(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】光触媒と、この光触媒を用いた水素及び酸素の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 35/39 20240101AFI20250527BHJP
B01J 27/045 20060101ALI20250527BHJP
B01J 27/04 20060101ALI20250527BHJP
C01B 3/04 20060101ALI20250527BHJP
C01B 13/02 20060101ALI20250527BHJP
C25B 11/049 20210101ALI20250527BHJP
C25B 11/052 20210101ALI20250527BHJP
C25B 9/50 20210101ALI20250527BHJP
C25B 1/04 20210101ALI20250527BHJP
C25B 11/087 20210101ALI20250527BHJP
【FI】
B01J35/39
B01J27/045 M
B01J27/04 M
C01B3/04 A
C01B13/02 B
C25B11/049
C25B11/052
C25B9/50
C25B1/04
C25B11/087
(21)【出願番号】P 2021168229
(22)【出願日】2021-10-13
【審査請求日】2024-05-24
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504180239
【氏名又は名称】国立大学法人信州大学
(73)【特許権者】
【識別番号】513056835
【氏名又は名称】人工光合成化学プロセス技術研究組合
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】吉田 紘章
(72)【発明者】
【氏名】堤内 出
(72)【発明者】
【氏名】堂免 一成
(72)【発明者】
【氏名】久富 隆史
【審査官】田名部 拓也
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-138188(JP,A)
【文献】特開2020-142968(JP,A)
【文献】特開2016-005998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 35/00 - 35/80
C01B 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I)で示される組成の光触媒。
Y
aTi
bM
cO
dS
e …(I)
(ただし、
一般式(I)中のMは以下の条件1と条件2とを満たす元素から選ばれる1種又は2種以上を組み合わせたものであり、a=1.7~2.3、b=2、c=0.003~0.038、d=4.7~5.3、e=1.7~2.3の数である。
条件1:固体中で+3価以下の電子状態にある元素。
条件2:6配位状態において、最外殻軌道がs、p、f軌道である元素、または最外殻軌道がd軌道であり、そのd軌道に不対電子を持たず、そのeg軌道に電子を有さない元素。)
【請求項2】
下記一般式(I)で示される組成の光触媒。
Y
aTi
bM
cO
dS
e …(I)
(ただし、MはLi、Na、Mg、Ca、Al、Sc、Rh、Gd、Tb、およびYbの中から選ばれる1種又は2種以上を組み合わせたものであり、a=1.7~2.3、b=2、c=0.003~0.038、d=4.7~5.3、e=1.7~2.3の数である。)
【請求項3】
水の全分解に使用される光触媒である請求項1又は2に記載の光触媒。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光触媒を固定化した固定化物、又は、成形した成形体、を用いて水素と酸素を発生させる水素及び酸素の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれかに記載の光触媒を用いて作成した電極。
【請求項6】
請求項5に記載の電極により水素及び/又は酸素を発生させる水素及び酸素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒と、この光触媒を用いた水素及び酸素の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギーとして太陽エネルギーを利用した高性能な光エネルギー変換システムの開発は、地球温暖化の抑制、および枯渇しつつある化石資源依存からの脱却を目指す観点から、近年になって急激にその重要性が増している。中でも、太陽エネルギーを用いて水を分解し水素を製造する技術は、現行の石油精製、アンモニア、メタノールの原料供給技術としてのみならず、燃料電池のエネルギーキャリアとして活用できる技術となり、その技術開発に対する社会的要請が益々高まっている。
【0003】
光触媒による水分解反応は、古くから広く研究されている。
光触媒粒子上での酸性水溶液中における水の分解反応は、次のように推定されている。
H2O+2h+→1/2O2+2H+ (1)
2H++2e-→H2 (2)
【0004】
このような反応を起こす光触媒としては、例えば特許文献1に示すY2Ti2O5S2が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の光触媒は、優れた光触媒活性を示すが、光触媒活性の更なる向上が望まれる。
【0007】
本発明は、より光触媒活性に優れた新規光触媒と、この光触媒を用いた水素及び酸素の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を進めた結果、特許文献1に記載のY2Ti2O5S2に、特定量の固体中で+3価以下の電子状態にある元素を追加することにより、好ましくは追加元素として6配位(八面体配位)状態においてeg電子軌道に電子を有さないもの、特に好ましくはLi、Mg、Al、Sc、Rhから選ばれる少なくとも1種を、Tiのモル比を2として0.003~0.038添加することにより、光触媒活性が非常に大きく向上することを見出し、本発明に到達した。
【0009】
なお、特許文献1には、「本発明の効果に支障の出ない範囲で、YがCa,Sr,Ag,In,La,Ce,Pr,Nd,Pm,Sm,Eu,Gd,Tb,Dy,Ho,Er,Tm,Yb,Luなどで置換されていてもよい。また、同様にTiはAl,Cr,Mn,Co,Ni,Rh,Ga,Zn,Ta,Nbで置換されていてもよく、その置換量は、上述の組成式のa又はbの値で0.3以下が好ましく、より好ましくは0.1以下である。」との記載がなされているが、この記載は、特許文献1に係る発明の実施に支障のない範囲で、これらの元素を添加してもよいことが示されているにすぎず、これらのうちの特定の元素をごく限定された割合で添加した場合に、本発明におけるように、光触媒活性が2倍以上、更には3倍以上にまで大きく向上することを示唆するものではなく、また、その組成範囲も「0.3以下」というものであり、本発明の限定された範囲を示唆するものでもない。
【0010】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0011】
[1] 下記一般式(I)で示される組成の光触媒。
YaTibMcOdSe …(I)
(ただし、Mは固体中で+3価以下の電子状態にあり、6配位状態において、最外殻軌道がs、p、f軌道である元素、または最外殻軌道がd軌道であり、そのd軌道に不対電子を持たず、そのeg軌道に電子を有さない元素から選ばれる1種又は2種以上を組み合わせたものであり、a=1.7~2.3、b=2、c=0.003~0.038、d=4.7~5.3、e=1.7~2.3の数である。)
【0012】
[2] 下記一般式(I)で示される組成の光触媒。
YaTibMcOdSe …(I)
(ただし、MはLi、Na、Mg、Ca、Al、Sc、Rh、Gd、Tb、およびYbの中から選ばれる1種又は2種以上を組み合わせたものであり、a=1.7~2.3、b=2、c=0.003~0.038、d=4.7~5.3、e=1.7~2.3の数である。)
【0013】
[3] 水の全分解に使用される光触媒である[1]又は[2]に記載の光触媒。
【0014】
[4] [1]乃至[3]のいずれかに記載の光触媒を固定化した固定化物、又は、成形した成形体、を用いて水素と酸素を発生させる水素及び酸素の製造方法。
【0015】
[5] [1]乃至[3]のいずれかに記載の光触媒を用いて作成した電極。
【0016】
[6] [5]に記載の電極により水素及び/又は酸素を発生させる水素及び酸素の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、光触媒活性に著しく優れた光触媒が提供される。
本発明の光触媒を用いて、水を効率的に全分解して水素と酸素を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変形して実施することができる。本明細書において、「~」を用いてその前後に数値又は物性値を挟んで表現する場合、その前後の値を含むものとして用いることとする。
【0019】
[光触媒の組成]
本発明の光触媒は、下記一般式(I)で示される組成の光触媒である。
YaTibMcOdSe …(I)
(ただし、Mは固体中で+3価以下の電子状態にあり、6配位状態において、最外殻軌道がs、p、f軌道である元素、または最外殻軌道がd軌道であり、そのd軌道に不対電子を持たず、そのeg軌道に電子を有さない元素から選ばれる1種又は2種以上を組み合わせたものであり、a=1.7~2.3、b=2、c=0.003~0.038、d=4.7~5.3、e=1.7~2.3の数である。)
【0020】
すなわち基準としてTiのモル数bを2と置いたときに、それぞれのモル比がa=1.7~2.3、c=0.003~0.038、d=4.7~5.3、e=1.7~2.3となるものである。
a、c、d、eは、Tiのモル数b=2に対して、a=1.8~2.2、c=0.003~0.032、d=4.8~5.2、e=1.8~2.2であることが好ましく、a=1.85~2.15、c=0.004~0.0030、d=4.85~5.15、e=1.85~2.15であることがより好ましい。なお、本明細書においては、特に断りのない限り~は上端と下端の数値を含むものとする。
【0021】
式(I)中のMは、固体中で+3価以下の電子状態にあり、6配位状態において、最外殻軌道がs、p、f軌道である元素、または最外殻軌道がd軌道であり、そのd軌道に不対電子を持たず、そのeg軌道に電子を有さない元素から選ばれる元素であるが、このような元素Mを上記所定の割合で含有させることで、光触媒活性、特に水分解用光触媒活性が向上するメカニズムについては以下の通り考えられる。
即ち、光触媒では、アニオン(酸素、硫黄、窒素など)元素の欠損に伴い、本来安定な+4価の酸化状態で存在すべきTi元素が還元された+3価の状態などで存在し、電子状態に歪みが生じることで光触媒活性が低下するが、本発明に従って、安定な酸化状態が+3価以下の元素Mを添加することで、+3価のTi元素の生成が抑制され、良好な光触媒活性が達成される。
この固体中で+3価以下の電子状態にある元素Mの組成比を示すcが0.003未満では、固体中で+3価以下の電子状態にある元素Mを添加することによる上記の光触媒活性向上効果を十分に得ることができないため、cは0.003以上とする。
一方、cが0.038を超えると、Mが多過ぎ、光触媒表面にMを含む不純物相が堆積してしまい光吸収を妨げる原因となることにより、光触媒活性はむしろ低下する。よって、cは0.038以下とする。
【0022】
また、元素Mは6配位状態において、最外殻軌道がs、p、f軌道である元素、または最外殻軌道がd軌道であり、そのd軌道に不対電子を持たず、そのeg軌道に電子を有さない元素である。即ち、添加元素の安定な酸化状態で形成する電子状態において、eg電子軌道に電子を有すると、本来Y2Ti2O5S2中において電子を有さないeg電子軌道に添加成分由来の電子が導入されることで、半導体的な性質が損なわれ、光触媒としての機能が低下することが考えられる。6配位(即ち八面体配位)状態においてeg電子軌道に電子を有さない元素であれば、このような問題を引き起こすことなく、光触媒活性がより一層高められ、水分解光触媒活性の向上に特に優れた効果が奏される。
【0023】
このような元素Mとしては、光触媒活性向上効果に優れることから、Li、Na、Mg、Ca、Al、Sc、Rh、Gd、Tb、Ybが好ましく、特にLi、Mg、Al、Sc、Rhが好ましい。
なお、元素Mは1種のみであってもよく、2種以上が組み合わせて用いられてもよい。
【0024】
[光触媒の製造方法]
本発明の光触媒は、Y源、Ti源、O源、S源となる原料を前記式(I)を満たすように秤量して十分混合し、得られた混合物を焼成することにより製造することができる。
以下、本発明の光触媒を「YTMOS」と称す場合がある。
【0025】
Y源としては、Y2O3、Y2O2S、Y2S3、Y、YCl3等の1種又は2種以上を用いることができる。ここで、Y2O3、Y2O2SはO源ともなる。また、Y2S3、Y2O2SはS源ともなる。
【0026】
Ti源としては、TiO2、TiS2、Ti等の1種又は2種以上を用いることができる。ここで、TiO2はO源ともなる。また、TiS2はS源ともなる。
【0027】
O源としては、上記の通り、Y源、Ti源を兼ねて用いることが好ましい。
【0028】
S源としては、S、H2S等の1種又は2種以上を用いることができる。この際、H2Sなどをガスとして流通して反応させる手法は、本発明の光触媒を製造する上で好ましい態様の一つである。また、上記の通り、Y2S3、Y2O2S、TiS2もS源となる。
【0029】
M源としては、上述の条件を満たす元素Mの酸化物、硫化物、酸硫化物、ハロゲン化物等を使用することができ、この場合も酸化物はO源に、硫化物はS源ともなる。
【0030】
MがLi、Na,Mg、Ca、Al、Sc、Rh、Gd、Tb、Ybのいずれかである場合、Li源としては、Li2O、Li2CO3、Li(NO3)、LiCl、LiOH、LiCH3COO・2H2O、Li2(C2O4)、LiF、LiBr等の1種又は2種以上を用いることができる。
Na源としては、Na2O、Na2CO3、Na(NO3)、NaCl、NaOH、NaCH3COO・2H2O、Na2(C2O4)、NaF、NaBr等の1種又は2種以上を用いることができる。
Mg源としては、MgO、Mg(OH)2、MgCO3、Mg(OH)2・3MgCO3・3H2O、Mg(NO3)2・6H2O、MgSO4、Mg(OCO)2・2H2O、Mg(OCOCH3)2・4H2O、MgCl2、MgF2等の1種又は2種以上を用いることができる。
Ca源としては、CaO、Ca(OH)2、CaCO3、Ca(OH)2・3CaCO3・3H2O、Ca(NO3)2・6H2O、CaSO4、Ca(OCO)2・2H2O、Ca(OCOCH3)2・4H2O、CaCl2、CaF2等の1種又は2種以上を用いることができる。
Al源としては、Al2O3、Al(OH)3、AlOOH、Al(NO3)3・9H2O、Al2(SO4)3、AlCl3、AlF3等の1種又は2種以上を用いることができる。
Sc源としては、Sc2O3、Sc(OH)3、Sc2(CO3)3、Sc(NO3)3、Sc2(SO4)3、Sc2(OCO)6、Sc(OCOCH3)3、ScCl3、ScF3等の1種又は2種以上を用いることができる。
Rh源としては、Rh2O3、RhO2、Rh(OH)3、Rh(OH)4、Rh2(CO3)3、Rh(NO3)3、Rh2(SO4)3、Rh(SO4)2、Rh2(OCO)6、Rh(OCOCH3)3、RhCl3、RhCl4、RhF3等の1種又は2種以上を用いることができる。
Gd源としては、Gd2O3、GdO2S、GdOS2、Gd(OH)3、GdOOH、Gd2(CO3)3、Gd(NO3)3、Gd2(SO4)3、Gd2(OCO)6、GdCl3、GdF3等の1種又は2種以上を用いることができる。
Tb源としては、Tb2O3、TbO2S、TbOS2、Tb(OH)3、TbOOH、Tb2(CO3)3、Tb(NO3)3、Tb2(SO4)3、Tb2(OCO)6、TbCl3、TbF3等の1種又は2種以上を用いることができる。
Yb源としては、Yb2O3、YbO2S、YbOS2、Yb(OH)3、YbOOH、Yb2(CO3)3、Yb(NO3)3、Yb2(SO4)3、Yb2(OCO)6、YbCl3、YbF3等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0031】
なお、これらの原料の混合は、空気や微量の水分が混入し、酸化物相などの不純物生成を引き起こすため窒素等の不活性ガス雰囲気下に、-20~50℃で行うことが好ましい。
【0032】
混合物の焼成温度は、焼成時間にも依存するために特に限定はされないが、450℃以上1000℃未満であることが好ましい。焼成温度が1100℃以上では、光触媒活性に優れたYTMOSを得ることはできない場合が多い。また、焼成温度が低過ぎると、固相反応が十分に進行せず、高純度のYTMOSを得ることができない場合が多いため、焼成温度は、通常500℃以上、好ましくは550℃以上であり、通常1100℃未満、好ましくは1000℃以下である。
【0033】
焼成雰囲気については特に制限はないが、副反応防止の観点から真空中で行うことが好ましい。
焼成時間は、焼成温度によっても異なるが、通常0.1~120時間、好ましくは1~48時間である。
【0034】
焼成により得られたYTMOSは、必要に応じて過剰硫黄分を酸化処理して除去するために、空気中にて100~300℃の温度で0.1~3時間程度加熱する熱処理を行ってもよい。この熱処理後は水洗して硫黄酸化物を除去し、YTMOSを固液分離することが好ましい。
【0035】
また、得られたYTMOSは、必要に応じて20~80質量%程度の硫酸、硝酸、王水等の酸に接触させる酸処理を行ってもよく、酸処理を行うことで、光触媒粒子表面の不純物を除去することができる。
【0036】
また、得られたYTMOSは、必要に応じて粉砕、分級等の整粒処理を行ってもよい。
粉砕後の粒径としては、特に限定されないが、1μm以上とすることにより取り扱いが容易になるために好ましい。一方、当該粒径を20μm以下とすることにより、触媒の表面積が増加し、触媒活性が向上するために好ましい。この粒径は、例えばSEMで写真を撮影し、無作為に粒子を50個程度選んで直径を測定し、その平均値から算出されるものである。粉砕後の粒子が球形から大きく外れている場合には、写真より粒子径を面積相当径で測定し、算出してもよい。
【0037】
更に、得られたYTMOSは、必要に応じて助触媒含有溶液中に懸濁してMW(マイクロウェーブ)処理を行ってもよく、MW処理を行うことで後述の評価用光触媒を短時間で調製することができる場合がある。MW処理としては、例えばAnton Paar社製「Microwave synthesis Reactor Monowave 300」などを使用し、推奨条件を適宜選んで実施すればよい。
【0038】
なお、後述の実施例では、M源以外の原料を混合して焼成(1回目の焼成)し、Mを含まない光触媒粉末を製造した後、この光触媒粉末に所定量のM源とフラックスを混合し、再度1回目の焼成と同様の温度で焼成時間のみ1/10~1/2程度で焼成して(2回目の焼成)、本発明の光触媒を製造しているが、これはYTOSの生成過程においてM源が粒子性状に影響を与え得ることから、性能向上の要因を明確にする実験上の都合のためであり、M源を他の原料と共に一括で混合し、1回の焼成で本発明の光触媒を製造することもできる。
また、この2回目の焼成ではM源のYTOSとの反応性を高めるためにKI、NaI、LiI、RbI、CsI、LiCl、NaCl、KCl、RbCl、CsCl、MgCl2、CaCl2、SrCl2、BaCl2等の1種又は2種以上をフラックスとして、Ti1モルに対して0.5~20モル混合しているが、これはM源をYTOS粒子全体に均一に覆いやすくするためであり、添加したフラックスは2回目の焼成後、水洗により除去される。
【0039】
[用途]
本発明の光触媒は、水分解用光触媒として有効であり、特に高い光触媒活性を示し、単独の電極で、つまり対極が不要で水の全分解が可能な光触媒として水の全分解を行うことができる。
【0040】
[水素及び酸素の製造方法]
本発明の水素及び酸素の製造方法は、本発明の光触媒を用いて、犠牲試薬を用いることなく水素と酸素とを発生させることを特徴とする。また、本発明の光触媒を用いることにより、水素と酸素とを同一の電極上で発生させることもできる。尚、本発明においては、基材上に本発明の光触媒を含む光触媒層を設けた積層体、あるいは本発明の光触媒を含む複合体を電極と称する。
【0041】
本発明の光触媒は、それのみで十分な光触媒活性を示すが、好ましくは助触媒と共に使用される。
【0042】
助触媒としては、酸化反応助触媒(酸素発生側)および還元反応助触媒(水素発生側)があり、これらの一方又は双方をYTMOSに担持して用いることが好ましい。酸化反応助触媒としては、周期表第2~14族の金属、該金属の金属間化合物、合金、または、これらの酸化物、複合酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物、あるいは、これらの混合物のいずれかを用いることが好ましい。ここで、「金属間化合物」とは、2種以上の金属元素から形成される化合物であり、金属間化合物を構成する成分原子比は必ずしも化学量論比でなく、広い組成範囲をもつものをいう。「これらの酸化物、複合酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物」とは、周期表第2~14族の金属、該金属の金属間化合物、または、合金の酸化物、複合酸化物、窒化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物をいう。「これらの混合物」とは、以上例示した化合物のいずれか二以上の混合物をいう。
【0043】
酸化反応助触媒としては、好ましくは、Mg,Ti,Mn,Fe,Co,Ni,Cu,Ga,Ru,Rh,Pd,Ag,Cd,In,Ce,Ta,W,Ir,PtまたはPbの金属、これらの酸化物または複合酸化物であり、より好ましくは、Mn,Co,Ni,Ru,Rh,Irの金属、これらの酸化物または複合酸化物であり、さらに好ましくは、Ir,MnO,MnO2,Mn2O3,Mn3O4,CoO,Co3O4,NiCo2O4,RuO2,Rh2O3,IrO2である。
【0044】
還元反応助触媒としては、周期表第3~13族の金属、該金属の金属間化合物、合金、または、これらの酸化物、複合酸化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物、炭化物、窒化物、あるいは、これらの混合物のいずれかを用いることが好ましい。ここで、「金属間化合物」は上記と同様であり、「これらの酸化物、複合酸化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物、炭化物、窒化物」とは、周期表第3~13族の金属、該金属の金属間化合物、合金の酸化物、複合酸化物、酸窒化物、硫化物、酸硫化物、炭化物または窒化物をいう。「これらの混合物」とは、以上例示した化合物のいずれか二以上の混合物をいう。
【0045】
還元反応助触媒としては、好ましくは、Pt,Pd,Rh,Ru,Ni,Au,Fe,NiO,RuO2,IrO2,Rh2O3,および、Cr-Rh複合酸化物,コアシェル型Rh/Cr2O3,Pt/Cr2O3等を挙げることができる。
【0046】
上記した助触媒の担持量としては、酸化反応助触媒の金属担持量は、特に限定されないが、YTMOSを基準(100質量%)として、通常0.01質量%以上、5質量%以下、好ましくは上限が4質量%以下、より好ましくは上限が3質量%以下、下限が0.05質量%以上である。還元反応助触媒の金属担持量は、特に限定されないが、YTMOSを基準(100質量%)として、通常0.01質量%以上、20質量%以下、好ましくは上限が15質量%以下、より好ましくは上限が10質量%以下である。
ここでいう「金属担持量」とは、担持させた助触媒中の金属元素が占める量をいう。
【0047】
本発明の光触媒を実際に水の分解に使用する場合における光触媒の形態については特に限定されるものではなく、水中に光触媒粒子を分散させる形態、光触媒粒子を固めて成形体として当該成形体を水中に設置する形態、基材上に光触媒層を設けて積層体とし当該積層体を水中に設置する形態、集電体上に光触媒を固定化して光水分解反応用電極とし対極とともに水中に設置する形態等が挙げられる。特に、光水分解反応を大規模にて行う場合、バイアスを付与して水分解反応を促進できる観点から、光水分解反応用電極とするとよい。また、別の態様としては、本発明の光触媒が本触媒単独で水の全分解が可能であることを利用し、バイアスを付与することなく、基材上に本発明の光触媒を含む光触媒層を設けた積層体、あるいは本発明の光触媒を含む複合体を、水中に設置することもできる。この態様により、加工や取り扱いの容易さ、メンテナンスの容易さ、それに広い面積を使用する人工光合成装置などとして使用したときのコストを抑えることができ、工業的に優位な水分解装置、酸素発生装置、水素発生装置、あるいは人工光合成システムを得ることができる。
【0048】
光水分解反応用電極は公知の方法により作製可能である。例えば、いわゆる粒子転写法(Chem. Sci., 2013,4, 1120-1124)によって容易に作製可能である。ここで粒子転写法においては、以下の手順で光水分解反応用電極を製造するのが一般的である。すなわち、ガラス等の第1の基材上に光触媒粒子を載せて、光触媒層と第1の基材層との積層体を得る。得られた積層体の光触媒層表面に蒸着等によって導電層(集電体)を設ける。ここで、光触媒層の導電層側表層にある光触媒粒子が導電層に固定化される。その後、導電層表面に第2の基材を接着し、第1の基材層から導電層及び光触媒層を剥がす。光触媒粒子の一部は導電層の表面に固定化されているので、導電層とともに剥がされ、結果として、光触媒層と導電層と第2の基材層とを有する光水分解反応用電極を得ることができる。
或いは、その他の手法として、光触媒粒子が分散されたスラリーを集電体の表面に塗布して乾燥させることで、光水分解反応用電極を得てもよいし、光触媒粒子と集電体とを加圧成形等して一体化することで光水分解反応用電極を得てもよい。また、光触媒粒子が分散されたスラリー中に集電体を浸漬し、電圧を印可して光触媒粒子を電気泳動により集電体上に集積してもよい。
或いは、助触媒の担持を後工程で行うような形態であってもよい。例えば、上記した粒子転写法において、光触媒粒子ではなく光半導体粒子を用いて、同様の方法で光半導体層と導電層と第2の基材層とを有する積層体を得て、その後、光半導体層の表面に助触媒としての酸化物粒子を担持させることで、光水分解反応用電極を得てもよい。
【0049】
本発明の光触媒、或いは、上記した光水分解反応用電極を、水又は電解質水溶液に浸漬し、当該光触媒又は光水分解反応用電極に光を照射して光水分解を行うことで、水素及び/又は酸素を製造することができる。
【0050】
例えば、上述のように導電体で構成される集電体上に光触媒を固定化して光水分解反応用電極を得る一方、対極として水素生成触媒を担持した導電体を使用し、液体状又は気体状の水を供給しながら光を照射し、水分解反応を進行させる。必要に応じて電極間に電位差を設けることで、水分解反応を促進することができる。或いは、対極として水素生成触媒を担持した光半導体を使用してもよい。この場合、光半導体としては水素生成反応を触媒する公知の光半導体を用いることができる。
【0051】
一方、絶縁基材上に光触媒粒子を固定化した固定化物に、又は、光触媒粒子を加圧成形等した成形体に、水を供給しながら光を照射して水分解反応を進行させてもよい。或いは、光触媒粒子を水又は電解質水溶液に分散させて、ここに光を照射して水分解反応を進行させてもよい。この場合、必要に応じて攪拌することで、反応を促進することができる。
本発明の光触媒は、これ単独で水の全分解をすることができるため、酸素発生用電極と水素発生用電極をつなぐことは必要なく、光触媒を水中に載置し、そこに水を供給する手段と、水素及び/又は酸素を取り出す手段があれば水素と酸素を製造することができる。
これにより構造が簡易になると同時に、酸素発生電極と水素発生電極を並列に並べることに比べ、半分の面積で稼働させることも可能である。発生した水素と酸素は、例えばゼオライト膜等を用いて水素と酸素に分離することができる。
【0052】
水素及び/又は酸素の製造時の反応条件については特に限定されるものではないが、例えば反応温度を0℃以上200℃以下とし、反応圧力を2MPa(G)以下とする。
照射光は650nm以下の波長を有する可視光、又は紫外光である。照射光の光源としては太陽や、キセノンランプ、メタルハライドランプ等の太陽光近似光を照射可能なランプ、水銀ランプ、LED等が挙げられる。
【0053】
以上のように、本発明によれば、本発明の光触媒を用いることで、光水分解反応により水素及び/又は酸素を効率的に製造することができる。
【実施例】
【0054】
以下、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0055】
[水素生成評価用光触媒の活性化処理と光触媒活性の評価]
以下の実施例及び比較例で合成した光触媒粉末は、以下の方法で活性化処理と光触媒活性の評価を行った。
【0056】
<活性化処理>
各光触媒について、触媒活性を促進させる処理として、空気中酸化処理及び酸洗浄処理を行って、水素生成評価用光触媒とした。
空気中酸化処理では、空気中200℃にて1時間熱処理することで過剰硫黄分を酸化処理し、水洗処理により除去を行った。
酸洗浄処理では、空気中酸化処理を行った後、各粉末400mgを50質量%濃度の硫酸中で15分間混合洗浄することで粒子表面に付着した不純物を除去した。
【0057】
<水素生成評価試験>
調製した水素生成評価用光触媒を用いて光水分解反応性能の評価を行った。光水分解反応は、真空排気用ポンプ、循環ポンプ、光触媒を入れるセル、気体採取バルブ、及びガスクロマトグラフ分析装置(GC)を備えた閉鎖系の反応装置で行った。光源は300Wのキセノンランプ(λ>420nm)を使用し、温度上昇を避けるためランプとセルとの間にはウォーターフィルタを設け、さらにセルは冷却水を用いて外側から冷却した。評価の際は、あらかじめ反応装置内を数回脱気した後、空気が残っていないことを確認した。真空度は4×104Pa程度とした。その後に光照射を開始し、ガスの生成量を測定した。分析条件はカラム(モレキュラーシーブ5A)、キャリアガス(アルゴン)、温度(50~70℃)とした。試験は水素生成評価用光触媒300mgに対して0.02M Na2S-Na2SO3水溶液150mLをセルに封入し試験を実施した。
【0058】
[光触媒粉末の合成と評価]
<実施例1>
Y2O3、Y2S3、TiO2を1:2:6(モル比)で秤量し、全体の5質量%の硫黄を添加した上で、N2グローブボックス(露点マイナス70℃以下)中で40分程度混合し、真空中で石英管に封入した後、800℃で96時間焼成することで光触媒粉末Aを得た。得られた光触媒粉末Aに酸化アルミニウム(Al2O3)をAl/Ti=0.5/100のモル比で、ヨウ化カリウム(KI)フラックスをKI/Tiを5/1のモル比でそれぞれ混合し、真空中で石英管に封入した後、800℃で24時間焼成を行った。その後、KIフラックス成分を水洗除去した後、濾過・乾燥し、前述の活性化処理を行うことで光触媒粉末Bを得た。
得られた光触媒粉末Bの水素生成光触媒活性の評価を行った結果を表1に示す。
【0059】
<実施例2>
実施例1記載の光触媒粉末Aに酸化アルミニウム(Al2O3)をAl/Ti=1.0/100のモル比で、ヨウ化カリウム(KI)フラックスをKI/Tiを5/1のモル比でそれぞれ混合し、真空中で石英管に封入した後、800℃で24時間焼成を行った。その後、KIフラックス成分を水洗除去した後、濾過・乾燥し、前述の活性化処理を行うことで光触媒粉末Cを得た。
得られた光触媒粉末Cの水素生成光触媒活性の評価を行った結果を表1に示す。
【0060】
<実施例3>
実施例1記載の光触媒粉末Aに酸化アルミニウム(Al2O3)をAl/Ti=1.5/100のモル比で、ヨウ化カリウム(KI)フラックスをKI/Tiを5/1のモル比でそれぞれ混合し、真空中で石英管に封入した後、800℃で24時間焼成を行った。その後、KIフラックス成分を水洗除去した後、濾過・乾燥し、前述の活性化処理を行うことで光触媒粉末Dを得た。
得られた光触媒粉末Dの水素生成光触媒活性の評価を行った結果を表1に示す。
【0061】
<実施例4>
実施例1記載の光触媒粉末Aに酸化スカンジウム(Sc2O3)をSc/Ti=0.5/100のモル比で、ヨウ化カリウム(KI)フラックスをKI/Tiを5/1のモル比でそれぞれ混合し、真空中で石英管に封入した後、800℃で24時間焼成を行った。その後、KIフラックス成分を水洗除去した後、濾過・乾燥し、前述の活性化処理を行うことで光触媒粉末Eを得た。
得られた光触媒粉末Eの水素生成光触媒活性の評価を行った結果を表1に示す。
【0062】
<実施例5>
実施例1記載の光触媒粉末Aに酸化スカンジウム(Sc2O3)をSc/Ti=0.8/100のモル比で、ヨウ化カリウム(KI)フラックスをKI/Tiを5/1のモル比でそれぞれ混合し、真空中で石英管に封入した後、800℃で24時間焼成を行った。その後、KIフラックス成分を水洗除去した後、濾過・乾燥し、前述の活性化処理を行うことで光触媒粉末Fを得た。
得られた光触媒粉末Fの水素生成光触媒活性の評価を行った結果を表1に示す。
【0063】
<実施例6>
実施例1記載の光触媒粉末Aに酸化スカンジウム(Sc2O3)をSc/Ti=1.0/100のモル比で、ヨウ化カリウム(KI)フラックスをKI/Tiを5/1のモル比でそれぞれ混合し、真空中で石英管に封入した後、800℃で24時間焼成を行った。その後、KIフラックス成分を水洗除去した後、濾過・乾燥し、前述の活性化処理を行うことで光触媒粉末Gを得た。
得られた光触媒粉末Gの水素生成光触媒活性の評価を行った結果を表1に示す。
【0064】
<実施例7>
実施例1記載の光触媒粉末Aに酸化リチウム(Li2O)をLi/Ti=1.0/100のモル比で、ヨウ化カリウム(KI)フラックスをKI/Tiを5/1のモル比でそれぞれ混合し、真空中で石英管に封入した後、800℃で24時間焼成を行った。その後、KIフラックス成分を水洗除去した後、濾過・乾燥し、前述の活性化処理を行うことで光触媒粉末Hを得た。
得られた光触媒粉末Hの水素生成光触媒活性の評価を行った結果を表1に示す。
【0065】
<実施例8>
実施例1記載の光触媒粉末Aに酸化マグネシウム(MgO)をMg/Ti=1.0/100のモル比で、ヨウ化カリウム(KI)フラックスをKI/Tiを5/1のモル比でそれぞれ混合し、真空中で石英管に封入した後、800℃で24時間焼成を行った。その後、KIフラックス成分を水洗除去した後、濾過・乾燥し、前述の活性化処理を行うことで光触媒粉末Iを得た。
得られた光触媒粉末Iの水素生成光触媒活性の評価を行った結果を表1に示す。
【0066】
<実施例9>
実施例1記載の光触媒粉末Aに酸化ロジウム(Rh2O3)をRh/Ti=1.0/100のモル比で、ヨウ化カリウム(KI)フラックスをKI/Tiを5/1のモル比でそれぞれ混合し、真空中で石英管に封入した後、800℃で24時間焼成を行った。その後、KIフラックス成分を水洗除去した後、濾過・乾燥し、前述の活性化処理を行うことで光触媒粉末Jを得た。
得られた光触媒粉末Jの水素生成光触媒活性の評価を行った結果を表1に示す。
【0067】
<実施例10>
実施例1記載の光触媒粉末Aに酸化ナトリウム(Na2O)をNa/Ti=1.0/100のモル比で、ヨウ化カリウム(KI)フラックスをKI/Tiを5/1のモル比でそれぞれ混合し、真空中で石英管に封入した後、800℃で24時間焼成を行った。その後、KIフラックス成分を水洗除去した後、濾過・乾燥し、前述の活性化処理を行うことで光触媒粉末Kを得た。
得られた光触媒粉末Kの水素生成光触媒活性の評価を行った結果を表1に示す。
【0068】
<実施例11>
実施例1記載の光触媒粉末Aに酸化カルシウム(CaO)をCa/Ti=1.0/100のモル比で、ヨウ化カリウム(KI)フラックスをKI/Tiを5/1のモル比でそれぞれ混合し、真空中で石英管に封入した後、800℃で24時間焼成を行った。その後、KIフラックス成分を水洗除去した後、濾過・乾燥し、前述の活性化処理を行うことで光触媒粉末Lを得た。
得られた光触媒粉末Lの水素生成光触媒活性の評価を行った結果を表1に示す。
【0069】
<実施例12>
実施例1記載の光触媒粉末Aに酸化ガドリニウム(Gd2O3)をGd/Ti=1.0/100のモル比で、ヨウ化カリウム(KI)フラックスをKI/Tiを5/1のモル比でそれぞれ混合し、真空中で石英管に封入した後、800℃で24時間焼成を行った。その後、KIフラックス成分を水洗除去した後、濾過・乾燥し、前述の活性化処理を行うことで光触媒粉末Mを得た。
得られた光触媒粉末Mの水素生成光触媒活性の評価を行った結果を表1に示す。
【0070】
<実施例13>
実施例1記載の光触媒粉末Aに酸化テルビウム(Tb2O3)をTb/Ti=1.0/100のモル比で、ヨウ化カリウム(KI)フラックスをKI/Tiを5/1のモル比でそれぞれ混合し、真空中で石英管に封入した後、800℃で24時間焼成を行った。その後、KIフラックス成分を水洗除去した後、濾過・乾燥し、前述の活性化処理を行うことで光触媒粉末Nを得た。
得られた光触媒粉末Nの水素生成光触媒活性の評価を行った結果を表1に示す。
【0071】
<実施例14>
実施例1記載の光触媒粉末Aに酸化イッテルビウム(Yb2O3)をYb/Ti=1.0/100のモル比で、ヨウ化カリウム(KI)フラックスをKI/Tiを5/1のモル比でそれぞれ混合し、真空中で石英管に封入した後、800℃で24時間焼成を行った。その後、KIフラックス成分を水洗除去した後、濾過・乾燥し、前述の活性化処理を行うことで光触媒粉末Oを得た。
得られた光触媒粉末Oの水素生成光触媒活性の評価を行った結果を表1に示す。
【0072】
<比較例1>
実施例1記載の光触媒粉末Aを用い、前述の活性化処理を行った上で、水素生成光触媒活性の評価を行った結果を表1に示す。
【0073】
<比較例2>
実施例1記載の光触媒粉末Aに酸化アルミニウム(Al2O3)をAl/Ti=2.0/100のモル比で、ヨウ化カリウム(KI)フラックスをKI/Tiを5/1のモル比でそれぞれ混合し、真空中で石英管に封入した後、800℃で24時間焼成を行った。その後、KIフラックス成分を水洗除去した後、濾過・乾燥し、前述の活性化処理を行うことで光触媒粉末Pを得た。
得られた光触媒粉末Pの水素生成光触媒活性の評価を行った結果を表1に示す。
【0074】
<比較例3>
実施例1記載の光触媒粉末Aに酸化スカンジウム(Sc2O3)をSc/Ti=2.0/100のモル比で、ヨウ化カリウム(KI)フラックスをKI/Tiを5/1のモル比でそれぞれ混合し、真空中で石英管に封入した後、800℃で24時間焼成を行った。その後、KIフラックス成分を水洗除去した後、濾過・乾燥し、前述の活性化処理を行うことで光触媒粉末Qを得た。
得られた光触媒粉末Qの水素生成光触媒活性の評価を行った結果を表1に示す。
【0075】
<比較例4>
実施例1記載の光触媒粉末Aに酸化バナジウム(V2O5)をV/Ti=1.0/100のモル比で、ヨウ化カリウム(KI)フラックスをKI/Tiを5/1のモル比でそれぞれ混合し、真空中で石英管に封入した後、800℃で24時間焼成を行った。その後、KIフラックス成分を水洗除去した後、濾過・乾燥し、前述の活性化処理を行うことで光触媒粉末Rを得た。
得られた光触媒粉末Rの水素生成光触媒活性の評価を行った結果を表1に示す。
【0076】
<比較例5>
実施例1記載の光触媒粉末Aに酸化クロム(Cr2O3)をCr/Ti=1.0/100のモル比で、ヨウ化カリウム(KI)フラックスをKI/Tiを5/1のモル比でそれぞれ混合し、真空中で石英管に封入した後、800℃で24時間焼成を行った。その後、KIフラックス成分を水洗除去した後、濾過・乾燥し、前述の活性化処理を行うことで光触媒粉末Sを得た。
得られた光触媒粉末Sの水素生成光触媒活性の評価を行った結果を表1に示す。
【0077】
<比較例6>
実施例1記載の光触媒粉末Aに酸化鉄(Fe2O3)をFe/Ti=1.0/100のモル比で、ヨウ化カリウム(KI)フラックスをKI/Tiを5/1のモル比でそれぞれ混合し、真空中で石英管に封入した後、800℃で24時間焼成を行った。その後、KIフラックス成分を水洗除去した後、濾過・乾燥し、前述の活性化処理を行うことで光触媒粉末Tを得た。
得られた光触媒粉末Tの水素生成光触媒活性の評価を行った結果を表1に示す。
【0078】
<比較例7>
実施例1記載の光触媒粉末Aに酸化スズ(SnO2)をSn/Ti=1.0/100のモル比で、ヨウ化カリウム(KI)フラックスをKI/Tiを5/1のモル比でそれぞれ混合し、真空中で石英管に封入した後、800℃で24時間焼成を行った。その後、KIフラックス成分を水洗除去した後、濾過・乾燥し、前述の活性化処理を行うことで光触媒粉末Uを得た。
得られた光触媒粉末Uの水素生成光触媒活性の評価を行った結果を表1に示す。
【0079】
<比較例8>
実施例1記載の光触媒粉末Aに酸化タングステン(WO3)をW/Ti=1.0/100のモル比で、ヨウ化カリウム(KI)フラックスをKI/Tiを5/1のモル比でそれぞれ混合し、真空中で石英管に封入した後、800℃で24時間焼成を行った。その後、KIフラックス成分を水洗除去した後、濾過・乾燥し、前述の活性化処理を行うことで光触媒粉末Vを得た。
得られた光触媒粉末Vの水素生成光触媒活性の評価を行った結果を表1に示す。
【0080】
<比較例9>
実施例1記載の光触媒粉末Aに酸化亜鉛(ZnO)をZn/Ti=1.0/100のモル比で、ヨウ化カリウム(KI)フラックスをKI/Tiを5/1のモル比でそれぞれ混合し、真空中で石英管に封入した後、800℃で24時間焼成を行った。その後、KIフラックス成分を水洗除去した後、濾過・乾燥し、前述の活性化処理を行うことで光触媒粉末Wを得た。
得られた光触媒粉末Wの水素生成光触媒活性の評価を行った結果を表1に示す。
【0081】
<比較例10>
実施例1記載の光触媒粉末Aに酸化ガリウム(Ga2O3)をGa/Ti=1.0/100のモル比で、ヨウ化カリウム(KI)フラックスをKI/Tiを5/1のモル比でそれぞれ混合し、真空中で石英管に封入した後、800℃で24時間焼成を行った。その後、KIフラックス成分を水洗除去した後、濾過・乾燥し、前述の活性化処理を行うことで光触媒粉末Xを得た。
得られた光触媒粉末Xの水素生成光触媒活性の評価を行った結果を表1に示す。
【0082】
<比較例11>
実施例1記載の光触媒粉末Aに酸化ジルコニウム(ZrO2)をZr/Ti=1.0/100のモル比で、ヨウ化カリウム(KI)フラックスをKI/Tiを5/1のモル比でそれぞれ混合し、真空中で石英管に封入した後、800℃で24時間焼成を行った。その後、KIフラックス成分を水洗除去した後、濾過・乾燥し、前述の活性化処理を行うことで光触媒粉末Yを得た。
得られた光触媒粉末Yの水素生成光触媒活性の評価を行った結果を表1に示す。
【0083】
【0084】
表1より、酸化アルミニウム(Al2O3)を添加した実施例1~3と比較例1の比較から、酸化アルミニウムを添加することで水素生成活性が2.6倍程度まで向上することが分かった。一方で、比較例2では酸化アルミニウムの添加量をAl/Ti=2.0/100(Ti2モルに対して0.4モル)のモル比まで増やしたことで、水素生成活性が著しく低下するなど、過剰な添加が触媒活性を損なう結果が得られた。
【0085】
また、酸化スカンジウム(Sc2O3)を添加した実施例4~6と比較例1の比較から、酸化スカンジウムを添加することで水素生成活性が3.2倍程度まで向上することが分かった。一方で、比較例3では酸化スカンジウムの添加量をSc/Ti=2.0/100(Ti2モルに対して0.4モル)のモル比まで増やしたことで、水素生成活性が著しく低下するなど、過剰な添加が触媒活性を損なう結果が得られた。
以上からY2Ti2O5S2光触媒(光触媒粉末A、比較例1)に対して特定の元素Mを添加することで、水素生成活性を向上可能なことが確認され、その添加量はM/Ti=2.0/100未満(Ti2モルに対して0.4モル未満)とすることが望ましいことが分かった。
【0086】
また、実施例2、6~14と比較例4~11の対比から様々な金属酸化物を添加した際の水素生成活性への影響が確認でき、特にSc、Al、Mg、Li、Rh、Na、Ca、Gd、Tb、Ybを添加する条件において、水素生成活性における大きな向上が確認された。
【0087】
添加成分による水素生成活性への影響を考察するうえで、実施例2、6~14と比較例4~11の水素生成速度について、下記基準で評価し、各添加元素がY2Ti2O5S2の構造中に取りうる酸化状態と水素生成活性への影響について表2にまとめた。
【0088】
<評価基準>
◎:比較例1の水素生成速度に対して2倍以上の水素生成速度を示す。
○:比較例1の水素生成速度に対して1.1倍以上2倍未満の水素生成速度を示す。
△:比較例1の水素生成速度に対して0.9倍以上1.1倍未満の水素生成速度を示す。
×:比較例1の水素生成速度に対して0.7倍以上0.9倍未満の水素生成速度を示す。
××:比較例1の水素生成速度に対して0.7倍未満の水素生成速度を示す。
【0089】
【0090】
表2より、水素生成光触媒活性を向上させ得る添加元素として、以下の2つの条件を満たすことが活性向上につながっていることが分かった。
1つ目の条件は、添加元素の安定な酸化状態が+3価以下であることである。即ち、Ti系光触媒では、アニオン(酸素、硫黄、窒素など)元素の欠損に伴い、本来安定な+4価の酸化状態で存在すべきTi元素が還元された+3価の状態などで存在し、電子状態に歪みが生じることで光触媒活性が低減されることが知られている。本発明では、安定な酸化状態が+3価以下の元素を添加することで、+3価のTi元素の生成を抑制し、良好な光触媒活性を達成している。
2つ目の条件は、添加元素の安定な酸化状態で形成する電子状態、即ち、6配位(八面体配位)状態において、最外殻軌道がs、p、f軌道である元素、または最外殻軌道がd軌道であり、そのd軌道に不対電子を持たず、そのeg軌道に電子を有さない元素であることである。この条件の理由の詳細は十分に明らかになっていないが、最外殻軌道がd軌道であり、そのd軌道に不対電子や、そのeg軌道に電子を有すると、本来Y2Ti2O5S2中において電子を有さず、配位するアニオン原子との電子的なつながりを有さない状態であるが、d電子軌道に添加元素由来の電子が導入されることで、半導体的な性質が損なわれ、光触媒としての機能が低下するものと推察される。