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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】車両
(51)【国際特許分類】
   H04W 76/18 20180101AFI20250527BHJP
   H04W 4/48 20180101ALI20250527BHJP
   H04W 8/18 20090101ALI20250527BHJP
【FI】
H04W76/18
H04W4/48
H04W8/18
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2022160966
(22)【出願日】2022-10-05
(65)【公開番号】P2024054627
(43)【公開日】2024-04-17
【審査請求日】2024-05-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003199
【氏名又は名称】弁理士法人高田・高橋国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】林 一成
【審査官】篠田 享佑
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第1997/033387(WO,A1)
【文献】特開2000-013469(JP,A)
【文献】特開2010-056897(JP,A)
【文献】特開2019-096949(JP,A)
【文献】国際公開第2020/090934(WO,A1)
【文献】特開2022-034417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00- 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載装置と、
モデムを含み、前記車載装置に接続され、基地局と無線通信を行う通信機と、
を備える車両であって、
前記車載装置及び前記通信機は、前記車両の電源起動に伴ってハンドシェイクを実行するように構成され、
前記車載装置は、前記ハンドシェイクが失敗した場合にダイアグ情報を生成するように構成され、
前記通信機は、前記基地局からの特定の拒否理由に応じた前記モデムのリセットを許可する第1モードと、前記特定の拒否理由に応じた前記モデムのリセットを禁止する第2モードと、を切り替え可能に構成されている
車両。
【請求項2】
車載装置と、前記車載装置に接続され基地局と無線通信を行う通信機と、を備える車両であって、
前記車載装置及び前記通信機は、前記車両の電源起動に伴ってハンドシェイクを実行するように構成され、
前記車載装置は、前記ハンドシェイクが失敗した場合にダイアグ情報を生成するように構成され、
前記通信機は、モデムと、電話番号情報を記憶するSIMと、プロセッサと、を含み、前記基地局から特定の拒否理由を受信している場合には前記電源起動の後に前記モデムをリセットするように構成され、
前記通信機は、第1モードと第2モードとを切り替え可能に構成され、
前記第1モードにおいて、前記プロセッサは、
前記ハンドシェイクにおける前記車載装置からの前記電話番号情報の返信要求に応じて、前記SIMから前記電話番号情報を取得することを前記モデムに要求する取得要求を実行し、
前記リセット中の前記モデムがエラー応答を前記プロセッサに返した場合、前記電話番号情報を伴わない返答を前記車載装置に送信し、
前記第2モードにおいて、前記プロセッサは、
前記返信要求に応じて前記取得要求を実行し、
前記リセット中の前記モデムが前記エラー応答を前記プロセッサに返した場合、前記リセット中に前記プロセッサから前記車載装置に返答することを禁止しつつ、前記モデムへの前記取得要求を継続し、
前記リセットの終了後に前記取得要求を実行して前記電話番号情報を前記SIMから前記モデムを介して取得した後に、前記電話番号情報を伴う返答を前記車載装置に送信する
車両。
【請求項3】
車載装置と、前記車載装置に接続され基地局と無線通信を行う通信機と、を備える車両であって、
前記車載装置及び前記通信機は、前記車両の電源起動に伴ってハンドシェイクを実行するように構成され、
前記車載装置は、前記ハンドシェイクが失敗した場合にダイアグ情報を生成するように構成され、
前記通信機は、モデムと、電話番号情報を記憶するSIMと、プロセッサと、を含み、前記基地局から特定の拒否理由を受信している場合には前記電源起動の後に前記モデムをリセットするように構成され、
前記通信機は、第1モードと第2モードとを切り替え可能に構成され、
前記第1モードにおいて、前記プロセッサは、
前記ハンドシェイクにおける前記車載装置からの前記電話番号情報の返信要求に応じて、前記SIMから前記電話番号情報を取得することを前記モデムに要求する取得要求を実行し、
前記リセット中の前記モデムがエラー応答を前記プロセッサに返した場合、前記電話番号情報を伴わない返答を前記車載装置に送信し、
前記第2モードにおいて、前記プロセッサは、
前記返信要求に応じて前記取得要求を実行し、
前記取得要求に対する応答が前記モデムから送信されるまで前記車載装置への返答を待機し、
前記第2モードにおいて、前記モデムは、
前記リセット中に前記取得要求を受け取った場合、前記エラー応答を前記プロセッサに送信することを前記リセットが終了するまで禁止し、
前記リセットの終了後に前記電話番号情報の送信を前記SIMに要求し、その後に前記SIMから送信された前記電話番号情報を前記プロセッサに送信する
車両。
【請求項4】
前記第2モードは、前記車両の工場出荷時の検査の際に選択されるモードである
請求項1~3の何れか1つに記載の車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車載装置と通信機とを備える車両に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1は、移動体データ通信に用いられるモデムを検査するモデム検査装置を開示している。モデム検査装置は、モデムをリセットするリセット部を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-209631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
車載装置と、当該車載装置に接続され且つ基地局と無線通信を行う通信機と、を備える車両は、次のような構成を有する場合がある。すなわち、車両の電源起動に伴って初期シーケンスによるハンドシェイクが実行される場合がある。そして、ハンドシェイクが失敗した場合、車載装置は、ダイアグ情報を生成して記録する。このような構成によれば、ダイアグ情報が記録された場合に、車載装置と通信機との接続に問題があることを発見できる。
【0005】
上述の構成を有する車両において、基地局から特定の拒否理由を受信した場合にリセットされるモデムを通信機が備える場合には、次のような課題がある。すなわち、上記ハンドシェイクの期間が、モデムのリセットの期間と重なってしまう場合がある。その結果、モデムのリセットに起因してハンドシェイクの通信が成立しなくなり、意図しない形でのダイアグ情報の記録がなされてしまう可能性がある。
【0006】
本開示は、上述のような課題に鑑みてなされたものであり、通信機のモデムのリセットに起因する車載装置と通信機とのハンドシェイクの不成立を回避できるようにした車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様に係る車両は、車載装置と、通信機と、を備える。通信機は、モデムを含み、車載装置に接続され、基地局と無線通信を行う。車載装置及び通信機は、車両の電源起動に伴ってハンドシェイクを実行するように構成されている(構成A)。車載装置は、ハンドシェイクが失敗した場合にダイアグ情報を生成するように構成されている(構成B)。通信機は、基地局からの特定の拒否理由に応じたモデムのリセットを許可する第1モードと、特定の拒否理由に応じたモデムのリセットを禁止する第2モードと、を切り替え可能に構成されている。
【0008】
本開示の第2の態様に係る車両は、車載装置と、通信機と、を備える。通信機は、車載装置に接続され、基地局と無線通信を行う。当該車両は、上述の構成A及びBを備える。通信機は、モデムと、電話番号情報を記憶するSIMと、プロセッサと、を含み、基地局から特定の拒否理由を受信している場合には電源起動の後にモデムをリセットするように構成されている。そして、通信機は、第1モードと第2モードとを切り替え可能に構成されている。第1モードにおいて、プロセッサは、ハンドシェイクにおける車載装置からの電話番号情報の返信要求に応じて、SIMから電話番号情報を取得することをモデムに要求する取得要求を実行し、リセット中のモデムがエラー応答をプロセッサに返した場合、電話番号情報を伴わない返答を車載装置に送信する。第2モードにおいて、プロセッサは、返信要求に応じて取得要求を実行し、リセット中のモデムがエラー応答をプロセッサに返した場合、リセット中にプロセッサから車載装置に返答することを禁止しつつ、モデムへの取得要求を継続し、リセットの終了後に取得要求を実行して電話番号情報をSIMからモデムを介して取得した後に、電話番号情報を伴う返答を車載装置に送信する。
【0009】
本開示の第3の態様に係る車両は、第2モードの動作において、第2の態様に係る車両と相違している。具体的には、第3の態様によれば、第2モードにおいて、プロセッサは、返信要求に応じて取得要求を実行し、取得要求に対する応答がモデムから送信されるまで車載装置への返答を待機する。そして、第2モードにおいて、モデムは、リセット中に取得要求を受け取った場合、エラー応答をプロセッサに送信することをリセットが終了するまで禁止し、リセットの終了後に電話番号情報の送信をSIMに要求し、その後にSIMから送信された電話番号情報をプロセッサに送信する。
【0010】
本開示の第4の態様に係る車両は、第2モードの動作において、第2の態様に係る車両と相違している。具体的には、第4の態様によれば、第2モードにおいて、プロセッサは、返信要求に応じて取得要求を実行し、リセット中のモデムがエラー応答をプロセッサに返した場合、車載装置からプロセッサへの返信要求の再送信がなされるまでプロセッサから車載装置への返答を禁止する。
【発明の効果】
【0011】
本開示によれば、第2モードを事前に選択しておくことにより、実際に上述の特定の拒否理由が通知されたとしても、通信機のモデムのリセットに起因する車載装置と通信機とのハンドシェイクの不成立を回避することができる。これにより、意図しないダイアグ情報が記録されないようにすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施の形態に係る車両の構成の一例を概略的に示す図である。
図2】車載装置と通信機との間で実行されるハンドシェイクの概要及び課題を説明するためのシーケンス図である。
図3】実施の形態に係る第2モード選択時のハンドシェイクの動作を説明するためのシーケンス図である。
図4】実施の形態の第1変形例に係る電話番号情報の取得に関する動作を説明するためのシーケンス図である。
図5】実施の形態の第2変形例に係る第2モード選択時における電話番号情報の取得に関する動作を説明するためのシーケンス図である。
図6】実施の形態の第3変形例に係る第2モード選択時における電話番号情報の取得に関する動作を説明するためのシーケンス図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面を参照して、本開示の実施の形態について説明する。なお、各図において共通する要素には、同一の符号を付して重複する説明を省略又は簡略する。
【0014】
1.車両の構成例
図1は、実施の形態に係る車両1の構成の一例を概略的に示す図である。車両1は、車載装置10と、通信機(車載通信機)20と、を備える。
【0015】
車載装置10は、より詳細には車載電子装置であり、例えば、車載マルチメディアシステムのヘッドユニットである。車載装置10は、プロセッサ12と記憶装置14とを含む。プロセッサ12は、後述の各種処理を実行する。例えば、プロセッサ12は、CPU(Central Processing Unit)を含んでいる。記憶装置14は、プロセッサ12による処理に必要な各種情報を格納する。記憶装置14は、例えば、揮発性メモリ、不揮発性メモリ、HDD(Hard Disk Drive)、及びSSD(Solid State Drive)の少なくとも1つである。
【0016】
車載装置10は、通信機20と接続されている。具体的には、車載装置10と通信機20との接続は、例えば、USB接続等の有線接続である。
【0017】
通信機20は、例えば、DCM(Data Communication Module)である。通信機20は、車両1のユーザが契約している移動体通信事業者によって提供されるネットワーク40と無線通信可能である。より詳細には、通信機20は、ネットワーク40を構成する各基地局と通信可能である。通信機20は、例えば、ネットワーク40を介した通信動作を自身に割り当てられた電話番号で行う機能を有している。
【0018】
具体的には、通信機20は、アプリケーションプロセッサ(AP)22と、記憶装置24と、モデム26と、SIM(Subscriber Identity Module)28と、バックアップ電源30と、を含む。AP22は、後述の各種処理を実行する。
【0019】
AP22は、例えば、ATコマンド処理部32とSIMマネージャ34とを含む。ATコマンド処理部32は、車載装置10から送信される各種のATコマンドに関する処理を実行する。SIMマネージャ34は、ATコマンド処理部32からの要求に応じて、モデム26を介してSIM28から電話番号情報等の各種情報を取得する処理を実行する。
【0020】
モデム26は、ネットワーク40に送信する情報の変調を行う変調装置と、ネットワーク40から受信する情報の復調を行う復調装置と、プロセッサと、を含む。
【0021】
SIM28は、SIMカードを挿入可能な挿入部を含んでもよく、或いは通信機20に予め搭載されたeSIM(embedded Subscriber Identity Module)を含んでもよい。SIMカード又はeSIMは、ネットワーク40と通信するために用いられる情報を記憶する。具体的には、SIM28に記憶されている情報は、電話番号情報を含む。また、SIM28は、例えば、リーダ及びプロセッサを含む。
【0022】
また、通信機20は、車両1の電源(バッテリ)からの電力の供給を受けていない時であっても、バックアップ電源30から供給される電力によって周期的に起動し、ネットワーク40との間で必要な通信(例えば、基地局の探索)を行っている。
【0023】
2.ハンドシェイク
図2は、車載装置10と通信機20との間で実行されるハンドシェイクの概要及び課題を説明するためのシーケンス図である。より詳細には、図2に示される動作は、後述の第1モード選択時の動作に相当する。
【0024】
車両1のアクセサリ電源がON(ACC ON)になると、車載装置10及び通信機20に電力が供給され、その結果、(接続に問題が無ければ)USB接続がONとなる。そして、アクセサリ電源ONに続いてイグニッション電源がON(IG ON)になると(換言すると、車両1の電源起動に伴って)、車載装置10及び通信機20は、通常の通信を開始する前に、初期シーケンスとしての所定のハンドシェイクを実行する。より詳細には、このようなハンドシェイクは、車両電源が起動される度に行われる。
【0025】
ハンドシェイクでは、最初に、例えば、アクセサリ電源がON状態になったことを通信機20に伝える「ACC ON指示」が車載装置10から通信機20に送信される。この指示を受け取った通信機20から、アクセサリ電源がON状態であることを確認できていることを示す「ACC ON確認」が車載装置10に返信される。ここでは詳細な説明は省略されるが、ハンドシェイクでは、所定数の情報のやり取りが車載装置10と通信機20との間で行われる。そのような情報のやり取りの1つが、図2に示されるATコマンド[AT$DNID]である。このATコマンド[AT$DNID]は、車載装置10が通信機20に対して電話番号情報の送信を要求するものである。
【0026】
ハンドシェイクでは、車載装置10と通信機20との接続が正しく行われているか否かが車載装置10によって確認される。ハンドシェイクが失敗した場合、車載装置10は、ダイアグ情報を生成して記録する。当該ダイアグ情報は、例えば、USBケーブルの脱落を示す情報として生成される。このような構成によれば、ダイアグ情報が記録された場合に、車載装置10と通信機20との接続に問題があることを発見できる。
【0027】
その一方で、通信機20は、基本的には、ネットワーク40に含まれる基地局から特定の拒否理由(Reject cause)RCを受信した場合、モデム26をリセットして初期化するように構成されている(本実施形態に係る「第1モード」)。ここでいう「特定の拒否理由RC」とは、基地局の探索を行わないようにすることを通信機20に要求する通知のことである。このような拒否理由RCは、例えば、米国仕様の通信機(より詳細には、SIM28が米国仕様のものである通信機)20を搭載する車両1を日本の工場で生産して出荷する際に通信機20による通信が行われた時に通知される。すなわち、拒否理由RCは、ある国又は地域向けの通信機20による通信が通信規格の異なる別の国又は地域で(すなわち、通信機20の圏外において)行われた時に通知される。また、拒否理由RCの通知は、このような工場出荷時に限らず、例えば、通信機20を利用した通信サービスの契約が車両1のユーザによって解約された際の通信時にも通知され得る。なお、拒否理由RCを受信した際に通信機20がモデム26をリセットする理由は、別の基地局の探索を試みるためである。
【0028】
ここで、通信機20は、例えば基地局の探索のために、車両電源の起動前にバックアップ電源30を利用してネットワーク40(基地局)と通信する場合がある。通信機20は、このような通信を行った際に、図2に例示されるように特定の拒否理由RCを受信することがある。このように拒否理由RCを受信した際のモデム26のリセットは、図2に示すように車両電源の起動後(IG ONの後)に実行される。したがって、車両電源の起動前の通信に起因して実行されるモデム26のリセットの期間は、車両電源の起動に伴って実行されるハンドシェイクの期間と重なってしまう。付け加えると、リセットの期間は、モデム26の初期化に要する期間を含む。
【0029】
図2は、上述のようにモデム26のリセットの期間とハンドシェイクの期間とが重なった状況を例示している。このようにハンドシェイクの期間中にモデム26のリセットが発生すると、通信機20は、車載装置10の期待した応答を行うことができなくなり、ハンドシェイクが失敗となってしまう。すなわち、ハンドシェイクの通信が成立しなくなる。その結果、車載装置10は、上述のダイアグ情報(例えば、USBケーブルの脱落を示す情報)を生成して記憶装置14に記録する。
【0030】
より具体的には、図2に示すように、モデム26のリセット中にATコマンド[AT$DNID](電話番号情報の要求)が車載装置10から通信機20に送信された場合には、モデム26からAP22(SIMマネージャ34)に対してエラー応答が行われる。すなわち、AP22は、SIM28から電話番号情報を取得できない。このため、図2に示すように、通信機20(AP22)は、車載装置10に電話番号情報を返信することができない。このような動作の詳細は、後述の図4の上段に示されている。より詳細には、図2に示す動作の例では、通信機20(AP22)は、電話番号情報を返信できずに「OK応答」のリザルトコードのみを返信(応答)している。このように「OK応答」のリザルトコードのみが返信されている場合、車載装置10は、ATコマンド[AT$DNID]の送信時点から所定時間(例えば、90秒)が経過するまでの間は、通信機20からの電話番号情報の返信を待つ。そして、電話番号情報の返信がないまま当該所定時間が経過すると、車載装置10は、上述のダイアグ情報を生成して記憶装置14に記録する。
【0031】
上述のようなモデム26のリセットに起因して生じたハンドシェイクの失敗は、車載装置10と通信機20との接続自体に問題があることを示すものではない。換言すると、当該失敗時のダイアグ情報の記録は、意図しない形でなされたものである。しかしながら、例えば、車両1の工場出荷時の検査の際に車両電源の起動に伴って実行されたハンドシェイクにおいてモデム26のリセットに起因して当該ダイアグ情報が記録された場面では、当該車両1は、検査不適合であると誤って認定され、再検査に進んでしまう可能性がある。
【0032】
なお、図2中に示す動作の例における「コマンド送信停止」とは、通信機20から車載装置10に対して「OK応答」のリザルトコードが返信されているために車載装置10がATコマンド[AT$DNID]より後のコマンドの送信を停止していることを意味している。付け加えると、ハンドシェイクでは、ATコマンド[AT$DNID]以外のコマンドは、車載装置10のプロセッサとAP22との間での通信になるので、モデム26がリセット中であるか否かによらずに実行可能である。
【0033】
上述の課題に鑑み、本実施形態では、通信機20は、基地局からの特定の拒否理由RCに応じたモデム26のリセットを許可する「第1モード」と、拒否理由RCに応じたモデム26のリセットを禁止する「第2モード」と、を切り替え可能に構成されている。モデム26の現在のモードが第1及び第2モードのどちらであるかを示すモード情報は、通信機20の記憶装置24に格納されている。モデム26のモードの切り替えは、例えば、人が所定の切り替えツールを操作して当該モード情報を更新することによって行うことができる。
【0034】
より具体的には、第2モードは、例えば、車両1の工場出荷時の検査の際に選択されるモード(シッピングモード)である。付け加えると、工場出荷時のハンドシェイクを想定して、通信機20は、例えば、第2モードが選択されている状態で車両1に搭載されてもよい。或いは、例えば、工場出荷時の検査の際に、上記ツールを操作する係員によって、第1モードから第2モードへの切り替えが行われてもよい。そして、例えば、その後に車両1のユーザがいる国又は地域に車両1が輸送された後に、第2モードから第1モードへの切り替えが行われてもよい。
【0035】
また、第2モードは、例えば、通信機20を利用した通信サービスの契約が車両1のユーザによって解約される際に選択されてもよい。
【0036】
付け加えると、第1モードは、例えば、第2モードが選択されていない時に選択される基本的なモードである。なお、モデム26のモードは、第1及び第2モード以外の1又は複数のモードを含んでいてもよい。
【0037】
図3は、実施の形態に係る第2モード選択時のハンドシェイクの動作を説明するためのシーケンス図である(本開示に係る「第1の態様」に対応)。図3は、図2と同様に、特定の拒否理由RCが通知される場面を対象としている。
【0038】
通信機20(AP22)は、記憶装置24に格納されている上記モード情報に基づいて、モデム26の現在のモードが第1及び第2モードのどちらであるかを判断することができる。車両電源が起動された際に現在のモードが第2モードである場合には、図3に表されているように、拒否理由RCに応じたモデム26のリセットが禁止される。これにより、拒否理由RCが通知されている場合であっても、AP22(SIMマネージャ34)は、ハンドシェイクの実行中に、車載装置10からのATコマンド[AT$DNID]に応じてモデム26を介してSIM28から電話番号情報を取得できるようになる。このため、図3に示すように、通信機20は、車載装置10に対し、電話番号情報を「OK応答」のリザルトコードとともに返信することが可能となる。
【0039】
以上のように、本実施形態によれば、通信機20は、第1モードと第2モードとを切り替え可能に構成されている。このため、工場出荷時等の特定の拒否理由RCの受信が想定される場面のためのモードとして第2モードを事前に選択しておくことにより、実際に拒否理由RCが通知されたとしても、モデム26のリセットに起因する車載装置10及び通信機20間のハンドシェイクの不成立を回避することが可能となる。これにより、意図しないダイアグ情報が記録されないようにすることができる。
【0040】
付け加えると、工場出荷時に第2モードが選択されている場合には、モデム26のリセットに起因する意図しないダイアグ情報が記録されないようになることで、このような意図しないダイアグ情報の記録に起因して車両1が検査不適合であると誤って認定されることを回避することができる。
【0041】
3.変形例
上述したハンドシェイクの不成立を回避するために、図3に示す例に代え、例えば、次の第1~第3変形例の何れか1つが実行されてもよい。
【0042】
3-1.第1変形例(本開示に係る「第2の態様」に対応)
図4は、実施の形態の第1変形例に係る電話番号情報の取得に関する動作を説明するためのシーケンス図である。より詳細には、図4において、上段は第1モード選択時における電話番号情報の取得に関する動作を示し、下段は第2モード選択時における電話番号情報の取得に関する動作を示している。なお、図4は、図2及び図3と同様に、特定の拒否理由RCが通知される場面を対象としている。そして、拒否理由RCの通知に応じて、通信機20は、図4に示すように車両電源の起動に伴ってモデム26をリセットしている。このことは、後述の図5及び図6についても同様である。
【0043】
まず、第1変形例に係る第1モードの選択時の動作は、図2においてATコマンド[AT$DNID]が送信された場合の動作と同じである。すなわち、第1モードにおいて、AP22は、ハンドシェイクにおける車載装置10からの電話番号情報の「返信要求R1」(すなわち、ATコマンド[AT$DNID])に応じて、SIM28から電話番号情報を取得することをモデム26に要求する「取得要求R2」を実行する。より詳細には、車載装置10から返信要求R1を受信したATコマンド処理部32は、当該返信要求R1をSIMマネージャ34に伝送する。そして、返信要求R1を受信したSIMマネージャ34は、モデム26に取得要求R2を送信する。
【0044】
しかしながら、取得要求R2を受信したモデム26は、リセット中であるため、取得要求R2をSIM28に伝送できない。すなわち、モデム26は、SIM28から電話番号情報を受信(取得)することができない。その結果、モデム26は、SIMマネージャ34に対し、エラー応答を返す。その結果、モデム26からエラー応答を受信したSIMマネージャ34は、電話番号情報を伴わない返答(すなわち、「OK応答」のリザルトコードのみ)をATコマンド処理部32に送信する。そして、ATコマンド処理部32は、当該返答を車載装置10に伝送する。
【0045】
次に、第1変形例に係る第2モードについて説明する。この第2モードの具体例も、図3に示す第2モードと同様に、車両1の工場出荷時の検査の際に選択されるモード(シッピングモード)、及び、ユーザによる通信サービスの解約時を含む。この第2モードの選択時の動作は、以下の点において、図3に示す例に係る第2モードと相違する。すなわち、図4の下段に示すように、拒否理由RCの受信に応じてモデム26がリセットされる。このため、車載装置10からの返信要求R1に基づく取得要求R2を受信したモデム26は、第1モードの選択時と同様に、SIMマネージャ34に対してエラー応答を返す。
【0046】
そのうえで、この第2モードでは、モデム26からエラー応答を受信したSIMマネージャ34は、リセット中にAP22から車載装置10に返答することを禁止しつつ、モデム26への取得要求R2を継続する。例えば、取得要求R2のリトライが所定時間(例えば、数秒)毎に繰り返し実行される。より詳細には、モデム26のリセット(初期化を含む)に要する時間は、例えば6~10秒である。上記のリトライに関する所定時間は、モデム26のリセットに要する時間よりも短くなるように設定されている。付け加えると、モデム26のリセットに要する時間は、車載装置10が上述のダイアグ情報を生成するか否かを判定するための所定時間(すなわち、ATコマンド[AT$DNID]の送信時点からの所定時間)より短い。
【0047】
モデム26のリセットが終了すると、図4の下段に示すように、SIM28は、モデム26からの取得要求R2を受信することが可能となる。このようにリセット後に取得要求R2を受信したSIM28は、要求された電話番号情報をモデム26に送信する。SIM28から電話番号情報を受信したモデム26は、当該電話番号情報をSIMマネージャ34に伝送する。そして、モデム26から電話番号情報を受信(取得)したAP22は、車載装置10への返答禁止を解除し、電話番号情報を伴う返答(すなわち、電話番号情報及び「OK応答」のリザルトコード)を車載装置10に送信する。より詳細には、当該返答がSIMマネージャ34からATコマンド処理部32を介して車載装置10に送信される。
【0048】
以上のように、第1変形例によっても、通信機20は、第1モードと第2モードとを切り替え可能に構成されている。このため、工場出荷時等の特定の拒否理由RCの受信が想定される場面のためのモードとして第2モードを事前に選択しておくことにより、実際に拒否理由RCが通知されたとしても、図4の下段に示すように動作するAP22(SIMマネージャ34)によってハンドシェイクの不成立を回避することが可能となる。これにより、意図しないダイアグ情報が記録されないようにすることができる。
【0049】
3-2.第2変形例(本開示に係る「第3の態様」に対応)
図5は、実施の形態の第2変形例に係る第2モード選択時における電話番号情報の取得に関する動作を説明するためのシーケンス図である。第2変形例に係る第1モードの選択時の動作は、図4の上段と同じであるため、その図示は省略されている。第2変形例に係る第2モードの具体例も、図3に示す第2モードと同様に、車両1の工場出荷時の検査の際に選択されるモード(シッピングモード)、及び、ユーザによる通信サービスの解約時を含む。
【0050】
この第2モードの選択時の動作は、以下の点において、第1変形例に係る第2モードと相違する。すなわち、拒否理由RCの受信に応じたリセット中にAP22(SIMマネージャ34)から取得要求R2を受け取った場合、モデム26は、当該取得要求R2に対するエラー応答をSIMマネージャ34に送信することをリセットが終了するまで禁止する。一方、AP22(SIMマネージャ34)は、取得要求R2に対する応答がモデム26から送信されるまで車載装置10への返答を待機(スタンバイ)する。
【0051】
その後にリセットが終了すると、モデム26は、取得要求R2をSIM28に送信する(すなわち、電話番号情報の送信をSIM28に要求する)。そして、モデム26は、SIM28から送信された電話番号情報をAP22(SIMマネージャ34)に送信する(すなわち、SIMマネージャ34からの取得要求R2に対して応答する)。モデム26から電話番号情報を受信したAP22は、車載装置10への返答の待機状態を解除し、電話番号情報を伴う返答(すなわち、電話番号情報及び「OK応答」のリザルトコード)を車載装置10に送信する。
【0052】
以上のように、第2変形例によっても、通信機20は、第1モードと第2モードとを切り替え可能に構成されている。このため、工場出荷時等の特定の拒否理由RCの受信が想定される場面のためのモードとして第2モードを事前に選択しておくことにより、実際に拒否理由RCが通知されたとしても、図5に示すように動作するAP22(SIMマネージャ34)及びモデム26によってハンドシェイクの不成立を回避することが可能となる。これにより、意図しないダイアグ情報が記録されないようにすることができる。
【0053】
第2変形例におけるAP22(SIMマネージャ34)による車載装置10への返答の待機(スタンバイ)について補足する。AP22は、このような返答の待機中に、待機の開始から所定時間が経過するか否かを判定してもよい。この所定時間は、モデム26のリセット(初期化を含む)に要する時間よりも長くなるように設定されている。そして、当該所定時間中に取得要求R2に対する応答がモデム26から送信されなかった場合には、AP22は、待機状態を終了し、車載装置10に対してエラー応答を送信してもよい。このような処理によれば、モデム26又はSIM28が正常に機能していないことに起因してモデム26からAP22への応答が送信されなかった場合に、そのようなモデム26又はSIM28の異常を車載装置10に通知することができる。
【0054】
3-3.第3変形例(本開示に係る「第4の態様」に対応)
図6は、実施の形態の第3変形例に係る第2モード選択時における電話番号情報の取得に関する動作を説明するためのシーケンス図である。第3変形例に係る第1モードの選択時の動作は、図4の上段と同じであるため、その図示は省略されている。第3変形例に係る第2モードの具体例も、図3に示す第2モードと同様に、車両1の工場出荷時の検査の際に選択されるモード(シッピングモード)、及び、ユーザによる通信サービスの解約時を含む。
【0055】
この第2モードの選択時の動作は、以下の点において、第1変形例に係る第2モードと相違する。すなわち、拒否理由RCの受信に応じたリセット中にモデム26からエラー応答を受信した場合、AP22(SIMマネージャ34)は、車載装置10からAP22への返信要求R1の再送信(リトライ)がなされるまで、AP22から車載装置10への返答を禁止する。換言すると、AP22(SIMマネージャ34)は、車載装置10からの返信要求R1の再送信を待つ。
【0056】
より詳細には、車載装置10による最初の返信要求R1の送信の時点から再送信の時点までの期間(例えば、10~20秒)は、モデム26のリセット(初期化を含む)に要する時間よりも長く、且つ、車載装置10が上述のダイアグ情報を生成するか否かを判定するための所定時間(「ATコマンド[AT$DNID]の送信時点からの所定時間」より短くなるように設定されている。
【0057】
車載装置10からAP22への返信要求R1の再送信(リトライ)がなされると、図6に示すように、再送信された返信要求R1を受信したAP22からモデム26に取得要求R2が送信される。そして、モデム26からの取得要求R2に応じてSIM28から送信された電話番号情報が、モデム26及びAP22を介して車載装置10に送信される。
【0058】
以上のように、第3変形例によっても、通信機20は、第1モードと第2モードとを切り替え可能に構成されている。このため、工場出荷時等の特定の拒否理由RCの受信が想定される場面のためのモードとして第2モードを事前に選択しておくことにより、実際に拒否理由RCが通知されたとしても、車載装置10からの返信要求の再送信に期待して図6に示すように動作するAP22(SIMマネージャ34)によってハンドシェイクの不成立を回避することが可能となる。これにより、意図しないダイアグ情報が記録されないようにすることができる。
【符号の説明】
【0059】
1 車両、 10 車載装置、 20 通信機、 22 アプリケーションプロセッサ、 24 記憶装置、 26モデム、 28 SIM、 30 バックアップ電源、 32 ATコマンド処理部、 34 SIMマネージャ、 40 ネットワーク
図1
図2
図3
図4
図5
図6