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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-23
(45)【発行日】2025-06-02
(54)【発明の名称】音場補正装置、音場補正方法及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   H04S 7/00 20060101AFI20250526BHJP
   G10K 15/00 20060101ALI20250526BHJP
【FI】
H04S7/00 310
G10K15/00 L
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022044965
(22)【出願日】2022-03-22
(65)【公開番号】P2023139434
(43)【公開日】2023-10-04
【審査請求日】2024-07-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000214984
【氏名又は名称】TVS REGZA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中邨 賢治
(72)【発明者】
【氏名】井澤 秀人
【審査官】稲葉 崇
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/061218(WO,A1)
【文献】特開2012-191541(JP,A)
【文献】特開2007-135094(JP,A)
【文献】特開2007-110357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04S 1/00- 7/00
H04R 3/00- 3/14
H04R 5/02
H04R 29/00
G10K 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のスピーカのそれぞれから前記スピーカ毎に周波数が異なるテスト音を同時に出力させるテスト音出力部と、
所定位置に配置されたマイクにより採音された複数の前記テスト音を含む複合音の音響信号を記録する録音部と、
前記音響信号に含まれる複数の周波数成分の解析結果に基づいて、複数の前記スピーカ間における前記テスト音の前記スピーカから前記マイクまでの到達時間の時間差を算出する演算部と、
前記時間差に基づいて各前記スピーカから出力される音声の出力タイミングを補正する補正部と、を備え、
複数の前記スピーカは、所定の筐体に搭載された複数の内部スピーカと、前記筐体の外部に配置された外部スピーカとが含まれ、
前記演算部は、複数の前記内部スピーカから出力された前記テスト音の前記到達時間の時間差である内部時間差を算出し、前記内部スピーカから出力された前記テスト音の前記到達時間と前記外部スピーカから出力された前記テスト音の前記到達時間との時間差である外部時間差を算出し、
前記補正部は、前記内部時間差と前記外部時間差とに基づいて、複数の前記内部スピーカ及び前記外部スピーカの少なくとも1つの前記出力タイミングを補正する、
音場補正装置。
【請求項2】
前記テスト音出力部は、同時に出力される複数の前記テスト音を含むテスト音群を、所定時間間隔を空けて複数回繰り返し出力し、
前記補正部は、前記テスト音群毎に算出される複数の前記時間差に基づいて前記出力タイミングを補正する、
請求項1に記載の音場補正装置。
【請求項3】
前記マイクにより採音された前記複合音の前記音響信号を、無線通信を介して受信する受信部、
を更に備える請求項1に記載の音場補正装置。
【請求項4】
複数のスピーカのそれぞれから前記スピーカ毎に周波数が異なるテスト音を同時に出力させる工程と、
所定位置に配置されたマイクにより採音された複数の前記テスト音を含む複合音の音響信号を記録する工程と、
前記音響信号に含まれる複数の周波数成分の解析結果に基づいて、複数の前記スピーカ間における前記テスト音の前記スピーカから前記マイクまでの到達時間の時間差を算出する工程と、
前記時間差に基づいて各前記スピーカから出力される音声の出力タイミングを補正する工程と、を含み、
複数の前記スピーカは、所定の筐体に搭載された複数の内部スピーカと、前記筐体の外部に配置された外部スピーカとが含まれ、
前記算出する工程は、複数の前記内部スピーカから出力された前記テスト音の前記到達時間の時間差である内部時間差を算出し、前記内部スピーカから出力された前記テスト音の前記到達時間と前記外部スピーカから出力された前記テスト音の前記到達時間との時間差である外部時間差を算出し、
前記補正する工程は、前記内部時間差と前記外部時間差とに基づいて、複数の前記内部スピーカ及び前記外部スピーカの少なくとも1つの前記出力タイミングを補正する、
音場補正方法。
【請求項5】
コンピュータに、
複数のスピーカのそれぞれから前記スピーカ毎に周波数が異なるテスト音を同時に出力させる処理と、
所定位置に配置されたマイクにより採音された複数の前記テスト音を含む複合音の音響信号を記録する処理と、
前記音響信号に含まれる複数の周波数成分の解析結果に基づいて、複数の前記スピーカ間における前記テスト音の前記スピーカから前記マイクまでの到達時間の時間差を算出する処理と、
前記時間差に基づいて各前記スピーカから出力される音声の出力タイミングを補正する処理と、を実行させ、
複数の前記スピーカは、所定の筐体に搭載された複数の内部スピーカと、前記筐体の外部に配置された外部スピーカとが含まれ、
前記算出する処理は、複数の前記内部スピーカから出力された前記テスト音の前記到達時間の時間差である内部時間差を算出し、前記内部スピーカから出力された前記テスト音の前記到達時間と前記外部スピーカから出力された前記テスト音の前記到達時間との時間差である外部時間差を算出し、
前記補正する処理は、前記内部時間差と前記外部時間差とに基づいて、複数の前記内部スピーカ及び前記外部スピーカの少なくとも1つの前記出力タイミングを補正する、ことを含む、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、音場補正装置、音場補正方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
複数のスピーカから音声を出力する音響装置において、音声がスピーカからリスニングポジションに到達するまでの到達時間がスピーカ毎に異なる場合がある。このような問題を解決する手法として、スピーカから出力されたテスト音をマイクで採音し、マイクの出力信号に基づいてスピーカとマイクとの間の距離を算出し、当該距離に応じて音声の出力タイミングを調整する(遅延させる)技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-110357号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような音声の到達時間差は、各スピーカとリスニングポジションとの間の距離差、無線通信の介在による通信速度差等に起因して生じるが、従来技術では音声の到達時間差を十分に打ち消すことができない場合がある。
【0005】
本発明の実施形態が解決しようとする課題は、複数のスピーカ間における音声の到達時間差による影響を効果的に抑制可能な音場補正装置、音場補正方法及びプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の音場補正装置は、複数のスピーカのそれぞれからスピーカ毎に周波数が異なるテスト音を同時に出力させるテスト音出力部と、所定位置に配置されたマイクにより採音された複数のテスト音を含む複合音の音響信号を記録する録音部と、音響信号に含まれる複数の周波数成分の解析結果に基づいて、複数のスピーカ間におけるテスト音のスピーカからマイクまでの到達時間の時間差を算出する演算部と、時間差に基づいて各スピーカから出力される音声の出力タイミングを補正する補正部と、を備え、複数のスピーカは、所定の筐体に搭載された複数の内部スピーカと、筐体の外部に配置された外部スピーカとが含まれ、演算部は、複数の内部スピーカから出力されたテスト音の到達時間の時間差である内部時間差を算出し、内部スピーカから出力されたテスト音の到達時間と外部スピーカから出力されたテスト音の到達時間との時間差である外部時間差を算出し、補正部は、内部時間差と外部時間差とに基づいて、複数の内部スピーカ及び外部スピーカの少なくとも1つの出力タイミングを補正する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、第1実施形態にかかる音響装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図2図2は、第1実施形態の音場補正装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
図3図3は、第1実施形態にかかる第1スピーカと第2スピーカとマイクとの位置関係の一例を示す図である。
図4図4は、第1実施形態にかかる複合音の音響信号の一例を示す図である。
図5図5は、第1実施形態にかかる音響信号に対するFFT処理の結果の一例を示す図である。
図6図6は、第1実施形態にかかる第1周波数の抽出結果及び第2周波数の抽出結果の一例を示す図である。
図7図7は、第1実施形態にかかる音場補正装置における処理の一例を示すフローチャートである。
図8図8は、第2実施形態にかかる音響装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図9図9は、第2実施形態にかかる音場補正装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
図10図10は、第2実施形態にかかる音場補正装置における処理の第1例を示すフローチャートである。
図11図11は、第2実施形態にかかる音場補正装置における処理の第2例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。
【0009】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態にかかる音響装置1のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。音響装置1は、複数のスピーカから音声を出力可能な装置であり、例えば、ステレオ、映像再生装置、録画装置、テレビ、ホームシアターシステム等であり得る。
【0010】
本実施形態にかかる音響装置1は、音場補正装置5、第1スピーカ31A、第2スピーカ31B及びリモコン41を含む。音場補正装置5は、第1スピーカ31Aと第2スピーカ31Bとユーザのリスニングポジションとの位置関係に応じて、第1スピーカ31A及び第2スピーカ31Bのそれぞれから出力される音声AS1,AS2の出力タイミングを最適化する音場補正処理を実行する。本実施形態におけるリスニングポジションは、リモコン41が存在する位置であるものとする。
【0011】
本実施形態にかかる音場補正装置5は、CPU(Central Processing unit)11、メモリ12、ストレージ13、ユーザI/F(Interface)14、通信I/F15、音声デコーダ21、音声入力ADC(Analog to Digital Converter)22、DSP(Digital Signal Processor)23、第1遅延回路25A及び第2遅延回路25Bを含み、これらの構成要素は通信バス20を介して互いに通信可能に接続されている。
【0012】
CPU11は、メモリ12等に記憶されたプログラム(ファームウェア、アプリケーションソフトウェア等を含む)に従って所定の演算処理及び制御処理を実行する。メモリ12は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)等を含む主記憶装置であり、プログラムの記憶領域、CPU11の作業領域等として機能する。ストレージ13は、SSD(Solid State Drive)、HDD(Hard Disk Drive)等の不揮発性メモリを含む補助記憶装置であり、各種データの書き込み及び読み出しを可能にする。ユーザI/F14は、ユーザからの入力の受け付け、ユーザへの情報の出力等を可能にするデバイスであり、例えばディスプレイ、入力ボタン等であり得る。通信I/F15は、所定の通信ネットワークを介して接続された他の電子機器との通信を可能にするデバイスである。本実施形態の通信I/F15は、リモコン41との間で所定の規格に準ずる無線通信を確立する。
【0013】
音声デコーダ21は、所定のメディア(例えばCD、DVD、ブルーレイ(登録商標)ディスク、リムーバルメディア等)に記録された音声データや放送波に含まれる音声データ、CSP(Communications Service Provider)等のネットワークから取得した音声データ等を第1スピーカ31A及び第2スピーカ31Bから出力可能な形式のデジタル信号に変換するデバイスである。音声入力ADC22は、外部機器から入力される音声のアナログ信号をデジタル信号に変換するデバイスである。
【0014】
DSP23は、第1スピーカ31A及び第2スピーカ31Bから出力される音に対応するデジタル信号に対して所定の処理を実行するプロセッサであり、リスニング対象となる音声AS1,AS2の音声信号や、後述する第1テスト音TS1及び第2テスト音TS2の音声信号等を生成する。第1遅延回路25Aは、第1スピーカ31A(例えばLchスピーカ)から出力される音声AS1の出力タイミングを、CPU11から出力される補正信号(遅延信号)に応じて遅延させる回路である。第2遅延回路25Bは、第2スピーカ31B(例えばRchスピーカ)から出力される音声AS2の出力タイミングを、CPU11から出力される補正信号に応じて遅延させる回路である。
【0015】
リモコン41は、音声AS1,AS2を聴こうとするユーザが操作可能なデバイスであり、マイク45、無線変調回路46及び送信器47を含む。マイク45は、採音した音を電気信号(アナログ信号)に変換するデバイスである。無線変調回路46は、マイク45により生成された電気信号を所定の規格に準ずる無線通信が可能な形式の信号(デジタル信号)に変調する回路である。送信器47は、無線変調回路46により変調された信号を音場補正装置5に送信するデバイスである。なお、リモコン41には、上記の他に、ユーザによる操作を受け付けるボタン類等が設けられているが、ここではその説明を省略する。また、本実施形態では、マイク45がリモコン41に備えられている構成を例示するが、マイク45は独立したデバイスであってもよい。
【0016】
本実施形態にかかる音場補正装置5は、音場補正処理の実行時において、第1スピーカ31A及び第2スピーカ31Bのそれぞれから第1テスト音TS1及び第2テスト音TS2を同時に出力させる。第1テスト音TS1の周波数と第2テスト音TS2の周波数とは、互いに異なっている。リモコン41に搭載されたマイク45は、第1テスト音TS1及び第2テスト音TS2を含む複合音を採音し、送信器47は、マイク45により採音された複合音の音響信号Stを音場補正装置5に送信する。音場補正装置5は、リモコン41から受信した音響信号Stに含まれる周波数成分の解析結果に基づいて、第1テスト音TS1の第1スピーカ31Aからマイク45までの到達時間と、第2テスト音TS2の第2スピーカ31Bからマイク45までの到達時間との時間差を算出する。そして、音場補正装置5は、算出された時間差に基づいて、第1スピーカ31Aからの音声AS1の出力タイミング及び第2スピーカ31Bからの音声AS2の出力タイミングのうち少なくとも一方を補正する処理、すなわち第1遅延回路25A又は第2遅延回路25Bを制御するための処理を実行する。
【0017】
図2は、第1実施形態の音場補正装置5の機能構成の一例を示すブロック図である。本実施形態にかかる音場補正装置5は、音声出力部101、テスト音出力部102、受信部103、録音部104、演算部105及び補正部106を有する。これらの機能的構成要素101~106は、図1に例示されるようなハードウェアとソフトウェア(プログラム)との協働により実現され得る。また、これらの機能的構成要素101~106のうちの少なくとも一部が専用のハードウェア(回路等)によって実現されてもよい。
【0018】
音声出力部101は、第1スピーカ31A及び第2スピーカ31Bのそれぞれからリスニング対象となる音声AS1,AS2を出力させる。
【0019】
テスト音出力部102は、音場補正処理の実行時において、第1スピーカ31Aから第1テスト音TS1を出力させ、第2スピーカ31Bから第2テスト音TS2を出力させる。第1テスト音TS1の周波数と第2テスト音TS2の周波数とは異なっており、第1テスト音TS1と第2テスト音TS2とは同時に出力される。また、テスト音出力部102は、同時に出力される第1テスト音TS1及び第2テスト音TS2を含むテスト音群を所定の時間間隔を空けて複数回繰り返して出力してもよい。例えば、音場補正処理の実行期間内において、同時に出力される一組の第1テスト音TS1及び第2テスト音TS2を含むテスト音群を、所定の時間間隔を空けて複数回(例えば5回等)出力してもよい。これにより、後述する周波数解析処理に利用される情報を増やすことができ、音場補正処理の精度を向上させることができる。
【0020】
受信部103は、第1テスト音TS1及び第2テスト音TS2を含む複合音の音響信号Stを受信する。本実施形態の受信部103は、音響信号Stをリモコン41から無線通信を介して受信する。なお、受信部103は、有線通信を介して音響信号Stを受信してもよい。
【0021】
録音部104は、受信部103により受信された音響信号Stを所定の記憶装置(例えばストレージ13等)に記録する。
【0022】
演算部105は、録音部104により記録された音響信号Stに対して、音響信号Stに含まれる複数の周波数成分を解析する周波数解析処理を実行する。そして、演算部105は、周波数解析処理の解析結果に基づいて、第1テスト音TS1の第1スピーカ31Aからマイク45までの到達時間と、第2テスト音TS2の第2スピーカ31Bからマイク45までの到達時間との時間差ΔTを算出する。また、演算部105は、テスト音群が複数回繰り返して出力される場合には、テスト音群毎に上記周波数解析処理を行う。これにより、時間差ΔTの精度を向上させることができる。
【0023】
補正部106は、演算部105により算出された時間差ΔTに基づいて、第1スピーカ31A及び第2スピーカ31Bのそれぞれから出力される音声AS1,AS2の出力タイミングを補正する。例えば、第1テスト音TS1の到達時間が第2テスト音TS2の到達時間よりΔTだけ遅い場合、音声AS2の出力タイミングを音声AS1の出力タイミングよりΔTだけ遅延させる。また、補正部106は、テスト音群が複数回繰り返して出力される場合には、テスト音群毎に算出される複数の時間差ΔT(例えば複数の時間差Δの平均値等)に基づいて出力タイミングを補正する。これにより、出力タイミングの補正精度を向上させることができる。
【0024】
上記構成により、複数のスピーカ(本実施形態では第1スピーカ31A及び第2スピーカ31B)とリスニングポジションとの位置関係や、無線通信の介在による通信遅延等に起因する各音声AS1,AS2の到達時間差を高精度に補正できる。
【0025】
図3は、第1実施形態にかかる第1スピーカ31Aと第2スピーカ31Bとマイク45との位置関係の一例を示す図である。図3において、第1スピーカ31Aとマイク45との間の距離D1が第2スピーカ31Bとマイク45との間の距離D2より大きい場合が例示されている。また、第1スピーカ31Aから出力される第1テスト音TS1の第1周波数Ft1と、第2スピーカ31Bから出力される第2テスト音TS2の第2周波数Ft2とは互いに異なっていることが示されている。なお、ここではFt1<Ft2である場合が例示されているが、Ft1>Ft2であってもよい。
【0026】
上記のような状況において、第1テスト音TS1及び第2テスト音TS2がそれぞれ第1スピーカ31A及び第2スピーカ31Bから同時に出力されると、第2テスト音TS2が第1テスト音TS1より早くマイク45に到達する。これにより、マイク45により採音される複合音の音響信号Stには、第2周波数Ft2の成分を含み且つ第1周波数Ft1の成分を含まない時間帯と、第1周波数Ft1及び第2周波数Ft2の両方の成分を含む時間帯とが存在することとなる。そして、このような音響信号Stに含まれる周波数成分をFFT(Fast Fourier Transform)等の適宜な手法を用いて解析することにより、上述した時間差ΔTを算出できる。
【0027】
図4は、第1実施形態にかかる複合音の音響信号Stの一例を示す図である。図4に示されるグラフにおいて、横軸は、所定の基準時(例えば第1テスト音TS1及び第2テスト音TS2の出力時、複合音の録音開始時等)からの経過時間を示し、縦軸は、マイク45により採音された複合音の信号強度を示している。図4において、到達時間T1は、第1テスト音TS1が第1スピーカ31Aからマイク45に到達するまでの時間に対応し、到達時間T2は、第2テスト音TS2が第2スピーカ31Bからマイク45に到達するまでの時間に対応している。時間差ΔTは、到達時間T1と到達時間T2との差分となる。
【0028】
上記のような時間差ΔTの算出は、適宜な手法を用いて行われ得る。以下に、FFTを用いて時間差ΔTを算出する例を示す。
【0029】
図5は、第1実施形態にかかる音響信号Stに対するFFT処理の結果の一例を示す図である。図5において、音響信号Stに設定された所定の時間フレーム分の時間窓Wに対してFFT処理を行った場合の解析結果Fが例示されている。
【0030】
解析結果Fにおいて、横軸は周波数に対応し、縦軸はパワースペクトルに対応している。本実施形態では、解析結果Fから所定の対象周波数域Rに対応するパワー値を算出する。対象周波数域Rは、第1周波数Ft1の抽出時には第1周波数Ft1を基準として設定され、第2周波数Ft2の検出時には第2周波数Ft2を基準として設定される。例えば、第1周波数Ft1の抽出時における対象周波数域Rは、(Ft1±x%)のように設定され、例えばFt1=500(Hz)、x=10である場合、R=500±50(Hz)となる。同様に、第2周波数Ft2の抽出時における対象周波数域Rは、(Ft2±x%)のように設定され、例えばFt2=2000(Hz)、x=10である場合、R=2000±200(Hz)となる。上記のような処理により、所定の時間間隔で徐々にずらされていく複数の時間窓Wのそれぞれについて、第1周波数Ft1(例えばR=500±50)に対応するパワー値と、第2周波数Ft2(R=2000±200)に対応するパワー値が取得される。
【0031】
図6は、第1実施形態にかかる第1周波数Ft1の抽出結果F1及び第2周波数Ft2の抽出結果F2の一例を示す図である。抽出結果F1において、横軸は時間に対応し、縦軸は第1周波数Ft1の対象周波数域R(例えば500±50)に対応するパワー値に対応している。抽出結果F2において、横軸は時間に対応し、縦軸は第2周波数Ft2の対象周波数域R(例えば2000±200)に対応するパワー値に対応している。抽出結果F1の時間軸と抽出結果F2の時間軸とは一致している。抽出結果F1において、パワー値が閾値Th1に達したときの時間は、第1テスト音TS1が第1スピーカ31Aからマイク45に到達するまでの到達時間T1に対応する。抽出結果F2において、パワー値が閾値Th2に達したときの時間は、第2テスト音TS2が第2スピーカ31Bからマイク45に到達するまでの到達時間T2に対応する。そして、このように求められた到達時間T1と到達時間T2との差分が上記時間差ΔTとなる。
【0032】
図7は、第1実施形態にかかる音場補正装置5における処理の一例を示すフローチャートである。音場補正処理が開始されると、テスト音出力部102は第1スピーカ31Aから第1テスト音TS1を出力し、第2スピーカ31Bから第2テスト音TS2を出力する(S101)。このとき、第1テスト音TS1及び第2テスト音TS2は同時に出力される。第1テスト音TS1及び第2テスト音TS2を含む複合音はリスニングポジションに配置されたマイク45により採音され、複合音の音響信号Stは録音部104により記録される(S102)。
【0033】
その後、演算部105はFFT等の手法を用いて音響信号Stから第1テスト音TS1に対応する第1周波数成分及び第2テスト音TS2に対応する第2周波数成分を抽出する(S103)。演算部105は第1スピーカ31Aの到達時間T1(第1テスト音TS1が第1スピーカ31Aからマイク45に到達するまでの時間)及び第2スピーカ31Bの到達時間T2(第2テスト音TS2が第2スピーカ31Bからマイク45に到達するまでの時間)を算出する(S104)。演算部105は到達時間T1と到達時間T2との差分から時間差ΔTを算出する(S105)。そして、補正部106は時間差ΔTに基づいて、第1スピーカ31Aからの音声AS1の出力タイミング及び第2スピーカ31Bからの音声AS2の出力タイミングが最適化されるように(時間差ΔTが低減されるように)第1遅延回路25A及び第2遅延回路25Bを制御する(S106)。
【0034】
上記実施形態によれば、録音された複合音に含まれる周波数成分の解析結果、すなわち記録された音響信号Stにおいて各周波数成分が検出された時間の比較結果に基づいて時間差ΔTが算出される。これにより、テスト音を出力する指示を出してから実際にテスト音がスピーカから出力されるまでの時間や、テスト音がマイクで採音されてから録音されるまでの時間等による影響を除去できる。これにより、複数のスピーカ間における音声のリスニングポジションへの到達時間差による影響を効果的に抑制し、快適な音場を提供することが可能となる。
【0035】
以下に他の実施形態について説明するが、第1実施形態と同一又は同様の作用効果を奏する箇所についてはその説明を適宜省略する。
【0036】
(第2実施形態)
図8は、第2実施形態にかかる音響装置2のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。本実施形態においては、音響装置2が第1内部スピーカ38A及び第2内部スピーカ38Bを備え、音響装置2に外部スピーカ51が接続されている。第1内部スピーカ38A及び第2内部スピーカ38Bは、例えば、所定の筐体(例えば音響装置2の本体を構成する筐体等)に搭載されたスピーカである。外部スピーカ51は、例えば、第1内部スピーカ38A及び第2内部スピーカ38Bが搭載された筐体の外部に配置されたスピーカである。
【0037】
本実施形態の音場補正装置6は、第1内部スピーカ38A、第2内部スピーカ38B及び外部スピーカ51のそれぞれから第1テスト音TS1、第2テスト音TS2及び第3テスト音TS3を同時に出力する。音場補正装置5は、第1テスト音TS1、第2テスト音TS2及び第3テスト音TS3のそれぞれがマイク45に到達するまでの到達時間差に応じて、第1内部スピーカ38A、第2内部スピーカ38B及び外部スピーカ51のそれぞれから出力される音声AS1,AS2,AS3の出力タイミングを最適化する音場補正処理を実行する。
【0038】
本実施形態の音響装置2は、外部スピーカ51と無線通信を確立する送信器27を備える。本実施形態の音場補正装置6は、送信器27と接続する第3遅延回路25Cを備える。第3遅延回路25Cの作用により、外部スピーカ51からの音声AS3の出力タイミングを調整できる。なお、本実施形態では、音響装置2と外部スピーカ51とが無線通信を介して接続された構成を例示するが、音響装置2と外部スピーカ51とは有線通信を介して接続されてもよい。
【0039】
図9は、第2実施形態にかかる音場補正装置6の機能構成の一例を示すブロック図である。本実施形態の音声出力部101は、第1内部スピーカ38A、第2内部スピーカ38B及び外部スピーカ51のそれぞれからリスニング対象となる音声AS1,AS2,AS3を出力させる。また、本実施形態の音声出力部101は、音場補正処理の実行時において、第1内部スピーカ38A、第2内部スピーカ38B及び外部スピーカ51のそれぞれから第1テスト音TS1、第2テスト音TS2及び第3テスト音TS3を同時に出力させる。
【0040】
本実施形態の録音部104は、第1テスト音TS1、第2テスト音TS2及び第3テスト音TS3のうちの少なくとも2つを含む複合音の音響信号Stを記録する。本実施形態の演算部105は、当該音響信号Stに対する周波数解析処理の解析結果に基づいて、第1テスト音TS1の到達時間T1と第2テスト音TS2の到達時間T2との時間差である内部時間差ΔTintと、第1テスト音TS1及び第2テスト音TS2のうちの少なくともどちらか一方の到達時間(例えば到達時間T1)と第3テスト音TS3の到達時間T3との時間差である外部時間差ΔTextとを算出する。本実施形態の補正部106は、内部時間差ΔTintに基づいて、第1実施形態と同様に、第1内部スピーカ38A及び第2内部スピーカ38Bの少なくともどちらか一方の出力タイミングを補正する。また、本実施形態の補正部106は、外部時間差ΔTextに基づいて第1内部スピーカ38A、第2内部スピーカ38B及び外部スピーカ51のうちの少なくとも1つの出力タイミングを補正する。
【0041】
図10は、第2実施形態にかかる音場補正装置6における処理の第1例を示すフローチャートである。本例においては、2種類のテスト音を用いて音場補正処理が行われる。
【0042】
音場補正処理が開始されると、テスト音出力部102は第1内部スピーカ38Aから第1テスト音TS1を出力し、第2内部スピーカ38Bから第2テスト音TS2を出力する(S201)。このとき、第1テスト音TS1及び第2テスト音TS2は同時に出力される。第1テスト音TS1及び第2テスト音TS2を含む複合音はリスニングポジションに配置されたマイク45により採音され、複合音の音響信号Stは記録部104により記録される(S202)。
【0043】
その後、演算部105はFFT等の手法を用いて音響信号Stから第1テスト音TS1に対応する第1周波数成分及び第2テスト音TS2に対応する第2周波数成分を抽出する(S203)。演算部105は第1内部スピーカ38Aの到達時間T1(第1テスト音TS1が第1内部スピーカ38Aからマイク45に到達するまでの時間)及び第2内部スピーカ38Bの到達時間T2(第2テスト音TS2が第2内部スピーカ38Bからマイク45に到達するまでの時間)を算出する(S204)。演算部105は到達時間T1と到達時間T2との差分から内部時間差ΔTintを算出する(S205)。
【0044】
その後、テスト音出力部102は第1内部スピーカ38Aから第1テスト音TS1を出力し、外部スピーカ51から第3テスト音TS3として第2テスト音TS2を出力する(S206)。第1テスト音TS1及び第2テスト音TS2を含む複合音はリスニングポジションに配置されたマイク45により採音され、複合音の音響信号Stは記録部104によりストレージ13等に記録される(S207)。
【0045】
その後、演算部105はFFT等の手法を用いて音響信号Stから第1テスト音TS1に対応する第1周波数成分及び第2テスト音TS2に対応する第2周波数成分を抽出する(S208)。演算部105は第1内部スピーカ38Aの到達時間T1(第1テスト音TS1が第1内部スピーカ38Aからマイク45に到達するまでの時間)及び外部スピーカ51の到達時間T3(第2テスト音TS2が外部スピーカ51からマイク45に到達するまでの時間)を算出する(S209)。演算部105は到達時間T1と到達時間T3との差分から外部時間差ΔTextを算出する(S210)。
【0046】
そして、補正部106は内部時間差ΔTint及び外部時間差ΔTextに基づいて、第1内部スピーカ38Aからの音声AS1の出力タイミング、第2内部スピーカ38Bからの音声AS2の出力タイミング及び外部スピーカ51からの音声AS3の出力タイミングが最適化されるように第1遅延回路25A、第2遅延回路25B及び第3遅延回路25Cを制御する(S211)。
【0047】
上記処理によれば、2種類のテスト音(第1テスト音TS1及び第2テスト音TS2)を利用して、3つのスピーカ(第1内部スピーカ38A、第2内部スピーカ38B及び外部スピーカ51)を含む音場に対する音場補正処理を実行できる。これにより、周波数解析処理を比較的簡素なアルゴリズムで実行できる。
【0048】
図11は、第2実施形態にかかる音場補正装置6における処理の第2例を示すフローチャートである。本例においては、3種類のテスト音を用いて音場補正処理が行われる。
【0049】
音場補正処理が開始されると、テスト音出力部102は第1内部スピーカ38Aから第1テスト音TS1を出力し、第2内部スピーカ38Bから第2テスト音TS2を出力し、外部スピーカ51から第3テスト音TS3を出力する(S301)。このとき、第1テスト音TS1、第2テスト音TS2及び第3テスト音TS3は同時に出力される。第1テスト音TS1、第2テスト音TS2及び第3テスト音TS3を含む複合音はリスニングポジションに配置されたマイク45により採音され、複合音の音響信号Stは記録部104により記録される(S302)。
【0050】
その後、演算部105はFFT等の手法を用いて音響信号Stから第1テスト音TS1に対応する第1周波数成分、第2テスト音TS2に対応する第2周波数成分及び第3テスト音TS3に対応する第3周波数成分を抽出する(S303)。演算部105は第1内部スピーカ38Aの到達時間T1(第1テスト音TS1が第1内部スピーカ38Aからマイク45に到達するまでの時間)、第2内部スピーカ38Bの到達時間T2(第2テスト音TS2が第2内部スピーカ38Bからマイク45に到達するまでの時間)及び外部スピーカ51の到達時間T3(第3テスト音TS3が外部スピーカ51からマイク45に到達するまでの時間)を算出する(S304)。演算部105は到達時間T1と到達時間T2との差分から内部時間差ΔTintを算出し、到達時間T1と到達時間T3との差分から外部時間差ΔTextを算出する(S305)。なお、到達時間T2と到達時間T3との差分から外部時間差ΔTextを算出してもよい。
【0051】
そして、補正部106は内部時間差ΔTint及び外部時間差ΔTextに基づいて、第1内部スピーカ38Aからの音声AS1の出力タイミング、第2内部スピーカ38Bからの音声AS2の出力タイミング及び外部スピーカ51からの音声AS3の出力タイミングが最適化されるように第1遅延回路25A、第2遅延回路25B及び第3遅延回路25Cを制御する(S306)。
【0052】
上記処理によれば、3種類のテスト音(第1テスト音TS1、第2テスト音TS2及び第3テスト音TS3)を同時に出力して3つのスピーカ(第1内部スピーカ38A、第2内部スピーカ38B及び外部スピーカ51)を含む音場に対する音場補正処理を実行できる。これにより、音場補正処理を迅速に実行できる。
【0053】
上述したような音場補正装置5,6の機能を実現するためのプログラムは、コンピュータにインストール可能な形式又は実行可能な形式のファイルでCD-ROM、フレキシブルディスク(FD)、CD-R、DVD(Digital Versatile Disk)等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体に記録されて提供されてもよい。また、当該プログラムを、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータ上に格納し、ネットワーク経由でダウンロードさせることにより提供するように構成してもよい。また、当該プログラムを、インターネット等のネットワーク経由で提供又は配布するように構成してもよい。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0055】
1,2…音響装置、5,6…音場補正装置、11…CPU、12…メモリ、13…ストレージ、14…ユーザI/F、15…通信I/F、21…音声デコーダ、22…音声入力ADC、23…DSP、25A…第1遅延回路、25B…第2遅延回路、25C…第3遅延回路、31A…第1スピーカ、31B…第2スピーカ、38A…第1内部スピーカ、38B…第2内部スピーカ、41…リモコン、45…マイク、46…無線変調回路、47…送信器、101…音声出力部、102…テスト音出力部、103…受信部、104…録音部、105…演算部、106…補正部、AS1,AS2…音声、F…解析結果、F1,F2…抽出結果、R…対象周波数域、St…音響信号、T1,T2…到達時間、TS1…第1テスト音、TS2…第2テスト音、TS3…第3テスト音、W…時間窓、ΔT…時間差、ΔTint…内部時間差、ΔText…外部時間差
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11