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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】水洗大便器
(51)【国際特許分類】
   E03D 11/14 20060101AFI20250527BHJP
   E03D 11/02 20060101ALI20250527BHJP
【FI】
E03D11/14
E03D11/02 Z
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2021123351
(22)【出願日】2021-07-28
(65)【公開番号】P2023018950
(43)【公開日】2023-02-09
【審査請求日】2024-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】南 雄大
(72)【発明者】
【氏名】橋本 博
(72)【発明者】
【氏名】吉坂 慶太
【審査官】亀谷 英樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-238048(JP,A)
【文献】特開平07-243235(JP,A)
【文献】特開平10-072860(JP,A)
【文献】実開昭62-003882(JP,U)
【文献】特開平10-273927(JP,A)
【文献】特開2021-071009(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0018055(US,A1)
【文献】特開2000-248667(JP,A)
【文献】特開2014-140579(JP,A)
【文献】特開平11-256662(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E03D 1/00-7/00
E03D 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚物を受けるボウル部と、前記ボウル部の前方領域を覆うスカート部と、前記ボウル部の後方に配設され壁面に対して固定可能なバック面部とを有する便器本体と、
前記ボウル部の汚物を排出可能なように前記ボウル部から後方へ延設され、前記ボウル部の底部と連通するとともに上方へ向かう上昇管と、前記上昇管と連通するとともに下方へ向かう下降管とを有するトラップ管路と、
前記トラップ管路の下方に配設されるとともに、平面板状に形成され、前記トラップ管路と前記上昇管の最下端部と前記バック面部における前記下降管の最下端部よりも低い位置とを連結するよう鉛直方向に配設される幕板と
を備え
前記幕板の下端縁部は、
前記上昇管の最下端部から前記バック面部における前記幕板の接続箇所にかけて形成されるとともに、所定の曲率で連続的に変化し、
前記上昇管の最下端部から前記バック面部における前記幕板との接続箇所にかけて上方へ向けた凸形状であること
を特徴とする水洗大便器。
【請求項2】
前記バック面部の最下端部は、
前記幕板の下端縁部から曲率が連続するように該下端縁部と接続されること
を特徴とする請求項に記載の水洗大便器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の実施形態は、水洗大便器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、トイレ室の壁面に設置される、いわゆる壁掛け式の水洗大便器がある(たとえば、特許文献1参照)。近年、壁掛け式の水洗大便器は、トイレ室の床面の清掃性や便器またはトイレ室の意匠性の観点から、パブリック現場をはじめとして市場が拡大している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2021-55448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、壁掛け式の水洗大便器には、便器本体において、スカート部が、汚物を受けるボウル部の前方領域を覆い、ボウル部の後方領域を開放している(ボウル部の後方領域を覆わない)ものがある。
【0005】
このような壁掛け式の水洗大便器には、スカート部に覆われたボウル部の前方領域に比べて強度が低いボウル部の後方に位置するとともに壁掛け式の水洗大便器において使用者が便座に腰掛ける場合などに生じるモーメントによる応力が集中するトラップ管路下部の強度を向上させる点について、改善の余地があった。
【0006】
また、たとえば、ブローアウト式の水洗大便器では、ボウル部の汚物をゼット吐水口から噴射する強い水流でトラップ管路へ向けて押し出すという構造上、水流の停滞を生まないよう、トラップ管路が寝ている構造となる。すなわち、トラップ管路が前後方向に長く、かつ、上下方向に短いため、必然的に便器が前後方向に長い形状となる。このため、壁掛け式の水洗大便器がブローアウト式の場合には、トラップ管路下部へのモーメントによる応力が大きくなり、トラップ管路下部にかかる負荷の対策がより必要となる。
【0007】
実施形態の一態様は、壁掛け式において負荷がかかりやすいトラップ管路下部の強度を向上させることができる水洗大便器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
実施形態の一態様に係る水洗大便器は、汚物を受けるボウル部と、前記ボウル部の前方領域を覆うスカート部と、前記ボウル部の後方に配設され壁面に対して固定可能なバック面部とを有する便器本体と、前記ボウル部の汚物を排出可能なように前記ボウル部から後方へ延設され、前記ボウル部の底部と連通するとともに上方へ向かう上昇管と、前記上昇管と連通するとともに下方へ向かう下降管とを有するトラップ管路と、前記トラップ管路の下方に配設されるとともに、前記トラップ管路と前記上昇管の最下端部と前記バック面部における前記下降管の最下端部よりも低い位置との間に配設される幕板とを備える。
【0009】
このような構成によれば、スカート部に覆われていないためボウル部の前方領域に比べて強度が低いボウル部の後方に位置するとともに壁掛け式の水洗大便器においてモーメントによる応力が集中するトラップ管路下部を、幕板で補強することができる。この場合、トラップ管路下部の全体を補強するように幕板が配設される。これにより、負荷がかかりやすいトラップ管路下部の強度を向上させることができる。
【0010】
また、上記した水洗大便器では、前記幕板の下端縁部は、前記上昇管の最下端部から前記バック面部にかけて所定の曲率で連続的に変化している。
【0011】
このような構成によれば、幕板の下端縁部が所定の曲率で連続的に変化しているため、幕板においてモーメントによる応力が集中する箇所をなくす(または、減らす)ことができる。これにより、負荷がかかりやすいトラップ管路下部の強度をさらに向上させることができる。
【0012】
また、上記した水洗大便器では、前記幕板の下端縁部は、前記上昇管の最下端部から前記バック面部にかけて上方へ向けた凸形状である。
【0013】
このような構成によれば、幕板の下端縁部が上方へ向けた凸形状であるため、幕板においてモーメントによる応力が集中する箇所をなくしつつ、幕板の面積を抑えることができる。これにより、負荷がかかりやすいトラップ管路下部の強度を向上させることができるとともに、水洗大便器1の軽量化を図ることができ、さらには、意匠性を向上させることもできる。
【0014】
また、上記した水洗大便器では、前記バック面部は、前記幕板の下端縁部から曲率が連続するように該下端縁部と接続される。
【0015】
このような構成によれば、バック面部が幕板の下端縁部から曲率が連続するようにこの下端縁部と接続されるため、幕板の下端縁部とバック面部との接続箇所に応力が集中するのを避けることができる。また、幕板の下端縁部とバック面部との接続箇所における応力の集中を避けることで、前後方向の圧縮応力に対する幕板の薄さをバック面部によって補うような構造となり、幕板自体の強度を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
実施形態の一態様によれば、壁掛け式において負荷がかかりやすいトラップ管路下部の強度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1図1は、第1実施形態に係る水洗大便器を示す側面図である。
図2図2は、第1実施形態に係る水洗大便器を示す斜視図(その1)である。
図3図3は、第1実施形態に係る水洗大便器を示す斜視図(その2)である。
図4図4は、第1実施形態に係る水洗大便器を示す側断面図である。
図5図5は、幕板の第1変形例を示す図である。
図6図6は、幕板の第2変形例を示す図である。
図7図7は、第2実施形態に係る水洗大便器における幕板の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本願の開示する水洗大便器の実施形態を詳細に説明する。なお、以下に示す実施形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0019】
<第1実施形態>
図1~4を参照して第1実施形態に係る水洗大便器1について説明する。図1は、第1実施形態に係る水洗大便器1を示す側面図である。
【0020】
図2および3はそれぞれ、第1実施形態に係る水洗大便器1を示す斜視図である。なお、図2には、第1実施形態に係る水洗大便器1を斜め上方から見た図を示し、図3には、第1実施形態に係る水洗大便器1を斜め下方から見た図を示している。図4は、第1実施形態に係る水洗大便器1を示す側断面図である。なお、図4は、図2におけるA-A線断面(左右方向の中央断面)図である。
【0021】
また、図1~4を含む各図には、鉛直上向き(上方)を正方向とするZ軸を含む3次元の直交座標系を示している。以下では、説明の便宜上、X軸の正方向を右方、X軸の負方向を左方、Y軸の正方向を前方、Y軸の負方向を後方と規定している。このため、X軸方向を左右方向、Y軸方向を前後方向、Z軸方向を上下方向という場合がある。
【0022】
図1に示すように、水洗大便器1は、トイレ室TRの壁面WSに設置される壁掛け式のものである。このような壁掛け式の水洗大便器1は、トイレ室TRの床面FSの清掃性や水洗大便器1またはトイレ室TR全体の見栄えがよいため、これらの意匠性を向上させることができる。
【0023】
また、水洗大便器1は、後述するゼット吐水口4(図4参照)から強力な水勢の洗浄水を後述するトラップ管路3へ向けて噴出して強力な水流を発生させることで汚物を下流側へ吹き飛ばす、いわゆるブローアウト式のものである。なお、水洗大便器1は、これ以外の方式のもの、たとえば、洗い落とし(ウォッシュダウン)式のものでもよいし、サイホン式のものでもよい。
【0024】
また、水洗大便器1は、たとえば、後述する便器本体2の後部上方に設置された貯水タンクなどの給水装置(図示せず)から洗浄水が供給される。給水装置が貯水タンクの場合、上水道などに接続され、たとえば、貯水タンクに設けられた操作レバー(図示せず)を操作して便器洗浄を開始すると貯水タンクの排水弁(図示せず)が開放動作して、貯水タンクから所定量の洗浄水が便器本体2の後述する供給口241へと供給される。なお、給水装置は、たとえば、所定量の洗浄水を供給可能なフラッシュバルブなどでもよい。
【0025】
また、水洗大便器1は、全体として陶器製である。なお、水洗大便器1は、陶器製の他、樹脂製のものでもよいし、陶器と樹脂とを組み合わせて製造されたものでもよい。
【0026】
図2~4に示すように、水洗大便器1は、便器本体2と、トラップ管路3とを備える。便器本体2は、ボウル部21と、リム部22と、棚部23と、導水路24と、スカート部25と、バック面部26と、幕板27,28とを備える。
【0027】
ボウル部21は、汚物を受ける部位であり、ボウル形状に形成される。ボウル部21の底部は、溜水部211となり、所定量の溜水を貯留している。溜水部211の下端部には、トラップ管路3が接続される。
【0028】
リム部22は、ボウル部21の上縁部に配設され、ボウル部21の上縁部として全周にわたり環状に形成される。図4に示すように、リム部22の下部には棚部23が配設される。棚部23は、リム部22の内部においてボウル部21の上縁部から外側へ延びる略平坦な面として形成されるとともに、ボウル部21の略全周にわたり環状に形成される。
【0029】
導水路24は、洗浄水の供給口241から前方へと延びており、リム部22のリム通水路221に接続される。導水路24は、便器本体2後部における左右方向の略中央に配置された供給口241付近からボウル部21へと延びている。
【0030】
なお、導水路24では、たとえば、洗浄水が良好に整流されるとともに洗浄水の指向性が高められ、導水路24からリム通水路221を周回する向きに整流された流れ、かつ、比較的水勢の強い状態の流れとなって、洗浄水が吐出される。
【0031】
また、導水路24は、たとえば、その一部がリム通水路221の合流部分の一部と平行になるように形成される。この場合、導水路24の出口、すなわち、洗浄水の吐水口(図示せず)付近においては、リム通水路221を周回する洗浄水の流れの向きと略一致するため、導水路24の出口(吐水口)からの洗浄水を、リム通水路221を略同一の旋回方向へ向けて水勢を保持した状態(流量および流速を略維持した状態)でリム通水路221を周回する流れとすることができる。
【0032】
図2および3に示すように、スカート部25は、ボウル部21の前方領域を覆うように配設される。スカート部25は、ボウル部21の前方領域において水洗大便器1の外形を形成している。スカート部25は、ボウル部21の前方領域のみに設けられ、ボウル部21の後方領域には設けられない。このため、ボウル部21は、その後方領域が開放されている。このように、スカート部25がボウル部21の前方領域のみに設けられることで、水洗大便器1の軽量化を図ることができる。
【0033】
なお、ボウル部21の後方領域とは、側面視において後述するトラップ管路3が後述するスカート部25の後面部252に接続される位置よりも後方をいい、一方で、トラップ管路3がスカート部25の後面部252に接続される位置から前方を前方領域という。
【0034】
スカート部25は、側周面部251と、後面部252とを備える。側周面部251は、ボウル部21の前方領域において、ボウル部21を、左右いずれか一方の側部から、前部を経て、左右いずれか他方の側部にかけて覆う。後面部252は、ボウル部21の前方領域における後部を覆う。
【0035】
バック面部26は、ボウル部21の後方に配設される。バック面部26は、便器本体2の最後部に配設される。バック面部26は、トラップ管路3の最も下流側が接続される前面261と、水洗大便器1の取り付け面となる壁面WS(図1参照)に対して、たとえば、略平行となる後面262とを備える。
【0036】
また、バック面部26は、バック面部26を前後方向に貫通する取付孔263を備える。バック面部26は、取付孔263に取付具(図示せず)が取り付けられることで、壁面WSに対して固定される。このように、バック面部26が壁面WSに固定されることで、水洗大便器1が壁面WSに固定される。
【0037】
図2~4に示すように、トラップ管路3は、ボウル部21の汚物を排出可能なように、ボウル部21から後方へと延設された管路である。トラップ管路3は、スカート部25の後面部252とバック面部26の前面261との間に配設される。トラップ管路3は、上昇管31と、下降管32とを備える。
【0038】
上昇管31は、上流側の端部(前端部)がボウル部21の底部(溜水部211)に接続される。上昇管31は、ボウル部21の底部(溜水部211)と連通するとともに、後方へと向かうにつれて、上方へ向かう、すなわち、上昇するように傾斜した管路である。
【0039】
下降管32は、上流側の端部(前端部)が上昇管31の下流側の端部(後端部)に接続される。下降管32は、上昇管31の後端部と連通するとともに、下方へ向かう管路である。下降管32の最も下流側は、水洗大便器1から洗浄水や汚物を排出する排出口33に接続される。なお、排出口33は、水洗大便器1の外部配管となる設備配管10に接続される。
【0040】
なお、水洗大便器1がブローアウト式の場合、ボウル部21の汚物をゼット吐水口4(図4参照)からの強力な水勢の洗浄水でトラップ管路3へと噴射することから、トラップ管路3は、前後方向に寝た形状、すなわち、前後方向に長く、かつ、上下方向に短い形状である。
【0041】
ここで、図1に戻り、図示のように、壁掛け式の水洗大便器1の場合、トラップ管路3下部には、スカート部25に覆われたボウル部21の前方領域に比べて強度が低いボウル部21の後方に位置するとともに壁掛け式において使用者が便座(図示せず)に腰掛ける場合などに生じるモーメントMによる応力Fが集中するため、トラップ管路3が破損などしないように補強する必要がある。
【0042】
このため、本実施形態では、トラップ管路3下部を補強する幕板27を備える。また、本実施形態では、幕板27を、モーメントMによる応力Fが集中しない構造としている。
【0043】
図2~4に示すように、幕板(以下、第1幕板という)27は、トラップ管路3の補強のための板状の部材である。第1幕板27は、その板面を左右の側方に向けて、トラップ管路3の下方に配設される。
【0044】
また、第1幕板27は、側面視において、トラップ管路3と、上昇管31の下端部と、バック面部26の下端部との間に配設される。より具体的には、図1に戻り、図1に破線で示すように、第1幕板27は、側面視において、トラップ管路3の下部と、上昇管31のボウル部21との接続点の近傍に位置する最下端部311と、バック面部26における下降管32の最下端部321よりも低い位置Pとの間において、これらに上方から覆われるように配設される。
【0045】
このように、第1幕板27によって、スカート部25に覆われていないためボウル部21の前方領域に比べて強度が低いボウル部21の後方に位置するとともに壁掛け式の水洗大便器1においてモーメントMによる応力Fが集中するトラップ管路3下部を補強することができる。この場合、トラップ管路3下部の全体を補強するように第1幕板27が配設される。これにより、負荷がかかりやすいトラップ管路3下部の強度を向上させることができる。
【0046】
なお、本実施形態では、第1幕板27は、バック面部26における下降管32の最下端部321よりも低い位置Pとして、バック面部26の最下端位置に接続される。このため、以下では、バック面部26における下降管32の最下端部321よりも低い位置Pを「最下端位置(P)」という。
【0047】
図2~4に示すように、第1幕板27の下端縁部271は、上昇管31の最下端部311からバック面部26の最下端位置Pにかけて所定の曲率で連続的に変化(曲率変化)している。すなわち、第1幕板27の下端縁部271は、側面視において所定の曲率でカーブするように形成される。
【0048】
このように、第1幕板27の下端縁部271が所定の曲率で連続的に変化しているため、第1幕板27においてモーメントMによる応力Fが集中する箇所をなくす(または、減らす)ことができる。これにより、負荷がかかりやすいトラップ管路3下部の強度をさらに向上させることができる。
【0049】
所定の曲率とは、上昇管31の最下端部311からバック面部26の最下端位置Pにかけて、一定の曲率であってもよいし、不定の曲率であってもよい。
【0050】
不定の曲率の場合には、所定の曲率として、上昇管31の最下端部311からバック面部26の最下端位置Pへ向かうにつれて曲率が変化するような複数の曲率を含むこととなる。このように、所定の曲率が複数の曲率を含む場合、第1幕板27の下端縁部271において、たとえば、応力が集中する箇所の曲率を小さくすることで、応力の均平化を図ることができる。
【0051】
また、第1幕板27の下端縁部271は、上昇管31の最下端部311からバック面部26の最下端位置Pにかけて上方へ向けた凸形状である。
【0052】
このように、第1幕板27の下端縁部271が上方へ向けた凸形状であるため、幕板27においてモーメントMによる応力Fが集中する箇所をなくしつつ、第1幕板27の面積を抑えることができる。これにより、負荷がかかりやすいトラップ管路3下部の強度を向上させることができるとともに、水洗大便器1の軽量化を図ることができ、さらには、意匠性を向上させることもできる。
【0053】
なお、第1幕板27の下端縁部271は、上記したような、上昇管31の最下端部311からバック面部26の最下端位置Pにかけて上方へ向けた凸形状以外の形状であってもよい。
【0054】
ここで、図5および6を参照して第1幕板27の変形例(第1幕板27A,27B)について説明する。図5は、幕板27の第1変形例(第1幕板27A)を示す図である。図6は、幕板27の第2変形例(第1幕板27A)を示す図である。
【0055】
図5に示すように、第1変形例に係る第1幕板27Aは、その下端縁部271Aが、上昇管31の最下端部311からバック面部26の最下端位置Pにかけて所定の曲率で連続的に変化(曲率変化)している。第1変形例に係る第1幕板27Aは、上昇管31の最下端部311からバック面部26の最下端位置Pにかけて下方へ向けた凸形状である。
【0056】
このような構成によっても、第1幕板27AにおいてモーメントMによる応力Fが集中する箇所をなくす(または、減らす)ことができ、これにより、負荷がかかりやすいトラップ管路3下部の強度を向上させることができる。
【0057】
図6に示すように、第2変形例に係る第1幕板27Bは、その下端縁部271Bが、上昇管31の最下端部311からバック面部26の最下端位置Pにかけて所定の曲率で連続的に変化(曲率変化)している。第2変形例に係る第1幕板27Bは、上昇管31の最下端部311からバック面部26の最下端位置Pにかけて、上方へ凸形状から下方へ凸形状へと変化した形状(S字形状)である。なお、凸と凹とは、側面視において前後方向に順番が逆になるように並んでもよい。また、凸、凹、凸・・・(または、凹、凸、凹・・・)のように、交互に連続して波形状となるように並んでもよい。
【0058】
このような構成によっても、第1幕板27BにおいてモーメントMによる応力Fが集中する箇所をなくす(または、減らす)ことができ、これにより、負荷がかかりやすいトラップ管路3下部の強度を向上させることができる。
【0059】
図2~4に戻り、図示のように、幕板(以下、第2幕板という)28は、第1幕板27と同様、トラップ管路3の補強のための板状の部材である。第2幕板28は、その板面を左右の側方に向けて、トラップ管路3の上方に配設される。
【0060】
また、第2幕板28は、側面視において、便器本体2のボウル部21の後方における下部と、トラップ管路3の上部と、バック面部26の前面261との間において、これらに囲まれるように配設される。
【0061】
また、水洗大便器1においては、トラップ管路3の前方に、トラップ管路3(上昇管31)へ向けて洗浄水を噴射するゼット吐水口4を備える。図4に示すように、ゼット吐水口4は、ゼット導水路41の出口に形成され、ゼット導水路41の洗浄水を強力な水勢で噴射することで、サイホン作用を発生させる。
【0062】
以上説明したような第1実施形態によれば、スカート部25に覆われていないためボウル部21の前方領域に比べて強度が低いボウル部21の後方に位置するとともに壁掛け式の水洗大便器1においてモーメントMによる応力Fが集中するトラップ管路3下部を、第1幕板27で補強することができる。この場合、トラップ管路3下部の全体を補強するように第1幕板27が配設される。これにより、負荷がかかりやすいトラップ管路3下部の強度を向上させることができる。
【0063】
また、第1幕板27の下端縁部271が所定の曲率で連続的に変化しているため、第1幕板27においてモーメントMによる応力Fが集中する箇所をなくす(または、減らす)ことができる。これにより、負荷がかかりやすいトラップ管路3下部の強度をさらに向上させることができる。
【0064】
また、第1幕板27の下端縁部271が上方へ向けた凸形状であるため、第1幕板27においてモーメントMによる応力Fが集中する箇所をなくしつつ、第1幕板27の面積を抑えることができる。これにより、負荷がかかりやすいトラップ管路3下部の強度を向上させることができるとともに、水洗大便器1の軽量化を図ることができ、さらには、意匠性を向上させることもできる。
【0065】
<第2実施形態>
図7を参照して第2実施形態に係る水洗大便器100について説明する。図7は、第2実施形態に係る水洗大便器100における幕板(第1幕板)57の説明図である。なお、図7には、第1幕板57の拡大側面を示している。
【0066】
また、第2実施形態に係る水洗大便器100は、上記した第1実施形態に係る水洗大便器1とは第1幕板57およびバック面部26の下端面264の形状が異なり、他の箇所は第1実施形態に係る水洗大便器1と同一のものである。このため、以下の説明では、第1実施形態に係る水洗大便器1と同一の箇所の説明を省略する。また、図7において第1実施形態に係る水洗大便器1と同一の箇所には、同一の符号を付している。
【0067】
図7に示すように、第2実施形態に係る水洗大便器100において、第1幕板57は、トラップ管路3の補強のための板状の部材である。第1幕板57は、その板面を左右の側方に向けて、トラップ管路3の下方に配設される。
【0068】
また、第1幕板57は、側面視において、トラップ管路3と、上昇管31の下端部と、バック面部26の下端部との間に配設される。より具体的には、第1幕板57は、側面視において、トラップ管路3の下部と、上昇管31のボウル部21との接続点の近傍に位置する最下端部311と、バック面部26における下降管32の最下端部321よりも低い位置(最下端位置)Pとの間において、これらに上方から覆われるように配設される。
【0069】
第1幕板57の下端縁部571は、上昇管31の最下端部311からバック面部26の最下端位置Pにかけて所定の曲率で連続的に変化(曲率変化)している。すなわち、第1幕板57の下端縁部271は、側面視において所定の曲率でカーブするように形成される。
【0070】
所定の曲率とは、上昇管31の最下端部311からバック面部26の最下端位置Pにかけて、一定の曲率であってもよいし、不定の曲率であってもよい。
【0071】
不定の曲率の場合には、所定の曲率として、上昇管31の最下端部311からバック面部26の最下端位置Pへ向かうにつれて曲率が変化するような複数の曲率を含むこととなる。このように、所定の曲率が複数の曲率を含む場合、第1幕板57の下端縁部571において、たとえば、応力が集中する箇所の曲率を小さくすることで、応力の均平化を図ることができる。
【0072】
また、第1幕板57の下端縁部571は、上昇管31の最下端部311からバック面部26の最下端位置Pにかけて上方へ向けた凸形状である。なお、第1幕板57の下端縁部571は、上記したような、上方へ向けた凸形状以外の形状であってもよく、たとえば、下方へ向けた凸形状であってもよいし、上方へ凸形状から下方へ凸形状(下方へ凸形状から上方へ凸形状)へと変化した形状(S字形状)であってもよいし、凸と凹とが交互に連続した波形状であってもよい。
【0073】
また、図7に示すように、バック面部26は、その下端面264が第1幕板57の下端縁部571から曲率が連続するようにこの下端縁部571と接続されるような形状である。
【0074】
このように、バック面部26の下端面264が、第1幕板57の下端縁部571から曲率が連続するようにこの下端縁部571と接続されることで、第1幕板57の下端縁部571とバック面部26との接続箇所に応力が集中するのを避けることができる。
【0075】
以上説明したような第2実施形態によれば、スカート部25に覆われていないためボウル部21の前方領域に比べて強度が低いボウル部21の後方に位置するとともに壁掛け式の水洗大便器1においてモーメントMによる応力Fが集中するトラップ管路3下部を、第1幕板57で補強することができる。この場合、トラップ管路3下部の全体を補強するように第1幕板57が配設される。これにより、負荷がかかりやすいトラップ管路3下部の強度を向上させることができる。
【0076】
また、第1幕板57の下端縁部571が所定の曲率で連続的に変化しているため、第1幕板57においてモーメントMによる応力Fが集中する箇所をなくす(または、減らす)ことができる。これにより、負荷がかかりやすいトラップ管路3下部の強度をさらに向上させることができる。
【0077】
また、第1幕板57の下端縁部571が上方へ向けた凸形状であるため、第1幕板57においてモーメントMによる応力Fが集中する箇所をなくしつつ、第1幕板57の面積を抑えることができる。これにより、負荷がかかりやすいトラップ管路3下部の強度を向上させることができるとともに、水洗大便器100の軽量化を図ることができ、さらには、意匠性を向上させることもできる。
【0078】
また、バック面部26の下端面264が、第1幕板57の下端縁部571から曲率が連続するようにこの下端縁部571と接続されるため、第1幕板57の下端縁部571とバック面部26との接続箇所に応力が集中するのを避けることができる。また、第1幕板57の下端縁部571とバック面部26との接続箇所における応力の集中を避けることで、前後方向の圧縮応力に対する第1幕板57の薄さをバック面部26によって補うような構造となり、第1幕板57自体の強度を向上させることができる。
【0079】
なお、上記した実施形態では、第1幕板27(57)の下端縁部271(571)が所定の曲率で連続的に変化(曲率変化)しているが、上昇管31の最下端部311からバック面部26の最下端位置Pまで直線で接続された構成であってもよい。このような構成によっても、第1幕板27(57)においてモーメントMによる応力Fが集中する箇所をなくす(または、減らす)ことができる。
【0080】
さらなる効果や変形例は、当業者によって容易に導き出すことができる。このため、本発明のより広範な態様は、以上のように表しかつ記述した特定の詳細および代表的な実施形態に限定されるものではない。したがって、添付の特許請求の範囲およびその均等物によって定義される総括的な発明の概念の精神または範囲から逸脱することなく、様々な変更が可能である。
【符号の説明】
【0081】
1,100 水洗大便器
2 便器本体
3 トラップ管路
21 ボウル部
25 スカート部
26 バック面部
27,57 幕板(第1幕板)
31 上昇管
32 下降管
211 底部(溜水部)
271,571 下端縁部
311 最下端部
321 最下端部
P 位置(最下端位置)
WS 壁面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7