(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-23
(45)【発行日】2025-06-02
(54)【発明の名称】施設の運用コストを最適化するための最適化システム、最適化装置、最適化方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06N 99/00 20190101AFI20250526BHJP
【FI】
G06N99/00 180
(21)【出願番号】P 2025031475
(22)【出願日】2025-02-28
【審査請求日】2025-03-05
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】594128913
【氏名又は名称】株式会社長大
(74)【代理人】
【識別番号】110003535
【氏名又は名称】スプリング弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 雅也
(72)【発明者】
【氏名】平井 正裕
(72)【発明者】
【氏名】高野 秀隆
(72)【発明者】
【氏名】菊地 英一
【審査官】佐藤 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-136706(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第111174375(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第118537050(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06N 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニーリング装置を有する最適化システムであって、
施設の運用コストに関する最適化問題を生成する問題生成部と、
前記最適化問題を、前記アニーリング装置で実行するために、二値変数を定義する変数定義部と、
前記施設の物理特性に関する一つ以上の物理パラメータ値を取得する物理パラメータ取得部と、
前記一つ以上の物理パラメータ値を使って、前記最適化問題を、二次無制約二値最適化問題に変換する二次無制約二値最適化変換部と、
前記二次無制約二値最適化問題を、前記アニーリング装置との間で送受信する二次無制約二値最適化問題送受信部と、
前記アニーリング装置から得られた解に基づいて、前記施設の運用を制御する施設運用制御部と
を備え
、
前記二次無制約二値最適化変換部は、前記最適化問題を、少なくとも、前記施設の電気代および設備消耗額または設備近似トラブルコストの合計額を含む二次無制約二値最適化問題に変換する、
ことを特徴とする最適化システム。
【請求項2】
外部のアニーリング装置と通信する最適化装置であって、
施設の運用コストに関する最適化問題を生成する問題生成部と、
前記最適化問題を、前記アニーリング装置で実行するために、二値変数を定義する変数定義部と、
前記施設の物理特性に関する一つ以上の物理パラメータ値を取得する物理パラメータ取得部と、
前記一つ以上の物理パラメータ値を使って、前記最適化問題を、二次無制約二値最適化問題に変換する二次無制約二値最適化変換部と、
前記二次無制約二値最適化問題を、前記アニーリング装置との間で送受信する二次無制約二値最適化問題送受信部と、
前記アニーリング装置から得られた解に基づいて、前記施設の運用を制御する施設運用制御部と
して機能するプロセッサと、
メモリと
を有するコンピュータを備え
、
前記二次無制約二値最適化変換部は、前記最適化問題を、少なくとも、前記施設の電気代および設備消耗額または設備近似トラブルコストの合計額を含む二次無制約二値最適化問題に変換する、
ことを特徴とする最適化装置。
【請求項3】
前記施設は、負荷及び前記負荷を冷却するための冷却装置を含む、ことを特徴とする請求項1に記載の最適化システム。
【請求項4】
前記施設は、負荷及び前記負荷を冷却するための冷却装置を含む、ことを特徴とする請求項2に記載の最適化装置。
【請求項5】
前記一つ以上の物理パラメータ値は、前記負荷の現在の温度、前記負荷の前記冷却装置による温度低下量、前記負荷の単位消費電力あたりの温度上昇量、前記負荷の単位温度あたりの消耗度、実際のトラブルコスト、および単位時間当たりの予測されるタスク量の少なくとも一つを含む、ことを特徴とする請求項
3に記載の最適化システム。
【請求項6】
前記一つ以上の物理パラメータ値は、前記負荷の現在の温度、前記負荷の前記冷却装置による温度低下量、前記負荷の単位消費電力あたりの温度上昇量、前記負荷の単位温度あたりの消耗度、実際のトラブルコスト、および単位時間当たりの予測されるタスク量の少なくとも一つを含む、ことを特徴とする請求項
4に記載の最適化装置。
【請求項7】
施設の運用コストに関する最適化問題を生成する問題生成工程と、
前記最適化問題を、アニーリング装置で実行するために、二値変数を定義する変数定義工程と、
前記施設の物理特性に関する一つ以上の物理パラメータ値を取得する物理パラメータ取得工程と、
前記一つ以上の物理パラメータ値を使って、前記最適化問題を、二次無制約二値最適化問題に変換する二次無制約二値最適化変換工程と、
前記二次無制約二値最適化問題を、前記アニーリング装置との間で送受信する二次無制約二値最適化問題送受信工程と、
前記アニーリング装置から得られた解に基づいて、前記施設の運用を制御する施設運用制御工程と
を備え
、
前記二次無制約二値最適化変換工程は、前記最適化問題を、少なくとも、前記施設の電気代および設備消耗額または設備近似トラブルコストの合計額を含む二次無制約二値最適化問題に変換する工程を含む、
コンピュータが実行する最適化方法。
【請求項8】
コンピュータに、
施設の運用コストに関する最適化問題を生成する問題生成手順と、
前記最適化問題を、アニーリング装置で実行するために、二値変数を定義する変数定義手順と、
前記施設の物理特性に関する一つ以上の物理パラメータ値を取得する物理パラメータ取得手順と、
前記一つ以上の物理パラメータ値を使って、前記最適化問題を、二次無制約二値最適化問題に変換する二次無制約二値最適化変換手順と、
前記二次無制約二値最適化問題を、前記アニーリング装置との間で送受信する二次無制約二値最適化問題送受信手順と、
前記アニーリング装置から得られた解に基づいて、前記施設の運用を制御する施設運用制御手順と
を実行させ
、
前記二次無制約二値最適化変換手順は、前記最適化問題を、少なくとも、前記施設の電気代および設備消耗額または設備近似トラブルコストの合計額を含む二次無制約二値最適化問題に変換する手順を含む、
プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、施設、特に、データセンターの運用コストを最小化するための最適化システム、最適化装置、最適化方法、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ChatGPT(登録商標)をはじめとした生成系サービスの隆盛に伴い、高性能なグラフィックボードを備えたサーバーを集めたデータセンターへの需要が益々増加している。一方で、それらサーバーはデータ処理に伴い大量の熱を発生させる。さらにグラフィックボードは既定の温度以上に熱せされると故障率が上がってしまう。そのため、データセンターは、より高度な温度管理が必要になり、空調機の消費電力についても無視できない量となっている。データセンター内には個別に制御可能な空調機が複数あり、それらのON/OFFによる個々のサーバーへの冷却効果は、データセンター内のサーバーの配置、気温、ラックの材質等に依存する。よって、個々のサーバーの現在温度から、どの空調機をどの程度の強度で稼働させればよいかを一意的に計算することは一般的に極めて困難である。
【0003】
データセンターの温度管理に関する従来技術として、例えば、特開2023-104385号がある(以下、特許文献1という)。特許文献1には、グリーン電力などによる電力供給が過剰になったときに、データセンターの空調機の設定温度を下げることで、電力供給の均衡およびコスト削減を図る技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示される技術は、データセンター全体の設定温度を低下させるものであり、データセンター内の個々のサーバーの温度管理を行うことはできない。
【0006】
一方、上述したような複雑な最適化問題に対して、有力な方法として考えられているのが量子アニーリングによる最適化である。量子アニーリングは物理的なイジングモデルが、与えられたスピン間の条件に対して、系全体のエネルギーが最低となるスピン状態の組み合わせになることを利用して最適化問題を解く技術である。しかしながら、データセンター内の個々のサーバーの温度管理を、量子アニーリングによる最適化問題として扱った従来技術は知られていない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、上記事情に鑑みて為されたものであり、その目的は、データセンター内の個々のサーバーまたはコンピュータの温度管理を、量子アニーリングによる最適化問題として扱うことで、グラフィックボードなどの非常に高価な電子部品の熱損傷を防止しつつ、データセンターの運用コストを最小化するための最適化システム、最適化装置、最適化方法およびプログラムを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
ひとつの態様において、本開示の最適化システムは、アニーリング装置を有する最適化システムであり、施設の運用コストに関する最適化問題を生成する問題生成部と、最適化問題を、アニーリング装置で実行するために、二値変数を定義する変数定義部と、施設の物理特性に関する一つ以上の物理パラメータ値を取得する物理パラメータ取得部と、一つ以上の物理パラメータ値を使って、最適化問題を、二次無制約二値最適化問題に変換する二次無制約二値最適化変換部と、二次無制約二値最適化問題を、アニーリング装置との間で送受信する二次無制約二値最適化問題送受信部と、アニーリング装置から得られた解に基づいて、施設の運用を制御する施設運用制御部とを備え、二次無制約二値最適化変換部は、最適化問題を、少なくとも、施設の電気代および設備消耗額または設備近似トラブルコストの合計額を含む二次無制約二値最適化問題に変換する、ことを特徴とする最適化システムである。
【0009】
他の態様において、本開示の最適化装置は、外部のアニーリング装置と通信する最適化装置であり、施設の運用コストに関する最適化問題を生成する問題生成部と、最適化問題を、アニーリング装置で実行するために、二値変数を定義する変数定義部と、施設の物理特性に関する一つ以上の物理パラメータ値を取得する物理パラメータ取得部と、一つ以上の物理パラメータ値を使って、最適化問題を、二次無制約二値最適化問題に変換する二次無制約二値最適化変換部と、二次無制約二値最適化問題を、アニーリング装置との間で送受信する二次無制約二値最適化問題送受信部と、アニーリング装置から得られた解に基づいて、施設の運用を制御する施設運用制御部として機能するプロセッサと、メモリとを有するコンピュータを備え、二次無制約二値最適化変換部は、最適化問題を、少なくとも、施設の電気代および設備消耗額または設備近似トラブルコストの合計額を含む二次無制約二値最適化問題に変換する、ことを特徴とする最適化装置である。
【0010】
また、他の態様において、本開示の最適化方法は、施設の運用コストに関する最適化問題を生成する問題生成工程と、最適化問題を、アニーリング装置で実行するために、二値変数を定義する変数定義工程と、施設の物理特性に関する一つ以上の物理パラメータ値を取得する物理パラメータ取得工程と、一つ以上の物理パラメータ値を使って、最適化問題を、二次無制約二値最適化問題に変換する二次無制約二値最適化変換工程と、二次無制約二値最適化問題を、アニーリング装置との間で送受信する二次無制約二値最適化問題送受信工程と、アニーリング装置から得られた解に基づいて、施設の運用を制御する施設運用制御工程とを備え、二次無制約二値最適化変換工程は、最適化問題を、少なくとも、施設の電気代および設備消耗額または設備近似トラブルコストの合計額を含む二次無制約二値最適化問題に変換する工程を含む、コンピュータが実行する最適化方法である。
【0011】
さらに他の態様において、本開示のプログラムは、コンピュータに、施設の運用コストに関する最適化問題を生成する問題生成手順と、最適化問題を、アニーリング装置で実行するために、二値変数を定義する変数定義手順と、施設の物理特性に関する一つ以上の物理パラメータ値を取得する物理パラメータ取得手順と、一つ以上の物理パラメータ値を使って、最適化問題を、二次無制約二値最適化問題に変換する二次無制約二値最適化変換手順と、二次無制約二値最適化問題を、アニーリング装置との間で送受信する二次無制約二値最適化問題送受信手順と、アニーリング装置から得られた解に基づいて、施設の運用を制御する施設運用制御手順とを実行させ、二次無制約二値最適化変換手順は、最適化問題を、少なくとも、施設の電気代および設備消耗額または設備近似トラブルコストの合計額を含む二次無制約二値最適化問題に変換する手順を含む、プログラムである。
【発明の効果】
【0012】
本開示に従う、最適化システム、最適化装置、最適化方法およびプログラムによれば、データセンター内の個々のサーバーまたはコンピュータの温度管理を、量子アニーリングによる最適化問題として扱うことができるので、グラフィックボードなどの非常に高価な電子部品の熱損傷を防止しつつ、データセンターの運用コストを最小化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、本開示の実施形態に従う最適化システムおよび最適化装置をデータセンターに適用した例を示す全体概念図である。
【
図2】
図2は、データセンターのサーバールーム内を模式的に示す図である。
【
図3】
図3は、本開示の実施形態に従う最適化システム、最適化装置、および周辺装置を示すブロック図である。
【
図4】
図4は、本開示の実施形態に従う最適化方法を示すフローチャートである。
【
図5】
図5は、タスクの実行、空調機の運転、およびコンピュータの温度の相関関係を時系列で示した略示図である。
【
図6】
図6は、
図5の結果を、コンピュータの温度と時間との関係でまとめたグラフである。
【
図7】
図7は、本開示の他の実施形態に従うロードバランサーの強度を示すm量子ビットの変数と二値変数との対応関係を示す表である。
【
図8】
図8は、本開示の他の実施形態に従う、近似トラブルコストを求める方法を説明するグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本開示に従う最適化システム、最適化装置、最適化方法およびプログラムの実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、すべての図面を通じて、同一部材には、同一符号を付す。また、図面に示す実施形態は、例示に過ぎず、本開示をいかなる意味においても限定するものではない。また、以下で説明する実施形態およびその変形例は、任意に組み合わせることが可能であり、その組み合わせは、本開示の範囲内に含まれる。
【0015】
なお、以下では、最適化の対象となる施設として、データセンターを例にとって説明するが、施設はこれに限定されない。例えば、施設の他の例として、農業用ビニールハウス、栽培または養殖施設、海産物貯蔵施設、バイオプロダクト(人間や動物の精子、卵子、エンブリオ、血液等)保管施設、医薬品(ワクチン等)保管施設、動植物園、水族館、オフィスビル、物流センターなどが考えられる。
【0016】
図1は、本開示の実施形態に従う最適化システム10をデータセンター1に適用した例を示す全体概念図である。データセンター1は、複数のサーバールーム2から構成される。各サーバールーム2は、複数のラック3、複数の空調機(冷却装置)4、電力供給部5、およびタスク分配部6を備える。電力供給部5は、温度制御部5と言うこともある。
【0017】
各ラック3は、筐体と、筐体の内側に等間隔に設けられた、コンピュータを載置するための複数の棚とを有する。各空調機4は、例えば、40~60kWの冷房能力を有するものであってよく、ひとつのサーバールーム2に3~5台程度設けられている。本例では、説明の都合上、ひとつのラック3に対してひとつの空調機4が設けられているが、これに限定されず、2つのラック3に対して、ひとつの空調機4が設けられていてもよい。
【0018】
電力供給部5は、外部の電力供給系統から電力の供給を受け、空調機4に電力を分配する機能を有する。また、電力供給部5は、温度制御部として設定温度になるように、空調機4における冷却の強度、冷却気流の量の調整、空調機4のON/OFFの制御を行う。タスク分配部6は、外部のネットワーク7からタスク命令を受信し、ラック3に搭載された所定のコンピュータ(サーバー)に実行すべきタスクを割り振る機能を有する。
【0019】
最適化システム10は、動作指示部8およびネットワーク7を介して、電力供給部(温度制御部)5およびタスク分配部6に接続されている。動作指示部8は、後述するように、アニーリング装置によって得られた解にしたがって、ネットワーク7を介して、電力供給部5およびタスク分配部6にインストラクション信号を伝送する。電力供給部5は、インストラクション信号に従って空調機4を運転させ、タスク分配部6は、インストラクション信号に従ってラック3内のいずれかのコンピュータ(サーバー)にタスクを割り振る。つまり、動作指示部8、電力供給部(温度制御部)5、およびタスク分配部6は、アニーリング装置から得られた解に基づいて、サーバールーム2、ひいてはデータセンター1を最適に運用するように構成される。
【0020】
図2は、データセンター1のサーバールーム2内を模式的に示す図である。以下の説明において、コンピュータは、サーバーでもあってよい。左側のラック1(3)には、コンピュータ1(31)、コンピュータ2(32)、コンピュータ3(33)、コンピュータ4(34)が搭載されており、右側のラック2(3)には、コンピュータ5(35)・・・コンピュータM(36)が搭載されている。ラック1(3)に隣接して空調機1(4)が設置され、ラック2(3)に隣接して空調機2(4)が設置されている。各ラック3は、多数の小孔が形成された二重床構造の床パネル30の上に設置されている。
【0021】
各空調機4は、各ラック3の前面と平行かつ床面と平行な方向に二重床下で冷気の流れ40を生じさせる。冷気の流れ40は床パネル30の小孔から二重床上に冷気41として上昇する。冷気41は各ラック3の前面に吸引されて、ラック3内のコンピュータ31~36を冷却し、ラック3の裏面から高温の排気42となって排出される。排気42は冷気の流れ40と逆向きの暖気の流れ43となって、空調機4に戻される。
【0022】
コンピュータ31~36には、個々に温度センサ(図示せず)が設けられている。コンピュータ31~36の温度は温度センサによって、例えば、1分ごと、5分ごと、または10分ごとに測定される。温度測定の時間間隔は任意であってよい。コンピュータ31~36の測定温度は、例えば、コンピュータ1(31)が48.6℃、コンピュータ2(32)が53.4℃、コンピュータ3(33)が55.0℃、コンピュータ4(34)が50.6℃、コンピュータ5(35)が49.3℃、コンピュータM(36)が65.6℃というように、ばらばらの値を示す。これらの温度情報は、電力供給部(温度制御部)5に送られる。
【0023】
図3は、本開示の実施形態に従う最適化システム、最適化装置および周辺装置を示すブロック図である。最適化装置システムは、古典コンピュータである最適化装置11およびアニーリング装置19を備える。最適化装置11は、制御装置12と、メモリ14と、記憶装置16と、インターフェース18とを備える。最適化装置11は、ネットワーク7を介して、サーバールーム2、機械学習装置20、入力装置22、ディスプレイ装置24などの周辺装置と接続されてよい。
【0024】
制御装置12は、一つ以上のプロセッサ(例えば、CPU)を含む計算機であってよい。メモリ14は、DRAM(Dinamic Random Access Memory)、SRAM(Static Random Access Memory)などの揮発性メモリであってよい。記憶装置16は、ROM(Read Only Memory)、SSD(Solid State Drive)などのフラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)などの不揮発性メモリであってよい。
【0025】
インターフェース18は、入力部、出力部、および通信部を含む。インターフェース18は、ネットワーク7を介して、入力装置22、ディスプレイ装置24、機械学習装置20と接続する。ネットワーク7は、インターネット、WiFi等のネットワークであってよい。入力装置22は、キーボード、マウス、タッチパネル、タッチペン等であってよい。ディスプレイ装置24は、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイなどであってよい。機械学習装置20は、AI(Artificial Intelligence)を使った機械学習マシンであってよい。
【0026】
アニーリング装置19は、量子アニーリング型コンピュータ、デジタルアニーラ(登録商標)、CMOSアニーリングマシン、シミュレーテッド分岐マシンなどであってよい。また、アニーリング装置19は、Leap(D-Wave Systems社)、AWS(Amazon Web Services)、Braket、Microsoft Azure Quantum、IBM Quantum Experienceなどのクラウドサービスとして実装されてもよい。すなわち、アニーリング装置19は、制御装置12から空間的に離れた場所に設置されていてもよく、例えば、アニーリング装置19のみが海外に設置されていてもよい。なお、アニーリング装置19は、最適化装置11とは異なる量子アニーリングアルゴリズムを実行し得るハードウエア装置である。最適化システム10は、アニーリング装置19の他に、最適化ソルバ(図示せず)を含んでよい。最適化ソルバは、最適化問題を解くことが可能な主双対内点法やニュートン法を実装したソフトウエアとして実現されてもよい。
【0027】
制御装置12は、最適化問題を生成する問題生成部と、変数定義部と、物理パラメータ取得部と、二次無制約二値最適化変換部と、二次無制約二値最適化問題送受信部と、施設運用制御部として機能する。
【0028】
まず、問題生成部の機能について説明する。問題生成部は、データセンター1などの施設の運用コストに関する最適化問題を生成する。ここで、運用コストは、電気代のような施設の消費電力量に基づくコストと、設備消耗額のような施設の設備消耗に基づくコストと、利益のような施設の設備(データセンター1の場合は、コンピュータ31~36)の生産力に基づくコストとの合計Ctotalとして、一般的には、以下の(式1)ように定義される。
Ctotal = ΣiCi(E,W,-R) (式1)
ここで、Ciはi番目のサーバールーム2のコスト、Eは電気代、Wは設備消耗額、Rは利益を表す。問題生成部は、Ctotalを最小化する求解問題として最適化問題を定義する。問題生成部は、定義した最適化問題を、メモリ14内の最適化問題記憶部に格納する。
【0029】
次に、変数定義部の機能について説明する。変数定義部は、最適化問題を、アニーリング装置19で実行するための二値変数を定義する。アニーリング装置19を用いて、最適化問題を解くためには、最適化問題を磁性体の模型でモデル化したイジングモデルによって表現する必要がある。イジングモデルは、強磁性体の相転移を扱うために簡易化されたモデルであり、磁性体の性質を表す上下の向きを持つスピンの状態と二つのスピン間で及ぼす相互作用の力を表す相互作用係数、および外部から与えられた磁場の力を表す外部磁場係数で表される。イジングモデルは、例えば、+1と-1の2値を取るスピン間の相互作用によりエネルギーが決まり、イジングモデルが持つエネルギーが最小となるようにスピンの状態が更新される。最適化問題の評価指標を最小化するパラメータの組み合わせは、イジングモデルのエネルギーに対応するように最適化問題を写像して、イジングモデルを収束させることにより、エネルギーを最小とするスピンの状態の組み合わせとして得られる。
【0030】
スピン全体の評価関数を、+1と-1のスピンの代わりに、0と1の2値を取る変数で表したものがQUBO(Quadratic Unconstrained Binary Optimizaztion)形式である。変数定義部は、問題生成部で定義した最適化問題(式1)を、QUBO形式で定式化するために、0と1の2値を取る変数を定義する。
【0031】
本実施形態における変数定義部の具体的な機能を説明する。例えば、データセンター1内にN個の空調機4が設置されているとする。各空調機4は電力供給部(温度制御部)5によって個別に制御が可能であり、空調の強さに応じて消費電力が決められているとする。また、データセンター1内にはM台のコンピュータ31~36が複数のラック3に収納されているとする。ここで、コンピュータとは、温度および消費電力が測定できる任意の処理システムを指す。つまり、複数台のサーバーを1つのコンピュータとしてもよいし、サーバーの個々のラック3を1つのコンピュータとしてもよい。
【0032】
データセンター1には、時々刻々と処理されるタスクが舞い込んでくる。ある時点からある時点までの予想されるタスクに対して、区別するために番号を振る。個々のタスクは、それぞれ報酬および処理に必要な電力が決められている。すなわち、i番目のタスクの報酬を(数1)、処理に必要な電力を(数2)とする。
【数1】
【数2】
これらのパラメータは、記憶装置16に予め記憶しておいてよい。
【0033】
本例において変数定義部は、最適化を行う際に操作可能な2つの変数を定義する。1つ目の変数はタスク分配部6によるタスクの割り振りに関連し、i番目のタスクをj番目のコンピュータで実行するか否かを示す変数(数3)として定義される。
【数3】
ここで、(数3)は2値変数であり、(数4)のときはタスクを実行するが、(数5)の時はタスクを実行しない。
【数4】
【数5】
ただし、あるタスクを複数のコンピュータで実行することは無い。しかし、あるタスクをいずれのコンピュータでも実行しないことはある。つまり、任意のjの変数(数3)に対して(数6)の関係が成立する。
【数6】
【0034】
2つ目の変数は、電力供給部(温度制御部)5による空調機4への供給電力、すなわち空調機4の消費電力に関連し、i番目の空調機4を強度j(例えば、jは、0(強度0:切)、1(強度1:弱)、2(強度2:中)、3(強度3:強)の値を取る)で運転させることを示す変数(数7)として定義される。
【数7】
【0035】
ここで、(数3)と同様に、(数7)も2値変数とする。(数8)となるとき、i番目の空調機4を強度jで運転させる。
【数8】
【0036】
変数定義部は、以上のように定義した2つの変数(数3)および(数7)をメモリ14内の変数定義記憶部に記憶する。
【0037】
次に、物理パラメータ取得部の機能について説明する。物理パラメータ取得部は、施設の物理特性に関する一つ以上の物理パラメータ値を取得する。ここで、施設の物理特性とは、コンピュータによるタスクの実行および/または空調機4の運転強度に応じて変化するデータセンター1内の設備の物理的な特性を指す。物理特性に関する物理パラメータ値として、例えば、コンピュータの現在の温度、コンピュータの単位消費電力あたりの温度上昇量、空調機4の強度をある値に設定したときのコンピュータの温度低下量、コンピュータの熱疲労度などが挙げられる。この中で、コンピュータの単位消費電力あたりの温度上昇量および空調機4の強度をある値に設定したときのコンピュータの温度低下量は、実際のコンピュータの配置、ラック3の材質、外気温度などの要因によって異なるため、実際に測定する。
【0038】
上記した物理パラメータのうち、コンピュータの現在の温度は、各コンピュータに搭載された温度センサによって検出され、ネットワーク7を介して物理パラメータ取得部に送られる。コンピュータでの単位消費電力あたりの温度上昇量および空調機4の強度をある値に設定したときのコンピュータの温度低下量は、サーバールーム2内で実際に測定され、ネットワーク7を介して物理パラメータ取得部に送られる。この点については、後述する。また、コンピュータの熱疲労度は、記憶装置16で記憶更新されるコンピュータの熱サイクル数から計算されて物理パラメータ取得部に送られる。物理パラメータ取得部は、取得した物理パラメータ値をメモリ14の物理パラメータ記憶部に格納する。
【0039】
次に、二次無制約二値最適化変換部の機能について説明する。二次無制約二値最適化変換部は、上述した一つ以上の物理パラメータ値を使って、最適化問題(式1)を、二次無制約二値最適化問題(QUBO形式)に変換する。まず、(式1)の電気代Eについて定式化する。空調機4の強度がiであるときの消費電力を(数9)で表す。
【数9】
また、コンピュータ31~36および空調機4の単位消費電力あたりの料金をE
unitとする。電気代Eは、(数10)で定式化される。
【数10】
ここで、式の第1項はコンピュータ31~36の電気代を表し、第2項は空調機4の電気代を表す。単位消費電力あたりの料金E
unitは、時間帯によって変化する。例えば、夜間の電気料金(数11)と日中の電気料金(数12)との間には、一般に(数13)の関係がある。
【数11】
【数12】
【数13】
したがって、最適化計算を実行する際には、時間帯に応じたE
unitの値を選択する。(数11)および(数12)は、入力装置22によって入力され、ネットワーク7を介して記憶装置16に格納される。
【0040】
次に、(式1)の利益Rを定式化する。利益Rは(数14)で定式化される。
【数14】
ただし、コストとして見れば、利益Rは符号が負となるので、-Rと表記される。
【0041】
次に、(式1)の設備消耗額Wについて定式化する。これは、コンピュータの故障率を計算するために温度に関する量を定義したものである。上述した物理パラメータ値のうち、コンピュータでの単位消費電力あたりの温度上昇量をT
unitとする。サーバーの耐熱温度をLとする。Lは定数である。i番目のサーバー(コンピュータ)の現在の温度を(数15)で表す。単位温度あたりの設備消耗度をw
iで表す。w
iは、コンピュータの温度が1度上昇するたびにどの程度の消耗が発生するかを表した値である。空調機jを強度kに設定したときにコンピュータiの温度が下がる量を(数16)で表す。設備消耗額Wは(数17)で定式化される。
【数15】
【数16】
【数17】
ここで、(数17)で示す式の第1項はサーバーの現在温度合計を表し、第2項はサーバーの耐熱温度を表し、第3項はサーバーが処理することでの温度上昇を表し、第4項は空調機4による温度低下を表す。ところで、上述したように、w
iは、コンピュータの温度が1度上昇するたびにどの程度の消耗が発生するかを表した値であるが、一般に、w
iの値はコンピュータごとに異なる。例えば、熱疲労度がより大きいコンピュータは、熱疲労度がより小さいコンピュータに比べ、w
iの値が大きくなる。
【0042】
二次無制約二値最適化変換部は、(式1)をQUBO形式の評価関数として(数18)のように定式化する。
【数18】
そして、二次無制約二値最適化変換部は、(数18)をメモリ14の評価関数記憶部に格納する。
【0043】
次に、二次無制約二値最適化問題送受信部の機能について説明する。二次無制約二値最適化問題送受信部は、二次無制約二値最適化問題を、アニーリング装置19に出力する。二次無制約二値最適化問題は、二次無制約二値最適化変換部によって最適化問題をQUBO形式に変換して定式化されたものであり、本例では(数18)として表される。二次無制約二値最適化問題送受信部は、メモリ14の評価関数記憶部に格納された評価関数(数18)をインターネット等のネットワークを介してアニーリング装置19へ出力する。アニーリング装置19は、QUBO形式の評価関数(数18)を最小化する最適解のセット、すなわち、コンピュータへのタスク分配(数3)および空調機4の運転制御(数7)の最適なパラメータセットを算出する。アニーリング装置19がデジタルアニーラである例において、デジタルアニーラは全変数をランダムに変化させる。それによって、評価式が上下するが、下がる方向ばかりに変更すると最適解が得られないので、はじめは評価が悪化する変化も確率的に許す。そして悪化する確率を徐々に減衰させることで最適値を見つけ出す。このように評価を改善し続けることにより、短時間で最適解を得ることができる。二次無制約二値最適化問題送受信部は、ネットワークを介してアニーリング装置19から得られた解をメモリ14の解記憶部に格納する。
【0044】
次に、施設運用制御部の機能について説明する。施設運用制御部は、ネットワークを介してアニーリング装置19から得られた解に基づいて、施設の運用を制御する。施設の運用とは、データセンター1のコンピュータへのタスクの分配および空調機4の運転制御を指す。施設運用制御部は、動作指示部8に制御信号を送り、動作指示部8は、ネットワーク7を介してサーバールーム2、すなわち
図1に示す電力供給部(温度制御部)5およびタスク分配部6へインストラクション信号を伝送する。インストラクション信号に基づいて、電力供給部(温度制御部)5は、空調機4のON/OFFおよび強度を制御し、タスク分配部6はコンピュータへのタスクの割り振りを制御する。
【0045】
図4は、実施形態に従う最適化方法を示すフローチャートである。本実施形態に従う最適化方法は、施設の運用コストに関する最適化問題を生成する問題生成工程(ステップS1)と、最適化問題を、アニーリング装置19で実行するために、二値変数を定義する変数定義工程(ステップS2)と、施設の物理特性に関する一つ以上の物理パラメータ値を取得する物理パラメータ取得工程(ステップS3)と、一つ以上の物理パラメータ値を使って、最適化問題を、二次無制約二値最適化問題に変換する二次無制約二値最適化変換工程(ステップS4)と、二次無制約二値最適化問題を、アニーリング装置19との間で送受信する二次無制約二値最適化問題送受信工程(ステップS5、ステップS6)と、アニーリング装置19から得られた解に基づいて、施設の運用を制御する施設運用制御工程(ステップS7)とを有する。
【0046】
ステップS1において、問題生成部が(式1)の最適化問題を生成し、メモリ14の最適化問題記憶部に格納する。
【0047】
ステップS2において、変数定義部が第1の変数(数3)および第2の変数(数7)を定義し、メモリ14の変数定義記憶部に、定義した第1の変数(数3、数4、数5)および第2の変数(数7および数8)を格納する。また、各変数の条件(数6)についても一緒に格納する。
【0048】
ステップS3において、物理パラメータ取得部が、サーバー(コンピュータ)の現在の温度(数15)、コンピュータの単位消費電力あたりの温度上昇量Tunit、空調機jの強度をkに設定したときのコンピュータiの温度低下量(数16)、コンピュータの単位温度あたりの消耗度wi、およびi番目のコンピュータの熱疲労度Fiを取得する。また、物理パラメータ以外のパラメータ、例えば、i番目のタスクの報酬(数1)、i番目のタスクに必要な電力(数2)、空調機4の強度がiであるときの消費電力(数9)、コンピュータまたは空調機4の単位消費電力あたりの電気料金Pを、入力装置22から入力して記憶装置16に格納する。
【0049】
物理パラメータのうち、サーバー(コンピュータ)の現在の温度(数15)は、コンピュータに内蔵された温度センサによって検出され、所定の時間間隔で、物理パラメータ取得部に伝送され、メモリ14の物理パラメータ記憶部に上書きされる。
【0050】
コンピュータの単位温度あたりの消耗度wiは、サーバールーム2内のコンピュータの処理速度や購入時期によって異なる。処理速度を横軸とし、購入時期を縦軸としたwiの値のテーブルを作成し、記憶装置16に格納しておくのが好ましい。テーブルは、入力装置22から入力して作成するか、ネットワーク7を介してダウンロードしてもよい。なお、コンピュータの単位温度あたりの消耗度wiは定数であってもよい。
【0051】
i番目のコンピュータの熱疲労度Fiは、i番目のコンピュータの熱サイクル数から決定することができる。熱サイクル数は、コンピュータに内蔵された温度センサが検出する温度が、ある閾値以上の値で変化した回数を指す。熱疲労度Fiは、Fi = α・nとして求めることができる。ここで、αは係数、nは熱サイクル数を表す。こうして得られたコンピュータの熱疲労度Fiを記憶装置16に格納しておく。
【0052】
コンピュータの単位消費電力あたりの温度上昇量Tunitおよび空調機jの強度をkに設定したときのコンピュータiの温度低下量(数16)は、上述したように、実際のコンピュータの配置、ラック3の材質、外気温度などの要因によって異なるため、実際に測定する。以下で測定方法について詳細に説明する。
【0053】
図5は、タスクの実行、空調機4の運転、およびコンピュータの温度の相関関係を時系列で示す略示図である。本例では、タスクの種類は同一であると仮定している。コンピュータにタスクが割り当てられると、当該コンピュータがタスクを実行する。タスクの実行に伴い、コンピュータの温度が上昇し、空調機4がONとなる。本例では説明の都合上、タスクの開始と同時に空調機4をオンしているが、空調機4をONにするタイミングはこれに限定されない。
【0054】
図5の上段を参照すると、空調機4は強度1、すなわち「弱」で運転している。このときのコンピュータの温度は、急峻な傾斜角度で上昇し、最高温度に達したのち、なだらかに下降して行くのがわかる。次に、
図4の中段を参照すると、空調機4は強度2、すなわち「中」で運転している。このときのコンピュータの温度は、強度1の場合よりもやや小さい傾斜角度で上昇し、強度1の場合よりもやや低い最高温度に達した後、強度1の場合よりもやや急な傾斜角度で下降して行くのがわかる。次に、
図4の下段を参照すると、空調機4は強度3、すなわち「強」で運転している。このときのコンピュータの温度は、強度2の場合よりもやや小さい傾斜角度で上昇し、強度2の場合よりもやや低い最高温度に達した後、強度2の場合よりもやや急な傾斜角度で下降して行くのがわかる。また、コンピュータの最大温度差は、強度1<強度2<強度3であることがわかる。
【0055】
図6は、
図5の結果を、コンピュータの温度と時間との関係でまとめたグラフである。コンピュータの単位消費電力あたりの温度上昇量T
unitは、
図6に示すグラフの傾きから求めることができる。コンピュータの温度は、t
0からt
1の間、空調機4の強度とは無関係に、所定の速度で上昇している。これは、空調機4がONしてからコンピュータが冷却されるまでに時間を要することを示している。つまり、t
0からt
1の間は空調機4の影響を無視できるので、この間のグラフの傾きとコンピュータの消費電力から、コンピュータの単位消費電力あたりの温度上昇量T
unitを求めることができる。
【0056】
一方、空調機jの強度をkに設定したときのコンピュータiの温度低下量(数16)は、コンピュータの温度が最大となる時刻から所定の時間Δt内に低下した温度ΔTとして
図6に示すグラフから求めることができる。物理パラメータ取得部は、このようにして求めたコンピュータの単位消費電力あたりの温度上昇量T
unitおよびコンピュータの温度低下量(数16)をメモリ14の物理パラメータ記憶部に格納する。
【0057】
図6に示すように、コンピュータの単位消費電力あたりの温度上昇量T
unitおよびコンピュータの温度低下量(数16)は、実際の測定によって得られるものであるが、機械学習装置20を使って、予測することもできる。サーバールーム2内でラック3に搭載されたコンピュータの配置、ラック3の材質、外気温度、タスクの量、コンピュータの単位消費電力あたりの温度上昇量T
unitおよびコンピュータの温度低下量(数16)の実際の測定サンプルデータをデータベースに蓄積し、AIによる機械学習を通じて、任意のコンピュータについて
図6のグラフを予測することができる。これにより、実際に測定しなくとも、機械学習装置20を用いて予測した
図6のグラフから、単位消費電力あたりの温度上昇量T
unitおよびコンピュータの温度低下量(数16)を取得することができる。物理パラメータ取得部は、機械学習装置20を用いて求めたコンピュータの単位消費電力あたりの温度上昇量T
unitおよびコンピュータの温度低下量(数16)を、ネットワーク7を介して、メモリ14の物理パラメータ記憶部に格納してもよい。
【0058】
ステップS4において、二次無制約二値最適化変換部がメモリ14の最適化問題記憶部、変数定義記憶部、および物理パラメータ記憶部、ならびに記憶装置16にアクセスして、二値変数(数3)、物理パラメータ値(数15、Tunit、数16、wi、Fi)およびその他のパラメータ値(数1、数2、数9、P)を読み出し、電気代E(数10)、利益R(数14)、設備消耗額W(数17)を定式化し、評価関数を(数18)のように定式化することで、問題生成部で生成した最適化問題をQUBO形式に変換する。二次無制約二値最適化変換部は、評価関数(数18)をメモリ14の評価関数記憶部に格納する。
【0059】
ステップS5において、二次無制約二値最適化問題送受信部が、メモリ14の評価関数記憶部にアクセスして評価関数(数18)を読み出し、ネットワークを介してアニーリング装置19に送信する。アニーリング装置19は評価関数(数18)を最小化する解を算出する。
【0060】
ステップS6において、二次無制約二値最適化問題送受信部がネットワークを介してアニーリング装置19から解を取得し、メモリ14の解記憶部に格納する。
【0061】
ステップS7において、施設運用制御部がメモリ14の解記憶部にアクセスし、動作指示部8に制御信号を送る。動作指示部8は、ネットワーク7を介してサーバールーム2、すなわち
図1に示す電力供給部(温度制御部)5およびタスク分配部6へインストラクション信号を伝送する。インストラクション信号に基づいて、電力供給部(温度制御部)5は、空調機4のON/OFFおよび強度を制御し、タスク分配部6はコンピュータへのタスクの割り振りを制御する。
【0062】
次に、本開示に従う他の実施形態について図面を参照しながら説明する。上述した実施形態は、施設がデータセンター以外の場合(例えば、農業用ビニールハウス、栽培または養殖施設、海産物貯蔵施設、バイオプロダクト(人間や動物の精子、卵子、エンブリオ、血液等)保管施設、医薬品(ワクチン等)保管施設、動植物園、水族館、オフィスビル、物流センターなど)にも適用可能であるが、以下で説明する他の実施形態は、施設がデータセンターである場合に適用するのが、より好ましい。
【0063】
上述した実施形態と同様な構成については説明を省略し、異なる構成についてのみ説明する。他の実施形態は、コンピュータにタスクを実行させる変数の定義、消費電力の定義、電気代の定義、トラブルコストの式、および総コストの式が、上述した実施形態と異なる。以下、具体的に説明する。
【0064】
本実施形態において、コンピュータにタスクを実行させる際に、ロードバランサーが使用される。データセンターで処理すべきタスクは、基本的にすべてサーバー内のコンピュータによって処理される。しかしながら、サーバーのすべてのコンピュータに均等にタスクを割り振ると、温度が高いコンピュータは、温度が低いコンピュータに比べ処理負荷が大きくなってしまう。そこで、ロードバランサーを用いることで、温度が高いコンピュータには少なく、温度が低いコンピュータには多くタスクを割り振るようにする。
【0065】
本実施形態において、ロードバランサーの強度を1つ目の変数qで表す。変数qはm量子ビットを使うことで2
m段階設定可能である。変数qは、二値変数を使って(数19)で表すことができる。
【数19】
【0066】
図7は、他の実施形態に従うロードバランサーの強度を示すm量子ビットの変数qと、二値変数(q
1、q
2、q
3,・・・q
m)との対応関係を示す表である。q=0の時、ロードバランサーの強度は0となり、すべてのサーバーのコンピュータに同様に処理が割り振られる。ロードバランサーの強度(すなわち、qの値)が大きくなるにつれて、温度が高いコンピュータにはより少ないタスクを、温度が低いコンピュータにはより多くのタスクを割り振るようにする。
【0067】
ロードバランサーの強度qの値は、0から1の間の離散的な値を取る。具体的な分布の決め方の実施例を以下に示す。サーバーの温度分布をTとする。すなわち、i番目のサーバーの温度がT
iであるとすれば、N台のサーバーの温度分布は(数20)のように表すことができる。
【数20】
同様に、サーバーへタスクの処理を割り振るための重み分布Hを(数21)のように定義する。
【数21】
温度分布Tから重み分布Hを作成する際に、どれだけ偏りをつけるかを(数19)で定義したqで表すことを考える。まず、温度分布Tを正規化したものをA
iとして(数22)で表す。
【数22】
ここで、max(T)、min(T)はそれぞれTの値の中の最大値および最小値である。次に、(数22)およびqを用いて、重み分布Hを正規化する訳だが、まず、0≦H
i’≦1を満たす、正規化前の重み分布H
i’を(数23)のように定義する。
【数23】
つづいて、H
i’を正規化する(つまりΣ
iH
i’=1を満たすようにする)ために(数24)の計算を行う。
【数24】
これにより、重み分布H
iは正規化され、任意のiに対して、0≦H
i≦1、かつ、Σ
iH
i’=1が成り立つことになる。したがって、温度T
iおよびqから重み分布H
iを決めることができる。なお、重み分布H
iを決まる方法は、これに限定されない。
【0068】
また、本実施形態においては、消費電力について新たな考え方を導入する。データセンターで消費される電力のうちで、最適化が可能な電力は空調機の電力である点に着目した。すなわち、上述したように、データセンターで処理すべきタスクは、基本的にすべてサーバー内のコンピュータによって処理される。つまり、サーバーの消費電力は最適化の対象から除外してよく、最適化の対象を空調機の消費電力に絞ることで実際のデータセンターに即したコスト管理が可能となる。
【0069】
上記の考え方に基づき、改めて消費電力Pを(数25)に示す式で定義する。
【数25】
ここで、T
inは、空調が取り付けられている部屋の室内気温を示し、T
outは室外気温を示す。Aは、室内気温T
inと室外気温T
out、および空調機の性能によって決まる係数を示す。Aの値は、0から1の範囲、好ましくは0.1から0.9の範囲、より好ましくは0.15から0.8の範囲、さらに好ましくは0.2から0.5の範囲である。Qは、空調機が室内から室外へ移動させる熱量を示す。データセンターの場合、空調機は冷房であるので、Q>0が常に成り立つ。
【0070】
(数25)で定義した消費電力Pに基づいて、データセンターの空調全体での電力代Eを(数26)に示す式で定義する。ただし、空調付近の室内温度は、どの空調に対しても同じであるとする。
【数26】
ここで、P
kは(数25)で示した空調機が空調強度kで運転しているときの消費電力を示し、p
klは(数7)に示す空調機の運転強度を示す2つ目の変数であり、E
unitは、空調での単位消費電力あたりの料金を示す。
【0071】
また、本実施形態においては、設備消耗額について新たな考え方を導入する。なお、以下では、設備消耗額の代わりにトラブルコストの用語を使用する。コンピュータがある一定の温度を超えて動作を続けると故障の確率が高まる。よって、長期的にデータセンターの運用コストを考える場合、この故障によって生じるコスト(例えば、ハードウエアそれ自体の購入価格、機器交換作業費など)は決して無視できない。また、故障以外にも高温での動作においては、計算速度の低下、計算精度の低下等の問題も生じる。これらの高温動作における複数の要因(コンピュータ起因以外の要因を含む)からなるコストを総称してトラブルコストと呼ぶ。トラブルコストは、これらの要因の発生確率と費用を考慮することで、温度Tの関数W(T)として計算できる。
【0072】
ところで、トラブルの発生確率は要因ごとに異なるが、複数の要因が複雑に絡み合って別のトラブル要因を構成している場合もある。また、個々のコンピュータの仕様や処理能力は同一ではない。そのため、トラブルコスト関数W(T)を温度Tの関数として厳密に計算することは一般に困難である。一方、トラブルコスト自体は大まかな計算が可能であるパラメータであり、おおまかな特性を有している。例えば、トラブルコストW(T)は、ある温度Thighまで(Thigh≧T)は、ほぼゼロの値を取り、Thighを超えると(Thigh<T)高い値を取るようになる。また、温度が高くなるに従い、トラブルコストの増加率が大きくなる。これらの特性および実測したトラブルコスト(もし、あれば)をもとに、トラブルコスト関数W(T)を推定することができる。なお、トラブルコスト関数W(T)は、トラブルコストの実測値を外挿して求めてもよいし、AIによる機械学習を通じて機械学習装置20により予測してもよい。
【0073】
次に、トラブルコスト関数に対して線形近似を適用し、近似トラブルコストW’を求める方法について説明する。
図8は、近似トラブルコストW’を求める方法を説明するグラフである。
図8に示すグラフの横軸はT
highからの上昇温度T(℃)を示し、縦軸はトラブルコスト(例えば、単位は万円)を示す。
図8に示す例では、トラブルコスト関数W(T)がW(T)=T
2の関数として表されると仮定している。なお、トラブルコスト関数W(T)はこれに限定されない。
【0074】
まず、定義域である温度Tをいくつかの区分に分ける。
図8に示す例では、T=0,3、6、9の値で定義域を3つの区分(区分1、区分2、区分3)に分けている。区分の仕方はこれに限定されず、Tの任意の値で区分してよい。また、各区分の間隔は、低い温度ほど大きく、高い温度ほど小さくしてもよい。次に、T=0,3、6、9に対応するW(T)値の隣接する値どうしを直線で結び、区分ごとに一次関数式W(T)=aT+bを取得する。ここで、一次関数式の傾きaは、(数17)のw
iに対応しており、コンピュータの温度が1度上昇するたびにどの程度の消耗が発生するかを表す値である。計算開始時点でのコンピュータiの温度をT
iとすると、T
iは実測できるので、定義域のどの区分に属するのかがわかる。
図8の例では、T
iは区分2に属している。T
iが属する区分2に対応する一次関数式W(T)=aT+bの傾きaをコンピュータiのw
iとする。
図8に示すように、コンピュータの温度は、タスクを実行すると、測定開始温度T
iから空調機によって冷却されつつ温度T
i’まで上昇する。その温度T
i’での区分2に対応する一次関数式W(T)=aT+bから近似トラブルコストW’(T
i’)が得られる。
【0075】
こうして、全体のトラブルコストの近似式W’を(数27)のように定式化することができる。
【数27】
ここで、R
iは、コンピュータiが処理を実行することで上昇する温度の量を示し、R
i=R(X,T
i,q)
i=H
unit*X*H
iで表すことができる。ここで、H
unitは単位タスク量あたりの温度が上がる量を示し、Xは処理するタスクの量を示し、H
iは上述した重み分布を示す。つまり、R
iは、qとコンピュータiの温度T
iとに応じた重み分布H
iおよび処理するタスクの量Xできまる。ただし、R
i=H
unit*X*W
iとする。(数27)で示す式の第1項および第2項は、コンピュータが温度T
iからT
i’まで変化したときのトラブルコスト(いわば、増加トラブルコスト)であり、第3項は、計算開始温度T
iでのトラブルコスト(いわば、初期トラブルコスト)を示す。つまり、本実施形態によれば、コンピュータの現在の温度に応じて変化するw
iに基づいてトラブルコストの近似値が得られるので、より実際に即したトラブルコストを算出することができる。
【0076】
したがって、本実施形態におけるQUBO形式の評価関数として、総コストCを(数28)のように表すことができる。
【数28】
【0077】
なお、本実施形態において、実際に観測すべき物理パラメータは、トラブルコストW(T)、(数16)、Ti、およびXである。W(T)については、トラブル要因ごとの発生確率にコストを掛け算して計算するか、過去のトラブルデータをプロットし外挿して求めるか、またはAI機械学習データから入手することができる。(数16)については、Qから求めるか、または空調機の仕様書などから入手可能である。Tiについては、コンピュータの温度センサから取得可能である。Xについては、過去のデータから時間帯ごとのタスク量を予測することが可能である。
【0078】
上述した実施形態または他の実施形態に従う最適化方法は、プログラムにより実行することができる。当該プログラムは、コンピュータに、施設の運用コストに関する最適化問題を生成する問題生成手順と、最適化問題を、アニーリング装置で実行するために、二値変数を定義する変数定義手順と、施設の物理特性に関する一つ以上の物理パラメータ値を取得する物理パラメータ取得手順と、一つ以上の物理パラメータ値を使って、最適化問題を、二次無制約二値最適化問題に変換する二次無制約二値最適化変換手順と、二次無制約二値最適化問題を、アニーリング装置との間で送受信する二次無制約二値最適化問題送受信手順と、アニーリング装置から得られた解に基づいて、施設の運用を制御する施設運用制御手順と、を実行させる。
【0079】
プログラムによる情報処理は、制御装置12(CPU)、メモリ14、記憶装置16、およびインターフェース18などのハードウエア資源を用いて、具体的に実現される。プログラムは、インストール可能な形式または実行可能な形式のファイルで、コンピュータ読み取り可能な各種記憶媒体に記録されて提供されてよい。また、プログラムは、インターネット等のネットワークに接続されたコンピュータに格納し、ネットワーク経由でダウンロードするか、ネットワーク経由で直接提供してもよい。
【0080】
以上説明してきた実施形態、他の実施形態、および変形例の明細書の記述および図面の記載は、本開示の一例に過ぎず、本開示の範囲を制限するものではない。また、本開示の思想および態様から離れることなく、さまざまな修正および変更が可能であり、それらもまた本開示の範囲に含まれることは当業者の知るところである。
【符号の説明】
【0081】
1 データセンター、2 サーバールーム、3 ラック、4 空調機、5 電力供給部、温度制御部、6 タスク分配部、7 ネットワーク、8 動作指示部、10 最適化システム、11 最適化装置、12 制御装置、14 メモリ、16 記憶装置、18 インターフェース、 19 アニーリング装置、 20 機械学習装置、 22 入力装置、 24 ディスプレイ装置、 30 床パネル、31~36 コンピュータ、40 冷気の流れ、41 冷気、42 排気、43 暖気の流れ
【要約】 (修正有)
【課題】グラフィックボードなどの非常に高価な電子部品の熱損傷を防止しつつ、データセンターの運用コストを最小化するための最適化システムを提供する。
【解決手段】アニーリング装置を有する最適化システムであって、施設の運用コストに関する最適化問題を生成する問題生成部と、最適化問題を、アニーリング装置で実行するために、二値変数を定義する変数定義部と、施設の物理特性に関する一つ以上の物理パラメータ値を取得する物理パラメータ取得部と、一つ以上の物理パラメータ値を使って、最適化問題を、二次無制約二値最適化問題に変換する二次無制約二値最適化変換部と、二次無制約二値最適化問題を、アニーリング装置との間で送受信する二次無制約二値最適化問題送受信部と、アニーリング装置から得られた解に基づいて、施設の運用を制御する施設運用制御部とを備える最適化システムが提供される。
【選択図】
図1