(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】ボールねじ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 25/24 20060101AFI20250527BHJP
F16H 25/22 20060101ALI20250527BHJP
【FI】
F16H25/24 K
F16H25/22 Z
(21)【出願番号】P 2022022149
(22)【出願日】2022-02-16
【審査請求日】2024-09-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】チハ リガ
【審査官】小川 克久
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-241783(JP,A)
【文献】実開昭61-182451(JP,U)
【文献】実開昭54-063879(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2013/0112025(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/24
F16H 25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、
内周面に螺旋状のねじ溝を有し、前記ねじ軸に外嵌されるナットと、
前記ねじ軸及び前記ナットの前記ねじ溝によって形成される転動路に収容される複数のボールと、
を備えたボールねじ装置であって、
前記ねじ軸及び前記ナットには、それぞれ前記転動路の間のランド部に、互いに対向する螺旋溝が形成され、
前記ねじ軸または前記ナットの前記螺旋溝に冷却管が配置されている、
ボールねじ装置。
【請求項2】
前記冷却管は、前記螺旋溝に固定された状態で、固定側と対向する前記ねじ軸または前記ナットに接触しない外径を有する、
請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項3】
前記螺旋溝は、片側に隣接する前記転動路に偏った位置に形成されている、
請求項1または請求項2に記載のボールねじ装置。
【請求項4】
前記螺旋溝は、前記転動路のピッチに対して異なるピッチを有する、
請求項1~3のいずれか一項に記載のボールねじ装置。
【請求項5】
外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、
内周面に螺旋状のねじ溝を有し、前記ねじ軸に外嵌されるナットと、
前記ねじ軸及び前記ナットの前記ねじ溝によって形成される転動路に収容される複数のボールと、
を備えたボールねじ装置であって、
前記ねじ軸または前記ナットには、前記転動路の間のランド部に螺旋溝が形成され、
前記螺旋溝に冷却管が配置されている、
ボールねじ装置。
【請求項6】
前記冷却管は、前記螺旋溝に固定された状態で、固定側と対向する前記ねじ軸または前記ナットに接触しない外径を有する、
請求項5に記載のボールねじ装置。
【請求項7】
前記螺旋溝は、片側に隣接する前記転動路に偏った位置に形成されている、
請求項5または請求項6に記載のボールねじ装置。
【請求項8】
前記螺旋溝は、前記転動路のピッチに対して異なるピッチを有する、
請求項5~7のいずれか一項に記載のボールねじ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ボールねじ装置は、ねじ軸とナットにそれぞれ設けられたねじ溝にボールを入れ、ねじ軸またはナットが回転したときにボールが自転及び公転することで回転運動を高効率に直線運動に変換する装置である。
【0003】
このボールねじ装置は、ねじ軸またはナットが回転運動を直線運動に変換し続けるために、ボールが転動路内を循環する構造となっており、そのボールを循環させる循環方式としては、チューブ式、こま式あるいはエンドキャップ式などの各種の方式がある。
【0004】
ところで、工作機械、射出成形機あるいは半導体素子製造装置等の精密送り機構として使用されるボールねじ装置は、高温になると、ねじ軸やナットが熱変形するおそれがある。このような熱変形が生じると、ボールの負荷分布異常や作動性の悪化が生じ、送り機構としての位置決め精度等に影響を及ぼすため、冷却した状態で使用される。
【0005】
特許文献1には、ボールねじ装置を構成するナットに冷却液通孔を形成し、この冷却液通孔内に冷却液源からの冷却液を供給・循環させ、ナットを直接的に冷却することにより、ボールねじ装置の発熱による熱変形を低減させることが記載されている。
【0006】
また、特許文献2には、ナットの螺旋溝に形成された研削逃げ溝に冷却管を配置してボールねじ装置を冷却することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2000-24876号公報
【文献】特許第5644668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、特許文献1に記載のボールねじ装置では、ナットに冷却液を循環させるための冷却液通孔を軸方向に形成している。このため、特に、軸方向の寸法が大きいナットでは、細長い冷却液通孔を形成する必要があり、加工コストが嵩んでしまう。また、冷却液通孔と発熱源である転動路との間に距離があるため、高温になり易い環境や厳しい使用条件では冷却不足になるおそれがある。
【0009】
また、特許文献2に記載のボールねじ装置では、研削逃げ溝に冷却管を配置するため、配置可能な冷却管の外径寸法が研削逃げ溝のサイズに限定されてしまう。このボールねじ装置における研削逃げ溝は、その直角断面最大幅寸法が、使用されるボールの直径に対して1/4以上であると、ボールとねじ溝の接触部が少なくなり、ねじ溝形状として成り立たない。このため、例えば、冷却管としては、最大でもボールの直径の1/4以下となる研削逃げ溝の幅寸法に制限され、効率的な冷却が難しい。しかも、近年では、切削仕上げによる研削逃げ部がないボールねじ装置が増えており、冷却管の収容スペースを確保できないことがある。
【0010】
そこで本発明は、コストを抑えつつ、バランスよく効率的に冷却して高い精度を維持させることが可能なボールねじ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は下記構成からなる。
(1) 外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、
内周面に螺旋状のねじ溝を有し、前記ねじ軸に外嵌されるナットと、
前記ねじ軸及び前記ナットの前記ねじ溝によって形成される転動路に収容される複数のボールと、
を備えたボールねじ装置であって、
前記ねじ軸及び前記ナットには、それぞれ前記転動路の間のランド部に、互いに対向する螺旋溝が形成され、
前記ねじ軸または前記ナットの前記螺旋溝に冷却管が配置されている、
ボールねじ装置。
(2) 外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、
内周面に螺旋状のねじ溝を有し、前記ねじ軸に外嵌されるナットと、
前記ねじ軸及び前記ナットの前記ねじ溝によって形成される転動路に収容される複数のボールと、
を備えたボールねじ装置であって、
前記ねじ軸または前記ナットには、前記転動路の間のランド部に螺旋溝が形成され、
前記螺旋溝に冷却管が配置されている、
ボールねじ装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コストを抑えつつ、バランスよく効率的に冷却して高い精度を維持させることが可能なボールねじ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】第1実施形態に係るボールねじ装置の軸方向に沿う断面図である。
【
図2】第1実施形態に係るボールねじ装置のねじ軸とナットとの境界部分における軸方向に沿う断面図である。
【
図3】第1実施形態に係るボールねじ装置を構成するナットの軸方向に沿う断面図である。
【
図4】第2実施形態に係るボールねじ装置のねじ軸とナットとの境界部分における軸方向に沿う断面図である。
【
図5】第3実施形態に係るボールねじ装置の軸方向に沿う断面図である。
【
図6】第3実施形態に係るボールねじ装置を構成するねじ軸の一端側から視た正面図及び側面図である。
【
図7】第3実施形態に係るボールねじ装置のねじ軸の端部構造を示す一部を断面視した側面図である。
【
図8】第4実施形態に係るボールねじ装置のねじ軸とナットとの境界部分における軸方向に沿う断面図である。
【
図9】第4実施形態に係るボールねじ装置の他の例を示すねじ軸とナットとの境界部分における軸方向に沿う断面図である。
【
図10】第5実施形態に係るボールねじ装置のねじ軸とナットとの境界部分における軸方向に沿う断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(第1実施形態)
まず、第1実施形態に係るボールねじ装置を説明する。
図1は、第1実施形態に係るボールねじ装置100の軸方向に沿う断面図である。
図1に示すように、第1実施形態に係るボールねじ装置100は、ねじ軸10と、ナット20と、複数のボール30と、を備えて構成されている。ねじ軸10は、中心軸を中心とした断面円形状に形成され、その外周面に螺旋状の第1ねじ溝(ねじ溝)11が形成されている。
【0015】
ナット20は、略円筒状をなし、その内径はねじ軸10の外径よりも大きく形成されており、ねじ軸10に所定の隙間をもって外嵌している。ナット20の一端部には、案内対象と結合するためのフランジ25が設けられている。
【0016】
ナット20の内周面には、ねじ軸10の第1ねじ溝11と等しいリードを有し、第1ねじ溝11と対向する第2ねじ溝(ねじ溝)21が形成されている。そして、ねじ軸10の第1ねじ溝11とナット20の第2ねじ溝21とによって断面略円形状の転動路32が形成されている。この転動路32内に複数のボール30が転動可能に充填配置されている。
【0017】
ボールねじ装置100は、ねじ軸10またはナット20が回転運動を直線運動に変換し続けるために、ボール30が転動路32内を循環する構造となっている。これにより、ナット20に対するねじ軸10の相対的な回転に伴って、複数のボール30が無限循環することにより、ねじ軸10とナット20が軸方向に相対的に直線運動することが可能となる。なお、ボール30を循環させる循環方式としては、チューブ式、こま式あるいはエンドキャップ式のいずれの方式であってもよい。
【0018】
図2は、第1実施形態に係るボールねじ装置100のねじ軸10とナット20との境界部分における軸方向に沿う断面図である。
図2に示すように、ねじ軸10は、転動路32を構成する第1ねじ溝11の間が第1ランド部(ランド部)12とされており、同様に、ナット20は、転動路32を構成する第2ねじ溝21の間が第2ランド部(ランド部)22とされている。
【0019】
ねじ軸10には、転動路32の間の第1ランド部12に第1螺旋溝(螺旋溝)13が形成され、ナット20には、転動路32の間の第2ランド部22に第2螺旋溝(螺旋溝)23が形成されている。これらのねじ軸10及びナット20に形成された第1螺旋溝13及び第2螺旋溝23は、互いに対向する位置に形成されている。
【0020】
第1螺旋溝13及び第2螺旋溝23は、第1ねじ溝11及び第2ねじ溝21からなる転動路32のピッチP1に対して、同一のピッチP1を有している。また、第1螺旋溝13及び第2螺旋溝23は、第1ランド部12及び第2ランド部22の中央位置に形成され、これにより、両側の転動路32との間の寸法が、同一寸法Aとされている。
【0021】
なお、第1螺旋溝13及び第2螺旋溝23の溝形状は、第1ねじ溝11及び第2ねじ溝21と同様の円弧状でもよいが、例えば、矩形状や台形状等の円弧状と異なる形状でもよい。本例では、第1螺旋溝13及び第2螺旋溝23は、第1ねじ溝11及び第2ねじ溝21よりも小さな円弧状の溝形状とされている。
【0022】
ナット20には、冷却管40が設けられている。この冷却管40には、例えば、冷却水等の冷媒が通される。この冷却管40は、ナット20の第2螺旋溝23に配置されており、この第2螺旋溝23に沿って螺旋状に形成されている。冷却管40としては、例えば、銅管、ステンレス管、ポリウレタンチューブあるいはナイロンチューブ等が使用される。この冷却管40は、第2螺旋溝23に嵌め合わされてナット20に固定されている。なお、この冷却管40は、接着材によって第2螺旋溝23に固定してもよい。
【0023】
このナット20に設けられた冷却管40は、第2螺旋溝23に固定された状態で、固定側と対向するねじ軸10に接触しない外径を有している。これにより、冷却管40は、ねじ軸10との間に隙間をあけて配置されている。
【0024】
図3は、第1実施形態に係るボールねじ装置100を構成するナット20の軸方向に沿う断面図である。
図3に示すように、ナット20には、その両端に、断面視L字状の挿通穴26が形成されている。挿通穴26は、径方向に延びる径穴部26aと、軸方向に延びる軸穴部26bとを有している。それぞれの挿通穴26は、径穴部26aが第2螺旋溝23に連通され、軸穴部26bがナット20の端面で開口している。ナット20の第2螺旋溝23に配設された冷却管40は、これらの挿通穴26を通して外部に引き出される。ナット20の端面から外部に引き出された冷却管40は、冷却水循環装置等の冷却源(図示略)に接続されており、冷却管40には、冷却源によって冷却水が循環される。
【0025】
上記構成のボールねじ装置100では、冷却管40に冷却水が循環されることにより、軸方向にわたって全体的にバランスよく冷却される。これにより、ねじ軸10やナット20の熱変形によるボール30の負荷分布異常や作動性の悪化が抑えられる。
【0026】
以上、説明したように、第1実施形態に係るボールねじ装置100によれば、発熱源である転動路32の間を第2螺旋溝23に沿って冷却管40によって冷却し、高い冷却効率で転動路32における発熱を抑えることができ、ねじ軸10やナット20の熱変形によるボール30の負荷分布異常や作動性の悪化を抑え、送り機構として高い精度を維持させることができる。
【0027】
また、冷却管40を配置させる第2螺旋溝23は、第2ねじ溝21の形成時に容易に加工できるので、ナットの軸方向に細長い冷却液通孔を形成する構造と比べ、コストを抑えることができる。しかも、研削逃げ溝に冷却管を配置させる構造と比べ、大径(約4倍)の冷却管40を螺旋状に配置し、冷却効率を大幅(約4倍以上)に改善させることができる。
【0028】
しかも、冷却管40は、第2螺旋溝23に固定された状態で、固定側と対向するねじ軸10に接触しない外径を有する。したがって、冷却管40の固定側と対向するねじ軸10への干渉を回避し、ねじ軸10とナット20とを円滑に相対的に回転させることができる。
【0029】
次に、第2~第5実施形態に係るボールねじ装置について説明する。
なお、第1実施形態と同一構成部分は、同一符号を付して説明を省略する。
【0030】
(第2実施形態)
図4は、第2実施形態に係るボールねじ装置200のねじ軸10とナット20との境界部分における軸方向に沿う断面図である。
【0031】
図4に示すように、第2実施形態に係るボールねじ装置200では、転動路32のピッチP1と同一のピッチP1で形成された第1螺旋溝13及び第2螺旋溝23が、第1ランド部12及び第2ランド部22の中央位置からボールねじ装置200の軸方向の一方に偏った位置に形成されている。これにより、第1螺旋溝13及び第2螺旋溝23は、断面視において、一方側に隣接する転動路32との間の寸法Bと、他方側に隣接する転動路32との間の寸法Cとが相異している。具体的には、一方側に隣接する転動路32との間の寸法Bよりも他方側に隣接する転動路32との間の寸法Cが大きくされている。そして、このように偏った位置に形成された第1螺旋溝13及び第2螺旋溝23の第2螺旋溝23に冷却管40が配置されている。
【0032】
この第2実施形態に係るボールねじ装置200では、例えば、常に転動路32の片側のフランクに大きな荷重を受ける場合において、大きな荷重を受ける転動路32の片側のフランク寄りに第1螺旋溝13及び第2螺旋溝23を形成して冷却管40を配置することにより、転動路32で生じる発熱をより効率的に抑えることができる。
【0033】
(第3実施形態)
図5は、第3実施形態に係るボールねじ装置300の軸方向に沿う断面図である。
図6は、第3実施形態に係るボールねじ装置300を構成するねじ軸10の一端側から視た正面図及び側面図である。
図7は、第3実施形態に係るボールねじ装置300のねじ軸10の端部構造を示す一部を断面視した側面図である。
【0034】
図5に示すように、第3実施形態に係るボールねじ装置300では、ねじ軸10に冷却管40が設けられている。この冷却管40は、第1螺旋溝13に嵌め合わされてねじ軸10に固定されている。なお、この冷却管40は、接着材によって第1螺旋溝13に固定してもよい。
【0035】
このねじ軸10に設けられた冷却管40は、第1螺旋溝13に固定された状態で、固定側と対向するナット20に接触しない外径を有している。これにより、冷却管40は、ナット20との間に隙間をあけて配置されている。
【0036】
図6に示すように、ねじ軸10には、その両端に、側面視L字状の挿通穴16が形成されている。挿通穴16は、径方向に延びる径穴部16aと、ねじ軸10の軸心に形成されて軸方向に延びる軸穴部16bとを有している。それぞれの挿通穴16は、径穴部16aが第1螺旋溝13に連通され、軸穴部16bがねじ軸10の端面で開口している。ねじ軸10の第1螺旋溝13に配設された冷却管40は、これらの挿通穴16を通して外部に引き出される。
【0037】
図7に示すように、ねじ軸10の端面から外部に引き出された冷却管40は、ジョイント部45を介して冷却水循環装置等の冷却源から延びるチューブ46に接続されており、冷却管40には、冷却源によって冷却水が循環される。ジョイント部45は、チューブ46の端部に接続された筒体47と、筒体47におけるチューブ46との接続側と反対側に設けられたシール部材48と、を有している。シール部材48は、その中心にシール孔49を有しており、このシール孔49に冷却管40が挿し込まれている。そして、冷却管40は、シール部材48のシール孔49に挿し込まれることにより、ジョイント部45に対してシールされた状態で回転可能に接続される。これにより、回転するねじ軸10の冷却管40に対する冷却水の供給及び回収が円滑に行われる。
【0038】
この第3実施形態に係るボールねじ装置300の場合も、発熱源である転動路32の間を第1螺旋溝13に沿って冷却管40によって冷却し、高い冷却効率で転動路32における発熱を抑えることができ、ねじ軸10やナット20の熱変形によるボール30の負荷分布異常や作動性の悪化を抑え、送り機構として高い精度を維持させることができる。
【0039】
また、冷却管40を配置させる第1螺旋溝13は、第1ねじ溝11の形成時に容易に加工できるので、ナットの軸方向に細長い冷却液通孔を形成する構造と比べ、コストを抑えることができる。しかも、研削逃げ溝に冷却管を配置させる構造と比べ、大径(約4倍)の冷却管40を螺旋状に配置し、冷却効率を大幅(約4倍以上)に改善させることができる。
【0040】
しかも、冷却管40は、第1螺旋溝13に固定された状態で、固定側と対向するねじ軸10に接触しない外径を有する。したがって、冷却管40の固定側と対向するナット20への干渉を回避し、ねじ軸10とナット20とを円滑に相対的に回転させることができる。
【0041】
(第4実施形態)
図8は、第4実施形態に係るボールねじ装置400のねじ軸10とナット20との境界部分における軸方向に沿う断面図である。
図8に示すように、第4実施形態に係るボールねじ装置400では、ねじ軸10には、第1螺旋溝13がなく、第1ランド部12が平滑面とされ、ナット20の第2ランド部22だけに第2螺旋溝23が形成されている。そして、このナット20の第2螺旋溝23に冷却管40が嵌め合わされて固定されている。また、このナット20に設けられた冷却管40は、第2螺旋溝23に固定された状態で、固定側と対向するねじ軸10に接触しない外径を有している。これにより、冷却管40は、ねじ軸10の第1ランド部12との間に隙間をあけて配置されている。
【0042】
この第4実施形態に係るボールねじ装置400によれば、ナット20だけに第2螺旋溝23を形成するため、ねじ軸10への第1螺旋溝13の加工を不要にでき、製造コストが抑えられる。
【0043】
なお、
図9に示すように、第2螺旋溝23に配置する冷却管40としては、第2螺旋溝23が形成されたナット20の第2ランド部22における内周面から突出しない外径であるのが好ましい。
【0044】
また、上記の第4実施形態では、ナット20の第2ランド部22だけに第2螺旋溝23を形成し、この第2螺旋溝23に冷却管40を配置させたが、ねじ軸10の第1ランド部12だけに第1螺旋溝13を形成し、この第1螺旋溝13に冷却管40を配置させてもよい。この場合、ねじ軸10に固定する冷却管40を、第1螺旋溝13に固定された状態で、固定側と対向するナット20に接触しない外径とし、冷却管40とナット20の第2ランド部22との間に隙間を設ける。
【0045】
また、ねじ軸10側に冷却管40を設ける場合も、第1螺旋溝13に配置する冷却管40としては、第1螺旋溝13が形成されたねじ軸10の第1ランド部12における外周面から突出しない外径であるのが好ましい(
図9参照)。
【0046】
(第5実施形態)
図10は、第5実施形態に係るボールねじ装置500のねじ軸10とナット20との境界部分における軸方向に沿う断面図である。
【0047】
図10に示すように、第5実施形態に係るボールねじ装置500の場合も、ナット20の第2ランド部22だけに第2螺旋溝23を形成し、この第2螺旋溝23に冷却管40を配置させている。そして、ナット20に固定する冷却管40を、第2螺旋溝23に固定された状態で、固定側と対向するねじ軸10に接触しない外径とし、冷却管40とねじ軸10の第1ランド部12との間に隙間を設けている。
【0048】
このボールねじ装置500では、ナット20の第2螺旋溝23は、転動路32のピッチP1に対して異なるピッチP2を有している。具体的には、第2螺旋溝23は、転動路32のピッチP1よりも大きなピッチP2を有している。これにより、第2螺旋溝23は、軸方向の一方側に隣接する転動路32との間の寸法D,E,Fが次第に小さくされている。つまり、冷却管40が配置されるナット20の第2螺旋溝23は、軸方向の一方へ向かって、転動路32へ徐々に近づく構造とされている。
【0049】
この第5実施形態に係るボールねじ装置500によれば、軸方向に作用する負荷のバランスが軸方向の一方に向かって次第に大きくなるような状況で使用される際に、より効果的に冷却できる。
【0050】
なお、第5実施形態に係るボールねじ装置500の場合も、
図9に示すように、第2螺旋溝23に配置する冷却管40としては、第2螺旋溝23が形成されたナット20の第2ランド部22における内周面から突出しない外径であるのが好ましい。
【0051】
また、第5実施形態においても、ナット20の第2ランド部22だけに第2螺旋溝23を形成し、この第2螺旋溝23に冷却管40を配置させたが、ねじ軸10の第1ランド部12だけに第1螺旋溝13を形成し、この第1螺旋溝13に冷却管40を配置させてもよい。この場合、ねじ軸10に固定する冷却管40を、第1螺旋溝13に固定された状態で、固定側と対向するナット20に接触しない外径とし、冷却管40とナット20の第2ランド部22との間に隙間を設ける。
【0052】
また、ねじ軸10側に冷却管40を設ける場合も、第1螺旋溝13に配置する冷却管40としては、第1螺旋溝13が形成されたねじ軸10の第1ランド部12における外周面から突出しない外径であるのが好ましい(
図9参照)。
【0053】
なお、上記第1~第3実施形態に係るボールねじ装置100,200,300においても、転動路32のピッチP1に対して異なるピッチP2となるように第1螺旋溝13及び第2螺旋溝23を形成してもよい。この場合も、軸方向に作用する負荷のバランスが軸方向の一方に向かって次第に大きくなるような状況で使用される際に、より効果的に冷却できる。
【0054】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0055】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、
内周面に螺旋状のねじ溝を有し、前記ねじ軸に外嵌されるナットと、
前記ねじ軸及び前記ナットの前記ねじ溝によって形成される転動路に収容される複数のボールと、
を備えたボールねじ装置であって、
前記ねじ軸及び前記ナットには、それぞれ前記転動路の間のランド部に、互いに対向する螺旋溝が形成され、
前記ねじ軸または前記ナットの前記螺旋溝に冷却管が配置されている、ボールねじ装置。
このボールねじ装置によれば、ねじ軸及びナットのランド部に螺旋溝を形成し、ねじ軸またはナットの螺旋溝に冷却管を配置させている。これにより、発熱源である転動路の間を螺旋溝に沿って冷却管によって冷却し、高い冷却効率で転動路における発熱を抑えることができ、ねじ軸やナットの熱変形によるボールの負荷分布異常や作動性の悪化を抑え、送り機構として高い精度を維持させることができる。
また、冷却管を配置させる螺旋溝は、ねじ溝の形成時に容易に加工できるので、ナットの軸方向に細長い冷却液通孔を形成する構造と比べ、コストを抑えることができる。しかも、研削逃げ溝に冷却管を配置させる構造と比べ、大径(約4倍)の冷却管を螺旋状に配置し、冷却効率を大幅(約4倍以上)に改善させることができる。
【0056】
(2) 前記冷却管は、前記螺旋溝に固定された状態で、固定側と対向する前記ねじ軸または前記ナットに接触しない外径を有する、(1)に記載のボールねじ装置。
このボールねじ装置によれば、冷却管の固定側と対向するねじ軸またはナットへの干渉を回避し、ねじ軸とナットとを円滑に相対的に回転させることができる。
【0057】
(3) 前記螺旋溝は、片側に隣接する前記転動路に偏った位置に形成されている、(1)または(2)に記載のボールねじ装置。
このボールねじ装置によれば、例えば、常に転動路の片側のフランクに大きな荷重を受ける場合において、大きな荷重を受ける転動路の片側のフランク寄りに螺旋溝を形成して冷却管を配置することにより、転動路で生じる発熱をより効率的に抑えることができる。
【0058】
(4) 前記螺旋溝は、前記転動路のピッチに対して異なるピッチを有する、(1)~(3)のいずれか一つに記載のボールねじ装置。
このボールねじ装置によれば、軸方向に作用する負荷のバランスが軸方向の一方に向かって次第に大きくなるような状況で使用される際に、より効果的に冷却できる。
【0059】
(5) 外周面に螺旋状のねじ溝を有するねじ軸と、
内周面に螺旋状のねじ溝を有し、前記ねじ軸に外嵌されるナットと、
前記ねじ軸及び前記ナットの前記ねじ溝によって形成される転動路に収容される複数のボールと、
を備えたボールねじ装置であって、
前記ねじ軸または前記ナットには、前記転動路の間のランド部に螺旋溝が形成され、
前記螺旋溝に冷却管が配置されている、ボールねじ装置。
このボールねじ装置によれば、ねじ軸またはナットのランド部に螺旋溝を形成し、この螺旋溝に冷却管を配置させている。これにより、発熱源である転動路の間を螺旋溝に沿って冷却管によって冷却し、高い冷却効率で転動路における発熱を抑えることができ、ねじ軸やナットの熱変形によるボールの負荷分布異常や作動性の悪化を抑え、送り機構として高い精度を維持させることができる。
また、冷却管を配置させる螺旋溝は、ねじ溝の形成時に容易に加工できるので、ナットの軸方向に細長い冷却液通孔を形成する構造と比べ、コストを抑えることができる。しかも、研削逃げ溝に冷却管を配置させる構造と比べ、大径(約4倍)の冷却管を螺旋状に配置し、冷却効率を大幅(約4倍以上)に改善させることができる。
【0060】
(6) 前記冷却管は、前記螺旋溝に固定された状態で、固定側と対向する前記ねじ軸または前記ナットに接触しない外径を有する、(5)に記載のボールねじ装置。
このボールねじ装置によれば、冷却管の固定側と対向するねじ軸またはナットへの干渉を回避し、ねじ軸とナットとを円滑に相対的に回転させることができる。
【0061】
(7) 前記螺旋溝は、片側に隣接する前記転動路に偏った位置に形成されている、(5)または(6)に記載のボールねじ装置。
このボールねじ装置によれば、例えば、常に転動路の片側のフランクに大きな荷重を受ける場合において、大きな荷重を受ける転動路の片側のフランク寄りに螺旋溝を形成して冷却管を配置することにより、転動路で生じる発熱をより効率的に抑えることができる。
【0062】
(8) 前記螺旋溝は、前記転動路のピッチに対して異なるピッチを有する、(5)~(7)のいずれか一つに記載のボールねじ装置。
このボールねじ装置によれば、軸方向に作用する負荷のバランスが軸方向の一方に向かって次第に大きくなるような状況で使用される際に、より効果的に冷却できる。
【符号の説明】
【0063】
10 ねじ軸
11 第1ねじ溝(ねじ溝)
12 第1ランド部(ランド部)
13 第1螺旋溝(螺旋溝)
20 ナット
21 第2ねじ溝(ねじ溝)
22 第2ランド部(ランド部)
23 第2螺旋溝(螺旋溝)
30 ボール
32 転動路
40 冷却管
100,200,300,400,500 ボールねじ装置
P1,P2 ピッチ