(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】車体前部構造、車体前部構造の設計方法、及び車体前部構造の製造方法
(51)【国際特許分類】
B62D 25/08 20060101AFI20250527BHJP
B62D 21/15 20060101ALI20250527BHJP
B62D 65/00 20060101ALI20250527BHJP
G06F 30/15 20200101ALI20250527BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20250527BHJP
G06F 111/10 20200101ALN20250527BHJP
G06F 119/14 20200101ALN20250527BHJP
【FI】
B62D25/08 D
B62D21/15 C
B62D65/00 Z
G06F30/15
G06F30/20
G06F111:10
G06F119:14
(21)【出願番号】P 2023135965
(22)【出願日】2023-08-24
【審査請求日】2024-08-28
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100127845
【氏名又は名称】石川 壽彦
(72)【発明者】
【氏名】中川 功一
(72)【発明者】
【氏名】塩崎 毅
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-283868(JP,A)
【文献】特開2010-042753(JP,A)
【文献】国際公開第2022/234791(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/08
B62D 21/15
B62D 65/00
G06F 30/15
G06F 30/20
G06F 111/10
G06F 119/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体前後方向に延在し、閉断面構造を有する左右一対のフロントサイドメンバと、該各フロントサイドメンバの先端から車体前方側に延在し、閉断面構造を有するクラッシュボックスと、を備えた車体前部構造であって、
前記クラッシュボックスにおける前記閉断面構造の断面線長が最小となる断面における下式(1)で規定される軸力F
x1と、前記フロントサイドメンバにおける前記閉断面構造の断面線長が最小となる断面における下式(1)で規定される軸力F
x2と、の比F
x1/F
x2が予め定められた臨界軸力比
である0.69以下となるように、前記フロントサイドメンバと前記クラッシュボックスのそれぞれに用いる
鋼板の板厚と引張強度が、板厚1.2mm~2.3mm、引張強度270MPa級~1470MPa級の範囲内で設定されていることにより、車両の前突時において前記クラッシュボックスを十分に圧縮変形させた後に前記フロントサイドメンバを折れ変形させるようにしたことを特徴とする車体前部構造。
軸力(N)=断面線長(mm)×板厚(mm)×引張強度(MPa) ・・・(1)
【請求項2】
車両前後方向に延在し、閉断面構造を有する左右一対のフロントサイドメンバと、該各フロントサイドメンバの先端から車体前方側に延在し、閉断面構造を有するクラッシュボックスと、を備えた車体前部構造において、車両の前突時に前記クラッシュボックスを十分に圧縮変形させた後に前記フロントサイドメンバを折れ変形させるように設計する車体前部構造の設計方法であって、
前記車体前部構造を有する車両モデルを取得し、該車両モデルの前突時における客室側への車体部品の侵入量を評価する侵入量評価部位を設定する車両モデル取得ステップと、
取得した前記車両モデルにおける前記クラッシュボックス及び前記フロントサイドメンバのそれぞれについて、断面線長が最小となる断面線長最小断面を決定する断面線長最小断面決定ステップと、
前記車両モデルにおける前記クラッシュボックス及び前記フロントサイドメンバのそれぞれについて、種々の板厚及び引張強度を設定したときの前記断面線長最小断面における軸力を算出し、前記クラッシュボックスについて算出した軸力と、前記フロントサイドメンバについて算出した軸力との比を算出する軸力比算出ステップと、
前記種々の板厚及び引張強度を設定した前記車両モデルの前突に関する衝突解析を行い、前記車両モデルの前突時において前記車両モデルに設定した前記侵入量評価部位における前記車体部品の客室側への侵入量を計算する車体部品客室側侵入量計算ステップと、
前記軸力比算出ステップにおいて種々の板厚及び引張強度を設定して算出した軸力比と、前記車体部品客室側侵入量計算ステップにおいて種々の板厚及び引張強度を設定した前記車両モデルの前記衝突解析により計算した前記侵入量評価部位における前記車体部品の客室側への前記侵入量と、の関係から、前記侵入量が略一定の値に飽和する臨界軸力比を決定する臨界軸力比決定ステップと、
種々の板厚及び引張強度の組み合わせについて算出した軸力比のうち、前記臨界軸力比決定ステップにおいて決定した臨界軸力比以下となる板厚及び引張強度の組み合わせを決定する板厚及び引張強度決定ステップと、を含むことを特徴とする車体前部構造の設計方法。
【請求項3】
前記軸力比算出ステップにおいては、前記種々の板厚及び引張強度の組み合わせにおける前記クラッシュボックス及び前記フロントサイドメンバの重量を算出し、
前記板厚及び引張強度決定ステップにおいては、前記臨界軸力比以下となる軸力比となる板厚及び引張強度の組み合わせのうち、前記軸力比算出ステップにおいて算出した前記クラッシュボックス及び前記フロントサイドメンバの総重量が最小となる前記板厚及び引張強度の組み合わせを決定する、ことを特徴とする請求項2に記載の車体前部構造の設計方法。
【請求項4】
前記板厚及び引張強度決定ステップにおいては、前記臨界軸力比以下となる軸力比となる板厚及び引張強度の組み合わせのうち、前記クラッシュボックスについて算出した軸力が最大となる前記板厚及び引張強度の組み合わせを決定する、ことを特徴とする請求項2に記載の車体前部構造の設計方法。
【請求項5】
請求項2乃至4のいずれかの車体前部構造の設計方法により、前記車体前部構造のフロントサイドメンバ及びクラッシュボックスのそれぞれについて、板厚及び引張強度の組合せを決定し、
該決定した板厚及び引張強度の組み合わせの金属板を用いて、前記クラッシュボックスにおける前記閉断面構造の断面線長が最小となる断面の軸力F
x1と、前記フロントサイドメンバにおける前記閉断面構造の断面線長が最小となる断面の軸力F
x2と、の比F
x1/F
x2が前記臨界軸力比以下となる、前記フロントサイドメンバ及び前記クラッシュボックスを備えた車体前部構造を製造すること、を特徴とする車体前部構造の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体前後方向に延在する左右一対のフロントサイドメンバと、該各フロントサイドメンバの先端から車体前方側に延在するクラッシュボックスと、を備えた車体前部構造、車体前部構造の設計方法、及び車体前部構造の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境対策として車両走行時のCO2排出量をガソリン車に比べて低減できる電気自動車が普及し始めている。電気自動車の航続距離の長距離化にはバッテリーの積載量を増すことが有効であるが、これにより車体重量が増加し、車両の衝突時における衝突エネルギーを増加させる要因となってしまう。そのため、電気自動車等においては、衝突エネルギーを十分に吸収することができる車体構造が要求されている。
従来より、車両の前面衝突時(前突時)において、フロントサイドメンバを長手方向に圧縮変形(軸圧壊)させることにより衝突エネルギーを吸収する車体前部構造が知られている。このようなフロントサイドメンバは、車両の前突時において、前方側が車体前後方向に圧縮変形するとともに、後方側が車体幅方向の車外側や車体上下方向の下側に突出するように折れ曲がる折れ変形(折れ曲がり変形)する。これにより、車体前部構造に入力した衝突エネルギーを吸収するとともに、エンジンやモーター等の車載物によりダッシュパネル等の車体部品が客室側へと侵入することによる乗員保護性能(乗員障害値)の悪化を防いでいる。
【0003】
一般に、車体部品における圧縮変形と折れ変形とでは、同じストロークでも圧縮変形の方がより多くの衝突エネルギーを吸収することができる。そのため、例えば特許文献1には、フロントサイドフレーム(本願のフロントサイドメンバに相当)の前方側と後方側とで剛性差をもたせ、各領域毎に車両前後方向で交互に剛性差を持たせた前部車体構造が開示されている。そして、当該技術においては、車両前突時に相対的に剛性が低いフロントサイドフレームの前方側から圧縮変形が開始し、その後、相対的に剛性が高いフロントサイドフレームの後方側を圧縮変形させる。これにより、フロントサイドメンバを長手方向全体にわたりスムーズな蛇腹状に圧縮変形させることが可能となるため、衝突エネルギーを十分に吸収することができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
車体前部構造においては、フロントサイドメンバの前方にクラッシュボックスが設けられたものがあり、車両の前突時において、クラッシュボックスを車両前後方向に圧縮変形させることで衝突エネルギーをさらに吸収することが可能となる。
このようなフロントサイドメンバとクラッシュボックスを備えた車体前部構造において、クラッシュボックスには、十分に圧縮変形させるために引張強度440MPa級程度の比較的強度の低い鋼板が使用されていた。さらに、フロントサイドメンバには、引張強度780MPa級以上の比較的強度の高い鋼板が使用されていることが多かった。そして、電気自動車の前突時における衝突エネルギー吸収量の増大化の要望に対しては、引張強度980MPa級以上の鋼板(超ハイテン材)をクラッシュボックスに使用することが検討されるようになっている。
【0006】
このような場合、クラッシュボックスとフロントサイドメンバの前方側では圧縮変形させ、必要な衝突エネルギーの吸収量を得ることが重要となる。しかしながら、単にクラッシュボックスに用いる鋼板の強度を高くしても、クラッシュボックスに十分な圧縮変形が起こる前にフロントサイドメンバに折れ変形が発生してしまう場合があった。このような場合、クラッシュボックスにより衝突エネルギーを十分に吸収することができず、車体変形量等の所定の衝突性能を満たすことができないという問題があった。
そこで、クラッシュボックスの高強度化を図るには、クラッシュボックスが十分に圧縮変形してからフロントサイドメンバが折れ変形することが重要である。そして、そのためには、クラッシュボックスとフロントサイドメンバに用いる鋼板等の金属板の板厚や材料強度を適切に決定すればよいと考えられる。
【0007】
しかしながら、特許文献1に開示されている技術は、フロントサイドメンバを長手方向全体にわたりスムーズな蛇腹状に圧縮変形させることにより、衝突エネルギーを十分に吸収するものであった。そのため、特許文献1には、フロントサイドメンバとの関係でクラッシュボックスの適切な板厚や材料強度を決定することに関しては、何ら開示も示唆もされていなかった。
【0008】
また、バッテリーを積載する電気自動車は、所定の衝突エネルギー吸収性能の確保に加え、バッテリー積載スペース確保のため、車体前部構造をコンパクト化することが求められている。そして、車体前部構造をコンパクト化するには、車両の前突時においてクラッシュボックスとフロントサイドメンバが少ない圧縮変形量であっても衝突エネルギーを十分に吸収できることが要求される。
【0009】
しかしながら、特許文献1の技術は、フロントサイドメンバにおける前方側の剛性を低くした分だけ車両の前突時に入力する荷重が大きく低下するものであった。そのため、前突時の圧縮変形による衝突エネルギー吸収量を確保するには、圧縮変形量が増加するようにフロントサイドメンバを長くする必要があった。したがって、特許文献1の技術では、電気自動車における車体前部構造における衝突エネルギー吸収性能の確保とコンパクト化を両立することができなかった。
【0010】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、車両の前突時に、所定の衝突性能を満足しつつコンパクト化を両立することができる車体前部構造、車体前部構造の設計方法、及び車体前部構造の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
(1)本発明に係る車体前部構造は、車体前後方向に延在し、閉断面構造を有する左右一対のフロントサイドメンバと、該各フロントサイドメンバの先端から車体前方側に延在し、閉断面構造を有するクラッシュボックスと、を備えたものであって、
前記クラッシュボックスにおける前記閉断面構造の断面線長が最小となる断面の軸力Fx1と、前記フロントサイドメンバにおける前記閉断面構造の断面線長が最小となる断面の軸力Fx2と、の比Fx1/Fx2が予め定められた臨界軸力比以下となるように、前記フロントサイドメンバと前記クラッシュボックスのそれぞれに用いる金属板の板厚と引張強度が設定されていることにより、車両の前突時において前記クラッシュボックスを十分に圧縮変形させた後に前記フロントサイドメンバを折れ変形させるようにしたことを特徴とするものである。
【0012】
(2)本発明に係る車体前部構造の設計方法は、車両前後方向に延在し、閉断面構造を有する左右一対のフロントサイドメンバと、該各フロントサイドメンバの先端から車体前方側に延在し、閉断面構造を有するクラッシュボックスと、を備えた車体前部構造において、車両の前突時に前記クラッシュボックスを十分に圧縮変形させた後に前記フロントサイドメンバを折れ変形させるように設計するものであって、
前記車体前部構造を有する車両モデルを取得し、該車両モデルの前突時における客室側への車体部品の侵入量を評価する侵入量評価部位を設定する車両モデル取得ステップと、
取得した前記車両モデルにおける前記クラッシュボックス及び前記フロントサイドメンバのそれぞれについて、断面線長が最小となる断面線長最小断面を決定する断面線長最小断面決定ステップと、
前記車両モデルにおける前記クラッシュボックス及び前記フロントサイドメンバのそれぞれについて、種々の板厚及び引張強度を設定したときの前記断面線長最小断面における軸力を算出し、前記クラッシュボックスについて算出した軸力と、前記フロントサイドメンバについて算出した軸力との比を算出する軸力比算出ステップと、
前記種々の板厚及び引張強度を設定した前記車両モデルの前突に関する衝突解析を行い、前記車両モデルの前突時において前記車両モデルに設定した前記侵入量評価部位における前記車体部品の客室側への侵入量を計算する車体部品客室側侵入量計算ステップと、
前記軸力比算出ステップにおいて種々の板厚及び引張強度を設定して算出した軸力比と、前記車体部品客室側侵入量計算ステップにおいて種々の板厚及び引張強度を設定した前記車両モデルの前記衝突解析により計算した前記侵入量評価部位における前記車体部品の客室側への前記侵入量と、の関係から、前記侵入量が略一定の値に飽和する臨界軸力比を決定する臨界軸力比決定ステップと、
種々の板厚及び引張強度の組み合わせについて算出した軸力比のうち、前記臨界軸力比決定ステップにおいて決定した臨界軸力比以下となる板厚及び引張強度の組み合わせを決定する板厚及び引張強度決定ステップと、を含むことを特徴とするものである。
【0013】
(3)上記(2)に記載のものにおいて、
前記軸力比算出ステップにおいては、前記種々の板厚及び引張強度の組み合わせにおける前記クラッシュボックス及び前記フロントサイドメンバの重量を算出し、
前記板厚及び引張強度決定ステップにおいては、前記臨界軸力比以下となる軸力比となる板厚及び引張強度の組み合わせのうち、前記軸力比算出ステップにおいて算出した前記クラッシュボックス及び前記フロントサイドメンバの総重量が最小となる前記板厚及び引張強度の組み合わせを決定する、ことを特徴とするものである。
【0014】
(4)上記(2)に記載のものにおいて、
前記板厚及び引張強度決定ステップにおいては、前記臨界軸力比以下となる軸力比となる板厚及び引張強度の組み合わせのうち、前記クラッシュボックスについて算出した軸力が最大となる前記板厚及び引張強度の組み合わせを決定する、ことを特徴とするものである。
【0015】
(5)本発明に係る車体前部構造の製造方法は、
上記(2)乃至(4)のいずれかの車体前部構造の設計方法により、前記車体前部構造のフロントサイドメンバ及びクラッシュボックスのそれぞれについて、板厚及び引張強度の組合せを決定し、
該決定した板厚及び引張強度の組み合わせの金属板を用いて、前記クラッシュボックスにおける前記閉断面構造の断面線長が最小となる断面の軸力Fx1と、前記フロントサイドメンバにおける前記閉断面構造の断面線長が最小となる断面の軸力Fx2と、の比Fx1/Fx2が前記臨界軸力比以下となる、前記フロントサイドメンバ及び前記クラッシュボックスを備えた車体前部構造を製造すること、を特徴とするものである。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、車両の前突時に、クラッシュボックスが十分に軸圧壊した後にフロントサイドメンバを折れ変形させることができ、車体部品の客室側への侵入量を所定の水準以下に抑えることができ、かつ衝突エネルギーを十分に吸収することができる。
さらに、本発明によれば、車両の前突時における衝突エネルギーの吸収及び車体部品の客室側への侵入量といった衝突性能を低下させずに車体を軽量化及びコンパクト化することができ、自動車の商品性の向上に寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施の形態に係る車体前部構造の構成の一例を示す図である。
【
図2】車両の前突時における、車体前部構造のフロントサイドメンバの圧縮変形とクラッシュボックスの折れ変形を説明する図である。
【
図3】車両の前突時における車体前部構造の荷重-ストローク曲線を模式的に表したグラフである。
【
図4】クラッシュボックスのみを高強度化した車体前部構造を有する車両の前突時において、クラッシュボックスとフロントサイドメンバのそれぞれに発生する荷重の時間推移を模式的に表したグラフである。
【
図5】クラッシュボックスの高強度化に合わせてフロントサイドメンバを高強度化した車体前部構造を有する車両の前突時において、クラッシュボックスとフロントサイドメンバのそれぞれに発生する荷重の時間推移を模式的に表したグラフである。
【
図6】クラッシュボックスの軸力とフロントサイドメンバの軸力の比である軸力比と、車両の前突時にダッシュロアパネルが客室側に変形して侵入したダッシュパネル侵入量と、の関係のプロットと、当該プロットにおいてダッシュパネル侵入量が略一定の値に飽和する軸力比である臨界軸力比を説明する図である。
【
図7】本発明の実施の形態に係る車体前部構造のフロントサイドメンバとクラッシュボックスの車体前後方向に直交する断面形状の一例を示す図である。
【
図8】本発明の実施の形態に係る車体前部構造の設計方法における処理の流れを示すフロー図である。
【
図9】実施例において、車両の前突としてオフセット衝突の衝突解析を説明する図である。
【
図10】実施例において、車両の前突によるダッシュロアパネルの客室側への変形量であるダッシュパネル侵入量を計測した位置を示す図である。
【
図11】実施例において、車両の前突時の衝突解析により求めた車体前部構造の荷重-ストローク曲線である((a)発明例(No.3)、(b)比較例(No.4))。
【
図12】実施例において、車両の前突時の衝突解析により、発明例(No.1、3、10)及び比較例(No.4)について求めたダッシュパネル侵入量、フットブレーキ侵入量及びクラッシュボックスによる衝突エネルギー吸収量(クラッシュボックスEA量)を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の形態に係る車体前部構造及び車体前部構造の設計方法について説明するに先立ち、本発明に至った経緯について説明する。なお、本願の図面において、X方向、Y方向及びZ方向は、それぞれ、車体前後方向、車体幅方向及び車体上下方向を示す。
【0019】
<本発明に至った経緯>
図2に、本発明で対象とするフロントサイドメンバ11とクラッシュボックス21とを備えた車体前部構造1を模式的に表した図を示す。
【0020】
フロントサイドメンバ11は、
図1に示すように、車体前後方向に延在し、車体後方側の端部が車両のキャビン(客室)と車体前部構造1を仕切るダッシュロアパネル31に接続されている。そして、フロントサイドメンバ11は、車両の前突時においては、長手方向(車体前後方向)に圧縮変形(軸圧壊)するとともに、長手方向に直交する方向(車体左右方向の外側または車体上下方向の下側)に折れ曲がる折れ変形(曲げ圧壊)する。また、フロントサイドメンバ11は、
図2に示すように折れビード13が付与されていることにより、車両の前突時において折れビード13を起点として折れ変形が誘発される。また、
図7(b)に示すように、フロントサイドメンバ11は、長手方向に垂直な閉断面構造を有している。
【0021】
クラッシュボックス21は、フロントサイドメンバ11の先端から車体前方側に延在しているものであり、車両の前突時に長手方向に蛇腹状に圧縮変形(軸圧壊)する。そして、クラッシュボックス21は、前突時に車体前後方向(長手方向)における蛇腹状の圧縮変形を誘発させるために、例えば
図2に示すように、長手方向に複数のビード23が設けられている。また、
図7(c)に示すように、クラッシュボックス21は、長手方向に垂直な閉断面構造を有している。
【0022】
図3に、車両の前突時における車体前部構造1の荷重-ストローク曲線を模式的に表したグラフを示す。
図3において、荷重を距離(ストローク)で積分した値(曲線で囲まれた範囲の面積)は、衝突エネルギー吸収量を表している。
【0023】
特許文献1のように、フロントサイドメンバ11に折れビード13を付与した車体前部構造1においては、折れビード13により折れ変形が生じて荷重が大きく低下するため、フロントサイドメンバ11におけるスムーズな圧縮変形を誘発することができる。
しかしながら、フロントサイドメンバ11に折れビード13を付与していない車体前部構造1(従来の車体前部構造)と同等の衝突エネルギー吸収量を得るためには、フロントサイドメンバ11やクラッシュボックス21の全長を長くし、フロントサイドメンバ11に折れ変形が発生するまでのストローク(変形量)を増加させる必要がある(
図3中のx
A→x
A’)。
【0024】
これに対し、軽量化の観点から、クラッシュボックス21に高強度な金属板(例えば、高張力鋼板)を用いることで、前突時における耐力の向上と(
図3中のF→F’)、その後の荷重も向上する。これにより、従来の車体前部構造と同等の衝突エネルギー吸収量を得るために必要なストローク(変形量)を抑えることができると考えられる(
図3中のx
A→x
B)。
【0025】
しかしながら、単にクラッシュボックス21に用いる金属板を高強度化しても、クラッシュボックス21の圧縮変形の途中でフロントサイドメンバ11が折れ変形すると、クラッシュボックス21の圧縮変形が阻害され、衝突エネルギー吸収量が減少してしまう。
【0026】
そこで、発明者らは、この課題に対して鋭意検討した。その結果、クラッシュボックス21の高強度化に合わせてフロントサイドメンバ11を高強度化するように、クラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11の軸力のバランスを適正化することを着想した。軸力とは、クラッシュボックス21やフロントサイドメンバ11のような閉断面構造を有する部材の長手方向における設計上の許容荷重(耐荷重)を意味し、後述する式(1)で表される。
【0027】
そして、クラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11の軸力のバランスを適正化した上でクラッシュボックス21を高強度化することにより、クラッシュボックス21の座屈変形開始以降のスムーズな蛇腹状の圧縮変形を促進できることを見出した。その結果、クラッシュボックス21により衝突エネルギーを十分に吸収量でき、さらには、車体部品の客室側への侵入量を所定の水準以下としてキャビンの安全性を向上できることが分かった。
以下、クラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11の軸力のバランスを適正化することについて説明する。
【0028】
図4及び
図5に、車両の前突時に、
図2に示すようなフロントサイドメンバ11とクラッシュボックス21とを備えた車体前部構造1が車両の前方向の側から後方向の側に向けて印加される衝突荷重を受けて変形する際の荷重-ストローク曲線を示す。
図4及び
図5に示す荷重-ストローク曲線は、車体前部構造1の車両前後方向における変形量(ストローク)に対するフロントサイドメンバ11が受ける荷重の変化を模式的に表したグラフである。
【0029】
図4の実線に示すように、車両の前突時においては、車体前部構造1に衝突荷重が印加されると、まず、クラッシュボックス21が先に車両前後方向に微小に弾性(圧縮)変形する。その後、クラッシュボックス21は荷重F1で座屈して圧縮変形(軸圧壊)を開始し(変形量d1)、潰され切った状態となり圧壊が終了する(変形量d2)。
続いて、フロントサイドメンバ11は、過渡的な弾性変形を経て、伝達された荷重F3を受けた時に座屈して折れ変形を開始し(変形量d3)、耐力(最大荷重)に到達して折れ変形を完了する(変形量d4)。
【0030】
ここで、クラッシュボックス21のみに高張力鋼板を適用して高強度化すると、
図4の破線に示すように、降伏応力の上昇に伴ってクラッシュボックス21の座屈荷重が高くなる(F1→F1')。このため、クラッシュボックス21が潰れ切る前の変形量d3’(<d2)の段階で、フロントサイドメンバ11に伝達される荷重はF3に到達し、フロントサイドメンバ11は座屈して折れ変形を開始する。このように、クラッシュボックス21の圧縮変形が阻害されることで、圧縮変形によるクラッシュボックス21の変形量が小さくなった分(=d2-d3')だけ、客室側への車体部品の侵入量が増加する。その結果、クラッシュボックス21は衝突エネルギーを十分に吸収することができなかった。
【0031】
これに対し、クラッシュボックス21の高強度化に合わせてフロントサイドメンバ11にも高張力鋼板を適用して高強度化し、フロントサイドメンバ11が座屈して折れ変形を開始する荷重をF3’(F3’>F3)とした場合を
図5の破線に示す。この場合、クラッシュボックス21が十分に圧縮変形し、潰れ切った状態となり圧壊が終了(変形量d2)してからフロントサイドメンバ11の折れ変形を開始(変形量d3>d2)させることができるので、クラッシュボックス21の圧縮変形が阻害されることはない。
【0032】
また、クラッシュボックス21を高強度化せずに、クラッシュボックス21が圧縮変形しにくくなるようにクラッシュボックス21の閉断面構造の板厚を厚くしたり、閉断面構造の断面線長を長くしても、クラッシュボックス21が座屈して圧縮変形を開始する荷重は高くなるので、クラッシュボックス21を高強度化した場合と同様に、クラッシュボックス21の圧縮変形が阻害される。
【0033】
このように、発明者らは、フロントサイドメンバ11が折れ変形を開始するまでに、クラッシュボックス21が十分に圧縮変形するために、クラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11における耐力のバランスに着目し、クラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11に用いる板厚と引張強度を適切に調整することを着想した。
【0034】
次に、発明者らは、クラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11における耐力のバランスをどのように適正化すればよいかを検討した。
そこで、まず、発明者らは、クラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11の耐力に対応する指標として、以下の式(1)で表される軸力を用いることとした。軸力とは、部材長手方向における設計上の許容荷重(耐荷重)に相当する指標である。なお、設計上の許容荷重を座屈荷重とする場合、式(1)の引張強度の替わりに、降伏強度を用いても良い。
軸力(N)=断面線長(mm)×板厚(mm)×引張強度(MPa) ・・・(1)
【0035】
また、クラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11における軸力のバランスに関しては、クラッシュボックス21の軸力Fx1のフロントサイドメンバ11の軸力Fx2に対する比(=Fx1/Fx2)である軸力比(FX)で表すこととした。
【0036】
そして、このように規定された軸力比に基づいて、クラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11における軸力のバランスを適正に調整することができるかについて検討した。そこで、クラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11の板厚及び引張強度を種々の組み合わせに変更し、クラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11の軸力比と、車両の前突時における車体部品の客室側への侵入量との関係を調査した。
その結果、
図6に示すように、軸力比が所定の値以下において、車体部品の侵入量はある一定の水準で飽和するという結果が得られた。
【0037】
なお、本願において、車体部品の客室側への侵入量が飽和する時点におけるクラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11の軸力比を臨界軸力比と称する。また、
図6は、後述する表1に示す種々の板厚及び材料強度の組み合わせをフロントサイドメンバ11とクラッシュボックス21のそれぞれに設定した場合の軸力比F
xと車体部品の客室側への侵入量であるダッシュパネル侵入量をプロットしたグラフである。
【0038】
このように、クラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11における軸力のバランスに関しては、クラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11の軸力比が臨界軸力比以下となるように調整すればよいことを見出した。
【0039】
すなわち、クラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11の軸力比が臨界軸力比以下の適正な値となるように、クラッシュボックス21及びフロントサイドメンバ11の板厚及び引張強度(又は降伏強度)を決定することで、クラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11における耐力のバランスを適正化できることが分かった。そして、クラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11の軸力比を適正化した車体前部構造1においては、車両の前突時において、クラッシュボックス21が十分に圧縮変形した後にフロントサイドメンバ11を折れ変形させることができた。これにより、車体部品の客室側への侵入量を所定の水準以下に抑えることができ、かつクラッシュボックス21の圧縮変形により衝突エネルギーを十分に吸収することができるという知見が得られた。
本発明は、上記の検討結果を踏まえてなされたものであり、以下に、その具体的な構成を説明する。
【0040】
<車体前部構造>
図1に、一例として、本発明の実施の形態に係る車体前部構造1を示す。
車体前部構造1は、車体前後方向に延在し、閉断面構造を有する左右一対のフロントサイドメンバ11と、各フロントサイドメンバ11の先端から車体前方側に延在し、閉断面構造を有するクラッシュボックス21と、を備えたものである。
【0041】
フロントサイドメンバ11は、例えば
図7に示すように、ハット断面形状のフロントサイドメンバインナ11aと、パネル状のフロントサイドメンバアウタ11bと、が接合されて閉断面構造が形成されたものである。
【0042】
クラッシュボックス21は、例えば
図7に示すように、コ字断面形状のクラッシュボックスインナ21aと、コ字断面形状のクラッシュボックスアウタ21bと、が接合されて閉断面構造が形成されたものである。また、車体前部構造1においては、
図1に示すように、各クラッシュボックス21の先端に、車体幅方向に延在するバンパービーム33が接続されている。
【0043】
そして、車体前部構造1においては、クラッシュボックス21の軸力Fx1と、フロントサイドメンバ11の軸力Fx2と、の比Fx1/Fx2が予め定められた臨界軸力比以下となるように、フロントサイドメンバ11とクラッシュボックス21のそれぞれに用いる金属板の板厚と引張強度が設定されている。
ここで、クラッシュボックス21の軸力Fx1は、クラッシュボックス21における閉断面構造の断面線長が最小となる断面において与えられるものとする。
また、フロントサイドメンバ11の軸力Fx2は、フロントサイドメンバ11における閉断面構造の断面線長が最小となる断面において与えられるものとする。
【0044】
これにより、車体前部構造1は、車両の前突時においてクラッシュボックス21を十分に圧縮変形させた後にフロントサイドメンバ11を折れ変形させるようにしたものである。
【0045】
このように、本実施の形態に係る車体前部構造1によれば、車両の前突時において、クラッシュボックス21を十分に圧縮変形させた後にフロントサイドメンバ11を折れ変形させることができる。これにより、フロントサイドメンバ11の車体前後方向長さを増加させずに、車体部品の車室側への侵入量を所定の水準以下とすることができ、クラッシュボックス21により衝突エネルギーの十分に吸収することができる。
【0046】
さらに、本発明においては、クラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11の軸力比が所定の臨界軸力比以下であれば、クラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11に、引張強度を高くして板厚を薄くした金属板を用いることができる。これにより、車両の前突時における衝突エネルギーの吸収及び車体部品の客室側への侵入といった衝突性能を低下させずに車体を軽量化及びコンパクト化することができ、自動車の商品性の向上に寄与することができる。
【0047】
なお、臨界軸力比は、前述した
図6に示すように、車両の前突時における車体部品(例えば、ダッシュロアパネル31)の客室側への変形量である客室側侵入量に基づいて決定された値を用いればよい。
【0048】
また、軸力比の下限値については、フロントサイドメンバ11とクラッシュボックス21に実用上用いられる金属板(例えば、鋼板)の板厚と引張強度(又は降伏強度)の範囲内であれば、客室側侵入量に大きな差異を生じさせるものではない。
【0049】
例えば、
図1に示す車体前部構造1において、フロントサイドメンバ11とクラッシュボックス21の素材として実用上用いられる鋼板の板厚は1.2mm~2.3mm、引張強度は270MPa級~1470MPa級である。この場合、クラッシュボックス21として適用可能な鋼板のうち軸力F
x1が最小となる鋼板は、板厚が1.8mm、引張強度が270MPa級である。また、フロントサイドメンバ11として適用可能な鋼板のうち軸力F
x2が最大となる鋼板は、板厚が1.0mm(アウタ)及び1.6mm(インナ)、引張強度が1470MPa級である。したがって、これらの鋼板の板厚と引張強度の組み合わせで与えられる軸力比0.15が下限値となる。そして、軸力比0.15の車体前部構造1においても、クラッシュボックス21が十分に軸圧壊してからフロントサイドメンバ11が折れ変形し、車体部品の客室側侵入量への増加は見られなかった。
【0050】
<車体前部構造の設計方法>
本発明の実施の形態に係る車体前部構造の設計方法は、
図1に示すような、左右一対のフロントサイドメンバ11と、クラッシュボックス21と、を備えた車体前部構造1を設計するものである。そして、本実施の形態に係る車体前部構造の設計方法は、車両の前突時にクラッシュボックス21を十分に圧縮変形させた後にフロントサイドメンバ11を折れ変形させるように設計するものである。
【0051】
本実施の形態に係る車体前部構造の設計方法は、
図8に示すように、車両モデル取得ステップS1と、断面線長最小断面決定ステップS3と、軸力比算出ステップS5と、車体部品客室側侵入量計算ステップS7と、を含む。さらに、本実施の形態に係る車体前部構造の設計方法は、
図8に示すように、臨界軸力比決定ステップS9と、板厚及び引張強度決定ステップS11と、を含む。
以下、前述した
図1に示す車体前部構造1を設計する場合について、
図8及び
図9を参照して上記の各ステップについて説明する。
【0052】
≪車両モデル取得ステップ≫
車両モデル取得ステップS1においては、車体前部構造1を有する車両モデルを取得し、
図9に示す車両モデル101の前突時における客室側への車体部品の侵入量を評価する部位を設定する。
本実施の形態では、車両モデル101の前突として、
図9に示すように、衝突体103へのオフセット衝突を対象とする。
本実施の形態において、車両モデル101の前突において客室側への侵入量を評価する車体部品をダッシュロアパネル31とする(
図1)。そして、
図10に示すように、ダッシュロアパネル31に侵入量評価部位31aを設定し、各侵入量評価部位31aにおける客室側への侵入量を計算する。
【0053】
≪断面線長最小断面決定ステップ≫
断面線長最小断面決定ステップS3においては、取得した車両モデル101の車体前部構造1におけるクラッシュボックス21及びフロントサイドメンバ11のそれぞれについて、断面線長が最小となる断面を決定する。
本実施の形態において、
図7(a)に示す車体前部構造1のクラッシュボックス21及びフロントサイドメンバ11それぞれについて、長手方向に垂直な断面における断面線長が最小となる断面として、それぞれビード23、折れビード13の設けられたA-A断面(
図7(c))、B-B断面(
図7(b))を決定した。
【0054】
≪軸力比算出ステップ≫
軸力比算出ステップS5においては、まず、車両モデル101におけるクラッシュボックス21及びフロントサイドメンバ11について決定した断面線長最小断面における軸力Fx1及びFx2を式(1)により算出する。そして、軸力比算出ステップS5においては、クラッシュボックス21について算出した軸力Fx1とフロントサイドメンバ11について算出した軸力Fx2との比Fx1/Fx2(=軸力比Fx)を算出する。ここで、軸力比算出ステップS5においては、フロントサイドメンバ11とクラッシュボックス21に実用上用いられる金属板(例えば、鋼板)の板厚及び引張強度(又は降伏強度)の範囲内における種々の組み合わせについて、軸力Fx1、Fx2及び軸力比Fxを算出する。
【0055】
≪車体部品客室側侵入量計算ステップ≫
車体部品客室側侵入量計算ステップS7においては、まず、フロントサイドメンバ11とクラッシュボックス21に用いる金属板の板厚及び引張強度の種々の組み合わせを設定した車両モデル101の前突に関する衝突解析を行う。そして、車両モデル101の前突時において車両モデル101に設定した侵入量評価部位31aにおける車体部品(ダッシュロアパネル31)の客室側への侵入量を計算する。
【0056】
なお、車体部品客室側侵入量計算ステップS7における車両モデル101の衝突解析は、衝突解析ソフトを実行することにより行えばよい。
【0057】
≪臨界軸力比決定ステップ≫
臨界軸力比決定ステップS9においては、軸力比算出ステップS5において算出した軸力比と、車体部品客室側侵入量計算ステップS7において計算した侵入量と、の関係から、臨界軸力比を決定する。
軸力比は、軸力比算出ステップS5において、フロントサイドメンバ11とクラッシュボックス21に用いる金属板の板厚及び引張強度の種々の組み合わせについて算出した軸力比を用いる。
一方、車体部品の侵入量は、車体部品客室側侵入量計算ステップS7において、フロントサイドメンバ11及びクラッシュボックス21に用いる金属板の板厚及び引張強度として種々の組み合わせを設定した車両モデル101の衝突解析により計算した値を用いる。
【0058】
そして、臨界軸力比決定ステップS9においては、軸力比と車体部品の侵入量の関係は、
図6に例示するように表すことができる。
図6に示すように、軸力比が低下するとともに車体部品の侵入量は低下しているが、軸力比0.69以下では、侵入量はほぼ一定の範囲内(±20%以内)の値に飽和している。これより、臨界軸力比は0.69であると決定することができる。
【0059】
≪板厚及び引張強度決定ステップ≫
板厚及び引張強度決定ステップS11においては、臨界軸力比決定ステップS9において決定した臨界軸力比以下となるフロントサイドメンバ11とクラッシュボックス21に用いる金属板の板厚及び引張強度の組み合わせを決定する。
フロントサイドメンバ11とクラッシュボックス21に用いる金属板の板厚及び引張強度の組み合わせの決定においては、軸力比算出ステップS5において軸力比を算出した板厚及び引張強度の種々の組み合わせの中から選出するとよい。
【0060】
以上、本発明の実施の形態に係る車体前部構造の設計方法によれば、車両の前突時にクラッシュボックス21を十分に圧縮変形させた後にフロントサイドメンバを折れ変形させるように車体前部構造1を設計することができる。そして、このように設計した車体前部構造1を備えた車両の前突時においては、フロントサイドメンバ11の車体前後方向長さを増加させずに、車体部品の車室側への侵入量を所定の水準以下とすることができ、クラッシュボックス21により衝突エネルギーの十分に吸収することができる。
【0061】
なお、板厚及び引張強度決定ステップにおいては、臨界軸力比以下の軸力比となる板厚及び引張強度の組み合わせであれば、適宜決定することができる。
もっとも、板厚及び引張強度決定ステップにおいては、例えば、以下に述べるように、重量を指標として、板厚及び引張強度を決定するとよい。
【0062】
この場合、まず、軸力比算出ステップS5においては、フロントサイドメンバ11とクラッシュボックス21に用いる金属板の種々の板厚及び引張強度の組み合わせについて、軸力比に加えて、フロントサイドメンバ11とクラッシュボックス21の重量を算出する。
【0063】
そして、板厚及び引張強度決定ステップS11においては、臨界軸力比以下となる軸力比となる板厚及び引張強度の組み合わせのうち、軸力比算出ステップにおいて算出したフロントサイドメンバ11とクラッシュボックス21の総重量が最小となる板厚及び引張強度の組み合わせを決定する。
これにより、衝突性能を確保しつつ車体の軽量化を達成する車体前部構造1を設計することができる。
【0064】
なお、上記の説明は、重量を指標として最適な板厚と引張強度を決定する場合についてのものであったが、車体前部構造の剛性や、衝突エネルギー吸収量を指標としてもよい。
クラッシュボックス21の衝突エネルギー吸収量を指標として、フロントサイドメンバ11とクラッシュボックス21に用いる金属板の板厚及び引張強度の組み合わせを決定する場合、板厚及び引張強度決定ステップにおいては、臨界軸力比以下となる軸力比Fxとなる板厚及び引張強度の組み合わせのうち、クラッシュボックス21について算出した軸力Fx1が最大となる板厚及び引張強度の組み合わせを決定する。
これにより、クラッシュボックス21の十分な圧縮変形を促進しつつ、クラッシュボックス21の耐力を最大化し、衝突エネルギー吸収量(荷重-ストローク曲線における荷重を距離(ストローク)で積分した値)を最大化できる。
【0065】
また、本実施の形態に係る車体部品客室側侵入量計算ステップS7は、車両モデル101として車両全体をモデル化したフルビークルモデルを用いたものであった。もっとも、車両のうち車体前部構造とその周辺の車体部品をモデル化して部分ビークルモデルであってもよい。
【0066】
また、本実施の形態に係る車体前部構造の設計方法は、コンピュータによって構成された車体前部構造の設計装置を用いて実施してもよい。
そして、車体前部構造の設計装置においては、コンピュータが、車体前部構造の設計方法の各ステップを実施するプログラムを実行するものであってもよい。
【0067】
<車体前部構造の製造方法>
本発明の実施形態に係る車体前部構造の製造方法は、上述した本発明の実施の形態に係る車体前部構造の設計方法により、車体前部構造1のフロントサイドメンバ11及びクラッシュボックス21のそれぞれについて、板厚及び引張強度の組合せを決定する。そして、該決定した板厚及び引張強度の組み合わせの金属板を用いて、クラッシュボックス21における閉断面構造の断面線長が最小となる断面の軸力Fx1と、フロントサイドメンバ11における閉断面構造の断面線長が最小となる断面の軸力Fx2と、の比Fx1/Fx2が、臨界軸力比決定ステップS9において決定した臨界軸力比以下となるように、フロントサイドメンバ11とクラッシュボックス21を備えた車体前部構造1を製造する。
【0068】
本発明の実施の形態に係る車体前部構造の製造方法によれば、車両の前突時にクラッシュボックス21を十分に圧縮変形させた後にフロントサイドメンバ11を折れ変形させるように車体前部構造1を製造することができる。そして、このように製造した車体前部構造1を備えた車両の前突時においては、車体部品の車室側への侵入量を所定の水準以下とすることができる。さらに、フロントサイドメンバ11の車体前後方向長さを増加させずに、クラッシュボックス21により衝突エネルギーの十分に吸収することができる。
【実施例】
【0069】
本発明の作用効果を検証するための解析を行ったので、以下、これについて説明する。
解析では、
図9に示すように、車体前部構造1(
図1)を有する車両モデル101を用い、車両モデル101の車体幅方向中心よりもずれた状態で衝突体103を車両モデル101の前面に衝突させるオフセット衝突を対象とした。そして、オフセット衝突の解析に基づいて、車体前部構造1におけるクラッシュボックス21が十分に圧縮変形してからフロントサイドメンバ11を折れ変形させるようにするのに最適な板厚及び引張強度を決定した。
【0070】
まず、
図1に示す車体前部構造1を有する車両モデル101を取得し、車両モデル101の前突時における車体部品の客室側への侵入量を評価する侵入量評価部位を設定した。
実施例では、ダッシュロアパネル31とフットブレーキ(図示なし)を客室側への侵入量を評価する車体部品とした。そして、ダッシュロアパネル31については、
図10に示すように、6か所の侵入量評価部位31aを設定した。また、フットブレーキについては、それ自体を侵入量評価部位として設定した。
【0071】
次に、
図7(a)に示す車両モデル101の車体前部構造1におけるクラッシュボックス21及びフロントサイドメンバ11のそれぞれについて、断面線長が最小となる断面線長最小断面をそれぞれA-A断面(
図7(c))、B-B断面(
図7(b))と決定した。
【0072】
次に、クラッシュボックス21及びフロントサイドメンバ11のそれぞれについて、断面線長最小断面における軸力Fx1及びFx2を算出し、軸力比Fx(=Fx1/Fx2)を算出する。ここで、軸力比Fxは、フロントサイドメンバ11とクラッシュボックス21に用いる金属板の板厚及び引張強度の種々の組み合わせについて算出した。なお、クラッシュボックス21及びフロントサイドメンバ11それぞれの軸力の算出には、(株)JSOL製ARUPソフトウェアのPRIMER 1.80を使用した。
また、クラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11それぞれの重量を、フロントサイドメンバ11とクラッシュボックス21に用いる金属板の板厚及び引張強度の種々の組み合わせについて算出した。
【0073】
表1に、クラッシュボックス21及びフロントサイドメンバ11に設定した板厚及び引張強度の組み合わせと、各組み合わせについて算出したクラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11それぞれの軸力と軸力比F
xを示す。
【表1】
【0074】
続いて、種々の板厚及び引張強度の組み合わせを設定した車両モデル101のオフセット衝突の衝突解析を行い、車両モデル101に設定した侵入量評価部位における車体部品の客室側への侵入量を計算した。衝突解析において、車両モデル101の初速度は64km/hとした。
【0075】
次に、表1のNo.1~No.10に示す各板厚及び引張強度の組み合わせについて求めたクラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11の軸力比F
xと、車両モデル101の衝突解析により求めた侵入量評価部位における侵入量と、の関係をプロットした。そして、プロットした軸力比と侵入量との関係から、臨界軸力比を決定した。
図6に、軸力比とダッシュパネル侵入量の関係をプロットしたグラフを示す。表1及び
図6に示すように、軸力比が0.69よりも大きい領域では(表1のNo.2及びNo.4)、軸力比の低下とともにダッシュパネル侵入量は低下する傾向が示された。そして、軸力比が0.69以下の領域(表1のNo.1、No.3、No.5~No.10)では、軸力比によらずダッシュパネル侵入量は±20%の範囲内であり、ほぼ一定であった。これより、ダッシュパネル侵入量に対する臨界軸力比を0.69と決定した。
【0076】
表1において、No.1、No.3及びNo.5~No.10に示す板厚及び引張強度の組み合わせのクラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11は、軸力比F
xが、
図6により決定された臨界軸力比以下の値であった。そのため、これらの板厚及び引張強度の組み合わせのクラッシュボックス21及びフロントサイドメンバ11を有する車体前部構造1は本発明の範囲内であった(発明例)。
【0077】
これに対し、表1において、No.2及びNo.4に示す板厚及び引張強度の組み合わせのクラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11は、軸力比F
xが、
図6により決定された臨界軸力比よりも大きい値であった。そのため、これらの板厚及び引張強度の組み合わせのクラッシュボックス21及びフロントサイドメンバ11を有する車体前部構造1は本発明の範囲外であった(比較例)。
【0078】
また、表1に、クラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11に対してNo.1の板厚を設定したときの重量を基準とし、No.2~No.10に係る板厚及び引張強度の各組み合わせにおけるクラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11の重量差を求めた結果を示す。
【0079】
No.3、No.6~No.9に示す発明例においては、No.1よりもクラッシュボックス21及びフロントサイドメンバ11の引張強度を高くして板厚を薄くしたことで、ダッシュパネル侵入量を低下させずにクラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11が軽量化された。
【0080】
図11に、クラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11の板厚及び引張強度の組み合わせを表1に示すNo.3(発明例2)及びNo.4(比較例2)とした車両モデル101のオフセット衝突の衝突解析により求めた、荷重-ストローク曲線を一例として示す。
【0081】
さらに、
図12に、発明例(No.1、No.3及びNo.10)と比較例(No.4)におけるダッシュパネル侵入量、フットブレーキ侵入量及びクラッシュボックスによる衝突エネルギー吸収量(クラッシュボックスEA量)の結果をまとめたグラフを示す。
なお、
図11及び
図12において、クラッシュボックスEA量は、フロントサイドメンバ11の座屈(折れ変形)が開始する距離及び時間までのクラッシュボックス21の圧縮変形による衝突エネルギーの吸収量である。
【0082】
クラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11の板厚及び引張強度の組み合わせを表1に示すNo.1(発明例1)とした場合、
図11(a)及び
図12に示すように、フロントサイドメンバ11の座屈が開始する距離668.8mm及び時間0.041sまでのクラッシュボックスEA量は58.5kN・mであった。また、ダッシュパネル侵入量は22.5mm、フットブレーキ侵入量は15.0mmであった。
【0083】
表1のNo.3(発明例2)のクラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11の板厚及び引張強度の組み合わせは、No.1(発明例1)よりも軸力比F
xが大きく(No.1:0.50、No.3:0.69)、No.3(発明例2)の軸力比F
xは臨界軸力比(=0.69)に等しいものである。そして、
図11(a)に示すように、フロントサイドメンバ11の座屈(折れ変形)開始までに、クラッシュボックス21のスムーズな蛇腹状の圧縮変形を促進できた。これにより、No.1(発明例1)よりも、クラッシュボックスEA量は6.6%(No.3:62.4kN・m、No.1:58.5kN・m)向上し、ダッシュパネル侵入量は9%(No.3:20.4mm、No.1:22.5mm)、フットブレーキ侵入量は20%(No.3:12.0mm、No.1:15.0mm)軽減した。
さらに、No.1(発明例1)よりもNo.3(発明例2)のクラッシュボックス21の軸力F
x1は53%大きく(No.1:304.9kN、No.3:466.1kN)、クラッシュボックス21の十分な圧縮変形により、No.3(発明例)のクラッシュボックスEA量はNo.1(発明例1)よりも6.6%(No.3:62.4kN・m、No.1:58.5kN・m)向上した。
【0084】
表1のNo.4(比較例2)のクラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11の板厚及び引張強度の組み合わせは、軸力比F
xが臨界軸力比0.69よりも大きいものであり(=0.84)、
図11(b)に示すように、フロントサイドメンバ11の座屈(折れ変形)開始までの距離がNo.1(発明例1)よりも18%短くなり(No.4:550.6mm、No.1:668.8mm)、クラッシュボックス21の圧縮変形を十分に進展させることができなかった。
このため、No.4(比較例2)においては、クラッシュボックス21に用いる鋼板の引張強度を1180MPaとして軸力をNo.1(発明例1)よりも87%増加(No.4:568.8kN、No.1:304.9kN)させたにもかかわらず、クラッシュボックスEA量はNo.1(発明例1)よりも12.8%低下した(No.4:51.0kN・m、No.1:58.5kN・m)。
さらに、No.4(比較例1)においては、フロントサイドメンバ11に折れ変形が開始するまでのクラッシュボックス21の圧縮変形の変形量が小さくなったことにより、ダッシュパネル侵入量は73%(No.4:38.9mm、No.1:22.5mm)、フットブレーキ侵入量は58%(No.4:23.7mm、No.1:15.0mm)増加した。
【0085】
表1のNo.10(発明例8)に示すクラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11の板厚及び引張強度の組み合わせは、No.1(発明例1)よりも軸力比Fxを小さく(No.1:0.50、No.10:0.19)したものであり、フロントサイドメンバ11の座屈(折れ変形)開始までに、クラッシュボックスのスムーズな蛇腹状の軸圧壊を促進できた。これにより、No.10(発明例8)は、No.1(発明例1)と比べると、ダッシュパネル侵入量は11%(No.10:20.0mm、No.1:22.5mm)、フットブレーキ侵入量は18%(No.10:12.3mm、No.1:15.0mm)低減した。なお、No.10(発明例8)は、No.1(発明例1)よりも引張強度の低い鋼板をクラッシュボックス21に用いたため(No.1:440MP級、No.10:270MPa級)、クラッシュボックスEA量は57%減少した(No.10:25.3kN・m、No.1:58.5kN・m)。
【0086】
本実施例では、さらに、板厚及び引張強度の組み合わせを変更した場合について、軸力比とフロントサイドメンバ11及びクラッシュボックス21の重量を算出し、車体前部構造1の軽量化の観点から最適な板厚及び引張強度の組み合わせを決定した。
【0087】
表2に、種々の板厚及び引張強度の組み合わせについて軸力比を求めた結果を示す。
また、表3に、種々の板厚及び引張強度の組み合わせについて、前述した表1のNo.1(発明例1)に係るクラッシュボックス21とフロントサイドメンバ11を基準としてフロントサイドメンバ11及びクラッシュボックス21それぞれの重量差と、それらを足し合わせた重量差を示す。
【0088】
【0089】
【0090】
表2における軸力比及び表3におけるフロントサイドメンバ11とクラッシュボックス21の総重量差において、グレーで塗りつぶした欄は、軸力比が
図6に示す臨界軸力比以下(≦0.69)であった板厚及び引張強度の組み合わせを示す。
【0091】
表2及び表3に示す結果から、フロントサイドメンバ11の板厚をフロントサイドメンバインナ11a(インナ)1.0mm、フロントサイドメンバアウタ11b(アウタ)1.6mm、引張強度を1470MPa級とし、クラッシュボックス21の板厚を1.2mm、引張強度1470MPa級とした場合において、フロントサイドメンバ11とクラッシュボックス21の総重量差の絶対値が最も大きい-2151.2gであり、表2及び表3に示す板厚及び引張強度の組み合わせの中で最適であることが示された。
【0092】
また、クラッシュボックス21による衝突エネルギー吸収量(クラッシュボックスEA量)を最大化する板厚及び引張強度の組み合わせは、表2の欄をグレーで塗りつぶした臨界軸力比以下(≦0.69)となる組み合わせのうち、クラッシュボックス21について算出した軸力Fx1が最大となる組み合わせである。本実施例では、フロントサイドメンバ11の板厚をフロントサイドメンバインナ11a(インナ)1.2mm、フロントサイドメンバアウタ11b(アウタ)1.8mm、引張強度を1470MPa級とし、クラッシュボックス21の板厚を1.4mm、引張強度1470MPa級、と決定することができる。
【0093】
以上、本発明によれば、車両の前突時において、クラッシュボックスを十分に圧縮変形させた後にフロントサイドメンバを折れ変形させることができ、車体部品の客室側への侵入量を所定の水準以下に抑え、衝突エネルギー吸収量を確保できることが示された。さらに、衝突性能(衝突エネルギー吸収量及び車体部品の客室への侵入量)を低下させずに、車体を軽量化できることが実証された。
【符号の説明】
【0094】
1 車体前部構造
11 フロントサイドメンバ
11a フロントサイドメンバインナ
11b フロントサイドメンバアウタ
13 折れビード
21 クラッシュボックス
21a クラッシュボックスインナ
21b クラッシュボックスアウタ
23 ビード
31 ダッシュロアパネル
31a 侵入量評価部位
33 バンパービーム
101 車両モデル
103 衝突体