(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】運転支援装置
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20250527BHJP
B60W 30/10 20060101ALI20250527BHJP
B60W 40/06 20120101ALI20250527BHJP
【FI】
G08G1/16 D
B60W30/10
B60W40/06
(21)【出願番号】P 2022113077
(22)【出願日】2022-07-14
【審査請求日】2024-04-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】弁理士法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】池澤 佑太
(72)【発明者】
【氏名】栃木 康平
【審査官】尾崎 和寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-095928(JP,A)
【文献】特開2017-107414(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/16
B60W 30/10
B60W 40/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
交差点の手前の所定の領域を自車両が走行し、且つ、自車両が走行している走行レーンの横断方向における第1方向側に隣接する走行レーンである隣接レーンが存在しない状況である第1状況において、当該隣接レーンが存在しないことを検知した時点で、前記交差点にて自車両の進行方向を前記第1方向へ変更するための運転支援を開始可能な状態になるように構成されるとともに、前記所定の領域を自車両が走行し、且つ、前記隣接レーンが存在する状況である第2状況において、当該隣接レーンが存在することを検知した時点で、前記運転支援を開始不能な状態になるように構成された制御装置を備えた運転支援装置であって、
前記制御装置は、
前記第1状況において前記運転支援を開始可能な状態になった後、車線変更が実行されることなく前記第2状況に遷移した場合であって
、且つ、自車両が走行している走行レーンが車両の進行方向を指定しない走行レーンである場合に、当該第2状況において前記隣接レーンが存在することを検知した時点である第1時点にて前記運転支援を開始不能な状態になるのではなく、当該第1時点から所定時間が経過した時点又は自車両が所定距離だけ進行した時点である第2時点まで前記運転支援を開始可能な状態を保持
し、
自車両が走行している走行レーンが前記第1方向を含む指定方向への進行のみが許容された専用レーンである状況において、隣接する走行レーンの存否に関わらず、前記運転支援を開始可能な状態を保持する、運転支援装置。
【請求項2】
請求項1に記載の運転支援装置において、
前記制御装置は、前記第2時点において、自車両と前記交差点との距離が閾値以下である場合、当該第2時点から所定時間が経過した時点又は自車両が所定距離だけ進行した時点である第3時点まで、若しくは、当該第2時点から自車両が前記交差点を通過する時点である第4時点まで、前記運転支援を開始可能な状態を保持する、運転支援装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の運転支援装置において、
前記制御装置は、前記運転支援を開始可能な状態において、自車両の方向指示器が前記第1方向を指し示している場合、前記運転支援を開始する、運転支援装置。
【請求項4】
請求項3に記載の運転支援装置において、
前記運転支援は、自車両を減速させる減速支援を含み、
前記制御装置は、前記自車両の速度が所定の目標値を超えている場合に、前記減速支援を開始する、運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交差点を右折又は左折するための運転操作を支援する運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自車両に搭載され、交差点を右折又は左折するための運転操作を支援する運転支装置(以下、「従来装置」と称呼する。)が知られている(下記特許文献1を参照。)。自車両に搭載された方向指示器が指し示している方向である第1方向側に隣接する走行レーンが存在しない場合、従来装置は、「運転者が交差点にて第1方向に進行方向を変更しようとしている。」と推定する。この場合、従来装置は、当該交差点にて進行方向を変更(右折又は左折)するための運転操作を支援可能である。例えば、自車両が比較的高速で走行している場合、従来装置は、制動装置を制御して、自車両を減速させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
ところで、例えば、
図6に示したように、交差点の手前において、右折専用の走行レーンが設けられている場合がある。この例において、右折専用レーンよりも手前の単一の走行レーンにおいて右側の方向指示器を作動させている状況A(
図6(A))では、第1方向側(右側)に隣接する走行レーンが存在しないので、従来装置は、右折のための運転支援を実行可能である。自車両が車線変更することなく進行し、右折専用レーンの左側に到達した状況B(
図6(B))では、第1方向側(右側)に隣接する走行レーン(右折専用レーン)が存在しているので、従来装置は、原則として、右折のための運転支援を実行不能になる。したがって、その後に状況Aから状況Bへ遷移した場合(例えば、右折専用レーンに進入するタイミングが少し遅れた場合)に、運転支援が実行されなくなり、交差点を走行する際の安全性が低下する虞がある。なお、右折のための運転支援における上記の課題と同一の課題が、左折のための運転支援においても生じ得る。
【0005】
本発明の目的の一つは、交差点を右折又は左折する運転操作を支援するための運転支援装置であって、安全性を向上させることができる運転支援装置を提供することにある。
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の運転支援装置(1)は、
交差点の手前の所定の領域(X)を自車両(V)が走行し、且つ、自車両が走行している走行レーン(L0)の横断方向における第1方向側に隣接する走行レーンである隣接レーンが存在しない状況である第1状況(SR1、SL1)において、当該隣接レーンが存在しないことを検知した時点で、前記交差点にて自車両の進行方向を前記第1方向へ変更するための運転支援を開始可能な状態になるように構成されるとともに、前記所定の領域を自車両が走行し、且つ、前記隣接レーンが存在する状況である第2状況(SR2、SL2)において、当該隣接レーンを検知した時点で、前記運転支援を開始不能な状態になるように構成された制御装置(10)を備える。
前記制御装置は、
前記第1状況において前記運転支援を開始可能な状態になった後、車線変更が実行されることなく前記第2状況に遷移した場合であって、且つ、自車両が走行している走行レーンが車両の進行方向を指定しない走行レーンである場合に、当該第2状況に遷移した時点である第1時点(t1)から所定時間(Tth)が経過した時点又は自車両が所定距離だけ進行した時点である第2時点(t2)まで前記運転支援を開始可能な状態(FR=1、FL=1)を保持し、
自車両が走行している走行レーンが前記第1方向を含む指定方向への進行のみが許容された専用レーンである状況において、隣接する走行レーンの存否に関わらず、前記運転支援を開始可能な状態を保持する。
【0007】
車線変更が実行されることなく第1状況から第2状況に遷移した場合(例えば、右折専用レーンに進入するタイミングが少し遅れた場合)、その後、運転者が交差点にて自車両を第1方向へ進行させる可能性がある。そこで、制御装置は、第1時点から第2時点まで、運転支援を開始可能な状態を保持する。例えば、自車両が比較的高速で走行していて、右折専用レーンに進入するタイミングが少し遅れたとしても、運転支援装置が運転支援を実行することによって安全に右折可能なように減速制御が開始される。よって、本発明によれば、第1時点において即座に運転支援を開始不能な状態へ遷移させる装置に比べて、交差点を走行する際の安全性を向上させることができる。
【0008】
本発明の一態様に係る運転支援装置において、
前記制御装置は、前記第2時点において、自車両と前記交差点との距離が閾値以下である場合、当該第2時点から所定時間が経過した時点又は自車両が所定距離だけ進行した時点である第3時点まで、若しくは、当該第2時点から自車両が前記交差点を通過する時点である第4時点まで、前記運転支援を開始可能な状態を保持する。
【0009】
本態様に係る運転支援装置によれば、第2時点において自車両が交差点の直近に位置している場合に、運転支援を開始可能な状態がさらに保持される。これにより、交差点を走行する際の安全性をさらに向上させることができる。
【0011】
自車両が走行している走行レーンが第1方向へ進行するための専用レーンである場合、運転者が交差点にて進行方向を変更する可能性が高い。そのため、この場合、制御装置は、隣接する走行レーンの存否に関わらず、運転支援を開始可能な状態を保持する。これにより、交差点を走行する際の安全性をさらに向上させることができる。
【0012】
また、本発明の一態様に係る運転支援装置において、
前記制御装置は、前記運転支援を開始可能な状態において、自車両の方向指示器が前記第1方向を指し示している場合、前記運転支援を開始する。
【0013】
これによれば、自車両を交差点にて自車両の進行方向を第1方向へ変更するための運転操作を支援できる。
【0014】
また、本発明の他の態様に係る運転支援装置において、
前記運転支援は、自車両を減速させる減速支援を含み、
前記制御装置は、前記自車両の速度(vs)が所定の目標値(vsth)を超えている場合に、前記減速支援を開始する。
【0015】
これによれば、自車両が交差点を安全に右折又は左折することができるように、自車両の速度を調整することができる。
【0016】
なお、従来装置において、第1状況から第2状況へ遷移した際、運転者が従来装置による運転支援を希望する場合には、当該運転者は、所定の操作を実行する(例えば、押しボタン式スイッチを押す)必要がある。このように、従来装置において、上記の操作子を設けているので、従来装置の部品コストが高い。また、当該操作が煩雑である。これに対し、本発明によれば、第1時点から所定の時点まで、運転支援を開始可能な状態が保持される。すなわち、上記のような操作子を設ける必要が無いので、運転支援装置の部品コストを低減できる。また、上記のような煩雑な操作が不要である。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係る運転支援装置のブロック図である。
【
図2】
図2は、自車両が交差点の手前から直進する例を示す平面図である。
【
図3】
図3は、自車両が交差点の手前にて車線変更した例を示す平面図である。
【
図4】
図4は、フラグを設定するプログラムのフローチャートである。
【
図5】
図5は、制動制御を開始するプログラムのフローチャートである。
【
図6】
図6は、従来装置が運転支援可能な状態(A)から運転支援不能な状態(B)へ遷移した場面を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(概略)
図1に示したように、本発明の一実施形態に係る運転支援装置1は、自動運転機能を備えた車両V(以下、「自車両」と称呼する。)に搭載される。運転支援装置1は、交差点の手前の所定の領域において、自車両の駆動装置、制動装置、ステアリング装置、情報提示装置など(以下、「駆動装置等」と称呼する。)を制御して、運転者による右折又は左折のための運転操作を支援する機能を有する。
【0019】
(具体的構成)
図1に示したように、運転支援装置1は、運転支援ECU10及び車載センサ20を備えている。
【0020】
運転支援ECU10は、CPU10a、ROM10b、RAM10c、タイマー10dなどを備えたマイクロコンピュータを含む。
【0021】
運転支援ECU10は、CAN(Controller Area Network)を介して、他のECU(例えば、制動装置のECU)に接続されている。
【0022】
車載センサ20は、自車両の周囲に存在する物標に関する情報を取得するセンサを含む。例えば、車載センサ20は、路面の白線、ガードレール、信号機などに関する情報を取得するセンサを含む。
【0023】
具体的には、車載センサ20は、レーダセンサ21、超音波センサ22、カメラ23、及びナビゲーションシステム24を含む。
【0024】
レーダセンサ21は、送受信部と信号処理部(図示略)とを備えている。送受信部が、ミリ波帯の電波(以下、「ミリ波」と称呼する。)を自車両の周辺領域に放射し、放射範囲内に存在する立体物によって反射されたミリ波(反射波)を受信する。信号処理部は、送受信部がミリ波を放射してから反射波を受信するまでの時間、送信したミリ波と受信した反射波との位相差、反射波の減衰レベルなどに基づいて、自車両と立体物との距離、自車両と立体物との相対速度、自車両に対する立体物の相対位置(方向)などを演算して、当該演算結果を運転支援ECU10に送信する。
【0025】
超音波センサ22は、超音波を間欠的に自車両の周辺領域に放射し、立体物によって反射された超音波(反射波)を受信する。超音波センサ22は、超音波を送信してから反射波を受信するまでの時間に基づいて、自車両と立体物との相対速度、自車両に対する立体物の相対位置(方向)等を演算して、当該演算結果を運転支援ECU10に送信する。
【0026】
カメラ23は、撮像装置及び画像解析装置を含む。撮像装置は、例えば、CCD(charge coupled device)或いはCIS(CMOS image sensor)の撮像素子を内蔵するデジタルカメラである。撮像装置は、フロントウインドシールドガラスの上部に設置されている。撮像装置は、所定のフレームレートで自車両の前景を撮影して、画像データを取得する。撮像装置は、画像データを画像解析装置に送信する。画像解析装置は、取得した画像データを解析して、その画像から自車両の前方に位置する物標に関する情報を取得する。例えば、画像解析装置は、路面に描画された、区画線、停止線、横断歩道、交差点に設置された信号機などを認識し、当該認識結果を、運転支援ECU10に送信する。
【0027】
ナビゲーションシステム24は、複数の人工衛星から受信したGPS信号に基づいて、自車両の現在地(緯度及び経度)を検出する。また、ナビゲーションシステム24は、地図を表す地図データ(道路情報)を記憶している。ナビゲーションシステム24は、地図上における自車両の位置を表すデータを、運転支援ECU10に送信する。
【0028】
車載センサ20は、さらに、自車両の走行状態(速度、加速度)に関する情報、及び自車両が備える操作子の操作態様に関する情報を取得するセンサを含む。
【0029】
具体的には、車載センサ20は、速度センサ25、加速度センサ26、アクセルペダルセンサ27、ブレーキペダルセンサ28、シフトレバーセンサ29、ステアリングセンサ2a、及び方向指示レバーセンサ2bを含む。
【0030】
速度センサ25は、各車輪の回転速度(車輪速度)を検出し、各車輪の車輪速度に基づいて自車両の速度vs(実車速)を演算する。速度センサ25は、速度vsを表すデータを運転支援ECU10に送信する。
【0031】
加速度センサ26は、車両Vの加速度G(例えば、自車両の車幅方向の加速度、前後方向の加速度など)を検出する。加速度センサ26は、加速度Gを表すデータを運転支援ECU10に送信する。
【0032】
アクセルペダルセンサ27は、自車両のアクセルペダル(不図示)の踏み込み深さADを検出する。アクセルペダルセンサ27は、アクセルペダルの踏み込み深さADを表すデータを運転支援ECU10に送信する。
【0033】
ブレーキペダルセンサ28は、自車両のブレーキペダル(不図示)の踏み込み深さBDを検出する。ブレーキペダルセンサ28は、踏み込み深さBDを表すデータを運転支援ECU10に送信する。
【0034】
シフトレバーセンサ29は、自車両のシフトレバー(不図示)のポジション(シフトレバーポジションSP)を検出する。シフトレバーセンサ29は、シフトレバーポジションSPを表すデータを運転支援ECU10に送信する。
【0035】
ステアリングセンサ2aは、自車両のステアリングホイールの操舵角(舵角又は転舵角とも称呼される)θを検出する。ステアリングセンサ2aは、操舵角θを表すデータを運転支援ECU10に送信する。
【0036】
方向指示レバーセンサ2bは、方向指示器に組み込まれるスイッチ装置(以下、「右ターンスイッチ」、「左ターンスイッチ」と称呼する。)を含む。方向指示器のレバーが中立位置にある場合、左ターンスイッチ及び右ターンスイッチはオフ状態である。運転者は、自車両を右方向へ進行させる場合、当該レバーを中立位置から所定方向へ倒す。これにより、右ターンスイッチがオン状態になる。なお、この場合、左ターンスイッチはオフ状態のままである。一方、運転者は、自車両を左方向へ進行させる場合、当該レバーを中立位置から前記所定方向とは反対方向へ倒す。これにより、左ターンスイッチがオン状態になる。なお、この場合、右ターンスイッチはオフ状態のままである。運転支援ECU10は、右ターンスイッチ及び左ターンスイッチのオン・オフ状態を監視している。
【0037】
(作動)
運転支援ECU10は、以下説明するように、交差点にて自車両を右折させるための運転操作及び左折させるための運転操作をそれぞれ支援する右折支援制御及び左折支援制御を実行する機能を備える。右折支援制御及び左折支援制御は、自車両を減速させる(速度vsを調整する)ための制動制御を含む。なお、運転支援ECU10は、右折支援制御及び左折支援制御として、操舵を支援する操舵制御、所定の警告を提示する警告制御などを実行してもよい。
【0038】
<右折支援制御>
運転支援ECU10は、レーダセンサ21,カメラ23、ナビゲーションシステム24などから取得した情報(以下、「周辺情報」と称呼する。)に基づいて、自車両が交差点の手前の所定の領域X(交差点の中心までの距離が閾値以下である領域)内を走行しているか否かを逐次判定する。
【0039】
運転支援ECU10は、自車両が領域X内を走行していると判定した場合、周辺情報に基づいて、自車両が走行している走行レーンL0に隣接する走行レーンが存在しているか否かを判定する。そして、運転支援ECU10は、走行レーンL0の右側に隣接する走行レーンの存否に応じて、フラグFRの値を設定する。ここで、フラグFRは、「運転支援ECU10が右折のための制動制御を開始可能であるか否か」を表す。フラグFRが「1」である場合、運転支援ECU10は、右折のための制動制御を開始可能である。フラグFRが「0」である場合、運転支援ECU10は、右折のための制動制御を開始不能である。
【0040】
運転支援ECU10は、走行レーンL0の右側に隣接する走行レーンが存在しないと判定した場合、フラグFRを「1」に設定する。一方、運転支援ECU10は、走行レーンL0の右側に隣接する走行レーンが存在すると判定した場合、フラグFRを「0」に設定する。
【0041】
ところで、
図2及び
図3に示したように、領域Xにおいて自車両が進行する過程で、走行レーンL0の右側に隣接する走行レーンが存在しない状況SR1から、走行レーンL0の右側に隣接する走行レーンが存在する状況SR2に遷移する場合がある。
【0042】
図2に示した例では、自車両は、状況SR1及び状況SR2において、同一の走行レーンを走行している。すなわち、状況SR1から状況SR2に遷移する過程において、車線変更が実行されていない。この例の状況SR1において、運転支援ECU10は、フラグFRを「1」に設定する。そして、状況SR1から状況SR2に遷移した時点t1(状況SR1と状況SR2の境界)からの経過時間Tが閾値Tthに達した時点t2まで、フラグFRを「1」に保持する。そして、運転支援ECU10は、時点t2にて、フラグFRを「0」に遷移させる。
【0043】
一方、
図3に示した例では、自車両が左側の走行レーンへ車線変更することに起因して、状況SR1から状況SR2に遷移している。この例の状況SR1において、運転支援ECU10は、フラグFRを「1」に設定する。そして、運転支援ECU10は、状況SR1から状況SR2に遷移した時点t1(車線変更が完了した時点)にて、即座に、フラグFRを「0」に遷移させる。なお、運転支援ECU10は、周辺情報に基づいて、自車両が車線変更したか否かを判定する。例えば、運転支援ECU10は、カメラ23から取得した白線の位置に関する認識結果、加速度センサ26から取得した加速度Gなどに基づいて、自車両が白線を跨いだか否かを判定し、自車両が白線を跨いだと判定したときには自車両が車線変更したと判断し、自車両が白線を跨いでいないと判定したときには自車両が車線変更していないと判断する。
【0044】
上記のように、車線変更が実行されることなく、走行レーンL0の右側の走行レーンの状況が、状況SR1から状況SR2に遷移した場合には、運転支援ECU10は、時点t1から一定時間が経過するまで、右折のための制動制御を開始可能な状態を保持する。一方、車線変更に起因して状況SR1から状況SR2に遷移した場合には、運転支援ECU10は、時点t1にて右折のための制動制御を開始不能な状態に遷移させる。なお、
図2及び
図3の例は状況SR1から状況SR2に遷移した例であるが、これとは逆に、状況SR2から状況SR1に遷移した場合には、運転支援ECU10は、その時点で、即座にフラグFRを「1」に設定する。
【0045】
領域Xにおいて、下記の条件A1及び条件A2が成立している場合、運転支援ECU10は、右折のための制動制御を開始する。すなわち、運転支援ECU10は、アクセルペダルの踏み込み深さAD、ブレーキペダルの踏み込み深さなどに基づいて、交差点内に進入する時点の速度vsを予測する。そして、運転支援ECU10は、当該予測値evsが所定の目標値vsth以下になるように、自車両の制動装置を制御する。
(A1) フラグFRが「1」である。
(A2) 右ターンスイッチがオン状態である。(方向指示器が右折を示している。)
【0046】
なお、運転支援ECU10は、上記の右折のための制動制御を実行中に条件A1及び条件A2のうちのいずれか一方又は両方が不成立になったとしても、自車両が交差点を通過するまで制動制御を続行する。ただし、運転者が所定の操作を実行した場合(例えば、運転者がアクセルペダルを大きく踏み込んだ場合)に、運転支援ECU10は、制動制御の実行を終了する。
【0047】
つぎに、
図4及び
図5を参照して、運転支援ECU10のCPU10a(以下、単に「CPU」と称呼する。)の動作(右折のための制動制御を開始する動作を実現するプログラムPR1及びプログラムPR2)を具体的に説明する。自車両のイグニッションスイッチがオン状態にあるとき、CPUは、所定の周期で、当該プログラムPR1,PR2を実行する。
【0048】
(プログラムPR1)
CPUは、ステップ100からプログラムPR1の実行を開始し、ステップ101に進む。
【0049】
CPUは、ステップ101に進むと、自車両が領域X内を走行中であるか否かを判定する。自車両が領域Xを走行中である場合(101:Yes)、CPUは、ステップ102に進む。一方、自車両が領域X内を走行中ではない場合(101:No)、CPUは、ステップ109に進み、プログラムPR1の実行を終了する。
【0050】
CPUは、ステップ102に進むと、走行レーンL0の右側に隣接する走行レーンが存在しない状況であるか否かを判定する。走行レーンL0の右側に隣接する走行レーンが存在しない場合(102:Yes)、CPUは、ステップ103に進む。一方、走行レーンL0の右側に隣接する走行レーンが存在する場合(102:No)、CPUは、ステップ104に進む。
【0051】
CPUは、ステップ103に進むと、フラグFRを「1」に設定し、ステップ109に進む。
【0052】
CPUは、ステップ102からステップ104に進むと、フラグFRが「1」であるか否かを判定する。フラグFRが「1」である場合(104:Yes)、CPUは、ステップ105に進む。一方、フラグFRが「0」である場合、CPUは、ステップ109に進む。
【0053】
CPUは、ステップ105に進むと、車線変更が実行されることなく状況SR1から状況SR2に遷移したか否かを判定する。車線変更が実行されていない場合(105:Yes)、CPUは、ステップ106に進む。一方、車線変更が実行された場合(105:No)、CPUは、後述するステップ108に進む。
【0054】
CPUは、ステップ106に進むと、経過時間Tの計測を開始し、ステップ107に進む。
【0055】
CPUは、ステップ107に進むと、経過時間Tが閾値Tthを超えたか否かを判定する。経過時間Tが閾値Tthを超えた場合(107:Yes)、CPUは、ステップ108に進む。一方、経過時間Tが閾値Tth以下である場合(107;No)、CPUは、ステップ107に戻る。また、ステップ107において、自車両が交差点を通過した場合、CPUは、ステップ108に進む。
【0056】
CPUは、ステップ108に進むと、フラグFRを「0」に設定し、ステップ109に進む。
【0057】
(プログラムPR2)
CPUは、ステップ200からプログラムPR2の実行を開始し、ステップ201に進む。
【0058】
CPUは、ステップ201に進むと、フラグFRが「1」であるか否かを判定する。フラグFRが「1」である場合(201:Yes)、CPUは、ステップ202に進む。一方、フラグFRが「0」である場合(201:N0)、CPUはステップ206に進み、プログラムPR2の実行を終了する。
【0059】
CPUは、ステップ202に進むと、方向指示器が右折を示しているか否かを判定する。方向指示器が右折を示している場合(202:Yes)、CPUは、ステップ203に進む。一方、方向指示器が右折を示していない場合(202:No)、CPUは、ステップ206に進み、プログラムPR2の実行を終了する。
【0060】
CPUは、ステップ203に進むと、速度vsの予測値evsが目標値vsthを超えているか否かを判定する。予測値evsが目標値vsthを超えている場合(203:Yes)、CPUは、ステップ204に進む。一方、予測値evsが目標値vsth以下である場合(203:No)、CPUは、ステップ206に進む。
【0061】
CPUは、ステップ204に進むと、制動制御を停止中であるか否かを判定する。制動制御を停止中である場合(204:Yes)、CPUは、ステップ205に進む。一方、制動制御を実行中である場合(204:No)、CPUは、ステップ206に進む。
【0062】
CPUは、ステップ205に進むと、制動制御を開始し、ステップ206に進む。
【0063】
<左折支援制御>
つぎに、左折支援制御について説明する。右折支援制御と左折支援制御との相違点は、左右の方向が反対であるという点だけである。そこで、以下、当該相違点を主に説明し、両制御に共通する動作の説明を省略する。
【0064】
運転支援ECU10は、領域Xにおいて、走行レーンL0の左側に隣接する走行レーンの存否に応じて、フラグFL(「運転支援ECU10が左折のための制動制御を開始可能であるか否か」を表すフラグ)の値を設定する。
【0065】
また、領域Xにおいて、運転支援ECU10は、フラグFRを設定する手法と同様の手法で、フラグFLを設定する。
図2に示した例では、走行レーンL0の左側の走行レーンの存否に関する状況は変化していない。すなわち、この例では、走行レーンL0の左側の状況は、状況SL1のまま変化しない。よって、この場合、運転支援ECU10は、フラグFLを「1」に保持する。また、
図3に示した例では、走行レーンL0の左側の状況は、状況SL2から状況SL1に遷移している。この場合、運転支援ECU10は、状況SL2から状況SL1に遷移した時点で、即座にフラグFLを「1」に設定する。
【0066】
領域Xにおいて、下記の条件B1及び条件B2が成立している場合、運転支援ECU10は、制動制御を開始する。
(B1) フラグFLが「1」である。
(B2) 左ターンスイッチがオン状態である。(方向指示器が左折を示している。)
【0067】
なお、運転支援ECU10は、上記の左折のための制動制御を実行中に条件B1及び条件B2のうちのいずれか一方又は両方が不成立になったとしても、自車両が交差点を通過するまで制動制御を続行する。ただし、運転者が所定の操作を実行した場合(例えば、運転者がアクセルペダルを大きく踏み込んだ場合)に、運転支援ECU10は、制動制御の実行を終了する。
【0068】
(プログラムPL1,PL2)
CPUは、
イグニッションスイッチがオン状態にあるとき、所定の周期で、上記の左折のための制動制御を開始する動作を実現するプログラムPL1,PL2を実行する。
図4及び
図5に示したように、プログラムPL1,PL2とプログラムPR1,PR2との相違点は、左右の方向が反対であるという点だけである。そのため、プログラムPL1,PL2の詳細な説明を省略する。
【0069】
(効果)
上記のように、本実施形態に係る運転支援装置1が適用された車両において、車線変更が実行されることなく状況SR1(SL1)から状況SR2(SL2)に遷移した場合に、その時点t1から一定の時間が経過するまで、減速制御(運転支援)を開始可能な状態が保持される。例えば、自車両が比較的高速で走行していて、右折専用レーンに進入するタイミングが少し遅れたとしても、安全に右折可能なように減速制御が開始される。よって、本実施形態によれば、時点t1において即座に減速制御を開始不能な状態へ遷移させる装置に比べて、交差点を走行する際の安全性を向上させることができる。また、従来装置のような、運転者が減速制御(運転支援)を要求するための操作子が不要であるので、運転支援装置1の部品コストを低減できる。また、従来装置のような煩雑な操作が不要である。
【0070】
本発明は上記実施形態に限定されることはなく、以下に述べるように、本発明の範囲内において種々の変形例を採用することができる。
【0071】
<変形例1>
時点t2における自車両と交差点との距離Lが閾値Lth以下である場合、運転支援ECU10は、当該時点t2から、さらに所定の時間が経過する時点t3まで減速制御(運転支援)を開始可能な状態を保持してもよい。また、運転支援ECU10は、時点t2から、自車両が交差点を通過するまで、減速制御(運転支援)を開始可能な状態を保持してもよい。
【0072】
<変形例2>
運転支援ECU10は、周辺情報(道路標識、路面に描画された矢印など)に基づいて、走行レーンL0が右折又は左折が許容された専用レーン(「右折及び直進が許容された走行レーン」、「左折及び直進が許容されたレーン」を含む。)であるか否かを認識してもよい。運転支援ECU10は、走行レーンL0が右折専用レーン(左折専用レーン)であることを認識している状況において、走行レーンL0の右側(左側)の状況に関わらず、右折(左折)のための運転支援を実行可能な状態(FR=1(FL=1))を保持するとよい。
【0073】
<変形例3>
上記の運転支援装置1は、時点t1から一定の時間が経過するまで、減速制御(運転支援)を開始可能な状態を保持する。これに代えて、運転支援装置1は、時点t1から自車両の走行共距離が所定の距離に達するまで、減速制御を開始可能な状態を保持してもよい。
【符号の説明】
【0074】
1…運転支援装置、10…運転支援ECU、20…車載センサ