(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】画像形成方法および処理液セット
(51)【国際特許分類】
D06P 5/08 20060101AFI20250527BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20250527BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20250527BHJP
D06P 5/30 20060101ALI20250527BHJP
【FI】
D06P5/08 A
B41J2/01 123
B41M5/00 114
B41M5/00 120
B41M5/00 134
B41M5/00 132
D06P5/08 Z
D06P5/30
(21)【出願番号】P 2021045002
(22)【出願日】2021-03-18
【審査請求日】2024-02-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】弁理士法人鷲田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】仁藤 謙
(72)【発明者】
【氏名】岡田 拓也
(72)【発明者】
【氏名】中村 正樹
(72)【発明者】
【氏名】石谷 拓也
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 啓史
【審査官】小宮山 文男
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-174866(JP,A)
【文献】特開2010-150454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06P 5/08
B41J 2/01
B41M 5/00
D06P 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
色材層が形成された布帛上
に2質量%以上の水膨潤性樹脂(A)と水とを含
む処理液を付与
するか、又は、布帛上に色材と2質量%以上の水膨潤性樹脂(A)と水とを含む処理液を付与して、塗膜を形成する工程と、
前記塗膜の表面に、水膨潤防止剤(B)と水とを含
む後処理液を付与する工程と、
を含み、
前記塗膜の表面において、前記水膨潤防止剤(B)は、前記水膨潤性樹脂(A)と反応または相互作用して、前記水膨潤性樹脂(A)の水膨潤度を低下させる、
画像形成方法。
【請求項2】
前記色材層は、顔料を含む、
請求項
1に記載の画像形成方法。
【請求項3】
前記水膨潤性樹脂(A)は、下記式(1)で表される水膨潤度が70%以上の樹脂である、
請求項
1または2に記載の画像形成方法。
式(1):水膨潤度(%)=(浸漬後のペレット重量-浸漬前のペレット重量)/(浸漬前のペレット重量)×100
(式(1)において、
浸漬前のペレット重量は、20℃のイオン交換水に浸漬する前の前記水膨潤性樹脂(A)のペレットの重量を示し、
浸漬後のペレット重量は、20℃のイオン交換水に5分間浸漬した後の前記水膨潤性樹脂(A)のペレットの重量を示す)
【請求項4】
前記水膨潤性樹脂(A)は、イオン性基を有し、
前記水膨潤防止剤(B)は、前記イオン性基と対をなすイオン性基を有する、
請求項1~
3のいずれか一項に記載の画像形成方法。
【請求項5】
前記水膨潤性樹脂(A)は、アニオン性基を有し、
前記水膨潤防止剤(B)は、カチオン性基を有する、
請求項
4に記載の画像形成方法。
【請求項6】
前記水膨潤性樹脂(A)は、アニオン性基を有する(メタ)アクリル系樹脂である、
請求項
5に記載の画像形成方法。
【請求項7】
前記水膨潤防止剤(B)は、カチオン性基を有する(メタ)アクリル系樹脂、多価金属塩、および、有機酸からなる群より選ばれる一以上である、
請求項
5または6に記載の画像形成方法。
【請求項8】
前記水膨潤性樹脂(A)の付着量xと前記水膨潤防止剤(B)の付着量yとの質量比y/xは、0.01以上1未満である、
請求項1~
7のいずれか一項に記載の画像形成方法。
【請求項9】
インクジェット捺染に用いられる処理液セットであって、
2質量%以上の水膨潤性樹脂(A)と、水とを含む第1後処理液と、
前記水膨潤性樹脂(A)と反応または相互作用して、前記水膨潤性樹脂(A)の水膨潤度を低下させる水膨潤防止剤(B)と、水とを含む第2後処理液と
を含む、
処理液セット。
【請求項10】
前記水膨潤性樹脂(A)は、下記式(1)で表される水膨潤度が70%以上の樹脂である、
請求項
9に記載の処理液セット。
式(1):水膨潤度(%)=(浸漬後のペレット重量-浸漬前のペレット重量)/(浸漬前のペレット重量)×100
(式(1)において、
浸漬前のペレット重量は、20℃のイオン交換水に浸漬する前の前記水膨潤性樹脂(A)のペレットの重量を示し、
浸漬後のペレット重量は、20℃のイオン交換水に5分間浸漬した後の前記水膨潤性樹脂(A)のペレットの重量を示す)
【請求項11】
前記水膨潤性樹脂(A)は、イオン性基を有し、
前記水膨潤防止剤(B)は、前記イオン性基と対をなすイオン性基を有する、
請求項
9または
10に記載の処理液セット。
【請求項12】
前記水膨潤性樹脂(A)は、アニオン性基を有し、
前記水膨潤防止剤(B)は、カチオン性基を有する、
請求項
11に記載の処理液セット。
【請求項13】
前記水膨潤性樹脂(A)は、アニオン性基を有する(メタ)アクリル系樹脂である、
請求項
12に記載の処理液セット。
【請求項14】
前記水膨潤防止剤(B)は、カチオン性基を有する(メタ)アクリル系樹脂、多価金属塩、および、有機酸からなる群より選ばれる一以上である、
請求項
12または
13に記載の処理液セット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、画像形成方法および画像形成物、処理液セットに関する。
【背景技術】
【0002】
繊布や不繊布などの布帛に画像を形成する方法として、スクリーン捺染法やローラ捺染法などがある。近年では、コンピュタで画像処理して実質無版で捺染することができるインクジェット捺染法の検討が進められている。
【0003】
捺染用インクの色材として、染料と顔料がある。染料を用いたインクは、発色の良さに加え、繊維の官能基との反応を利用して染着するため、染色堅牢度が高いといった利点がある。一方で、染料を定着させるための蒸し工程や未固着分の染料を除去する工程などの後処理が必要であり、これらの作業負担が問題となっている。
【0004】
一方、顔料を用いたインクは、耐光性が高い画像を形成できるだけでなく、未固着分の染料を除去する工程などの後処理が不要であることから、染料に比べ、その簡便さが好まれている。顔料を用いたインクでは、顔料を定着させるためのバインダ成分が必要となる。インクジェット捺染では、インクの粘度、吐出性の観点から、バインダ成分の添加量には制約があるため、顔料定着性や堅牢性が問題となっている。
【0005】
これに対し、特許文献1では、インクによって布帛を印刷する工程、皮膜延度が400~1500%である樹脂(C)を含むミドルコート剤を塗布する工程、および皮膜延度が100~400%である樹脂(D)を含むオーバーコート剤を塗布する工程を含む捺染物の製造方法が提案されている。特許文献2では、インクを付与した布帛に、ウレタン樹脂(水分散性樹脂)、ブロックイソシアネート化合物(架橋成分)、水溶性有機溶剤、および水を含むインクジェット用オーバーコート液を塗布する工程を含むコーティング方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-150454号公報
【文献】特開2017-149812号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献2のオーバーコート液は、樹脂の架橋反応を伴うため、得られるオーバーコート層は硬くなりやすく、布帛の風合いが損なわれやすかった。特許文献1は、ミドルコート剤とオーバーコート剤を併用するものであるが、得られる画像形成物の耐水性(湿摩擦堅牢性)が十分ではなかった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、布帛の風合いを損なうことなく、十分な耐水性(湿摩擦堅牢性)を有する画像形成物を付与可能な、画像形成方法および画像形成物、ならびにそれに用いられる処理液セットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の画像形成方法は、布帛上に、2質量%以上の水膨潤性樹脂(A)と水とを含む第1後処理液を付与して、塗膜を形成する工程と、前記塗膜の表面に、水膨潤防止剤(B)と水とを含む第2後処理液を付与する工程と、を含み、前記塗膜の表面において、前記水膨潤防止剤(B)は、前記水膨潤性樹脂(A)と反応または相互作用して、前記水膨潤性樹脂(A)の水膨潤度を低下させる。
【0010】
本発明の画像形成物は、布帛と、水膨潤性樹脂(A)を含む第1処理層と、水膨潤防止剤(B)との反応または相互作用により水膨潤度が低下した水膨潤性樹脂(A)を含む第2処理層とをこの順に含む。
【0011】
本発明の処理液セットは、インクジェット捺染に用いられる処理液セットであって、2質量%以上の水膨潤性樹脂(A)と、水とを含む第1後処理液と、前記水膨潤性樹脂(A)と反応または相互作用して、前記水膨潤性樹脂(A)の水膨潤度を低下させる水膨潤防止剤(B)と、水とを含む第2後処理液とを含む。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、布帛の風合いを損なうことなく、十分な耐水性(湿摩擦堅牢性)を有する画像形成物を付与可能な画像形成方法および画像形成物、ならびにそれに用いられる処理液セットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明者らは、鋭意検討した結果、水膨潤性樹脂(A)を含む第1後処理液(処理液)の塗膜の表面に水膨潤防止剤(B)を含む第2後処理液(後処理液)を付与して、水膨潤防止剤(B)を反応または相互作用させることで、塗膜の表面に水膨潤度の低い層を形成できることを見出した。それにより、布帛の風合いを損なうことなく、湿摩擦堅牢性を高めることができることを見出した。
【0014】
このメカニズムは明らかではないが、以下のように推測される。水膨潤性樹脂(A)を含む第1後処理液の塗膜(例えば第1処理層)は、比較的柔軟であるため、布帛の風合いを損ないにくい。また、当該塗膜の表面に第2後処理液を付与形成される層(例えば第2処理層)は、水膨潤防止剤(B)との反応などにより水膨潤度が低下した水膨潤性樹脂(A)を含むため、良好な湿摩擦堅牢性を有しうる。それにより、布帛の風合いを損なうことなく、湿摩擦堅牢性を高めうる。以下、本発明の構成について説明する。
【0015】
1.画像形成方法
本発明の画像形成方法は、布帛上に第1後処理液を付与して、塗膜を形成する工程と、当該塗膜上に第2後処理液を付与する工程とを含む。そして、第2後処理液を付与する工程では、塗膜の表面において、水膨潤性樹脂(A)を水膨潤防止剤(B)と反応または相互作用させて、水膨潤性樹脂(A)の水膨潤度を低下させる。
【0016】
布帛は、色材層が形成されたものであってもよいし、色材層が形成されていないものであってもよい。以下の実施の形態では、色材層が形成された布帛を用いる例で説明する。
【0017】
すなわち、本発明の一実施形態に係る画像形成方法は、1)布帛上に色材層を形成する工程と、2)色材層上に第1後処理液を付与して、塗膜を形成する工程と、3)得られた塗膜上に第2後処理液を付与する工程とを含みうる。
【0018】
1)の工程(インクを付与する工程)
色材層の形成は、例えば布帛上に、インクジェット方式でインクを付与した後、乾燥させて形成することができる。
【0019】
(布帛)
布帛を構成する繊維素材は、特に制限されないが、綿(セルロース繊維)、麻、羊毛、絹などの天然繊維や、レーヨン、ビニロン、ナイロン、アクリル、ポリウレタン、ポリエステルまたはアセテートなどの化学繊維でありうる。布帛は、これらの繊維を、織布、不織布、編布など、いずれの形態にしたものであってもよい。また、布帛は、2種類以上の繊維の混紡織布または混紡不織布などであってもよい。布帛は、前処理されていてもよい(後述の4)の工程参照)。
【0020】
(インクの付与および乾燥)
次いで、布帛の表面に、インクジェット記録ヘッドからインクを吐出させて、インクの液滴を付与する。
【0021】
インクは、後述するように、顔料などの分散性色材と、水とを含む水系インクである。分散性色材の分散性を高める観点から、インクは、高分子分散剤をさらに含むか、または、分散性色材として自己分散性顔料を含むことが好ましい。インクの構成の詳細については、後述する。
【0022】
そして、布帛に付与したインクを乾燥および定着させて、色材層を形成する。乾燥および定着は、加熱により行うことが好ましい。すなわち、乾燥方法は、特に制限されず、ヒーター、温風乾燥機、加熱ローラなどを用いた方法でありうる。中でも、温風乾燥機とヒーターを用いて、布帛の両面を加熱して乾燥させることが好ましい。
【0023】
乾燥温度は、特に制限されないが、付与したインクに含まれる水などの溶媒成分を十分に除去する観点から、110℃以上であることが好ましく、130~180℃であることがより好ましい。乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、例えば0.5~10分間程度としうる。
【0024】
2)の工程(第1後処理液を付与する工程)について
次いで、得られた色材層上に第1後処理液を付与して、塗膜を形成する。本実施形態では、塗膜は、色材層を保護するとともに、湿摩擦堅牢性を付与しうる。
【0025】
(第1後処理液)
第1後処理液は、水膨潤性樹脂(A)と、水とを含む。
【0026】
水膨潤性樹脂(A)における「水膨潤性」とは、水に対して膨潤する性質(水に対する膨潤度が一定以上)であることをいう。
【0027】
水膨潤性樹脂(A)の水膨潤度は、以下の手順で測定することができる。
1)水膨潤性樹脂(A)の水分散液を、70℃30~35RH%で48時間乾燥固化させてペレットを得る。得られたペレットの重量を測定する。
2)次いで、得られたペレットを20℃のイオン交換水に5分間浸漬した後、上記と同様の条件で乾燥させて重量を測定する。そして、イオン交換水への浸漬前と後のペレット重量を下記式に当てはめて、水膨潤度(%)を算出する。
式(1):水膨潤度(%)=(浸漬後のペレット重量-浸漬前のペレット重量)/(浸漬前のペレット重量)×100
【0028】
具体的には、水膨潤性樹脂(A)は、水膨潤度が50%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75~100%の樹脂である。水膨潤度が上記範囲を満たす樹脂は、適度な柔軟性を有するだけでなく、嵩高い基を有するため、布帛(または色材層)の内部まで浸透しにくく、布帛の表面に留まりやすい。そのため、布帛が硬くなりにくく、風合いが損なわれにくい。
【0029】
水膨潤性樹脂(A)は、水膨潤度が上記範囲を満たし、かつ後述する第2後処理液に含まれる水膨潤防止剤(B)と反応または相互作用しうるものであれば、特に制限されない。すなわち、(第1後処理液に含まれる)水膨潤性樹脂(A)は、(第2後処理液に含まれる)水膨潤防止剤(B)と反応または相互作用しうる基、好ましくはイオン性基を有する。
【0030】
水膨潤性樹脂(A)が有するイオン性基は、水膨潤防止剤(B)が有するイオン性基と対をなすものである。すなわち、水膨潤性樹脂(A)がアニオン性基を有し、かつ水膨潤防止剤(B)がカチオン性基を有するか;水膨潤性樹脂(A)がカチオン性基を有し、かつ水膨潤防止剤(B)がアニオン性基を有することが好ましい。中でも、水膨潤性樹脂(A)がアニオン性基を有し、かつ水膨潤防止剤(B)がカチオン性基を有することが好ましい。
【0031】
水膨潤性樹脂(A)が有するアニオン性基は、カルボキシル基、スルホニル基、リン含有基(リン酸基またはホスホン酸基)などの酸性基であり、好ましくはカルボキシル基である。アニオン性基を有する水膨潤性樹脂(A)の例には、アニオン性基を有する(メタ)アクリル系樹脂、アニオン性基を有するウレタン系樹脂、アニオン性基を有するビニル系樹脂などが含まれ、好ましくはアニオン性基を有する(メタ)アクリル系樹脂である。
【0032】
アニオン性基を有する(メタ)アクリル系樹脂は、アニオン性基を有する(メタ)アクリル系モノマーに由来する構造単位を含む重合体でありうる。当該モノマーの例には、(メタ)アクリル酸などのカルボキシル基含有エチレン性不飽和モノマーが含まれる。なお、(メタ)アクリル酸は、アクリル酸およびメタクリル酸の少なくとも一方を意味する。当該重合体は、炭素数1~20のアルキル(メタ)アクリレート、スチレン類などの他の共重合成分に由来する構造単位をさらに含んでもよい。
【0033】
市販品の例には、Joncryl PDX-7326(アニオン性アクリルエマルジョン、水膨潤度76%)、ウレタン樹脂(三井化学社製タケラックW-6061、アニオン性ウレタン系樹脂エマルション、水膨潤度88%)などが含まれる。
【0034】
アニオン性基を有する水膨潤性樹脂(A)の酸価は、特に制限されないが、例えば30~100mgKOH/gでありうる。酸価が上記範囲内であると、水膨潤度が上記範囲となりやすい。酸価は、JIS K 0070の酸価測定により測定することができる。
【0035】
水膨潤性樹脂(A)の含有量は、第1後処理液に対して2質量%以上であることが好ましく、5~20質量%であることがより好ましい。水膨潤性樹脂(A)の含有量が上記範囲内であると、布帛上に均一に塗膜を形成しうるだけでなく、色材層の保護性や定着性に優れる。
【0036】
第1後処理液は、必要に応じて他の成分をさらに含んでもよい。他の成分の例には、溶媒、防腐剤、活性剤、色材などが含まれる。
【0037】
(溶媒)
溶媒は、特に制限されないが、好ましくは水溶性有機溶剤である。水溶性有機溶剤は、水と相溶するものであれば特に制限されない。
【0038】
水溶性有機溶剤の例には、グリセリン、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,2,6-へキサントリオール、1,2-ヘプタンジオール、1,2-オクタンジオール、1,8-オクタンジオール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ペンタメチレングリコール、トリメチレングリコール、2-ブテン-1、4-ジオール、2-エチル-1、3-ヘキサンジオール、2-メチル-2、4ーペンタンジオール、ジプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタンなどが含まれる。特に、粘度調整、吐出特性、保湿機能の観点から、グリセリン、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,2-ヘキサンジオールの少なくとも1種を用いることがより好ましい。これらは、1種類または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0039】
(防腐剤)
防腐剤の例には、芳香族ハロゲン化合物(例えば、Preventol CMK)、メチレンジチオシアナート、含ハロゲン窒素硫黄化合物、1,2-ベンズイソチアゾリン-3-オン(例えば、PROXEL GXL)などが含まれる。
【0040】
(活性剤)
活性剤の例には、アセチレングリコール系界面活性剤(オルフィンE1010など)などの界面活性剤が含まれる。
【0041】
(pH調整剤)
pH調整剤の例には、クエン酸、クエン酸ナトリウム、塩酸、水酸化ナトリウムなどが含まれる。
【0042】
(色材)
第1後処理液は、必要に応じて色材をさらに含んでもよい。第1後処理液が色材をさらに含む場合、第1後処理液をインクとしても兼用できる。色材は、後述するインクに含まれる色材と同様のものを使用できる。
【0043】
色材の含有量は、第1後処理液に対して0~10質量%でありうる。本実施形態では、インクにより色材層を形成するため、第1後処理液は色材を含まないことが好ましい。
【0044】
(第1後処理液の付与)
第1後処理液の付与方法は、特に制限されないが、例えばパッド法、コーティング法、スプレー法、またはインクジェット法などでありうる。中でも、短時間で均一に付与できる観点では、パッド法が好ましい。
【0045】
第1後処理液による水膨潤性樹脂(A)の付着量x(g/m2)は、布帛の風合いを損なわない範囲で、例えば色材層の保護性や定着性を高めうる程度であればよく、特に制限されないが、第2後処理液による水膨潤防止剤(B)の付着量y(g/m2)よりも多いことが好ましい。具体的には、水膨潤性樹脂(A)の付着量xと水膨潤防止剤(B)の付着量yの比y/xが後述する範囲となるように設定されることが好ましい。より具体的には、第1後処理液による水膨潤性樹脂(A)の付着量xは、例えば0.2~10g/m2、好ましくは0.5~5g/m2としうる。水膨潤性樹脂(A)の付着量xは、例えば第1後処理液の組成および布帛への第1後処理液の付着量から算出することができる。
【0046】
(第1後処理液の乾燥)
第1後処理液の乾燥は、第1後処理液中の溶媒成分が適度に蒸発除去して、膜状になる程度に行うことが好ましい。乾燥方法は、特に制限されないが、加熱により行うことが好ましい。加熱方法は、前述と同様であってよく、例えば温風乾燥機またはヒーターを用いる方法でありうる。
【0047】
乾燥温度は、特に制限されないが、第1後処理液中の溶媒が除去され、膜状物が得られる程度であればよく、例えば50~150℃としうる。第1後処理液に含まれる溶媒が、水より沸点の高い溶剤を含有する場合、まず100℃以下で水分を蒸発させた後、可能な限り高い温度で乾燥することが好ましい。
【0048】
3)の工程(第2後処理液を付与する工程)について
得られた塗膜上に、第2後処理液を付与する。そして、第2後処理液に含まれる水膨潤防止剤(B)を、塗膜の表面(または表層)に含まれる水膨潤性樹脂(A)と反応または相互作用させて、水膨潤性樹脂(A)の水膨潤度を低下させる。
【0049】
(第2後処理液)
第2後処理液は、水膨潤防止剤(B)と、水とを含む。
【0050】
水膨潤防止剤(B)は、上記の通り、水膨潤性樹脂(A)と反応または相互作用して、水膨潤性樹脂(A)の水膨潤度を低下させる。すなわち、水膨潤防止剤(B)は、水膨潤性樹脂(A)が有するイオン性基と対をなすイオン性基を有することが好ましく、水膨潤性樹脂(A)が有するアニオン性基と対をなすカチオン性基を有することがより好ましい。
【0051】
水膨潤防止剤(B)が有するカチオン性基の例には、第2級アミノ基(イミノ基)、第3級アミノ基または第4級アンモニウム塩基などが含まれる。
【0052】
水膨潤防止剤(B)は、カチオン性基を有するアクリル樹脂、多価金属塩、または、有機酸でありうる。
【0053】
カチオン性基を有するアクリル樹脂は、カチオン性基を有する(メタ)アクリル系モノマーに由来する構造単位を有する重合体でありうる。カチオン性基を有する(メタ)アクリル系モノマーの例には、カチオン性基を有する(メタ)アクリレート、カチオン性基を有する(メタ)アクリルアミドなどが含まれる。
【0054】
カチオン性を有するアクリル樹脂の例には、カチオン化ポリ(メタ)アクリレート、カチオン化ポリ(メタ)アクリルアミド、カチオン化(メタ)アクリレート・アクリルアミド共重合体、カチオン化メタクリレート・メタクリレート共重合体などが含まれる。市販品の例には、大成ファインケミカル社製のRKWシリーズ、日信化学工業社製ビニブラン1008、1028、2687(以上、カチオン化ポリアクリレート);住友化学工業社製のスミフロックFC-A、スミフロックFC-B(以上、カチオン化ポリメタクリレート);三洋化学工業社製のサンフロックC-450、サンフロックC-454、住友化学工業社製のスミフロックFC-L、ハイモ社製のハイモロックMPシリーズ、Eシリーズ、M-966(カチオン化ポリアクリルアミド)、住友化学工業社製のスミフロックFC-373、スミフロックFC-200、スミフロックFC-C(カチオン化メタクリレート・アクリルアミド共重合体)、住友化学工業社製のスミフロックFC-E(カチオン化メタクリレート・メタクリレート共重合体)が含まれる。
【0055】
多価金属塩は、カルシウム塩、マグネシウム塩、またはアルミニウム塩でありうる。これらの多価金属塩は、水膨潤性樹脂(A)が有するアニオン性基との反応点(作用点)が多く、橋掛け効果(複数のイオン結合を形成する作用)が得られやすい。それにより、第1後処理液の塗膜の表面または表層部分において、水膨潤性樹脂(A)の水膨潤度を低下させうる。中でも、多価金属塩は、カルシウム塩またはアルミニウム塩であることがより好ましい。
【0056】
多価金属塩の例には、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化アルミニウム、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウムなどの無機酸の金属塩が含まれる。
【0057】
有機酸の例には、クエン酸、リンゴ酸、琥珀酸、酒石酸、フタル酸、グリシン、グルタミン酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ビリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸、酢酸、乳酸などが含まれる。中でも、乳酸が好ましい。
【0058】
第2後処理液は、第1後処理液と同様に、必要に応じて他の成分をさらに含んでもよい。
【0059】
水膨潤防止剤(B)の含有量は、第2後処理液に対して0.1~10質量%としうる。水膨潤防止剤(B)の含有量が上記範囲であると、第2後処理液が適度に低粘度であるため、例えばインクジェット方式による付与に適している。
【0060】
(第2後処理液の付与)
第2後処理液の付与方法は、特に制限されないが、例えばコーティング法、スプレー法、またはインクジェット法などでありうる。中でも、第1後処理液の塗膜の表面(または表層)に、厚みの薄い第2処理液の塗膜を形成しやすい観点から、インクジェット法が好ましい。
【0061】
第2後処理液による水膨潤防止剤(B)の付着量y(g/m2)は、第1後処理液の塗膜の表面近傍における水膨潤性樹脂(A)を改質できる(水膨潤度を低下させる)程度であればよく、特に制限されないが、第1後処理液による水膨潤性樹脂(A)の付着量xよりも少ないことが好ましい。具体的には、第1後処理液による水膨潤性樹脂(A)の付着量xに対する第2後処理液による水膨潤防止剤(B)の付着量yの質量比y/xが0.01以上1未満、好ましくは0.01~0.5、より好ましくは0.01~0.1となるように設定されうる。y/xが上記範囲内であると、水膨潤防止剤(B)によって水膨潤度が低下する水膨潤性樹脂(A)の層が適度に薄いため、風合いを損なうことなく、湿摩擦堅牢性を高めやすい。より具体的には、第2後処理液による水膨潤防止剤(B)の付着量yは、その種類にもよるが、例えば0.01~10g/m2、好ましくは0.1~5g/m2としうる。水膨潤防止剤(B)の付着量yは、例えば第2後処理液の組成および布帛への第2後処理液の付着量から算出することができる。
【0062】
(第2後処理液の乾燥)
第2後処理液の乾燥は、第2後処理液中の溶媒成分が適度に蒸発除去して、膜状になる程度に行うことが好ましい。乾燥方法は、特に制限されないが、加熱により行うことが好ましい。加熱方法は、前述と同様であってよく、例えば温風乾燥機またはヒーターを用いる方法でありうる。
【0063】
乾燥温度は、第2後処理液中の溶媒が除去できる程度であればよく、特に制限されないが、例えば130~180℃としうる。
【0064】
本発明の画像形成方法は、必要に応じて、4)布帛を前処理する工程をさらに含んでもよい。
【0065】
4)の工程(前処理する工程)について
前処理は、布帛に前処理液を付与して行うことができる。
【0066】
前処理液は、布帛の表面に、インクの定着性を高めるような成分を含むものであればよく、特に制限されない。そのような成分の例には、アニオン性基(例えばカルボキシル基、リン酸基、ホスホン酸基およびスルホン酸基など)を有する化合物、カチオン性基(例えばアミノ基や第4級アンモニウム基など)を有する化合物などが含まれる。
【0067】
カチオン性基を有する化合物の例には、多価金属塩、カチオン性基を有する樹脂(例えばカチオン性のウレタン系樹脂、カチオン性のオレフィン系樹脂など)、カチオン性界面活性剤などが含まれる。
【0068】
アニオン性基を有する化合物の例には、アニオン性基を有する樹脂(例えばペクチン酸などの植物皮類、カルボキシメチルセルロースなどの繊維素誘導体、カルボキシメチル澱粉、カルボキシエチル澱粉などの加工澱粉、アクリル酸・アクリル酸エステル共重合体、スチレン・アクリル酸共重合体などのアクリル酸を共重合成分とするアクリル系重合体)、アニオン性界面活性剤が含まれる。
【0069】
前処理液は、前述と同様に、防腐剤、pH調整剤などの他の成分をさらに含んでもよい。
【0070】
前処理液の付与方法は、前述と同様でありうる。布帛に付与された前処理液は、温風、ホットプレート、またはヒートローラを用いて加熱乾燥させてもよい。
【0071】
次に、本発明の画像形成方法に用いられる処理液セットまたはインクセットについて説明する。
【0072】
2.処理液セット
本発明の一実施形態に係る処理液セットは、第1後処理液と、第2後処理液とを含む。
【0073】
本実施形態に係る処理液セットにおける、第1後処理液および第2後処理液は、それぞれ、本実施形態に係る画像形成方法における、第1後処理液および第2後処理液とそれぞれ同じである。すなわち、第1後処理液は、2質量%以上の水膨潤性樹脂(A)と、水とを含む。第2後処理液は、水膨潤防止剤(B)と、水とを含む。第2後処理液に含まれる水膨潤防止剤(B)は、水膨潤性樹脂(A)と反応または相互作用して、水膨潤性樹脂(A)の水膨潤度を低下させる。
【0074】
処理液セットは、さらにインクを含むインクセットであってもよい。すなわち、本実施形態に係るインクセットは、上記の第1後処理液および第2後処理液に加えて、インクをさらに含む。
【0075】
2-1.インク
インクは、分散性色材と、水とを含む。
【0076】
(1)分散性色材
分散性色材は、特に制限されず、分散染料などの固体の染料または顔料でありうる。中でも、耐候性に優れる画像を形成しやすい観点から、顔料が好ましい。
【0077】
(顔料)
顔料は、特に限定されないが、例えばカラーインデックスに記載される下記番号の有機顔料または無機顔料でありうる。
【0078】
赤またはマゼンタ顔料の例には、Pigment Red 3、5、19、22、31、38、43、48:1、48:2、48:3、48:4、48:5、49:1、53:1、57:1、57:2、58:4、63:1、81、81:1、81:2、81:3、81:4、88、104、108、112、122、123、144、146、149、166、168、169、170、177、178、179、184、185、208、216、226、257、Pigment Violet 3、19、23、29、30、37、50、88、Pigment Orange 13、16、20、36が含まれる。
【0079】
青またはシアン顔料の例には、Pigment Blue 1、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17-1、22、27、28、29、36、60が含まれる。
【0080】
緑顔料の例には、Pigment Green 7、26、36、50が含まれる。黄顔料の例には、Pigment Yellow 1、3、12、13、14、17、34、35、37、55、74、81、83、93、94,95、97、108、109、110、137、138、139、153、154、155、157、166、167、168、180、185、193が含まれる。
【0081】
黒顔料の例には、Pigment Black 7、28、26が含まれる。
【0082】
顔料の市販品の例には、クロモファインイエロー2080、5900、5930、AF-1300、2700L、クロモファインオレンジ3700L、6730、クロモファインスカーレット6750、クロモファインマゼンタ6880、6886、6891N、6790、6887、クロモファインバイオレット RE、クロモファインレッド6820、6830、クロモファインブルーHS-3、5187、5108、5197、5085N、SR-5020、5026、5050、4920、4927、4937、4824、4933GN-EP、4940、4973、5205、5208、5214、5221、5000P、クロモファイングリーン2GN、2GO、2G-550D、5310、5370、6830、クロモファインブラックA-1103、セイカファストエロー10GH、A-3、2035、2054、2200、2270、2300、2400(B)、2500、2600、ZAY-260、2700(B)、2770、セイカファストレッド8040、C405(F)、CA120、LR-116、1531B、8060R、1547、ZAW-262、1537B、GY、4R-4016、3820、3891、ZA-215、セイカファストカーミン6B1476T-7、1483LT、3840、3870、セイカファストボルドー10B-430、セイカライトローズR40、セイカライトバイオレットB800、7805、セイカファストマルーン460N、セイカファストオレンジ900、2900、セイカライトブルーC718、A612、シアニンブルー4933M、4933GN-EP、4940、4973(大日精化工業製); KET Yellow 401、402、403、404、405、406、416、424、KET Orange 501、KET Red 301、302、303、304、305、306、307、308、309、310、336、337、338、346、KET Blue 101、102、103、104、105、106、111、118、124、KET Green 201(大日本インキ化学製);Colortex Yellow 301、314、315、316、P-624、314、U10GN、U3GN、UNN、UA-414、U263、Finecol Yellow T-13、T-05、Pigment Yellow1705、Colortex Orange 202、Colortex Red101、103、115、116、D3B、P-625、102、H-1024、105C、UFN、UCN、UBN、U3BN、URN、UGN、UG276、U456、U457、105C、USN、Colortex Maroon601、Colortex BrownB610N、Colortex Violet600、Pigment Red 122、ColortexBlue516、517、518、519、A818、P-908、510、Colortex Green402、403、Colortex Black 702、U905(山陽色素製);Lionol Yellow1405G、Lionol Blue FG7330、FG7350、FG7400G、FG7405G、ES、ESP-S(東洋インキ製)、Toner Magenta E02、Permanent RubinF6B、Toner Yellow HG、Permanent Yellow GG-02、Hostapeam BlueB2G(ヘキストインダストリ製);Novoperm P-HG、Hostaperm Pink E、Hostaperm Blue B2G(クラリアント製);カーボンブラック#2600、#2400、#2350、#2200、#1000、#990、#980、#970、#960、#950、#850、MCF88、#750、#650、MA600、MA7、MA8、MA11、MA100、MA100R、MA77、#52、#50、#47、#45、#45L、#40、#33、#32、#30、#25、#20、#10、#5、#44、CF9(三菱化学製)が含まれる。
【0083】
(自己分散性顔料)
顔料は、自己分散性顔料であってもよい。自己分散性顔料は、顔料粒子の表面を、親水性基を有する基で修飾したものであり、顔料粒子と、その表面に結合した親水性を有する基とを有する。
【0084】
親水性基の例には、カルボキシル基、スルホン酸基、およびリン含有基が含まれる。リン含有基の例には、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、ホスファイト基、ホスフェート基が含まれる。
【0085】
自己分散性顔料の市販品の例には、Cabot社Cab-0-Jet(登録商標)200K、250C、260M、270V(スルホン酸基含有自己分散性顔料)、Cab-0-Jet(登録商標)300K(カルボン酸基含有自己分散性顔料)、Cab-0-Jet(登録商標)400K、450C、465M、470V、480V(リン酸基含有自己分散性顔料)が含まれる。
【0086】
分散性色材の含有量は、特に限定されないが、インクの粘度を上記範囲内に調整しやすく、かつ高濃度の画像を形成可能にする観点では、インクに対して1.5~15質量%であることが好ましい。分散性色材の含有量が1.5質量%以上であると、高濃度の画像を形成しやすく、15質量%以下であると、インクの粘度が高くなりすぎないため、射出安定性が損なわれにくい。分散性色材の含有量は、同様の観点から、インクに対して5~15質量%であることがより好ましい。
【0087】
(2)他の成分
インクは、必要に応じて他の成分をさらに含みうる。他の成分の例には、水以外の溶媒や高分子分散剤、バインダ樹脂、防腐剤、pH調整剤などが含まれてもよい。溶媒や防腐剤、pH調整剤は、第1後処理液などで使用されるものと同様のものを使用できる。
【0088】
(高分子分散剤)
顔料が自己分散性顔料ではない場合、顔料を分散させやすくする観点から、インクは、高分子分散剤をさらに含むことが好ましい。高分子分散剤の種類は、特に制限されず、カチオン性分散剤、アニオン性分散剤、非イオン性分散剤のいずれであってもよい。
【0089】
カチオン性分散剤が有するカチオン性基の例には、第2級アミノ基(イミノ基)、第3級アミノ基または第4級アンモニウム基などでありうる。カチオン性分散剤は、顔料分散体を形成しうるものであればよく、特に制限されないが、例えばカチオン性基(第3級アミノ基または第4級アンモニウム基)を有するアクリル系(共)重合体が含まれる。
【0090】
アニオン性分散剤は、カルボン酸基、リン含有基およびスルホン酸基からなる群より選ばれる親水性基を有する高分子分散剤である。
カルボン酸基を有する高分子分散剤の例には、ポリカルボン酸またはその塩が含まれる。ポリカルボン酸の例には、アクリル酸またはその誘導体、マレイン酸またはその誘導体、イタコン酸またはその誘導体、フマル酸またはその誘導体から選ばれる単量体の(共)重合体およびこれらの塩が含まれる。
リン含有基を有する高分子分散剤は、リン酸基またはホスホン酸基を有する高分子分散剤である。リン酸基またはホスホン酸基を有する高分子分散剤の例には、アルキルリン酸エステルまたはその塩が含まれる。
スルホン酸基を有する高分子分散剤の例には、芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物、リグニンスルホン酸のホルマリン縮合物が含まれ、好ましくは芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物である。芳香族スルホン酸のホルマリン縮合物の例には、縮合ナフタレンスルホン酸ナトリウムが含まれる。
【0091】
非イオン性分散剤の例には、ポリオキシアルキレン、ポリオキシアルキレンアルキルエーテルなどが含まれる。
【0092】
高分子分散剤の含有量は、分散性色材に対して10~50質量%であることが好ましい。高分子分散剤の含有量が10質量%以上であると、分散性色材の分散性を十分に高めやすく、50質量%以下であると、粘度の過剰な上昇を抑制しやすい。高分子分散剤の含有量は、同様の観点から、分散性色材に対して20~40質量%であることが好ましい。
【0093】
(バインダ樹脂)
バインダ樹脂は、水溶性樹脂または樹脂粒子(水分散性樹脂)でありうる。ただし、布帛の生地の風合いを損なわれにくくする観点では、高分子分散剤とバインダ樹脂の含有割合(特にバインダ樹脂の含有割合)は少ないことが好ましい。バインダ樹脂の含有量は、インクに対して5質量%以下であることが好ましく、実質的に含まないことがより好ましい。
【0094】
(3)物性
インクの、25℃における粘度は、インクジェット方式による射出性が良好となる程度であればよく、特に制限されないが、3~20mPa・sであることが好ましく、4~12mPa・sであることがより好ましい。インクの粘度は、E型粘度計により、25℃で測定することができる。
【0095】
インクは、任意の方法、例えば前述の分散性色材と、水と、任意の分散剤などを混合するステップを経て製造することができる。
【0096】
3.画像形成物
本発明の一実施形態に係る画像形成方法で得られる画像形成物は、布帛と、色材層と、第1処理層と、第2処理層とをこの順に有しうる。
【0097】
(色材層)
色材層は、インクによって形成される層であり、分散性色材と、高分子分散剤および/またはバインダ樹脂とを含む。色材層の組成は、インクの固形分の組成と同じである。
【0098】
(第1処理層)
第1処理層は、第1後処理液によって形成される層であり、上記塗膜に由来する。第1処理層は、色材層(または布帛)上に配置されうる。
【0099】
第1処理層における水膨潤性樹脂(A)の含有量は、第1処理層に対して80質量%以上であることが好ましく、90~100質量%であることがより好ましい。水膨潤性樹脂(A)の含有量が80質量%以上であると、例えば色材層の保護性や定着性を十分に高めうる。
【0100】
第1処理層の厚みt1は、第2処理層の厚みt2よりも厚いことが好ましく、例えば1~10μmであることが好ましく、2~5μmであることがより好ましい。第1処理層の厚みt1が上記範囲内であると、風合いを損なわない程度に、例えば色材層の保護性または定着性を高めうる。
【0101】
(第2処理層)
第2処理層は、第1後処理液の塗膜を第2後処理液と作用させて形成される層であり、第1処理層上に配置されている。
【0102】
すなわち、第2処理層は、水膨潤防止剤(B)によって改質された水膨潤性樹脂(A)を含む。水膨潤防止剤(B)によって改質された水膨潤性樹脂(A)は、改質されていない水膨潤性樹脂(A)の水膨潤度よりも低い。
【0103】
第2処理層における水膨潤防止剤(B)の含有量は、その種類にもよるが、例えば第2処理層に対して0.1~10質量%であることが好ましく、1~5質量%であることがより好ましい。水膨潤防止剤(B)の含有量が上記範囲内であると、画像形成物が硬くなりすぎないため、風合いが損なわれにくい。
【0104】
第2処理層の厚みt2は、第1処理層の厚みt1よりも薄いことが好ましく、例えば5μm以下であることが好ましく、0.2~1μmであることがより好ましい。また、第1処理層の厚みt1と第2処理層の厚みt2の比は、例えば、t2/t1が0.01~1、好ましくは0.01~0.5でありうる。t2またはt2/t1が、それぞれ上記範囲内であると、風合いを損なうことなく、第2処理層により湿摩擦堅牢性を高めやすい。
【0105】
第1処理層の厚みt1および第2処理層の厚みt2は、布帛ごと厚み方向に切断し、電子顕微鏡で観察することにより測定することができる。
具体的には、
1)画像形成物について、主走査方向は、サンプルの両端部と中央部(例えば均一に3等した位置)、副走査方向は等間隔(例えば5cm間隔)で3点(計9点)、サンプリングする。
2)次いで、サンプリングした各サンプルについて、主走査方向と平行な方向に切断し、切断面における第1処理層の厚みを、電子顕微鏡画像において、例えば10点ずつ測定し(計90点)、それらの平均値を「第1処理層の厚み」とする。なお、主走査方向は、通常、画像形成物(または布帛)の幅方向とする。
なお、第2後処理液の水膨潤防止剤(B)が樹脂である場合、第1処理層と第2処理層の界面は、電子顕微鏡による断面の観察画像において、第1処理層と第2処理層の色が異なることにより確認することができる。水膨潤防止剤(B)が樹脂以外の場合、例えば元素分析(EDXなど)をさらに併用することで、界面を確認することもできる。
【0106】
画像形成物における水膨潤性樹脂(A)の付着量xと水膨潤防止剤(B)の付着量yの比は、上記質量比y/xと同様である。画像形成物における水膨潤性樹脂(A)の付着量xと水膨潤防止剤(B)の付着量yは、厚みから換算してもよいし、ICPなどの元素分析、IRおよび熱分解ガスクロマトグラフィー(熱分解GC)などの公知の方法により確認することができる。
【0107】
なお、上記実施形態では、色材層上に第1後処理液および第2後処理液を付与する例を示したが、これに限定されない。例えば、色材層を有しない布帛上に、直接、第1後処理液および第2後処理液を付与してもよい。この場合、第1後処理液は、色材を含んでいてもよい(すなわち、第1後処理液をインクとして兼用してもよい)。この場合、得られる画像形成物は、布帛と第1処理層との間に色材層を有しなくてもよい。
【実施例】
【0108】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0109】
<前処理液の調製>
塩化カルシウム3質量%、防腐剤、活性剤、pH調整剤を各適量添加し、水で100質量%となるように調製し、前処理液とした。
【0110】
<インクの調製>
リン酸自己分散性顔料のPR122を3質量%、グリセリン10質量%、エチレングリコール25質量%、防腐剤、活性剤、pH調整剤を各適量添加し、水で100質量%となるに調製し、インクとした。
【0111】
1.第1後処理液および第2後処理液の調製
<材料>
(水膨潤性樹脂(A))
高膨潤性アクリル樹脂(BASF社製Joncryl PDX-7326、アニオン性スチレンアクリル系エマルション、水膨潤度76%、酸価38mgKOH/g)
高膨潤性ウレタン樹脂(三井化学社製タケラックW-6061、アニオン性ウレタン系樹脂エマルション、水膨潤度88%)
(水膨潤防止剤(B))
カチオン性アクリル樹脂(日信化学工業社製ビニブラン2687、カチオン化ポリアクリレートエマルション)
カチオン性アクリル樹脂(ハイモ社製ハイモロックE-395、カチオン化ポリアクリルアミド)
低膨潤性アクリル樹脂(BASF社製Joncryl PDX-7357、水膨潤度10%、スチレンアクリル重合体エマルション)
樹脂の水膨潤度は、後述の方法で測定した。
【0112】
(比較用)
スーパーフレックス500M(非イオン性、ウレタン樹脂エマルション)
スーパーフレックス150(アニオン性、ウレタン樹脂エマルション)
【0113】
(防腐剤)
Lonza社製Proxcel GXL(S)
【0114】
<第1後処理液の調製>
表1に示される組成比(質量比)で各成分を混合して、後処理液1-1~1-3(実施例)および後処理液1-4(比較例)を調製した。
【0115】
【0116】
<第2後処理液の調製>
表2に示される組成比(質量比)で各成分を混合して、後処理液2-1、2-2、2-4および2-5(実施例)ならびに後処理液2-3および2-6(比較用)を調製した。
【0117】
【0118】
2.画像形成および評価
<試験1>
インクジェット用ヘッドとしてKM1024iヘッドを搭載した簡易印画試験機に、上記調製した前処理液、インク、後処理液1-1(第1後処理液)および後処理液2-1(第2後処理液)をセットした。
【0119】
(1)前処理
布帛として、綿ブロード40(綿100%)を準備した。この布帛の表面に、上記調製した前処理液を、前処理液の付着量が15g/m2になるように簡易印画試験機を用いてインクジェット方式で付与した後、110℃で2分間乾燥させた。それにより、前処理布帛を得た。
【0120】
(2)インクの付与、乾燥および定着
次いで、得られた前処理布帛上に、調製したインクを、簡易印画試験機のインクジェット用ヘッドのノズルから吐出させて、200mm×200mmの100%ベタ画像を形成した。具体的には、主走査540dpi×副走査720dpiにて、細線格子、諧調、およびベタ部を含んだ画像(全体で200mm×200mm)を形成した。dpiとは、2.54cm当たりのインク液滴(ドット)の数を表す。吐出周波数は、22.4kHzとした。インクの付着量は15g/m2となるように吐出量を調整した。
【0121】
(3)後処理(第1後処理液の付与)
次いで、上記画像が形成された布帛の画像上に、後処理液1-1(第1後処理液)を上記インクと同様の条件で付与して、150℃3分間乾燥させた。その際、後処理液1-1の付着量は、15g/m2とした。後処理液1-1の付着量は、電圧により調整した。
【0122】
(4)後処理(第2後処理液の付与)
さらに、プリント済み布帛の画像上に、後処理液2-1(第2後処理液)を、上記インクと同様の条件で付与して100%ベタ画像を印画した後、150℃で3分間乾燥させた。その際に、吐出電圧調整により後処理液2-1の吐出量を調整した。
【0123】
<試験2~16および22>
第1後処理液と第2後処理液の組み合わせを表3に示されるように変更した以外は試験1と同様にして、画像形成物を得た。
【0124】
<試験17~21>
第1後処理液を表3に示されるように変更し、かつ第2後処理液を用いなかった以外は試験1と同様にして、画像形成物を得た。
【0125】
<評価>
得られた画像形成物の風合いおよび湿摩擦堅牢性を、以下の方法で評価した。さらに、表3に示される第1後処理液と第2後処理液の組み合わせにした時の白地の黄変および水膨潤度についても評価を行った。
【0126】
(風合い)
得られた画像形成物について、カトーテック製の純曲げ試験機(KES-FB2-A)を用いて算出した曲げ応力B値を指標とし、以下の基準で評価した。
5:後処理前に対してB値が1.5倍未満であり、官能評価でも風合いの変化がわからないレベル
4:後処理前に対してB値が1.5倍未満であり、官能評価で風合いの変化がややわかるが問題ないレベル
3:後処理前に対してB値が1.5倍以上2倍未満であり、官能評価で風合いの変化がややわかるが問題ないレベル
2:後処理前に対してB値が2倍以上3倍未満であり、官能評価でも風合いに問題があるレベル
1:後処理前に対してB値が3倍以上であり、官能評価でも風合いに問題があるレベル
【0127】
(湿摩擦堅牢性)
得られた画像形成物の湿摩擦堅牢性を、JIS L 0849に準拠し、クロックメーター(摩擦試験機I型)で評価した。具体的には、画像形成物の表面の画像をスキャナーで取り込み、画像処理して白布の汚染レベルを数値化し、以下の基準で評価した。
5:後処理しない場合と比べて、白布の汚染が90%以上改善する
4:後処理しない場合と比べて、白布の汚染が60%以上90%未満改善する
3:後処理しない場合と比べて、白布の汚染が30%以上60%未満改善する
2:後処理しない場合と比べて、白布の汚染が10%以上30%未満改善する
1:後処理しない場合と比べて、白布の汚染が10%未満しか改善しない
【0128】
(白地の黄変)
未処理の布帛上に、表3に示される第1後処理液を付着量が15g/m2になるように上記簡易印画試験機で付与した後、110℃30秒間乾燥させた。次いで、表3に示される第2後処理液を付着量が15g/m2になるように上記簡易印画試験機でさらに付与した。そして、得られた布帛を200℃で15秒間ホットプレスした。そして、白地の黄変度合いを目視評価し、以下の基準で評価した。
5:黄変は発生しない
4:ほぼ黄変がなく、問題ないレベル
3:部分的に軽微な黄変があるが、問題ないレベル
2:軽微な黄変があり、実用上問題あるレベル
1:黄変があり、実用上問題があるレベル
【0129】
(第2後処理液で処理した後の水膨潤性樹脂(A)の水膨潤度)
1)第1後処理液の原料である水膨潤性樹脂(A)の水分散液を、70℃30~35RH%で48時間乾燥固化させて、ペレット1(処理前)を得た。
2)ペレット1を、水膨潤防止剤(B)との質量比が表3のy/xと一致するように希釈した第2後処理液に5分間浸漬した後、上記と同様の条件で乾燥固化させて、ペレット2(処理後)を得た。
3)得られたペレット1および2のそれぞれについて、20℃のイオン交換水に5分間浸漬した後、上記と同様の条件で乾燥させて重量を測定した。そして、ペレット1および2のそれぞれについて、イオン交換水への浸漬前と後の重量を下記式に当てはめて、水膨潤度(%)を算出した。
式(1):水膨潤度(%)=(浸漬後のペレット重量-浸漬前のペレット重量)/(浸漬前のペレット重量)×100
ペレット1の水膨潤度は、(第2後処理液で処理する前の)水膨潤性樹脂(A)の水膨潤度に相当し;ペレット2の水膨潤度は、(第2後処理液で処理した後の)水膨潤性樹脂(A)の水膨潤度に相当する。
【0130】
試験1~22の評価結果を表3に示す。なお、試験11の画像形成物について、断面観察したところ、第1処理層の厚みは3.5μm、第2処理層の厚みは1μm程度であることを確認した。
【0131】
【0132】
表3に示されるように、所定の第1後処理液および第2後処理液の両方を用いた試験1~16の画像形成物(本発明)は、いずれも風合いを損なうことなく、良好な湿摩擦堅牢性を有し、白地の黄変も少ないことがわかる。
【0133】
これに対し、第2後処理液を用いなかった試験17~21は、いずれも湿摩擦堅牢性が低いことがわかる。また、試験22では、処理液1-4に含まれる非イオン性のウレタン樹脂は、処理液2-6に含まれるアニオン性のウレタン樹脂とは反応も相互作用もしないため、得られる画像形成物は風合いが劣るだけでなく、湿摩擦堅牢性が低いことがわかる。
【0134】
本発明によれば、布帛の風合いを損なうことなく、十分な耐水性(湿摩擦堅牢性)を有する画像形成物を付与可能な、画像形成方法を提供することができる。