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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】不整地走行用タイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20250527BHJP
【FI】
B60C11/03 300E
B60C11/03 300D
B60C11/03 E
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021084804
(22)【出願日】2021-05-19
(65)【公開番号】P2022178198
(43)【公開日】2022-12-02
【審査請求日】2024-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(74)【代理人】
【識別番号】100206586
【弁理士】
【氏名又は名称】市田 哲
(72)【発明者】
【氏名】小堀 秀慈
【審査官】菅 和幸
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-078427(JP,A)
【文献】特開2020-111262(JP,A)
【文献】特開2020-111265(JP,A)
【文献】特開2018-154241(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0375569(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
トレッド部を有する不整地走行用タイヤであって、
前記トレッド部は、タイヤ回転方向が指定されており、
前記トレッド部には、クラウンブロックと、前記クラウンブロックよりもタイヤ軸方向の外側に位置するミドルブロックと、前記クラウンブロックと前記ミドルブロックとの間に位置する溝部とが設けられており、
前記クラウンブロックは、
踏面と、
タイヤ回転方向の先着側に位置する第1壁面と、
前記踏面と前記第1壁面との交差部の第1エッジとを含み、
前記第1壁面は、前記踏面からタイヤ半径方向の内側に向かって前記タイヤ回転方向の後着側へ傾斜しており、
前記溝部のタイヤ軸方向の長さは、前記ミドルブロックのタイヤ軸方向の長さの5%~70%であり、
前記クラウンブロックの前記踏面は、最もタイヤ回転方向の先着側に位置する第1点と、タイヤ赤道上で最もタイヤ回転方向の先着側に位置する第2点と、タイヤ赤道上で最もタイヤ回転方向の後着側に位置する第3点とを有し、
前記トレッド部の平面視、前記ミドルブロックの少なくとも一部は、前記第1点と前記第2点とを通る第1仮想直線と、前記第1仮想直線を前記第3点上に平行移動させた第2仮想直線との間に位置し、
前記第1仮想直線のタイヤ周方向に対する角度は、45~89度であり、
前記ミドルブロックは、前記第1仮想直線と前記第2仮想直線との間に、前記ミドルブロックの踏面の面積の70%以上が位置する、
不整地走行用タイヤ。
【請求項2】
前記クラウンブロックは、
前記タイヤ回転方向の後着側に位置する第2壁面と、
前記踏面と前記第2壁面との交差部の第2エッジとを含み、
前記第2壁面は、前記踏面からタイヤ半径方向の内側に向かって前記タイヤ回転方向の後着側へ傾斜している、請求項1に記載の不整地走行用タイヤ。
【請求項3】
前記第1壁面及び前記第2壁面は、それぞれ、前記第1エッジ及び前記第2エッジから前記クラウンブロックのブロック高さの50%までの第1壁面外側部及び第2壁面外側部を含み、
前記第1壁面外側部の前記第1エッジを通る前記踏面の法線に対する角度αは、前記第2壁面外側部の前記第2エッジを通る前記踏面の法線に対する角度βよりも小さい、請求項2に記載の不整地走行用タイヤ。
【請求項4】
前記角度αは、45度以下である、請求項3に記載の不整地走行用タイヤ。
【請求項5】
前記角度βは、5~70度である、請求項3又は4に記載の不整地走行用タイヤ。
【請求項6】
前記第2壁面外側部は、前記第2エッジからタイヤ半径方向の内側に向かって延びる第1部分と、前記第1部分よりもタイヤ半径方向の内側に位置して前記第1部分よりも緩やかに傾斜する第2部分とを含む、請求項3ないし5のいずれか1項に記載の不整地走行用タイヤ。
【請求項7】
前記第1仮想直線のタイヤ周方向に対する角度は、45~80度である、請求項1ないし6のいずれか1項に記載の不整地走行用タイヤ。
【請求項8】
前記第1仮想直線のタイヤ周方向に対する角度は、45~75度である、請求項1ないし7のいずれか1項に記載の不整地走行用タイヤ。
【請求項9】
前記クラウンブロックは、タイヤ赤道に跨っている、請求項1ないし8のいずれか1項に記載の不整地走行用タイヤ。
【請求項10】
前記クラウンブロックは、タイヤ赤道からタイヤ軸方向の両側に向かってタイヤ回転方向の先着側に延びている、請求項1ないし9のいずれか1項に記載の不整地走行用タイヤ。
【請求項11】
トレッド部を有する不整地走行用タイヤであって、
前記トレッド部は、タイヤ回転方向が指定されており、
前記トレッド部には、クラウンブロックと、前記クラウンブロックよりもタイヤ軸方向の外側に位置するミドルブロックと、前記クラウンブロックと前記ミドルブロックとの間に位置する溝部とが設けられており、
前記クラウンブロックは、
踏面と、
タイヤ回転方向の先着側に位置する第1壁面と、
前記踏面と前記第1壁面との交差部の第1エッジとを含み、
前記第1壁面は、前記踏面からタイヤ半径方向の内側に向かって前記タイヤ回転方向の後着側へ傾斜しており、
前記溝部のタイヤ軸方向の長さは、前記ミドルブロックのタイヤ軸方向の長さの5%~70%であり、
前記クラウンブロックの前記踏面は、最もタイヤ回転方向の先着側に位置する第1点と、タイヤ赤道上で最もタイヤ回転方向の先着側に位置する第2点と、タイヤ赤道上で最もタイヤ回転方向の後着側に位置する第3点とを有し、
前記トレッド部の平面視、前記ミドルブロックの少なくとも一部は、前記第1点と前記第2点とを通る第1仮想直線と、前記第1仮想直線を前記第3点上に平行移動させた第2仮想直線との間に位置し、
前記第1仮想直線のタイヤ周方向に対する角度は、45~89度であり、
前記ミドルブロックは、前記第1仮想直線と前記第2仮想直線との間に、前記ミドルブロックの踏面の面積の70%以上が位置し、
前記ミドルブロックは、タイヤ軸方向の外側に向かってタイヤ回転方向の先着側へ傾斜しているミドル主部と、前記ミドル主部からタイヤ回転方向の後着側に延びるミドル突出部とを含み、
前記ミドル突出部の全ては、前記第2仮想直線よりもタイヤ回転方向の後着側に位置している、
不整地走行用タイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不整地走行用タイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、トレッド部に複数のブロックが設けられた空気入りタイヤが記載されている。前記ブロックは、先着側のブロック壁面及び後着側のブロック壁面が、それぞれ、先着縁および後着縁をともに各ブロック壁面根本部よりも先着側に進める向きに傾けられた傾斜ブロックで形成されている。このような傾斜ブロックは、高い路面掘り起こし能力を有し、優れた不整地での走破性を発揮するとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3384716号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、近年、不整地でのトラクション性能及び操縦安定性能をさらに向上させることが求められている。
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、不整地でのトラクション性能及び操縦安定性能を向上させた不整地走行用タイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、トレッド部を有する不整地走行用タイヤであって、前記トレッド部は、タイヤ回転方向が指定されており、 前記トレッド部には、クラウンブロックと、前記クラウンブロックよりもタイヤ軸方向の外側に位置するミドルブロックと、前記クラウンブロックと前記ミドルブロックとの間に位置する溝部とが設けられており、前記クラウンブロックは、踏面と、タイヤ回転方向の先着側に位置する第1壁面と、前記踏面と前記第1壁面との交差部の第1エッジとを含み、前記第1壁面は、前記踏面からタイヤ半径方向の内側に向かって前記タイヤ回転方向の後着側へ傾斜しており、前記溝部のタイヤ軸方向の長さは、前記ミドルブロックのタイヤ軸方向の長さの5%~70%である。
【0007】
本発明に係る不整地走行用タイヤは、前記クラウンブロックが、前記タイヤ回転方向の後着側に位置する第2壁面と、前記踏面と前記第2壁面との交差部の第2エッジとを含み、前記第2壁面は、前記踏面からタイヤ半径方向の内側に向かって前記タイヤ回転方向の後着側へ傾斜している、のが望ましい。
【0008】
本発明に係る不整地走行用タイヤは、前記第1壁面及び前記第2壁面が、それぞれ、前記第1エッジ及び前記第2エッジから前記クラウンブロックのブロック高さの50%までの第1壁面外側部及び第2壁面外側部を含み、前記第1壁面外側部の前記第1エッジを通る前記踏面の法線に対する角度αは、前記第2壁面外側部の前記第2エッジを通る前記踏面の法線に対する角度βよりも小さい、のが望ましい。
【0009】
本発明に係る不整地走行用タイヤは、前記角度αが、45度以下である、のが望ましい。
【0010】
本発明に係る不整地走行用タイヤは、前記角度βが、5~70度である、のが望ましい。
【0011】
本発明に係る不整地走行用タイヤは、前記第2壁面外側部が、前記第2エッジからタイヤ半径方向の内側に向かって延びる第1部分と、前記第1部分よりもタイヤ半径方向の内側に位置して前記第1部分よりも緩やかに傾斜する第2部分とを含む、のが望ましい。
【0012】
本発明に係る不整地走行用タイヤは、前記クラウンブロックの前記踏面が、最もタイヤ回転方向の先着側に位置する第1点と、タイヤ赤道上で最もタイヤ回転方向の先着側に位置する第2点と、タイヤ赤道上で最もタイヤ回転方向の後着側に位置する第3点とを有し、前記トレッド部の平面視、前記ミドルブロックの少なくとも一部は、前記第1点と前記第2点とを通る第1仮想直線と、前記第1仮想直線を前記第3点上に平行移動させた第2仮想直線との間に位置する、のが望ましい。
【0013】
本発明に係る不整地走行用タイヤは、前記第1仮想直線のタイヤ周方向に対する角度が、45~89度である、のが望ましい。
【0014】
本発明に係る不整地走行用タイヤは、前記クラウンブロックが、タイヤ赤道に跨っている、のが望ましい。
【0015】
本発明に係る不整地走行用タイヤは、前記クラウンブロックが、タイヤ赤道からタイヤ軸方向の両側に向かってタイヤ回転方向の先着側に延びている、のが望ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の不整地走行用タイヤは、上記の構成を採用することで、不整地でのトラクション性能及び操縦安定性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態を示す不整地走行用タイヤのタイヤ子午線断面図である。
図2図1のトレッド部の展開平面図である。
図3図2のA-A線断面図である。
図4図2のクラウンブロックの拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本発明の一実施形態を示す不整地走行用タイヤ(以下、単に「タイヤ」ということがある。)1の正規状態におけるタイヤ回転軸(図示省略)を含むタイヤ子午線断面図である。図2は、タイヤ1のトレッド部2の展開図である。図1及び図2に示されるように、本実施形態のタイヤ1は、自動二輪車用のタイヤである。
【0019】
前記「正規状態」とは、タイヤ1を正規リム(図示省略)にリム組みし、かつ、正規内圧を充填した無負荷の状態である。以下、特に言及されない場合、タイヤの各部の寸法等はこの正規状態で測定された値である。
【0020】
「正規リム」は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えばJATMAであれば "標準リム" 、TRAであれば "Design Rim" 、ETRTOであれば "Measuring Rim" である。
【0021】
「正規内圧」は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば "最高空気圧" 、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "INFLATION PRESSURE" である。
【0022】
本実施形態のタイヤ1のトレッド部2は、前記断面において、その外面がタイヤ半径方向外側に凸の円弧状に湾曲している。また、タイヤ1のトレッド部2は、タイヤ回転方向Rが指定された方向性パターンを具えている。
【0023】
本実施形態のトレッド部2には、クラウンブロック5と、クラウンブロック5よりもタイヤ軸方向の外側に位置するミドルブロック6と、クラウンブロック5とミドルブロック6との間に位置する溝部(本明細書では、「ミドル溝部」という場合がある。)7とが設けられている。
【0024】
図3は、図2のA-A線断面図である。A-A線は、タイヤ周方向に沿って延びている。図2及び図3に示されるように、本実施形態のクラウンブロック5は、踏面10と、タイヤ回転方向Rの先着側に位置する第1壁面11と、踏面10と第1壁面11との交差部の第1エッジ12とを含んでいる。踏面10は、正規状態のタイヤ1に正規荷重を負荷して走行させたときに、平面と接地する領域である。
【0025】
前記「正規荷重」は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば"最大負荷能力"、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば "LOAD CAPACITY"である。
【0026】
第1壁面11は、踏面10からタイヤ半径方向の内側に向かってタイヤ回転方向Rの後着側へ傾斜している。このような第1壁面11を有するクラウンブロック5は、泥土で覆われた不整地路面を掘り起こし、高いトラクションを発生させる。
【0027】
溝部7のタイヤ軸方向の長さLaは、ミドルブロック6のタイヤ軸方向の長さLmの5%~70%である。溝部7の長さLaが、ミドルブロック6の長さLmの70%以下であるので、掘り起こされた泥土の溝部7からの排出(逃げ)を一定範囲に制限し、それを押し固めてせん断することができるので、より大きなトラクションが発生する。溝部7の長さLaが、ミドルブロック6の長さLmの5%以上であるので、接地後の溝部7への継続的な泥詰まりが抑制される。これにより、旋回時等において、クラウンブロック5やミドルブロック6の溝部7側のエッジ5e、6eを有効に活用することができ、優れた操縦安定性が発揮される。
【0028】
上述の作用を効果的に発揮させるために、溝部7の長さLaは、ミドルブロック6の長さLmの20%以上が望ましく、30%以上がより望ましく、60%以下が望ましく、50%以下がより望ましい。
【0029】
本実施形態のトレッド部2には、ミドルブロック6のタイヤ軸方向の外側に位置するショルダーブロック8と、ショルダーブロック8とミドルブロック6との間に位置する溝部9とが設けられている。ショルダーブロック8は、例えば、その最もタイヤ軸方向外側に位置する外側エッジ8eを含んでいる。外側エッジ8eは、タイヤ周方向に延びるトレッド端Teを形成している。
【0030】
トレッド部2は、本実施形態では、タイヤ赤道Cを中心線とする線対称パターンで形成されている。クラウンブロック5は、例えば、タイヤ赤道Cに跨っている。ミドルブロック6及びショルダーブロック8は、例えば、それぞれ、クラウンブロック5のタイヤ軸方向の両側に設けられている。また、各ブロック5、6、8は、本実施形態では、それぞれ、タイヤ周方向に同じピッチで並べられている。
【0031】
図3に示されるように、クラウンブロック5は、例えば、タイヤ回転方向Rの後着側に位置する第2壁面13と、踏面10と第2壁面13との交差部の第2エッジ14とを含んでいる。
【0032】
第2壁面13は、本実施形態では、踏面10からタイヤ半径方向の内側に向かってタイヤ回転方向Rの後着側へ傾斜している。このような第2壁面13は、クラウンブロック5の剛性を高めて、走行時、クラウンブロック5が撚れるのを抑制する。これにより、泥土の掘り起こし効果が向上する。
【0033】
第1壁面11及び第2壁面13は、それぞれ、第1エッジ12及び第2エッジ14からクラウンブロック5のブロック高さH1の50%までの第1壁面外側部16及び第2壁面外側部19を含んでいる。そして、第1壁面外側部16の第1エッジ12を通る踏面10の法線10aに対する角度αは、第2壁面外側部19の第2エッジ14を通る踏面10の法線10bに対する角度βよりも小さく形成されている。角度αが角度βよりも小さいので、走行時のクラウンブロック5の撚れが大きく抑制されて、さらに効果的に泥土を掘り起こすことができる。角度βは、第2壁面外側部19が、例えば、円弧状や段差状に延びている場合、換言すると、直線状に延びていない場合、第2壁面外側部19のタイヤ半径方向の内端19iと第2エッジ14とを通る仮想直線19xと法線10bとの間の角度で特定される。角度αは、角度βと同様に特定される。
【0034】
上述の作用を効果的に発揮させるために、角度αは、0度を超えればよいが、5度以上が望ましく、15度以上がさらに望ましい。また、角度αが過度に大きいと、クラウンブロック5のタイヤ半径方向の内側部分の剛性が低下して、ブロック欠けやクラックなどが生じるおそれが高まる。このため、角度αは、45度以下が望ましく、35度以下がさらに望ましい。
【0035】
クラウンブロック5の剛性を高めるために、角度βは、5度以上が望ましく、20度以上がより望ましい。角度βが過度に大きいと、タイヤ周方向に並ぶクラウンブロック5、5間の距離が大きくなり、泥土の掘り起こしの頻度が小さくなり、トラクション性能が低下するおそれがある。このため、角度βは、70度以下が望ましく、60度以下がより望ましい。
【0036】
上述の作用を効果的に発揮させるために、角度βと角度αとの差(β-α)は、5度以上が望ましく、10度以上がより望ましく、50度以下が望ましく、40度以下がより望ましい。
【0037】
第1壁面外側部16は、例えば、第1エッジ12から直線状に延びている。なお、第1壁面外側部16は、このような態様に限定されるものではなく、例えば、クラウンブロック5よりもタイヤ回転方向Rの後着側に凹の円弧状に形成されてもよい。
【0038】
第2壁面外側部19は、本実施形態では、第2エッジ14からタイヤ半径方向の内側に向かって延びる第1部分21と、第1部分21よりもタイヤ半径方向の内側に位置しかつ第1部分21よりも緩やかに傾斜する第2部分22とを含んでいる。第1部分21は、とりわけ大きな力が作用するクラウンブロック5の踏面10側の部分の剛性を高めて、トラクション性能を高めるのに役立つ。第1部分21は、本実施形態では、直線状に延びている。第1部分21及び第2部分22は、例えば、タイヤ半径方向の内側に向かってタイヤ回転方向Rの後着側へ傾斜している。第1部分21と第2部分22とは、本実施形態では、タイヤ回転方向Rの先着側に凸の円弧部23を介して繋がっている。
【0039】
第1壁面11は、第1壁面外側部16に連なりかつ第1壁面外側部16のタイヤ半径方向の内側に位置する第1壁面内側部17を含んでいる。第2壁面13は、第2壁面外側部19に連なりかつ第2壁面外側部19のタイヤ半径方向の内側に位置する第2壁面内側部20を含んでいる。第1壁面内側部17は、例えば、クラウンブロック5のタイヤ回転方向Rの後着側に凹の円弧状に形成されている。第2壁面内側部20は、例えば、クラウンブロック5のタイヤ回転方向Rの先着側に凸の円弧状に形成されている。第2壁面内側部20は、本実施形態では、第1壁面内側部17よりも大きな曲率半径の円弧で形成されている。第1壁面内側部17及び第2壁面内側部20は、このような態様に限定されるものではない。
【0040】
図4は、クラウンブロック5及びミドルブロック6の拡大図である。図4に示されるように、クラウンブロック5は、本実施形態では、タイヤ赤道Cからタイヤ軸方向の両側に向かってタイヤ回転方向Rの先着側に延びている。このようなクラウンブロック5は、掘り起こした泥土をクラウンブロック5のタイヤ軸方向の中央側に寄せ集めて、これを押し固めるのに役立つ。
【0041】
クラウンブロック5の踏面10は、最もタイヤ回転方向Rの先着側に位置する第1点25と、タイヤ赤道C上で最もタイヤ回転方向Rの先着側に位置する第2点26と、タイヤ赤道C上で最もタイヤ回転方向Rの後着側に位置する第3点27とを有している。そして、トレッド部2の平面視、ミドルブロック6の少なくとも一部は、第1点25と第2点26とを通る第1仮想直線M1と、第1仮想直線M1を第3点27上に平行移動させた第2仮想直線M2との間に位置する。これにより、クラウンブロック5が掘り起こした泥土が溝部7等から排出されることを、ミドルブロック6が抑制するので、さらに、トラクション性能を高める。このような作用を効果的に発揮させるために、ミドルブロック6は、第1仮想直線M1と第2仮想直線M2との間に、その踏面6aの面積Amの70%以上が位置するのが望ましく、面積Amの80%以上が位置するのが望ましい。
【0042】
第1仮想直線M1のタイヤ周方向に対する角度θ1は、45~89度であるのが望ましい。角度θ1が45度以上であるので、泥土に対して大きなせん断力が発揮される。角度θ1が89度以下であるので、クラウンブロック5で掘り起こした泥土が、クラウンブロック5のタイヤ軸方向の外側へ逃げ出すことが抑制される。このような観点より、角度θ1は、60度以上がさらに望ましく、65度以上が一層望ましく、80度以下がさらに望ましく、75度以下が一層望ましい。
【0043】
クラウンブロック5は、本実施形態では、第2エッジ14を跨ってタイヤ周方向に延びるクラウン突出部30を含んでいる。クラウンブロック5は、例えば、クラウン突出部30と、タイヤ赤道Cを跨るように形成されるクラウン主部31とを含んでいる。クラウン突出部30は、タイヤ赤道Cの両側に設けられている。このようなクラウン突出部30は、例えば、接地時、クラウンブロック5がタイヤ回転方向Rの後着側へ撚れることを、一層抑制する。
【0044】
トレッド平面視、クラウン突出部30は、タイヤ周方向の長さLbがタイヤ軸方向の長さLeよりも大きな四角形状を有している。このようなクラウン突出部30は、上述の作用を効果的に高める。クラウン突出部30は、本実施形態では、平行四辺形状で形成されている。クラウン突出部30は、例えば、矩形状であってもよい。クラウン突出部30は、例えば、そのタイヤ半径方向の外面30aがタイヤ赤道Cとクラウンブロック5の第1点25との間に位置している。
【0045】
このようなクラウン突出部30のタイヤ周方向の長さLbは、クラウンブロック5のエッジ5eのタイヤ周方向の長さLdの1.0倍以上が望ましく、1.3倍以上がより望ましく、3.0倍以下が望ましく、2.5倍以下がより望ましい。また、クラウン突出部30のタイヤ軸方向の長さLeは、クラウンブロック5のタイヤ軸方向の長さLc(図2に示す)の5%以上が望ましく、7%以上がより望ましく、13%以下が望ましく、11%以下がより望ましい。さらに、クラウン突出部30のタイヤ周方向の長さLbは、タイヤ軸方向の長さLeの2.5倍以上が望ましく、3.0倍以上がさらに望ましく、4.5倍以下が望ましく、4.0倍以下がさらに望ましい。
【0046】
クラウン突出部30のタイヤ半径方向の外面30aは、本実施形態では、そのタイヤ回転方向Rの先着側に配されてタイヤ軸方向に延びる横エッジ33a、及び、そのタイヤ軸方向の両側をタイヤ周方向に延びる一対の縦エッジ33b、33bを含んでいる。クラウン突出部30のタイヤ半径方向の外面30aは、クラウン主部31のタイヤ半径方向の外面31a(踏面10と同じ)に比してタイヤ半径方向の外側又は同じ位置に配されているのが望ましい。このようなクラウン突出部30は、直進及び旋回走行において、横エッジ33a及び一対の縦エッジ33bがトラクション性能を高めるという効果を発揮する。クラウン突出部30とクラウン主部31とは、例えば、クラウン主部31の外面31aよりもタイヤ半径方向の内側に凹んだ凹部32によって区分されている。凹部32は、本実施形態では、トレッド平面視、略U字状又は略C字状のように、クラウン突出部30を挟持する形状に形成されている。
【0047】
クラウン主部31は、本実施形態では、タイヤ赤道Cからタイヤ軸方向の両側に向かってタイヤ回転方向Rの先着側に延びた、V字状に形成されている。
【0048】
クラウンブロック5のタイヤ軸方向の長さLcは、トレッド展開幅TWの20%以上が望ましく、25%以上がより望ましく、40%以下が望ましく、35%以下がより望ましい。また、クラウンブロック5のエッジ5eのタイヤ周方向の長さLdは、クラウンブロック5のタイヤ軸方向の長さLcの15%以上が望ましく、20%以上がより望ましく、35%以下が望ましく、30%以下がより望ましい。トレッド展開幅TWは、トレッド部2を平面に展開したときのトレッド端Te、Te間のタイヤ軸方向の距離である。
【0049】
ミドルブロック6は、例えば、タイヤ軸方向の外側に向かってタイヤ回転方向Rの先着側へ傾斜しているミドル主部35と、ミドル主部35からタイヤ回転方向Rの後着側に延びるミドル突出部36とを含んでいる。
【0050】
ミドル主部35は、例えば、タイヤ周方向の長さが同じである等長さ部35Aと、等長さ部35Aに繋がり、タイヤ軸方向の外側に向かってタイヤ周方向の長さが大きくなる拡長さ部35Bとを含む、L字状に形成されている。前記「長さが同じ」とは、等長さ部35Aのタイヤ周方向の長さの最大値Sと最小値sとの差(S-s)が、最大値Sの10%以内の範囲にある態様をいう。等長さ部35Aは、本実施形態では、第2仮想直線M2よりもタイヤ回転方向Rの先着側に位置している。拡長さ部35Bは、本実施形態では、第2仮想直線M2を跨いでタイヤ周方向の両側に位置している。
【0051】
ミドル突出部36のイヤ半径方向の外面36aは、例えば、ミドル主部35のタイヤ半径方向の外面35a(踏面6aと同じ)に比してタイヤ半径方向の外側又は同じ位置に配されている。このようなミドル突出部36は、直進及び旋回走行において、トラクション性能を高めるという効果を発揮する。
【0052】
特に限定されるものではないが、ミドルブロック6のタイヤ軸方向の長さLmは、トレッド展開幅TWの5%以上が望ましく、10%以上がより望ましく、20%以下が望ましく、15%以下がより望ましい。
【0053】
このようなブロック5、6、8が形成されるトレッドゴム2G(図1に示す)は、その複素弾性率E*が10~40MPaであるのが望ましい。複素弾性率E*は、本明細書では、JIS-K6394の規定に準拠して、次に示される条件で(株)岩本製作所製の粘弾性スペクトロメータを用いて測定した値である。
初期歪:1%
振幅:±2%
周波数:10Hz
変形モード:引張
温度:30℃
【0054】
以上、本発明の特に好ましい形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施しうる。前輪用タイヤは、全て同じトレッドパターンを有している。
【実施例
【0055】
図2の基本パターンを有する不整地走行用の二輪車用の後輪タイヤが、表1の仕様に基づき試作された。そして、各テストタイヤのトラクション性能及び操縦安定性能についてテストが行われた。各テストタイヤの共通仕様やテスト方法は、以下の通りである。
使用車両:排気量450cc モトクロス競技車両
タイヤサイズ(前輪、後輪):80/100-21、 120/80-19
リムサイズ(前輪、後輪):21×1.60、 19×2.15
内圧:80kPa
テスト方法は以下の通りである。
【0056】
<トラクション性能・操縦安定性能>
上記テスト車両で泥土が配された不整地を走行したときのトラクション性能及び操縦安定性能が、テストライダーの官能により評価された。ここで、「トラクション性能」とは、直進走行時及び旋回走行時において加速したときの走行のスムーズさをテストライダーの官能により評価したものである。「操縦安定性能」とは、直進走行時及び旋回走行時におけるハンドル操作を含む走行の安定性をテストライダーの官能により評価したものである。各テストともに、10点を満点とする10点法で示される。
テストの結果が表1に示される。
【0057】
【表1】
【0058】
テストの結果、実施例のタイヤは、比較例のタイヤに比べて、不整地でのトラクション性能及び操縦安定性能が向上していることが理解される。
【0059】
1 不整地走行用タイヤ
2 トレッド部
5 クラウンブロック
6 ミドルブロック
7 溝部
10 踏面
11 第1壁面
La 溝部7の長さ
Lm ミドルブロックの長さ
図1
図2
図3
図4