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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2025-05-26
(45)【発行日】2025-06-03
(54)【発明の名称】遺伝子の発現上昇剤及び光合成活性化剤
(51)【国際特許分類】
   A01N 61/00 20060101AFI20250527BHJP
   A01P 21/00 20060101ALI20250527BHJP
   A01H 3/00 20060101ALI20250527BHJP
【FI】
A01N61/00 C ZNA
A01P21/00
A01H3/00
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2023510676
(86)(22)【出願日】2022-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2022007914
(87)【国際公開番号】W WO2022209485
(87)【国際公開日】2022-10-06
【審査請求日】2023-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2021055089
(32)【優先日】2021-03-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100185591
【弁理士】
【氏名又は名称】中塚 岳
(74)【代理人】
【識別番号】100126653
【弁理士】
【氏名又は名称】木元 克輔
(72)【発明者】
【氏名】大川 峻
(72)【発明者】
【氏名】本田 一馬
(72)【発明者】
【氏名】飯野 藤樹
(72)【発明者】
【氏名】加藤 一幾
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-001160(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0351392(US,A1)
【文献】特開2016-050151(JP,A)
【文献】特開2003-171215(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第112244041(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第107156125(CN,A)
【文献】特開2018-095555(JP,A)
【文献】CHA, Joon-Yung et al.,Transcriptome changes reveal the molecular mechanisms of humic acid-induced salt stress tolerance in,Molecules,2021年,26,782,1-17
【文献】RADY, M. M.,A novel organo-mineral fertilizer can mitigate salinity stress effects for tomato production on recl,South African Journal of Botany,2012年,81,8-14
【文献】農業と科学,2018年,第703号,p.1-6
【文献】SOUZA, Aline Costa et al.,Acclimation with humic acids enhances maize and tomato tolerance to salinity,Chemical and Biological Technologies in Agriculture,2021年,8:40,1-13
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 61/00
A01P 21/00
A01H 3/00
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐植酸を含む植物の硝酸還元酵素をコードする遺伝子の発現上昇剤。
【請求項2】
腐植酸が亜炭由来である、請求項に記載の発現上昇剤。
【請求項3】
メラニックインデックスが2.0以上である、請求項1又は2に記載の発現上昇剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ストレス応答遺伝子の発現上昇剤及び植物にストレス耐性を付与する方法に関する。本発明は、また、窒素代謝に関与する遺伝子の発現上昇剤に関する。本発明は、さらに、光合成活性化剤及び植物の光合成を活性化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
植物は、乾燥、塩、病気、有害生物及び温度等の様々なストレスに対して感受性を有する。植物のストレス応答を改善する手段が検討されており、例えば、特許文献1には、部分的に腐食された天然有機物を特徴とする溶存有機物の農業上許容可能な複合混合物を含む組成物を植物に接触させる方法が開示されている。また、特許文献1では、かかる組成物は、フルボ酸及びフミン酸とは化学的及び生物学的に異なる独特なものであると特徴付けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-154533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の課題の一つは、植物のストレス応答を改善する手段を提供することにあり、より具体的には、ストレス応答遺伝子の発現上昇剤を提供することが本発明の課題の一つである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を行ったところ、腐植酸が植物のストレス応答遺伝子の発現を上昇させることを見出した。また、本発明者らがさらに検討を重ねたところ、腐植酸が植物の窒素代謝に関与する遺伝子の発現も上昇させること、及び腐植酸が光合成速度を向上させることも見出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、以下の[1]~[20]に関する。
[1]腐植酸を含む植物のストレス応答遺伝子の発現上昇剤。
[2]腐植酸が亜炭由来である、上記[1]に記載の発現上昇剤。
[3]メラニックインデックスが2.0以上である、上記[1]又は[2]に記載の発現上昇剤。
[4]ストレス応答遺伝子が塩ストレスに対する応答遺伝子である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の発現上昇剤。
[5]ストレス応答遺伝子が分子シャペロンをコードする遺伝子である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の発現上昇剤。
[6]ストレス応答遺伝子がDnaJ及びWRKYからなる群から選択される1以上のタンパク質をコードする遺伝子である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の発現上昇剤。
[7]植物に腐植酸を施用することを含む、植物にストレス耐性を付与する方法。
[8]腐植酸が亜炭由来である、上記[7]に記載の方法。
[9]メラニックインデックスが2.0以上である、上記[7]又は[8]に記載の方法。
[10]ストレス耐性が塩ストレス耐性である、上記[7]~[9]のいずれかに記載の方法。
[11]腐植酸を含む植物の窒素代謝に関与する遺伝子の発現上昇剤。
[12]腐植酸が亜炭由来である、上記[11]に記載の発現上昇剤。
[13]メラニックインデックスが2.0以上である、上記[11]又は[12]に記載の発現上昇剤。
[14]窒素代謝に関与する遺伝子が硝酸還元酵素をコードする遺伝子である、上記[11]~[13]のいずれかに記載の発現上昇剤。
[15]腐植酸を含む光合成活性化剤。
[16]腐植酸が亜炭由来である、上記[15]に記載の光合成活性化剤。
[17]メラニックインデックスが2.0以上である、上記[15]又は[16]に記載の光合成活性化剤。
[18]植物に腐植酸を施用することを含む、植物の光合成を活性化する方法。
[19]腐植酸が亜炭由来である、上記[18]に記載の方法。
[20]メラニックインデックスが2.0以上である、上記[18]又は[19]に記載の方法。
【発明の効果】
【0007】
腐植酸を植物に施用すると、植物においてストレス応答遺伝子の発現が上昇し、植物にストレス耐性が付与される。腐植酸を植物に施用すると、植物において窒素代謝に関与する遺伝子の発現が上昇し、植物の生育が促進される。腐植酸を植物に施用すると、植物において光合成速度が上昇し、植物の光合成が活性化される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】腐植酸未施用時のトマトの葉における遺伝子発現に対する、腐植酸を施用時のトマトの葉における遺伝子発現を表した図である。
図2】腐植酸未施用時及び施用時のトマトの葉における、DnaJをコードする遺伝子の発現(DnaJ/ActII)を表した図である。
図3】腐植酸未施用時及び施用時のトマトの葉における、NRをコードする遺伝子の発現(NR/ActII)を表した図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態に係る植物のストレス応答遺伝子の発現上昇剤は腐植酸を含む。腐植酸は、腐植酸及び腐植酸塩からなる群の1種以上を含む。腐植酸としては、泥炭及び風化炭等の天然に産出される天然腐植酸、亜炭の硝酸酸化等により人工的に製造される人工腐植酸、及び、天然腐植酸又は人工腐植酸をナトリウム、カリウム、アンモニア、カルシウム及びマグネシウム等のアルカリ物質で中和した腐植酸塩等が挙げられる。腐植酸としては、フミン酸、ニトロフミン酸、フミン酸アンモニウム、フミン酸カルシウム、フミン酸マグネシウム、ニトロフミン酸アンモニウム、ニトロフミン酸カルシウム及びニトロフミン酸マグネシウム等が挙げられる。
【0010】
腐植酸は、腐植酸抽出液であってもよい。腐植酸抽出液とは、亜炭及び褐炭等の若年炭の硝酸酸化物をpH5~8の範囲で抽出した抽出液、好ましくはpH5~7の範囲で抽出した抽出液をいう。腐植酸抽出液は、例えば、若年炭を硝酸で酸化分解させて得られた若年炭の硝酸酸化物(以下、腐植酸粗製物という)と、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化アンモニウム、水酸化マグネシウム及び水酸化カルシウムから選ばれた1価又は2価のアルカリの少なくとも一つを含む無機化合物と、水との混合物を、40~90℃で、0.5~1時間攪拌した後、固液分離工程を行うことにより、液状物として得られる。無機化合物は、pH5~8の範囲になるように、水に添加する。腐植酸抽出液の製法は、特許第6231059号公報に記載されている。ストレス応答遺伝子の発現上昇の効果の観点から、亜炭由来の腐植酸抽出液であることが好ましい。
【0011】
上記腐植酸は、メラニックインデックス(MI)が2.0以上であることが好ましい。MIとは、腐植酸の分類に用いられている指標であり、水酸化ナトリウム抽出液の吸収スペクトルの波長450nmと520nmにおける吸光度の比(A450/A520)である。(熊田恭一著、土壌有機物の化学第2版 学会出版センター(1981)、山本定博ら、「メラニックインデックスによる腐植酸型の簡易推定」、日本土壌肥料学雑誌 第71号 第1号 p.82~85(2000))。
【0012】
より具体的には、MIとは、次の方法によって算出されるものである。試料を乳鉢と250μm篩を用い250μm篩下品に粉砕する。その約10gを、質量が既知の秤量ビンに取り精秤する。この秤量ビンを温度105℃に保持した乾燥機で約12時間放置し、その後、デシケーター中で室温に戻してから再度精秤する。その質量減少分を水分とみなして試料の含水率を求める。次に、50ml遠沈管に、上記250μm篩下品を乾燥質量相当量で0.10gと、0.5mol/L水酸化ナトリウム水溶液45mlとを入れ、室温20℃で約1時間、250rpmの速度で振とうした後、3,000×g、約10分間の遠心分離を実施し、その上澄み液をアドバンテック社製No.5Cの濾紙で濾過する。濾液の450nmの吸光度と520nmの吸光度を、蒸留水をブランクとして測定する。この場合、450nmの吸光度が1.0以上を示したならば、0.1mol/L水酸化ナトリウム水溶液を添加し吸光度が0.8以上1.0未満に調整してから、520nmの吸光度を測定する。(450nmでの吸光度/520nmでの吸光度)の比を算出し、MIとする。
【0013】
MIの上限値は特に限定されないが、5.0以下とすることができる。また、MIの数値範囲は好ましくは2.0~4.5であり、より好ましくは2.0~4.0である。
【0014】
腐植酸抽出液の全有機炭素(TOC)濃度は5,000mg/L以上が好ましい。腐植酸抽出液のTOC濃度は60,000mg/L以下が好ましい。腐植酸抽出液のTOC濃度は、10,000~50,000mg/Lがより好ましい。
【0015】
抽出液のTOC濃度の測定方法は、次のように定義される。腐植酸粗製物の抽出液を、3,000×gで遠心分離した上澄み液を、全有機体炭素計(島津製作所製TOC-L)を用いて燃焼触媒酸化方式で測定した値である。肥料成分である尿素等の非腐植物質を含む場合は、国際腐植物質学会法(藤嶽、HumicSubstances Research Vol3、P1-9)に準じて分別したもの(腐植酸及びフルボ酸画分)を上記の手法にて定量し、抽出液のTOC濃度を測定する。
【0016】
本実施形態に係る植物のストレス応答遺伝子の発現上昇剤の対象となる植物は、種子植物、シダ植物又はコケ植物でもよく、種子植物としては裸子植物又は被子植物でもよく、被子植物としては単子葉植物でも双子葉植物でもよい。また、種子植物には種子を形成せず繁殖する植物、例えば、球根や塊茎によって繁殖する栄養繁殖性の植物も含む。商業的観点から、野菜及び花卉を対象とすることが好ましい。
【0017】
このような植物として、具体的には、アブラナ科、ナス科、キク科、ウリ科、セリ科、イネ科、バラ科、ユリ科、ラン科、ヒガンバナ科、サクラソウ科、マメ科、ネギ科、タデ科、ヒルガオ科、アカザ科、ブドウ科、ミカン科、カキノキ科、ツバキ科、モクセイ科、アオイ科、バショウ科、ショウガ科、アカネ科、パイナップル科等の植物が挙げられる。アブラナ科の植物として、コマツナ、チンゲンサイ、カブ、カリフラワー、キャベツ、ダイコン、ハクサイ、ブロッコリー等が挙げられる。ナス科の植物として、トマト、タバコ、シシトウガラシ、ジャガイモ、トウガラシ、ナス、パプリカ、ピーマン等が挙げられる。キク科の植物とし、レタス、アーティチョーク、ゴボウ、シュンギク、キク、ヒマワリ等が挙げられる。ウリ科の植物として、カボチャ、キュウリ、スイカ、メロン等が挙げられる。セリ科の植物として、セリ、セロリ、ニンジン、パセリ等が挙げられる。イネ科の植物として、イネ、オオムギ、コムギ、サトウキビ、トウモロコシ等が挙げられる。バラ科の植物として、イチゴ、バラ、リンゴ、ナシ、モモ、ビワ、アーモンド等が挙げられる。ユリ科の植物として、アスパラガス、チューリップ、ユリ等が挙げられる。ラン科の植物として、ラン、シンビジウム等が挙げられる。ヒガンバナ科の植物として、スイセン等が挙げられる。サクラソウ科の植物として、シクラメン等が挙げられる。マメ科の植物として、ダイズ、インゲンマメ、アズキ等が挙げられる。ネギ科の植物として、ネギ、ニラ、ラッキョウ、ニンニク等が挙げられる。タデ科の植物としてソバ等が挙げられる。ヒルガオ科の植物としてサツマイモ等が挙げられる。アカザ科の植物として、ホウレンソウ、テンサイ等が挙げられる。ブドウ科の植物としてブドウ等が挙げられる。ミカン科の植物として、ミカン、レモン、オレンジ等が挙げられる。カキノキ科の植物としてカキ等が挙げられる。ツバキ科の植物として、チャ等が挙げられる。モクセイ科の植物として、オリーブ、ジャスミン等が挙げられる。アオイ科の植物として、ワタ、カカオ、オクラ等が挙げられる。バショウ科の植物として、バナナ等が挙げられる。ショウガ科の植物として、ショウガ等が挙げられる。アカネ科の植物として、コーヒーノキ等が挙げられる。パイナップル科植物として、パイナップル、アナナス等が挙げられる。
【0018】
ストレス応答遺伝子とは、植物にストレスが掛けられたときに発現が誘導される遺伝子である。ストレス応答遺伝子として、DnaJ、HSP、シャペロニン等の分子シャペロン、WRKY、ユニバーサルストレスプロテイン、アクアポリン、パソジェネシスリレイティッドプロテイン、プラントディフェンシン等をコードする遺伝子が挙げられる。本実施形態は、DnaJ及びWRKYからなる群から選択される1以上のタンパク質をコードするストレス応答遺伝子に対して有用である。
分子シャペロン(シャペロンということもある)とは、例えば、立体構造が正しくとれていないタンパク質等を修復する機能があるタンパク質をいい、タンパク質の品質管理に重要な役割を果たしている。本実施形態において有用な分子シャペロンとしては、DnaJが挙げられる。
WRKYとは、例えば、生物及び非生物ストレスに対する反応、免疫、植物防御、老化、種子の休眠や発芽等を含む、植物における多くの過程を調節する、植物転写因子のファミリーをいう。
【0019】
ストレス環境下にある植物は、ストレス応答遺伝子の発現(転写及び/又は翻訳)が誘導される。本実施形態に係る植物のストレス応答遺伝子の発現上昇剤をかかる植物に施用すると、施用しない場合と比較してストレス応答遺伝子の発現が上昇し、その発現量は、ストレス応答遺伝子の発現上昇剤を施用しない場合の発現量(転写量及び/又は翻訳量)の1.1倍以上、好ましくは1.5倍以上である。
【0020】
本発明の一実施形態に係る植物にストレス耐性を付与する方法は、腐植酸を植物に施用することを含む。ストレス耐性は、乾燥耐性、塩耐性、病気耐性、有害生物耐性、低温耐性、高温耐性等が挙げられるが、塩耐性であることが好ましい。腐植酸を施用する部位は特に限られず、根圏とすることができる。腐植酸の施用量及び施用期間は特に限られず、土壌施用の場合は全有機炭素濃度として0.1~5000mg/Lを月に1~12回、水耕栽培の場合は全有機炭素濃度として0.1~5000mg/Lを月に1~12回、葉面施用の場合は全有機炭素濃度として0.1~5000mg/Lで月に1~12回とすることができる。
【0021】
本発明の一実施形態に係る植物の窒素代謝に関与する遺伝子の発現上昇剤は腐植酸を含む。腐植酸及び対象となる植物等は、上述のとおりである。
【0022】
窒素代謝に関与する遺伝子とは、窒素又は窒素化合物を別の窒素化合物へと変換する反応に関与するタンパク質をコードする遺伝子であり、硝酸還元酵素(NR)、硝酸イオントランスポーター(Nrt)等をコードする遺伝子が挙げられる。
【0023】
本発明の一実施形態に係る植物の窒素代謝に関与する遺伝子の発現上昇剤を植物に施用すると、施用しない場合と比較して窒素代謝に関与する遺伝子の発現が上昇し、その発現量は、窒素代謝に関与する遺伝子の発現上昇剤を施用しない場合の発現量(転写量及び/又は翻訳量)の1.1倍以上、好ましくは1.5倍以上である。
【0024】
本発明の一実施形態に係る光合成活性化剤は腐植酸を含む。腐植酸及び対象となる植物等は、上述のとおりである。
【0025】
本実施形態に係る光合成活性化剤を植物に施用すると、施用しない場合と比較して光合成が活性化され、その光合成速度は、施用しない場合の光合成速度の1.1倍以上、好ましくは1.3倍以上である。
【0026】
本発明の一実施形態に係る植物の光合成を活性化する方法は、腐植酸を植物に施用することを含む。腐植酸を施用する部位、施用量及び施用期間は上述のとおりである。植物に腐植酸を施用すると、植物の光合成が活性化され、窒素代謝に関与する遺伝子の発現が上昇することと相まって、植物の生育が促進される。
【実施例
【0027】
試験例1:塩ストレス下でのトマトの栽培
1.トマト(Micro-Tom)種子を冷蔵庫から取り出し、室温(約25℃)で一晩静置した。
2.プラスチックシャーレに湿らせたペーパータオルを敷き、その上にトマト種子を約1cm間隔で播種した。その後、インキュベーター内に静置した。
3.播種から4日後、発芽したトマトをロックウール(grodan社)に移植し、トレーに並べた後に、OAT A処方(OATアグリオ株式会社;窒素全量 260ppm、P 120ppm、KO 405ppm)を施用した。
4.移植から1週間後、腐植酸を施用する区にはTOC濃度8ppmでOAT A処方を施用し腐植酸に馴化させた。腐植酸を施用しないものに関してはOAT A処方のみを施用した。
5.腐植酸馴化から1週間後、試験区ごとにプラスチック容器に株を移し、塩ストレス試験を行った。試験条件は、後述の「試験区」に記載のとおりである。
6.塩ストレス試験開始から1週間おきに培地の交換を行った。
7.生育調査は最大葉長(cm)、着花数(個)、SPAD、主茎長(cm)を計測した。SPAD(葉中に含まれる葉緑素含有量)はコニカミノルタ社製SPAD-502Plusを使用して計測した。
【0028】
栽培はすべてインキュベーター(東京理化器械株式会社;FLI-2010H-LED)内で行った。インキュベーション条件は以下の通りである。
日長:16時間
温度:25℃、16時間/20℃、8時間
【0029】
試験区
塩ストレス試験に関してはNaCl濃度を0、50mM又は100mMに調整し、腐植酸未施用又は腐植酸(TOC濃度15又は60ppm)施用として試験を実施した。遺伝子発現解析及び光合成速度測定試験に関しては腐植酸未施用又は腐植酸(TOC濃度60ppm)施用で実施した。
【0030】
腐植酸
使用した腐植酸は、亜炭由来の腐植酸抽出液であり、特許第6231059号公報記載の方法に従い、腐植酸抽出液の製造時に添加する硝酸量を調整することでTOC及びMIを調整した。使用した腐植酸は、製品1(亜炭由来の腐植酸抽出液、TOC 35000ppm、MI2.0以上)、製品2(亜炭由来の腐植酸抽出液、TOC 20000ppm、MI4.0)である。
【0031】
腐植酸を施用することで、最大葉長、着花数、SPAD、主茎長を大きくでき、トマトの生育促進及び塩ストレス耐性向上が確認された。一例として、NaCl濃度100mMでの塩ストレス条件下、製品1をTOC濃度15ppmとなるように施用して、5週間栽培したときの結果を以下の表に示す。
【0032】
【表1】
【0033】
試験例2:マイクロアレイ解析
【0034】
遺伝子発現解析
転写産物の抽出は以下のとおり行った。
1.腐植酸を施用して24時間後に葉をピンセットでちぎり、液体窒素で速やかに冷凍した。
2.冷凍したトマトの葉をビーズ破砕して、転写産物を抽出した。破砕は、Precellys Evolution(Bertin technologies)及びMN Bead Tubes Type G(タカラバイオ株式会社)を使用した。
3.シカジーニアス(登録商標)RNAプレップキット(植物用)(関東化学株式会社)を用いて転写産物の精製を行った。その際、Abs260/Abs280の測定等により転写産物のDNAのコンタミを確認した。
4.得られた転写産物を逆転写反応(ReverTra Ace(登録商標) qPCR RT Master Mix with gDNA Remover;東洋紡株式会社)でcDNAを合成して遺伝子発現解析を実施した。
【0035】
マイクロアレイ解析は以下のとおり行った。
1.Tomato Gene Expression Microarray(アジレント・テクノロジー株式会社)を用いた解析をタカラバイオ株式会社にて実施した。
2.株式会社SubioのPlatformを用いてデータを解析した。腐植酸未施用と比較して2倍以上の発現変動があった遺伝子を、腐植酸が発現に影響を与えた遺伝子と判断した。
【0036】
図1は、腐植酸未施用時のトマトの葉における遺伝子発現に対する腐植酸を施用時のトマトの葉における遺伝子発現を表した図である。ストレス応答遺伝子であるDnaJ及びWRKYをコードする遺伝子の発現上昇が確認された。
【0037】
試験例3:定量的PCR解析
定量的PCR解析は以下のとおり行った。
1.ハウスキーピング遺伝子としてACT2遺伝子を用いると、分子シャペロンをコードする遺伝子であるDnaJをコードする遺伝子の発現がマイクロアレイで増加し、また、生育が旺盛になったことから、窒素代謝が活発になったと考えた。そこで、硝酸還元に関わるNRをコードする遺伝子の発現を調査した。ACT2遺伝子とは、アクチン遺伝子の1種をいう。使用した機器は、QuantStudio 3(Applied Biosystems)であり、用いた試薬は、KOD SYBR(登録商標) qPCR Mix(東洋紡株式会社)である。また、使用したプライマーの配列を以下に示す。
【0038】
ACT2
cattgtgctcagtggtggttc(配列番号1)
tctgctggaaggtgctaagtg(配列番号2)
DnaJ
ctacgatccaggagatcaag(配列番号3)
gacgtgtccttctgatcaat(配列番号4)
NR
cgtaggccgtactttcaagc(配列番号5)
catcgtcatcctcgtcttca(配列番号6)
【0039】
図2は、腐植酸未施用時及び施用時のトマトの葉におけるDnaJをコードする遺伝子の発現(DnaJ/ActII)を表した図である。腐植酸を施用することで、DnaJをコードする遺伝子の発現が2.0倍に上昇した。図3は、腐植酸未施用時及び施用時のトマトの葉におけるNRをコードする遺伝子の発現(NR/ActII)を表した図である。腐植酸を施用することで、NRをコードする遺伝子の発現が2.5倍に上昇した。
【0040】
試験例4:光合成速度解析
腐植酸施用により生育が旺盛になる結果が得られたことから、光合成が活発になっていると推定して、光合成速度を栽培3週目と4週目に測定した。腐植酸を施用することで、光合成速度の上昇が確認された。一例として、製品2を施用したときの結果を以下の表に示す。
光合成蒸散測定とクロロフィル蛍光測定を行った。
光合成蒸散測定には、植物光合成総合解析システム(LiCor社製、LI-6800)を用いて、蒸散速度、光合成速度、気孔コンダクタンスを測定した。蒸散速度は、光合成反応により生じた水分が葉から蒸散される速度である。蒸散速度は、光合成反応が良好に進行する程、値が大きくなる。気孔コンダクタンスは、葉内に二酸化炭素を取り込むための気孔の開度の指標となる値である。気孔コンダクタンスが大きい程、葉内に二酸化炭素を取り込みやすくなり、光合成反応が良好に進行しやすい。
た。
クロロフィル蛍光測定には、植物光合成総合解析システム(LiCor社製、LI-6800)を用いて、実効量子収率、電子伝達速度、非光化学消光を測定した。非光化学消光(NPQ)は光防御機構の1つであり、過剰に吸収した照射を熱として散逸する機構を示す指標である。非光化学消光の値が小さいということは、熱放散を高く発現しなくても光を十分に利用でき、植物の光合成効率と植物成長が大きいことを示す。
腐植酸を施用することで、蒸散速度、光合成速度、気孔コンダクタンス、実効量子収率、電子伝達速度が大きくなり、非光化学消光の値が小さくなり、光合成効率と植物成長が大きいことを確認した。
【0041】
【表2】
図1
図2
図3
【配列表】
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