する理論量の10倍以下である、請求項
11又は12に記載の方法。
【請求項14】
流通式装置を用いて、前記ケイ酸塩鉱物を水に懸濁状態で供給し、前記温水若しくは前記熱水処理又は前記水熱反応処理を行う、請求項
8に記載の方法。
【請求項15】
前記流通式装置に供給するケイ酸塩鉱物水スラリーの濃度は、原料としての前記ケイ酸塩鉱物に含まれる結晶質シリカを、反応場の共存イオンを含む反応溶液に飽和溶解する理論量の0.1倍以上である、請求項
14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケイ酸塩鉱物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケイ酸化合物は、鉱物の中でも多種多様で、化粧品、食品、医薬品、工業製品に広く使われている。地底深く、地下水が火山活動で加熱され、高温高圧の熱水(亜臨界・超臨界水)となり、岩石を溶かし超臨界水溶液状態となり、地上近くで減圧、冷却されると、溶解度が低下して析出する。これが、鉱脈ができる原理である。地上の土砂成分を見れば分かるように、ケイ酸化合物はその中でも主構成成分である。ケイ酸化合物としては、シリカSiO
2だけでなく、Al、Ca、Fe、K、Na、Mg等々多くの金属を含んだ、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸鉄、ケイ酸ナトリウム等、あるいは複数金属を含んだ鉱物、及びそれらの水和物も多く形成される。
【表1】
【0003】
その析出原理から、当然のことながら、不純物が含まれることも多々ある。その中で、構成成分であるSiO2を不純物として含むことも多い。
【0004】
本発明は、ケイ酸塩鉱物の析出過程で生じるこれらの不純物を除去することを目的としたものであり、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸鉄等及びそれらの水和物を対象とする。以下に含水ケイ酸マグネシウム(タルク、滑石等とも称される。)を例に本技術を説明するが、原理的に他のケイ酸塩鉱物にも適用できる技術である。
【0005】
含水ケイ酸マグネシウムは、化粧品、食品、医薬品、工業製品に広く使われているが、天然鉱物であるために、不純物を含む場合が多い。商用的な利用に際しては、毒性物質や重金属等は分離除去されて利用される。しかしながら、多くの場合、天然鉱物であるタルクを始めとするこれらの材料には、SiO2のような鉱物生成時に同時析出しやすい成分が混入しやすく、これら同時析出しやすい成分が製品に混入することが多い。例えば、アスベストに起因するトレモライト、クリソタイルを少量含む場合が多い。アスベストの混入は、化粧品、食品、医薬品等はもちろん。工業製品においても許諾されないし、それ以外の結晶性SiO2(結晶性シリカ、石英等とも称される。)の混入も最近問題視されるようになっている。
【0006】
しかしながら、地底での鉱物の生成は、その温度圧力による析出であり、鉱物の採掘される場所によって析出物組成は異なる。上記の不純物をほとんど含まない部分を精査、選択して用いることが、唯一の解決策とされてきたが、それでも不純物が微量に含まれる場合も多く、特に、医療、食品、化粧品等への応用分野においては大きな問題となっている。
【0007】
また、結晶性SiO2に着目すると、含水ケイ酸マグネシウムとSiO2の比重等、既存の組成分離に求められる物性がほとんど同じため、遠心分離、沈降分離、比重分離はもちろんクロマトグラフィー法等の吸着操作によっても、それらの分離は不可能とされてきた。
【0008】
ここで、超臨界場を含めた水熱合成を用いて微小粒子形状のタルクを人工的に合成することが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載の手法で得られる合成タルクは、粒子径が20nm~100nmと小さい。タルク等の含水ケイ酸化合物が実際に使われている応用分野では、天然鉱物を粉砕によりふるい分けして使われるため、数10μm以上、小さい場合でもサブμm以上であるし、使用者の安全面(ナノリスク)の観点から、より大きな粒子径のタルクを提供することが望ましい。原理的には、粒子径を成長させることは、水熱法等で可能ではあるが、人工合成には、製造コスト面と生産性、性状の最適化に課題があり、実際には数100nm以上の粒子を工業的に生産する手法とはならない。
【0011】
そこで、天然鉱物から不純物を除こうとしても、結晶性シリカに関してみると、含水ケイ酸マグネシウムと不純物のSiO2混合系から、SiO2不純物を溶解除去するという意味では、アルカリ条件とすることで不純物を溶解させることはできるが、同時に含水ケイ酸マグネシウムも溶解する。そのため、未だ、SiO2不純物を溶解除去しつつ含水ケイ酸マグネシウムを残す分離除去検討は行われていない。原理的には、工業的な手法としては、含水ケイ酸マグネシウムを溶解させずに、SiO2のみを溶解させる条件が必要となる。しかし、そもそも自然界において鉱物の生成が同時並行で生じていることを鑑みれば、溶解度がほぼ同じだからこそ混入しているのであり、その条件の探索は極めて困難である。
【0012】
また、アスベストに関してみると、アスベストは蛇紋岩、角閃岩であり、一般に、耐熱性はもちろん、酸にもアルカリにも安定である。つまり、その溶解除去可能な条件では、その他の成分、例えば、含水ケイ酸マグネシウムそのものを溶解させてしまうこととなり、一般的には非常に困難である。
【0013】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、数100nmよりも大きな平均粒子径を有するケイ酸塩鉱物を、結晶質シリカ等の不純物を含むことなく提供可能にすることである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、天然鉱物由来のケイ酸塩鉱物をpH9.4以下で温水若しくは熱水処理又は水熱反応処理することで、結晶質シリカ等やアスベスト等、毒性のある不純物を水に溶解、あるいは反応改質除去させ得ることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0015】
本発明は、天然鉱物由来のケイ酸塩鉱物をpH9.4以下で温水若しくは熱水処理又は水熱反応処理する工程を含む、ケイ酸塩鉱物粉末の製造方法である。また、反応場に炭酸等を共存させることもでき、それによってpHを低く制御するとともに、不純物の反応改質除去も可能となる。
【0016】
水熱反応は、水晶を始めとして、広く、金属酸化物結晶の単結晶成長法として利用されている。水熱条件では、金属酸化物は溶解、析出を繰り返し、結晶成長する。この結晶成長は、オストワルド熟成と呼ばれる。不安定な微小粒子や、表面エネルギーの高い尖端部がより溶解しやすく、より安定な面が露出するように単結晶成長が進む。実際には、このオストワルド熟成の機構、原理を活用し、より高速な結晶成長を促進し、大きな単結晶を作る方法として産業的に利用されている。
【0017】
金属酸化物の溶解度は、温度によって異なるため、一般に、この単結晶成長を進めるためには、結晶育成器内に温度分布を作ることで、より高速に結晶成長を行う。亜臨界水熱条件や高圧超臨界条件下(高水密度)では、高温場で原料材料を溶解させ、低温場で種結晶を成長させる方法をとる。比較的低圧、低密度の超臨界水状態を利用する場合には、逆に高温(低水密度)場で析出させ、また生じやすい自然滞留を積極的に利用する。通常、最低数時間、一般的には数日から数週間を要する。
【0018】
このオストワルド熟成の原理を考えれば、粒子径、形状の異なるタルク等、含水ケイ酸マグネシウムを水熱熟成させれば、両成分とも、微小粒子、尖端形状粒子から溶解が生じる。本発明は、結晶成長とは異なり、不純物として含まれ得るトレモライト、クリソタイルや、結晶質シリカ(石英)の成長ではなく、不純物の溶解あるいは反応改質除去にあり、ケイ酸塩鉱物の溶解を抑制させつつ、結晶質シリカ等の不純物の溶解あるいは反応改質をより選択的に生じさせることで、結晶性シリカをはじめとする不純物を含まない主成分ケイ酸塩鉱物の調整を行うものである。
【0019】
また、同様に結晶性シリカやクリソタイルを不純物として含まないケイ酸塩鉱物の調整が原理的に可能な、水熱合成を用いたタルクの人工合成に比べて、製造コスト面に優れる。また、原料が天然鉱物の粉砕物であるから、市場で求められる数100nm以上の粒子径の粒子の回収が可能である。
【0020】
オストワルド熟成が生じる反応場であるから、回収されたケイ酸塩鉱物粒子の形状は、一般の天然物粉砕物と比較すると、微粒生成物が少ないし、粒子形状も丸みを持っている。また、生成物の表面の水酸基は、より多い。
【0021】
pHは、9.4以下である。高pH下では、結晶性シリカを溶解できるが、同時にケイ酸塩鉱物の溶解も伴う。そもそも、ケイ酸塩鉱物の亜臨界、超臨界水熱合成(人工合成)は、低pHが望ましい。この条件ではケイ酸塩鉱物が析出するわけだから、ケイ酸塩鉱物を溶解せず、結晶性シリカのみを溶解させる条件としては、原理的にも望ましいと考えられる。
【0022】
この考え方は、クリソタイル等アスベストの不純物除去についても同様である。クリソタイル等のアスベストは、塩基性を示す鉱物であるから、水熱条件において、pHを高く設定しないことで、これらを溶解させ、かつ、ケイ酸塩鉱物を析出させる条件の設定が原理的に可能となる。
【0023】
これらの不純物が特に問題となるのは、不純物が針状生成物の場合であるが、水熱条件下では、針状物質がその先端から溶解する。大量のケイ酸塩鉱物の溶解速度、溶解量を考えると、仮に同量溶解したとしても、最終的には、大量に存在するケイ酸塩鉱物のみを残すことが可能となる。
【0024】
低pH化のために酸を共存させることができ、酸として炭酸を使うこともできる。この場合、条件によっては炭酸塩生成が生じる場合もある。地下深くで生じる鉱物生成の反応場でのタルク生成機構として、下記の反応が知られている。
【数1】
【0025】
これは、蛇紋岩(クリソタイル)が水熱条件下、CO2と反応し、タルクが生成することを示している。クリソタイルのMgは炭酸マグネシウムとして析出する。ただし、炭酸マグネシウムの水熱条件下での溶解度は他の生成物よりも高いため、半回分抽出操作により溶解除去も可能である。
【0026】
また、最近の研究で、カルシウムシリケート等とCO2との反応による炭酸塩化が報告されている。鉱物生成機構研究だけでなく、カルシウムシリケート化合物の炭酸化による硬化(後藤ら,無機マテリアル,Vol. 5, Jan. 22-27 (1998))、コンクリートへのCO2吸収(CO2-SUICOM(登録商標)プロセス)や、米国ラットガース大学のRichard Riman教授によるカルシウムシリケートとのCO2共存水熱反応による人工大理石合成等が、CO2問題解決の研究開発、技術開発として実用化している。すなわち、CO2共存下水熱条件下で炭酸塩化が進む。
【0027】
一方、地球物理分野において、地下におけるタルク生成の別の生成機構として下記が知られている。
【数2】
【0028】
この反応機構は、水熱条件下で、シリカが共存してタルクが生成する反応である。上記のように、炭酸塩とシリカとの反応を介してタルクに改質することが可能であることを示唆している。
【0029】
すなわち、微量成分として混入しているトレモライトは、
Ca2(Mg,Fe)5Si8O22(OH)2
(ここで、Mg/(Mg+Fe)=1.0-0.9)
であるが、トレモライトが微量に混入する場合、水熱条件下において、溶解除去だけでなく、CO2共存下においては、炭酸化し、それと同時に同様に不純物として存在するシリカ成分が溶解しつつ反応することで、タルクに変性することになる。
【0030】
また、本発明において、温水若しくは熱水処理又は水熱反応処理は、Mgイオン共存下で行われることが好ましい。鉱物中に結晶性シリカ等が入っている場合、平衡論的にMgを共存させることで、マグネシウムシリケートの生成を促進させることもありうる。単純には、SiO2がMgと複合化する反応もある。が、実際には、シリカと、マグネシウムシリケートの溶解によりMgイオンとSiイオンが共存することになるが、マグネシウムイオンを供給すれば、そのシリカとマグネシウムシリケートの溶解平衡を、シリカの溶解を優勢に生じさせることもできる。
【0031】
原料となる天然鉱物由来のケイ酸塩鉱物は、天然鉱物を粉砕することで提供される。そのため、平均粒子径を200nm未満にすることは難しく、水熱反応処理後の製品についても、平均粒子径は、200nm以上となる。
【0032】
よって、本発明によると、100nmよりも大きな平均粒子径を有するタルクを、結晶質シリカやアスベスト成分等の不純物を含むことなく提供できる。
【0033】
また、本発明では、前記温水若しくは熱水処理又は前記水熱反応処理での温度が70℃以上370℃以下であり、圧力が水の飽和蒸気圧以上であることが好ましい。
【0034】
本発明によると、370℃以下(好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下、さらに好ましくは200℃以下、特に好ましくは150℃以下)という低温の熱を利用して結晶質シリカあるいはアスベスト等の不純物を溶解・反応除去できるため、製造コスト面においてよりいっそう優れる。低温の熱として、熱源装置からの熱だけでなく、工場内での廃熱の再利用等も考えられる。
【0035】
本発明は、回分装置、半回分装置、流通式装置のいずれにも応用できるが、半回分装置又は流通式装置を用いて温水若しくは熱水処理又は水熱反応処理を行うことが好ましく、半回分装置を用いて温水若しくは熱水処理又は水熱反応処理を行うことがより好ましい。
【0036】
純水に対するシリカの溶解度は報告されている。しかし本系のような他のイオンを含む鉱物の水熱処理の場合、当然それらの鉱物の溶解も生じるため、高温高圧水中のシリカの溶解度とはことなる。一般に他の鉱物の共存下での特定の成分の溶解度や溶存化学種濃度は、あらゆる物質の溶解平衡式、さらに水の解離平衡と電荷収支を連立させることで、解くことができる。必要な化学平衡はHKF(Helgeson Kirkham Flouer)モデルやSueらによる改良HKFモデルにより、超臨界域も含め精度よく予測することができる。
(Sue, K., Hakuta, Y., Smith, R. L., Adschiri, T., & Arai, K. (1999). Solubility of lead(II) oxide and copper(II) oxide in subcritical and supercritical water. Journal of Chemical & Engineering Data, 44(6), 1422-1426. https://doi.org/10.1021/je9901029)
【0037】
例えば、アルカリを添加することや、共存イオンの影響により、飽和溶解度はより大きくなる。また、地下における鉱物析出過程において、鉱物が析出する場合、不純物としてシリカが析出する場合、析出した鉱物の溶解度は低く、また析出速度も高いことを示唆している。上記平衡論だけでなく、速度論的にもシリカが溶解しやすい状況であることが推察される。実験的のもそれが検証されているが、平衡論のみならず速度論的に10倍以上速い溶解が達成させることが、十分に説明できる。
【0038】
反応システムとして、運転する場合の水の流通量の最適値はこの平衡論、速度論から判断される。
【0039】
半回分装置を用いることにより、温水・熱水処理又は水熱反応処理での熱回収と予熱を行うこともできるため、製造コスト面においてよりいっそう優れる。また、抽出除去された結晶質シリカやアスベスト等の不純物を系外に除去することができるため、それらの再析出によるコンタミネーションを防ぐことができる。
【0040】
反応装置が半回分装置である場合、半回分装置に供給する水系溶媒の量は、原料としてのケイ酸塩鉱物に含まれる結晶質シリカを、反応場の共存イオンを含む反応溶液に飽和溶解する理論量の0.1倍以上であることが好ましい。あるいは、半回分装置に仕込む原料としてのケイ酸塩鉱物に含まれる結晶質シリカの量は、反応場の共存イオンを含む反応溶液に対して飽和溶解する理論量の10倍以下であることが、好ましい。
【0041】
流通式装置を用いる場合には、ケイ酸塩鉱物を水に懸濁状態で供給し、温水若しくは熱水処理又は水熱反応処理を行う。出口での熱回収、さらにその原料の予熱としての利用を行うことができるし、半回分装置とは異なり抽出槽の昇温。冷却時の熱ロスがなくなるため、熱回収率が向上する。この際、冷却部で溶解されたシリカ等が後段の冷却部で再析出する可能性があり、それを避けるためには十分な結晶性シリカの溶解と急速な冷却により、残存シリカのオストワルト熟成、再結晶化成長を抑制することである。なお、その条件検討は、小型バッチ試験で行うことができる。
【0042】
また、流通式装置に供給するケイ酸塩鉱物水スラリーの濃度は、原料としての前記ケイ酸塩鉱物に含まれる結晶質シリカを、反応場の共存イオンを含む反応溶液に飽和溶解する理論量の0.1倍以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0043】
本発明によると、数100nmよりも大きな平均粒子径を有するケイ酸塩鉱物を、結晶質シリカ等の不純物を含むことなく提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
【
図1】
図1は、本実施形態の製造装置1の概略模式図である。
【
図2】
図2は、水熱反応処理前の天然タルクのX線回折試験結果である。
【
図3】
図3は、水熱反応処理後の天然タルクのX線回折試験結果である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0046】
<含水ケイ酸マグネシウム粉末の製造装置>
図1は、含水ケイ酸マグネシウム粉末の製造装置1の概略模式図である。
【0047】
製造装置1は、抽出手段10と、必要に応じて冷却手段20とを備える。
【0048】
〔抽出手段10〕
抽出手段10は、原料液と水系材料とを接触させ、原料を温水若しくは熱水処理又は水熱反応処理する装置である。抽出手段10の形態は、回分装置、半回分装置及び連続装置のいずれであってもよいが、水熱反応処理等での温度をより低温にすることができ、熱源装置からの熱だけでなく、工場内の廃熱も利用できるために製造コスト面で優れる点で、抽出手段10は、回分装置又は半回分装置であることが好ましく、半回分装置を用いて温水若しくは熱水処理又は水熱反応処理を行うことがより好ましい。
【0049】
半回分装置を用いることにより、温水・熱水処理又は水熱反応処理での熱回収と予熱を行うこともできるため、製造コスト面においてよりいっそう優れる。また、抽出除去された結晶質シリカやアスベスト等の不純物を系外に除去することができるため、それらの再析出によるコンタミネーションを防ぐことができる。
【0050】
また、抽出手段10の形態は、連続装置(流通式装置)であってもよい。流通式装置を用いる場合には、ケイ酸塩鉱物を水に懸濁状態で供給し、温水若しくは熱水処理又は水熱反応処理を行う。出口での熱回収、さらにその原料の予熱としての利用を行うことができるし、半回分装置とは異なり抽出槽の昇温。冷却時の熱ロスがなくなるため、熱回収率が向上する。この際、冷却部で溶解されたシリカ等が後段の冷却部で再析出する可能性があり、それを避けるためには十分な結晶性シリカの溶解と急速な冷却により、残存シリカのオストワルト熟成、再結晶化成長を抑制することである。なお、その条件検討は、小型バッチ試験で行うことができる。
【0051】
以下、特に断りがない限りは、抽出手段10が半回分装置であるものとして説明するが、これに限るものではない。
【0052】
[原料]
抽出手段10に仕込む原料は、ケイ酸塩鉱物であり、天然鉱物由来であってもよいし、合成鉱物由来であってもよいが、好ましくは、天然鉱物由来のケイ酸塩鉱物である。
【0053】
ケイ酸塩鉱物を構成する金属の種類は、特に限定されるものでなく、アルカリ金属やアルカリ土類金属のほか、アルミニウムや鉄等が挙げられる。ケイ酸塩鉱物の具体例として、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム、ケイ酸カルシウム、ケイ酸鉄、あるいはそれらの金属が複数種入ったケイ酸塩鉱物等が挙げられる。また、ケイ酸塩鉱物は、その水和物としての含水ケイ酸塩鉱物であってもよい。
【0054】
例えば、ケイ酸塩鉱物がタルク(含水ケイ酸マグネシウム)をはじめとした天然鉱物である場合、労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号)及び石綿障害予防規則(平成17年厚生労働省令第21号)により、天然鉱物に含まれるアスベスト(トレモライト、クリソタイル等)の含有率は、0.1%以下とされている。そのため、当該含有率が0.1%以下であるケイ酸塩鉱物を原料とすることが好ましい。
【0055】
ところで、タルク中の石綿を、X線回折法を利用してその含有率を判定する手法として、基安化発第0828001号の別添である「天然鉱物中の石綿含有率の分析方法」が採用されている。この方法では、普及型X線回折装置(XRD装置)を使用するとしており、測定条件は以下のとおりとされている(「タルク中の石綿含有率の分析方法」,石綿則に基づく事前調査のアスベスト分析マニュアル,平成30年3月,厚生労働省)。
管電圧:40kV以上
管電流:30mA以上
対陰極:Cu
単色化:グラファイトモノクロメーター又はNiフィルター
検出器:シンチレーションカウンター、プロポーショナルカウンター、ガイガーカウンター、半導体検出器等
スリット系:受光スリット0.3mm又は0.2mm
発散スリット:1°
散乱スリット:1°
ゴニオメーター走査速度:毎分1/8°又はそれ以下
時定数:適時定数を用いる。
チャートのフルスケール:回折線の強度測定はバックグランドを差し引いた正味のピーク面積を求める。記録チャートには回折線がピークとして確認できるような適切なフルスケールを選ぶこと。
【0056】
一般に、微量成分の測定においては、その測定ピークがベースラインのノイズに隠れてしまう場合もあり、シグナル/ノイズ比を上げるため、積分時間を長時間とする必要がある。これにより、強力な線源を用いなくとも、微量検出が原理的には可能である。
【0057】
しかし、一般的な結晶構造解析に用いる測定時間内で評価すると、積分時間が足りず、ピークを十分に検出できず、アスベストの含有率が安全基準である0.1重量%以下と判定されてしまうこともあり得る。
【0058】
本実施形態に記載の発明においては、その点を十分に配慮した長時間測定を行ない、精密なベースライン評価に基づく検量線を作成した結果から解析を行っている。アスベストを反応改質除去させ、アスベストの含有量を真に0.1重量%以下にすること、すなわち、基安化発第0828001号の別添に規定のとおり、普及型X線回折装置での判定結果によりつつ、精密な解析手法を駆使することで十二分な精度で、当該別添での安全基準に達していることを確認している。
【0059】
[分散媒]
また、原料を分散する分散媒は、水系材料である。水系材料とは、水、極性有機溶媒、又は水と極性有機溶媒との混合溶媒をいう。水系材料として、例えば、水、アルコール類、カルボン酸類、ケトン類、エーテル類、エステル類、アミド類、アミン類、硫黄化合物類等及びこれらの混合物等が挙げられる。
【0060】
アルコール類としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、t-ブチルアルコール、プロピレングリコール及びフェノール等が挙げられる。
【0061】
カルボン酸類としては、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸等の低級カルボン酸が挙げられる。
【0062】
ケトン類としては、アセトン、メチルエチルケトン及びメチルイソブチルケトン等が挙げられる。
【0063】
エーテル類としては、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン及びメチルセロソルブ等が挙げられる。
【0064】
エステル類としては、酢酸エチル、酢酸ブチル等が挙げられる。
【0065】
アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミド、ニトロメタン及びアセトニトリル等が挙げられる。
【0066】
アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
【0067】
硫黄化合物類としては、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。
【0068】
中でも、取扱いが容易であることから、水系材料は、水、アルコール類及びカルボン酸類から選択される1種以上を含むことが好ましく、水であることがより好ましい。
【0069】
また、反応場制御のために、pH調整剤や酸化剤・還元剤を水系材料に加えることもできる。
【0070】
pH調整剤としては、酸として塩酸、硝酸、酢酸、硫酸、炭酸、あるいはそのアンモニウム塩、アルカリとして水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、あるいはアンモニア等が挙げられる。
【0071】
酸化剤・還元剤としては、過酸化水素、酸素、硝酸、またギ酸、ヒドラジン、水素、アンモニア、エタノール、ホルムアルデヒド等が挙げられる。
【0072】
これらの物質は、単に、対象不純物の溶解度に関係するだけでなく、反応性物質として機能する。
【0073】
例えば、水系材料に炭酸あるいはCO2を共存させることで炭酸塩生成が生じ、さらにはシリカとの反応を介して、毒性のある不純物鉱物から無毒炭酸塩化鉱物あるいはタルク生成への変性が生じる場合もある。
【0074】
また、水系材料には、Mgイオンが加えられていることが好ましい。これにより、その後に行われる温水若しくは熱水処理又は水熱反応処理は、Mgイオン共存下で行われることになる。
【0075】
鉱物中に結晶性シリカ等が入っている場合、平衡論的にMgを共存させることで、マグネシウムシリケートの生成を促進させることもありうる。単純には、SiO2がMgと複合化する反応もある。しかし、実際には、シリカと、マグネシウムシリケートの溶解によりMgイオンとSiイオンが共存することになるが、マグネシウムイオンを供給すれば、そのシリカとマグネシウムシリケートの溶解平衡を、シリカの溶解を優勢に生じさせることもできる。そのため、水系材料には、Mgイオンが加えられていることが好ましい。
【0076】
[原料液]
本実施形態では、分散媒を用いて原料を分散した原料液を抽出手段10に仕込む。原料液の態様は、粉体として仕込むこともできるし、流動性流体として仕込むこともできる。流動性があれば特に限定されず、原料成分を含有する水溶液やスラリー、ペーストあるいは懸濁液等が挙げられる。
【0077】
なお、水スラリーを調製するのが難しい場合、原料をエタノール等の水系材料に分散してスラリーにすればよい。
【0078】
反応装置が半回分装置である場合、半回分装置に供給する水系溶媒の量は、原料としてのケイ酸塩鉱物に含まれる結晶質シリカを、反応場の共存イオンを含む反応溶液に飽和溶解する理論量の0.1倍以上であることが好ましく、0.3倍以上であることがより好ましく、0.5倍以上であることがさらに好ましく、0.8倍以上であることがよりさらに好ましい。あるいは、半回分装置に仕込む原料としてのケイ酸塩鉱物に含まれる結晶質シリカの量は、反応場の共存イオンを含む反応溶液に対して飽和溶解する理論量の10倍以下であることが好ましく、3.5倍以下であることがより好ましく、2倍以下であることがさらに好ましく、1.3倍以下であることがよりさらに好ましい。
【0079】
本明細書では、結晶質シリカの量が反応場の共存イオンを含む反応溶液に飽和溶解する理論量の0.1倍以上が好ましいとしている。単なる化学平衡論で述べるとなると、好適な結晶質シリカの量は、飽和溶解する水の理論量以上となり、自由度が狭い。しかしながら、本発明では、化学平衡論よりも反応速度論が支配しており、タルクよりもシリカの方が溶けやすい性質を利用している。例えば、アルカリを加えた場合や、Mgイオンを加えた場合、化学平衡が変わる。また、同時に結晶質シリカの溶解速度がタルク等他の鉱物のそれよりも高くなるため、半回分、流通装置での処理、あるいは短時間での回分処理の場合では、速度論的に優位となるため、結晶質シリカの量は、飽和溶解する水の理論量よりもより少なくて済む。そのため、結晶質シリカの量については、自由度が高く、理論量の0.1倍以上であれば足りる。
【0080】
抽出手段10が流通式装置である場合についても同様であり、流通式装置に供給するケイ酸塩鉱物水スラリーの濃度は、原料としての前記ケイ酸塩鉱物に含まれる結晶質シリカを、反応場の共存イオンを含む反応溶液に飽和溶解する理論量の0.1倍以上であることが好ましく、0.3倍以上であることがより好ましく、0.5倍以上であることがさらに好ましく、0.8倍以上であることがよりさらに好ましい。
【0081】
なお、本発明において、反応場の共存イオンを含む反応溶液に対して飽和溶解する理論量は、HKF(Helgeson Kirkham Flouer)モデルを用いて求めることができる。溶解度評価法については、既述した通りである。
【0082】
抽出手段に仕込む原料液のpHは、9.4以下である。pHが9.4を超えると、天然鉱物由来の含水ケイ酸マグネシウムを原料として水熱反応処理等しても、原料に含まれ得る結晶質シリカを十分に溶解しきれない可能性があるため、好ましくない。
【0083】
不純物をより好適に溶媒に溶解させるため、pHの上限は、7以下であることが好ましい。また、水系材料に炭酸あるいはCO2を共存させること不純物鉱物からタルク生成への変性を生じさせる観点から、pHは、6以下であることがより好ましく、5以下であることがさらに好ましい。
【0084】
pHの下限は、特に限定されないが、抽出手段10をはじめとした装置の腐食を抑える観点から、pHの下限は、1以上であることが好ましく、2以上であることがより好ましい。加えて、水系材料に炭酸あるいはCO2を共存させること不純物鉱物からタルク生成への変性を生じさせる観点から、pHは、3以上であることがより好ましく、4以上であることがさらに好ましい。
【0085】
酸又は塩基の共存下にするタイミングは特に限定されるものでなく、抽出手段10で原料液と水系材料とが接触するよりも前に酸又は塩基の共存下にあれば足りる。しかしながら、製造装置1の構成を簡略化するため、原料の調整段階で酸又は塩基を供給し、原料液を酸性又は塩基性の状態にすることが好ましい。
【0086】
必須ではないが、原料液は、脱気されたものであることが好ましい。原料の脱気装置として、例えば、超音波を用いる脱気装置、減圧を行う脱気装置、原料液中に希ガスを送り込む脱気装置、透過膜を用いる脱気装置等の既存技術の脱気装置、及びこれら既存技術の脱気装置を組み合わせた脱気装置等が挙げられる。原料液を脱気することにより、溶存酸素による抽出手段10及び冷却手段20の腐食を抑えられる。
【0087】
[水系材料の供給]
続いて、抽出手段10に連続的に供給する水系材料について説明する。
【0088】
水系材料の種類としては、先に分散媒として説明した材料が挙げられる。
【0089】
必須ではないが、水系材料は、脱気されたものであることが好ましい。水系材料の脱気装置として、先に原料の脱気装置として説明した装置が挙げられる。水系材料を脱気することにより、溶存ガスにより生じた気泡等が引き起こす水系材料の供給量の変動が抑えられる。また、溶存酸素による抽出手段10及び冷却手段20の腐食を抑えられる。また、溶存酸素は水熱処理反応場の酸化還元状態に影響を与えるし、CO2をはじめ水熱条件下で改質反応に強く影響を与えるガスの存在も制御性ある処理には重要な因子となる。
【0090】
水系材料は、加圧ポンプ等によって加圧された状態にある。水系材料を加圧し、さらに加熱することで水系材料を亜臨界状態にし、抽出手段10に水系材料を連続的に供給できる。
【0091】
加圧後の水系材料は、熱水あるいは亜臨界状態の水系材料であることが好ましい。水系材料が水である場合、亜臨界の水はシリカに対する溶解度が高い。したがって、加圧後液体状態の水(液相)、あるいは液相を主相として包含していることが好ましい。しかし、気相の水又は水蒸気(もしくはスチーム)と称される状態の水であっても、キャピラリー力によって、粒子間で凝縮相を形成し、液体の水と同様の発現する場合もあるため、これらの状態の水も含む。また水系材料が超臨界状態であると、高い溶解度を発現させるには、高密度が必要であり、そのための圧力は臨界圧以上さらに高い圧力とすることが必要であり、工業的大量生産には望ましくない。また、臨界前の状態である場合に比べて原料表面におけるヒドロキシ基の生成量が少なく、原料に含まれ得る結晶質シリカやアスベスト等の溶解に影響し得るためである。
【0092】
本発明による「温水条件、熱水条件又は水熱条件」は、70℃以上370℃以下の反応温度を有する液体の水共存条件として定義される。ただし、微粒子が対象となる場合、微粒子間のキャピラリー力による凝縮状態での反応・溶解作用もあることから、そのような特殊な場合には、供給系が気相の水蒸気(もしくはスチーム)と称される状態の水が共存する条件であってもよい。
【0093】
加圧後の水系材料の圧力は、飽和蒸気圧以上である。飽和蒸気圧未満であると、原料液と加圧された水系材料とを接触させても、原料に含まれ得る結晶質シリカやアスベスト等の不純物を十分に溶解あるいは反応改質除去しきれない可能性があるため、好ましくない。
【0094】
しかし、特殊な例として、粒子径が小さく粒子間にキャピラリー力が働き、飽和蒸気圧未満すなわち水蒸気(もしくはスチーム)と称される状態の水であっても、同様の溶解効果が発現する場合もある。
【0095】
原料に含まれ得る結晶質シリカやアスベスト等の不純物の除去をより好適に進められることから、加圧後の水系材料の圧力は、処理温度における飽和蒸気圧以上とすることが望ましいので、例えば、処理温度が120℃の場合、0.2MPa以上、170℃であれば0.8MPa以上である。低温ではより低く、高温ではより高くなり、臨界点374℃であれば、22.1MPa以上となる。加圧後の水系材料の圧力は、0.2MPa以上であることが好ましく、0.5MPa以上であることがより好ましく、1MPa以上であることがさらに好ましい。より低温、例えば70℃であっても、溶解度は低下するため、処理効率、処理速度は低下するが、原理的に同様の除去効果が期待される。その場合には、0.03MPaであり大気圧以下であるから、運転は常圧で行なっても温水処理を行うことができる。
【0096】
また、加圧後の水系材料の圧力は、超臨界域の場合には40MPa以下であり、20MPa以下であることがより好ましく、10MPa以下であることがさらに好ましい。しかし、基本的に飽和蒸気圧以上であれば液相を形成し、それ以上では圧力を上げても、水密度はほとんど変化せず、そのため溶解度の上昇は見込めない。そのため、飽和蒸気圧より数気圧高い程度であれば、十分な溶解効果が期待できる。逆に、水系材料の圧力が高すぎると、製造装置1の耐圧性を高めるためのコストが著しく増大し、抽出手段10の劣化も生じやすくなるため、好ましくない。
【0097】
水系材料を加熱する加熱装置の種類は、特に限定されない。加熱装置として、例えば、水系材料にマイクロ波を照射する加熱装置、ヒーター等の発熱体からの熱伝導によって水系材料を加熱する加熱装置等が挙げられる。加圧された水系材料を加熱することで、水系材料を亜臨界状態にできる。
【0098】
高温蒸気を利用できる場合もある。その蒸気を熱交換器し、あるいは上記の加熱装置と併用することで、加圧水を作ることもできる。処理温度よりも高温の不純物を含まない清浄な加熱水蒸気が入手可能な場合には、その蒸気を直接導入することも可能である。圧力制御弁により圧力を制御することで蒸気を液相とし、抽出用加熱水とすることができる。
【0099】
70℃以上であれば、原料に含まれる結晶質シリカの抽出が可能である。なお、70℃における水の飽和蒸気圧は、約0.03MPaであり、100℃における水の飽和蒸気圧は、約0.1MPaであり、120℃における水の飽和蒸気圧は、約0.2MPaであり、170℃における水の飽和蒸気圧は、約0.8MPaである。
【0100】
加熱後の水系材料の温度は、70℃以上である。70℃未満であると、原料液と加圧された水系材料とを接触させても、原料に含まれ得る結晶質シリカやアスベスト等の不純物を十分に溶解あるいは反応改質除去しきれない可能性があるため、好ましくない。
【0101】
原料に含まれ得る結晶質シリカやアスベスト等の不純物の溶解あるいは反応改質除去をより好適に進められることから、加熱後の水系材料の温度は、100℃以上であることが好ましく、120℃以上であることがより好ましく、150℃以上であることがさらに好ましい。
【0102】
また、加熱後の水系材料の温度は、370℃以下であり、300℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることがさらに好ましい。水系材料の温度が高すぎると、原料表面におけるヒドロキシ基の量がかえって少なくなるため、好ましくない。
【0103】
本実施形態によると、370℃以下(好ましくは300℃以下、より好ましくは250℃以下、さらに好ましくは200℃以下、特に好ましくは150℃以下)という低温の熱を利用して結晶質シリカあるいはアスベスト等の不純物を溶解・反応除去できるため、製造コスト面においてよりいっそう優れる。低温の熱として、熱源装置からの熱だけでなく、工場内での廃熱の再利用等も考えられる。
【0104】
[原料液と水系材料との接触]
抽出手段10に原料液を仕込み、その後、抽出手段10に水系材料を連続供給することで、原料液と水系材料とが接触する。原料液は、水系材料の保有する熱量で亜臨界温度に瞬時に加熱され、原料液と水系材料との反応が開始される。この反応により、原料に含まれ得る結晶質シリカやアスベスト等の水系材料への抽出反応あるいは改質反応が始まる。
【0105】
抽出手段10の形状は、結晶質シリカの水系材料への抽出条件である亜臨界状態を所定の時間維持するものであれば、特に限定されない。抽出手段10の形状として、例えば、加熱筒内部において複数回巻かれた螺旋管、溶融塩浴ジャケット、流動砂浴等の恒温層で覆われた反応器等が挙げられる。
【0106】
抽出手段10の形状を、加熱筒内部において複数回巻かれた螺旋管又は恒温層で覆われた反応器とすることにより、装置壁面を通した熱伝導による原料液と水系材料との混合物の温度変化や温度ムラを防いで、亜臨界状態での不純物抽出において必要とされる精密な温度制御を実現できる。
【0107】
抽出手段10の出口からは、結晶質シリカやアスベスト等の不純物を溶解した高温高圧流体が流出する。溶解度すなわち溶液濃度が低く、また比較的低温、低圧であるので、そのまま除去させることも可能である。抽出後、抽出手段10に不純物の除かれた天然鉱物由来の含水ケイ酸マグネシウムを含有する高温高圧流体が出される。
【0108】
結晶質シリカやアスベスト等の不純物を適切に除去する観点から、抽出手段10における水熱反応処理反応の時間は、1分以上であることが好ましく、5分以上であることがより好ましく、10分以上であることがさらに好ましい。
【0109】
一方で、生産効率の観点や、抽出手段10の劣化を抑える観点から、また、オストワルド熟成による不純物結晶成長の効果を低減させるため、水熱反応処理反応の時間は、10時間以下であることが好ましく、5時間以下であることがより好ましく、2時間以下であることがさらに好ましい。
【0110】
〔冷却手段20〕
冷却手段20を設けることは、必須ではない。冷却手段20は、必要に応じて設ければよい任意の構成である。比較的高温高圧、あるいは溶出濃度が高い場合には、圧力制御弁の前での冷却により、溶解させた不純物の再析出により、圧力制御弁の損傷を招くおそれがある。そのような場合、冷却部20を設置することで、溶解抽出された不純物成分を再析出除去することで、後段の圧力制御弁の負荷を下げることができる。
【0111】
冷却は、抽出手段10から供給される高温高圧流体と、加圧ポンプ等によって加圧された低温高圧の水系材料とを混合することによって行われる。高温高圧流体と低温高圧流体とを混合することにより、流体の状態変化に伴う熱量、すなわち蒸発潜熱に相当する熱量を、速やかに取り除き、安全かつ安定した運転を行える。さらに、この混合によって高温高圧流体を臨界温度以下となるまで冷却すれば、高温高圧流体が急速に冷却され、粒子を生成する反応をほぼ瞬時に停止できる。したがって、生成物である粒子を、ほぼ均一な粒径に揃えられる。
【0112】
低温で運転する場合には、そのような冷却法でよいが、比較的、高温で運転する場合には、エネルギー利用の観点から熱回収が求められる場合もある。その場合には、冷却管を入れ、間接冷却、すなわち熱交換を行い、回収した熱は、原料あるいは流通水の予熱に用いる。
【0113】
抽出槽10からの粒子の回収に関しては、容器に粉体を入れて仕込んだ場合には、そのまま回収する。スラリーで回収する場合には、製品粒子含有流体をフィルタを介して製品粒子と流体を分離する。フィルタの種類は、特に限定されないが、例えば、インラインフィルタが挙げられる。フィルタには、不純物が除去された天然鉱物由来の含水ケイ酸マグネシウムを捕集できる。
【0114】
半回分操作では、不純物は溶解除去されるため、抽出器10の冷却操作は重要ではない。しかし、本システムを回分操作で行う場合には、冷却により、溶解した不純物が製品であるケイ酸塩鉱物上に析出することとなる。その場合、冷却速度が遅いと、結晶性成分の再析出が生じる場合があるため、装置全体の冷却操作が重要となる。
【0115】
<ケイ酸塩鉱物>
製品として得られるケイ酸塩鉱物の平均粒子径は、100nm以上であることが好ましい。原料が天然鉱物である場合、ケイ酸塩鉱物は、天然鉱物を粉砕することで提供される。そのため、平均粒子径を100nm未満にすることは難しく、水熱反応処理後の製品についても、平均粒子径は、100nm以上となる。
【0116】
タルクの使用者の安全面の観点から、平均粒子径は、200nm以上であることがより好ましく、500nm以上であることがより好ましく、1μm以上であることがさらに好ましく、5μm以上であることが特に好ましい。
【0117】
一般に、天然タルク鉱物を利用する場合、粉砕処理を行い、それをフルイで分級することが多い。その場合にはさらに粒子径は数10μm以上と大きくなる。より微粒子の場合には気相分級法が用いられるが、その場合にも一般的には数μm程度、特殊な例としてサブμmの粒子回収もありうる。
【0118】
本発明において、平均粒子径は、JIS R1619に従って測定した遠心沈降法によるメディアン径D50をいうものとする。
【0119】
また、工業的製造の効率の観点から、ケイ酸塩鉱物の処理濃度の下限は、1重量%以上が好ましく、3重量%以上がより好ましい。ケイ酸塩鉱物の処理濃度の上限は、30重量%以下が好ましく、20重量%以下がより好ましい。中でも、ケイ酸塩鉱物中の不純物(結晶質シリカやアスベスト)濃度が相対的に高い場合であっても不純物を適切に処理できる点で、ケイ酸塩鉱物の処理濃度の上限は、10重量%以下であることがさらに好ましく、5重量%以下であることが特に好ましい。
【0120】
また、製品として得られるケイ酸塩鉱物における結晶質シリカの含有量は、0.1重量%以下であり、0.08重量%以下であることがより好ましく、0.05重量%以下であることがより好ましく、検出限界以下であることがさらに好ましい。
【0121】
また、製品として得られるケイ酸塩鉱物粉末におけるアスベストの含有量は、0.1重量%以下であり、0.08重量%以下であることがより好ましく、0.05重量%以下であることがより好ましく、検出限界以下であることがさらに好ましい。
【0122】
本実施形態において、結晶質シリカ及びアスベストの含有量は、X線回折装置を用いて求めるものとする。その際、X線回折装置の条件は、以下の通りとする。
管電圧:45kV
管電流:200mA
対陰極:Cu
単色化:グラファイトモノクロメーター
検出器:シンチレーションカウンターSC-70S
スリット系:受光スリットボックス1 1.000mm
受光スリットボックス2 1.125mm
入射スリットボックス 1.000mm
長手制限スリット 15mm
ゴニオメーター走査速度:毎分0.10°
チャートのフルスケール:回折線の強度測定はバックグランドを差し引いた正味のピーク面積を求める。記録チャートには回折線がピークとして確認できるような適切なフルスケールを選ぶ。
【0123】
X線回折装置は、例えば、SmartLab 9MTP(株式会社リガク製)であれば、この条件に設定することができる。
【0124】
結晶質シリカのうち、石英の含有量は、粉末X線回折において、回折角度(2θ)26.6°におけるピーク強度から、標準石英試料を用いて得られる検量線を用いて求めるものとする。また、クリストバライトの含有量は、粉末X線回折において、回折角度(2θ)22.0°におけるピーク強度から、標準クリストバライト試料を用いて得られる検量線を用いて求めるものとする。また、トリジマイトの含有量は、粉末X線回折において、回折角度(2θ)20.5°及び21.6°におけるピーク強度から、標準トリジマイト試料を用いて得られる検量線を用いて求めるものとする。
【0125】
アスベストのうち、トレモライトの含有量は、粉末X線回折において、回折角度(2θ)10.4°におけるピーク強度から、標準トレモタイト試料を用いて得られる検量線を用いて求めるものとする。また、クリソタイルの含有量は、粉末X線回折において、回折角度(2θ)12.1°と24.3°におけるピーク強度から、標準クリソタイル試料を用いて得られる検量線を用いて求めるものとする。
【0126】
その他は、石綿則に基づく事前調査のアスベスト分析マニュアル[1.20版],平成30年3月,厚生労働省,「8.4.3.1.タルク中の石綿含有率の分析方法」にしたがうものとする。
【0127】
一般に、微量成分の測定においては、その測定ピークがベースラインのノイズに隠れてしまう場合もあり、シグナル/ノイズ比を上げるため、積分時間を長時間とする必要がある。これにより、強力な線源を用いなくとも、通常のXRD解析装置で微量検出が原理的には可能となる。本実施形態に記載の発明においては、その点を十分に配慮した長時間測定を行ない、精密なベースライン評価に基づく検量線を作成した結果から解析を行っている。これにより、結晶性シリカ等あるいはアスベスト等を水系材料に溶解除去させ、アスベストの含有量を真に0.1重量%以下にすること、すなわち、基安化発第0828001号の別添に規定のとおり、普及型X線回折装置での判定結果によりつつ、精密な解析手法を駆使することで十二分な精度で、当該別添での安全基準に達していることを確認している。
【0128】
また、製品がケイ酸塩鉱物粉末であるか否かは、粉末X線回折における回折ピークから判別するものとする。例えば、製品が含水ケイ酸マグネシウム粉末(タルク粉末)であるか否かは、上述した精密な解析手法での粉末X線回折において、回折角度(2θ)が9.45°、18.97°、28.62°のところに回折ピークを有するか否かによって判別するものとする。
【0129】
また、以下の手法(シアーズ法)で必要となるNaOH水溶液(0.01M)の量は、180μl以上であることが好ましく、200μl以上であることがより好ましい。
(1)ケイ酸塩鉱物粉末0.1gを水10mlに分散する。
(2)NaClを2g加えた後、希塩酸(0.12M)でpHを4以下に調整する。
(3)NaOH水溶液(0.01M)を加えていき、pHを4にした後、そこからpH9になるまでのNaOH水溶液(0.01M)の必要量を測定する。
【0130】
天然タルクを水熱処理することにより表面のOH基量が増加する。また、OH基量は水熱温度の上昇に伴い増加する。水熱処理の有無は、濡れ性にも影響する。天然タルクを水熱処理することにより接触角が小さくなる。これは、濡れ性が良くなったこと、すなわち親水性が向上したことを意味する。これにより、ケイ酸塩鉱物を水熱処理することで、化粧品用極性溶媒との親和性が向上し、調合性が改善するといえる。
【0131】
本発明によって得られるケイ酸塩鉱物が含水ケイ酸マグネシウム粉末である場合、含水ケイ酸マグネシウム粉末は、プラスチック分野(充填材(剛性、耐熱性、寸法安定性の向上)、結晶核剤)、製紙分野(填料、ピッチコントロール剤、塗工剤)、塗料分野(体質顔料(粘度・光沢の調整)、粉体塗料)、電子部品分野(積層板、成形品、レジストインキ、接着剤)、セラミックス分野(陶磁器の釉薬、ハニカムセラミックス原料)、ゴム分野(充填材(耐熱性、補強性等の向上)、離型剤)、化粧品分野(ファンデーション、ボディーパウダー、ベビーパウダー、アイシャドウ、口紅)、衛生用品分野(ベビーパウダー;赤ちゃんのあせも・かぶれ等の防止)、医薬品分野(錠剤の賦形剤、滑沢剤、医療用ゴム手袋に付ける滑剤)、食品分野(ガムベース、製造助剤(くっつき防止))、農業分野(肥料の固結防止剤、農薬のキャリアー)等に応用可能である。特に、合成タルクに相当するレベルでの高い安全性を有することから、本発明によって得られる含水ケイ酸マグネシウム粉末は、化粧品分野、衛生用品分野、医薬品分野及び/又は食品分野に応用されることが好ましい。
【0132】
例えば、化粧品分野に応用される場合、化粧品組成物は、本発明のケイ酸塩鉱物のほか、必要に応じて、着色剤、体質顔料、光輝剤、油性成分、保湿剤、界面活性剤、増粘剤、防腐剤、紫外線散乱剤、酸化防止剤、及びキレート剤等に例示される各種成分を含んでもよい。
【0133】
着色剤としては、例えば、無機顔料、有機顔料、染料、天然色素等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0134】
体質顔料としては、例えば、シリカ、マイカ、合成フルオロフロゴパイト、ガラス末、硫酸バリウム、カオリン、ベントナイト、ヘクトライト、ゼオライト、オキシ塩化ビスマス、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、硫酸カルシウム、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、及びタルク等の無機粉体が挙げられるが、これらに限定されない。更には、ナイロン、ポリエチレン、(ビニルジメチコン/メチコンシルセスキオキサン)クロスポリマー等のシリコーンエラストマー、ポリメタクリル酸メチル、ラウロイルリシン、シルクパウダー、セルロース末、長鎖脂肪酸の多価金属塩等の分散剤、及び各種ワックスパウダー等の有機粉末等が挙げられるが、これらに限定されない。"
【0135】
光輝剤としては、例えば、マイカ、合成フルオロフロゴパイト、ガラス、シリカ、アルミナ等の板状粉体等の表面を酸化チタン、酸化鉄、酸化ケイ素、紺青、酸化クロム、酸化スズ、水酸化クロム、金、銀、カルミン、赤色202号や黄色4号等の有機顔料等の着色剤で被覆したもの、及びポリエチレンテレフタレート・ポリメチルメタクリレート積層末、ポリエチレンテレフタレート・アルミニウム蒸着末、ポリエチレンテレフタレート・金蒸着積層末等のフィルム原反を任意形状に断裁したもの等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0136】
油性成分としては、例えば、炭化水素油、エステル油、ロウ、高級アルコール、及び、動植物油等を使用することができる。炭化水素油としては、スクワラン、ドデカン、テトラデカン、ヘキサデカン等、エステル油としては、マカデミアナッツ脂肪酸フィトステリル、ミリスチン酸オクチルドデシル、トリ(カプリル・カプリン酸)グリセリル、ステアリン酸ステアリル、イソステアリン酸メチルヘプチル、ラウリン酸ヘキシル、ラウリン酸イソアシル、(カプリン酸/カプリン酸)ヤシアルキル、ミリスチン酸イソセチル、イソステアリン酸イソステアリル等、ロウとしては、ミツロウ、モクロウ、カルナウバロウ、コメヌカロウ、ヒマワリ種子ロウ、キャンデリラロウ、ゲイロウ、モンタンロウ等、高級アルコール(炭素数6以上の1価アルコール)としては、セチルアルコール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、ラウリルアルコール、ベヘニルアルコール等、動植物油としては、アボカド油、アマニ油、アーモンド油、オリーブ油、カカオ油、ゴマ油、小麦胚芽油、サフラワー油、ホホバ油、マカデミアナッツ脂肪酸フィトステリル、シアバター、タートル油、椿油、パーシック油、ヒマシ油、ブドウ油、マカデミアナッツ油、ヤシ油、ローズヒップ油、ダイズ油、卵黄油、硬化ヒマシ油、硬化ヤシ油、硬化カカオ油、硬化タートル油、硬化ミンク油、牛油、ミンク油、ラノリン(羊毛脂)及びこれらの成分から抽出される油性成分が挙げられるが、これらに限定されない。
【0137】
保湿剤としては、例えば、グリセリン、1、3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ジグリセリントレハロースのような多価アルコール;ヒアルロン酸ナトリウム、ヘパリン類似物質、コンドロイチン硫酸ナトリウム、コラーゲン、エラスチン、ケラチン、キチン、キトサンのような高分子化合物;グリシン、アスパラギン酸、アルギニンのようなアミノ酸;乳酸ナトリウム、尿素、ピロリドンカルボン酸ナトリウムのような天然保湿因子;セラミド、コレステロール、リン脂質のような脂質;カミツレエキス、ハマメリスエキス、チャエキス、シソエキスのような植物抽出エキス等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0138】
界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤を使用することができる。例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、モノセチルグリセリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のポリオキシエチレンアルキルエーテル;ポリオキシアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンラノリン等のポリオキシエチレン誘導体;ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレート、ソルビタンセスキオレエート、ソルビタンモノステアレート等のソルビタン脂肪酸エステル;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート等のポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル;テトラオレイン酸ポリオキシエチレンソルビット等のポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル;ポリエチレングリコールモノラウレート、ポリエチレングリコールモノオレート等のポリエチレングリコール脂肪酸エステル;イソステアリルグリセリルエーテル等のアルキルグリセリルエーテル;モノベヘン酸グリセリル等のグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる1種又は2種以上が挙げられる。脂肪酸モノカルボン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸塩、アルキルスルホカルボン酸塩、α-オレフィンスルホン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルサルフェート、アルキルリン酸塩、ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸エステル、ステアロイルメチルタウリン及びその塩等のアニオン活性剤;脂肪酸アミドプロピルベタイン、アルキルイミダゾリウムベタイン、アルキルジメチルアミノ酢酸ベタイン、アルキルジメチルスルホベタイン、アルキルジメチルアミンオキサイド、アルキルヒドロキシスルホベタイン等の両性界面活性剤から選ばれる1種又は2種以上が挙げられるが、これらに限定されない。
【0139】
増粘剤としては、例えば、グアーガム、ローカストビーンガム、カラギーナン、キサンタンガム、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、疎水化ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アクリル酸メタクリル酸アルキル共重合体、ポリエチレングリコール、ベントナイト、(アクリル酸ヒドロキシエチル/アクリロイルジメチルタウリンナトリウム)コポリマー、(アクリロイルジメチルタウリンアンモニウム/ビニルピロリドン)コポリマー等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0140】
防腐剤としては、例えば、安息香酸、安息香酸ナトリウム、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、パラオキシ安息香酸イソブチル、パラオキシ安息香酸イソプロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ベンジル、パラオキシ安息香酸メチル、フェノキシエタノール、クロロブタノール、クロルヘキシジン、サリチル酸、塩化ベンザルコニウム、臭化セチルトリメチルアンモニウム、アクリノール、塩化ベンゼトニウム、クレゾール、グルコン酸およびその誘導体、ポピドンヨード、ヨウ化カリウム、ヨウ素、イソプロピルメチルフェノール、トリクロカルバン、トリクロサン、感光素101号、感光素201号、パラベン、フェノキシエタノール、1,2-ペンタンジオール、塩酸アルキルジアミノグリシン、ピロクトンオラミン、ミコナゾール等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0141】
紫外線吸収剤としては、例えば、パラアミノ安息香酸、グリセリルパラアミノ安息香酸、エチルジヒドロキシプロピルパラアミノ安息香酸、オクチルジメチルパラアミノ安息香酸、パラジメチルアミノ安息香酸アミル、ジエチルアミノヒドロキシベンゾイル安息香酸ヘキシル、アントラニル酸メチル、サリチル酸ホモメンチル、サリチル酸2-エチルヘキシル、サリチル酸トリエタノールアミン、パラメトキシケイ皮酸2-エチルヘキシル、ジパラメトキシケイ皮酸モノ2-エチルヘキサン酸グリセリル、2,5-ジイソプロピルケイ皮酸メチル、トリメトキシケイ皮酸メチルビス(トリメチルシロキシ)シリルイソペンチル、パラメトキシケイ皮酸イソプロピル、パラメトキシケイ皮酸イソプロピル・ジイソプロピルケイ皮酸エステル混合物、パラメトキシケイ皮酸2-エトキシエチル、パラメトキシケイ皮酸ジエタノールアミン塩、4-イソプロピルジベンゾイルメタン、4-tert-ブチル-4'-メトキシジベンゾイルメタン、2,4,6-トリス[4-(2-エチルへキシルオキシカルボニル)アニリノ]-1,3,5-トリアジン、2,4-ビス-[{4-(2-エチルへキシルオキシ)-2-ヒドロキシ}-フェニル]-6-(4-メトキシフェニル)-1,3,5-トリアジン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2,2'-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2'-ジヒドロキシ-4,4'-ジメトキシベンゾフェノン、2,2'4,4'-テトラヒドロキシベンゾフェノン、4-(2-β-グルコピラノシロキシ)プロポキシ-2-ヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n-オクチルオキシベンゾフェノン、ジメトキシベンジリデンジオキソイミダゾリジンプロピオン酸2-エチルヘキシル、オクトクリレン、シノキサート、フェニルベンズイミダゾールスルホン酸、1-(3,4-ジメトキシフェニル)-4,4-ジメチル-1,3-ペンタンジオン、3-(4-メチルベンジリデン)カンファー、メチレンビスベンゾトリアゾリルテトラメチルブチルフェノール等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0142】
紫外線散乱剤としては、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウム等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0143】
酸化防止剤としては、例えば、天然ビタミンE、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、ブチルヒドロキシアニソール、ソルビン酸、亜硫酸ナトリウム、アスコルビン酸、エリソルビン酸、L-システイン塩酸塩等が挙げられるが、これらに限定されない。
pH調整剤としては、無機酸(塩酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸、ホウ酸等)、有機酸(乳酸、酢酸、クエン酸、クエン酸ナトリウム、酒石酸、リンゴ酸、コハク酸、コハク酸ナトリウム、シュウ酸、グルコン酸、フマル酸、プロピオン酸、酢酸、アスパラギン酸、ε-アミノカプロン酸、グルタミン酸、アミノエチルスルホン酸等)、グルコノラクトン、酢酸アンモニウム、無機塩基(炭酸水素ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化マグネシウム等)、有機塩基(モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン、リジン等)等を挙げられるが、これらに限定されない。
【0144】
キレート剤としては、エチレンジアミン4酢酸(エデト酸)、エチレンジアミン4酢酸塩(ナトリウム塩(エデト酸ナトリウム:日本薬局方、EDTA-2Na等)、カリウム塩等)、フィチン酸、グルコン酸、ポリリン酸、メタリン酸等を挙げられるが、これらに限定されない。
【0145】
上述した着色剤や体質顔料は必要に応じて表面処理剤で表面を処理したものを使用できる。表面処理剤としては、例えば、フッ素化合物処理、シリコーン処理、シリコーン樹脂処理、ペンダント処理、シランカップリング剤処理、チタンカップリング剤処理、油剤処理、金属石鹸処理、N-アシル化リジン処理、ポリエチレングリコール処理、PVA処理、ポリアクリル酸処理、ヒアルロン酸処理、アルギン酸処理、無機化合物処理、ウレタン架橋ポリマー処理、プラズマ処理、メカノケミカル処理等によって事前に表面処理を行うことができるが、これらに限定されない。中でも金属石処理、ウレタン架橋ポリマー処理が好ましく、金属石鹸処理としてはジミリスチン酸アルミニウム処理、ステアリン酸アルミニウム処理、ジステアリン酸アルミニウム処理等が、ウレタン架橋ポリマー処理としては、(HDI/トリメチロールヘキシルラクトン)クロスポリマー処理が好適に使用できる。
【0146】
また、これまで、地底での鉱物の生成は、その温度圧力による析出であり、鉱物の採掘される場所によって析出物組成は異なる。上記の不純物をほとんど含まない部分を精査、選択して用いることが、唯一の解決策とされてきた。しかしながら、本発明によると、規定値を超えて不純物を含有する原料であっても、不純物含有量を規定値未満にすることができる可能性があり、その点において、本発明は、ケイ酸塩鉱物の加工会社、販売会社にとっても大きな利点を有する。
【0147】
本発明において、「ケイ酸塩鉱物が含まれる・・・品」とは、ケイ酸塩鉱物が組成物中に含まれる場合と、ケイ酸塩鉱物を物品に付着させる場合との両方を含む意味である。例えば、「ケイ酸塩鉱物が含まれる医薬品」とは、ケイ酸塩鉱物粉末が錠剤の賦形剤や滑沢剤として医薬品組成物中に含まれる場合と、ケイ酸塩鉱物粉末を医療用ゴム手袋に付着させる場合との両方を含む意味である。
【実施例】
【0148】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0149】
【0150】
【0151】
<試験例1> 石英を含有する天然タルクの水熱反応処理
〔天然タルクの水熱反応処理〕
バッチ式試験機(装置名:振盪式リアクター加熱撹拌装置,株式会社AKICO製)を用いて試験を行った。5mlのインコネル製容器に、平均粒子径が5μmであり、不純物として石英を含有する天然タルク0.45g(濃度:10重量%)とH2O4mlを加えて良く混ぜた後、バッチ式試験機にて表2に記載の条件で10分間水熱反応処理した。冷却後、よく水洗浄することで加工タルクを得た。
【0152】
〔評価〕
水熱反応処理後の加工タルクを指で触れたところ、水熱反応処理前の天然タルクと同様の滑らかさであった。
水熱反応処理後の加工タルクについて、平均粒子径を測定した。その結果、いずれの実施例においても平均粒子径が5μmであった。
【0153】
また、水熱反応処理前の天然タルクと、水熱反応処理後の加工タルクのそれぞれについて、粉末X線回折を行った。
図2は、水熱反応処理前の天然タルクの結果であり、
図3は、実施例1-1に係る水熱反応処理後の加工タルクの結果である。また、表3は、各実施例・比較例における水熱反応処理前後での不純物の含有量変化である。
図2及び
図3のいずれにおいても、粉末X線回折において、回折角度(2θ)が9.45°、18.97°、28.62°のところに回折ピークを有する。そのため、水熱反応処理後の物質がタルクであることを意味する。
【0154】
一方で、2θ=26.6°付近において、水熱反応処理前においては石英(結晶質シリカ)由来のピークが表れており、標準石英試料を用いて得られた検量線から、水熱反応処理前のタルクには石英が0.11重量%含まれているのに対し、水熱反応処理後においても変質はなく、一方、石英由来のピークが消失している。すなわち、実施例1-1において、石英を十分に除去できることが確認された。
【0155】
同様に、実施例1-2~1-13においても、天然タルクから石英を十分に除去できることが確認された。特に、実施例1-10~1-13では、不純物含有量が相対的に高い天然タルクであっても、天然タルクから石英を十分に除去できることが確認された。また、実施例1-6と1-7では、水熱反応処理での天然タルク濃度を相対的に高くしても、天然タルクから石英を十分に除去できることが確認された。
【0156】
<試験例2> 石英を含有する天然タルクの水熱反応処理(pH依存性)
硝酸及び水酸化ナトリウムを用いることで、水熱時のpHを1.4(実施例2-1)、2.5(実施例2-2)、6.4(実施例2-3)及び12.0(比較例2)に調整したこと以外は、実施例1-1と同じ手法にて加工タルクを得た。
【0157】
XRDによる評価の結果、pH1.4、2.5及び6.4で水熱時に得られた生成物においては石英由来のピークの減少・消失を確認できた。一方、pH12.0で水熱時に得られた生成物においては石英由来のピークが残っていることが確認された。実施例1-1においてはpHが9.4であったため、それ以下のpHでは石英を除去することができ、逆にpHが高すぎると石英を除去できないことが確認された。
【0158】
なお、pH1.4、2.5及び6.4で得られた生成物について、一次粒子の平均粒子径を測定したところ、いずれも5μmであった。
【0159】
<試験例3> 石英を含有する天然タルクの水熱反応処理(Mgイオンの添加)
インコネル製容器に天然タルク0.06g(濃度:1.5重量%)とMgCl2:3mg(濃度0.075重量%)とH2O4mlとを加え、水熱反応時間を240分とすること以外は、実施例1-1と同じ手法にて加工タルクを得た。
【0160】
XRDによる評価の結果、石英由来のピークの減少が確認できた。実施例1-5と同じ不純物含有量が相対的に高い天然タルクであっても、水熱反応温度が150℃でも同量の石英を減少できた。
【0161】
<試験例4>石英とは異なる不純物を含有する天然タルクの水熱反応処理
〔実施例4-1〕 クリストバライトを含有する天然タルクの水熱反応処理
原料として、結晶質シリカの一種であるクリストバライトを0.12重量%含有する天然タルクを用いたこと以外は、実施例1-1と同じ手法にて加工タルクを得た。
【0162】
XRDによる評価の結果、クリストバライトに由来する回折角度(2θ)22.0°のピークが消失したため、水熱反応処理によりクリストバライトの含有量を0.1重量%以下に削減できることが確認された。
【0163】
〔実施例4-2〕 トリジマイトを含有する天然タルクの水熱反応処理
原料として、結晶質シリカの一種であるトリジマイトを0.12重量%含む天然タルクを用いたこと以外は実施例1-1と同じ手法にて加工タルクを得た。
【0164】
XRDによる評価の結果、トリジマイトに由来する回折角度(2θ)20.5°及び21.6°のピークが消失したため、水熱処理によりトリジマイトの含有量を0.1重量%以下に削減できることが確認された。
【0165】
〔実施例4-3~4-5〕 クリソタイルを含有する天然タルクの水熱反応処理
クリソタイルを0.15重量%含有する天然タルクを用いて、250℃で10分間、40分間、120分間水熱処理をしたこと以外は、実施例1-1と同じ手法にて加工タルクを得た。
【0166】
XRDによる評価の結果、クリソタイルの含有量は0.075重量%(処理時間10分間)、0.03重量%(処理時間40分間)、検出限界以下(処理時間120分間)であり、水熱反応処理によりクリソタイルの含有量を0.1重量%以下に削減できることが確認された。
【0167】
一般に、クリソタイルは安定な物質であるが、水熱条件下では、通常の鉱物と比較して、針状の鉱物の先端から溶解が進行しやすい。しかし、仮に溶解するとしても、タルクの溶解も進む可能性があるから、重要なことは、その溶解速度、溶解量とタルクの溶解量の比とともに、結果として残存している量である。大量のケイ酸塩鉱物の溶解速度、溶解量を考えると、仮に同量溶解したとしても、最終的にケイ酸マグネシウムのみを残すことが可能となる。本結果は、クリソタイルの十分な溶解除去効果がみられることを示しており、タルクからのアスベスト成分除去が可能であることを示している。
【0168】
<試験例5> 天然タルクとは異なるケイ酸塩鉱物の水熱反応処理
〔実施例5-1〕 石英を含有するケイ酸アルミニウムマグネシウムの水熱反応処理
原料として、石英を0.12重量%含むケイ酸アルミニウムマグネシウムを用いたこと以外は実施例1-1と同じ手法にて加工鉱物を得た。
【0169】
XRDによる評価の結果、石英由来の回折ピークが減少したため、水熱処理により石英の含有量を0.04重量%に削減できることが確認された。
【0170】
〔実施例5-2〕 石英を含有するケイ酸カルシウムの水熱反応処理
原料として、石英を0.12重量%含むケイ酸カルシウムを用いたこと以外は実施例1-1と同じ手法にて加工鉱物を得た。
【0171】
XRDによる評価の結果、石英由来の回折ピークが減少したため、水熱処理により石英の含有量を0.04重量%に削減できることが確認された。
【0172】
〔実施例5-3~5-4〕 石英を含有するケイ酸マグネシウムの水熱反応処理
原料として、石英を0.12重量%含むケイ酸マグネシウムを用いたこと以外は実施例1-1と同じ手法にて加工鉱物を得た(処理時間は10分間と40分間)。
【0173】
XRDによる評価の結果、石英由来の回折ピークが消失したため、水熱処理により石英の含有量を0.01重量%(処理時間10分間)と検出限界以下(処理時間120分間)に削減できることが確認された。
【0174】
<試験例6> 水熱処理温度とタルク表面のOH基量及び濡れ性との関係
【表4】
【表5】
【0175】
表4に記載の条件であること以外は、実施例1-1と同じ手法にて加工鉱物を得た。
【0176】
〔タルク表面にあるOH基の量〕
シアーズ法を用いてタルク表面にあるOH基の量を評価した。具体的に、次の手順で行った。
(1)加工鉱物0.1gを水10mlに分散した。
(2)NaClを2g加えた後、希塩酸(0.12M)でpHを4以下に調整した。
(3)NaOH水溶液(0.01M)を加えていき、pHを4にした後、そこからpH9になるまでの必要量を調べた。
【0177】
結果を表5に示す。天然タルクを水熱処理することにより表面のOH基量が増加すること、及びOH基量は水熱温度の上昇に伴い増加することが確認された。
【0178】
〔濡れ性〕
実施例6-2及び比較例6のそれぞれについて、タルクをX線回折用試料ホルダーに均一担持した。その後、水を一滴(10μl)滴下し、接触角を観察した。
【0179】
結果を表5に示す。天然タルクを水熱処理することにより接触角が少し小さくなった。これは、濡れ性が良くなったこと、すなわち親水性が向上したことを意味する。これにより、ケイ酸塩鉱物を水熱処理することで、化粧品用極性溶媒との親和性が向上し、調合性が改善するといえる。
【0180】
<試験例7> メイクアップ化粧料への応用
〔試験例7-1〕 パウダーファンデーションへの応用
表6に示す配合処方によりパウダーファンデーションを調製した。実施例7-1では、タルクとして実施例1-1で得られた水熱処理タルクを用いた。比較例7-1では、タルクとして実施例1-1による水熱処理を行う前の天然タルクを用いた。
【表6】
(※)実施例7-1:タルク=実施例1-1で得られた水熱処理タルク
比較例7-1:タルク=実施例1-1による水熱処理を行う前の天然タルク
【0181】
得られたパウダーファンデーションについて、スラリー状態、硬度、落下強度、取れ量を評価した。その結果、水熱処理されたタルクを用いたパウダーファンデーションは、水熱未処理の天然タルクを用いたパウダーファンデーションと同等の品質を有することが確認された。
【0182】
〔試験例7-2〕 ルースパウダーへの応用
表7に示す配合処方によりルースパウダーを調製した。実施例7-2では、タルクとして実施例7-1で得られた水熱処理タルクを用いた。比較例7-2では、タルクとして実施例1-1による水熱処理を行う前の天然タルクを用いた。
【表7】
(※)実施例7-2:タルク=実施例1-1で得られた水熱処理タルク
比較例7-2:タルク=実施例1-1による水熱処理を行う前の天然タルク
【0183】
得られたルースパウダーについて、スラリー状態、硬度、落下強度、取れ量を評価した。その結果、水熱処理されたタルクを用いたルースパウダーは、水熱未処理の天然タルクを用いたルースパウダーと同等の品質を有することが確認された。
【0184】
〔試験例7-3〕 アイブローへの応用
表8に示す配合処方により2種類のアイブローを調製した。実施例7-3-1及び7-3-2では、タルクとして実施例1-1で得られた水熱処理タルクを用いた。比較例7-3-1及び7-3-2では、タルクとして実施例1-1による水熱処理を行う前の天然タルクを用いた。
【表8】
(※)実施例7-3-1:タルク=実施例1-1で得られた水熱処理タルク
配合処方=試験例7-3-1に記載のもの
実施例7-3-2:タルク=実施例1-1で得られた水熱処理タルク
配合処方=試験例7-3-2に記載のもの
比較例7-3-1:タルク=実施例1-1による水熱処理を行う前の天然タルク
配合処方=試験例7-3-1に記載のもの
比較例7-3-2:タルク=実施例1-1による水熱処理を行う前の天然タルク
配合処方=試験例7-3-2に記載のもの
【0185】
得られたアイブローについて、スラリー状態、落下強度を評価した。その結果、水熱処理されたタルクを用いたアイブローは、水熱未処理の天然タルクを用いたアイブローと同等の品質を有することが確認された。
【0186】
<試験例8> スキンケア化粧料への応用
〔試験例8-1〕 夏用ボディ用ローションへの応用
表9に示す配合処方により夏用ボディ用ローションを調製した。実施例8-1では、タルクとして実施例1-1で得られた水熱処理タルクを用いた。比較例8-1では、タルクとして実施例1-1による水熱処理を行う前の天然タルクを用いた。
【表9】
(※)実施例8-1:タルク=実施例1-1で得られた水熱処理タルク
比較例8-1:タルク=実施例1-1による水熱処理を行う前の天然タルク
【0187】
得られた夏用ボディ用ローションについて、スラリー状態を評価した。その結果、水熱処理されたタルクを用いた夏用ボディ用ローションは、水熱未処理の天然タルクを用いた夏用ボディ用ローションと同等の品質を有することが確認された。
【0188】
〔試験例8-2〕 毛穴隠しローションへの応用
表10に示す配合処方により毛穴隠しローションを調製した。実施例8-2では、タルクとして実施例1-1で得られた水熱処理タルクを用いた。比較例8-2では、タルクとして実施例1-1による水熱処理を行う前の天然タルクを用いた。
【表10】
(※)実施例8-2:タルク=実施例1-1で得られた水熱処理タルク
比較例8-2:タルク=実施例1-1による水熱処理を行う前の天然タルク
【0189】
得られた毛穴隠しローションについて、スラリー状態を評価した。その結果、水熱処理されたタルクを用いた毛穴隠しローションは、水熱未処理の天然タルクを用いた毛穴隠しローションと同等の品質を有することが確認された。
【0190】
〔試験例8-3〕 パウダー洗顔料への応用
表11に示す配合処方によりパウダー洗顔料を調製した。実施例8-3では、タルクとして実施例1-1で得られた水熱処理タルクを用いた。比較例8-3では、タルクとして実施例1-1による水熱処理を行う前の天然タルクを用いた。
【表11】
(※)実施例8-3:タルク=実施例1-1で得られた水熱処理タルク
比較例8-3:タルク=実施例1-1による水熱処理を行う前の天然タルク
【0191】
得られたパウダー洗顔料について、スラリー状態を評価した。その結果、水熱処理されたタルクを用いたパウダー洗顔料は、水熱未処理の天然タルクを用いたパウダー洗顔料と同等の品質を有することが確認された。
【符号の説明】
【0192】
1 製造装置
10 抽出手段
20 冷却手段
【要約】
【課題】数100nmよりも大きな平均粒子径を有するケイ酸塩鉱物を、結晶質シリカ等の不純物を含むことなく提供可能にする。
【解決手段】本発明のケイ酸塩鉱物は、結晶質シリカ及びアスベストの含有量がいずれも0.1重量%以下である。当該鉱物は、炭酸塩を含有することが好ましく、100nm以上の平均粒子径を有することが好ましい。また、前記鉱物は、化粧品、衛生用品、医薬品及び食品において好適に用いられる。本発明のケイ酸塩鉱物は、天然のケイ酸塩鉱物をpH9.4以下で温水若しくは熱水処理又は水熱反応処理することで得られる。
【選択図】
図3