(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】調湿・消臭建材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C04B 38/08 20060101AFI20250527BHJP
C04B 28/18 20060101ALI20250527BHJP
C04B 14/16 20060101ALI20250527BHJP
C04B 14/04 20060101ALI20250527BHJP
C04B 14/10 20060101ALI20250527BHJP
B28B 3/02 20060101ALI20250527BHJP
E04B 1/64 20060101ALI20250527BHJP
E04F 13/08 20060101ALI20250527BHJP
【FI】
C04B38/08 B
C04B28/18
C04B14/16
C04B14/04 Z
C04B14/10 Z
C04B14/10 B
B28B3/02 A
E04B1/64 D
E04F13/08 A
(21)【出願番号】P 2024192147
(22)【出願日】2024-10-31
【審査請求日】2024-10-31
(31)【優先権主張番号】P 2024051735
(32)【優先日】2024-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】514274410
【氏名又は名称】株式会社ケープラン
(72)【発明者】
【氏名】岸本和樹
(72)【発明者】
【氏名】岸本憲征
【審査官】末松 佳記
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-149392(JP,A)
【文献】特開2018-076198(JP,A)
【文献】特開2023-146855(JP,A)
【文献】特開2023-146854(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 38/00-38/10
C04B 7/00-28/36
C04B 33/00-33/36
B28B 3/02
E04B 1/64
E04F 13/08
E04F 13/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調湿・消臭建材であって、調湿・消臭機能を有する多孔質岩石粉末である
兵庫県高砂市から兵庫県加西市に分布する流紋岩質溶結凝灰岩の粉末、十和田火山由来天然軽石の粉末、伊豆諸島新島産のコーガ石の粉末、及び岐阜県美濃白川産の麦飯石の粉末から選択された少なくとも1種と、鹿沼土、赤玉土、ゼオライト、セピオライト、酸性白土及び大谷石から選択された少なくとも1種の粉末とを、コロイダルシリカに炭酸カルシウム及び/又は消石灰を加えた結合機能材料で成型加工したことを特徴とする調湿・消臭建材。
【請求項2】
請求項1記載の調湿・消臭建材に
兵庫県淡路島産の緑泥岩の粘土鉱物、茨城県産の寒水石細粒及び牡蠣殻粉末から選択された少なくとも1種の付加材を加えた調湿・消臭建材。
【請求項3】
25℃で相対湿度50%の雰囲気中で恒量となっているものを25℃で相対湿度75%の空気と12時間接触させたときの吸湿量がすくなくとも60g/m
2であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の調湿・消臭建材。
【請求項4】
兵庫県高砂市から兵庫県加西市に分布する流紋岩質溶結凝灰岩の粉末、十和田火山由来天然軽石の粉末、伊豆諸島新島産のコーガ石の粉末、及び岐阜県美濃白川産の麦飯石の粉末から選択された少なくとも1種と、鹿沼土、赤玉土、ゼオライト、セピオライト、酸性白土及び大谷石から選択された少なくとも1種の粉末との素材混合物、或いは前記素材混合物に
兵庫県淡路島産の緑泥岩の粘土鉱物、茨城県産の寒水石細粒及び牡蠣殻粉末から選択された少なくとも1種の付加材を加えた素材混合物と炭酸カルシウム及び/又は消石灰からなる特定の組成物にコロイダルシリカ分散液を加えて
混練する工程、
混練調製したものを所定の成型型枠に充填する工程、加圧成型する工程、及び乾燥工程を経ることを特徴とする調湿・消臭建材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調湿・消臭建材及びその製造方法に係り、流紋岩質溶結凝灰岩をはじめとする多孔質岩石や鹿沼土、ゼオライト等の高比表面積の無機粉末の調湿・消臭機能を維持しつつ、焼結することなしに強度を賦与するようにした調湿・消臭建材及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、調湿建材としてゼオライトや珪藻土等の徐放湿性を持つ材料を、セメントや石膏などの凝結硬化剤で固めた建材や粘土などと混合焼成したもの、水酸化アルミニウムの脱水によって生じるアルミナの吸放湿性を利用するものなど多くのものが報告されている(特許文献1~5)。これらはいずれも焼成工程を加えて製造しているのに対して、焼成工程を使わない調湿建材の製造法として、特許文献6~8には焼成工程を行わない調湿建材の製造方法が開示されている。具体的に、特許文献7には、消石灰および/または生石灰と、石灰製砂と、多孔質石粉末と、粘土と、多孔質粘土鉱物と、Caイオン含有水溶液とを含む組成物の硬化体より構成され、上記特定の組成物より構成される坏土をプレス成形し、得られたプレス成形体を乾燥、硬化させて硬化体とすることにより製造する方法が開示されている。
【0003】
例えば、特許文献6には、竜山石と称される兵庫県高砂市から兵庫県加西市に分布する流紋岩質溶結凝灰岩の粉末と、室温で固まるバインダーとしての半水石膏と、水とを混合し、型に流し込んで自然乾燥させてなる調湿建材が開示されている。室温で固まるバインダーとしては、半水石膏以外にもセメントなどが記載されている。また、同文献には、竜山石の粉末と、粘土と、水とを混合して容器を用いて成形し、自然乾燥後、焼成してなる調湿建材も開示されている。
【0004】
また特許文献8には、消石灰および/または生石灰と、石灰製砂と、兵庫県高砂市から兵庫県加西市に分布する流紋岩質溶結凝灰岩の粉末と、粘土と、多孔質粘土鉱物と、Caイオン含有水溶液とを含む組成物の硬化体より構成される調湿建材で、上記特定の組成物より構成される坏土をプレス成形し、得られたプレス成形体を乾燥、硬化させて硬化体とすることにより製造する方法が開示されている。一方特許文献9には、兵庫県高砂市から兵庫県加西市に分布する流紋岩質溶結凝灰岩粉末が調湿性に優れていることを利用した塗り壁材の技術が開示されている。そして、非特許文献1には、流紋岩質溶結凝灰岩の粉砕物が、調湿性等に優れた塗装剤の材料としての可能性があることも開示されている。
【0005】
一方、特許文献10には、消石灰、無機系廃棄物粉末及び高比表面積を有する無機粉末との混合粉末からなる含水成形体を炭酸固化することにより得られた調湿材料が開示されている。この中で高比表面積を有する無機粉末として、鹿沼土、天然ゼオライト及び珪藻土の乾燥粉末が開示されている。高比表面積の無機粉末を添加した場合には、無添加の試料より大きい吸・放湿量を示すことから、高比表面積の無機粉末を添加することにより、高い調湿機能が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平4-354514号公報
【文献】特開平3―109244号公報
【文献】特開平11―11939号公報
【文献】特開2001―122657号公報
【文献】特開2012-188307号公報
【文献】特開2018-076198号公報
【文献】特開2023- 146855号公報
【文献】特開2023- 146854号公報
【文献】再表2016/067992号公報
【文献】特開2006-027999号公報
【非特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
調湿・消臭機能を有する材料を成型することなしに、そのまま建材として用いることは、建材としての流通、現場での作業において、実質的に不可能である。それを解決するためには、一般的にタイルの様な建材に加工する必要がある。しかし、材料を型に流し込んで成形する従来の調湿・消臭建材は生産性が悪い。室温で固まるバインダーとしてセメントを用いた場合には、硬化性が高まるため比較的強度のある調湿建材が得られるものの吸放湿性能が低下する。また、焼成して得られる従来の調湿建材は、強度を確保しやすいものの、焼成工程が必要となるため、生産性が悪く、焼成コストもかかる。そこで本発明の課題は天然の岩石の吸放湿性能を保持したまま、焼成工程を経ずに成型する調湿・消臭建材とその製造方法を提供することである。すなわち、調湿・消臭材料の機能を保持しつつ、建材として有効な強度を有すると共に簡易に成型加工できる結合機能材料を見出すことである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意研究を重ねた結果、調湿・消臭機能を有する材料を従来の公知の結合材とは異なる結合材を用いることによって、上述の課題を解決する手段を完成させた。具体的には、調湿・消臭材料である多孔質岩石粉末、とりわけ流紋岩質凝灰岩粉末や高比表面積の無機粉末の混合物を結合機能材料として炭酸カルシウム及び/又は消石灰を加えたコロイダルシリカ分散液を用いて混練し、固化することによって、調湿、消臭機能を保持したまま加圧成型可能な調湿・消臭建材及びその製造方法を提供できることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
本発明は、以下の構成からなる。
(1) 調湿・消臭建材であって、調湿・消臭機能を有する多孔質岩石粉末である兵庫県高砂市から兵庫県加西市に分布する流紋岩質溶結凝灰岩の粉末、十和田火山由来天然軽石の粉末、伊豆諸島新島産のコーガ石の粉末、及び岐阜県美濃白川産の麦飯石の粉末から選択された少なくとも1種と、鹿沼土、赤玉土、ゼオライト、セピオライト、酸性白土及び大谷石から選択された少なくとも1種の粉末とを、コロイダルシリカに炭酸カルシウム及び/又は消石灰を加えた結合機能材料で成型加工したことを特徴とする調湿・消臭建材。
(2)上記1記載の調湿・消臭建材に兵庫県淡路島産の緑泥岩の粘土鉱物、茨城県産の寒水石細粒及び牡蠣殻粉末から選択された少なくとも1種の付加材を加えた調湿・消臭建材。
(3)25℃で相対湿度50%の雰囲気中で恒量となっているものを25℃で相対湿度75%の空気と12時間接触させたときの吸湿量がすくなくとも60g/m2であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の調湿・消臭建材。
(4) 兵庫県高砂市から兵庫県加西市に分布する流紋岩質溶結凝灰岩の粉末、十和田火山由来天然軽石の粉末、伊豆諸島新島産のコーガ石の粉末、及び岐阜県美濃白川産の麦飯石の粉末から選択された少なくとも1種と、鹿沼土、赤玉土、ゼオライト、セピオライト、酸性白土及び大谷石から選択された少なくとも1種の粉末との素材混合物、或いは前記素材混合物に兵庫県淡路島産の緑泥岩の粘土鉱物、茨城県産の寒水石細粒及び牡蠣殻粉末から選択された少なくとも1種の付加材を加えた素材混合物と炭酸カルシウム及び/又は消石灰からなる特定の組成物にコロイダルシリカ分散液を加えて混練する工程、混練調製したものを所定の成型型枠に充填する工程、加圧成型する工程、及び乾燥工程を経ることを特徴とする調湿・消臭建材の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の調湿・消臭建材は、原料を型に流し込んで成形したり、焼成したりすることなく製造することができるので、生産性を向上させることができる。また、本発明の調湿・消臭建材はプレス(267Kgf/cm2~1,067Kgf/cm2(2.62×107N/m2~10.46・×107N/m2)、2×104Kgf/枚~8×104Kgf/枚(5cm×15cm))で成型できるため、成型に用いる型枠も通常の金型のような強度を必要としないため、三次元プリンターを用いて、任意の形状、図柄のものを簡単にしかも安価に調製できる。したがって、型枠の調製が簡単で自在に変更でき、需要者の要望に細かく対応できることから商品価値の向上に貢献できる。また、本発明の調湿・消臭建材は、調湿・消臭機能を有する多孔質岩石粉末および高比表面積の無機粉末をコロイダルシリカに炭酸カルシウム及び/又は消石灰を加えた結合機能材料含む特定の組成物の硬化体より構成されるため、吸放湿性能および強度を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は本発明の調湿・消臭建材の1例の写真である。(実施例1)
【
図2】
図2は本発明の調湿・消臭建材の試験体4の吸放湿性能を示す図である。
【
図3】
図3は本発明の調湿・消臭建材の試験体11の吸放湿性能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の調湿・消臭建材は、調湿・消臭機能を有する多孔質岩石粉末、例えば竜山石に代表される流紋岩質凝灰岩粉末及び高比表面積の無機粉末、例えば鹿沼土やゼオライト、を含む調湿・消臭材料の混合物を結合機能材料であるコロイダルシリカ分散液と炭酸カルシウム及び/又は消石灰を加えてなる結合材料で混練し、成型可能な粘度に調製したものを所定の成型枠型に充填し、加圧成型した後乾燥させることにより調製される。コロイダルシリカと、炭酸カルシウム及び/又は消石灰の共存作用によって、プレス成型体の強度を確保するとともに、多孔質岩石および高比表面積の無機材料の調湿・消臭機能を損なうことなしに、任意の形状に成型可能であるという画期的な製法と高機能の製品を提供する。
【0014】
多孔質岩石粉末、例えば竜山石、と高比表面積の無機粉末、例えば鹿沼土やゼオライトに炭酸カルシウム及び/又は消石灰を加えて調製される粉末 混合物の混合比及び混練するためのコロイダルシリカ分散液の配合比は、目的とする調湿・消臭能力及び成型体の必要とする強度に応じて適宜決めることができる。また、分散媒には、コロイダルシリカ分散液に加えて、他の成分を配合することを妨げるものではない。所定の調湿・消臭性能を保つ範囲であれば、例えば適量のポルトランドセメント、ホワイトセメント、各種のケイ酸化合物、石膏などを添加することも可能である。また製品の着色を目的とした顔料を添加することも適宜選択される。
【0015】
多孔質岩石粉末、例えば竜山石、と高比表面積の無機粉末、例えば鹿沼土やゼオライト、に粘土、例えば、兵庫県淡路島産の瓦原料として用いられている粘土、粘土鉱物、寒水石細粒及び牡蠣殻粉末から選択された少なくとも1種の付加材、をさらに加えることも本発明の範囲に含まれる。
【0016】
本発明の調湿・消臭建材は、多孔質岩石粉末、高比表面積の無機粉末、コロイダルシリカ並びに炭酸カルシウム及び/又は消石灰を含む特定の組成物を主原料(以下、特定の組成物とする。)とする坏土をプレス成型し、得られたプレス成型体を乾燥により硬化させて硬化体とすることにより製造することができる。なお、上記特定の組成物に含まれるコロイダルシリカと炭酸カルシウム及び/又は消石灰の共存作用によって、プレス成形体の強度を確保することができる。そのため、本発明の調湿・消臭建材は、焼成することなく製造することができるので、生産性を向上させることができる。また、本発明の調湿・消臭建材は、上記特定の組成物の硬化体より構成されるため、吸放湿性能および強度を確保することができる。
【0017】
多孔質岩石粉末を構成する多孔質岩石の例として、例えば、兵庫県高砂市から兵庫県加西市に分布する流紋岩質溶結凝灰岩、具体的には、竜山石、長石(おさいし)、高室石、他の例としては、十和田火山由来の天然軽石(以下、十和田湖軽石という。)、伊豆諸島新島産のコーガ石(以下、新島コーガ石という。)、岐阜県美濃白川産の麦飯石(以下、美濃白川麦飯石という。)等が挙げられる。なお、多孔質岩石粉末は、これらに限定されるものではなく、吸放湿性能を有するものであれば、種々のものを適用することができる。多孔質岩石は、1種または2種以上併用することもできる。これらのうち、硬度・粘度が高く加工が容易で色彩に富むなどの観点から、流紋岩室凝灰岩の一種である竜山石を好適に用いることができる。この粉末は吸放湿性能を有するのでとりわけ本発明には有用である。
【0018】
高比表面積の無機粉末は鹿沼土、赤玉土、ゼオライト、セピオライト、酸性白土、大谷石などの多孔質粘土鉱物粉末が用いられる。これらの中で鹿沼土(かぬまつち)は、農業や園芸に使われる栃木県鹿沼市産出の軽石の総称である。形状は丸みを帯びている。土と呼ばれているが実際には風化した軽石であり、指で押し潰せる程度の圧縮強度である。また、ゼオライトは沸石とも呼ばれる多孔性、高比表面積の無機材料であり、調湿・消臭機能材料として知られている。上記高比表面積の無機粉末の一種又は複数のものの粉末を適宜混合させても良い。これらを用いることにより、坏土を準備する際に、上記特定の組成物の練り込み状態を調整しやすくなる。高比表面積の無機粉末は吸着性能を有するため、調湿・消臭建材の吸放湿性能の低下抑制に寄与することができる。
【0019】
多孔質岩石粉末、高比表面積の無機粉末並びに炭酸カルシウム及び/又 は消石灰の混合物を混練する分散媒は粒径5~80nmのコロイダルシリカを濃度20~50(W/V)%で水に分散させたコロイダルシリカ分散液が好適に用いられる。例えば商品名(スノーテック、日産化学株式会社製)を用いることができる。コロイダルシリカの粒形は多孔質岩石粉末と高比表面積の無機粉末の結合を炭酸カルシウム及び/又は消石灰と協調して高めるのに適した粒径が選択される。炭酸カルシウムは市販の粉末、廃棄卵殻由来のもの、貝殻由来のものが使用できる。消石灰は市販の粉末のものが使用できる。コロイダルシリカ分散液と炭酸カルシウム及び/又は消石灰の組み合わせは、シリカコロイドによる粒子間の付着効果を高めることによりバインダーとしての作用を発揮させるのに好適である。
で適宜選択される。
【0020】
上記特定の組成物における各成分の割合は、多孔質岩石粉末は20~55%、より好ましくは、25%~50%、高比表面積の無機粉末は10~40%、より好ましくは、15%~35%、炭酸カルシウム及び/又は消石灰は5%~35%、より好ましくは、10%~25%、コロイダルシリカは10%~30%、より好ましくは、15%~30%とすることができる。炭酸カルシウム及び/又は消石灰の含有量は、上記の範囲内であれば、炭酸カルシウム単独、消石灰単独又は両者を適宜配合して用いても良い。なお、上記各成分の割合は、合計で100%となるように選択される。また、上記各成分の割合における上限値、下限値は、任意に組み合わせることができる。また、顔料やその他の添加物、例えばポルトランドセメント、ホワイトセメント、各種のケイ酸化合物、石膏を混合させても良い。それらの割合は、上記各成分の合計割合100%に対して、例えば、0.1%以上5%以下とすることができる。なお、上記各成分の割合は重量%である。
【0021】
上記特定の組成物の各成分の範囲内であれば、兵庫県淡路島産の粘土又は粘土鉱物の粉末(例えば緑泥岩)、茨城県産の寒水石細粒及び市販の牡蠣殻粉末の1種又は複数種を5~28%さらに加えることもできる。これらの粘土鉱物の粉末、寒水石の細粒及び牡蠣殻粉末の量は多孔質岩石粉末の量を超えない範囲で適宜選択される。
【0022】
上記特定の組成物を均一になるよう混練し、それを予め準備した所定の型枠に入れ、5×15cm(75cm2)当たり20~80トン(196~784KN)の圧力をかけて加圧成型し、成型品を型枠からはずして100℃で8時間温風強制乾燥させた。前記のプレス圧力は、調製しようとする調湿・消臭建材の組成或いは形状、又は作業環境等によって適宜増減することが可能である。
【0023】
本実施形態の調湿・消臭建材の形状は、特に限定されないが、例えば、タイル状の形状が例示される。すなわち、本実施形態の調湿・消臭建材は、調湿・消臭タイルとして好適に適用することができる。
【0024】
本実施形態の調湿・消臭建材は、上述したように、上記特定の組成物が硬化されてなる硬化体より構成されている。具体的には、本実施形態の調湿・消臭建材は、上記特定の組成物のプレス成型体を乾燥、硬化させた硬化体より構成される。つまり、本実施形態の調湿・消臭建材を構成する硬化体は、焼成されていない。本実施形態の調湿・消臭建材は、硬化体が焼成されていないにも関わらず、原料の持つ調湿、消臭の機能を保持したまま高い強度を確保することができという予期せぬ格段の効果を示す。
【0025】
本実施形態の調湿・消臭建材は、以下のようにして製造することができるが、これに限定されるものではない。本実施形態の調湿・消臭建材の製造方法は、坏土準備工程と、プレス成型工程と、乾燥硬化工程とを有しており、焼成工程は有していない。
【0026】
坏土準備工程は、兵庫県高砂市から兵庫県加西市に分布する流紋岩質溶結凝灰岩の粉末、高比表面積の無機粉末、炭酸カルシウム粉末及び/又は消石灰粉末と、コロイドシリカ分散液とを含む上記特定の組成物より構成される坏土を準備する工程である。上記特定の組成物より構成される坏土は、例えば、各成分を配合し、土練機などの混練機にて混練した後、デシンターなどの粉砕機を用いて微細に粉砕することなどによって調製することができる。なお、上記特定の組成物の含水率は、質量%で7%~15%程度とすることができる(水を加えて調整しても良い)。
【0027】
プレス成型工程は、坏土準備工程にて準備した坏土をプレス成型し、プレス成型体を得る工程である。プレス成形機は、乾式プレス成型機を好適に用いることができる。プレス成型体は、石の面状など、表面凹凸を有する形状とすることができる。プレス成型体の厚みは、例えば、8mm以上25mm以下とすることができる。
【0028】
乾燥硬化工程は、プレス成型体を乾燥、硬化させて硬化体とすることにより調湿・消臭建材を得る工程である。プレス成型体の乾燥は、自然乾燥、乾燥機を用いた強制乾燥のいずれであってもよいが、好ましくは、生産性などの観点から、強制乾燥が好適に採用されうる。この場合、乾燥温度は80℃~120℃程度とすることができる。乾燥時間は、6時間~12時間程度とすることができる。
【0029】
上述した本実施形態の調湿・消臭建材の製造方法は、焼成することなく本実施形態の調湿・消臭建材を製造することができ、調湿・消臭建材の生産性を向上させることができる。また、本実施形態の調湿・消臭建材の製造方法は、上記特定の組成物が漆喰材料のようにスサを含まないため、上記特定の組成物の混練トラブルなども生じ難く、生産性の向上に有利である。
【実施例1】
【0030】
以下、実施例を用いて、本発明の調湿・消臭建材について説明する。
<原料準備>
以下の原料を準備した。
・兵庫県高砂市から兵庫県加西市に分布する流紋岩質溶結凝灰岩の粉末・・・竜山石粉末(粒度0.5mm以下)
・高比表面積の無機粉末・・・園芸用鹿沼土を粉砕したもの、ゼオライト(株式会社伸興サンライズ製)
・炭酸カルシウム粉末・・・・1級炭酸カルシウム
・消石灰(水酸化カルシウム)粉末・・・・1級水酸化カルシウム
・コロイダルシリカ分散液(粒径40nm、30%分散液。日産化学株式社製)
・付加材・・・・粒径約1mmの寒水石細粒、牡蠣殻粉末
【0031】
<坏土作製>
後述の表1に示す配合割合にて、流紋岩質溶結凝灰岩の粉末、高比表面積の無機粉末、炭酸カルシウム粉末及び/又は消石灰粉末の混合物をコロイダルシリカ分散液で混練することにより各坏土を得た。また、付加材を混合させる場合には各付加材を流紋岩質溶結凝灰岩の粉末、高比表面積の無機粉末、炭酸カルシウム粉末及び/又は消石灰粉末の混合物に混合したものをコロイダルシリカ分散液で混練することにより各坏土を得た。
【0032】
<プレス成形>
得られた各坏土を、一軸加圧式の乾式プレス成形機[100トン(980KN)プレス]にて20~80トン(196~784KN)の加圧でプレス成型し、各プレス成型体を得た。プレス成型体の外形は、約50mm×150mmとした。従って、単位面積(m2)当たりの圧力は(2.62×107N/m2~10.46×107N/m2)である。プレス成型体の厚みは概ね15mmとした。成型後、型から外すことが可能か否か、や成型体のもろさ及び強度を観察した。得られた試験体1~試験体17について、後述に記載の評価を行った。
【0033】
<乾燥、硬化>
各プレス成型体を、乾燥機に入れて100℃で8時間強制乾燥して硬化させることにより各硬化体とした。得られた各調湿・消臭建材は、内装用の調湿・消臭タイルとして用いられるものである。
【0034】
<評価>
-生産性-
上述した各試験体の製造では、焼成していない。そのため、各試験体のプレス成型時に良好なプレス成型性が得られるのでプレス成型によって生産性を向上させることができる。そこで、各試験体のプレス成型性を評価した。具体的には、坏土の金型ひっつきが酷く、プレス成型できない場合、また、プレス成型はできるものの、プレス成型体の強度が低く、プレス成型体がもろく崩れてしまう場合を、生産性が悪いと判断した。このような問題を生じることなくプレス成型体を成型できる場合を、生産性が良好であると判断した。
【0035】
-吸放湿試験(調湿試験)-
各試験体について、JIS A1470-1:2014「建築材料の吸放湿性試験方法-第1部:湿度応答法」に準じて、吸放湿試験を行った。具体的には、恒温恒湿室(エスペック株式会社製、ビルトインチャンバー TBE-2HW5G3A)内に設置した汎用電子天秤(株式会社エー・アンド・デイ製、FZ-3000i、秤量3200g、最小表示0.01g)上に試験体をのせ、恒温恒湿室の室内雰囲気を25℃50%RHに保持し、恒量となるまで養生を行った。養生の完了後、恒温恒湿室の室内雰囲気を25℃75%RHとして12時間保持した後、25℃50%RHとして12時間保持した。測定開始時の質量と各時間経過後質量を比較した。以上により、各試験体について経過時間と吸放湿量との関係を測定した。
【0036】
-曲げ強度-
各試験体について、3点曲げ試験(n=3)を行い、得られた曲げ強度測定値の算術平均値を、曲げ強度とした。なお、生産性、吸放湿性能の結果が悪かった場合には、曲げ強度の測定は省略した。
【0037】
-吸着試験-
各試験体について、アンモニアガス、ホルムアルデヒドガスの吸着試験を行った。具体的には、容量10Lのガス収集袋に試験体を入れて封をしたものに、約120ppm~150ppmのアンモニア、約110ppm~125pppmのホルムアルデヒドを含む窒素ガス10Lを、ガス収集袋に移し一定時間毎に検知管法によってガス濃度を測定した。
【0038】
-消臭試験-
各試験体について、上記吸着試験を行ったアンモニアガス、ホルムアルデヒドガスに加えて、イソ吉草酸、酢酸の消臭官能試験を行った。それぞれアンモニアガス、ホルムアルデヒドガス、イソ吉草酸ガス、酢酸ガスで充満させた密閉容器に各試験体を投入し、密閉して3時間室温で放置後、消臭効果を官能試験にて確認した。
その結果のまとめを表4に示した。
【0039】
表1に、各試験体の作製に用いた各組成物の配合割合、表2に各試験体の生産性、吸放湿性能、曲げ強度を、表3に各試験体の悪臭ガス吸着効果を、表4に各試験体の消臭官能試験の性能をまとめて示す。参照品1および2は、それぞれ特許文献6および7に記載の方法で調整された調湿・消臭建材である。また、
図1に成型体例、
図2に試験体4の吸湿・放湿試験の結果を示した。
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
(表4)
各試験体の消臭官能試験
表1~表4、
図1~
図3によれば、次のことがわかる。
【0044】
試験体1は流紋岩質凝灰岩粉末(竜山石)のみを炭酸カルシウムとコロイダルシリカで混練、成型したもの、試験体2は高比表面積の無機粉末(鹿沼土)のみを炭酸カルシウムとコロイダルシリカで混練、成型したもの、試験体3および4は流紋岩質凝灰岩粉末(竜山石)及び高比表面積の無機粉末の両方を含む組成物を炭酸カルシウムとコロイダルシリカで混練、成型したもの、試験体5は流紋岩質凝灰岩粉末(竜山石)及び高比表面積の無機粉末の両方を含む組成物を消石灰とコロイダルシリカで混練、成型したものである。流紋岩質凝灰岩粉末(竜山石)のみの吸湿性能は相当量認められるが、竜山石と鹿沼土の両者を共存させたものはより格段に高い吸湿性能を有することが判った。
さらに、本発明の調湿・消臭建材は炭酸カルシウム又は消石灰とコロイダルシリカで混練しない参照品1および2の吸湿性能に比べて、格段の吸湿性能を有することが判った。高比表面積の無機粉末である鹿沼土のみでの成型は、形状を保つことができなかった。 以上の結果より、多孔質岩石粉末と高比表面積の無機粉末をコロイダルシリカと炭酸カルシウム又は消石灰で混練成型した本発明の調湿・消臭建材は、従来の調湿・消臭建材に比べて、格段に高い吸湿・放湿性能を有しているとともに、生産性もよいことから、高機能の調湿・消臭建材として提供できることが明らかとなった。
【0045】
曲げ強度は参照品と同等以上であることが判り、建材として利用可能である。
【0046】
生産性について、本発明の方法は、低圧プレスで成型可能であり、特別な金型を必要とせず、成形型を3Dプリンターで調製でき、デザイン性に富んだ製品を生産できるといった大きなメリットがある。
【0047】
また、本発明の試験体3、試験体4及び試験体5は、アンモニアガス、ホルムアルデヒドガスの各臭気の吸着性能を有しており、さらに消臭性能を発揮できることも確認された。
【0048】
本発明は、上記各実施形態、各実施例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。また、各実施形態、各実施例に示される各構成は、それぞれ任意に組み合わせることができる。
【産業上の利用可能性】
【0049】
調湿・消臭機能を有する建材及びその製造方法として利用可能である。
【要約】
【課題】調湿・消臭効果を有する原料を成型することなしに、そのまま建材として用いることは、建材としての流通、現場での作業において、実質的に不可能である。調湿・消臭機能を保ったまま成型する方法が求められている。流紋岩質凝灰岩粉末の持つ調湿、消臭機能を保持したまま、低圧加圧で成型可能な生産性を向上することができる調湿・消臭建材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】孔質岩石粉末及び高比表面積の無機粉末、並びに炭酸カル シウム及び/又は消石灰の特定の組成物にコロイダルシリカ分散液を加えて
混練する工程、混練調製したものを所定の成型枠型に充填する工程、加圧成型する工程、及び乾燥工程を経て乾燥、硬化させて製造する。
【選択図】
図2