(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】内燃機関の制御装置
(51)【国際特許分類】
F01P 7/16 20060101AFI20250527BHJP
F02D 29/02 20060101ALI20250527BHJP
F02D 45/00 20060101ALI20250527BHJP
【FI】
F01P7/16 505B
F01P7/16 505Z
F02D29/02 321B
F02D29/02 321A
F02D45/00 360A
F02D45/00 362
(21)【出願番号】P 2022043435
(22)【出願日】2022-03-18
【審査請求日】2024-02-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【氏名又は名称】清水 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】澤田 徹
【審査官】櫻田 正紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-153298(JP,A)
【文献】特開2020-059407(JP,A)
【文献】特開2012-067718(JP,A)
【文献】特開2011-196072(JP,A)
【文献】特開2017-122397(JP,A)
【文献】特開2020-148170(JP,A)
【文献】特開2005-016364(JP,A)
【文献】特開2017-067015(JP,A)
【文献】特開2004-301041(JP,A)
【文献】特開2019-196744(JP,A)
【文献】特開2020-133175(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01P 7/16
F02D 29/02
F02D 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関と、
前記内燃機関の冷却水を循環させる電動ウォーターポンプと、
前記内燃機関の冷却水温を取得する水温取得手段と、
前記内燃機関の油温を取得する油温取得手段と、
前記冷却水温
から前記油温
を除した温度差に基づいて前記電動ウォーターポンプを制御する制御手段と、
を有
し、
前記制御手段は、
前記冷却水温が予め定めた所定温度未満である第1条件が成立したときに、前記電動ウォーターポンプの出力を第1出力とし、
前記冷却水温が前記所定温度以上かつ前記冷却水温から前記油温を除した温度差が予め定めた所定温度差を超える第2条件が成立したときに、前記電動ウォーターポンプの出力を前記第1出力よりも大きい第2出力とし、
前記制御手段は、
前記冷却水温が前記所定温度以上かつ前記温度差が前記所定温度差以下となる第3条件が成立したときに、前記電動ウォーターポンプの出力を前記第1出力よりも大きく前記第2出力よりも小さい第3出力とする
内燃機関の制御装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記第3条件が成立した後は、前記内燃機関が車両の制御に基づいて自動停止するまでは前記電動ウォーターポンプの出力を前記第3出力に維持し、
前記内燃機関が前記自動停止後に再始動した際に、前記第1条件が成立するときは前記電動ウォーターポンプの出力を前記第1出力とし、前記第1条件が成立しないときは前記電動ウォーターポンプの出力を前記第3出力とする
請求項
1に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項3】
前記所定温度差を、前記内燃機関の回転数が大きいほど小さい値とする
請求項
1または2に記載の内燃機関の制御装置。
【請求項4】
前記内燃機関は、シリーズ走行モードとパラレル走行モードとを有するハイブリッド車両に搭載されており、
前記第3条件が成立したときの前記電動ウォーターポンプの出力は、前記シリーズ走行モードよりも前記パラレル走行モードの方が大きく設定されている
請求項
1から
3のいずれか1項に記載の内燃機関の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、内燃機関の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関(以下、エンジンと称する。)の制御装置として、エンジンに機械式ウォーターポンプを併設し、この機械式ウォーターポンプによってエンジンの冷却水を循環させるとともに、エンジンによって加熱された冷却水とエンジン内を潤滑する潤滑油との間で熱交換することによって、この潤滑油の油温を上昇させる方式が広く採用されている。機械式ウォーターポンプは、エンジンのクランクシャフトと機械的に接続されており、この機械式ウォーターポンプの回転数は、エンジンの回転数と比例関係を有している。このため、
図5に示すように、エンジンの回転数が一定であれば、機械式ウォーターポンプの回転数は、冷却水温や油温に関係なく暖機過程で常に一定となる。
【0003】
エンジンの暖機においては、冷却水温とともに油温を速やかに上昇させる必要があるが、機械式ウォーターポンプの回転数を冷却水温や油温に関係なくエンジンの回転数に比例させた従来の構成は、油温を速やかに上昇させる点で最適とはいえない。そこで、下記特許文献1に係る構成においては、エンジンの冷却水の冷却水温と潤滑油の油温をそれぞれ測定し、測定された冷却水温とエンジンに許容される限界温度である上限水温との間、および、測定された油温とシリンダブロックに供給される熱量に基づいて推測された推測油温との間の大小関係に基づいて電動ウォーターポンプの回転数を制御して暖機を速やかに行うことにより、フリクションの効果的な低減を目指している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図5に一例として示すように、暖機過程においては、冷却水温は比較的速やかに上昇する一方で、油温は冷却水温に比べて温度上昇に遅れが生じることがあるとともに、冷却水温と油温の温度差は暖機過程の初期、後期、および、暖機完了後で異なるという特徴がある。特許文献1に係る構成においては、単に測定された冷却水温と上限水温との間、および、測定された油温と推測油温との間の大小関係に基づいて電動ウォーターポンプの回転数を制御しているのに過ぎず、冷却水温と油温の上昇の特徴を十分考慮しているとは言えず、エンジンの暖機の迅速化の点で改善の余地があるといえる。
【0006】
そこで、この発明は、エンジンの暖機を速やかに完了させることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、この発明においては、
内燃機関と、
前記内燃機関の冷却水を循環させる電動ウォーターポンプと、
前記内燃機関の冷却水温を取得する水温取得手段と、
前記内燃機関の油温を取得する油温取得手段と、
前記冷却水温と前記油温の差に基づいて前記電動ウォーターポンプを制御する制御手段と、
を有する内燃機関の制御装置を構成した。
【0008】
この構成においては、
前記制御手段は、
前記冷却水温が予め定めた所定温度未満である第1条件が成立したときに、前記電動ウォーターポンプの出力を第1出力とし、
前記冷却水温が前記所定温度以上かつ前記冷却水温から前記油温を除した温度差が予め定めた所定温度差を超える第2条件が成立したときに、前記電動ウォーターポンプの出力を前記第1出力よりも大きい第2出力とするのが好ましい。
【0009】
この構成においては、
前記制御手段は、
前記冷却水温が前記所定温度以上かつ前記温度差が前記所定温度差以下となる第3条件が成立したときに、前記電動ウォーターポンプの出力を前記第1出力よりも大きく前記第2出力よりも小さい第3出力とするのが好ましい。
【0010】
この構成においては、
前記制御手段は、
前記第3条件が成立した後は、前記内燃機関が車両の制御に基づいて自動停止するまでは前記電動ウォーターポンプの出力を前記第3出力に維持し、
前記内燃機関が前記自動停止後に再始動した際に、前記第1条件が成立するときは前記電動ウォーターポンプの出力を前記第1出力とし、前記第1条件が成立しないときは前記電動ウォーターポンプの出力を前記第3出力とするのが好ましい。
【0011】
この構成においては、
前記所定温度差を、前記内燃機関の回転数が大きいほど小さい値とするのが好ましい。
【0012】
この構成においては、
前記内燃機関は、シリーズ走行モードとパラレル走行モードとを有するハイブリッド車両に搭載されており、
前記第3条件が成立したときの前記電動ウォーターポンプの出力は、前記シリーズ走行モードよりも前記パラレル走行モードの方が大きく設定されているのが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
この発明では、制御手段によって、冷却水温と油温の差に基づいて電動ウォーターポンプを制御する構成としたので、暖機過程の初期、後期、および、暖機完了後の全般に亘って電動ウォーターポンプの出力を最適化することができ、エンジンの暖機を速やかに完了させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】この発明に係る内燃機関の制御装置の一実施形態を示すブロック図
【
図2】この発明の暖機過程における冷却水温、油温、ポンプ出力の時間変化を示す図
【
図3】この発明の暖機過程における冷却水温、油温、ポンプ出力の時間変化の第一変更例を示す図
【
図4】この発明の暖機過程における冷却水温、油温、ポンプ出力の時間変化の第二変更例を示す図
【
図5】一般的な暖機過程における冷却水温、油温、ポンプ出力の時間変化を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明に係る内燃機関の制御装置(以下、制御装置と略称する。)の一実施形態を模式的に
図1に示す。この制御装置は、内燃機関1(以下においてはエンジンと称し、内燃機関1と同じ符号を付する。)、電動ウォーターポンプ2、水温取得手段3、油温取得手段4、および、制御手段5を主要な構成要素としている。
【0016】
以下においては、エンジン1としてガソリンエンジンを備えたハイブリッド車両、特に、外部充電または外部給電が可能なプラグインハイブリッド車両(PHEV)を前提に説明する。ここで説明するハイブリッド車両は、エンジン1を発電機の駆動のみに使用しモータのみで車両を駆動するシリーズ走行モードと、エンジンとモータの両方で車両を駆動するパラレル走行モードを有する。なお、この制御装置は、ハイブリッド車両に限定されず、一般的なガソリンエンジン車両やディーゼルエンジン車両など、内燃機関を備えた車両に広く適用することができる。
【0017】
エンジン1には、このエンジン1を冷却する冷却水を循環させるための冷却水路6が設けられている。電動ウォーターポンプ2は、この冷却水路6に設けられている。電動ウォーターポンプ2の出力は、制御手段5によって制御される。
【0018】
水温取得手段3は、エンジン1を冷却する冷却水の温度TWを取得するための手段であって、冷却水路6の所定箇所に設けられている。この実施形態では、水温取得手段3として水温計を採用している。
【0019】
油温取得手段4は、エンジン1を潤滑する潤滑油の温度TOを取得するための手段であって、エンジン1の所定箇所(例えばメインギャラリ)に設けられている。この実施形態では、油温取得手段4として油温計を採用している。
【0020】
エンジン1には、オイルクーラ7が併設されている。このオイルクーラ7内を冷却水と潤滑油が流れることによって、両者の間で熱交換が行われる。すなわち、エンジン1によって加熱された冷却水から潤滑油への熱移動によって油温TOが上昇してエンジン1の暖機が行われる一方で、潤滑油から冷却水への熱移動によってエンジン1を適宜冷却することができる。
【0021】
制御手段5は、水温取得手段3、油温取得手段4、および、電動ウォーターポンプ2と接続されており、水温取得手段3で取得した冷却水温TW、および、冷却水温TWと油温取得手段4で取得した油温TOとの温度差ΔT(=TW-TO)に基づいて電動ウォーターポンプ2の出力を制御する。
【0022】
具体的には、
図2に示すように、制御手段5は、エンジン始動後の暖機過程において、冷却水温T
Wが予め定めた所定温度K未満である第1条件が成立したときに、電動ウォーターポンプ2の出力を第1出力(低出力)とし、冷却水温T
Wが所定温度K以上かつ冷却水温T
Wから油温T
Oを除した温度差ΔTが予め定めた所定温度差K
1を超える第2条件が成立したときに、電動ウォーターポンプ2の出力を第2出力(高出力)とし、冷却水温T
Wが所定温度K以上かつ温度差ΔTが所定温度差K
1以下となる第3条件が成立したときに、電動ウォーターポンプ2の出力を第1出力よりも大きく第2出力よりも小さい第3出力(中出力)とする制御を行う。
【0023】
エンジン1の暖機過程においては、
図5に示したように、冷却水温T
Wは比較的速やかに上昇する一方で、油温T
Oは冷却水温T
Wに比べて温度上昇に遅れが生じることがある。所定温度Kは、冷却水温T
Wが暖機完了温度に到達した、または、十分近付いたと判断できる程度に温度上昇したことの目安となる温度であり、例えば80℃とすることができる。また、所定温度差K
1は、潤滑油が十分に加熱された(暖機が完了した)ことの目安となる温度差ΔTであり、例えば0℃とすることができる。
図2は、所定温度差K
1を0℃としたときの制御を示しており、ΔTが0℃となったときに第2条件から第3条件に移行している。なお、所定温度Kと所定温度差K
1は適宜変更することができる。
【0024】
第1条件における電動ウォーターポンプ2の第1出力は、エンジン1の暖機が完了した定常状態における出力よりも低出力に設定されている。このように低出力として冷却水の循環流量を減らすことにより、車両の走行風による冷却水の冷却が抑制され、冷却水温TWを速やかに上昇させることができる。
【0025】
その一方で、第2条件における電動ウォーターポンプ2の第2出力は、エンジン1の暖機が完了した定常状態における出力(第3出力)よりも高出力に設定されている。このように高出力として冷却水の循環流量を増やすことにより、第1条件の下で速やかに温度上昇した冷却水と潤滑油との間の熱交換を促進して、油温TOを速やかに上昇させてエンジン1の暖機を完了することができる。
【0026】
第3条件における電動ウォーターポンプ2の第3出力は、エンジン1の暖機が完了した定常状態に相当する出力に設定されている。このように定常状態の出力を保つことにより、冷却水温TWおよび油温TOを適切な温度範囲に維持することができる。なお、第3出力は、エンジン1の回転数や冷却水温TWによって変化させてもよい。また、第2出力は、同条件(エンジン1の回転数や冷却水温TWが同じ状態)において、第3出力よりも高出力に設定されている。
【0027】
制御手段5は、第3条件が成立した後は、エンジン1の駆動力によって車両を駆動するエンジン走行からモータの駆動力によって車両を駆動するモータ走行に移行したときや、信号待ち中のアイドリングストップなどのように、エンジン1が車両の制御に基づいて自動停止するまでは、電動ウォーターポンプ2の出力を第3出力に維持するように制御することができる。さらに、制御手段5は、エンジン1がこの自動停止後に再始動した際に、第1条件が成立するとき(冷却水温T
Wが予め定めた所定温度K未満のとき)は電動ウォーターポンプ2の出力を第1出力とし、第1条件が成立しないとき(冷却水温T
Wが予め定めた所定温度K以上のとき)は、
図3に示すように、第3条件に基づいて電動ウォーターポンプ2の出力を第3出力(中出力)とするように制御することができる。
【0028】
油温TOは冷却水温TWに比べて温度変化し難いため、エンジン1の再始動時に冷却水温TWが所定温度K以上であれば、油温TOも所定温度K程度の高い状態に維持されていると推定できる。このため、冷却水と潤滑油との間の熱交換を促進して油温TOを速やかに上昇させることを目的とする第2条件に係る出力制御を行わずに、エンジン1の暖機が完了した際の第3条件に係る出力制御に直接移行することができる。これにより、電動ウォーターポンプ2の出力を高めることによる消費電力の増加を抑制することができる。
【0029】
その一方で、自動停止の間に冷却水温TWが所定温度K未満に低下したときは、上記において説明した通り、冷却水温TWを速やかに上昇させることを目的とする第1条件に係る出力制御を行うことにより、油温TOを高い状態に速やかに戻すことができる。
【0030】
所定温度差K1は、エンジン1の回転数に対応して変更することもできる。具体的には、エンジン1の回転数が大きいほど小さい値とすることができる。所定温度差K1を小さくすると、第1条件から第2条件への移行のための条件が緩和されることとなり、冷却水から潤滑油への熱交換が行われ易くなるため、油温TOを速やかに上昇させることができる。なお、エンジン1の回転数が大きいときはこのエンジン1の発熱が大きく冷却水温TWが上がりやすいため、第2条件の成立により電動ウォーターポンプ2の出力を大きくして熱交換を促進しても、冷却水温TWの上昇に支障は生じない。
【0031】
また、
図4に示すように、第3条件における電動ウォーターポンプ2の第3出力は、シリーズ走行モードよりもパラレル走行モードの方を大きく設定することができる。シリーズ走行モードは、車両が一定速度で走行しているときなどに適用される燃費を重視した走行モードであって、エンジン1は燃費の良い運転点で駆動される。このとき、電動ウォーターポンプ2の出力は、暖機運転の完了時に適用される通常出力とされる。
【0032】
これに対し、パラレル走行モードは、車両の加速時や高負荷時のようにエンジン1に高出力が求められるときなどに適用される走行モードであって、電動ウォーターポンプ2の出力は、暖機運転の完了時に適用される通常出力よりも高く設定される。このように、パラレル走行モードにおいて電動ウォーターポンプ2の出力を高くすることによって、冷却水温TWの過大な上昇を抑制するとともに、潤滑油から冷却水への熱交換が促進されて、油温TOの過大な上昇を抑制することができる。
【0033】
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。したがって、本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0034】
1 内燃機関(エンジン)
2 電動ウォーターポンプ
3 水温取得手段
4 油温取得手段
5 制御手段
6 冷却水路
7 オイルクーラ
TW 冷却水温
TO 油温
K 所定温度
ΔT 温度差
K1 所定温度差