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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】ハイブリッド車両
(51)【国際特許分類】
   B60W 20/19 20160101AFI20250527BHJP
   B60K 6/442 20071001ALI20250527BHJP
   B60W 10/08 20060101ALI20250527BHJP
   B60L 50/61 20190101ALI20250527BHJP
【FI】
B60W20/19
B60K6/442 ZHV
B60W10/08 900
B60L50/61
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2024508851
(86)(22)【出願日】2022-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2022013202
(87)【国際公開番号】W WO2023181123
(87)【国際公開日】2023-09-28
【審査請求日】2024-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100183689
【弁理士】
【氏名又は名称】諏訪 華子
(74)【代理人】
【識別番号】110003649
【氏名又は名称】弁理士法人真田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小山 京太郎
(72)【発明者】
【氏名】矢倉 洋史
(72)【発明者】
【氏名】林 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】水井 俊文
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 勇輔
(72)【発明者】
【氏名】西脇 洋渡
(72)【発明者】
【氏名】田脇 達也
【審査官】三宅 龍平
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-018691(JP,A)
【文献】特開2020-89123(JP,A)
【文献】特開2014-210569(JP,A)
【文献】特開2012-148732(JP,A)
【文献】特開2012-144138(JP,A)
【文献】特開平11-252709(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 6/20 - 6/547
B60W 10/00 - 20/50
B60L 50/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジンとモータとジェネレータと少なくとも前記エンジンの作動状態を制御する制御装置とを備え、前記エンジンの駆動力で前記ジェネレータに発電させつつ前記モータの駆動力で走行するシリーズ走行を実施するハイブリッド車両であって、
前記ハイブリッド車両が、アクセル開度に応じたドライバ要求出力が設定されるノーマルモードと前記アクセル開度に応じて前記ノーマルモードで設定される大きさ以上の前記ドライバ要求出力が設定されるスポーツモードとを有し、
前記制御装置が、前記シリーズ走行に際し、前記スポーツモードでの前記エンジンの第一最低回転速度を前記ノーマルモードでの前記エンジンの第二最低回転速度よりも高くし、かつ、アクセルオフの状態における前記エンジンの出力及び前記ジェネレータの発電電力を前記スポーツモード時と前記ノーマルモード時とで同一にする
ことを特徴とする、ハイブリッド車両。
【請求項2】
前記シリーズ走行中かつ前記ドライバ要求出力が0でない状況において、前記スポーツモードでの前記エンジンの回転速度の最大増加率を第一増加率と定義し、前記ノーマルモードでの前記エンジンの回転速度の最大増加率を第二増加率と定義した上で、
前記制御装置が、前記第一増加率を前記第二増加率よりも大きくする
ことを特徴とする、請求項1記載のハイブリッド車両。
【請求項3】
前記制御装置が、車速に応じて前記第一最低回転速度を設定する
ことを特徴とする、請求項1または2記載のハイブリッド車両。
【請求項4】
前記制御装置が、前記車速が低速であるほど前記第一最低回転速度を高くする
ことを特徴とする、請求項3記載のハイブリッド車両。
【請求項5】
前記制御装置が、前記車速が高速であるほど前記第一最低回転速度を高くする
ことを特徴とする、請求項3記載のハイブリッド車両。
【請求項6】
前記制御装置が、前記エンジンに対する前記ジェネレータの負荷を調節することで、前記アクセルオフの状態における前記エンジンの出力及び前記ジェネレータの発電電力を維持しつつ、前記第一最低回転速度が前記第二最低回転速度よりも高くなるように前記エンジン及び前記ジェネレータを制御する
ことを特徴とする、請求項1~5の何れか一項に記載のハイブリッド車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件は、シリーズ走行を実施するハイブリッド車両に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エンジンとモータとジェネレータとを搭載し、シリーズ走行を実施するハイブリッド車両が知られている。シリーズ走行では、エンジンの駆動力でジェネレータに発電させつつ、その発電電力やバッテリ電力を用いてモータを作動させることで、車両の駆動力が生成される。シリーズ走行時のエンジンの作動状態は、例えば燃費や静粛性を考慮して制御される。これにより、車両の航続距離を延長させる効果や静粛性能を向上させる効果が実現されうる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-019467号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年のハイブリッド車両には、複数のドライブモードの中からドライバー(運転者)が好みのモードを選択できるようにしたものが存在する。ドライブモードとは、車両の運転特性や走行特性の型(ドライバーの運転操作に対する車両挙動の特性を様式化したもの)を意味する。ドライブモードの具体例としては、ノーマルモードやスポーツモードなどが挙げられる。各モードにおける車両の運転特性や走行特性は、そのモードに適した特性を持つように制御される。例えば、スポーツモードでは、ノーマルモードと比較してアクセル開度に対するドライバ要求出力が大きな値に設定される。これにより、同一のアクセル操作に対して、より大きな出力を出すようにエンジンやモータが制御されるため、加速レスポンスが向上し、力強くきびきびした走行が実現される。
【0005】
一方、上記のようなスポーツモードをハイブリッド車両のシリーズ走行に適用すると、アクセル開度の急増時に設定されるドライバ要求出力が過大になりやすいことから、実際のエンジン出力をドライバ要求出力の上昇に追従させることが難しく、良好な加速レスポンスが得られにくいという課題がある。特に、エンジンから生じる騒音や振動を抑制するために、アクセルオフ時のエンジン回転速度が比較的小さく設定されている場合には、エンジン回転速度を十分に上昇させるまでのタイムラグが大きくなり、アクセルオンの直後における加速レスポンスが悪化する。
【0006】
本件の目的の一つは、上記のような課題に照らして創案されたものであり、スポーツモード時のシリーズ走行における加速レスポンスを改善できるようにしたハイブリッド車両を提供することである。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用効果であって、従来の技術では得られない作用効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けられる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
開示のハイブリッド車両は、以下に開示する態様または適用例として実現でき、上記の課題の少なくとも一部を解決する。
開示のハイブリッド車両は、エンジンとモータとジェネレータと少なくとも前記エンジンの作動状態を制御する制御装置とを備え、前記エンジンの駆動力で前記ジェネレータに発電させつつ前記モータの駆動力で走行するシリーズ走行を実施するハイブリッド車両である。前記ハイブリッド車両は、アクセル開度に応じたドライバ要求出力が設定されるノーマルモードと前記アクセル開度に応じて前記ノーマルモードで設定される大きさ以上の前記ドライバ要求出力が設定されるスポーツモードとを有する。前記制御装置は、前記シリーズ走行に際し、前記スポーツモードでの前記エンジンの第一最低回転速度を前記ノーマルモードでの前記エンジンの第二最低回転速度よりも高くし、かつ、アクセルオフの状態における前記エンジンの出力及び前記ジェネレータの発電電力を前記スポーツモード時と前記ノーマルモード時とで同一にする。
【発明の効果】
【0008】
開示のハイブリッド車両によれば、スポーツモードでのエンジンの第一最低回転速度がノーマルモードでのエンジンの第二最低回転速度よりも高くなるようにエンジンが制御される。つまり、スポーツモードでのエンジンの最低回転速度は、ノーマルモード時と比較して高めに制御される。これにより、アクセルペダルが踏み込まれたときに、エンジン回転速度を比較的短時間で所望の速度まで上昇させることができるようになる。したがって、スポーツモード時のシリーズ走行において、アクセルオンの直後における加速レスポンスを改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】ハイブリッド車両の構成を示すブロック図である。
図2】アクセル開度とドライバ要求出力との関係を例示するグラフである。
図3】アクセル操作に対するエンジン回転速度の変化を例示するグラフである。
図4】車速とエンジンの最低回転速度との関係を例示するグラフである。
図5】エンジンの作動状態を制御するためのフローチャート例である。
図6】アクセル操作に対するモータ出力の変化を例示するグラフであり、(A)はノーマルモード時のグラフ、(B)はスポーツモード時のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
開示のハイブリッド車両は、以下の実施例によって実施されうる。
【実施例
【0011】
[1.装置構成]
図1は、実施例としてのハイブリッド車両1の構成を例示するブロック図である。このハイブリッド車両1(単に車両1とも呼ぶ)は、駆動源としてのエンジン2及びモータ3と発電装置としてのジェネレータ4と蓄電装置としてのバッテリ5とが搭載されたハイブリッド自動車(ハイブリッド電気自動車,HEV,Hybrid Electric Vehicle)またはプラグインハイブリッド自動車(プラグインハイブリッド電気自動車,PHEV,Plug-in Hybrid Electric Vehicle)である。プラグインハイブリッド自動車とは、バッテリ5に対する外部充電またはバッテリ5からの外部給電が可能なハイブリッド自動車を意味する。プラグインハイブリッド自動車には、外部充電設備からの電力が送給される充電ケーブルを差し込むための充電口(インレット)や外部給電用のコンセント(アウトレット)が設けられる。
【0012】
エンジン2は、例えばガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの内燃機関である。エンジン2の駆動軸には、ジェネレータ4が連結される。ジェネレータ4は、バッテリ5の電力でエンジン2を駆動する機能とエンジン2の駆動力を利用して発電する機能とを兼ね備えた発電機(電動機兼発電機)である。ジェネレータ4の発電電力は、モータ3の駆動やバッテリ5の充電に用いられる。エンジン2とジェネレータ4とを繋ぐ動力伝達経路上には、図示しない変速機構が介装されうる。
【0013】
モータ3は、バッテリ5の電力やジェネレータ4の発電電力を用いて車両1を走行させる機能と回生発電によって生じる電力をバッテリ5に充電する機能とを兼ね備えた電動機(電動機兼発電機)である。バッテリ5は、例えばリチウムイオン二次電池やニッケル水素電池などの二次電池である。モータ3の駆動軸は、車両1の駆動輪に連結される。モータ3と駆動輪とを繋ぐ動力伝達経路上には、図示しない変速機構が介装されうる。
【0014】
エンジン2とモータ3とを繋ぐ動力伝達経路上には、クラッチ6が介装される。エンジン2はクラッチ6を介して駆動輪に接続され、モータ3はクラッチ6よりも駆動輪側に配置される。また、ジェネレータ4はクラッチ6よりもエンジン2側に接続される。クラッチ6が切断(解放)されると、エンジン2及びジェネレータ4が駆動輪に対して非接続の状態となり、モータ3が駆動輪に対して接続された状態となる。したがって、例えばモータ3のみを作動させることで、「EV走行(モータ単独走行)」が実現される。これに加えて、エンジン2を作動させてジェネレータ4に発電させることで、「シリーズ走行」が実現される。シリーズ走行とは、エンジン2の駆動力でジェネレータ4に発電させつつモータ3の駆動力で走行することを意味する。
【0015】
一方、クラッチ6が接続(締結)されると、エンジン2,モータ3,ジェネレータ4の三者が駆動輪に対して接続された状態となる。したがって、例えばエンジン2のみを作動させることで、「エンジン走行(エンジン単独走行)」が実現される。これに加えて、モータ3やジェネレータ4を駆動することで、「パラレル走行」が実現される。上記のシリーズ走行及びパラレル走行は、ともに「ハイブリッド走行」とも呼ばれる。
【0016】
エンジン2,モータ3,ジェネレータ4,バッテリ5,クラッチ6の作動状態は、制御装置10によって制御される。制御装置10は、少なくともエンジン2の作動状態を制御する機能を持ったコンピュータ(電子制御装置,ECU,Electronic Control Unit)である。制御装置10は、プロセッサ(演算処理装置)及びメモリ(記憶装置)を内蔵する。制御装置10が実施する制御の内容(制御プログラム)はメモリに保存され、その内容がプロセッサに適宜読み込まれることによって実行される。
【0017】
本実施例の制御装置10には、ドライブモードセレクタ7が接続される。ドライブモードセレクタ7は、車両1のドライバー(運転者)が複数のドライブモードのうちの一つを選択するために操作する選択装置であり、運転席から手が届きやすいインパネ部やステアリング周辺などに配置される。ドライブモードセレクタ7を操作することで設定されたドライブモードの種類の情報は、制御装置10に伝達される。
【0018】
ドライブモードとは、車両1の運転特性や走行特性の型(ドライバの運転操作に対する車両挙動の特性を様式化したもの)を意味する。ドライブモードの具体例としては、ノーマルモード(通常モード)、スポーツモード(舗装路モード)、スノーモード(雪道モード)、グラベルモード(悪路モード)、エコモード(省エネモード)などが挙げられる。車両1の運転特性や走行特性は、選択されたモードに適した特性を持つように制御される。ドライブモードは、基本的にはドライバーが好みのモードを選択するようになっているが、所定の走行条件が成立した場合にいずれかのモードが自動的に選択されるようになっていてもよい。
【0019】
各ドライブモードにおける具体的な運転特性,走行特性としては、公知の各種特性を採用しうる。例えば、スポーツモードでは、ノーマルモードを含む他のモードと比較して、アクセル開度に対するドライバ要求出力が大きな値に設定される。この設定により、同一のアクセル操作に対する加速レスポンスが高まり、力強くきびきびした走行が実現される。また、スポーツモードでは、ノーマルモードを含む他のモードと比較して、左輪及び右輪に許容される最大駆動力差が比較的大きな値に設定される。この設定により、旋回時に発生しうるヨーモーメントの最大値が増大し、旋回性能が向上する。
【0020】
スノーモードでは、ノーマルモードを含む他のモードと比較して、例えば駆動力や制動力の上限値が小さく設定され、あるいは、左輪及び右輪に許容される最大駆動力差が比較的小さな値に設定される。これらの設定により、滑りやすい路面での走行安定性が向上する。グラベルモードでは、ノーマルモードを含む他のモードと比較して、例えば駆動源に対する駆動輪の回転速度の比(変速比,減速比)が比較的大きな値に設定される。この設定により、駆動輪のトルクが増大し、悪路走破性能が向上する。エコモードでは、ノーマルモードを含む他のモードと比較して、例えばエンジン2,モータ3,ジェネレータ4の作動状態が比較的高効率な運転領域内に収まるように、回転速度,トルク,出力(電力)などが設定される。このような設定により、エンジン2の燃費やモータ3及びジェネレータ4の電費が改善され、航続可能距離が延長される。
【0021】
また、本実施例の制御装置10には、アクセル開度センサ8及び車速センサ9が接続される。アクセル開度センサ8は、アクセルペダルの踏み込み量に相当するパラメータ(アクセル開度,アクセルペダルストローク,スロットル開度など)を検出するセンサである。車速センサ9は、車両1の走行速度(車速)を検出するセンサである。これらのセンサ8,9で検出された情報は、制御装置10に伝達される。
【0022】
図2は、アクセル開度センサ8で検出されるアクセル開度[%]と制御装置10で設定されるドライバ要求出力[kW]との関係を規定する特性を例示するグラフである。アクセル開度とは、アクセルペダルの踏み込み量(例えば、アクセルペダルストロークやアクセルペダルの支点に対する回動角など)を百分率で表したものである。また、ドライバ要求出力とは、ドライバーが車両1を走行させるために要求している出力(言い換えれば、馬力や電力や仕事率)の大きさに相当するパラメータである。車両1の駆動源の出力は、ドライバ要求出力に対応するように制御される。
【0023】
ノーマルモード及びスポーツモードのいずれのモードにおいても、ドライバ要求出力はアクセル開度に応じて設定される。図2中の実線はスポーツモードでの特性を示し、破線はノーマルモードでの要求出力特性を示す。ノーマルモード時には、図2中に破線で示すように、アクセル開度が0[%]のときにドライバ要求出力は0である。また、アクセル開度に対してほぼ比例する大きさのドライバ要求出力が設定されている。一方、スポーツモード時には、ノーマルモード時と同一かノーマルモード時よりも大きなドライバ要求出力が設定される。すなわち、スポーツモード時に設定されるドライバ要求出力の値は、同一のアクセル開度でノーマルモード時に設定されるドライバ要求出力の値以上に設定されている。
【0024】
また、図2中において、スポーツモード時に設定されるドライバ要求出力の値とノーマルモード時に設定されるドライバ要求出力の値とが一致するのは、アクセル開度が0[%](アクセルオフ)のときと、100[%](べた踏み)のときのみである。これら以外のアクセル開度では、常にスポーツモード時のドライバ要求出力がノーマルモード時のドライバ要求出力よりも大きく設定されている。
【0025】
[2.制御構成]
制御装置10は、スポーツモード時のシリーズ走行に際し、アクセル開度の急増に対する車両1の加速レスポンスを改善するために、エンジン2に対して二種類の制御を実施する。第一の制御は、アクセル開度が急増する前から(アクセルオフの状態から)、あらかじめエンジン回転速度[rpm](単位時間あたりのエンジン回転数)を高めに設定してエンジン2を作動させておく制御である。第二の制御は、アクセル開度の増加によってエンジン回転速度が増加する状況において、エンジン回転速度の時間変化勾配である増加率の最大値を、ノーマルモード時よりもスポーツモード時に大きくする制御である。
【0026】
第一の制御について説明する。まず、スポーツモードでのエンジン回転速度の最小値(最低値)を第一最低回転速度ωと定義し、ノーマルモードでのエンジン回転速度の最小値(最低値)を第二最低回転速度ωと定義する。第一の制御では、図3に示す通り、第一最低回転速度ωが第二最低回転速度ωよりも高くなるようにエンジン2の作動状態が制御される。
【0027】
第一の制御が実施されているのは、アクセルペダルが踏み込まれていないとき(時刻tよりも前)である。このとき、エンジン2の出力(トルクと回転速度との積)は、スポーツモード時とノーマルモード時とでほぼ同一になるように制御される。つまり、第一の制御ではノーマルモード時と比較して、スポーツモードでのエンジン2の第一最低回転速度ωが高い代わりに、エンジン2のトルクが小さい状態に制御される。エンジン2の回転速度及びトルクは、エンジン2に対するジェネレータ4の負荷(ジェネレータ4が電力に変換する動力)を調節することで変更可能である。
【0028】
なお、第一の制御では、エンジン2の出力がスポーツモード時とノーマルモード時とでほぼ同一であることから、ジェネレータ4の発電電力やモータ3の出力についてもスポーツモード時とノーマルモード時とで同一になるように制御される。モータ3の出力は、例えばバッテリ5に蓄えられている電池電力を消費しないように、ジェネレータ4の発電電力に応じた大きさに制御される。また、ジェネレータ4の発電電力は、例えばエンジン2の出力に応じた一定値になるように制御される。一般に、ジェネレータ4の発電電力の最大値は、ジェネレータ4の回転速度(すなわちエンジン回転速度)に比例して増大する。そのため、スポーツモード時におけるジェネレータ4の発電状態は、ノーマルモード時と比較して余力が大きく、発電電力を上昇させやすい状態になる。
【0029】
第一最低回転速度ωの値は、あらかじめ設定された固定値であってもよいし、車両1の走行状態に応じて設定される可変値であってもよい。第一最低回転速度ωを可変値とする場合には、車速センサ9で検出された車速に応じて第一最低回転速度ωを設定してもよい。例えば、図4中に実線で示すように、車速が低速であるほど第一最低回転速度ωを高くしてもよい。このような設定により、停車状態や低速走行状態からの加速レスポンスが向上し、スポーティーな走行が実現されやすくなる。
【0030】
一方、図4中に二点鎖線で示すように、車速が高速であるほど第一最低回転速度ωを高くしてもよい。このような設定により、停車状態や低速走行状態におけるエンジン2の騒音や振動が小さくなり、静粛性の高い走行が実現されやすくなる。なお、図4中の破線は第二最低回転速度ωである。第一最低回転速度ωは、あらゆる車速に対して常に第二最低回転速度ωよりも高く設定されることが好ましい。
【0031】
次に、第二の制御について説明する。まず、シリーズ走行中かつドライバ要求出力が0でない状況(アクセル開度が0でない状況であって、少なくともアクセルオンである状況)において、スポーツモードでのエンジン2の回転速度の最大増加率を第一増加率Gと定義する。また、シリーズ走行中かつドライバ要求出力が0でない状況において、ノーマルモードでのエンジン2の回転速度の最大増加率を第二増加率Gと定義する。
【0032】
第二の制御では、図3に示す通り、第一増加率Gが第二増加率Gよりも大きくなるようにエンジン2の作動状態が制御される。第二の制御が実施されているのは、アクセルペダルがべた踏みされた時刻t以降である。このとき、例えばエンジン2の燃料噴射量や吸入空気量を増やすことで、あるいは点火時期を最適化することで、エンジン2の回転速度の増加率が増大する。これにより、図3に示す通り、破線グラフの上昇勾配と比較して実線グラフの上昇勾配が急勾配になる。つまり、エンジン回転速度が短時間で目標回転速度ωTGTに達することになり、ジェネレータ4による発電電力も短時間で増大する。
【0033】
[3.フローチャート]
図5は、上記の第一の制御,第二の制御の流れを示すフローチャート例である。このフローチャートに示す制御は、例えば図示しない車両1のパワースイッチがオンであって走行可能である(READY状態である)場合に、制御装置10の内部で所定の周期で繰り返し実行される。この制御が実施される車両1では、ドライブモードとしてスポーツモードとノーマルモードとのいずれかが設定されるものとする。ステップA2~A6は、第一の制御に対応するフローであり、ステップA7~A12は、第二の制御に対応するフローである。
【0034】
ステップA1では、車両1がシリーズ走行中であるか否かが判定される。シリーズ走行は、例えばバッテリ5の充電率が所定値以下である場合や、車両1が登り坂に差し掛かった場合などに自動的に実施される。あるいは、ドライバーがシリーズ走行を希望する場合(そのような操作入力があった場合)にも実施される。具体的なシリーズ走行の実施条件や開始条件としては、公知の条件を適用可能である。ステップA1の条件が成立する場合には、制御がステップA2に進む。一方、ステップA1の条件が成立しない場合には、この周期での制御が終了する。
【0035】
ステップA2では、アクセル開度センサ8で検出されたアクセル開度が0である(アクセルオフである)か否かが判定される。この条件が成立する場合にはステップA3に進み、成立しない場合にはステップA7に進む。ステップA3では、車両1のドライブモードがスポーツモードであるか否かが判定される。ここで、ドライブモードがスポーツモードである場合には、制御がステップA4に進み、車速センサ9で検出された車速に応じてエンジン2の第一最低回転速度ωが設定される。第一最低回転速度ωは、ノーマルモード時に設定される(後述するステップA6で設定される)第二最低回転速度ωよりも高い値を持つ。続くステップA5では、エンジン回転速度が第一最低回転速度ωになるようにエンジン2の作動状態が制御され、この周期での制御が終了する。
【0036】
一方、ステップA3において車両1のドライブモードがスポーツモードでない場合(ノーマルモードである場合)には、制御がステップA6に進み、エンジン2の第二最低回転速度ωが設定される。第二最低回転速度ωは、スポーツモード時に設定される(ステップA4で設定される)第一最低回転速度ωよりも低い値を持つ。続くステップA5では、エンジン回転速度が第二最低回転速度ωになるようにエンジン2の作動状態が制御され、この周期での制御が終了する。
【0037】
ステップA2でアクセル開度が0でない(アクセルオンである)場合に進むステップA7では、アクセル開度センサ8で検出されたアクセル開度に応じて、ドライバ要求出力が設定される。ドライバ要求出力は、例えば図2に示すような特性に基づいて設定される。また、ステップA8では、ドライバ要求出力に応じてエンジン2の目標回転速度ωTGTが設定される。ここで、ドライバ要求出力が比較的大きければ、その時点における実際のエンジン回転速度と目標回転速度ωTGTとの差が大きくなる。したがって、エンジン回転速度を変化させる速度が遅すぎる場合、実際のエンジン回転速度が目標回転速度ωTGTに達するまでの時間が長くなってしまう。一方、本実施例では、その速度がドライブモードに応じて変更されることになる。
【0038】
続くステップA9では、車両1のドライブモードがスポーツモードであるか否かが判定される。ここで、ドライブモードがスポーツモードである場合には、制御がステップA10に進み、エンジン回転速度の最大増加率として第一増加率Gが設定される。第一増加率Gは、ノーマルモード時に設定される(後述するステップA12で設定される)第二増加率Gよりも大きな値を持つ。その後のステップA11では、エンジン回転速度の最大増加率が第一増加率Gになるようにエンジン2の作動状態が制御され、この周期での制御が終了する。
【0039】
一方、ステップA9において車両1のドライブモードがスポーツモードでない場合(ノーマルモードである場合)には、制御がステップA12に進み、エンジン回転速度の最大増加率として第二増加率Gが設定される。第二増加率Gは、スポーツモード時に設定される(ステップA10で設定される)第一増加率Gよりも小さい値を持つ。続くステップA11では、エンジン回転速度の最大増加率が第二増加率Gになるようにエンジン2の作動状態が制御され、この周期での制御が終了する。
【0040】
[4.作用]
図6(A),(B)は、アクセル操作に対するモータ出力の変化を例示するグラフであり、(A)はノーマルモード時のグラフ、(B)はスポーツモード時のグラフである。アクセルペダルが踏み込まれていない時刻tよりも前には、第一の制御が実施される。この第一の制御において、スポーツモード時におけるエンジン2の第一最低回転速度ωは、ノーマルモード時における第二最低回転速度ωよりも高く設定される。したがって、図6(A)中の時刻tよりも前におけるエンジン2は第二最低回転速度ωで回転し、図6(B)中の時刻tよりも前におけるエンジン2は第一最低回転速度ωで回転している。
【0041】
また、時刻tよりも前のエンジン2の出力は、スポーツモード時とノーマルモード時とでほぼ同一になるように制御される。これを受けて、ジェネレータ4の発電電力やモータ3の出力についてもスポーツモード時とノーマルモード時とで同一になるように制御される。したがって、図6(A)中の時刻tよりも前におけるモータ3の出力値Aは、図6(B)中の時刻tよりも前におけるモータ3の出力値Aと同一になり、車両1の走行状態も同一となる。
【0042】
時刻tにアクセルペダルが踏み込まれると、第二の制御が実施される。このとき、図6(A),(B)中に破線で示すように、アクセル開度に応じた大きなドライバ要求出力が設定される。時刻t以降のモータ3の駆動には、ジェネレータ4の発電電力だけでなくバッテリ5に蓄えられている電池電力が併用される。時刻tにおけるノーマルモードでのモータ出力は、時刻tよりも前の発電電力に相当する出力値Aと電池電力に相当する出力値Bとを合計した値となる。電池電力は、図6(A),(B)中の波線よりも下方の部分の出力値に対応し、発電電力は、図6(A),(B)中の波線とその上方の実線とで挟まれた部分の出力値に対応する。
【0043】
一方、スポーツモード時にはエンジン2の第一最低回転速度ωがノーマルモード時よりも高くなっているため、エンジン2に対するジェネレータ4の負荷を大きくすることで発電電力を即座に増加させることが可能である。したがって、時刻tにおけるスポーツモードでのモータ出力は、出力値Aよりも大きい出力値Cと出力値Bとを合計した値となる。出力値Cは、ジェネレータ4が増大させた後の発電電力に相当する大きさの出力である。このように、第一の制御によってエンジン回転速度をあらかじめ高めに制御しておくことで、時刻tにおけるモータ出力(車両1を加速させる出力の初期値)を容易に増大させることができる。
【0044】
また、第二の制御においてスポーツモードでのエンジン回転速度の第一増加率Gは、ノーマルモードでのエンジン回転速度の第二増加率Gよりも大きく設定される。これにより、エンジン回転速度が目標回転速度ωTGTまで上昇するのにかかる時間は、ノーマルモード時よりもスポーツモード時に短縮される。これに対応して、モータ出力がドライバ要求出力に達するまでの時間についても、ノーマルモードと比較してスポーツモードでは短縮される。
【0045】
例えば、図6(A)においてモータ出力がドライバ要求出力に達するのは時刻tであり、図6(B)においてモータ出力がドライバ要求出力に達するのは時刻tよりも早い時刻tである。ノーマルモード時のモータ出力の上昇勾配は、図6(A)中に実線で示すように〔図6(B)中に二点鎖線で示すように〕緩勾配となる。これに対して、スポーツモード時のモータ出力の上昇勾配は、図6(B)中に実線で示すように急勾配となる。これらのグラフは、スポーツモードにおいて時刻tからドライバ要求出力が実現されるまでの時間が極めて短く、良好な加速レスポンスが得られることを示している。
【0046】
[5.効果]
(1)本実施例のハイブリッド車両1は、シリーズ走行を実施するハイブリッド車両であって、アクセル開度に応じたドライバ要求出力が設定されるノーマルモードとアクセル開度に応じてノーマルモードで設定される大きさ以上のドライバ要求出力が設定されるスポーツモードとを有する。また、上記の制御装置10は、シリーズ走行に際し、スポーツモード時におけるエンジン2の第一最低回転速度ωをノーマルモード時におけるエンジン2の第二最低回転速度ωよりも高く制御する(第一の制御)。
【0047】
つまり、スポーツモード時におけるエンジン2の最低回転速度(アイドル回転速度)は、ノーマルモード時と比較して高めに制御される。これにより、アクセルペダルが踏み込まれたときに、エンジン回転速度を比較的短時間で所望の速度まで上昇させることができるようになる。例えば、図6(B)に示すように、時刻tにおける出力値Cを時刻tよりも前の出力値Aよりも大きくすることができる。したがって、スポーツモード時のシリーズ走行において、アクセルオンの直後における加速レスポンスを改善できる。
【0048】
(2)上記の制御装置10は、第一増加率Gを第二増加率Gよりも大きく制御する(第二の制御)。第一増加率Gとは、シリーズ走行中かつドライバ要求出力が0でない状況において、スポーツモードでのエンジン2の回転速度の最大増加率である。また、第二増加率Gとは、シリーズ走行中かつドライバ要求出力が0でない状況において、ノーマルモードでのエンジン2の回転速度の最大増加率である。
【0049】
このように、スポーツモードでのアクセルオン時におけるエンジン回転速度の最大増加率を大きくしておくことで、短時間でジェネレータ4の発電電力を増大させることができる。例えば、図6(B)に示すように、時刻t以降の発電電力の増加勾配を急峻にすることができ、モータ出力を急勾配で上昇させることができる。したがって、モータ出力がドライバ要求出力に達するまでの時間を短縮でき、車両1の加速レスポンスをさらに改善できる。
【0050】
(3)図4に示すように、上記の制御装置10は、車速に応じて第一最低回転速度ωを設定しうる。このような設定により、車両1の走行状態を表す車速をエンジン2の最低回転速度に反映させることができ、加速レスポンスと静粛性とのバランスを容易に調節することができる。なお、車速と第一最低回転速度ωとの関係は、例えばドライバーの好みに応じて選択できるようにしておいてもよいし、車両1の走行状態に応じて自動的に選択されるようにしてもよい。
【0051】
(4)車速と第一最低回転速度ωとの関係について、図4中に実線で示すように、車速が低速であるほど第一最低回転速度ωを高く設定してもよい。このような設定により、停車状態や低速走行状態からの加速レスポンスを向上させることができ、よりスポーティーな走行を実現できる。ただし、停車状態や低速走行状態におけるエンジン2の騒音や振動がやや大きくなるため、静粛性がやや低下しうる。
【0052】
(5)反対に、図4中に二点鎖線で示すように、車速が高速であるほど第一最低回転速度ωを高く設定してもよい。このような設定により、停車状態や低速走行状態におけるエンジン2の騒音や振動が小さくなり、より静粛性の高い快適な走行を実現できる。また、高速走行状態での加速レスポンスを向上させることができる。なお、停車状態や低速走行状態からの加速レスポンスについては、図4中に実線で示すような特性を設定した方が有利である。
【0053】
[6.その他]
上記の実施例はあくまでも例示に過ぎず、本実施例で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施例の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施できる。また、本実施例の各構成は、必要に応じて取捨選択でき、あるいは、適宜組み合わせることができる。
【0054】
例えば、上記の車両1にはドライブモードセレクタ7が設けられているが、ドライブモードセレクタ7は省略可能であり、公知の条件に応じてノーマルモードとスポーツモードとのいずれかが自動的に選択されるようにしてもよい。また、上記の実施例では、スポーツモード時のシリーズ走行に際し、エンジン2に対して第一の制御と第二の制御とを実施する制御装置10を例示したが、第二の制御は省略可能である。少なくとも、ノーマルモードとスポーツモードとを有してシリーズ走行を実施するハイブリッド車両において、第一の制御を実施することで、アクセルオンの直後における加速レスポンスを改善でき、上述の実施例と同様の作用効果を獲得できる。
【0055】
また、上記の実施例では、図4に示すような車速と第一最低回転速度ωとの関係を例示したが、第一最低回転速度ωを固定値として設定してもよいし、車速以外のパラメータを第一最低回転速度ωの値に反映させてもよい。また、第二最低回転速度ωについても同様であり、固定値として設定してもよいし、車速やその他のパラメータを第二最低回転速度ωの値に反映させてもよい。少なくとも、第一最低回転速度ωを第二最低回転速度ωよりも高く設定してエンジン2を制御することで、上述の実施例と同様の作用効果を獲得できる。
【産業上の利用可能性】
【0056】
本件は、ハイブリッド車両の製造産業に利用可能であり、ハイブリッド車両の制御装置の製造産業にも利用可能である。
【符号の説明】
【0057】
1 車両(ハイブリッド車両)
2 エンジン
3 モータ
4 ジェネレータ
5 バッテリ
6 クラッチ
7 ドライブモードセレクタ
8 アクセル開度センサ
9 車速センサ
10 制御装置
ωTGT 目標回転速度
ω 第一最低回転速度
ω 第二最低回転速度
第一増加率
第二増加率
図1
図2
図3
図4
図5
図6