(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-22
(45)【発行日】2025-05-30
(54)【発明の名称】タイヤ試験方法
(51)【国際特許分類】
G01M 17/02 20060101AFI20250523BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20250523BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 H
(21)【出願番号】P 2021108032
(22)【出願日】2021-06-29
【審査請求日】2024-04-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000003148
【氏名又は名称】TOYO TIRE株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】産屋敷 隆道
(72)【発明者】
【氏名】坂本 正典
【審査官】中村 圭伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-017913(JP,A)
【文献】特開2018-004577(JP,A)
【文献】特開平04-104034(JP,A)
【文献】特開2004-340860(JP,A)
【文献】米国特許第09683917(US,B2)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0082345(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 19/00 - 19/12
G01M 17/00 - 17/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転動するタイヤのサイドウォールで突起を乗り越すタイヤ試験方法において、
試験機の支持軸に取り付けられた前記タイヤを台上で転動させて前記台上に設けられた前記突起を前記タイヤで乗り越してデータを取得する乗り越し工程を含
み、
前記タイヤの進行方向、前記タイヤの軸方向、並びに前記進行方向及び前記軸方向に直交する方向の3方向の、前記タイヤの回転軸に発生する力の時系列変化を測定し、
前記3方向のいずれかの方向の前記力が最大となるタイミングが特定され、前記3方向のそれぞれについて、前記タイミングにおける前記力と、前記タイヤが前記突起に乗る前の時間帯の前記力との差を前記タイミングにおける差分として求め、
前記3方向の前記タイミングにおける前記差分から合力を求めることを特徴とする、タイヤ試験方法。
【請求項2】
転動するタイヤのサイドウォールで突起を乗り越すタイヤ試験方法において、
試験機の支持軸に取り付けられた前記タイヤを台上で転動させて前記台上に設けられた前記突起を前記タイヤで乗り越してデータを取得する乗り越し工程を含み、
前記タイヤの進行方向、前記タイヤの軸方向、並びに前記進行方向及び前記軸方向に直交する方向の3方向の、前記タイヤの回転軸に発生する力の時系列変化を測定し、
前記3方向のそれぞれについて、前記タイヤが前記突起に乗っているときの力と、前記タイヤが前記突起に乗る前の時間帯の前記力との差の時系列変化又は移動距離による変化を、差分の時系列変化又は移動距離による変化として求め、
前記3方向の前記差分の時系列変化又は移動距離による変化から、合力の時系列変化又は移動距離による変化を求め、
前記タイヤが前記突起を乗り越し始めた時点から前記合力が最大となる時点までの前記合力の前記時系列変化又は移動距離による変化に基づきエネルギーを求めることを特徴とする、タイヤ試験方法。
【請求項3】
転動するタイヤのサイドウォールで突起を乗り越すタイヤ試験方法において、
試験機の支持軸に取り付けられた前記タイヤを台上で転動させて前記台上に設けられた前記突起を前記タイヤで乗り越してデータを取得する乗り越し工程を含み、
前記突起の高さを低い方から高い方へ変更しながら前記乗り越し工程を複数回実行し、前記タイヤが損傷したときの前記突起の高さを特定することを特徴とする、タイヤ試験方法。
【請求項4】
前記タイヤを前記突起の場所に配置して、前記タイヤにおける前記突起を乗り越す予定の部分と、前記突起とのタイヤ周方向の位置を合わせる位置合わせ工程と、
前記突起の場所から前記台の長手方向の一方の場所である試験開始位置へ前記タイヤを転動させて移動させる移動工程と、を含み、
前記乗り越し工程において、前記試験開始位置から前記タイヤを転動させ始めて前記突起を乗り越す、請求項1
~3のいずれか1項に記載のタイヤ試験方法。
【請求項5】
前記タイヤが、リムフランジを有するホイールに取り付けられ、
前記タイヤにおける、前記タイヤと前記リムフランジとの接触部よりもタイヤ軸方向外側の部分で前記突起を乗り越す、請求項1
~4のいずれか1項に記載のタイヤ試験方法。
【請求項6】
前記タイヤと一体となって移動するカメラで前記突起を乗り越すときの前記タイヤを撮影する、請求項1~
5のいずれか1項に記載のタイヤ試験方法。
【請求項7】
タイヤを転動させる支持軸と、前記タイヤが転動する台と、前記タイヤの転動中のデータを収集する測定器とを有し、前記支持軸に取り付けられた前記タイヤを前記台上で転動させて前記測定器によりデータを取得するタイヤ試験機において、
前記台上に突起が設けられ、前記タイヤの転動中に、前記タイヤのサイドウォールが前記突起を乗り越すように制御され、
前記測定器は、前記タイヤの進行方向、前記タイヤの軸方向、並びに前記進行方向及び前記軸方向に直交する方向の3方向の、前記タイヤの回転軸に発生する力の時系列変化を測定する測定器であり、
処理部が、前記3方向のいずれかの方向の前記力が最大となるタイミングを特定し、前記3方向のそれぞれについて、前記タイミングにおける前記力と、前記タイヤが前記突起に乗る前の時間帯の前記力との差を前記タイミングにおける差分として求め、
前記処理部が、前記3方向の前記タイミングにおける前記差分から合力を求めることを特徴とする、タイヤ試験機。
【請求項8】
タイヤを転動させる支持軸と、前記タイヤが転動する台と、前記タイヤの転動中のデータを収集する測定器とを有し、前記支持軸に取り付けられた前記タイヤを前記台上で転動させて前記測定器によりデータを取得するタイヤ試験機において、
前記台上に突起が設けられ、前記タイヤの転動中に、前記タイヤのサイドウォールが前記突起を乗り越すように制御され、
前記測定器は、前記タイヤの進行方向、前記タイヤの軸方向、並びに前記進行方向及び前記軸方向に直交する方向の3方向の、前記タイヤの回転軸に発生する力の時系列変化を測定する測定器であり、
処理部が、前記3方向のそれぞれについて、前記タイヤが前記突起に乗っているときの力と、前記タイヤが前記突起に乗る前の時間帯の前記力との差の時系列変化又は移動距離による変化を、差分の時系列変化又は移動距離による変化として求め、
前記処理部が、前記3方向の前記差分の時系列変化又は移動距離による変化から、合力の時系列変化又は移動距離による変化を求め、
前記処理部が、前記タイヤが前記突起を乗り越し始めた時点から前記合力が最大となる時点までの前記合力の前記時系列変化又は移動距離による変化に基づきエネルギーを求めることを特徴とする、タイヤ試験機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタイヤ試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤ(以下「タイヤ」とする)では、サイドウォールが起点となってバーストが起こる事例が少ない。そのため、従来はサイドウォールの耐カット性を評価する必要性が低く、その評価をするための試験方法が確立されていなかった。しかし近年、レース用タイヤをはじめとする一部のタイヤに関しては、サイドウォールの耐カット性を評価するニーズが生じている。
【0003】
過去に提案されたサイドウォールの試験方法としては、タイヤを取り付けた実車を走行させ、そのタイヤのトレッドのショルダー付近の部分で路面上の突起を乗り越えてサイドウォールを損傷させる方法がある(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、タイヤの周方向の特定の位置のサイドウォールの耐カット性を評価したいというニーズがある。また、同じタイヤで何度も突起を乗り越える試験を行う場合に、毎回、タイヤの周方向の同じ位置で突起を乗り越えるようにしたいというニーズもある。また、基準品としてのタイヤと試作品としてのタイヤの耐カット性を比較するときに、同じ特徴的部分で突起を乗り越えるようにしたいというニーズもある。
【0006】
このようなニーズがあるにもかかわらず、上記の過去に提案された方法では、実車に取り付けたタイヤで突起を乗り越えるため、タイヤの特定の位置を突起に当てるように制御することが困難であった。
【0007】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、タイヤの周方向の特定の位置のサイドウォールの耐カット性を評価しやすい方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態のタイヤ試験方法は、転動するタイヤのサイドウォールで突起を乗り越すタイヤ試験方法において、試験機の支持軸に取り付けられた前記タイヤを台上で転動させて前記台上に設けられた前記突起を前記タイヤで乗り越してデータを取得する乗り越し工程を含み、前記タイヤの進行方向、前記タイヤの軸方向、並びに前記進行方向及び前記軸方向に直交する方向の3方向の、前記タイヤの回転軸に発生する力の時系列変化を測定し、前記3方向のいずれかの方向の前記力が最大となるタイミングが特定され、前記3方向のそれぞれについて、前記タイミングにおける前記力と、前記タイヤが前記突起に乗る前の時間帯の前記力との差を前記タイミングにおける差分として求め、前記3方向の前記タイミングにおける前記差分から合力を求めることを特徴とする。
また、実施形態のタイヤ試験方法は、転動するタイヤのサイドウォールで突起を乗り越すタイヤ試験方法において、試験機の支持軸に取り付けられた前記タイヤを台上で転動させて前記台上に設けられた前記突起を前記タイヤで乗り越してデータを取得する乗り越し工程を含み、前記タイヤの進行方向、前記タイヤの軸方向、並びに前記進行方向及び前記軸方向に直交する方向の3方向の、前記タイヤの回転軸に発生する力の時系列変化を測定し、前記3方向のそれぞれについて、前記タイヤが前記突起に乗っているときの力と、前記タイヤが前記突起に乗る前の時間帯の前記力との差の時系列変化又は移動距離による変化を、差分の時系列変化又は移動距離による変化として求め、前記3方向の前記差分の時系列変化又は移動距離による変化から、合力の時系列変化又は移動距離による変化を求め、前記タイヤが前記突起を乗り越し始めた時点から前記合力が最大となる時点までの前記合力の前記時系列変化又は移動距離による変化に基づきエネルギーを求めることを特徴とする。
また、実施形態のタイヤ試験方法は、転動するタイヤのサイドウォールで突起を乗り越すタイヤ試験方法において、試験機の支持軸に取り付けられた前記タイヤを台上で転動させて前記台上に設けられた前記突起を前記タイヤで乗り越してデータを取得する乗り越し工程を含み、前記突起の高さを低い方から高い方へ変更しながら前記乗り越し工程を複数回実行し、前記タイヤが損傷したときの前記突起の高さを特定することを特徴とする。
また、実施形態のタイヤ試験機は、タイヤを転動させる支持軸と、前記タイヤが転動する台と、前記タイヤの転動中のデータを収集する測定器とを有し、前記支持軸に取り付けられた前記タイヤを前記台上で転動させて前記測定器によりデータを取得するタイヤ試験機において、前記台上に突起が設けられ、前記タイヤの転動中に、前記タイヤのサイドウォールが前記突起を乗り越すように制御され、前記測定器は、前記タイヤの進行方向、前記タイヤの軸方向、並びに前記進行方向及び前記軸方向に直交する方向の3方向の、前記タイヤの回転軸に発生する力の時系列変化を測定する測定器であり、処理部が、前記3方向のいずれかの方向の前記力が最大となるタイミングを特定し、前記3方向のそれぞれについて、前記タイミングにおける前記力と、前記タイヤが前記突起に乗る前の時間帯の前記力との差を前記タイミングにおける差分として求め、前記処理部が、前記3方向の前記タイミングにおける前記差分から合力を求めることを特徴とする。
また、実施形態のタイヤ試験機は、タイヤを転動させる支持軸と、前記タイヤが転動する台と、前記タイヤの転動中のデータを収集する測定器とを有し、前記支持軸に取り付けられた前記タイヤを前記台上で転動させて前記測定器によりデータを取得するタイヤ試験機において、前記台上に突起が設けられ、前記タイヤの転動中に、前記タイヤのサイドウォールが前記突起を乗り越すように制御され、前記測定器は、前記タイヤの進行方向、前記タイヤの軸方向、並びに前記進行方向及び前記軸方向に直交する方向の3方向の、前記タイヤの回転軸に発生する力の時系列変化を測定する測定器であり、処理部が、前記3方向のそれぞれについて、前記タイヤが前記突起に乗っているときの力と、前記タイヤが前記突起に乗る前の時間帯の前記力との差の時系列変化又は移動距離による変化を、差分の時系列変化又は移動距離による変化として求め、前記処理部が、前記3方向の前記差分の時系列変化又は移動距離による変化から、合力の時系列変化又は移動距離による変化を求め、前記処理部が、前記タイヤが前記突起を乗り越し始めた時点から前記合力が最大となる時点までの前記合力の前記時系列変化又は移動距離による変化に基づきエネルギーを求めることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本実施形態によれば、タイヤの周方向の特定の位置のサイドウォールの耐カット性を評価しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図9】リムに装着された空気入りタイヤの断面図と突起とを重ねて示す図。
【
図11】位置合わせ工程においてタイヤが突起の上に配置されたときの台を、正面から見た図。
【
図12】位置合わせ工程においてタイヤが突起の上に配置されたときの台を、上から見た図。
【
図13】移動工程でのタイヤの移動を示す図。台を上から見た図。
【
図14】移動工程でのタイヤの移動を示す図。台を正面から見た図。
【
図15】移動工程でのタイヤの移動を示す図。台を上から見た図。
【
図17】力センサが測定した力の時系列変化を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施形態について図面に基づき説明する。なお、以下で説明する実施形態は一例に過ぎず、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更されたものについては、本発明の範囲に含まれるものとする。
【0012】
図1~
図3に示すように、本実施形態のタイヤ試験機10は、空気入りタイヤ(以下「タイヤ」とする)Tが転動する台11と、台11の上を移動する移動部12とを有している。台11は一方向(
図1及び
図3の左右方向)へ長く、その上面が水平面となっている。台11の長手方向の中央付近には、上へ向かって突出した突起20が固定されている。
【0013】
以下の説明において、
図3の下側を手前側、上側を奥側とする。突起20は、台11の手前側の縁付近にある。
【0014】
移動部12は、略直方体を形成する枠13と、枠13の上部に設けられた昇降装置14と、昇降装置14が稼働することによって上下動する駆動装置15と、駆動装置15に設けられた支持軸16とを有している。この支持軸16にタイヤTが取り付けられる。
【0015】
図2及び
図3に示すように、台11に接触する形で、台11の長手方向と同じ方向に延びるレール17が設けられている。枠13はこのレール17に乗っており、レール17沿って移動可能となっている。枠13の移動は移動モータ18(
図4参照)が稼働することによって行われる。枠13がレール17沿って移動することにより、移動部12の全体がレール17沿って移動する。この枠13の内側に駆動装置15及び支持軸16が配置されている。
【0016】
昇降装置14は、駆動装置15、支持軸16及び支持軸16に取り付けられるタイヤTを一体として上下動させる装置であり、モータからなる。
【0017】
駆動装置15にはモータが内蔵されており、そのモータが回転することにより支持軸16が回転するように構成されている。支持軸16は台11の長手方向に対して直交する方向かつ水平方向に延びる軸である。この支持軸16に、タイヤTが装着されたホイールWが取り付けられる。支持軸16はタイヤT及びホイールWと共に回転する回転軸である。支持軸16及びタイヤTが回転するとき、タイヤTの進行方向は台11の長手方向(
図1及び
図3の左右方向)となる。
【0018】
手動又は駆動装置15に内蔵されている機器の動作により、支持軸16はその軸方向(支持軸16の長手方向)へ進退可能となっている。支持軸16が進退することにより、タイヤTの台11上での位置(台11の長手方向に対して直交する方向への位置)が調整される。
【0019】
支持軸16には力センサ31(
図4参照)が設けられている。力センサ31は、測定器の一種であり、支持軸16に発生する力を測定する。力センサ31は、タイヤTの進行方向の力である前後力Fx、タイヤTの軸方向の力である横力Fy、及び上下方向の力Fzの、直交する3方向の力の大きさの時系列変化を測定できる。タイヤTが台11上を移動しながら転動している間、力センサ31がFx、Fy及びFzを測定し続ける。
【0020】
また、枠13には撮影機器としてのカメラ32が固定されている。カメラ32は、測定器の一種であり、動画データを取得する。
図2に示すように、カメラ32は、タイヤTを間に挟んで駆動装置15と反対側(つまりタイヤTより手前側)の場所に、ホイールWのディスクに対向して設けられている。カメラ32の撮影範囲には、支持軸16に取り付けられたタイヤTの台11への接地部分が含まれている。タイヤTが台11上を移動しながら転動している間、カメラ32は枠13やタイヤTと一緒に台11の長手方向へ移動し続け、その移動中にタイヤTの台11への接地部分を撮影し続ける。
【0021】
なお、枠13には複数のカメラが設けられていても良い。例えば、上記のカメラ32に加えて、タイヤTを進行方向前後の少なくとも一方から撮影するカメラが設けられていても良い。
【0022】
図4に示すように、タイヤ試験機10には制御処理装置30が設けられている。制御処理装置30には、昇降装置14、駆動装置15、移動モータ18等の機器や、力センサ31、カメラ32等の測定器が接続されている。制御処理装置30には制御部33及び処理部34が含まれている。
【0023】
制御部33は、試験者によって入力された指示に従い各機器を制御する。例えば、制御部33は、昇降装置14を稼働させて、支持軸16の台11からの高さを変更しタイヤTの高さを調整する。また、制御部33は、移動モータ18を稼働させて移動部12の全体を台11の長手方向へ移動させながら、支持軸16を回転させてタイヤTを回転させ、それによってタイヤTを台11上で転動させる。また、処理部34は、力センサ31、カメラ32等の測定器からデータを取得し計算等を行う。後述するタイヤ試験方法は、制御部33による各機器の制御等によって実行される。
【0024】
台11の長手方向の中央付近には突起20が設けられている。この突起20はタイヤTに損傷を生じさせるためのものである。突起20が十分な高さを有する場合、台11上を転動するタイヤTが突起20を乗り越すときに、タイヤTがカットされ損傷が生じる。
【0025】
図5及び
図6に示すように、突起20は板状部分21と刃形状部分22とが横に並んで一体となった1枚の板状のものである。板状部分21は薄い直方体で、刃形状部分22は板状部分21と同じ厚み及び高さを有しつつ上端が上へ向かって尖った刃となっている。刃形状部分22の陵である刃先は、支持軸16の延長方向(すなわちタイヤ軸方向)に水平に延びている。また、刃形状部分22の陵である刃先は、タイヤ軸方向に直行する面での断面上で鋭角を形成している。
【0026】
図3に示すように、突起20は、タイヤTを間に挟んで駆動装置15と反対側(つまりタイヤTより手前側)の場所に設けられている。また、突起20はタイヤTの進行方向に直交するように立てられている。そして、板状部分21がレール17に近く、刃形状部分22が台11の中央に近くなるよう配置されている。刃形状部分22の方が台11の中央に近いので、タイヤTは板状部分21ではなく刃形状部分22を乗り越すこととなる。
【0027】
突起20は2つの固定部材23によって台11の長手方向両側から挟まれて固定されている。各固定部材23は、タイヤ軸方向に直行する断面上でL字型であり、水平部分24と垂直部分25とを有している。水平部分24が不図示のボルト等で台11に固定され、垂直部分25が突起20を押えている。
【0028】
突起20の高さは様々であるが、例えば、試験時のタイヤTの断面高さの50%以上80%以下とされる。なお、タイヤTの断面高さとは、タイヤTの内径面から外径面までのタイヤ径方向の長さのことであり、
図7においてHで示す高さのことである。突起20の高さの具体的数値は、試験対象のタイヤTにもよるが、例えば40mm以上140mm以下である。また、突起20の厚みも様々であるが、例えば3mm以上20mm以下である。
【0029】
このようなタイヤ試験機10は、室温が一定に維持された試験室(例えば室温が試験のための標準状態の温度(例えば25℃)やタイヤTの実際の使用環境の温度(タイヤTが熱帯地域で使用されるなら熱帯地域の気温、タイヤTが寒冷地域で使用されるなら寒冷地域の気温)等の所定温度に設定され、設定温度に対して±5℃等の所定の範囲で管理された試験室)に配置されている。試験室は、湿度や気圧も管理されていることが好ましい。
【0030】
次に、試験対象のタイヤTを
図7に示す。なお
図7に示されているのはタイヤ軸方向の半分のみであり、実際のタイヤTはタイヤ中心線Cに対して左右対称になっている。
図7の上下方向がタイヤ径方向であり、左右方向がタイヤ軸方向であり、紙面に対して垂直な方向がタイヤ周方向である。
【0031】
タイヤTでは、タイヤ軸方向両側にビード部9が設けられている。ビード部9は、円形に巻かれた鋼線からなるビードコア9aと、ビードコア9aの径方向外側に設けられたゴム製のビードフィラー9bとからなる。
【0032】
タイヤ軸方向両側のビード部9には1枚又は複数枚(例えば2枚や3枚)のカーカスプライ2が架け渡されている。カーカスプライ2はタイヤ周方向に直交する方向に並べられた多数のプライコードがゴムで被覆されたシート状の部材である。カーカスプライ2は、タイヤ軸方向両側のビード部9の間でタイヤTの骨格形状を形成するとともに、ビード部9の周りでタイヤ軸方向内側から外側に折り返され巻き上げられることによりビード部9を包んでいる。カーカスプライ2の内側にはインナーライナー8が設けられている。また、カーカスプライ2の巻き上げ部分2aのタイヤ軸方向外側の場所には、ラバーチェーファー3が設けられている。
【0033】
また、カーカスプライ2のタイヤ径方向外側には1枚又は複数枚のベルト4が設けられ、ベルト4のタイヤ径方向外側にはベルト補強層5が設けられている。ベルト4はスチール製の多数のコードがゴムで被覆されて出来た部材である。ベルト補強層5は有機繊維製の多数のコードがゴムで被覆されて出来た部材である。ベルト補強層5のタイヤ径方向外側にはトレッドゴム6が設けられている。トレッドゴム6には多数の溝が設けられてトレッドパターンが形成されている。
【0034】
また、カーカスプライ2のタイヤ軸方向両側にはサイドウォールゴム7が設けられている。トレッドゴム6とサイドウォールゴム7とはバットレスにおいて重なっているが、トレッドゴム6とサイドウォールゴム7のいずれがタイヤ表面側になっていても良い。
図7のバットレスにおいては、トレッドゴム6がタイヤ表面側になっている。なお、図示省略するが、トレッドゴム6とサイドウォールゴム7との境界のタイヤ表面側にウイングゴムが設けられても良い。サイドウォールゴム7のタイヤ径方向内側の部分はビード部9の近くにまで延びており、ラバーチェーファー3の一部に被さっている。
【0035】
このようなタイヤTはホイールWに装着されている。そして、
図8に示すように、タイヤTのビード部9近傍とホイールWのリムのリムフランジFとが接触している。タイヤTとリムフランジFとの接触部のタイヤ軸方向の端部はラバーチェーファー3の表面の位置である。
【0036】
タイヤTが突起20を乗り越すとき、タイヤTのサイドウォールの少なくともいずれかの部分で突起20を乗り越す。サイドウォールは、少なくもとサイドウォールゴム7を含み、さらにトレッドゴム6の一部(タイヤ軸方向端部付近の部分)、カーカスプライ2の一部、インナーライナー8の一部、ビードフィラー9bの一部又は全部、ラバーチェーファー3の一部又は全部等によって構成されている。
図8にサイドウォールの範囲の一例を斜線で示す。
【0037】
タイヤTが突起20を乗り越すとき、必ずしもサイドウォール全体で突起20を乗り越す必要はなく、サイドウォールの一部のみで突起20を乗り越しても良い。また、サイドウォールとその近くの部分を含む広い領域で、突起20を乗り越しても良い。
【0038】
いずれにしても、サイドウォールのうち、トレッドゴムのタイヤ軸方向端部付近からビードフィラー9bのタイヤ径方向外側の端部付近までがカットされるように、突起20を乗り越すことが好ましい。
【0039】
ところで、発明者による研究の結果、タイヤTのサイドウォールの損傷は、タイヤ径方向に大きなせん断応力が作用したときに生じやすいことが明らかになった。タイヤTと突起20との位置関係を示す
図9に基づき説明すると、タイヤTとリムフランジFとの接触部よりもタイヤ軸方向外側の部分(
図9においてタイヤ軸方向に符号Sで示す範囲の部分)で突起20を乗り越すと、リムフランジFと突起20との間にタイヤ径方向(
図9にせん断応力の方向として矢印で示す)のせん断応力が作用し、サイドウォールの損傷が生じやすいことが明らかになった。
【0040】
そこで、タイヤTが突起20を乗り越すとき、タイヤTとリムフランジFとの接触部よりタイヤ軸方向外側の部分で突起20を乗り越すことが好ましい。この場合、タイヤTとリムフランジFとの接触部のタイヤ軸方向外側の端部と、突起20の先端とのタイヤ軸方向の距離L(
図9参照)は、4mm以上6mm以下が好ましい。ただし、距離Lはこの範囲に限定されない。また、L=0mmであっても良い。
【0041】
本実施形態のタイヤ試験方法は、
図10に示すように、試験の準備を行う準備工程S1と、突起20の場所において、タイヤTの突起20を乗り越す予定の部分と突起20との位置を合わせる位置合わせ工程S2と、突起20の場所から台11の長手方向の一方の場所である試験開始位置へタイヤTを移動させる移動工程S3と、試験開始位置からタイヤTを転動させ始めてタイヤTで突起20を乗り越す乗り越し工程S4と、乗り越し工程S4において取得されたデータに基づき計算を行う計算工程S5とからなる。
【0042】
準備工程S1では、所定のリムにリム組みされたタイヤTに所定の内圧が付与される。ここで、所定のリムとは、タイヤTが実際の車両に装着されるときに使用されるリムである。また、所定の内圧とは、タイヤTが実際の車両に装着されるときに付与される内圧である。ただし、タイヤTが装着される車両が決まっていない場合等には、所定のリムとして正規リムが使用され、所定の内圧として正規内圧が付与される。リム組みされ内圧が付与されたタイヤTはホイールWと共に支持軸16に取り付けられる。
【0043】
なお、正規リムとは、タイヤが基づいている規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えばJATMAであれば標準リム、TRA及びETRTOであれば“Measuring Rim”である。また、正規内圧とは、タイヤが基づいている規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、トラックバス用タイヤやライトトラック用タイヤの場合は、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”である。ちなみに、正規荷重とは、JATMAの「最大負荷能力」、TRAの表「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」に記載の最大値、又はETRTOの「LOAD CAPACITY」のことである。ただし、タイヤTが乗用車用の場合は通常180kPaを上記正規内圧の替わりとし、タイヤTが乗用車用かつタイヤTに「Extra Load」又は「Reinforced」と記載されている場合は220kPaを上記正規内圧の替わりとする。
【0044】
次の位置合わせ工程S2では、
図11に示すように、タイヤTが宙に浮いた状態で支持軸16に支持され、タイヤTの突起20を乗り越す予定の部分(以下「乗り越し部分」)が最下点になるように回転調整され、調整後の状態で
図11及び
図12に示すようにタイヤTが突起20の上に配置される。これにより、タイヤTの乗り越し部分と、突起20とのタイヤ周方向の位置が合う。なおタイヤTは、
図11では実線で、
図12では破線で示されている。このとき、タイヤTとリムフランジFとの接触部のタイヤ軸方向外側の端部と、突起20の先端とのタイヤ軸方向の距離L(
図9参照)が所望の長さになるように配置される。
【0045】
次の移動工程S3では、まず、タイヤTがタイヤ軸方向かつ奥側に所定距離移動し、突起20の上の場所から離れる(このときのタイヤTの移動を
図13に矢印で示す)。次に、タイヤTが台11に着地し、着地後のタイヤTに所定の荷重が負荷される。次に、突起20の場所から台11の長手方向の一方の場所である試験開始位置へ、タイヤTが転動しながら移動する(このときのタイヤTの移動を
図14に矢印で示す)。
【0046】
タイヤTが試験開始位置へ到着すると、タイヤTから一旦荷重が抜かれる。次に、タイヤTがタイヤ軸方向かつ手前側に上記の所定距離だけ移動する(このときのタイヤTの移動を
図15に矢印で示す)。この移動により、タイヤTと突起20とのタイヤ軸方向の位置関係が位置合わせ工程S2で合わせた位置関係に戻る。また、この移動により、タイヤTの進行方向の場所に突起20が重なる。次に、タイヤTに所定の荷重が負荷される。所定の荷重とは、実際の車両に装着されたときにタイヤTに負荷される荷重のことである。ただし、タイヤTが装着される車両が決まっていない場合等には、上記の正規荷重が負荷される。
【0047】
次の乗り越し工程S4では、タイヤTが転動して台11上を長手方向に進行する。タイヤTの移動速度は、限定されないが、例えば時速0.3~0.4kmである。その移動の途中で、
図16に示すようにタイヤTが突起20を乗り越す。タイヤTの移動中、力センサ31が支持軸16に発生する3方向の力Fx、Fy及びFzを測定し続ける。また、タイヤTの移動中、カメラ32がタイヤTの台11への接地部分を撮影し続ける。力センサ31及びカメラ32によって取得されたデータは制御処理装置30に送られる。
【0048】
次の計算工程S5では、処理部34において力センサ31の測定データの処理が行われる。ここでは、乗り越し工程S4においてタイヤTがバーストしサイドウォールがカットされる損傷D(
図16参照)が生じたものとする。
【0049】
図17は、力センサ31が測定した力Fxの時系列変化を示す図である。
図17において横軸が試験開始時からの経過時間、縦軸が力Fxである。
図17から、ある時点で力Fxが最大値Fxmaxとなることがわかる。この時の力FxmaxをFxbと表記する。
【0050】
Fy及びFzについても同様の時系列変化を示す図が得られる。そして、力Fxが最大値Fxmaxとなったタイミングでの力Fy及びFzをFyb及びFzbとする。なお、3方向の力Fx、Fy、Fzが最大値Fxmax、Fymax、Fzmaxとなるタイミングは必ずしも一致しないため、必ずしもFyb=Fymax、Fzb=Fzmaxとはならない点には注意が必要である。
【0051】
なお、タイヤTの軸方向の力Fyの最大値Fymaxを力Fybとし、力Fyが最大値Fymaxとなったタイミングでの力Fx及びFzを力Fxb及びFzbとしても良い。また、上下方向の力Fzの最大値Fzmaxを力Fzbとし、力Fzが最大値Fzmaxとなったタイミングでの力Fx及びFyを力Fxb及びFybとしても良い。
【0052】
このようにして求まった力Fxb、Fyb及びFzbは、タイヤTが損傷した時の力に関する値であり、タイヤTのサイドウォールの耐カット性を評価する指標として利用することができる。
【0053】
さらに、計算工程S5では、処理部34において合力Rが計算される。具体的には、タイヤTの進行方向、タイヤTの軸方向及び上下方向の3方向のうちいずれかの力が最大となるタイミングが特定され、前記3方向のそれぞれについて、前記タイミングにおける力Fx、Fy、Fzと、タイヤTが突起20に乗る前の力Fx、Fy、Fzとの差分ΔFx、ΔFy、ΔFzが計算される。
【0054】
例えば、上記のFxmaxと、
図17において力Fxが上昇を始める前の時間帯の力Fx(前記時間帯において力Fxにばらつきがある場合は、前記時間帯における力Fxの平均値)との差が、ΔFxとなる。なお、力Fxが上昇を始める前の時間帯では、タイヤTは突起20に乗っていない。また、力Fxが最大値Fxmaxとなるタイミングでの力Fyと、力Fyが上昇を始める前の時間帯の力Fy(前記時間帯において力Fyにばらつきがある場合は、前記時間帯における力Fyの平均値)との差が、ΔFyとなる。ΔFzもΔFyと同じ方法で求まる。
【0055】
そして、合力Rが次の式により計算される。
【0056】
【0057】
このようにして求まった合力Rも、タイヤTが損傷した時の力に関する値であり、タイヤTのサイドウォールの耐カット性を評価する指標として利用することができる。
【0058】
さらに、計算工程S5では、処理部34において、タイヤTが損傷するために要したエネルギーEが計算される。具体的には、まず、タイヤTの進行方向、タイヤTの軸方向及び上下方向の3方向のそれぞれについて、タイヤTが突起20に乗っているときの力Fx、Fy、Fzと、タイヤTが突起20に乗る前の時間帯の力Fx、Fy、Fz(前記時間帯において力Fx、Fy、Fzにばらつきがある場合は、前記時間帯における力Fx、Fy、Fzのそれぞれの平均値)との差の時系列変化が、「差分の時系列変化ΔFx(t)、ΔFy(t)、ΔFz(t)」として求められる。
【0059】
次に、差分の時系列変化ΔFx(t)、ΔFy(t)、ΔFz(t)から、次の式により合力の時系列変化R(t)が計算される。
【0060】
【0061】
ちなみに、この合力R(t)が最大値となる時が、タイヤTがバーストし損傷が生じた時である。従って、合力R(t)の最大値を、タイヤTのサイドウォールの耐カット性を評価する指標として利用することができる。
【0062】
次に、合力の時系列変化R(t)が、合力の移動距離による変化R(l)に変換される。タイヤTの移動速度をV(km/時間)、時間をt(秒)とすると、移動距離l(m)は次の式により求まる。
【0063】
【0064】
この式を利用して、次の式により合力の移動距離による変化R(l)が計算される。合力の移動距離による変化R(l)を
図18に示す。
【0065】
【0066】
タイヤTが損傷するために要したエネルギーEは、合力の移動距離による変化R(l)が変化し始めた時(このとき、タイヤTが突起20に乗り始めたと解釈できる)の移動距離l1から、合力の移動距離による変化R(l)がピークとなった時(このとき、タイヤTが損傷したと解釈できる)の移動距離l2までの合力R(l)の合計値として計算される。その合計値であるエネルギーEは、次の積分計算により求まり、
図18において斜線で示される面積に相当する。
【0067】
【0068】
なお、時系列変化としてのデータから、移動距離による変化としてのデータへの変換は、どのタイミングで行われても良い。例えば、最初に力について時系列変化Fx(t)、Fy(t)、Fz(t)から移動距離による変化Fx(l)、Fy(l)、Fz(l)に変換され、前記3方向について、タイヤTが突起20に乗っているときの力Fx(l)、Fy(l)、Fz(l)と、タイヤTが突起20に乗る前の力Fx(l)、Fy(l)、Fz(l)(タイヤTが突起20に乗る前の場所において力Fx(l)、Fy(l)、Fz(l)にばらつきがある場合は、前記場所における力Fx(l)、Fy(l)、Fz(l)の平均値)との差の移動距離による変化が、「差分の移動距離による変化ΔFx(l)、ΔFy(l)、ΔFz(l)」として求められる。そして、前記3方向の「差分の移動距離による変化ΔFx(l)、ΔFy(l)、ΔFz(l)」から、合力の移動距離による変化R(l)が求められ、上記と同様にエネルギーEが求められる。
【0069】
以上のような試験工程S1~S5が複数種類のタイヤTに対して行われる。ここで、それぞれの試験において、タイヤ周方向の特定の位置(例えば特定のブロックの位置)に突起20が当たるように制御される。そして、各タイヤTについて、力Fxb、Fyb、Fzb、合力R、合力R(t)の最大値、エネルギーEの少なくともいずれかが計算される。そして、これらの値の大小に基づき、複数種類のタイヤTについて、耐カット性の優劣が評価される。また、基準品としてのタイヤTと、試作品としてのタイヤTとの間で、力Fxb、Fyb、Fzb、合力R、合力R(t)の最大値、エネルギーEの少なくともいずれかについて比較され、試作品の良否が評価される。
【0070】
また、タイヤTに損傷が生じる様子はカメラ32が撮影した動画で確認することができる。
【0071】
ところで、以上の計算工程S5の説明において、乗り越し工程S4のときにタイヤTが損傷したことを前提としたが、突起20が低いときは損傷が生じない。そこで、突起20の高さが低い方から高い方へ徐々に変更されながら、サイドウォールに損傷が生じるまで工程S1~S4が複数回繰り返されても良い。
【0072】
具体的には、まず最も低い突起20が台11に固定され、1回目の工程S1~S4が実施される。最も低い突起20として、例えば、試験時のタイヤTの断面高さの45%以上55%以下の高さのもの、又はそれより低いものが採用される。
【0073】
そして、サイドウォールに損傷(損傷とは、サイドウォールがカットされる等のタイヤTとしての機能が損なわれるほどの損傷を言い、傷程度のものは含まれない)が生じなかった場合は、1回目のときよりも高い突起20が台11に固定され、2回目の工程S1~S4が実施される。
【0074】
2回目の工程S1~S4は、1回目の工程S1~S4のときと同じタイヤTを用いて実施されても良いし、試験対象のタイヤTを新品に交換して実施されても良い。1回目と2回目の試験(工程S1~S4)が同じタイヤTを用いて実施される場合は、2回目の試験のときは、1回目の試験のときと異なる位置でかつ1回目の試験のときと同じ特徴を有する位置(例えば1回目の試験のときと同じ形状のブロックの位置)に突起20が当たるように調整されることが好ましい。このようにして、サイドウォールに損傷が生じるまで、工程S1~S4が繰り返される。そして、サイドウォールに損傷が生じた時点で、そのときの突起20の高さが記録され、そのタイヤTの試験が終了する。
【0075】
このように突起20の高さを変更する試験が複数種類のタイヤTについて実施される。すると、タイヤTごとにサイドウォールに損傷が生じるときの突起20の高さが違うので、その違いに基づきタイヤTの耐カット性の優劣が評価される。また、基準品としてのタイヤTと、試作品としてのタイヤTについてサイドウォールに損傷が生じるときの突起20の高さが特定され、基準品に対する試作品の良否の判定が行われる。
【0076】
以上のように、本実施形態のタイヤ試験方法では、タイヤ試験機10の支持軸16に取り付けられたタイヤTを台11上で転動させて台11上に設けられた突起20をタイヤTで乗り越してデータを取得する乗り越し工程を含む。この方法によれば、実車試験の場合と異なり、突起20をタイヤTの特定の位置にピンポイントで当てることができるため、タイヤ周方向の特定の位置のサイドウォールの耐カット性を評価することができる。
【0077】
そのため、同じタイヤTで何度も突起20を乗り越える試験を行う場合に、毎回、タイヤTの周方向の同じ位置や同じ特徴を有する位置で突起20を乗り越えるようにすることができる。また、基準品としてのタイヤTと試作品としてのタイヤTの耐カット性を比較するときに、同じ特徴的部分で突起20を乗り越えるようにすることもできる。
【0078】
ここで、乗り越し工程S4の前に、タイヤTを突起20の場所に配置して、タイヤTにおける突起20を乗り越す予定の部分と、突起20との位置を合わせる位置合わせ工程S2を実行する。その次に、突起20の場所から台11の長手方向の一方の場所である試験開始位置へタイヤTを転動させて移動させる移動工程S3を実行する。そして移動工程S3の次に乗り越し工程S4を実行する。このように乗り越し工程S4の前に位置合わせ工程S2及び移動工程S3が実行されるため、突起20をタイヤTの特定の位置にピンポイントで当てることができる。
【0079】
また上記のように、乗り越し工程S4において、タイヤTとリムフランジFとの接触部よりもタイヤ軸方向外側の部分で突起20を乗り越すため、タイヤTのサイドウォールに損傷を生じさせやすい。
【0080】
また上記のように、乗り越し工程S4において、タイヤTと一体となって移動するカメラ32が突起20を乗り越すときのタイヤTを撮影するため、タイヤTの損傷を時系列で観察することができる。
【0081】
また上記のように、乗り越し工程S4において、タイヤTの進行方向、タイヤTの軸方向、及び前記進行方向及び前記軸方向に直交する方向である上下方向の3方向の、タイヤTの回転軸(支持軸16)に発生する力Fx、Fy、Fzの時系列変化を測定する。そのため、各方向の力Fx、Fy、Fzの時系列変化のピーク値をタイヤTの耐カット性の評価に利用することができる。
【0082】
また上記のように、測定された力Fx、Fy、Fzに基づき合力Rが計算されるので、合力Rに基づきタイヤTの耐カット性を評価することができる。また上記のように、合力Rの時系列変化又は移動距離による変化に基づきエネルギーEが計算されるので、エネルギーEに基づきタイヤTの耐カット性を評価することができる。
【0083】
また上記のように、突起20の高さを低い方から高い方へ変更しながら乗り越し工程S4を複数回実行することにより、タイヤTが損傷するときの突起20の高さを特定することができる。そしてタイヤTが損傷するときの突起20の高さに基づきタイヤTの耐カット性を評価することができる。
【0084】
以上の実施形態に対し様々な変更を行うことができる。
【0085】
例えば、突起として、台11の上面から上へ向かって突出する様々な形状のものが採用できる。
図19の突起120は、高さの異なる複数枚(図では6枚)の板120aが重ねられて形成されている。複数枚の板120aは台11の長手方向に重なっている。台11の長手方向の一方に行くほど板120aの高さが高くなっており、複数枚の板120aの全体で、前記一方において先端を有する刃の形状となっている。
【符号の説明】
【0086】
C…タイヤ中心線、F…リムフランジ、T…タイヤ、W…ホイール、2…カーカスプライ、2a…巻き上げ部分、3…ラバーチェーファー、4…ベルト、5…ベルト補強層、6…トレッドゴム、7…サイドウォールゴム、8…インナーライナー、9…ビード部、9a…ビードコア、9b…ビードフィラー、10…タイヤ試験機、11…台、12…移動部、13…枠、14…昇降装置、15…駆動装置、16…支持軸、17…レール、18…移動モータ、20…突起、21…板状部分、22…刃形状部分、23…固定部材、24…水平部分、25…垂直部分、30…制御処理装置、31…力センサ、32…カメラ、33…制御部、34…処理部、120…突起、120a…板