(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】可食IJインク、錠剤、及びカプセル剤
(51)【国際特許分類】
C09D 11/326 20140101AFI20250527BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20250527BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20250527BHJP
A61K 9/44 20060101ALI20250527BHJP
【FI】
C09D11/326
B41J2/01 501
B41M5/00 120
A61K9/44
(21)【出願番号】P 2021553471
(86)(22)【出願日】2020-10-20
(86)【国際出願番号】 JP2020039435
(87)【国際公開番号】W WO2021079884
(87)【国際公開日】2021-04-29
【審査請求日】2023-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2019192281
(32)【優先日】2019-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】福代 真
(72)【発明者】
【氏名】星野 裕一
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 賢俊
(72)【発明者】
【氏名】石川 英樹
【審査官】郡上 祐輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-044103(JP,A)
【文献】特開2002-309147(JP,A)
【文献】特開2000-229847(JP,A)
【文献】特開2015-166424(JP,A)
【文献】特表2000-507820(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0193725(US,A1)
【文献】特開2001-271013(JP,A)
【文献】国際公開第2010/059562(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01
B41M 5/00
C09D 11/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水と、酸化チタンと、分散剤と、湿潤剤と、重量平均分子量が10,000未満の水溶性多糖類と、を含む可食IJインクであって、
前記分散剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム、及び炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種を含
み、
前記水溶性多糖類として、重量平均分子量が10,000未満の、デキストリン、トレハロース、又は還元イソマルツロースを、0.1質量%以上6質量%以下の範囲内で含むことを特徴とする可食IJインク。
【請求項2】
前記重量平均分子量が10,000未満の水溶性多糖類は、可食IJインク全体の質量に対して0.1質量%以上5質量%以下の範囲内で含まれていることを特徴とする請求項
1に記載の可食IJインク。
【請求項3】
前記酸化チタンは、メジアン径D50が30nm以上800nm以下の範囲内であり、可食IJインク中に分散していることを特徴とする請求項1
または請求項2に記載の可食IJインク。
【請求項4】
前記湿潤剤は、可食IJインク全体の質量に対して20質量%以上50質量%以下の範囲内で含まれていることを特徴とする請求項1から請求項
3のいずれか1項に記載の可食IJインク。
【請求項5】
錠剤表面、ソフトカプセル剤表面、またはハードカプセル剤表面への直接印刷、もしくは食品への直接印刷に用いられることを特徴とする請求項1から請求項
4のいずれか1項に記載の可食IJインク。
【請求項6】
請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の可食IJインクで印刷した印刷部を備えることを特徴とする錠剤。
【請求項7】
請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の可食IJインクで印刷した印刷部を備えることを特徴とするカプセル剤。
【請求項8】
医療用錠剤であることを特徴とする請求項
6に記載の錠剤。
【請求項9】
医療用カプセル剤であることを特徴とする請求項
7に記載のカプセル剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可食IJインク、錠剤、及びカプセル剤に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット印刷用インク(以下、単に「IJインク」とも称する。)には、可食性を有するものがある。そして、可食性を有するインクジェットインク(以下、単に「可食IJインク」とも称する。)に関する技術としては、例えば、特許文献1に記載したものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
可食IJインクには、例えば、水系顔料を含んだものがある。水系顔料を含んだIJインクを用いて、例えば、FC(フィルムコート)錠や糖衣錠、ソフトカプセル錠、ハードカプセル錠といった浸透性の低い錠剤の表面に印刷を行うと、インクの濡れ性が悪く、印字にスジ等が発生することがあるといった課題がある。
浸透性の低い錠剤に対してインクの濡れ性を上げるためには、インクにアルコール系溶媒や界面活性剤を添加する方法や、濡れ広がりやすい溶媒を添加する方法がある。しかしながら、前者は分散安定性や印刷再開性(間欠再開性)の低下を引き起こし、後者は乾燥性の低下を引き起こすことがある。
【0005】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、分散安定性や印刷再開性(間欠再開性)が良好であり、且つ乾燥性が高く、印刷品質が高い(印字にスジ等が発生しにくい)可食IJインク、その可食IJインクで印刷した印刷部を備える錠剤及びカプセル剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様に係る可食IJインクは、水と、酸化チタンと、分散剤と、湿潤剤と、重量平均分子量が10,000未満の水溶性多糖類と、を含み、前記分散剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム、及び炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種を含んでいる。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様であれば、分散安定性や印刷再開性(間欠再開性)の低下を低減し、且つ、浸透性の低い錠剤の表面に印刷を行った場合であっても乾燥性の低下及び印刷品質の低下を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態に係る医療用錠剤の第1の構成例を示す平面図と断面図である。
【
図2】本実施形態に係る医療用錠剤の第2の構成例を示す平面図と断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の実施形態に係る可食IJインクは、例えば、医療用錠剤の表面、特に浸透性の低い錠剤の表面にインクジェット印刷法で文字や画像等を印刷する際に使用するIJインクに関するものである。以下、本発明の実施形態に係るIJインク並びにそのインクジェットインクで印刷した印刷部を備える錠剤及びカプセル剤の構成について、詳細に説明する。
【0010】
〔可食IJインクの構成〕
本実施形態に係る可食IJインクは、水と、顔料である酸化チタンと、分散剤と、湿潤剤と、重量平均分子量が10,000未満の水溶性多糖類と、を少なくとも含んでいる。また、本実施形態に係る分散剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム、及び炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種を含んでいる。
このような構成であれば、分散安定性や印刷再開性(間欠再開性)の低下を低減し、且つ、浸透性の低い錠剤の表面に印刷を行った場合であっても乾燥性の低下及び印刷品質の低下を低減することができる。以下、各成分の詳細について説明する。
【0011】
(水)
本実施形態に係る可食IJインクに含まれる主溶媒は水であり、例えば、精製水やイオン交換水である。なお、上記「主溶媒」とは、溶媒全体における質量比が最も大きい成分を意味する。本実施形態に係る可食IJインクに含まれる主溶媒としての水の割合は、例えば、可食IJインク全体の50質量%以上である。
【0012】
(酸化チタン)
本実施形態に用いる酸化チタンは、食品用であり、且つインク中に分散し得る微粒子状態であれば特に限定されない。酸化チタン粒子としては、結晶構造がアナターゼ型(正方晶)、ルチル型(正方晶)又はブルーカイト型(斜方晶)のいずれのものであっても使用可能である。
インク中の酸化チタンの含有量は、インク全体の質量に対して1質量%以上30質量%以下の範囲内が好ましく、10質量%以上20質量%以下の範囲内がより好ましい。酸化チタンの含有量が上限値(30質量%)より多いと印刷再開性が低下し、下限値(1質量%)より少ないとインクとしての発色が低下することがある。
【0013】
酸化チタンの分散平均粒子径(平均一次粒子径)は、インクジェットヘッド内での沈降性等により印刷再開性に影響を及ぼすものであるため、この点を考慮して適宜設定すればよい。具体的には、酸化チタンの分散平均粒子径は、メジアン径D50径が30nm以上800nm以下の範囲内が好ましく、50nm以上600nm以下の範囲内がより好ましく、100nm以上500nm以下の範囲内が特に好ましい。なお、酸化チタンの分散平均粒子径が30nmよりも小さいと分散安定性及びインクとしての発色性が共に低下し、800nmよりも大きいと酸化チタンの沈殿等により印刷再開性が低下することがある。なお、酸化チタンの分散平均粒子径は、例えば、レーザー回折法を用いて決定してもよい。
【0014】
(分散剤)
本実施形態に用いる分散剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム、及び炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種を含んでいる。
分散剤の含有量は、顔料である酸化チタンの質量に対し、0.1質量部以上10質量部以下の範囲内であることが好ましく、1質量部以上5質量部以下の範囲内であることがより好ましい。分散剤の含有量が0.1質量部よりも少ないと酸化チタンを水に分散できず印刷再開性が低下し、10質量部よりも多いとインクの粘度が上がり印刷再開性が低下することがある。
【0015】
(湿潤剤)
本実施形態に係る可食IJインクに添加可能な湿潤剤は、湿潤剤として一般にIJインクに添加されるものであれば特に制限されることはなく、使用可能である。
本実施形態に用いる湿潤剤は、高沸点のものであればより好ましい。ここで、「高沸点」とは、例えば、140℃以上を意味する。本実施形態に用いる湿潤剤の具体例としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ペンタメチレングリコール、トリメチレングリコール、2-ブテン-1、4-ジオール、2-エチル-1、3-ヘキサンジオール、2-メチル-2、4-ペンタンジオール、トリプロピレングリコール、数平均分子量が2000以下のポリエチレングリコール、1、3-プロピレングリコール、イソプロピレングリコール、イソブチレングリコール、グリセリン、メソエリスリトール、ペンタエリスリトール、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、及びN-エチル-2-ピロリドン等が挙げられる。これら湿潤剤の中でも特に好ましくは、プロピレングリコール及びグリセリンの少なくとも一方を含む湿潤剤である。このような構成であれば、可食IJインクに十分な印刷再開性を付与することができる。また、本実施形態に用いる湿潤剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0016】
湿潤剤の含有量は、可食IJインク全体の質量に対して、20質量%以上50質量%以下の範囲内が好ましく、30質量%以上40質量%以下の範囲内がより好ましい。湿潤剤の含有量が20質量%よりも少ないとインクの乾燥が促進されて印刷再開性が低下し、50質量%よりも多いとインクの粘度が上がり印刷再開性が低下することがある。
【0017】
(水溶性多糖類)
本実施形態に用いる水溶性多糖類は、水溶性であって、重量平均分子量が10,000未満の多糖類であれば特に制限はない。本実施形態に用いる水溶性多糖類は、例えば、トウモロコシ及び小麦などのデンプン物質やその酵素分解生成物、カルボキシメチルセルロース及びヒドロキシメチルセルロース等のセルロース系物質、アルギン酸ナトリウム、アラビヤゴム、ローカストビーンガム、トラントガム、グアーガム、及びタマリンド種子などの多糖類、及びオリゴ糖、トレハロースやイソマルツロースといった二糖類が挙げられる。また、本実施形態に用いる水溶性多糖類は、マルトデキストリン、トレハロース、及び還元イソマルツロースのうち少なくとも1種を含むものであってもよい。
【0018】
なお、水溶性多糖類の重量平均分子量が10,000以上であると、インクの粘度の上昇や乾燥の促進を引き起こし、印刷再開性が低下することがある。また、水溶性多糖類の重量平均分子量は300以上であると好ましく、1,000以上であるとより好ましい。水溶性多糖類の重量平均分子量が300よりも小さいと、乾燥性が悪化することがある。
また、水溶性多糖類の含有量は、可食IJインク全体の質量に対して、0.1質量%以上5質量%以下の範囲内が好ましい。水溶性多糖類の含有量が0.1質量%よりも少ないと印刷品質が低下し、5質量%よりも多いと印刷再開性が低下することがある。ここで、本実施形態では、「水溶性」とは水1質量部に対し、0.001質量部以上溶解することを指す。本実施形態での重量平均分子量はGPC法(ゲル浸透クロマトグラフィー)にて測定した値を用いる。また、本実施形態では、「多糖類」とは単糖類が2つ以上重合した糖類のことを指す。
【0019】
〔印刷方法〕
本実施形態に係る可食IJインクは、市販のインクジェット装置に対しても適用可能なため応用範囲が広く、非常に有用である。また、後述の実施例ではピエゾ素子(圧電セラミックス)をアクチュエータとする、所謂ドロップオンデマンド型インクジェットにおける印刷例を示すが、他の方式で印刷してもよい。例えば、他のドロップオンデマンド型インクジェットとして、微小発熱素子を瞬間的に高温(200~300℃)にすることで発生する水蒸気圧力でIJインクを吐出するサーマルインクジェット方式や、アクチュエータを静電気振動させることでIJインクを吐出する静電タイプ、超音波のキャビテーション現象を利用する超音波方式等が利用可能である。また、IJインクに荷電性能を付与できれば連続噴射式(コンティニュアス方式)を利用することも可能である。
【0020】
〔対象錠剤〕
本実施形態に係る可食IJインクであれば、医療用錠剤やカプセル剤の表面にインクジェット印刷法で施される印刷画像の品質を改善することができる。ここでいう「医療用錠剤」としては、例えば、素錠(裸錠)、糖衣錠、腸溶錠、口腔内崩壊錠などのほか、錠剤の最表面に水溶性表面層が形成されているフィルムコート錠といったものが挙げられる。また、「医療用カプセル錠」としては、ハードカプセル錠やソフトカプセル錠が挙げられる。ハードカプセル錠やソフトカプセル錠は、例えば、円筒形のボディーとキャップとで構成されており、主に粉末や顆粒状の内容物を、そのまま、もしくは、数種類の粉末と混合し、ゼラチンまたは植物由来の原料でできたボディーに詰めてキャップを施したものである。
【0021】
以下、実施形態に係る可食IJインクで印刷した印刷画像(印刷部)を備える医療用錠剤の構成について説明する。
図1(a)及び(b)は、本実施形態に係る医療用錠剤の第1の構成例を示す平面図と、この平面図をX1-X’1で切断した断面図である。
図1(a)及び(b)に示す医療用錠剤は素錠であり、基剤1の表面に画像9が印刷されている。この画像9は、例えば文字、記号又はバーコードなど任意の画像であり、本実施形態に係る可食IJインクを使用して、インクジェット印刷法により印刷されたものである。
図2(a)及び(b)は、本実施形態に係る医療用錠剤の第2の構成例を示す平面図と、この平面図をX2-X’2で切断した断面図である。
図2(a)及び(b)に示す医療用錠剤はフィルムコート錠であり、基剤1を覆うフィルム5の表面に画像9が印刷されている。
図2(a)及び(b)に示す画像9も、
図1(a)及び(b)に示した画像9と同様、本実施形態に係る可食IJインクを使用して、インクジェット印刷法により印刷されたものである。
【0022】
医療用錠剤中に含有される活性成分は特に限定されない。例えば、種々の疾患の予防・治療に有効な物質(例えば、睡眠誘発作用、トランキライザー活性、抗菌活性、降圧作用、抗アンギナ活性、鎮痛作用、抗炎症活性、精神安定作用、糖尿病治療活性、利尿作用、抗コリン活性、抗胃酸過多作用、抗てんかん作用、ACE阻害活性、β-レセプターアンタゴニストまたはアゴニスト活性、麻酔作用、食欲抑制作用、抗不整脈作用、抗うつ作用、抗血液凝固活性、抗下痢症作用、抗ヒスタミン活性、抗マラリア作用、抗腫瘍活性、免疫抑制活性、抗パーキンソン病作用、抗精神病作用、抗血小板活性、抗高脂血症作用等を有する物質等)、洗浄作用を有する物質、香料、消臭作用を有する物質等を含むが、それらに限定されない。
【0023】
本実施形態に係る錠剤は、必要に応じて、活性成分とともにその用途上許容される担体を配合することができる。例えば、医療用錠剤であれば、医薬上許容される担体を配合することができる。医薬上許容される担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、例えば、賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤、増粘剤等が適宜適量配合される。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤等の添加物を用いることもできる。
【0024】
本実施形態では、錠剤として医療用錠剤を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本実施形態に係る可食IJインクの印刷対象は特に制限されず、例えば、飼料、肥料、洗浄剤、ラムネ菓子等の食品といった各種錠剤の表面に印刷してもよい。また、本実施形態に係る可食IJインクは、印刷対象のサイズについても特に制限されず、種々のサイズの錠剤について適用可能である。また、本実施形態に係る可食IJインクは、前述の錠剤表面への直接印刷以外に、食品への直接印刷、医薬品及び食品に直接触れるパッケージに用いてもよい。
【0025】
また、本実施形態における医療用錠剤は特に制限はないが、特に、表面にフィルムコート層等を備えたフィルムコート錠において効果が高い傾向がある。これは印刷が行われた錠剤表面において、素錠に比べフィルムコート錠では空隙が少ないことによりインクが錠剤表面に残りやすいためである。このため、本実施形態に係る可食IJインクであれば、従来技術に係る可食IJインクと比較して、速乾性の効果が発揮されやすい。
【0026】
(本実施形態の効果)
(1)本実施形態に係る可食IJインクは、水と、酸化チタンと、分散剤と、湿潤剤と、重量平均分子量が10,000未満の水溶性多糖類と、を含む可食IJインクであって、分散剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム、及び炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種を含む。
このような構成であれば、分散安定性や印刷再開性(間欠再開性)の低下を低減し、且つ、浸透性の低い錠剤の表面に印刷を行った場合であっても乾燥性の低下及び印刷品質の低下を低減することができる。
【0027】
(2)また、本実施形態に係る可食IJインクに含まれる重量平均分子量が10,000未満の水溶性多糖類は、マルトデキストリン、トレハロース、及び還元イソマルツロースのうち少なくとも1種を含んだものであってもよい。
このような構成であれば、使用する上で十分な乾燥性を付与することができ、且つ印刷再開性の低下をより低減することができる。
(3)また、本実施形態に係る可食IJインクに含まれる重量平均分子量が10,000未満の水溶性多糖類は、可食IJインク全体の質量に対して0.1質量%以上5質量%以下の範囲内で含まれていてもよい。
このような構成であれば、可食IJインクに十分な乾燥性を付与することができ、且つ印刷再開性の低下をさらに低減することができる。
【0028】
(4)また、本実施形態に係る可食IJインクに含まれる酸化チタンは、メジアン径D50が30nm以上800nm以下の範囲内であり、可食IJインク中に分散していてもよい。
このような構成であれば、印刷再開性の低下をさらに低減することができる。
(5)また、本実施形態に係る可食IJインクに含まれる湿潤剤は、可食IJインク全体の質量に対して20質量%以上50質量%以下の範囲内で含まれていてもよい。
このような構成であれば、印刷再開性の低下をさらに低減することができる。
【0029】
(6)また、本実施形態に係る可食IJインクは、錠剤表面、ソフトカプセル剤表面、またはハードカプセル剤表面への直接印刷、もしくは食品への直接印刷に用いられてもよい。
このような構成であれば、錠剤等の表面への直接印刷、食品への直接印刷が可能となり、また、医薬品及び食品に直接触れるパッケージに使用可能となる。
(7)また、本実施形態に係る錠剤は、前述した可食IJインクで印刷した印刷部(印刷画像)を備えている。
このような構成であれば、錠剤の表面に印刷された印刷部分(印刷画像部分)に対しても可食性を付与することができる。
【0030】
(8)また、本実施形態に係るカプセル剤は、前述した可食IJインクで印刷した印刷部(印刷画像)を備えている。
このような構成であれば、カプセル剤の表面に印刷された印刷部分(印刷画像部分)に対しても可食性を付与することができる。
(9)また、本実施形態に係る錠剤は、医療用錠剤であってもよい。
このような構成であれば、医療用錠剤の表面に印刷された印刷画像部分に対しても可食性を付与することができる。
(10)また、本実施形態に係るカプセル剤は、医療用カプセル剤であってもよい。
このような構成であれば、医療用カプセル剤の表面に印刷された印刷画像部分に対しても可食性を付与することができる。
【0031】
[実施例]
以下、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明は、実施例により何ら限定されるものではない。
(可食IJインクの製造)
以下、可食IJインクの調製手順を説明する。
まず、可食IJインクを調製した。本実施例に係るインクは、水と、酸化チタンと、分散剤と、湿潤剤と、重量平均分子量が10,000未満の水溶性多糖類とを含んでいる。
以下、インクの調製順序について説明する。
まず、水に分散剤と酸化チタンとを添加した。その後、水と分散剤と酸化チタンとを含んだ混合液を、分散機であるペイントシェーカーに入れ、1~3時間、微細化・分散することで分散液を作製した。
次に、その分散液に、湿潤剤及び水溶性多糖類を必要に応じて添加して分散させることで、インクを調製した。
【0032】
なお、インクに使用する水はイオン交換水とし、湿潤剤としてプロピレングリコール(PG)を用いた。また、本実施例で使用したマルトデキストリンは、松谷化学工業株式会社製のDE値17~19の範囲のものである。
こうして、それぞれの成分が異なる59種類のインクとして、実施例1~52、比較例1~7の可食IJインクを調製した。その組成を表1から表4に示す。なお、実施例1~52の可食IJインクに含まれる分散剤は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム、及び炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種を含む。さらに、実施例1~52の可食IJインクに含まれる分散剤は、その含有率が顔料の含有率に対して0.01~0.1倍とした。
【0033】
次に、成分が異なる59種類のインクを、それぞれメンブレンフィルターを通過させることによって液中の固体異物を除去した。具体的には、口径5.0μm(酢酸セルロース膜)のメンブレンフィルターを1回透過させ、続いて口径0.8μm(酢酸セルロース膜)のメンブレンフィルターを1回透過させることで、各精製インクを得た。
なお、水溶性多糖類については、その分子量が大きくなるにしたがい、分子量分布の狭い材料を得ることが困難となる。そのため、本実施例では、水溶性多糖類については、重量平均分子量が「1,000~9,000」のもの、「2,000~4,000」のもの、及び「10,000~30,000」のものを用いた。
【0034】
【0035】
【0036】
【0037】
【0038】
本実施例において、実施例1~52、比較例1~7の各可食IJインクについて、分散安定性、印刷再開性、耐転写性、印字物の印字スジの各評価を行った。表1から表4に、各評価の結果を示す。また、本実施例における評価方法は、以下の通りである。
【0039】
(1)分散安定性の評価
実施例1~52、比較例1~7の各可食IJインクを40℃にて14日間放置し、顔料である酸化チタンのメジアン径を計測した。メジアン径の増大は、顔料の粒子が凝集していることを意味し、分散安定性が低いことを意味する。なお、評価基準は以下の通りである。
○:メジアン径に大きな変化が生じていない
×:明らかに増粒径している
【0040】
前述の「メジアン径に大きな変化が生じていない」とは、インク調製直後のメジアン径に対し、40℃にて14日間放置後のメジアン径の増加幅が10nm以下であることを指す。また、「明らかに増粒径している」とは、メジアン径の増加幅が10nmを超えることを指す。
実施例1~52の分散安定性は、何れも「○」であるのに対し、比較例6~7の分散安定性は「×」であった。
【0041】
(2)印刷再開性の評価
印刷解像度が主走査方向600dpi、副走査方向(錠剤等記録媒体の搬送方向)600dpi、トータルノズル数2,656の圧電セラミック駆動のドロップオンデマンド型インクジェットヘッドを用い、規定時間(15分間~60分間)フラッシング無く放置した後、1ドロップ6plの印刷ドロップ量にて、テストパターンを印刷し、全ノズルから不吐出量なく吐出できていることを確認した。なお、表1から表4では、印刷再開性の評価結果として、インクの吐出が可能な放置時間を測定した。評価基準は以下の通りである。
◎:30分間以上60分間未満
○:15分間以上30分間未満
×:15分間未満
実施例1~52の印刷再開性(間欠再開性)は何れも「○」、もしくは「◎」であるのに対し、比較例4~5の印刷再開性(間欠再開性)は「×」であった。
【0042】
(3)耐転写性の評価(乾燥性試験)
下記錠剤に、印刷解像度が主走査方向600dpi、副走査方向(錠剤等記録媒体の搬送方向)600dpi、トータルノズル数2,656の圧電セラミック駆動のドロップオンデマンド型インクジェットヘッドを用い、1ドロップ10plの印刷ドロップ量にて画像をそれぞれ印刷した。
印刷10秒後、印刷された錠剤に、デジタルフォースゲージに貼り付けた黒画用紙を4~5Nの圧力で、0.4~0.5秒間接触させ、印刷したインクが転写しないことを確認した。なお、表1から表4では、耐転写性(乾燥性)の評価結果として、転写したインクの濃度を目視した。評価基準は以下の通りである。
◎:インクの転写がない場合
○:インクの転写がごく僅かであり、目視確認が難しい場合
×:インクが色濃く転写した場合
【0043】
実施例1~52の耐転写性は何れも「○」、もしくは「◎」であるのに対し、比較例1~3の耐転写性(乾燥性)は「×」であった。
・錠剤(フィルムコート錠)
表面に、ヒドロキシプロピルセルロースやヒドロキシプロピルメチルセルロース等にポリエチレングリコールや酸化チタン顔料等を添加して形成した被覆層を備えた錠剤種
【0044】
(4)印字スジの評価
下記の2種類のソフトカプセル錠1、2に、印刷解像度が主走査方向600dpi、副走査方向(錠剤等記録媒体の搬送方向)600dpi、トータルノズル数2,656の圧電セラミック駆動のドロップオンデマンド型インクジェットヘッドを用い、1ドロップ10plの印刷ドロップ量にてベタ画像をそれぞれ印刷した。
得られた印刷物に対して、目視により以下の基準で印字スジの評価を行った。評価基準は以下の通りである。
◎:ベタ画像上のインクがスジなく均一で良好
○:ベタ画像上のインクに僅かにスジが見られるが実用上問題ないとされるレベル
×:ベタ画像上のインクに明確にスジが見られ、実用上問題になるレベル
【0045】
実施例1~52の印字スジの評価は何れも「○」、もしくは「◎」であるのに対し、比較例1~3の印字スジの評価は「×」であった。
・ソフトカプセル錠1(ゼラチン錠)
カプセル錠表面にゼラチンによる被覆層を形成したソフトカプセル錠
・ソフトカプセル錠2(HPMC錠)
カプセル錠表面にヒドロキシプロピルセルロースやヒドロキシプロピルメチルセルロース等による被覆層を形成したソフトカプセル錠
【0046】
上記結果から、水と、酸化チタンと、分散剤と、湿潤剤と、重量平均分子量が10,000未満の水溶性多糖類と、を含み、分散剤がカルボキシメチルセルロースナトリウム、アルギン酸ナトリウム、及び炭酸ナトリウムのうち少なくとも1種を含んだ可食IJインクであれば、分散安定性や印刷再開性(間欠再開性)の低下を低減し、且つ、浸透性の低い錠剤の表面に印刷を行った場合であっても乾燥性の低下及び印刷品質の低下を低減することができることがわかる。
【符号の説明】
【0047】
1 基剤
5 フィルム
9 画像