(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-23
(45)【発行日】2025-06-02
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H03K 17/08 20060101AFI20250526BHJP
G01R 31/26 20200101ALI20250526BHJP
H02M 1/00 20070101ALI20250526BHJP
【FI】
H03K17/08 Z
G01R31/26 A
H02M1/00 H
H03K17/08 C
(21)【出願番号】P 2021155138
(22)【出願日】2021-09-24
【審査請求日】2023-09-01
【審判番号】
【審判請求日】2024-10-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006013
【氏名又は名称】三菱電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】江口 佳佑
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 貴将
【合議体】
【審判長】高野 洋
【審判官】丸山 高政
【審判官】土居 仁士
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/097739(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/199816(WO,A1)
【文献】特開2020-14103(JP,A)
【文献】特開平7-146722(JP,A)
【文献】特開2016-7120(JP,A)
【文献】特開2017-63270(JP,A)
【文献】特開2009-153364(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03K17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メイン部と、前記メイン部の電流値を検出するためのカレントセンス部とを有するスイッチング素子と、
前記スイッチング素子を駆動するゲート駆動部を有する制御ICと、
前記メイン部のエミッタと前記カレントセンス部のエミッタとの間に接続され、前記制御ICの内部に形成されたセンス抵抗と、
前記センス抵抗に印加されたセンス電圧と参照電圧を比較する比較器と、
前記センス電圧が前記参照電圧を超えると前記スイッチング素子の通電を遮断させる遮断回路とを備え、
前記スイッチング素子の通電を遮断する時の前記センス電圧が1V以上であ
り、
前記ゲート駆動部は、前記メイン部を駆動する第1のゲート駆動部と、前記カレントセンス部を駆動する第2のゲート駆動部とを有し、
前記第1のゲート駆動部と前記第2のゲート駆動部は前記制御ICにおいて個別に設けられ、
前記第2のゲート駆動部の出力電圧は前記第1のゲート駆動部の出力電圧より大きいことを特徴とする半導体装置。
【請求項2】
前記カレントセンス部の電流密度は120~420A/cm
2であることを特徴とする請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記メイン部のゲート電圧を降下させるゲート抵抗を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記ゲート抵抗は前記スイッチング素子に内蔵されていることを特徴とする請求項
3に記載の半導体装置。
【請求項5】
前記カレントセンス部にゲート抵抗は設けられてないことを特徴とする請求項
3又は
4に記載の半導体装置。
【請求項6】
前記カレントセンス部のゲート電流は増幅せず前記メイン部のゲート電流を増幅する増幅器を更に備えることを特徴とする請求項1又は2に記載の半導体装置。
【請求項7】
前記メイン部のゲートパッドと前記カレントセンス部のゲートパッドは互いに分離していることを特徴とする請求項
1~
6の何れか1項に記載の半導体装置。
【請求項8】
前記スイッチング素子はワイドバンドギャップ半導体によって形成されていることを特徴とする請求項1~
7の何れか1項に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
小型化のためにスイッチング素子の過電流検出回路を制御ICに内蔵した半導体装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
過電流検出回路は、スイッチング素子のカレントセンス部に流れる電流を電圧に変換するセンス抵抗を有する。この制御ICに内蔵されたセンス抵抗の製造ばらつきが大きくなることで、過電流検出値のばらつきも大きくなる。この結果、スイッチング素子の過電流検出精度が悪化するという問題があった。
【0005】
本開示は、上述のような課題を解決するためになされたもので、その目的はスイッチング素子の過電流検出精度を向上させることができる半導体装置を得るものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示に係る半導体装置は、メイン部と、前記メイン部の電流値を検出するためのカレントセンス部とを有するスイッチング素子と、前記スイッチング素子を駆動するゲート駆動部を有する制御ICと、前記メイン部のエミッタと前記カレントセンス部のエミッタとの間に接続され、前記制御ICの内部に形成されたセンス抵抗と、前記センス抵抗に印加されたセンス電圧と参照電圧を比較する比較器と、前記センス電圧が前記参照電圧を超えると前記スイッチング素子の通電を遮断させる遮断回路とを備え、前記スイッチング素子の通電を遮断する時の前記センス電圧が1V以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本開示では、スイッチング素子の通電を遮断する時のセンス電圧が1V以上である。これにより、センス抵抗の製造ばらつきによるセンス電圧のばらつきを抑えることができる。従って、スイッチング素子1の過電流検出精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施の形態1に係る半導体装置を示す図である。
【
図2】センス抵抗の抵抗値とセンス電圧の関係を示す図である。
【
図3】センス抵抗の抵抗値とセンス電流の関係を示す図である。
【
図4】実施の形態2に係るスイッチング素子を示す上面図である。
【
図5】実施の形態2に係る半導体装置を示す図である。
【
図6】実施の形態3に係る半導体装置を示す図である。
【
図7】実施の形態3に係る半導体装置の変形例を示す図である。
【
図8】実施の形態4に係る半導体装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施の形態に係る半導体装置について図面を参照して説明する。同じ又は対応する構成要素には同じ符号を付し、説明の繰り返しを省略する場合がある。
【0010】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1に係る半導体装置を示す図である。スイッチング素子1はIGBTであり、メイン部2と、メイン部2の電流値を検出するためのカレントセンス部3とを有する。カレントセンス部3は、スイッチング素子1の内部に形成されている。制御IC4はスイッチング素子1を駆動するゲート駆動部5を有する。還流ダイオード6がスイッチング素子1に並列接続されている。
【0011】
カレントセンス部3は、電流が流れるセルの面積である有効面積がメイン部2の有効面積の3000分の1以下と非常に小さい。そのため、メイン部2にメイン電流Imが流れると、有効面積比に応じたセンス電流Isがカレントセンス部3にも流れる。
【0012】
センス抵抗7がメイン部2のエミッタとカレントセンス部3のエミッタとの間に接続され、制御IC4の内部に形成されている。センス抵抗7は、カレントセンス部3に流れるセンス電流Isをセンス電圧Vsに変換する。比較器8が、センス抵抗7に印加されたセンス電圧Vsと所定の参照電圧Vrefを比較する。センス電圧Vsが参照電圧Vref以上であると比較器8は遮断信号を出力する。遮断回路9はMOSFETであり、比較器8から遮断信号を入力するとスイッチング素子1のゲートをGNDに接続して、スイッチング素子1の通電を強制的に遮断する。
【0013】
図2は、センス抵抗の抵抗値とセンス電圧の関係を示す図である。
図3は、センス抵抗の抵抗値とセンス電流の関係を示す図である。ゲート電圧を15V、コレクタ電流を450Aに固定し、センス抵抗7の抵抗値を変化させた。なお、コレクタ電流450Aは定格電流の3倍であり、スイッチング素子1の通電を遮断するべき過電流時に相当する。センス抵抗7の抵抗値を大きくするとセンス電圧Vsは上昇するが、カレントセンス部3に流れるセンス電流Isは次第に小さくなる。
【0014】
図2に示すように、センス電圧Vsが1V以上であると、センス抵抗7の抵抗値の変化に対するセンス電圧Vsの変化が小さくなる。この1Vという臨界値は、カレントセンス部3の電流密度(単位面積当たりの定格電流値)によって決まるが、半導体装置の設計値によって大きく変わることはない。例えば10%程度チップ面積を小さくした場合に変わるような数値ではない。
【0015】
ここで、耐圧が高い製品ほど半導体素子の厚みは厚いため電流密度は低く設計されている。カレントセンス部3の電流密度は、600V耐圧用素子(AC200V系)の場合は240~420A/cm2、1200V耐圧用素子(AC400V系)の場合は120~240A/cm2である。過電流時のセンス電圧Vsが1V以上になるセンス抵抗7の抵抗値は、600V耐圧用素子では130Ω以上、1200V耐圧用素子では180Ω以上である。
【0016】
センス抵抗7を制御IC4に内蔵する場合、センス抵抗7の抵抗値の製造ばらつきが大きくなる。そこで、本実施の形態では、スイッチング素子1の通電を遮断する時のセンス電圧Vsが1V以上になるようにセンス抵抗7を設定している。これにより、センス抵抗7の製造ばらつきによるセンス電圧Vsのばらつきを抑えることができる。従って、スイッチング素子1の過電流検出精度を向上させることができる。
【0017】
また、スイッチング素子1の通電電流値が大きくなるとスイッチング素子1が破壊される恐れがある。この破壊を防ぐために、センス電圧Vsが参照電圧Vrefを超えるとスイッチング素子1の通電を遮断させる。上記のように遮断時のセンス電圧Vsが1V以上であるとセンス抵抗7の抵抗値の変化に対するセンス電圧Vsの変化が小さくなるため、参照電圧Vrefを1V以上の任意の電圧値に設定する。
【0018】
また、センス抵抗7が有るため、カレントセンス部3のエミッタ電圧がメイン部2のエミッタ電圧よりも高くなる。これにより、カレントセンス部3のゲート電圧が減少し、カレントセンス部3の通電能力が悪くなる。そこで、カレントセンス部3のゲートしきい値電圧をメイン部2のゲートしきい値電圧よりも小さくする。これにより、カレントセンス部3の通電能力が向上するため、センス抵抗7による通電能力の減少分を補うことができる。
【0019】
一般的にパワー半導体装置のゲートしきい値電圧が0.1V下がると、装置の通電能力は定格電流の30%程度上昇する。そこで、カレントセンス部3のゲートしきい値電圧をメイン部2のゲートしきい値電圧よりも0.1V以上高くする。これにより通電能力を30%上昇させることで素子を安全に動作できるようになる。
【0020】
なお、スイッチング素子1は、IGBTと還流ダイオードが1チップ化されたRC-IGBTでもよく、MOSFETなどでもよい。センス抵抗7はポリシリコンで形成してもよい。
【0021】
実施の形態2.
図4は、実施の形態2に係るスイッチング素子を示す上面図である。スイッチング素子1の半導体基板10にメイン部2とカレントセンス部3が設けられ、その外周に終端領域11が設けられている。ゲートパッド12はメイン部2のゲートに接続されている。ゲートパッド13はカレントセンス部3のゲートに接続されている。カレントセンスパッド14はカレントセンス部3のエミッタに接続されている。メイン部2のゲートパッド12とカレントセンス部3のゲートパッド13は互いに分離している。これにより、スイッチング素子1のメイン部2のゲートとカレントセンス部3のゲートを別々に駆動することができる。
【0022】
図5は、実施の形態2に係る半導体装置を示す図である。メイン部2のゲートとカレントセンス部3のゲートが分離されており、第1のゲート駆動部5aがメイン部2を駆動し、第2のゲート駆動部5bがカレントセンス部3を駆動する。このため、メイン部2とカレントセンス部3に別々のゲート電圧を印加することができる。そこで、第1のゲート駆動部5aと第2のゲート駆動部5bを同じタイミングで制御しつつ、第2のゲート駆動部5bの出力電圧を第1のゲート駆動部5aの出力電圧より大きくする。これにより、カレントセンス部3の通電能力が向上するため、センス抵抗7による通電能力の減少分を補うことができる。その他の構成及び効果は実施の形態1と同様である。
【0023】
実施の形態3.
図6は、実施の形態3に係る半導体装置を示す図である。メイン部2のスイッチング動作により電圧及び電流の立ち上がり又は立ち下がりが生じる。このメイン部2のスイッチング動作によって半導体装置のノイズが発生する。そこで、本実施の形態では、ゲート抵抗15を制御IC4とメイン部2のゲートとの間に設けている。ゲート抵抗15がメイン部2のゲート電圧を降下させることで、メイン部2のスイッチングスピードが遅くなり、半導体装置のノイズを低減することができる。
【0024】
カレントセンス部3のゲートにゲート抵抗を設けると、カレントセンス部3のゲート電圧はセンス電圧に加えゲート抵抗の電圧降下分の電圧低下が考えられる。従って、カレントセンス部3にはゲート抵抗を設けない。これにより、カレントセンス部3の通電能力は維持しつつ、メイン部2のスイッチングスピードを調整できる。よって、安全に保護動作を行うことができる。その他の構成及び効果は実施の形態1又は2と同様である。
【0025】
図7は、実施の形態3に係る半導体装置の変形例を示す図である。ゲート抵抗15はスイッチング素子1に内蔵されている。これにより、半導体装置を小型化することができる。
【0026】
実施の形態4.
図8は、実施の形態4に係る半導体装置を示す図である。制御IC4とメイン部2のゲートとの間に、バイポーラトランジスタである増幅器16が設けられている。増幅器16がメイン部2のゲート電流を増幅することで、メイン部2のスイッチングスピードを速くすることができる。従って、半導体装置の損失を低減することができる。その他の構成及び効果は実施の形態1と同様である。
【0027】
なお、スイッチング素子1と還流ダイオード6は、珪素によって形成されたものに限らず、珪素に比べてバンドギャップが大きいワイドバンドギャップ半導体によって形成されたものでもよい。ワイドバンドギャップ半導体は、例えば、炭化珪素、窒化ガリウム系材料、又はダイヤモンドである。このようなワイドバンドギャップ半導体によって形成された半導体チップは、耐電圧性及び許容電流密度が高いため、小型化できる。この小型化された半導体チップを用いることで、この半導体チップを組み込んだ半導体装置も小型化・高集積化できる。また、半導体チップの耐熱性が高いため、ヒートシンクの放熱フィンを小型化でき、水冷部を空冷化できるので、半導体装置を更に小型化できる。また、半導体チップの電力損失が低く高効率であるため、半導体装置を高効率化できる。なお、スイッチング素子1と還流ダイオード6の両方がワイドバンドギャップ半導体によって形成されていることが望ましいが、何れか一方がワイドバンドギャップ半導体よって形成されていてもよく、この実施の形態に記載の効果を得ることができる。
【符号の説明】
【0028】
1 スイッチング素子、2 メイン部、3 カレントセンス部、4 制御IC、5 ゲート駆動部、5a 第1のゲート駆動部、5b 第2のゲート駆動部、7 センス抵抗、8 比較器、9 遮断回路、12 ゲートパッド、13 ゲートパッド、15 ゲート抵抗、16 増幅器