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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/04 20060101AFI20250527BHJP
   H01M 4/139 20100101ALI20250527BHJP
【FI】
H01M4/04 Z
H01M4/139
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022126883
(22)【出願日】2022-08-09
(65)【公開番号】P2024024214
(43)【公開日】2024-02-22
【審査請求日】2023-12-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(72)【発明者】
【氏名】石塚 正浩
(72)【発明者】
【氏名】蛭川 智史
(72)【発明者】
【氏名】増田 祐樹
【審査官】山口 大志
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-024861(JP,A)
【文献】国際公開第2021/140747(WO,A1)
【文献】特開平10-050300(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1方向に長手方向を有する金属箔と、前記金属箔上に配置された、塗工部および未塗工部と、を有する前駆体シートを準備する、準備工程と、
前記前駆体シートを前記第1方向に搬送しながら、前記塗工部を、厚さ方向にプレスする、塗工部プレス工程と、
前記塗工部プレス工程の前または後に、前記前駆体シートを前記第1方向に搬送しながら、前記未塗工部を、前記厚さ方向にプレスする、未塗工部プレス工程と、
を有し、
前記塗工部は、少なくとも活物質を含む電極材料を含有し、
前記未塗工部は、前記電極材料を含有せず、かつ、前記第1方向と直交する方向における前記塗工部の端部に配置され、
前記未塗工部プレス工程において、軸体と、前記軸体を覆う、ゴムまたは樹脂である弾性体とを有する、一対の弾性ロールを用いて、前記未塗工部を前記厚さ方向に押し付ける圧縮力を付与しつつ、ロールプレスし、
前記ロールプレスの際に、前記未塗工部に付与される変形力が一定となるように、搬送速度に応じて、(i)前記圧縮力、および、(ii)前記一対の弾性ロールのギャップ、のなくとも一方を調整する、電極の製造方法。
【請求項2】
前記圧縮力を調整する場合において、第1搬送速度をVとし、前記Vにおける前記圧縮力をCとし、基準搬送速度をVとし、前記Vにおける前記圧縮力をCとし、前記Vが前記Vより小さい場合に、前記Cを前記Cより小さい状態とする、請求項1に記載の電極の製造方法。
【請求項3】
前記圧縮力を調整する場合において、(i-A)前記Vが前記Vまで増加する挙動に対応して、前記Cを前記Cまで増加させる、および、(i-B)前記Vが前記Vから減少する挙動に対応して、前記Cを前記Cから減少させる、の少なくとも一方を行う、請求項2に記載の電極の製造方法。
【請求項4】
前記一対の弾性ロールのギャップを調整する場合において、第1搬送速度をVとし、前記Vにおける前記ギャップをGとし、基準搬送速度をVとし、前記Vにおける前記ギャップをGとし、前記Vが前記Vより小さい場合に、前記Gを前記Gより大きい状態とする、請求項1に記載の電極の製造方法。
【請求項5】
前記一対の弾性ロールのギャップを調整する場合において、(ii-A)前記Vが前記Vまで増加する挙動に対応して、前記Gを前記Gまで減少させる、および、(ii-B)前記Vが前記Vから減少する挙動に対応して、前記Gを前記Gから増加させる、の少なくとも一方を行う、請求項4に記載の電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電極の製造方法として、長尺の金属箔上に電極合材を塗布したシートを圧延する方法が知られている。例えば、特許文献1には、電極活物質が塗布された塗工部と、電極活物質が塗布されていない未塗工部とを有する電池用電極のプレス方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5760366号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、塗工部と未塗工部とを有するシートをプレスする際に、しわが発生しないよう、塗工部と未塗工部とを個別にプレスして伸び差を調整する場合がある。また、未塗工部をプレスする際に破断が生じないよう、弾性ロールを用いて未塗工部をロールプレスする場合がある。
【0005】
本発明者らは、弾性ロールを用いた場合、ロールプレスにおける搬送速度によって、未塗工部の伸び率に差が生じる場合があることを知見した。未塗工部の伸び率に差が生じると、不均一な伸び率に伴う歩留まり低下が生じやすくなる。本開示は、上記実情に鑑みてなされたものであり、未塗工部における伸び率を均一化可能な電極の製造方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
[1]
第1方向に長手方向を有する金属箔と、上記金属箔上に配置された、塗工部および未塗工部と、を有する前駆体シートを準備する、準備工程と、上記前駆体シートを上記第1方向に搬送しながら、上記塗工部を、厚さ方向にプレスする、塗工部プレス工程と、上記塗工部プレス工程の前または後に、上記前駆体シートを上記第1方向に搬送しながら、上記未塗工部を、上記厚さ方向にプレスする、未塗工部プレス工程と、を有し、上記塗工部は、少なくとも活物質を含む電極材料を含有し、上記未塗工部は、上記電極材料を含有せず、かつ、上記第1方向と直交する方向における上記塗工部の端部に配置され、上記未塗工部プレス工程において、軸体と、上記軸体を覆う弾性体とを有する、一対の弾性ロールを用いて、上記未塗工部を上記厚さ方向に押し付ける圧縮力を付与しつつ、ロールプレスし、上記ロールプレスの際に、上記未塗工部に付与される変形力が一定となるように、搬送速度に応じて、(i)上記圧縮力、および、(ii)上記一対の弾性ロールのギャップ、の少なくとも一方を調整する、電極の製造方法。
【0007】
[2]
上記圧縮力を調整する場合において、第1搬送速度をVとし、上記Vにおける上記圧縮力をCとし、基準搬送速度をVとし、上記Vにおける上記圧縮力をCとし、上記Vが上記Vより小さい場合に、上記Cを上記Cより小さい状態とする、[1]に記載の電極の製造方法。
【0008】
[3]
上記圧縮力を調整する場合において、(i-A)上記Vが上記Vまで増加する挙動に対応して、上記Cを上記Cまで増加させる、および、(i-B)上記Vが上記Vから減少する挙動に対応して、上記Cを上記Cから減少させる、の少なくとも一方を行う、[2]に記載の電極の製造方法。
【0009】
[4]
上記一対の弾性ロールのギャップを調整する場合において、第1搬送速度をVとし、上記Vにおける上記ギャップをGとし、基準搬送速度をVとし、上記Vにおける上記ギャップをGとし、上記Vが上記Vより小さい場合に、上記Gを上記Gより大きい状態とする、[1]に記載の電極の製造方法。
【0010】
[5]
上記一対の弾性ロールのギャップを調整する場合において、(ii-A)上記Vが上記Vまで増加する挙動に対応して、上記Gを上記Gまで減少させる、および、(ii-B)上記Vが上記Vから減少する挙動に対応して、上記Gを上記Gから増加させる、の少なくとも一方を行う、[4]に記載の電極の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本開示においては、未塗工部における伸び率を均一化した電極を製造できるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本開示における電極の製造方法を例示するフロー図である。
図2】本開示におけるメカニズムを説明する図である。
図3】本開示における前駆体シートを例示する概略平面図である。
図4】本開示における未塗工部プレス工程について説明する図である。
図5】本開示における未塗工部プレス工程における調整を例示する図である。
図6】実験例1および実験例2の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本開示における電極の製造方法について、詳細に説明する。ここで、本明細書において、ある部材に対して他の部材を配置する態様を表現するにあたり、単に「上に」と表記する場合、特に断りの無い限りは、ある部材に接するように、直上に他の部材を配置する場合と、ある部材の上方に、別の部材を介して他の部材を配置する場合との両方を含む。
【0014】
図1は、本開示における電極の製造方法の一例を示すフロー図である。図1においては、まず、第1方向に長手方向を有する金属箔と、上記金属箔上に配置された、塗工部および未塗工部と、を有する前駆体シートを準備する(準備工程)。上記塗工部は、少なくとも活物質を含む電極材料を含有する。また、上記未塗工部は、上記電極材料を含有せず、かつ、上記第1方向と直交する方向における上記塗工部の端部に配置されている。次いで、上記前駆体シートを上記第1方向に搬送しながら、上記塗工部を、厚さ方向にプレスする(塗工部プレス工程)。そして、上記前駆体シートを上記第1方向に搬送しながら、上記未塗工部を、上記厚さ方向にプレスする(未塗工部プレス工程)。なお、図1では未塗工部プレス工程を、塗工部プレス工程の後に行っているが、塗工部プレス工程の前に行ってもよい。また、上記未塗工部プレス工程において、軸体と、上記軸体を覆う弾性体とを有する、一対の弾性ロールを用いて、上記未塗工部を上記厚さ方向に押し付ける圧縮力を付与しつつ、ロールプレスする。上記ロールプレスの際に、上記未塗工部に付与される変形力が一定となるように、搬送速度に応じて、(i)上記圧縮力、および、(ii)上記一対の弾性ロールのギャップ、の少なくとも一方を調整する。
【0015】
本開示によれば、所定の弾性ロールを用いて未塗工部をロールプレスし、かつ、ロールプレスの際に、上記未塗工部に付与される変形力が一定となるように、搬送速度に応じて、(i)上記圧縮力、および、(ii)上記一対の弾性ロールのギャップの少なくとも一方を調整するため、未塗工部における伸び率を均一化した電極を製造することができる。すなわち、搬送速度と同期するように、ロールギャップまたはロール圧力を変動させることで、搬送速度に依らず、均一な伸び率を有する未塗工部が形成される。
【0016】
電極の製造方法として、金属箔(集電箔)上に電極合材が塗布された前駆体シートをプレスする方法が知られている。また、電極合材の有無により金属箔の塗工部と未塗工部においてはプレス後に伸び率の差が生じてしまい、電極にしわが生じる恐れがある。この点に関し、上述の特許文献1のように、塗工部と未塗工部とを個別にプレスしてしわの発生を抑制している。また、未塗工部(金属箔)のプレスにおいては、一対の弾性ロールを用いて、厚さ方向に押し付ける圧縮力を付与しつつ、ロールプレスする場合がある。このようなロールプレスを行うことで、未塗工部に対して、上記圧縮力とともに、弾性体の変形に起因する変形力を付与することができる。これにより、例えば未塗工部の破断を効果的に防止できる。
【0017】
ここで、金属箔には、一般的に、金属箔の材料よりも硬い硬質組織が介在物として含まれている。硬質組織を含めることで、例えば金属箔の強度を高めることができる。金属箔を延伸させるための引張り力(水平方向の力)を加えると、硬質組織は変形しないものの、硬質組織よりも柔らかい周囲の金属箔が変形する。その結果、硬質組織の周囲にボイドが形成される。そして、複数のボイド同士が連結すると、破断が生じやすくなる。これに対して、本開示においては、一対の弾性ロールを用いて、厚さ方向に押し付ける圧縮力を付与しつつ、ロールプレスする。これにより、未塗工部に対して、上記圧縮力とともに、弾性体の変形に起因する変形力を付与することができる。その結果、硬質組織の周囲にボイドが発生することを抑制できると考えられる。上記圧縮力は、厚さ方向の力に該当し、上記変形力は、厚さ方向に直交する方向の力に該当する。すなわち、上記変形力は、引張り力と同様の方向に働き、引張り力と同様に金属箔を延伸させる力である。
【0018】
本開示においては、図2(a)に示すように、未塗工部3に対して、一対の弾性ロール20A、20Bを用いて、厚さ方向に押し付ける圧縮力を付与しつつ、ロールプレスする。ここで、図2(b)に示すように、ロールプレスにおける搬送速度は、例えば、停止から加工速度まで増加し(加速区間)、その後、加工速度のまま維持され(一定区間)、その後、加速速度から停止まで低下する(減速区間)。また、弾性ロール20における弾性体22の変形量は、搬送速度に依存するため、加速区間および減速区間では、一定区間に比べて、未塗工部3の伸び率が異なる。具体的には、加速区間および減速区間では、一定区間に比べて、未塗工部に付与される変形力が大きくなるため、未塗工部3が伸びやすい。その結果、不均一な伸び率に伴う歩留まり低下が生じやすくなる。
【0019】
これに対して、本開示においては、未塗工部に付与される変形力が一定となるように、搬送速度に応じて、(i)上記一対の弾性体ロールにより付与される圧縮力、および、(ii)上記一対の弾性ロールのギャップ、の少なくとも一方を調整する。例えば、加速区間および減速区間では、一定区間に比べて、一対の弾性体ロールにより付与される圧縮力を小さく調整する。あるいは、加速区間および減速区間では、一定区間に比べて、一対の弾性ロールのギャップを大きく調整する。これにより、例えば、加速区間および減速区間における未塗工部の伸び率と、一定区間における未塗工部の伸び率との差が小さくなり、未塗工部における伸び率を均一化できる。
【0020】
1.準備工程
本開示における準備工程は、第1方向に長手方向を有する金属箔と、上記金属箔上に配置された、塗工部および未塗工部と、を有する前駆体シートを準備する工程である。
【0021】
図3は、準備工程で準備する前駆体シートを例示する概略平面図である。図3に示されるように、前駆体シート10は、第1方向Dに長手方向を有する金属箔1と、塗工部2と、未塗工部3と、を有している。
【0022】
金属箔の材料としては、電池の集電体の材料として用いられる金属を挙げることができる。詳しくは「4.電極」に記載する。金属箔の厚さは、例えば1μm以上であり、10μm以上であってもよい。一方、金属箔の厚さは、例えば100μm以下である。
【0023】
前駆体シートの塗工部は、少なくとも活物質を含む電極材料を含有する。また、塗工部は、金属箔上に配置されている。塗工部は、後述する塗工部プレス工程を経て電極層となる。
【0024】
電極材料は、少なくとも活物質を含有する。また、電極材料は、必要に応じて、固体電解質、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有してもよい。活物質、導電材およびバインダーについては、「4.電極」に記載する。
【0025】
塗工部は、厚さ方向において、金属箔の第1面上のみに配置されていてもよく、第1面上と、第1面とは反対側の第2面上との両方に配置されていてもよい。
【0026】
塗工部は、金属箔の第1方向に沿って配置されていることが好ましい。また、塗工部は、図3に示されるように、金属箔1の第1方向Dに沿って連続的に配置されていてもよい。一方、塗工部1は、金属箔1の第1方向Dに沿って間欠的に配置されていてもよい。
【0027】
塗工部の厚さは特に限定されず、所望の電極サイズに応じて適宜調整することができる。塗工部の厚さは、例えば0.2mm以上であり、0.3mm以上であってもよく、0.5mm以上であってもよい。一方、塗工部の厚さは、例えば1.5mm以下であり、1.0mm以下であってもよく、0.6mm以下であってもよい。
【0028】
塗工部の幅(金属箔の第1方向に直交する方向の長さ)は特に限定されず、所望の電極サイズに応じて適宜調整することができる。金属箔の幅に対する塗工部の幅の割合は、例えば30%以上であり、50%以上であってもよく、70%以上であってもよい。また、上記割合は、例えば90%以下であり、80%以下であってもよい。
【0029】
未塗工部は、金属箔上に配置されている。また、未塗工部は、通常、塗工部が配置された金属箔の面と同一の面上に配置されている。未塗工部は、例えば、金属箔が露出した部分である。図3に示すように、本開示における未塗工部3は、金属箔1の第1方向Dと直交する方向における塗工部2の端部に配置されている。
【0030】
未塗工部の幅(金属箔の第1方向に直交する方向の長さ)は特に限定されず、所望の電極サイズに応じて適宜調整することができる。金属箔の幅に対する未塗工部の幅の割合は、例えば3%以上であり、5%以上であってもよい。一方、上記割合は、例えば20%以下であり、10%以下であってもよい
【0031】
前駆体シートは、例えば、金属箔に、分散媒を含有する電極材料を塗工して、乾燥することで準備することができる。分散媒としては、例えば、酪酸ブチル、ジブチルエーテル、ヘプタン等の有機溶媒が挙げられる。電極材料の塗工方法は特に限定されず、一般的な塗工方法が挙げられる。また、乾燥温度は、分散媒が揮発する温度であれば特に限定されない。
【0032】
準備工程で準備される前駆体シートは、例えば、図3に示すような、平面視上、1列の塗工部2と、塗工部2の両端部に配置された2列の未塗工部3とを、ストライプ状に有する前駆体シート10であってもよい。また、図示しないが、前駆体シートは、平面視上、N列(Nは2以上の整数)の塗工部と、N列の塗工部それぞれの両端部に配置された未塗工部を有するシートであってもよい。この場合、未塗工部の列数は、N+1列である。
【0033】
2.塗工部プレス工程
塗工部プレス工程は、上記前駆体シートを上記第1方向に搬送しながら、上記塗工部を、厚さ方向にプレスする工程である。塗工部プレス工程は、後述する未塗工部プレス工程の前に行ってもよく、後に行ってもよい。
【0034】
塗工部プレス工程の方法および条件は、塗工部をプレスして延伸できれば特に限定されない。プレス方法としては、例えば、塗工部をロールプレスするロールプレス方法を挙げることができる。例えば、一対のプレスロールの間に前駆体シートを通過させつつ、プレスロールを前駆体シートの厚さ方向の両面に押しつけることで、塗工部をプレスすることができる。
【0035】
塗工部プレス工程における圧縮力は特に限定されないが、後述する未塗工部プレス工程における圧縮力よりも大きいことが好ましい。前駆体シートの塗工部では、分散媒を含有する電極材料(スラリー)により濡れることでしわが生じることがあり、このしわを伸ばすために、大きな延伸力を必要となるからである。
【0036】
3.未塗工部プレス工程
未塗工部プレス工程は、軸体と、上記軸体を覆う弾性体とを有する、一対の弾性ロールを用いて、上記未塗工部を上記厚さ方向に押し付ける圧縮力を付与しつつ、ロールプレスする工程である。
【0037】
ここで、未塗工部プレス工程について図を用いて説明する。図4(a)は、未塗工部プレス工程を金属箔の幅方向から見た概略側面図である。図4(b)は、図4(a)を前駆体シートの厚さ方向(紙面上下方向)から見た概略平面図である。図4(c)は、図4(a)を前駆体シートの搬送方向(紙面左右方向)から見た概略正面図である。
【0038】
図4(a)および(c)に示すように、未塗工部プレス工程においては、前駆体シート10を第1方向Dに搬送しながら、所定の一対の弾性ロール20Aおよび20Bの間に前駆体シート10を通過させつつ、弾性ロール20Aおよび20Bを前駆体シートの厚さ方向の両面に押しつける圧縮力を付与しつつ、未塗工部3(金属箔1)をロールプレスする。
【0039】
弾性ロール20は、通常、軸体21の周囲に弾性体22が配置されたロール形状を有する。また、図4(c)に示されるように、弾性ロールはいわゆる段付きロールであり、未塗工部のみをプレスすることができる。ロール形状であれば、弾性ロールの軸体と弾性体とが連結しているため、シート形状に比べて、前駆体シートの搬送方向への弾性体の変形が抑制される。また、弾性体の変形方向が安定し、しわの発生をより抑制することができる。
【0040】
軸体の材料は特に限定されないが、弾性体よりも圧縮ヤング率が大きい材料が好ましい。軸体の材料は、例えば金属が挙げられる。
【0041】
弾性体は、弾性を有する部材であれば特に限定されないが、例えば、ゴム、ウレタン等の樹脂が挙げられる。
【0042】
弾性体は、所定の圧縮ヤング率を有することが好ましい。圧縮ヤング率は、例えば11.1MPa以上、86.1MPa以下である。圧縮ヤング率が低すぎると、弾性体の変形量が大きくなりすぎ、未塗工部に過剰な変形力が付与されるおそれがある。その結果、破断を十分に抑制することができないおそれがある。一方、圧縮ヤング率が高すぎると、弾性体の変形量が小さくなりすぎ、未塗工部に十分な変形力を付与できないおそれがある。
【0043】
また、本開示における未塗工部プレス工程では、上記ロールプレスの際に、上記未塗工部に付与される変形力が一定となるように、搬送速度に応じて、(i)上記圧縮力、および、(ii)上記一対の弾性ロールのギャップ、の少なくとも一方を調整する。「上記圧縮力」とは、ロールプレス時に、一対の弾性ロールが、前駆体シートに対して、厚さ方向に押し付ける力である。一方、「一対の弾性ロールのギャップ」とは、前駆体シートを挟む前における一対の弾性ロール間の距離(ロールギャップ)である。圧縮力およびロールギャップは、ロールプレス機の設定により、適宜調整される。また、未塗工部プレス工程において、未塗工部に付与される変形力は、上述した一定区間における変形力をPとした場合に、0.5P以上1.0P以下となるように調整されることが好ましい。
【0044】
圧縮力を調整する場合において、第1搬送速度をVとし、上記Vにおける上記圧縮力をCとし、基準搬送速度をVとし、上記Vにおける上記圧縮力をCとし、上記Vが上記Vより小さい場合に、上記Cを上記Cより小さい状態にすることが好ましい。第1搬送速度が基準搬送速度よりも小さい場合に、CをCより小さい状態にすることで、弾性体の変形量が小さくなり、未塗工部に付与される変形力も小さくなる。これにより、低速度による変形力の増大が抑制され、均一な伸び率を有する未塗工部が形成される。
【0045】
また、圧縮力を調整する場合において、(i-A)上記Vが上記Vまで増加する挙動に対応して、上記Cを上記Cまで増加させる、および、(i-B)上記Vが上記Vから減少する挙動に対応して、上記Cを上記Cから減少させる、の少なくとも一方を行うことが好ましい。例えば、図5(a)に示すように、第1搬送速度Vが基準搬送速度Vまで増加する区間(図左側のV<Vの区間、加速区間)においては、その挙動に合わせて、CをCまで連続的に増加させる。また、VとVが等しい区間(図中央のV1=Vの区間、一定区間)においては、CがCと等しくなるような調整を行う。そして、VがVから減少する区間(図右側のV<Vの区間、減速区間)においては、その挙動に合わせて、CをCから減少させる。
【0046】
また、圧縮力を調整する場合において、(i-A)のみ行ってもよく、(i-B)のみを行ってもよく、(i-A)および(i-B)の両方を行ってもよい。搬送速度(VおよびV)については特に限定されないが、例えば、1m/min以上、100m/min以下である。また、圧縮力(CおよびC)は特に限定されないが、例えば、10kgf/cm以上、100kgf/cm以下である。
【0047】
一対の弾性ロールのギャップを調整する場合において、第1搬送速度をVとし、上記Vにおける上記ギャップをGとし、基準搬送速度をVとし、上記Vにおける上記ギャップをGとする。上記Vが上記Vより小さい場合に、上記Gを上記Gより大きい状態にすることが好ましい。第1搬送速度が基準搬送速度よりも小さい場合に、GをGより大きい状態にすることで、弾性体の変形量が小さくなり、未塗工部に付与される変形力も小さくなる。これにより、低速度による変形力の増大が抑制され、均一な伸び率を有する未塗工部が形成される。
【0048】
また、上記一対の弾性ロールのギャップを調整する場合において、(ii-A)上記Vが上記Vまで増加する挙動に対応して、上記Gを上記Gまで減少させる、および、(ii-B)上記Vが上記Vから減少する挙動に対応して、上記Gを上記Gから増加させる、の少なくとも一方を行うことが好ましい。例えば、図5(b)に示すように、第1搬送速度Vが基準搬送速度Vまで増加する区間(図左側のV<Vの区間、加速区間)においては、その挙動に合わせて、GをGまで連続的に減少させる。また、VとVが等しい区間(図中央のV1=Vの区間、一定区間)においては、GがGと等しくなるような調整を行う。そして、第1搬送速度Vが基準搬送速度Vから減少する区間(図右側のV<Vの区間、減速区間)においては、その挙動に合わせて、GをGから増加させる。
【0049】
また、一対の弾性ロールのギャップの調整する場合において、(ii-A)のみ行ってもよく、(ii-B)のみを行ってもよく、(ii-A)および(ii-B)の両方を行ってもよい。ギャップ(GおよびG)については、特に限定されないが、例えば1μm以上、100μm以下である。
【0050】
4.電極
本開示の方法で製造される電極では、金属箔の少なくとも一方の面に電極層が形成されている。なお、電極層は、上記塗工部をプレスすることにより得られる層である。本開示の方法で製造される電極は、正極であってもよく、負極であってもよい。つまり、電極層は、正極層であってもよく、負極層であってもよい。
【0051】
金属箔は、典型的には、集電箔(集電体)として機能する。つまり、金属箔は、正極集電体であってもよく、負極集電体であってもよい。金属箔が正極集電体である場合、金属箔の材料としては、例えば、Al、SUS、Niが挙げられる。金属箔が負極集電体である場合、金属箔の材料としては、例えば、Cu、SUS、Niが挙げられる。
【0052】
電極層は、少なくとも活物質を含有する。電極層が正極層である場合、活物質は正極活物質である。正極活物質としては、典型的には、酸化物活物質が挙げられる。酸化物活物質としては、例えば、LiCoO、LiMnO、LiNiO、LiVO、LiNi1/3Co1/3Mn1/3等の岩塩層状型活物質、LiMn、Li(Ni0.5Mn1.5)O等のスピネル型活物質、LiFePO、LiMnPO、LiNiPO、LiCuPO等のオリビン型活物質が挙げられる。
【0053】
電極層が負極層である場合、活物質は負極活物質である。負極活物質としては、例えば、カーボン活物質、酸化物活物質および金属活物質を挙げることができる。カーボン活物質としては、例えば、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、高配向性グラファイト(HOPG)、ハードカーボンおよびソフトカーボン等を挙げることができる。酸化物活物質としては、例えば、Nb、LiTi12およびSiOを挙げることができる。金属活物質としては、例えば、In、Al、SiおよびSnを挙げることができる。
【0054】
また、電極層は、必要に応じて、導電材およびバインダーの少なくとも一つを含有していてもよい。
【0055】
導電材としては、例えば、炭素材料、金属粒子、導電性ポリマーが挙げられる。炭素材料としては、例えば、アセチレンブラック(AB)およびケッチェンブラック(KB)等の粒子状炭素材料;炭素繊維、カーボンナノチューブ(CNT)およびカーボンナノファイバー(CNF)等の繊維状炭素材料が挙げられる。また、バインダーとしては、例えば、ポリビニリデンフロライド(PVDF)およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素含有バインダー、ブタジエンゴム等のゴム系バインダーおよびアクリル系バインダーが挙げられる。
【0056】
本開示における電極の用途としては、例えばLiイオン電池が挙げられる。また、本開示における電池は、電解質層が液系電解質(電解液)を含有する液系電池であってもよい。また、本開示における電池の用途は、特に限定されないが、例えば、ハイブリッド自動車(HEV)、プラグインハイブリッド自動車(PHEV)、電気自動車(BEV)、ガソリン自動車、ディーゼル自動車等の車両の電源が挙げられる。特に、ハイブリッド自動車または電気自動車の駆動用電源に用いられることが好ましい。また、本開示における電池は、車両以外の移動体(例えば、鉄道、船舶、航空機)の電源として用いられてもよく、情報処理装置等の電気製品の電源として用いられてもよい。
【0057】
なお、本開示は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は、例示であり、本開示における特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本開示における技術的範囲に包含される。
【実施例
【0058】
[実験例1]
図3に示されるような前駆体シートを準備した。また、軸体の表面に弾性体が配置された弾性ロールを準備した。前駆体シートを第1方向に搬送しながら、弾性ロールを用いて未塗工部をプレスした。プレスは、弾性ロールの圧縮力を22kgf/cmまたは53kgf/cmとし、前駆体シートの搬送速度を変化させながら行った。結果を図6(a)に示す。
【0059】
図6(a)に示されるように、弾性ロールの圧縮力が小さい場合、大きい場合の両方とも、搬送速度が上昇すると未塗工部の伸び率が低下する傾向が確認された。これは、搬送速度が低速であるほど、弾性体の変形量が大きく(未塗工部に付与される変形力が大きく)、搬送速度が高速であるほど、弾性体の変形量が小さい(未塗工部に付与される変形力が小さい)ためであると考えられる。このことから、前駆体シートの搬送速度により、未塗工部の伸び率が変化することが確認された。
【0060】
[実験例2]
実験例1と同様に前駆体シートおよび弾性ロールを準備し、前駆体シートを第1方向に搬送しながら、弾性ロールを用いて未塗工部をプレスした。プレスは、弾性ロールの圧縮力を一定とし、ロールギャップを30mmから70mmまで変更させて行った。結果を図6(b)に示す。
【0061】
図6(b)に示されるように、ロールギャップが大きくなるほど、未塗工部の伸び率が低下していた。これは、ロールギャップが大きいほど、弾性体の変形量が小さく(未塗工部に付与される変形力が小さく)、ロールギャップが小さいほど、弾性体の変形量が大きい(未塗工部に付与される変形力が大きい)ためであると考えられる。このことから、弾性体の変形量(未塗工部に付与される変形力)は、ロールギャップにより調整できることが確認された。
【符号の説明】
【0062】
1 …金属箔
2 …塗工部
3 …未塗工部
10 …前駆体シート
21 …軸体
22 …弾性体
20 …弾性ロール
図1
図2
図3
図4
図5
図6