(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-22
(45)【発行日】2025-05-30
(54)【発明の名称】酸化珪素膜用研磨液組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20250523BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20250523BHJP
B24B 37/00 20120101ALI20250523BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
H01L21/304 622D
H01L21/304 622X
B24B37/00 H
(21)【出願番号】P 2022210624
(22)【出願日】2022-12-27
【審査請求日】2024-04-15
(31)【優先権主張番号】P 2021214529
(32)【優先日】2021-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000918
【氏名又は名称】花王株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】菅原 将人
(72)【発明者】
【氏名】山口 哲史
【審査官】庄司 一隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-005704(JP,A)
【文献】特開2020-183481(JP,A)
【文献】特開2020-080399(JP,A)
【文献】特開2003-041239(JP,A)
【文献】特開2021-166254(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
H01L 21/304
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化セリウム粒子(成分A)と、水溶性アニオン性ポリマー(成分B)と、不飽和環状化合物(成分C)と、水系媒体とを含有し、
成分Bは、分子内に芳香族基を有し、
下記式(V)で表される構造を含むアニオン性縮合物であり、
成分Cは、環状骨格中に下記式(I)又は式(II)で表される官能基を有する、酸化珪素膜用研磨液組成物。
【化1】
式(I)中、Yは、OM
1又はSM
2を示し、M
1及びM
2は同一又は異なって、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、有機カチオン、アンモニウム(NH
4
+)又は水素原子を示す。
式(II)中、M
3は、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、有機カチオン、アンモニウム(NH
4
+)又は水素原子を示す。
【化2】
式(V)中、R
5
及びR
6
は、同一又は異なって、水素原子、炭素数1以上4以下の炭化水素基、又は、-OM
11
を示し、X
2
は、-SO
3
M
12
又は-PO
3
M
13
M
14
を示し、M
10
、M
11
、M
12
、M
13
及びM
14
は同一又は異なって、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、有機カチオン、アンモニウム(NH
4
+
)又は水素原子を示し、m及びnは、m+n=1とした場合のモル分率であって、mは0.3を超える。
【請求項2】
成分Cは、N-オキシド基のオルト位にヒドロキシル基を有する含窒素複素芳香環骨格を含むN-オキシド化合物及びその塩である、請求項1に記載の研磨液組成物。
【請求項3】
成分Cの含有量に対する成分Bの含有量の質量比B/Cが3以上である、請求項1に記載の研磨液組成物。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれかに記載の研磨液組成物を用いて被研磨膜を研磨する工程を含む、半導体基板の製造方法。
【請求項5】
請求項1から
3のいずれかに記載の研磨液組成物を用いて被研磨膜を研磨する工程を含み、前記被研磨膜は、半導体基板の製造過程で形成される酸化珪素膜である、研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、酸化セリウム粒子を含有する酸化珪素膜用研磨液組成物、これを用いた半導体基板の製造方法及び基板の研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ケミカルメカニカルポリッシング(CMP)技術とは、加工しようとする被研磨基板の表面と研磨パッドとを接触させた状態で研磨液をこれらの接触部位に供給しつつ被研磨基板及び研磨パッドを相対的に移動させることにより、被研磨基板の表面凹凸部分を化学的に反応させると共に機械的に除去して平坦化させる技術である。
【0003】
現在では、半導体素子の製造工程における、層間絶縁膜の平坦化、シャロートレンチ素子分離構造(以下「素子分離構造」ともいう)の形成、プラグ及び埋め込み金属配線の形成等を行う際には、このCMP技術が必須の技術である。近年、半導体素子の多層化、高精細化が飛躍的に進み、より平坦性が良好でありながら、高速で研磨できることが望まれる。例えば、シャロートレンチ素子分離構造の形成工程では、高研磨速度と共に、被研磨膜(例えば、酸化珪素膜)に対する研磨ストッパ膜(例えば、窒化珪素膜)の研磨選択性(換言すると、研磨ストッパ膜の方が被研磨膜よりも研磨されにくいという研磨の選択性)の向上や平坦性の向上が望まれている。
【0004】
例えば、特許文献1には、平均アスペクト比が1.5以上のセリア粒子と、ポリアクリル酸等のアニオン系ポリマーと、を含む化学的機械的研磨用研磨液が開示されている。同文献には、任意成分として含窒素複素芳香環化合物、4-ピロン等が開示されている。
特許文献2には、セリア等の砥粒と、スチレン化合物に由来する構造単位とアクリル酸及びマレイン酸から選ばれる少なくとも1種に由来する構造単位とを有する共重合体と、を含む、研磨液が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2019/187977
【文献】WO2019/064524
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年の半導体分野においては高集積化が進んでおり、配線の複雑化や微細化が求められている。そのため、CMP研磨では、研磨速度を確保しつつ平坦性を更に向上させることが要求されている。
研磨後の基板表面の平坦性の悪化する原因の一つとしては、凹部の研磨の抑制が不十分で、ディッシングが発生することによると考えられる。
【0007】
そこで、本開示は、研磨速度を確保しつつ、研磨後の基板表面の平坦性を向上できる酸化珪素膜用研磨液組成物、これを用いた半導体基板の製造方法及び研磨方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示は、一態様において、酸化セリウム粒子(成分A)と、水溶性アニオン性ポリマー(成分B)と、不飽和環状化合物(成分C)と、水系媒体とを含有し、
成分Bは、分子内に芳香族基を有し、
成分Cは、環状骨格中に下記式(I)又は式(II)で表される官能基を有する、酸化珪素膜用研磨液組成物に関する。
【化1】
式(I)中、Yは、OM
1又はSM
2を示し、M
1及びM
2は同一又は異なって、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、有機カチオン、アンモニウム(NH
4
+)又は水素原子を示す。
式(II)中、M
3は、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、有機カチオン、アンモニウム(NH
4
+)又は水素原子を示す。
【0009】
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨膜を研磨する工程を含む、半導体基板の製造方法に関する。
【0010】
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨膜を研磨する工程を含み、前記被研磨膜は、半導体基板の製造過程で形成される酸化珪素膜である、研磨方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、一態様において、研磨速度を確保しつつ、研磨後の基板表面の平坦性を向上できる酸化珪素膜用研磨液組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らが鋭意検討した結果、酸化セリウム粒子を砥粒として用いる研磨液組成物に、特定のアニオン性ポリマーと特定の不飽和環状化合物を含有させることで、研磨速度を確保しつつ、研磨後の基板表面の平坦性を向上できるという知見に基づく。
【0013】
本開示は、一態様において、酸化セリウム粒子(成分A)と、水溶性アニオン性ポリマー(成分B)と、不飽和環状化合物(成分C)と、水系媒体とを含有し、
成分Bが、分子内に芳香族基を有し、成分Cが、環状骨格中に上記式(I)又は式(II)で表される官能基を有する、酸化珪素膜用研磨液組成物(以下、「本開示の研磨液組成物」ともいう)に関する。
本開示によれば、一態様において、研磨速度を確保しつつ、研磨後の基板表面の平坦性を向上できる酸化珪素膜用研磨液組成物を提供できる。
【0014】
本開示の効果発現のメカニズムの詳細は明らかではないが、以下のように推察される。
凸部の研磨速度を確保しながら、ディッシングを抑制するためには、凸部に対する研磨速度を大きく損なうことなく、凹部に対する研磨速度を抑制することが必要となる。成分Cは環状骨格中に有する上記式(I)又は式(II)で表される官能基により、酸化ケイ素膜、または酸化セリウム粒子に吸着することができ、さらに、高い応力がかかった際に、脱離することができる。つまり、成分Cは、荷重がかかりにくい凹部では酸化ケイ素膜、または酸化セリウム粒子に吸着し保護膜を形成でき、高荷重がかかる凸部では脱離することで、凸部の研磨速度を確保しながらディッシングを抑制することができると考えられる。成分Bは芳香環で成分Cと相互作用することで、成分Cが形成する保護膜の強度を向上し、凹部に対する研磨速度を抑制して研磨後の基板の表面の平坦性を向上できると考えられる。
但し、本開示はこれらのメカニズムに限定して解釈されなくてもよい。
【0015】
[酸化セリウム粒子(成分A)]
本開示の研磨液組成物は、研磨砥粒として酸化セリウム(以下、「セリア」ともいう)粒子(以下、単に「成分A」ともいう)を含有する。成分Aとしては、正帯電セリア又は負帯電セリアを用いることができる。成分Aの帯電性は、例えば、電気音響法(ESA法:Electorokinetic Sonic Amplitude)により求められる砥粒粒子表面における電位(表面電位)を測定することにより確認できる。表面電位は、例えば、「ゼータプローブ」(協和界面化学社製)を用いて測定でき、具体的には実施例に記載の方法により測定できる。成分Aは、1種類でもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0016】
成分Aの製造方法、形状、及び表面状態については特に限定されなくてもよい。成分Aとしては、例えば、コロイダルセリア、不定形セリア、セリアコートシリカ等が挙げられる。
コロイダルセリアは、例えば、特表2010-505735号公報の実施例1~4に記載の方法で、ビルドアッププロセスにより得ることができる。
不定形セリアとしては、例えば、粉砕セリアが挙げられる。粉砕セリアの一実施形態としては、例えば、炭酸セリウムや硝酸セリウムなどのセリウム化合物を焼成、粉砕して得られる焼成粉砕セリアが挙げられる。粉砕セリアのその他の実施形態としては、例えば、無機酸や有機酸の存在下でセリア粒子を湿式粉砕することにより得られる単結晶粉砕セリアが挙げられる。湿式粉砕時に使用される無機酸としては、例えば硝酸が挙げられ、有機酸としては、例えば、カルボキシル基を有する有機酸が挙げられ、具体的には、ポリアクリル酸アンモニウム等のポリカルボン酸塩、ピコリン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、アミノ安息香酸及びp-ヒドロキシ安息香酸から選ばれる少なくとも一種が挙げられる。例えば、湿式粉砕時にピコリン酸、グルタミン酸、アスパラギン酸、アミノ安息香酸及びp-ヒドロキシ安息香酸から選ばれる少なくとも1種を使用した場合、正帯電セリアを得ることができ、湿式粉砕時にポリアクリル酸アンモニウム等のポリカルボン酸塩を使用した場合、負帯電セリアを得ることができる。湿式粉砕方法としては、例えば、遊星ビーズミル等による湿式粉砕が挙げられる。
セリアコートシリカとしては、例えば、特開2015-63451号公報の実施例1~14もしくは特開2013-119131号公報の実施例1~4に記載の方法で、シリカ粒子表面の少なくとも一部が粒状セリアで被覆された構造を有する複合粒子が挙げられ、該複合粒子は、例えば、シリカ粒子にセリアを沈着させることで得ることができる。
【0017】
成分Aの形状としては、例えば、略球状、多面体状、ラズベリー状が挙げられる。
【0018】
成分Aの平均一次粒子径は、研磨速度向上の観点から、5nm以上が好ましく、10nm以上がより好ましく、20nm以上が更に好ましく、30nm以上が更に好ましく、そして、研磨傷発生の抑制の観点から、300nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、150nm以下が更に好ましく、100nm以下が更に好ましく、80nm以下が更に好ましく、60nm以下が更に好ましい。本開示において成分Aの平均一次粒子径は、BET(窒素吸着)法によって算出されるBET比表面積S(m2/g)を用いて算出される。BET比表面積は、実施例に記載の方法により測定できる。
【0019】
本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量は、研磨速度向上及び平坦性向上の観点から、0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.05質量%以上が更に好ましく、0.1質量%以上が更により好ましく、0.15質量%以上が更により好ましく、そして、研磨傷発生抑制の観点から、6質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましく、1質量%以下が更に好ましく、0.7質量%以下が更により好ましい。より具体的には、成分Aの含有量は、0.001質量%以上6質量%以下が好ましく、0.01質量%以上6質量%以下がより好ましく、0.05質量%以上3質量%以下が更に好ましく、0.1質量%以上1質量%以下が更により好ましく、0.15質量%以上0.7質量%以下が更により好ましい。成分Aが2種以上の組合せである場合、成分Aの含有量はそれらの合計の含有量をいう。
【0020】
[水溶性アニオン性ポリマー(成分B)]
本開示の研磨液組成物は、水溶性アニオン性ポリマー(以下、単に「成分B」ともいう)を含有する。成分Bは、分子内に芳香族基を有する水溶性アニオン性ポリマーである。芳香族基は、一又は複数の実施形態において、研磨速度向上及び平坦性向上の観点から、芳香環を含む基であることが好ましい。芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ナフタレン環等が挙げられる。成分Bは、一又は複数の実施形態において、酸化珪素膜の研磨速度を確保しつつ、過研磨時のディッシング速度を抑制でき、研磨後の基板表面の平坦性を向上できると考えられる。なお、ディッシングとは、凹部が過剰に研磨されることにより生じる皿状の窪みをいう。本開示において、「水溶性」とは、本開示の研磨液組成物中に溶解することをいい、水(20℃)に対して好ましくは0.5g/100mL以上の溶解度、さらに好ましくは2g/100mL以上の溶解度を有することをいう。成分Bは、1種であってもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0021】
成分Bは、一又は複数の実施形態において、研磨速度向上及び平坦性向上の観点から、主鎖にベンゼン環又はナフタレン環を有する水溶性アニオン性縮合物(下記「成分B1」及び「成分B2」)、並びに、スチレン由来の構成単位とアニオン性基を有するモノマー由来の構成単位を含む共重合体(下記「成分B3」)が挙げられる。
【0022】
<成分B1:水溶性アニオン性縮合物>
成分B1は、一又は複数の実施形態において、主鎖にベンゼン環を有する水溶性アニオン性縮合物である。成分B1は、一又は複数の実施形態において、下記式(III)で表されるモノマー(以下、「構成モノマーb11」ともいう)及び下記式(IV)で表されるモノマー(以下、「構成モノマーb12」ともいう)を含むモノマーの共縮合物である。成分B1は1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0023】
(構成モノマーb11)
構成モノマーb11は、下記式(III)で表されるモノマーである。
【化2】
【0024】
式(III)中、R1及びR2は、同一又は異なって、水素原子、炭素数1以上4以下の炭化水素基、又は、-OM5を示す。R1及びR2は、一又は複数の実施形態において、重合反応性の観点から、少なくとも一方が-OM5であることが好ましく、-OHであることがより好ましい。R1及びR2は、一又は複数の実施形態において、研磨速度向上及び平坦性向上の観点から、少なくとも一方が水素原子であることが好ましい。
M4及びM5は同一又は異なって、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、有機カチオン、アンモニウム(NH4
+)又は水素原子を示す。有機カチオンとしては、一又は複数の実施形態において、有機アンモニウムが挙げられ、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等のアルキルアンモニウムが挙げられる。
M4は、一又は複数の実施形態において、研磨速度向上及び平坦性向上の観点から、アルカリ金属イオン、アンモニウム(NH4
+)及び水素原子から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウム(NH4
+)及び水素原子から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
M5は、一又は複数の実施形態において、研磨速度向上及び平坦性向上の観点から、アルカリ金属イオン、アンモニウム(NH4
+)及び水素原子から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウム(NH4
+)及び水素原子から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、水素原子が更に好ましい。
【0025】
構成モノマーb11としては、一又は複数の実施形態において、研磨速度向上及び平坦性向上の観点から、ヒドロキシ安息香酸(HBA)、ジヒドロキシ安息香酸(DHBA)が好ましく、4-ヒドロキシ安息香酸(4-HBA)、2-ヒドロキシ安息香酸(2-HBA)、2,4-ジヒドロキシ安息香酸(2,4-HBA)、2,6-ジヒドロキシ安息香酸(2,6-HBA)がより好ましく、4-ヒドロキシ安息香酸(4-HBA)が更に好ましい。
【0026】
(構成モノマーb12)
構成モノマーb12は、下記式(IV)で表されるモノマーである。
【化3】
【0027】
式(IV)中、R3及びR4は、同一又は異なって、水素原子、炭素数1以上4以下の炭化水素基、又は、-OM6を示す。R3及びR4は、一又は複数の実施形態において、研磨速度向上及び平坦性向上の観点から、少なくとも一方が-OM6であることが好ましく、-OHであることがより好ましい。R3及びR4は、一又は複数の実施形態において、研磨速度向上及び平坦性向上の観点から、少なくとも一方が水素原子であることが好ましい。
X1は、-SO3M7又は-PO3M8M9を示す。X1は、一又は複数の実施形態において、溶解安定性の観点から、-SO3M7が好ましい。
M6、M7、M8及びM9は同一又は異なって、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、有機カチオン、アンモニウム(NH4
+)又は水素原子を示す。有機カチオンとしては、一又は複数の実施形態において、有機アンモニウムが挙げられ、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等のアルキルアンモニウムが挙げられる。
M6は、一又は複数の実施形態において、研磨速度向上及び平坦性向上の観点から、アルカリ金属イオン、アンモニウム(NH4
+)及び水素原子から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウム(NH4
+)及び水素原子から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
M7、M8及びM9は同一又は異なって、一又は複数の実施形態において、研磨速度向上及び平坦性向上の観点から、アルカリ金属イオン、アンモニウム(NH4
+)及び水素原子から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウム(NH4
+)及び水素原子から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
【0028】
構成モノマーb12としては、一又は複数の実施形態において、フェノールスルホン酸(PhS)が挙げられる。
【0029】
成分B1における構成モノマーb11と構成モノマーb12の合計に対する構成モノマーb11のモル比(%)は、研磨速度向上及び平坦性向上の観点から、30%を超えることが好ましく、35%以上がより好ましく、40%以上が更に好ましく、40%超が更により好ましく、42%以上が更により好ましく、43%以上が更により好ましく、44%以上が更により好ましく、45%以上が更により好ましく、46%以上が更により好ましく、48%以上が更により好ましい。
【0030】
成分B1は、一又は複数の実施形態において、研磨速度向上及び平坦性向上の観点から、下記式(V)で表される構造を含むアニオン性縮合物であることが好ましい。
【化4】
【0031】
式(V)中、R5及びR6は、同一又は異なって、水素原子、炭素数1以上4以下の炭化水素基、又は、-OM11を示す。
R5及びR6は、一又は複数の実施形態において、研磨速度向上及び平坦性向上の観点から、水素原子、又は、炭素数1以上4以下の炭化水素基が好ましく、水素原子がより好ましい。
M10及びM11は同一又は異なって、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、有機カチオン、アンモニウム(NH4
+)又は水素原子を示す。有機カチオンとしては、一又は複数の実施形態において、有機アンモニウムが挙げられ、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等のアルキルアンモニウムが挙げられる。
M10は、一又は複数の実施形態において、研磨速度向上及び平坦性向上の観点から、アルカリ金属イオン、アンモニウム(NH4
+)及び水素原子から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウム(NH4
+)及び水素原子から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
M11は、一又は複数の実施形態において、研磨速度向上及び平坦性向上の観点から、アルカリ金属イオン、アンモニウム(NH4
+)及び水素原子から選ばれる少なくとも1種が好ましく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、アンモニウム(NH4
+)及び水素原子から選ばれる少なくとも1種がより好ましく、水素原子が更に好ましい。
式(V)中、X2は、-SO3M12又は-PO3M13M14を示す。X2は、一又は複数の実施形態において、溶解安定性の観点から、-SO3M12が好ましい。
M12、M13及びM14は同一又は異なって、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、有機カチオン、アンモニウム(NH4
+)又は水素原子を示す。有機カチオンとしては、一又は複数の実施形態において、有機アンモニウムが挙げられ、例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム等のアルキルアンモニウムが挙げられる。
式(V)中、m及びnは、m+n=1とした場合のモル分率であって、mは、一又は複数の実施形態において、研磨速度向上及び平坦性向上の観点から、0.3を超えることが好ましく、0.35以上がより好ましく、0.4以上が更に好ましく、0.4超が更に好ましく、0.42以上が更により好ましく、0.43以上が更により好ましく、0.44以上が更により好ましく、0.45以上が更により好ましく、0.46以上が更により好ましく、0.48以上が更により好ましい。mは、一又は複数の実施形態において、0.8以下、0.75以下、0.7以下、又は、0.65以下である。
【0032】
成分B1としては、例えば、4-ヒドロキシ安息香酸(4-HBA)とフェノールスルホン酸(PhS)との共縮合物が挙げられる。
【0033】
成分B1は、例えば、構成モノマーb11と構成モノマーb12を有するモノマーを、ホルムアルデヒド存在下で付加縮合法等の公知の手段により重合することにより製造することができる。耐加水分解性の向上及び酸性研磨液中での保存安定性の向上の観点から、付加縮合法により製造されることが好ましい。
【0034】
本開示において、成分B1を構成する全構成単位中に占めるある構成単位の含有量(モル%)として、合成条件によっては、成分B1の合成の全工程で反応槽に仕込まれた全構成単位を導入するための化合物中に占める前記反応槽に仕込まれた該構成単位を導入するための化合物量(モル%)を使用してもよい。また、本開示において、成分B1が2種以上の構成単位を含む場合、2つの構成単位の構成比(モル比)として、合成条件によっては、前記成分B1の合成の全工程で反応槽に仕込まれた該2つの構成単位を導入するための化合物量比(モル比)を使用してもよい。
【0035】
成分B1は、構成モノマーb11由来の構成単位及び構成モノマーb12由来の構成単位、あるいは、式(III)で表される構成に含まれないその他の構成単位を有していてもよい。
【0036】
成分B1を構成する各構成単位の配列は、ランダム、ブロック、又はグラフトのいずれでもよい。
【0037】
<成分B2:水溶性アニオン性縮合物>
成分B2は、一又は複数の実施形態において、主鎖にベンゼン環又はナフタレン環を有する水溶性アニオン性縮合物である。成分B2は、一又は複数の実施形態において、主鎖のベンゼン環又はナフタレン環にアニオン性基を有する構成単位(以下、単に「アニオン性構成単位」ともいう)を含むアニオン性縮合物である。
アニオン性構成単位におけるアニオン性基は、一又は複数の実施形態において、-SO3M12又は-PO3M13M14であり、M12、M13及びM14は同一又は異なって、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、有機カチオン、アンモニウム(NH4
+)又は水素原子である。
アニオン性構成単位は、水溶性の確保、過研磨時の窒化珪素膜の研磨速度及びディッシング速度抑制の観点から、主鎖を構成するベンゼン環又はナフタレン環の少なくとも1つの水素原子がスルホン酸基に置換された構造を有することが好ましい。アニオン性構成単位の由来となる芳香族モノマーとしては、例えば、フェノールスルホン酸、ナフタレンスルホン酸及びこれらの塩から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。成分B2は、1種であってもよいし、2種以上の組合せでもよい。成分B2には、一又は複数の実施形態において、成分B1は含まれないものとする。成分B1と成分B2とを組み合わせて使用してもよい。
【0038】
成分B2は、アニオン性構成単位以外の構成単位をさらに含有することができる。アニオン性構成単位以外の構成単位としては、一又は複数の実施形態において、酸化珪素膜の研磨速度の確保、過研磨時の窒化珪素膜の研磨速度及びディッシング速度の抑制の観点から、下記式(VI)で表される構成単位b21(以下、単に「構成単位b21」ともいう)、及び下記式(VII)で表される構成単位b22(以下、単に「構成単位b22」ともいう)から選ばれる少なくとも1種の構成単位が挙げられる。
【0039】
(構成単位b21)
構成単位b21は、下記式(VI)で表される構成単位である。
【化5】
【0040】
式(VI)中、R
7及びR
8は同一又は異なって、水素原子又は-OM
15を示し、M
15はアルカリ金属、アルカリ土類金属、有機カチオン、アンモニウム及び水素原子から選ばれる少なくとも1種を示し、R
9及びR
10は同一又は異なって、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アラルキル基又は-OM
16を示し、M
16はアルカリ金属、アルカリ土類金属、有機カチオン、アンモニウム及び水素原子から選ばれる少なくとも1種であり、X
3は、結合手、-CH
2-、-S-、-SO
2-、-C(CH
3)
2-、又は
【化6】
である。
式(VI)において、R
7及びR
8は、研磨速度の確保、過研磨時の窒化珪素膜の研磨速度及びディッシング速度の抑制の観点から、-OHが好ましい。R
9及びR
10は、研磨速度の確保の観点から、水素原子又はアルキル基が好ましく、水素原子がより好ましい。X
3は、研磨速度の確保、過研磨時の窒化珪素膜の研磨速度及びディッシング速度の抑制の観点から、-SO
2-が好ましい。
【0041】
構成単位b21を形成するモノマーとしては、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(BisS)、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルホン(BSDM)等が挙げられる。
【0042】
(構成単位b22)
構成単位b22は、下記式(VII)で表される構成単位である。
【化7】
【0043】
式(VII)中、R11は水素原子又は-OM17を示し、M17はアルカリ金属、アルカリ土類金属、有機カチオン、アンモニウム及び水素原子から選ばれる少なくとも1種であり、R12は水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、又は-OM18を示し、M18はアルカリ金属、アルカリ土類金属、有機カチオン、アンモニウム及び水素原子から選ばれる少なくとも1種である。
式(VII)において、R11は、研磨速度の確保、過研磨時の窒化珪素膜の研磨速度及びディッシング速度の抑制の観点から、-OHが好ましい。R12は、研磨速度の確保、過研磨時の窒化珪素膜の研磨速度及びディッシング速度の抑制の観点から、水素原子又はアルキル基が好ましい。
【0044】
構成単位b22を形成するモノマーとしては、例えば、pクレゾール、フェノール等が挙げられる。
【0045】
成分B2としては、研磨速度の確保、過研磨時の窒化珪素膜の研磨速度及びディッシング速度の抑制の観点から、芳香環及びアニオン性基を有する芳香族モノマーの縮合物、アニオン性構成単位と該アニオン性構成単位以外の構成単位とを含む縮合物、及びこれらの塩が挙げられる。塩としては、ナトリウム塩等のアルカリ金属イオン、アンモニウム塩、有機アミン塩等が挙げられる。
芳香環及びアニオン性基を有する芳香族モノマーの縮合物又はその塩としては、研磨速度の確保、過研磨時の窒化珪素膜の研磨速度及びディッシング速度の抑制の観点から、主鎖を構成する芳香環の少なくとも1つの水素原子がスルホン酸基に置換された構造を有する縮合物又はその塩が好ましく、フェノールスルホン酸、ナフタレンスルホン酸及びこれらの塩から選ばれる少なくとも1種がより好ましい。
アニオン性構成単位と該アニオン性構成単位以外の構成単位とを含む縮合物又はその塩としては、研磨速度の確保、過研磨時の窒化珪素膜の研磨速度及びディッシング速度の抑制の観点から、アニオン性構成単位と構成単位b21及び構成単位b22から選ばれる少なくとも1種の構成単位とを含む縮合物、及びこれらの塩から選ばれる少なくとも1種が好ましい。
成分B2としては、例えば、フェノールスルホン酸の縮合物、ナフタレンスルホン酸の縮合物、ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン(BisS)とフェノールスルホン酸の縮合物、pクレゾールとフェノールスルホン酸の縮合物、ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)スルホン(BSDM)とフェノールスルホン酸の縮合物、及びフェノールとフェノールスルホン酸の縮合物から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0046】
成分B2が、アニオン性構成単位と、構成単位b21及び構成単位b22から選ばれる少なくとも1種の構成単位とを含む縮合物である場合、成分B2の全構成単位中における、アニオン性構成単位と構成単位b21または構成単位b22とのモル比(アニオン性構成単位/構成単位b21、または、アニオン性構成単位/構成単位b22)は、過研磨時の窒化珪素膜の研磨速度及びディッシング速度の抑制、水溶性の観点から、100/0~50/50が好ましく、99/1~60/40がより好ましく、98/2~70/30が更に好ましい。
【0047】
成分B2は、アニオン性構成単位、構成単位b21及びb22以外のその他の構成単位をさらに有していてもよい。その他の構成単位としては、ベンゼンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸のハロゲン化誘導体、アルキルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸のハロゲン化誘導体、アルキルナフタレンスルホン酸、トルエンスルホン酸、安息香酸等が挙げられる。
【0048】
<成分B3:共重合体>
成分B3は、一又は複数の実施形態において、スチレン由来の構成単位とアニオン性基を有するモノマー由来の構成単位を含む共重合体である。成分B3は、研磨速度向上及び平坦性向上の観点から、スチレン(St)由来の構成単位(以下、「構成単位b31」ともいう)とアクリル酸(AAc)、メタクリル酸、マレイン酸(MA)及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種のモノマー由来の構成単位(以下、「構成単位b32」ともいう)とを含む共重合体であることが好ましい。塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩等が挙げられる。成分B3は、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0049】
成分B3としては、例えば、スチレン/アクリル酸共重合体(St/AAc)、及びスチレン/マレイン酸共重合体(St/MA)から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。
【0050】
成分B3の全構成単位中の構成単位b31の含有量(モル%)は、ディッシング抑制の観点から、3以上が好ましく、5以上がより好ましく、8以上が更に好ましく、そして、水溶性の観点から、80以下が好ましく、70以下がより好ましく、50以下が更に好ましい。
【0051】
成分B3は、構成単位b31、b32以外のその他の構成単位をさらに含有していてもよい。その他の構成単位としては、ビニルリン酸、スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸等が挙げられる。
【0052】
成分B3は、例えば、スチレンと、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸及びそれらの塩から選ばれる少なくとも1種のモノマーとを含むモノマー混合物を溶液重合法で重合させる等の公知の方法により得ることができる。溶液重合に用いられる溶媒としては、水;トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素;エタノール、2-プロパノール等のアルコール;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン;テトラヒドロフラン、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル;等が挙げられる。重合に用いられる重合開始剤としては、公知のラジカル開始剤を用いることができ、例えば、過硫酸アンモニウム塩が挙げられる。重合の際、連鎖移動剤をさらに用いることができ、例えば、2-メルカプトエタノール、β-メルカプトプロピオン酸等のチオール系連鎖移動剤が挙げられる。本開示において、成分B3の全構成単位中の各構成単位の含有量は、重合に用いるモノマー全量に対する各モノマーの使用量の割合とみなすことができる。
【0053】
成分B3を構成する各構成単位の配列は、ランダム、ブロック、又はグラフトのいずれでもよい。
【0054】
成分Bの重量平均分子量は、ディッシング抑制の観点から、1,500以上が好ましく、4,000以上がより好ましく、9,000以上が更に好ましく、そして、研磨速度の観点から、10万以下が好ましく、8万以下がより好ましく、5万以下が更に好ましい。より具体的には、成分Bの重量平均分子量は、1,500以上10万以下が好ましく、4,000以上8万以下がより好ましく、9,000以上5万以下が更に好ましい。本開示において、重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて実施例に記載の条件で測定される値とする。
成分Bが成分B1である場合、成分B1の重量平均分子量は、ディッシング抑制の観点から、1,500以上が好ましく、5,000以上がより好ましく、9,000以上が更に好ましく、そして、研磨速度の観点から、10万以下が好ましく、8万以下がより好ましく、5万以下が更に好ましい。より具体的には、成分B1の重量平均分子量は、1,500以上10万以下が好ましく、4,000以上8万以下がより好ましく、9,000以上5万以下が更に好ましい。
成分Bが成分B2である場合、成分B2の重量平均分子量は、ディッシング抑制の観点から、1,500以上が好ましく、2,000以上がより好ましく、4,000以上が更に好ましく、そして、研磨速度の観点から、5万以下が好ましく、4万以下がより好ましく、2万以下が更に好ましい。より具体的には、成分B2の重量平均分子量は、1,500以上5万以下が好ましく、2,000以上4万以下がより好ましく、4,000以上2万以下が更に好ましい。
成分Bが成分B3である場合、成分B3の重量平均分子量は、ディッシング抑制の観点から、1,500以上が好ましく、2,000以上がより好ましく、3,000以上が更に好ましく、そして、研磨速度の観点から、10万以下が好ましく、5万以下がより好ましく、3万以下が更に好ましい。より具体的には、成分B3の重量平均分子量は、1,500以上10万以下が好ましく、2,000以上5万以下がより好ましく、3,000以上3万以下が更に好ましい。
【0055】
本開示の研磨液組成物中の成分Bの含有量は、ディッシング抑制の観点から、0.005質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましく、0.02質量%以上が更に好ましく、そして、研磨速度の観点から、0.5質量%以下が好ましく、0.3質量%以下がより好ましく、0.1質量%以下が更に好ましい。より具体的には、成分Bの含有量は、0.005質量%以上0.5質量%以下が更に好ましく、0.01質量%以上0.3質量%以下が更に好ましく、0.02質量%以上0.1質量%以下が更に好ましい。成分Bが2種以上の組合せである場合、成分Bの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0056】
本開示の研磨液組成物中の成分Aの含有量に対する成分Bの含有量の質量比B/Aは、研磨速度向上及び平坦性向上の観点から、0.01以上が好ましく、0.03以上がより好ましく、0.05以上が更に好ましく、そして、同様の観点から、0.5以下が好ましく、0.3以下がより好ましく、0.2が更に好ましい。より具体的には、質量比B/Aは、0.01以上0.5以下が好ましく、0.03以上0.3以下がより好ましく、0.05以上0.2以下が好ましい。
【0057】
[不飽和環状化合物(成分C)]
本開示の研磨液組成物は、不飽和環状化合物(以下、単に「成分C」ともいう)を含有する。成分Cは、環状骨格中に下記式(I)又は式(II)で表される官能基を有する不飽和環状化合物である。成分Cは、1種でもよいし、2種以上の組合せでもよい。
【0058】
不飽和環状化合物に含まれる不飽和環としては、例えば、不飽和複素環が挙げられる。不飽和複素環としては、研磨速度向上及び平坦性向上の観点から、複素環内に窒素原子又は酸素原子を少なくとも1個有することが好ましい。
【0059】
(環状骨格中に式(I)で表される官能基を有する不飽和環状化合物)
成分Cは、一又は複数の実施形態において、環状骨格中に下記式(I)で表される官能基を有する不飽和環状化合物である。
【化8】
式(I)中、Yは、OM
1又はSM
2を示し、M
1及びM
2は同一又は異なって、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、有機カチオン、アンモニウム(NH
4
+)又は水素原子を示す。
なお、成分Cは、互変異性の点から、環状骨格中に下記式(I´)で表される官能基を有する不飽和環状化合物ということもできる。
【化9】
【0060】
環状骨格中に式(I)で表される官能基を有する不飽和環状化合物としては、一又は複数の実施形態において、研磨速度向上及び平坦性向上の観点から、N-オキシド基のオルト位にヒドロキシル基を有する含窒素複素芳香環骨格を含むN-オキシド化合物及びその塩(以下、「成分C1」ともいう)、N-オキシド基のオルト位にチオール基を有する含窒素複素芳香環骨格を含むN-オキシド化合物及びその塩(以下、「成分C2」)等が挙げられる。
【0061】
本開示において、N-オキシド化合物とは、一又は複数の実施形態において、N-オキシド基(N→O基)を有する化合物を示す。N-オキシド化合物は、N→O基を1又は2以上有することができ、入手容易性の点からは、N→O基の数は1つが好ましい。
【0062】
<N-オキシド化合物(成分C1)>
成分C1は、一又は複数の実施形態において、N-オキシド基のオルト位にヒドロキシル基を有する含窒素複素芳香環骨格を含むN-オキシド化合物及びその塩である。上記の塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、有機アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。成分C1は、1種類単独で用いてもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0063】
本開示において、成分C1の含窒素複素芳香環骨格に含まれる少なくとも1つの窒素原子がN-オキシドを形成する。成分C1に含まれる含窒素複素芳香環としては、一又は複数の実施形態において、単環又は2環の縮合環が挙げられる。成分C1に含まれる含窒素複素芳香環の窒素原子数としては、一又は複数の実施形態において、1~3個が挙げられ、研磨速度向上の観点から、1又は2個が好ましく、1個がより好ましい。
成分C1に含まれる含窒素複素芳香環骨格としては、一又は複数の実施形態において、ピリジンN-オキシド骨格、キノリンN-オキシド骨格等から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。本開示において、ピリジンN-オキシド骨格とは、ピリジン環に含まれる窒素原子がN-オキシドを形成している構成を示す。キノリンN-オキシド骨格とは、キノリン環に含まれる窒素原子がN-オキシドを形成している構成を示す。
【0064】
成分C1としては、一又は複数の実施形態において、ピリジン環のN-オキシド基のオルト位にヒドロキシ基を有するピリジン環を含むN-オキシド化合物、キノリン環のN-オキシド基のオルト位にヒドロキシ基を有するキノリン環を含むN-オキシド化合物、及びこれらの塩から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらの中でも、研磨速度向上、水溶性の観点から、成分C1としては、ピリジン環のN-オキシド基のオルト位にヒドロキシ基を有するピリジン環を含むN-オキシド化合物又はその塩が好ましい。
【0065】
成分C1としては、例えば、2-ヒドロキシピリジンN-オキシド及びこれらの塩から選ばれる少なくとも1種等が挙げられる。
【0066】
<N-オキシド化合物(成分C2)>
成分C2は、一又は複数の実施形態において、含窒素複素芳香環骨格のN-オキシド基のオルト位にチオール基を有する含窒素複素芳香環骨格を含む、N-オキシド化合物又はその塩である。上記の塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、有機アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。成分C2は、1種類単独で用いてもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0067】
本開示において、成分C2の含窒素複素芳香環骨格に含まれる少なくとも1つの窒素原子がN-オキシドを形成する。成分C2に含まれる含窒素複素芳香環としては、一又は複数の実施形態において、単環又は2環の縮合環が挙げられる。成分C2に含まれる含窒素複素芳香環の窒素原子数としては、一又は複数の実施形態において、1~3個が挙げられ、研磨速度向上の観点から、1又は2個が好ましく、1個がより好ましい。
成分C2に含まれる含窒素複素芳香環骨格としては、一又は複数の実施形態において、ピリジンN-オキシド骨格、キノリンN-オキシド骨格等から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。本開示において、ピリジンN-オキシド骨格とは、ピリジン環に含まれる窒素原子がN-オキシドを形成している構成を示す。キノリンN-オキシド骨格とは、キノリン環に含まれる窒素原子がN-オキシドを形成している構成を示す。
【0068】
成分C2としては、一又は複数の実施形態において、ピリジン環のN-オキシド基のオルト位にチオール基(-SH)を有するピリジン環を含むN-オキシド化合物、キノリン環のN-オキシド基のオルト位にチオール基(-SH)を有するキノリン環を含むN-オキシド化合物、及びこれらの塩から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。これらの中でも、研磨速度向上の観点から、成分B2としては、ピリジン環のN-オキシド基のオルト位にチオール基(-SH)を有するピリジン環を含むN-オキシド化合物又はその塩が好ましい。
【0069】
成分C2としては、例えば、2-メルカプトピリジンN-オキシド又はその塩等が挙げられる。
【0070】
(環状骨格中に式(II)で表される官能基を有する不飽和環状化合物)
成分Cは、一又は複数の実施形態において、環状骨格中に下記式(II)で表される官能基を有する不飽和環状化合物である。
【化10】
式(II)中、M
3は、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、有機カチオン、アンモニウム(NH
4
+)又は水素原子を示す。
【0071】
環状骨格中に式(II)で表される官能基を有する不飽和環状化合物としては、一又は複数の実施形態において、研磨速度向上及び平坦性向上の観点から、ケト基と該ケト基のオルト位にヒドロキシル基とを有する含酸素複素環骨格を含む化合物又はその塩(以下、「成分C3」ともいう)が挙げられる。上記の塩としては、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、エタノールアミン塩等の有機アミン塩、アンモニウム塩等が挙げられる。成分C3は、1種類単独で用いてもよいし、2種以上の組合せであってもよい。
【0072】
成分C3に含まれる含酸素複素環としては、一又は複数の実施形態において、単環又は2環の縮合環が挙げられる。成分C3に含まれる含酸素複素環の酸素原子数としては、一又は複数の実施形態において、研磨速度向上の観点から、1個が好ましい。
成分C3に含まれる含酸素複素環骨格としては、一又は複数の実施形態において、ピラン骨格が挙げられる。
【0073】
成分C3としては、例えば、マルトール、エチルマルトール等が挙げられる。
【0074】
本開示の研磨液組成物中の成分Cの含有量は、一又は複数の実施形態において、ディッシング抑制の観点から、0.0001質量%以上が好ましく、0.001質量%以上がより好ましく、0.0015質量%以上が更に好ましく、そして、研磨速度の観点から、0.1質量%以下が好ましく、0.04質量%以下がより好ましく、0.015質量%以下が更に好ましい。より具体的には、成分Cの含有量は、0.0001質量%以上0.1質量%以下が好ましく、0.001質量%以上0.04質量%以下がより好ましく、0.0015質量%以上0.015質量%以下が更に好ましい。成分Cが2種以上の組合せである場合、成分Cの含有量はそれらの合計含有量をいう。
【0075】
本開示の研磨液組成物中における成分Cの含有量に対する成分Bの含有量の質量比B/Cは、一又は複数の実施形態において、研磨速度の観点から、1以上が好ましく、2以上がより好ましく、3以上が更に好ましく、5以上が更に好ましく、8以上が更に好ましく、そして、ディッシング抑制の観点から、100以下が好ましく、50以下がより好ましく、30以下が更に好ましく、25以下が更に好ましい。より具体的には、質量比B/Cは、1以上100以下が好ましく、2以上100以下がより好ましく、3以上50以下が更に好ましく、5以上30以下が更に好ましく、8以上25以下が更に好ましい。
【0076】
[水系媒体]
本開示の研磨液組成物に含まれる水系媒体としては、蒸留水、イオン交換水、純水及び超純水等の水、又は、水と溶媒との混合溶媒等が挙げられる。上記溶媒としては、水と混合可能な溶媒(例えば、エタノール等のアルコール)が挙げられる。水系媒体が、水と溶媒との混合溶媒の場合、混合媒体全体に対する水の割合は、本開示の効果が妨げられない範囲であれば特に限定されなくてもよく、経済性の観点から、例えば、95質量%以上が好ましく、98質量%以上がより好ましい。被研磨基板の表面清浄性の観点から、水系媒体としては、水が好ましく、イオン交換水及び超純水がより好ましく、超純水が更に好ましい。本開示の研磨液組成物中の水系媒体の含有量は、成分A、成分B、成分C及び必要に応じて配合される後述する任意成分を除いた残余とすることができる。
【0077】
[その他の成分]
本開示の研磨液組成物は、pH調整剤、成分B以外の高分子、界面活性剤、増粘剤、分散剤、防錆剤、防腐剤、塩基性物質等のその他の成分をさらに含有することができる。
【0078】
[研磨液組成物]
本開示の研磨液組成物は、例えば、成分A、成分B、成分C及び水系媒体、並びに、所望により上述した任意成分(その他の成分)を公知の方法で配合する工程を含む製造方法によって製造できる。例えば、本開示の研磨液組成物は、少なくとも成分A、成分B、成分C及び水系媒体を配合してなるものとすることができる。本開示において「配合する」とは、成分A、成分B、成分C及び水系媒体、並びに必要に応じて上述した任意成分(その他の成分)を同時に又は順に混合することを含む。混合する順序は特に限定されない。前記配合は、例えば、ホモミキサー、ホモジナイザー、超音波分散機及び湿式ボールミル等の混合器を用いて行うことができる。本開示の研磨液組成物の製造方法における各成分の配合量は、上述した本開示の研磨液組成物中の各成分の含有量と同じとすることができる。
【0079】
本開示の研磨液組成物の実施形態は、全ての成分が予め混合された状態で市場に供給される、いわゆる1液型であってもよいし、使用時に混合される、いわゆる2液型であってもよい。例えば、2液型の研磨液組成物としては、一又は複数の実施形態において、成分Aを含む第1液と、成分B及び成分Cを含む第2液とから構成され、使用時に第1液と第2液とが混合されるものが挙げられる。第1液と第2液との混合は、研磨対象の表面への供給前に行われてもよいし、これらは別々に供給されて被研磨基板の表面上で混合されてもよい。第1液及び第2液はそれぞれ必要に応じて上述した任意成分を含有することができる。
【0080】
本開示の研磨液組成物のpHは、研磨速度向上の観点から、3.5以上が好ましく、4以上がより好ましく、5以上が更に好ましく、そして、ディッシング抑制の観点から、9以下が好ましく、8.5以下がより好ましく、8以下が更に好ましい。より具体的には、pHは、3.5以上9以下が好ましく、4以上8.5以下がより好ましく、5以上8以下が更に好ましい。本開示において、研磨液組成物のpHは、25℃における値であって、pHメータを用いて測定でき、具体的には、実施例に記載の方法で測定できる。
【0081】
本開示において「研磨液組成物中の各成分の含有量」とは、研磨液組成物の研磨への使用を開始する時点での前記各成分の含有量をいう。本開示の研磨液組成物は、その安定性が損なわれない範囲で濃縮された状態で保存及び供給されてもよい。この場合、製造・輸送コストを低くできる点で好ましい。そしてこの濃縮液は、必要に応じて前述の水系媒体で適宜希釈して研磨工程で使用することができる。希釈割合としては5~100倍が好ましい。
【0082】
[被研磨膜]
本開示の研磨液組成物を用いて研磨される被研磨膜としては、例えば、半導体基板の製造過程で形成される酸化珪素膜が挙げられる。したがって、本開示の研磨液組成物は、酸化珪素膜の研磨を必要とする工程に使用できる。一又は複数の実施形態において、本開示の研磨液組成物は、半導体基板の素子分離構造を形成する工程で行われる酸化珪素膜の研磨、層間絶縁膜を形成する工程で行われる酸化珪素膜の研磨、埋め込み金属配線を形成する工程で行われる酸化珪素膜の研磨、又は、埋め込みキャパシタを形成する工程で行われる酸化珪素膜の研磨に好適に使用できる。その他の一又は複数の実施形態において、本開示の研磨液組成物は、3次元NAND型フラッシュメモリ等の3次元半導体装置の製造に好適に使用できる。
【0083】
[研磨液キット]
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を調製するためのキット(以下、「本開示の研磨液キット」ともいう)に関する。
本開示の研磨液キットとしては、例えば、成分A及び水系媒体を含む砥粒分散液(第1液)と、成分B及び成分Cを含む添加剤水溶液(第2液)と、を相互に混合されない状態で含み、これらが使用時に混合され、必要に応じて水系媒体を用いて希釈される、研磨液キット(2液型研磨液組成物)が挙げられる。前記砥粒分散液(第1液)に含まれる水系媒体は、研磨液組成物の調製に使用する水系媒体の全量でもよいし、一部でもよい。前記添加剤水溶液(第2液)には、研磨液組成物の調製に使用する水系媒体の一部が含まれていてもよい。前記砥粒分散液(第1液)及び前記添加剤水溶液(第2液)にはそれぞれ必要に応じて、上述した任意成分(その他の成分)が含まれていてもよい。前記砥粒分散液(第1液)と前記添加剤水溶液(第2液)との混合は、研磨対象の表面への供給前に行われてもよいし、これらは別々に供給されて被研磨基板の表面上で混合されてもよい。本開示の研磨液キットによれば、酸化珪素膜の研磨速度を確保しつつ、研磨後の基板表面の平坦性を向上可能な研磨液組成物を得ることができる。
【0084】
[研磨方法]
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨膜を研磨する工程を含み、被研磨膜は、半導体基板の製造過程で形成される酸化珪素膜である、研磨方法(以下、本開示の研磨方法ともいう)に関する。本開示の研磨方法を使用することにより、酸化珪素膜の研磨速度を確保しつつ、研磨後の基板表面の平坦性の向上が可能であるため、品質が向上した半導体基板の生産性を向上できるという効果が奏されうる。具体的な研磨の方法及び条件は、後述する本開示の半導体基板の製造方法と同じようにすることができる。
【0085】
[半導体基板の製造方法]
本開示は、一態様において、本開示の研磨液組成物を用いて被研磨膜を研磨する工程(以下、「本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程」ともいう)を含む、半導体基板の製造方法(以下、「本開示の半導体基板の製造方法」ともいう。)に関する。本開示の半導体基板の製造方法は、例えば、本開示の研磨液組成物を用いて、酸化珪素膜の窒化珪素膜と接する面の反対面、例えば、酸化珪素膜の凹凸段差面を研磨する工程を含む、半導体装置の製造方法に関する。本開示の半導体装置の製造方法によれば、酸化珪素膜の研磨速度を確保しつつ、研磨後の基板表面の平坦性の向上が可能であるので、半導体装置を効率よく製造できるという効果が奏されうる。
【0086】
酸化珪素膜の凹凸段差面は、例えば、酸化珪素膜を化学気相成長法等の方法で形成した際に酸化珪素膜の下層の凹凸段差に対応して自然に形成されものであってもよいし、リソグラフィー法等を用いて凹凸パターンを形成することにより得られたものであってもよい。
【0087】
本開示の半導体基板の製造方法の具体例としては、まず、シリコン基板を酸化炉内で酸素に晒すことよりその表面に二酸化シリコン層を成長させ、次いで、当該二酸化シリコン層上に窒化珪素(Si3N4)膜又はポリシリコン膜等の研磨ストッパ膜を、例えばCVD法(化学気相成長法)にて形成する。次に、シリコン基板と前記シリコン基板の一方の主面側に配置された研磨ストッパ膜とを含む基板、例えば、シリコン基板の二酸化シリコン層上に研磨ストッパ膜が形成された基板に、フォトリソグラフィー技術を用いてトレンチを形成する。次いで、例えば、シランガスと酸素ガスを用いたCVD法により、トレンチ埋め込み用の被研磨膜である酸化珪素(SiO2)膜を形成し、研磨ストッパ膜が被研磨膜(酸化珪素膜)で覆われた被研磨基板を得る。酸化珪素膜の形成により、前記トレンチは酸化珪素膜の酸化珪素で満たされ、研磨ストッパ膜の前記シリコン基板側の面の反対面は酸化珪素膜によって被覆される。このようにして形成された酸化珪素膜のシリコン基板側の面の反対面は、下層の凸凹に対応して形成された段差を有する。次いで、CMP法により、酸化珪素膜を、少なくとも研磨ストッパ膜のシリコン基板側の面の反対面が露出するまで研磨し、より好ましくは、酸化珪素膜の表面と研磨ストッパ膜の表面とが面一になるまで酸化珪素膜を研磨する。本開示の研磨液組成物は、このCMP法による研磨を行う工程に用いることができる。酸化珪素膜の下層の凹凸に対応して形成された凸部の幅は、例えば、0.5μm以上5000μm以下であり、凹部の幅は、例えば、0.5μm以上5000μm以下である。
【0088】
CMP法による研磨では、被研磨基板の表面と研磨パッドとを接触させた状態で、本開示の研磨液組成物をこれらの接触部位に供給しつつ被研磨基板及び研磨パッドを相対的に移動させることにより、被研磨基板の表面の凹凸部分を平坦化させることができる。
なお、本開示の半導体基板の製造方法において、シリコン基板の二酸化シリコン層と研磨ストッパ膜との間に他の絶縁膜が形成されていてもよいし、被研磨膜(例えば、酸化珪素膜)と研磨ストッパ膜(例えば、窒化珪素膜、ポリシリコン膜)との間に他の絶縁膜が形成されていてもよい。
【0089】
本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程において、研磨パッドの回転数は、例えば、30~200rpm/分、被研磨基板の回転数は、例えば、30~200rpm/分、研磨パッドを備えた研磨装置に設定される研磨荷重は、例えば、20~500g重/cm2、研磨液組成物の供給速度は、例えば、10~500mL/分以下に設定できる。
【0090】
本開示の研磨液組成物を用いた研磨工程において、用いられる研磨パッドの材質等については、従来公知のものが使用できる。研磨パッドの材質としては、例えば、硬質発泡ポリウレタン等の有機高分子発泡体や無発泡体等が挙げられるが、なかでも、硬質発泡ポリウレタンが好ましい。
【実施例】
【0091】
以下に、実施例により本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【0092】
1.研磨液組成物の調製(実施例1~8、比較例1~7)
酸化セリウム粒子(成分A)と、表1に示すアニオン性ポリマー(成分B又は非成分B)と、表2に示す不飽和環状化合物(成分C)と、水とを混合し、実施例1~8及び比較例1~7の研磨液組成物を得た。研磨液組成物中の各成分の含有量(質量%)は、表3に示すとおりであり、水の含有量は、成分Aと成分B又は非成分Bと成分Cとを除いた残余である。pH調整はアンモニアもしくは硝酸を用いて実施した。
【0093】
酸化セリウム粒子(成分A)
粉砕セリア[平均一次粒子径:49.5nm、BET比表面積16.8m2/g、表面電位:-50mV]
【0094】
水溶性アニオン性ポリマー(成分B又は非成分B)
表1に示す水溶性アニオン性ポリマーの詳細を下記に示す。表1に示す水溶性アニオン性ポリマーのうち、ホルムアルデヒド(共)縮合物は、モノマーの総量1モルに対して、ホルムアルデヒドとして0.93~0.99モルとなるようにホルマリンを85~105℃で、3~6時間かけて滴下し、滴下後95~105℃で4~9時間かけて縮合反応を行うことで合成した。共重合体における構成モノマーの比率は、モノマーの配合量(モル比)で調整した。
下記水溶性アニオン性ポリマーは、いずれも、研磨液組成物中に完全に溶解していることを目視で確認した。
(成分B1)
HBA/PhS[4-ヒドロキシ安息香酸(4-HBA)とp-フェノールスルホン酸(pPhS)とのホルムアルデヒド縮合物、構成モノマーモル比HBA/PhS=50/50)、重量平均分子量21,000]
(成分B2)
BisS/PhS[ビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホンとフェノールスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、構成モノマーモル比BisS/PhS=2.5/97.5)、重量平均分子量5,000]
ナフタレンスルホン縮合物[ナフタレンスルホン酸のホルムアルデヒド縮合物、重量平均分子量8,000]
(成分B3)
St/MA[スチレン/マレイン酸共重合体、構成モノマーモル比St/MA=50/50、重量平均分子量5,000]
St/AAc[スチレン/アクリル酸共重合体、構成モノマーモル比St/AAc=10/90、重量平均分子量15,000]
(非成分B)
ポリアクリル酸[重量平均分子量24,000、花王株式会社製]
【表1】
【0095】
不飽和環状化合物(成分C)
(成分C1)
HOPO[2-ヒドロキシピリジンN-オキシド、東京化成工業株式会社製]
(成分C3)
エチルマルトール[東京化成工業株式会社製]
【表2】
【0096】
2.各パラメータの測定方法
(1)研磨液組成物のpH
研磨液組成物の25℃におけるpH値は、pHメータ(東亜ディーケーケー株式会社製、「HW-41K」)を用いて測定した値であり、pHメータの電極を研磨液組成物へ浸漬して1分後の数値である。
【0097】
(2)酸化セリウム粒子(セリア、成分A)の平均一次粒径
酸化セリウム粒子(成分A)の平均一次粒径(nm)は、下記BET(窒素吸着)法によって得られる比表面積S(m2/g)を用い、酸化セリウム粒子の真密度を7.2g/cm3として算出した。
【0098】
(3)酸化セリウム粒子(成分A)のBET比表面積
比表面積は、酸化セリウム粒子分散液を120℃で3時間熱風乾燥した後、メノウ乳鉢で細かく粉砕しサンプルを得た。測定直前に120℃の雰囲気下で15分間乾燥した後、比表面積測定装置(マイクロメリティック自動比表面積測定装置「フローソーブIII2305」、島津製作所製)を用いて窒素吸着法(BET法)により測定した。
【0099】
(4)酸化セリウム粒子(成分A)の表面電位
酸化セリウム粒子の表面電位(mV)は、表面電位測定装置(協和界面化学社製「ゼータプローブ」)にて測定した。超純水を用い、酸化セリウム濃度0.15%に調整し、表面電位測定装置に投入し、粒子密度7.13g/ml、粒子誘電率7の条件にて表面電位を測定した。測定回数は3回行い、それらの平均値を測定結果とした。
【0100】
(5)水溶性アニオン性ポリマー(成分B及び非成分B)の重量平均分子量
成分B及び非成分Bの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により下記条件で測定した。
<測定条件>
カラム:G4000SWXL+G2000SWXL(東ソー)
溶離液:30mM CH3COONa/CH3CN=6/4
流量:0.7ml/min
検出:UV280nm
サンプルサイズ:0.2mg/ml
標準物質:西尾工業(株)製 ポリスチレンスルホン酸ソーダ換算(単分散ポリスチレンスルホン酸ナトリウム:分子量、206、1,800、4,000、8,000、18,000、35,000、88,000、780,000)
検出器:東ソー株式会社 UV-8020
【0101】
3.研磨液組成物のディッシング評価(実施例1~8、比較例1~7)
(1)試験片
(ブランケット基板)
シリコンウェーハの片面に、TEOS-プラズマCVD法で厚さ2000nmの酸化珪素膜(ブランケット膜)を形成することで、酸化珪素膜試験片(ブランケット基板)を得た。
(パターン基板)
評価用パターン基板として市販のCMP特性評価用ウエハ(Advantec社製の「P-TEOS MIT864 PTウエハ」、直径300mm)を用いた。この評価用パターン基板は、1層目として膜厚150nmの窒化珪素膜と2層目として膜厚450nmの酸化珪素膜が凸部として配置されており、凹部も同様に膜厚450nmの酸化珪素膜が配置され、凸部と凹部の段差が350nmになるよう、エッチングにより線状凹凸パターンが形成されている。酸化珪素膜はP-TEOSにより形成されており、凸部及び凹部の線幅がそれぞれ100μmのものを測定対象として使用した。
【0102】
(2)凸部の酸化珪素膜の研磨速度
各研磨液組成物を用いて、下記研磨条件で上記試験片を研磨した。研磨後、超純水を用いて洗浄し、乾燥して、試験片を後述の光干渉式膜厚測定装置による測定対象とした。
<研磨条件>
研磨装置:片面研磨機[荏原製作所製、F REX-200]
研磨パッド:硬質ウレタンパッド「IC-1000/Suba400」[ニッタ・ハース社製]
定盤回転数:100rpm
ヘッド回転数:107rpm
研磨荷重:300g重/cm2
研磨液供給量:200mL/分
研磨時間:1分間
研磨前及び研磨後において、ASET F5x(KLAテンコール社製)を用いて、凸部の酸化珪素膜の膜厚を測定した。凸部の酸化珪素膜の研磨速度を下記式により算出した。算出結果を表3に示した。
凸部の研磨速度(nm/分)
=[研磨前の凸部の酸化珪素膜厚さ(nm)-研磨後の凸部の酸化珪素膜厚さ(nm)]/研磨時間(分)
【0103】
(3)過研磨時のディッシング量
凸部の酸化珪素膜が平坦化され窒化珪素膜が露出した後、凸部の酸化珪素膜が平坦化されるのに要した時間(平坦化時間)の20%の時間を過剰に研磨し、過剰研磨前後での凹部での酸化珪素膜の膜厚をASET F5x(KLAテンコール社製)を用いて測定した。過研磨時のディッシング量は下記式により算出した。
窒化膜が露出してからの凹部の研磨量(nm)
=窒化膜露出時の凸部の高さ(nm)-研磨終了時の凹部の高さ(nm)
以上の結果を表3に示す。
【0104】
【0105】
表3に示されるように、実施例1~8では、成分Cを含まない比較例1、2、5~7、成分B及び成分Cを含まない比較例3、成分Bを含まない比較例4に比べて、凸部の酸化珪素膜の研磨速度を確保しつつ、過研磨時の窒化珪素膜のディッシング量が減少し、平坦性が向上していることわかった。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本開示の研磨液組成物は、一又は複数の実施形態において、高密度化又は高集積化用の半導体基板の製造方法において有用である。