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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-22
(45)【発行日】2025-05-30
(54)【発明の名称】電気化学セル用ペースト
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0202 20160101AFI20250523BHJP
   H01M 8/0217 20160101ALI20250523BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20250523BHJP
   C25B 9/00 20210101ALN20250523BHJP
   C25B 9/23 20210101ALN20250523BHJP
   C25B 9/60 20210101ALN20250523BHJP
   C25B 9/65 20210101ALN20250523BHJP
【FI】
H01M8/0202
H01M8/0217
H01M8/12 101
C25B9/00 A
C25B9/23
C25B9/60
C25B9/65
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2024050392
(22)【出願日】2024-03-26
【審査請求日】2024-03-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001117
【氏名又は名称】弁理士法人ぱてな
(72)【発明者】
【氏名】櫻場 俊徳
【審査官】守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-075207(JP,A)
【文献】特開2010-146727(JP,A)
【文献】特開2005-162594(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/02
H01M 8/12
H01M 8/24
C25B 1/04
C25B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気極とインターコネクタとを接合するための電気化学セル用ペーストであって、
一般式ABO3で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する導電性粉末と、樹脂と、溶剤と、アミンとを含むことを特徴とする電気化学セル用ペースト。
【請求項2】
前記導電性粉末は、La1-x1RE1 x1CoO3…(1)
で示されるランタン系ペロブスカイト型酸化物であり、
ここで、式1における
RE1はSr及びBaのうちの少なくとも1種である第1クロム補足元素を示し、
x1は、ペロブスカイト型結晶構造のAサイトを占めるLa及び前記第1クロム補足元素のうちの前記第1クロム補足元素の割合を示し、0.4≦x1≦0.8である請求項1記載の電気化学セル用ペースト。
【請求項3】
前記導電性粉末は、La1-x1RE1 x1Coy11 1-y13…(2)
で示されるランタン系ペロブスカイト型酸化物であり、
ここで、式2における
RE1はSr及びBaのうちの少なくとも1種である第1クロム補足元素を示し、
1はTi、Mn、Fe、Ni及びCuのうちの少なくとも1種である遷移金属元素を示し、
x1は、ペロブスカイト型結晶構造のAサイトを占めるLa及び前記第1クロム補足元素のうちの前記第1クロム補足元素の割合を示し、0.4≦x1≦0.8であり、
y1は、ペロブスカイト型結晶構造のBサイトを占めるCo及び前記遷移金属元素のうちの前記遷移金属元素の割合を示している請求項1記載の電気化学セル用ペースト。
【請求項4】
前記導電性粉末は、La0.6Sr0.4CoO3である請求項2記載の電気化学セル用ペースト。
【請求項5】
前記アミンは、ジ(2-エチルヘキシル)アミン、2-エチルヘキシルアミン及びオレイルアミンの少なくとも1種である請求項1乃至4のいずれか1項記載の電気化学セル用ペースト。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は電気化学セル用ペーストに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に従来の電気化学セル用ペーストが開示されている。この電気化学セル用ペーストは、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する導電性粉末と、樹脂としてのエチルセルロースと、溶剤としてのテルピネオールとを含む。具体的には、導電性粉末は、La0.6Sr0.4CoO3と、La0.9Sr0.1CoO3とである。両導電性粉末、樹脂及び溶剤はロールミルによって混錬され、電気化学セル用ペーストとされる。
【0003】
この電気化学セル用ペーストは空気極とインターコネクタとの間に塗布され、空気極及びインターコネクタとともに焼成されることによって空気極とインターコネクタとを接合する空気極側接合部材とされる。上記ランタンコバルタイト系材料やランタンマンガネート系材料、ランタンチタネート系材料等のペロブスカイト化合物は、酸化物としては非常に高い導電性を示し、高温大気中であっても安定であるため、高温域で使用する部材に広く用いられている。
【0004】
空気極側インターコネクタ、空気極側接合部材及び空気極は、電解質、燃料極、燃料極側接合部材及び燃料極側インターコネクタとともに固体酸化物型燃料電池(SOFC:Solid Oxide Fuel Cell)や固体酸化物型電解セル(SOEC:Solid Oxide Electrolysis Cell)とされる。SOFCやSOECにおいて、空気極、電解質及び燃料極は複数枚のセルとされ、インターコネクタは各セル間に設けられるセパレータとされ得る。こうして、SOFCやSOECは発電や電気分解を行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2019-75207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、発明者らの試験結果によれば、上記従来の電気化学セル用ペーストは、高い焼成温度でなければ、導電性粉末の粒子同士のネッキングが起こらず、インターコネクタとの接合性を十分に確保できない。空気極等を高い温度に加熱すると、空気極等がダメージを受け、SOFCやSOECでの発電性能や電気分解性能が低下することが懸念される。また、過度に高温での加熱はエネルギーの消費が大きい。
【0007】
本発明は、上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する導電性粉末を用いながら、従来よりも低い温度でインターコネクタとの接合性を十分に確保できる電気化学セル用ペーストを提供することを解決すべき課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電気化学セル用ペーストは、空気極とインターコネクタとを接合するための電気化学セル用ペーストであって、
一般式ABO3で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する導電性粉末と、樹脂と、溶剤と、アミンとを含むことを特徴とする。
【0009】
発明者の試験結果では、本発明の電気化学セル用ペーストは、アミンを含むことにより、焼成時に従来よりも低温で導電性粉末の粒子同士をネッキングさせることができ、従来よりも低い温度でインターコネクタとの接合性を十分に確保できる。
【0010】
発明者はこの理由を以下のように考察している。
(1)ペロブスカイト型結晶構造の導電性粉末はA/B比がアミンの添加の有無で変化する。
導電性粉末は、焼成前のA/B比と焼成後のA/B比とを比較すると、焼成後はA/B比が増加するが、アミンを添加することでA/B比の増加が抑制される。
すなわち、導電性粉末は一般式ABO3で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する。このペロブスカイト型結晶構造は、図1に示すように、立方晶系の単位格子をもち、立方晶の各頂点に金属REが、体心に金属Mがそれぞれ位置し、金属Mを中心として酸素Oが立方晶の各面心に位置する。発明者の試験結果によれば、焼成に伴ってBサイトの金属Mの揮発が抑制されている。金属Mの揮発は、主にペースト中に溶出した金属Mのイオンが焼成時に揮発することによるものと考えられる。ペースト中にアミンを添加すると金属Mのイオンの溶出が抑制され、結果として焼成時の金属Mのイオンの揮発が抑制される。
【0011】
(2)アミンが金属Mのイオンの溶出を抑制する。
ペロブスカイト型結晶構造である酸化物の表面にアミンの分子が吸着し、その分子が窒素原子の不対電子対を酸化物におけるBサイトの金属Mに与えると考えられる。そのためその酸化物に負電荷が与えられ、それによって陽イオンである金属Mのイオンが溶出(分離)しにくくなると考えられる。
【0012】
(3)結果的に接合性が向上する。
上記のようにアミンは金属Mのイオンの溶出を抑制し、結果として焼成中の揮発を抑制する。溶出した金属Mのイオンやその揮発は焼成時のネッキング形成を阻害すると考えられる。アミンを添加することでこのネッキングの阻害要因が低減され、ネッキングが進行しやすくなることで接合性が向上すると考えられる。
【発明の効果】
【0013】
本発明の電気化学セル用ペーストによれば、従来よりも低い温度でインターコネクタとの接合性を十分に確保できる。このため、空気極等を従来よりも低い温度で加熱すれば足り、空気極等のダメージを防止又は抑制し、SOFCやSOECでの発電性能や電気分解性能の向上が期待できる。また、この場合には、エネルギーの消費を小さくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、ペロブスカイト型結晶構造の構造式である。
図2図2は、ペーストを用いて空気極とインターコネクタとを接合する方法を示す模式断面図である。
図3図3は、セパレータ及びセルを用いたSOFCやSOECのスタックにおける一部模式斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
空気極(カソード、酸素極)としては、(LaSr)MnO3、(LaCa)MnO3に代表されるランタンマンガネート(LaMnO3)系、LaCoO3、(LaSr)CoO3、(LaSr)(CoFe)O3等に代表されるランタンコバルトネート系、(LaSr)(TiFe)O3等に代表されるランタンチタネート系等のペロブスカイト型結晶構造を有する多孔質の導電性材料であり得る。
【0016】
インターコネクタはフェライト系ステンレス鋼であり得る。フェライト系ステンレス鋼は、オーステナイト系ステンレス鋼に比べて、相対的に電気抵抗が低く、熱膨張性が小さい。フェライト系ステンレス鋼の熱膨張係数(CTE:coefficient of thermal expansion)は、概ね7~12×10-6/Kである。かかるフェライト系ステンレス鋼は、SUS403に代表される、Crを約12%以上含有する鉄-クロム系合金(Fe-Cr合金)である。この合金材料は、良好な熱伝導度と機械的強度をもつため、セル内の温度勾配を緩和する働きも期待できる。なお、インターコネクタは、化学的安定性に問題があることが指摘されている。つまり、インターコネクタを用いたSOFCスタックやSOECスタックは、運転温度においてクロム蒸気を発生し得るため、空気極のクロム被毒の問題が切り離せない。例えば、インターコネクタの表面に形成されるCr23皮膜と空気極との反応により生成されるSrCrO4がSOFCやSOECの性能劣化の原因であると考えられている。
【0017】
導電性粉末は一般式ABO3で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する。発明者の知見によれば、導電性粉末は、La1-x1RE1 x1CoO3…(1)
で示されるランタン系ペロブスカイト型酸化物であり得る。
ここで、式1における
RE1はSr及びBaのうちの少なくとも1種である第1クロム補足元素を示し、
x1は、ペロブスカイト型結晶構造のAサイトを占めるLa及び第1クロム補足元素のうちの第1クロム補足元素の割合を示し、0.4≦x1≦0.8であり得る。
【0018】
また、発明者の知見によれば、導電性粉末は、La1-x1RE1 x1Coy11 1-y13…(2)
で示されるランタン系ペロブスカイト型酸化物であり得る。
ここで、式2における
RE1はSr及びBaのうちの少なくとも1種である第1クロム補足元素を示し、
1はTi、Mn、Fe、Ni及びCuのうちの少なくとも1種である遷移金属元素を示し、
x1は、ペロブスカイト型結晶構造のAサイトを占めるLa及び第1クロム補足元素のうちの第1クロム補足元素の割合を示し、0.4≦x1≦0.8であり、
y1は、ペロブスカイト型結晶構造のBサイトを占めるCo及び遷移金属元素のうちの遷移金属元素の割合を示し得る。
【0019】
例えば、(1)LaCoO3、(LaSr)CoO3、(LaSr)(CoFe)O3等のランタンコバルタイト系材料、(2)(LaSr)MnO3、(LaCa)MnO3等のランタンマンガネート系材料、(3)(LaSr)(TiFe)O3等のランタンチタネート系材料等が挙げられる。中でも、導電性を高める観点から、ランタンコバルタイト系材料が好ましく、La0.6Sr0.4CoO3-δが特に好ましい。発明者は、導電性粉末がLa0.6Sr0.4CoO3である場合に本発明の効果を確認した。
【0020】
また、導電性粉末の粒径は10μm以下が好ましい。10μm以上になると、ペーストを印刷した際の印刷膜の平滑性が低下し、接合性を低下させる要因になる。粒径の下限は特に制限されないが、作業性の観点から0.1μm以上が好ましい。
【0021】
樹脂としては、一般的にペースト成分として用いられる物質を用いることができる。例えば、セルロース系樹脂、ブチラール系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、エチレン系樹脂、アミド系樹脂等が挙げられる。樹脂はペーストを調製するのに良好な粘性及び塗膜形成能(例えば、印刷性、基板に対する付着性等を含む)を付与し得るものであればよく、従来のこの種のペーストに用いられているものを特に制限なく使用することができる。このうち、特にエチルセルロース等のセルロース系高分子が含まれていることが好ましい。
【0022】
溶剤としては、前記樹脂を溶解することができ、導電性粉末を好適に分散できるものであれば、特に制限なく使用できる。例えば、成膜時の作業性や保存安定性の観点から、沸点が概ね200°C以上、例えば200~300°Cの高沸点有機溶剤を主成分とするとよい。高沸点有機溶剤の具体例としては、ターピネオール、メンタノール、テキサノール、ジヒドロターピネオール、ベンジルアルコール等のアルコール系溶剤、2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール-1-モノイソブチレート、酢酸イソボルニル等のエステル系溶剤、エチルジグリコールアセテート、ブチルグリコールアセテート、ブチルジグリコールアセテート、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトール等のグリコールエーテル系溶剤、トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤、ミネラルスピリット等が挙げられる。
【0023】
アミンは、アンモニアの水素原子を炭化水素基又は芳香族原子団で置換した化合物の総称である。本発明では、アミノ基(-NH-、-NH2、-NHR、-NRR')を有する化合物であれば、種々のアミンを採用できると考えている。例えば、分子量500以下の1級アミン、2級アミンを用いることができる。1級アミンとしては、n-オクチルアミン、2-エチルヘキシルアミン、n-デシルアミン、n-ドデシルアミン、n-テトラデシルアミン、n-ヘキサデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン等が挙げられる。2級アミンとしては、ジブチルアミン、ジイソアミルアミン、ジオクチルアミン、ジ(2-エチルヘキシル)アミン等が挙げられる。発明者は、アミンがジ(2-エチルヘキシル)アミン、2-エチルヘキシルアミン及びオレイルアミンの少なくとも1種であれば本発明の効果が得られることを確認している。
【0024】
本発明の電気化学セル用ペーストには、導電性粉末を分散させるため、分散剤を添加することができる。分散剤としては、従来公知のもののなかから、1種類を単独で又は2種類以上を適宜組み合わせて用いることができる。一例として、カルボキシル基を有するカルボン酸系分散剤、ホスホン酸基を有するリン酸系分散剤、スルホン酸基を有するスルホン酸系分散剤等の有酸価分散剤が挙げられる。なかでも、カルボン酸系分散剤を含むことが好ましい。
【0025】
また、本発明の電気化学セル用ペーストには、界面活性剤、レベリング剤、湿潤剤、消泡剤、帯電防止剤、ゲル化防止剤、可塑剤、安定剤、酸化防止剤、防腐剤、着色剤(顔料、染料)、pH調整剤等を添加することができる。
【0026】
SOFCやSOECの電解質は酸素イオン伝導材料によって構成される緻密な薄層により構成される。酸素イオン伝導材料としては、例えば、イットリア等の安定化剤で安定化されたジルコニア(例えば、YSZ:Yttria stabilized zirconia)、ガドリニア等のドープ剤がドープされたセリア(例えば、GDC:Gadolinia doped ceria)、ランタンガレード(LaGaO3)等である。
【0027】
SOFCやSOECの燃料極(アノード、水素極)としては、ニッケル系の金属材料(例えばNiやNiO)、ニッケル系の金属材料と固体電解質材料(例えば、イットリア安定化ジルコニア)とのサーメットが例示される。
【0028】
<試験1>
以下、サンプルによって本発明を説明する。まず、以下の材料を準備した。
(導電性粉末)
La0.6Sr0.4CoO3(平均粒径:1.5μm)
(樹脂)
エチルセルロース
(分散剤)
カルボン酸系分散剤
(溶剤)
ターピネオール
(添加剤)
ジ(2-エチルヘキシル)アミン(2級アミン。化学式を化1に示す。)
【0029】
【化1】
【0030】
<サンプル1、2>
各材料を表1に示す調合比(質量%)で手混ぜによって混合し、混合物を3本ロールミルで混錬した。こうして、サンプル1、2のペーストを作製した。
【0031】
【表1】
【0032】
<接合性評価>
20mm×20mmのSUS430製の基板を用意した。サンプル1、2の各ペーストが直径17mmの円形状になるように、基板上にスクリーン印刷を行った。
【0033】
ペーストが印刷された各基板を120°Cの乾燥機中に30分間静置し、各ペーストを乾燥させた。その後、ペーストが印刷された各基板を焼成炉で焼成した。焼成時の昇温速度は100°C/時間であり、700°C又は800°Cの焼成温度到達後、2時間保持した後、放冷した。こうして、サンプル1、2の接合部材とした。
【0034】
各接合部材の接合性評価をクロスカット法によって行った。すなわち、両接合部材にカッターナイフで1mm間隔の格子状の切れ込みを入れた後、各接合部材に粘着テープを貼り付けた。そして、各接合部材から粘着テープを剥がし、基板から剥離して粘着テープの裏面に付着した接合部材の面積が接合部材全体に対してどの程度の割合(%)であるかを評価した。
【0035】
剥離した面積の割合が50%以下であれば接合性を○とし、剥離した面積の割合が50%以上であれば接合性を×とした。剥離した面積の割合が少ないほど、接合性が高い。サンプル1、2の接合部材において、焼成温度の相違と接合性との関係を表2に示す。
【0036】
【表2】
【0037】
表2に示されるように、ペーストにアミンが添加されていないサンプル1の接合部材は、焼成温度が700°Cであれば接合性の評価が×になった。しかし、ペーストにアミンが添加されているサンプル2の接合部材は、焼成温度が700°Cでも接合性の評価が○である。このため、ペーストにアミンを添加することによって接合温度を低下できることがわかる。
【0038】
700°Cで焼成した後のサンプル1、2の接合部材のA/B比は表3のとおりである。
【0039】
【表3】
【0040】
表3のように、ペーストにアミンを添加したサンプル2の接合部材の方がA/B比が小さくなっている。つまり、サンプル2の接合部材では、Bサイトの欠損が抑制されている。このため、サンプル2のペーストでは、アミンがペースト中へのBサイト元素であるCoの溶出を抑制しており、溶出したCoによる焼結抑制効果を阻害すると考察できる。
【0041】
図2に示すように、各ペースト1は以下のようにしてSOFCやSOECの空気極側接合部材2とされる。まず、図2(A)に示すように、空気極3、電解質4及び燃料極5からなるセル7と、インターコネクタ8とが用意される。各ペースト1は、図2(B)に示すように、セル7の空気極3とインターコネクタ7との間に塗布される。そして、図2(C)に示すように、各ペースト1がセル7及びインターコネクタ8とともに焼成され、各ペースト1が空気極側接合部材2とされ、空気極3とインターコネクタ8とを接合する。
【0042】
複数のセル7を積層させたSOFCやSOECのスタックは以下のように組付けられている。図3に示すように、インターコネクタ8は端部用セパレータ8aや中間用セパレータ8bとされる。端部用セパレータ8aの裏面には第1流路10aだけが形成されている。中間用セパレータ8bの一面には第1流路10aと、第1流路10aと直交する第2流路10bとが形成されている。そして、端部用セパレータ8a、空気極側接合部材2、セル7、燃料極側接合部材9、中間用セパレータ8b、空気極側接合部材2、セル7、…、燃料極側接合部材9、端部用セパレータ8aが順次積層され、SOFCやSOECのスタックとされる。
【0043】
SOFCでは、第1流路10aに空気が流通され、第2流路10bには水素が流通されることにより、各セル7において酸素と水素とが反応して起電力を生じる。そして、端部用セパレータ8a及び中間用セパレータ8bから電流が得られる。SOECでは、端部用セパレータ8a及び中間用セパレータ8bに電圧が印加されることにより、各セルにおいて水が電気分解される。そして、第1流路10aに酸素が流通され、第2流路10bに水素が流通される。
【0044】
このため、サンプル2のペースト1をSOFCやSOECの空気極とインターコネクタとの間に塗布し、焼成して空気極側接合部材2とすれば、焼成時に従来よりも低温で導電性粉末の粒子同士をネッキングさせることができ、従来よりも低い温度でインターコネクタ8との接合性を十分に確保できる。このため、空気極3等を従来よりも低い温度で加熱すれば足り、空気極3等のダメージを防止又は抑制し、SOFCやSOECでの発電性能や電気分解性能の向上が期待できる。また、この場合には、エネルギーの消費を小さくすることができる。
【0045】
<試験2>
アミノ基を有する他の化合物の効果を確認するため、1級アミンである2-エチルヘキシルアミン(化学式を化2に示す。)と、1級アミンであるオレイルアミン(化学式を化3に示す。)とを用意するとともに、オレイルアミンに近似するが、カルボン酸基を有する化合物としてオレイン酸(化学式を化4に示す。)を用意した。また、ジ(2-エチルヘキシル)アミンの添加量による効果の相違を確認した。
【0046】
【化2】
【0047】
【化3】
【0048】
【化4】
【0049】
これらを表4及び表5に示す調合比(質量%)で手混ぜによって混合し、試験1と同様にサンプル1~8のペーストを作製した。また、試験1と同様に700°Cで各ペースト1~8を焼成した。そして、試験1と同様、焼成後の接合部材のA/B比の測定と、クロスカット法による接合性の評価を行った。
【0050】
接合性の評価においては、剥離した面積の割合が40%以下であれば接合性を◎とし、剥離した面積の割合が40%を超え、50%以下であれば接合性を○とし、剥離した面積の割合が50%以上であれば接合性を×とした。これらの測定結果及び評価結果も表4に示す。
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【0053】
表4より、ジ(2-エチルヘキシル)アミンを用いる場合には、0.1~5質量%添加することにより本発明の効果が得られ、0.5~5質量%添加することが特に好ましいことがわかる。
【0054】
また、アミノ基を有するのであれば、2-エチルヘキシルアミンであっても、オレイルアミンであっても、本発明の効果が得られる。1級アミンと2級アミンとでさほどの効果の相違はみられない。一方、オレイン酸は、アミノ基ではなく、カルボン酸基を有するため、本発明の効果が得られないことがわかる。
【0055】
以上において、本発明をサンプルに即して説明したが、本発明は上記サンプルに制限されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更して適用できることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本発明はSOFCやSOECに利用可能である。
【符号の説明】
【0057】
3…空気極
8、8a、8b…インターコネクタ(8a、8b…セパレータ)
1…ペースト
【要約】
【課題】一般式ABO3で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する導電性粉末を用いながら、従来よりも低い温度でインターコネクタとの接合性を十分に確保できる電気化学セル用ペーストを提供する。
【解決手段】本発明の電気化学セル用ペーストは、空気極3とインターコネクタ8とを接合するための電気化学セル用ペースト1である。このペースト1は、一般式ABO3で表されるペロブスカイト型結晶構造を有する導電性粉末と、樹脂と、溶剤と、アミンとを含む。
【選択図】図2
図1
図2
図3