(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】車両の制御装置
(51)【国際特許分類】
F16H 63/42 20060101AFI20250527BHJP
F16H 61/682 20060101ALI20250527BHJP
【FI】
F16H63/42
F16H61/682
(21)【出願番号】P 2022105171
(22)【出願日】2022-06-29
【審査請求日】2024-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 幸保
(72)【発明者】
【氏名】皆木 俊
(72)【発明者】
【氏名】舟田 智
(72)【発明者】
【氏名】北野 達也
【審査官】前田 浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-227713(JP,A)
【文献】特開2013-224695(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 63/42
F16H 61/682
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動力源と、前記動力源と駆動輪との間の動力伝達経路に設けられている変速機と、前記動力源と前記変速機との間を断接するクラッチと、を備える車両の、制御装置であって、
前記制御装置は、
前記変速機の変速中に検出される前記変速機の入力軸回転速度および車速に基づいて、暫定のギヤ段であるギヤ段生値を随時求め、前記ギヤ段生値が、変速前のギヤ段に対して変化したか否かを判定するギヤ段変化判定部と、
前記変速機が、ニュートラル状態であるか否かを判定するニュートラル判定部と、
前記ギヤ段生値が変化した時点を起点にした第1経過時間が、予め設定されている第1閾値以上になり、且つ、前記変速機がニュートラル状態から非ニュートラル状態へ切り替わった時点を起点にした第2経過時間が、予め設定されている第2閾値以上になった場合、前記ギヤ段生値を現在のギヤ段と判定する現在ギヤ段判定部と、を備える
ことを特徴とする車両の制御装置。
【請求項2】
前記現在ギヤ段判定部は、前記変速機がニュートラル状態へ切り替わった時点を起点にした第3経過時間が、予め設定されている第3閾値以上になると、現在のギヤ段を不定と判定する
ことを特徴とする請求項1の車両の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速機を備えた車両の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
変速機を備えた車両において、変速機のギヤ段(変速段)を判定し、判定されたギヤ段を表示器に表示する変速機システムが提案されている。特許文献1の変速機がそれである。特許文献1には、メインシャフトの回転速度Nmとカウンタシャフトの回転速度Ncとから算出されるギヤレシオ(実変速比)が、予め規定されている変速比変動許容領域内に到達したときに遅延タイマを始動させ、遅延タイマが作動している間は現在のギヤ段の決定を休止する一方で、遅延タイマが予め設定された遅延時間に到達すると、現在のギヤ段を決定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1では、変速機の変速に当たって、ニュートラルセンサによって現在のギヤ段がニュートラル位置(中立位置)と判定される間、現在のギヤ段の決定を休止する為の遅延タイマのカウントが進まないように設定されている為、満足いく表示の応答性が得られないという問題があった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、変速機の変速時におけるギヤ段の表示の応答性を向上できる車両の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、(a)動力源と、前記動力源と駆動輪との間の動力伝達経路に設けられている変速機と、前記動力源と前記変速機との間を断接するクラッチと、を備える車両の、制御装置であって、(b)前記制御装置は、(c)前記変速機の変速中に検出される前記変速機の入力軸回転速度および車速に基づいて、暫定のギヤ段であるギヤ段生値を随時求め、前記ギヤ段生値が、変速前のギヤ段に対して変化したか否かを判定するギヤ段変化判定部と、(d)前記変速機が、ニュートラル状態であるか否かを判定するニュートラル判定部と、(e)前記ギヤ段生値が変化した時点を起点にした第1経過時間が、予め設定されている第1閾値以上になり、且つ、前記変速機がニュートラル状態から非ニュートラル状態へ切り替わった時点を起点にした第2経過時間が、予め設定されている第2閾値以上になった場合、前記ギヤ段生値を現在のギヤ段と判定する現在ギヤ段判定部と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
第1発明によれば、ギヤ段生値が変化した時点を起点にした第1経過時間が、予め設定されている第1閾値以上になり、且つ、変速機がニュートラル状態から非ニュートラル状態へ切り替わった時点を起点にした第2経過時間が、予め設定されている第2閾値以上になった場合、ギヤ段生値を現在のギヤ段と判定するため、変速機がニュートラル状態から非ニュートラル状態に切り替わった時点で第1経過時間の計測を開始する場合に比べて、第1経過時間が速やかに第1閾値に到達する。従って、第1経過時間の計測開始が早められる分だけ、現在のギヤ段が判定される時間が早くなる。一方で、ギヤ段生値が変化した時点を起点にして第1経過時間の計測が開始されると、ユニット毎のばらつき等によっては、変速機の入力軸回転速度が同期回転速度に到達する前に現在のギヤ段が判定される可能性がある。これに対して、変速機がニュートラル状態から非ニュートラル状態に切り替わった時点を起点とする第2経過時間が第2閾値以上にならないと現在のギヤ段が判定されないため、変速機の入力軸回転速度が同期回転速度に到達する前に現在のギヤ段が判定されることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明が適用された車両の全体構造を簡略的に示す図である。
【
図2】手動変速機の4速ギヤ段から3速ギヤ段へのダウンシフト中における制御状態を示す、従来のタイムチャートの一態様である。
【
図3】
図2のタイムチャートにおいて、N-SW条件とギヤ段判定条件とを独立させた場合の制御状態を示すタイムチャートの一態様である。
【
図4】
図3のタイムチャートにおいて、カウンタを更に追加した場合の制御状態を示すタイムチャートの一態様である。
【
図5】電子制御装置の制御作動の要部を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例を図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例】
【0010】
図1は、本発明が適用された車両10の全体構造を簡略的に示す図である。車両10は、動力源としてのエンジン12と駆動輪14との間に、動力伝達装置15を備えている。動力伝達装置15は、エンジン12側から駆動輪14に向かって順番に、クラッチ16、手動変速機18(T/M)、トランスファ20(T/F)、およびデファレンシャル装置22(DIFF)を備えている。なお、手動変速機18が、本発明の変速機に対応する。
【0011】
クラッチ16は、エンジン12と手動変速機18との間に介在され、エンジン12と手動変速機18との間を断接可能に設けられている。クラッチ16は、よく知られた乾式単板の摩擦クラッチから構成されている。運転者によってクラッチペダル24が踏み込まれると、クラッチペダル24のストローク量に応じてアクチュエータ26が駆動させられることで、クラッチ16が解放される。このとき、エンジン12と手動変速機18との間の動力伝達が遮断される。なお、クラッチペダル24の踏込が解除された状態では、クラッチ16が接続された状態になる。
【0012】
手動変速機18は、エンジン12と駆動輪14との間の動力伝達経路に設けられ、運転者による手動操作によってギヤ段が切り替えられる、公知のマニュアルトランスミッションである。手動変速機18は、例えば、入力軸と出力軸との間に介在されている複数個のギヤ対と、ギヤ対毎に設けられた同期噛合式のクラッチと、を備える平行二軸式のトランスミッションから構成される。運転者によってシフトレバー28が操作されると、シフトレバー28のシフト位置に応じて係合されるクラッチが切り替えられることで、手動変速機18のギヤ段が切り替えられる。
【0013】
トランスファ20は、手動変速機18から伝達された動力を前後輪に分配する装置である。従って、トランスファ20によって分配された動力は前輪および後輪に伝達される。なお、
図1では、前輪および後輪が、1つの駆動輪14として纏めて記載されている。デファレンシャル装置22は、車両10の走行状態に応じて左右車輪の回転差を生じさせるよく知られた差動歯車装置である。なお、デファレンシャル装置22は、前輪側および後輪側にそれぞれ設けられるが、
図1では、これらが1つのデファレンシャル装置22として纏めて記載されている。
【0014】
車両10は、車両10の走行制御を含む各種制御を実行する電子制御装置40を備えている。電子制御装置40は、例えばCPU、RAM、ROM、入出力インターフェース等を備えた所謂マイクロコンピュータを含んで構成されており、CPUはRAMの一時記憶機能を利用しつつ予めROMに記憶されたプログラムに従って信号処理を行うことにより車両10の各種制御を実行する。電子制御装置90は、必要に応じてエンジン制御用など複数個の制御装置から構成される。
【0015】
電子制御装置40には、車両10に備えられた各種センサ等(例えばエンジン回転速度センサ42、入力軸回転速度センサ44、出力軸回転速度センサ46、車輪速センサ48、アクセル開度センサ50、ニュートラルスタートスイッチ52、クラッチストロークセンサ53など)による検出値に基づく各種信号等(例えばエンジン12の回転速度であるエンジン回転速度Ne、手動変速機18の入力軸の回転速度である入力軸回転速度Ni、手動変速機18の出力軸の回転速度である出力軸回転速度No、各車輪の回転速度である車輪速Nr、運転者によるアクセルペダル55の操作量に相当するアクセル開度θacc、手動変速機18の状態、クラッチペダル24の操作量であるクラッチストロークSTclなど)が、それぞれ供給される。なお、手動変速機18の状態は、手動変速機18がニュートラル状態(動力伝達遮断状態)であるか否かに対応し、手動変速機18がニュートラル状態であれば、ニュートラルスタートスイッチ52(以下、N-SW52)からニュートラル状態を表すニュートラル信号NSが出力される。
【0016】
電子制御装置90からは、車両10に備えられた各装置(例えばエンジン制御装置54、表示装置56など)に各種指令信号(例えばエンジン12を制御するためのエンジン制御指令信号Se、表示装置56の表示を制御するための表示指令信号Sindiなど)が、それぞれ出力される。
【0017】
表示装置56には、車速V、エンジン回転速度Neなどが表示される。また、表示装置56のギヤ段表示メータ58には、手動変速機18の現在のギヤ段(以下、現在ギヤ段GRnow)が表示される。さらに、ギヤ段表示メータ58には、車両10の走行状態に応じた適切なギヤ段(以下、推奨ギヤ段)を表示する機能を有している。例えば、
図1に示されるように、ギヤ段表示メータ58の紙面左側に現在ギヤ段GRnowが表示され、ギヤ段表示メータ58の紙面右側に推奨ギヤ段が表示される。電子制御装置90は、エンジン回転速度Ne、車輪速Nr、アクセル開度θaccなどに加えて、燃費等を考慮した適切な推奨ギヤ段を決定し、決定された推奨ギヤ段をギヤ段表示メータ58に表示させる機能を有している。
【0018】
ところで、従来では、現在ギヤ段GRnowは、エンジン回転速度Neおよび車速Vから回転速度比NeV(=Ne/V)を算出し、算出された回転速度比NeVが、各々のギヤ段毎に設定されるギヤ段判定領域の何れにあるかに基づいて判定されていた。なお、車速Vは、出力軸回転速度Noまたは車輪速Nrから算出される。ここで、クラッチ16が遮断された状態では、エンジン12と手動変速機18とが遮断されるため、回転速度比NeVを正確に算出することが困難になる。従って、クラッチ16が遮断される間、ギヤ段表示メータ58の現在ギヤ段GRnowが非表示となっていた。
【0019】
これに対して、手動変速機18の入力軸回転速度Niと車速Vとに基づいて回転速度比NiV(=Ni/V)を算出し、算出された回転速度比NiVが、各々のギヤ段毎に設定されるギヤ段判定領域の何れにあるかに基づいて現在ギヤ段GRnowを判定することが考えられる。エンジン回転速度Neに基づいて算出される回転速度比NeVに代わって、入力軸回転速度Niに基づいて算出される回転速度比NiVが適用されることで、クラッチ16が遮断された状態であっても、所定期間だけ現在ギヤ段GRnowの表示が可能になる。
【0020】
図2は、手動変速機18の4速ギヤ段4thから3速ギヤ段3rdへのダウンシフト中における制御状態を示すタイムチャートである。
図2において、横軸は、時間t[sec]を示している。縦軸は、上から順番に、クラッチ16のクラッチストロークSTcl、N-SW52から出力されるニュートラル信号NS、アクセル開度θacc、車速V[km/h]、入力軸回転速度Ni[rpm]およびエンジン回転速度Ne[rpm]、回転速度比NV(NeVおよびNiV)、ギヤ段生値GRtemp(NeV)、現在ギヤ段GRnow(NeV)、現在ギヤ段表示GRindi(NeV)、ギヤ段生値GRtemp(NiV)、現在ギヤ段GRnow(NiV)、現在ギヤ段表示GRindi(NiV)をそれぞれ示している。
【0021】
上記ギヤ段生値GRtemp(NeV)は、回転速度比NeV(=Ne/V)に基づいて、すなわちエンジン回転速度Neおよび車速Vに基づいて判定される暫定のギヤ段を示している。例えば、各ギヤ段毎に回転速度比NeVの判定領域が規定され、回転速度比NeVが所定のギヤ段に対応する判定領域にある場合、その所定のギヤ段がギヤ段生値GRtemp(NeV)と判定される。また、現在ギヤ段GRnow(NeV)は、ギヤ段生値GRtemp(NeV)等に基づいて判定される最終的なギヤ段を示している。現在ギヤ段表示GRindi(NeV)は、ギヤ段表示メータ58に表示されるギヤ段であって、現在ギヤ段GRnow(NeV)と同じ値になる。
【0022】
上記ギヤ段生値GRtemp(NiV)は、回転速度比NiV(=Ni/V)に基づいて、すなわち入力軸回転速度Niおよび車速Vに基づいて判定される暫定のギヤ段を示している。例えば、各ギヤ段毎に回転速度比NiVの判定領域が規定され、回転速度比NiVが所定のギヤ段に対応する判定領域にある場合、その所定のギヤ段が、ギヤ段生値GRtemp(NiV)と判定される。現在ギヤ段GRnow(NiV)は、ギヤ段生値GRtemp(NiV)等に基づいて判定される最終的なギヤ段を示している。現在ギヤ段表示GRindi(NiV)は、ギヤ段表示メータ58に表示されるギヤ段であり、現在ギヤ段GRnow(NiV)と同じ値になる。
【0023】
先ず、破線で囲まれた回転速度比NeVに基づいて、ギヤ段生値GRtemp(NeV)および現在ギヤ段GRnow(NeV)が判定される場合(すなわち従来制御)について説明する。
図2のt1時点よりも前の時点において、アクセルペダル55の踏込が解除されるとともに、クラッチペダル24の踏込が開始されている。t1時点では、クラッチストロークSTclが規定値に到達することで、クラッチ16が遮断される。このとき、t1時点を起点としたギヤ段不定カウンタ(
図2においてカウンタB)の作動が開始され、t1時点から予め設定されているギヤ段不定閾値XB(以下、閾値XB)が経過したt2時点において、現在ギヤ段GRnow(NeV)が不定と判定される。ギヤ段不定カウンタは、クラッチ16が遮断された時点から作動し、その時点からギヤ段不定持閾値XBが経過するまでの間、現在ギヤ段GRnow(NeV)および現在ギヤ段表示GRindi(NeV)がクラッチ遮断前の状態で保持される。ギヤ段不定カウンタが設定されることで、クラッチ遮断後のギヤ段表示メータ58の非表示時間を短くすることができる。
【0024】
t2時点において、ギヤ段不定カウンタ(以下、カウンタB)が閾値XBに到達することで、現在ギヤ段GRnow(NeV)が不定と判定され、ギヤ段表示メータ58に表示される現在ギヤ段表示GRindi(NeV)が非表示となる。t3時点では、N-SW52からニュートラル信号NSが、オフ状態(OFF)からオン状態(ON)に切り替わると、手動変速機18がニュートラル状態と判定される。これに関連して、t3時点において入力軸回転速度Niの上昇が開始される。一方、回転速度比NeVは、エンジン回転速度Neに基づいて算出されるため、エンジン回転速度Neの低下と共に低下している。t6時点から所定時間経過したとき、アクセル開度θaccの増加に伴ってエンジン回転速度Neが上昇し、t8時点において回転速度比NeVがギヤ段判定領域の閾値NV(3-4)、具体的には3速判定領域と4速判定領域との閾値NV(3-4)に到達し、t8時点以降はギヤ段生値GRtemp(NeV)が3速判定領域に入る。t9時点では、エンジン回転速度Neが入力軸回転速度Niに回転同期し、t9時点からギヤ段確定カウンタ(
図2においてカウンタA)の作動が開始され、t9時点から予め規定されているギヤ段確定閾値XA(以下、閾値XA)が経過したt10時点において、現在ギヤ段GRnow(NeV)が3速ギヤ段と判定されると共に、現在ギヤ段表示GRindi(NeV)が非表示から3速ギヤ段に切り替わる。
【0025】
次に、一点鎖線で囲まれた回転速度比NiVに基づいて、ギヤ段生値GRtemp(NiV)および現在ギヤ段GRnow(NiV)が判定される場合について説明する。回転速度比NiVに基づく場合には、t3時点においてニュートラル信号NSがオフ状態からオン状態に切り替わるとカウンタBの作動が開始され、t3時点から閾値XBが経過したt4時点で現在ギヤ段GRnow(NiV)が不定と判定され、現在ギヤ段表示GRindi(NiV)が非表示となる。また、t3時点から入力軸回転速度Niの上昇が開始されることで、回転速度比NiVについても上昇が開始される。t5時点では、回転速度比NiVがギヤ段判定領域の閾値NV(3-4)に到達することで、ギヤ段生値GRtemp(NiV)が4速ギヤ段から3速ギヤ段に切り替わる。更に、t6時点では、ニュートラル信号NSが停止(オフ状態)し、この時点からギヤ段確定カウンタ(以下、カウンタA)の作動が開始される。t6時点から閾値XAが経過したt7時点では、現在ギヤ段GRnow(NiV)が3速ギヤ段と判定されると共に、現在ギヤ段表示GRindi(NiV)が非表示から3速ギヤ段に切り替わる。このように、回転速度比NiVに基づいて現在ギヤ段GRnow(NiV)が判定されることで、回転速度比NeVに基づいて現在ギヤ段GRnow(NeV)が判定される場合に比べて、ギヤ段表示メータ58に現在ギヤ段GRnow(NiV)が表示される時間が長くなる。
【0026】
ところで、上述した回転速度比NiVに基づいて現在ギヤ段GRnow(NiV))が判定される場合には、回転速度比NiVが前回のギヤ段判定領域とは異なるギヤ段判定領域に移行する、すなわち、ギヤ段生値GRtemp(NiV)が変速前のギヤ段に対して変化する条件(以下、ギヤ段判定条件)、および、ニュートラル信号NSがオン状態(ON)からオフ状態(OFF)に切り替わる条件(以下、N-SW条件)の両方が成立した時点でカウンタAの作動が開始されていた。この場合には、例えばギヤ段生値GRtemp(NiV)が変速後のギヤ段を判定しているにも拘わらずN-SW条件が成立しないことで、カウンタAが作動しない。その結果、カウンタAの作動が遅れることで適切な応答性が得られず、改善の余地があった。
【0027】
これに対して、電子制御装置40は、後述するようにギヤ段判定条件とN-SW条件とを独立させ、N-SW条件の成立に拘わらず、ギヤ段判定条件が成立するとカウンタAの作動を開始させることで、現在ギヤ段GRnow(NiV)が判定されるタイミングを早めて表示応答性を向上させる。以下、電子制御装置40による、現在ギヤ段GRnow(NiV)を判定する制御について説明する。以下より、ギヤ段生値GRtemp(NiV)をギヤ段生値GRtemp、現在ギヤ段GRnow(NiV)を現在ギヤ段GRnow、現在ギヤ段表示GRindi(NiV)を現在ギヤ段表示GRindiと、それぞれ記載する。
【0028】
電子制御装置40は、現在ギヤ段GRnowを判定する為に実行される、現在ギヤ段判定手段としての現在ギヤ段判定部80と、ギヤ段変化判定手段としてのギヤ段変化判定部82と、ニュートラル判定手段としてのニュートラル判定部84(以下、N判定部84)と、を機能的に備えている。
【0029】
ギヤ段変化判定部82は、クラッチ16の遮断が検出されると、手動変速機18の変速中における入力軸回転速度Niおよび車速Vに基づいて、回転速度比NiV(=Ni/V)を随時算出する。また、ギヤ段変化判定部82は、随時算出される回転速度比NiVに基づいて、暫定のギヤ段であるギヤ段生値GRtempを随時求める。具体的には、各ギヤ段毎に回転速度比NiVの判定領域が予め規定されており、算出された回転速度比NiVが所定のギヤ段に対応する判定領域にある場合、その所定のギヤ段がギヤ段生値GRtempと判定される。また、ギヤ段変化判定部82は、判定されたギヤ段生値GRtempが変速前のギヤ段に対して変化したか否か、言い換えれば、ギヤ段判定条件が成立したか否かを判定する。
【0030】
N判定部84は、N-SW52から出力されるニュートラル信号NSに基づいて、ニュートラル信号NSがオン状態(ON)であるか否か、言い換えれば、手動変速機18がニュートラル状態であるか否かを判定する。例えば、ニュートラル信号NSがオン状態(ON)では、手動変速機18がニュートラル状態となり、ニュートラル信号NSがオフ状態(OFF)では、手動変速機18が非ニュートラル状態となる。ニュートラル信号NSのオン状態、すなわち手動変速機18のニュートラル状態は、手動変速機18において何れのギヤ段も形成されない状態に対応する。ニュートラル信号NSのオフ状態、すなわち手動変速機18の非ニュートラル状態は、手動変速機18において何れかのギヤ段が形成された状態に対応する。
【0031】
現在ギヤ段判定部80は、N判定部84によって、ニュートラル信号NSがオフ状態からオン状態、すなわち手動変速機18の非ニュートラル状態からニュートラル状態に切り替わったと判定されると、カウンタBを作動させる。次いで、現在ギヤ段判定部80は、カウンタBが閾値XBに到達する、すなわちニュートラル状態に切り替わった時点を起点にした経過時間tBが閾値XB以上になると、現在ギヤ段GRnowを不定と判定し、ギヤ段表示メータ58に表示される現在ギヤ段表示GRindiを非表示とする表示指令信号Sindiを出力する。なお、経過時間tBが、本発明の第3経過時間に対応し、閾値XBが、本発明の第3閾値に対応する。
【0032】
また、現在ギヤ段判定部80は、ギヤ段変化判定部82によって、ギヤ段生値GRtempが変速前のギヤ段に対して変化した(ギヤ段判定条件成立)と判定されると、カウンタAを作動させる。次いで、現在ギヤ段判定部80は、カウンタAが閾値XAに到達したか否か、すなわちギヤ段生値GRtempが変速前のギヤ段に対して変化した時点を起点にした経過時間tAが、閾値XA以上になったか否かを判定する。なお、経過時間tAが、本発明の第1経過時間に対応し、閾値XAが、本発明の第1閾値に対応する。
【0033】
従来では、ギヤ段生値GRtempが変化した(ギヤ段判定条件成立)と判定され、且つ、ニュートラル信号NSがオン状態からオフ状態に変化した(N-SW条件成立)と判定された時点で、カウンタAの作動が開始されていた。これに対して、本実施例では、N-SW条件の成立に拘わらず、ギヤ段判定条件が成立した時点でカウンタAの作動が開始されるため、カウンタAが作動するタイミングが早められる。その結果、従来に比べて、現在ギヤ段GRnowの判定および現在ギヤ段表示GRindiの表示の応答性が向上する。
【0034】
ところで、ギヤ段判定条件の成立のみでカウンタAが作動すると、以下のような問題が生じる虞がある。通常、N-SW条件が成立するタイミングすなわちニュートラル信号NSがオン状態からオフ状態に切り替わるタイミングで、手動変速機18に設けられた同期噛合機構(シンクロ機構)が回転同期する、言い換えれば、入力軸回転速度Niが変速後の同期回転速度に回転同期するように設計されており、同期噛合機構が回転同期した時点以降に現在ギヤ段GRnowが判定されることが望ましい。しかしながら、ニュートラル信号NSがオン状態からオフ状態に切り替わるタイミングがユニット毎にばらつく可能性があり、また、ギヤ段判定条件を判定するための閾値(N(3-4)など)やカウンタAの閾値XAによっては、同期噛合機構が回転同期する前に現在ギヤ段GRnowが判定されてしまう可能性がある。
【0035】
図3は、ギヤ段判定条件が成立した時点からカウンタAを作動させる場合における、手動変速機18の4速ギヤ段から3速ギヤ段へのダウンシフト中の制御状態を示すタイムチャートの一態様である。
【0036】
図3のt1時点では、クラッチ16が遮断されている。t2時点では、ニュートラル信号NSがオフ状態からオン状態に切り替わり、このt2時点からカウンタBの作動が開始されている。カウンタBが閾値XBに到達したt3時点において、現在ギヤ段GRnowが不明と判定されている。また、t2時点より回転速度比NiVが上昇し、t4時点において、回転速度比NiVがギヤ段判定領域の閾値NV(3-4)に到達し、このt4時点でギヤ段生値GRtempが4速ギヤ段から3速ギヤ段に切り替わる。また、t4時点においてカウンタAの作動が開始される。そして、t6時点において、カウンタAが閾値XAに到達している。
【0037】
通常は、実線で示すように、同期噛合機構(または入力軸回転速度Ni)が回転同期するt7時点で、ニュートラル信号NSがオン状態からオフ状態に切り替わるが、ユニットのばらつき等によっては、破線で示すように、同期噛合機構が回転同期する前のt5時点で、ニュートラル信号NSがオン状態からオフ状態に切り替わる可能性がある。この場合には、カウンタAが閾値XAに到達するt6時点で、現在ギヤ段GRnowが不定から3速ギヤ段と判定され、現在ギヤ段表示GRindiが非表示から3速ギヤ段に切り替わる。
【0038】
このような同期噛合機構が回転同期する前に現在ギヤ段GRnowが判定されることを防止する為、現在ギヤ段判定部80は、カウンタAに加えて、誤表示防止カウンタとしてのカウンタCを更に備えている。現在ギヤ段判定部80は、N-SW信号がオン状態からオフ状態になった時点、すなわち手動変速機18がニュートラル状態から非ニュートラル状態へ切り替わった時点(N-SW条件成立時点)を起点にしてカウンタCを作動させる。現在ギヤ段判定部80は、カウンタCが予め設定されている誤表示防止閾値XC(以下、閾値XC)に到達したか否か、すなわちN-SW条件成立時点を起点にした経過時間tCが閾値XC以上になったか否かを判定する。そして、現在ギヤ段判定部80は、カウンタAが閾値XA以上になり、且つ、カウンタCが閾値XC以上になった場合、ギヤ段生値GRtempを現在ギヤ段GRnowと判定し、現在ギヤ段GRnowをギヤ段表示メータ58に表示させる表示指令信号Sindiを出力する。すなわち、現在ギヤ段判定部80は、ギヤ段生値GRtempが変速前のギヤ段に対して変化した時点を起点とした経過時間が、閾値XA以上になり、且つ、手動変速機18がニュートラル状態から非ニュートラル状態へ切り替わった時点を起点とした経過時間が、閾値XC以上になった場合、ギヤ段生値GRtempを現在ギヤ段GRnowと判定する。なお、経過時間tCが、本発明の第2経過時間に対応し、閾値XCが、本発明の第2閾値に対応する。
【0039】
カウンタCが新たに追加されることで、ユニット毎にN-SW条件が成立するタイミングにばらつきがあった場合であっても、同期噛合機構の回転同期後に現在ギヤ段GRnowを判定させることができる。なお、閾値XCは、予め実験的または設計的に求められ、ユニット毎のばらつき等を考慮し、N-SW条件の成立時から閾値XCが経過すると、確実に同期噛合機構(または入力軸回転速度Ni)が回転同期する値に設定されている。
【0040】
図4は、上述したカウンタCが追加された場合における、手動変速機18の4速ギヤ段から3速ギヤ段へのダウンシフト中の制御状態を示すタイムチャートである。
図4のタイムチャートの下段において、破線で囲まれた部位が従来の態様に対応し、一点鎖線で囲まれた部位が本実施例の態様に対応している。
【0041】
先ず、従来の態様および本実施例に共通するt4時点までのタイムチャートについて説明する。
図4のt1時点では、クラッチ16が遮断されている。t2時点では、ニュートラル信号NSがオフ状態からオン状態に切り替わり、このt2時点からカウンタBが作動する。カウンタBが閾値XBに到達したt3時点において、現在ギヤ段GRnowが不定と判定されている。また、t2時点より回転速度比NiVが上昇し、t4時点において、回転速度比NiVがギヤ段判定領域の閾値NV(3-4)に到達し、このt4時点でギヤ段生値GRtempが4速ギヤ段から3速ギヤ段に切り替わる(ギヤ段判定条件成立)。
【0042】
次に、従来の態様に対応するt4時点以降のタイムチャートについて説明する。t4時点では、回転速度比NiVが3速判定領域と4速判定領域との閾値NV(3-4)に到達することで、ギヤ段生値GRtempが4速ギヤ段から3速ギア段に切り替わっている(ギヤ段判定条件成立)。t5時点では、ニュートラル信号NSがオフ状態に切り替わり(N-SW条件成立)、この時点からカウンタAの作動が開始される。t8時点において、カウンタAが閾値XAに到達することで現在ギヤ段GRnowが3速ギヤ段と判定され、現在ギヤ段表示GRindiが非表示から3速ギヤ段に切り替わる。
【0043】
次に、本実施例に対応する、t4時点以降のタイムチャートについて説明する。本実施例では、ギヤ段生値GRtempが4速ギヤ段から3速ギヤ段に切り替わるt4時点、すなわちギヤ段判定条件が成立するt4時点からカウンタAの作動が開始される。t5時点では、ニュートラル信号NSがオフ状態に切り替わっている(N-SW条件成立)。本実施例では、N-SW条件が成立したt5時点からカウンタCの作動が開始されている。t6時点では、カウンタCが閾値XCに到達することで、カウンタCの作動が終了する。t7時点では、カウンタAが閾値XAに到達している。従って、t7時点では、カウンタCが閾値XC以上になり、且つ、カウンタAが閾値XA以上になった為、現在ギヤ段GRnowと3速ギヤ段と判定され、現在ギヤ段表示GRindiが非表示から3速ギヤ段に切り替わる。その結果、本実施例では、従来の態様に比べて、t7時点からt8時点の間の時間分だけ現在ギヤ段表示GRindiの応答性が向上する。
【0044】
図5は、電子制御装置40の制御作動の要部を説明するフローチャートであり、手動変速機18の変速中における現在ギヤ段表示GRindiの応答性を向上させることができる制御作動を説明する為のフローチャートである。このフローチャートは、手動変速機18を変速させるに当たり、クラッチ16が遮断される毎に実行される。
【0045】
先ず、ギヤ段変化判定部82の制御機能に対応するステップ(以下、ステップを省略)S10において、ギヤ段生値GRtempが変化していないか否か、言い換えれば、ギヤ段生値GRtempが所定のギヤ段判定領域に収まり、安定した状態となっているか否かが判定される。S10の判定が否定された場合、現在ギヤ段判定部80の制御機能に対応するS20において、カウンタAがクリアされる。次いで、ニュートラル判定部84に制御機能に対応するS40において、ニュートラル信号がオフ状態か否かが判定される。S40の判定が否定された場合、現在ギヤ段判定部80の制御機能に対応するS80において、カウンタCがクリアされる。次いで、現在ギヤ段判定部80の制御機能に対応するS90において、現在ギヤ段GRnowの不定処理が行われる。例えば、カウンタBが閾値XBに到達するまでは現在ギヤ段GRnowが変速前のギヤ段で保持され、カウンタBが閾値XBに到達すると、現在ギヤ段GRnowを不定と判定する処理が行われる。
【0046】
S10に戻り、S10の判定が肯定された場合、ニュートラル判定部84の制御機能に対応するS30において、ニュートラル信号NSがオフ状態であるか否かが判定される。例えばギヤ段生値GRtempが変化した後、そのギヤ段生値GRtempで維持された状態になると、S10の判定が肯定されてS30以降のステップが実行される。S30の判定が否定された場合、S80以降のステップが実行される。S30の判定が肯定された場合、現在ギヤ段判定部80の制御機能に対応するS50において、カウンタBがクリアされる。次いで、現在ギヤ段判定部80の制御機能に対応するS60において、カウンタAが閾値XA以上、且つ、カウンタCが閾値XC以上であるか否かが判定される。S60の判定が否定された場合、S10に戻り、S60の判定が肯定されるまでの間、S10、S30、S50、およびS60のステップが繰り返し実行される。一方、時間経過に伴って、S60の判定が肯定されると、現在ギヤ段判定部80の制御機能に対応するS70において、ギヤ段生値GRtempが現在ギヤ段GRnowと判定されて本ルーチンが終了させられる。
【0047】
上述のように、本実施例によれば、ギヤ段生値GRtempが変化した時点を起点にした経過時間tAが、予め設定されている閾値XA以上になり、且つ、手動変速機18がニュートラル状態から非ニュートラル状態へ切り替わった時点を起点にした経過時間tCが、予め設定されている閾値XCになった場合、ギヤ段生値GRtempを現在ギヤ段GRnowと判定するため、手動変速機18がニュートラル状態から非ニュートラル状態に切り替わった時点で経過時間tAの計測を開始する場合に比べて、経過時間tAが速やかに閾値XAに到達する。従って、経過時間tAの計測開始が早められる分だけ、現在ギヤ段GRnowが判定される時間が早くなる。一方で、ギヤ段生値GRtempが変化した時点を起点にして経過時間tAの計測が開始されると、ユニット毎のばらつき等によっては、手動変速機18の入力軸回転速度Niが同期回転速度に到達する前に現在ギヤ段GRnowが判定される可能性がある。これに対して、手動変速機18がニュートラル状態から非ニュートラル状態に切り替わった時点を起点とする経過時間tCが閾値XC以上にならないと現在ギヤ段GRnowが判定されないため、手動変速機18の入力軸回転速度Niが同期回転速度に到達する前に現在ギヤ段GRnowが判定されることを防止することができる。
【0048】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0049】
例えば、前述の実施例では、手動変速機18は、運転者の手動操作によってギヤ段を切替可能に構成されていたが、本発明は、マニュアルモードを有する自動変速機であっても適用することができる。
【0050】
また、前述の実施例では、手動変速機18の4速ギヤ段から3速ギヤ段へのダウンシフトが一態様として示されていたが、本発明はダウンシフトに限定されず、アップシフトであっても適用できる。
【0051】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0052】
10:車両 12:エンジン(動力源) 14:駆動輪 16:クラッチ 18:手動変速機(変速機) 40:電子制御装置(制御装置) 80:現在ギヤ段判定部 82:ギヤ段変化判定部 84:ニュートラル判定部