(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】人工肺
(51)【国際特許分類】
A61M 1/18 20060101AFI20250527BHJP
【FI】
A61M1/18 525
A61M1/18 510
(21)【出願番号】P 2021552415
(86)(22)【出願日】2020-10-14
(86)【国際出願番号】 JP2020038802
(87)【国際公開番号】W WO2021075466
(87)【国際公開日】2021-04-22
【審査請求日】2023-07-21
(31)【優先権主張番号】P 2019188935
(32)【優先日】2019-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】弁理士法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】川村 慎一
(72)【発明者】
【氏名】石原 和久
(72)【発明者】
【氏名】平間 圭祐
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/046224(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/005193(WO,A2)
【文献】実開平04-114348(JP,U)
【文献】特開2011-161145(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/268609(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/16ー1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にガス交換領域を有するハウジングと、
該ハウジングの該ガス交換領域に収容されてガス流路を形成するガス交換膜と、
該ガス流路へ酸素を含む供給ガスを導入するガス入口ポートと、
該ガス流路から二酸化炭素を含む排出ガスを導出するガス出口ポートと、
該ハウジングの該ガス交換領域に血液を導入する血液入口ポートと、
該ハウジングの該ガス交換領域から血液を導出する血液出口ポートと
を、備えており、使用状態において、
該ガス入口ポートが該ハウジングの上壁部に設けられて、
該ガス出口ポートが該ハウジングの下壁部に設けられ、
該血液入口ポートが該ハウジングの第1側壁部に設けられていると共に、該血液出口ポートが該ハウジングの該第1側壁部と対向する第2側壁部に設けられて、
該血液出口ポートが該ハウジングの該第2側壁部の上下中間部分に位置しており、
該血液出口ポートが設けられた該ハウジングの該第2側壁部には、該血液出口ポートに向けて収束するテーパ状の出口側案内部が設けられており、
該第2側壁部の内面には、該血液出口ポートの開口に向かって延びて血液を該血液出口ポートの開口へ向けて案内する出口側ガイドフィンが突出している人工肺。
【請求項2】
内部にガス交換領域を有するハウジングと、
該ハウジングの該ガス交換領域に収容されてガス流路を形成するガス交換膜と、
該ガス流路へ酸素を含む供給ガスを導入するガス入口ポートと、
該ガス流路から二酸化炭素を含む排出ガスを導出するガス出口ポートと、
該ハウジングの該ガス交換領域に血液を導入する血液入口ポートと、
該ハウジングの該ガス交換領域から血液を導出する血液出口ポートと
を、備えており、使用状態において、
該ガス入口ポートが該ハウジングの上壁部に設けられて、
該ガス出口ポートが該ハウジングの下壁部に設けられ、
該血液入口ポートが該ハウジングの第1側壁部
の下部に設けられていると共に、該血液出口ポートが該ハウジングの該第1側壁部と対向する第2側壁部に設けられて、
該血液出口ポートが該ハウジングの該第2側壁部の上下中間部分に位置しており、
該血液出口ポートが設けられた該ハウジングの該第2側壁部には、該血液出口ポートに向けて収束するテーパ状の出口側案内部が設けられており、
該血液入口ポートが該ガス交換膜の前面と平行に延びており、該血液入口ポートが該第1側壁部に設けられたテーパ状の入口側案内部を介して該ガス交換領域に連通されている人工肺。
【請求項3】
内部にガス交換領域を有するハウジングと、
該ハウジングの該ガス交換領域に収容されてガス流路を形成するガス交換膜と、
該ガス流路へ酸素を含む供給ガスを導入するガス入口ポートと、
該ガス流路から二酸化炭素を含む排出ガスを導出するガス出口ポートと、
該ハウジングの該ガス交換領域に血液を導入する血液入口ポートと、
該ハウジングの該ガス交換領域から血液を導出する血液出口ポートと
を、備えており、使用状態において、
該ガス入口ポートが該ハウジングの上壁部に設けられて、
該ガス出口ポートが該ハウジングの下壁部に設けられ、
該血液入口ポートが該ハウジングの第1側壁部
の下部に設けられていると共に、該血液出口ポートが該ハウジングの該第1側壁部と対向する第2側壁部に設けられて、
該血液出口ポートが該ハウジングの該第2側壁部の上下中間部分に位置しており、
該血液出口ポートが設けられた該ハウジングの該第2側壁部には、該血液出口ポートに向けて収束するテーパ状の出口側案内部が設けられており、
該血液出口ポートが該ガス交換膜の後面と平行に延びており、該血液出口ポートが該第2側壁部に設けられた該出口側案内部を介して該ガス交換領域に連通されている人工肺。
【請求項4】
前記血液入口ポートが前記ガス交換膜の前面と平行に延びており、該血液入口ポートが前記第1側壁部に設けられたテーパ状の入口側案内部を介して前記ガス交換領域に連通されている請求項3に記載の人工肺。
【請求項5】
内部にガス交換領域を有するハウジングと、
該ハウジングの該ガス交換領域に収容されてガス流路を形成するガス交換膜と、
該ガス流路へ酸素を含む供給ガスを導入するガス入口ポートと、
該ガス流路から二酸化炭素を含む排出ガスを導出するガス出口ポートと、
該ハウジングの該ガス交換領域に血液を導入する血液入口ポートと、
該ハウジングの該ガス交換領域から血液を導出する血液出口ポートと
を、備えており、使用状態において、
該ガス入口ポートが該ハウジングの上壁部に設けられて、
該ガス出口ポートが該ハウジングの下壁部に設けられ、
該血液入口ポートが該ハウジングの第1側壁部
の下部に設けられていると共に、該血液出口ポートが該ハウジングの該第1側壁部と対向する第2側壁部に設けられて、
該血液出口ポートが該ハウジングの該第2側壁部の上下中間部分に位置しており、
該血液出口ポートが設けられた該ハウジングの該第2側壁部には、該血液出口ポートに向けて収束するテーパ状の出口側案内部が設けられており、
該ガス交換膜の前面と平行な方向において、該血液入口ポートが該第1側壁部における水平方向の一方の端部側に設けられていると共に、該血液出口ポートが該第2側壁部における水平方向の他方の端部側に設けられている人工肺。
【請求項6】
内部にガス交換領域を有するハウジングと、
該ハウジングの該ガス交換領域に収容されてガス流路を形成するガス交換膜と、
該ガス流路へ酸素を含む供給ガスを導入するガス入口ポートと、
該ガス流路から二酸化炭素を含む排出ガスを導出するガス出口ポートと、
該ハウジングの該ガス交換領域に血液を導入する血液入口ポートと、
該ハウジングの該ガス交換領域から血液を導出する血液出口ポートと
を、備えており、使用状態において、
該ガス入口ポートが該ハウジングの上壁部に設けられて、
該ガス出口ポートが該ハウジングの下壁部に設けられ、
該血液入口ポートが該ハウジングの第1側壁部に設けられていると共に、該血液出口ポートが該ハウジングの該第1側壁部と対向する第2側壁部に設けられて、
該血液出口ポートが該ハウジングの該第2側壁部の上下中間部分に位置しており、
該血液出口ポートが設けられた該ハウジングの該第2側壁部には、該血液出口ポートに向けて収束するテーパ状の出口側案内部が設けられており、
該血液入口ポートが該第1側壁部の下部に位置しており、
該血液入口ポートが設けられた該第1側壁部の内面には、該血液入口ポートの開口から上傾して延びる入口側ガイドフィンが突出している人工肺。
【請求項7】
前記ガス交換膜は、前記第1側壁部と前記第2側壁部の間で圧縮されて前記ハウジングに固定されている請求項1~
6の何れか1項に記載の人工肺。
【請求項8】
前記ハウジングの内部に温度調節領域が設けられて、血液の温度を調節する温度調節器が該温度調節領域に配されており、該温度調節器が前記第1側壁部と前記第2側壁部の間で圧縮されて該ハウジングに固定されている請求項1~
7の何れか1項に記載の人工肺。
【請求項9】
前記ハウジングの内部には、血液の温度を調節するための温度調節領域が設けられて、
該温度調節領域に温度調節用流体を導入する温調流体入口ポートが該ハウジングに設けられていると共に、
該温度調節領域から該温度調節用流体を導出させる温調流体出口ポートが該ハウジングに設けられており、
使用状態において、前記血液入口ポートと前記血液出口ポートが、該温調流体入口ポートと該温調流体出口ポートの何れよりも上側に位置している請求項1~
8の何れか1項に記載の人工肺。
【請求項10】
前記ハウジングが短軸方向を有する扁平な形状とされており、
該ハウジングの内部に設けられた血液の温度を調節するための温度調節領域が、前記ガス交換領域に対して該ハウジングの該短軸方向に並んで配されている請求項1~
9の何れか1項に記載の人工肺。
【請求項11】
前記ハウジングの内部に設けられた血液の温度を調節するための温度調節領域に複数の伝熱管が設けられており、それら伝熱管の内腔に長さ方向で波打つ波板状の撹拌板が挿入されている請求項1~
10の何れか1項に記載の人工肺。
【請求項12】
前記ハウジングが前記ガス流路の長さ方向に広がる第3側壁部を備えており、
該ガス交換膜の外周面の両端部を該ハウジングに対して固定する第1樹脂層と、該第3側壁部と該ガス交換膜との間に介在された第2樹脂層とを備えている請求項1~
11の何れか1項に記載の人工肺。
【請求項13】
前記第2樹脂層は、前記ガス交換領域において前記ガス流路の長さ方向に延びて設けられている請求項
12に記載の人工肺。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、心停止下での心臓手術などにおいて体外循環に用いられる人工肺に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、体外循環において血液との間でガス交換を行って血液を酸素化するために用いられる人工肺が知られている。人工肺は、ハウジング内に設けられたガス交換領域に中空糸などからなるガス交換膜が配されており、中空糸の外側を流れる血液に対して、中空糸の内側に導入された供給ガスから酸素が供給される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、人工肺において、ガス交換領域に外部から供給ガスを導入するガス入口ポートは、結露時に水滴がガス入口ポートや中空糸の内腔に溜まるのを防ぐために、ハウジングの上壁部に形成されており、供給ガスがハウジングの上端から下向きに導入されるようになっている場合がある。このような人工肺では、ガス入口ポートに近い上側において血液が酸素化され易く、ガス入口ポートから遠い下側において血液が酸素化され難い。
【0004】
しかしながら、酸素化され易い上側の血液を取り出すために、血液出口ポートが単純にハウジングの上端部に設けられると、万が一血液中に気泡が混入した場合に、浮力で上昇した気泡が血流によって血液出口ポートから送り出されるおそれがあった。また、上側の血液だけが血液出口ポートから取り出されることによって、酸素化され難い下側の血液がガス交換領域に滞留することも考えられた。
【0005】
本発明の解決課題は、血液を安定して酸素化することができると共に、血液への気泡の混入に対して安全性を確保することができる、新規な構造の人工肺を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、本発明を把握するための好ましい態様について記載するが、以下に記載の各態様は、例示的に記載したものであって、適宜に互いに組み合わせて採用され得るだけでなく、各態様に記載の複数の構成要素についても、可能な限り独立して認識及び採用することができ、適宜に別の態様に記載の何れかの構成要素と組み合わせて採用することもできる。それによって、本発明では、以下に記載の態様に限定されることなく、種々の別態様が実現され得る。
【0007】
第1の態様は、人工肺であって、内部にガス交換領域を有するハウジングと、該ハウジングの該ガス交換領域に収容されてガス流路を形成するガス交換膜と、該ガス流路へ酸素を含む供給ガスを導入するガス入口ポートと、該ガス流路から二酸化炭素を含む排出ガスを導出するガス出口ポートと、該ハウジングの該ガス交換領域に血液を導入する血液入口ポートと、該ハウジングの該ガス交換領域から血液を導出する血液出口ポートとを、備えており、使用状態において、該ガス入口ポートが該ハウジングの上壁部に設けられて、該ガス出口ポートが該ハウジングの下壁部に設けられ、該血液入口ポートが該ハウジングの第1側壁部に設けられていると共に、該血液出口ポートが該ハウジングの該第1側壁部と対向する第2側壁部に設けられて、該血液出口ポートが該ハウジングの該第2側壁部の上下中間部分に位置しており、該血液出口ポートが設けられた該ハウジングの該第2側壁部には、該血液出口ポートに向けて収束するテーパ状の出口側案内部が設けられているものである。
【0008】
本態様に従う構造とされた人工肺によれば、血液出口ポートがハウジングの上下中間部分に設けられることにより、万が一、血液中に空気が混入しても、空気が浮力によって血液出口ポートよりも上側まで浮上してハウジング内に留まり易く、血液出口ポートから外部に排出され難い。
【0009】
血液出口ポートに向けて収束するテーパ状の出口側案内部が設けられていることにより、より広い範囲の血液が血液出口ポートに流れ込んで外部へ導出される。それ故、血液出口ポートから外部へ導出される血液において、酸素分圧の均一化などが図られる。
【0010】
例えば、血液出口ポートが血液入口ポートより上側に位置していれば、血液入口ポートから入った血液が血液出口ポートに向かって流れることによって、下方から上方へ向かう血液の流れが形成され易い。それ故、ガス交換領域の血液が撹拌され易くなると共に、上方のガスポートから酸素が供給されるガス交換領域において、血液がより効率的に酸素化される。更に、血液入口ポートが下側に位置していれば、プライミング液が血液入口ポートからハウジング内へ導入される際に、落差による空気の巻き込みが生じ難い。
【0011】
また、例えば、血液入口ポートが血液出口ポートと同様に上下方向の中間に設けられていれば、上下方向の端部に設けられている場合に比して、ハウジング内において血液入口ポートから極端に遠い領域ができ難い。それ故、ハウジング内の血液に強い流れを設定しなくても、ハウジング内の全体において血液を循環させることができる。
【0012】
第2の態様は、第1の態様に記載された人工肺において、前記ガス交換膜は、前記第1側壁部と前記第2側壁部の間で圧縮されて前記ハウジングに固定されているものである。
【0013】
本態様に従う構造とされた人工肺によれば、例えば、ガス交換膜の辺縁部がハウジングに対して圧縮状態で収容されることによって、血液がガス交換領域の辺縁部に流動し難くなり、ガス交換領域においてガス交換膜が存在しない部分を通じた血液の短絡を防止することができる。その結果、血液がガス交換領域におけるガス交換膜の存在する部分を効率的に流動することとなって、ガス交換効率の向上などが図られる。
【0014】
第3の態様は、第1又は第2の態様に記載された人工肺において、前記ハウジングの内部に温度調節領域が設けられて、血液の温度を調節する温度調節器が該温度調節領域に配されており、該温度調節器が前記第1側壁部と前記第2側壁部の間で圧縮されて該ハウジングに固定されているものである。
【0015】
本態様に従う構造とされた人工肺によれば、例えば、温度調節器の辺縁部がハウジングに対して圧縮状態で収容されることによって、血液が温度調節領域の辺縁部に流動し難くなり、温度調節領域において温度調節器が存在しない部分を通じた血液の短絡を防止することができる。その結果、血液が温度調節領域における温度調節器の存在する部分を効率的に流動することとなって、熱交換効率の向上などが図られる。
【0016】
第4の態様は、第1~第3の何れか1つの態様に記載された人工肺において、前記血液入口ポートが前記第1側壁部の下部に位置しているものである。
【0017】
本態様に従う構造とされた人工肺によれば、血液出口ポートが血液入口ポートより上側に位置しており、血液入口ポートから入った血液が血液出口ポートに向かって流れることによって、下方から上方へ向かう血液の流れが形成され易い。それ故、ガス交換領域の血液が撹拌され易くなると共に、上方のガス入口ポートから酸素が供給されるガス交換領域において、血液がより効率的に酸素化される。
【0018】
さらに、血液入口ポートが第1側壁部の下部に位置していることによって、プライミング液が血液入口ポートからハウジング内へ導入される際に、落差が小さくなって、空気を巻き込み難い。
【0019】
第5の態様は、第4の態様に記載された人工肺において、前記血液入口ポートが設けられた前記第1側壁部の内面には、該血液入口ポートの開口から上傾して延びる入口側ガイドフィンが突出しているものである。
【0020】
本態様に従う構造とされた人工肺によれば、下部に位置する血液入口ポートから入った血液が、ガイドフィンに案内されて上方へ導かれて撹拌され易くなる。これにより、血液出口ポートから導出される血液の酸素分圧の安定化などが図られる。
【0021】
第6の態様は、第1~第5の何れか1つの態様に記載された人工肺において、前記血液入口ポートが前記ガス交換膜と平行に延びており、該血液入口ポートが前記第1側壁部に設けられたテーパ状の入口側案内部を介して前記ガス交換領域に連通されていると共に、前記血液出口ポートが該ガス交換膜と平行に延びており、該血液出口ポートが前記第2側壁部に設けられた前記出口側案内部を介して該ガス交換領域に連通されているものである。
【0022】
本態様に従う構造とされた人工肺によれば、ガス交換膜と平行な方向で血液入口ポートから血液出口ポートへ向かう血液の流れが、形成され易くなる。それ故、血液がガス交換領域の全域にわたって均一に流動しやすくなり、ハウジングの内部から導出される血液において、酸素分圧のばらつきなどが低減されて、所定の酸素分圧の血液を安定して患者に供給することができる。
【0023】
第7の態様は、第1~第6の何れか1つの態様に記載された人工肺において、前記ガス交換膜と平行な方向において、前記血液入口ポートが前記第1側壁部における一方の端部に設けられていると共に、前記血液出口ポートが前記第2側壁部における他方の端部に設けられているものである。
【0024】
本態様に従う構造とされた人工肺によれば、血液入口ポートから導入される血液が、ガス交換膜に沿う方向で広い範囲に分散してハウジング内へ導入される。また、ガス交換膜に沿う方向で広い範囲の血液が、血液出口ポートから外部へ導出される。これにより、ハウジングの内部から導出される血液において、酸素分圧などのばらつきが低減されて、所定の酸素分圧の血液を安定して患者に供給することができる。
【0025】
第8の態様は、第1~第7の何れか1つの態様に記載された人工肺において、前記ハウジングの内部には、血液の温度を調節するための温度調節領域が設けられて、該温度調節領域に温度調節用流体を導入する温調流体入口ポートが該ハウジングに設けられていると共に、該温度調節領域から該温度調節用流体を導出させる温調流体出口ポートが該ハウジングに設けられており、使用状態において、前記血液入口ポートと前記血液出口ポートが、該温調流体入口ポートと該温調流体出口ポートの何れよりも上側に位置しているものである。
【0026】
本態様に従う構造とされた人工肺によれば、万が一、温度調節用流体が温調流体入口ポート又は温調流体出口ポートから漏れたとしても、漏れた温度調節用流体が血液入口ポートと血液出口ポートに接触するのを防ぐことができる。これにより、血液の流路の汚染が防止されて、血液の流路が清潔に保たれる。
【0027】
第9の態様は、第1~第8の何れか1つの態様に記載された人工肺において、前記ハウジングが短軸方向を有する扁平な形状とされており、該ハウジングの内部に設けられた血液の温度を調節するための温度調節領域が、前記ガス交換領域に対して該ハウジングの該短軸方向に並んで配されているものである。
【0028】
本態様に従う構造とされた人工肺によれば、温度調節領域とガス交換領域が、ハウジングの短軸方向と直交する方向の断面積を大きく確保される。それ故、ハウジング内を短軸方向に流れる血液に対して、温度調節領域における温度調節と、ガス交換領域におけるガス交換とが、それぞれ効率的に実行される。
【0029】
第10の態様は、第1~第9の何れか1つの態様に記載された人工肺において、前記ハウジングの内部に設けられた血液の温度を調節するための温度調節領域に複数の伝熱管が設けられており、それら伝熱管の内腔に長さ方向で波打つ波板状の撹拌板が挿入されているものである。
【0030】
本態様に従う構造とされた人工肺によれば、伝熱管内を流動する温度調節用流体が撹拌板によって乱流を生じることにより、血液と温度調節用流体の間における熱交換の効率の向上が図られる。
【0031】
第11の態様は、第1~第10の何れか1つの態様に記載された人工肺において、前記ハウジングが前記ガス流路の長さ方向に広がる第3側壁部を備えており、該ガス交換膜の外周面の両端部を該ハウジングに対して固定する第1樹脂層と、該第3側壁部と該ガス交換膜との間に介在された第2樹脂層とを備えているものである。
【0032】
本態様に従う構造とされた人工肺によれば、血液の流動方向において、ガス交換膜の外周面の両端部が第1樹脂層によってハウジングに固定されると共に、血液の流動方向と直交する方向では、ガス交換膜とハウジングの間に第2樹脂層が介在している。これらによって、血液がガス交換膜とハウジングの間を通じて短絡するようにハウジングの内面に沿って流れることを防いで、血液がガス交換膜の内部領域を効率的に流動する。
【0033】
第12の態様は、第11の態様に記載された人工肺において、前記第2樹脂層は、前記ガス交換領域において前記ガス流路の長さ方向に延びて設けられているものである。
【0034】
本態様に従う構造とされた人工肺によれば、第2樹脂層がガス流路の長さ方向に延びて所定の長さで設けられることにより、ガス交換膜とハウジングの間を通じた血液の流動が第2樹脂層によって広い範囲で防止されて、ガス交換膜とハウジングの間を通じた血液の短絡を第2樹脂層によって効果的に防ぐことができる。
【0035】
また、第13の態様は、人工肺であって、内部にガス交換領域を有するハウジングと、該ハウジングの該ガス交換領域に収容されてガス流路を形成するガス交換膜と、該ガス流路へ酸素を含む供給ガスを導入するガス入口ポートと、該ガス流路から二酸化炭素を含む排出ガスを導出するガス出口ポートと、該ハウジングの該ガス交換領域に血液を導入する血液入口ポートと、該ハウジングの該ガス交換領域から血液を導出する血液出口ポートとを、備えており、使用状態において、該ガス入口ポートが該ハウジングの上壁部に設けられて、該ガス出口ポートが該ハウジングの下壁部に設けられ、該血液入口ポートが該ハウジングの第1側壁部の上下中央部分に設けられていると共に、該血液出口ポートが該ハウジングの該第1側壁部と対向する第2側壁部の上下中央部分に設けられて、該血液入口ポートが設けられた該ハウジングの該第1側壁部には、該血液入口ポートに向けて収束するテーパ状の入口側案内部が設けられていると共に、該血液出口ポートが設けられた該ハウジングの該第2側壁部には、該血液出口ポートに向けて収束するテーパ状の出口側案内部が設けられており、該血液入口ポートに接続される入口側チューブが該血液入口ポートに向けて上傾していると共に、該血液出口ポートに接続される出口側チューブが該血液出口ポートに向けて上傾しているものである。
【0036】
本態様に従う構造とされた人工肺によれば、血液入口ポートに向けて収束するテーパ状の入口側案内部が設けられていることにより、血液入口ポートからハウジング内へ導入される血液が入口側案内部に沿ってハウジング内の広い範囲へ拡散し易くなる。これにより、血液がより広い範囲でガス交換膜に接して、ガス交換の効率の向上が図られる。また、血液出口ポートに向けて収束するテーパ状の出口側案内部が設けられていることにより、より広い範囲の血液が血液出口ポートに流れ込んで外部へ導出される。それ故、血液出口ポートから外部へ導出される血液において、酸素分圧の均一化などが図られる。
【0037】
血液入口ポートと血液出口ポートが何れも上下方向の中央に設けられていることにより、上下方向の端部に設けられている場合に比して、ハウジング内において血液入口ポートと血液出口ポートから極端に遠い領域ができ難い。それ故、ハウジング内の血液に強い流れを設定しなくても、ハウジング内の全体において血液を循環させることができる。
【0038】
血液入口ポートに接続される入口側チューブが血液入口ポートに向けて上傾していると共に、血液出口ポートに接続される出口側チューブが血液出口ポートに向けて上傾していることにより、血液がハウジング内の上部を流れ易くなる。これにより、重力の作用によって血液が導かれ難くなり易いハウジング内の上部にも血液が十分に流れて、血液のガス交換膜への実質的な接触面積を大きく得ることでガス交換効率の向上が図られる。特に、ガス入口ポートがハウジングの上壁部に設けられており、ハウジング内の上部は血液のガス交換効率が高いことから、血液をハウジング内の上部に導き易くすることで、ガス交換効率の向上が有利に実現される。
【発明の効果】
【0039】
本発明によれば、人工肺において、血液を安定して酸素化することができると共に、血液への気泡の混入に対して安全性を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本発明の第1の実施形態としての人工肺を示す斜視図
【
図10】
図3に示す人工肺を構成する第1壁部材の斜視図
【
図12】
図3に示す人工肺を構成する第2壁部材の斜視図
【
図14】本発明の第2の実施形態としての人工肺を示す断面図
【
図15】本発明の別の1実施形態としての人工肺を構成する伝熱管の部分断面図
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0042】
図1~9には、本発明の第1の実施形態としての人工肺10が示されている。人工肺10は、ハウジング12を備えている。以下の説明において、原則として、上下方向とはハウジング12の高さ方向である
図3中の上下方向を、前後方向とはハウジング12の厚さ方向である
図7中の左右方向を、左右方向とはハウジング12の幅方向である
図3中の左右方向を、それぞれ言う。
【0043】
ハウジング12は、全体として中空の矩形ボックス状とされている。ハウジング12は、
図1に示すように、厚さ方向の外法寸法Tが、高さ方向の外法寸法H及び幅方向の外法寸法Wよりも小さくされており、厚さ方向(前後方向)を短軸方向とする扁平な形状とされている。ハウジング12は、全体が或いは部分的に金属で形成され得るが、本実施形態では、例えば硬質の合成樹脂で形成される。
【0044】
ハウジング12は、周壁部を構成する第1壁部材14及び第2壁部材16と、下壁部を構成する底部材18と、上壁部を構成する蓋部材20とを、備えている。
【0045】
第1壁部材14は、
図10,11に示すように、第1側壁部22の左右両端部から後述する第2側壁部34に向けて第1連結壁部24,24が突出した構造を有している。
【0046】
第1側壁部22には、左右方向の一方(
図3中の左方)の端部に入口側案内部26が設けられている。入口側案内部26は、第1側壁部22の外側へ向けて突出しており、内面及び外面が突出先端に向けて収縮するテーパ形状とされている。入口側案内部26の突出先端は、第1側壁部22の下部に位置している。入口側案内部26は、第1側壁部22の上部まで広がっており、突出先端から上方に向かって左右方向の幅が次第に大きくなっている。
【0047】
第1側壁部22における左右方向の一方の端部には、血液入口ポート28が設けられている。血液入口ポート28は、
図2,7,10に示すように、入口側案内部26の突出先端部分を貫通しており、入口側案内部26が血液入口ポート28に向かって収束している。血液入口ポート28は、入口側案内部26の突出先端部分から左右方向の一方側へ突出する筒状の入口管路接続部30を備えている。入口管路接続部30は、左右方向に直線的に延びているが、例えば、左右方向に対して上下方向や前後方向に傾斜して延びていても良い。
【0048】
第1側壁部22の内面には、
図10,11に示すように、入口側ガイドフィン32が設けられている。入口側ガイドフィン32は、第1側壁部22の内面に突出しており、血液入口ポート28の開口付近から第1側壁部22の略対角方向へ向けて上傾するように延びている。第1側壁部22には、3つの入口側ガイドフィン32a,32b,32cが設けられている。中間の入口側ガイドフィン32bが第1側壁部22の対角方向に延びていると共に、入口側ガイドフィン32a,32cは、入口側ガイドフィン32bに対して傾斜して延びている。これにより、入口側ガイドフィン32a,32cと入口側ガイドフィン32bの距離が、血液入口ポート28から離れるに従って大きくなっている。入口側ガイドフィン32は、血液入口ポート28から離れるに従って第1側壁部22の内面からの突出高さが次第に小さくなっている。入口側ガイドフィン32は、血液入口ポート28付近から直線的に延びていても良いし、連続的に傾斜角度が変化する湾曲形状で延びていても良いし、段階的に傾斜角度が変化する屈折形状で延びていても良い。
【0049】
第1連結壁部24は、突出先端部分の外面に突出する係止部33を有している。本実施形態では、第1連結壁部24の突出先端部分の上下全体において外面に突出する凸部が設けられて、該凸部の突出先端面と第1連結壁部24の外面とが、上下方向の中央部分においてテーパ面で段差なく連続している。そして、係止部33が、テーパ面を外れた該凸部の上下方向の両端部分によって構成されている。
【0050】
第2壁部材16は、
図12,13に示すように、第1側壁部22と対向して配置される第2側壁部34の左右両端部から第1側壁部22に向けて第2連結壁部36,36が突出した構造を有している。
【0051】
第2側壁部34は、左右方向の他方(
図4中の左方)の端部に出口側案内部38を備えている。出口側案内部38は、第2側壁部34の外側へ向けて突出しており、内面及び外面が突出先端に向けて収縮するテーパ形状とされている。出口側案内部38の突出先端は、上下方向において第2側壁部34の中間部分に位置している。出口側案内部38は、第2側壁部34の上部及び下部までは達しておらず、上下方向の中間部分にのみ設けられている。
【0052】
第2側壁部34における左右方向の他方の端部には、血液出口ポート40が設けられている。血液出口ポート40は、
図8,12に示すように、出口側案内部38の突出先端部分を貫通しており、出口側案内部38が血液出口ポート40に向かって収束している。血液出口ポート40は、出口側案内部38の突出先端部分から左右方向の他方側へ突出する筒状の出口管路接続部42を備えている。出口管路接続部42は、左右方向に直線的に延びているが、例えば、左右方向に対して上下方向や前後方向に傾斜して延びていても良い。
【0053】
血液入口ポート28が第1側壁部22の下部に設けられていると共に、血液出口ポート40が第2側壁部34の上下方向の中央部分に設けられている。これにより、血液出口ポート40が血液入口ポート28よりも上側に位置している。血液入口ポート28は、例えば、上下方向で血液出口ポート40と同じ高さに設けられていても良いし、血液出口ポート40よりも上側に設けられていても良い。血液出口ポート40は、上端部及び下端部を外れた上下方向の中間部分に設けられていれば良く、上下方向において中央を外れた中間部分に設けられ得る。
【0054】
第2側壁部34の内面には、
図12,13に示すように、出口側ガイドフィン44が設けられている。出口側ガイドフィン44は、第2側壁部34の内面に突出しており、第2側壁部34における血液出口ポート40の開口付近から左右方向に延びている。第2側壁部34には、5つの出口側ガイドフィン44a,44b,44c,44d,44eが設けられている。左右方向に延びる上下中央の出口側ガイドフィン44cに対して、出口側ガイドフィン44a,44bが血液出口ポート40の開口付近から上傾して延びていると共に、出口側ガイドフィン44d,44eが血液出口ポート40の開口付近から下傾して延びている。出口側ガイドフィン44は、第2側壁部34の内面からの突出高さが略一定とされている。出口側ガイドフィン44は、血液出口ポート40付近から直線的に延びていても良いし、連続的に傾斜角度が変化する湾曲形状で延びていても良いし、段階的に傾斜角度が変化する屈折形状で延びていても良い。
【0055】
第2連結壁部36は、突出先端部分の内面に突出する係止爪部45を有している。係止爪部45は、第2連結壁部36の上下方向の両端部分にそれぞれ設けられている。係止爪部45は、第2連結壁部36から内側への突出寸法が、第2連結壁部36の突出先端側へ向かって小さくなっており、突出先端面がテーパ面とされている。
【0056】
そして、第1壁部材14と第2壁部材16は、
図9に示すように、第1連結壁部24,24の突出先端部分と第2連結壁部36,36の突出先端部分とが機械的な係合、接着又は溶着などの手段で相互に連結されることにより四角筒状とされて、ハウジング12の周壁部を構成する。本実施形態では、第2連結壁部36,36の突出先端部分に設けられた係止爪部45,45,45,45が、第1連結壁部24,24の突出先端部分に設けられた係止部33,33,33,33に係止されることにより、第1壁部材14と第2壁部材16が固定される。ハウジング12には、前後方向の側壁部22,34に対して、血液入口ポート28と血液出口ポート40が設けられている。
【0057】
底部材18は、
図2に示すように、全体として四角皿形状とされており、第1壁部材14と第2壁部材16によって構成されたハウジング12の周壁部の下端部を嵌め入れることが可能とされている。底部材18には、
図3,4に示すように、温調流体入口ポート46と温調流体出口ポート48が設けられている。
【0058】
温調流体入口ポート46は、底部材18における前後方向の第1側壁部22側の端部に設けられて、底部材18の一方の縦壁を左右方向に貫通している。温調流体入口ポート46は、筒状とされており、左右方向の外側へ向けて延び出している。
【0059】
温調流体出口ポート48は、底部材18における前後方向の第1側壁部22側の端部に設けられて、底部材18の他方の縦壁を左右方向に貫通している。温調流体出口ポート48は、筒状とされており、左右方向の外側へ向けて、温調流体入口ポート46と逆向きに延び出している。
【0060】
底部材18の底部には、
図6に示すように、ガス出口ポート50が設けられている。ガス出口ポート50は、底部材18の底部を貫通する4つの孔によって構成されている。ガス出口ポート50は、温調流体入口ポート46及び温調流体出口ポート48よりも前後方向で第2側壁部34側に設けられている。
【0061】
蓋部材20は、
図1~
図5に示すように、全体として上下逆向きの四角皿形状とされており、第1壁部材14と第2壁部材16によって構成されたハウジング12の周壁部の上端部を嵌め入れることが可能とされている。蓋部材20には、ガス入口ポート52が設けられている。ガス入口ポート52は、蓋部材20を上下方向に貫通して上方へ延び出して設けられており、左右方向の一方側へ向けて延び出している。
【0062】
そして、第1壁部材14と第2壁部材16によって構成された周壁部に対して、下端部に底部材18が嵌め付けられると共に、上端部に蓋部材20が嵌め付けられることにより、中空ボックス状のハウジング12が構成される。第1壁部材14と第2壁部材16と底部材18と蓋部材20は、相互に流体密に組み付けられて、血液の漏出が防止される。第1壁部材14と第2壁部材16と底部材18と蓋部材20は、シリコーンやゴムなどでシールされて非接着で嵌め合わされていても良いし、接着や熱溶着などの手段によって固着されていても良い。
【0063】
ハウジング12は、後述するガス交換膜62のガス流路66の流路長方向(上下方向)に延在する第3側壁部53を備えている。第3側壁部53は、第1壁部材14の第1連結壁部24と第2壁部材16の第2連結壁部36によって構成されている。第3側壁部53は、第1,第2側壁部22,34と略直交して広がっていると共に、後述するガス流路66の流路長方向である上下方向に延びている。なお、第3側壁部53は、相互に対向する一対が設けられている。
【0064】
ハウジング12の内部には、
図9に示すように、温度調節領域54とガス交換領域56が設けられている。温度調節領域54とガス交換領域56は、扁平なハウジング12の短軸方向である前後方向に並んで設けられている。
【0065】
温度調節領域54には、複数の伝熱管58によって構成された温度調節器60が収容されている。温度調節器60は、ポリウレタンなどの合成樹脂によって形成された伝熱管58の複数が、互いに平行に延びるように配された構造を有している。温度調節器60を構成する伝熱管58の内腔が延びる管軸方向は、ハウジング12の厚さ方向と直交する左右方向とされている。温度調節器60は、例えば、外周部分がハウジング12に接着されることにより、ハウジング12に対して位置決めされている。
【0066】
温度調節器60を構成する伝熱管58の内腔は、両端の開口部が温調流体入口ポート46と温調流体出口ポート48に接続されている。冷水又は温水といった温度調節用流体が、温調流体入口ポート46から導入されて伝熱管58の内腔を流れた後、温調流体出口ポート48から外部へ導出される。温調流体出口ポート48から導出された温度調節用流体は、加熱器(ヒーター)又は放熱器などによって適温まで加温又は冷却された後、温調流体入口ポート46から温度調節器60へ再び導入される。
【0067】
温度調節器60は、
図9に示すように、第1壁部材14と第2壁部材16によって、より詳しくは第1壁部材14とスペーサ64とによって、端部が血液の流動方向に圧縮された状態で、ハウジング12に固定されている。即ち、第1,第2側壁部22,34の対向方向における温度調節器60は、少なくとも第1側壁部22とスペーサ64との対向面間に位置する周縁端部(辺縁部)において、ハウジング12に固定された後の方が、ハウジング12に固定される前よりも、厚さ寸法が小さくなって圧縮状態とされている。このように構成されることで、温度調節器60の外面とハウジング12の内面とが密着し、温度調節器60とハウジング12との間の隙間を少なくして、ハウジング12の内面に沿った血液の流れを抑えることができる。その結果、血液が複数の伝熱管58で構成された温度調節器60内部の全体を流れやすくなり、温度調節器60と血液の接触面積が増すことによる熱交換効率の向上などが図られる。特に、本実施形態では、温度調節器60のハウジング12への装着による圧縮変形率が、上下方向の両端部だけでなく、第3側壁部53,53が対向する方向の両端部においても、各方向の中央部分よりも大きくされており、より強い固定力などが実現されている。本実施形態では、第1側壁部22とスペーサ64との対向面間を外れた内周部分において、温度調節器60が圧縮されていない。
【0068】
ガス交換領域56には、ガス交換膜62が収容されている。ガス交換膜62は、ガス透過性の中空糸膜を複数積層した構造体であって、例えばポリプロピレン、ポリメチルペンテンなどの合成樹脂によって形成されている。中空糸膜を構成する中空糸の内腔(後述するガス流路66)が延びる管軸方向は、ハウジング12の厚さ方向と直交する上下方向とされている。ガス交換膜62は、例えば、外周部分がハウジング12に接着されることにより、ハウジング12に対して位置決めされている。なお、温度調節器60とガス交換膜62の間には、枠状のスペーサ64が配されており、温度調節器60とガス交換膜62がスペーサ64によって前後方向で相互に離隔している。
【0069】
ガス交換膜62を構成する中空糸の内腔は、ガス流路66とされており、両端の開口部がガス入口ポート52とガス出口ポート50に接続されている。ガス入口ポート52からガス交換領域56へ導入された酸素を含む供給ガスが、ガス交換膜62のガス流路66を流れ、ガス交換膜62に接する血液との間で酸素と二酸化炭素のガス交換が行われた後、二酸化炭素を含む排出ガスがガス出口ポート50から外部へ導出される。このように、酸素と二酸化炭素が流れるガス流路66が、中空糸膜で構成されたガス交換膜62によって形成されている。なお、ガス出口ポート50がハウジング12の底部材18を上下方向に貫通して形成されていることから、例えばガス流路66に結露が生じたとしても、水滴がガス出口ポート50から外部へ速やかに排出されて、ガス流路66の水滴による目詰まりが防止される。
【0070】
ガス交換膜62は、
図9に示すように、第1壁部材14と第2壁部材16によって、より詳しくは第2壁部材16とスペーサ64とによって、端部が血液の流動方向に圧縮された状態で、ハウジング12に固定されている。即ち、第1,第2側壁部22,34の対向方向におけるガス交換膜62は、少なくとも第2側壁部34とスペーサ64との対向面間に位置する周縁端部(辺縁部)において、ハウジング12に固定された後の方が、ハウジング12に固定される前よりも、厚さ寸法が小さくなって圧縮状態とされている。このように構成されることで、ガス交換膜62の外面とハウジング12の内面とが密着し、ガス交換膜62とハウジング12との間の隙間を少なくして、ハウジング12の内面に沿った血液の流れを抑えることができる。その結果、血液がガス交換膜62における積層型構造体内部の全体を流れやすくなり、ガス交換膜62と血液の接触面積が増すことによるガス交換効率の向上などが図られる。特に、本実施形態では、ガス交換膜62のハウジング12への装着による圧縮変形率が、上下方向の両端部だけでなく、第3側壁部53,53が対向する方向の両端部においても、各方向の中央部分よりも大きくされており、より強い固定力などが実現されている。本実施形態では、第2側壁部34とスペーサ64との対向面間を外れた内周部分において、ガス交換膜62が圧縮されていない。
【0071】
ガス交換膜62の上下方向の両端部とハウジング12の間には、ウレタン等の合成樹脂材料からなる第1樹脂層が設けられている。なお,かかる第1樹脂層は、
図9ではガス交換膜62や後述する第2樹脂層68で隠れているが、ガス交換膜62の上下両端部の外周面を周方向の全周に亘って覆うようにして第1樹脂層が形成されている。好適には、第1樹脂層は、ハウジング12とガス交換膜62の間に充填状態で形成されている。これにより、ガス交換膜62を構成する中空糸の管軸方向(上下方向)におけるガス交換膜62の両端部は、周方向の全周に亘って充填された第1樹脂層によって、ハウジング12(第2側壁部34,スペーサ64,第3側壁部53)に固定されている。
【0072】
ハウジング12の各第3側壁部53の内面と当該内面に沿って配されたガス交換膜62の外面との間には、第2樹脂層68がそれぞれ介在されている。好適には、第2樹脂層68は、各第3側壁部53とガス交換膜62との間に充填状態で設けられている。ガス交換膜62は、充填された第2樹脂層68によって、ハウジング12に固定されることが望ましい。なお、第2樹脂層68の上下両端部分が、第1樹脂層によって構成されていても良いし、第1樹脂層における第3側壁部53の内面に位置する部分が、第2樹脂層68によって構成されていても良い。
【0073】
温度調節器60とガス交換膜62は、互いに異なる構造や材質であっても良く、例えば金属製の伝熱管58からなる温度調節器60と、合成樹脂製の中空糸からなるガス交換膜62とを組み合わせて採用することもできる。本実施形態では、温度調節器60とガス交換膜62が何れも合成樹脂で形成されており、互いに略同じ構造とされている。なお、
図9では、見易さのために、伝熱管58及び中空糸の径寸法が誇張されている。
【0074】
温度調節領域54とガス交換領域56は、何れも血液が導入される。即ち、温度調節領域54とガス交換領域56には、血液入口ポート28が入口側案内部26を介して連通されていると共に、血液出口ポート40が出口側案内部38を介して連通されている。そして、血液は、血液入口ポート28からハウジング12内へ導入されて、温度調節領域54とガス交換領域56を順に通過した後、血液出口ポート40から外部へ導出される。血液は、温度調節領域54において温度調節器60における伝熱管58の外側を流れて、伝熱管58を介して温度調節用流体との間で間接的な熱交換が行われる。これにより、血液が適温まで加温又は冷却される。温度調節された血液は、ガス交換領域56においてガス交換膜62における中空糸の外側を流れることによって、中空糸の内腔であるガス流路66に導入された供給ガスから酸素を受け取って酸素化される。なお、血液は、ガス流路66から酸素を受け取ると共に、二酸化炭素をガス流路66へ排出する。
【0075】
血液入口ポート28は、ガス交換膜62の前面に対して略平行に左右方向で延びており、血液入口ポート28から導入される血液が、ガス交換膜62に対して左右方向の広い範囲に分散し易くなっている。それ故、血液がガス交換膜62に広範囲で接して、ガス交換効率の向上が図られる。また、血液入口ポート28は、温度調節器60に対しても略平行に延びており、血液入口ポート28から導入される血液が、温度調節器60に対して左右方向の広い範囲に分散し易くなっている。それ故、血液が温度調節器60に広範囲で接して、血液の温度調節が効率良く実行される。
【0076】
血液入口ポート28から導入される血液は、入口側案内部26によって、温度調節領域54の左右方向一端側の下部から左右方向他端側の上部に向かって対角方向に広がるように案内される。それ故、血液が温度調節領域54及びガス交換領域56において広範囲で流動して、血液の熱交換とガス交換が効率的に実現される。
【0077】
血液入口ポート28が開口する第1側壁部22には、入口側ガイドフィン32が設けられていることから、血液入口ポート28から温度調節領域54に導入された血液は、入口側ガイドフィン32によっても左右方向他端側の上部に向かって案内される。それ故、血液と温度調節用流体との間での熱交換と、血液と供給ガスとの間でのガス交換において、それぞれ効率の向上が図られる。
【0078】
しかも、3つの入口側ガイドフィン32a,32b,32cが、血液入口ポート28から離れるに従って相互に離れるように傾斜して延びていることから、血液が温度調節領域54のより広い範囲へ導かれて熱交換効率の向上が図られる。
【0079】
さらに、入口側ガイドフィン32は、血液入口ポート28から離れるに従って突出高さが次第に小さくなっている。これにより、入口側ガイドフィン32によって導かれた血液が血液入口ポート28から離れるに従って徐々に入口側ガイドフィン32による案内から外れて拡散する。その結果、血液入口ポート28から導入された血液が温度調節領域54の広い範囲に効率的に拡散して流入する。
【0080】
このように、血液入口ポート28が温度調節領域54の下部に設けられており、血液入口ポート28から導入された血液が、入口側案内部26や入口側ガイドフィン32によって温度調節領域54の上部へ導かれる。それ故、血液入口ポート28から温度調節領域54へ血液を導入することによって、温度調節領域54内で血液が広範囲に広がるように、血液の流れが形成され易い。
【0081】
また、血液入口ポート28が温度調節領域54の下部に位置していることによって、温度調節領域54とガス交換領域56を生理食塩水などのプライミング液で満たす際に、プライミング液が血液入口ポート28から温度調節領域54に入る際の落下高さが小さくなる。それ故、落下による空気の巻き込みが生じ難くなって、温度調節領域54及びガス交換領域56における血液の流動部分に空気が残留し難く、血液への気泡の混入が防止される。
【0082】
温度調節領域54の広い範囲に拡散して導入された血液は、ガス交換領域56においても、広い範囲で流動する。それ故、ガス交換膜62の供給ガスから血液に対して酸素が効率的に供給されると共に、血液が保持する二酸化炭素がガス交換膜62内へ効率的に受け渡される。
【0083】
ガス交換領域56において酸素化された血液は、出口側案内部38によって血液出口ポート40へ導かれることから、血液出口ポート40から離れた位置の血液も血液出口ポート40から導出され易くなる。これにより、ガス交換領域56内の血液が混ぜ合わされた状態で血液出口ポート40から導出されて、血液出口ポート40から導出される血液の酸素化の度合い、換言すれば酸素分圧が安定する。ガス交換領域56内の血液は、ガス入口ポート52に近い上部とガス入口ポート52から遠い下部とにおいて酸素分圧にムラが生じ易いが、出口側案内部38において上部の血液と下部の血液が混ぜ合わされることから、血液出口ポート40から導出される血液の酸素分圧が安定する。
【0084】
血液出口ポート40は、血液入口ポート28と略平行に設けられて、血液入口ポート28とは左右方向で反対側に設けられている。それ故、血液入口ポート28から導入されて血液出口ポート40から導出される血液の流れがスムーズに形成される。また、入口管路接続部30と出口管路接続部42が左右方向に延びていることから、入口管路接続部30と出口管路接続部42の前後方向の突出が抑えられて、人工肺10の前後方向のサイズが小さくされる。しかも、入口管路接続部30と出口管路接続部42に接続されるチューブも左右方向に延び出すことから、使用状態において前後方向で必要となるスペースが低減される。
【0085】
血液出口ポート40が開口する第2側壁部34には、出口側ガイドフィン44が設けられていることから、ガス交換領域56内の血液は、出口側ガイドフィン44によってガス交換領域56内の広い範囲から出口側案内部38へ案内される。それ故、血液出口ポート40から導出される血液の酸素化の度合いが安定する。
【0086】
しかも、5つの出口側ガイドフィン44a,44b,44c,44d,44eが、血液出口ポート40から離れるに従って相互に離れるように放射状に傾斜して延びていることから、血液がガス交換領域56のより広い範囲から出口側案内部38へ導かれる。それ故、血液出口ポート40から導出される血液の酸素化の度合いが安定する。
【0087】
さらに、出口側ガイドフィン44は、第2側壁部34からの突出高さが略一定とされている。これにより、出口側ガイドフィン44によって導かれた血液が拡散することなく出口側案内部38まで案内されて、出口側案内部38で撹拌される。それ故、血液出口ポート40から導出される血液中の酸素分圧を安定させることができる。
【0088】
このように、血液出口ポート40がガス交換領域56の上下中間部分に設けられており、ガス交換領域56の上下両側部分の血液が、出口側案内部38や出口側ガイドフィン44によって血液出口ポート40へ導かれる。しかも、ガス交換領域56内の広い範囲から導かれた血液は、血液出口ポート40から導出される前に出口側案内部38において撹拌されることから、血液出口ポート40から導出される血液の酸素化にばらつきが生じ難い。なお、入口側案内部26と出口側案内部38を含むハウジング12内において、血液の撹拌は、出口側案内部38の形状や血液の流速などを調節することによって、血球の損傷が問題にならない程度にコントロールされる。
【0089】
血液出口ポート40がガス交換領域56の上端ではなく上下方向の中間に開口していることにより、万が一、血液に気泡が混入したとしても、気泡が血液出口ポート40の開口よりも上側まで浮上して、血液出口ポート40に入り難い。
【0090】
また、人工肺10の使用状態において、血液入口ポート28と血液出口ポート40は、何れも温調流体入口ポート46及び温調流体出口ポート48よりも上側に位置している。それ故、万が一、温度調節用流体が温調流体入口ポート46や温調流体出口ポート48から漏れたとしても、温度調節用流体が血液入口ポート28と血液出口ポート40に触れ難い。従って、血液入口ポート28と血液出口ポート40が、温度調節用流体によって汚染されることなく清潔に保たれる。
【0091】
ハウジング12の各第3側壁部53とガス交換膜62との間には、第2樹脂層68がそれぞれ充填されている。ガス交換膜62の外面とハウジング12(第3側壁部53)の内面との間に隙間が存在すると、血液がその隙間を通じてハウジング12の内面に沿って流れ易くなり、その結果として血液がガス交換膜62における積層型構造体内部の全体を流れにくくなる現象(ショートパス)が起こりやすい。そこで、第3側壁部53とガス交換膜62との間に第2樹脂層68が充填されることで、ショートパスを防ぐことができる。さらに、第2樹脂層68が、ガス交換領域56において、ガス流路66の流路長方向に延在していることで、ショートパスを防ぐ効果がより発揮される。より好適には、第2樹脂層68は、ガス流路66の流路長方向においてガス交換膜62の全長に亘って連続的に設けられる。
【0092】
図14には、本発明の第2の実施形態としての人工肺70が示されている。人工肺70は、ハウジング72を備えている。以下の説明において、第1の実施形態と実質的に同一の部材及び部位については、図中に同一の符号を付して説明を省略する。
【0093】
ハウジング72は、中空の略矩形箱状とされている。ハウジング72の内部には、温度調節領域54とガス交換領域56が前後方向(
図14中の左右方向)に並んで設けられている。温度調節領域54は、上下方向(
図14中の上下方向)に延びる多数の伝熱管58からなる温度調節器60が収容されている。ガス交換領域56は、上下方向に延びる多数の中空糸からなるガス交換膜62が収容されている。
【0094】
ハウジング72の上壁部には、上下方向に貫通して上方へ突出するガス入口ポート52と温調流体入口ポート46が設けられている。ハウジング72の下壁部には、上下方向に貫通するガス出口ポート50と上下方向に貫通して下方へ突出する温調流体出口ポート48とが設けられている。
【0095】
ガス交換膜62は、上下方向の両端部が第1樹脂層73によってハウジング72に固定されている。即ち、ガス交換膜62とハウジング72の上壁部(蓋部材20)との間、及びガス交換膜62とハウジング72の下壁部(底部材18)との間に、それぞれ第1樹脂層73が充填されて設けられている。これにより、第1の実施形態と同様に、ガス交換膜62の上下方向の両端部の外周面がハウジング72に対して固定されていると共に、血液のショートパスによるガス交換効率の低下が回避されている。なお、第1樹脂層73は、
図14に示すように、ガス交換膜62の上下方向の両端部に設けられていることから、第1樹脂層73を外れたガス交換膜62の上下方向の中央部分では、血液のスムーズな流動が実現される。
【0096】
図14中ではガス交換膜62や第1樹脂層73で隠れているが、ハウジング72の第3側壁部53の内面とガス交換膜62の外面との間には、第1の実施形態と同様に、第2樹脂層が、好適には全面に亘る充填状態で介在している。これにより、ガス交換膜62の外面と第3側壁部53の内面との間が隙間なく固定状態とされており、第3側壁部53の内面に沿った血液のショートパスによるガス交換効率の低下が回避されている。
【0097】
ハウジング72の周壁部における前後方向の一方の壁部を構成する第1側壁部22に対して、テーパ状の入口側案内部26が設けられており、入口側案内部26の頂点部分に血液入口ポート28が設けられている。血液入口ポート28は、第1側壁部22を貫通して設けられており、第1側壁部22から突出する筒状の入口管路接続部30を備えている。血液入口ポート28は、第1側壁部22における上下方向の中央部分に設けられている。
【0098】
ハウジング72の周壁における前後方向の他方の壁部を構成する第2側壁部34に対して、テーパ状の出口側案内部38が設けられており、出口側案内部38の頂点部分に血液出口ポート40が設けられている。血液出口ポート40は、第2側壁部34を貫通して設けられており、第2側壁部34から突出する筒状の出口管路接続部42を備えている。血液出口ポート40は、第2側壁部34における上下方向の中央部分に設けられている。
【0099】
血液入口ポート28には、入口側チューブ74が接続されている。入口側チューブ74は、血液入口ポート28に向かって上傾している。入口側チューブ74は、血液入口ポート28に向かって次第に水平に近付くように湾曲している。血液出口ポート40には、出口側チューブ76が接続されている。出口側チューブ76は、血液出口ポート40に向かって上傾している。出口側チューブ76は、血液出口ポート40に向かって次第に水平に近付くように湾曲している。
【0100】
そして、血液が、入口側チューブ74から血液入口ポート28を介してハウジング72内へ導入されると共に、ハウジング72内から血液出口ポート40を介して出口側チューブ76へ導出される。血液は、ハウジング72内の図示しない温度調節領域及びガス交換領域において、温度調節されると共に、酸素化される。
【0101】
入口側チューブ74が血液入口ポート28に向かって上傾していることにより、血液が血液入口ポート28からハウジング72内へ向かって斜め上方へ流れ込み易くなっている。これにより、重力の作用によって血液が流れ込み難いハウジング72内の上部において血液が十分に流れて、温度調節やガス交換による酸素化がハウジング72内の広い範囲で実現される。
【0102】
また、本実施形態では、入口側チューブ74が上方に凸となる湾曲形状(曲率半径ri)で上傾していることから、入口側チューブ74から血液入口ポート28に至る管路内において、湾曲内周側よりも流路長が長くなる湾曲外周側の方が、流速が大きくなる。その結果、血液入口ポート28からハウジング72内へ流れ込む血流の流速が、下方よりも上方で速くなる。これによっても、ハウジング72内の上部において血液が十分に流れて、ハウジング72内で略均一なガス交換による酸素化が実現可能とされ得る。
【0103】
しかも、血液入口ポート28の先端開口部の内周面は、テーパ状の案内面とされていることで、入口側チューブ74内で発現された流速分布が、管内での略層流の状態を維持して、より効率的に血液入口ポート28ひいてはハウジング72内に及ぼされ得る。
【0104】
さらに、血液出口ポート40や出口側チューブ76も、上述の血液入口ポート28や入口側チューブ74と同様な構造とされている。即ち、出口側チューブ76が上方に凸となる湾曲形状(曲率半径ro)で下傾していると共に、血液出口ポート40の先端開口部の内周面がテーパ状の案内面とされている。それ故、ハウジング72内における下方よりも相対的に上方で大きな血液の流速が、血液排出側流路によっても積極的に実現され得ることとなる。
【0105】
また、ガス入口ポート52に近いハウジング72内の上部において流速が速くなり易いことで、ガス交換効率が比較的に高い上部において速やかに酸素化が図られると共に、ガス交換効率が比較的に低い下部では、緩やかな流れによって十分な酸素化が図られる。
【0106】
入口側チューブ74と出口側チューブ76が湾曲形状であることにより、前後方向へ突出する血液入口ポート28の入口管路接続部30と血液出口ポート40の出口管路接続部42に対して接続し易く、且つ血液をハウジング72内へ斜め上向きに流すことができる。
【0107】
以上、本発明の実施形態について詳述してきたが、本発明はその具体的な記載によって限定されない。例えば、ハウジング12の構造は、必ずしも互いに独立した周壁と下壁と上壁を組み合わせる構造に限定されない。具体的には、周壁と下壁が一体形成されていると共に、下壁が周壁と同様に二分割構造とされていても良い。また、例えば、周壁において入口側案内部26と出口側案内部38をそれぞれ別部品とすることもできる。
【0108】
ハウジングは、必ずしも扁平な形状に限定されず、例えば、中空の立方体のような短軸方向を持たない形状であっても良い。また、ハウジングは、中空の矩形箱状に限定されず、例えば中空円板状などであっても良い。なお、ハウジングにおいて、互いに対向する第1側壁部と第2側壁部は、ハウジングにおける血液流通方向の両側に位置する側壁であって、ハウジング内に伝熱管などが収容配置されることから、直接に対向している必要はない。また、第1側壁部と第2側壁部は、互いに平行である必要はないし、互いに対称な形状である必要もない。
【0109】
温度調節器60において、
図15に示すような構造の伝熱管80を採用することもできる。伝熱管80は、内腔に撹拌板82が挿入された構造とされている。撹拌板82は、細長い板材であって、長手方向で複数の波形が連続して設けられた波板状とされている。撹拌板82は、伝熱管80の内腔に差し入れられている。そして、伝熱管80の内腔を流れる温度調節用流体が撹拌板82によって乱流を生じて、温度調節用流体が撹拌されることで伝熱管80内の温度が平均化される。これにより、より効率的な熱交換を実現することができる。なお、
図15に示す構造の伝熱管80及び撹拌板82は、ポリウレタンやナイロン、PETなどの合成樹脂製やステンレスなどの金属製であることが望ましい。
【0110】
撹拌板の波板状とは、湾曲した波形が連続する形状だけに限定されず、例えば、複数箇所で角をなしてジグザグに折れ曲がった形状であっても良いし、複数の溝状断面が連続する形状であっても良い。要するに、撹拌板は、例えば、伝熱管を流れる温度調節用流体の流動方向と交差する凹凸を表面に有することによって、温度調節用流体に乱流を生ぜしめるものとされる。
【0111】
例えば、血液の温度を検出する温度センサを挿し入れるための温度検出ポートや、血液を取り出すためのサンプリングポートなどを、ハウジング12、血液入口ポート28、血液出口ポート40などに追加で設けることもできる。
【0112】
前記実施形態で説明した人工肺10の向きは、使用状態における向きであって、例えば、使用前のプライミングを別の向きで行うことなども可能である。従って、患者の体外循環を実行する使用状態以外では、各ポート28,40,46,48,50,52の位置などは、特に限定されない。
【符号の説明】
【0113】
10 人工肺
12 ハウジング
14 第1壁部材
16 第2壁部材
18 底部材
20 蓋部材
22 第1側壁部
24 第1連結壁部
26 入口側案内部
28 血液入口ポート
30 入口管路接続部
32 入口側ガイドフィン
33 係止部
34 第2側壁部
36 第2連結壁部
38 出口側案内部
40 血液出口ポート
42 出口管路接続部
44 出口側ガイドフィン
45 係止爪部
46 温調流体入口ポート
48 温調流体出口ポート
50 ガス出口ポート
52 ガス入口ポート
53 第3側壁部
54 温度調節領域
56 ガス交換領域
58 伝熱管
60 温度調節器
62 ガス交換膜
64 スペーサ
66 ガス流路
68 第2樹脂層
70 人工肺
72 ハウジング
73 第1樹脂層
74 入口側チューブ
76 出口側チューブ
80 伝熱管
82 撹拌板