(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】ポリエステル樹脂の製造方法およびポリエステル樹脂
(51)【国際特許分類】
C08G 63/88 20060101AFI20250527BHJP
C08G 63/183 20060101ALI20250527BHJP
C08J 11/04 20060101ALI20250527BHJP
【FI】
C08G63/88
C08G63/183
C08J11/04 CFD
(21)【出願番号】P 2024501723
(86)(22)【出願日】2023-12-18
(86)【国際出願番号】 JP2023045232
(87)【国際公開番号】W WO2024135597
(87)【国際公開日】2024-06-27
【審査請求日】2024-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2022202697
(32)【優先日】2022-12-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】池田 裕樹
(72)【発明者】
【氏名】東城 裕介
(72)【発明者】
【氏名】梅津 秀之
【審査官】石塚 寛和
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-127569(JP,A)
【文献】特開2004-277718(JP,A)
【文献】特開2000-198836(JP,A)
【文献】特開2006-241349(JP,A)
【文献】特開2017-160359(JP,A)
【文献】特開2017-36442(JP,A)
【文献】特開2014-181245(JP,A)
【文献】特開2007-119738(JP,A)
【文献】特開2004-323837(JP,A)
【文献】特開2004-277719(JP,A)
【文献】特開2000-309631(JP,A)
【文献】特開2000-111768(JP,A)
【文献】特開平10-87806(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
C08J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル樹脂[A]100質量部に対してアルキレングリコール0.1~5.0質量部を添加し、ポリエステル樹脂[A]の融点T
mA(℃)を超える温度で加熱してポリエステル樹脂[B]を得る加熱処理[1]工程、
および得られたポリエステル樹脂[B]をポリエステル樹脂[B]の融点T
mB(℃)に対してT
mB(℃)以下の温度で加熱する加熱処理[2]工程を含み、
ポリエステル樹脂[B]が
、ポリエステル樹脂[A]の融点T
mA
(℃)に対して沸点が(T
mA
-90)℃以上(T
mA
+20)℃以下の範囲内にある未反応のアルキレングリコールを0.05質量%以上4.76質量%以下含有する、
ポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項2】
ポリエステル樹脂[A]が回収ポリエステル樹脂である、請求項1に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記加熱処理[1]工程が押出機を用いて実施される、請求項1または2に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記ポリエステル樹脂[A]が少なくともポリブチレンテレフタレートを含む、請求項1または2に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記アルキレングリコールが1,4-ブタンジオールである、請求項4に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
【請求項6】
回収ポリエステル樹脂を原料に含み、環状三量体の含有率が0.20質量%未満であり、固有粘度が0.70dL/g以上1.00dL/g以下である、ポリブチレンテレフタレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリエステル樹脂の製造方法およびポリエステル樹脂に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル樹脂は、優れた機械特性や絶縁性、耐熱性、成形加工性を有するため、各種容器、フィルム、電気・電子機器部品、自動車部品、機械部品などに幅広く使用されている。電気・電子機器部品や自動車部品の具体例としては、コネクター、リレー、スイッチなどの工業用成形品として使用されている。
【0003】
しかし、近年、工業用成形品の小型化・軽量化に対する要求がますます高まっており、特に自動車や電気・電子機器用途に用いるポリエステル樹脂はこれらの要求に対し、機械特性低下や成形時の金型汚染を発生させることなく、溶融時の流動性を改良することが望まれている。
【0004】
特にポリエステル樹脂には、環状三量体を主成分とする環状オリゴマーが含まれており、成形時にこれらが成形品表面にブリードアウトし、金型の表面に付着することで、金型汚れが発生する。このような金型汚れは、得られる成形品の表面荒れや白化の原因となり、規格外品(不良品)を発生させる。また、金型汚れを頻繁に除去するために、生産を停止しなければならず、生産性が低下する課題があった。そのため、オリゴマー含有率の低いポリエステル樹脂が求められている。
【0005】
また、近年はさらに脱炭素化社会に向けたポリエステル樹脂のリサイクルの要望も高まってきている。生産工程での規格外品や消費されて廃棄された製品から回収した回収ポリエステル樹脂を、再度ポリエステル樹脂製品に再生することで、廃棄物を削減していくことも求められている。
【0006】
オリゴマー含有率の低いポリエステル樹脂を得る方法として、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸および/またはそのアルキルエステル誘導体と1,4-ブタンジオールを主成分とするジオールをエステル化反応またはエステル交換反応し、次いで溶融重合させて、末端カルボキシル基濃度が10eq/t以下、固有粘度が0.6~0.7dL/gである低重合度ポリブチレンテレフタレートを得たのち固相重合することを特徴とする高重合度ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造方法(特許文献1)や、テレフタル酸とエチレングリコールを主成分とするポリエステル樹脂の製造方法において、特定の極限粘度、アンチモン元素濃度、リン元素濃度、カルボキシル末端基量、ヒドロキシ末端基量であるプレポリマーを固相重合することを特徴とするポリエステル樹脂の製造方法(特許文献2)が開示されている。
【0007】
また、ポリエステル樹脂をリサイクルする方法として、ポリエステル樹脂とアルキレングリコールとを前記ポリエステル樹脂の融点以上の温度で加圧するポリエステル樹脂解重合および解重合物を重合する工程を含む製造方法(特許文献3)が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-181245公報
【文献】特開2002-20473号公報
【文献】特開2005-97521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献1に開示された発明は、オリゴマー含有率の低いポリエステル樹脂を得るためにはポリエステル樹脂の重合度を高める必要があり、結果として樹脂の流動性が低下してしまう課題があった。
【0010】
また、特許文献2に開示された発明は、流動性が低下しないように、短時間での固相重合を実施した場合にオリゴマー含有率の低減が不十分となり、オリゴマー含有率の低下と良流動化の両立が困難であるという課題があった。
【0011】
また、特許文献3に開示された発明では、ポリエステル樹脂を再生させるために多量の石油由来のアルキレングリコールを添加する必要があり、原料由来の二酸化炭素排出量や、加熱に必要なエネルギー量が増加することから非効率的であるという課題があった。また、得られる再生ポリエステル樹脂が高温の溶融重合時の熱分解により、酸価が上昇し、耐加水分解性などが低下するといった課題があった。
【0012】
本発明では、流動性に優れつつオリゴマー含有率を低減したポリエステル樹脂およびその製造方法を提供すること、さらに回収ポリエステル樹脂を効率よく再生し、その品質を向上させるリサイクルポリエステル樹脂の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために、本発明は、以下に示す手段を提供する。
1.ポリエステル樹脂[A]100質量部に対してアルキレングリコール0.1~5.0質量部を添加し、ポリエステル樹脂[A]の融点TmA(℃)を超える温度で加熱してポリエステル樹脂[B]を得る加熱処理[1]工程、
および得られたポリエステル樹脂[B]をポリエステル樹脂[B]の融点TmB(℃)に対してTmB(℃)以下の温度で加熱する加熱処理[2]工程を含み、
ポリエステル樹脂[B]が未反応のアルキレングリコールを0.05質量%以上4.76質量%以下含有する、
ポリエステル樹脂の製造方法。
2.ポリエステル樹脂[A]が回収ポリエステル樹脂である、1項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
3.前記加熱処理[1]工程が押出機を用いて実施される、1項または2項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
4.前記ポリエステル樹脂[A]が少なくともポリブチレンテレフタレートを含む1項~3項のいずれかに記載のポリエステル樹脂の製造方法。
5.前記アルキレングリコールが1,4-ブタンジオールである、4項に記載のポリエステル樹脂の製造方法。
6.オリゴマー含有率が0.30質量%未満であり、固有粘度が0.70dL/g以上1.00dL/g以下である、ポリエステル樹脂。
7.前記ポリエステル樹脂がポリブチレンテレフタレートである、6項に記載のポリエステル樹脂。
【発明の効果】
【0014】
本発明により、流動性が良く成形時に樹脂の分解や成形不良が抑制され、成形時のオリゴマーによる金型汚れが少ない成形性、生産性に優れたポリエステル樹脂およびその製造方法を提供することができる。また、この製造方法はバージン樹脂の製造だけでなく、回収ポリエステル樹脂を再利用したリサイクルポリエステル樹脂の製造にも適用することができ、ケミカルリサイクルと比較して低コストで、マテリアルリサイクルと比較して高品質なリサイクルポリエステル樹脂を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明のポリエステル樹脂の製造方法は、ポリエステル樹脂[A]にアルキレングリコールを添加し、ポリエステル樹脂[A]の融点を超える温度で加熱してポリエステル樹脂[B]を得る加熱処理[1]工程、および得られたポリエステル樹脂[B]をポリエステル樹脂[B]の融点以下の温度で加熱する加熱処理[2]工程を含む。
【0016】
加熱処理[1]工程において、ポリエステル樹脂[A]に所定量のアルキレングリコールを添加し加熱処理[1]を実施することで、アルキレングリコールとポリエステル樹脂[A]が反応し、水酸基量を増加させながらポリエステル樹脂[A]を低粘度化させつつ、さらに一部未反応のアルキレングリコールを含有させることができる。そして加熱処理[2]工程において、未反応のアルキレングリコールの存在下で加熱処理[2]を実施することで、環状オリゴマーの開環反応と揮発が促進され、オリゴマー含有率を効率的に低減しつつ、流動性に優れたポリエステル樹脂を得ることができる。また、本発明で使用するアルキレングリコールは少量でよく、くわえてポリエステル樹脂[A]の融点を超える温度で加熱処理することでアルキレングリコールを短時間で速やかにポリエステル樹脂[A]中に含有させることが可能となる。これにより、必要なアルキレングリコール量や工程におけるエネルギー消費量を少なくすることができ、二酸化炭素排出量を削減することができる。
【0017】
また、通常のリサイクル方法では、リサイクル工程における熱履歴により得られるポリエステル樹脂のオリゴマー含有率および酸価が高くなり、固有粘度がばらつく傾向にあるのに対して、ポリエステル樹脂[A]として回収ポリエステル樹脂を適用し、本発明のポリエステル樹脂の製造方法を実施することで、オリゴマー含有率および酸価が低く、固有粘度のばらつきが小さいリサイクルポリエステル樹脂を提供することが可能となる。
【0018】
本発明の製造方法における各構成要素について詳細を述べる。
【0019】
[ポリエステル樹脂[A]]
本発明に用いることができるポリエステル樹脂[A]は、(1)ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体、(2)ヒドロキシカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体、および(3)ラクトンからなる群より選択される少なくとも1種の残基を主構造単位とする重合体または共重合体である。ここで、「主構造単位とする」とは、全構造単位中、(1)~(3)からなる群より選択される少なくとも1種の残基を50モル%以上有することを指し、それらの残基を80モル%以上有することが好ましい態様である。これらの中でも、(1)ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体の残基を主構造単位とする重合体または共重合体が、機械特性や耐熱性により優れる点で好ましい。
【0020】
上記のジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、ビス(p-カルボキシフェニル)メタン、1,4-アントラセンジカルボン酸、1,5-アントラセンジカルボン酸、1,8-アントラセンジカルボン酸、2,6-アントラセンジカルボン酸、9,10-アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、5-テトラブチルホスホニウムイソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸、シュウ酸、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸、1,3-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸およびこれらのエステル形成性誘導体等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0021】
また、上記のジオールまたはそのエステル形成性誘導体としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、シクロヘキサンジオール、ダイマージオール等の炭素数2~20の脂肪族または脂環式グリコール、ポリエチレングリコール、ポリ-1,3-プロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等の分子量200~100,000の長鎖グリコール、4,4’-ジヒドロキシビフェニル、ハイドロキノン、t-ブチルハイドロキノン、ビスフェノールA、ビスフェノールS、ビスフェノールF等の芳香族ジオキシ化合物およびこれらのエステル形成性誘導体等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0022】
ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体を構造単位とする重合体または共重合体としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンイソフタレート、ポリブチレンイソフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート/デカンジカルボキシレート、ポリプロピレンテレフタレート/5-ナトリウムスルホイソフタレート、ポリブチレンテレフタレート/5-ナトリウムスルホイソフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ポリエチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/ポリエチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリプロピレンテレフタレート/イソフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/ポリテトラメチレングリコール、ポリブチレンテレフタレート/サクシネート、ポリプロピレンテレフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/アジペート、ポリプロピレンテレフタレート/セバケート、ポリブチレンテレフタレート/セバケート、ポリプロピレンテレフタレート/イソフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/サクシネート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/アジペート、ポリブチレンテレフタレート/イソフタレート/セバケート等の芳香族ポリエステル樹脂等が挙げられる。これらの重合体および共重合体は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。ここで、「/」は前後のポリマーの成分を含む共重合体であることを表す。
【0023】
これらの中でも、機械特性および耐熱性をより向上させる観点から、芳香族ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体の残基と脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体の残基を主構造単位とする重合体または共重合体がより好ましく、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体の残基とプロピレングリコール、および1,4-ブタンジオールから選ばれる脂肪族ジオールまたはそのエステル形成性誘導体の残基を主構造単位とする重合体または共重合体がさらに好ましい。
【0024】
中でも、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/セバケートおよびポリブチレンテレフタレート/ナフタレート等から選ばれる少なくとも1種の芳香族ポリエステル樹脂が特に好ましく、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンイソフタレート/テレフタレート、ポリブチレンデカンジカルボキシレート/テレフタレート、ポリブチレンテレフタレート/ナフタレート、ポリブチレン/エチレンテレフタレートから選ばれる少なくとも1種がより好ましい。また、これら2種以上を任意の含有量で用いることもできる。機械特性と成形加工性のバランスに優れる点では、ポリブチレンテレフタレートがさらに好ましい。
【0025】
本発明で用いることができるポリエステル樹脂[A]の酸価は、本発明によって得られるポリエステル樹脂の機械特性の低下抑制ならびに成形性の観点から、100eq/t以下であることが好ましく、より好ましくは60eq/t以下、さらに好ましくは30eq/t以下、特に好ましくは20eq/t以下である。酸価の下限値は、0eq/tである。ここでいう酸価は、ポリエステル樹脂[A]をo-クレゾール/クロロホルム溶媒に溶解させた後、エタノール性水酸化カリウムで滴定し測定した値である。
【0026】
本発明で用いることができるポリエステル樹脂[A]は、得られるポリエステル樹脂[B]の造粒のしやすさの点で、o-クロロフェノール溶液を25℃で測定したときの固有粘度が0.30dL/g以上であることが好ましい。より好ましくは0.36dL/g以上である。ポリエステル樹脂[B]が造粒されていると、後の加熱処理[2]を適切に実施することができる。また、流動性を向上させることができる点から2.00dL/g以下であることが好ましく、1.60dL/g以下がより好ましい。
【0027】
本発明で用いることができるポリエステル樹脂[A]は、得られるポリエステル樹脂[B]の造粒のしやすさの点で、重量平均分子量が9000以上であることが好ましく、より好ましくは10000以上である。ポリエステル樹脂[B]が造粒されていると、後の加熱処理[2]を適切に実施することができる。また、流動性を向上させることができる点から40000以下であることが好ましく、30000以下がより好ましい。ここでいう重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(溶媒:ヘキサフルオロイソプロパノール、標準試料:ポリメタクリル酸メチル)より算出した値である。
【0028】
ポリエステル樹脂[A]の形状としては、フレーク、パウダー、ペレットなどが好ましく挙げられる。後の加熱処理[1]を効率よく実施する観点から、粒径もある程度小さくしておくことが好ましい。したがって、ポリエステル樹脂[A]の形状が大きい場合、1.5~5.0mm程度の適当な大きさに粉砕することが好ましいが、これに限定されるものではない。
【0029】
本発明におけるポリエステル樹脂[A]は、原料から重合反応により得られるバージンポリエステル樹脂[A-1]でもよいし、製造工程での規格外品から得られるプレコンシューマー回収品や、市中に流通するポリエステル樹脂を使用した樹脂製品を回収することで得られるポストコンシューマー回収品などの回収ポリエステル樹脂[A-2]であっても良い。その一方を、あるいは両方を任意の割合で混合して使用することができる。
【0030】
本発明の製造方法は、回収ポリエステル樹脂[A-2]を使用する場合、品質の低い回収ポリエステル樹脂から品質の高いポリエステル樹脂を得ることができ、回収ポリエステル樹脂の使用可能な用途が広がり、廃棄物や二酸化炭素排出量を削減することができるため、回収ポリエステル樹脂[A-2]を使用することが好ましい。
【0031】
[バージンポリエステル樹脂[A-1]]
本発明で用いられるバージンポリエステル樹脂[A-1]は、公知の重縮合法や開環重合法等により製造することができる。製造方法は、バッチ重合および連続重合のいずれでもよく、また、エステル交換反応および直接重合による反応のいずれでも適用することができるが、生産性の観点から、連続重合が好ましく、また、直接重合がより好ましく用いられる。
【0032】
本発明で用いられるバージンポリエステル樹脂[A-1]は、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とを主成分とする縮合反応により得られる重合体または共重合体である場合には、ジカルボン酸またはそのエステル形成性誘導体とジオールまたはそのエステル形成性誘導体とを、エステル化反応またはエステル交換反応し、次いで重縮合反応することにより製造することができる。
【0033】
エステル化反応またはエステル交換反応および重縮合反応を効果的に進めるために、これらの反応時に重合反応触媒を添加することが好ましい。重合反応触媒の具体例としては、チタン酸のメチルエステル、テトラ-n-プロピルエステル、テトラ-n-ブチルエステル、テトライソプロピルエステル、テトライソブチルエステル、テトラ-tert-ブチルエステル、シクロヘキシルエステル、フェニルエステル、ベンジルエステル、トリルエステルあるいはこれらの混合エステル等の有機チタン化合物、ジブチルスズオキシド、メチルフェニルスズオキシド、テトラエチルスズ、ヘキサエチルジスズオキシド、シクロヘキサヘキシルジスズオキシド、ジドデシルスズオキシド、トリエチルスズハイドロオキシド、トリフェニルスズハイドロオキシド、トリイソブチルスズアセテート、ジブチルスズジアセテート、ジフェニルスズジラウレート、モノブチルスズトリクロライド、ジブチルスズジクロライド、トリブチルスズクロライド、ジブチルスズサルファイド、ブチルヒドロキシスズオキシド、メチルスタンノン酸、エチルスタンノン酸、ブチルスタンノン酸等のアルキルスタンノン酸等のスズ化合物、ジルコニウムテトラ-n-ブトキシド等のジルコニア化合物、三酸化アンチモンおよび酢酸アンチモン等のアンチモン化合物等が挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0034】
これらの重合反応触媒の中でも、有機チタン化合物およびスズ化合物が好ましく、チタン酸のテトラ-n-ブチルエステルがさらに好ましく用いられる。重合反応触媒の添加量は、バージンポリエステル樹脂[A-1]100質量部に対して、0.01質量部以上0.2質量部以下の範囲が好ましい。
【0035】
重縮合後のポリエステル樹脂は反応容器から取り出され、冷却して固形状とする。一般的には、ストランド状に取り出されて冷却水中で固化もしくは半固形状とした後にストランドカッターで切断される方法、水中に押し出しながら水中カッターで切断する方法などで造粒されペレットとなる。
【0036】
さらに、バージンポリエステル樹脂[A-1]は、無機粒子、蛍光増白剤、紫外線防止剤、赤外線吸収剤、熱安定剤、酸化防止剤などの添加物を含んでいても良い。
【0037】
[回収ポリエステル樹脂[A-2]]
本発明で用いられる回収ポリエステル樹脂[A-2]は、製造工程での規格外品から得られるプレコンシューマー回収品や市中に流通するポリエステル樹脂を使用した樹脂製品を回収することで得られるポストコンシューマー回収品であり、廃棄物や二酸化炭素排出量を削減しつつ、高品質のポリエステル樹脂を得ることできることから、本発明のポリエステル樹脂の製造方法を実施する際に好適に用いることができる。
【0038】
回収ポリエステル樹脂[A-2]は、例えば、ポリエステル樹脂の製造時やポリエステル樹脂を含むポリエステル樹脂組成物の製造時に発生する規格外のペレット、ボトルやフィルム、繊維、射出成形品などの樹脂製品製造時の規格外品および屑などのプレコンシューマー品、ならびにポリエステル樹脂を含む製品を市中から回収して得たポストコンシューマー品などが挙げられる。
【0039】
回収ポリエステル樹脂[A-2]は、製造されるポリエステル樹脂の特性に影響しない範囲でポリエステル樹脂以外の成分を含有していても構わない。ポリエステル樹脂以外の成分の例としては、例えば安定剤、耐候剤、滑剤、顔料、染料、結晶核剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、着色防止剤、繊維状補強材などの無機充填剤、ポリエステル樹脂以外の他の重合体等を含有することができる。
【0040】
[アルキレングリコール]
本発明で用いられるアルキレングリコールは、前述の[ポリエステル樹脂[A]]の項で例示したジオール成分であればよいが、機械特性の観点からポリエステル樹脂[A]を構成するジオール成分であることが好ましい。ポリエステル樹脂[A]がポリエチレンテレフタレート樹脂であるならエチレングリコールであることが好ましく、ポリエステル樹脂[A]がポリブチレンテレフタレート樹脂であるなら1,4-ブタンジオールであることが好ましい。機械特性と成形加工性のバランスから、ポリブチレンテレフタレートと1,4-ブタンジオールの組み合わせがさらに好ましい。
【0041】
また、本発明で用いられるアルキレングリコールの沸点は、ポリエステル樹脂[A]の融点TmA(℃)に対して(TmA-90)℃以上(TmA+20)℃以下の範囲内にあることが好ましい。アルキレングリコールの沸点が(TmA-90)℃以上、より好ましくは(TmA-60)℃以上、さらに好ましくは(TmA-30)℃以上であれば、加熱処理[1]工程において、アルキレングリコールの揮発を少なく抑え効率的にポリエステル樹脂[A]に添加することができ、後述するポリエステル樹脂[B]の未反応のアルキレングリコールの含有率(詳細は後述する)を高くすることができるため好ましい。また、アルキレングリコールの沸点が(TmA+20)℃以下、より好ましくは(TmA+10)℃以下、さらに好ましくはTmA(℃)以下であれば、後の加熱処理[2]工程において、未反応のアルキレングリコール等が揮発しやすく、揮発によるオリゴマー含有率の低減効果が得られるため好ましい。
【0042】
本発明におけるアルキレングリコールの添加量はポリエステル樹脂[A]100質量部に対して0.1~5.0質量部である。アルキレングリコールの添加量が0.1質量部未満の場合は後の加熱処理[2]による酸価低下効果およびオリゴマー含有率低減効果を発揮することができない。アルキレングリコールの添加量の下限はオリゴマー含有率低減の観点から、好ましくは0.5質量部以上で、より好ましくは1.0質量部以上である。また、アルキレングリコールの添加量が5.0質量部を超えると、ポリエステル樹脂[B]の溶融粘度が低くなりすぎ、均一な形状で樹脂を回収することが困難となり、後の加熱処理[2]を適切に実施できない。アルキレングリコールの添加量の上限はポリエステル樹脂[B]の造粒のしやすさの観点から、好ましくは4.0質量部以下で、より好ましくは3.0質量部以下である。
【0043】
[ポリエステル樹脂[B]]
ポリエステル樹脂[B]は、ポリエステル樹脂[A]に対して後述する加熱処理[1]を実施することで得られる中間体である。
【0044】
ポリエステル樹脂[B]は未反応のアルキレングリコールを0.05質量%以上4.76質量%以下含有する。未反応のアルキレングリコールは加熱処理[1]において添加されるアルキレングリコール成分のうち、未反応の状態で残るものである。未反応のアルキレングリコールの含有率が0.05質量%以上、より好ましくは0.10質量%以上、さらに好ましくは0.20質量%以上である場合、後の加熱処理[2]の際にオリゴマー含有率が低減され、金型汚れが抑制される。ポリエステル樹脂[B]が含有する未反応のアルキレングリコール含有率の上限は、加熱処理[1]において添加されるアルキレングリコール成分の上限と同様にポリエステル樹脂[B]100質量部に対して5.0質量部であり、ポリエステル樹脂[B]100質量%に対して4.76質量%である。造粒のしやすさの観点から、未反応のアルキレングリコールの含有率は好ましくは2.91質量%以下、より好ましくは1.96質量%以下である。
【0045】
未反応のアルキレングリコールの含有率は、ポリエステル樹脂[B]をヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム溶媒に溶解させた後、アセトニトリルを添加して不溶成分を析出させ、ポリテトラフルオロエチレン製ディスクフィルタ(0.45μm)でろ過して得たろ液について、ガスクロマトグラフを用いて定量される。
【0046】
また、ポリエステル樹脂[B]はポリエステル樹脂[A]に含有されていた添加物を含んでいてもよい。
【0047】
本発明におけるポリエステル樹脂[B]は、o-クロロフェノール溶液を25℃で測定したときの固有粘度が0.30dL/g以上0.70dL/g未満であることが好ましい。より好ましくは0.30dL/g以上0.60dL/g未満である。固有粘度が0.30dL/g以上であれば、後の加熱処理[2]工程において粉状の高融点化したポリエステル樹脂が多くならず、成形品中に白色異物が発生しにくいため好ましい。また、0.70dL/g未満であれば、加熱処理[2]工程中に固有粘度が高くなりすぎない範囲で十分にオリゴマー含有率を低減できるため好ましい。
【0048】
本発明におけるポリエステル樹脂[B]は、重量平均分子量が7000以上15000未満であることが好ましい。重量平均分子量が7000以上、より好ましくは9000以上であれば、後の加熱処理[2]工程において粉状の高融点化したポリエステル樹脂が多くなるのを抑え、成形品中に白色異物が発生しにくいため好ましい。また、15000未満、より好ましくは11000未満であれば、加熱処理[2]工程中に固有粘度が高くなりすぎない範囲で十分にオリゴマー含有率を低減できるため好ましい。ここでいう重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(溶媒:ヘキサフルオロイソプロパノール、標準試料:ポリメタクリル酸メチル)より算出した値である。
【0049】
本発明におけるポリエステル樹脂[B]は、オリゴマー含有率低減の観点から水酸基濃度が50eq/t以上であることが好ましい。より好ましくは60eq/t以上であり、さらに好ましくは80eq/t以上である。水酸基濃度が50eq/t以上であれば、十分なオリゴマー含有率低減効果が得られるため好ましい。水酸基濃度の上限は特にないが、造粒されたポリエステル樹脂[B]を製造する場合は350eq/t以下が好ましく、十分なオリゴマー含有率低減効果も発揮される。水酸基濃度は、ポリエステル樹脂[B]を重ヘキサフルオロイソプロパノールで溶解させ、1H-NMR測定を実施することで算出される。
【0050】
本発明におけるポリエステル樹脂[B]の酸価は、本発明の手法によって製造されるポリエステル樹脂の機械特性の低下抑制ならびに成形性の観点から、100eq/t以下であることが好ましく、より好ましくは60eq/t以下、さらに好ましくは30eq/t以下、特に好ましくは20eq/t以下である。酸価の下限値は、0eq/tである。ここでいう酸価は、ポリエステル樹脂[B]をo-クレゾール/クロロホルム溶媒に溶解させた後、エタノール性水酸化カリウムで滴定し測定した値である。
【0051】
[加熱処理[1]工程]
以下に、本発明のポリエステル樹脂[A]を加熱処理し、ポリエステル樹脂[B]を得る方法に関して詳細を説明する。
【0052】
加熱処理[1]工程は、ポリエステル樹脂[A]の融点TmA(℃)を超える温度まで加熱しポリエステル樹脂[A]を溶融させつつ、ポリエステル樹脂[A]100質量部に対してアルキレングリコールを0.1~5.0質量部添加し、所定の時間せん断を与えるものである。加熱処理[1]工程は撹拌翼を備えた重合槽や、“ユニメルト”あるいは“ダルメージ”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸押出機、三軸押出機、コニカル押出機およびニーダータイプの混練機等を用いて実施されることが好ましいがこれに限定するものではない。押出機は短時間でポリエステル樹脂とアルキレングリコールを均一に混合することができ、未反応のアルキレングリコールの含有率を高くできるため、より好ましい。
【0053】
加熱処理[1]工程において、アルキレングリコールを添加するのはポリエステル樹脂[A]の加熱開始直後であってよく、ポリエステル樹脂[A]が溶融した後であってもよい。
【0054】
加熱処理[1]の温度の上限はポリエステル樹脂[A]の融点TmA(℃)に対して(TmA+40)℃以下であることが好ましい。加熱処理[1]の温度を、TmA(℃)を超えて(TmA+40)℃以下とすることで、樹脂の特性を劣化させずに、樹脂を溶融するための最低限の熱量を与えることができる。
【0055】
加熱処理[1]工程の実施時間は30秒以上20分以下であることが好ましい。実施時間が30秒以上であればポリエステル樹脂[A]にアルキレングリコールを均一に含有させることができるため好ましい。実施時間が20分以下、より好ましくは10分以下、さらに好ましくは5分以下であれば、得られるポリエステル樹脂[B]の未反応のアルキレングリコール含有率が低くなりすぎないため好ましい。なお、ここでいう加熱処理[1]の実施時間とは、アルキレングリコールがポリエステル樹脂[A]に添加されてから加熱処理[1]の実施が終了するまでにかかった時間を指す。
【0056】
押出機によって加熱処理[1]を実施する場合、アルキレングリコールの添加はポリエステル樹脂[A]とともに押出機の元込め部と吐出部の途中に液添ノズルを設置してプランジャーポンプを用いて添加する方法や、元込め部等から定量ポンプで供給する方法等を用いてもよい。
【0057】
また、押出機にベント部を設置してもよく、ペレットの品位向上の観点からベント部を大気圧以下に減圧して加熱処理[1]を実施してもよい。一方で、アルキレングリコールの添加位置より下流側にベント部を設置する場合、ベント部の減圧は未反応のアルキレングリコールの含有率を低くする。その場合、未反応のアルキレングリコールの含有率を高くする観点から、アルキレングリコールの添加量が1.5質量部以下の場合、ベント部における圧力を5000Pa以上大気圧以下として加熱処理[1]を実施することが好ましく、アルキレングリコールの添加量が1.5質量部を超え3.0質量部以下の場合、ベント部における圧力を100Pa以上大気圧以下として加熱処理[1]を実施することが好ましい。アルキレングリコールの添加量が3.0質量部を超える場合、ベントアップ抑制の観点から、ベント部における圧力を大気圧として加熱処理[1]を実施することが好ましい。
【0058】
撹拌翼付きの重合槽等で加熱処理[1]を実施する場合、ポリエステル樹脂[A]を溶融するために加熱する時間は5分以上90分以下が好ましい。5分以上であればポリエステル樹脂[A]を十分に溶融させることができるため好ましい。90分以下、より好ましくは60分以下、さらに好ましくは30分以下であれば得られるポリエステル樹脂[B]の熱分解による酸価上昇が少ないため好ましい。また、得られるポリエステル樹脂[B]に含まれる未反応のアルキレングリコール含有率が高くなることから、ポリエステル樹脂[A]が溶融した後から添加することが好ましい。
【0059】
得られるポリエステル樹脂[B]は、後の加熱処理[2]を適切に実施するため造粒されることが好ましい。ポリエステル樹脂[B]はストランド状に押し出したあとカットするか、水中で押し出しながらカットし、長さ1.00mm以上5.00mm以下、直径1.00mm以上5.00mm以下のペレットとすることが好ましいが、造粒方法はこれらに限定されるものではない。ペレットの長さおよび直径が1.00mm以上、より好ましくは1.50mm以上であると加熱処理[2]の際に短時間で固有粘度が上がりすぎず、適切な時間加熱処理[2]を実施できることからオリゴマー含有率の低減効果が効率良く発揮されるため好ましい。また、ペレットの長さおよび直径が5.00mm以下、より好ましくは3.70mm以下であるとペレットの中心部から表面までの距離が長くなりすぎず、加熱処理[2]の際にペレット内部のオリゴマーが効率的に低減されるため好ましい。
【0060】
[加熱処理[2]工程]
本発明で得られるポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂[B]に対して加熱処理[2]を実施することによって得られる。本発明における加熱処理[2]工程は、不活性ガス流通下、または高真空下において、処理温度がポリエステル樹脂[B]の融点TmB(℃)に対してTmB(℃)以下の条件で実施される。加熱処理[2]の温度をTmB(℃)以下とすることで、ポリエステル樹脂[B]が溶融することによるオリゴマー含有率上昇および酸価上昇を抑えることができる。また、加熱処理[2]の温度を好ましくは(TmB-60)℃以上、より好ましくは(TmB-40)℃とすることで、ポリエステル樹脂[B]中の末端水酸基および未反応のアルキレングリコールによる酸価低下効果およびオリゴマー含有率の低減効果を得ることができる。ポリエステル樹脂[B]がポリエチレンテレフタレート樹脂である場合、190~250℃の条件下で加熱処理[2]が実施されることが好ましく、より好ましくは195~240℃である。ポリエステル樹脂[B]がポリブチレンテレフタレート樹脂である場合、180~210℃の条件下で加熱処理[2]が実施されることが好ましく、より好ましくは185~200℃である。
【0061】
本発明における加熱処理[2]工程中、ポリエステル樹脂[B]の固相重合が進行してもよい。固相重合の進行は、得られるポリエステル樹脂の機械特性を向上させる一方で、流動性を低下させてしまう。そのため、加熱処理[2]は、最終的に得られるポリエステル樹脂(以下、ポリエステル樹脂[C]と呼ぶ場合がある。)の固有粘度が、0.70dL/g以上1.00dL/g以下の範囲になるよう、実施することが好ましい。ポリエステル樹脂[C]の固有粘度が0.70dL/g以上になるまで加熱処理[2]を実施すると、未反応のアルキレングリコールはポリエステル成分との反応による消費や揮発により含有率は0.03質量%以下にまで減少する。ポリエステル樹脂の固有粘度は、ポリエステル樹脂のo-クロロフェノール溶液を25℃で測定して求めた値を示す。
【0062】
加熱処理[2]の実施時間は5時間以上20時間以下であることが好ましい。実施時間が5時間以上、より好ましくは10時間以上であればポリエステル樹脂[C]の固有粘度が低くなりすぎず、成形品の強度を向上でき、成形品のバリの発生が抑えられ、オリゴマー含有率を効率良く低減させることができる。実施時間が20時間以下であればポリエステル樹脂[C]の固有粘度が高くなりすぎず流動性に優れる。
【0063】
[ポリエステル樹脂[C]]
本発明によって得られるポリエステル樹脂[C]は、[ポリエステル樹脂[A]]で開示したポリエステル樹脂のいずれかが選択されるが、機械特性と成形加工性のバランスに優れる点で、ポリブチレンテレフタレートが好ましい。
【0064】
本発明によって得られるポリエステル樹脂[C]の酸価は、機械特性の低下抑制ならびに成形性の観点から、50eq/t以下となることが好ましく、より好ましくは30eq/t以下、さらに好ましくは20eq/t以下、さらに好ましくは15eq/t以下、さらに好ましくは10eq/t以下である。酸価の下限値は、0eq/tである。ここでいう酸価は、得られたポリエステル樹脂をo-クレゾール/クロロホルム溶媒に溶解させた後、エタノール性水酸化カリウムで滴定し測定した値である。
【0065】
本発明によって得られるポリエステル樹脂[C]のオリゴマー含有率は0.30質量%未満であることが好ましい。オリゴマー含有率が0.30質量%未満、より好ましくは0.25質量%未満、さらに好ましくは0.20質量%未満、さらに好ましくは0.15質量%未満であると成形時の金型汚れが大きく抑制され、生産時の連続成形における金型洗浄の頻度が低減される。オリゴマー含有率の下限値は0.00質量%である。ここでいう、オリゴマー含有率とは、ポリエステル樹脂[C]をヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム溶媒(1/1、体積比)に溶解させた後、アセトニトリル溶媒で高分子量成分を析出させ、ポリテトラフルオロエチレン製ディスクフィルタ(0.45μm)でろ過して得たろ液について、高速液体クロマトグラフを用いて環状三量体を定量した値である。
【0066】
本発明のポリエステル樹脂[C]は、o-クロロフェノール溶液を25℃で測定したときの固有粘度が0.70dL/g以上1.00dL/g以下である。固有粘度が0.70dL/g以上、より好ましくは0.80dL/g以上であると成形品の強度を向上でき、また成形品のバリの発生が抑えられる。固有粘度が1.00dL/g以下、より好ましくは0.90dL/g以下であると押出時および成形時の流動性が良く、樹脂の分解による成形品の機械特性の低下、成形不良などが抑制される。
【0067】
本発明のポリエステル樹脂[C]は、重量平均分子量が13000以上18000以下であることが好ましい。重量平均分子量が13000以上、より好ましくは15000以上であると成形品の強度を向上でき、また成形品のバリの発生が抑えられるため好ましい。重量平均分子量が18000以下、より好ましくは16000以下であると押出時および成形時の流動性が良く、樹脂の分解による成形品の機械特性の低下、成形不良などが抑制されるため好ましい。ここでいう重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフ(溶媒:ヘキサフルオロイソプロパノール、標準試料:ポリメタクリル酸メチル)より算出した値である。
【0068】
本発明のポリエステル樹脂は、必要に応じてその他の成分を溶融混練し、ポリエステル樹脂組成物とすることができる。
【0069】
溶融混練の方法としては、例えば、ポリエステル樹脂および各種添加剤等を予備混合して、押出機等に供給して溶融混練する方法、あるいは、重量フィダー等の定量フィダーを用いて各成分を所定量押出機等に供給して溶融混練する方法等が挙げられる。
【0070】
上記の予備混合の例として、ドライブレンドする方法や、タンブラー、リボンミキサーおよびヘンシェルミキサー等の機械的な混合装置を用いて混合する方法等が挙げられる。また、繊維状強化材は、二軸押出機等の多軸押出機の元込め部と吐出部の途中にサイドフィーダーを設置して添加してもよい。また、液体の添加剤の場合は、二軸押出機等の多軸押出機の元込め部と吐出部の途中に液添ノズルを設置してプランジャーポンプを用いて添加する方法や、元込め部等から定量ポンプで供給する方法等を用いてもよい。
【0071】
上記組成物は、造粒してから成形加工することが好ましい。造粒の方法として、ポリエステル樹脂およびその他添加剤等を、例えば“ユニメルト”あるいは“ダルメージ”タイプのスクリューを備えた単軸押出機、二軸押出機、三軸押出機、コニカル押出機およびニーダータイプの混練機等を用いて、ストランド状に押し出したあとカットするか、水中で押し出しながらカットし、長さ1.5~5.0mm、直径1.5~5.0mm程度のペレットとすることが好ましいが、造粒方法はこれらに限定されるものではない。
【0072】
本発明に係るポリエステル樹脂からなるポリエステル樹脂組成物を溶融成形することにより、フィルム、繊維およびその他各種形状の成形品を得ることができる。溶融成形方法としては、例えば、射出成形、押出成形およびブロー成形等が挙げられ、射出成形が特に好ましく用いられる。
【0073】
射出成形の方法としては、通常の射出成形方法以外にもガスアシスト成形、2色成形、サンドイッチ成形、インモールド成形、インサート成形およびインジェクションプレス成形等が知られているが、いずれの成形方法も適用できる。
【0074】
本発明に係るポリエステル樹脂からなる成形品は、機械特性および耐加水分解性に優れる特徴を活かした機械機構部品、電気部品、電子部品および自動車部品等各種用途に利用することができる。機械機構部品、電気部品、電子部品および自動車部品の具体的な例としては、ブレーカー、電磁開閉器、フォーカスケース、フライバックトランス、複写機やプリンターの定着機用成形品、一般家庭電化製品、OA機器等のハウジング、バリコンケース部品、各種端子板、変成器、プリント配線板、ハウジング、端子ブロック、コイルボビン、コネクター、リレー、ディスクドライブシャーシー、トランス、スイッチ部品、コンセント部品、モーター部品、ソケット、プラグ、コンデンサー、各種ケース類、抵抗器、金属端子や導線が組み込まれる電気・電子部品、コンピューター関連部品、音響部品等の音声部品、照明部品、電信機器関連部品、電話機器関連部品、エアコン部品、VTRやテレビ等の家電部品、複写機用部品、ファクシミリ用部品、光学機器用部品、自動車点火装置部品、自動車用コネクター、および各種自動車用電装部品等が挙げられる。
【実施例】
【0075】
次に、実施例により本発明のポリエステル樹脂の製造方法およびポリエステル樹脂について具体的に説明する。
【0076】
[各特性の測定方法]
各実施例および比較例においては、次に記載する測定方法によって、その特性を評価した。
【0077】
1.ポリエステル樹脂の融点
ポリエステル樹脂を約10mg採取し、窒素雰囲気下、示差走査熱量計((株)パーキンエルマー製DSC7)を用いて測定した。ポリエステル樹脂を20℃/minの昇温速度で280℃まで昇温して溶融状態とした後、20℃/minの降温速度で30℃まで降温し、その後20℃/minの昇温速度で昇温したときに観測される吸熱ピークの頂点の温度を融点とした。
【0078】
2.ポリエステル樹脂の酸価
ポリエステル樹脂約2gをクロロホルム/o-クレゾール(1/2、体積比)調整液50mLに溶解した。この溶液にブロモチモールブルー/エタノール溶液を適量添加の後、0.02規定の水酸化カリウムのエタノール溶液にて滴定し、以下の式より算出した(単位:eq/t)。
AV=((V-V0)×C)/(W×10-3)
AV:酸価[eq/t]、V:ポリエステル樹脂溶液の滴定量[mL]、V0:クロロホルム/o-クレゾール(1/2、体積比)調整液の滴定量[mL]、C:水酸化ナトリウム/エタノール溶液濃度[mol/L]、W:ポリエステル樹脂の質量[g]。
【0079】
3.ポリエステル樹脂の固有粘度
ポリエステル樹脂を0.5質量%の濃度になるようo-クロロフェノールに溶解させた後、ウベローデ粘度計を使用し、温度25℃で溶液の流出時間と溶媒の流出時間を測定し、以下の式より算出した。
[η]=0.25×(t/t0-1+3×ln(t/t0))/c
[η]:固有粘度[dL/g]、
t:ポリエステル樹脂溶液の流出時間[s]、
t0:o-クロロフェノールの流出時間[s]、
c:溶液濃度[g/cm3]。
【0080】
4.ポリエステル樹脂のオリゴマー含有率
ポリエステル樹脂をヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム溶媒(1/1、体積比)に溶解させた後、アセトニトリル溶媒で高分子量成分を析出させ、ポリテトラフルオロエチレン製ディスクフィルタ(0.45μm)でろ過して得たろ液について、高速液体クロマトグラフ((株)島津製作所製LC-10A、カラム:Inertsil OSD-3V、カラム温度:45℃、移動相:水/アセトニトリル(1/4、体積比)、流速1.5mL/min、検出波長:UV242mm)を用いて分析した。種々濃度の環状三量体のアセトニトリル溶液を調製し、上記クロマトグラフで検量線を作成することで、ポリエステル樹脂に含有している環状三量体を定量し、オリゴマー含有率を得た(単位:質量%)。
【0081】
5.ポリエステル樹脂の未反応アルキレングリコール含有率
ポリエステル樹脂をヘキサフルオロイソプロパノール/クロロホルム溶媒(1/1、体積比)に溶解させた後、アセトニトリル溶媒で高分子量成分を析出させ、ポリテトラフルオロエチレン製ディスクフィルタ(0.45μm)でろ過して得たろ液について、ガスクロマトグラフ((株)島津製作所製GC-2010、カラム:DB-5、カラム温度:80-300℃、昇温速度:6℃/min、気化室温度:300℃、移動相:ヘリウム、検出器:FID)を用いて分析した。種々濃度のアルキレングリコールのアセトニトリル溶液を調製し、上記クロマトグラフで検量線を作成することで、アルキレングリコールを定量し、アルキレングリコール含有率を得た(単位:質量%)。
【0082】
6.金型汚れの有無
ポリエステル樹脂[C]に対して射出成形機(日精樹脂工業(株)製NEX1000)を用いて、ポリエステル樹脂[C]がポリブチレンテレフタレートの場合は成形温度280℃、金型温度80℃、冷却時間10秒の条件で、ポリエステル樹脂[C]がポリエチレンテレフタレートの場合は成形温度280℃、金型温度120℃、冷却時間10秒の条件で、ポリエステル樹脂[C]がポリエステルエラストマーの場合は成形温度280℃、金型温度60℃、冷却時間10秒の条件で、幅80mm×長さ80mm×厚さ2mmの角板を成形した。角板を10000本連続成形した後の金型を目視で観察し、オリゴマーの析出による金型汚れが全くないものをA、金型の一部に薄く付着しているものをB、金型全体に薄く付着しているものをC、金型の全体が白く濁り一部で白い異物がはっきりと見えるものをDとして評価し、AおよびBを金型汚れ抑制に優れていると判断した。
【0083】
7.ポリエステル樹脂の流動性
厚み1mm、幅10mmの短冊型成形品の金型を用い、射出成形時における流動長により判断した。射出成形条件は、ポリエステル樹脂[C]がポリブチレンテレフタレートである時、シリンダー温度250℃、金型温度80℃、射出圧30MPa、射出速度100mm/sである。ポリエステル樹脂[C]がポリエチレンテレフタレートである時は、シリンダー温度280℃、金型温度40℃、射出圧30MPa、射出速度100mm/sである。ポリエステル樹脂[C]がポリエステルエラストマーである時は、シリンダー温度250℃、金型温度60℃、射出圧30MPa、射出速度100mm/sである。流動長が100mm以上の樹脂を流動性に優れると判断した。110mm以上はより優れ、120mm以上はさらに優れ、140mm以上は特に優れる。
【0084】
8.ポリエステル樹脂の機械特性
射出成形機(日精樹脂工業(株)製NEX1000)を用いて、試験片厚み4mmのISO-1Aダンベルの引張物性評価用試験片を得た。ポリエステル樹脂[C]がポリブチレンテレフタレートである時、シリンダー温度250℃、金型温度80℃、射出速度50mm/s、射出時間と保圧時間は合わせて10秒、冷却時間10秒の成形サイクル条件で成形した。ポリエステル樹脂[C]がポリエチレンテレフタレートである時は、シリンダー温度280℃、金型温度80℃、射出速度50mm/s、射出時間と保圧時間は合わせて10秒、冷却時間10秒の成形サイクル条件で成形した。ポリエステル樹脂[C]がポリエステルエラストマーである時は、シリンダー温度250℃、金型温度60℃、射出速度50mm/s、射出時間と保圧時間は合わせて10秒、冷却時間10秒の成形サイクル条件で成形した。また、得られた引張物性評価用試験片について、ISO527-1,2(2012年)に従い、引張試験機((株)島津製作所製オートグラフAG-50kNXPlus)を用い、引張最大点強度(引張強度)を測定した。値は3本の測定値の平均値とした。
【0085】
9.ポリエステル樹脂の耐加水分解性
射出成形機(日精樹脂工業(株)製NEX1000)を用いて、8項と同一の射出成形条件で、試験片厚み4mmのISO-1Aダンベルの引張物性評価用試験片を得た。得られたISO-1Aダンベルを121℃×100%RHの温度と湿度に設定された高度加速寿命試験装置(エスペック(株)社製EHS-411)に50時間投入し湿熱処理を行った。湿熱処理後の成形品を8項の引張試験と同一の条件で引張強度を測定し、3本の測定値を平均値とした。下記式による湿熱処理未処理の引張強度に対する湿熱処理後の引張強度の値を百分率で表した値を、引張強度保持率とした。
(湿熱処理後の引張強度/湿熱処理未処理の引張強度)×100=引張強度保持率(%)
引張強度保持率が70%未満の樹脂は耐加水分解性に劣ると判断し、引張強度保持率の値が大きい材料が優れていると判断した。80%以上がより優れ、90%以上がさらに優れ、99%以上が特に優れていると判断した。
【0086】
<実施例および比較例で用いた材料>
(1)ポリエステル樹脂[A]
バージンポリエステル樹脂[A-1]
・PBT1
ポリブチレンテレフタレート、融点225℃、東レ(株)製、酸価20eq/t、固有粘度0.88dL/g、重量平均分子量16100
・PBT2
ポリブチレンテレフタレート、融点222℃、東レ(株)製、酸価30eq/t、固有粘度1.30dL/g、重量平均分子量23000
・PET1
ポリエチレンテレフタレート、融点260℃、東レ(株)製、酸価20eq/t、固有粘度0.80dL/g、重量平均分子量15000
・TPEE
ポリエステルエラストマー、融点201℃、セラニーズ製“ハイトレル”(登録商標)5556、固有粘度1.46dL/g。
【0087】
回収ポリエステル樹脂[A-2]
・PBT3
ポリブチレンテレフタレート樹脂製造時の規格外ペレット回収品、融点223℃、酸価20eq/t、固有粘度1.08dL/g、重量平均分子量19100
・PBT4
ポリブチレンテレフタレート樹脂からなる樹脂組成物の射出成形時の成形屑回収品、融点220℃、酸価70eq/t、固有粘度0.53dL/g、重量平均分子量11900。
【0088】
・PBT6
ポリブチレンテレフタレート樹脂からなる樹脂組成物の射出成形時の成形屑回収品、融点223℃、酸価56eq/t、固有粘度0.61dL/g、重量平均分子量12800。
【0089】
(2)アルキレングリコール
・1,4-ブタンジオール(BDO、沸点228℃、三菱ケミカル(株)製)
・エチレングリコール(EG、沸点198℃、三菱ケミカル(株)製)。
【0090】
(3)ジカルボン酸
・テレフタル酸(三井化学(株)製)。
【0091】
(4)エステル交換触媒
・テトラ-n-ブチルオルトチタネート(東京化成工業(株)製)。
【0092】
(5)黒色着色用マスターバッチ
・MB-9811 BLACK(ポリブチレンテレフタレート、顔料濃度20%、越谷化成工業(株)製)。
【0093】
<低粘度なポリエステル樹脂[A](PBT5、PET2)の調製>
・PBT5(比較例3、4)
テレフタル酸2000gと1,4-ブタンジオール1627gのスラリー(テレフタル酸/1,4-ブタンジオールのモル比=1/1.5)にテトラ-n-ブチルチタネート(テレフタル酸/テトラ-n-ブチルチタネートの質量比=1/0.0005)を添加し、温度190℃、窒素気流下にてエステル交換反応を開始した。その後、徐々に昇温し、最終的に温度240℃の条件下でエステル交換反応を3時間行った。得られた反応物に、重縮合反応触媒として三酸化アンチモン(生成するポリエステル樹脂100gに対して1.0×10-4モル)を添加し、温度250℃、圧力100Paの条件で2時間、重合反応させたのち、ストランド状に吐出し、冷却バスを通し、ストランドカッターにより引き取り速度を調節して表3に記載のペレットサイズになるように造粒してポリブチレンテレフタレートのプレポリマー(PBT5、酸価26eq/t、固有粘度0.58dL/g)のペレットを得た。得られたペレットを110℃の温度の熱風乾燥機で6時間乾燥した。
【0094】
・PET2(比較例6、7)
1,4-ブタンジオールをエチレングリコールに変更したことと重合反応の温度を280℃に変更したこと以外は、PBT5の調製と同様にして、ポリエチレンテレフタレートのプレポリマー(PET2、酸価20eq/t、固有粘度0.50dL/g)のペレットを得た。得られたペレットを110℃の温度の熱風乾燥機で6時間乾燥した。
【0095】
[実施例1-20、比較例1-14]
表1~3に示す、各例に対応するそれぞれのポリエステル樹脂[A]に対し、加熱処理[1]および加熱処理[2]を施した。比較例3、4、6、7については加熱処理[1]を実施せず、ポリエステル樹脂[A]に対してそのまま加熱処理[2]を実施した。比較例8は加熱処理[2]を実施せず、ポリエステル樹脂[B]がポリエステル樹脂[C]であるとして、そのまま各特性の評価を行った。比較例9および11は加熱処理[1]および[2]を実施せず、ポリエステル樹脂[A]がポリエステル樹脂[C]であるとして、そのまま各特性の評価を行った。
【0096】
<実施例1-6、9-20、比較例5、8、13、14における加熱処理[1]>
実施例1-6、9-20、比較例5、8、13、14においては、押出機による加熱処理[1]を実施した。スクリュー径30mm、L/D35の同方向回転ベント付き二軸押出機(日本製鋼所製、TEX-30α)を用いて、ポリエステル樹脂[A]およびアルキレングリコールを表1に示した組成で二軸押出機の元込め部から添加した。実施例1-6、9-18および比較例5、8、13ではベント部を大気圧、実施例19、20および比較例14ではベント部を減圧状態として加熱処理[1]を実施した。なお、アルキレングリコールは定量ポンプによって供給した。さらに、ポリエステル樹脂[A]がポリブチレンテレフタレートの場合は混練温度250℃、スクリュー回転200rpm、ポリエチレンテレフタレートの場合は混練温度280℃、スクリュー回転200rpm、ポリエステルエラストマーの場合は混練温度250℃、スクリュー回転200rpmの押出条件で溶融混錬を行い、ストランド状に吐出し、冷却バスを通し、ストランドカッターにより引き取り速度を調節して表1に記載のペレットサイズになるように造粒してポリエステル樹脂[B]のペレットを得た(表1)。得られたペレットを110℃の温度の熱風乾燥機で6時間乾燥した。
【0097】
なお、ポリエステル樹脂[B]の調製時、押出機の元込め部から黒色着色用マスターバッチMB-9811 BLACKをポリエステル樹脂[A]100質量部に対して3質量部添加し、添加した時点から時間の計測を開始して、吐出口より吐出されてくる樹脂に黒色着色用マスターバッチ由来の黒色が確認された後、その黒色が確認されなくなった時点で時間の計測を終了し、計測開始から終了までにかかった時間を本実施例における加熱処理時間とした(表1)。この操作は後の加熱処理[2]工程に必要な量のポリエステル樹脂[B]を得た後に行い、黒色着色用マスターバッチを添加して得られたポリエステル樹脂は後の工程では使用しなかった。
【0098】
比較例5は加熱処理[1]後のポリエステル樹脂[B]の溶融粘度が低くストランド状に吐出することが困難であったため、後の操作は実施できなかった。
【0099】
<比較例1、2、10および12における加熱処理[1]>
比較例1、2、10および12ではアルキレングリコールを添加せず、ポリエステル樹脂[A]のみを押出機に通じた。それ以外は実施例1-6、比較例5と同様にして、加熱処理[1]を実施した。
【0100】
<実施例7における加熱処理[1]>
実施例7においては、重合槽による加熱処理[1]を実施した。撹拌翼付きの5Lの重合槽にPBT1を1000g投下し、窒素気流化、250℃にまで昇温し、30分間撹拌した。PBT1が溶融したことを確認したのち、1,4-ブタンジオールを10g添加し、1分間撹拌した。溶融物の粘度が安定していることを確認し、吐出口よりストランド状に吐出し、冷却バスを通し、ストランドカッターにより引き取り速度を調節して表1に記載のペレットサイズになるように造粒してポリエステル樹脂[B]のペレットを得た(表1)。得られたペレットを110℃の温度の熱風乾燥機で6時間乾燥した。
【0101】
なお、ポリエステル樹脂[A]にアルキレングリコールを添加してから吐出開始までの時間をt1、アルキレングリコールを添加してから吐出終了までの時間をt2とし、下記式により加熱処理時間tを算出した。
t=(t1+t2)/2 …(式)。
【0102】
<実施例8における加熱処理[1]>
実施例8においては、重合槽による加熱処理[1]を実施した。撹拌翼付きの5Lの重合槽にPBT1を1000g投下し、窒素気流化、250℃にまで昇温し、30分間撹拌した。PBT1が溶融したことを確認したのち、1,4-ブタンジオールを10g添加し、5分間撹拌した。溶融物の粘度が安定していることを確認し、吐出口よりストランド状に吐出し、冷却バスを通し、ストランドカッターにより引き取り速度を調節して表1に記載のペレットサイズになるように造粒してポリエステル樹脂[B]のペレットを得た(表1)。得られたペレットを110℃の温度の熱風乾燥機で6時間乾燥した。
【0103】
なお、加熱処理時間は実施例7の加熱処理[1]におけるものと同様にして算出した。
【0104】
<加熱処理[2]>
前工程で得たポリエステル樹脂のペレットを、使用したポリエステル樹脂[A]がポリエチレンテレフタレートである場合は温度230℃、圧力100Paの条件で、ポリブチレンテレフタレートである場合は温度170~210℃、圧力100Paの条件で、ポリエステルエラストマーである場合は温度180℃、圧力100Paの条件で加熱処理[2]を実施し、ポリエステル樹脂[C]を得た(表1)。なお、比較例13はポリエステル樹脂[B]の融点を超える240℃で加熱処理[2]を実施した。
【0105】
ポリエステル樹脂[B]の未反応のアルキレングリコール含有率が0.05質量%以上の実施例1-20はポリエステル樹脂[C]のオリゴマー含有率が低く金型汚れ抑制に優れていた。一方で、ポリエステル樹脂[B]の未反応のアルキレングリコール含有率が0.05質量%未満の比較例1、2、10、12、14はポリエステル樹脂[C]のオリゴマー含有率が高く金型汚れ抑制に劣っていた。
【0106】
アルキレングリコールの添加なしで加熱処理[1]を実施したのち加熱処理[2]を実施した比較例1、2、10、12では、未反応のアルキレングリコールによるオリゴマー含有率低減効果が得られなかったため、オリゴマー含有率低減と流動性を両立できなかった。
【0107】
アルキレングリコールを6質量部添加した比較例5では、加熱処理[1]を実施後のポリエステル樹脂[B]の溶融粘度が低くなりすぎ、ストランド状に吐出することができず、均一な形状で回収することが困難であり造粒性が著しく悪かった。
【0108】
固有粘度の低いポリエステル樹脂[A]に対して加熱処理[1]を実施せずにそのまま加熱処理[2]を実施した比較例3、4、6、7では、加熱処理[2]の実施時間が短いと金型汚れ抑制に劣り、加熱処理[2]の実施時間が長いと流動性に劣っていた。
【0109】
加熱処理[2]を実施せずにそのまま各特性を評価した比較例8は、加熱処理[2]を実施した実施例3と比較して金型汚れが多く、耐加水分解性にも劣っていた。
【0110】
ポリエステル樹脂[B]の融点を超える温度で加熱処理[2]を実施した比較例13は加熱処理[2]によりオリゴマー含有率は低減せず、金型汚れ抑制に劣っていた。
【0111】
回収ポリエステル樹脂を使用した実施例5、6、17は、オリゴマー含有率が低く流動性に優れ、また酸価も回収時と比較して大幅に低減できており、バージンポリエステル樹脂を使用した実施例1-4、7-16、18-20と比較しても遜色ないレベルであった。本発明を回収ポリエステル樹脂に適用することによって、廃棄物の削減が可能であり、再生に必要なアルキレングリコールや熱エネルギーを少なく二酸化炭素排出量低減ができることが分かった。
【0112】
一方で、回収ポリエステル樹脂に対してアルキレングリコールを添加せずに加熱処理[1]を実施した比較例10、12、および回収ポリエステル樹脂に対して加熱処理[1]および[2]を実施せずにそのまま各特性を評価した比較例9、11は、金型汚れ抑制に劣っていた。
【0113】
加熱処理[1]を押出機で実施した実施例1-3、5、6は、加熱処理[1]に重合槽を用いた実施例7、8と比較して、加熱処理を短時間で実施できるため揮発やエステル交換反応に消費されるアルキレングリコールが少なく、ポリエステル樹脂[B]の未反応のアルキレングリコール含有率は高い値となっていた。そのため、実施例1-3、5、6はオリゴマー含有率低減効果がより大きく、金型汚れ抑制により優れていた。
【0114】
加熱処理[1]を重合槽で実施した実施例7と実施例8とを比較すると、アルキレングリコールを添加してからの加熱処理時間が短い実施例7の方がアルキレングリコールの揮発やポリエステルとのエステル交換反応が少なく、ポリエステル樹脂[B]のアルキレングリコール含有率が高くなっており、ポリエステル樹脂[C]のオリゴマー含有率は低い値であった。
【0115】
ポリエステル樹脂[A]がポリブチレンテレフタレートでありアルキレングリコールに1,4-ブタンジオールを用いて押出機を通じた実施例1-3、5、6は、ポリエステル樹脂[A]がポリエチレンテレフタレートでありアルキレングリコールにエチレングリコールを使用した実施例4と比較して、ポリエステル樹脂の融点が低くアルキレングリコールの沸点が高いため、押出機での加熱処理[1]の実施において揮発やエステル交換反応に消費されるアルキレングリコールが少なく、ポリエステル樹脂[B]の未反応のアルキレングリコール含有率は高い値となっていた。そのため、実施例1-3、5、6はオリゴマー含有率低減効果がより大きく、金型汚れ抑制により優れていた。
【0116】
実施例1と比較してペレットサイズ(直径)の小さい実施例9、10は加熱処理[2]による固有粘度の上昇が大きく、特にペレット直径が1.00mm未満の実施例10は顕著であり、短時間で処理を終えた。そのため、実施例1は短時間で処理を終えた実施例10と比較してオリゴマー含有率の低減効果がより大きく金型汚れ抑制により優れていた。
【0117】
実施例1はペレットサイズ(直径)の大きい実施例11、12と比較してペレット中心部から表面までの距離が短く、加熱処理[2]の際にペレット内部のオリゴマーをより効率的に低減させることができた。特にペレット直径が5.00mmを超える実施例12と比較して、その傾向が顕著であった。そのため、実施例1は実施例12と比較して金型汚れ抑制により優れていた。
【0118】
実施例1と比較して低温で加熱処理[2]を実施した実施例13は加熱処理[2]における固有粘度の上昇が小さくなる傾向にあった。
【0119】
実施例1と比較して高温で加熱処理[2]を実施した実施例14は加熱処理[2]における固有粘度の上昇が大きくなる傾向にあり、短時間で処理を終えた。そのため、実施例1は短時間で処理を終えた実施例14と比較してオリゴマー含有率の低減効果が大きく金型汚れ抑制に優れていた。
【0120】
実施例1と比較して短時間で加熱処理[2]を終えた実施例15は固有粘度が低くオリゴマー含有率が高くなる傾向にあった。
【0121】
実施例1と比較して加熱処理[2]を長時間実施した実施例16は固有粘度が高くオリゴマー含有率が低くなる傾向にあった。
【0122】
ポリエステル樹脂[A]がポリブチレンテレフタレートである実施例1-3、5、6は、ポリエステル樹脂[A]がポリエステルエラストマーである実施例18と比較して、環状オリゴマーがより効率的に低減されるため金型汚れ抑制により優れていた。
【0123】
【0124】
【0125】