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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】積層フィルム
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/20 20060101AFI20250527BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20250527BHJP
   B32B 27/28 20060101ALI20250527BHJP
   C09J 7/30 20180101ALI20250527BHJP
   C09J 11/08 20060101ALI20250527BHJP
   C09J 193/00 20060101ALI20250527BHJP
【FI】
B32B27/20 Z
B32B27/18 Z
B32B27/28
C09J7/30
C09J11/08
C09J193/00
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021052864
(22)【出願日】2021-03-26
(65)【公開番号】P2022150306
(43)【公開日】2022-10-07
【審査請求日】2024-02-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】蓑毛 克弘
(72)【発明者】
【氏名】新崎 盛昭
【審査官】脇田 寛泰
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-150954(JP,A)
【文献】特開2015-074100(JP,A)
【文献】特開2018-062168(JP,A)
【文献】特開2020-199768(JP,A)
【文献】特開2019-031596(JP,A)
【文献】特開2020-131540(JP,A)
【文献】国際公開第2014/142192(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/203003(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/195884(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/188787(WO,A1)
【文献】特開2002-121514(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0197022(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2021/0102100(US,A1)
【文献】特開2020-26531(JP,A)
【文献】特開2024-7605(JP,A)
【文献】特表2002-522122(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C09J1/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
両面で布に対する剥離強度が異なる積層フィルムであって、布に対する剥離強度が相対的に大きい面側の最外層をA層としたときに、前記A層の表面が樹脂と粒子を含み、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、および石油系樹脂を粘着性樹脂としたときに、前記A層が、少なくとも一種の粘着性樹脂および熱可塑性エラストマーを含み、前記粒子が、ポリオレフィン樹脂を含み、前記粒子が、球状であり、前記粒子の平均粒径が、10μm以上100μm以下であり、前記粒子の含有量が、10質量%以上55質量%以下であり、前記A層の表面粗さである最大粗さ(Rz)が80μm以上200μm以下であり、かつ、スキューネス(Rsk)が1.00以上4.00以下であることを特徴とする、積層フィルム。
【請求項2】
前記A層に含まれる粒子の平均粒径が10μm以上100μm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記A層に含まれる粒子の量が10質量%以上55質量%以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
ヤング率の最大値が50MPa以上2000MPa以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれかに記載の積層フィルム。
【請求項5】
前記A層と反対側の最外層をB層としたときに、前記A層が、前記B層よりも多く前記粘着性樹脂を含むことを特徴とする、請求項1~4のいずれかに記載の積層フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、布や不織布のように表面に凹凸を有する材料に対する密着性および触感に優れる積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フィルムとして用いるために必要な機械特性を備えつつ、さらに別の機能を有する単体のフィルムが要求されている。例えば、医療・衛生材料の分野では、フィルムとしての機械特性を備え、かつ表面の凹凸形状、伸縮性、および柔軟性を有する、布や不織布のような材料(以下、布等ということがある。)に対する密着性および触感に優れるフィルムが望まれている。
【0003】
これまでに、これらの特性を向上させるために種々の開発がなされており、例えば特許文献1には、粘着性を有する樹脂層に、その層厚みよりも粒径の大きな充填剤を分散含有させたフィルムが開示されている。このような態様とすることにより製造ライン等においてロール等への接着を軽減でき、フィルムのハンドリング性が向上する。また、特許文献2には、粒子と粘着性を有する樹脂で表面が形成されたフィルムが開示されている。このような態様とすることにより、表面に触れた際に、粒子により粘着層と肌との接触が抑えられるため、フィルムの触感が向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2019/188787号公報
【文献】特開2019-31596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、布等に対する密着性とハンドリング性との両立はできるものの、最表面が粘着層となって触感が低下する課題があった。また、特許文献2の技術では、表面の粒子が脱落したり埋没したりすることで、触感が悪化するという課題があった。
【0006】
本発明は、係る従来技術の欠点を改良し、フィルムとして用いるために必要な機械特性を備え、布等に対する密着性および触感に優れた積層フィルムを提供することを、その課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明は、下記の構成からなる。
(1) 両面で布に対する剥離強度が異なる積層フィルムであって、布に対する剥離強度が相対的に大きい面側の最外層をA層としたときに、前記A層の表面が樹脂と粒子を含み、前記A層の表面粗さである最大粗さ(Rz)が80μm以上200μm以下であり、かつ、スキューネス(Rsk)が1.00以上4.00以下であることを特徴とする、積層フィルム。
(2) 前記A層に含まれる粒子の平均粒径が10μm以上100μm以下であることを特徴とする、(1)に記載の積層フィルム。
(3) 前記A層に含まれる粒子の量が10質量%以上55質量%以下であることを特徴とする、(1)または(2)に記載の積層フィルム。
(4) ヤング率の最大値が50MPa以上2000MPa以下であることを特徴とする、(1)~(3)のいずれかに記載の積層フィルム。
(5) ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、および石油系樹脂を粘着性樹脂としたときに、前記A層が、少なくとも一種の粘着性樹脂を含むことを特徴とする、(1)~(4)のいずれかに記載の積層フィルム。
(6) 前記A層と反対側の最外層をB層としたときに、前記A層が、前記B層よりも多く前記粘着性樹脂を含むことを特徴とする、(1)~(5)のいずれかに記載の積層フィルム。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、フィルムとして用いるために必要な機械特性を備え、かつ、布等に対する密着性および触感に優れる積層フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ヤング率の測定方向を示す模式図である。
図2】本発明の一実施態様に係る積層フィルムをA層側から観察したときの拡大上面図である。
図3図2の積層フィルムのI-I’断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の積層フィルムは、両面で布に対する剥離強度が異なる積層フィルムであって、布に対する剥離強度が相対的に大きい面側の最外層をA層としたときに、前記A層の表面が樹脂と粒子を含み、前記A層の表面粗さである最大粗さ(Rz)が80μm以上200μm以下であり、かつ、スキューネス(Rsk)が1.00以上4.00以下であることを特徴とする。
【0011】
フィルムとは、熱可塑性樹脂を主成分とするシート状の成型体をいい、積層フィルムとは、組成が異なる複数の層を有するフィルムをいう。なお、ここで「熱可塑性樹脂を主成分とする」とはフィルムを構成する全成分中、熱可塑性樹脂を50質量%より多く100質量%以下含むことをいう。
【0012】
本発明の積層フィルムは、両面で布に対する剥離強度が異なることが重要である。「両面で布に対する剥離強度が異なる」とは、布に対する剥離強度が相対的に大きな面における布に対する剥離強度と、その反対側の面における布に対する剥離強度との差が、0.05N/cm以上であることをいう。このとき、布に対する剥離強度が相対的に大きな面側の最外層をA層、その反対側の最外層をB層とする。
【0013】
布に対する剥離強度は、以下の手順により測定することができる。先ず、10mm×100mmの長方形状のフィルムサンプルを取得し、得られたフィルムサンプルをJIS L 0803:2011に準拠したポリエステル製の白布(以下、単に布ということがある。)上に置いて、1kg荷重のラミネートローラーを1往復させて両者を密着させる。その後、引張速度300mm/分で短辺側からフィルムサンプルを剥がし、JIS Z 0237:2009に規定する方法で布に対する剥離強度を測定する。
【0014】
積層フィルムを「両面で布に対する剥離強度が異なる」態様とする方法は、本発明の効果を損なわない限り特に制限されないが、例えば、任意に選択した一方の最外層と他方の最外層とを、互いに組成の異なるものとする方法が挙げられる。より具体的には、任意に選択した一方の最外層における粘着性樹脂(後述)の含有量と、他方の最外層における粘着性樹脂の含有量とが異なる態様とする方法である。このような態様においては通常、粘着性樹脂の含有量の多い最外層側の表面が「布に対する剥離強度が相対的に大きい面」となり、粘着性樹脂の含有量の多い最外層がA層、その反対側の最外層がB層となる。このとき、A層における粘着性樹脂の含有量とB層における粘着性樹脂の含有量との差を大きくすることにより、両面の布に対する剥離強度の差を大きくすることができる。
【0015】
なお、A層における粘着性樹脂の含有量とは、A層の全構成成分を100質量%としたときの粘着性樹脂の含有量(質量%)をいい、B層における粘着性樹脂の含有量も同様に解釈する。このとき、B層は必ずしも粘着性樹脂を含まなくてもよい。粘着性樹脂は、布等への密着性を向上させることができる反面、後述するB層において用いることができる樹脂に比べて機械強度の面で劣る。そのため、このような態様とすることにより、フィルムの機械特性と布等との密着性を容易に両立することができる。このとき、A層とB層との間には、本発明の効果を損なわない範囲で別の層が存在していてもよい。
【0016】
本発明の積層フィルムのA層の表面は樹脂と粒子を含むことが重要である。A層における樹脂は、布等に対する密着性および生産性の観点から、熱可塑性エラストマーと粘着性樹脂を含むことが好ましい。
【0017】
熱可塑性エラストマーとは、ハードセグメント相とソフトセグメント相を有することにより、25℃でゴム弾性を有する一方で、一般的な熱可塑性の成形温度領域である100℃~300℃の温度領域ではハードセグメント相に流動性が発現することにより、一般の熱可塑性樹脂と同様の成形加工が可能となる高分子量体のことを指す。A層に用いることができる熱可塑性エラストマーとしては、例えば、ポリエステル系エラストマー、ポリオレフィン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー、ポリウレタン系エラストマー、スチレン系エラストマー、およびポリアクリル系エラストマーなどを単独で又は複数組み合わせて用いることができる。中でも、得られるフィルムの布等に対する密着性の観点から、スチレン系エラストマーを用いることが好ましい。
【0018】
スチレン系エラストマーとしては、例えば、スチレン-ブタジエンブロック共重合体、スチレン-エチレンプロピレンブロック共重合体、スチレン-ブタジエン-スチレンブロック共重合体、スチレン-イソプレン-スチレンブロック共重合体、スチレン-エチレンブチレン-スチレンブロック共重合体、およびスチレン-エチレンプロピレン-スチレンブロック共重合体等が挙げられる。
【0019】
粘着性樹脂とは、ロジン系樹脂、テルペン系樹脂、および石油系樹脂を粘着性樹脂とする。このような粘着性樹脂は、高分子材料に配合されると可塑化作用により粘着性を発現する。そのため、A層が、B層よりも多く粘着性樹脂を含むことにより、A層と布等との密着性が向上する。「A層が、B層よりも多く粘着性樹脂を含む」とは、A層における粘着性樹脂の含有量(質量%)がB層における粘着性樹脂の含有量(質量%)よりも大きいことをいう。
【0020】
ロジン系樹脂とは、ロジン酸(アビエチン酸、パラストリン酸、イソピマール酸等)を主成分とする樹脂をいう。本発明のフィルムに用いることができるロジン系樹脂は、例えば、マツ科の植物の樹液である松脂等のバルサム類を集めてテレピン精油を蒸留した後に残る残留物として得ることができる。ロジン系樹脂の具体的としては、ガムロジン、ウッドロジン、トール油ロジン等の未変性ロジン、およびこれらの未変性ロジンを水添化、不均化、重合、その他の化学的修飾等により変性させた変性ロジン等が挙げられる。
【0021】
石油系樹脂とは、ナフサ分解の副生油の一部(不飽和性の高いジエン類等)を重合して樹脂状としたものをいう。本発明のフィルムに用いることができる石油系樹脂としては、例えば、脂肪族系石油系樹脂、芳香族系石油系樹脂、脂肪族/芳香族共重合系石油系樹脂、およびこれらの水素添加物等が挙げられる。
【0022】
テルペン系樹脂とは、テルペンモノマーの重合体、テルペンモノマーと他のモノマーの共重合体、およびこれらの誘導体をいう。テルペン系樹脂としては、例えば、α-ピネン重合体、β-ピネン重合体、およびジペンテン重合体等の他、テルペンフェノール樹脂、スチレン変性テルペン樹脂、および水素添加テルペン樹脂等の変性テルペン樹脂等が挙げられる。
【0023】
A層に含まれる粒子は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されるものではなく、無機粒子、有機粒子のいずれでもよく、また、有機粒子と無機粒子を組み合わせても、複数種類の無機粒子や複数種類の有機粒子を組み合わせてもよい。無機粒子としては、例えば、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸バリウム、硫酸カルシウム、リン酸カルシウム、リン酸マグネシウム、カオリン、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、および酸化チタン等が挙げられる。また、本発明の積層フィルムに用いることができる有機粒子としては、ポリエチレン樹脂、ポリオレフィン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、スチレン樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、およびエポキシ樹脂等が挙げられる。
【0024】
粒子の形状に関しても、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、球状、塊状、棒状、および扁平状等のいずれであってもよく、必要に応じて異なる形状のものを併用することもできるが、得られる積層フィルムの触感の関係から球状であることが好ましい。
【0025】
A層に含まれる粒子の平均粒径は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、10μm以上100μm以下であることが好ましく、20μm以上80μm以下であることがより好ましく、40μm以上60μm以下であることが特に好ましい。A層中の粒子の平均粒径が10μm以上であれば、A層の表面に凹凸を容易に形成することができ、A層表面の触感を高めることが容易となる。一方、A層中の粒子の平均粒径が100μm以下であれば、A層から粒子が脱落することを低減することができる。
【0026】
A層中の粒子の平均粒径は、以下の手順により定めることができる。先ず、レーザー顕微鏡を用いて、A層表面に高さ5μm以上の凸形状を形成している粒子であって、凝集していないものが3個以上10個以下画面内に写る倍率でA層表面を観察し、観察画像を得る。得られた観察画像におけるA層中の凝集していない粒子を完全に囲み、かつ面積が最も小さくなるように正方形又は長方形を描いて、正方形の場合は1辺の長さ、長方形の場合は長辺と短辺の長さの平均値を該粒子の粒子径とする。測定は得られた観察画像に写るすべての凝集していない粒子に対して行い、最大および最小の粒子径を除いた平均値を求めた。さらに、測定場所を変えて同様の測定を9回行い、得られた10個の値の平均値をA層中の粒子の平均粒径(μm)とする。
【0027】
本発明の積層フィルムは、A層に含まれる粒子の量が10質量%以上55質量%以下であることが好ましく、20質量%以上45質量%以下がより好ましい。A層に含まれる粒子の量が10質量%以上であれば、A層の表面に凹凸を容易に形成することができる。一方、A層に含まれる粒子の量が55質量%以下であれば、得られる積層フィルムの布等に対する密着性が向上する。なお、「A層に含まれる粒子の量」とは、A層を構成する全成分を100質量%としたときの、A層中の粒子の量をいう。
【0028】
A層中の粒子の量は、以下の手順により測定することができる。先ず、積層フィルムを10cm×10cmにカットし、質量を測る。さらに、カットした積層フィルムをトルエンに30分以上浸漬させて取り出し、乾燥後のフィルムの質量を測る。トルエン浸漬前後の質量の差がA層の質量となる。次いで、トルエン液中の粒子を取り出し、乾燥後の粒子の質量を測る。(粒子の質量)/(A層の質量)の値をA層中の粒子の量とする。なお、粒子がトルエンに溶解する成分であれば、積層フィルムを浸漬させる有機溶媒としては適宜他のものに代えることができる。
【0029】
本発明の積層フィルムにおけるA層の表面粗さである最大粗さ(Rz)は80μm以上200μm以下であり、かつ、A層のスキューネス(Rsk)が1.00以上4.00以下であることが重要である。A層のRzは90μm以上200μm以下であることが好ましく、100μm以上200μm以下であることがより好ましい。Rzが80μm以上であれば、触感に優れるフィルムを得ることができる。Rzが200μm以下であればA層における粒子の脱落を低減することができる。Rskは1.20以上4.00以下であることが好ましく、1.70以上4.00以下であることがより好ましい。Rskが1.00以上であれば、触感に優れるフィルムを得ることができる。Rskが4.00以下であればA層における粒子の脱落を低減することができる。
【0030】
ここでいう触感とは積層フィルムのA層側に触れたときの触感をいい、これはA層の摩擦係数を指標に評価することができる。より具体的には、A層の摩擦係数が小さいほど触れたときのべたつき感が少なく、触感が優れていることを意味する。なお、A層の摩擦係数は、公知の粗さ/摩擦感テスター(例えば、KES-SESRU、カトーテック株式会社製)で測定することができ、当該装置を用いたときの測定条件は実施例に示すとおりである。
【0031】
A層表面におけるRzおよびRskは、粒子の平均粒径や粒子の添加量、A層形成用組成物の塗工量で調整することができる。具体的には粒子の平均粒径を大きくしたり、粒子の添加量を増やしたり、A層形成用組成物の塗工量を少なくすることでRzおよびRskを大きくすることができる。また、粒子の平均粒径を小さくしたり、粒子の添加量を減らしたり、A層形成用組成物の塗工量を多くすることでRzおよびRskを小さくすることができる。
【0032】
RzおよびRskは以下の手順により測定することができる。先ず、A層の表面をレーザー顕微鏡でA層表面に凸部を形成する粒子であって、凝集していないものが3個以上10個以下画面内に写る倍率で観察する。次いでレーザー顕微鏡の計測機能を用いて撮影画像の表面粗さを求める。表面粗さは、カットオフ無しとしたときのJIS B0601:2001に準拠した計算式を使用してRzとRskを算出する。
【0033】
A層は、本発明の効果を損なわない範囲で前述した成分以外の成分を含有してもよい。このような成分としては、例えば、滑剤、酸化防止剤、紫外線安定化剤、艶消し剤、抗菌剤、消臭剤、耐候剤、抗酸化剤、イオン交換剤、着色顔料、および染料等が挙げられる。
【0034】
本発明の積層フィルムにおけるB層は、特に限定されないが、ポリエステル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、及びポリスチレン系樹脂等の熱可塑性樹脂を主成分とすることが好ましい。ここで、「主成分」とは、層を構成する樹脂成分全体を100質量%としたときに、層中に50質量%より多く100質量%以下含まれる成分をいう。
【0035】
ポリエステル系樹脂とは、ジカルボン酸成分骨格とジオール成分骨格との重縮合体であるホモポリエステルや共重合ポリエステルをいう。ここで、ホモポリエステルとしては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン-2,6-ナフタレート、ポリ-1,4-シクロヘキサンジメチレンテレフタレート、ポリエチレンジフェニルレートなどが挙げられる。共重合ポリエステルとは、次に挙げるジカルボン酸骨格を有する成分とグリコール骨格を有する成分とより選ばれる少なくとも2つ以上の成分からなる重縮合体のことをいう。
【0036】
ジカルボン酸骨格を有する成分としては、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸、ダイマー酸、シクロヘキサンジカルボン酸とそれらのエステル誘導体などが挙げられる。
【0037】
グリコール骨格を有する成分としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタジオール、ジエチレングリコール、ポリアルキレングリコール、2,2-ビス(4’-β-ヒドロキシエトキシフェニル)プロパン、イソソルベート、1,4-シクロヘキサンジメタノール、スピログリコールなどが挙げられる。
【0038】
ポリオレフィン系樹脂とは、エチレン、プロピレンなどのオレフィン類の単独重合体、又は複数のオレフィン類を含む共重合体をいう。オレフィン類の単独重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。オレフィン類を含む共重合体としては、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体などが挙げられる。
【0039】
ポリスチレン系樹脂とはスチレンの単独重合体、又はスチレンを含む共重合体をいう。スチレンの単独重合体としてはポリスチレンが挙げられる。スチレンを含む共重合体としては、アクリルニトロスチレン、アクリロニトリルブダンジエンスチレン等が挙げられる。
【0040】
オレフィン類の単独重合体としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが挙げられる。異種ポリオレフィンとの共重合体としては、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・塩化ビニル共重合体などが挙げられる。中でも、得られるフィルムのヤング率を容易に後述する好ましい範囲とする観点から、本発明のフィルムにおけるB層は、ポリエチレンを主成分とすることが好ましい。また、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリオレフィン系樹脂やその他の樹脂を複数組み合わせて用いてもよい。
【0041】
B層は、その効果を損なわない限り充填剤を含んでもよい。充填剤とは、諸性質を改善するために加えられる物質、あるいは増量、増容、又は製品のコスト低減などを目的として添加する不活性物質をいう。充填剤の種類は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されず、無機の充填剤および/又は有機の充填剤を使用することができる。また、本発明の効果を損なわない限り、充填剤は1種類であっても複数種類を混合したものであってもよい。得られるフィルムのヤング率を容易に後述する好ましい範囲とする観点から、充填剤は無機充填剤であることが好ましく、炭酸カルシウム、炭酸バリウム、炭酸マグネシウムなどの金属炭酸塩、硫酸バリウム、硫酸カルシウムなどの金属硫酸塩、酸化チタン、酸化亜鉛等の金属酸化物、酸化ケイ素(シリカ)、アルミノシリケート、マイカ、タルク、カオリン、クレー、およびモンモリロナイト等の複合酸化物のうち少なくとも1種類を用いることがより好ましく、汎用性やコストの観点から、炭酸カルシウムを単独で又は他の充填剤と組み合わせて用いることがさらに好ましい。
【0042】
B層における充填剤の含有量は、本発明の効果を損なわない限り特に限定されないが、得られるフィルムのヤング率を容易に後述する好ましい範囲とする観点から、B層の樹脂成分全体を100質量部としたときに、5質量部以上200質量部以下であることが好ましく、10質量部以上150質量部以下であることがより好ましい。また、B層は、本発明の効果を損なわない範囲で前述した成分以外の成分を含有してもよい。このような成分としては、例えば、滑剤、酸化防止剤、紫外線安定化剤、艶消し剤、抗菌剤、消臭剤、耐候剤、抗酸化剤、イオン交換剤、着色顔料、および染料等が挙げられる。
【0043】
本発明の積層フィルムは、機械特性を維持し、布等に密着させた際の布等に対する追従性を確保するために、ヤング率の最大値が50MPa以上2000MPa以下であることが好ましい。積層フィルムのヤング率の最大値を50MPa以上とすることにより、フィルムとしての機械特性が確保されるためハンドリング性が向上する。一方、積層フィルムのヤング率の最大値を2000MPa以下とすることにより、布等に対する追従性が向上する。上記観点から、ヤング率の最大値のより好ましい範囲は、50MPa以上500MPaである。
【0044】
積層フィルムのヤング率の最大値を調整する方法としては、本発明の効果を損なわない限り特に制限はないが、基材層の組成を変更する方法が挙げられる。より具体的には、基材層の成分に柔軟性の低い樹脂を用いることや、その比率を高めることによって、ヤング率の最大値を高くすることができる。
【0045】
積層フィルムのヤング率の最大値の測定方法について、ヤング率の測定方向を示す模式図である図1を用いて説明する。先ず、積層フィルム1より100mm(幅方向)×10mm(長手方向)サイズの長方形状の測定サンプルを用意し、引張り強度200mm/分、温度23℃、湿度65%RHの条件で、ASTM-D882:1990に準拠して幅方向(図1における2-2’)のヤング率を測定する。同様の測定を5回繰り返し、得られた値の平均値を幅方向のヤング率とする。続いて、幅方向からフィルム面内で時計回りに15°回転させた方向(図1における3-3’)が測定方向となるように同様に試料を切り出して同様に測定を行う。以後、図1に記載のように時計回りに15°ずつ測定方向をずらし(図1における4-4’→8-8’(長手方向))、同様にヤング率を測定する。こうして得られた7方向のヤング率の値を比較し、最も大きい値をフィルムのヤング率の最大値とする。なお、幅方向や長手方向を特定できない場合においては、最初の測定方向を任意に定め、同様の手順によりフィルムのヤング率の最大値を決定することができる。
【0046】
本発明の積層フィルムの構成について、図2,3の構成(2種2層構成)を例に挙げて説明するが、発明の積層フィルムの層構成はその効果を損なわない限りこれに限定されるものではない。図2は本発明の一実施態様に係る積層フィルムをA層側から観察したときの拡大上面図であり、図3図2の積層フィルムのI-I’断面図である。本発明の積層フィルム1はA層9とB層10の2種2層構成であり、A層9は粒子と樹脂12で構成されている。A層における粒子には、A層中に含まれる粒子11とA層から突出した粒子13がある。すなわち、粒子は全部がA層9に埋没していてもよく、一部がA層9の表面に露出していてもよい。A層9の表面にはA層中に含まれる粒子11とA層から突出した粒子13によって凸部14が形成されている。
【0047】
本発明の積層フィルムを製造する方法としてはB層に相当するシートにTダイ等を用いてA層を得るための組成物を押出してA層を形成させる方法、公知の溶媒等で溶液化したA層を得るための組成物をB層に塗布して乾燥する方法(以下、コーティング法ということがある。)、B層に相当するシートとA層を得るためのシートを個別に製膜してから熱ラミネートする方法等が挙げられる。積層フィルムのA層に所望の表面粗さが容易に得られるためコーティング法が好ましい。
【0048】
コーティング法としては、具体的には次のような方法を用いることができる。先ず、A層を得るための組成物を得るために、粒子以外のA層を得るための成分を公知の溶媒(例えば、トルエン、メチルエチルケトン(MEK)等)で溶解した後、粒子を加える。次に、B層上に粒子を含む当該溶液を塗布し、オーブンで溶媒を乾燥除去することでA層を形成する。溶液の塗布方式は特に限定されないが、例えば、バーコート方式、コンマコート方式、スリットダイコート方式、及びグラビアコート方式等を好適に用いることができる。
【実施例
【0049】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0050】
[測定および評価方法]
実施例中に示す測定や評価は次に示す条件で行った。
【0051】
(1)A層のRzおよびRsk
積層フィルムのA層側をレーザー顕微鏡(VK-X100、キーエンス社製)で20倍の倍率で観察し、観察画像を得た。得られた観察画像について付属の解析アプリケーションを使用して表面粗さを求める。具体的には、観察画像の全面を評価領域と指定し、カットオフなしでJIS B0601:2001に準拠した計算式を使用してRzおよびRskを算出した。観察位置を変えて同様の測定を10回行い、得られた10個の表面粗さより求めた平均値をA層のRzおよびRskとする。
【0052】
(2)A層中の粒子の平均粒径
レーザー顕微鏡(VK-X100、キーエンス社製)を用いて、A層表面に高さ5μm以上の凸形状を形成している粒子であって、凝集していないものが3個以上10個以下画面内に入る倍率でA層表面を観察し、観察画像を得た。得られた観察画像について、A層中の凝集していない粒子を完全に囲みかつ面積が最も小さくなるように正方形又は長方形を描いて、正方形の場合は1辺の長さ、長方形の場合は長辺と短辺の長さの平均値を該粒子の粒子径とした。測定は得られた観察画像に写るすべての凝集していない粒子に対して行い、最大および最小の粒子径を除いた平均値を求めた。さらに、測定場所を変えて同様の測定を9回行い、得られた10個の値の平均値をA層中の粒子の平均粒径(μm)とした。このとき、高さ5μm以上の凸形状を形成している粒子か否かの選別は、レーザー顕微鏡の機能を用いて行った。
【0053】
(3)A層の質量およびA層中の粒子量
積層フィルムを10cm×10cmにカットして質量を測定し、さらにカットした積層フィルムをトルエンに30分以上浸漬させて取り出した後、乾燥させた後のフィルムの質量を測定した。次いで、トルエン浸漬前後の質量の差を求め、これをA層の質量とした。さらに、トルエン液中の粒子を取り出して乾燥後の粒子の質量を測定し、(粒子の質量)/(A層の質量)の値を求め、これをA層中の粒子量とした。
【0054】
(4)ヤング率の最大値
100mm(幅方向)×10mm(長手方向)の長方形状の積層フィルムサンプルを用意し、オリエンテック社製引張試験機(“テンシロン”(登録商標)タイプ)を用いて、引張り強度200mm/分、温度23℃、湿度65%RHの条件で、ASTM-D882:1990に準拠して幅方向(図1における2-2’)のヤング率を測定した。同様の測定を5回繰り返し、得られた値の平均値を幅方向のヤング率とした。続いて、幅方向からフィルム面内で時計回りに15°回転させた方向が測定方向となるように同様に試料を切り出して同様に測定を行った。以後、図1に記載のように時計回りに15°ずつ測定方向をずらし(図1における4-4’→8-8’(長手方向))、同様にヤング率を測定した。こうして得られた7方向のヤング率の値の最大値を当該積層フィルムのヤング率の最大値(MPa)とした。
【0055】
(5)B層の厚み
ミクロトームを用いてナイフ傾斜角度3°で厚み方向と平行に積層フィルムを切断した。次いで、走査型電子顕微鏡を用いてB層の断面を観察し、粒子が存在しない箇所において顕微鏡の測長機能によりB層の厚みを測定した。その後、サンプリング位置を変えて同様の測定を9回行い、得られた合計10箇所におけるB層の厚みの平均値を、積層フィルムのB層の厚み(μm)とした。
【0056】
(6)布に対する剥離強度
10mm(幅方向)×100mm(長手方向)の長方形状の積層フィルムサンプルを取得し、粘着性樹脂の含有量が多い層(A層)を下側にして、当該積層フィルムサンプルをJIS L 0803:2011に準拠したポリエステル製の白布(以下、単に布ということがある。)上に置いて、1kg荷重のラミネートローラーを1往復させて両者を密着させた。その後、引張速度300mm/分で短辺側からフィルムサンプルを剥がし、JIS Z 0237:2009に規定する方法で布に対する剥離強度を測定した。同様の測定を5回行い、得られた値の平均値を布に対するA層の剥離強度(N/cm)とした。なお、通常、A層を決定するには、両面の布に対する剥離強度を測定し、両者の差が0.05N/cm以上であることを確認した上で、布に対する剥離強度が相対的に大きい面側の最外層をA層と定める手順が必要であるが、本実施例および比較例においては、層組成から粘着性樹脂の含有量が多い層がA層に該当することが明らかであるため、当該手順は省略した。
【0057】
(8)A層の摩擦係数
フィルムを50mm(幅方向)×150mm(長手方向)の正方形サイズにカットして測定サンプルとした。粗さ/摩擦感テスター(KES-SESRU、カトーテック株式会社製)で以下の条件で摩擦係数を測定した。測定位置を変えて5回測定し、平均値をA層の摩擦係数とした。
<測定条件>
摩擦端子タイプ:指紋タイプ
摩擦端子荷重:25gf
速度:5mm/sec。
【0058】
[A層の粘着層樹脂]
(A1)粘着層溶液(トルエンとスチレン-イソプレン-スチレン共重合体および粘着性樹脂(石油樹脂、テルペン樹脂、テルペンフェノール樹脂)の混合体、GR-1025M-1、ビックテクノス株式会社製)
(A2)粘着層溶液(トルエンとスチレン-イソプレン-スチレン共重合体および粘着性樹脂(テルペン樹脂、ロジン系樹脂、フェノール樹脂)の混合体、GR-1045M-1、ビックテクノス株式会社製)
[A層の希釈溶媒]
(B1) 酢酸エチル
[A層の粒子]
(C1)ポリエチレン粒子(XM-330、平均粒径65μm、三井化学株式会社製)
(C2)ポリエチレン粒子(XM-220、平均粒径30μm、三井化学株式会社製)
[A層の着色顔料]
(D1)酸化チタン(R-101、デュポン社製)
[B層]
(PET)ポリエステルフィルム(4F56、東レ株式会社製)
(PE)ポリエチレンフィルム(PFL-10A、東洋平成ポリマー株式会社製)。
【0059】
(実施例1)
粘着層樹脂、希釈溶媒、粒子および着色顔料を表1に示す配合で混合し、A層を形成するための溶液を得た。次いで、積層フィルムとしたときの1mあたりのA層の質量(以下、表も含めて単に「A層の質量」という。)が10g/mとなるように、バーコーターで当該溶液をB層のフィルム上に塗布し、80℃で1分間乾燥させて積層フィルムを得た。得られた積層フィルムの物性および評価結果を表1に示す。
【0060】
(実施例2~9、比較例1~3)
A層を形成するための溶液の組成およびB層を表1に記載の通りとしたこと以外は実施例1と同様にして積層フィルムを得た。得られたフィルムの物性および評価結果を表1に示す。
【0061】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明により、フィルムとして用いるために必要な機械特性を備え、布等に対する密着性および触感に優れ、かつ、保管や使用において粒子の脱落や埋没が起きにくい積層フィルムを提供することができる。本発明の積層フィルムは、布等に対する密着性およびハンドリング性を必要とする用途、例えば、ベッド用シーツ、枕カバー、衛生ナプキンや紙おむつなどの吸収性物品のバックシートといった医療・衛生材料等に好ましく用いることができる。
【符号の説明】
【0063】
1:積層フィルム
2-2’:幅方向
3-3’:フィルム面内で幅方向に対して時計回りに15°回転した方向
4-4’:フィルム面内で3-3’に対して時計回りに15°回転した方向
5-5’:フィルム面内で4-4’に対して時計回りに15°回転した方向
6-6’:フィルム面内で5-5’に対して時計回りに15°回転した方向
7-7’:フィルム面内で6-6’に対して時計回りに15°回転した方向
8-8’:長手方向
9:A層
10:B層
11:A層中に含まれる粒子
12:樹脂
13:A層から突出した粒子
14:凸部
図1
図2
図3