(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】平板状成形体および多層体
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20250527BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20250527BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20250527BHJP
B32B 7/023 20190101ALI20250527BHJP
B32B 7/027 20190101ALI20250527BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20250527BHJP
【FI】
C08J5/18 CFD
C08L69/00
B32B27/36 102
B32B7/023
B32B7/027
H01B5/14 A
(21)【出願番号】P 2021562657
(86)(22)【出願日】2020-12-01
(86)【国際出願番号】 JP2020044671
(87)【国際公開番号】W WO2021112082
(87)【国際公開日】2021-06-10
【審査請求日】2023-10-11
(31)【優先権主張番号】P 2019219351
(32)【優先日】2019-12-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004466
【氏名又は名称】三菱瓦斯化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】石井 太樹
(72)【発明者】
【氏名】大野 翔太朗
【審査官】加賀 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開昭60-008356(JP,A)
【文献】特開平10-310692(JP,A)
【文献】特開2001-249222(JP,A)
【文献】国際公開第2006/028131(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/18
C08L 69/00
B32B 27/36
B32B 7/023
B32B 7/027
H01B 5/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス転移温度が180℃以上であるビスフェノールAP型ポリカーボネートを含む平板状成形体であって、
光弾性係数が85×10
-12m
2/N以下であり、厚みが75μm以下であり、ヘイズが2.0%以下であ
り、
前記ビスフェノールAP型ポリカーボネートにおける式(A-1)で表される構成単位の割合が、末端基を除く全構成単位中、90モル%超であり、
透明導電性フィルムの基材用である、平板状成形体。
【化1】
(式(A-1)中、R
1
~R
4
は、それぞれ独立に、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素原子数1~9のアルキル基、炭素原子数6~12のアリール基、炭素原子数1~5のアルコキシ基、炭素原子数2~5のアルケニル基または炭素原子数7~17のアラルキル基を表す。lは0~5の整数を表す。mおよびnはそれぞれ独立に0~4の整数を表す。式中の*は、他の部位との結合位置を表す。)
【請求項2】
さらに、ビスフェノールA型ポリカーボネートを含み、
前記平板状成形体に含まれるポリカーボネートのうち、前記ビスフェノールAP型ポリカーボネートの割合が15質量%以上90質量%以下である、請求項1に記載の平板状成形体。
【請求項3】
前記平板状成形体のガラス転移温度が154℃以上である、請求項1または2に記載の平板状成形体。
【請求項4】
さらに、酸化防止剤を含む、請求項1~3のいずれか1項に記載の平板状成形体。
【請求項5】
さらに、離型剤を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の平板状成形体。
【請求項6】
75×25mmのサイズに切り出し、JIS C5016に準拠して、FPC屈曲試験機を用い、折曲げ面の曲率半径1.5mm、屈曲回数20万回における耐屈曲試験を行ったとき破断しない、請求項1~5のいずれか1項に記載の平板状成形体。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載の平板状成形体を有する多層体。
【請求項8】
前記平板状成形体の片面上または両面上に硬化性樹脂層を有する、請求項
7に記載の多層体。
【請求項9】
前記平板状成形体の片面上または両面上に屈折率調整層を有する、請求項
7または
8に記載の多層体。
【請求項10】
前記平板状成形体の片面上または両面上に保護フィルムを有する、請求項
7~
9のいずれか1項に記載の多層体。
【請求項11】
前記平板状成形体の上に、透明導電層を有する、請求項
7~
10のいずれか1項に記載の多層体。
【請求項12】
前記透明導電層が、ATO(アンチモンドープ酸化インジウム)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)、ITO(インジウムスズ複合酸化物)、Ag、Cu、Auおよびカーボンナノチューブの1種以上を含む、請求項
11に記載の多層体。
【請求項13】
透明導電性フィルムである、請求項
11または
12に記載の多層体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、平板状成形体および多層体に関する。特に、透明導電性フィルムの基材に適したポリカーボネートを用いた平板状成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートは、透明性、耐衝撃性、耐熱性、寸法安定性などに優れる汎用エンジニアリングプラスチックとして種々の分野で用いられている。その用途の1つが、透明性に優れる特性を生かした光学分野での使用である。一般的なポリカーボネートは、ビスフェノールAから誘導されたものであり、比較的高い屈折率を有することから、光学レンズとしての使用が検討されている。例えば、特許文献1には、特定の構成単位を共重合して得られるポリカーボネートが、光学特性および耐衝撃性に優れ、メガネレンズやカメラレンズに使用できることが記載されている。また、特許文献2には、芳香族ポリカーボネートからなる光学部品が開示されており、光学部品の具体例として、光ディスク基盤、ピックアップレンズ等が挙げられている。
【0003】
さらには、ポリカーボネートを各種フィルムにおいて使用することも検討されている。例えば、電子・電気機器部品用のフィルム、光学フィルム、耐熱性フィルム、電気絶縁性フィルム等が挙げられる(特許文献3)。特許文献3には、特定の構成単位を有するポリカーボネート共重合体を成形してなるポリカーボネートフィルムが記載されており、特に機械的強度、耐熱性等に優れることが記載されている。さらに、ポリカーボネートの優れた特性を活かして、多岐にわたる技術分野に展開すべく研究開発が盛んであるが、途上のものが多いのが現状であり、その特性等において改善の余地が多分にある。今後は、ポリカーボネートのより広範囲なフィルム用途での使用を検討することが見込まれるため、各用途に応じて適した特性を有するポリカーボネートフィルムの開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-210569号公報
【文献】特開平10-109950号公報
【文献】特開平05-339390号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、最近の映像・通信機器のディスプレイやタッチパネルには、フォルダブルタイプやベンダブルタイプのように、曲げられる特性が重要視されてきている。これらのディスプレイ・タッチパネルの基材にはガラスではなく樹脂製のフィルム素材が最適とされる。しかしながら、このようにディスプレイを曲げた際に、映像がぼやける、二重に映るなどの問題が発生する。これらの問題は、樹脂フィルム基材が折り曲げられた際に、光路上に発生する複屈折に起因している。また、上記の折りたたみディスプレイなどにおいては、樹脂フィルム基材に耐屈曲性が求められる場合がある。
本発明はかかる課題を解決することを目的とするものであって、折り曲げた際の光学不良が少なく、耐屈曲性に優れた平板状成形体および前記平板状成形体を含む多層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題のもと、本発明者が検討を行った結果、光弾性係数が低く、かつ、厚みが薄い平板状成形体とすることにより、上記課題を解決しうることを見出した。具体的には、下記手段により、上記課題は解決された。
<1>ガラス転移温度が180℃以上であるビスフェノールAP型ポリカーボネートを含む平板状成形体であって、光弾性係数が85×10-12m2/N以下であり、厚みが75μm以下であり、ヘイズが2.0%以下である、平板状成形体。
<2>さらに、ビスフェノールA型ポリカーボネートを含み、前記平板状成形体に含まれるポリカーボネートのうち、前記ビスフェノールAP型ポリカーボネートの割合が15質量%以上90質量%以下である、<1>に記載の平板状成形体。
<3>前記平板状成形体のガラス転移温度が154℃以上である、<1>または<2>に記載の平板状成形体。
<4>さらに、酸化防止剤を含む、<1>~<3>のいずれか1つに記載の平板状成形体。
<5>さらに、離型剤を含む、<1>~<4>のいずれか1つに記載の平板状成形体。
<6>75×25mmのサイズに切り出し、JIS C5016に準拠して、FPC屈曲試験機を用い、折曲げ面の曲率半径1.5mm、屈曲回数20万回における耐屈曲試験を行ったとき破断しない、<1>~<5>のいずれか1つに記載の平板状成形体。
<7>透明導電性フィルムの基材用である、<1>~<6>のいずれか1つに記載の平板状成形体。
<8><1>~<7>のいずれか1つに記載の平板状成形体を有する多層体。
<9>前記平板状成形体の片面上または両面上に硬化性樹脂層を有する、<8>に記載の多層体。
<10>前記平板状成形体の片面上または両面上に屈折率調整層を有する、<8>または<9>に記載の多層体。
<11>前記平板状成形体の片面上または両面上に保護フィルムを有する、<8>~<10>のいずれか1つに記載の多層体。
<12>前記平板状成形体の上に、透明導電層を有する、<8>~<11>のいずれか1つに記載の多層体。
<13>前記透明導電層が、ATO(アンチモンドープ酸化インジウム)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)、ITO(インジウムスズ複合酸化物)、Ag、Cu、Auおよびカーボンナノチューブの1種以上を含む、<12>に記載の多層体。
<14>透明導電性フィルムである、<12>または<13>に記載の多層体。
【0007】
<A>上記いずれかの平板状成形体において、さらに、厚みが50μm未満(好ましくは49μm以下)である、平板状成形体。
<B>上記いずれかの平板状成形体において、さらに、厚み方向のレターデーション(Rth)が38nm以下である、平板状成形体。
<C>透明導電層、硬化性樹脂層、および、平板状成形体を前記順に有する透明導電性フィルムであって、前記平板状成形体が上記いずれかの平板状成形体である、透明導電性フィルム。
<D>透明導電層、屈折率調整層、硬化性樹脂層、および、平板状成形体を前記順に有する透明導電性フィルムであって、前記平板状成形体が上記いずれかの平板状成形体である、透明導電性フィルム。
<E>透明導電層、屈折率調整層、硬化性樹脂層、平板状成形体、保護フィルムを前記順に有する透明導電性フィルムであって、前記平板状成形体が上記いずれかの平板状成形体である、透明導電性フィルム。
【発明の効果】
【0008】
折り曲げた際の光学不良が少なく、耐屈曲性に優れた平板状成形体および前記平板状成形体を含む多層体を提供可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の多層体の層構成の一例を示す模式図である。
【
図2】実施例における光漏れの測定方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。なお、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値および上限値として含む意味で使用される。
本明細書において、各種物性値および特性値は、特に述べない限り、23℃におけるものとする。
本明細書における平板状成形体および多層体は、それぞれ、フィルムまたはシートの形状をしているものを含む趣旨である。「フィルム」および「シート」とは、それぞれ、長さと幅に対して、厚さが薄く、概ね、平らな成形体をいう。また、本明細書における「フィルム」は、単層であっても多層であってもよい。
なお、本明細書における「質量部」とは成分の相対量を示し、「質量%」とは成分の絶対量を示す。
【0011】
本発明の平板状成形体は、ガラス転移温度が180℃以上であるビスフェノールAP型ポリカーボネートを含む平板状成形体であって、光弾性係数が85×10-12m2/N以下であり、厚みが75μm以下であり、ヘイズが2.0%以下であることを特徴とする。
本発明では、ガラス転移温度が180℃以上であるビスフェノールAP型ポリカーボネートを用い、その厚みを薄くし、光弾性係数を低くすることにより、ヘイズが2.0%以下と低い透明性を保ちつつ、折り曲げた際の光学不良が少なく、耐屈曲性に優れた平板状成形体が得られる。さらに、平板状成形体の加熱収縮率を小さくすることも可能になる。このメカニズムは、光弾性係数を低くすることにより、樹脂は外力により複屈折が発生しにくくなる。したがって、フィルム成形時に成形ロールで外力をかけた際に発生する複屈折を小さくすることができ、折り曲げた際の光学不良を抑えることができると推測される。耐屈曲性は、フィルム厚みを薄くすることにより、折り曲げ時にフィルム表面に発生する応力を小さくすることができるためだと推測される。
以下、本発明について詳細に説明する。
【0012】
<ガラス転移温度が180℃以上であるビスフェノールAP型ポリカーボネート>
本発明の平板状成形体は、ガラス転移温度が180℃以上であるビスフェノールAP型ポリカーボネートを含む。ガラス転移温度が高いビスフェノールAP型ポリカーボネートを用いることにより、フィルム加工性を維持しながら高い耐熱性と低い光弾性係数を達成できる。すなわち、ビスフェノールA型ポリカーボネートの側鎖のメチル基をフェニル基に置き換えることにより、耐熱性が向上するとともに光学的異方性を低減させることができる。
ビスフェノールAP型ポリカーボネートは、ビスフェノールAP(1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1-フェニルエタン)およびその誘導体由来のカーボネート単位を有する樹脂をいい、下記式(A-1)で表される構成単位を有していることが好ましい。
【化1】
式(A-1)中、R
1~R
4は、それぞれ独立に、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、炭素原子数1~9(好ましくは1~3)のアルキル基、炭素原子数6~12(好ましくは6~10)のアリール基、炭素原子数1~5(好ましくは1~3)のアルコキシ基、炭素原子数2~5(好ましくは2または3)のアルケニル基または炭素原子数7~17(好ましくは7~11)のアラルキル基を表す。lは0~5の整数を表す。mおよびnはそれぞれ独立に0~4の整数を表す。式中の*は、他の部位(他の構成単位や末端基)との結合位置を表す。
【0013】
式(A-1)で表される構成単位は、下記式(A-2)で表される構成単位であることが好ましい。
【化2】
R
1、R
2、R
3、R
4、l、m、nは、ぞれぞれ、式(A-1)で定義したものと同義である。式中の*は、他の部位(他の構成単位や末端基)との結合位置を表す。
【0014】
式(A-2)で表される構成単位は、下記式(A-3)で表される構成単位であることが好ましい。式中の*は、他の部位(他の構成単位や末端基)との結合位置を表す。
【化3】
【0015】
ビスフェノールAP型ポリカーボネートにおける、式(A-1)で表される構成単位の含有量は、末端基を除く全構成単位中、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。上限値は特に限定されず、100モル%が式(A-1)で表される構成単位であってもよい。ビスフェノールAP由来の構成単位は1種のみでも、2種以上で構成されていてもよい。ビスフェノールAP型ポリカーボネートとして特に好ましくは、実質的に全量が式(A-1)で表される構成単位である樹脂が挙げられる。ここでの実質的に全量とは、具体的には、末端基を除く全構成単位の99.0モル%以上であることを意味し、99.5モル%以上が好ましく、99.9モル%以上がより好ましい。
ビスフェノールAP型ポリカーボネートは、ビスフェノールAPおよびその誘導体由来のカーボネート単位とは異なる他の構成単位を有していてもよい。このような他の構成単位を構成するジヒドロキシ化合物としては、例えば、特開2018-154819号公報の段落0014に記載の芳香族ジヒドロキシ化合物を挙げることができ、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0016】
本発明で用いるビスフェノールAP型ポリカーボネートの製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
【0017】
本発明において、ビスフェノールAP型ポリカーボネートのガラス転移温度(Tg)は、下限が、180℃以上であり、181℃以上であることが好ましく、182℃以上であることがより好ましく、183℃以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、平板状成形体の加熱収縮率をより小さくできる。上限としては、例えば、210℃以下であり、200℃以下であることが好ましく、190℃以下であることがより好ましい。上記上限値以下とすることにより、良好なフィルム成形性がより効果的に維持できる。
なお、平板状成形体中に、2種以上のビスフェノールAP型ポリカーボネートが含まれる場合、その混合物のガラス転移温度の測定値をビスフェノールAP型ポリカーボネートのガラス転移温度として扱う。
ガラス転移温度(Tg)は後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0018】
本発明において、ビスフェノールAP型ポリカーボネートの粘度平均分子量は、下限が、15,000以上であることが好ましく、17,500以上であることがより好ましく、20,000以上であることがさらに好ましい。上記下限値以上とすることにより、耐屈曲性をより向上させることができる。上限としては、25,000以下であることが好ましく、22,000以下であることがより好ましく、21,500以下であることがさらに好ましい。上記上限値以下とすることにより、良好なフィルム成形性を効果的に維持できる。
なお、平板状成形体中に、ビスフェノールAP型ポリカーボネートが2種以上含まれる場合、その混合物の測定値をビスフェノールAP型ポリカーボネートの粘度平均分子量として扱う。
【0019】
ここで、本発明におけるポリカーボネートの粘度平均分子量[Mv]は、溶媒としてメチレンクロライドを使用し、ウベローデ粘度計を用いて温度25℃での極限粘度[η](単位dL/g)を求め、Schnellの粘度式、すなわち、η=1.23×10
-4Mv
0.83から算出される値を意味する。また、極限粘度[η]とは、各溶液濃度[C](g/dL)での比粘度[η
sp]を測定し、下記式により算出した値である。
【数1】
【0020】
ビスフェノールAP型ポリカーボネートの含有量は、平板状成形体に含まれるポリカーボネート中、15質量%以上であることが好ましく、27質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましく、50質量%以上であることが一層好ましく、55質量%以上であることがより一層好ましく、60質量%以上であることがさらに一層好ましく、65質量%以上であってもよい。上限値としては、90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましく、78質量%以下であることがさらに好ましく、75質量%以下であることが一層好ましく、72質量%以下であることがより一層好ましい。このような範囲とすることにより、フィルム加工性を維持しながら高い耐熱性と低い光弾性係数を実現できる。
ビスフェノールAP型ポリカーボネートは1種を用いても2種以上を用いてもよい。2種以上を用いる場合はその合計量が上記範囲となる。
【0021】
<ビスフェノールA型ポリカーボネート>
本発明の平板状成形体は、さらに、ビスフェノールA型ポリカーボネートを含んでいることが好ましい。ビスフェノールA型ポリカーボネートを含むことにより、フィルム成形性を効果的に維持できる。
ビスフェノールA型ポリカーボネートは、ビスフェノールA(2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン)およびその誘導体由来のカーボネート単位を有する樹脂をいい、下記式(B-1)で表される構成単位を有していることが好ましい。式中の*は結合位置を表す。
【化4】
式(B-1)中、X
1は下記構造を表す。
【化5】
R
5およびR
6は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基であり、少なくとも一方がメチル基であることが好ましく、両方がメチル基であることがより好ましい。
式(B-1)は下記式(B-2)で表されることが好ましい。
【化6】
【0022】
ビスフェノールA型ポリカーボネートにおける、式(B-1)で表される構成単位の含有量は、末端基を除く全構成単位中、70モル%以上であることが好ましく、80モル%以上であることがより好ましく、90モル%以上であることがさらに好ましい。上限値は特に限定されず、末端基を除く100モル%が式(B-1)で表される構成単位であってもよい。ビスフェノールA型ポリカーボネートとして特に好ましくは実質的に末端基を除く全構成単位が式(B-1)の構成単位で構成された樹脂である。ここでの実質的に全量とは、具体的には、末端基を除く全構成単位の99.0モル%以上を意味し、99.5モル%以上が好ましく、99.9モル%以上がより好ましい。
ビスフェノールA型ポリカーボネートは、ビスフェノールAおよびその誘導体由来のカーボネート単位以外の他の構成単位を有していてもよい。このような他の構成単位を構成するジヒドロキシ化合物としては、例えば、特開2018-154819号公報の段落0014に記載の芳香族ジヒドロキシ化合物を挙げることができ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0023】
ビスフェノールA型ポリカーボネートの製造方法は、特に限定されるものではなく、任意の方法を採用できる。その例を挙げると、界面重合法、溶融エステル交換法、ピリジン法、環状カーボネート化合物の開環重合法、プレポリマーの固相エステル交換法などを挙げることができる。
【0024】
本発明において、ビスフェノールA型ポリカーボネートの粘度平均分子量は、下限としては、8,000以上であることが好ましく、10,000以上であることがより好ましく、12,000以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、耐屈曲性により優れる傾向にある。上限としては、30,000以下であることが好ましく、20,000以下であることがより好ましく、18,000以下であることがさらに好ましい。前記上限値以下とすることにより、平板状成形体への成形性がより向上する傾向にある。
なお、平板状成形体中に、ビスフェノールA型ポリカーボネートが2種以上含まれる場合には、その混合物の測定値をビスフェノールA型ポリカーボネートの粘度平均分子量として扱う。
【0025】
ビスフェノールA型ポリカーボネートのガラス転移温度(Tg)は、135℃以上であることが好ましく、138℃以上であることがより好ましく、140℃以上であることがさらに好ましい。前記下限値以上とすることにより、平板状成形体の加熱収縮率をより小さくできる傾向にある。上限としては、160℃以下であることが好ましく、さらには、150℃以下、さらには145℃以下であってもよい。
なお、平板状成形体中に、2種以上のビスフェノールA型ポリカーボネートが含まれる場合、その混合物のガラス転移温度の測定値をビスフェノールA型ポリカーボネートのガラス転移温度として扱う。
ガラス転移温度(Tg)は後述する実施例に記載の方法で測定される。
【0026】
ビスフェノールA型ポリカーボネートの含有量は、平板状成形体に含まれるポリカーボネート中、10質量%以上であることが好ましく、15質量%以上であることがより好ましく、23質量%以上であることがさらに好ましく、25質量%以上であることが一層好ましく、28質量%以上であることがより一層好ましい。上限値としては、85質量%以下であることが好ましく、73質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましく、50質量%以下であることが一層好ましく、45質量%以下であることがより一層好ましく、40質量%以下であることがより一層好ましく、35質量%以下であってもよい。このような範囲とすることにより、フィルム加工性を維持しながら高い耐熱性と低い光弾性係数を実現できる。
ビスフェノールA型ポリカーボネートは1種を用いても2種以上を用いてもよい。2種以上を用いる場合はその合計量が上記範囲となる。
【0027】
本発明の平板状成形体は、その90質量%以上がポリカーボネートであることが好ましく、95質量%以上がポリカーボネートであることがより好ましく、97質量%以上がポリカーボネートであることがさらに好ましく、98質量%以上がポリカーボネートであることが一層好ましく、99質量%以上がポリカーボネートであってもよい。
【0028】
本発明の平板状成形体に含まれるポリカーボネートは、ビスフェノールAP型ポリカーボネートのみからなっていてもよいし、ビスフェノールAP型ポリカーボネートとビスフェノールA型ポリカーボネートのみからなっていてもよいし、ビスフェノールAP型ポリカーボネートに加え、他のポリカーボネートを含んでいてもよいし、ビスフェノールAP型ポリカーボネートとビスフェノールA型ポリカーボネートに加え、他のポリカーボネートを含んでいてもよい。本発明では、平板状成形体に含まれるポリカーボネートの合計の99質量%以上がビスフェノールAP型ポリカーボネートとビスフェノールA型ポリカーボネートで構成されることが好ましい。ビスフェノールAP型ポリカーボネートと、ビスフェノールA型ポリカーボネートのブレンド物を用いることにより、良好なフィルム成形性をより効果的に維持することができる。
【0029】
<酸化防止剤>
本発明の平板状成形体は、酸化防止剤を含有することが好ましい。
酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが挙げられ、リン系酸化防止剤およびフェノール系酸化防止剤(より好ましくはヒンダードフェノール系酸化防止剤および/またはセミヒンダードフェノール系酸化防止剤)が好ましい。
リン系酸化防止剤は、以下の式(1)または式(2)で表されるホスファイト化合物が好ましい。
【化7】
(式(1)中、R
11およびR
12はそれぞれ独立に、炭素原子数1~30のアルキル基または炭素原子数6~30のアリール基を表す。)
【化8】
(式(2)中、R
13~R
17は、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数6~20のアリール基または炭素原子数1~20のアルキル基を表す。)
【0030】
上記式(1)中、R11および/またはR12で表されるアルキル基は、それぞれ独立に、炭素原子数1~10の直鎖または分岐のアルキル基であることが好ましい。R11および/またはR12がアリール基である場合、以下の式(1-a)、式(1-b)、または式(1-c)ので表されるアリール基が好ましい。式中の*は結合位置を表す。
【0031】
【化9】
(式(1-a)中、R
Aは、それぞれ独立に、炭素原子数1~10のアルキル基を表す。式(1-b)中、R
Bは、それぞれ独立に、炭素原子数1~10のアルキル基を表す。)
【0032】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤およびセミヒンダードフェノール系酸化防止剤が挙げられる。フェノール系酸化防止剤としては、特開2019-002023号公報の段落0041に記載のフェノール系酸化防止剤および特開2019-056035号公報の段落0033~0034に記載のフェノール系酸化防止剤が好ましく用いられ、これらの内容は本明細書に組み込まれる。
【0033】
酸化防止剤の詳細は、特開2017-031313号公報の段落0057~0061の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0034】
酸化防止剤の含有量は、ポリカーボネート100質量部に対して、好ましくは0.005質量部以上であり、より好ましくは0.007質量部以上、さらに好ましくは0.01質量部以上である。また、酸化防止剤の含有量の上限は、ポリカーボネート100質量部に対して、好ましくは0.4質量部以下であり、より好ましくは0.3質量部以下、さらに好ましくは0.2質量部以下、一層好ましくは0.1質量部以下である。
酸化防止剤の含有量を0.005質量部以上とすることにより、色相、耐熱変色性がより良好な平板状成形体を得ることができる。また、酸化防止剤の含有量を0.4質量部以下とすることにより、耐熱変色性を悪化させることなく、湿熱安定性が良好な平板状成形体を得ることができる。
また、酸化防止剤として、リン系酸化防止剤とフェノール系酸化防止剤(好ましくはヒンダードフェノール系酸化防止剤および/またはセミヒンダードフェノール系酸化防止剤)を組み合わせて使用する場合、その含有量は、ポリカーボネート100質量部に対して、リン系酸化防止剤を0.001~0.2質量部、フェノール系酸化防止剤を0.001~0.2質量部の範囲で含有することが好ましい。
【0035】
酸化防止剤は、1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0036】
<離型剤>
本発明の平板状成形体は、離型剤を含んでいてもよい。
離型剤を含むことにより、平板状成形体を巻き取る際の巻取性を向上させたり、金型を用いて成形する場合の離型性をより向上させることができる。
離型剤の種類は特に定めるものではないが、離型剤としては、脂肪族カルボン酸、脂肪族カルボン酸とアルコールとのエステル、数平均分子量200~15000の脂肪族炭化水素化合物、数平均分子量100~5000のポリエーテル、およびポリシロキサン系シリコーンオイルからなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を挙げることができる。
離型剤の詳細は、WO2015/190162号公報の段落0035~0039の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0037】
離型剤の含有量は、ポリカーボネート100質量部に対して、好ましくは0.001質量部以上であり、より好ましくは0.005質量部以上、さらに好ましくは0.007質量部以上である。また、離型剤の含有量の上限は、ポリカーボネート100質量部に対して、好ましくは1.0質量部以下、より好ましくは0.5質量部以下、さらに好ましくは0.1質量部以下、一層好ましくは0.05質量部以下である。
離型剤は、1種のみ用いてもよく、2種以上用いてもよい。2種以上用いる場合、合計量が上記範囲となることが好ましい。
【0038】
<その他の成分>
本発明の平板状成形体は、上記成分の他、紫外線防止剤、熱安定剤、難燃剤、難燃助剤、着色剤、帯電防止剤、蛍光増白剤、防曇剤、流動性改良剤、可塑剤、分散剤、抗菌剤、アンチブロッキング剤、衝撃改良剤、摺動改良剤、色相改良剤、酸トラップ剤等を含んでいてもよい。これらの成分は、1種を用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0039】
<平板状成形体の製造方法>
本発明の平板状成形体は、公知の方法を適宜使用して作製することができ、押出成形、キャスト成形等を使用することが好ましい。
押出成形の例としては、ポリカーボネート成分に、任意に添加剤を加えたペレット、フレークあるいは粉末を押出機で溶融、混練後、Tダイ等から押し出して得られる半溶融状のシートを、ポリッシングロール等で挟圧しながら、冷却、固化して平板状成形体とする方法が挙げられる。押出機は一軸押出機でも二軸押出機でもよく、またベント付きおよびノンベントのいずれも使用できる。
キャスト成形の例としては、溶媒に平板状成形体を構成する成分を十分に溶解させ、得られた溶液を支持体上に流延してフィルム状の流延膜を形成し、この流延膜を加熱等により乾燥し、平板状成形体を得る方法が挙げられる。なお、溶媒については、キャストフィルム化できるものであれば制限なく用いることができるが、例えばメチレンクロライド、ジオキソラン等が好適に用いられる。
【0040】
<平板状成形体の特性>
次に、本発明の平板状成形体の特性について述べる。
【0041】
本発明の平板状成形体は、厚みが75μm以下であり、70μm以下であることが好ましく、65μm以下であることがより好ましく、60μm以下であることがさらに好ましく、55μm以下であることが一層好ましく、50μm未満であってもよく、49μm以下であってもよい。厚みを75μm以下とすることにより、耐屈曲性に優れると共に、透明性に優れた平板状成形体が得られる。本発明の平板状成形体の厚みの下限は、20μm以上であることが好ましく、25μm以上であることがより好ましく、30μm以上であってもよい。上記下限値以上とすることにより、フィルムの強度を維持し成形時の破断を抑えることができる。
【0042】
本発明の平板状成形体は、ガラス転移温度が154℃以上であることが好ましく、155℃以上であることが好ましく、160℃以上であることがより好ましく、165℃以上であってもよく、170℃以上であってもよい。上記下限値以上とすることにより、フィルムの加熱収縮率をより小さくできる傾向にある。本発明の平板状成形体のガラス転移温度の上限は、特に定めるものではないが、190℃以下が実際的である。平板状成形体のガラス転移温度を高くする方法としては、平板状成形体中のビスフェノールAP型ポリカーボネートの割合を増やすことなどが例示される。
ガラス転移温度は、後述する実施例の記載に従って測定される。
【0043】
本発明の平板状成形体は、ヘイズが2.0%以下であり、1.5%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがより好ましく、0.8%以下であることがさらに好ましく、0.5%以下であることが一層好ましく、0.3%未満であることがより一層好ましく、0.25%以下であることがさらに一層好ましい。また、本発明の平板状成形体のヘイズは、低い方が好ましいが、下限は、0.01%以上が実際的である。平板状成形体のヘイズは、平板状成形体の主成分をポリカーボネートとすること、平板状成形体の厚みを薄くすること等によって、低くすることができる。
【0044】
本発明の平板状成形体は、光弾性係数が85×10-12m2/N以下である。このような構成とすることにより、折り曲げた際の光学不良が効果的に抑制される。また、厚み方向のレターデーション(Rth)を低くすることも可能になる。
光弾性係数は、70×10-12m2/N以下であることが好ましく、65×10-12m2/N以下であることがより好ましく、60×10-12m2/N以下であることがさらに好ましく、58×10-12m2/N以下であることが一層好ましい。前記上限値以下とすることにより、折り曲げた際の光学不良をより効果的に抑制できる傾向にある。光弾性係数は、低い方が好ましいが、例えば、45×10-12m2/N以上が実際的である。
光弾性係数を所望の値にする方法としては、ポリカーボネートとして、ビスフェノールAP型ポリカーボネートを採用することなどが例示される。
光弾性係数は、後述する実施例に記載の方法に従って測定される。
【0045】
本発明の平板状成形体は、75×25mmのサイズに切り出し、JIS C5016に準拠して、FPC屈曲試験機を用い、折曲げ面の曲率半径1.5mm、屈曲回数20万回における耐屈曲試験を行ったとき破断しないことが好ましい。尚、FPCとは、フレキシブルプリント配線板あるいはフレキシブルプリント板の略語である。
耐屈曲試験の詳細は、後述する実施例に記載の方法に従う。
【0046】
本発明の平板状成形体は、厚み方向のレターデーション(Rth)を低くすることができる。具体的には、38nm以下、さらには、35nm以下、特には、30nm以下とすることができる。本発明の平板状成形体のRthの下限は低い方がよいが、例えば、3nm以上が実際的である。
Rthは例えば以下の方法に従って測定される。
[厚み方向のレターデーションの測定方法]
エリプソメーター(例えば、日本分光株式会社製「M-220」)を用いて、平板状成形体の各層の面内方向における最大の屈折率を与える方向の屈折率nx、面内方向におけるnxの方向に対して垂直な方向の屈折率ny、および、厚み方向の屈折率nzを測定する。これらのnx、ny、nzおよび平板状成形体の厚みから厚み方向のレターデーションRth(nm)を算出する。
[測定条件]
分光方式:ダブルモノクロ方式
測定波長:550nm
入射角:90°
バンド幅:0.5mm
レスポンス:2sec
異方性解析ステージの開始あおり角および終了あおり角:-50°、50°
測定間隔:5°
【0047】
<用途>
本発明の平板状成形体は、単層体(単層フィルム、単層シート)として用いてもよいし、多層体として用いてもよい。
単層体としての平板状成形体は、光学フィルム、基材、保護フィルム等として有用である。特に、本発明の単層体は、透明導電性フィルムの基材用(特に、透明導電層の基材用)として適している。
【0048】
次に、本発明の平板状成形体を用いた多層体について説明する。
本発明の多層体は、本発明の平板状成形体を有する。本発明の多層体は、平板状成形体の片面上または両面上に硬化性樹脂層を有することが好ましい。また、本発明の多層体は、平板状成形体の片面上または両面上(好ましくは片面上)に屈折率調整層を有することが好ましい。また、本発明の多層体は、平板状成形体の片面上または両面上(好ましくは片面上)に保護フィルムを有することが好ましい。また、本発明の多層体は、平板状成形体の上に、透明導電層を有することが好ましい。
【0049】
本発明の多層体は、透明導電性フィルムに好ましく用いられる。
図1は、透明導電性フィルムの一例であって、1は透明導電層を、2は屈折率調整層を、3は硬化性樹脂層を、4は平板状成形体を、5は保護フィルムを示している。
【0050】
透明導電層の材料は、導電性を有する限り特に限定されないが、ATO(アンチモンドープ酸化インジウム)、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)、ITO(インジウムスズ複合酸化物)、Ag、Cu、Auおよびカーボンナノチューブの1種以上を含むことが好ましい。
透明導電層の厚さは、1~30nmであることが好ましい。
透明導電層は、例えば、透明電極層として用いられる。
【0051】
屈折率調整層は、屈折率を調整する層であり、エッチング後のパターンなどを見えにくくすることもできる。屈折率調整層は、透明導電層の屈折率に近い屈折率の層(高屈折率層)であってもよく、また、高屈折率層と低屈折率層の両方から構成されていてもよい。特に、透明導電層に近い方から、高屈折率層と低屈折率層となる構成が好ましい。高屈折率層および低屈折率層の詳細は、特開2019-124913号公報の段落0071~0095の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0052】
硬化性樹脂層は、多層体に硬度や耐薬品性、耐擦傷性などを与えることができる。硬化性樹脂層は、例えば、鉛筆硬度がH以上である熱硬化性樹脂、エネルギー線硬化性樹脂を使用することができる。エネルギー線硬化性樹脂としては、紫外線硬化型樹脂があげられる。具体的には、アクリル系、ポリエステル系、ウレタン系、シリコーン系、アミド系、エポキシ系等の各種のものがあげられ、紫外線硬化型のモノマー、オリゴマー、ポリマー等が含まれる。硬化性樹脂層の厚みには特に制限はないが、0.5~10μmであることが望ましい。
【0053】
保護フィルムとしては、樹脂フィルムが好ましい。樹脂フィルムを構成する樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、シクロオレフィン、ポリアリレート、ポリスルフォン、ポリアミド、ポリイミド等があげられる。保護フィルムの厚みには特に制限はないが、10~100μmであることが好ましい。
【0054】
上記透明導電性フィルムは、
図1の構成に限られるものではない。例えば、
図1において、平板状成形体と保護フィルムの間に、さらに、硬化性樹脂層を有していてもよい。また、
図1に示す各構成層の間に接着層や粘着層などを有していてもよい。特に、保護フィルムの表面に粘着層を有する態様が好ましい。
また、
図1の透明導電性フィルムは、さらにハードコート層、防眩層、反射防止層、低反射層、導電層、アンチブロッキング層、帯電防止層、着色層、紫外線吸収層、防汚層等の機能層を有していてもよい。ハードコート層の詳細は、特開2019-124913号公報の段落0096~0102の記載を参酌でき、この内容は本明細書に組み込まれる。
【0055】
上記透明導電性フィルムは、タッチパネルのフィルムセンサー、電子ペーパー、色素増感型太陽電池、タッチセンサー等において好ましく用いられる。特に、折り畳みディスプレイ、曲面のディスプレイなど、耐屈曲性が求められる用途に好ましく用いられる。
【0056】
本発明の平板状成形体および多層体は、具体的には、電気電子機器、OA機器、情報端末機器、機械部品、家電製品、車輌部品、建築部材、各種容器、レジャー用品・雑貨類、照明機器等の部品、各種家庭用電気製品等の部品、電気器具のハウジング、容器、カバー、収納部、ケース、照明器具のカバーやケース等において使用することができる。電気電子機器としては、例えば、パーソナルコンピュータ、ゲーム機、テレビジョン受像機、液晶表示装置やプラズマ表示装置等のディスプレイ装置、プリンター、コピー機、スキャナー、ファックス、電子手帳やPDA、電子式卓上計算機、電子辞書、カメラ、ビデオカメラ、携帯電話、スマートフォン、タブレット、電池パック、記録媒体のドライブや読み取り装置、マウス、テンキー、CDプレーヤー、MDプレーヤー、携帯ラジオ・オーディオプレーヤー等を挙げることができる。また、電飾看板、液晶バックライト、照明ディスプレイ、交通標識、サインボード、スクリーン、反射板やメーター部品等の自動車部品、玩具、装飾品等の分野において好ましく使用することができる。
【実施例】
【0057】
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り、適宜、変更することができる。従って、本発明の範囲は以下に示す具体例に限定されるものではない。
【0058】
[原料]
・ビスフェノールAP型ポリカーボネート
(A1)ビスフェノールAPを出発原料とする界面重合法により得られた芳香族ポリカーボネート(三菱ガス化学社製、FPC-0220、粘度平均分子量20,200、ガラス転移温度184℃)
【0059】
・ビスフェノールA型ポリカーボネート
(B1)ビスフェノールAを出発原料とする界面重合法により得られた芳香族ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、H-4000F、粘度平均分子量16,000、ガラス転移温度143℃)
(B2)ビスフェノールAを出発原料とする界面重合法により得られた芳香族ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、H-7000F、粘度平均分子量14,000、ガラス転移温度141℃)
(B3)ビスフェノールAを出発原料とする界面重合法により得られた芳香族ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、E-2000F、粘度平均分子量27,000、ガラス転移温度151℃)
(B4)ビスフェノールAを出発原料とする界面重合法により得られた芳香族ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、K-4000F、粘度平均分子量40,000、ガラス転移温度154℃)
(B5)ビスフェノールAを出発原料とする界面重合法により得られた芳香族ポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス社製、S-3000F、粘度平均分子量21,000、ガラス転移温度148℃)
【0060】
・酸化防止剤
(C1)3、9-ビス{2-[3-(3-t-ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ]-1,1-ジメチルエチル}-2,4,8,10-テトラオキサスピロ[5.5]ウンデンカン(セミヒンダードフェノール系酸化防止剤、ADEKA社製、アデカスタブAO-80)
(C2)ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(リン系酸化防止剤、ADEKA社製、アデカスタブPEP-36)
【0061】
・離型剤
(D1)グリセリンモノステアレート(理研ビタミン社製、リケマールS-100A)
【0062】
実施例1
<ペレットの製造>
上記に記載した各成分を、それぞれ表1または表2に記載の添加量となるように計量した。表1または表2に記載する各成分の配合量は質量部で示している。その後、タンブラーにて15分間混合した後、スクリュー径32mmのベント付二軸押出機(日本製鋼所社製「TEX30α」)により、シリンダー温度300℃で溶融混練し、ストランドカットによりペレットを得た。
【0063】
<フィルム(平板状成形体)の製造>
上記で得られたペレットを用いて、以下の方法でフィルム(平板状成形体)を製造した。
上記で得られたペレットを、バレル直径32mm、スクリューのL/D=31.5のベント付き二軸押出機(日本製鋼所社製、「TEX30α」)からなるTダイ溶融押出機を用いて、吐出量10Kg/h、スクリュー回転数150rpmの条件で、溶融状に押し出し、第一ロールと第二ロールで圧着した後、冷却固化し、フィルム(平板状成形体)を作製した。シリンダーおよびTダイ温度は300℃とした。
最終的に得られるフィルム(平板状成形体)の厚み(単位:μm)の調整は、表1または表2に記載の値となるように、第一ロールおよび第二ロールのロール速度を変更して行った。
用いた第一ロールおよび第二ロールの詳細は以下の通りである。
・第一ロール:持田商工社製、シリコーンゴムロール(IT68S-MCG)
寸法:外径260mm×幅600mm
ロール温度:50℃
・第二ロール:鏡面金属剛体ロール(表面:ハードクロム処理)
芯金寸法:外径250mm×幅600mm
ロール温度:140℃
【0064】
<ガラス転移温度の測定>
上記で得られたフィルム(平板状成形体)、または、原料であるポリカーボネートのガラス転移温度は以下の通り測定した。フィルム(平板状成形体)は、はさみでカットして測定した。
上記試料約10mgを下記DSC(示差走査熱量)の測定条件のとおりに、昇温および降温を2サイクル行い、2サイクル目の昇温時のガラス転移温度を測定した。低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、変曲点の接線の交点を開始ガラス転移温度とし、高温側のベースラインを低温側に延長した直線と、変曲点の接線の交点を終了ガラス転移温度とし、開始ガラス転移温度と終了ガラス転移温度の中間地点を本発明におけるガラス転移温度(単位:℃)とした。
測定開始温度:30℃
昇温速度:10℃/分
到達温度:250℃
降温速度:20℃/分
測定装置は、示差走査熱量計(DSC、日立ハイテクサイエンス社製、「DSC7020」)を使用した。
【0065】
<フィルム加工性>
ペレットからフィルム(平板状成形体)を製造した。その際、押出可能だった場合はA、溶融粘度が高すぎて押出できなかった場合はBとして示した。
【0066】
<光弾性係数の測定>
上記で得られたフィルム(平板状成形体)に、23℃、相対湿度50%の環境下で、エリプソメーターを用いて、フィルム(平板状成形体)にフィルム成形時の流れ方向に応力荷重(0~720gf)をかけながら、波長633nmでフィルム(平板状成形体)の面内のレターデーション(Re)値を測定した。そして、応力とReの傾きから光弾性係数を算出した。表には、10-12倍の値について、m2/Nの単位で示した。
エリプソメーターは、日本分光(株)製、エリプソメーターM-220を用いた。
【0067】
<ヘイズの測定>
上記で得られたフィルム(平板状成形体)について、ヘイズメーターを用いて、D65光源10°視野の条件にて、ヘイズ(単位:%)を測定した。
ヘイズメーターは、村上色彩技術研究所社製「HM-150」を用いた。
【0068】
<光漏れ>
平板状成形体が折り曲げられた際に発生する光学不良をよりわかりやすく再現するため、以下に示す「光漏れ」として評価を行った。
上記で得られたフィルム(平板状成形体)をA4サイズに切り出して短辺側が軸となるように、直径30mmの円筒状に巻いて、サンプルを得た。
図2に示すように、面光源21の前面に、2枚の偏光シート22・24を、それぞれの偏光軸が直交するように配置した。そして、前記偏光シート22・24の間に、円筒状のサンプル23を入れて光漏れを目視で確認した。この偏光シート22と偏光シート24の間に設置した円筒状のサンプル23に複屈折が発生していない場合、偏光シート22で特定の方向に偏光された光が、さらに偏光シート24で遮られるため、観察側には光は通らない。一方で、円筒状のサンプル23に複屈折が発生していた場合、偏光シート22で特定方向に偏光された光は、非偏光状態に戻るため、一部の光が偏光シート24を透過する。すなわち、光漏れとして観測される。
試験は、専門家5人が行い、多数決で判定した。
A:光漏れが発生しない
B:やや光漏れが発生する(AおよびCのいずれにも該当しない)
C:光漏れが発生する
【0069】
<耐屈曲性>
上記で得られたフィルム(平板状成形体)を75×25mmのサイズに切り出し、JIS C5016に準拠して、FPC屈曲試験機を用いて、折曲げ面の曲率半径1.5mmにおける耐屈曲試験を行った。今回の耐屈曲試験では、20万回屈曲試験終了後の試験サンプルの破断の有無を、目視にて、下記の基準で評価判定した。
FPC屈曲試験機としては、安田精機製作所社製「No.306FPC屈曲試験機」(商品名)を用いた。
試験は、専門家5人が行い、多数決で判定した。
A:破断なし
B:破断あり
【0070】
<加熱収縮率>
上記で得られたフィルム(平板状成形体)中の任意の3か所について、幅方向に150mmおよび流れ方向に150mmの正方形の試料を切り取った。前記試料に、23℃、相対湿度50%の雰囲気下でフィルム(平板状成形体)の幅方向および流れ方向にそれぞれ間隔約100mmの標点を記し、ノギスを用いてその間隔を測定した後、160℃の恒温槽で30分間熱処理した。恒温槽から取り出し、23℃、相対湿度50%の雰囲気下に60分静置した後、23℃、相対湿度50%の雰囲気下でノギスにて上記標点間隔を測定し、下記式により加熱収縮率を算出し、3か所の平均値をもってフィルム(平板状成形体)の幅方向および流れ方向の加熱収縮率とした。
加熱収縮率(%)=[{(熱処理前の寸法)-(熱処理後の寸法)}/(熱処理前の寸法)]×100
尚、流れ方向とは、押出成形の場合は、押出方向をいい、キャスティングの場合は、流延方向をいう。幅方向とは、流れ方向に垂直な方向をいう。
【0071】
実施例2~5、比較例1~4
実施例1において、表1または表2に示す通り、平板状成形体の各成分の処方を変更し、他は同様に行った。
【0072】
比較例5
実施例1において、表1または表2に示す通り、平板状成形体の各成分の処方を変更し、さらに、フィルム(平板状成形体)の製造において、以下の変更を行い、他は同様に行った。
・第二ロール:算術平均粗さ2.4μmのエンボス加工ロール
芯金寸法:外径250mm×幅600mm
ロール温度:140℃
比較例5はエンボス加工ロールを使用したことにより、フィルム(平板状成形体)のヘイズが高く、光学フィルムとして使用できないため、光漏れ、耐屈曲性、加熱収縮率の評価を実施しなかった。
【0073】
比較例6
実施例1において、表1または表2に示す通り、平板状成形体の各成分の処方を変更し、他は同様に行った。比較例6は溶融粘度が高すぎてフィルムに加工できなかった。
【0074】
【符号の説明】
【0075】
1 透明導電層
2 屈折率調整層
3 硬化性樹脂層
4 平板状成形体
5 保護フィルム
21 面光源
22 偏光シート
23 円筒状のサンプル
24 偏光シート