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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】タイヤ内部部材およびタイヤ
(51)【国際特許分類】
   C08L 21/00 20060101AFI20250527BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20250527BHJP
   C08K 7/04 20060101ALI20250527BHJP
   C08K 7/14 20060101ALI20250527BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20250527BHJP
   C08K 5/548 20060101ALI20250527BHJP
   B60C 1/00 20060101ALI20250527BHJP
【FI】
C08L21/00
C08K3/013
C08K7/04
C08K7/14
C08K3/04
C08K5/548
B60C1/00 B
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021555960
(86)(22)【出願日】2020-10-19
(86)【国際出願番号】 JP2020039278
(87)【国際公開番号】W WO2021095448
(87)【国際公開日】2021-05-20
【審査請求日】2023-08-22
(31)【優先権主張番号】P 2019203964
(32)【優先日】2019-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】吉安 勇人
【審査官】菅原 淳
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-309053(JP,A)
【文献】特開2007-284536(JP,A)
【文献】特開2004-034744(JP,A)
【文献】特開2020-007429(JP,A)
【文献】特開2020-152744(JP,A)
【文献】国際公開第2020/189328(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/121788(WO,A1)
【文献】特開2009-269951(JP,A)
【文献】特開2007-161818(JP,A)
【文献】特開2018-065887(JP,A)
【文献】特開2017-002153(JP,A)
【文献】特開2010-013540(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゴム成分、無機繊維材料、カーボンブラック、およびカップリング剤を含有するゴム組成物で構成されるタイヤ内部部材であって、
前記無機繊維材料が、硫酸マグネシウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、およびガラス繊維からなる群から選ばれる1以上の無機繊維材料であり、
前記ゴム成分100質量部に対して前記無機繊維材料を1~50質量部含有し
記ゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量が30質量部以上である、タイヤ内部部材。
【請求項2】
反列理方向の100%モジュラスM100bに対する列理方向の100%モジュラスM100aの比(M100a/M100b)が1.10以上である、請求項1記載のタイヤ内部部材。
【請求項3】
さらに可塑剤を含有する、請求項1または2記載のタイヤ内部部材。
【請求項4】
前記ゴム成分がイソプレン系ゴムを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のタイヤ内部部材。
【請求項5】
前記カップリング剤がシランカップリング剤である、請求項1~4のいずれか一項に記載のタイヤ内部部材。
【請求項6】
ゴム成分100質量部に対して前記カップリング剤を1~40質量部含有する、請求項1~5のいずれか一項に記載のタイヤ内部部材。
【請求項7】
前記カップリング剤がスルフィド基を有するシランカップリング剤である、請求項1~6のいずれか一項に記載のタイヤ内部部材。
【請求項8】
さらに臭化セチルトリメチルアンモニウム吸着比表面積(CTAB)が180m2/g以下のカーボンブラックを含有する、請求項1~7のいずれか一項に記載のタイヤ内部部材。
【請求項9】
前記無機繊維材料が、硫酸マグネシウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、およびホウ酸アルミニウム繊維からなる群から選ばれる1以上の無機繊維材料である、請求項1~8のいずれか一項に記載のタイヤ内部部材。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載のタイヤ内部部材を備えたタイヤ。
【請求項11】
前記タイヤが乗用車用タイヤである請求項10記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機繊維材料を含有するゴム組成物により構成されたタイヤ内部部材、および該タイヤ内部部材を有するタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
セルロースファイバー等の生物由来のナノ材料をタイヤ部材に配合することにより、ゴムのモジュラスに異方性を持たせる技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5691463号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ゴムはネットワーク構造を形成することで強度が出るとともに、繊維材料においては異方性を得られやすくなると考えられる。しかしながら、繊維材料のゴムマトリクス内での分散状態が悪い状態であると、繊維材料が凝集し、異方性が得られ難くなるとともに、ゴムマトリクスに対する十分な補強性が得られないため、破壊強度も低下すると考えられる。また、従来の繊維材料を配合したゴム組成物は弾性率が高く、乗り心地や振動において、市場要求値を十分に満足できていないのが現状である。
【0005】
本発明は、破壊強度および異方性を高度に両立したゴム組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鋭意検討の結果、無機繊維材料およびカップリング剤を配合することにより、破壊強度および異方性を高度に両立したゴム組成物が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0007】
すなわち、本発明は、
〔1〕ゴム成分、無機繊維材料、およびカップリング剤を含有するゴム組成物、
〔2〕反列理方向の100%モジュラスM100bに対する列理方向の100%モジュラスM100aの比(M100a/M100b)が1.10以上である、上記〔1〕記載のゴム組成物、
〔3〕さらにカーボンブラックを(好ましくはゴム成分100質量部に対して1~100質量部、より好ましくは5~80質量部)含有する、上記〔1〕または〔2〕記載のゴム組成物、
〔4〕さらに可塑剤を(好ましくはゴム成分100質量部に対して1~90質量部、より好ましくは3~70質量部)含有する、上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のゴム組成物、
〔5〕前記ゴム成分が(好ましくは5質量%以上、より好ましくは10~90質量%)イソプレン系ゴムを含む、上記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のゴム組成物、
〔6〕前記カップリング剤がシランカップリング剤である、上記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のゴム組成物、
〔7〕ゴム成分100質量部に対して前記カップリング剤を1~40質量部含有する、上記〔1〕~〔6〕のいずれかに記載のゴム組成物、
〔8〕前記カップリング剤がスルフィド基を有するシランカップリング剤である、上記〔1〕~〔7〕のいずれかに記載のゴム組成物、
〔9〕さらに臭化セチルトリメチルアンモニウム吸着比表面積(CTAB)が180m2/g以下のカーボンブラックを(好ましくはゴム成分100質量部に対して1~100質量部、より好ましくは5~80質量部)含有する、上記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のゴム組成物、
〔10〕前記ゴム成分100質量部に対して前記無機繊維材料を1~50質量部含有し、該無機繊維材料の平均径Dが1.0~2000nm、平均長Lが0.10~100μm、アスペクト比L/Dが2~1000である、上記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のゴム組成物、
〔11〕前記無機繊維材料が、硫酸マグネシウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、およびセピオライトからなる群から選ばれる1以上の無機繊維材料である、上記〔1〕~〔10〕のいずれかに記載のゴム組成物、
〔12〕上記〔1〕~〔11〕のいずれかに記載のゴム組成物で構成されるタイヤ内部部材、
〔13〕上記〔12〕記載のタイヤ内部部材を備えたタイヤ、
〔14〕前記タイヤが乗用車用タイヤである上記〔13〕記載のタイヤ、に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、無機繊維材料およびカップリング剤を配合することにより、破壊強度および異方性を高度に両立したゴム組成物が提供される。また、該ゴム組成物で構成されるタイヤ内部部材を備えたタイヤは、乗り心地性と操縦安定性がバランスよく改善される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示のゴム組成物は、ゴム成分、無機繊維材料、およびカップリング剤を含有するため、優れた破壊強度および異方性を発揮する。
【0010】
理論に拘束されることは意図しないが、本開示のゴム組成物が優れた破壊強度および異方性を発揮させ得るメカニズムとしては、以下が考えられる。
【0011】
ゴム組成物に無機繊維材料を配合することで、ゴムのモジュラスに異方性を持たせることができるが、無機繊維材料はカーボンブラック等の充填剤に比べゴム成分中に分散しにくいと考えられる。そのため、ゴムマトリクス全体を補強することができず、十分な破壊強度および異方性が得られにくいと考えられる。そこで、無機繊維材料とともに、カップリング剤を配合することで、無機繊維材料のゴムマトリクス内での分散性を向上させ、マトリクス全体を補強するとともに、均一な状態で配向することが可能となるため、異方性も向上するものと考えられる。
【0012】
本開示のゴム組成物(加硫ゴム)は、異方性に優れるという観点から、異方性の指標として反列理方向の100%モジュラスM100bに対する列理方向の100%モジュラスM100aの比の値(M100a/M100b、本明細書において「モジュラス比」と表記することがある)が1.10以上であることが好ましく、1.15以上がより好ましく、1.20以上がさらに好ましい。一方、モジュラスの比の上限値は特に制限されないが、通常2.00以下であり、1.80以下、1.60以下、1.50以下としてもよい。前記モジュラス比を1.10以上とすることにより、カップリング剤により高分散状態で配向した無機繊維材料の反列理方向に対してはしなやかな応答を実現するとともに、列理方向の剛性を高め応答性を向上させることが可能となる。なお、本明細書において「列理方向」とは、押出しまたはせん断処理によりシートを形成する際の圧延方向を意味し、「反列理方向」とは、列理方向に対して垂直の方向を意味する。
【0013】
また、前記ゴム組成物をタイヤとして使用する場合、前記無機繊維の列理方向はタイヤの周方向、半径方向、および幅方向のいずれであってもよいが、乗り心地性および操縦安定性をバランス良く向上させる観点から、タイヤ周方向に沿って列理していることが好ましい。無機繊維がタイヤ周方向に配向することにより、転動時におけるタイヤ垂直方向からの入力(振動)に対してしなやかな応答を実現し、配向方向(タイヤ周方向)の剛性を高めることで、操舵時の入力に対しての応答性が向上する。そのことから、乗り心地性と操縦安定性がバランスよく改善されると考えられる。
【0014】
本開示の一実施形態であるゴム組成物の作製を含むタイヤの作製手順について、以下に詳細に説明する。但し、以下の記載は本開示を説明するための例示であり、本発明の技術的範囲をこの記載範囲にのみ限定する趣旨ではない。なお、本明細書において、「~」を用いて数値範囲を示す場合、その両端の数値を含むものとする。
【0015】
<ゴム成分>
本開示において使用できるゴム成分としては、イソプレン系ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、スチレンイソプレンブタジエンゴム(SIBR)、クロロプレンゴム(CR)、アクリロニトリルブタジエンゴム(NBR)等のジエン系ゴム;エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、ブチルゴム(IIR)、ハロゲン化ブチルゴム(X-IIR)等の非ジエン系ゴム等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。ゴム成分は、イソプレン系ゴム、SBR、およびBRからなる群から選ばれる少なくとも1種を含有するゴム成分としてもよく、イソプレン系ゴムを含むゴム成分としてもよく、イソプレン系ゴムおよびBRを含むゴム成分としてもよく、イソプレン系ゴムおよびBRのみからなるゴム成分としてもよく、BRを含むゴム成分としてもよく、BRおよびSBRを含むゴム成分としてもよく、BRおよびSBRのみからなるゴム成分としてもよく、イソプレン系ゴム、SBRおよびBRイソプレン系ゴムを含むゴム成分としてもよく、イソプレン系ゴム、SBRおよびBRのみからなるゴム成分としてもよい。
【0016】
ゴム成分100質量%中のジエン系ゴムの含有量は、60質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、85質量%以上が特に好ましい。また、ジエン系ゴムのみからなるゴム成分であってもよい。
【0017】
(イソプレン系ゴム)
イソプレン系ゴムとしては、例えば、イソプレンゴム(IR)および天然ゴム等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。天然ゴムには、非改質天然ゴム(NR)の他に、エポキシ化天然ゴム(ENR)、水素化天然ゴム(HNR)、脱タンパク質天然ゴム(DPNR)、高純度天然ゴム、グラフト化天然ゴム等の改質天然ゴム等も含まれる。これらのイソプレン系ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0018】
NRとしては、特に限定されず、タイヤ業界において一般的なものを用いることができ、例えば、SIR20、RSS#3、TSR20等が挙げられる。
【0019】
イソプレン系を含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、破壊強度の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、30質量%以上が特に好ましい。一方、イソプレン系のゴム成分中の含有量の上限は特に制限されないが、90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましく、75質量%以下が特に好ましい。
【0020】
(SBR)
SBRとしては特に限定されず、例えば、溶液重合SBR(S-SBR)、乳化重合SBR(E-SBR)、これらの変性SBR(変性S-SBR、変性E-SBR)等が挙げられ、S-SBRが好ましい。前記変性SBRとしては、末端および/または主鎖が変性されたSBR、スズ、ケイ素化合物等でカップリングされた変性SBR(縮合物、分岐構造を有するもの等)等が挙げられる。またSBRとしては、伸展油を加えて柔軟性を調整した油展タイプのものと、伸展油を加えない非油展タイプのものとがあるが、このいずれも使用可能である。SBRとしては、例えば、JSR(株)、旭化成ケミカルズ(株)、日本ゼオン(株)等より製造販売されているSBRが挙げられる。これらのSBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0021】
SBRのスチレン含量は、グリップ性能の観点から、15質量%以上が好ましく、18質量%以上より好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。また、ポリマーの分散性や低燃費性能の観点の観点からは、60質量%以下が好ましく、55質量%以下がより好ましく、50質量%以下がさらに好ましい。なお、本明細書において、SBRのスチレン含有量は、1H-NMR測定により算出される。
【0022】
SBRを含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、耐摩耗性能の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上が特に好ましい。また、SBRのゴム成分中の含有量の上限は特に制限されないが、90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましく、75質量%以下が特に好ましい。
【0023】
(BR)
BRとしては特に限定されず、例えば、シス1,4結合含有率(シス含量)が50%未満のBR(ローシスBR)、シス1,4結合含有率が90%以上のBR(ハイシスBR)、希土類元素系触媒を用いて合成された希土類系ブタジエンゴム(希土類系BR)、シンジオタクチックポリブタジエン結晶を含有するBR(SPB含有BR)、変性BR(ハイシス変性BR、ローシス変性BR)等タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。これらのBRは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0024】
ハイシスBRのシス1,4結合含有率は、95%以上が好ましく、97%以上がより好ましい。ハイシスBRを含有することで低温特性および耐摩耗性能を向上させることができる。ハイシスBRとしては、例えば、日本ゼオン(株)、宇部興産(株)、JSR(株)等より製造販売されているハイシスBRが挙げられる。希土類系BRとしては、例えば、ランクセス(株)等より製造販売されている希土類系BRが挙げられる。
【0025】
SPB含有BRは、1,2-シンジオタクチックポリブタジエン結晶が、単にBR中に結晶を分散させたものではなく、BRと化学結合したうえで分散しているものが挙げられる。SPB含有BRとしては、例えば、宇部興産(株)等より製造販売されているSPB含有BRが挙げられる。
【0026】
変性BRとしては、リチウム開始剤により1,3-ブタジエンの重合を行ったのち、スズ化合物を添加することにより得られ、さらに変性BR分子の末端がスズ-炭素結合で結合されているもの(スズ変性BR)や、ブタジエンゴムの活性末端に縮合アルコキシシラン化合物を有するブタジエンゴム(シリカ用変性BR)等が挙げられる。このような変性BRとしては、例えば、ZSエラストマー(株)製のスズ変性ポリマー、S変性ポリマー(シリカ用変性)等が挙げられる。
【0027】
BRを含有する場合のゴム成分100質量%中の含有量は、耐摩耗性能の観点から、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、15質量%以上がさらに好ましく、20質量%以上がさらに好ましく、25質量%以上が特に好ましい。BRのゴム成分中の含有量の上限は特に制限されないが、90質量%以下が好ましく、85質量%以下がより好ましく、80質量%以下がさらに好ましく、75質量%以下が特に好ましい。
【0028】
<無機繊維材料>
本開示に係るゴム組成物は、無機繊維材料を含有する。タイヤ周方向に配向した無機繊維材料により強度および剛性に異方性を持たせることにより、転動時におけるタイヤ垂直方向からの入力(振動)に対してしなやかな応答を実現し、配向方向(タイヤ周方向)の剛性を高めることで、操舵時の入力に対しての応答性が向上する。
【0029】
本開示において使用可能な無機繊維材料としては、特に限定されないが、例えば、硫酸マグネシウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、セピオライト、ガラス繊維等が挙げられ、硫酸マグネシウム繊維、ケイ酸カルシウム繊維、チタン酸カリウム繊維、ホウ酸アルミニウム繊維、およびセピオライトからなる群から選ばれる1以上の無機繊維材料が好ましく、硫酸マグネシウム繊維がより好ましい。前記の無機繊維材料は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0030】
硫酸マグネシウム繊維としては、MgSO4・5Mg(OH)2・3H2Oで表される塩基性硫酸マグネシウム繊維が好ましい。ケイ酸カルシウム繊維としては、6CaO・6SiO2・H2Oで表されるケイ酸カルシウム繊維が好ましい。チタン酸カリウム繊維としては、K2O・6TiO2またはK2O・8TiO2で表されるチタン酸カリウム繊維が好ましい。ホウ酸アルミニウム繊維としては、9Al23・2B23で表されるホウ酸アルミニウムが好ましい。セピオライトとしては、Mg8Si1230(OH)4(H2O)4・8H2Oで表されるセピオライトが好ましい。
【0031】
無機繊維材料は、市販のものを用いてもよく、公知の製造方法により製造したものを用いてもよい。無機繊維材料の具体例としては、例えば、宇部マテリアルズ(株)、大塚化学(株)、四国化成工業(株)、近江鉱業(株)等より製造販売されている無機繊維材料が挙げられる。
【0032】
ゴム成分100質量部に対する無機繊維材料の含有量は、ゴム組成物の異方性の観点から、1.0質量部以上が好ましく、1.5質量部以上がより好ましく、2.0質量部以上がさらに好ましく、2.5質量部以上が特に好ましい。また、ゴム組成物の破壊強度の観点からは、50質量部以下が好ましく、45質量部以下がより好ましく、40質量部以下がさらに好ましく、30質量部以下が特に好ましい。
【0033】
無機繊維材料の平均径(平均繊維径もしくは平均幅ともいう)Dは、ゴム組成物の剛性および加工性の観点から、1.0nm以上が好ましく、2.0nm以上がより好ましく、3.0nm以上がさらに好ましい。また、ゴム組成物の剛性および破壊強度の観点からは、2000nm以下が好ましく、1000nm以下がより好ましく、500nm以下がさらに好ましく、100nm以下が特に好ましい。
【0034】
無機繊維材料の平均長(平均繊維長ともいう)Lは、ゴム組成物の異方性の観点から、0.10μm以上が好ましく、0.15μm以上がより好ましく、0.20μm以上がさらに好ましく、0.50μm以上が特に好ましい。また、ゴム組成物の剛性および破壊強度の観点からは、100μm以下が好ましく、80μm以下がより好ましく、60μm以下がさらに好ましく、40μm以下が特に好ましい。
【0035】
なお、本開示において、平均径Dおよび平均長Lは、走査型電子顕微鏡写真の画像解析、透過型顕微鏡写真の画像解析、X線散乱データの解析、細孔電気抵抗法(コールター原理法)等によって測定できる。
【0036】
無機繊維材料のアスペクト比L/Dは、ゴム組成物の異方性の観点から、2以上が好ましく、4以上がより好ましく、6以上がさらに好ましく、8以上が特に好ましい。また、ゴム組成物の破壊強度の観点からは、1000以下が好ましく、500以下がより好ましく、250以下がさらに好ましく、100以下が特に好ましい。
【0037】
<カップリング剤>
本開示に係るゴム組成物は、カップリグ剤を含有する。無機繊維材料はカーボンブラック等の充填剤に比べゴム成分中に分散しにくいが、カップリング剤を配合することで無機繊維材料の分散性が向上し、異方性も向上する。
【0038】
本開示において使用可能なカップリング剤としては、特に限定されないが、シリカおよびゴム成分と結合するシランカップリング剤、カーボンブラックおよびゴム成分と結合するカーボンカップリング剤等が挙げられる。
【0039】
(シランカップリング剤)
シランカップリング剤としては、特に限定されず、ゴム工業において、従来シリカと併用される任意のシランカップリング剤を使用することができるが、例えば、下記のメルカプト基を有するシランカップリング剤;ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)ジスルフィド、ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド等のスルフィド基を有するシランカップリング剤;ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のビニル基を有するシランカップリング剤;3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤;γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン等のグリシドキシ系のシランカップリング剤;3-ニトロプロピルトリメトキシシラン、3-ニトロプロピルトリエトキシシラン等のニトロ系のシランカップリング剤;3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン等のクロロ系のシランカップリング剤等が挙げられる。なかでも、スルフィド基を有するシランカップリング剤および/またはメルカプト基を有するシランカップリング剤が好ましく、スルフィド基を有するシランカップリング剤がより好ましい。これらのシランカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
メルカプト基を有するシランカップリング剤は、下記式(1)で表される化合物、および/または下記式(2)で表される結合単位Aと下記式(3)で表される結合単位Bとを含む化合物であることが好ましい。
【化1】
(式中、R101、R102、およびR103は、それぞれ独立して、炭素数1~12のアルキル、炭素数1~12のアルコキシ、または-O-(R111-O)z-R112(z個のR111は、それぞれ独立して、炭素数1~30の2価の炭化水素基を表し;R112は、炭素数1~30のアルキル、炭素数2~30のアルケニル、炭素数6~30のアリール、または炭素数7~30のアラルキルを表し;zは、1~30の整数を表す。)で表される基を表し;R104は、炭素数1~6のアルキレンを表す。)
【化2】
【化3】
(式中、xは0以上の整数を表し;yは1以上の整数を表し;R201は、水素原子、ハロゲン原子、ヒドロキシルもしくはカルボキシルで置換されていてもよい炭素数1~30のアルキル、炭素数2~30のアルケニル、または炭素数2~30のアルキニルを表し;R202は、炭素数1~30のアルキレン、炭素数2~30のアルケニレン、または炭素数2~30のアルキニレンを表し;ここにおいて、R201とR202とで環構造を形成してもよい。)
【0041】
式(1)で表される化合物としては、例えば、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、2-メルカプトエチルトリメトキシシラン、2-メルカプトエチルトリエトキシシランや、下記化学式(4)で表される化合物(エボニックデグサ社製のSi363)等が挙げられ、下記化学式(4)で表される化合物を好適に使用することができる。これらは、単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【化4】
【0042】
式(2)で示される結合単位Aと式(3)で示される結合単位Bとを含む化合物としては、例えば、モメンティブ社等より製造販売されているものが挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0043】
(カーボンカップリング剤)
カーボンカップリング剤としては、特に限定されないが、ビス(ジメチルアミノエチル)テトラスルフィド(DME)、ビス(ジメチルアミノプロピル)テトラスルフィド(DMP)などのテトラスルフィド化合物;1,2-ビス(ベンズイミダゾリル-2)エタン(EBZ)、1,4’-ビス(メルカプトベンズイミダゾリル-2)ブタン(C4SBZ)等のベンズイミダゾール系化合物;ピリチオン金属塩等が挙げられる。これらのカーボンカップリング剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0044】
カップリング剤(好ましくはシランカップリング剤)のゴム成分100質量部に対する含有量は、無機繊維材料の分散性を高める観点から、1.0質量部以上が好ましく、1.5質量部以上がより好ましく、2.0質量部以上がさらに好ましい。また、破壊強度の観点からは、40質量部以下が好ましく、30質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましく、15質量部以下が特に好ましい。
【0045】
ゴム成分100質量部に対する無機繊維材料の含有量をA(質量部)、シリカの含有量をB(質量部)、カップリング剤(好ましくはシランカップリング剤)の含有量をX(質量部)としたとき、A、B、およびXは下記式(5)を満たすことが好ましい。
0.09A+0.08B≦X≦0.35A+0.08B ・・・(5)
【0046】
<充填剤>
前記のゴム組成物は、充填剤として、カーボンブラック、シリカ、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウム、アルミナ、クレー、タルク等、従来ゴム工業において一般的に用いられているものを配合することができる。なかでもカーボンブラックを含有することが好ましく、カーボンブラックおよびシリカを含有することがより好ましい。
【0047】
カーボンブラックは混合時の発熱性が高いため、混合時の可塑化を促進するとともに、無機繊維材料がカップリング剤と反応し、ゴムマトリクス内に分散しやすくすることができると考えられる。同時に、無機繊維材料と異なり、異方性を持たずに補強効果を得ることができるため、無機繊維の反列理方向に最低限必要な破壊強度を付与することが可能となる。一方、シリカは、カーボンブラックおよび無機繊維材料よりも補強効果は劣るが、しなやかに補強することができるため、反列理方向のしなやかさを担保しつつ、ゴムマトリクス全体を補強することが可能となると考えられる。
【0048】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては特に限定されず、GPF、FEF、HAF、ISAF、SAF等、タイヤ工業において一般的なものを使用でき、具体的にはN110、N115、N120、N125、N134、N135、N219、N220、N231、N234、N293、N299、N326、N330、N339、N343、N347、N351、N356、N358、N375、N539、N550、N582、N630、N642、N650、N660、N683、N754、N762、N765、N772、N774、N787、N907、N908、N990、N991等を好適に用いることができ、これ以外にも自社合成品等も好適に用いることができる。これらのカーボンブラックは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0049】
カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N2SA)は、耐候性や補強性の観点から、30m2/g以上が好ましく、35m2/g以上がより好ましく、40m2/g以上がさらに好ましい。また、分散性、低燃費性能、破壊特性および耐久性の観点からは、250m2/g以下が好ましく、220m2/g以下がより好ましい。なお、本明細書におけるカーボンブラックのN2SAは、JIS K 6217-2:2017「ゴム用カーボンブラック-基本特性-第2部:比表面積の求め方-窒素吸着法-単点法」のA法に準じて測定される値である。
【0050】
カーボンブラックの臭化セチルトリメチルアンモニウム吸着比表面積(CTAB)は、ゴムのネットワークが過剰に強固にならず、ゴム組成物の異方性を確保する観点から、180m2/g以下が好ましく、165m2/g以下がより好ましく、150m2/g以下がさらに好ましい。一方、カーボンブラックのCTABの下限値は特に制限されないが、補強性の観点からは、30m2/g以上が好ましく、40m2/g以上がより好ましく、50m2/g以上がさらに好ましい。ここで、CTABはカーボンブラックの粒子径の大きさに相関する値であり、CTABが大きいほどカーボンブラックの粒子径が小さいことを表す。なお、本明細書におけるカーボンブラックのCTABは、JIS K 6217-3:2001「ゴム用カーボンブラック-基本特性-第3部:比表面積の求め方-CTAB吸着法」に準じて測定される値である。
【0051】
カーボンブラックを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、耐候性や補強性の観点から、1質量部以上が好ましく、5質量部以上がより好ましく、10質量部以上がさらに好ましく、15質量部以上が特に好ましい。また、低燃費性能の観点からは、100質量部以下が好ましく、80質量部以下がより好ましく、60質量部以下がさらに好ましい。
【0052】
(シリカ)
シリカとしては、特に限定されず、例えば、乾式法により調製されたシリカ(無水シリカ)、湿式法により調製されたシリカ(含水シリカ)等、タイヤ工業において一般的なものを使用することができる。なかでもシラノール基が多いという理由から、湿式法により調製された含水シリカが好ましい。これらのシリカは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
シリカの窒素吸着比表面積(N2SA)は、低燃費性能および耐摩耗性能の観点から、140m2/g以上が好ましく、150m2/g以上がより好ましく、160m2/g以上がさらに好ましく、170m2/g以上が特に好ましい。また、低燃費性能および加工性の観点からは、350m2/g以下が好ましく、300m2/g以下がより好ましく、250m2/g以下がさらに好ましい。なお、本明細書におけるシリカのN2SAは、ASTM D3037-93に準じてBET法で測定される値である。
【0054】
シリカを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、低燃費性能の観点から、5質量部以上が好ましく、10質量部以上がより好ましく、15質量部以上がさらに好ましく、20質量部以上が特に好ましい。また、加工性の観点からは、110質量部以下が好ましく、100質量部以下がより好ましく、90質量部以下がさらに好ましく、80質量部以下が特に好ましい。
【0055】
シリカおよびカーボンブラックのゴム成分100質量部に対する合計含有量は、補強性の観点から、20質量部以上が好ましく、25質量部以上がより好ましく、30質量部以上がさらに好ましく、35質量部以上が特に好ましい。また、加工性の観点からは、200質量部以下が好ましく、170質量部以下がより好ましく、150質量部以下がさらに好ましく、130質量部以下が特に好ましい。
【0056】
シリカおよびカーボンブラックの合計含有量中のシリカの含有率は50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、80%以上がさらに好ましい。
【0057】
無機繊維材料、シリカ、およびカーボンブラックの合計含有量中の無機繊維材料の含有量は、5質量%以上が好ましく、8質量%以上がより好ましい。これにより、無機繊維材料による異方性の効果が得られやすくなる。一方、無機繊維材料、シリカ、およびカーボンブラックの合計含有量中の無機繊維材料の含有量は、30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下がさらに好ましい。これにより、列理方向にのみゴム相が補強され、反列理方向に極端に強度が弱くなることを防ぐことが可能となる。
【0058】
<その他の配合剤>
前記のゴム組成物には、前記成分以外にも、従来タイヤ工業で一般に使用される配合剤、例えば、可塑剤、ワックス、老化防止剤、ステアリン酸、酸化亜鉛、硫黄等の加硫剤、加硫促進剤等を適宜含有することができ、可塑剤を含有することが好ましい。可塑剤を含有することにより、混合時にゴムの粘度を低下させ、無機繊維材料を分散させやすくすることで、異方性および破壊強度が向上する傾向がある。可塑剤としては、例えば、オイル、樹脂成分、液状ゴム等が挙げられる。
【0059】
オイルとしては、例えば、アロマチックオイル、プロセスオイル、パラフィンオイル等の鉱物油等が挙げられる。なかでも、環境への負荷低減という理由からプロセスオイルを使用することが好ましい。
【0060】
オイルを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましく、7質量部以上が特に好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、80質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましく、60質量部以下がさらに好ましく、50質量部以下が特に好ましい。なお、本明細書において、オイルの含有量には、油展ゴムに含まれるオイル量も含まれる。
【0061】
樹脂成分としては、特に限定されないが、タイヤ工業で慣用される石油樹脂、テルペン系樹脂、ロジン系樹脂、フェノール系樹脂等が挙げられる。石油樹脂としては、C5系石油樹脂、芳香族系石油樹脂、C5C9系石油樹脂等が挙げられる。これらの樹脂成分は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
本明細書において「C5系石油樹脂」とは、C5留分を重合することにより得られる樹脂をいう。C5留分としては、例えば、シクロペンタジエン、ペンテン、ペンタジエン、イソプレン等の炭素数4~5個相当の石油留分が挙げられる。C5系石油樹脂しては、ジシクロペンタジエン樹脂(DCPD樹脂)が好適に用いられる。
【0063】
本明細書において「芳香族系石油樹脂」とは、C9留分を重合することにより得られる樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。C9留分としては、例えば、ビニルトルエン、アルキルスチレン、インデン、メチルインデン等の炭素数8~10個相当の石油留分が挙げられる。芳香族系石油樹脂の具体例としては、例えば、
クマロンインデン樹脂、クマロン樹脂、インデン樹脂、および芳香族ビニル系樹脂が好適に用いられる。芳香族ビニル系樹脂としては、経済的で、加工しやすく、発熱性に優れているという理由から、α-メチルスチレンもしくはスチレンの単独重合体またはα-メチルスチレンとスチレンとの共重合体が好ましく、α-メチルスチレンとスチレンとの共重合体がより好ましい。芳香族ビニル系樹脂としては、例えば、クレイトン社、イーストマンケミカル社等より市販されているものを使用することができる。
【0064】
本明細書において「C5C9系石油樹脂」とは、前記C5留分と前記C9留分を共重合することにより得られる樹脂をいい、それらを水素添加したものや変性したものであってもよい。C5留分およびC9留分としては、前記の石油留分が挙げられる。C5C9系石油樹脂としては、例えば、東ソー(株)、LUHUA社等より市販されているものを使用することができる。
【0065】
テルペン系樹脂としては、α-ピネン、β-ピネン、リモネン、ジペンテン等のテルペン化合物から選ばれる少なくとも1種からなるポリテルペン樹脂;前記テルペン化合物と芳香族化合物とを原料とする芳香族変性テルペン樹脂;テルペン化合物とフェノール系化合物とを原料とするテルペンフェノール樹脂;並びにこれらのテルペン系樹脂に水素添加処理を行ったもの(水素添加されたテルペン系樹脂)が挙げられる。芳香族変性テルペン樹脂の原料となる芳香族化合物としては、例えば、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン、ジビニルトルエン等が挙げられる。テルペンフェノール樹脂の原料となるフェノール系化合物としては、例えば、フェノール、ビスフェノールA、クレゾール、キシレノール等が挙げられる。
【0066】
ロジン系樹脂としては、特に限定されないが、例えば天然樹脂ロジン、それを水素添加、不均化、二量化、エステル化等で変性したロジン変性樹脂等が挙げられる。
【0067】
フェノール系樹脂としては、特に限定されないが、フェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールホルムアルデヒド樹脂、アルキルフェノールアセチレン樹脂、オイル変性フェノールホルムアルデヒド樹脂等が挙げられる。
【0068】
樹脂成分を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、樹脂成分の含有量は、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。
【0069】
液状ゴムは、常温(25℃)で液体状態のポリマーであれば特に限定されないが、例えば、液状ブタジエンゴム(液状BR)、液状スチレンブタジエンゴム(液状SBR)、液状イソプレンゴム(液状IR)、液状スチレンイソプレンゴム(液状SIR)、液状ファルネセンゴム等が挙げられる。これらの液状ゴムは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0070】
液状ゴムを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましい。また、液状ゴムの含有量は、50質量部以下が好ましく、40質量部以下がより好ましく、20質量部以下がさらに好ましい。
【0071】
可塑剤のゴム成分100質量部に対する含有量(複数の可塑剤を併用する場合は全ての合計量)は、1質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましく、5質量部以上がさらに好ましく、7質量部以上が特に好ましい。また、可塑剤の含有量は、90質量部以下が好ましく、70質量部以下がより好ましく、50質量部以下がさらに好ましく、30質量部以下が特に好ましい。可塑剤の含有量が90質量部を超えると、可塑剤によるゴムマトリクス全体の軟化を招き、無機繊維材料による十分な補強性も得られないため、異方性および破壊強度が低下する傾向がある。
【0072】
ワックスを含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐候性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、ブルームによるタイヤの白色化防止の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0073】
老化防止剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、アミン系、キノリン系、キノン系、フェノール系、イミダゾール系の各化合物や、カルバミン酸金属塩等の老化防止剤が挙げられ、N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N-イソプロピル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジフェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジ-2-ナフチル-p-フェニレンジアミン、N-シクロヘキシル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1-メチルヘプチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1,4-ジメチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N,N’-ビス(1-エチル-3-メチルペンチル)-p-フェニレンジアミン、N-4-メチル-2-ペンチル-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン、N,N’-ジアリール-p-フェニレンジアミン、ヒンダードジアリール-p-フェニレンジアミン、フェニルヘキシル-p-フェニレンジアミン、フェニルオクチル-p-フェニレンジアミン等のフェニレンジアミン系老化防止剤、および2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン重合体、6-エトキシ-2,2,4-トリメチル-1,2-ジヒドロキノリン等のキノリン系老化防止剤が好ましい。これらの老化防止剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0074】
老化防止剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、ゴムの耐オゾンクラック性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能やウェットグリップ性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0075】
ステアリン酸を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、加硫速度の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0076】
酸化亜鉛を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、加工性の観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、耐摩耗性能の観点からは、10質量部以下が好ましく、5質量部以下がより好ましい。
【0077】
加硫剤としては硫黄が好適に用いられる。硫黄としては、粉末硫黄、油処理硫黄、沈降硫黄、コロイド硫黄、不溶性硫黄、高分散性硫黄等を用いることができる。
【0078】
加硫剤として硫黄を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、十分な加硫反応を確保し、良好なグリップ性能および耐摩耗性能を得るという観点から、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、劣化防止の観点からは、5.0質量部以下が好ましく、4.5質量部以下がより好ましく、4.0質量部以下がさらに好ましい。
【0079】
硫黄以外の加硫剤としては、例えば、田岡化学工業(株)製のタッキロールV-200、フレクシス社製のDURALINK HTS(1,6-ヘキサメチレン-ジチオ硫酸ナトリウム・二水和物)、ランクセス(株)製のKA9188(1,6-ビス(N,N’-ジベンジルチオカルバモイルジチオ)ヘキサン)等の硫黄原子を含む加硫剤や、ジクミルパーオキサイド等の有機過酸化物等が挙げられる。
【0080】
加硫促進剤としては、特に限定されるものではないが、例えば、スルフェンアミド系、チアゾール系、チウラム系、チオウレア系、グアニジン系、ジチオカルバミン酸系、アルデヒド-アミン系もしくはアルデヒド-アンモニア系、イミダゾリン系、キサンテート系加硫促進剤が挙げられ、なかでも、所望の効果がより好適に得られる点から、スルフェンアミド系加硫促進剤およびグアニジン系加硫促進剤が好ましく、これら2種を併用することがより好ましい。
【0081】
スルフェンアミド系加硫促進剤としては、CBS(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)、TBBS(N-t-ブチル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)、N-オキシエチレン-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N’-ジイソプロピル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド、N,N-ジシクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド等が挙げられる。チアゾール系加硫促進剤としては、2-メルカプトベンゾチアゾール、ジベンゾチアゾリルジスルフィド等が挙げられる。チウラム系加硫促進剤としては、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラベンジルチウラムジスルフィド(TBzTD)等が挙げられる。グアニジン系加硫促進剤としては、1,3-ジフェニルグアニジン(DPG)、ジオルトトリルグアニジン、オルトトリルビグアニジン等が挙げられる。これらの加硫促進剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0082】
加硫促進剤を含有する場合のゴム成分100質量部に対する含有量は、0.5質量部以上が好ましく、1.0質量部以上がより好ましく、1.5質量部以上がさらに好ましい。また、加硫促進剤のゴム成分100質量部に対する含有量は、8質量部以下が好ましく、7質量部以下がより好ましく、6質量部以下がさらに好ましい。加硫促進剤の含有量を上記範囲内とすることにより、破壊強度および伸びが確保できる傾向がある。
【0083】
[ゴム組成物およびタイヤの製造方法]
本開示のゴム組成物は、公知の方法により製造することができる例えば、バンバリーミキサーやニーダー、オープンロール等の一般的なゴム工業で使用される公知の混練機で、前記各成分のうち、加硫剤および加硫促進剤以外の成分を混練りした後、これに、加硫剤および加硫促進剤を加えてさらに混練りし、その後加硫する方法等により製造できる。例えば、混練工程では、80℃~170℃で1分間~30分間混練りし、加硫工程では、130℃~190℃で3分間~20分間加硫する。
【0084】
本開示のゴム組成物は、無機繊維がタイヤ周方向に配向することにより、転動時におけるタイヤ垂直方向からの入力(振動)に対してしなやかな応答を実現し、配向方向(タイヤ周方向)の剛性を高めることで、操舵時の入力に対しての応答性が向上すると考えられる。そのことから、キャップトレッド、ベーストレッド、サイドウォール、サイドウォール内層、インナーライナー、ストリップエイペックス、ビードエイペックス、クリンチエイペックス、ビード補強層、インスレーション、インサート等のタイヤ周方向に連続した部材に好適に使用することができ、何れにおいても同様の効果が得られるものと考えられる。なかでも、ベーストレッド、サイドウォール内層、インナーライナー、ストリップエイペックス、ビードエイペックス、ビード補強層、インスレーション、インサート等のタイヤ内部部材用ゴム組成物として好適に使用される。本開示のゴム組成物を、かかるタイヤ内部部材として使用することにより、クッション性を維持しつつ、転がり方向のタイヤの弾性(応答性)を向上させることができることから、操縦安定性および乗り心地性が向上するものと考えられる。
【0085】
なお、本明細書において「内部部材」とは、前記の部材に限定されず、タイヤをリムに装着し、空気を充填した際に、外表面を作る部材以外のタイヤ部材を指すものとする。
【0086】
本開示のタイヤは、前記のゴム組成物を用いて、通常の方法により製造できる。すなわち、ゴム成分に対して上記各成分を必要に応じて配合した未加硫のゴム組成物を、対応するタイヤ部材の形状にあわせて押出し加工し、無機繊維材料が列理方向に配向したゴム組成物を得る。そして、無機繊維材料がタイヤ周方向に配向するように前記のゴム組成物をタイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせ、通常の方法にて成型することにより、未加硫タイヤを形成し、この未加硫タイヤを加硫機中で加熱加圧することにより、タイヤを製造することができる。本開示のタイヤは、空気入りタイヤ、非空気入りタイヤを問わない。また、競技用タイヤ、乗用車用タイヤ、大型乗用車用、大型SUV用タイヤ、モーターサイクル用タイヤに好適であり、それぞれのサマータイヤ、ウインタータイヤ、スタッドレスタイヤとして使用可能である。
【実施例
【0087】
本開示を実施例に基づいて説明するが、本開示は、実施例のみに限定されるものではない。
【0088】
以下、実施例および比較例において用いた各種薬品をまとめて示す。
NR:TSR20
BR:宇部興産(株)のウベポールBR150B(シス含量:97%)
SBR1:旭化成(株)製のタフデン3830(未変性S-SBR、スチレン含量:32質量%、ゴム成分100重量部に対しオイル分37.5質量部を含む油展品)
SBR2:旭化成(株)製のアサプレン1205(未変性S-SBR、スチレン含量:25質量%)
カーボンブラック:キャボットジャパン(株)製ショウブラックN220(CTAB:110m2/g、N2SA:111m2/g)
シリカ:エボニックデグサ社製のULTRASIL(登録商標)VN3(N2SA:175m2/g)
無機繊維材料1:宇部マテリアルズ(株)製のモスハイジ(塩基性硫酸マグネシウム繊維、平均繊維径:500~1000nm、平均繊維長:8~30μm)
無機繊維材料2:セピオライト(平均繊維径:5~30nm、平均繊維長:0.2~2.0μm)
無機繊維材料3:宇部マテリアルズ(株)製のゾノハイジ(ケイ酸カルシウム繊維、平均繊維径:100~500nm、平均繊維長:1~5μm)
シランカップリング剤:エボニックデグサ社製のSi69(ビス(3-トリエトキシシリルプロピル)テトラスルフィド)
オイル:ENEOS(株)製のプロセスオイルX-140
老化防止剤:精工化学(株)製のオゾノン6C(N-(1,3-ジメチルブチル)-N’-フェニル-p-フェニレンジアミン)
ステアリン酸:日油(株)製のステアリン酸「椿」
酸化亜鉛:三井金属鉱業(株)製の亜鉛華1号
ワックス:日本精蝋(株)製のオゾエース0355
硫黄:鶴見化学工業(株)製の粉末硫黄
加硫促進剤1:住友化学(株)製のソクシノールCZ(N-シクロヘキシル-2-ベンゾチアゾリルスルフェンアミド)
加硫促進剤2:住友化学(株)製のソクシノールD(1,3-ジフェニルグアニジン)
【0089】
(実施例および比較例)
表1および表2に示す配合処方に従い、(株)神戸製鋼所製のバンバリーミキサーを用いて、硫黄および加硫促進剤以外の材料を混練りし、混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄および加硫促進剤を添加し、オープンロールを用いて練り込み、未加硫ゴム組成物を得た。得られた未加硫ゴム組成物からオープンロールで厚み0.5mmのシートを作製した。得られた未加硫ゴムシートを重ねて1.5mmのシートにし、150℃で15分間プレス加硫して試験用加硫ゴムシートを作製した。また、前記未加硫ゴム組成物を、所定の形状の口金を備えた押し出し機でサイドウォール内層の形状にあわせて押出し加工し、無機繊維材料が列理方向に配向したサイドウォール内層を得た。そして、無機繊維材料がタイヤ周方向に配向するように前記のサイドウォール内層をタイヤ成型機上で他のタイヤ部材とともに貼り合わせて未加硫タイヤを形成し、170℃の条件下で12分間プレス加硫することにより、タイヤ(サイズ:205/65R15)を製造した。
【0090】
<異方性試験>
上記の加硫ゴムシートから、JIS3号形ダンベルにて列理方向(加硫前の未加硫ゴムシートを製造する際のロール回転方向)に打抜き、JIS K 6251:2017に準じて500mm/分の引張速度の条件下で、列理方向に伸び100%時の引張応力(M100a)を測定した。同様に、JIS3号形ダンベルにて反列理方向(加硫前の未加硫ゴムシートを製造する際のロール回転方向から垂直方向)に打抜き、JIS K 6251:2017に準じて500mm/分の引張速度の条件下で、反列理方向に伸び100%時の引張応力(M100b)を測定した。そして、算出されたモジュラス比(M100a/M100b)を表1および表2に記載した。
【0091】
<引張試験>
加硫ゴム組成物からなる3号ダンベル型試験片を用いて、JIS K 6251:2017に準じて、加硫ゴムシートの破断時伸びEB(%)および破断時の引張強度TB(MPa)を測定した。得られた値より、以下の式で破壊強度を求め、基準比較例(表1では比較例1、表2では比較例3。以下同じ)を100としたときの指数で表示した(破壊強度指数)。指数が大きいほど、破壊強度に優れることを示す。
破壊強度=EB×TB/2
【0092】
<操縦安定性および乗り心地性の評価>
試作タイヤを標準リム(サイズ=16×6.5J)に組み込み、このタイヤに空気を充填して内圧を210kPaとした。このタイヤを排気量が2000ccである自動車に装着した。この自動車を、その路面がアスファルトであるテストコースで走行させ、乗り心地性および操舵時のコントロールの安定性(操縦安定性)をテストドライバーが官能評価した。評価は10点満点で行い、基準比較例を6.0点として相対評価した。評点が高いほど操縦安定性および乗り心地性に優れることを示す。
【0093】
【表1】
【0094】
【表2】
【0095】
表1および表2の結果より、無機繊維材料およびカップリング剤を含有する本開示のゴム組成物は、破壊強度および異方性を高度に両立できることがわかる。また、該ゴム組成物で構成されるタイヤ内部部材を備えた本開示のタイヤは、乗り心地性と操縦安定性がバランスよく改善されていることがわかる。