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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】炭素繊維束の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D01F 9/22 20060101AFI20250527BHJP
   D01F 9/32 20060101ALI20250527BHJP
【FI】
D01F9/22
D01F9/32
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2022511788
(86)(22)【出願日】2021-03-15
(86)【国際出願番号】 JP2021010303
(87)【国際公開番号】W WO2021200061
(87)【国際公開日】2021-10-07
【審査請求日】2024-02-13
(31)【優先権主張番号】P 2020059608
(32)【優先日】2020-03-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】片岡 拓也
(72)【発明者】
【氏名】細谷 直人
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 孝光
(72)【発明者】
【氏名】久慈 祐介
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-023801(JP,A)
【文献】特開2014-234557(JP,A)
【文献】特開2007-262602(JP,A)
【文献】国際公開第2021/193520(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 9/08 - 9/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系繊維束を酸化性雰囲気下で200℃~300℃の範囲で熱処理する耐炎化工程と、繊維束の搬入側と搬出側にそれぞれ1つ以上の不活性ガス供給口を有し、当該搬入側と搬出側の不活性ガス供給口の間に1つ以上の排気口を有する熱処理炉を用いて300℃~1,000℃の範囲で搬入側よりも搬出側の方が不活性ガスの供給温度を高くして熱処理する予備炭素化工程と、不活性ガス雰囲気下で1,000℃~2,000℃の温度で熱処理する炭素化工程とを有する炭素繊維束の製造方法であって、熱処理炉内の雰囲気温度が300℃となる機長方向における最も搬出側の位置から搬入側の不活性ガス供給口まで、予備炭素化工程の熱処理炉内の不活性雰囲気の流れが機長方向において繊維束の走行方向に対して並流方向の流れのみである炭素繊維束の製造方法。
【請求項2】
前記予備炭素化工程が機長方向に 温度制御が可能な区分が3つ以上ある熱処理炉内で行われるものであり、熱処理室の機長方向に対して、最も搬入側である区分の機長方向において中央位置の繊維束高さの雰囲気温度をT[℃]、熱処理室の機長方向に対して、最も搬出側である区分の機長方向において中央位置の繊維束高さの雰囲気温度をT[℃]としたとき、前記熱処理炉に供給する不活性ガスの温度が下記記載の2つの条件を満たす請求項1に記載の炭素繊維束の製造方法。
搬入側不活性ガス供給温度範囲[℃]:|T-(搬入側不活性ガス供給温度)|=ΔT≦50
搬出側不活性ガス供給温度範囲[℃]:|T-(搬出側不活性ガス供給温度)|=ΔT≦100
【請求項3】
前記予備炭素化工程の熱処理炉の機長方向における断面積が略同一であり、下記記載の流速Vと下記記載の流速Vの絶対値比率(|V|/|V|)が0.5≦|V|/|V|≦2.0 である請求項1または2に記載の炭素繊維束の製造方法。
[m/s]:熱処理室の機長方向に対して、最も搬入側である区分の機長方向において中央位置における水平方向の不活性雰囲気の流速
[m/s]:熱処理室の機長方向に対して、最も搬出側である区分の機長方向において中央位置における水平方向の不活性雰囲気の流速
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
炭素繊維製造時の予備炭素化処理をする際に発生し、熱処理炉内に滞留するタール等のガス化した分解生成物が析出する温度帯に流入することを防ぐことで、長期間連続して製造することができる炭素繊維束の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維は他の補強用繊維に比べて高い比強度および比弾性率をもつことから航空宇宙、スポーツおよび自転車・船舶・土木建築などの一般産業用途において、複合材料の補強繊維として工業的に幅広く利用されている。一般に、アクリル系繊維束から炭素繊維束を製造する方法として、アクリロニトリル系繊維等をプリカーサーとして用いることが知られている。酸化性雰囲気下で200℃~300℃の範囲で耐炎化処理した後、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で300℃~1,000℃の範囲で予備炭素化を行い、1,000℃以上の範囲において炭素化処理することにより得られる。
【0003】
前記予備炭素化処理では、炭素化に伴い被処理繊維束からシアン化水素、アンモニア、窒素、水、二酸化炭素、およびタール等のガス化した分解生成物が発生するため、これらの分解生成物を排出するための排気口を炉内に設けることが一般的である。これらの分解生成物の中でも特にタール成分は熱処理炉の内壁に固着し、一定量以上堆積すると走行している耐炎化繊維束の上に落下し物性低下を始めとして毛羽増大、糸切れ発生等、得られた炭素繊維の品質低下や生産性低下をもたらす。また、このタール成分は排気口から排ガスを分解または燃焼処理する装置へ送気するまでのダクト内壁で析出することでラインを閉塞させ、連続製造期間が短期化されてしまう問題がある。
【0004】
これらの問題を解決するために特許文献1では、予備炭素化処理における250℃~400℃の範囲で繊維束の滞留時間を規定することで、前記温度範囲で発生するタール成分を含む分解生成物に適した昇温速度にし、発生した分解生成物の析出を阻止できると記載されている。
【0005】
また、特許文献2では、予備炭素化処理を行う熱処理炉に予熱された不活性ガスを所定の体積で導入することで、タール成分を含む分解生成物を析出させずに排気口より排気できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-234557号公報
【文献】特開昭60-099010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、本発明者らの知見によると、特許文献1の方法では、低温域での昇温速度の規定に留まっており、高温域で発生するタール成分を含む分解生成物の析出を完全に防止できない。
【0008】
また、特許文献2の方法では、タール成分を含む分解生成物をガス化させたまま排気することには有効だが、不活性ガスの供給温度が高く、処理する温度範囲が狭いため、得られる炭素繊維の品質が限定される。また、不活性ガスを予熱する電力費が嵩み製造コストが過剰にかかる。
【0009】
そこで、炭素繊維製造時の予備炭素化処理をする際に発生し、熱処理炉内に滞留するタール等のガス化した分解生成物が析出する温度帯に流入することを防ぐことで、長期間連続して製造することができる炭素繊維束の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明の炭素繊維束の製造方法は次の構成を有する。すなわち、
アクリル系繊維束を酸化性雰囲気下で200℃~300℃の範囲で熱処理する耐炎化工程と、繊維束の搬入側と搬出側にそれぞれ1つ以上の不活性ガス供給口を有し、当該搬入側と搬出側の不活性ガス供給口の間に1つ以上の排気口を有する熱処理炉を用いて300℃~1,000℃の範囲で搬入側よりも搬出側の方が不活性ガスの供給温度を高くして熱処理する予備炭素化工程と、不活性ガス雰囲気下で1,000℃~2,000℃の温度で熱処理する炭素化工程とを有する炭素繊維束の製造方法であって、熱処理炉内の雰囲気温度が300℃となる機長方向における最も搬出側の位置から搬入側の不活性ガス供給口まで、予備炭素化工程の熱処理炉内の不活性雰囲気の流れが機長方向において繊維束の走行方向に対して並流方向の流れのみである炭素繊維束の製造方法、である。
【0011】
本発明の炭素繊維束の製造方法は、前記予備炭素化工程が機長方向に 温度制御が可能な区分が3つ以上ある熱処理炉内で行われるものであり、熱処理室の機長方向に対して、最も搬入側である区分の機長方向において中央位置の繊維束高さの雰囲気温度をT[℃]、熱処理室の機長方向に対して、最も搬出側である区分の機長方向において中央位置の繊維束高さの雰囲気温度をT[℃]としたとき、前記熱処理炉に供給する不活性ガスの温度が下記記載の2つの条件を満たすことが好ましい。
搬入側不活性ガス供給温度範囲[℃]:|T-(搬入側不活性ガス供給温度)|=ΔT≦50
搬出側不活性ガス供給温度範囲[℃]:|T-(搬出側不活性ガス供給温度)|=ΔT≦100
本発明の炭素繊維束の製造方法は、前記予備炭素化工程の熱処理炉の機長方向における断面積が略同一であり、下記記載の流速Vと下記記載の流速Vの絶対値比率(|V|/|V|)が0.5≦|V|/|V|≦2.0であることが好ましい。
[m/s]:熱処理室の機長方向に対して、最も搬入側である区分の機長方向において中央位置における水平方向の不活性雰囲気の流速
[m/s]:熱処理室の機長方向に対して、最も搬出側である区分の機長方向において中央位置における水平方向の不活性雰囲気の流速
【発明の効果】
【0012】
炭素繊維製造時の予備炭素化処理をする際に発生し、熱処理炉内に滞留するタール等のガス化した分解生成物が析出する温度帯に流入することを防ぐことで、長期間連続して製造が可能になる効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る実施の一形態に用いられる予備炭素化処理を行う熱処理炉の機長方向の概略構成図である。
図2図1における搬入口から熱処理炉内の雰囲気温度が300℃となる機長方向における最も搬出側の位置までの不活性雰囲気の流れが繊維束の走行方向に対して並流方向の流れである機長方向の模式的断面図である。
図3図1における搬入口から熱処理炉内の雰囲気温度が300℃となる機長方向における最も搬出側の位置までの不活性雰囲気の流れが繊維束の走行方向に対して並流方向と向流方向の2方向存在する機長方向の模式的断面図である。
図4図1における入口から排気口までの不活性雰囲気の流れが繊維束の走行方向に対して並流方向の流れである機長方向の模式的断面図である。
図5図1におけるA-A線に沿った矢視断面図である。
図6】本発明に係る熱処理炉の搬入口の概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
本発明において、アクリル系繊維束は公知のものを使用できる。アクリル繊維束を構成するアクリロニトリル系ポリマーとしては、アクリロニトリルの単独重合体又はアクリロニトリルと他のモノマーとの共重合体を用いることができる。
【0016】
アクリル繊維束を200~300℃の酸化性雰囲気下で熱処理して耐炎化処理し、耐炎化繊維束を得る。
【0017】
耐炎化繊維束を300℃~1,000℃の不活性雰囲気下で予備炭素化処理し、予備炭素化繊維束を得る。不活性ガスとしては、窒素、アルゴン、ヘリウム等の公知の不活性雰囲気を採用できるが、経済性の面から窒素が好ましい。予備炭素化処理の最高温度は500~1,000℃であることが好ましく、さらに600~900℃であることがさらに好ましい。
【0018】
予備炭素化処理の最高温度が500℃以上であると炭素繊維の強度及び弾性率の発現性がより良好となる。予備炭素化処理の最高温度が1,000℃以下であれば熱処理炉のコストを低減しやすくなり、工業的に有利である。熱処理炉の温度分布として、最高温度は炉の搬出側にあることが好ましく、搬入側より搬出側で不活性雰囲気温度が高くなる。
【0019】
予備炭素化処理に使われる熱処理炉は特に限定されるものではない。例えば図1に示すように熱処理炉(1)の一方に搬入口(2)、他方に排出口(3)を有し、前記搬入口、搬出口の閉止板に開口部を設け、開口面積が最小限であることが好ましく、熱処理室(4)への酸素等の流入を防止するためにラビリンスシール構造等のシール機構を有するものが好ましく使用される。繊維束(被処理物)(5)の搬入側と搬出側には不活性ガス供給口(6)を有する。熱処理室(4)は機長方向に対する断面積は略同一であり、熱処理室(4)に存在する不活性ガスの流速が急激に変化しない構造であることが好ましい。熱処理炉(1)が上下に有するヒーター(7)にて、不活性雰囲気の温度コントロールを行う。不活性雰囲気の温度コントロールを精度良く行うために、熱処理炉は機長方向に温度制御可能な区分が3つ以上であることが望ましい。区分が3つ未満であると不活性雰囲気の温度を精度良く制御できない場合がある。また、タール等がガス化した分解生成物を効率的に炉外に排出するために排気口(8)を設けてあり、保温された排気ダクト(9)を介して排ガス処理炉(10)で熱分解される。
【0020】
予備炭素化処理に用いる熱処理室(4)の雰囲気温度は、タール等がガス化した分解生成物の析出を防止するために重要な要素となる。予備炭素化処理ではシアン化水素、アンモニア、窒素、水、二酸化炭素、およびタール等のガス化した分解生成物が発生する。タール成分の中には300℃近くに融点・沸点を有する化合物が存在する。タール成分の大部分は雰囲気温度が300℃より高い温度で発生するため、分解ガスが発生場所から雰囲気温度が300℃未満の場所に移動することを阻止し、雰囲気温度300℃以上の場所から排気口(8)を介して炉外に排出しなければ、タール成分が析出するおそれがある。予備炭素化処理は徐々に処理温度を上げるため、熱処理室(4)は搬入側より搬出側の不活性雰囲気温度が高温である。雰囲気温度が300℃以上で発生する分解ガスを300℃未満の搬入側に移動することを阻止するには、熱処理炉内の雰囲気温度が300℃となる機長方向における最も搬出側の位置(P300)までの炉内雰囲気の流れが繊維束の走行方向に対して並流方向の流れのみでなければならない。向流方向の流れが存在する場合、タール成分が300℃未満の場所に移動してしまい析出するおそれがある。前記雰囲気温度が300℃となる位置(P300)までの不活性雰囲気の流れが繊維束の走行方向に対して並流方向の流れにするためには、雰囲気温度が300℃未満の場所に不活性ガスの供給口(6)が存在し、雰囲気温度が300℃以上の場所に排気口(8)を有する装置構成であることが好ましく、雰囲気温度が350℃以上の場所に排気口(8)を有することがより好ましい。搬入側の不活性ガスの供給口(6)から前記雰囲気温度が300℃となる位置(P300)までの不活性雰囲気の流れが繊維束の走行方向に対して並流方向の流れのみである例を図2に示し、搬入側の不活性ガスの供給口(6)から前記雰囲気温度が300℃となる位置(P300)までの搬入側の不活性雰囲気の流れが繊維束の走行方向に対して並流方向と向流方向の2方向が存在する例を図3に示す。図4に示す搬入側の不活性ガスの供給口(6)から排気口(8)まで不活性雰囲気の流れが繊維束の走行方向に対して並流方向のみであることがより好ましい。
【0021】
熱処理炉内の不活性雰囲気の流れは温度で変化するため、熱処理室(4)の雰囲気は上下方向に温度差があると、浮力により熱い雰囲気は上部に滞留し、より冷たい雰囲気は下部に滞留する。その際にタール等がガス化した分解生成物が排気口(8)に到達せずに熱処理室(4)に滞留し、不活性雰囲気の流れが繊維束の走行方向に対して向流方向に移動しタール成分が析出するおそれがある。そのため、熱処理室(4)の雰囲気温度と炉内に導入する不活性ガスの供給温度に大きな乖離がないことが望ましく、熱処理室(4)の機長方向に対して、最も搬入側である区分の機長方向において中央位置(13)の繊維束高さの雰囲気温度をT[℃]、熱処理室(4)の機長方向に対して、最も搬出側である区分の機長方向において中央位置(14)の繊維束高さの雰囲気温度をT[℃]としたとき、前記熱処理炉に供給する不活性ガスの温度が下記記載の2つの条件を満たすことが好ましい。
搬入側の不活性ガス供給温度範囲[℃]:|T-(搬入側不活性ガス供給温度)|=ΔT≦50℃。
搬出側不活性ガス供給温度範囲[℃]:|T-(搬出側不活性ガス供給温度)|=ΔT≦100
前記中央位置(13)の雰囲気温度が搬入側不活性ガス供給温度と比較するための熱処理室(4)の雰囲気温度として適切である。また、搬出側の不活性ガスの供給温度も同様に、前記中央位置(14)の雰囲気温度として適切である。
【0022】
更に、熱処理炉内の不活性雰囲気の流れは搬入側と搬出側の不活性ガスの流速バランスが重要である。搬入側と搬出側の水平方向の不活性雰囲気の流速の絶対値比率(|V|/|V|)は0.5以上2.0以下であることが好ましい(0.5≦|V|/|V|≦2.0)。搬入側の水平方向の不活性雰囲気の流速(V1)と搬出側の水平方向の不活性雰囲気の流速(V2)の絶対値比率|V|/|V|が上記好ましい範囲であると、搬出側から供給される不活性ガスが搬入側に逆流することなく排気口に排気され、タール成分が搬入側に流入するおそれがない。なお、不活性ガスの流れが糸の走行方向と同方向の場合にはVおよびVの値は正の値になり、糸の走行方向と逆方向の場合にはVおよびV2の値は負の値になるものとする。前記流速比は実流速であることが好ましく、搬入側及び搬出側の流速基準になる位置は、搬入側は前記最も搬入側にある区分の機長方向における中央位置(13)とし、搬出側は前記最も搬出側にある区分の機長方向の中央位置(14)とすることが望ましく、前記位置(13及び14)の水平方向の不活性雰囲気の流速は、供給される不活性ガスの流量と熱処理炉の搬入口(2)、搬出口(3)の開口部の風速より算出することが望ましい。
【0023】
予備炭素化繊維束を1,000℃~2,000℃の不活性雰囲気下で炭素化処理し、炭素化繊維束を得る。
【0024】
炭素繊維束には、必要に応じて、繊維強化複合材料マトリックス樹脂との親和性および接着性の向上を目的とした電解酸化処理や酸化処理を行ってもよい。
【実施例
【0025】
以下、本発明について実施例を挙げて具体的に説明するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。実施例で行った各種測定方法は、以下の通りである。
【0026】
<動圧測定>
デジタル差圧計(testo製 商品名:testo512-3 測定範囲:0Pa~200Pa)を繋いだストレートタイプピトー管(岡野製作所製、商品名:2孔式ピトー管 受注生産品 外形:Φ10mm)を搬入口の開口部(11)より炉内に挿入し、図5に示す機長方向の炉内断面の5点ある測定点(機幅方向に3点、高さ方向に3点)(12)にて、ピトー管の先端を機長方向に平行に移動して圧力測定を行った。ピトー管の先端で全圧、側面で静圧を測定し、その圧力差から動圧の有無を判断した。前記雰囲気温度が300℃である位置(P300)まで動圧を感知しなかった場合は、不活性雰囲気の流れは繊維束の走行方向に対して並流方向の流れのみであるとし、動圧を感知した場合、不活性雰囲気の流れは繊維束の走行方向に対して並流方向と向流方向の2方向が存在すると判断した。
【0027】
<熱処理炉内の不活性雰囲気温度測定>
シース熱電対(福電製 外形:Φ1.6mm 材質:SUS316)を搬入口から搬出口までの開口部(11)に張ったワイヤに取り付け、図5に示す機長方向の熱処理炉断面の5点ある測定点(12)にて、測定部位である熱電対の先端を機長方向に移動して雰囲気温度測定を行った(測定間隔は100mmおき)。また、繊維束高さの雰囲気温度測定時は、前記熱電対を取り付けたワイヤを繊維束の高さにし、測定ポイントに熱電対の先端を合わせて図6に示す機幅方向3点を測定した。ワイヤ・熱電対が垂れないようにワイヤの先端に重りを付け張力をかけた。
【0028】
<熱処理炉内の水平方向の不活性雰囲気の流速(V及びV)算出方法>
高温用アネモマスター風速計(日本カノマックス製 品番:6162 耐熱温度:500℃)にて搬入口(2)の開口部(11)直近の風速を図6に示す機幅方向に3点の測定点(12)にて測定した。15秒間の測定結果の平均値を開口部(11)から炉外に出る不活性雰囲気の風速(Vout)とした。前記測定した風速(Vout)と開口部の面積から、開口部(11)から炉外に出る時間当たりの不活性雰囲気の流量を求め、搬入側の不活性ガス供給口からの時間当たりの不活性雰囲気の流量の差から、熱処理炉内の繊維束の走行方向の時間当たりの流量を算出した。前記流量と熱処理炉(1)の機長方向の断面積より、搬入側の水平方向の不活性雰囲気の流速(V)を算出した。搬出側の水平方向の不活性雰囲気の流速(V)も同様の方法にて算出した。
【0029】
<炭素繊維束毛羽品位基準>
実施例、比較例における品位の判定基準はそれぞれ次のとおりとした。
優:予備炭素化工程を出た後に目視で確認できる繊維束上の10mm以上の毛羽の数が平均五個/m以下であり、毛羽品位が工程での通過性や製品としての高次加工性に全く影響しないレベル。
良:予備炭素化工程を出た後に目視で確認できる繊維束上の10mm以上の毛羽の数が平均五個/mを超え平均十個/m未満であり、毛羽品位が工程での通過性や製品としての高次加工性にほとんど影響しないレベル。
不良:予備炭素化工程を出た後に目視で確認できる繊維束上の10mm以上の毛羽の数が平均十個/m以上であり、毛羽品位が工程での通過性や製品としての高次加工性に悪影響を与えるレベル。
【0030】
<熱処理炉内・排気ダクトの環境基準>
実施例、比較例における熱処理炉内・排気ダクトの環境の判定基準はそれぞれ次のとおりとした。
優:熱処理炉内や排気ダクトにタール成分が固化し付着した形跡が全くなく、運転に全く影響しないレベル。
良:熱処理炉内や排気ダクトにタール成分が固化し付着した形跡が少量存在し、運転にほとんど影響しないレベル。
不良:熱処理炉内や排気ダクトにタール成分が固化し付着した形跡が多量存在し、炉内やダクトの閉塞が起き運転に支障をきたすレベル。
【0031】
<実施例1>
単繊維繊度0.11texである単繊維20,000本からなる繊維束を100本引き揃え、空気中で240℃~280℃で熱処理した耐炎化繊維束を図1に示すような形状の有効熱処理長4m、最高温度を700℃で保持している熱処理炉内を1.0m/分の糸速度で連続的に通過させて予備炭素繊維束を得た。熱処理炉を満たす不活性ガスとして窒素を搬入側、搬出側のどちらも予熱し、それぞれに設けた不活性ガス供給口より供給し、排気口位置の雰囲気温度を500℃とした。得られた予備炭素繊維束を、その後、炭素化炉において最高温度1,500℃で熱処理し、電解表面処理後サイジング剤を塗布して、炭素繊維束を得た。
【0032】
この時前記動圧測定結果で、熱処理炉内の雰囲気温度が300℃となる機長方向における最も搬出側の位置(P300)から搬入側の不活性ガス供給口までの不活性雰囲気の流れは繊維束の走行方向に対して並流方向のみであると判断した。また、最も搬入側にある区分の機長方向の中央位置の繊維束の高さの雰囲気温度(T)と搬入側の窒素の供給温度の差(ΔT)は150℃であり、最も搬出側にある区分の機長方向の中央位置の繊維束の高さの雰囲気温度(T)と搬出側の窒素の供給温度の差(ΔT)は150℃であった。搬入側と搬出側の水平方向の不活性雰囲気の流速の絶対値比率(|V|/|V|)は2.5であった。上記条件において生産中に重大な問題が発生せず10日間連続運転した。また、得られた予備炭素繊維束ならびに炭素繊維束を目視確認した結果、炭素繊維束の毛羽品位は前記判定基準で良であり、炉内・排気ダクトの環境も良であり、排気ダクトは閉塞していなかった。
【0033】
<実施例2>
最も搬入側にある区分の機長方向の中央位置の繊維束の高さの雰囲気温度(T)と搬入側の窒素の供給温度の差(ΔT)が40℃になるよう前記窒素の予熱温度を設定し、最も搬出側にある区分の機長方向の中央位置の繊維束の高さの雰囲気温度(T)と搬出側の窒素の供給温度の差(ΔT)が80℃になるように前記窒素の供給温度を設定した以外は実施例1と同様にした。上記条件において生産中に重大な問題が発生せず10日間連続運転した。また、得られた予備炭素繊維束ならびに炭素繊維束を目視確認した結果、炭素繊維束の毛羽品位は前記判定基準で良であり、炉内・排気ダクトの環境は優であり、排気ダクトに付着物はなかった。
【0034】
<実施例3>
搬入側と搬出側の水平方向の不活性雰囲気の流速の絶対値比率(|V|/|V|)を1.5になるよう搬入側の窒素の流量を設定した以外は実施例2と同様にした。上記条件において生産中に重大な問題が発生せず10日間連続運転した。また、得られた予備炭素繊維束ならびに炭素繊維束を目視確認した結果、炭素繊維束の毛羽品位は前記判定基準で優であり、炉内・排気ダクトの環境も優であり、排気ダクトに付着物はなかった。
【0035】
<実施例4>
最も搬入側にある区分の機長方向の中央位置の繊維束の高さの雰囲気温度(T)と搬入側の窒素の供給温度の差(ΔT)が150℃になるよう前記窒素の予熱温度を設定した以外は実施例3と同様にした。上記条件において生産中に重大な問題が発生せず10日間連続運転した。また、得られた予備炭素繊維束ならびに炭素繊維束を目視確認した結果、炭素繊維束の毛羽品位は前記判定基準で優であり、炉内・排気ダクトの環境は良であり、排気ダクトは閉塞していなかった。
【0036】
<比較例1>
搬入側と搬出側の水平方向の不活性雰囲気の流速の絶対値比率(|V|/|V|)を0.5になるよう搬入側の窒素の流量を設定した時に、前記動圧測定結果で、熱処理炉内の雰囲気温度が300℃となる機長方向における最も搬出側の位置(P300)から搬入側の不活性ガス供給口までの不活性雰囲気の流れが繊維束の走行方向と向流方向の2方向が存在すると判断した。前記以外は実施例3と同様にしたが、上記条件において生産中に予備炭素化処理を行う熱処理炉の炉内圧が常に上昇し、搬入口、搬出口の開口部からタール等がガス化した分解生成物が噴き出し、操業不可能と判断し停機した。得られた予備炭素繊維束ならびに炭素繊維束を目視確認した結果、炭素繊維束の毛羽品位は前記判定基準で不良であり、炉内・排気ダクトの環境も不良であり、排気ダクトが閉塞した。
【0037】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、炭素繊維束の製造に好適に用いることができるもので、本発明によって得られた耐炎化繊維束や炭素繊維束は、航空機用途、圧力容器・風車等の産業用途、ゴルフシャフト等のスポーツ用途等に好適に応用できるが、その応用範囲がこれらに限られるものではない。
【符号の説明】
【0039】
1 予備炭素化処理を行う熱処理炉
2 予備炭素化処理を行う熱処理炉の搬入口
3 予備炭素化処理を行う熱処理炉の搬出口
4 予備炭素化処理を行う熱処理炉の熱処理室
5 繊維束
6 不活性ガス供給口
7 ヒーター
8 排気口
9 排気ダクト
10 排ガス処理装置
11 予備炭素化処理を行う熱処理炉の搬入口の開口部
12 各測定の測定点
13 予備炭素化処理を行う熱処理炉内の最も搬入側にある区分の機長方向における中央位置
14 予備炭素化処理を行う熱処理炉内の最も搬出側にある区分の機長方向における中央位置
300 熱処理炉内の雰囲気温度が300℃となる機長方向における最も搬出側の位置
図1
図2
図3
図4
図5
図6