IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 大和ハウス工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-制振パネル 図1
  • 特許-制振パネル 図2
  • 特許-制振パネル 図3
  • 特許-制振パネル 図4
  • 特許-制振パネル 図5
  • 特許-制振パネル 図6
  • 特許-制振パネル 図7
  • 特許-制振パネル 図8
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】制振パネル
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20250527BHJP
   F16F 15/02 20060101ALI20250527BHJP
   F16F 15/023 20060101ALI20250527BHJP
【FI】
E04H9/02 321B
F16F15/02 E
F16F15/02 Z
F16F15/023 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020216903
(22)【出願日】2020-12-25
(65)【公開番号】P2022102266
(43)【公開日】2022-07-07
【審査請求日】2023-11-30
(73)【特許権者】
【識別番号】390037154
【氏名又は名称】大和ハウス工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】西井 康真
(72)【発明者】
【氏名】西塔 純人
(72)【発明者】
【氏名】辻 千佳
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-157518(JP,A)
【文献】特開2020-105892(JP,A)
【文献】特開2010-150846(JP,A)
【文献】特開2010-174534(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
F16F 15/02-15/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉄骨梁と鉄骨柱とにより形成される建物の構面の該鉄骨梁に対して取り付けられる、制振パネルであって、
前記鉄骨梁に取り付けられ、所定のパネル幅を備えて配設されている、二本の制振柱と、
二本の前記制振柱を繋ぐ二つのダンパーとを有し、
二つの前記ダンパーは、前記制振柱の長手方向に所定の割合間隔を置いて配設されており、
前記所定の割合間隔は、前記制振パネルに水平荷重が作用した際に、前記制振柱の変位量が最も小さくなるように設定され、前記制振柱の上端から下端までの長さに対して、16:27:16の割合であることを特徴とする、制振パネル。
【請求項2】
二本の前記制振柱の内側面にそれぞれ補強プレートが取り付けられ、双方の該補強プレートに対して前記ダンパーが固定されていることを特徴とする、請求項1に記載の制振パネル。
【請求項3】
前記ダンパーは、前記パネル幅の方向に直交する断面形状がΣ形を成す、鋼材からなるΣ形デバイスであることを特徴とする、請求項1又は2に記載の制振パネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制振パネルに関する。
【背景技術】
【0002】
建物の構面内には、地震時の水平力が当該構面に作用した際に当該水平力(地震力)を減衰する減衰補助部材となる、制振パネルが取り付けられることがあり、この制振パネルが例えば特許文献1に提案されている。
【0003】
特許文献1には、制振パネル(ここでは、付加制振体)を含む柱梁接合構造が記載されており、具体的には、鉄骨梁と鉄骨柱とにより形成される建物の構面に対して、付加制振体を構成する付加制振柱が接合されてなる柱梁接合構造において、鉄骨梁に第一接合金物が取り付けられ、付加制振柱に第二接合金物が取り付けられ、第一接合金物では傾斜する二枚の鋼製プレートがベースプレートに接合され、第二接合金物では傾斜する二枚の鋼製プレートがベースプレートに接合され、鋼製プレートは相互に面接触し、双方の鋼製プレートの対応する位置には第一孔と第二孔が開設され、少なくとも一方は付加制振柱の長手方向に延びる長孔であり、ボルトが挿通されてボルト接合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2020-105892号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の柱梁接合構造を構成する付加制振体によれば、構面の梁から荷重を受けることなく、面内剛性と面外剛性を有する柱梁接合構造を提供することができる。尚、特許文献1では、二本の制振柱の間において、制振柱の長手方向に間隔を置いて二基のダンパーが取り付けられている形態の付加制振体が示されている。
【0006】
ところで、二本の制振柱の間には、制振パネルによって所望する地震力減衰性能を発揮させるのに必要となる数のダンパーが設置されるが、地震時の水平力(水平荷重)を受けた際の制振柱の変形量を勘案して、最適な位置にダンパーを設置する旨の記載は特許文献1にはない。
【0007】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、建物が水平荷重を受けた際の制振柱の変形量が勘案された、最適な位置にダンパーが設置されている制振パネルを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成すべく、本発明による制振パネルの一態様は、
鉄骨梁と鉄骨柱とにより形成される建物の構面の該鉄骨梁に対して取り付けられる、制振パネルであって、
前記鉄骨梁に取り付けられ、所定のパネル幅を備えて配設されている、二本の制振柱と、
二本の前記制振柱を繋ぐ複数のダンパーとを有し、
複数の前記ダンパーは、前記制振柱の長手方向に所定の割合間隔を置いて配設されており、
前記所定の割合間隔は、前記制振パネルに水平荷重が作用した際に、前記制振柱の変位量が最も小さくなるように設定されていることを特徴とする。
【0009】
本態様によれば、所定のパネル幅を備えて配設されている二本の制振柱と、二本の制振柱を繋ぐ複数のダンパーとを有する制振パネルにおいて、複数のダンパーが制振柱の長手方向に所定の割合間隔を置いて配設され、この所定の割合間隔が、制振パネルに水平荷重(特に、地震時の水平力)が作用した際に、制振柱の変位量が最も小さくなるように設定されていることにより、各ダンパーの変形を大きくして、制振パネルによる制振効果(制振パネルの有する剛性と減衰性能)の最大化を図ることが可能になる。例えば、二本の制振柱の間の所定のパネル幅を一定にした上で、制振柱の変位量が最も小さくなる割合間隔で、二つもしくは三つ以上のダンパーを配設することができる。もしくは、制振パネルの剛性と疲労性能を向上させるべく、制振柱の変位量が最も小さくなる割合間隔で、二つもしくは三つのダンパーを配設しながら、二本の制振柱の間の所定のパネル幅を調整することもできる。
【0010】
例えば、ダンパーが二つの場合には、制振柱の変位量が最も小さくなるように、制振柱の上端から下端までの長さに対する、当該上端から上方のダンパーまでの割合、上方のダンパーから下方のダンパーまでの割合、下方のダンパーから当該下端までの割合を設定し、ダンパーが三つの場合には、制振柱の変位量が最も小さくなるように、制振柱の上端から下端までの長さに対する、当該上端から上方のダンパーまでの割合、上方のダンパーから中間のダンパーまでの割合、中間のダンパーから下方のダンパーまでの割合、下方のダンパーから当該下端までの割合を設定する。また、この設定割合の算出は、架構に制振パネルを組み込んだ、二次元もしくは三次元モデルをコンピュータ内に作成し、架構に対して所定の水平荷重を載荷させる構造解析や構造計算により行うことができる。
【0011】
ここで、建物の構面は、例えば角形鋼管やH形鋼等の形鋼材により形成される複数の鉄骨柱と、各鉄骨柱を繋ぐ鉄骨梁により形成される。建物の構面を形成する架構は、ブレース架構(鉄骨梁と鉄骨柱の接合部がピン接合構造)とラーメン架構(鉄骨梁と鉄骨柱の接合部が剛接合構造)のいずれであってもよい。本態様の制振パネルは、制振柱と各種のダンパーとを有しており、建物の鉛直荷重を負担せず、強風時や地震時における水平荷重に対してダンパーが機能する。また、本態様の制振パネルは、建物の鉛直荷重を負担せず、建物の構面を形成する梁(ここでは鉄骨梁)の撓みを吸収できる、付加制振体である。尚、ダンパーとしては、(極)低降伏点鋼板からなるH形鋼や溝形鋼等の形鋼材からなるダンパー、オイルダンパーや粘弾性ダンパー、摩擦ダンパー等が適用できる。
【0012】
また、本発明による制振パネルの他の態様において、前記ダンパーが二つ配設され、前記所定の割合間隔は、前記制振柱の上端から下端までの長さに対して、16:27:16の割合であることを特徴とする。
【0013】
本態様によれば、二本の制振柱の間にダンパーが二つ配設され、所定の割合間隔が、制振柱の上端から下端までの長さに対して、16:27:16の割合であることにより、制振柱の変位量を最も小さくしながら、制振パネルによる制振効果の最大化を図ることが可能になる。ここで、本明細書において、割合間隔の「16:27:16」には、±5mmの誤差長さに起因する端数も含まれるものとし、この範囲の誤差長さを有する場合でも、割合間隔をまるめて、「16:27:16」とする。上記する「16:27:16」の割合間隔は、本発明者等による構造解析にて算出された解析結果に基づくものであり、適用可能性の高い、高さの異なる3種類の制振パネルのいずれにおいても、制振柱の変位量を最も小さくする割合間隔が上記割合となっていることが特定されている。
【0014】
また、本発明による制振パネルの他の態様は、二本の前記制振柱の内側面にそれぞれ補強プレートが取り付けられ、双方の該補強プレートに対して前記ダンパーが固定されていることを特徴とする。
【0015】
本態様によれば、制振柱に対して補強プレートを介してダンパーの端部が取り付けられていることにより、ダンパーから制振柱へ入る曲げモーメントに起因する軸力に対して、補強プレートが抵抗して制振柱を補剛するとともに、制振柱とダンパーの接続部の強度を高めることができる。さらに、平坦な補強プレートが制振柱に取り付けられることから、制振柱に対するダンパーの取り付け性が良好になる。例えば、ダンパーの端部に補強プレートを溶接接合やボルト接合により予め取り付けておき、制振柱の内側面に対して補強プレートを溶接接合やボルト接合することができる。
【0016】
また、本発明による制振パネルの他の態様において、前記ダンパーは、前記パネル幅の方向に直交する断面形状がΣ形を成す、鋼材からなるΣ形デバイスであることを特徴とする。
【0017】
本態様によれば、ダンパーに鋼材からなるΣ形デバイスを適用することにより、他の形態のダンパーに比べて、制振性能と製作コストの総合評価の最も高いダンパーを適用することができる。ここで、、鋼材からなるΣ形デバイス(Σ形ダンパー)は、上下に平鋼にて形成されるフランジを有し、上下のフランジ間には、平鋼がVの字状に曲げ加工等されたウエブを有する。ウエブは、上下の平鋼板がVの字状に開いた形状を有しており、この構成により、ウエブは、鉛直方向のせん断剛性と鉛直方向の変形性能の双方を有する。従って、大地震時の過大な水平力に対して強さとしなやかさで地震エネルギーを効果的に吸収することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上の説明から理解できるように、本発明の制振パネルによれば、建物が水平荷重を受けた際の制振柱の変形量が勘案された、最適な位置にダンパーが設置されている制振パネルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施形態に係る制振パネルの一例を備えた建物の構面の正面図である。
図2】実施形態に係る制振パネルの一例を拡大した正面図である。
図3図2のIII-III矢視図である。
図4図2のIV-IV矢視図である。
図5】第一接合金物と第二接合金物の一例の斜視図である。
図6】実施形態に係る制振パネルと、構面の梁との柱梁接合構造の一例を、ある方向から見た斜視図である。
図7】実施形態に係る制振パネルと、構面の梁との柱梁接合構造の一例を、別の方向から見た斜視図である。
図8】(a)、(b)はともに、第二接合金物の変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、実施形態に係る制振パネルについて、制振パネルと構面の梁の柱梁接合構造とともに、添付の図面を参照しながら説明する。尚、本明細書及び図面において、実質的に同一の構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省く場合がある。
【0021】
[実施形態]
<建物の構面>
はじめに、図1を参照して、実施形態に係る制振パネルの一例を備えた建物の構面について説明する。ここで、図1は、実施形態に係る制振パネルの一例を備えた建物の構面の正面図である。
【0022】
図示する建物の構面10は、鉄骨柱2と鉄骨梁1とにより形成される架構を有する。鉄骨柱2と鉄骨梁1の接合部が剛接合である場合、架構10はラーメン架構を形成する。また、鉄骨柱2と鉄骨梁1の接合部がピン接合である場合、架構10はブレース架構を形成する。ブレース架構の場合は、例えば、0.5P幅や1P幅(1Pは910mm程度)の耐力壁(図示せず)が構面内に組み込まれていてもよい。
【0023】
鉄骨柱2と鉄骨梁1との剛接合は、例えば、複数のハイテンションボルトにより双方を接合する形態、鉄骨柱2に鉄骨梁1を溶接接合する形態、複数の中ボルトを相互に所定間隔を置いて双方を接合する形態、などにより形成される。一方、鉄骨柱2と鉄骨梁1とのピン接合は、例えば、複数の中ボルトを相互に比較的狭い間隔を置いて双方を接合することにより形成される。尚、本明細書において、「溶接」とは、開先溶接(完全溶け込み溶接、部分溶け込み溶接)や隅肉溶接など、接続部に要求される強度や接合態様(剛接続、ピン接続)に応じて選択される適宜の溶接を示す。
【0024】
基礎Kに対してベースプレート2aがアンカーボルト(図示せず)等により固定され、ベースプレート2aに溶接等により接合されている鉄骨柱2が立設される。尚、図示例の鉄骨柱2はH形鋼により形成されているが、角形鋼管により形成される鉄骨柱であってもよい。また、図示例の構面10は1階の構面の一部を示しているが、制振パネル20が組み込まれる建物の構面は、2階以上の上階であってもよく、この場合は基礎Kの代わりに下階の床梁が配設されることになる。
【0025】
構面10の内部に組み込まれている制振パネル20は、二本の制振柱3と、二本の制振柱3の間に配設されている二基のダンパー4とを有する。尚、ダンパー4の数は図示例に限定されるものでなく、三基以上が適用されてもよい。
【0026】
制振柱3はH形鋼により形成され、柱脚には脚部5がH形鋼に溶接にて接合されている。脚部5は、複数のプレートが相互に溶接にて接合されている脚台5aと、ベースプレート5bと、アンカーボルト5cとを有し、基礎Kに対してベースプレート5bがアンカーボルト5cを介して固定されている。
【0027】
二本の制振柱3のうち、対向するフランジの内側面には補強プレート21が溶接にて接合されており、一対の補強プレート21に対して、断面形状がΣ形の鋼材からなるΣ形ダンパー4(もしくは、Σ形デバイス)が溶接にて接合されている。Σ形ダンパー4は、上下に平鋼にて形成されるフランジを有し、上下のフランジ間には、平鋼がVの字状に曲げ加工等されたウエブを有する。ウエブは、上下の平鋼板がVの字状に開いた形状を有しており、この構成により、ウエブは、鉛直方向のせん断剛性と鉛直方向の変形性能の双方を有する。従って、大地震時の過大な水平力に対して強さとしなやかさで地震エネルギーを効果的に吸収することができる。尚、ダンパー4には、Σ形ダンパー以外にも、(極)低降伏点鋼板からなるH形鋼や溝形鋼等の形鋼材からなるダンパー、オイルダンパーや粘弾性ダンパー、摩擦ダンパー等が適用されてもよいが、制振性能と製作コストの総合評価の最も高いダンパーである、Σ形ダンパーが好適である。
【0028】
建物の構面10の鉄骨梁1と、付加制振体20を形成する制振柱3と、これらを繋ぐ第一接合金物40及び第二接合金物50とにより、構面10内において柱梁接合構造30が形成される。この柱梁接合構造30の具体的な構成については、以下で詳説する。
【0029】
<制振パネル>
次に、図2乃至図4を参照して、実施形態に係る制振パネルの一例について説明する。ここで、図2は、実施形態に係る制振パネルの一例を拡大した正面図であり、図3図4はそれぞれ、図2のIII-III矢視図とIV-IV矢視図である。
【0030】
二本の制振柱3のそれぞれのアンカーボルト5c間の幅をパネル幅とした際に、図示例のパネル幅は、0.5Pに相当する455mmとなっている。尚、パネル幅は、図示例以外にも、500mm、0.25P,1P等、様々な幅が設定できる。
【0031】
例えば、3階以上の重量鉄骨ラーメン構造の建物の構面に対して、図示例の制振パネル20を組み込むことができる。図示例の制振柱3は、H-200×75×6×9等のH形鋼により形成されているが、制振柱は、角形鋼管や、□-125×75×6.0と□-75×75×6.0の二種の角形鋼管による綴り柱等により形成されてもよい。
【0032】
二本の制振柱3の内側面にはそれぞれ、補強プレート21が溶接接合により取り付けられており、双方の補強プレート21に対してダンパー4の端部が溶接接合により固定されている。
【0033】
このように、制振柱3に対して補強プレート21を介してダンパー4の端部が取り付けられていることにより、ダンパー4から制振柱3へ入る曲げモーメントに起因する軸力に対して、補強プレート21が抵抗して制振柱3を補剛するとともに、制振柱3とダンパー4の接続部の強度が高められる。
【0034】
二本の制振柱3の上端にはそれぞれ、第二接合金物50が固定されており、建物の構面10の鉄骨梁1に固定されている第一接合金物40と第二接合金物50が相互にスライド自在に接合されることにより、柱梁接合構造30が形成されている。
【0035】
図2において、制振柱3の上端から下端までの長さ(ここでは、基礎Kの上面と鉄骨梁1の下面の間の長さとする)に関し、3種類の長さが記載されている。
【0036】
これら3種類の長さは、制振パネル20の3種類の実施例の高さ(長さ)を示しており、より詳細には、パネル幅を455mmに設定した際の3種類の高さを示している。3種類の制振パネル20の長さは、2630mm、2950mm、及び2470mmである。
【0037】
制振パネル20の長さが2630mmの実施例では、制振パネル20の上端(鉄骨梁1の下面)から上方のダンパー4までの長さ、上方のダンパー4から下方のダンパー4までの長さ、及び下方のダンパー4から制振パネル20の下端(基礎Kの上面)までの長さがそれぞれ、715mm、1200mm、715mmであり、それらの割合間隔は、16:27:16に設定されている。
【0038】
一方、制振パネル20の長さが2950mmの他の実施例では、上記各長さが上から順に、800mm、1350mm、800mmであり、それらの割合間隔も、16:27:16に設定されている。
【0039】
また、制振パネル20の長さが2470mmのさらに他の実施例では、上記各長さが上から順に、670mm、1130mm、670mmであり、それらの割合間隔も、16:27:16に設定されている。
【0040】
このように、制振パネル20では、その高さ寸法が相違する複数の実施例があるが、いずれも、上からの割合間隔が16:27:16となるように二つのダンパー4が二本の制振柱3の内側に配設されている。
【0041】
この「16:27:16」の割合間隔は、本発明者等による構造解析にて算出された解析結果に基づくものである。具体的には、本発明者等は、架構に制振パネルを組み込んだ、二次元もしくは三次元モデルをコンピュータ内に作成し、架構に対して所定の水平荷重を載荷させる構造解析を実施した。
【0042】
この際、パネル幅を455mmとした上で、適用可能性の高い、2630mm、2950mm、2470mmの3種類の制振パネルをモデル化し、各モデルにおいて、二基のダンパーの位置をパラメータとして種々変化させ、各制振パネルモデルを組み込んだ架構モデルにおいて、制振柱モデルの変位量を最も小さくする各ダンパーの位置を特定したものである。解析の結果、3種類の制振パネルモデルのいずれにおいても、上から「16:27:16」の割合間隔となる位置に二基のダンパーを設置することにより、制振柱モデルの変位量を最も小さくできるとの結果が得られている。
【0043】
尚、制振パネルが例えば三つのダンパーを含む場合においても、同様の解析を実行し、制振柱モデルの変位量を最も小さくできる各ダンパーの位置を特定するのが望ましい。
【0044】
ここで、割合間隔の「16:27:16」には、±5mmの誤差長さに起因する端数も含まれるものとし、この範囲の誤差長さを有する実施例においても、割合間隔をまるめて、「16:27:16」の割合間隔となる位置に二基のダンパーを備えた制振パネルに含まれるものとする。
【0045】
上記する3種の実施例に係る制振パネル20を適用することにより、制振パネル20に水平荷重(特に、地震時の水平力)が作用した際に、制振柱3の変位量が最も小さくなることから、各ダンパー4は最大限の変形を生じることになり、制振パネル20による制振効果の最大化を図ることができる。
【0046】
ここで、図3に示すように、基礎の二本のアンカーボルト5cは、ベースプレート5bの中心から左右へ等距離にある中央配置なっており、同様に、図4に示すように、柱頭の第二接合金物50を形成するベースプレート51を鉄骨梁1の中心に配置し、ベースプレート51の中心(上下の中央ライン上)に鋼製プレート52が配置されている。すなわち、図示例の制振パネル20は、架構10の中心線に沿って配置される、中央配置形態の制振パネルであり、制振パネル20の両側が室内空間の場合の配置形態である。これに対し、制振パネル20の一方側が室内空間であり、他方側が室外空間である場合には、制振パネル20を偏心配置することとし、基礎においては一本のアンカーボルトを偏心位置に配置し、同様に、柱頭においてもベースプレート51を鉄骨梁1の中心から屋外側へずれた位置に偏心配置し、ベースプレート51の中心ラインからずれた位置に鋼製プレート52を偏心配置する。尚、偏心配置形態に関する図示は省略する。
【0047】
<柱梁接合構造>
次に、図5乃至図8を参照して、実施形態に係る制振パネルと、構面の梁との柱梁接合構造の一例について説明する。ここで、図5は、第一接合金物と第二接合金物の一例の斜視図である。また、図6図7はそれぞれ、実施形態に係る制振パネルと、構面の梁との柱梁接合構造の一例を、二つの方向から見た斜視図である。
【0048】
図5に示すように、鉄骨梁1の下フランジ11に接合される第一接合金物40は、鋼製のベースプレート41と、相互に傾斜する(中心角θ)二枚の鋼製プレート42とを有し、二枚の鋼製プレート42がベースプレート41に溶接接合されることにより形成されている。ベースプレート41には、下フランジ11とボルト接合される際にボルトが挿通される丸孔41aが開設されている。
【0049】
二枚の鋼製プレート42にはいずれも、ボルト61が挿通される丸孔42aが開設されている。そして、二枚の鋼製プレート42の端部同士が溶接部Yを介して接合されることにより、平面視L字状を呈している。ここで、中心角θは例えば90度である。
【0050】
一方、制振柱3の柱頭に接合される第二接合金物50は、鋼製のベースプレート51と、相互に傾斜する(中心角θ)二枚の鋼製プレート52とを有し、二枚の鋼製プレート52がベースプレート51に溶接接合されることにより形成されている。また、二枚の鋼製プレート52は、第一接合金物40の有する二枚の鋼製プレート42とそれぞれ相互に面接触するようになっている。
【0051】
二枚の鋼製プレート52にはいずれも、ボルト61が挿通される長孔52aが開設されている。そして、二枚の鋼製プレート52の端部同士が溶接部Yを介して接合されることにより、平面視L字状を呈している。ここで、中心角θは例えば90度である。
【0052】
L字状の鋼製プレート52の内側にL字状の鋼製プレート42が配設されてそれぞれ面接触し、対応する丸孔42aと長孔52aに対して座金63を介して中ボルトである六角ボルト61が挿通され、ナット62にてナット締めされることにより、第一接合金物40と第二接合金物50が接合される。
【0053】
図5において、L1は構面10の幅方向を示し、L2は、これに直交する方向を示している。そして、L字状の鋼製プレート42,52は、その中心角の半分であるθ/2(θが90度の場合は、45度)の方向がL2方向に配向するように、鉄骨梁1や制振柱3に接合される。
【0054】
図6及び図7に示すように、第一接合金物40は、ベースプレート41が鉄骨梁1の下フランジ11に対して六角ボルト65とナット66によりボルト接合され、第二接合金物50は、ベースプレート51が制振柱3の柱頭に対して溶接にて接合される。
【0055】
図6に示すように、第二接合金物50の鋼製プレート52において、制振柱3の長手方向であるX方向に延びる長孔52aが開設され、ボルト61がX方向に摺動自在に(フリーな態様で)挿通されている。特に、長孔52aに挿通されるボルト61が中ボルトであることにより、長孔52aに沿う摺動が可能になる。このような構成により、鉄骨梁1を介して建物荷重(建物における積載荷重や建物の自重の一部)が第一接合金物40に入力された際に、第二接合金物50に対して第一接合金物40は制振柱3の長手方向であるX方向にスライドする。このように鉄骨梁1に接合されている第一接合金物40が第二接合金物50の有する長孔52aに沿って制振柱3の長手方向にスライドすることにより、制振パネル20を形成する制振柱3には鉛直荷重が入力されず、従って制振柱3が第一接合金物40に入力される鉛直荷重を負担することはない。
【0056】
また、図1に示すように、水平方向に延設する鉄骨梁1は、その中央位置において最大の撓み量を有する態様で下方に撓む。例えば、低層階の鉄骨造建物において、中央位置に2cm程度の撓みが認められる場合がある。構面10を有する建物が新設の建物の場合、最終的に屋根が施工された段階では、既に制振パネル20が構面10内に組み込まれているが、屋根が施工された段階において鉄骨梁1は一般に下方に撓んでいる。また、構面10を有する建物が既設の建物の場合であって、制振パネル20を後付けで構面10内に組み込む場合においても、この制振パネル20を組み込む際に鉄骨梁1は下方に撓んでいる。
【0057】
このように鉄骨梁1が下方に撓んでいる場合においても、鉄骨梁1に接合される第一接合金物40が、第二接合金物50の有する長孔52aに沿って制振柱3の長手方向にスライドすることにより、制振パネル20を形成する制振柱3にはこの鉄骨梁1の撓みに起因する鉛直荷重は入力されない。従って、制振柱3が鉄骨梁1の撓みを吸収する態様で、制振パネル20を構面10内に組み込むことができる。特に、既設の建物の構面10に対して制振パネル20を組み込む後施工においては、既設の鉄骨梁1の撓みを吸収しながら(撓みに関係なく)制振パネル20を組み込むことができるため、良好な施工性を享受できる。
【0058】
以上のことから、制振パネル20は、建物の鉛直荷重を負担することなく、その構成要素であるダンパー4により、強風時や地震時における水平力を負担して水平荷重を減衰させることができる。
【0059】
また、第一接合金物40と第二接合金物50の有する相互に傾斜する二枚の鋼製プレート42,52同士が面接触していることにより、第一接合金物40及び第二接合金物50に対して水平力がいずれの方向から作用した場合であっても、相互に面接触している二組の鋼製プレート42,52のうち、少なくともいずれか一方の組の鋼製プレート42,52同士が水平力に対して対抗することができる。そのため、構面10の面内方向の水平力に対する面内剛性、面外方向の水平力に対する面外剛性の双方を有する柱梁接合構造30となる。従って、360度のいずれの方向の水平力に対しても、相互に面接触している二組の鋼製プレート42,52の少なくとも一組の鋼製プレート42,52が対抗することができる。
【0060】
図示例の柱梁接合構造30では、ともに中心角θが90度の二枚の鋼製プレート42,53を有する第一接合金物40と第二接合金物50が、中心角の半分のθ/2の方向を構面10の幅方向に直交する方向に配向するようにして第一接合金物40と第二接合金物50が取り付けられている。そのため、構面10の幅方向である面内方向の水平力に対して第一接合金物40と第二接合金物50の二組の面接触する鋼製プレート42,53が対抗するとともに、構面10の幅方向に直交する面外方向の水平力に対しても、第一接合金物40と第二接合金物50の二組の面接触する鋼製プレート42,53が対抗する。
【0061】
柱梁接合構造30を構成する制振柱3を有する制振パネル20は、建物の鉛直荷重を制振柱3が負担せず、鉄骨梁1の撓みを吸収しながら構面10内に組み込むことができることにより、構造躯体に影響を及ぼさない非構造部材である、「付加制振」となり得る。尚、図示例の柱梁接合構造30では、第二接合金物50の鋼製プレート52に長孔52aが開設され、第一接合金物40の鋼製プレート42に丸孔42aが開設されている形態であるが、第二接合金物50の鋼製プレート52が丸孔を有し、第一接合金物40の鋼製プレート42が長孔を有する形態であってもよいし、鋼製プレート42、52の双方が長孔を有する形態であってもよい。
【0062】
次に、図8を参照して、第二接合金物の変形例を説明する。ここで、図8(a)、(b)はともに、第二接合金物の変形例を示す斜視図である。尚、図8には、第二接合金物の変形例を代表として示しているが、第一接合金物の変形例も同様の形態が適用できる。
【0063】
図8(a)に示す変形例に係る第二接合金物50Aは、ベースプレート51に対して、一枚の鋼製プレート53が曲げ部53aを介してL字状に曲げ加工され、溶接にて接合されている金物である。そして、鋼製プレート53の各片には、制振柱3の長手方向に沿う長孔53bが開設されている。
【0064】
一方、図8(b)に示す変形例に係る第二接合金物50Bは、ベースプレート51に対して、二枚の鋼製プレート52が溶接接合されることにより形成されているが、第二接合金物50と異なり、二枚の鋼製プレート52の端部同士が溶接部Yにて接合されていない。第二接合金物50に比べて第二接合金物全体の剛性は低下するものの、溶接加工の手間を低減することができる。
【0065】
上記実施形態に挙げた構成等に対し、その他の構成要素が組み合わされるなどした他の実施形態であってもよく、また、本発明はここで示した構成に何等限定されるものではない。この点に関しては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で変更することが可能であり、その応用形態に応じて適切に定めることができる。
【符号の説明】
【0066】
1:鉄骨梁
2:鉄骨柱
2a:ベースプレート
3:制振柱
4:ダンパー(Σ形ダンパー、Σ形デバイス)
5:脚部
5a:脚台
5b:ベースプレート
5c:アンカーボルト
10:架構(構面)
11:下フランジ
20:制振パネル(付加制振体)
21:補強プレート
30:柱梁接合構造
40:第一接合金物
41:ベースプレート
41a:丸孔
42:鋼製プレート
42a:丸孔
50,50A,50B:第二接合金物
51:ベースプレート
52,53:鋼製プレート
52a、53b:長孔
53a:曲げ部
61:ボルト(六角ボルト)
62:ナット
63:座金
65:ボルト(六角ボルト)
66:ナット
K:基礎
Y:溶接部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8