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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】ガスタンクおよびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   F17C 1/06 20060101AFI20250527BHJP
   F16J 12/00 20060101ALI20250527BHJP
【FI】
F17C1/06
F16J12/00 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2022082308
(22)【出願日】2022-05-19
(65)【公開番号】P2023170497
(43)【公開日】2023-12-01
【審査請求日】2024-01-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加藤 圭
(72)【発明者】
【氏名】甲斐 雄基
【審査官】武井 健浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-050433(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0314785(US,A1)
【文献】特開2022-032231(JP,A)
【文献】特開2020-026817(JP,A)
【文献】特開平09-203497(JP,A)
【文献】特開2021-070618(JP,A)
【文献】特開2006-194332(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102017206521(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F17C 1/06
F16J 12/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガスタンクであって、
中心軸を有する筒状の胴部、および前記胴部の両端に設けられるドーム部を有するライナと、
前記ライナの外周を覆う補強層と、を備え、
前記補強層は、繊維が互い違いに編まれるように巻き付けられた第一補強部と、繊維が前記中心軸に対して予め定められた角度で巻き回された第二補強部とを前記胴部の外周に備える少なくとも一の第一繊維層を有し、
前記第一繊維層は、複数の前記第一補強部と、複数の前記第二補強部とを備える、
ガスタンク。
【請求項2】
ガスタンクであって、
中心軸を有する筒状の胴部、および前記胴部の両端に設けられるドーム部を有するライナと、
前記ライナの外周を覆う補強層と、を備え、
前記補強層は、繊維が互い違いに編まれるように巻き付けられた第一補強部と、繊維が前記中心軸に対して予め定められた角度で巻き回された第二補強部とを前記胴部の外周に備える少なくとも一の第一繊維層を有し、
上層の第一繊維層が有する第一補強部は、下層の第一繊維層が有する第一補強部の少なくとも一部に重ねて積層された重複部を備え、
前記第一補強部は、前記補強層に含まれるすべての繊維層に備えられ、
前記重複部は、前記補強層に含まれるすべての第一繊維層に備えられ、
前記上層の第一繊維層が有する第一補強部は、前記下層の第一繊維層が有する第一補強部に対して前記ライナの軸方向にずらして配置され、
前記上層の第一繊維層が有する第一補強部は、前記下層の第一繊維層が有する第一補強部のうち前記重複部以外の部分に積層され、
前記補強層において、積層方向に含まれる前記第一補強部の層数の合計値の最大値と、前記合計値の最小値との差が3層以下である、
ガスタンク。
【請求項3】
前記補強層の最外層は、前記第一補強部を含み、前記第二補強部を含まない第二繊維層を備える、請求項1または請求項2に記載のガスタンク。
【請求項4】
前記補強層の最内層は、前記第一補強部を含み、前記第二補強部を含まない第二繊維層を備える、請求項1または請求項2に記載のガスタンク。
【請求項5】
請求項1または請求項2に記載のガスタンクであって、
前記第一繊維層は、前記第一補強部を前記ドーム部の外周に備える、
ガスタンク。
【請求項6】
ガスタンクの製造方法であって、
中心軸を有する筒状の胴部、および前記胴部の両端に設けられるドーム部を有するライナを準備する工程と、
前記ライナの外周に繊維層を備える基体を形成する工程と、を備え、
前記基体を形成する工程は、
繊維が互い違いに編まれるように巻き付けられた第一補強部と、繊維が前記中心軸に対して予め定められた角度で巻き回された第二補強部とを前記胴部の外周に備える少なくとも一の第一繊維層を形成する工程を有し、
前記第一繊維層は、複数の前記第一補強部と、複数の前記第二補強部とを備える、
ガスタンクの製造方法。
【請求項7】
ガスタンクの製造方法であって、
中心軸を有する筒状の胴部、および前記胴部の両端に設けられるドーム部を有するライナを準備する工程と、
前記ライナの外周に補強層を備える基体を形成する工程と、を備え、
前記基体を形成する工程は、
繊維が互い違いに編まれるように巻き付けられた第一補強部と、繊維が前記中心軸に対して予め定められた角度で巻き回された第二補強部とを前記胴部の外周に備える少なくとも一の第一繊維層を前記補強層の少なくとも一部として形成する工程を有し、
上層の第一繊維層が有する第一補強部は、下層の第一繊維層が有する第一補強部の少なくとも一部に重ねて積層された重複部を備え、
前記第一補強部は、前記補強層に含まれるすべての繊維層に備えられ、
前記重複部は、前記補強層に含まれるすべての第一繊維層に備えられ、
前記上層の第一繊維層が有する第一補強部は、前記下層の第一繊維層が有する第一補強部に対して前記ライナの軸方向にずらして配置され、
前記上層の第一繊維層が有する第一補強部は、前記下層の第一繊維層が有する第一補強部のうち前記重複部以外の部分に積層され、
前記補強層において、積層方向に含まれる前記第一補強部の層数の合計値の最大値と、前記合計値の最小値との差が3層以下である、
ガスタンクの製造方法。
【請求項8】
請求項6または請求項7に記載のガスタンクの製造方法であって、
形成された前記基体を金型の内部に配置して、前記金型を閉じる工程と、
閉じられた前記金型に樹脂材料を充填して、前記基体の繊維層に前記樹脂材料を含浸させる工程と、をさらに備える、
ガスタンクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ガスタンクおよびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
強化繊維が互い違いに編まれるように巻き付けられた第一補強部と、強化繊維が第一補強部と連続するようにヘリカル状に巻き付けられた第二補強部とを有する繊維層が容器本体の外周面に積層されたガスタンクが知られている(例えば、特許文献1)。ガスタンクは、積層された繊維層に熱硬化性樹脂を含浸させて加熱、硬化させることによって得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-026817号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
強化繊維がヘリカル状に巻き付けられた第二補強部には、繊維密度が高いために熱硬化性樹脂が充分に含浸しないことがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
[形態1]ガスタンクであって、中心軸を有する筒状の胴部、および前記胴部の両端に設けられるドーム部を有するライナと、前記ライナの外周を覆う補強層と、を備え、前記補強層は、繊維が互い違いに編まれるように巻き付けられた第一補強部と、繊維が前記中心軸に対して予め定められた角度で巻き回された第二補強部とを前記胴部の外周に備える少なくとも一の第一繊維層を有し、前記第一繊維層は、複数の前記第一補強部と、複数の前記第二補強部とを備える、ガスタンク。
[形態2]ガスタンクであって、中心軸を有する筒状の胴部、および前記胴部の両端に設けられるドーム部を有するライナと、前記ライナの外周を覆う補強層と、を備え、前記補強層は、繊維が互い違いに編まれるように巻き付けられた第一補強部と、繊維が前記中心軸に対して予め定められた角度で巻き回された第二補強部とを前記胴部の外周に備える少なくとも一の第一繊維層を有し、上層の第一繊維層が有する第一補強部は、下層の第一繊維層が有する第一補強部の少なくとも一部に重ねて積層された重複部を備え、前記第一補強部は、前記補強層に含まれるすべての繊維層に備えられ、前記重複部は、前記補強層に含まれるすべての第一繊維層に備えられ、前記上層の第一繊維層が有する第一補強部は、前記下層の第一繊維層が有する第一補強部に対して前記ライナの軸方向にずらして配置され、前記上層の第一繊維層が有する第一補強部は、前記下層の第一繊維層が有する第一補強部のうち前記重複部以外の部分に積層され、前記補強層において、積層方向に含まれる前記第一補強部の層数の合計値の最大値と、前記合計値の最小値との差が3層以下である、
ガスタンク。
[形態3]ガスタンクの製造方法であって、中心軸を有する筒状の胴部、および前記胴部の両端に設けられるドーム部を有するライナを準備する工程と、前記ライナの外周に繊維層を備える基体を形成する工程と、を備え、前記基体を形成する工程は、繊維が互い違いに編まれるように巻き付けられた第一補強部と、繊維が前記中心軸に対して予め定められた角度で巻き回された第二補強部とを前記胴部の外周に備える少なくとも一の第一繊維層を形成する工程を有し、前記第一繊維層は、複数の前記第一補強部と、複数の前記第二補強部とを備える、ガスタンクの製造方法。
[形態4]ガスタンクの製造方法であって、中心軸を有する筒状の胴部、および前記胴部の両端に設けられるドーム部を有するライナを準備する工程と、前記ライナの外周に補強層を備える基体を形成する工程と、を備え、前記基体を形成する工程は、繊維が互い違いに編まれるように巻き付けられた第一補強部と、繊維が前記中心軸に対して予め定められた角度で巻き回された第二補強部とを前記胴部の外周に備える少なくとも一の第一繊維層を前記補強層の少なくとも一部として形成する工程を有し、上層の第一繊維層が有する第一補強部は、下層の第一繊維層が有する第一補強部の少なくとも一部に重ねて積層された重複部を備え、前記第一補強部は、前記補強層に含まれるすべての繊維層に備えられ、前記重複部は、前記補強層に含まれるすべての第一繊維層に備えられ、前記上層の第一繊維層が有する第一補強部は、前記下層の第一繊維層が有する第一補強部に対して前記ライナの軸方向にずらして配置され、前記上層の第一繊維層が有する第一補強部は、前記下層の第一繊維層が有する第一補強部のうち前記重複部以外の部分に積層され、前記補強層において、積層方向に含まれる前記第一補強部の層数の合計値の最大値と、前記合計値の最小値との差が3層以下である、ガスタンクの製造方法。
【0006】
(1)本開示の一形態によれば、ガスタンクが提供される。このガスタンクは、中心軸を有する筒状の胴部、および前記胴部の両端に設けられるドーム部を有するライナと、前記ライナの外周を覆う補強層と、を備える。前記補強層は、繊維が互い違いに編まれるように巻き付けられた第一補強部と、繊維が前記中心軸に対して予め定められた角度で巻き回された第二補強部とを前記胴部の外周に備える少なくとも一の第一繊維層を有する。
この形態のガスタンクによれば、第一繊維層が第二繊維層を備えることにより繊維層の強度を向上させてガスタンクの強度を向上させるとともに、第一繊維層を備えることにより繊維層に対する樹脂材料の含浸性能を向上させることができる。
(2)上記形態のガスタンクにおいて、前記第一繊維層は、複数の前記第一補強部と、複数の前記第二補強部とを備えてよい。
この形態のガスタンクによれば、第一補強部を複数備えることにより、第一補強部を介した樹脂材料の流動経路を複数形成することができ、繊維層に対する樹脂材料の含浸性能を向上させることができる。
(3)上記形態のガスタンクにおいて、上層の第一繊維層が有する第一補強部は、下層の第一繊維層が有する第一補強部の少なくとも一部に重ねて積層された重複部を備えてよい。
この形態のガスタンクによれば、上層の第一補強部と、下層の第一補強部とが重ねて積層されることにより、繊維層に対する樹脂材料の含浸性能を向上させることができる。
(4)上記形態のガスタンクにおいて、前記第一補強部は、前記補強層に含まれるすべての繊維層に備えられてよい。前記重複部は、前記補強層に含まれるすべての第一繊維層に備えられてよい。
この形態のガスタンクによれば、重複部がすべての第一繊維層に備えられることにより、繊維層に対する樹脂材料の含浸性能をより向上させることができる。
(5)上記形態のガスタンクにおいて、前記上層の第一繊維層が有する第一補強部は、前記下層の第一繊維層が有する第一補強部に対して前記ライナの軸方向にずらして配置されてよい。
この形態のガスタンクによれば、第一補強部を軸方向にずらして配置することにより、積層方向に沿って直線状に第一補強部が重ねて配置される場合と比較して、補強層内の応力集中を抑制することができる。
(6)上記形態のガスタンクにおいて、前記上層の第一繊維層が有する第一補強部は、前記下層の第一繊維層が有する第一補強部のうち前記重複部以外の部分に積層されてよい。
この形態のガスタンクによれば、重複部上に重複部が形成されないように第一補強部を積層することにより、補強層内の応力集中を抑制することができる。
(7)上記形態のガスタンクにおいて、前記補強層において、積層方向に含まれる前記第一補強部の層数の合計値の最大値と、前記合計値の最小値との差が3層以下であってよい。
この形態のガスタンクによれば、第一補強部の層数を、軸方向で略均一とすることにより、繊維層の強度と、樹脂材料の含浸不足の抑制との軸方向でのバランスが取れたガスタンク100を得ることができる。
(8)上記形態のガスタンクにおいて、前記補強層の最外層は、前記第一補強部を含み、前記第二補強部を含まない第二繊維層を備えてよい。
この形態のガスタンクによれば、繊維層の外表面の繊維材料の配列の乱れを抑制または防止することができる。
(9)上記形態のガスタンクにおいて、前記補強層の最内層は、前記第一補強部を含み、前記第二補強部を含まなくてよい。
この形態のガスタンクによれば、樹脂材料が含浸し難い最内層での樹脂材料の含浸不足を抑制または防止することができる。
(10)上記形態のガスタンクにおいて、前記第一繊維層は、前記第一補強部を前記ドーム部の外周に備えてよい。
この形態のガスタンクによれば、曲率を有するドーム部の外周に第一補強部を形成することにより、ドーム部の外周に第二補強部を形成する場合に比べて繊維材料が配置予定位置からずれる不具合を抑制することができる。
本開示は、ガスタンクやガスタンクの製造方法以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、繊維強化樹脂層の形成方法、繊維強化プラスチックの製造方法、繊維強化プラスチックの製造装置、ガスタンクの製造装置や繊維強化プラスチックの製造装置の制御方法、その制御方法を実現するコンピュータプログラム、そのコンピュータプログラムを記録した一時的でない記録媒体等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】本開示の第1実施形態としてのガスタンクの構成を断面視で示す説明図。
図2】胴部の外周に第一繊維層を備える基体の外観を示す説明図。
図3】第一補強部の一部の範囲を拡大して示す説明図。
図4図3のIV-IV位置を示す断面図。
図5】第二補強部の外観を拡大して示す説明図。
図6図5のVI-VI位置を示す断面図。
図7】ガスタンクの製造装置の概略構成を示す説明図。
図8】ヘリカル巻きを行う場合の第一供給部および第二供給部の移動経路を示す説明図。
図9】ブレーディング巻きを行う場合の第一供給部および第二供給部の移動経路を示す説明図。
図10】胴部の外周に第二繊維層を備える基体の外観を示す説明図。
図11】本開示の第1実施形態に係るガスタンクの繊維強化樹脂層の構成を模式的に示す説明図。
図12】繊維層に樹脂材料を含浸させる際の樹脂材料の流動経路を模式的に示す説明図。
図13】本開示の第2実施形態に係るガスタンクの繊維強化樹脂層の構成を模式的に示す説明図。
図14】本開示の第3実施形態に係るガスタンクの繊維強化樹脂層の構成を模式的に示す説明図。
図15】本開示の第4実施形態に係るガスタンクの繊維強化樹脂層の構成を模式的に示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、本開示の第1実施形態としてのガスタンク100の構成を断面視で示す説明図である。ガスタンク100は、10~70MPaの高圧な流体を収容するための貯蔵容器である。ガスタンク100は、任意の形状で形成することができ、図1の例では、ガスタンク100は、中心軸AXに沿って長尺な略円柱の外観形状を有している。
【0009】
ガスタンク100は、例えば、車両用の燃料電池や定置用の燃料電池に供給する水素ガスを貯蔵するために使用される。ガスタンク100は、ライナ10と、ライナ10の両端に配置された口金16,17と、ライナ10および口金16,17の外周面上に形成された繊維強化樹脂層20とを備えている。ガスタンク100は、水素ガスに限らず、酸素や天然ガスなどの種々の流体を収容してもよい。
【0010】
ライナ10は、流体を密封するための内部空間を有する容器である。ライナ10は、例えば、ナイロン、ポリアミド、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリエチレン、ポリプロピレン、エポキシ、ポリスチレン等のガスバリア性を有する樹脂で形成されている。ライナ10は、円筒状の一つの胴部12と、中心軸AXに沿って胴部12の両端に配置される半球状の二つのドーム部14とを備えている。ドーム部14の頂部には、開口が設けられている。図1に示す境界BDは、ライナ10のドーム部14と胴部12との接続部であり、ライナ10の外形の曲率がゼロとなる位置である。ライナ10は、樹脂に代えて、金属によって形成されてもよい。胴部12は、円筒状には限らず、断面形状が多角形となる任意の筒状であってもよい。
【0011】
口金16,17は、ライナ10の各ドーム部14の頂部に設けられる開口に装着されている。口金16は、例えば、ガスタンク100へのガスの充填、あるいは、ガスタンク100からのガスの放出のために用いられる。口金17は、封止されており、製造時の芯出し等に用いられる。
【0012】
繊維強化樹脂層20は、ライナ10を補強するための補強層である。繊維強化樹脂層20は、繊維強化プラスチック(FRP:Fiber Reinforced Plastics)を用いてライナ10の外周を覆うように形成されている。本実施形態では、繊維強化樹脂層20は、いわゆるRTM(Resin Transfer Molding)法により形成される。具体的には、ライナ10の外周に繊維層が形成された基体(「繊維プリフォーム」とも呼ばれる。)を準備し、金型内に配置する。「繊維層」とは、繊維材料が巻き付けられることにより形成された層を意味する。繊維層は、後述するように、第一繊維層L1および第二繊維層L2の2種類の繊維層が所定の順序で厚さ方向に複数積層された構造を有している。繊維材料は、ライナ10に加え、口金16,17の外表面上に巻き付けられてもよい。
【0013】
本実施形態では、繊維材料としてカーボン繊維が用いられている。繊維材料は、カーボン繊維のほか、ガラス繊維、アラミド繊維、ボロン繊維、高強度ポリエチレン繊維等を用いることができ、これらの複数種類の繊維が組み合わせられてもよい。繊維層の層数は、例えば10層から20層程度であり、ガスタンク100のサイズや形状に応じて任意に設定することができる。本実施形態では、繊維層の層数は12層である。
【0014】
基体が配置された状態の金型を閉じ、閉じられた金型の内部に樹脂材料を高速高圧で加圧充填することにより、樹脂材料を繊維層に含浸させる。樹脂材料の含浸時には、金型内に配置された基体の内部、すなわちライナ10の内部には、含浸時に樹脂材料から付与される外圧に耐えうるための内圧を付与するために、例えば窒素ガスなどが充填される。繊維層に含浸された樹脂材料を硬化させることによってガスタンク100が完成する。
【0015】
図2は、胴部12の外周に第一繊維層L1を備える基体の外観を示す説明図である。「第一繊維層」とは、胴部12の外周となる範囲RG2に第一補強部210と第二補強部220とを備える繊維層を意味する。「第一補強部」とは、繊維層のうち、いわゆるブレーディング巻きによって形成された部分である。「ブレーディング巻き」とは、繊維材料を互い違いに編まれるように巻き付ける方法を意味する。「第二補強部」とは、繊維層のうち、いわゆるヘリカル巻きによって形成された部分である。「ヘリカル巻き」とは、繊維材料を、ライナ10の中心軸AXに対して予め定められた一の角度で胴部12の外周に巻き付けたあと、さらに中心軸AXに対して予め定められた他の角度で巻き付ける方法を意味する。
【0016】
本実施形態では、第一繊維層L1は、複数の第一補強部210と、複数の第二補強部220とを備えており、いわゆる縞模様の外観を有している。第一繊維層L1のうち範囲RG2における複数の第一補強部210と、複数の第二補強部220との配置位置、数、幅は、後述するように、ライナ10上に積層される層数によって異なる。図2の例では、6つの第一補強部210と、7つの第二補強部220とが交互に配置されている。各第一補強部210および各第二補強部220は、軸方向に沿って所定の幅を有しており、胴部12の外周に対して周方向に巻き付けられている。なお、図2では、技術の理解を容易にするために、第一補強部210および第二補強部220を模式的に示しており、各部の寸法を正確に示すものではない。
【0017】
図2に示すように、本実施形態では、第一繊維層L1は、ドーム部14の外周となる範囲RG1には、第一補強部210を備えている。本実施形態のガスタンク100によれば、曲率を有するドーム部14の外周に第一補強部210を形成することにより、ヘリカル巻きに比べて繊維材料が滑る不具合を抑制することができる。なお、充分な強度のガスタンク100が得られることを前提に、第一繊維層L1において、範囲RG1に第二補強部220が形成されてもよく、範囲RG1の繊維層を省略し胴部12の外周のみに第一補強部210が形成されてもよい。
【0018】
第一繊維層L1では、範囲RG1の第一補強部210と、範囲RG2の第一補強部210および第二補強部220とが連続して形成される。具体的には、一方の範囲RG1に第一補強部210を形成した後に連続して範囲RG2の第一補強部210および第二補強部220を形成する。範囲RG2では、繊維材料の巻き付け方法を切り替えながら第二補強部220と第一補強部210とを交互に形成する。範囲RG2の繊維層を形成した後に、他方の範囲RG1に第一補強部210を形成することにより第一繊維層L1が完成する。
【0019】
図2には、第一繊維層L1において、境界部BRが模式的に示されている。図2の例では、一方の範囲RG1に第一補強部210を形成した後に第二補強部220の形成に切り替えられる位置である。境界部BRは、ライナ10のドーム部14と胴部12との境界BDを含み所定の幅を有している。具体的には、境界部BRは、境界BDから軸方向の前後に対して、さらに繊維材料の幅WFの2本分の距離LWを誤差として許容するための所定の幅を有する範囲である。
【0020】
図3は、第一補強部210の一部の範囲AR1を拡大して示す説明図である。図4は、図3のIV-IV位置を示す断面図である。図3,4に示すように、繊維材料は、例えば、数ミリメートルほどの所定の幅WFを有する帯状の外観形状を有している。ただし、繊維材料は、糸状や平板状など、任意の形状とされてもよい。繊維材料の1枚あたりの厚さは、例えば、0.5ミリメートル以下の任意の厚さに設定することができる。本実施形態では、繊維材料の1枚あたりの厚さは、0.3ミリメートルである。
【0021】
図3に示すように、繊維材料211は、ライナ10の中心軸AXに対して仰角となる角度θ1で巻き付けられている。繊維材料212~215は、ライナ10の中心軸AXに対して俯角となる角度θ2で巻き付けられている。角度θ1,θ2は、任意に設定することができる。角度θ1,θ2は、例えば、ライナ10の胴部12に作用する応力などを考慮して設定されることが好ましい。本実施形態において、充分な強度のガスタンク100を得るために、角度θ1は、例えば、中心軸AXに対して+54.7度近傍で設定され、角度θ2は、例えば、中心軸AXに対して-54.7度で設定されている。
【0022】
図4に示すように、第一補強部210は、繊維材料211と、繊維材料212~215とが積層方向に沿った内側と外側とで互いの配置を入れ替えられて互い違いに編まれることによって形成される。本実施形態では、繊維材料211は、繊維材料2本分ごとに互いの配置を入れ替えられている。第一補強部210は、ガスタンク100の外側に配置される繊維材料1本分の厚みを有する層L11と、ガスタンク100の内側に配置される繊維材料1本分の厚みを有する層L12と含んでおり、第一補強部210の一層あたりの厚みは、繊維材料2本分の厚みである。
【0023】
図3に示すように、第一補強部210は、複数の繊維材料が互い違いに編まれて形成されるため、ヘリカル巻きに比べて繊維材料同士の拘束力が高くなる。そのため、例えば、第一補強部210は、第二補強部220に比べて、繊維材料の配列が乱れる不具合や、繊維材料を巻き付ける際に繊維材料が滑ることにより配置予定位置からずれる不具合を抑制することができる。
【0024】
図3に示すように、第一補強部210は、複数の繊維材料が互い違いに編まれることにより、編み込まれた繊維材料の間に間隙GPが発生することがある。そのため、第一補強部210では、ヘリカル巻きのように繊維材料が互いに密着して形成される繊維層と比較して、樹脂材料が含浸しやすくなり得る。
【0025】
図5は、第二補強部220の外観を拡大して示す説明図である。図5には、図4の一部の範囲AR2が拡大して示されている。図5に示すように、繊維材料221は、ライナ10の中心軸AXに対して仰角となる角度θ3で巻き付けられている。繊維材料222~225は、中心軸AXに対して俯角となる角度θ4で互いに平行に巻き付けられている。角度θ3,θ4は、例えば、ライナ10の胴部12に作用する応力などを考慮して任意に設定することができる。本実施形態では、角度θ3,θ4は、上述した角度θ1,θ2と同様に構成されている。
【0026】
図6は、図5のVI-VI位置を示す断面図である。図6に示すように、第二補強部220は、繊維材料221のようにガスタンク100の外側に配置される層L21と、繊維材料222~225のようにガスタンク100の内側に配置される層L22と、を有している。なお、層L21および層L22は、上述した層L11および層L12を形成する繊維材料と連続している。以下の説明において、第一繊維層L1の層数は、層L21,L22を合わせた状態を「1層」としてカウントし、同様に、層L11,L12を合わせた状態を「1層」としてカウントする。なお、本実施形態では、第二補強部220の厚さは、0.6ミリメートルである。
【0027】
図5,6に示すように、第二補強部220は、ヘリカル巻きにより、複数の繊維材料が互いに平行に配置されることで互いに密着した状態で巻き付けられている。そのため、繊維材料の密度がブレーディング巻きよりも高くなり、ガスタンク100の強度が高くなる。第二補強部220では、繊維材料が密着していることから、例えばRTM法により樹脂材料が加圧充填される場合に、第一補強部210よりも樹脂材料が含浸しにくくなり得る。
【0028】
図7は、ガスタンク100の製造装置300の概略構成を示す説明図である。製造装置300は、ライナ10に繊維材料を巻き付けるための装置である。製造装置300は、繊維材料を供給するための第一供給部42および第二供給部44と、ライナ10を方向DRTに移動させるための図示しない移動機構とを備えている。なお、図7では、図示の便宜のために、第一供給部42および第二供給部44をそれぞれ二つ示したが、実際には巻き付ける繊維材料の本数に対応する数だけ備えられている。
【0029】
製造装置300は、繊維材料22Aを送り出す第一供給部42と、繊維材料22Bを送り出す第二供給部44とを、ライナ10の周りの移動経路OR1,OR2でそれぞれ回転させる。製造装置300は、ライナ10を軸方向に沿って方向DRTに移動させながら、繊維材料22A,22Bを、ライナ10の一方のドーム部14の外周、胴部12の外周、他方のドーム部14の外周に対してこの順で巻き付ける。
【0030】
製造装置300は、移動経路OR1,OR2を、ヘリカル巻きを行う場合と、ブレーディング巻きを行う場合とで異なる経路に切り替えることができる。図7の例では、ヘリカル巻きを行う場合の移動経路OR1,OR2が示されている。
【0031】
図8は、ヘリカル巻きを行う場合の第一供給部42および第二供給部44の移動経路OR1,OR2を示す説明図である。第一供給部42の移動経路OR1を実線で示し、第二供給部44の移動経路OR2を破線で示している。第一供給部42および第二供給部44は、例えば、中心軸AXを囲む2つの同心円の移動経路OR1,OR2に配列されている。移動経路OR1は、移動経路OR2よりも中心軸AXから離れた位置、すなわち径方向の外側に配置されている。なお、移動経路OR1,OR2は、同心円には限らず、中心軸AX周りを回転可能な任意の形状の軌道でもよい。
【0032】
図8に示すように、移動経路OR1上の第一供給部42の移動方向DR1と、移動経路OR2上の第二供給部44の移動方向DR2とは互いに逆方向である。図7で示したように、移動方向DR2で回転する第二供給部44により、中心軸AXに対して俯角となる角度θ4で複数の繊維材料22Bがライナ10の外周に巻き付けられる。移動方向DR1で回転する第一供給部42により、中心軸AXに対して仰角となる角度θ3で複数の繊維材料22Aが繊維材料22Bの外側に巻き付けられる。この結果、外側に層L21および内側に層L22を配置した第二補強部220が胴部12の外周に形成される。
【0033】
図9は、ブレーディング巻きを行う場合の第一供給部42および第二供給部44の移動経路OR1b,OR2bを示す説明図である。技術の理解を容易にするために、図9では、第一供給部42の移動経路OR1bを実線で示し、第二供給部44の移動経路OR2bを破線で示している。
【0034】
図9に示すように、移動経路OR1b上の第一供給部42の移動方向DR1と、移動経路OR2b上の第二供給部44の移動方向DR2とは互いに逆方向である。移動経路OR1b,OR2bでは、第一供給部42が径方向の内側となり第二供給部44が径方向の外側となる状態と、第二供給部44が径方向の内側となり第一供給部42が径方向の外側となる状態とが交互に切り替わる。これにより、中心軸AXに対して俯角となる角度θ2で供給される繊維材料22Bと、中心軸AXに対して仰角となる角度θ1で供給される繊維材料22Aとが互い違いで編まれるようにライナ10の外周に巻き付けられる。この結果、外側に層L11および内側に層L12を配置した第一補強部210が胴部12の外周に形成される。
【0035】
製造装置300は、方向DRTに移動するライナ10に対して任意のタイミングで、移動経路OR1,OR2と、移動経路OR1b,OR2bと、を切り替えることができる。製造装置300は、例えば、図2で示した第一繊維層L1を形成する場合には、一方のドーム部14の外周に対して移動経路OR1b,OR2bでブレーディング巻きを行ったあと、境界部BRにおいて、移動経路OR1b,OR2bを移動経路OR1,OR2へと切り替えて胴部12に対してヘリカル巻きを行う。製造装置300は、胴部12の外周では、移動経路を第一補強部210と第二補強部220との切り替え位置で、移動経路を切り替えることによりヘリカル巻きとブレーディング巻きとを交互に切り替えながら範囲RG2の繊維層を形成する。製造装置300は、胴部12の外周に対して繊維層を形成し終えると、胴部12と他方のドーム部14との境界部BRにおいて、移動経路OR1,OR2から移動経路OR1b,OR2bへと切り替えて、他方のドーム部14に対してブレーディング巻きを行う。製造装置300は、第一繊維層L1を形成する場合には、移動経路OR1,OR2を切り替えることなく、ライナ10全体に対してブレーディング巻きを行う。
【0036】
図10は、胴部12の外周に第二繊維層L2を備える基体の外観を示す説明図である。「第二繊維層」とは、胴部12の外周となる範囲RG2に第一補強部210を備え、範囲RG2に第二補強部220を備えない繊維層を意味する。第二繊維層L2は、第二補強部220を備えない点において第一繊維層L1と相違する。本実施形態では、第二繊維層L2は、範囲RG2に加え、ライナ10のドーム部14の外周となる範囲RG1にも第一補強部210を備えている。すなわち、第一繊維層L1は、第一補強部210のみを範囲RG1および範囲RG2に亘って連続して形成することによって、ライナ10全体の外周に第一補強部210を備えている。製造装置300は、第二繊維層L2を形成する場合には、移動経路OR1,OR2を切り替えることなく、ライナ10全体に対してブレーディング巻きを行う。第二繊維層L2は、ライナ10全体の外周にブレーディング巻きで形成されることから「ブレーディング巻き層」とも呼ばれる。なお、以下の説明において、第二繊維層L2の層数は、第一繊維層L1と同様に、層L21および層L22を合わせた状態を「1層」としてカウントする。本実施形態では、第一補強部210の厚さは、0.6ミリメートルである。また、充分な強度のガスタンク100が得られることを前提に第二繊維層L2において、範囲RG1に第二補強部220が形成されてもよく、範囲RG1の繊維層を省略し胴部12の外周のみに第一補強部210が形成されてもよい。
【0037】
図11は、本開示の第1実施形態に係るガスタンク100の繊維強化樹脂層20の構成を模式的に示す説明図である。図11に示す表TB1は、範囲RG2の繊維強化樹脂層20の断面視に相当する。表TB1には、積層方向における第一繊維層L1と第二繊維層L2との配置関係と、軸方向における第一補強部210と第二補強部220との配置関係が模式的に示されている。なお、図示の便宜のために、表TB1には、範囲RG2のうちの一部の繊維層が示されているが、実際には、表TB1の右端よりも右側に、例えば、表TB1と同じ構成の繊維層が繰り返し形成されている。
【0038】
表TB1の横軸CL1は、左端である境界BDを始点とする軸方向上の距離を示しており、単位はセンチメートルである。縦軸RWは、ライナ10上の繊維強化樹脂層20に含まれる繊維層の層数を示している。縦軸RWの最下段はライナ10であり、それよりも下側はガスタンク100の内部を示している。縦軸RWの最上段は、12層目の繊維層であり、繊維強化樹脂層20の最外層である。ライナ10の外表面上に積層される1層目の繊維層を、「最内層」とも呼び、最内層から最外層までの間(本実施形態では2層目から11層目)を、「内層」とも呼ぶ。表TB1ならびに以降の表TB2~TB5では、図示の便宜から、第一補強部210と第二補強部220とは、幅1センチメートル×高さ繊維層1層分を1つのブロックとして示されている。技術の理解を容易にするために、第一補強部210には、ハッチングを付している。
【0039】
図11に示すように、本実施形態のガスタンク100において、繊維強化樹脂層20の内層には、ブレーディング巻きで形成された第一補強部210と、ヘリカル巻きで形成された第二補強部220とを胴部12の外周に備える第一繊維層L1が備えられている。第一繊維層L1が第二補強部220を備えることにより、ガスタンク100の強度を向上させるとともに、第一補強部210を備えることにより、繊維層に対する樹脂材料の含浸性能を向上させることができる。したがって、樹脂材料の含浸不足の抑制と、強度の向上とのバランスが取れたガスタンク100を得ることができる。一層分の繊維層に第一補強部210と第二補強部220との双方を設けることにより、第一補強部210と第二補強部220とを異なる層に個別に設けられる場合と比較して、繊維層一層あたりの形状、強度、含浸性能のバランスが取れたガスタンク100を得ることができる。
【0040】
本実施形態のガスタンク100において、繊維強化樹脂層20の最外層には、第二繊維層L2が配置されている。RTM法により、樹脂材料が金型内に加圧充填されると、高速高圧の樹脂材料が繊維層に衝突することによって、繊維材料の配列の乱れや繊維材料の剥離や浮きなどの不具合が発生することがある。繊維材料同士の拘束力が高い第一補強部210のみを備える第二繊維層L2を最外層に配置することにより、樹脂材料を繊維層に含浸させる際に、樹脂材料の衝突による繊維層の外表面での繊維材料の配列の乱れや繊維材料の剥離などの不具合を抑制または防止することができる。
【0041】
本実施形態のガスタンク100において、繊維強化樹脂層20の最内層には、第二繊維層L2が配置されている。繊維強化樹脂層20の最内層は、ライナ10の変形による影響を受けやすく、内層の繊維層などと比較して繊維材料の密度が高くなりやすい。そのため、繊維強化樹脂層20の最内層は、他の層に比べて樹脂材料が含浸しにくいことがある。この特徴は、ライナ10が変形しやすい樹脂製である場合には、特に顕著になる。本実施形態では、繊維強化樹脂層20の最内層に、樹脂材料を含浸させやすい第一補強部210のみを備える第二繊維層L2を配置することにより、最内層での樹脂材料の含浸不足を抑制または防止することができる。
【0042】
本実施形態のガスタンク100において、繊維強化樹脂層20の内層は、すべて第一繊維層L1で形成されており、内層の各層に第一補強部210と第二補強部220との双方が含まれている。このように構成されたガスタンク100によれば、繊維層の全層の形状、強度、含浸性能のバランスが取れたガスタンク100を得ることができる。
【0043】
本実施形態において、第一補強部210および第二補強部220は、所定の規則に従って配置されており、第一繊維層L1の層ごとでそれぞれ異なる位置に配置されている。図11には、破線で囲まれた領域T1が示されている。領域T1は、高さ5層かつ幅15センチメートルの領域である。図11の例では、内層が4つの領域T1に区分されている。図11の左下に示す領域T1では、6層目の左端に、軸方向の幅5センチメートルの第一補強部210が配置され、第一補強部210に隣接して幅10センチメートルの第二補強部220が配置されている。これに対して、5層目では、第一補強部210は、6層目の配置位置に対して軸方向に3センチメートルずらした位置に配置されている。同様に、4層目、3層目、2層目では、それぞれ上層に対して3センチメートルずつ段階的に軸方向にずらして配置されている。なお、領域T1において、第一補強部210および第二補強部220は、繰り返しずらして領域T1の右端に到達した場合には左端から繰り返した位置で配置されてよい。繊維強化樹脂層20の内層では、さらに、領域T1が軸方向および積層方向に繰り返し配列されることにより第一補強部210および第二補強部220が規則的に配列されている。なお、上述した図2には、4層目の第一繊維層L1を形成した状態の基体の外観の例が示されている。
【0044】
図11に示すように、第一補強部210は、重複部OLを備えている。重複部OLは、下層の第一繊維層L1が有する第一補強部210の少なくとも一部に対して、上層の第一繊維層L1が有する第一補強部210が重ねて積層された部分である。「上層」とは、対象となる繊維層に対して上側に積層された一層分の繊維層を意味する。「下層」も同様に、下側の一層分の繊維層を意味する。図11の例では、重複部OLは、上層の第一補強部210の右端2センチメートルの領域であり、下層の第一補強部210の左端2センチメートルの領域に対して重ねて積層された領域である。本実施形態のガスタンク100によれば、上層の第一補強部210と、下層の第一補強部210とが重ねて積層されることにより、樹脂材料を円滑に流動させることができる流動経路を繊維層の層間に形成することができ、繊維層に対する樹脂材料の含浸性能を向上させることができる。なお、重複部OLの幅は、樹脂材料が第一補強部210の層間を円滑に流動できるようにするために、0.1センチメートル以上であることが好ましい。本実施形態では、重複部OLの幅は、樹脂材料の含浸性能の向上、ならびに製造装置300による繊維材料の巻き付け方法の切り替え位置の機械誤差を考慮して、2センチメートルで設定されている。
【0045】
図12は、本実施形態のガスタンク100の繊維層に樹脂材料を含浸させる際の樹脂材料の流動経路を模式的に示す説明図である。図12に示す表TB2は、図11で示した表TB1に対して、樹脂材料の流動方向を示すための矢印D1~D4を付与したものである。RTM法では、内部に基体を配置して型閉じした状態の金型の内部に、高速高圧の樹脂材料が充填される。矢印D1で示すように、高速高圧の樹脂材料は、金型内で繊維層の最外層に衝突して繊維層の内部に含浸される。
【0046】
本実施形態のガスタンク100では、第一補強部210は、繊維強化樹脂層20に含まれるすべての繊維層に備えられ、重複部OLは、繊維強化樹脂層20に含まれるすべての第一繊維層L1に備えられている。繊維強化樹脂層20の最外層から最内層までの各層間に重複部OLを設けることにより、矢印D2で示すように、繊維層の層間を樹脂材料が円滑に流動することができる流動経路を全層に亘って形成することができる。この結果、繊維層に対する樹脂材料の含浸性能を向上させることができる。なお、矢印D3で示すように、各層の第二補強部220には、上層や下層の第一補強部210および第二補強部220から樹脂材料が供給されつつ、それよりも多くの樹脂材料が各層の第一補強部210から軸方向に沿って含浸される。最内層に到達した樹脂材料は、矢印D4で示すように、ライナ10の外表面に沿って第二繊維層L2の全域に亘って含浸される。
【0047】
本実施形態のガスタンク100において、第一繊維層L1は、複数の第一補強部210と、複数の第二補強部220とを備えている。第一補強部210を複数備えることにより、第一補強部210を介した樹脂材料の流動経路を複数形成することができ、繊維層に対する樹脂材料の含浸性能をより向上させることができる。また、軸方向において第一補強部210を複数の位置に分散して配置することにより、軸方向での繊維層の強度と、樹脂材料の含浸不足の抑制とのバランスが取れたガスタンク100を得ることができる。
【0048】
図11に示すように、本実施形態のガスタンク100において、上層の第一繊維層L1が有する第一補強部210は、下層の第一繊維層L1が有する第一補強部210に対して軸方向に3センチメートルずらして配置されている。第一補強部210を軸方向にずらして配置することにより、積層方向に沿って直線状に第一補強部210が重ね合わせられて配置される場合と比較して、繊維強化樹脂層20内の応力集中を抑制することができる。
【0049】
本実施形態のガスタンク100において、上層の第一繊維層L1が有する第一補強部210は、下層の第一繊維層L1が有する第一補強部210のうち重複部OL以外の部分に積層されている。すなわち、上層の第一補強部210は、下層で形成された重複部OL上に形成されないように積層され、重複部OL上に重複部OLが形成されないようにされている。重複部OLが3層以上重ね合わせされないように積層することにより、繊維強化樹脂層20内の応力集中を抑制することができる。
【0050】
図11に示すように、表TB1の横軸CL2には、特定の位置において積層方向に含まれる第一補強部210の層数の合計値を示しており、当該合計値が境界BDからの距離ごとに示されている。横軸CL3は、繊維層中の第一補強部210の層数の占有率(単位:%)を境界BDからの距離ごとに示している。例えば、範囲RG2において境界BDからの距離が1-2センチメートルの位置では、最内層、1層目、6-7層目、11層目、最外層のそれぞれに第一補強部210が存在し、第一補強部210の層数の合計値は、6層である。本実施形態では、繊維強化樹脂層20の層数は12層であり、当該位置での第一補強部210の占有率は、50%である。
【0051】
樹脂材料の含浸性能向上の観点から、積層方向に含まれる第一補強部210の占有率は、30%以上であることが好ましい。また、繊維強化樹脂層20内の強度向上の観点から、第二補強部220の占有率が30%以上であることが好ましく、第一補強部210の占有率が70%未満であることが好ましい。積層方向に含まれる第一補強部210の占有率は、33%から50%までであり、ガスタンク100における強度の向上と樹脂材料の含浸性能とのバランスを向上させることができる。
【0052】
本実施形態のガスタンク100では、横軸CL2の各値で示されるように、積層方向に含まれる第一補強部210の層数の合計値は、4層から6層までである。すなわち、繊維強化樹脂層20において、積層方向に含まれる第一補強部210の層数の合計値の最大値と最小値との差が3層である。繊維強化樹脂層20の積層方向に含まれる第一補強部210の層数を、軸方向で略均一とすることにより、繊維層の強度と、樹脂材料の含浸不足の抑制との軸方向でのバランスが取れたガスタンク100を得ることができる。なお、積層方向に含まれる第一補強部210の層数の合計値の最大値と最小値との差は、3層以下の少ない層数であることが好ましく、例えば、ゼロ、1層、2層であってもよい。
【0053】
B.第2実施形態:
図13は、本開示の第2実施形態に係るガスタンク100の繊維強化樹脂層20の構成を模式的に示す説明図である。図13に示す表TB3は、範囲RG2の繊維強化樹脂層20の断面視に相当する。第2実施形態のガスタンク100は、第1実施形態のガスタンク100とは、繊維強化樹脂層20における第一補強部210と第二補強部220との配置位置が相違し、それ以外の構成は第1実施形態のガスタンク100と同様である。
【0054】
表TB3に示すように、繊維強化樹脂層20には、第一補強部210が第一配列CS1と第二配列CS2とに従って配置されている。第一配列CS1は、11層目において境界BD側の端部に配置された第一補強部210が、下層に向かうに従って境界BDから離れるように段階的に軸方向にずらしながら配置される配列である。第二配列CS2は、11層目において境界BDから30センチメートル離れた位置に配置された第一補強部210が、下層に向かうに従って境界BDに近付くように段階的に軸方向にずらしながら配置される配列である。また、第一配列CS1と第二配列CS2とが互いに交差するように配置されることにより、第一補強部210は、境界BDから15センチメートル位置での積層方向を対称軸とする線対称となるように、いわゆるクロス状に配列されている。本実施形態のガスタンク100によれば、第一補強部210を線対称に配列し、また、断面視において複数の略三角形状に配列したトラス構造を採用することにより、繊維強化樹脂層20の強度を向上させることができる。
【0055】
C.第3実施形態:
図14は、本開示の第3実施形態に係るガスタンク100の繊維強化樹脂層20の構成を模式的に示す説明図である。図14に示す表TB4は、範囲RG2の繊維強化樹脂層20の断面視に相当する。第3実施形態のガスタンク100は、第1実施形態のガスタンク100とは、繊維強化樹脂層20における第一補強部210と第二補強部220との配置位置が相違し、それ以外の構成は第1実施形態のガスタンク100と同様である。
【0056】
図14に示すように、本実施形態のガスタンク100において、上層の第一繊維層L1が有する第一補強部210は、下層の第一繊維層L1に備えられる第一補強部210に対して、いわゆるスタック状に重ね合わせられて積層されている。第一補強部210が積層方向に沿った直線状に配列されることにより、樹脂材料を繊維強化樹脂層20の最内層まで含浸させやすくなり、最内層での樹脂材料の含浸不足を抑制または防止することができる。
【0057】
D.第4実施形態:
図15は、本開示の第4実施形態に係るガスタンク100の繊維強化樹脂層20の構成を模式的に示す説明図である。図15に示す表TB5は、範囲RG2の繊維強化樹脂層20の断面視に相当する。第4実施形態のガスタンク100は、第1実施形態のガスタンク100とは、繊維強化樹脂層20における第一補強部210と第二補強部220との配置位置が相違し、それ以外の構成は第1実施形態のガスタンク100と同様である。
【0058】
第1実施形態のガスタンク100では、第一補強部210は、下層に向かうにしたがって境界BDから離れる方向に3センチメートルずつ段階的にずらされながら配置される例を示した。これに対して、第4実施形態のガスタンク100では、第一補強部210は、下層に向かうにしたがって境界BDから離れる方向に1センチメートルずつ段階的にずらされながら配置されている。このように、上層の第一補強部210と下層の第一補強部210との間のズレ量は、3センチメートルには限らず、任意の距離で設定されてよい。また、ズレ量は、距離に限らず、繊維材料の枚数などで設定されてもよい。
【0059】
第1実施形態のガスタンク100では、上層の第一補強部210は、下層の第一補強部210のうち重複部OL以外の部分に積層されている例を示した。これに対して、図15に示すように、重複部OLが3層以上重ね合わせられてもよい。
【0060】
E.他の実施形態:
(E1)上記第1実施形態では、内層に第一繊維層L1が10層備えられる例を示したが、内層の第一繊維層L1は、10層には限らず、単数の層数であってもよく、2以上の任意の層数であってもよい。
【0061】
(E2)上記第1実施形態では、最外層および最内層が第二繊維層L2である例を示した。これに対して、最外層が第一繊維層L1であってよく、また、最内層が第一繊維層L1であってもよく、最外層と最内層の双方が第一繊維層L1であってもよい。
【0062】
(E3)上記第1実施形態では、重複部OLが、上層の第一補強部210の右端2センチメートルの領域であり、下層の第一補強部210の左端2センチメートルの領域に対して重ねて積層される例を示した。これに対して、重複部OLは、上層の第一補強部210が下層の第一補強部210に対して重ねられる範囲の大きさは任意に設定されてよい。例えば、上層の第一補強部210が下層の第一補強部210の全域に亘って重ねて積層されることにより形成されてもよく、上層の第一補強部210の全域が下層の第一補強部210に含まれるように重ねて積層されることにより形成されてもよい。また、繊維層の樹脂材料の含浸性能が充分である場合は、上層の第一繊維層L1が有する第一補強部210と、下層の第一繊維層L1が有する第一補強部210が重ねて積層されなくてもよく、重複部OLは省略されてもよい。また、重複部OLは、繊維強化樹脂層20のすべての繊維層に備えられなくてもよく、繊維強化樹脂層20に含まれる繊維層のうち一部の繊維層にのみ備えられてもよい。
【0063】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0064】
10…ライナ、12…胴部、14…ドーム部、16,17…口金、20…繊維強化樹脂層、22A,22B…繊維材料、42…第一供給部、44…第二供給部、100…ガスタンク、210…第一補強部、211~215,221~225…繊維材料、220…第二補強部、300…製造装置、AX…中心軸、BD…境界、BR…境界部、GP…間隙、L1…第一繊維層、L11,L12,L21,L22…層、L2…第二繊維層、OL…重複部、T1…領域、TB1~TB5…表
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15